オペラに行って参りました-2010年(その5)

目次

お勉強 2010年12月05日  東京室内歌劇場「ラ・カリスト」を聴く 
原作が有名作品であるということ 2010年12月12日  東京オペラプロデュース「シラノ・ド・ベルジュラック」を聴く
若手のためのおまけ 2010年12月18日  D.O.C.G.&アカデミア「劇中音楽会&奥様女中」を聴く 
背中のむず痒さが、ちと足りない  2010年12月25日  新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」を聴く


オペラへ行ってまいりました 過去の記録へのリンク

2010年      その1    その2    その3    その4     
2009年    その1    その2    その3    その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年    その1    その2    その3    その4    どくたーTのオペラベスト3 2008 
2007年    その1    その2    その3        どくたーTのオペラベスト3 2007 
2006年    その1    その2    その3        どくたーTのオペラベスト3 2006 
2005年    その1    その2    その3        どくたーTのオペラベスト3 2005 
2004年    その1    その2    その3        どくたーTのオペラベスト3 2004 
2003年    その1    その2    その3        どくたーTのオペラベスト3 2003 
2002年    その    その2    その3        どくたーTのオペラベスト3 2002 
2001年    前半    後半            どくたーTのオペラベスト3 2001 
2000年                    どくたーTのオペラベスト3 2000 


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鑑賞日:2010年12月5日
入場料:B席 5000円 2F 724

主催:東京室内歌劇場

東京室内歌劇場42期第128回定期公演

オペラ3幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
カヴァッリ作曲「ラ・カリスト」La Calisto)
台本:ジョヴァンニ・ファウスティーニ

日本初演

会場:渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール

スタッフ

指 揮 濱田 芳通
管弦楽 アントネッロ
演出・字幕 伊藤 隆浩
美 術  古口 幹夫 
照 明    喜多村 貴 
衣 裳 藤井 百合子
音 響 関口 嘉顕
映 像 幕内 覚
舞台監督 堀井 基宏
監 修    長木 誠司 

出 演

自然/パーネ :  櫻田 亮
永遠/ディアーナ :  松井 亜希
運命/ジュノーネ :  田辺 いづみ
カリスト :  澤村 翔子
ジョーヴェ :  春日 保人
メルクーリオ :  根岸 一郎
エンディミオーネ :  上杉 清仁
リンフェーア :  黒田 大介
サティリーノ :  藤沢 エリカ
シルヴァーノ :  太田 直樹
怒り  :  岡庭 矢宵 
怒り    前川 朋子 
熊 

: 

宮澤 光太朗 

アントネッロ

ヴァイオリンT :  パウル・エレラ
ヴァイオリンU :  戸田 薫
ヴァイオリンV :  小野 萬里
ヴィオラ・ダ・ガンバ :  なかやま はるみ
ヴィオローネ :  西沢 央子
ヴァージナル/オルガン :  矢野 薫
チェンバロT/バロックハープ :  西山 まりえ
チェンバロU/レガール :  呉 周喜
バロックギター/キタローネ :  高本 一郎
パーカッション :  わだ みつひろ
リコーダーT/ドルツィアン  :  古橋 潤一 
リゴーダーU    細岡 ゆき 
コルネット   細川 大介 
サクバットT   宮下 宣子 
サクバットU/セルパン    橋本 晋哉 

感 想

お勉強-東京室内歌劇場「ラ・カリスト」を聴く。

 東京室内歌劇場は、「古典と現代の対比」が、創立以来のテーマで、様々な作品を取り上げて来ました。バロックオペラの上演も積極的で、モンテヴェルディの諸作品や、カヴァリエーリやペーリの作品の上演もおこなってきました。以上の三人の作曲家は、オペラ創始期の作曲家として、音楽史上、その名をとどめる方々ですが、モンテヴェルディの後を継ぐ作曲家が、カヴァッリということになります。イタリアオペラ史の書物によれば、レシタティーヴォ、アリオーゾ、アリアの分化は、カヴァッリをもってその創始とするそうです。カヴァッリは、17世紀中盤のイタリア・バロックオペラの中心的人物と申し上げてよいのでしょう。

