オペラに行って参りました-2014年(その3)

目次

脇役たちの力量  2014年5月25日  新国立劇場「アラベッラ」を聴く 
今の歌声は 2014年5月31日 「宮本彩音ソロ・コンサート」を聴く
トップランナーたち  2014年6月15日  「第4回 立川オペラ愛好会 ガラコンサート」を聴く 
テレビドラマの音楽 2014年6月21日 新国立劇場「鹿鳴館」を聴く
市民に寄り添うこと  2014年6月22日  府中シティ・ミュージック・ソサエティ第6回公演「魔笛」を聴く 
蝶々夫人は15歳 2014年6月28日 藤原歌劇団「蝶々夫人」を聴く
10周年を華やかに飾る 2014年7月19日  杉並区民オペラ「アイーダ」を聴く 
若気の至り? 2014年7月26日 南條年章オペラ研究室「アデルソンとサルヴィーニ」を聴く
肉食系女子  2014年8月2日  アルテリーベ東京「4Fiori 真夏の花のから騒ぎ」を聴く 
アマチュアの心意気 2014年9月10日 ERDEOPERA管弦楽団第8回演奏会「ラ・ボエーム」を聴く

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2014年  その1  その2   その3  その4  その5   
2013年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2013年 
2012年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2012年 
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

鑑賞日:2014年5月25日
入場料:C席 7560円 3F2列1番

主催:新国立劇場

リヒャルト・シュトラウス生誕150周年記念

オペラ3幕、日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
リヒャルト・シュトラウス作曲「アラベッラ」(Arabella)
台本:フーゴ・フォン・ホフマンスタール

会場:新国立劇場 オペラパレス

スタッフ

指 揮 ベルトラン・ド・ビリー panf14021.jpg
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
演出・美術・照明 フィリップ・アルロー
衣 裳 森 英恵
ヴィジュアル化 ヴァルター・ヴィマー
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 大澤 裕

出 演

ヴァルトナー伯爵 :  妻屋 秀和
アデライデ :  竹本 節子
アラベッラ :  アンナ・ガブラー
ズデンカ :  アニヤ=ニーナ・バーマン
マンドリカ :  ヴォルフガング・コッホ
マッテオ :  マルティン・ニーヴァル
エレメル伯爵 :  望月 哲也
ドミニク伯爵 :  萩原 潤
ラモラル伯爵 :  大久保 光哉
フィアッカミリ :  安井 陽子
カルタ占い  :  与田 朝子 
ヴェルコ    大久保 憲 
デュラ    梅原 光洋 
ヤンケル    丸山 哲弘 
客室係    近藤 圭 
カードゲームをする男    大森 いちえい 
同上    ダン・ジュンポ 
同上    黒田 諭 

感 想 脇役たちの力量 新国立劇場「アラベッラ」を聴く

 新国立劇場は、新制作の舞台よりも再演舞台が良いということがしばしばあるわけですが、今回のアラベッラの舞台もそうでした。これは、スタッフが手慣れて動きがスムーズになったということが一番大きい理由だと思いますが、加えて、脇役の日本人歌手がプレミエ時のメンバーとほとんど変わっていなかったのも効を奏したようです。

 このオペラは幕が開くと、まずヴァルトナー伯爵夫人アデライデとカルタ占いの二重唱で始まるわけですが、この二重唱が上手い。4年前もこの部分は竹本節子と与田朝子で歌われたわけですが、こんなに綺麗なハーモニーだったかな、と考えるほど。

 加えて、妻屋秀和のヴェルトナー伯爵がいい。彼は初演時もヴァルトナー伯爵を演じて笑いを取っていたわけですが、今回はそのカリカチュアライズされた演技がさらに大げさになった感じがしていいです。ヴァルトナー伯爵は言っていることは立派ですけど、自分の頭の中には二人の娘の幸せよりもカードゲームの方が大事です。その落差が、妻屋の立派な声と三枚目的振る舞いでよく示されていました。Bravoです。

 同様に三人のウィーンの伯爵は望月、萩原が再演でどちらもいい雰囲気を出していましたし、それ以外の脇役、例えば近藤圭の客室係であるとか、ヴァルトナー伯爵のカード相手の三人とか、前回も同じ役を演じていた方が脇を固めていました。

 合唱団員の動きも前回よりこなれているでしょうし、トータルで前回よりも舞台の骨格がしっかりしていた、と申し上げられると思います。

 そのような枠組みの中で、ビリーは指揮をし、四人の主要歌手たちは歌われたと思います。

 枠がしっかりしているので、全体としての流れはスムースで、聴いていて心地よい演奏になっていました。まさにウィーンの爛熟を十分に表現していると申し上げてよいのでしょう。

 しかし、外人歌手たちが万全だったかと申し上げれば、日本人脇役陣と比較すれば、準備不足の感は免れません。

 特にアラベッラ役のガブラーはここではもっと芯のある声で歌った方が良いのに、と思うようなところもあって、本当にこの役を完全に自分のものにしきっていないなと思いました。特に第一幕でそれを強く感じました。ズデンカとの二重唱は、凄く耽美的な味わいを出して、とても見事であったとか、褒めるべき点も多く、また第三幕のマンドリカに疑われる場面のいらいらした様子など、見るべき点も多かったので、第一幕でもっと気合を入れて歌ってくれればもっと良かったのかな、と思いました。

 ズデンカを歌ったアニヤ=ニーナ・バーマンも悪くはないのですが、どことなく一歩引いた印象です。一幕は余り華やかな役柄ではありませんが、もう一歩存在感が見せられるとよかったのにな、と思います。三幕での寝室から出てくるときの表情がいきるのは、一幕での男らしさがあってのことだと思うのですが。三幕の現れ方は可憐ではあったのですが、もっと切実な表情の出し方があるのではないか、という気がしました。

 マンドリカ役のヴォルフガング・コッホ、悪役面のおっさんで温厚な田舎紳士という感じはしません。それがマンドリカらしいと言えばマンドリカなんでしょうけど。ただ、歌は見事で、外人勢の中ではピカイチの実力を見せました。特に甘い場面よりも怒りを示す場面に迫力がありました。ただあの顔でアラベッラが惹かれるのは、今一つ納得いきませんが、歌が上手いからそれは許していいでしょうけど。

 マルティン・ニーヴァルのマッテオは、若い直情的なお坊ちゃんという雰囲気が良く出ていて悪くない。ただ、歌唱は平凡で、取り立てて耳が引き込まれるようなことはありませんでした。

 ベルトラン・ド・ビリーの音楽づくりは、美しさを前面に出したもの、舞台美術の美しさと相俟って、その美的センスが光る演奏。東京フィルの音も分厚いシュトラウスの音楽にもかかわらず、十分美しい。こういうロマンティックなオペラですから、そういう行き方で観客の目を引き付けるのは悪くはないと思いますが、それだけではやや物足りないのも事実です。このオペラの聴きどころは、主要役の心の動きの表現ですが、そこを浮き出させるようにするためには、ビリーはもっと攻めるべきではなかったのかな、と思います。それでも主要4人が、もっと切ない表現ができたかどうかは分からないけど。

 アルローの舞台は、再演でその美しさがはっきりと分かりました。でもこの舞台が綺麗なだけで、それ以上の深みを感じられないのも事実です。昔二期会中心で上演した時の最初のアラベッラの鈴木敬介演出版の方が、その辺の心の動きをしっかり示していたようにも思います。

 まあ、あの時の指揮者はルヒャルト・シュトラウスのスペシャリストといってよい若杉弘でしたから、ビリーよりはこの音楽を深く解釈していたということはあるのだろうと思います。

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鑑賞日:2014年5月31日
入場料:8000円(食事付)

主催:ミュージックレストラン アルテリーベTOKYO

宮本彩音ソロ・コンサート
〜心に響く麗しの歌声〜

会場:ミュージック・レストラン アルテリーベTOKYO

出演

ソプラノ  :  宮本 彩音  panf14022.jpg
ピアノ  :  松本 康子 

プログラム

作曲家 

日本語曲名 

原題 

第一部 
アルディーティ   口づけ   Il bacio 
ロッシーニ  フィレンツェの花売り娘  Arietta "La fioraja fiorentina"
ドビュッシー  星の夜 L.4  Nuit d'étoiles
ドビュッシー  美しき夕べ L.6  Beau soir
橋本国彦  お菓子と娘   
トマ  歌劇「ハムレット」からオフェリの狂乱の場
「遊びの仲間に入れてください」 
"Hamlet" A vos jeux, mes amis,
食事   
第二部   
ヨハン・シュトラウスU世  ワルツ「春の声」作品410  Frühlingsstimmen-Walzar 
ヨハン・シュトラウスU世 

