オペラに行って参りました-2014年(その1)

目次

新作オペラを上演するということ  2014年1月12日  Hi's Opera Company「みすゞ」を聴く 
中堅の味わい 2014年1月13日  Voce D'oro Professionaleニューイヤーオペラガラコンサートを聴く
ちぐはぐ  2014年1月18日  杉並区民オペラ特別公演「ヘンセルとグレーテル」を聴く 
芝居の流れと音楽の流れ 2014年1月22日  Musica Celeste第7回本公演「ルクセンブルク伯爵」を聴く
カルメンのお色気  2014年1月29日  新国立劇場「カルメン」を聴く 
VIVAロッシーニ! 2014年1月31日  藤原歌劇団創立80周年記念公演「オリィ伯爵」1日目を聴く
こなれた時の魅力 2014年2月2日  藤原歌劇団創立80周年記念公演「オリィ伯爵」2日目を聴く
デリカシー 2014年2月5日  新国立劇場「蝶々夫人」を聴く
日本初演であることの不思議 2014年2月9日  東京オペラ・プロデュース「ミレイユ」を聴く
設定が先? それともキャスティング? 2014年2月20日  石川県立音楽堂×東京芸術劇場共同制作公演「こうもり」を聴く

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2014年  その1  その2   その3  その4  その5   
2013年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2013年 
2012年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2012年 
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

鑑賞日:2014年1月12日
入場料:A席 1F18列70番 8000円

主催:Hi's Opera Company

世界初演

全3幕、原語(日本語)上演
石黒晶作曲「みすゞ」(Misuzu)
台本原案・構成:樋本英一

会場:新国立劇場・中劇場


スタッフ

指 揮 樋本 英一  
管弦楽 フィルハーモニア東京
合 唱   

Hi's Opera Chorus

   
演 出

岩田 達宗

装 置  :  増田 寿子
衣 裳  :  半田 悦子 
照 明  :  大島 祐夫
音 響  :  山中 洋一 
舞台監督  :  菅原 多敢弘
   
制 作 :  NPO法人ミラマーレ・オペラ

出 演

みすゞ   伊藤 晴 
ことだま   上杉 清仁 
正祐   藤原 海考 
松本    柴山 昌宣
松蔵   伊藤 純 
ミチ    相澤 磨由 
猪鹿蝶[猪]   松山 いくお
猪鹿蝶[鹿]    青蛛@素晴 
猪鹿蝶[蝶]    田辺 いづみ 
女学生[チヨ]    齋藤 澄佳 
女学生[由子]    山邊 聖美 
女学生[トヨ]    渡辺 文子 

感想

新作オペラを上演するということ-Hi's Opera Company「みすゞ」を聴く。

 私が子供の頃、金子みすゞは全く知られていませんでしたが、現在は日本の詩人で最も有名な一人なってしまいました。「私と小鳥と鈴と」は子供の小学校の教科書の定番の詩ですし、東日本大震災の後のCM自粛期間に流されていた広告は、みすゞの「こだまでしょうか」。彼女は大正末期から昭和初期にかけて活躍し、生涯に512編の詩を書いたとされています。しかし、その生涯は不遇で、夫の放蕩に悩まされ、離婚騒動の最中の1930年に26歳の若さで服毒自殺をしています。

 このドラマティックな生涯がオペラ向きだと考えたのでしょう。指揮者の樋本英一は彼女の生涯をオペラにしようと考え、作曲家の石黒晶に委嘱し今回の作曲に至りました。何度も試演会を繰り返し、本日の初演にこぎつけたそうです。そこに至る熱意と努力に全く頭が下がります。しかしながら今回の作品、はっきり申し上げれば熱意が空回りして、作品としてはあまり良いものには仕上がっていなかったと思います。

 まずはドラマのポイントが絞り切れていないのが残念です。生涯全体を捉えようとしたためか、エピソードの羅列になっており、それぞれのエピソードが有機的に繋がって来ない。又、オペラの常道である、主人公、相手役、敵役のバランスが悪く、みすゞ偏重になりすぎている感じです。更にみすゞの童謡詩を歌詞として沢山用いているため、その童謡詩の雰囲気と不幸な生活が上手く繋がっていませんでした。もう一つ申し上げるならば、「ことだま」や「猪鹿蝶」といった幻想的な登場人物も出しているのですが、そのポジションが最初ははっきりせず、幻想オペラにしたいのか、ヴェリズモ的にもって行きたいのかよく分かりませんでした。特に第一幕の後半はよく分からない代表。この「猪鹿蝶」は、全体を見れば道化役、「トゥーランドット」のピン・パン・ポン的な役割を担っているのですが、第一幕の後半では何をしようとしているのか訳が分かりませんでした。

 以上ポイントを整理して台本をブラッシュアップできればもっと面白く見ることが出来たかもしれません。

 音楽それ自身は、民謡的な要素が含まれるものの基本的には無調の現代音楽風であり、親しみやすい音楽では無いように思いました。ちなみに金子みすゞは現代屈指の人気詩人ですから、彼女の発表されたすべての詩に最低二人の作曲家が曲を付けています。有名な詩に関しては、何人もの作曲家が独唱曲や合唱曲に仕上げています。私はその全てを知っているわけではありませんが、抒情歌的に書かれている曲が多く、親しみやすいものが多いです。今回の曲はアリア的であったり、反対にメロディーの美しさをあまり感じられないものであったり、親しみやすさ、という点では従来の曲より乏しかったように思いました。

 演奏は、実に熱が籠っていました。まずは指揮者の樋本英一は本当に熱のこもった演奏。自分がプロデュースしたオペラの初演を是非うまくいかせたいという気迫のこもった指揮ぶりで結構なものでした。オーケストラは指揮者の熱気を十分感じて演奏していた、とまでは申し上げられないと思いますが、きっちりとした演奏をしていたと思います。

 出演者は皆頑張っていらしたと思います。

 まず、みすゞ役の伊藤晴が大熱演。第一幕で頑張りすぎたのか、第二幕の最初は声の力が乏しくなっていたようですが、その後回復し、最後まで熱い歌唱を聴かせてくれたと思います。Bravaと申し上げるべき歌唱でしょう。 

 藤原海考の正祐も良かったと思います。一寸不安げな雰囲気が魅力的です。柴山昌宣の松本、伊藤純の松蔵、相澤磨由のミチ、それぞれ魅力的な歌唱を聴かせました。それにもまして良かったのは、猪鹿蝶の三人。それぞれが特徴を示した歌唱で、素敵でした。女学生を演じた三人の若手ソプラノもそれぞれ頑張った歌を歌って素敵でした。

 合唱も良かったと思います。非常に迫力があり、気持ち良く聴くことが出来ました。

 全体的に初演を上手く行かせようという気持ちの籠った演奏で、素敵なものだったと思います。

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鑑賞日:2014年1月13日 
入場料:自由席 3000円

主催:ヴォーチェ ドーロ プロフェッシオナーレ
ニューイヤー オペラ ガラコンサート
〜名曲はゆとりの香り〜

会場:いずみホール

出演者

ピアノ 原田 園美  
ソプラノ 鐵 由美子
ソプラノ    小林 真由美 
ソプラノ    柴山 晴美 
ソプラノ    西本 眞子 
メゾソプラノ    三橋 千鶴 
メゾソプラノ    森山 京子
テノール 青地 英幸
テノール 浅原 孝夫
テノール 小林 祐太郎
バリトン 笠井 仁


プログラム

 

演奏者 

作曲家 

作品/歌曲名 

1  全員 文部省唱歌  一月一日
2  鐵 由美子 ヨハン・シュトラウス二世  ワルツ「春の声」 作品410 
3  西本 眞子 ロッシーニ 歌劇「コリントの包囲」よりパミーラのアリア「神よこの危機の最中に」
4  青地 英幸  ヴェルディ  歌劇「第一回十字軍のロンヴァルディア人」より、オロンテのアリア「私の喜びを」
5  三橋 千鶴 ヴァイル 