 しかし、この音楽史的な位置づけはともかく、実際の上演は日本では全くなかったわけで、私は録音を含めて、完全に初めての聴取。それなりの面白さは感じましたが、耳慣れた18世紀、19世紀のオペラと比較すると、素直に楽しめる、と言う訳には行かないようです。17世紀のオペラとはこのように演奏するのだ、という提案が、濱田芳通からあり、その提案を、聴かせて頂いた、と言うのが正直なところです。

 しかし、濱田の提示は、相当意欲的であったことは疑いありません。現代楽器に耳が慣れている聴き手にとって、古楽器だけで響かせる音は、随分変わった印象があります。

 バロック後期から古典派にかけての古楽器については、ある程度の知識がありましたが、それ以前に使われていた楽器になると、自分の知識は全くいい加減だな、というように思いました。ヴィオラ・ダ・ガンバや、ヴィオローネについては、これまでも眼にしたことがありましたが、ヴァージナル(小型のチェンバロ)、レガール(ジャバラのふいごで空気を送り込んでリードを振るわせてならせる小型オルガン)、キタローネ(リュート族の撥弦楽器の一種)、ドルツィアン(ファゴットの前身)、コルネット(角笛系の金管楽器)、サクバット(トロンボーンの前身)、セルパン(蛇のような金管楽器で、チューバの前身)については、初めて眼にするものでした。そこから出てくる音は、ある意味トルコ的とでも申しましょうか、素朴ながらも一種独特の響きがあります。パーカッションは、太鼓のような張っている皮を叩いているのではなく、板をそのまま叩いているような、短い音が響きでした。

 そういうところも含めて、全体的に、私の感じる西洋と言うよりは、エキゾチックな民族音楽的な響きが聴こえました。このような響きの中で、初期のヴェネツィアン・オペラが受容されていったのか、と思うと、楽しく感じました。

 ちなみに、「カリスト」のお話は、ギリシャ神話の「大熊座、小熊座」の誕生のお話に基づくもの。伊藤隆浩の演出は、それをどこまで意識しているのか、という点でよく分かりませんでした。登場するのが、基本的に神々ですから、舞台装置が抽象的であるのはいいのですが、舞台を見ていても、登場人物の関係がなかなか頭に入ってこないのが難点です。白い舞台と、大きな白い幕と、多様な照明で、幻想的な雰囲気を出していましたが、「カリスト」のようななじみのない作品では、もう少し、具体的な分かりやすさを追求しても良いのではないかという気がしました。

 歌手陣は、古楽系でよく見かける歌手たちと、東京室内歌劇場によく出演する方々の混成チームです。古楽系の松井亜希、上杉清仁、櫻田亮が魅力的で、やはり古楽に造詣の深い春日保人、根岸一郎も良い味を出していました。東京室内歌劇場系の歌手としては、田辺いずみが、感情をあらわにした激しい歌唱。主役のカリストを歌った澤村翔子は、これまで、オペレッタの舞台で演奏を聞いたことのある方ですが、今回の表現・歌唱は、オペレッタの表現とは全く違っていて、この方に、こんな歌い方が出来るとは、という点で、驚きでした。

 以上、演奏の良しあしはよくわからないのですが、「17世紀半ばのオペラはこんな感じだったんだ」という雰囲気は味あわせていただきました。今回の演奏は、今日のバロック音楽演奏研究の最新の成果を取り入れているものだそうですが、しっかりとお勉強させていただいた気分です。

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鑑賞日:20101212 
入場料:B席 6000円 2F235番 

主催:東京オペラ・プロデュース

東京オペラ・プロデュース第86回定期公演

オペラ4幕 字幕付き原語(フランス語)上演 日本初演
アルファーノ作曲「シラノ・ド・ベルジュラック」(Cyrano de Bergerac)
原作:エドモン・ロスタン、台本:アンリ・カーン


