オペラに行って参りました-2018年(その1)

目次

調子良好 2018年1月8日 Voce D'oro Professionale「ニューイヤー・ガラ・コンサート~名曲はゆとりの香り~2018」を聴く
演出の視点 2018年1月20日 「党主税バリトンリサイタル」を聴く
再演の安定感 2018年1月21日 新国立劇場「こうもり」を聴く
ドロドロの人間関係 2018年1月28日 藤原歌劇団「ナヴァラの娘」/「道化師」を聴く
与ひょうのつうへの愛 2018年2月17日 日本オペラ協会「夕鶴」を聴く
古典への知識のなさを痛感する 2018年2月18日 新国立劇場「松風」を聴く
頑張りの限界 2018年2月24日 東京二期会オペラ劇場「ローエングリン」を聴く
共産主義とジャズと 2018年3月2日 絨毯座「マハゴニー市の興亡」を聴く
メロディーメーカーとしてのオッフェンバック 2018年3月3日 新国立劇場「ホフマン物語」を聴く
ドタバタ喜劇を歌う難しさ 2018年3月10日 新国立劇場オペラ研修所公演「イル・カンピエッロ」を聴く

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2017年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2017年
2016年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2016年
2015年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2015年
2014年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2014年
2013年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2013年
2012年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2012年
2011年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2011年
2010年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2010年
2009年 その1 その2 その3 その4   どくたーTのオペラベスト3 2009年
2008年 その1 その2 その3 その4   どくたーTのオペラベスト3 2008年
2007年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2007年
2006年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2006年
2005年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2005年
2004年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2004年
2003年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2003年
2002年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2002年
2001年 その1 その2       どくたーTのオペラベスト3 2001年
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年

鑑賞日:2018年1月8日

入場料:自由席 4000円

主催:ヴォーチェ・ドーロ・プロフェッスィオナーレ

Voce D'oro Professionale ニュー イヤー ガラ コンサート
~名曲はゆとりの香り~2018

会場:いずみホール

出演

ピアノ あずま みのり
ソプラノ 小林 真由美
ソプラノ 柴山 晴美
ソプラノ 久田 み子
メゾソプラノ 立川 かずさ
メゾソプラノ 三橋 千鶴
テノール 青地 英幸
テノール 浅原 孝夫
テノール 小林 祐太郎
テノール 渡辺 敦
バリトン 笠井 仁
バリトン 平尾 弘之  

 プログラム

番号 作曲家 作品名 歌手
  宮城道雄~上眞行 春の海~1月1日 全員
1 トスティ マレキアーレ 渡辺 敦
2 レオンカヴァッロ 朝の歌 浅原 孝夫
3 ベッリーニ 歌劇「清教徒」よりエルヴィラのアリア「私は愛らしい乙女」 久田 み子
4 ベッリーニ 歌劇「清教徒」よりリッカルドのアリア「ああ、永遠に君を失ってしまった」 平尾 弘之
5 ベッリーニ 歌劇「カプレーティ家とモンテッキ家」よりジュリエッタのアリア「ああ、幾たびか」 柴山 晴美
6 ドニゼッティ 歌劇「愛の妙薬」よりネモリーノのアリア「人知れぬ涙」 青地 英幸
7 ヴェルディ 歌劇「マクベス」より、マクベスのアリア「哀れみも、誉も、愛も」 笠井 仁
8 ヴェルディ 歌劇「ルイザ・ミラー」よりロドルフォのアリア「穏やかな夜には」 小林 祐太郎
9 バーンスタイン ミュージカル「ワンダフルタウン」よりエイリーンの歌う「恋にも少し」 三橋 千鶴
10 ヴェルディ 歌劇「リゴレット」よりマントヴァ公のアリア「風の中の羽根のように」 浅原 孝夫
11 プッチーニ 歌劇「蝶々夫人」より蝶々さんとスズキの二重唱「桜の枝を揺さぶって」 小林 真由美/立川 かずさ
休憩
12 ヴェルディ 歌劇「シモン・ボッカネグラ」よりガブリエーレのアリア「畜生め! アメリアがここに」 渡辺 敦
13 ヴェルディ 歌劇「リゴレット」よりジルダのアリア「慕わしき人の名は」 久田 み子
14 シャンパルティエ 歌劇「ルイーズ」よりルイーズのアリア「あの日から」 柴山 晴美
15 ドニゼッティ 歌劇「ラ・ファヴォリータ」よりレオノーラのアリア「愛しいフェルナンドよ」 立川 かずさ
16 エスペロン 愛しい人 小林 祐太郎
17 ヴェルディ 歌劇「イル・トロヴァトーレ」よりルーナ伯爵のアリア「君の微笑み」 平尾 弘之
18 ベルリオーズ 歌劇「ベアトリスとベネディクト」よりベネディクトのアリア「ああ、彼女を愛してしまいそうだ」 青地 英幸
19 ヴェルディ 歌劇「仮面舞踏会」よりレナートのアリア「お前こそ心を汚すもの」 笠井 仁
20 デイブマロイ ミュージカル「ナターシャ、ピエールと1812年の大彗星」より、ナスターシャの歌う「他に誰もいない」 三橋 千鶴
21 カタラーニ 歌劇「ワリー」よりワリーのアリア「さようなら故郷の家よ」 小林真由美
アンコール ヴェルディ 歌劇「椿姫」よりアルフレードとヴィオレッタの二重唱「乾杯の歌」 全員
アンコール レハール オペレッタ「メリー・ウィドウ」よりダニロとハンナの二重唱「唇は閉ざしても」 全員

感 想

新年のお楽しみ-「Voce D'oro Professionale ニュー イヤー ガラ コンサート~名曲はゆとりの香り~2018」を聴く

 ヴォーチェ・ドーロ・プロフェッスィオナーレのニューイヤーガラコンサート、この何年か、毎年聴かせて貰っています。このコンサートの魅力は、メジャーなオペラ公演等ではあまりお目にかかれない歌手の歌を楽しめることと、選曲もちょっと変わっていることです。出演者は例年ほぼ一緒なのですが、本年は、昨年出演されていなかった笠井仁が二年ぶりで登場しました。曲に関しては、今回の聴きどころは、小林祐太郎が歌った「愛しい人」と三橋千鶴の「ほかに誰もいない」でしょうか。 「愛しい人」は楽譜がどうしても見つからなかった曲を記憶で譜面に起こして歌ったという珍曲です。また、「愛しい人」に関しては、2012年に初演、2016-2017年シーズンにブロードウェイにてロングランされたミュージカルですが、早速三橋千鶴が紹介下さったこと、になります。

 それ以外の曲も「人知れぬ涙」であるとか、「女心の歌」のような有名なアリアもありますが、ややマイナーな曲が多く楽しめました。

 今年聴いていて嬉しかったのは、不調な方がいらっしゃらなかったことです。もちろん実力的にはいろいろある訳ですけど、自分の力の範囲の中で皆さん立派なパフォーマンスを見せてくれたという点でこのシリーズの中では一番素晴らしい演奏会だと申し上げてよいと思います。例えば、例年出演されている浅原孝夫ですが、私の聴いた中では本年が一番好調だったと思いますし、例年安定している青地英幸は今年も立派な歌唱。一年ぶりに復活した笠井仁のバリトンも大変素敵でした。女声陣も小林真由美、柴山晴美、久田み子、立川かずさ、皆よかったと思います。

 歌そのものとして楽しめたのは、「朝の歌」、「ああ、幾たびか」、「人知れぬ涙」、「哀れみも、誉も、愛も」、「恋にも少し」、「女心の歌」、「慕わしき人の名は」、「あの日から」、「愛しのフェルナンド」、「ああ、彼女を愛してしまいそうだ」、「ほかに誰もいない」でした。