ミュージカル「ハッピー・エンド」より「マンダレーの歌」

6  柴山 晴美  マイアベーア  歌劇「ディノーラ」よりディノーラのアリア「影の歌」 
7  森山 京子  ビゼー  歌劇「カルメン」よりカルメンのハバネラ「恋は野の鳥」 
8  浅原 孝夫 プッチーニ  歌劇「ラ・ボエーム」よりカヴァラドッシのアリア「冷たき手を」 
9  笠井 仁 ヴェルディ  歌劇「アッティラ」よりエツィオのアリア「永遠の美しい栄光の頂きから」
10  小林 祐太郎/小林 真由美  ヴェルディ 

歌劇「シモン・ボッカネグラ」よりアメーリアのアリアとアメーリアとガブリエルの二重唱
「暁に星と海は微笑み〜海の青さを御覧なさい」 

休憩 

11 柴山 晴美  マスネ 歌劇「マノン」よりマノンのアリア「私が街を歩くと〜ガヴォット」
12  西本 眞子  シャンパルティエ  歌劇「ルイーズ」より、ルイーズのアリア「その日から」 
13  青地 英幸  レハール  喜歌劇「微笑みの国」より、スー・チョンのアリア「君こそ我が心の全て」
14  小林 真由美  チレア 

歌劇「アドリアーナ・ルクヴルール」より、アドリアーナのアリア「私は創造の神の卑しい僕」 

15  三橋 千鶴  クラハーティ  ミュージカル「ラグタイム」よりサラのソング「ユア ダディーズ サン」
16 鐵 由美子  バーンスタイン  ミュージカル「キャンディード」より、クネゴンデのソング「煌びやかに着飾って」
17 浅原 孝夫  プッチーニ  歌劇「トスカ」より、カヴァラドッシのアリア「妙なる調和」 
18 小林 祐太郎  プッチーニ  歌劇「トスカ」より、カヴァラドッシのアリア「星は光りぬ」
19 笠井 仁  ヴェルディ  歌劇「ドン・カルロ」より、ロドリーゴのアリア「私の最後の日〜私は死にます」 
20 森山京子  ヴェルディ  歌劇「ドン・カルロ」より、エボリ公女のアリア「酷い運命よ」

アンコール 

21 全員   ヴェルディ 

歌劇「椿姫」より、ヴィオレッタとアルフレードとの乾杯の歌「友よ、いざ飲みあかそう」 

22  全員  レハール 

喜歌劇「メリー・ウィドウ」より、ハンナとダニロの二重唱「唇は黙しても」

感 想

中堅の味わい-Voce D'oro Professionale「ニューイヤーオペラガラコンサート」〜名曲はゆとりの香り〜を聴く

 もの凄く有名な人たちが出演するガラ・コンサートというわけではありませんが、隠れた実力の持ち主や中堅としての力量を示している方々が多数登場しました。これだけの顔ぶれで、3000円の入場料。お得なコンサートです。しかしながら、聴衆は歌手と何らかの縁がある方が多かったようで、もっと宣伝をして、歌手と関係のない方がたくさん聴きに来ればよいなあ、と思いました。

 昨年も同じ団体のコンサートを聴いているのですが、出演者がほぼ一緒。岡本実佳が鐵由美子に交替したのと、昨年キャンセルで出演できなかった森山京子が登場したこと、及び昨年大変結構なバリトンを聴かせて頂いた藤澤眞理がローマ留学中とのことで欠席したのを除けば昨年と一緒です。昨年と比較すると、昨年よりは体調の悪かった方が少なかったようで、全体としては聴き応えのあるコンサートに仕上がっていたのではないかと思います。勿論その中でも巧拙はあるのですが、やはりコンディションの良い状況で歌って欲しいなとは思います。

 鐵由美子の「春の声」。高音の伸びは素敵なのですが、中低音の地声が出る部分とのバランスが今一つ。そこのトーンのつながりが自然であればもっと良かったのに、と思いました。昨年のこの会における柴山晴美の歌唱の方が私は好きです。次の西本眞子のロッシーニ。こちらは立派。声の迫力と凄味があって余裕の感じられる歌唱。西本の力量を強く感じさせるものでした。

 青地英幸のヴェルディ。彼の柔らかい声色がこの曲にはぴったりしなかった感じがしました。勿論立派な歌なのですが、彼の本質はヴェルディ・テノールではないのでは、という感じがいたしました。三橋千鶴のヴァイル。凄く雰囲気があって素敵です。クラシックのコンサートではあまり聴かれない曲ですが、ヴァイルの第一人者だけのことはあると思いました。彼女の歌を聴くだけで、このコンサートに来た甲斐があると思うほどです。

 柴山晴美のマイヤーベーア。彼女はどこまで行っても端正です。自分の持てる能力の中できっちり着地を決めてくる、と申し上げたらよいでしょうか。冒険をしているのですが、その冒険を冒険と見せないように纏めるところが素晴らしいと思います。森山京子のハバネラ。森山節満開でした。あの歌い崩しは私の好みではありませんが、あのような表現で森山の世界を示しているのでしょうね。

 浅原孝夫。自分でも「やらかしてしまった」と仰っていましたが、明らかに不調。風邪でしょうね。彼目当てにいらしているお客さんもいるのでしょうからキャンセルも難しいのでしょうが、あの喉の調子ならば、キャンセルした方が、観客に誠実ではないかと思いました。笠井仁のアッティラ。良かったです。この方はオペラ公演でヴェルディのバリトン役を演じることはあまりないと思うのですが、コンサートでの歌唱を聴く限り、ヴェルディ、似合っていて私は好きです。

 小林祐太郎、小林真由美のシモン・ボッカネグラ。小林祐太郎の自虐ネタもありましたが、歌唱としては立派だと思いました。万全ではないにしても昨年とは全く違う歌の調子がよい。小林真由美のアメーリアも良好だったと思います。前半の掉尾を飾るにふさわしい歌唱でした。

 後半は柴山晴美のマノンから。彼女の歌唱は凄く端正です。歌の枠に収まりすぎている感じがないわけではないですが、美的バランスに優れている歌唱だと思いました。西本眞子のルイーズ。こちらも彼女の声の力がよく分かるもの。ただ、歌の味わいは前半のロッシーニの方が上だと思いました。

 青地英幸の「微笑みの国」。青地の歌はヴェルディよりもこちらが似合っていると思いました。甘い切ない雰囲気がレハールのメロディによく合っているということなのでしょう。小林真由美の「アドリアーナ・ルクヴルール」。ドスの効き方が今一つ。彼女の声はこの曲を歌うには軽量級のような気がしました。

 三橋千鶴。ブラヴァです。本当に素敵です。鐵由美子のキャンディード。同じ曲を昨年末に辰巳真理恵の歌うのを聴いたのですが、辰巳の方が明らかに聴かせる歌でした。鐵の歌が取り立てて悪いものではなかったのですが、比較対象があるとどうしても比較せざるを得ません。

 浅原孝夫の「妙なる調和」。私は拍手をいたしませんでした。小林祐太郎の「星は光りぬ」。こちらは立派。カヴァラドッシの絶望が聴こえました。笠井仁の「ドン・カルロ」。彼の声はヴェルディに似合っているように思いました。森山京子のエボリ。流石の貫録です。存在感が抜群でコンサートを閉めるにふさわしい歌唱でした。

