オペラに行って参りました-2020年(その1)
目次
自分の知らない邦人オペラ | 2020年1月9日 | 東京室内歌劇場「昔噺人買太郎兵衛」/「安寿と厨子王」を聴く |
一つの方向性としては理解できるが・・・ | 2020年1月11日 | 日本オペラ協会「紅天女」を聴く |
ちょっとひねったガラコンサート | 2020年1月19日 | 遊音楽企画「立川ニューイヤーオペラガラ2020」を聴く |
中庸の素晴らしさ | 2020年2月1日 | 藤原歌劇団「リゴレット」を聴く |
指揮者のテンポ感覚 | 2020年2月2日 | 新国立劇場「ラ・ボエーム」を聴く |
若手を聴く楽しみ | 2020年2月4日 | オペラサロントナカイ「サロン・コンサートVol.5」を聴く |
レパートリー公演の初日 | 2020年2月6日 | 新国立劇場「セビリアの理髪師」を聴く |
息の合った仲間達 | 2020年2月8日 | 「IL CONCERTO D'AMORE夜の部」を聴く |
アットホーム | 2020年2月9日 | 「ジョイントコンサート 八木下薫×𠮷村恵×小森美穂」を聴く |
僅差と大差 | 2020年2月11日 | 町田イタリア歌劇団 「出身地別対抗歌合戦」を聴く |
オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク
2020年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2020年 |
2019年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2019年 |
2018年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2018年 |
2017年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2017年 |
2016年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2016年 |
2015年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2015年 |
2014年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2014年 |
2013年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2013年 |
2012年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2012年 |
2011年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2011年 |
2010年 | その1 | その2 | その3 | その4 | その5 | どくたーTのオペラベスト3 2010年 |
2009年 | その1 | その2 | その3 | その4 | どくたーTのオペラベスト3 2009年 | |
2008年 | その1 | その2 | その3 | その4 | どくたーTのオペラベスト3 2008年 | |
2007年 | その1 | その2 | その3 | どくたーTのオペラベスト3 2007年 | ||
2006年 | その1 | その2 | その3 | どくたーTのオペラベスト3 2006年 | ||
2005年 | その1 | その2 | その3 | どくたーTのオペラベスト3 2005年 | ||
2004年 | その1 | その2 | その3 | どくたーTのオペラベスト3 2004年 | ||
2003年 | その1 | その2 | その3 | どくたーTのオペラベスト3 2003年 | ||
2002年 | その1 | その2 | その3 | どくたーTのオペラベスト3 2002年 | ||
2001年 | その1 | その2 | どくたーTのオペラベスト3 2001年 | |||
2000年 | どくたーTのオペラベスト3 2000年 |
鑑賞日:2020年1月9日
入場料:自由席 4800円
主催:一般社団法人 東京室内歌劇場
東京室内歌劇場コンサートオペラ 邦人作品シリーズ第七回
オペラ1幕、原語(日本語)上演
間宮 芳生 作曲「昔噺人買太郎兵衛」
台本:若林一郎
オペラ1幕、原語(日本語)上演
牧野 由多可 作曲「安寿と厨子王」
台本:まえだ純
会場:品川区立総合区民会館「きゅりあん」小ホール
昔噺人買太郎兵衛
スタッフ
指揮 | : | 新井 義輝 | |
ピアノ | : | 松浦 朋子 | |
打楽器 | : | 清田 裕里恵 | |
演 出 | : | 澤田 康子 | |
制作統括 | : | 前澤 悦子 |
出 演
太郎兵衛 | : | 杉野 正隆 |
おもん | : | 赤星 啓子 |
次郎作 | : | 櫻井 淳 |
安寿と厨子王
スタッフ
指揮 | : | 新井 義輝 | |
ピアノ | : | 朴 令鈴 | |
打楽器 | : | 清田 裕里恵 | |
演 出 | : | 島田 彌六 | |
制作統括 | : | 前澤 悦子 |
出 演
安寿 | : | 藤原 千晶 |
厨子王 | : | 飯田 聖美 |
母 | : | 井口 雅子 |
宮﨑 二郎 | : | 新海 康仁 |
宮﨑 三郎 | : | 野村 光洋 |
太夫 | : | 杉野 正隆 |
小萩 | : | 櫻井 日菜子 |
律師 | : | 河野 鉄平 |
感 想
自分の知らない邦人オペラ-東京室内歌劇場「昔噺人買太郎兵衛」/「安寿と厨子王」を聴く
10年ほど前の自分のオペラ選択の基準は、新国立劇場、東京二期会、藤原歌劇団、東京室内歌劇場、東京オペラ・プロデュースの在京5団体のオペラ本公演は全部聴く、でした。実は上演のダブル・ブッキングがあったり、自分の時間の都合がつかなかったりして達成した年は一度もないのですが、ほぼ達成した年は何度かあります。私が東京室内歌劇場を初めて聴いたのは2002年の第100回公演、サリエリの「ファルスタッフ」ですが、そこから、2011年2月のシューマン「ゲノフェーファ」まで、いろいろな作品を見せてもらいました。そのころの東京室内歌劇場は、舞台も豪華でしたし、規模も大きかったと思います。しかし、文化庁の補助金不正受給問題から活動が下火になり、それと共に、自分が東京室内歌劇場の公演に行くこともなくなりました。
しかし、弱体化した組織を立て直した会員たちがいて、2012年からは調布市のせんがわ劇場での「東京室内歌劇場スペシャルウィーク」が開始され、比較的規模の小さいオペラやオペレッタが上演され始めています。また、2013年からは、邦人作曲の短いオペラ二本立てによる「邦人作品シリーズ」が開始され、今回で7回目となりました。
私自身は、東京室内歌劇場が活動を再開したころは、あまり情報もなく、行くこともなかったのですが、ようやく私の耳にも活動が届き始め、一昨年にスペシャルウィークの「天国と地獄」で6年ぶりに再聴し、今回に至ります。
さて「昔噺人買太郎兵衛」は1959年にNHKのラジオ・オペラのために書かれた作品で、演奏時間が30分枠に入るということで、約27分の作品。舞台初演は1961年ですが、その後再演を重ねています。「こんにゃく座」の旗揚げ公演もこの作品だったそうですし、杉理一さんのニュー・オペラ・プロダクションでも数回取り上げていますし、東京室内歌劇場でも1980年以来何度も取り上げています。再演回数の点で言えば、間違いなく間宮芳生の代表作と申し上げられます。しかし、私はタイトルこそ知っていましたが、聴いたのは初めて。聴いてみて、1960年代の日本の作曲家のオペラへの意識というものをいろいろと感じることができたと思います。