喜歌劇「こうもり」よりアデーレのアリア
「侯爵様、貴方のようなお方は」 

"Die Fledermaus" Mein Herr Marquis,
越谷 達之助  初恋   
本居 長世  七つの子   
ガーシュウィン  歌劇「ポーギーとベス」よりクララのアリア
「サマータイム」 
"Porgy and Bess" Summertime 
ロウ  ミュージカル「マイ・フェア・レディ」よりイライザの歌う
「踊り明かそう」 
"My Fair lady" I could have danced all night 
レハール  喜歌劇「メリー・ウィドゥ」よりハンナのアリア
「ヴィリアの歌」 
"Die Lustige Witwe" Vilja Lied 
アンコール   
プッチーニ  歌劇「ラ・ボエーム」よりムゼッタのワルツ
「私が街を歩くと」 
"La Bohème" Quando me'n vo' 
中山 晋平 ゴンドラの歌   

感想 今の歌声は-「宮本彩音ソロ・コンサート」を聴く

 私が宮本彩音を最初に聴いたのは、2004年東京オペラプロデュース公演「天国と地獄」におけるミネルヴ役。その翌年の東京オペラプロデュース公演、ロッシーニ「とてつもない誤解」におけるエルネスティーナ役で注目し、10年間折に触れ聴いてきました。その間全て順調という訳ではなかったと思いますが、藤原歌劇団での研鑽が功を奏して、アンダースタディから次第に端役を貰うようになり、「愛の妙薬」ジャンネッタ、「セビリアの理髪師」ベルタ、最近では本年3月「オリー伯爵」アリスと活躍の場を広げてきました。

 その宮本が藤原歌劇団の推薦を受けて、新橋のミュージックレストラン「アルテリーベTOKYO」で食事付コンサートを行うということを聞き、出かけてまいりました。

 自分で曲の解説をしながら歌う形式のコンサート。

 プログラムは、前半が彼女の今と今後の方向性を示唆させる比較的音楽的なもので、後半は少し砕けて、楽しめるスタイルの曲中心です。

 最初は彼女のハイソプラノの技量を見せるための曲2曲。「口づけ」は自分のテンションを上げるために選んだ曲だと思いますが、未だテンションが最高潮には高まっていなかったようで、声のポジションがやや低めな感じでしたが、2曲目の「フィレンツェの花売り娘」は絶品でした。伸びやかな高音が素敵な宮本ですから、このような高音の華やかな作品を歌うと、彼女の魅力が引き立ちます。

 続いてのドビュッシー。私はどちらも初めて聴く曲ですが、素敵でした。特に先に歌われた「星の夜」が良い。ドビュッシーが若い時(14歳とも18歳とも言われる)に作曲された歌曲ですが、その時点で、既にドビュッシーらしさを身に着けていたことに驚きました。ドビュッシーはやはり天賦の才があったのだな、と思いました。

 橋本国彦の日本歌曲を経て、本日の白眉は、トマ「ハムレット」の狂乱の場です。表情が完全にイッちゃっていて、正に狂ったオフェーリア(オペラ上の役名はオフェリ)でした。技術的な難易度が高く、心情表現も易しい曲とは思えませんが、聴き手を引き込む力が十分にあり、今の彼女の充実した力量を知るに十分な歌唱でした。感心いたしました。

 後半は「春の声」からスタート。春の声の前半は若干まとまりの悪いところがあって、そこがもっと滑らかに流れればもっと素敵だと思いました。アデーレのアリアは会場を廻りながらの日本語での歌唱。2番の「眼鏡をかけて、しっかりとご覧ください」と歌うところで、私と演出家のBさんの肩に手を置いて歌われたので二人で、眼鏡を押さえて、彼女の顔を見上げました(アドリブです)。 

 「七つの子」は恐らく岩河智子編曲版、「サマータイム」はけだるさを前面に出さないオペラテッィクな表現。「踊り明かそう」の楽しげな表情も魅力的で、最後の「ヴィリアの歌」は合唱部分を会場のお客さんに歌ってもらうスタイルで歌われました。

 イタリア語の曲、フランス語の曲、ドイツ語の曲、英語曲、日本語曲、曲の種類もオペラアリア、オペレッタ、ミュージカル、芸術歌曲、童謡、歌謡曲(ゴンドラの歌は元々歌謡曲)と宮本彩音の今の全貌と力量を示すのに本当にふさわしいコンサートでした。高音部の魅力は申し分ないと思います。あとは中低音の落ち着きと幅がもう少し出るようになれば、更に幅が広がって彼女向きの役柄のオファーが来るのではないかと思いました。

 会場が地下で天井が低かったのが残念です。これで天井がもっと高くて、音の抜けが良ければ、更に彼女の魅力に気付けたかもしれません。

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鑑賞日:2014年6月15日
入場料:B席 2000円 2F31列25番

主催:立川オペラ愛好会

〜立川をオペラの町に〜
第4回 立川オペラ愛好会 ガラコンサート
名歌手たちの夢の饗宴

会場:たましんRISURUホール 大ホール

スタッフ/出演

司会  牧野 正人  panf14023.jpg
ピアノ  :  河原 忠之 
ソプラノ  :  安藤 赴美子 
ソプラノ  :  砂川 涼子 
メゾソプラノ  :  清水 華澄 
テノール  :  樋口 達哉 
テノール  :  村上 敏明 
バリトン  青山 貴 
バリトン  森口 賢二 
バリトン  牧野 正人 

プログラム

作曲家 

作品名 

曲名 

歌唱 

レオンカヴァッロ  パリアッチ  トニオのプロローグ「皆さん、ごめんください」  牧野正人 
ビゼー  カルメン  エスカミーリョの闘牛士の歌「諸君らの乾杯を喜んで受けよう」  森口賢二 
ヴェルディ  ナブッコ  ナブッコのアリア「ユダヤの神よ」  青山貴 
マスカーニ  カヴァレリア・ルスティカーナ  サントゥッアのアリア「ママも知る通り」  清水華澄 
サントゥッアとアルフィオとの二重唱「ああ、アルフィオさん、主が貴方をよこされたんですわ」  清水華澄/森口賢二 
トゥリッドゥのアリア「お母さん、あの酒は強いね」  村上敏明
 
ヴェルディ  ドン・カルロ  カルロとエリザベッタの終幕の二重唱「あの人だ」  砂川涼子/樋口達哉 
休憩
マスカーニ  友人フリッツ   スーゼルとフリッツとのさくらんぼの二重唱「スーゼルおはよう」  砂川涼子/村上敏明 
プッチーニ  トスカ  カヴァラドッシのアリア「星は光りぬ」  樋口達哉 
ヴェルディ  椿姫  ジェルモンのアリア「プロヴァンスの海と陸」  牧野正人 
プッチーニ  蝶々夫人  蝶々さんのアリア「ある晴れた日に」  安藤赴美子 
スズキとシャープレス、ピンカートンとの三重唱「誰でしょう?」  清水華澄/樋口達哉/青山貴 
蝶々さんとピンカートンとの愛の二重唱「可愛がってくださいね」  安藤赴美子/村上敏明 
アンコール 
ヴェルディ  椿姫  乾杯の歌  全員 

感想 トップランナーたち-「第4回 立川オペラ愛好会 ガラコンサート」を聴く

 彼らだけが日本のオペラ歌手たちのトップランナーだとは申し上げませんが、現在の東京二期会や藤原歌劇団のトッププリマとプリモ8人のガラコンサートです。このメンバーだったら、全員がNHKのニューイヤーオペラコンサートの舞台に同時に立っても何にもおかしくありません。その上ピアノ伴奏が、伴奏ピアニストとしては日本一と申し上げるに恥じない河原忠之ですから、悪い演奏になるはずがない。

 その上、アリア、二重唱、三重唱とあり、アリアは結構有名どころですがバラエティに富み、二重唱、三重唱は、なかなかこういうコンサートでは歌われないものも含まれ、たいへん楽しむことが出来ました。