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鑑賞日:2018年1月20日

入場料:自由席 5000円

主催:公益財団法人 五島記念文化財団/後援、マネジメント:公益財団法人 日本オペラ振興会

五島記念文化賞オペラ新人賞研修記念
党主税バリトンリサイタル

会場:トッパンホール

スタッフ

第一部ピアノ/第二部指揮 仲田 淳也
第二部ピアノ 松本 康子
ヴァイオリン 工藤 ゆかり
チェロ 井尻 兼人
フルート 宗像 律
演出 松本 重孝
照明 成瀬 一裕
美術・衣裳 荒田 良
音楽スタッフ 今野 菊子

出演

バリトン/ジル 党 主税
スザンナ 党 静子
サンテ 柴山 秀明

プログラム

作曲 作品名 歌曲名
第一部
トスティ   魅惑
トスティ   君なんかもう愛していない
ロッシーニ ブルスキーノ氏 ガウデンツィオのアリア「大きな世界という劇場の中で」
モーツァルト フィガロの結婚 アルマヴィーヴァ伯爵のアリア「勝訴しただと!」
チレア アドリアーナ・ルクヴルール ミショネのアリア「さあ、モノローグだ」
ジョルダーノ アンドレア・シェニエ ジェラールのアリア「祖国の敵」
第二部
ヴォルフ=フェラーリ スザンナの秘密(Il segreto di Susanna) 全曲、字幕付原語(イタリア語)上演、台本:エンリコ・ゴリシアーニ

感 想

演出の視点-「党主税バリトン・リサイタル」を聴く

 党主税は真面目な歌手なのだろうな、ということを今回リサイタルを聴いての再認識しました。党の歌唱は、オペラも歌曲もこれまで何度も聴いていて、一番印象に残っているのが、2009年「愛の妙薬」のドゥルカマーラ。あのショッピングモールを舞台にした読み替え演出は、ドゥルカマーラの詐欺師っぽさの表出がちょっと上手くいってなかったこともあり、この方の生真面目さを感じたことを覚えています。

 今回のリサイタルは党のこれまでのオペラ歌手としての歴史と未来、それにイタリアで学んできたことの報告を兼ねた演奏会であり、それだけ準備をしたうえで臨んでいると思います。それでも緊張は隠せなく、前半は相当ガチガチでした。立派な演奏だったとは思いますが、結果として彼の考えていたパフォーマンスは出し切れなかったのかな、というのが率直な感想です。

 前半の歌曲とオペラアリアですが、最初のトスティの二曲。私の好みとしてはもっと抑えた表情の方がよかった感じがします。身体もいっぱいに使った表現は、イタリア的と言えばイタリア的ですが、表情が濃すぎる感じです。フォルテやピアノはあるけどメゾピアノはないという感じでしょうか。 「ブルスキーノ」のアリアはもう少し落ち着いて、技巧をしっかり聴かせてくれた方がよかったと思います。一方、フィガロの結婚の伯爵のアリアとミショネのアリアはどちらもとても立派な歌。伯爵は怒りと疑惑のバランスが取れていて大変立派。ミショネのアリアはミショネの感情の表出の加減がちょうどよい感じで、とても素敵でした。一方、ジェラールのアリア。立派なのですが、歌への入り込み方に役柄と少し距離がある感じがしました。

 後半の「スザンナの秘密」。楽しめました。

 なかなか聴けない作品で、わたしは二度目の経験です。出演者が三人だけの一幕もの、ということで、ピアノ伴奏で演奏されることが多いのですが、本来は二管編成のオーケストラ伴奏が付いています。今回はピアノトリオにフルートが入るという編成での伴奏。フルートがとても活躍されていました。党静子のスザンナ、党主税のジルは実の夫婦だけあってか息がよくあっていて、役柄上の距離感が上手に取られていてよかったと思います。歌唱に関しても、党主税の大きな体でコミカルに歌う感じも、党静子の高音の伸びもよく、見事だったと思います。

 もう一つよかったのは、柴山秀明のサンテ。黙役ですが、演技が堂に入っていて、ジルとスザンナの夫婦に対するクサビ役をしっかり果たされていました。

 今回の上演、伴奏こそフルではありませんが、演出、美術、照明、衣装は専門家チームであり舞台の仕上がりがよかったと思います。松本重孝の演出は、ジルの疑心を強調したもの。奥さんの浮気を心配するジルの表情にフォーカスしている演出は喜劇の王道を感じました。

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鑑賞日:2018年1月21日;

入場料:C席 3F 2列48 番 6804円


主催:新国立劇場

全3幕 日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
ヨハン・シュトラウスⅡ世作曲「こうもり」Die Fledermaus)
原作:アンリ・メイヤック/ルドヴィック・アレヴィ
台本:カール・ハフナー/リヒャルト・ジュネー


会場:新国立劇場オペラパレス

スタッフ

指揮  :  アルフレード・エシュヴェ   
管弦楽  :  東京交響楽団 
合唱  :  新国立劇場合唱団
合唱指揮    三澤 洋史 
バレエ  :  東京シティ・バレエ団 
演出  :  ハインツ・ツェドニク 
美術・衣裳  :  オラフ・ツォンベック 
振付  :  マリア・ルイーズ・ヤスカ 
照明  :  立田 雄士 
再演演出  :  アンゲラ・シュヴァイガー 
振付補  石井 清子 
舞台監督  :  高橋 尚史 
音楽ヘッドコーチ  :  石坂 宏
芸術監督  :  飯守 泰次郎 


出演

ガブリエル・フォン・アイゼンシュタイン  :  アドリアン・エレート 
ロザリンデ  :  エリザベート・フレヒル 
フランク  :  ハンス・ペーター・カンマーラー 
オルロフスキー公爵  :  ステファニー・アタナソフ 
アルフレード  :  村上 公太 
ファルケ博士  :  クレメンス・ザンダー 
アデーレ  :  ジェニファー・オローリン 
ブリント博士  :  大久保 光哉 
フロッシュ  :  フランツ・スラーダ 
イーダ :  鵜木 絵里 

感想

再演の安定感-新国立劇場公演「こうもり」を聴く

  新国立劇場の「こうもり」の舞台。この舞台、本当に好きかと問われたら、クエスチョンマークが付きますが、でも日本で聴ける「こうもり」としては、ほぼ最高を維持していると申し上げて間違いない。再演の強みがこれほどがっちりとまとまった舞台は私は知りません。とにかく流れがスムーズで、「こうもり」というオペレッタの面白さを十分に知らせる舞台です。

 主要キャストの変更が少ないのが強みです。前回の2015年1月公演と比較したとき、指揮者が同じ。スタッフもほぼ一緒、アイゼンシュタインとアデーレとファルケが一緒。日本人組のブリント大久保光哉とアルフレード村上公太も同じ。ここまで一緒で、アドリブをあまり使わない公演ですから、もう嵌っている感がありすぎて怖いほどです。2015年も非常にまとまっていてよい舞台だったのですが、今回はまとまりすぎていて逆に退屈になってしまうほどで、ここまで行くと何かなあ、と思ってしまう部分もあるのですが、もちろんこれは贅沢な文句です。

 2015年公演について、私は簡単に申し上げて3つの点を評価しました。即ち、

1) 再演を繰り返したことによる全体的な水準の向上
2) 主要出演者がオペレッタ出身者とオーストリア出身者で占められ、「こうもり」のことを肌で知っていること。
3) オペレッタの専門家も多く、どう表現すればよいか知っている。

 この3つは、今回の「こうもり」の演奏でも同様であり、結果として立派な「こうもり」として成立したものと思います。

 個別の歌手については、今回ロザリンデを歌ったフレヒルがまず立派。フレヒルはウィーン・フォルクスオーパの専属で、2016年の日本公演でもロザリンデを歌ったそうですが、さすがの貫禄です。「チャールダーシュ」が見事なこと。鳥肌が立ちそうでした。彼女全体の雰囲気は全体として舞台になじんでいます。歌唱技術だけで見れば彼女以上のロザリンデ歌いは何人もいると思いますが、醸し出す雰囲気やその微妙な下品さ加減はフォルクスオーパで活動しているこそだと思いました。