 アンコールはガラコンサートの定番。楽しそうに幕が下りました。

 以上、いろいろありましたが、全体としては楽しめるガラコンサートでした。歌われる歌の幅広さが魅力でした。一番残念なのはお客さんの数。会場のいずみホールは300席強のホールですが、満席ではありませんでした。歌手との距離が近くて良いコンサートだと思うので、残念です。こういうコンサートが満席になるぐらいお客さんが増えるといいのになあとつくづく思いました。

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鑑賞日:2014118 
入場料:A席こ30 番 4000円

主催:杉並区民オペラ

全3幕、日本語上演
フンパーディンク作曲「ヘンゼルとグレーテル」(Hänsel und Gretel)
台本:アーデルハイト・ヴェッテ
訳詞:富山県民オペラ版

会場:セシオン杉並ホール

スタッフ

指 揮 大久保 眞  
弦 楽 ストリングス・パルテンツァ
電子オルガン 海津 幸子/五十嵐 優
児童合唱 杉並区立和泉小学校合唱団
児童合唱指導 坂井 智重子
バレエ    森利子バレエ団 
演 出 加藤 徹
照 明 :  岩下 由治 
衣 裳 :  加藤 興志子 
照 明 :  岩下 由治 
振 付 :  安養寺 恵 
舞台監督 :  酒井 雄一 

出 演

グレーテル  :  品田 昭子 
ヘンゼル  :  丸山 奈津美 
魔女 :  宮田 桂子 
ゲルトルート  :  藤澤 みどり 
ペーター  :  李 宗潤 
眠りの精  :  白神 晴代 
露の精  :  森 裕美子 

感想

ちぐはぐ-杉並区民オペラ特別公演「ヘンゼルとグレーテル」を聴く。

 外国のオペラの日本語上演についてはかねてから疑問を申し上げているどくたーTですが、日本語公演を支持する作品がいくつかあります。オペレッタは勿論そうですが、オペラでもこの「ヘンゼルとグレーテル」は日本語上演が割と合っています。子供向けに書かれているということが最大の理由です。子供に分かって貰うためには、聴きやすい日本語で上演するのが一番だと思います。杉並区民オペラは外国のオペラ作品を日本語で上演することに拘っている談大ですが、そういう団体にこそ、「ヘンゼルとグレーテル」はふさわしいのかもしれません。

 さて、演奏ですが、今回は伴奏がまとまっていなかった、というのが率直な演奏です。伴奏は、第一ヴァイオリン4、第二ヴァイオリン4、ヴィオラ3、チェロ2、コントラバス1の構成の弦楽アンサンブルに二台の電子オルガン(エレクトーン)によるものです。フンパーディンクの楽譜の弦楽部門を弦楽アンサンブルを、それ以外を電子オルガンが受け持つわけですが、電子オルガンと弦楽のタイミングが微妙にずれていて(具体的には電子オルガンが微妙に遅い)凄くちぐはぐ感がありました。

 特に打楽器部分が電子オルガンのリズムボックスを使用しているわけですが、打楽器のタイミングが遅いと、「あれ?」という感じがあります。リハーサルで合わせてあったスピードが本番では早くなり、電子オルガンが対応しきれなかった、ということだと思いますが、聴いていると気持ち悪い違和感がありました。

 弦楽合奏も上手とは言えません。ボウイングに力強さが欠けています。フンパーディンクのオーケストレーションはワーグナー張りの厚目が基本になりますから、あのふらふらしたボウイングでは、しっかりと音楽を支えきれないように思いました。

 あとホールの問題だと思いますが音の飛びが悪いです。ストレートな音ははっきりと届くのですが、反響音の響きが悪い。ですから、客席に向かって歌っている時は良いのですが、横を向いたり後ろを向いたりすると、とたんに声量が減弱して聴こえます。その結果として歌詞が不明瞭になるのが残念でした。

 歌手陣は主役の二人、ヘンゼルとグレーテルが良好。

 丸山奈津美といえば、マンマルチアやマデロンなどの老婆役での歌唱が記憶に残っている方で、彼女のズボン役を聴いたのは初めての経験。密度のある低音が伸びやかに響くところが魅力的でそれでいながら演技は如何にも悪戯小僧風で良かったと思いました。対する品田昭子のグレーテル。彼女は日本語歌唱に定評のある方ですが、聴きやすい発声が見事です。又高音も良く伸びており、音楽的美感のあるグレーテルでした。一方、演技は正に子供であり、その溌剌とした感じが素敵でした。

 母親のヒステリックな表情は今一つ弱い感じ、父親の能天気な喜び方は悪くはなかったのですが、もっとメリハリがついた方が良かったようにも思いました。

 魔女役の宮田桂子。頑張っていましたし、あれだけ踊りながら歌うのは大変だと思いますが、途中で息が上がってしまったのと、その結果として入りの音がずれてしまったのが残念でした。

 バレエは子供たちが可愛く、合唱も地元の小学校の合唱部ということで、楽しげに歌えていて良かったと思います。

 演出は具体的ですし、書割を上手く使って森の雰囲気も出していましたが、歌手の負担を考えて、もう少し動きは絞った方が良かったかもしれません。

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鑑賞日:2014122 
入場料:B席R1列13番 3000円

主催:Musica Celeste

全2幕、日本語上演
レハール作曲「ルクセンブルク伯爵」(Der Graf von Luxemburg)
台本:アルフレート・マリア・ヴィルナー/ロベルト・ボダンツキー(独語)
日本語台本:麻生弦大

会場:渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール

スタッフ

指 揮 大浦 智弘  
ヴァイオリン 小山 啓久
チェロ 谷口 宏樹
電子オルガン 鈴木 泉
合唱 岩崎メリー/宮家珠代/宮下麗/藤川鉄馬/吉田拓人
ダンサー COLONCH
演 出 田中 雅子
照 明 :  磯野 眞也 
衣 裳 :  石橋 佳子 
音 響 :  高橋 陽子 
振 付 :  長谷川 風立子 
舞台監督 :  藤田 有紀彦 
制作 :  林 夏子 

出 演

ルネ・ルクセンブルク伯爵  :  ケン・カタヤマ 
アンジェール・ディディエ  :  足立 さつき 
バジール・バジロヴィッチ侯爵 :  小栗 純一 
アルマン・プリザール  :  斎木 智弥 
ジュリエッタ・ヴェルモン  西本 真子 
スターシャ・ココゾフ  :  鈴木 りえこ 
フランク  :  影山 慎二 
ボブロヴィッチ  :  金井 龍彦 
メンチコフ  :  石福 敏伸 
ペレグリン :  加藤 大聖 
フルレット  :  森澤 かおり 
ミミィ  成瀬 緋沙子 
ソフィ  :  花岡 麻衣 
ロゼット  :  鈴木 桃子 

感想

芝居の流れと音楽の流れ-Musica Celeste第7回本公演「ルクセンブルク伯爵」を聴く

 舞台と座席が近い公演でした。300席弱の収容人数に決して広いとは言えない舞台。しかし、その舞台には、ダンサー、合唱、ソリストと合わせて20名以上が乗って芝居をやる。この感じは、私は1回しか見ることが出来なかった名古屋の大須オペラの感じに似ています。しかし、あのおあの大須オペラにあった客席と舞台との一体感は今日の舞台には見られませんでした。

 オペレッタですから、音楽的にもの凄く厳密であるべきである、とは思いませんが、その代わり、盛り上げ方の作り込みがもっと精密でないと聴き手の心を掴むことはできないと思います。総じて申し上げられるのは、そこそこ頑張ってはいるのだけれども全体を通してみると噛み合っていないのです。舞台に一本芯が通っていない感じがするのです。一所懸命がんばっていらっしゃる方は脇役まで含めて何名もいらっしゃるのですが、そのベクトルが揃わない舞台でした。