 全体的に高水準であり、どの方も流石の歌唱ですが、その中でも声と役柄との微妙なアンバランスがあったりするところがやっぱり面白いです。

 「道化師の前口上」:トニオは牧野正人が得意とする役の一つで、流石に手慣れた感じです。雰囲気が見事で、音の広がる感じがまさに牧野正人である、と思いました。

 森口賢二の「闘牛士の歌」。自前という闘牛士の衣装を着ての登場。言うまでもなく素晴らしい歌唱ですが、牧野、青山という重量級バリトンに挟まれると、森口賢二といえども声が軽く聞こえてしまうから不思議です。空気を響かせる重低音の要素が少ない感じに思いました。

 青山貴のナブッコのアリア。青山といえば2012年の東京二期会の本公演でこの役を歌っており、「ユダヤの神よ」はナブッコを代表するアリアですから悪いはずがない。ひょこひょこと出てきてけれんみなく歌い始めたのですが、その声、表現はとても立派なものでした。

 清水華澄の「ママの言う通り」。この曲のお手本のような歌唱。若手(とはいえ新国立劇場のオペラ研修所を出てもう10年近いですから、若手というよりは中堅かな)メゾの第一人者としてずっと見ていますが、流石だと思います。彼女の歌唱を聴いていると身体って楽器なんだな、と当たり前のことを強く感じてしまいます。本日の最高の聴きどころの一曲。

 続く「サントゥッアとアルフィオの二重唱」。歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」では、悲劇の坂道を転がり落とすためのとても重要な二重唱ですが、コンサートで歌われることはめったにないと思います。少なくとも私は初めて。この曲は、清水サントゥッアのやるせない心の動きと森口アルフィオの粗暴な雰囲気が上手く重なって面白い。

 村上敏明の「お母さん、あの酒は強いね」。村上にはこの曲が凄く似合っていました。彼の高音は非常に素晴らしいのですが、低音は村上節になって鼻に着くことが少なくありません。それだけにこの曲のように低音部が目立たなく、かつ泣きの感情高揚が含まれる曲は、村上敏明にぴったりで、彼の魅力を強く感じるものになりました。

 ドン・カルロの終幕の二重唱。樋口達哉と村上敏明とを同じ舞台で聴くのは初めてかもしれません。歌のタイプは二人ともテノーレ・リリコ・スピントですが、続けて聞くと声の質は随分違うな、と思いました。あえて言うなら、樋口はナイフ的であり、村上は鉈的であると申し上げたらよいかもしれません。二重唱自体ですが、流石に砂川涼子が上手い。彼女はこういうしっとりした役が似合います。そこに絡む樋口が素晴らしく、前半を締めるにふさわしい歌唱と申し上げて良いでしょう。

 後半に入り「さくらんぼの二重唱」べた褒めするほど良いとは実は思わなかったのですが、それでも凡百の歌ではありませんでした。息の合い方が流石にご夫婦というべきか。

 樋口達哉の「星は光りぬ」。二期会トップテナーの実力を十分に示す歌唱。

 牧野正人のジェルモン。ゆっくりしたテンポで歌い上げるところは流石にベテランの芸と申し上げたらよいと思います。何とも言えないこういう雰囲気はベテランだからこそなのでしょうね。感服いたしました。

 安藤赴美子の「ある晴れた日に」。上手でした。ただ、蝶々夫人という役柄と安藤赴美子の声は必ずしも似合っていないような気がしました。もっと中声部にふくよかさが欲しい。その方が、蝶々さんの味をもっと彫深く感じられたのではないかと思いました。

 蝶々夫人からの三重唱。この曲もガラコンサートではなかなか歌われない曲だと思います。樋口達哉は4月末の二期会本公演でピンカートンを歌ったわけですが、この辺りは勢いが付きすぎて、感情が入りすぎた感じがあって私はいかがなものかと思ったのですが、今回はそのような興奮がなくて、かえって音楽の魅力と樋口の魅力を感じられたように思います。

 蝶々夫人の愛の二重唱。いい歌唱だったと思います。でも最高ではない。安藤赴美子は蝶々夫人を舞台で歌ったことがあるそうですし、村上敏明も藤原本公演で歌うなどピンカートンを持ち役にしています。それだけに水準以上であることは疑いないですが、でも自分がこの愛の二重唱に求めているものと、現実に聴こえてくる音楽に微妙なずれがある。上手なんですが、何か一味足りない気がします。

 こういう感想を持つのは全体のレベルが高いからだと思います。いろいろと勝手なことを書いてきましたが、基本的には素晴らしいコンサートでした。かなり空席が目立ちましたが、勿体ないの一言です。この歌をこの値段で聴けるのですから、都心からも出かけて損はなかったのにな、と思いました。来年にも期待しましょう。

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鑑賞日:2014年6月21日
入場料:A席 11340円 2F1列53番

主催:新国立劇場

オペラ4幕、日本語字幕付原語(日本語)上演
池辺晉一郎作曲「鹿鳴館」
原作:三島由紀夫
台本:鵜山 仁

会場:新国立劇場 中劇場

スタッフ

指 揮 飯森 範親 panf14024.jpg
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 冨平 恭平
演 出 鵜山 仁
美 術 島 次郎
衣 裳 前田 文子
照 明 沢田 祐二
振 付 上田 遥
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 村田 健輔

出 演

影山悠敏伯爵 :  黒田 博
同夫人 朝子 :  大倉 由紀枝
大徳寺侯爵夫人 季子 :  手嶋 眞佐子
その娘 顕子 :  高橋 薫子
清原永之輔 :  星野 淳
その息子 久雄 :  鈴木 准 
女中頭 草乃 :  山下 牧子
宮村陸軍大将夫人 則子 :  鵜木 絵里
坂崎男爵夫人 定子 :  池田 香織
飛田天骨 :  早坂 直家
給仕頭 :  秋本 健
写真師 :  龍 進一郎
女中 :  増田 弓

感 想 テレビドラマの音楽 新国立劇場「鹿鳴館」を聴く

 2010年のプレミエの時、日本の新作オペラのチケットだからそんなに急がなくても買えるだろうと、発売日の夜に新国立劇場ボックスオフィスにアクセスしたら、既に完売で、残念ながら初演を見ることが出来ませんでした。それだけの人気作ということで、プレミエから4年しか経っていないのに再演。今回も安いチケットは手に入らず、やっと取ったA席での鑑賞となりました。とにかく「鹿鳴館」というこのオペラ、異様に人気が高いです。

 「鹿鳴館」という作品は、原作が三島由紀夫の戯曲で、彼の代表作の一つです。私は読んだことも、その舞台を見たこともないのですが、三島の戯曲と言えば、「鹿鳴館」と「サド侯爵夫人」ということになっている。その三島の代表作を、脚本を書いた鵜山仁は、三島の台詞のカットだけを行って、今回の上演台本に仕上げたそうです。なるほどなあ、と思います。確かにこのオペラ、非常に舞台劇的です。純粋器楽の部分を別にすれば、全て会話で物語が進んでいく。即ち、アリア的音楽はなく、二重唱、三重唱、あるいは四重唱といった重唱だけで物語が進んでいくのです。

 そして、その台詞のひとつひとつが、それぞれ意味を持って緊密に関係している。三島の作った台詞を刈り込んでいるだけに無駄が無く、それぞれの関係が非常に緻密になっている。それが音楽的に本当に良いことかどうかは別の話ですが、その台詞を上手く表現できれば、より感動が高まることは疑いないようです。

 しかしながら、現実はそう上手く行きませんでした。池辺晉一郎の音楽、オーケストラの出す音を聴いた印象は、テレビドラマのBGMです。NHK大河ドラマのタイトルバックの音楽によく似ているように思えます。つまり、オーケストラとしてはダイナミックに伴奏音楽を奏で(金管は結構こけていたようですが)舞台を盛り上げていくわけですが、舞台の上はそこまで緊迫感が増してこない。