会場: 新国立劇場中劇場

スタッフ
指 揮  :  時任 康文   
オーケストラ  :  東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団 
合 唱  :  東京オペラ・プロデュース合唱団 
合唱指揮  :  伊佐治 邦治/中橋 健太郎左衛門 
演 出  :  馬場 紀雄 
美 術  :  土屋 茂昭 
衣 裳  :  清水 崇子 
照 明  :  稲垣 良治 
ヘアメイク  :  星野 安子 
舞台監督  :  酒井 健 
スーパーバイザー  :  八木 清市 

出演

シラノ・ド・ベルジュラック 内山 信吾
ロクサーヌ 大隅 智佳子
クリスティアン 三村 卓也
ギーシュ伯爵 秋山 隆典
カルボン 村田 孝高
ル・ブレ 峰  茂樹
ラグノー 和田 ひでき
家政婦/修道女マルト 和田 綾子
リーズ/修道女 小西 美
ヴァルヴェール/料理人 岡戸 淳
リニエール/騎士 白井 和之
モンフルリー 八木 清市


感 想 原作が有名作品であるということ−東京オペラ・プロデュース「シラノ・ド・ベルジュラック」を聴く

  フランコ・アルファーノという作曲家は、プッチーニの「トゥーランドット」の補作完成者として、音楽史上名を残した作曲家ですが、「トゥーランドット」の補作の評価があまり高くないこともあって、これまで、その他の作品については、私は全く知りませんでした。ちなみに、私の手元にある名曲事典には、アルファーノの作品は一つも載っていません。唯、彼のことをいろいろ調べてみると、位置づけとしては、プッチーニと世代的にはかなり重なっていて、チレアとほぼ同時期の人。音楽史的には、プッチーニとヴォルフ=フェラーリをつなぐ感じの方のようです。オペラの作曲数は、それほど多いわけではなく、今回上演された「シラノ・ド・ベルジュラック」は、彼のオペラ作品としては、ほぼ最後に当たる作品のようです。

 オペラ作品としての「シラノ・ド・ベルジュラック」は、全く初めて聴く作品ですが、「シラノ・ド・ベルジュラック」というキャラクターは、あまりにも有名です。騎士魂を持った男と言う観点でみれば、ドン・キホーテと双璧かもしれません。私は、「シラノ・ド・ベルジュラック」に関しては、舞台を見たこともないし、映画を見たこともないのですが、鼻が異常に大きくて、従妹に秘めたる愛を持ち続けた男のお話は、何となく知っていましたから、それだけ有名なのでしょう。そういう有名なお話のオペラ、と言うのは、とっつきやすい、という点で有利です。オペラ作品自体の音楽がとりわけ魅力的だとは、必ずしも思わなかったのですが、ストーリーが良いので、楽しんで見ることが出来ました。

 有名物語を分かりやすく演出するという観点で、馬場紀雄の演出を高く評価したいと思います。日本初演作品のような、なかなか馴染みがなく、それでいてお話が有名な作品は、視覚的に分かりやすいのが一番です。馬場の演出は、歌手たちを過剰に動かすことをせずに、オーソドックスで丁寧に描こうとしたもので、その点、非常に好感が持てました。

 時任康文の指揮は、「シラノ・ド・ベルジュラック」という劇的な生涯を送る主人公にふさわしい、劇的な表現だと思います。音楽の持って生き方が、舞台の様子とわりとよくマッチしていて、よかったと思います。ただ、東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏は、前回の「マダム サン・ジェーヌ」の時も思ったのですが、決して技術的にレベルが高いとはいえないようです。勿論、「シラノ・ド・ベルジュラック」という作品を初めて聴き、また、アルフィーノ自身、ドビュッシーやリヒャルト・シュトラウスの影響も受けているということを踏まえると、正しい音程で演奏しているのかもしれませんが、なんか、変な音がそれなりにあったような気がしました。