 結構凄いな、と思ったのは、4回公演で合計1000人ほどの動員しかかけられない筈なのに、精一杯舞台を飾って、分かりやすい舞台を見せたこと。第一幕が第一場がパリの公園であることや、第一幕第二場が貧乏画家アルマンのアトリエであることは舞台装置から直ぐに分かる。こういう小さい舞台では、最低限の小道具しか使用しないという公演も多いので、場面転換をしっかり見せた舞台構成は結構だと思いました。

 同様に衣裳の多彩さも目を引きます。ダンサーたちは登場するたびに違う衣装を着て出てまいりますし、アンジュールも登場するたびに別のドレス、とオペレッタに期待される華やかさをしっかりと出してきました。こういう色彩豊かな感じは素敵なものです。このように舞台のベースは作り込まれているのに、その上に乗っかる歌唱演技の作り込まれ方が、不十分なのです。

 まず思うのは、芝居の流れと音楽の流れとが必ずしも調和していないのです。芝居から音楽へ、あるいは音楽から芝居への受け渡しの自然さが、オペレッタには重要だと思うのですが、そこが何かぎくしゃくしていて、折角音楽が盛り上がっていても芝居に入ると聴き手の気持ちが冷やされてしまう。ベースが素敵なだけに見ていて凄くもどかしい感じがしました。

 その典型的な例がバジール・バジロビッチ侯爵に見られました。バジール・バジロビッチ侯爵はこの作品の中の一番の道化役です。「メリー・ウィドウ」だったら、ミルコ・ツェータ伯爵のような役柄と申し上げれば、感じが分かるかもしれません。しかし、小栗純一の演技は基本的に素っ気ない。確かに声は良く出ているし、一寸した動きに、長い間オペレッタを歌って来ただけの貫録はあるのですが、役柄に期待される小心者の雰囲気がほとんど見えてこないのです。

 その意味で小栗の演技は繊細さに欠けていると申し上げて宜しいのかもしれません。小栗純一といえば、日本を代表するオペレッタ歌手の一人ですが、踊りにおける鈍重さや反応の鈍さが目立っていて、昔感じた切れ味の良さがほとんど認められなかったのが残念です。

 主役のルネを歌ったケン・カタヤマは、雰囲気は悪くないのですが、こちらは音楽的に、特に高音にミスが目立ち、一寸興ざめでした。斎木智哉のアルマンは、売れない画家のなよっとした感じが似合っていて、歌もなかなか良かったように思いました。

 一方、女声陣は基本的な実力が男性より上、ということがあるのでしょう。それぞれに味がありました。

 アンジュール役の足立さつきは、もう少しヴィブラートを控えめにした方が私の好みではあるのですが、舞台での見せ方が上手です。雰囲気がヒロインらしく華やかです。

 ジュリエッタ役の西本真子は、今回の登場人物の中で音楽的力量が一番上だと思いました。声が良く伸びますし、高音もしっかり出ている。また、主要役の中で彼女が一番演技にメリハリがありました。一番華やかなポルカ・ダンスでは、ダンサーたちに交じって上がらない足を精一杯上げていましたし、そういう一所懸命さに好感を持ちました。所作・振舞いはオペレッタ歌手としてはまだまだぎこちないですが、指先までしっかり神経を入れようとする態度は良かったです。

 なお、最後に登場する侯爵の婚約者役のメゾ、鈴木りえこは一曲だけの歌唱ですが、素敵でした。

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鑑賞日:2014年1月29日
入場料:C席 6615円 3F 24

主催:新国立劇場

オペラ3幕、日本語字幕付原語(フランス語)上演
ビゼー作曲「カルメン」Carmen)
台本:アンリ・メイヤック/リュドヴィック・アレヴィ

会場:新国立劇場オペラ劇場

スタッフ

指 揮 アイナルス・ルビキス
管弦楽 東京交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
児童合唱 TOKYO FM 少年合唱団
児童合唱指揮 米屋 恵子/金井 理恵子/小林 茉莉花
ダンサー 新国立劇場バレエ団
演 出 鵜山 仁
美 術 島 次郎
衣 裳 緒方 規矩子
照 明 沢田 祐二
振 付 石井 潤
再演演出 澤田 康子
舞台監督 斉藤 美穂

出 演

カルメン   ケテワン・ケモクリーゼ
ドン・ホセ   ガストン・リベロ
エスカミーリョ   ドミトリー・ウリアノフ
ミカエラ   浜田 理恵
スニガ   妻屋 秀和
モラレス   桝 貴志
ダンカイロ   谷 友博
レメンダード   大野 光彦
フラスキータ   平井 香織
メルセデス   清水 華澄
アンドレ   大久保 憲
オレンジ売り   鈴木 涼子
ボヘミヤン   塩入 功司

感 想

カルメンのお色気-新国立劇場「カルメン」を聴く。

 カルメンの見どころの一つは、まずカルメンがどうやってホセを誘惑するかだと思います。そこにどこまで説得力があるか。

 新国立劇場の鵜山仁演出の舞台を見るのは今回が三回目になりますが、その説得力が一番合ったのは前回2010年のシャペスのカルメンでした。見た目も妖艶で、身体全体から色気が出まくっておりました。色気を示す細かい演技が大変上手な方で、ホセでなくともあのカルメンなら誘惑されてしまうだろうな、と思わせるもの。歌も素敵でした。

 さて、今回のケモクリーゼのカルメンですが、前回のシャペスと比較すると地味という印象が否めません。顔もさほど美人ではありませんし、体つきも割と痩せていて肉付きの良い方ではない。肉感的ではなく、シャープなカルメンです。声は高い方はそれなりに伸びて結構なのですが、低音が弱い。直ぐに上擦ってしまう感じです。演技は大変一所懸命やっていて、色気を見せよう、色気を見せようと努力しているのですが、逆に演技がシャープすぎるところがあって、私は色気を感じることが出来ませんでした。だから、第一幕でホセがカルメンに誘惑されるところに説得力が感じられないのです。

 多分これで低音に迫力があって、そこにケレンを見せることが出来れば印象は随分変わったと思うのですが、残念ながらそうではない。彼女の歌も第三幕の「カルタの歌」における運命の受容であるとか、フィナーレにおけるホセとの二重唱「お前か、あたしよ」では、結構低い音を意識してしっかりと歌われていたので(それでも一寸油断すると、上擦ってしまうのですが)後半は良かったと思うのですが、ハバネラにしてもセギディーリャにしても、一幕での歌唱にさほど魅力は感じられませんでした。

 一方ホセ。ガストン・リベロというこのテノール。とっても良いと思いました。まず持っている声が素敵。高音から低音まで力まずにするっと出る美声に魅力があります。「カルメン」の中では、「お提髪の少女が訪ねて来たよ」と言われて「ミカエラだ」という、群衆の中での会話で登場するわけですが、この一声で、プリモだなという感じがします。「花の歌」は情の籠り方が、素直で、そこが物足りないと思う方もいらっしゃるかと思いますが、私は、そこにホセの真実を感じました。

 エスカミーリョは、音程が今一つ不安定で私は気に入らない。「闘牛士の歌」はバリトンの課題曲ですからねえ。それだけちゃんと歌われても、と思ってしまいます。

 浜田理恵のミカエラ。前回に引き続き登場。こんなにヴィヴラートをかける方かと思ってしまいましたけど、雰囲気が良く出ていて素敵な歌唱。第三幕のアリアは前回もとっても良いと思いましたけど、今回も素敵でした。カルメンの粗野な女豹のイメージと対照的な役作りが良いです。