 これは一つは歌手たちの演技力の問題だと思います。舞台劇は一種独特の味があります。端的に申し上げればそれは誇張の味です。台詞を普段の生活では決して言わないような抑揚を付けたり、演技だって普段はやらないような動きを付けたりして観客を舞台の世界に引き込みます。オペラはその誇張を音楽がやります。登場人物の心の動きは、音符の上下や、休止、あるいはダイナミクスで示すことになっている。例えば「リゴレット」第4幕の四重唱とか、「ばらの騎士」の元帥夫人、ゾフィー、オクタヴィアンの三重唱とか、登場人物の葛藤を音楽的に表現した名場面はいっぱいあるわけで、こういう名場面であれば歌手たちが音楽的に適正に歌ってさえくれれば、ヴェルディ先生の意図する、あるいはシュトラウス先生の意図する美が舞台上に醸し出されるわけですが、この「鹿鳴館」に関して言えば、登場人物の葛藤を音楽だけで表現するにはボーカルスコアの音楽だけでは弱い感じがいたしました。

 例えば第一幕、女性歌手たちが集まって大徳寺顕子の恋愛の話をするシーン。皆さん一所懸命に楽譜の内容を歌われて、音楽自身は勿論十分美しいのですが、物語の伏線となるこの部分は、歌手たちの表情を見ていても、余り伏線的ではない。池辺の音楽はそこまであざとくは書かれないし、歌手たちもそういう表現をしない。彼女たちは舞台人である前に音楽家ですから、仕方がないとは思いますが、第一幕と第二幕の前半は私にはかなり退屈でした。

 池辺晉一郎がもう少しあざとく音楽を書き、歌手たちがもう少し誇張して表現すればまた感じが違っていたのでしょうが、現実のアウトプットは舞台劇として面白いものではありませんでした。その感じが変わるのは、影山悠敏伯爵が登場してからです。影山は冷徹な悪役ですが、黒田博はその冷徹な悪役を魅力的に演じました。与えられた音楽はそんなに美しくは無い様に思うのですが、その表情や演技力、表現力は他を圧倒していました。後半舞台が舞台が締まったのは、そういう風に書いた池辺の音楽、鵜山の台本、更に申し上げれば三島の原作があるのでしょうが、私は黒田の演技力が大いに関係していたと思います。黒田演じる影山悠敏伯爵がこの舞台の軸でした。

 黒田と比較する時、大倉由紀枝の演じる朝子は演技力・表現力が弱い。朝子は役柄的にはかなり強い女であるはずですが、大倉の演じる朝子は、そういう強さが感じられないのです。表現・表情がそこまではっきりしない。例えば、朝子が伯爵に決別を言うシーン。この舞台の見どころの一つですが、大倉の歌を聴き、舞台を見ていても、クライマックスの高揚としては相当弱い感じがしました。

 それは又演出の問題でもあります。「鹿鳴館」は明治初期の欧化政策時代の権謀術数を描いた政治劇ですから、抽象的な舞台にして心理劇側面を強調することが良いことなのか。登場人物の衣裳もモノトーンで、色彩的な華やかさが全然ない。三島の描いた世界は、表面のきらびやかさ(それは当然ながら、嘲笑の対象になるものでありました)と、その後ろ側のドロドロした欲望との対比であるわけですから、舞台自身はもっと華やかで、そこに集う貴婦人たちは、もっと虚栄感を感じさせて欲しいと思うのですが、鵜山はそうは演出しなかった。

 これが心理劇の舞台であれば良かったのだろうと思いますが、いかんせんオペラでした。それもテレビドラマ的なオペラでした。そうであれば、もっとテレビドラマ的な演出でも良かったのではないのかな、と思います。例えば、女中頭草野は、朝子の忠実な召使であったのが、影山悠敏伯爵に誘惑されて、影山のスパイになります。こういう演技・歌唱をやらせると、山下牧子はとても上手な方だという印象を持っているのですが、今回は演技的な精彩に欠いていたように思います。こう言うところも演出的な弱さを感じた一因です。これをテレビドラマ的に演出すれば、この辺の草野の心変りがもっと強調されたでしょう。同様に前半の退屈に感じられた部分ももっと楽しめたでしょうし、後半の緊迫感も更に盛り上がったのではないかと思いました。

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鑑賞日:2014年6月22日
入場料:A席 5000円 2F7列33番

主催:府中シティ・ミュージック・ソサエティ

府中市市制施行60周年記念
府中シティ・ミュージック・ソサエティ第6回公演

オペラ2幕、日本語訳詞上演
モーツァルト作曲「魔笛」(Die Zauberflöte)
台本:エマヌエル・シカネーダー

会場:府中の森芸術劇場 ドリームホール

スタッフ

指 揮 今村 能 panf14021.jpg
管弦楽 府中市民交響楽団
合 唱 府中魔笛合唱団
合唱指揮 中瀬 日佐男
演 出 小澤 慎吾
照 明 三輪 徹郎
舞台監督 原 有人

出 演

ザラストロ :  矢田部 一弘
タミーノ :  望月 哲也
弁者 :  井上 白葉
夜の女王 :  乾 ひろこ
パミーナ :  砂川 涼子
侍女T :  佐田山 千恵
侍女U :  中村 春美
侍女V :  奥野 恵子
パパゲーナ :  小田切 一恵
パパゲーノ :  押川 浩士
モノスタトス  :  菊池 大翼 
童子T :  柏川 翠
童子U :  新藤 清子
童子V :  中川 裕子
僧侶T :  岡村 北斗
僧侶U :  澤谷 雅広
武士T :  浅原 孝夫
武士U :  水澤 聡
奴隷  :  赤羽 信之介 
奴隷  :  松田 康伸 

感 想 市民に寄り添うこと 府中シティ・ミュージック・ソサエティ第6回公演「魔笛」を聴く

 人口20万人ぐらいの町が、市民オペラをやるというのは、良いことだなと思います。もっと小さい街だと、たぶん参加する方を集めるのが大変だと思うし、大きくなると、市民の手作り感を作りにくくなるように思います。多分これ位が丁度良い。

 手作り感、という点から言うと、子供たちのバレエが出てくるのも市民オペラならではでしょう。バレエを習っている子供は結構多い訳ですが、普通だとおさらい会ぐらいしか自分たちの踊りを披露する場所がない訳ですが、市民オペラがあれば、舞台に上がって群舞を披露できる。

 府中シティ・ミュージック・gソサエティは府中在住の音楽家が立ち上げたオペラのグループで、本当の意味での市民発の団体です。それだけに音楽的な犠牲は若干あっても、地元に拘った舞台を作り上げたということでしょう。日本語訳詞での歌唱は、歌い手にもストレスを掛けますし、聴いている方もなんと歌っているのか聴き取れないという問題はあって、私は好きではないのですが、小さい子供たちに聴いてもらうためにはいい方法です。

 「魔笛」というお話は、途中がねじれているので、子供が中身を理解するのはなかなか大変ですが、勧善懲悪のストーリーで、音楽は分かりやすく、また素晴らしいメロディーなので、クラシック初心者だって十分楽しめます。音楽的に素晴らしい演奏を作ることも可能ですし、音楽的充実と別のものを求めるのであれば、それはそれで対応可能という点でも良いオペラだろうと思います。演奏全体の出来は、二期会や新国立劇場で上演する魔笛とは比べ物にならないわけですが、子供の入場者が多く、楽しんでいたことや、オペラとはあまり縁のない方が聴きに来ていたということもあって、市民に寄り添った感が強く出ていたと思います。こういうタイプのオペラは、存在価値があるなあと思いました。

 さて演奏ですが、オーケストラや合唱は、要するにアマチュアです。ピットに入った東京フィルなどは結構批判されますが、こういう市民オーケストラの水準を知ればとても批判することなどできません。今回の府中市民交響楽団は、ことに練習不足のところもあったようで、相当危ない部分があったことは否めません。合唱も、もう少し上手だとよろしかったわけですが、でも専門家の合唱ではないですからね、まあ、仕方がありません。

 ソリストは、タミーノとパミーナに尽きます、

 砂川涼子のパミーナ。素晴らしいです。日本語で歌うことによる緊張感があったと思います。その分最高のパミーナではなかったと思いますが、それでも今パミーナといえば砂川涼子だと思います。凄く雰囲気があるし、歌もとても美しい。これだけのパミーナはそう聴けるものではありません。聴いてよかったと素直に思います。

 タミーノの望月哲也も素晴らしい。彼も今日本でタミーノ歌いといえば最初に指が折られる存在です。それだけの歌唱を聴かせてくれました。ドイツ語で歌ってくれたら、どれだけよかったかと思うほどです。Bravoと申し上げましょう。

 それ以外で魅力的だったのが押川浩士のパパゲーノ。今年聴いた三人のパパゲーノの中では彼の歌唱が一番良いと思います。パミーナとの二重唱が素敵に響くところなどが素晴らしいです。