 もう一人上げるとしたら村上公太のアルフレード。村上のリリックな質感の声は、アルフレードによく似合っておりますし、その中で彼がアドリブで歌ったオペラアリアは、断片ではありますが、それぞれ魅力的なものでした。

 フローシュもよかったのですが、演じたのは2009年公演、2011年公演でも演じているフランツ・スラーダ。前回はお休みでしたが、この方の安定感も「この舞台をよく知っているから」、というのがあると思いました。一方で今一つだったのは、アタナソフのオルロフスキーでしょうか。彼女は今回初めての登場で、まだこの舞台へのなじみ方が今一つという感じです。歌が悪いということではないのですが、もうすこし本番を重ねていくと、更によくなるように思いました。

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鑑賞日:2018年1月28日;

入場料:B席 3F 1列12 番 9800円


主催:公益財団法人日本オペラ振興会/公益財団法人日本演奏連盟

藤原歌劇団公演

全2幕 日本語字幕付原語(フランス語)上演(ウジェル版)
マスネ作曲「ナヴァラの娘」La Navarraise)
原作:ジェラール・クラルティ「煙草」
台本:ジュール・クラルティ/アンリ・カーン

全2幕 日本語字幕付原語(イタリア語)上演(ソンゾーニョ版)
レオンカヴァッロ作曲「道化師」I Pagliacci)
台本:ルッジェーロ・レオンカヴァッロ

会場:東京文化会館大ホール

スタッフ

指揮  :  柴田 真郁   
管弦楽  :  東京フィルハーモニー交響楽団 
合唱  :  藤原歌劇団合唱部
合唱指揮    須藤 桂司 
児童合唱  :  多摩ファミリーシンガーズ
児童合唱指導    高山 佳子 
アクロバット  :  油布 直輝 
演出  :  マルコ・ガンディーニ 
美術  :  イタロ・グロッシ 
衣裳  :  シモーナ・モッレージ 
照明  :  奥畑 康夫 
舞台監督  :  斉藤 美穂 

出演

ナヴァラの娘

アニタ  :  西本 真子 
アラキル  :  持木 弘 
レミージョ  :  大塚 雄太 
ガリード  :  村田 孝高 
ラモン  :  松岡 幸太 
プスタメンテ  :  安東 玄人
兵士  :  三浦 大喜 

道化師

カニオ  :  藤田 卓也 
ネッダ  :  佐藤 康子 
トニオ  :  須藤 慎吾 
ペッペ  :  澤﨑 一了 
シルヴィオ  :  岡 昭宏 
農夫  :  江原 実/山内 政幸

感想

ドロドロの人間関係-藤原歌劇団公演「ナヴァラの娘」/「道化師」を聴く

  ヴェリズモオペラ二本立てというと、「カヴァレリア・ルスティカーナ」と「道化師」との組み合わせと決まっています。確かにどちらも名作ですし、作曲時期も近いイタリアオペラですので、組み合わせしやすいのでしょうね。確かにこの二本、似たテイストですし、組み合わせるには絶好の相手ですが、ストーリーはもちろん全く関係がありません。だから、あまり数は多くないけど単独で上演されることもあれば、他の作品と組み合わされることもあります。今回藤原歌劇団は、「道化師」と「ナヴァラの娘」という組み合わせで来ました。

 マスネはフランスの後期ロマン派を代表するオペラ作曲家で30作以上のオペラを作曲したそうですが、日本で上演されるのは、「マノン」、「ウェルテル」、「サンドリアン」位で、「ナヴァラの娘」は今回日本初演になるらしい。フランス・オペラと言えば、アトリエ・デュ・シャンというグループが抜粋でいろいろな作品を取り上げていますが、そこでも演奏されていないので、多分正真正銘の日本初演でしょう。私は録音でも聴いたことのない、正真正銘の初聴でした。

 とにかく展開の速い濃密な作品です。演奏時間がほぼ50分。多分この内容であれば、普通の作曲家は、1時間30分ぐらいの作品に仕上げるように思います。もちろん2時間だってありうる。それを50分という中に詰め込むのですから、余計な部分は全部そぎ落とされて、音楽とストーリーにとって重要な部分だけが残る。それでいて、アニタとアラキルだけではなく、レミージョ、ガリード、プスタメンテ、合唱まできっちりと役目が与えられて、それぞれ存在感がある。なぜ、今まで日本で上演されてこなかったのかが不思議なくらいです。

 演奏は、主役の「ナヴァラの娘」アニタを歌った西本真子が頑張りました。両日聴いた方の話では、初日の小林厚子とはまた違ったアプローチだったそうですが、表に情熱をぐいと出すような表現で、そのストレートな情念の出し方がよかったと思います。かなり濃厚な歌唱でした。

 対する持木弘のアラキル。完璧な歌唱ではなかったと思いますが、やはり濃厚な歌唱。藤原歌劇団現役テノール歌手の中ではほぼ最高齢の66歳という年齢ながら、素晴らしい声を聴かせてくださいました。もともと美声な方ですが、その厚みのある中音は健在で、アニタとぶつかり合うとき、アニタの情念をより引き立てるような気がします。

 一方父親役の大塚雄太。今年30歳の若手。若々しい美声で、音量もあり、表現も明確な素晴らしい歌。これからの藤原を引っ張っていく若手バリトンになることは間違いないと思いましたが、さすがにベテラン・持木と絡むと、ちょっと清新すぎる感じです。悪役なのですが、悪役に見えないのが玉に瑕。

 村田孝高のガリードはオペラの冒頭で重要な役割と果たします。村田は東京オペラ・プロデュース公演で何度も聴いていますが、声に力のある方で、今回もその特徴が生かされました。ただ、今回は主役の二人のパワーに対抗しようとする意識が少し強かったのか、そこがやや歌唱に対するバランスに影響を与えているように思いました。

 オペラのストーリーにはあまり関係ないのですが、このほか、安東玄人のプスタメンテや男声合唱も迫力があって魅力的で楽しめました。

 柴田真郁の指揮は歌手に寄り添った分かりやすいもので、東京フィルもフォルテをしっかり響かせるパワフルなもの。それらまですべて含んで、日本初演の公演を見事に締めくくりました。Braviです。

 後半の「道化師」。こちらも立派な演奏。ただ、全体的に格好良すぎて、「道化師」という作品の持つ本質的ないやらしさが薄くなっていた感じがします。

 その原因は須藤慎吾のトニオにあります。トニオは屈折したキャラクターで、役どころとしては醜男でネッダに振られたことの腹いせにシルヴィオとネッダとの密会をカニオに見せる、下種な役回りです。須藤はそういう役をやるには格好良すぎるのです。プロローグは燕尾服で出てきて格好良く決め、あとはいやらしさ全開となればよかったのですが、なかなかそうはいかない。歌唱は藤原の中堅バリトンとして押しも押されもせぬ存在だけあって大変立派なのですが、見た目が格好良すぎるのが、ちょっと違うのかな、という印象でした。

 そういう意味で、藤田卓也のカニオも今一つ迫力に欠けます。藤田も二枚目なんですよね。カニオの凶行の背景にはネッダへの執着心は当然あるのですが、その下地には「旅回りの一座の座長としてメンバーをしっかり掌握できていないのではないか」という意識がある。そこが、「衣裳を着けろ」に出せれば鬼に金棒なのでしょうが、藤田の「衣裳を着けろ」は、パワフルだし立派なのですが、すっきりしていて、カニオの引きずっていたものを表現できたのか、と言えば難しかったかもしれません。