 さて、歌手陣ですが、内山信吾の外題役が熱演でした。本来、シラノは、テノーレ・ロブストの役柄で、テノーレ・リリコの内山の声にふさわしい役柄ではないと思います。声を張り上げて、無理をしているところも随分見受けられましたし、息が足りない、と思うところもありました。音楽的なことだけを申し上げれば、ミス・キャストと申し上げても良いぐらいかもしれません。しかし、役に憑依していくと言うのか、どんどん役に似合ってくるのですね。演技の切なさが惹かれます。第二幕のバルコニー・シーンの表現が実に適切で、第4幕の表現は、地声に近い声を使いながら、ロクサーヌへの変わらぬ愛を読み上げるところなど、感動的でした。オペラ歌手は声で聴かせるものだと思っていましたが、演技で見せてもいいんだな、と思いました。考えてみれば当然のことですが、私の蒙を開いてくれた、内山に感謝したいと思います。

 大隅智佳子のロクサーヌも結構。大隅の実力からすれば、最上の歌唱ではなかったと思います。高音が細くなったところもありました。しかしながら、基本的なポテンシャルが高い方ですので、艶やかな声の伸びは流石ですし、上記の第二幕のバルコニーシーンの存在感などは、大変素敵なものだったと思います。大隅を若手ナンバーワン・リリコ・スピントと評して数年経つのですが、その感覚は変わりません。Bravaです。

 クリスティアンの三村卓也は久し振りで聴きましたが、若々しいリリック・テノールの声を上手く使っていました。以前聴いた時よりは、生硬さが無くなっているように思いました。秋山隆典のギーシュは、あまり目立たない表現。一方、ガルボン・村田孝高は、出演時間は短いながら、張りのある歌唱で、存在感を主張していたと思います。それ以外の脇役陣では、峰茂樹、和田ひできが、要所を締めて好演だったと思います。

 大した作品ではないな、と思いながら聴き始めたのですが、終わってみれば、とっても感心し、この演奏を聴けて良かったなと思いました。これは、時任・馬場のコンビの計算と、内山・大隅の実力でしょう。楽しみました。
 
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鑑賞日:20101218 
入場料:当日券 6000円 Q7番 

主催:Earnest II E#ntertainment

D.O.C.G. & Academia Presents
ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ 生誕300年記念公演

劇中音楽会(第一部)

オペラ2幕 字幕付き原語(イタリア語)上演 
ペルゴレージ作曲「奥様女中」(La Serva Padrona)(第二部)
台本:ジェンナーロ・アントニオ・フェデーリコ

会場: イタリア文化会館 アニエッリホール

スタッフ
指 揮  :  大浦 智弘(第二部のみ)   
ピアノ  :  若杉 千晶 
   
演 出  :  ダリオ・ポニッスィ 
美 術  :  ダリオ・ポニッスィ 
衣 裳  :  Hiroco Ponissi 
照 明  :  天野 もも 
ヘアメイク  :  長谷川 真也
舞台監督  :  岸本 伸子 


出演

第一部  
マリア「カルデラ」 相羽 紗希  
マリア「アリステア」 川原 慶子  
マリア「アルマ」 小田切 一恵  
マリア「エミレナ」 薮田 瑞穂  
ペルゴレージ ダリオ・ポニッスィ  
第一部で歌われた曲  
 歌劇「誇り高き囚人」より    序曲  ピアノのみ 
 歌劇「誇り高き囚人」より     「三日にわたり、ニーナは」  相羽、小田切、薮田 
 オラトリオ「アキテーヌ公聖グリエルモの死と回心」より    「もし貴方が私の心の奥を見ることが出来るのならば」  ポニッスィ 
 歌劇「誇り高き囚人」より      「愛しい方よ、貴方のいないところでは」  相羽 
 歌劇「オリンピアーデ」より    貴方は私から私を引き裂く  川原 
 オラトリオ「アキテーヌ公聖グリエルモの死と回心」より    「我が行く手に導きはない」  小田切 
 サルヴェ・レジーナ より    「讃えよ、女王を」  小田切 
 サルヴェ・レジーナ より     「私たちは貴方に叫ぶ」  川原 
 サルヴェ・レジーナ より     「ああ、それゆえに」  薮田
 サルヴェ・レジーナ より     「そしてイエスは」  薮田 
 サルヴェ・レジーナ より     「ああ、慈悲深い、信心深い方」  川原、小田切、薮田 
 歌劇「誇り高き囚人」より    「私たちのお気に入りの岸が陽気なこだまで答える」  相羽、小田切、薮田、川原 
       