 脇役陣は平井香織のフラスキータ、清水華澄のメルセデスが何と言っても良い。細かい演技も含めて、この舞台に慣れている感じがしました。妻屋秀和のスニガは、妻屋の低音の魅力を聴くには今一つ向いていないように思いました。桝貴志のモラレス、レメンダード、ダンカイロのアンサンブルも立派。合唱も流石に手慣れたもの。TOKYO FM少年合唱団は、女の子の衣裳を付けて歌う子もいましたが、可愛らしく仕上がりました。

 指揮者とオーケストラですが、指揮者は推進力のある音楽作りをしていたと思いますが、やや単調。もっと歌の息遣いに合わせて、リタルダンドをかけたり、ふりを大きくしたりすれば、音楽全体にもっと立体感がでたように思います。第一幕が今一つ詰まらなかったのは、カルメンの歌唱演技もさることながら、指揮者の音楽作りが単調だったことが大いに影響しているように思いました。

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鑑賞日:2014131 
入場料:D席R4F1列7番 6000円

文化庁文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)
2014都民芸術フェスティバル参加公演

主催:公益財団法人日本オペラ振興会

藤原歌劇団創立80周年記念公演

全2幕、字幕付原語(フランス語)上演
ロッシーニ作曲「オリィ伯爵」 (Le Comte Ory)
台本:ウジェーヌ・スクリープ、シャルル=ガスパール・ドレストル=ポワルソン

会場:東京文化会館大ホール

スタッフ

指 揮 デニス・ヴラセンコ

 

管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 藤原歌劇団合唱部
合唱指揮 安倍 克彦
演 出 松本 重孝
美 術 荒田 良
照 明 :  服部 基 
衣 裳 :  前岡 直子 
舞台監督 :  菅原 多敢弘 
公演監督 :  岡山 廣幸 

出 演

オリィ伯爵  :  アントニーノ・シラクーザ 
アデール  :  佐藤 美枝子 
伯爵の教育係 :  彭 康亮 
イゾリエ  :  向野 由美子 
ランボー  柴山 昌宣 
ラゴンド  :  牧野 真由美
アリス  :  清水 理恵 
騎士  :  岡坂 弘毅 

感想

VIVA ロッシーニ!-藤原歌劇団創立80周年記念公演「オリィ伯爵」1日目を聴く

 「ランスへの旅」は、1825年に初演されてから、直ぐにお蔵入りにされ、1984年にペーザロのロッシーニ・フェスティバルでクラウディオ・アバドによって蘇演されるまでほとんど知られませんでした。「ランスへの旅」の音楽は「オリィ伯爵」に転用され、オリィ伯爵の中で生命を長らえて来た訳ですが、1984年の「ランスへの旅」の蘇演後、「ランスへの旅」はロッシーニの傑作として認知され、人気演目となりましたが、一方で、「オリィ伯爵」はなかなか上演される機会がありません。私は、「ランスへの旅」はこれまで4回実演を耳にしておりますが、「オリィ伯爵」は、南條年章オペラ研究室の演奏会形式公演で一度聴いただけで、やはりちゃんとした公演を聴いてみたいものだと思っておりました。

 今回シラクーザをタイトル役にして藤原歌劇団が取り上げてくれるということで喜び勇んで伺ってまいりました。

 さて全体的な印象としては、面白い舞台なのですが、こなれていない感じがしました。微妙な違和感があります。それを感じる一つの理由は、「ランスへの旅」を知っているということが関係するのかもしれません。ロッシーニは自作の転用をしばしば行った作曲家として有名ですが、祝祭劇を艶笑劇に切り替えるのはやっぱりそう易しいいことではないようで、「ランスへの旅」の方が、良く練られている感じはします。

 勿論演奏の問題もあるのかもしれません。今回の指揮者は、最初アッレマンディが予定されていたと思うのですが、ヴラセンコに代りました。この方ペーザロのロッシーニ・フェスティバルでも演奏されている、ということで選ばれた方のようですが、緊張していたのか、彼の個性が良く見えるという感じの演奏ではなかったと思います。オーケストラの演奏も普通の東フィルの演奏という感じで、悪いものではなかったと思いますが、全体的にどことなくぎくしゃくしたところが見受けられました。

 シラクーザだってそう。オリィ伯爵は初役だったそうで、何年か前藤原歌劇団で「セビリャの理髪師」のアルマヴィーヴァ伯爵や、昨年の新国立劇場での「愛の妙薬」のネモリーノで見せたほどの闊達な歌唱ではありませんでした。元々とても上手な方ですから、そうはいっても文句をつけるような水準の歌唱ではないのですが、彼のベストの歌では無い様に聴きました。シラクーザ級の歌手であっても初役の緊張はあるのでしょうね。

 同様な意味で、佐藤美枝子の緊張も感じました。彼女は風貌がロココ風でとても可愛らしいし、歌も高音の柔らかな伸び具合は差具が佐藤美枝子だな、と思うような立派な歌唱。素敵だとは思うのですが、どこか、今一つ歌を押し切れない印象があります。上手なのですが、ここであとひと踏ん張りすれば、会場から山のようなブラヴァを貰えるのにな、と思うようなところで控えめになります。彼女の美学としては、そこを丁寧に歌って、情感を出そうとしているのですね。私はその細やかなやり方が好きなのですが、会場的には今一つ賛同を得られなかった感じです。

 そういった中で力量を発揮したのが向野由美子の小姓と柴山昌宣のランボーです。向野のズボン役は一昨年の「フィガロの結婚」におけるケルビーノでその相性の良さを深く感じたわけですが、今回のイゾリエも正に適役。宝塚の男役みたいな雰囲気を出して、終始目立っておりました。勿論風貌だけではありません。音楽的にも凛とした風情がズボン役の魅力を引き立てていたと思いました。今回の公演の立役者であることは疑いのないところです。

 柴山昌宣の騎士「ランボー」の役作り、歌唱も立派。柴山は三の線のブッフォ役を演じさせると非常に雰囲気を出せる方です。「ランスへの旅」ではドン・ブロフォンドが持ち役ですが、そのドン・プロフォンドの軽妙なアリアをランボーの軽妙なアリアとして歌いました。これが又立派です。彼に関して言えば、幕開けから終幕まで、オリィ伯爵の友人として、色々な位置で存在を示すのですが、特別に出しゃばっている様子はないのですが、声に力があるせいか、常に存在感を示していました。Bravoです。

 教育係の彭は、今一つ声に伸びが無く、客席まで届ききらなかった感じ。牧野真由美のラゴンドも、存在感はありますが、歌唱的には、彼女の本領発揮とまではいかなかったように思います。

 松本重孝の演出は、この作品の艶笑喜劇的な側面を強調したもので、素敵なものでした。オリィ伯爵に「分かった」と日本語で言わせたりする細かな擽りもさることながら、修道女に化けてまんまとアデールの城に入り込んだ一行が、ワインを飲みながらどんちゃん騒ぎをしているところが見つかるところの演技などは、このオペラの喜劇的側面をしっかり見せてくれるもので良かったと思いました。

 以上、全般的にちょっとぎこちない部分はあったにせよ、ロッシーニの晩年の傑作の味わいを示すのに十分な演奏だったように思います。私自身もこのオペラの本領をようやく知ることが出来ました。それにしても思うのは、ロッシーニ先生の素晴らしさです。やはり、VIVAロッシーニ!と申し上げるしかありません。

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鑑賞日:201422 
入場料:D席L4F1列33番 6000円

文化庁文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)
2014都民芸術フェスティバル参加公演

主催:公益財団法人日本オペラ振興会

藤原歌劇団創立80周年記念公演

全2幕、字幕付原語(フランス語)上演
ロッシーニ作曲「オリィ伯爵」 (Le Comte Ory)
台本:ウジェーヌ・スクリープ、シャルル=ガスパール・ドレストル=ポワルソン

会場:東京文化会館大ホール

スタッフ

指 揮 デニス・ヴラセンコ

 