 佐藤康子のネッダはよかったです。ネッダの持つ屈折がよく伝わってきたと思います。脇役の澤﨑一了のペッペは大きな体に似合わず動きが俊敏でよかったですし、歌唱もカニオと対照的な声の出し方でよく、岡昭宏のシルヴィオもよかったです。

 今回の二本立て。どちらも「どろどろ」の人間関係を描いて悲劇に終わります。そのドロドロさ加減をより明確に表現できたのは「ナヴァラの娘」でした。「道化師」は音楽的には楽しめましたが、演出的にはもっとドロドロでもよかったのかもしれません。

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鑑賞日:2018年2月17日;

入場料:B席 1F 19列53 番 8000円

文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)/2018都民芸術フェスティバル参加公演

主催:公益財団法人日本オペラ振興会/公益財団法人日本演奏連盟
共催:公益財団法人新宿未来創造財団
 

日本オペラ協会公演
日本オペラシリーズNo.78

全1幕 日本語字幕付原語(日本語)上演
團伊玖磨作曲「夕鶴」
作:木下順二「夕鶴」

会場:新宿文化センター大ホール

スタッフ

指揮  :  園田 隆一郎   
管弦楽  :  東京フィルハーモニー交響楽団 
児童合唱  :  こどもの城児童合唱団
児童合唱指導    吉村 温子 
演出  :  岩田 達宗 
美術  :  島 次郎 
衣裳  :  半田 悦子 
照明  :  原中 治美 
舞台監督  :  菅原 多敢弘 

出演

つう  :  佐藤 美枝子 
与ひょう  :  中井 亮一 
運ず  :  柴山 昌宣 
惣ど  :  泉 良平 

感想

与ひょうのつうへの愛-日本オペラ協会公演「夕鶴」を聴く

  非常に良い公演だったと思います。悪役である惣どの低音がもっと響いたほうが、そのあくどさがより強調されたとは思いますが、それを除けば音楽的不満は全くなかったと申し上げられます。

 園田隆一郎指揮東京フィルの演奏がまず見事でした。流れがきっちりあって、歌手を邪魔しない演奏、元々團伊玖磨のスコアがそうなっているのでしょうが、立派だったと思います。

 主役の佐藤美枝子、素晴らしいと思いました。初役だということですがそれを感じさせないさすがの歌。歌唱技術的にはベルカントな歌唱だと思いますが、言葉一つ一つが明晰に聴こえてきて、感情の込め方もさすがにベテラン、しっかり見せてくださいました。一番の聴かせどころである「私の大事な与ひょう」の透明感と粘度のバランスの取れた感じが絶妙でしたし、後半の変わっていく与ひょうに対する感情表現、布が織り上がった後の諦念、どれをとってもたいへん見事だったと思います。

 ではそれが驚きだったか、と言われれば、佐藤美枝子ならこれぐらいは歌ってくれるだろう、想像できる範囲の歌唱でした。別な言い方をすれば、初演の原信子、大谷冽子以来築き上げてきた日本ソプラノの「つう」を歌うという伝統の上に立脚した歌唱で、そのブラッシュアップされた歌いぶりに感心したということです。

 一方、与ひょう役の中井亮一。予想外でした。彼は終始「イノセント」で押してきました。普通、与ひょうは運ずや惣どにそそのかされると、自分も金が欲しいなと思い始めて、「つう」に機を織れと命じる、という風に表現すると思います。つまり、与ひょうに世俗的欲望を持たせる、という演出ですね。それに対して、今回の中井与ひょうは操り人形です。惣どの「何百両にも売れる」というそそのかしに対して、与ひょうは10両と何百両のどちらが大きいか分からないように歌って見せます。彼が求めるのは「つう」と一緒に都を見たい。その一点であるかのように歌うのです。

 ヨーロッパの歌劇の悲劇はほとんどが男女間の愛が強すぎるがゆえに起こる悲劇です。日本でも恋愛作品は古代より連綿と続いていますが、欧州的あからさまな愛情表現は比較的避けられている印象があります。「夕鶴」の原作である「鶴女房」に「愛」を感じさせる部分はあまりありません。しかし、木下順二はこの説話を「つうの与ひょうへの愛」を前面に出すことによって、文学作品としての永遠性を持たせ、価値を上げたということになります。しかし、木下の中で与ひょうは日本人の男なのです。つうに深い愛情は感じているけれども、それが表現としては出てこない明治の男的なイメージがあるような気がします。

 しかし中井はつうへの愛を前面に押し出し、唯、つうと与ひょうとの行き違いが最後の悲劇につながるように歌いました。これは言い換えればオペラ的です。そこが新しい。これが岩田達宗の演出コンセプトであれば岩田を褒めなければいけません。これが中井の考えでそうしたのであれば、中井の独創性をほめたたえたいと思います。感心いたしました。

 柴山昌宣の演技・歌唱の巧みさはいつもの通り、泉良平も中高音はしっかりと出していて、板についた悪役ぶりを示しました。子供の合唱もよく響いて良好。全体としてよくまとまった名舞台だったと思います。 

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鑑賞日:2018年2月18日;

入場料:D席、2FL2列4番 2916円

新国立劇場開場20周年記念公演

主催:新国立劇場

新制作/日本初演

全1幕 日本語字幕付き原語(ドイツ語)上演
細川俊夫作曲「松風」
台本:ハンナ・デュプケン
同名の能に基づく

会場:新国立劇場オペラパレス

スタッフ

指揮  :  デヴィット・ロバート・コールマン   
管弦楽  :  東京交響楽団 
ボーカルアンサンブル  :  新国立劇場合唱団
ダンス    サシャ・ヴァルツ&ゲスト 
演出・振付  :  サシャ・ヴァルツ 
美術  :  ピア・マイヤー=シュリーヴァー/塩田千春 
衣裳  :  クリスティーネ・ビルクレ 
照明  :  マルティン・ハルク 
ドラマトゥルグ  :  イルカ・ザイフェルト 
音楽補  :  富平恭平 
舞台監督  :  フリデリケ・シュルツ 

出演

松風  :  イルゼ・エーレンス 
村雨  :  シャルロッテ・ヘッレカント 
旅の僧  :  グレゴリー・シュカルバ 
須磨の海人  :  萩原 潤 

感想

古典の知識のなさを痛感する-新国立劇場「松風」を聴く

  百人一首の16番目が中納言行平の「立ち別れ いなばの山の みねにおふる まつとし聞かば 今帰り来む」であることは知っています。この歌は元々古今和歌集にあって、855年在原行平が因幡守に任じられ、任国への下向に際して詠まれた歌だそうです。

 一方、神戸の須磨には「松風・村雨伝承」というお話が伝わっていて、松風・村雨は姉妹で多井畑の村長の娘。本来の名は「もしほ」と「こふじ」であった。須磨に汐汲みに出たところ、天皇の勘気を蒙り須磨に流されていた在原行平と出会い、「松風」「村雨」と名づけられて愛された。ということで、上記の百人一首もこの時の別れに際して詠まれたとか。

 この伝承は色々な芸術作品に取り上げられているそうですが、その代表が能の「松風」で、謡曲としては最も人気のある作品の一つだそうです。

 私自身「能」という舞台芸術があることは知っておりますが、見たことはこれまで一度も無く、どういう約束事があるかも知りません。Wikipediaで調べてみると、「能楽は、俳優(「シテ(仕手/為手)」)の歌舞を中心に、ツレやワキ、アイ狂言を配役として、伴奏である地謡や囃子などを伴って構成された音楽劇・仮面劇である。舞と謡を担当し、実際に演技を行うのがシテ方、ワキ方および狂言方であり、伴奏音楽を担当するのが囃子方(笛方、小鼓方、大鼓方、太鼓方)である。」であるそうです。また、謡については、「能における声楽部分である謡を謡曲と言い、大別するとシテ、ワキ、ツレなど劇中の登場人物と、「地謡(じうたい)」と呼ばれる8名(が標準だが、2名以上10名程度まで)のバックコーラスの人々である。」と説明がありました。