当時間宮は日本民謡に対して関心が深く、その研究は例えば合唱曲の「日本民謡集」や「合唱のためのコンポジション」に影響を与えているわけですが、それらの作品の一つの特徴は、「囃子言葉」を素材にするということでした。「昔噺人買太郎兵衛」も内容は「狂言」であり、音楽的には非旋律打楽器を多用し、メロディックではないところが、「合唱のためのコンポジション」以上に土着性というか日本らしさを感じさせるものでした。「文楽オペラ」(即ち舞台上では文楽人形が演じ、歌手は舞台袖で歌うというスタイル)として上演することもよくあるようですが、確かに動きが様式的な部分はありました。
しかしながら、今回の上演は「文楽オペラ」をモチーフにしているといわれれば、そうかもしれない、とも思いましたが、そこまで形式的ではなく、普通の舞台だったのかなとは思います。歌唱の良し悪しは全く分かりませんが、赤星啓子のおもんは非常に「おかめ」的で、この作品にぴったりはまっていた印象です。また櫻井淳の次郎作も悪くなかったし、杉野正隆の太郎兵衛の困惑した感じもよく分かりました。ただ、この作品歌手たちがかなり交錯するので、もっと文楽や狂言らしさを取り上げて、動きをもっと様式的にした方がよかったような気がします。
後半演奏された「安寿と厨子王」は牧野由多可によって1978年に書かれた作品です。
牧野由多可は日本近現代音楽史の中の重要な作曲家の一人のようですが、自分自身では全く聴いたことがなく、その特徴も知りません。Wikipediaの記載を見ても音楽的な特徴については、「主に現代邦楽の分野で活躍した。」としかなく、よく分からない、というのが本当です。ただ、「安寿と厨子王」という作品名だけは知っていました。原作は説教節の「さんせう太夫」を基本に、森鴎外の「山椒太夫」を参考に作っているようです。ちなみに「山椒太夫」はオペラの題材としては好まれるもののようで、小山清茂が日本オペラ協会の委嘱によって書いた「山椒太夫」(1995年)と、原嘉壽子が水戸芸術館の委嘱でかいた「さんせう太夫」(1996年)もあります。
作品としては、日本の作曲界も既に日本オペラに対するいろいろな試行が一通り終わった時期の作品ということもあり、「昔噺人買太郎兵衛」ほど先鋭的ではありませんでした。もちろん和のテイストの作品であり、説教節で知られる節回し「安寿恋しやホウヤレホー、厨子王恋しやホウヤレホー」などは母の歌う重要なモチーフとして使用はされてはいましたが、説教節の引用がとても多いという感じは自分はせず、全体的にメロディーが立って、聴きやすい作品だと思いました。打楽器も基本旋律楽器のヴィブラフォンを使っていました。
演奏に関して言えば、声の響きで新海康仁の二郎が頭抜けている感じがしました。また冷酷な表現で、三郎の野村光洋もよかったと思います。安寿の藤原千晶は、その自己犠牲の表現が真に迫っている感じがして、よかったのかな、と思いました。ほかのメンバーも特に悪い感じはなく、チームとして割と整った演奏をしていたのではないかと思いました。
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鑑賞日:2020年1月11日
入場料:B席 3F2列19番 8000円
2020都民文化フェスティバル参加公演
主催:公益財団法人 日本オペラ振興会/Bunkamura/公益社団法人 日本演奏連盟
日本オペラ協会公演~日本オペラシリーズNo.80
オペラ3幕、日本語字幕付原語(日本語)上演、新作初演
寺嶋 民哉 作曲「紅天女」
原作:美内すずえ「ガラスの仮面」より
脚本・監修:美内すずえ
会場:Bunkamuraオーチャード・ホール
スタッフ
指揮 | : | 園田 隆一郎 | |
オーケストラ | : | 東京フィルハーモニー交響楽団 | |
石笛・御笛 | : | 横澤 和也 | |
二十五弦筝 | : | 中井 智弥 | |
合唱 | : | 日本オペラ協会合唱団 | |
合唱指揮 | : | 河原 哲也 | |
演出 | : | 馬場 紀雄 | |
特別演出振付 | : | 梅若 実 玄祥 | |
美術 | : | 川口 直次 | |
衣裳 | : | さとう うさぶろう | |
照明 | : | 奥畑 康夫 | |
舞台監督 | : | 八木 清市 |
出 演
阿古夜・紅天女 | : | 小林 沙羅 |
仏師・一真 | : | 山本 康寛 |
帝 | : | 杉尾 真吾 |
伊賀の局 | : | 丹呉 由利子 |
楠木 正儀 | : | 岡 昭宏 |
藤原 照房 | : | 渡辺 康 |
長老 | : | 三浦 克次 |
お豊 | : | 松原 広美 |
楠木 正勝 | : | 斎木 智弥 |
こだま | : | 飯嶋 幸子 |
しじま | : | 古澤 真紀子 |
お頭 | : | 普久原 武学 |
お滝 | : | 鈴木 美也子 |
久藏(旅芸人) | : | 馬場 大揮 |
権左(旅芸人) | : | 嶋田 言一 |
クズマ | : | 照屋 篤紀 |
烏天狗 | : | 金田 弘明、川口 晃平 |
感 想
一つの方向性としては理解できるが・・・-日本オペラ協会「紅天女」を聴く
偶然ですが、昨年末から日本オペラづいていて、四作品を連続で聴きました。最初は昨年の12月25日に松井和彦作曲「金の斧・銀の斧」、明けて、本年1月9日に「昔噺人買太郎兵衛」/「安寿と厨子王」の二本立て、そして、今回の「紅天女」です。その中で見れば、今回の「紅天女」、いろいろな意味で群を抜いています。先の三本はいずれも「室内オペラ」に分類できるのですが、「紅天女」は明らかにグランド・オペラ、上演時間も休憩抜きで三時間越えという長大さ。登場人物も役名の付いた人だけでも18人。そのほか、合唱団もメンバーでも一言ソロのある役名の付いた方が何人もいますので、そこまで入れたら、25人ぐらいになりそうです。また、新作・初演にもかかわらず、渋谷オーチャードホールで五日間連続上演というのも、最近の日本オペラでは考えられない規模です。
「紅天女」は美内すずえの漫画「ガラスの仮面」の作中劇であるそうですが、私は「ガラスの仮面」を読んだことはなく、実はどんな話か知りません。しかし、日本漫画史上、極めて重要な作品であるという知識はあり、また、非常に人気の高い作品である、ということは知っています。
今回の作曲の経緯は、日本オペラ協会総監督の郡愛子が、二十年来の友人という美内すずえに、「紅天女」のオペラ化を打診し、快諾されたことに始まるようです。日本オペラ協会はこれまでも様々な作曲家に委嘱して、数多くの新作歌劇を上演してきた歴史があるわけですが、今回は、美内が台本を書き、美内の世界観を守る条件で、いわゆるクラシック音楽の作曲家ではない寺嶋民哉に作曲を依頼したようです。出てきた音楽は、基本甘く聴きやすいもの。これまでも聴きやすいオペラ作品を目指した新作オペラは数多くあったと思いますが、その中でも群を抜いている感じです。私の知る限り、日本オペラ作品の中で、ここまで聴きやすい作品はなかったのではないかと思います。ありていに言ってしまえば、マイクを使わないミュージカルであり、もっと申し上げるなら、歌謡曲をつなぎ合わせたようにも聴こえる作品です。
もちろん、こういった方向性の作品はオペラの客層を変化させる可能性があると思いますし、観客の裾野を広げる可能性もあるので、もちろん大切ではあると思います。しかし、音楽としての力がどれだけ感じられる作品だったかと問われれば「?」をつけざるを得ない。いろいろなところが安易に作られ過ぎているように聴こえるのです。どこかで聴いたことのあるようなメロディーがつなぎ合わされ、不協和音は少なく、筝や石笛で和のテイストは出ているものの、それはあくまでも14世紀日本を舞台にする作品だから登場しているのであって、音楽的な必然性から盛り込まれたようには聴こえないのですね。
さらに長すぎるのも賛成できません。長くても様々な登場人物に負担を分担しているのならまだいいと思いますが、本作品は、阿古夜・紅天女と一真に焦点が当たり、二人の負担が多い。歌唱技術的にはさほど難しいことをしているわけではないようですが、長時間張った歌を歌わなければならない、というのが大変だろうと思いました。現実に声の疲れも聴かれました。