第二部 奥様女中  
セルビーナ 高橋 薫子  
ウベルト 立花 敏弘  
ヴェスポーネ(黙役) ダリオ・ポニッスィ  



感 想 若手のためのおまけ−ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージ 生誕300年記念公演「劇中音楽会&奥様女中」を聴く

  ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルコレージは、1710年生まれですから、今年300年のメモリアル・イヤーで、イタリアでは、かなり盛大に祝われているようです。しかし、日本では、ショパンやシューマンの生誕200年や、マーラーの生誕150年と比較すると、ほとんど注目されていない、と言うのが本当のところでしょう。考えてみれば当然かもしれません。普通のクラシック音楽愛好家にとって、ペルゴレージと言えば、「スターバト・マーテル」と「奥様女中」の作曲家であって、それ以上ではありません。オペラ作曲家としても、生涯100作品以上発表する作曲家が当たり前にいたナポリ派オペラの時代に、生涯インテルメゾを含めても10作品のオペラしか発表していない寡作の作曲家で、早世をした方であることを踏まえると、日本の評価が地味なのは仕方がないのかもしれません。

 ペルコレージは、それでも、イタリア人にとっては特別な作曲家のようで、ダリオ・ポニッスィが、生誕300年を祝う気になったのは、故なきことではないようです。

 その主役が「奥様女中」になるのは、当然なのでしょう。何を言っても、日本でペルゴレージと言えば、まずは「奥様女中」であり、「スターバト・マーテル」なのですから。しかし、ポニッスィが本当にやりたかったのは、第一部ではなかったのか、という気がします。日本では、あまり知られていないペルコレージの作品を紹介したいという、イタリア人としての気持が先にある。そんな気がしました。

 第一部で紹介されたのは、インテルメッゾの「奥様女中」という作品を生み出す元になったオペラ・セリアの「誇り高き囚人」から数曲と、「奥様女中」、「スターバト・マーテル」に次いで有名な「サルヴェ・レジーナ」、そして、オラトリオの「アキテーヌ公聖グリエルモの死と改心」から二曲です。こういう作品を紹介し、ペルゴレージの豊かな音楽性を示したいという気持がポニッスィにあったのでしょう。しかし、第一部は、これらの音楽を妙な演出に絡ませることで、却って目的を不明確にしたように思いました。

 音楽だけを素直に聴かせた方が、絶対良かったです。小賢しい演出と、学芸会並みの演技、ポニッスィの思い入れだけで空回りするだけの台詞と、音楽を除けば、お金を貰っても見たくないというレベルのものでした。音楽についても、結構厳しいレベルでした。正直に申し上げれば、お金を払ってもいいよ、というレベルに達していたのは、小田切一恵だけ。他の三人は、相当低額の支出か、無料なら聴いてもいいかなという水準でした。

 第一部は、若手歌手たちの本番経験を積ませるためのおまけ、だったのでしょうね。流石に第二部は、レベルが違いました。こちらは十分お金を払う価値のあるもの。

 日本一のスーブレット・高橋薫子のセルビーナが素晴らしいだろうことは、聴く前から予想が付いていました(予想通りよかったです)が、予想以上に良い出来だったのが、立花敏弘のウベルト。正直感心いたしました。細かい口調も良く回っていましたし、全体に緊張感がありながらも、無理がないスムーズな歌唱が良かったと思います。またこのオペラは、ウベルトとセルピーナをどのようなバランスで歌うのか、ということで印象が結構変わるのですが、今回の立花・高橋コンビは、私がこれまで聴いた「奥様女中」の中では、、もっとも私にとって快適なバランスでした。