 ちなみに、能「松風」では、シテ:海人松風の霊、ツレ:海人村雨(松風の妹)の霊、ワキ:旅の僧、アイ:里の男。であり、他に地謡が入ります。

 オペラ「松風」は能「松風」を完全に踏まえており、登場人物も一緒であれば、合唱は能の地謡の代替で人数も8人(一人は須磨の海人が兼務)です。オーケストラは能の囃子方とはもちろん違いますが、基本一管の小編成で、打楽器だけは数多く使用されるという、能を意識したものです。

 しかしながら音楽は謡曲とは当然全然違うものです。謡曲が形式的で静的な音楽であるのに対し、オペラはもっとダイナミックだし、劇的な表情もより強く出ています。ただ、元の謡曲の影響は例えば打楽器の和楽器的な使用や、無音部分の多さ、ミニマル音楽的な繰り返しなどに出ているのかな、とは思いました。日本のオペラ作品は総じて民謡的な響きなどを利用することが多いですが、「松風」は元が謡曲だけにそのような日本ぽさはなく、和楽器を使用した武満徹の音楽とどこか通ずるものがあるのかな、という気がしました。

 とはいえ、一度聴いただけですっと入ってくるような音楽ではもちろんなく、その響きに感情を揺さぶられるところはあまり多くなく、個人的には腑に落ちているわけではありません。歌唱の妥当性についてももちろんコメントできません。再演された時聴ければ、また違った感想が出るかもしれません。

 さて、能において重要なのは謡とともに舞です。今回のオペラ「松風」においては、舞はサシャ・ヴァルツによる踊りで換わられました。ヴァルツはコンテンポラリーダンスを代表する振付師、ダンサーの一人であり、松風で踊られるダンスもコンテンポラリーダンスの範疇に入るものだと思います。その動きはアクロバチックであったり、あるいは静的であったり目まぐるしいですが、コンテンポラリーダンスにほとんど親しみも知識もないものにとって、「ほおっ」と思うだけです。ただ、ヴァルツは舞台を立体的に使用するという意識が濃厚なようで、塩田千春のクモの巣のような無数の紐を用いたインスタレ-ションを使って、歌手もダンサーも空中に浮かせます。照明とのバランスで、全体が幻想的ではあり、松風の主人公が亡霊であることを踏まえると、それはそれでいいのかな、と思いました。 

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鑑賞日:2018年2月24日 
入場料:C席 4FR2列18番 8000円

文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)/2018都民芸術フェスティバル参加公演

主催:公益財団法人東京二期会/公益社団法人日本演奏連盟
二期会創立65周年/財団創立40周年記念公演

東京二期会オペラ劇場

オペラ3幕、字幕付原語(ドイツ語)上演
ワーグナー作曲「ローエングリン」(Lohengrin)
台本:リヒャルト・ワーグナー

会場:東京文化会館大ホール

スタッフ

指揮  :  準・メルクル   
管弦楽  :  東京都交響楽団 
合唱  :  二期会合唱団 
合唱指導    増田 宏昭 
演出  :  深作 健太 
装置  :  松井 るみ 
衣裳  :  前田 文子 
照明  :  喜多村 貴 
演出助手/振付  :  太田 麻衣子 
舞台監督  :  八木 清市 


出演

ハインリッヒ国王  :  小鉄和弘 
ローエングリン  :  福井 敬 
エルザ・フォン・ブラバンド  :  林 正子 
フリードリヒ・フォン・テルラムント  :  大沼 徹 
オルトルート  :  中村 真紀 
王の伝令 :  友清 崇 
4人のブラバンドの貴族  :  吉田 連
  :  鹿野 浩史
  :  勝村 大城
  :  清水 宏樹 
4人の小姓    久野 綾子/田貝 沙織 
  :  青柳 玲子/高山 美帆 
  :  藤長 静佳/三小田 晃子
  :  中島 千春/船越 優
ローエングリン(青年時代)  :  丸山 敦史
ゴットフリート  :  黒尾 怜央

感想

頑張りの限界-東京二期会オペラ劇場公演「ローエングリン」を聴く

 今回の東京二期会公演、今の日本のオペラ界の限界を示した公演と申し上げるべきでしょう。みんな一所懸命やっていて大きなミスもない。頑張っていると思いますし、さすがだな、と思う部分もある。でも残念ながら全然圧倒されないのです。イタリアオペラだったらそんなことはない。余裕でこなすだけの実力があり、日本人だけでも素晴らしい公演を作れます。しかし、ワーグナーは特別なのでしょう。また、ワーグナーでも「さまよえるオランダ人」や「タンホイザー」であれば十分聴き手を満足させられる公演にできるだけの蓄積があるのでしょうが、楽劇になるとそうはいかない、ということなのでしょうね。

 オーケストラはよかったです。今回、2012年6月の新国立劇場公演を思い出しながらこの感想を書いているのですが、オーケストラはあの時の東京フィルよりも今回の東京都響の方が素敵な演奏をしていると思います。準・メルクルの指揮がいい。準はオーケストラを歌手に合わせようとしない。まずそれがいいと思いました。ワーグナーの音楽はオーケストラと歌手が対等です。歌手に寄り添ってオーケストラが合わせていけば歌手は楽になると思いますが、それをやってしまうとワーグナーの音楽が本来持つ魅力をスポイルしてしまう。準はそれがよく分かっているのでしょうね。しっかり鳴らして、オーケストラの厚みを示しました。

 準の音楽づくりは基本的に中庸だと思いました。言い換えるならコンサートでワーグナーが演奏されるときに近い演奏。しかしながら、ここぞというときの響きの明瞭さは準・メルクルならではと申し上げてよいと思いました。「ローエングリン」はファンファーレが多用されますが、そのファンファーレはオーケストラピットではなく舞台袖で演奏されました。その結果ファンファーレがよく響き、音のアクセントになっていたということはあると思います。オーケストラはノーミスではなかったのですが、低音の響きもよく、一糸乱れぬ進行もあり、オペラのベースとなる音作りにおいて、しっかりしたポジションを取っていました。Bravoです。

 しかし、このオーケストラに対抗する歌手はみな大変そうでした。その中でまず気を吐いたのが題名役の福井敬。日本のトップテノールの貫禄を見せました。まず声そのものがきれいでよく響きます。声量もあり、オーケストラの厚い響きにしっかりと対応できていたのは彼だけでした。オーケストラの響きの上にしっかり乗ってくる福井敬の声は、テノールを聴く楽しみを思い出させてくれるものでした。しかし、それで十分かと言えば、不満はあります。2012年新国立劇場で題名役を歌ったフォークトは、ローエングリンを美しい響きで柔らかく優しく歌って見せました。今回の福井は終始ごつごつした歌唱で私の考える白鳥の騎士ローエングリンとはちょっと違った印象です。もちろん福井ほどの歌手ですから、レガートを中心にした柔らかい歌唱は可能でしょう。しかし、そういう歌い方で厚いオーケストラに対抗できるか、ということを考えられたのではないでしょうか。福井の歌い方は一貫していて、その意味では福井流ローエングリンにはなっていました。しかし、そうしか表現できないからそうしたのではないか、と見るのは穿ちすぎでしょうか?