今回の舞台、場面転換を多用していました。具体的には、舞台が変わる度に中幕を下ろして、その前で誰かが繋ぎの歌を歌い、その間裏では舞台転換を行います。これは、ストーリーの進行を視覚的に見せるという点で効果的であったと思います。しかし、それが多すぎるので落ち着かないのと、舞台転換の時の音が前で繋ぎの演奏をしている人を邪魔もしており、そのあたりの対策も必要です。
以上、厳しく書いてきましたが、舞台は綺麗でしたし、演奏は見事だったと思います。川口直次の舞台はやはりきれいです。特に第三幕の禁足地における絵柄、中心にそびえたつ大きな梅の木の下で歌う紅天女の絵姿は壮大さと、少女漫画的な美を兼ね備えたもので、見ごたえがありました。また、作品に込められたメッセージは、「地球温暖化対策」や「生物多様性の確保」を問われている現代にこそ通じるものがあって、そこは現代オペラとしての役割を果たしていると思います。
演奏について触れると、小林沙羅の紅天女・阿古夜と、山本康寛の仏師・一真の2人がどちらも見事な演奏を披露しました。
阿古夜は紅天女が憑依した現身(うつしみ)でありますが、小林は紅天女を歌う時と阿古夜を歌う時では歌い方を変え、紅天女の時のドラマティックな表現と、阿古夜を歌う時のリリックな表現の双方とも見事で、その対比が光りました。第三幕では阿古夜から紅天女に変身しますが、そこでの歌い方の切り替えはさすがと申し上げるしかありません。咽喉に負担をかけなければいけない部分も多々あったと思いますが、小林はバランスよく歌い、最初から最後まで美しい立ち姿と素晴らしい存在感で魅了してくれました。Bravaです。
一真を歌った山本も秀逸な歌唱。もともとロッシーニの歌唱などで歌唱技術の難しい曲の処理に長けている人なので、この程度の難易度の曲であればどうということはないということはありますが、甘い声で歌う愛のアリアなどは蕩けそうに聴こえます。だから、阿古夜と一真の二重唱は特に甘くて魅力的。原作の少女漫画テイストを感じることが出来ました。ただ、山本は喉に対する負担のバランスが必ずしもうまくいっておらず、第三幕でのクライマックスでは持ち味の軽い高音がほとんど聴けなかったのが残念です。
脇役陣では、まず松原広美のお豊と三浦克次の長老が要所要所でしっかりした存在感を示して見事。特に松原はアリアもよく、立派でした。物語のアクセントという意味で存在感を示したのは、伊賀の局を演じた丹呉由利子。その夫役・楠木正儀を歌った岡昭宏も立派なアリアを聴かせました。その他の方々もそれぞれの力量を発揮しておりました。
園田隆一郎の解釈は中庸であり、初演としては妥当なものだったと思います。二十五弦や石笛の演奏技術も見事でした。
いろいろ不満なところもあったのですが、全体としては楽しみました。そもそも新作オペラの初演です。不慣れで上手くいかなかった部分もあると思いますし、作品として改良する余地もあると思います。それが再演の時改良されていることを期待したいと思います。
主催:公益財団法人 立川市民文化振興財団/遊音楽企画
立川ニューイヤーオペラガラ2020
会場:立川RISURUホール・小ホール
出 演
ソプラノ | : | 宮地 江奈 | |
メゾ・ソプラノ | : | 山下 裕賀 | |
テノール | : | 前川 健生 | |
バリトン | : | 高田 智士 | |
ピアノ | : | 藤川 志保 | |
司会 | : | 長井 進之介 |
プログラム
作曲家 | 作品名 | 曲名 | 演奏者 |
モーツァルト | フィガロの結婚 | 三重唱「何たること!その女たらしを追い出せ」 | 宮地江奈(スザンナ)/前川健生(バジリオ)/高田智士(伯爵) |
皇帝ティートの慈悲 | セストのアリア「私は行く、だが愛しい人よ」 | 山下裕賀 | |
ドニゼッティ | アルバ公爵 | アンリ・ド・ブルジュのアリア「清く美しい天使」 | 前川健生 |
ロッシーニ | 猫の二重唱 | 宮地江奈/山下裕賀 | |
セビリアの理髪師 | フィガロのカヴァティーナ「私は町の何でも屋」 | 高田智士 | |
フィガロとロジーナの二重唱「私なのね~私を騙しているのではないの?」 | 山下裕賀(ロジーナ)/高田智士(フィガロ) | ||
セミラーミデ | セミラーミデのアリア「麗しい光が」 | 宮地江奈 | |
チェネレントラ | 四重唱「黙って、静かに」 | 宮地江奈(クロリンダ)/山下裕賀(ディーズベ)/前川健生(ドン・ラミーロ)/高田智士(ダンディーニ) | |
休憩 | |||
ビゼー | カルメン | ハイライト | |
ハバネラ「恋は野の鳥」 | 山下裕賀(カルメン) | ||
ホセとミカエラの二重唱「母の便りは」 | 宮地江奈(ミカエラ)/前川健生(ホセ) | ||
乾杯の歌「諸君の乾杯を喜んで受けよう」 | 高田智士(エスカミーリョ) | ||
花の歌「お前の投げたこの花は」 | 前川健生(ホセ) | ||
ミカエラのアリア「何を恐れることがありましょう」 | 宮地江奈(ミカエラ) | ||
ホセとエスカミーリョの二重唱「俺はグラナダの闘牛士」 | 前川健生(ホセ)/高田智士(エスカミーリョ) | ||
ホセとカルメンの二重唱「あんたね、俺だ」 | 山下裕賀(カルメン)/前川健生(ホセ) | ||
アンコール | |||
レハール | メリー・ウィドウ | ワルツ「唇は閉ざされても」 | 宮地江奈(ハンナ)/高田智士(ダニロ) |
ヨハン・シュトラウス二世 | こうもり | 葡萄酒の流れる中へ | 全員 |
感 想
ちょっとひねったガラ・コンサート-遊音楽企画/立川市民文化振興財団「立川ニューイヤーオペラガラコンサート2020」を聴く
ここ数年、正月は、小林祐太郎さんが主宰するVoce D'oro Professionaleの「ニュー イヤー ガラ コンサート~名曲はゆとりの香り~」というコンサートを聴いていたのですが、主宰者の御不幸の理由で、本年から開催されなくなりました。そんな中で、このコンサートを偶然見つけたので、伺うことにしたものです。
ガラ・コンサートは沢山の歌手が出演して、それぞれが顔見世的に1-2曲歌うというパターンが多いと思いますが、このコンサート、男女各二名が、ソロ、二重唱、三重唱、四重唱と様々なパターンで歌うという形式です。ガラ・コンサートというよりは、もう少し真面目な演奏会の印象です。
演奏された最初の曲が「フィガロの結婚」の第一幕7番の三重唱。「フィガロの結婚」をよく知っている人にとっては、凄く重要な曲であることは分かりますが、ガラ・コンサートの最初の曲としてふさわしいかと言われれば、どうなのだろうと思う曲です。そういう選曲をするところが「ひねったところ」と書いた理由です。前半に歌われた曲は、私にとっては珍しい曲はほとんどないのですが、しかし、重唱で歌われた曲はオペラの中で聴くことはあっても、コンサートで取り上げられることは滅多にない曲ばかりで、その意味では新鮮でした。
前半で歌われたアリアは、本日の歌手たちにとってそれなりにチャレンジングな曲だったと思います。その中では山下裕賀のセストのアリアが一番聴きごたえがありました。次いで、宮地江奈のセミラーミデのアリアでしょうか。前川健生の「アルバ公爵」のアリア。盛り上がる曲ではありますが、もっとリリックな表情を強く出した方がこの曲の味が出るような気がします。高田智士の「何でも屋」。雰囲気はよかったのですが、曲のむつかしさに声と舌捌きがついていっていなかったところがあり、課題を残しました。
猫の二重唱。二匹の猫のキャラクターの作り方でよくもなり悪くもなる曲で、その意味で歌手の創造力が試される曲ですが、今回は、二匹の猫の気の合い方が今一つで、重唱になってから、何とか最後まで空中分解せずに持ちこたえたというところ。セビリヤのフィガロとロジーナの二重唱。これはBravi。ロジーナの溌溂した表現もフィガロの雰囲気も見事なもので、山下がロジーナを歌う六月の日生劇場「セビリアの理髪師」が楽しみです。チェネレントラの四重唱。テノールが嵌っていない。前川はロッシーニ歌いではないことを図らずも証明してしまった感じです。
後半のカルメン・ハイライト。こちらは出演者にとっても歌いやすかったり歌いなれていた、ということもあるのでしょう。全体的な仕上がりはこっちの方がよい。