 乾ひろこの夜の女王。彼女の声質は夜の女王向きだとは思わないのですが、最高音のF音が当たり前のように出るところは、凄いと言わざるを得ません。中声部も力があるのですが、声の質感がモーツァルトというよりはヴェルディ向きで、夜の女王としては独特の雰囲気を醸し出していました。

 矢田部一弘のザラストロも低音がそれなりに響き、悪いものではありませんでした。もっと低音に力があればもっと楽しめたと思いますが、それは酷な要求です。

 それ以外の脇役勢は、それなりだったとおもいます。主役級と脇役級との差が一寸目立つのが市民オペラだな、と思うところ。しかしながら、完成度が高い演奏とは言えないけれども、歌手たちはその実力に見合っただけの歌を聴かせてくれたと思いますし、舞台の雰囲気がいかにも市民オペラ的でハートウォーミングな舞台だったと思います。これ位の水準の舞台が毎週のようにどこかでやられて、それなりの集客が出来れば、オペラの裾野を広げるには良いのだろうな、と思いました。

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鑑賞日:2014628
入場料:C席 8800円 3F 346

主催:公益財団法人日本オペラ振興会

藤原歌劇団創立80周年記念公演

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「蝶々夫人」Madama Butterfly)
台本:ルイージ・イッリカ/ジュゼッペ・ジャコーザ

会場 新国立劇場・オペラ劇場

指 揮 園田 隆一郎
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合唱指揮 佐藤 宏
合 唱 藤原歌劇団合唱部
演 出 粟國 安彦
演出補 松本 重孝
美 術 川口 直次
衣 裳 緒方 規矩子
照 明 奥畑 康夫
舞台監督 佐藤 公紀

出 演

蝶々夫人 山口 安紀子
ピンカートン 笛田 博昭
シャープレス 谷 友博
スズキ 松浦 麗
ゴロー 小宮 一浩
ボンゾ 安東 玄人
神官 坂本 伸司
ヤマドリ 江原 実
ケート 吉村 恵

感 想

蝶々夫人は15歳 -藤原歌劇団「蝶々夫人」を聴く

 蝶々夫人が15歳でピンカートンと結婚したことは、オペラの中で歌われます。ピンカートンがアメリカに戻り、三年経つと又日本に戻ってくる。この時、蝶々さんは18歳です。即ち、蝶々夫人は、15歳から18歳の少女であるわけですが、若い歌手が蝶々夫人を演じるのはなかなか難しい。それは当然です。プリマドンナ・オペラですから、蝶々夫人はほとんど出ずっぱりで、蝶々夫人を演ずるセンスが舞台の質を決める部分がかなりあるから。だからこそ、経験豊富なベテランが登場することが多いのだろうと思います。

 今回外題役を演じた山口安紀子。藤原の本公演に抜擢されるぐらいですから、本来力のある方だろうとは思いますが、若さが露呈した感じがします。本来の15歳や18歳の娘の歌に近いと申し上げたらよいか。四月の東京二期会公演で木下美穂子が見せてくれた一本通った筋のようなものを、山口からは感じることが出来ませんでした。山口の歌唱は、場面場面をとにかくこなすだけで精一杯で、次から次へと現れる難所にとにかくなんとか食らいついているという感じでした。今一つ踏み込みが甘いくて、芯が通っていない感じです。細かい音型の処理なども、もう少し、落ち着いて歌えばよいのに、と随分思いながら聴きました。

 こう思うもう一つの理由は、山口安紀子の声がやや軽いということはあるかもしれません。彼女自身はリリコスピントの役を多く歌ってキャリアを作ってきた方のようですが、声のポイントが少し高い所にあるようで、声の質感が蝶々夫人的ではない感じがします。その分演技で補えればよいのでしょうが、彼女自身が、日本女性の所作が自分自身に身についていない感じがあって、演技が微妙にぎこちない感じがしました。

 一方、川口直次の舞台は、日本的美的センスがあって素晴らしいものだと思います。二期会公演の時の栗山昌良演出について書いた時も同じことを申し上げましたが、「蝶々夫人」は、プッチーニが日本を想像して作曲した作品ですので、いろいろ無理なところがあります。その無理な部分を出来るだけ見せないようにするのが演出のやり方として適切なのではないか。その意味で、二期会の栗山昌良演出の舞台と同じように、粟國安彦演出、川口直次舞台美術の藤原の舞台も、とても素敵な舞台であると思います。

 ただ、登場人物がどこまで演出の意図を理解して演じ、歌っているのか、という点に関しては、若干疑問が残ります。今回の藤原の舞台、全体として素晴らしいとは思うのですが、今一つすっきりしないのは、細かなちぐはぐがいろいろあったためではないかという気がします。

 音楽的には、二期会の時の演奏よりも自由度が高い演奏だったように思います。そこが園田隆一郎の個性だと思いますが、末尾の伸ばすところが微妙に長い、といったところがあって、全体的にロマンティックな演奏になっていました。

 それ自身は勿論決して悪いことではないと思うのですが、歌い手たち同士の噛み合わせを一寸緩くしてしまったのではないかという気がします。全体的に微妙な粗っぽさを感じます。例えば、「ハミングコーラス」の始まりの部分、もう少し、ピアノでハミングが始まって欲しい。その方が美しくまとまると思うのですが。

 ピンカートン役の笛田博昭。登場した時はほれぼれするような美声。流石笛田、と喜んで聴いていたのですが、第一幕愛の二重唱で、高音が今一つ綺麗に伸びない感じです。冒頭ぐらいに高音が伸びてくれれば、愛の二重唱がもっと感動的にまとまったのではないかと思いました。第三幕も悪くはないのですが、私にとっては微妙な戸惑いを感じされる歌でした。何とも言えないもやもやが残りました。

 谷友博のシャープレスは良いと思います。シャープレスは「俺が、あんとき止めておいた方がいいと思うよ、と言ったじゃないか」と言うだけの小心者ですから、余り存在感が強すぎるのは良くない訳で、谷ぐらいの存在感が丁度良い感じがします。

 そのほか、松浦麗のスズキ、小宮一浩のゴロー、安藤玄人のボンゾ、江原実のヤマドリと皆さん頑張っていらしたと思います。舞台全体で見た時、この粟國演出は、日本的蝶々夫人の表現の追求、というのは勿論あるのでしょうけれども、悲劇の中の喜劇をより見せようとしたのではないか、という気もします。「蝶々夫人」という作品は、蝶々夫人、ピンカートン、シャープレス、スズキ、ケートの五役を除くと、後は合唱団も含めて喜劇的存在です。その部分をやや強調した演出で、その部分は面白いと思いました。

 本年前半は、日本の三大オペラ団体である、「新国立劇場」、「東京二期会」、「藤原歌劇団」でそれぞれ取り上げられ、全て拝見しましたが、三つ比較すると、トータルの魅力で二期会が一等賞、藤原が二等賞、新国が三等賞だと思います。

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鑑賞日:2014年7月19日
入場料:A席 2FL列40番 5000円

杉並区民オペラ第10回公演

主催:杉並区民オペラ、共催:杉並公会堂(京王設備サービス)

オペラ4幕、字幕付日本語訳詞上演
ヴェルディ「アイーダ」(Aida)
台本:アントニオ・ギスランツォーニ
訳詞:大久保眞

会場:杉並公会堂

スタッフ

指 揮 柴田 真郁   
管弦楽 厚木管弦楽団 
合 唱 杉並区民オペラ合唱団/明治大学混声合唱団「さわらびコール」 
合唱指導 大久保眞、佐藤宏充、須永尚子、東浩市 
児童合唱 杉並区立杉並第十小学校児童 
児童合唱指導    原田 涼香 
ダンス AMIフラメンコ舞踏団
演 出  :  ダリオ・ポニッスィ
衣 裳  :  下斗米 大輔
照 明  :  吉川 博
振 付  :  ダリオ・ポニッスィ
舞台監督  :  徳山 弘毅
総監督  :  大久保 眞

出 演

アイーダ   森田 雅美
アムネリス   杣友 恵子
ラダメス   青蛛@素晴
アモナズロ   大久保 眞
ランフィス   井上 白葉
エジプト国王   筒井 修平
使者   池田 徹
巫女の長    前坂 美希
ロダンサー    イリヤ・R・アンダーソン