 それでも福井敬は、しっかり音楽に嵌っていましたし、声の大きさ、美しさも十分でした。それに対して他の皆さんは正直なところかなりオーケストラに押されていました。ハインリッヒ国王役の小鉄和弘。一幕ではかなり歌わなければいけません。小鉄はもちろんしっかり歌われているのですが、これまで聴いてきた小鉄の歌唱と比べると無理しているな、という印象の強い歌唱でした。オーケストラに負けないように歌おうとしてコントロールしにくくなってしまった、ということではないでしょうか。小鉄は日本を代表するバス歌手の一人ですが、結果として低音の響きが乏しくもなっていました。

 エルザの林正子。彼女はオーケストラを上手くやり過ごした、という印象です。彼女も第一幕はオーケストラに対抗しようとして寄り倒されていた印象でしたが、それ以降は、オーケストラの響きとは無関係に自分のレベルで歌われたのでしょう。若干物足りなくなった部分もありましたが、そうしてからはフォルムが安定し、表現も自在さが増しました。エルザの内面に入り込めた表現、とまでは申し上げませんが、心情を吐露するのに十分な多彩さをもって表現し、第二幕、第三幕はとてもよかったと思います。

 テルラムントの大沼徹は福井敬に跳ね飛ばされた感じです。一言でいえば悪役っぽくないのです。声は美しいし、途中からは無理に張り上げずにコントロール可能な声量で歌っていてよかったのですが、凄みを感じさせるものではありません。あっさりしていると言うべきか。エルザに振られて裁判を起こすわけですからもっと恨みつらみがあるように歌った方がよいと思うのですが、灰汁が強くありません。ことに主人公のローエングリンがごつごつと歌うので、その比較においてもっと重厚に歌わないとバランス的にどうかな、と思いました。

 オルトルートの中村真紀も人物造形的に違和感がありました。彼女は高音がヒステリックに響きます。オルトルートがローエングリンに振られて嫉妬心に駆られて歌う歌であれば彼女のような表現もありと思いますが、ローエングリンはオルトルートにとって夫のライバル以外の何物でもない。であれば嫉妬心に駆られたような響きで歌うのではなく、魔女的な真の悪さを感じさせるように歌って欲しかったな、と思うところです。低音部がもっと虚無的に響けばよかったのかもしれません。

 以上四人による四重唱もちょっとバランスが悪い感じ。また合唱は迫力があってよかったのですが、全体の整理のされ方の点で2012年の新国立歌劇場ほどではなかったと思います。

 深作健太の演出。見せ方はさほど変わったものではなく、分かりにくいものではないと思うのですが、なぜ、常時青年時代のローエングリンが舞台にいて、舞台の進行を見ているのか、という点は最初よく理由がわかりませんでした。それは、青年時代のローエングリンとはそのままバイエルン公のルートヴィヒ二世なのです。ワーグナー的世界にあこがれたルートヴィヒ二世が建てたのが白鳥城とも称されるノイシュヴァンシュタイン城ですから、ローエングリンとつながるのですね。子供のルートヴィヒはローエングリンの話をその目で見、ワーグナー的世界に入り込もうとする。それはもちろん虚構ですから、建てようとする城館の模型は壊れるしかないのですね。

 ワーグナーはドイツ後期ロマン派の最大の作曲家で、ワーグナーがいなければおそらく印象主義音楽も新ウィーン音楽が出てこなかった気がいたします。「ローエングリン」はその中でもドイツロマン派の終曲への入り口に位置するオペラであり、それは中世ヨーロッパから連綿と続く、神聖ローマ帝国の最後とも一致すると演出家は考えたのでしょうか。

 以上現在日本のオペラ界の実力が示された公演だったと思います。頑張っていた公演ではありますが、ワーグナーを聴くという点では不満が残る。ワーグナーの楽劇をやる大変さを思い知らされた公演でした。 

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鑑賞日:2018年3月2日 
入場料:自由席 4800円

主催:labo opera絨毯座

絨毯座ヴァイル・プロジェクト3

オペラ3幕、字幕付歌唱原語(ドイツ語)、台詞日本語上演
ヴァイル作曲「マハゴニー市の興亡」(Aufstieg und Fall der Stadt Mahagonny)
台本:ベルトルト・ブレヒト

会場:日本橋劇場

スタッフ

指揮  :  横山 修司   
ピアノ/電子ピアノ  :  織井 香衣 
ピアノ/鍵盤ハーモニカ  :  野口 幸太 
ピアノ    渡辺 まどか 
パーカッション    日比野 慎也 
演出  :  恵川 智美 
美術  :  荒田 良 
衣裳  :  増田 恵美 
照明  :  望月 太介 
舞台監督  :  中村 眞理 


出演

レオカディア・ベクピック  :  森山 京子 
社長のファッティ  :  塚田 裕之 
三位一体のモーゼス  :  党 主税 
ジェニー・ヒル  :  川越 塔子 
ジム・マホニー  :  浅原 孝夫 
ジャック・オブライエン :  琉子 健太郎
貯金箱のビル  :  鶴川 勝也
アラスカ狼のジョー  :  龍 進一郎
マハゴニーの五人娘  :  佐藤 亜紀
  :  船橋 千尋 
  :  前田 めぐみ 
  :  立川 かずさ 
  :  福間 章子 
マハゴニーの男たち    佐藤 圭 
  :  吉川 響一 
  :  清水 龍之介
  :  望月 一平
  :  山本 竹佑 
踊る女  :  吉沢 恵
トビー/マハゴニーの男  :  木之本 啓

感想

共産主義とジャズと-labo opera絨毯座「マハゴニー市の興亡」を聴く

 クルト・ヴァイルは二十世紀のオペラ作曲家として特異な存在ですが、その名を知らしめているのは、ブレヒトとの共同作業に間違いありません。ヴァイルの代表作はまず「三文オペラ」でしょうが、この作品がブレヒトの台本で書かれている。そして、その次に有名なオペラと言ってよい「マハゴニー市の興亡」のブレヒトの台本。ほかにもかつて東京室内歌劇場が取り上げている「諾という男」や「歌うバレエ」とも呼ばれる音楽劇「七つの大罪」があるけれども、逆に言えば、その四作しかない。ヴァイルは生涯33作の舞台音楽(オペラ、ミュージカル、劇付随音楽など)を書いていますが、ブレヒトとの共同作業以外の作品は、少なくとも日本ではあまり知られていない。ブレヒトは劇作家としては現代の古典という位置づけで最近もよく上演されているのでしょうが(実態は自分のスコープ外なのでよく知りません)、ヴァイルとの共同作業が彼の最高峰であるという方もたくさんいらっしゃるようです。

 本日の「マハゴニー市の興亡」、ブレヒトの台本とヴァイルの音楽、多分方向性は全然違っていて、それが共同作業の期間がほんの数年で終わった理由でもあるようですが、異質なもののコラボレーションが生み出した新たなパワーがとても感じられて、楽しむことができました。

 さて、異質なものとはまずアメリカに対する意識の差です。マハゴニー市はアメリカにある架空の都市。そこはギャングと娼婦の街です。全てが金で動く街。何度も歌われる「最初はたらふく食い、次は女、賭けボクシングを楽しみ、酒で酔っぱらう」という享楽は拝金主義米国に対する共産主義者であったブレヒトの批判でもあり忌避でもありましょう。しかしそこに付けるヴァイルの音楽は、ジャジーでアメリカに対する憧憬の満ち溢れたもの。そのギャップが面白いのですが、恵川智美はどちらかと言えば、台本よりも音楽に合わせた演出を考えました。

 舞台は地下のジャズバーみたいな雰囲気。舞台奥にピアノ2台と電子オルガンが置かれ、ピアノの右側に指揮者が座ってその奥にジャズドラムのセットが置いてある。ここにウッド・ベースがあればそのままジャズ・トリオになってしまいますけど、そこはオペラ、きっちり指揮者がコントロールします。とはいえ、指揮者もピアニストやドラマーもジャズバーの演奏者のような服装で、アングラの意識が強いのかな、という感じです。そこで演じる歌手たちも酒場の小舞台で歌っている感じが終始あって、その退廃的な感じがいいと思いました。