山下裕賀のカルメンは、彼女が大学院での研究テーマとして取り上げている、というだけあって見事。ハバネラもよかったし、フィナーレの二重唱もよかった。ただ、フィナーレの二重唱はこれまで聴いてきたこの曲の中では比較的おどろおどろしくありませんでした。ここが若い歌手の経験が見えた、というところかもしれません。
前川ホセも立派。前半のベルカント物より、彼にはこのような役柄が似合っているし、仕上がりもよい感じです。ミカエラとの二重唱、花の歌、終幕の二重唱とどれも素敵な歌唱でした。宮地江奈はこれまで彼女を聴いてきた印象からすると、声がミカエラにはちょっと軽いかなとも思っていたのですが、さにあらず。魅力的な役作りでよかったです。高田智士のエスカミーリョもよく、若い人たちの力量を楽しめました。
以上演奏的には満足できたのですが、会場は今一つでした。空調の音が響いて耳障りなこと耳障りなこと。リスルホールの管理者は、その改善を図った方がよいと思いました。
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鑑賞日:2020年2月1日
入場料:B席 2FR1列8番 9800円
2020都民文化フェスティバル参加公演
主催:公益財団法人 日本オペラ振興会/公益社団法人 日本演奏連盟
藤原歌劇団公演
オペラ3幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演、新演出
ヴェルディ作曲「リゴレット」(RIGOLETTO)
原作:ビクトル・ユーゴー「王は楽しむ」
台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ
会場:東京文化会館大ホール
スタッフ
指揮 | : | 柴田 真郁 | |
オーケストラ | : | 日本フィルハーモニー交響楽団 | |
合唱 | : | 藤原歌劇団合唱部 | |
合唱指揮 | : | 須藤 桂司 | |
演出 | : | 松本 重孝 | |
美術 | : | 大沢 佐智子 | |
衣裳 | : | 前岡 直子 | |
照明 | : | 服部 基 | |
舞台監督 | : | 菅原 多敢弘 |
出 演
リゴレット | : | 須藤 慎吾 |
マントヴァ公爵 | : | 笛田 博昭 |
ジルダ | : | 佐藤 美枝子 |
スパラフチーレ | : | 伊藤 貴之 |
マッダレーナ | : | 鳥木 弥生 |
ジョヴァンナ | : | 河野 めぐみ |
モンテローネ伯爵 | : | 泉 良平 |
マルッロ | : | 月野 進 |
ボルサ | : | 井出 司 |
チェプラーノ伯爵 | : | 相沢 創 |
チェプラーノ伯爵夫人 | : | 相羽 薫 |
小姓 | : | 丸尾 有香 |
門番 | : | 江原 実 |
感 想
中庸の素晴らしさ-藤原歌劇団「リゴレット」を聴く
藤原歌劇団が13年ぶりに取り上げた「リゴレット」、細かくはいろいろ事故もありましたが、全体的には音楽、演出とも奇を衒わない素直な表現で、成功裏に終演いたしました。立派な演奏だったと思います。
最初に事故のことを書いておきますと、冒頭の2番の音楽、ここは有名なマントヴァ公爵のバッラータ「あれか、これか」を中心に組まれたコンチェルタートですが、ここでソロを受け持つ高音系の歌手ほとんどが声のチェンジが上手くいっていませんでした。これはマントヴァ公を歌った笛田博昭も例外ではなく、「あれか、これか」の最後のアクートがちょっとひやりとさせられました。同じような感じはジルダの登場の二重唱の佐藤美枝子の歌う部分でも見られ、全体的に舞台上の人々が微妙に歌いにくそうだったのが印象的です。舞台の湿気が足りなかったのでしょうか?
しかし、この空気を変えたのもまたジルダでした。「慕わしき人の名は」ほんとうに名唱。特に弱音の処理が素晴らしい。滑らかで、艶やかで、さすがに佐藤というべき歌唱だったと思います。そこから皆さんがのってきたという感じで、二幕、三幕は物語と音楽に引き込まれました。
松本重孝の演出は、何の読み替えもないストレートなもの。分かりやすくてよかったです。
今回の彼の演出において、リゴレットが道化の衣裳に着替えるのを舞台端で見せたことが一つの特徴です。これにより、リゴレットの性格の二重性を視覚的にも明確にし、リゴレットが歌う苦悩に、より寄り添って見せました。この作品の主役は言うまでもなくリゴレットであり、現代のように障碍者の権利もしっかり保証されている時代ではない時代で生き延びなければならない男の苦悩を、ひとつの舞台としてどう見せるか、という視点で松本は考えたのでしょう。結果として、時代背景も含めた障碍者の生きづらさをより端的に見せることにより、生きやすくなったとはいえ、まだまだ障碍者に陰なる偏見が満ちている現代社会に思いを馳せることができたという点で、見事だったと思います。
この松本の意識をしっかりと見せてくれたのが、須藤慎吾のリゴレット。松本は道化の衣裳を鎧と考え、それを身に着けているときの演技と、それが取られた地の男になってしまった哀れな男の表現の差をしっかりつけました。音楽として須藤の表現は、冒頭の傍若無人ぶりにアクセントが効き、それとジルダの登場の二重唱での父親の情愛との対比が見事でした。そして、「悪魔め、鬼め」における怒りの爆発と哀れな涙の懇願の対比も同じように見事で、須藤もリゴレットを演じるのにちょうどいい年齢になったのかな、と思ったところです。その後のジルダとの二重唱での怒りの爆発や、第三幕四重唱での父親の嘆きの表現、最後にジルダを失っての慟哭まで、ひとつひとつが納得いくものでまさに主役でした。今回の舞台の歌唱面での立役者は何と言っても、須藤だったと申し上げます。
佐藤美枝子のジルダも素晴らしい。登場の二重唱の処理は必ずしも完璧ではありませんでしたが、その後はさすがの歌、第一幕のマントヴァ公との二重唱が素晴らしく、上述の通り「慕わしき人の名は」がそれに輪をかけ、その後も常に可愛らしさを失わず、ジルダというキャラクターの無垢な心を表現したのかなと思います。見事でした。
マントヴァ公の笛田博昭。マントヴァを歌うにはちょっと声が重くなりすぎた印象です。もちろん素晴らしい声だし、あの艶やかなアクートは惚れ惚れしますけど、「俺はテノールです、文句あっか!」みたいな歌になっているところが鼻につく。「あれか、これか」や「女心の歌」はそういう歌い方でも問題ないと思いますが、第二幕の大アリア、「頬に涙が」はもっとしっとりと歌った方がより味が出ると思いますし、カバレッタはもっと軽快に歌った方が、マントヴァ公の能天気さが浮き彫りになったように思います。又重唱部分は、もっと相手を立てたほうが、舞台としてより引き締まったのではないでしょうか。
主要三役以外では、伊藤貴之のスパラフチーレの不気味な感じが見事で、歌もよかったです。また鳥木弥生のマッダレーナも妖艶で、ジルダの純粋無垢な感じとの対比において見事でした。有名な四重唱は四人のバランスがにおいて、テノールが目立ちすぎている印象はありましたがよかったです。一方、テノールの参加しない、ジルダとスパラフチーレとマッダレーナの三重唱はバランスがぴったりで素晴らしいものでした。
モンテローネ伯爵が舞台の大きなアクセントですが、泉良平は迫力はあるのですが、おどろおどろしさが足りない感じです。呪いの厳しさをもっと前面に出せればよかったのかなと思います。その他、歌唱的には、河野めぐみのジョヴァンナがよく、丸尾有香の小姓もよかったです。ほとんど歌う場面はありませんが、相沢創のチェプラーノ伯爵にも存在感がありました。
柴田真郁の指揮する日本フィルハーモニー交響楽団の演奏も、素直で中庸。それぞれのシーンでそれぞれの役割を果たしていたものと思います。よかったです。
以上、更によいパフォーマンスになる可能性もありましたが、全体的にはバランスの取れた舞台で、ヴェルディの描かんとしたものを、十分に表現できた舞台だったと申し上げます。中庸の良さを身に染みて感じました。
鑑賞日:2020年2月2日
入場料:C席 6804円 3F R10列 3番
主催:新国立劇場