感想

10周年を華やかに飾る-杉並区民オペラ第10回公演「アイーダ」を聴く。

 生のオペラを久しく聴いていないと、禁断症状が出るようで、オペラを聴きたいと思うようになります。ところがこの三連休、めぼしい上演がない。私自身もいろいろと多忙で、いつでもOKという訳にはいかず、手ごろなものはと言うと、杉並区民オペラぐらいしか見つかりませんでした。昨年、この団体の「椿姫」を見て、その完成度に失望いたしました。雨も降っているし、正直どうしようか迷いました。でもオペラを聴くの渇望の方が強かったようです。出かけました。

 で、聴いてよかったです。市民オペラの「アイーダ」ですから勿論限界はあるわけですが、聴き手を引き込む力をして昨年とは全然違いました。名演と申し上げてよい。10周年ということでしっかり準備してきたということはあるのでしょう。昨年の生煮えの「椿姫」と同じ団体が上演していることが信じられないほど素晴らしかったと思います。Braviです。

 その成功の理由は、大きく二つあると思います。

 一つは、昨年がこの団体の演奏に疑問を呈した三点が全て大きく改善されていたことです。

 その三点を簡単にまとめると、@日本語訳の台本の練り方が今一つ不十分で、曲の流れと日本語のアクセントが不自然になり、歌手の言葉がよく分からない。Aオーケストラの練習量が足らずミスが多すぎる。B合唱団が女声偏重で男声が少なく、合唱の水準も決して高くない、です。

 この三点は見事に改善されておりました。大久保眞の日本語訳は、歌に乗せた時に昨年の「椿姫」よりずっと分かりやすい日本語で、ストーリーを理解するうえでも有用だったと思いますし、重唱で色々な声が重なる部分は勿論聞き取れないわけですが、そこは字幕の的確な活用で上手に乗り切っていました。

 第二のオーケストラですが、昨年と同じ厚木交響楽団。これも、昨年と同じオケとは思えない好演。弦楽器の音が今一つ美しく響かないといった、基礎的力量の点では問題があるにせよ、練習も昨年と比較すればとしっかりやられている様子がうかがえました。更に、指揮者の柴田真郁がとても良い。指揮の様子がとてもはっきりしていて分かりやすいこと、またメリハリを付けさせる歯切れの良い演奏で、アマチュアオーケストラを上手に引っ張っておりました。結局アンサンブルが揃ってハーモニーが響くと、今度は会場が助けてくれます。杉並公会堂は響きの良いホールですが、昨年の厚木交響楽団は、ホールの響きの良さを使えていませんでした。今年は立派に使用していました。これでアイーダトランペットがもっと澄んでなってくれればもっと好印象になったのですが。

 第三の合唱ですが、明治大学さわらびコールが応援に入ったことが大きい。市民オペラの合唱に入る中高年と大学の公式合唱団のメンバーとではそもそもの力量が違います。さらに、「さわらび」は都内の大学の混声合唱団の中でもアクティブな活動をしている団体ですから、ハーモニーの揃い方も立派です。そんな訳で、合唱が昨年よりとても良い仕上がりになっていました。

 以上のベースがしっかりしたことが成功の土台となったと思います。

 その上で、二つ目の理由となる、ソリストが立派な歌を聴かせてくれました。特に青蜻f晴のラダメスと杣友恵子のアムネリスが素晴らしい。

 青蛯フ「清きアイーダ」聴きほれました。日本語で歌っているのに、こんなに素晴らしいなんて信じられないほどです。個性の強い歌で印象をアピールするというタイプではなく、歌のまろやかさと声の大きさとのメリハリでしっかり聴かせる。本当に立派。テノールが声を張り上げるとオペラの華やかさが違います。青蛯フラダメスは、どこで歌っても存在を厳として示し、プリモの味を見せていたと思います。Bravoです。

 杣友恵子のアムネリスは、見た目がアムネリスっぽいところが宜しいと思います。その上で歌も素敵でした。特に第4幕のラダメスを思って歌う歌の切々とした感情表現は本当に立派。アムネリスは「アイーダ」の中では敵役ですけど悪役ではない。愛する男が自分を振り向いてくれないので牢に閉じ込めてしまったが、助命したいという気持ちが歌に本当によく入っていて、外面は強いけど中の弱いというアムネリスの姿を上手に見せていました。Bravaです。

 私は、日本語訳によるオペラ上演は好きではないのですが、このアムネリスの心情表現を理解するために、大久保の日本語訳は大変役に立ち、今回は、日本語上演に助けられた部分も多かったことを申し上げます。

 その他良かったのは井上白葉のランフィス。無慈悲な神官をバスの冷たい声で歌うところが何といっても良かったです。

 外題役の森田雅美は、青蛛A杣友と比較すると存在感の薄いアイーダでした。歌が拙いということは全くありませんでしたが、声量にしても演技にしても青蛛A杣友の出していた凄味を感じることは出来ず、ごく普通のアイーダかな、という感じでした。

 ダリオ・ポニッスィの演出は、元々コンサートホールで幕もない杉並公会堂の舞台にいくつものスクリーンを吊り下げ、そこにCGの映像を投影して雰囲気を出すというもの。細かい人の動かし方などで面白いと思ったのは、第二幕の「凱旋の場」で帰って来た戦士たちが家族と抱き合って喜ぶところ。そういうことはよくあると思うけど、「アイーダ」の演出では初めて見たなと思いました。

 踊りの振りつけもポニッスィだそうですが、これもちょっと変わっていて、その踊りのテンポ感は私のアイーダのダンスに持っている感覚とは違っていて面白く見えました。

 以上、市民オペラ10周年を飾るにふさわしい名演奏でした。完成度が高く、チームワークも整った良い舞台だったと思います。

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鑑賞日:2014年7月27日
入場料:自由席5000円 

主催:南條年章オペラ研究室

ピアノ伴奏演奏会形式によるオペラ全曲シリーズ Vol.14
ベッリーニ全オペラ演奏シリーズ 第4回

オペラ2幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演、ピアノ伴奏演奏会形式、日本初演
ベッリーニ作曲「アデルソンとサルヴィーニ」Adelson e Salvini)
台本:アンドレア・レオーネ・トットラ

    会場:津田ホール

    スタッフ

    指 揮 佐藤 宏
    ピアノ 村上 尊志
    合 唱 南條年章オペラ研究室メンバー+賛助出演メンバー
    字幕作成 南條 年章

    出 演

    アデルソン :  坂本 伸司
    サルヴィーニ :  青蛛@明 
    ネリー :   山崎 浩美
    ファニー :   柴山 陽子
    リヴァース夫人 :   斎藤 佳奈子
    ポニファーチョ  :  小林 秀史
    ストゥリュレイ :   久保田 真澄
    ジョルジョ :   青鹿 博史

    感 想

    若気の至り?-ピアノ伴奏演奏会形式によるオペラ全曲シリーズVol.14 ベッリーニ全オペラ演奏シリーズ第4回「アデルソンとサルヴィーニ」を聴く

     南條年章オペラ研究室は、ピアノ伴奏演奏会形式で、ベッリーニの全オペラを上演しようとするプロジェクトが始まって早4年。ことしはベッリーニの処女作に当たる「アデルソンとサルヴィーニ」が取り上げられました。勿論日本初演奏です。私自身は、このベッリーニ全オペラ上演プロジェクトが始まるまで、そんな作品があることを知りませんでしたし、録音も聴いたことがありません。そんな訳で、とても興味を持って伺ったのですが、色々な意味で今一つだったと思います。

     まず、オペラ作品として、ベッリーニの後期の傑作群と比較すると、かなり弱いものであることは否定できません。後年のベッリーニの音楽の片鱗は窺えるものの、若書きのせいか、妙に才気走り過ぎて、結果として作品が破たんしている感じがします。1825年に初演されてから1992年に蘇演されるまで170年以上も演奏されなかったのは無理ないかな、と思う次第です。

     オペラは基本は、ソプラノのヒロインとテノールのヒーローと低音歌手の敵役ということになっている。勿論例外は腐るほどある筈ですが、基本はそうです。だから、アデルソンとサルヴァーニが親友同士で、アデルソンの婚約者であるネリーにサルヴァーニが横恋慕するという物語ならば、ネリーはサルヴァーニに惹かれ、恋人を奪われたアデルソンがサルヴィーニに復讐するという物語でなければいけないのです。しかし、「アデルソンとサルヴィーニ」では、サルヴァーニが横恋慕を押しても、ネリーはサルヴァーニを見向きもしないのですから、サルヴァーニは唯の道化に過ぎません。ベッリーニは、この道化役テノールを利用して、昔追放された領主アデルソンに復讐しようとするストゥリュレイが登場する。以上、構造はちょっと複雑です。