管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 藤原歌劇団合唱部
合唱指揮 安倍 克彦
演 出 松本 重孝
美 術 荒田 良
照 明 :  服部 基 
衣 裳 :  前岡 直子 
舞台監督 :  菅原 多敢弘 
公演監督 :  岡山 廣幸 

出 演

オリィ伯爵  :  アントニーノ・シラクーザ 
アデール  :  光岡 暁恵 
伯爵の教育係 :  彭 康亮 
イゾリエ  :  松浦 麗 
ランボー  森口 賢二 
ラゴンド  :  吉田 郁恵
アリス  :  宮本 彩音 
騎士  :  岡坂 弘毅 

感想

こなれた時の魅力-藤原歌劇団創立80周年記念公演「オリィ伯爵」2日目を聴く

 「オリィ伯爵」今回は、2回とも聴いたわけですが、総合的な魅力は二日目に完全に軍配が上がります。初日の演奏で聴かれた今一つ伸びやかさに掛けた緊張感が上手にこなれて、音楽も舞台もとても魅力的に変化しました。両方聴くことが出来て、自分自身としてとても良かったと思います。

 変化したと書きましたが、本当に色々な部分が変化しました。それぞれは僅かな変化だと思いますが、全体としては大きな違いになったように思いました。

 まずは指揮者のヴラセンコの音楽作りが変化している。基本的に、シャープで颯爽とした音楽作りに変化はないのですが、そのシャープさに微妙なハンドルの遊びがついていると申し上げたら、分かって頂けますでしょうか? 結果としてオーケストラの細かいミスは増えていると思いますが、音の緊張感がマイルドになったせいか、音が軽くなり、自在さが増したように思います。私は、初日よりも二日目の自由度を感じさせる音楽を支持したいと思います。

 オリィ伯爵役のシラクーザだって、二日目の方が断然素敵です。登場のアリアは初日よりも伸びやかで、軽妙さが増しています。この歌を聴いてしまうと、初日はかなり緊張していたのだな、と思わないわけには行きません。初日の歌に聴こえた、喉を締め付けたざらついた音は今日は全くなく、美しく伸びるシラクーザらしい美声が聞けました。更に、最初のアリアが上手く行ったことで、気分の盛り上がりも違ったのでしょう。その後の歌唱・演技とも、初日と同様ながら微妙に踏み込みが深く、舞台回しがずっと自然に見えました。二日目の歌こそがシラクーザの声なんだな、と再認識いたしました。

 彭康亮の歌だって、今日の方が断然良いと思いました。初日はどこか緊張していたのか、伸びやかさが今一つで、3F席まで声が届ききっていない感じがしましたが、今日は、低音に重量感が合ってよく響き、教育係のおかしみと悲しみとがないまぜになった雰囲気がよく分かりました。

 合唱も二日目の方が闊達さで上。精妙な合唱という点では初日の方が良かったと思いますが、自由さや闊達さでは二日目の方に魅力を感じました。基本的には、初日と二日目の間に違いはないのですが、合唱メンバーの中の一体感が初日よりも上回っていたのか、あるいはオーケストラの自由な演奏に目覚めたのか、一段と立体感のある合唱に仕上がっていたと思います。合唱メンバーの演技は初日と基本は一緒ですが、歌がこなれた分演技が更に踏み込んだ感じになっていました。結果として舞台の密接さが一段と上がり、松本重孝の演出の面白さが、より強調されたのではないかと思いました。

 さて、今回はシラクーザと彭康亮以外のメンバーはダブルキャストで、二日目のメンバーはベテランより若手が多い構成になっています。その若手の出来が出色だったと思います。まずはアデール役の光岡暁恵が素晴らしい。初日の佐藤美枝子は軽さを前面に押し出したロココ的可愛さがありました。自在さはあるのですが、力強さは、今日の光岡暁恵が上のように思いました。

 光岡の声には、初日の佐藤に感じた屈託が全くない感じです。直球勝負で飛んでくる、と言ったら宜しいでしょう。とにかく今持っている技術をきっちりと示してやろう、という意気込みが歌唱に感じられました。素直な発声と極めて技巧的なコロラトゥーラの技術をしっかり使ってアデールの歌を魅力的に示そうとしていたように思いました。その成果が登場のアリア。全ての音がゆるがせにされていない感じ。高音の突き上げるすばらしさは光岡ならではのもの。アジリダの妙技も立派ですし、感心いたしました。

 吉田郁恵のラゴンド夫人も初日の牧野ラゴンドよりも立派な歌唱。初日の牧野は、演技でその存在を示した感じでしたが、二日目の吉田は、歌唱でもその存在を示したというところでしょう。

 森口賢二のランボー。二幕の武勇伝の早口のアリアは、初日の柴山の緩急自在のアリアとは一寸違う感じがしましたが、こちらはこちらで立派な早口。三枚目的な演技と声量では柴山に敵わないところがありますが、全体的に見て森口賢二らしいランボーを作り上げていたと思います。

 初日から見て差を感じたのが松浦麗のイゾリエです。高音の伸びが初日の向野由美子ほどではありませんし、声の艶が向野の方が華やか、ということもあります。アデールの恋人役としてのズボン役としては向野由美子が向いている、ということは否めません。しかし、非常に頑張っていまして、アンサンブルの中で一所懸命活躍しようとしていました。

 フィナーレの伯爵、アデール、イゾリエの三重唱は、精妙に歌われ、三人のバランスが見事に揃っていた初日に軍配が上がると思いますが、乗っているシラクーザと若々しい二人の三重唱も聴きものだったと思います。

 自分自身としては、初日に気が付かなかった舞台上での細かい演技を見せて貰い良かったです。初日は四階右側から、二日目は四階左側からの鑑賞になったのですが、フィナーレのオリィ伯爵がアデールに言い寄って、イゾリエの手にキスをする場面は、右から見ていると、その様子が良く見えなかったのですが、左側からだと何をやっているかが丸見えで、そういう舞台を見ることが出来たことも含めて、二日鑑賞できた幸せを噛みしめたいと思います。

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鑑賞日:201425
入場料:D席 5670円 4F 139

主催:新国立劇場

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「蝶々夫人」Madama Butterfly)
台本:ルイージ・イッリカ/ジュゼッペ・ジャコーザ

会場 新国立劇場・オペラ劇場

指 揮 ケリー=リン・ウィルソン
管弦楽 東京交響楽団
合唱指揮 三澤 洋史
合 唱 新国立劇場合唱団
演 出 栗山 民也
再演演出 菊池 裕美子
美 術 島 次郎
衣 裳 前田 文子
照 明 勝柴 次朗
音楽ヘッドコーチ    石坂 宏 
舞台監督 大澤 裕

出 演

蝶々夫人 アレクシア・ヴルガリドゥ
ピンカートン ミハエル・アガフォノフ
シャープレス 甲斐 栄次郎
スズキ 大林 智子
ゴロー 内山 信吾
ボンゾ 志村 文彦
神官 大森 いちえい
ヤマドリ 小林 由樹
ケート 小野 和歌子

感 想

デリカシー -新国立劇場「蝶々夫人」を聴く

 私はプッチーニの作品自身があまり好きではありませんし、殊に「蝶々夫人」は苦手。それでも、主人公が日本人、場所が長崎ということで、日本のオペラ界にはなくてはならない作品のようで、本年は、日本の三大オペラ団体である、「新国立劇場」、「東京二期会」、「藤原歌劇団」でそれぞれ取り上げられます。そのトップバッターが新国立劇場。今回で五度目となる栗山民也の舞台。オペラウォッチャーとしては無視できない、ということで、新国立劇場に出かけてまいりました。