 この作品は、ソプラノが強すぎても、バスが荒っぽくなっても、仕上がりの後味が今一つになるのですが、今回は、高橋が適度にキュートで、立花も無闇な主張がなく、本当に丁度いい塩梅に纏まっておりました。Braviです。流石にご夫婦によるコンビは息が合っているなあ、と思いました。ポニッスィのヴェスポーネも、訳のわからないペルゴレージ役よりは、ずっとポイントの明確な演技で良かったと思いました。
 
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鑑賞日:20101225 
入場料:B席 13965円 2F51番 

主催:新国立劇場
協力:日本ワーグナー協会


オペラ3幕 字幕付き原語(ドイツ語)上演
ワーグナー作曲「トリスタンとイゾルデ」(Tristan und Isolde)
台本:リヒャルト・ワーグナー


会場: 新国立劇場オペラ劇場

スタッフ
指 揮  :  大野 和士    
オーケストラ  :  東京フィルハーモニー交響楽団 
合 唱  :  新国立劇場合唱団 
合唱指揮  :  三澤 洋史 
演 出  :  デイヴィッド・マクヴィカー 
美術・衣裳  :  ロバート・ジョーンズ 
照 明  :  ポール・コンサタンブル 
振 付  :  アンドリュー・ジョージ 
指揮補  :  ペーター・トメック
音楽ヘッドコーチ  :  石坂 宏 
舞台監督  :  大澤 裕 

出演

トリスタン ステファン・グールド
マルケ王 ギド・イェンティンス
イゾルデ イレーネ・テオリン
クルヴェナール ユッカ・ラジライネン
メロート 星野 淳
ブランゲーネ エレナ・ツィトコーワ
牧童 望月 哲也
舵取り 成田 博之
若い船乗りの声 吉田 浩之


感 想 背中のむず痒さが、ちと足りない−新国立劇場「トリスタンとイゾルデ」を聴く

  「トリスタンとイゾルデ」がドイツロマン派音楽の頂点にあり、ワーグナーの最高傑作であるという評価をする方は多いようで、日本でも、ドイツ系オペラ劇場の引っ越し公演では、定番と申し上げても良いぐらい、しばしば上演されます。しかし、日本の団体でこの作品にきっちり対応しようとするところは少なく、飯守泰次郎の東京シティ・フィルによる演奏会形式公演、と「国立オペラ・カンパニー青いさかな団」による、一部縮小公演、1990年の日生オペラと三回を数えるだけで、新国立劇場でいつ取り上げられるのか、期待が高まっておりました。

 かくいう私、どくたーTも、CDや映像でこの長大なオペラをこれまで随分楽しんでおりましたが、引っ越し公演にはなかなか行けず、国内の過去三回のプロダクションも、それぞれ聴きに行く事情が許さず、今回の新国立劇場公演が、最初の実演経験になります。

 と言う風に、申し上げると、いかにももの凄く期待して伺ったみたいですが、実は、私はこの作品が傑作であることを否定するものではないのですが、はっきり申し上げれば好きではない。と申し上げるのは、「トリスタンとイゾルデ」の無限旋律を本当に良いオーケストラで聴くと、背中がむず痒くなって、イライラしてくるからなのですね。ワグネリアンの方々はあの無限旋律がたまらないようですが、アンチ・ワグネリアンの私は、あの半音階的変化の無限旋律のねちっこさは、どうも性に合わない。「だったら、行かなければいいじゃない」という陰からの声が聴こえそうですが、新国のプロダクションはやはり見ておきたい。大野和士の音楽づくりも期待が出来そうですし。結局プレミエ・初日に行ってきました。

 全体の印象としては、新国立劇場の新演出・初日としてはそれなりに良い水準。まだ練り方は不十分でしたが、だんだん良くなっていくのでしょう。

 特に歌手陣は上々です。グールドのトリスタン、テオリンのイゾルデ、ブランゲーネのツィトコーワ、クルヴェナールのラジライネンが良く、マルケ王のイェンティンスも良かったです。

