どくたーTのオペラベスト3 2019

第1位  9月7日 藤原歌劇団公演(新国立劇場・東京二期会共催公演)
ロッシーニ作曲「ランスへの旅」
日本語字幕付イタリア語上演 会場 新国立劇場オペラパレス

第2位 7月21日 新国立劇場公演(オペラ夏の祭典2019-2020)

プッチーニ作曲「トゥーランドット」
日本語字幕付イタリア語上演 会場 新国立劇場オペラパレス

第3位  6月30日 藤原歌劇団・NISSAY OPERA2019公演
ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」

日本語字幕付イタリア語上演 会場 日生劇場

ベスト歌手
小堀 勇介(テノール)

優秀賞 
ヴェルディ作曲「ラ・トラヴィアータ」
(藤原歌劇団公演、東京文化会館大ホール、1/26)
三木稔作曲「静と義経」(日本オペラ協会公演、新宿文化センター大ホール、3/2)
マスネ作曲「ウェルテル」新国立劇場公演、新国立劇場オペラパレス、3/19)

ドニゼッティ作曲「ドン・パスクァーレ」(自主公演、ゆめりあホール、4/9)
ツェムリンスキー作曲「フィレンツェの悲劇」/プッチーニ作曲「ジャンニ・スキッキ」新国立劇場公演、新国立劇場オペラパレス、
4/10)
フンパーディンク作曲「ヘンゼルとグレーテル」NISSAY OPERA2019公演、日生劇場、6/15)
オッフェンバック作曲「天国と地獄」(東京二期会オペラ劇場公演、日生劇場、11/21)

(優秀賞は上演順)

特別賞
ロッシーニ作曲「湖上の美人」(藤沢市民オペラ公演、藤沢市民会館大ホール、12/1)

選考理由

  2019年に私が観劇したオペラ上演は50回52本、2018年よりも10本以上も多くの作品を楽しむことができました。それでも例年のごとく、諸事情で行きたかったのに行かれなかった公演も多かったのですが、市民オペラ、大学オペラ、東京二期会、藤原歌劇団、新国立劇場の本公演までさまざまな公演に伺いました。

 全体的な感想を申し上げれば、2019年の日本オペラ界、一言で申し上げれば「若手の台頭の一年」でしょう。もちろんそれは今年だけではなくて、最近の流れとしてあるのですが、今年はそれを凄く認識した一年だった、ということがあると思います。特に若手テノールに実力を感じました。日本音楽コンクール一位の小堀勇介をはじめ、ちょっと年齢的には上ですけど、澤崎一了、もう少し年下の前川健生、山本康寛、そして、国立音大の大学院を終了したばかりの新星、秋山和哉にも感心しました。ソプラノだったら、本年は楠野麻衣を何度か聴いて、いつも安定していて見事でしたし、オペラはまだ聴いたことはないのですが、小川栞奈も忘れられない歌声でした。メゾソプラノは山下裕賀が何て言っても素晴らしい。バリトンは、市川宥一郎が2-3年前よりはるかに上手くなっています。歌手って幾つまで若手と申し上げてよいのか知りませんし、そもそもその歌手の年齢がいくつであるかも知らないので、良いと思っても抜けている方も多いと思いますけど、他にも注目すべき方が何人もいたと思います。若手歌手たちの精進と活躍とを更に期待したいと思います。

 昨年も書いたのですが、一方で演出や指揮者の困ったパフォーマンスには本年も参りました。オペラが「演出の時代に入った」と言われて久しいですけど、それって、ほんとうにいいことなのかな、と思います。そもそも論を言えば、まず楽譜と台本とがあって、それを丁寧に描くというのが大前提でしょう。それは、指揮者にも、オーケストラのメンバーにも、歌手にも、演出家などスタッフにも求められる姿勢で、それをしっかり観客に見せていくことが、作曲家に対するリスペクトだろうと思います。その上で、楽譜には書いていない行間を読み取ったり、伝統的な装飾を付けたり、テンポを若干動かしたり、表情を変更するのはもちろん否定されるものではありませんが、音楽に対する真の尊敬がないとしか思えない演奏や演出は、観客を馬鹿にしているのだろうと思います。その辺はプロデューサーなどお金を管理する側にもしっかり見て、手綱を締めて欲しいなと思うところです。 