 演奏はかなり大変だろうと思いました。まず歌と台詞がガンガン切り替わるの出タイミングを取るのが難しいというのがあります。案の定上手く出られなかった部分もありました。多分重唱で同じタイミングで始めなければいけないにもかかわらず、一人だけ先に出てしまった、という処もありました。しかし、全体的にはそこはしっかり意識していたのでしょう。概ねはきっちりしていて、その切れ味の良さを楽しみました。

 音的には音型進行が複雑だったり不協和音が多かったりするところも大変なところでしょう。時代的にはシェーンベルグが活動していた時期の音楽で、ヴァイルはシェーンベルグの影響も受けていますから当然なのですが、演奏する方が正しく歌うのは大変だろうと思いますし、また聴く方も正しいのか正しくないのかが分からないので、妙な不安感があります。しかし、そのバランスの悪さこそがヴァイルの音楽の真骨頂なのかもしれません。

 歌は何といっても川越塔子のジェニーがよかったです。スカートのスリットから何度もガーターリングを見せながら色っぽく歌う姿は見た目も華やかですが、それ以上に高音がピンと張り、広がる感じが暗く退廃的な舞台を切り裂いて(歌っている内容は退廃的ですが)、浮き上がって聴こえました。そういう意味では歌手は全員歌はきりりと引き締まっていてパワフル、オペラとしてしっかり見せていたと思います。

 さて、対する浅原孝夫のジム。雰囲気は金持ちのチンピラという雰囲気を出していてよかったし、歌も中低音は悪くないのですが、高音部は結構事故がありました。声がひっくり返ったり、ファルセットと実声との切り替えがうまくいかなかったりしたところもありました。

 森山京子、塚田裕之、党主税の悪党三人組はそれぞれ特徴のある歌唱と演技で、悪党としての硬軟両面を見せたのかな、という感じです。ただ、三重唱で歌うところはテノールが前に出すぎた感じで、もっとバランスが良い方が面白いのになあ、と思いました。

 琉子健太郎のオブライエン、鶴川勝也のビル、龍進一郎のビルの三人はそれぞれソロもしっかり響いてよかったですし、アンサンブルも見事。三人とも藤原歌劇団合唱部や新国立劇場合唱団のメンバーとして活躍されている方ですが、藤原の合唱も新国立劇場の合唱も魅力的なのは、こういう方たちの力量が反映されているのだろうなあと、素直に感心いたしました。

 アンサンブルの良かったです。女性アンサンブルとなる「マハゴニーの五人娘」も「マハゴニーの男たち」もそれぞれ立派なアンサンブルで舞台を支えました。ジャジーな雰囲気の出し方も見事で、女声の低音の方たちは敢えてベルカントな歌い方をせず実声で歌うところなどが雰囲気の増進に役立っていたように思います。

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鑑賞日:2018年3月3日
入場料:C席 6804円 3F 1列50番

新国立劇場開場20周年記念公演

主催:新国立劇場

オペラ5幕、字幕付原語(フランス語)上演
オッフェンバック作曲「ホフマン物語」(Les Contes dHoffmann)
台本:ジュール・バルビエ、ミシェル・カレ

会場:新国立劇場オペラパレス 

スタッフ

指 揮 セバスティアン・ルラン  
管弦楽

東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱

新国立劇場合唱団
合唱指揮

三澤 洋史
     
演出・美術・照明

フィリップ・アルロー
衣 裳

アンドレア・ウーマン
振 付

上田 遙
再演演出

澤田 康子
音楽ヘッドコーチ

石坂 宏
舞台監督

斉藤 美穂

出 演

ホフマン ディミトリー・コルチャック
ニクラウス/ミューズ レナ・ベルキナ
オランピア 安井 陽子
アントニア 砂川 涼子
ジュリエッタ 横山 恵子
リンドルフ/コッペリウス/ミラクル博士/ダペルトゥット トマス・コニエチュニー
アンドレ/コシュニーユ/フランツ/ピティキナッチョ 青地 英幸
ルーテル/クレスペル 大久保 光哉
ヘルマン 安東 玄人
ナタナエル 所谷 直生
スパランツァーニ 晴 雅彦
シュレーミル 森口 賢二
アントニアの母の声/ステッラ 谷口 睦美

感 想

メロディーメーカーとしてのオッフェンバック-新国立劇場「ホフマン物語」を聴く

 ホフマン物語は断片的に音楽の記憶はあるのですが、詳細までなかなか記憶に残らない。私はこれまで舞台で6回実演を拝見していて今回が7回目なのですが、また新たな発見がある。5年ぶりで聴いて、そこが面白いと思いました。オッフェンバックの作品は上演されているようで上演されていなくて、たまに上演されたときに聴きに行くと、どの作品でも綺麗だな、と思うことが多い。オペレッタは笑いがメインであることは申し上げるまでもないのですが、そこに流れる音楽は美しい。ホフマン物語は、その集大成ですね。当たり前のことだけど、メロディーメーカーとしてのオッフェンバックが自分のすべてを注ぎ込もうとしたグランドオペラが「ホフマン物語」なんだなあ、と改めて感じいったところです。

 さて、音楽ですけど全体的に申し上げればかなり上出来の舞台であると思いました。特によかったのは第三幕、アントニアの場。まず、全体的なバランスが良くて音楽的美にあふれている。砂川涼子がこの役にぴったりなのは申し上げるまでもないのですが、聴けばそれが実に納得できる。説得力がある。冒頭で歌われる「キジバト逃げた」は高音部の響きにもっと透明感があると更に美しかったと思いますが、でも中低音部の美しさや充実感はさすが砂川、というべきものでした。ヒロインがよいせいかもしれませんが、絡み合う方々もみな素晴らしい。悪魔四役を歌ったコニエチュニーはミラクル博士が一番良かったと思いますし、道化四役を歌われた青地英幸だってフランツが一番良かったと思います。バランスもよく、ホフマン、アントニアの二重唱、ミラクル、クレスペル、ホフマンの三重唱ともに重唱の美しい響きを楽しめる立派なもの。アントニアのクライマックスの叫びまで弛緩のない精妙な舞台で楽しめました。

 第二幕のオランピアの場は、オランピアはよかったですが、全体の精緻なバランスという観点では第三幕には及ばなかったと思います。でも素敵な場面ではありました。安井陽子のオランピア、素晴らしいです。日本人のオランピア歌いと言えば幸田浩子がまず挙げられると思います。全盛期の幸田のオランピアはとても素晴らしかったという印象があるのですが、今回の安井のオランピアはそれ以上かもしれないとも思いました。端的に申し上げれば安井の歌はレガートを意識した歌でした。高音部を技巧的に歌うとすると、息遣いが短くなる傾向があると思うのですが、彼女の場合長い息で高音部をしっかり転がしてみせる。そこが断然素晴らしい。大いに感心いたしました。しかし、それ以外の部分は三幕には及ばなかったのかな、というのが正直なところ。コッペリウスのアリアもよかったと思いますが、存在感で第三幕に劣ると思いましたし、全体的に場面の特徴もあるのでしょうが、第三幕ほどの緊張感は感じられませんでした。その中でスパランツァーニの晴雅彦が頑張っておりました。

 第四幕のジュリエッタ。ジュリエッタ役は五年前と同じ横山恵子。冒頭のホフマンの舟歌はベルキナとのバランスが今一つあっていなかったのか、五年前ほど艶やかではなかった印象。もう少し響いてもよいのではないか、と思いました。ホフマンのアリアはよかったと思いました。ホフマン役のコルチャック。品の良い声のテノールで全体的にバランスの良い歌唱でよかったと思いますが、歌自身は後半の方がよく、二幕で歌われたロマンスより、この場で歌われたアリアの方が素敵でした。ソプラノが出ずっぱりのオペラはいくつも思い出すのですが、テノールが出ずっぱりのオペラってあんまりないような気がします(ボエームなんかはそうかもしれないけど、あれは演奏時間が短いし、アリアも多くない)。ホフマン物語は数少ない例外。そこで冒頭からフィナーレまでバランスよく歌うのは大変ですが、コルチャックは上手くペース配分をして、ジュリエッタの場面にクライマックスを持ってきたということが素晴らしいと思いました。