 グールドは、高音を強く伸ばした時、もっと輝かしく響いてほしいとは思いましたが、全体に滑らかなフレージングでしたし、強い声を出さない部分での響きは美しく、トリスタンの持つロマンチックな美を十全に表現できていたのではないかと思います。声が、若く肌理細やかなところもいいです。第三幕のメランコリックな表情の出し方は、繊細で、よく音楽に乗っておりました。高音のアクートが良ければ文句無しと申し上げましょう。

 テオリンのイゾルデは、流石の馬力です。テオリンは、今年の春の「ジークフリート」と「神々の黄昏」のブリュンヒルデで大いに感心しましたが、今回のイゾルデも流石です。グールドの若々しいトリスタンと比較すると、年輪を感じさせる声で、華やかさにやや欠けるのかな、とは思いましたが、第1,2幕とほとんど出ずっぱりなのに、私が気が付くようなトラブルがほとんどなく、どこまでも豊かな声で歌いあげる姿は、「凄い」としか申し上げようがありません。表情も豊かですし、最後の「イゾルデの愛の死」まで間然とするところがなかったと思います。素晴らしいイゾルデでした。

 グールドもテオリンも見るからにワーグナー歌手、と言う様な体格ですから、あれだけの声が出るのは当然かも知れません。しかし、身体の厚みがテオリンの半分しかなさそうなツィトコーワのブランゲーネも良く声が飛んでいました。流石に、テオリンのように声に余裕があるような感じはほとんどしませんでしたが、イゾルデの声に負けない強い鋭い声を出していましたし、声も美声で、テオリンと四つに組んだ表現になっていました。その清新な雰囲気まで含めると、本日のナンバーワンの歌手と申し上げてよいのかもしれません。

 ラジライアンもまた良かったです。「東京リング」のヴォータン、さすらい人で好印象を持っている方ですが、今回のクルヴェナールもポジションのはっきりした表情で良かったと思います。メランコリックなトリスタンに対して、生真面目で情熱的なクルヴェナールを表現しました。

 イェンティンスのマルケ王も良かったです。第二幕幕切れのモノローグは十分聴きものでした。

 マクヴィガーの演出は、物語に沿った真っ当なもの。第一幕と第三幕は、空を動き色が変わる月が印象的です。昇る月に「愛の高まり」を、沈む月に「死への憧憬」託しているのでしょうか。そういった印象的な舞台に対して、演技は随分単純。第三幕でイゾルデは裾の長い真っ赤なドレスで登場。この赤は、どう見ても血の象徴だと思います。このまま、ドレスの裾をトリスタンにかぶせて、寝そべったまま「愛の死」を歌うのかな、と思って見ていますと、イゾルデは普通に立ち上がって、客席に向いて「愛の死」を歌いました。「トリスタンとイゾルデ」というオペラは音楽と歌詞とが内面に昇華した、ある意味演技なんか意味のない作品かもしれませんが、歌手の動かし方はもう少し工夫があっても良かったのかもしれません。

 大野和士の音楽づくりは、説得力があると思いました。本日の座席は、指揮者の振り方がいつも私が座る四階席よりよく見えたのですが、身体の使い方や指示の出し方が、二階席の一番後ろからでも分かるような、大ぶりのもので、その意図はオーケストラは分かりやすかっただろうと思います。しかし、その大野の指示に対するオーケストラのレスポンスは今一つ甘いというのが本当のところ。

 音楽が流れているときの弦楽器の切ない響きであるとか、イングリッシュ・ホルンのソロ(実際はホルツ・トランペットという楽器が使われていたようです。)とか、素敵なところも沢山あったのですが、弦楽器の入りが揃っていなかったり、ピアニッシモで吹くホルンが変な音を出していたり、特に第一幕はオーケストラの細かいミスが目立っていたように思います。このオーケストラのぎくしゃく感が、私の背中のむずむずを弱めていたようでした。あと4回公演が残っています。これからもっと錬度を上げて行かれることに期待したいところです。

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