 選択した優秀公演を簡単に総括します。

 藤原歌劇団「椿姫」。まずはテノールの魅力。澤崎一了のアルフレードが抜群によく、更には伊藤晴のヴィオレッタ、折江忠道のジェルモンと芸達者がしっかりと見せてくれました。今年は新国立劇場も「椿姫」取り上げましたが、パフォーマンスがこちらが全然上でした。
 日本オペラ協会「静と義経」。2月から3月にかけて、日本オペラが立て続けに三本上演されました。西村朗「紫苑物語」初演(新国立劇場)、黛敏郎「金閣寺」(東京二期会)、そしてこの「静と義経」です。三本とも見ましたが、「オペラ上演」という観点で言えば、これが一番楽しむことができました。オペラとはエンターテイメントであるということが分かっている上演でした。
 新国立劇場「ウェルテル」。新国立劇場再演物の安定感をしっかり感じさせてくれた舞台でした。そして何と言ってもシャルロット役の藤村実穂子のすばらしさ。堪能しました。
 同じく新国立劇場「フィレンツェの悲劇」/「ジャンニ・スキッキ」。「フィレンツェ」ではセルゲイ・レイフェルクスのシモーネが大変すばらしく、「ジャンニ・スキッキ」のアルバレスの演技・歌唱の素晴らしさからの選定。沼尻竜典/粟國淳の日本人コンビによる音楽づくり、演出も見事でした。
 自主公演の「ドン・パスクァーレ」。ベテラン歌手四人による自主公演でしたが、手作りながら、ほんとうに見事なアンサンブルで感心しました。特にバリトン二人による早口の二重唱「こっそり、こっそり、今すぐに」は二人の歌が、完全にはまっており、見事でした。
 日生劇場「ヘンゼルとグレーテル」。子供の魂が乗り移ったようなとても楽しい舞台。角田和弘の魔女がその外観も含め楽しめました。
 東京二期会「天国と地獄」。ここ数年低調だった二期会オペレッタの復活を見せてもらった演奏。ここに至るまでの試行錯誤を、今後の上演につなげて言って欲しいなあと思います。

 演奏会形式で素晴らしい演奏を紹介する特別賞は、候補が目白押しです。まず、エルデ・オペラ管弦楽団の「シモン・ボッカネグラ」がありました。また、歌手たちの自主公演である「イェヌーファ」がありました。オペラ・カフェマッキアート58は、ドニゼッティの「イギリス女王三部作」、すなわち「アンナ・ボレーナ」、「マリア・ストゥアルダ」、「ロベルト・デヴリュー」を三か月かけて演奏して見せました。これらはどれも特別賞に値する演奏でしたが、今年は何と言っても藤沢市民オペラの「湖上の美人」がずば抜けていました。

 さて、どくたーTの選ぶ2018年のベスト3ですが、第三位は藤原歌劇団/日生オペラ共催公演「愛の妙薬」です。小堀勇介のネモリーノが何と言っても最高で、中井奈穂のアディーナも素敵でした。三浦克次のドゥルカマーラの至芸も楽しめました。

 第二位は新国立劇場の「トゥーランドット」。合唱が本当に素晴らしくて、その合唱の中に嵌ってくるソロの声。このオペラの本質が合唱オペラであることを初めてはっきり知りました。もちろんソロ歌手たちの演奏もよかったです。

 第一位は藤原歌劇団、新国立劇場、東京二期会の共催公演、「ランスへの旅」です。日本のロッシーニ演奏のレベルがここまで上がったのだな、ということが実感できる演奏。砂川涼子、佐藤美枝子、中島郁子、山口佳子、小堀勇介、伊藤貴之といった主要メンバーから、ほんの端役の岡野守に至るまで、皆立派な歌唱でほんとうに感心しました。アルベルト・ゼッタが2006年から亡くなるまで毎年のようにやってきて、この演奏が出来るようになるまで、日本のロッシーニ演奏技術を高めたこと、それをしっかり示すような名演奏でした。

 ベスト歌手ですが、今年は小堀勇介で決まりです。聴かせていただいた4本のオペラ、すなわち上記の「愛の妙薬」のネモリーノ、「ランスへの旅」のリーベンスコフ伯爵、それに「貞節の勝利」のフラミーニオ、「湖上の美人」のロドリーゴとどれも素晴らしい歌唱でした。また、コンサートでの歌唱も立派でした。本年は日本音楽コンクール第一位も取りましたし、彼しかいないと思います。

 2019年のオペラ公演におけるどくたーT的ベストは以上のとおりです。尚、例年の如く本選考に賞品はありません。選ばれた方・上演には、「おめでとうございます」を申し上げます。

topに戻る

オペラ鑑賞記のページに戻る

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送