新国立劇場公演
全4幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」(La
Bohéme)
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ/ルイージ・イリッカ
原作:アンリ・ミュルジュ
会場 新国立劇場・オペラ劇場
スタッフ
指 揮 | : | パオロ・カリニャーニ | |
管弦楽 | : | 東京交響楽団 | |
合 唱 | : | 新国立劇場合唱団 | |
合唱指揮 | : | 三澤 洋史 | |
児童合唱 | : | TOKYO FM少年合唱団 | |
児童合唱指導 | : | 米屋恵子、伊藤邦恵 | |
演 出 | : | 粟國 淳 | |
美 術 | : | パスクアーレ・グロッシ | |
衣 裳 | : | アレッサンドロ・チャンマルーギ | |
照 明 | : | 笠原 俊幸 | |
舞台監督 | : | 大仁田雅彦 |
出 演
ミミ | : | ニーノ・マチャイゼ |
ロドルフォ | : | マッテオ・リッピ |
マルチェッロ | : | マリオ・カッシ |
ムゼッタ | : | 辻井 亜季穂 |
ショナール | : | 森口 賢二 |
コッリーネ | : | 松位 浩 |
ベノア | : | 鹿野 由之 |
アルチンドロ | : | 晴 雅彦 |
パルピニョール | : | 寺田 宗永 |
感 想
指揮者のテンポ感覚-新国立劇場「ラ・ボエーム」を聴く
新国立劇場の「ラ・ボエーム」、2003年の初演以来、ほぼ4年間隔で取り上げられて、2020年で6回目となります。全部見ておりますが、今回がおそらく自分にとって一番納得のいかない舞台でした。世評は好評なようですが、私は今回の指揮者であるカリニャーニの解釈、全く納得いきません。特にテンポ感覚、気持ち悪くなるほどでした。私の感覚とは裏腹にBravoを指揮者に対して投げているお客様が何人もいましたから、こういう音楽が好きな人がいるということは分かりましたが、この演奏は、プッチーニの意図とは違うのではないかという気がします。
Wikipediaによれば「ラ・ボエーム」の演奏時間は、約1時間45分(各35分、18分、25分、27分)であるそうですが、今回の演奏時間は、約2時間5分(45分、20分、30分、30分)であり、かなりゆっくりした演奏であったことが分かります。一方で、これは新国立劇場が発表した演奏時間でもあり、要するに、今回の演奏は指揮者の指定通りに演奏したということに他なりません。
さて、今回のカリニャーニの演奏、結構スピードにメリハリがついていました。端的に申し上げれば、重唱部分のアップテンポと、アリア部分のスローテンポです。もちろんアリアをじっくり聴かせるというのはあってよいと思いますが、今回のもって行き方は、私にとっては受け入れがたいものでした。デフォルメがきつすぎます。「私の名はミミ」、遅すぎて、オーケストラが本当に大変そう。歌っているマチャイゼもあのテンポで納得しているのかしら。私は聴いていて気持ち悪くなる遅さでした。更に申し上げれば、あのスピードで演奏されると、マチャイゼの声質とも相俟って、若い男女の出会いという雰囲気が殺されてしまう。悪女とその悪女に騙される青年みたいな感じになってしまうのが如何なものかと思いました。
同じことがムゼッタのワルツにも言えます。もちろん、ムゼッタのワルツがリタルダント気味に始まることは知っていますが、やっぱり遅すぎると思います。遅すぎると、ムゼッタの華やかな性格がなかなか出てこない感じになります。そこが残念。
一方で、三幕の冒頭などは、サクサクと演奏して、そこはもっとゆっくり演奏して、情感を出すべき部分だと思うのですが、そんな感じにはならない。もちろん、彼には、彼なりの方針があって、あのような演奏をされたのだろうとは思いますが、私には、カリニャーニがどういう設計でボエームを演奏しようとしているのかが、結局全然理解できず、唯違和感だけが残ったというのが本当のところです。
歌手陣の基本的技量は皆レベルが高く、いい演奏をしていたと思います。ロドルフォを歌われたリッピは自分の年齢とロドルフォの年齢を掛け合わされるぐらいの近さなのでしょう。テクニック的には万全ではないと思いますが、ロドルフォに対する共感と若さの勢いで、素晴らしいロドルフォになっていたと思います。マルチェッロのカッシモも納得できる歌唱。日本人男声脇役陣は既にこの舞台を経験したことのあるベテラン揃いで、タイミングを外さない歌唱が見事でした。
ミミは好悪の出る声だという話を聴いて伺ったのですが、マチャイゼのミミ、確かに若くて清純なミミという雰囲気ではありませんでしたが、十分納得できる声でしたし、歌唱技術も見事でした。辻井亜季穂は初めて聴きましたが、軽いだけでのムゼッタではなく、しっかり密度のある軽さで歌われるムゼッタだったので、ミミとの対比において、バランスが取れてよかったと思います。
以上全体としてレベルの高い演奏だったと思うのですが(申し上げるまでもありませんが、東京交響楽団の木管陣は惚れ惚れする巧さ)、指揮者のよく分からない解釈により、十分楽しめるはずの音楽が最低にまで落とされた、と申し上げましょう。
主催:OPERA SALON TONAKAI
オペラサロントナカイ サロン・コンサート Vol.5
会場:六本木シンフォニー・サロン
出 演
ソプラノ | : | 山邊 聖美 | |
テノール | : | 吉田 連 | |
ピアノ | : | 三浦 愛子 | |
司会 | : | 森口 賢二 |
プログラム
作曲家 | 作品名 | 曲名 | 歌手 |
ベッリーニ | 6つのアリエッタDC8-15 | 喜ばせてあげて | 山邊 聖美 |
グリーク | 作品5-3 | 君を愛す | 吉田 連 |
ドナウディ | 古典様式による36のアリア | ああ、素晴らしい愛の巣 | 山邊 聖美 |
ララ | グラナダ | 吉田 連 | |
セヴラック | 休暇の日々から 第1集 | ロマンティックなワルツ | 三浦 愛子(pf) |
ドニゼッティ | 歌劇「ランメルモールのルチア」 | 裏切られた父の墓の前で | 山邊聖美・吉田連 |
ヘンデル | 歌劇「アルチーナ」 | 帰ってきて、喜ばせて | 山邊 聖美 |
ラロ | 歌劇「椅子の王様」 | 愛する人よ、今はもう | 吉田 連 |
ヴェルディ | 歌劇「椿姫」 | 友よ、酌み交わそう、喜びの酒杯を | 山邊聖美・吉田連 |
アンコール | |||
プッチーニ | 歌劇「ジャンニ・スキッキ」 | 私のお父さん | 山邊 聖美 |
ディ・カプア | 私の太陽 | 吉田 連 | |
レハール | 喜歌劇「メリーウィドゥ」 | 唇は閉ざされても | 山邊聖美・吉田連・森口賢二 |
感 想
若手を聴く楽しみ-オペラサロントナカイ 「サロン・コンサートVol.5」を聴く
年に一度は必ず聴く、という歌手の方が何人もいます。大抵は中堅からベテランの方ですが、若手の歌手でその範疇に入るのが、山邊聖美と吉田連です。山邊に関しては8年ぐらい前から、吉田に関しても5年ほど前から年に一度はその歌声を聴いています。山邊にしろ吉田にしろ、積極的に追いかけているわけではないのですが、割と聴くチャンスがあり、それぞれいい時も、悪い時も知っています。その二人がジョイントコンサートを開いて、今の彼らの歌をまとめて聴けるということで、伺ってまいりました。
山邊にしろ吉田にしろ、今の彼らの実力をしっかり見せるようなプログラムを組んできました。
山邊が選んだのは多彩な様式のイタリア語曲です。ベルカント・オペラの代表的な作曲家であるベッリーニと近代イタリアのドナウディの小品。それにバロック・オペラの雄、ヘンデル「アルチーナ」よりモルガーナの技巧的なアリアでした。彼女は時代の違いを意識した歌い方でよかったと思います。ベッリーニも技巧的な曲ですが、ヘンデルはコロラトゥーラの技術が光る曲。そこをきっちりまとめてきたところが素敵でした。
一方吉田は、ドイツ語、スペイン語、フランス語とそれぞれ違う言語の曲でバラエティを富ましてきました。又「グラナダ」のように非常にポピュラリティの高い曲と、「椅子の王様」のミリオのオバドのように比較的珍しい曲まで取り上げました。