 さて、会場が暗くなり、指揮者が登場してオーケストラが前奏曲を奏でます。「えっ」、驚きました。凄く良いんです。低音にやや重きを置いた緊張感のある演奏で、前奏曲を聴いただけで、今回の女流指揮者ケリー=リン・ウィルソンの才能が分かるようです。このまま行ってくれれば凄い良い舞台になるな、とワクワクしながら聴いておりました。ところがどっこいそうはいかないのが、オペラの舞台です。

 ピンカートンが登場し、最初の一声を発した途端、この緊迫感が崩れました。アガフォノフ。声は大きいけれど、自分で音楽の緊迫感を感じ取ることが出来ない方のようです。デリカシーが感じられない方です。確かにピンカートンは能天気な悪役ですから、能天気な歌を歌うことで構わないと思いますが、それはあくまで、能天気な海軍士官を演じることであって、何も考えずに能天気に歌って良いということにはなりません。

 しかし、彼は、舞台の雰囲気や音楽の緊迫感とはほとんど関係無い様に自分の歌を歌ってしまい、そちらに音楽全体の流れを「捻じ曲げて」しまいました。蝶々夫人が登場しても、結局その雰囲気に流されてしまい、蝶々夫人が全然光って来ないのです。また蝶々さんを歌われたブルガリドゥという方も、どうも雰囲気に呑まれやすいタイプらしく、第一幕は声の伸びがない感じでした。

 結局のところ第一幕で、「これ位歌って頂ければOKかな」、と思ったのはフィナーレの愛の二重唱の後半ぐらいからで、それまでは全く納得できない感じでした。

 二幕は、ピンカートンが登場しないお陰で、一幕よりずっとまともな展開でした。それでもヴルガリドゥは、高音に伸びが無く低音に迫力のあるタイプのソプラノなので、例えば「ある晴れた日に」などは、あまり魅力的ではありません。一方で、ピンカートンに裏切られたことを知ってからの絶望の歌唱は大変立派なもので良かったと思いました。ただ、蝶々さんの魅力を見せるのであれば、高音にも力のある歌手を選んだ方が良かったのではないかという気がします。

 全体の構図はパワフルなアガフォノフ・ピンカートンを他の方々が抑えられなかった、という感じです。

 さて、脇役勢ですが、こちらは総じて立派。甲斐栄次郎のシャープレスと大林智子のスズキは、前回の2011年に引き続きの登場で、流石に舞台に慣れている感じです。甲斐のシャープレスは落ち着いた歌唱で、アガフォノフ・ピンカートンの能天気さと対照的で良く目配りが効いているように思いました。大林智子のスズキも深みのある歌い方で、ともすればよれよれになる蝶々さんをしっかり支えて立派でした。

 内山信吾のゴローは前回の高橋淳ほど尖った感じはありませんが、勿論結構な歌唱。志村信彦ボンゾ、小林由樹ヤマドリもしっかり自分の役目を果たしていたと思います。小野和歌子のケートも存在感がありました。

 合唱も結構で、主役二人がもう少しお互いとのバランスを取りながら、指揮者の意図に合わせた歌唱をすれば、かなり素敵な舞台になったのではないかという気がします。そこの感性の欠落が、残念な舞台の原因かもしれません。

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鑑賞日:201429
入場料:B席 6000円 2F 229

文化庁文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)

主催:東京オペラ・プロデュース

東京オペラ・プロデュース第93回定期公演

オペラ5幕、字幕付原語(フランス語)上演
グノー作曲「ミレイユ」Mireille)
原作:フレデリック・ミストラル
台本:ミシェル
・カレ

日本初演

会場 新国立劇場・中劇場

指 揮 飯坂 純
管弦楽 東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団
合唱指揮 伊佐地 邦治/中橋 健太郎左衛門
合 唱 東京オペラ・プロデュース合唱団
演 出 池田 理代子
美 術 土屋 茂昭
衣 裳 清水 崇子
照 明 成瀬 一裕
舞台監督   八木 清市
プロデューサー  竹中 史子

出 演

ミレイユ   江口 二美 
ヴァンサン   土師 雅人 
タヴァン   磯地 美樹 
ウーリアス   三塚 至
ラモン 笠井 仁
アンブロワーズ   白井 和之
ヴァンスネット   小野さおり
クレマンス   森川 泉
アンドルルー   佐藤 篤子
渡し守   加藤 史幸
アルル人   小林 涼

 

感 想

日本初演であることの不思議 -東京オペラ・プロデュース「ミレイユ」を聴く

 グノーは生涯12作のオペラを作曲したそうですが、現在良く演奏されるのは、「ファウスト」と「ロメオとジュリエット」の二作に限られています。「ミレイユ」はその次に有名な作品のようですが、私は録音も含めて聴いたことがありません。日本では、アトリエ・デュ・シャンというグループが何回かに分けて演奏していますが、全曲を纏めて演奏したのは、今回が初めてのようです。

 さて、全曲を通して聴いて思うのは、何故この曲が今まで演奏されてこなかったのだろうという素朴な感想です。もの凄い名曲だとは思いませんが、全曲を通して親しみやすい音楽が続き、聴きにくいオペラでも詰まらないオペラでもありません。東京オペラ・プロデュースは日本初演の知られざるオペラ作品を上演することに特徴を見せる団体で、必ずしも面白い作品だけを取り上げているわけではありません。しかしながら、ミレイユはこれまで彼らが取り上げた作品の中でも、聴衆を飽きさせないという点で、一、二を争う傑作であると思います。聴けて良かったと思います。

 さて、演奏ですが、全体的に見れば、日本初演として果たすべき役割は果たしたと思います。少なくとも私は楽しく聴けたわけですから。でも十分かといえば勿論そんなことはありません。個別に見て行けば、もう少し何とかならないのかな、と思う点が多々ありました。

 外題役のミレイユを歌った江口二美。体当たりの演技で、見た目も良く、雰囲気もフランスの田園美人という感じを出して表情も素敵で、プリマドンナオペラのプリマドンナ役をしっかり果たしたと申し上げてよいのでしょう。ただ、役に没頭しているとは思うのですが、ヴィブラートがかかりすぎていて、音程を正しく取れているのかどうかがよく分からない、というのが気になりますし、高音が総じてキンキン響いてしまうのが今一つ残念です。総じて歌に力が入りすぎていて、その分正確さが損なわれた感じがいたしました。

 土師雅人のヴァンサンも今一つの感じ。彼の声は、テノーレ・リリコ・スピントで、力強い表現を得意とする方ではありますが、それだけで全曲を通してきている感じです。最初のミレイユとの幸福な日常の部分と、ミレイユの死に直面した時の表現に違いを感じられない。また、彼の胸で押す感じの声は、このオペラの前半の楽しい雰囲気に適切なのでしょうか? そのあたりに違和感を覚えずにはいられませんでした。

 一方磯路美樹のタヴァンが素敵。声に存在感がありますし、声の深みのある色合いもこの役柄に合っているように思いました。レシタティーヴォによる冒頭のミレイユとの二重唱でその存在を十分に示し、「忠告のシャンソン」で、味のあるところを見せました。Bravaです。後半のウーリアスに呪いをかけるところなどで、もう少し存在感あるともっと良かったと思います。

 ウーリアスの三塚至もよかった。このオペラの第一の敵役ですが、憎々しげでないところがよい。運の悪い恋のライバル役に過ぎない訳ですから、呪いをかけられて、溺れ死ぬという役柄は考えてみると可哀相であります。三塚は、恋のライバルという点に重心を置いた歌唱で、若々しく張りのあるバリトン声で、そのライバル心を美しく表現されました。