 ルランの指揮。東京フィルの演奏は取り立てて特徴的だとは思いませんでしたが、全体的なバランスとしてはよく取れていて、違和感は全く感じませんでした。その意味では大変結構。合唱の迫力はいつもの通り。スタッフは五年前と変わっていないようですし、キャストも何度もこの舞台を踏んでいる方が多いです。結果としてまとまりのレベルは上がっていると思いました。

 アルローの舞台、五年ぶりに見て、やっぱりセンスいいな、という印象。アルローは新国立劇場で、「アンドレア・シェニエ」と「アラベッラ」も担当していますが、この「ホフマン物語」が一番素敵です。舞台の美も楽しみました。

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鑑賞日:2018年3月10日
入場料:指定席 4104円 1F14列58番

新国立劇場オペラ研修所修了公演

主催:文化庁/新国立劇場

オペラ3幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ヴォルフ=フェラーリ作曲「イル・カンピエッロ」(Il Campiello)
原作:カルロ・ゴルドーニ、台本:マーリオ・ギザルベルティ

会場:新国立劇場中劇場 

スタッフ

指 揮 柴田 真郁  
管弦楽

新国立アカデミーアンサンブル
エレクトーン

西岡 奈津子
合 唱

国立音楽大学/昭和音楽大学/桐朋学園大学/武蔵野音楽大学 各有志
演出

粟國 淳
装置

横田 あつみ
照明

稲葉 直人
衣 裳

加藤 寿子
音響

牛島 耕太郎
副指揮

河原 忠之
舞台監督

佐々木 まゆり

出 演

ガスパリーナ 西尾 友香理(18期)
ドナ・カーテ 渡辺 大(賛助)
ルシエータ 平野 柚香(20期)
ドナ・パスクア 伊藤 達人(14期修了)
ニェーゼ 斉藤 真歩(20期)
オルゾラ 一條 翠葉(20期)
ゾルゼート 市川 浩平(賛助)
アンゾレート 伊良波 良真(19期)
アストルフィ 野町 知弘(20期)
ファブリーツィオ 清水 那由太(賛助)

感 想

ドタバタ喜劇を歌う難しさ-新国立劇場オペラ研修所修了公演「イル・カンピエッロ」を聴く

 イル・カンピエッロは2001年と2004年、藤原歌劇団が取り上げたのを聴いています。2001年公演の時は、ガスパリーナを歌われた高橋薫子の可憐な舞台姿や、ドナ・バスクアを歌われた持木弘のノリノリの演技を印象深く覚えていますし、2004年公演の時は佐藤亜希子が見事なルシエータを歌われたのが印象深い。今回その二回の公演の記録を見直したのですが、2004年は当時藤原の若手で、今や日本のオペラ界の中堅で歌われている方が何人もデビューされているのに驚きました。佐藤亜希子、党主税、所谷直生、山崎知子、折河宏冶といった人たちですね。「イル・カンピエッロ」はアンサンブル・オペラですから、研修所でアンサンブルを学んだ若手がその成果を示すのにちょうどよい演目だということがあるのでしょう。そういうことで若手を何人もデビューさせた、ということはあるのかもしれません。今回新国立劇場オペラ研修所の修了公演として「イル・カンピエッロ」を取り上げたのも同じような理由によるのでしょう。

 さて、演奏ですが、端的に申し上げれば上手です。研修所一年生の20期生が中心のチームでしたが、音楽的にはさすがに緊張があって、もう少し余裕と遊びがあれば更によいとは思いますが、基本端整ではあり、このような楷書体で組み立てていく舞台は悪いものではありません。音楽的なまとまりという点では、2004年の藤原公演を凌駕するレベルにあったと申し上げてよいと思います。

 このオペラ一幕の前半は、ガスパリーナ、ルシエータ、ニェーゼがそれぞれ小アリアを歌うのですが、皆若さ溢れる歌で、それでいてしっかりと流されない歌唱を披露していました。聴き比べると先輩の西尾友香理が一番落ち着きがあって余裕も見せていたと思いますが、平野、斉藤も立派な歌。声の良さやセンスで平野に魅力を特に感じました。

 西尾友香理、私はこれまで縁がなかったようで、今回初めて聴きました。きっちりまとめてきた感じで、粗の少ない歌唱だったと思います。最後の見せ場のアリア「さよなら、愛しのヴェネチア」もしっかり聴かせてくれてよかったと思います。ただ、この方、そこが弱点のような気もしました。上手なんだけど華に欠ける。「オーッ」という驚きがないと申し上げたらよろしいのか。小さくまとまっている感があって、ちょっと引き込まれにくいのかな、という感じでした。それに対して肉食的貪欲さを20期の二人のソプラノには感じました。特に平野柚香。細かい粗もありましたし、全体の魅力では西尾の方が上だったと思いますが、どこか引き付けられるものがある。そレが具体的に何かを指摘できないのがもどかしいですが、上手く成長すれば、いいソプラノになるな、と思いました。

 男声陣もなかなかのパフォーマンスです。野町知弘、高音の美しいハイバリトンで、アストルフィの若さと権威を上手に表現していると思いました。また、ブッフォ役のファブリーツィオは清水那由太。清水は最近二期会の若手バスとして活躍されていますが、バッソ・ブッフォとしての雰囲気がよく出ていて、年長者としての立ち位置を示していたと思います。また、小母さん陣、渡辺大のドナ・カーテ、伊藤達人のドナ・パスクア、それぞれなかなか楽しい歌でよかったです。市川幸平のゾルゼートも伊良波良真のアンゾレートも青年の雰囲気をよく出して(年齢的には当然でしょうが)、しっかりまとめてきました。

 アンサンブルが鍛えられているな、というのが痛感したのは、第二幕のアンサンブル・フィナーレ。「ソル、ソル、ソル」で始まるこのコンチェルタートは、合わせるのが大変だと思いますが、きっちり嵌っていて勢いもあり、この手の音楽を聴く醍醐味を味わいました。以上音楽的にはなかなかしっかりした舞台でした。問題があるとすればオーケストラ。基本フリーランスの人を集めた急ごしらえのオーケストラのようですが、今一つ揃わないところも多く、テクニカルにもミスが散見されて、練習が足りないな、という感じでした。

 ではこの舞台を見て私が満足したかと申し上げれば、イマイチだったな、というのが正直なところです。ドタバタ喜劇としての息遣いが希薄なのです。演技が生硬で自由さに欠ける。演出の粟國淳は2001年、2004年の藤原公演の演出も務めていて、このオペラのことをよく知ったうえで演出プランを組んでいると思いますし、現実に人の動かし方などは「なるほど」と納得できるものなのですが、そこで動いている人は演出家のロボットみたいな感じで、自発性が感じられない。音楽をまとめるだけで精一杯でその先は手が回らなかった、というのはあると思うのですが、この手の作品を観客に楽しんでみてもらうためには、もっと自発的に突っ込んでいかなければいけないのではないかと思いました。

 特にテノーレ・ブッフォ役のドナ・カーテとドナ・パスクア。演技は頑張っていたとは思いますが、にじみ出てくるおかしさが皆無でした。2001年の持木弘は、凄くオカマっぽく演じてその立ち位置が大変面白かったのですが、今回の二人は自分たちで面白く見せる工夫が足りなかったのかな、と思いました。このオペラはガスパリーナとアストルフィが主役の形にはなっていますが、舞台を面白くしているのは小母さん役とファブリーツィオだろうと思います。小母さんたちが自在の突き抜けた演技をするところに娘たちの歌唱・演技が上手く嵌った時、作品としての魅力が全開になるのかな、と思いました。ドタバタ喜劇をしっかり演奏する難しさを痛感しました。

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