     要するにアデルソンは終始一貫して立派な領主です。勝手に領主の婚約者に恋を告白して隠れてしまう自意識過剰の画家サルヴィーニに対して、終始守り続け、最後には恋人まで紹介しようとする訳ですから。

     しかしながら、坂本伸司のアデルソン、全然立派な領主に見えないんです。声量があり、迫力もあるのですが、乱暴に聴こえてしまって好ましくありません。友人に思いっきりプレッシャーをかけてはカツアゲをさせようとする不良高校生みたいに聞こえてしまうのが正直なところ。あの声を上手くコントロールしてもっと丁寧に歌えば、領主の高潔な感じが出たのではないかという気がします。

     逆に悪役であるストゥリュレイは、久保田真澄の丁寧で張りのある歌唱のおかげか、あまり悪役的に聴こえてきませんでした。このアデルソンとストゥリュレイの役を反対にした方が、歌唱とキャラクターの関係がより自然になったのではないかという気がします。

     青蝟セのサルヴィーニも今一つ。高音がしっかり出ない、といった技術的な問題は勿論あったのですが、坂本アデルソンに常に押されている感じが強くて、親友同士というよりも、親分とパシリみたいな感じがどうしても浮かんでしまいます。

     女声ソリストの方は、男声ソリストで感じた違和感は感じなかったので、山崎浩美、柴山陽子、斎藤佳奈子が、それぞれの役柄の特徴をそれぞれ自らの声に適切に乗せていったということなのでしょう。

     小林秀史のボニファーチョは、しっかりした低音で存在感を示していましたが、バッソ・ブッフォ的な感じは余り出ていなかったように思います。

     結局のところ、声のバランスの調整が上手く行っていなかった、ということでしょうか。作品の中身が一寸特殊なので、歌い方をもっと摺り合わせて行けば、もっと分かりやすい演奏になっていたのではないか、という気がします。

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    鑑賞日:2014年8月2日
    入場料:8228円(食事付)

    主催:ミュージックレストラン アルテリーベTOKYO

    4Fiori
    〜真夏の花のから騒ぎ〜

    会場:ミュージック・レストラン アルテリーベTOKYO

    出演

    ソプラノ  :  佐藤 亜希子 
    ソプラノ  :  小林 厚子 
    メゾソプラノ  :  鳥木 弥生 
    ピアノ  :  藤原 藍子 

    プログラム

    作曲家 

    曲名 

    演奏者 

    第一部 
    プッチーニ   歌劇「つばめ」よりマグダのアリア「ドレッタの夢」   佐藤亜希子/小林厚子/鳥木弥生 
    ベッリーニ  歌劇「ノルマ」より、ノルマとアダルジーザの二重唱「御覧なさい、ノルマ!」  佐藤亜希子/鳥木弥生
    ポンキエッリ  歌劇「ラ・ジョコンダ」よりジョコンダとラウラの二重唱「船乗りの星よ〜呪いも一緒に授かるとよい」 小林厚子/鳥木弥生
    シューマン(リスト編曲)  献呈(ミルテの花 作品25-1)  藤原藍子(pf)
    プッチーニ  歌劇「ラ・ボエーム」よりムゼッタのワルツ「私が街を歩くと」 佐藤亜希子 
    レオンカヴァッロ  歌劇「ラ・ボエーム」よりミュゼットのアイオーゾとミミとの二重唱「別れる運命」  小林厚子/鳥木弥生
    食事   
    第二部   
    ビゼー  歌劇「カルメン」より、カルメンのハバネラ「恋は野の鳥」 鳥木弥生
    ドヴォルザーク 

    歌劇「ルサルカ」よりルサルカのアリア「月に寄せる歌」

    小林厚子
    ロウ  ミュージカル「マイ・フェア・レディ」よりイライザの歌う「踊り明かそう」  佐藤亜希子 
    オッフェンバック  喜歌劇「ラ・ペリコール」よりペリコールの酔っぱらいの歌「ああ、なんというお食事」 鳥木弥生 
    ガーシュウィン  歌劇「ポーギーとベス」よりクララのアリア「サマータイム」  佐藤亜希子
    クルティス  勿忘草 小林厚子
    デーレ  白井鐵造作詞「すみれの花咲く頃」 鳥木弥生
    オッフェンバック  歌劇「ホフマン物語」より「ホフマンの舟歌」 佐藤亜希子/小林厚子/鳥木弥生 
    アンコール   
    ヴェルディ  歌劇「椿姫」よりアルフレードとヴィオレッタの唱「乾杯の歌」 佐藤亜希子/小林厚子/鳥木弥生
    カプア オー・ソレ・ミオ  佐藤亜希子/小林厚子/鳥木弥生 

    感想 肉食系女子-アルテリーベ東京「4Fiori 真夏の花のから騒ぎ」を聴く

     新橋のミュージックレストラン「アルテリーベTOKYO」では、毎週土曜日、藤原歌劇団の中堅の歌手を集めて食事付のコンサートをやっています。2か月ほど前には、宮本彩音のコンサートに出かけたわけですが、今回は佐藤亜希子、小林厚子、鳥木弥生にピアニストが藤原藍子をいうメンバー、四人の大輪の花によるコンサートに行ってきました。

     佐藤、小林、鳥木と言えば皆長身の女声歌手。藤原歌劇団のロッキー山脈とか、平均身長2メートルとか冗談も出ていましたが、確かに彼女たちは舞台映えがする。それはオペラ歌手にとって大きな武器だと思います。また彼女たちの演奏については、それぞれ印象深いものがあって、佐藤亜希子であったら、ドニゼッティ「ルクレッツィア・ボルジア」における名唱、小林厚子であれば、一昨年のオペラ彩公演の「マリア・ストゥアルダ」におけるエリザベッタや昨年のマクベス夫人の歌唱などが大きく印象に残っています。鳥木弥生に関しては、オペラでは脇役でしか聴いたことが無くその意味ではあまり印象の強い方ではないのですが、ガラコンサートにおけるアムネリスやエボリ、またはケルビーノの歌唱で印象に残っています。

     三人とも軽い声というよりは強い声に特徴があり、そこに魅力があるわけですが、今回の食事付コンサートについても、彼女たちの力強さをまじまじと味わうことになりました。

     女性の二重唱と言えば例えば、「フィガロの結婚」におけるスザンナと伯爵夫人の手紙の二重唱のような軽やかなものがまず思い出すのですが、彼女たちの選ぶ曲はそんなそよ風のような曲は出てきません。女同士の火花が散り、周囲が延焼するような選曲。正に肉食系女子の魅力が満載です。

     「ドレッタの夢」を三人で分かち歌いし、華やかに登場したところまでは普通だったのですが、しょっぱなからノルマとアダルジーザの二重唱で度肝を抜きました。佐藤亜希子のノルマは力強いし、鳥木弥生のアダルジーザも低音の不気味な感じが魅力的です。二人合わさると、ボルテージがガンガン上がり、しょっぱなから興奮させられました。続くジョコンダの二重唱も凄いです。イタリアオペラを代表するドラマティコ役であるジョコンダとジョコンダと同様のドラマティックな表現力が要求されるラウラとの二重唱。鳥木弥生はこの難曲を続けて歌うのだから大変だろうな、と思います。

     狭い会場を吹き飛ばす勢いでの二重唱が終わると今度は、喉を休める時間を利用したピアノ独奏。この曲は、最後を如何に華やかに占めるのかがポイントの曲だと思うのですが、そこの膨らみが今一つだった感じです。会場の響きが抜けにくい特徴が災いしたのかもしれません。

     ムゼッタのワルツは、佐藤亜希子ならこれ位は当然歌うだろうという歌唱で良好。そのあとのレオンカヴァッロ作曲ボエームの二重唱が見事。二重唱とは言うものの、前半のミュゼット(鳥木さんは普通にムゼッタと言っておりました)がポイントでしょう。ここの迫力が見事。低い音がすっきり広がるところが素敵です。ここにミミの声が重なると二人の思惑が違うのでしょうね。ハーモニーがまとまらないところに二人の気持ちの違いを感じました。