 その他の脇役陣ですが、笠井仁の父親は、役が十分に自分の身体にしみついていない感じ。彼自身の戸惑いが歌に現れているように思いました。白井和之のアンブロワーズもどこか一歩踏み込めない歌になっていたように思いました。小野さおりのヴァンスネットは素敵で、第4幕でのミレイユとの二重唱が美しく響きよかったと思います。

 あと良かったのが合唱。この作品は合唱がとても大事な作品のようですが、導入部の合唱からフィナーレの祈りの合唱まで、合唱が登場すると、舞台の音楽がずっと豊穣になる感じで私は非常に満足致しました。

 オーケストラの演奏は、合せが不十分だったのか、個人練習が足りなかったのか、元々演奏の難易度が高いのか、その辺はよく分かりませんが、ミスは随分あったように思います。元々この作品を知らないので、よくは分かりませんが。

 池田理代子の演出は乏しい予算の中、よく頑張られたな、というところです。斜面の回り舞台とホリゾント吊りした絵の組合せで、5幕8場の舞台の違いを上手く見せていたと思います。唯、登場人物の動かし方は、舞台の中央で正面を向いて歌う、というスタイルからのヴァリエーションが少ないのかな、という気はしました。歌っていない方をどのように演技させるか、だと思いますが、そのあたりまで目配りが効いているとは言えない舞台のように思いました。

 いろいろと書きましたが、日本初演のオペラを楽しみました。グノーの音楽が素敵なことがまずはあると思いますが、舞台を作り上げて来たスタッフ・キャスト達がそのような舞台に仕上げたことは間違いありません。楽しませて頂きました。

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鑑賞日:2014220
入場料:B席 6000円 3F 439

主催:公益財団法人石川県音楽文化振興事業団/東京芸術劇場/公益財団法人東京交響楽団

オペレッタ3幕、字幕付歌唱原語(ドイツ語)、台詞日本語&ドイツ語上演
ヨハン・シュトラウス作曲「こうもり」Die Fledermaus)
原作:アンリ・メイヤック/リュドヴィック・アレヴィ
台本:カール・ハフナーとリヒャルト・ジュネ
上演台本:アンティ・キャロン
日本語台本:小宮正安

会場 東京芸術劇場コンサートホール

指 揮 ハンス・リヒター
管弦楽 東京交響楽団
合唱指揮 横山 修司
合 唱 武蔵野音楽大学合唱団
演 出 佐藤 美晴
舞台美術 柴田 隆弘
衣 裳 今井 沙織里
照 明 伊藤 雅一
音 響   石丸 耕一 
舞台監督 黒柳 和夫
芸術アドヴァイザー  :  メラニー・ホリディ 

出 演

アイゼンシュタイン(証券ディーラー) ペーター・ボーディング
ロザリンデ(日本人妻)  小川 里美
アデーレ(家政婦) 小林 沙羅
ファルケ(証券ディーラー) セバスティアン・ハウプマン
ブリント(日本人の弁護士) 

: 

新海 康仁 
フランク(警部) 妻屋 秀和
オルロフスキー(イベントプロデューサー) タマラ・ダーラ
アルフレード(ファッションデザイナー) ジョン・健・ヌッツォ
フロッシュ(警部補) 西村 雅彦
2幕のスペシャル・ゲスト  :  メラニー・ホリディ 

感 想

設定が先、それともキャスティング? -石川県立音楽堂×東京芸術劇場共同制作公演「こうもり」を聴く

 設定が先だったのでしょうか? それともキャスティング? 今回の「こうもり」の舞台は、東京という設定。ロザリンデは元ファッションモデルの若妻。このロザリンデを長身・美貌のソプラノ、小川里美が務めました。ヴィジュアル的にも正にはまり役。小川をロザリンデにキャスティングする前提で元ファッションモデルという設定があったのか、それともこの設定に似合うソプラノを探して小川を選んだのか? どちらかは分かりませんが今回の舞台に小川は凄く似合っていました。

 歌も素敵、非常に高いところは苦手なようで、今一つのところはあるのですが、中音部や中高音部の密度や質感はとっても素敵伸びやか。二幕のチャルダーシュなどはとても良いと思います。演技も一寸臭いですが、そこがまたよいと思います。昔の恋人アルフレードがやって来て、亭主気分でまとわりつくときの嫌そうな表情などは、女優的でもありますし、全体的にスタイリッシュでカッコいいと思いました。

 ロザリンデだけにとどまらず、出演者たちは、それぞれそれなりの味わいがあってよかったと思います。

 小林沙羅のアデーレ。歌は勿論結構だったのですが、一幕の掃除のおばさん的衣裳と、二幕以降のドレスとのギャップが見事。更にどちらの衣裳とも小林に似合っていないところがまた御愛嬌です。掃除のおばさんの制服は、小林の個性には向かないということなのでしょうし、二幕のドレスは、正に奥様のドレスを借りて来た感じが終始付きまとい、野暮ったい。あの野暮ったさを見せるのが演出の目的だったのでしょうね。

 アイゼンシュタインのボーディングは、ヨーロッパで何度もアイゼンシュタインを歌っている方だそうですが、どこはかとなくオペレッタの雰囲気を出せる歌い手。酒と女には目が無いという感じが出せて結構。ファルケ役のハウプマンも狂言回しの役目を果たしました。

 ジョン・健・ヌッツォのアルフレードですが、彼はオペラよりもオペレッタやミュージカルに適性がある方ではないかと昔から睨んでいたのですが、今回のアルフレードも素敵です。その他、あんまりスムーズな演技ではなかったけど妻屋秀和のフランク、もう少し笑いを取れるように滑って欲しかったブリントの新海康仁、イベントプロデューサーというよりは、ロシアの皇太子の雰囲気が認められたダマラ・ダーラなどが出演しました。

 第二幕ではスペシャル・ゲストとしてメラニー・ホリディが登場し、ウィーン民謡を歌いました。1980年代から90年代にかけて、ウィーン・フォルクスオーパの看板歌手として何度も来日しました。私も彼女のヴァランシェンヌを聴いていますが、今でも美脚が頭まで上がるパフォーマンスに感心しました。

 フロッシュも良いですね。西村雅彦。彼のような性格俳優の演技を見ると、オペラ歌手の演技と俳優の演技とは画然とした差があるなという印象。今回は最近のニュース(大雪の話題、佐村河内問題、ソチ五輪、消費税アップ)の記事をホワイトボードに張って、アドリブで読み上げながらクダを巻くというのをやっていましたけど、こういうのも新鮮でした。

 リヒターの指揮は、溜をいっぱい作った割とゆったりとした感じでした。舞台を現代の東京に置くのであれば、もう少し、音楽にスピード感が合っても良いのではないかと思いました。二幕のオルロフスキーのウィーン風の夜会は、現代の効率第一の社会ではなくて、「古き良き時代を見直そう」というコンセプトで開かれているのですが(だから、古き良きウィーンを感じさせる民謡をホリディが歌う)、そこがウィーン風になるのは良いと思うのですが。

 台詞部分の台本は簡潔で良かったと思います。おかげでつなぎ部分が緩まない。演出は、都会的な雰囲気が良く出ていて悪くないと思いましたが、細かいところの詰めが甘い感じです。例えば、ファルケがオルロフスキーの夜会に誘うのは、スマホのメールを使うわけですが、ロザリンデがメールを受け取ったところがはっきり分からないであるとか、第三幕で、アデーレがフランクに「パトロンになって」とねだる場面で、音楽への入り方が一寸性急であるとか、同じ三幕で、弁護士に化けたアイゼンシュタインがアルフレードとロザリンデに対して怒る三重唱の入り方や終わり方などがスムーズさが今一つ足りないなどがありました。

 「こうもり」は第三幕の組み立て方が難しいオペレッタだと昔から思っていましたが、新進気鋭の演出家にとってもなかなか厄介だったということなのでしょう。

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