山邊はメゾソプラノ出身で現在はソプラノ・リリコ・レジェーロの歌を得意としますが、今回のその特徴を遺憾なく発揮したと思います。中低音のしっかりした声と高音の軽さを兼ね備えている。いつもニコニコと楽し気に歌っているのもよいところです。ただその良さが、声そのものの力として飛び出していかないところが、ソロ歌手としてまだ物足りないところではあります。もう一つ突き抜けたものがあれば、更に魅力的になったと思います。
一方吉田は本質は重いテノールで、声そのものに力があります。それが「君を愛す」の安定感に繋がっていると思いますし、「グラナダ」の歌いあげ方の力強さにも結び付いているのでしょう。
そのような吉田と山邊の二重唱、選択した二曲がどちらもテノール主導の曲。テノールが前のめりになって、そこにソプラノが唱和するという感じの曲ですが、二人の声のバランスがちょうどこの曲に合っているように思いました。今回のコンサートの白眉は「ルチアの二重唱」ですが、見事にまとまったところ、Braviでした。「乾杯の歌」は半分カット。時間の都合だったかもしれませんがそこは全曲をしっかり歌ってくれるともっと良かったかなと思いました。
アンコール曲はどれも定番曲でそれぞれしっかり聴かせてくれました。「メリー・ウィドゥのワルツ」は、テノール・ダニロとソプラノ・ハンナの二重唱かと思いきや。司会のバリトン森口賢二が乱入。楽しく終わりました。
ピアノ伴奏の三浦愛子はしっかりした伴奏で立派。セヴラックという私の知らない近代作曲家のピアノ曲を聴けたのもよかったです。
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鑑賞日:2020年2月6日
入場料:C席 6804円 3F L10列 2番
主催:新国立劇場
新国立劇場公演
全2幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
ロッシーニ作曲「セビリアの理髪師」(Il Barbiere di Siviglia)
台本:チェーザレ・ステルビーニ
原作:ボーマルシェ
会場 新国立劇場・オペラ劇場
スタッフ
指 揮 | : | アントネッロ・アッレマンディ | |
管弦楽 | : | 東京交響楽団 | |
チェンバロ | : | 小埜寺美樹 | |
合 唱 | : | 新国立劇場合唱団 | |
合唱指揮 | : | 冨平 恭平 | |
演 出 | : | ヨーゼフ・E・ケップリンガー | |
美術・衣裳 | : | ハイドルン・シュメルツァー | |
照 明 | : | 八木 麻紀 | |
音楽ヘッドコーチ | : | 石坂 宏 | |
再演演出 | : | 澤田 康子 | |
舞台監督 | : | 斉藤 美穂 |
出 演
アルマヴィーヴァ伯爵 | : | ルネ・バルベラ |
ロジーナ | : | 脇園 彩 |
ドン・バルトロ | : | パオロ・ボルドーニャ |
フィガロ | : | フローリアン・センベイ |
ドン・バジーリオ | : | マルコ・スポッティ |
ベルタ | : | 加納 悦子 |
フィオレッロ | : | 吉川 健一 |
隊長 | : | 木幡 雅志 |
アンブロージョ | : | 古川 和彦 |
感 想
レパートリー公演の初日-新国立劇場「セビリアの理髪師」を聴く
10年以上の前の話になりますが、オペラファンの間では、新国立劇場の初日には行ってはいけないというのが常識でした。だいたい上手くいかない。しかし、本公演を重ねているうちにバランスも合ってきていい公演になるので、行くなら公演の後半、と言われていました。しかし、最近はそんなことはなく、レパートリー公演は初日からしっかりした演奏を聴かせるようになっていたと思います。とはいえ、私自身が初日を聴く経験は決して多くないので、自分の数少ない経験と初日を聴いた人の評判から判断するだけなのですが。
しかし、今回の「セビリア」、久しぶりに初日のぎこちなさを感じてしまう公演になりました。第一幕の前半、すなわち冒頭から第4番の伯爵とフィガロとの二重唱、「金を見れば知恵が湧く」までは、歌手たちがお互いの声のバランスを探りながら歌っている感じで、勢いの方向が見定まらない感じがありました。伯爵の「空は微笑みも」、フィガロの登場のアリア「何でも屋の歌」も、もっと流れに乗って歌って貰えればよかったのになあ、とは思います。そこがセビリアという作品のむつかしさなのかもしれません。
一方、ロジーナが登場してからは全体的に舞台の軸が定まった様子で、みごとな歌唱演技に変わっていったと思います。その意味で、脇園彩が歌った「今の歌声は」は重要だったということでしょう。その脇園ですが、2017年の藤原歌劇団「セビリア」以来の聴取になると思いますが、あの時のロジーナも素敵でしたが、舞台が彼女にとって歌いやすかったのか、更なる歌手の成長なのか、あの時以上に見事な歌を聴かせてくれたと思います。「今の歌声」もそうですが、フィガロとの二重唱「私なのね」もBravaでした。前回は二幕ではややスタミナ切れだったな、という印象を持ったのですが、今回は、最後まで声の艶やかさもパワーも途切れることがありませんでした。
続いて登場したバジリオのスポッティも見事。バスらしいバスで、「陰口はそよ風のように」の切り返しも、後半の五重唱「ドン・バジーリオ」におけるとぼけた感じも、こう来なくっちゃという感じで、楽しめました。
同じくブッフォ役のボルドーニャのバルトロも見事。本来の持ち声はハイバリトンのようで、バッソ・ブッフォを演じるのであればもっと低いポジションで歌われた方がより雰囲気が出るだろうなとは思いましたが、しかし、その演技の切れ味や歌唱の見事さ。例えば1幕のアリアの早口の見事さは感心するしかないレベル。あの音楽の流れている中で、アドリブをしっかりかましていくところなども、素晴らしい限りです。聴いていて惚れ惚れしました。今回の舞台は、間違いなくボルドーニャが軸となって作って言ったなと思います。Bravoです。
ロジーナ、バルトロ、バジリオの活躍によって音楽の方向性も完全に共有されたようで、その後は息継ぐ暇もない音楽の奔流に身を任せるだけ。第一幕前半ではそこそこぎこちなかった伯爵やフィガロも乗ってきました。ただ、第一幕のフィナーレは合唱とソリスト重唱の絡みが今一つ嵌っておらず、又音の飛び方も合唱が強すぎた感じで、そこがまとまれば更に楽しめただろうとは思います。
後半はほぼ文句なし。伯爵を歌われたバルベラは、まだキャリアを築いている最中の方のようで、かつてのシラクーザであるとかミロノフであるとかいうビッグネームのアルマヴィーヴァ伯爵とは力量に差がありますが、それでも決めるところはしっかり決めてきました。後半の一番の聴きどころ「逆らうのは止めよ」は、艶やかな声で歌い上げ、ロッシーニテノールらしい声の軽さと、伯爵の威厳の出し方をうまく調和させていたと思います。
フィガロを歌われたセンベイはフィガロを当たり役にした今はやりのバリトンのようですが、登場のアリアはフィガロらしい勢いに乗れていなかったのが残念で、その印象を最後まで引きずったのかな(歌手がではなく、聴いていた私が、という意味です)、と思いますが、彼の歌唱・演技も一幕後半からは颯爽としていて、悪いものではありません。
加納悦子のベルタは前回の2016年に引き続き登場。しっかり役を果たしました。そのほか、隊長とか、アンブロージョとか居るだけでおかしい人々もしっかり自分の役目を果たしていました。
アッレマンディは日本ではおなじみの指揮者で、かつては東京フィルのオペラ・コンチェルタンテのような演奏会にもよく登場して指揮者です。オペラを振ることに関しては職人的な指揮者で、東京交響楽団の演奏力とも相俟って、悪い指揮ではなかったと思うのですが、前半の方向性が決まらなかったのは、今一つ頂けなかったと、いうところでしょうか。
それにしてもロッシーニ歌手の集結であったことは間違いなく、チームワークがさらに良くなれば、頭からいい演奏になる予感がします。その意味では初日に伺ったのが失敗だったのかもしれません。