     後半は前半の熱い肉食系二重唱とは打って変わって、ぐっと砕けた感触。冒頭は鳥木カルメンによる、会場中の男を誘惑しようとする絶品のハバネラ。会場の男声観客は、「Carmen, dis-nous quel jour tu nous aimeras! 」と言いたかったに違いありません。小林厚子のしっとりした「月に寄せる歌」の次は、ミュージカルナンバーで「踊り明かそう」。佐藤が後半歌った「踊り明かそう」と「サマータイム」は、前回この場所で宮本彩音も歌っており、期せずして聴き比べをすることになりました。宮本の軽やかな感じと佐藤のしっかりした感じの違いがよく分かりました。

     鳥木弥生の歌った「酔っぱらいの歌」は、彼女のエンターティナー性を良く表すもの。地声で歌う酔っぱらいの「ひくっ」というところの感じが良い。鳥木のエンターティナー性は宝塚の男役で頂点に達します。歌として「スミレの花咲く頃」は特段難曲であるとは思いませんが、宝塚風コスプレで恰好を付けようとすれば大変なことです。しっかり観客の目を集めました。

     最後はホフマンの歌で締め、他かと思えばこの手のガラコンサート定番の「乾杯の歌」がアンコール。鳥木がアルフレードを歌えば、佐藤ヴィオレッタと小林ヴィオレッタとが美しく対抗し、最後は「オ・ソレ・ミオ」で件の如く、伸ばして見せるパフォーマンスで最後を締めました。タイトルの言う「から騒ぎ」ではなかったと思いますが、四人の冒頭の宣言通り、暑い夏の夜を、更に暑くするコンサートでした。

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    鑑賞日:2014810
    入場料:
    自由席 2500円 

    主催:エルデ・オペラ管弦楽団

    ERDE OPERA 管弦楽団第8回演奏会

    オペラ4幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演・演奏会形式
    プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」La Boheme)
    台本:ジュゼッペ・ジャコーザ/ルイージ・イリッカ
    原作:アンリ・ミュルジュ

    会場 たましんRISURUホール(立川市民会館)

    スタッフ

    指 揮 大浦 智弘
    管弦楽 ERDE OPERA管弦楽団
    合 唱 ERDE OPERA合唱団
    合唱指揮 吉田 拓人
    児童合唱 多摩ファミリーシンガーズ
    児童合唱指導    高山 佳子/田中 美佳 
    舞台監督 首藤 史織/松田 房之

    出 演

    ミミ 浦田 典子
    ロドルフォ 寺田 宗永
    マルチェッロ 渡辺 弘樹
    ムゼッタ 高橋 薫子
    ショナール 野村 光洋
    コッリーネ ウラジーミル・ストヤノヴィッチ
    ベノア 大澤 恒夫
    アルチンドロ 大澤 恒夫
    パルピニョール 吉田 寛泰

    感想

    アマチュアの心意気-ERDE OPERA管弦楽団第8回演奏会「ラ・ボエーム」を聴く。

     市民オペラを良く拝見しますが、この手のオペラはオーケストラと合唱をアマチュアでやって、ソリストはプロという例が多いです。こういうオペラ上演は、オーケストラの実力が今一つだったり、合唱の人数や練習が足りなかったりすると、それなりのまとまりで終わってしまうことが多いです。逆にそこがしっかりしていると、ソリストで呼ばれたプロ歌手の方も本気になり、全部をプロでまとめた新国立劇場、二期会本公演、藤原歌劇団本公演が裸足で逃げ出すような公演も可能になります。

     今回のエルデ・オペラ管弦楽団の演奏会形式「ラ・ボエーム」は、そこまでの名演と申し上げることは出来ませんが、全体としての水準が高く、良くまとまった演奏であった、と申し上げることは出来ると思います。

     まずオーケストラがいい。私が今年聴いたアマチュアオーケストラの中では一番上手(=演奏技術に優れている)な演奏をしていました。何といってもオーケストラは音楽の土台になりますから、ここが良いかそうではないかで全体のまとまりが変わってきます。そこがしっかりしていたのが本当に良かったと思います。勿論細かいことを申し上げれば、あそこの部分はもっと美しく響いて欲しい、とか、管がよろけたのが残念というところがなかったとは申し上げませんが、それでも、全体としての出来栄えは立派でした。きっちり練習してきたということなのでしょうね。特にコンサート・ミストレスが良い。基本的に線の細い音楽を作る方でダイナミックな表現力がある、という感じはしませんでしたが、繊細な音の出し方をされますし、統率力もあって、オーケストラを纏めてといく感じが良かったです。

     合唱も良かった。この手の市民オペラの合唱団にありがちな女声偏重ではなく、男声が多かったのも良かったと思います。エキストラも多かったのでしょうが、男女バランスが取れていることは、オペラを上演するうえでは大切なことです。更に児童合唱は、オペラの舞台の経験の多い多摩ファミリーシンガーズですから、舞台のポイントがはっきり分かっておりました。以上、音楽の土台がしっかりしたアマチュアの演奏家たちの心意気を示した音楽作りになっていました。

     そこでソリストが良ければ申し分ないわけですが、そうはいかないのがオペラの常。一番大きかったのはロドルフォの不調です。

     寺田宗永のロドルフォ、相当よれよれでした。一番の聴かせどころである「冷たい手」がまず宜しくない。ハイCが出ないのは仕方がないとしても、音が下がったうえに更によろけるのは如何なものか。このテノールの技量を示すところだけではなく、あちらこちらで色々と気になるところがあり、演奏全体の足を引っ張ったとまでは申し上げないとしても、ロドルフォの魅力が表現できていないことは間違いないところでした。

     渡辺弘樹のマルチェルロの表現もあまり納得いきません。怒っている時の表現・表情はすごく良い。二幕でのムゼッタに対して怒りを覚えながらイライラしている所の表現や、第三幕でのムゼッタとの喧嘩の場面の表現はとても素晴らしいと思うのですが、そうでない部分、例えばオペラ冒頭のロドルフォとのやり取りや、ボヘミアンたちでふざける部分の表現が結構重い感じで、馬鹿騒ぎとしては今一つの感じになっていて、私としては良いとは思えませんでした。あの声の質だとマルチェルロよりもコッリーネの方が似合っているのかもしれません。

     ストヤノヴィッチのコッリーネ。この方も今一つの感じ。アンサンブルで参加している分には特に気にならなかったのですが、第4幕のアリアが軽すぎます。このアリアは、もっとどっしりとしんみり歌ってこそ味が出るのであって、私は納得できませんでした。マルチェルロとコッリーネは歌手を取り換えた方が良い結果になったのではないかという気がしました。

     野村光洋のショナールは良かったです。出のタイミングがとても良くて、彼がアンサンブルに入ると、全体が締まってアンサンブルが生き生きしてきます。立派なお仕事をされたと思います。

     笑われ役のベノア/アルチンドロを歌われた大澤恒夫はとてもいい。小狡そうなベノア、お人よしのアルチンドロ、どちらもそれぞれの特徴が良く出ていたように思います。

     浦田典子のミミは良かったと思います。特に中音から低音にかけての密度とタイミングの取り方が、ミミらしいミミと申し上げればよいでしょうか。みっちり詰まっていて艶やかな感じが良かったと思います。は一方高音はあまり得意ではないようで、金切り声になってしまったのが一寸残念です。「私の名はミミ」は高音部の処理を別にすれば雰囲気が良く出ていたと思いますし、第三幕の切々とした感情表現も見事でした。

     ムゼッタ役の高橋薫子。ベテランの貫録を見せたというところでしょう。彼女の最高のムゼッタではなかったわけですが、要所を締めてバランスよく嵌っていたと思います。

     演奏会形式のオペラ、すなわちオーケストラが舞台に上がるとどうしてもオーケストラが強くなりがちですが、指揮者のバランス感覚なのでしょう、段々良くなってきました。一幕冒頭はオーケストラが響いているのに、歌手の声が響かず拙いなと思ったのですが、段々調整されていきました。指揮者の大浦智弘の力量でしょう。以上、テノールの不調はあったものの、それ以外の大きなトラブルはなく、レベルの揃った聴き応えのある演奏に仕上がっていました。アマチュア演奏家たちの心意気を感じることが出来て良かったです。

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