IL CONCERTO D'AMORE 夜の部
会場:ムジカーザ
出 演
ソプラノ | : | 飯塚 奈穂 | |
ソプラノ | : | 下條 広野 | |
ソプラノ | : | 園田 直美 | |
ピアノ | : | 栗原 正和 |
プログラム
作曲家 | 作品名 | 曲名 | 演奏者 |
ロッシーニ | 女性合唱曲集『三つの聖歌』 | 愛 | 飯塚奈穂、下條広野、園田直美 |
ロッシーニ | 音楽の夜会 | アルプスの羊飼いの娘 | 園田直美 |
ベッリーニ | 3つのアリエッタ | 優雅な月よ | 下條広野 |
ドナウディ | 古典様式による36のアリア | ああ、愛する人の | 飯塚奈穂 |
モーツァルト | 歌劇「フィガロの結婚」 | 楽しい思い出はどこに | 飯塚奈穂 |
ロッシーニ | 歌劇「ウィリアム・テル」 | 暗い夜 | 園田直美 |
ドニゼッティ | 歌劇「シャモニーのリンダ」 | 私の心の光 | 下條広野 |
休憩 | |||
木下牧子(詞:立原道造) | 女性合唱曲 | 夢みたものは | 飯塚奈穂、下條広野、園田直美 |
木下牧子(詞:ロセッティ) | 六つの浪漫 | 風を見た人 | 飯塚奈穂 |
木下牧子(詞:やなせたかし) | 女声・同声合唱による10のメルヘン「愛する歌」 | ロマンチストの豚 | 園田直美、飯塚奈穂 |
木下牧子(詞:やなせたかし) | 女声・同声合唱による10のメルヘン「愛する歌」 | さびしいかしの木 | 下條広野、飯塚奈穂 |
ビゼー | 歌劇「カルメン」 | 何を恐れることがありましょう | 飯塚奈穂 |
ヴェルディ | 歌劇「椿姫」 | ああ、そは彼の人か~花から花へ | 下條広野 |
プッチーニ | 歌劇「蝶々夫人」 | ある晴れた日に | 園田直美 |
アンコール | |||
ドノヴァン | 映画「ブラザー・サン・シスター・ムーン」 | メインテーマ | 飯塚奈穂、下條広野、園田直美 |
感 想
息の合った仲間達-自主公演 「IL CONCERTO D'AMORE 夜の部」を聴く
ムジカーザは最大120人のお客さんが入ることの可能なホールですが、今回集まったお客さんは50人ほど。ゆったりした空間でアットホームな演奏会になりました。
今回の演奏会、柴山昌宣・晴美夫妻が行っている「心の歌・愛の歌」コンサート・シリーズにかつて参加された3人が、「愛の歌」をテーマにしたコンサートをやりたいということで、親子連れ向けの昼の部と、オペラアリアも入る夜の部で、愛の歌コンサートを実施したとのことです。実質的な生みの親である、柴山夫妻も急遽駆け付け、三人は相当緊張されていた様子です。
休憩は一回でしたが、実質四部構成の演奏会でした。第一部がイタリア歌曲、第二部がベルカント系のオペラアリア、第三部が、木下牧子の歌曲、第四部が、ポピュラーなオペラアリアの組み合わせ。それぞれのセクションでそれぞれが一曲ずつ歌い、第一部と第三部の冒頭には重唱を行うというスタイルです。
その中で一番の魅力を示したのが、下條広野。ベッリーニの歌曲、「シャムニーのリンダ」の大アリア、「ああ、そは彼の人か~花から花へ」。技巧的な難しさもある大変な曲ですが、どの曲も声が安定していて、音程、リズムともしっかりしていて、音楽の輪郭をきっちり示しました。輪郭だけではなく、中身も充実していてよかったです。特に「シャムニーのリンダ」のアリアは、名唱と申し上げてよいレベルだったと思います。
イタリアで活動している園田直美も悪くない。下條広野より重い声のソプラノで、選んだ曲もやや重厚系。それが今の園田にはぴったりなのかな、と思った次第。
飯塚奈穂は、オペラアリアよりも日本歌曲に適性があるようです。第三部の木下牧子の作品は、彼女だけがソロを歌い、下條には下で支え、園田にはオブリガートをつけ、八面六臂の活躍でした。
以上、大向こうを唸らせる演奏ではありませんでしたが、ゆったりとした空間で聴くにはちょうど良い迫力とバランスの演奏会でした。息の合った仲間によるほのぼのとした感じがいい。楽しめました。
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JOINT CONCERT 八木下薫×𠮷村恵×小森美穂
会場:横浜ノアスコンサートサロン
出 演
ソプラノ | : | 八木下 薫 | |
メゾ・ソプラノ | : | 吉村 恵 | |
ピアノ | : | 小森 美穂 |
プログラム
作曲家 | 作品名 | 曲名 | 演奏者 |
モーツァルト | 歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」 | ねえ見てよ、妹よ | 八木下薫・吉村恵 |
ベッリーニ | 6つのアリエッタ | お行き、幸運な薔薇 | 八木下薫 |
トスティ | ニノン | 𠮷村恵 | |
ロッシーニ | 音楽の夜会 | ヴェネツィアの競艇 | 八木下薫・吉村恵 |
プッチーニ | 歌劇「ラ・ボエーム」 | 私が街を歩けば | 八木下薫 |
レオンカヴァッロ | 歌劇「ラ・ボエーム」 | これが運命なのだわ | 𠮷村恵 |
サティ | ジュ・トゥ・ヴ | 八木下薫・吉村恵 | |
休憩 | |||
岡野貞一 | 故郷 | 八木下薫・吉村恵 | |
岡野貞一 | ゆりかご | 八木下薫 | |
中田喜直 | 霧と話した | 𠮷村恵 | |
ドニゼッティ | 歌劇「アンナ・ボレーナ」 | 口づけを、もう一度口づけを | 𠮷村恵 |
モーツァルト | 歌劇「魔笛」 | 復讐の心は地獄のように胸に燃え | 八木下薫 |
ロッシーニ | 歌劇「セミラーミデ」 | その忠誠を永遠に | 八木下薫・吉村恵 |
アンコール | |||
中島みゆき | 糸 | 八木下薫・吉村恵 |
感 想
アットホーム-自主公演 「ジョイントコンサート 八木下薫×𠮷村恵×小森美穂」を聴く
八木下薫と𠮷村恵がどういういきさつでこのコンサートを始めるようになったのかの説明はありませんでしたが、2回目のジョイント・コンサートのようです。𠮷村は2007年ぐらいから藤原歌劇団の「蝶々夫人」、ケイトや、「椿姫」、アンニーナなどで活躍され、最近では2018年藤原歌劇団「チェネレントラ」のディーズベ役で素晴らしい歌唱を披露するなど、実績を積んでいらっしゃいます。一方、八木下は最近名前が出てきた方で、例えば、昨年は東京オペラ・プロデュースの「エトワール」でユーカを歌われていました。
その意味でも、今回の演奏会、おねえさまの𠮷村と妹の八木下という関係での演奏会になりました。
声に関して申し上げれば、𠮷村の声が響きのしっかりした輝かしい声で、彼女は、メゾソプラノ、というだけあって、低音からかなり高音まで同じようなトーンで歌うことができる。これは彼女の魅力です。音色という意味では、ソプラノでも大丈夫なのではないかというほど艶やかな声で堪能いたしました。トスティも中田喜直もしっかりとした歌で大変魅力的でした。それ以上に二つのオペラ・アリア。どちらもあまり聴く機会のない曲ですが、どちらも曲の魅力をしっかり伝える歌唱で、大変感心いたしました。
一方、八木下はポピュラーな曲で勝負をかけてきました。でもポピュラーな曲は難しいです。「私が街を歩けば」にしても「夜の女王のアリア」にしても、もっと素晴らしい演奏を何度も聴いている身とすれば、やはり、粗が見えてしまう。そこが今の彼女の実力ということなのでしょう。現在、彼女自身、かつての思いソプラノ志向から軽いソプラノへの転換を試みているということで、そのためのチャレンジの選択をしてきたのかな、とは思います。そこで、恥を掻くのを恐れず難しい曲を選択したこと、その頑張りをたたえたいと思います。
デュエットも比較的易しい「故郷」や「ジュ・トゥ・ヴ」は素敵なバランスで堪能できましたが、ロッシーニなどは、八木下にとってはチャレンジングな選択であり、特にセミラーミデの二重唱は、𠮷村が機関車役でそれに引っ張られる八木下みたいな感じがありました。
以上、色々ありましたが、凄くアットホームな雰囲気のコンサートで楽しめました。𠮷村家は多分家族総出で応援。ご主人の岡坂弘毅さんがビデオを撮り、ご両親が受付をやり、という感じです。また、曲の間のトークも、昼下がりにマダム二人がお茶しているような、何とも言えない緩い雰囲気の会話で、そのほっこりした感じが、とてもよかったと思います。
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町田イタリア歌劇団 出身地(出生地)別対抗歌合戦
会場:町田市民フォーラム3Fホール
出 演
チーム北国 | ソプラノ | 大坂 美紗子 | |
ソプラノ | 渡部 史子 | ||
ソプラノ | 正岡 美津子 | ||
テノール | 安保 克則 | ||
バリトン | 井上 雅人 | ||
チーム関東 | ソプラノ | 森澤 かおり | |
ソプラノ | 福岡 万由里 | ||
メゾソプラノ | 織田 麻美 | ||
テノール | 加藤 康之 | ||
バリトン | 新井 健士 | ||
チーム西南 | ソプラノ | 宮川 典子 | |
ソプラノ | 刈田 享子 | ||
ソプラノ | 山口 安紀子 | ||
ソプラノ | 奥村 ゆう子 | ||
テノール | 松岡 幸太 | ||
バリトン | 木村 聡 | ||
ピアノ | 土屋 麻美 |
プログラム
チーム | 作曲家 | 作品名 | 曲名 | 演奏者 | |
チーム西南 | ジョルダーノ | アンドレア・シェニエ | シェニエのアリア | ある日青空を眺めて | 松岡 幸太 |
ヴェルディ | 仮面舞踏会 | アメーリアのアリア | あの草を摘み取って | 奥村ゆう子 | |
プッチーニ | 蝶々夫人 | 蝶々夫人のアリア | ある晴れた日に | 宮川 典子 | |
ヴェルディ | イル・トロヴァトーレ | ルーナ伯爵とレオノーラの二重唱 | 私の願いを聞いてください | 刈田享子/木村聡 | |
チーム北国 | ドニゼッティ | 愛の妙薬 | アディーナとドゥルカマーラの二重唱 | 何という愛情でしょう | 大坂美紗子/井上雅人 |
團伊玖磨 | 夕鶴 | つうのアリア | 私の大事な与ひょう | 渡部 史子 | |
ヴェルディ | マクベス(初版) | マクベスのアリア | 俺はどこにいるのか?~炎に包まれ、灰に帰すがいい | 井上 雅人 | |
プッチーニ | ラ・ボエーム | ロドルフォのアリア | 冷たき手を | 安保 克則 | |
チーム関東 | ヴェルディ | リゴレット | ジルダとリゴレットの二重唱 | 娘か!、お父様 | 森澤かおり/新井健士 |
プッチーニ | トスカ | トスカのアリア | 歌に生き、愛に生き | 福岡 万由里 | |
ビゼー | カルメン | カルメンとホセの二重唱 | あんたね、俺だ | 織田麻美/加藤康之 | |
休憩 | |||||
チーム西南 | ヴェルディ | アイーダ | アイーダのアリア | 勝ちて帰れ | 山口 安紀子 |
ヴェルディ | リゴレット | リゴレットのアリア | 悪魔め!、鬼め! | 木村 聡 | |
ヴェルディ | 運命の力 | レオノーラのアリア | 神よ、平和を与えたまえ | 刈田 享子 | |
ヴェルディ | 仮面舞踏会 | アメーリアとリッカルドの二重唱 | ああ、何と心地よいときめきか | 宮川典子/松岡幸太 | |
チーム関東 | マスネ | エロディアード | エロデ王のアリア | はかない幻 | 新井 健士 |
プッチーニ | 蝶々夫人 | 蝶々夫人とスズキの花の二重唱 | 桜の枝を揺すって | 森澤かおり/織田麻美 | |
プッチーニ | トスカ | トスカとカヴァラドッシの二重唱 | マーリオ、マーリオ | 福岡万由里/加藤康之 | |
チーム北国 | プッチーニ | つばめ | マグダのアリア | ドレッタの夢 | 大坂 美紗子 |
プッチーニ | ラ・ボエーム | 第三幕の幕切れの四重唱 | さらば、甘い目覚めよ | 正岡美津子/渡部史子/安保克則/井上雅人 |
感 想
僅差と大差-町田イタリア歌劇団 「出身地別対抗歌合戦」を聴く
最近はさびれているとはいえ、紅白歌合戦があれだけ国民的テレビ番組になった理由は、対抗戦、ということがありそうです。また、高校野球が始まると、自分の故郷のチームを応援したくなる人が多い。対抗戦となるとやっぱり盛り上がるということなのでしょう。そういうわけで、オペラの世界でも「紅白歌合戦」をやっていますが、今回町田イタリア歌劇団が行ったのは、「おらが故郷」を意識した対抗歌合戦。町田イタリア歌劇団ゆかりの歌手を出身地(正確には出生地)で分けて、北国チーム、関東チーム、西南チームとし、3チーム対抗歌合戦を行い、お客さんが順番を判定するというもの。高校野球と紅白のいいとこどり、という感じでしょうか。
順位の決め方ですが、チームの代表3人が出てじゃんけん、歌う順番を決めます。その順で、各チームが歌い前半終了。その時点でよかったチームに手を上げて投票。後半も同様に行って投票し、最後に前半後半の得票を合計して最終順位を決めるというものです。
先に順位を書きますが、前半は100票越えの北国、80票越えの西南に対して関東は30票台で、後半は、西南がトップ、北国が僅差の二位で、関東が大きく沈みました。前後半を合わせると、北国チームが前半のリードを保って一番、次いで僅差で西南、そして最下位が関東でした。この結果は、前半も後半も私の考えた順位と完全に一致しており、妥当なところだろうと思います。
歌っている方はみんなしっかり歌われていて、それぞれが立派だったとは思うのですが、歌へのアプローチの仕方や、観客への訴える力はほんとうに様々で、その辺が結果の差へと結びついたように思います。
前半で優れた歌唱は、まず、刈田享子・木村聡による「トロヴァトーレ」終幕の二重唱。これは刈田のしっかりとした厚みのある声と木村のヴェルディ・バリトン的響きが上手に噛みあっていて素晴らしかったと思います。
チーム北国は、前半それぞれが魅力的な歌を聴かせてくれました。「愛の妙薬」の二重唱は、最初大したことないかな、と思って聴いていたのですが、途中から大坂美紗子のアディーナが嵌ってきて、アディーナの魅力をしっかり見せることができてBrava。渡部史子のつうのアリアも大変説得力のある歌唱でよかったです。井上雅人のマクベスのアリア。マクベスは改訂版で演奏されることがほとんどで、私はこのアリアを聴いたのは初めてですが、この曲はこの曲で、ヴェルディ的激しさが魅力でした。それをしっかり引き出した井上にBravoでしょう。しんがりは安保克則。リリックで明るい張りのある声が、ロドルフォの愛のアリアにちょうど良い感じ。ハイCも綺麗に決まり、立派だったと思います。
前半のチーム関東。加藤康之のホセは頑張っていたけれども、全体として、上記5曲に勝てるパフォーマンスはありませんでした。
後半は、チーム西南がどれも立派な歌。オールヴェルディですが、ヴェルディのアリアを聴く醍醐味をしっかり味合わせてくれる歌唱。山口安紀子の切々とした「勝ちて、帰れ」、木村聡の劇的な「悪魔め、鬼め!」、刈田享子の運命の力のアリアも立派でした。仮面舞踏会の二重唱は前記の三人のアリアほどは魅力的ではありませんでしたが、十分聞きごたえのあるものでした。
後半のチーム関東。残念ながら取り上げて褒めるほどの演奏はなかった、というのが正直なところ。後半のチーム北国は、ボエームの四重唱が素晴らしかったです。
というわけでは、私の評価は、歌った順に前半は星7つ(4曲)、星10(4曲)、星4つ(3曲)、後半は星11(4曲)、星5(2曲)、星5(3曲)でした。なお、この星の数はそれぞれの曲を最高を星3つとして勘定したものです。前後半合計は、北国チームが15、関東チームが9、西南チームが18ですが、一曲当たりの平均は北国が一番良かったので、会場評価は妥当かなと思うところです。
以上、半分お遊びのコンサートでしたが、歌っている方はもちろん皆真剣。またどの曲も曲の途中のカットはなく、たっぷりと時間を取って聴かせてくれたこと、大変満足いたしました。
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