オペラに行って参りました-2014年(その2)

目次

低音の魅力  2014年2月22日  東京二期会オペラ劇場「ドン・カルロ」を聴く 
チャレンジ 2014年2月28日 新国立劇場オペラ研修所「ナクソス島のアリアドネ」を聴く
良くも悪しくも市民オペラ  2014年3月15日  立川市民オペラ公演2014「アイーダ」を聴く 
「流行」とはいえないまでも 2014年3月18日  新国立劇場「死の都」を聴く
文豪の描く音楽の世界  2014年3月28日  日本オペラ協会「春琴抄」を聴く 
お勉強のつもりだったが、、、 2014年4月8日 新国立劇場「ヴォツェック」を聴く
今後の精進に期待する  2014年4月20日  TMPオペラプロジェクト「魔笛」を聴く 
無国籍風ジャポニズム 2014年4月26日  アルテリッカ2014 藤原歌劇団「魔笛」を聴く
私は「蝶々夫人」が嫌いです  2014年4月27日  東京二期会オペラ劇場「蝶々夫人」を聴く 
シシリーの風・南イタリアの風 2014年5月24日  新国立劇場「カヴァレリア・ルスティカーナ」/「道化師」を聴く

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2014年  その1  その2   その3  その4  その5   
2013年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2013年 
2012年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2012年 
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

鑑賞日:2014年2月22日
入場料:C席 4F2列30番 8000円

平成25年度文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術騒擾事業)
2014年都民芸術フェスティバル参加公演

東京二期会オペラ劇場

ドイツ・フランクフルト歌劇場との提携公演

主催:公益財団法人東京二期会/公益社団法人日本演奏連盟

全5幕、字幕付イタリア語上演
ヴェルディ作曲「ドン・カルロ」(Don Carlo)
原作:フリードリヒ・フォン・シラー
台本:フランソワ・ジョセフ・メリ、カミーユ・デュ・ロクル
イタリア語訳:アキッレ・デ・ロージェール

会場:東京文化会館大ホール


スタッフ

指 揮 ガブリエーレ・フェッロ  
管弦楽 東京都交響楽団
合 唱   

二期会合唱団

合唱指揮    佐藤 宏
演 出

デイヴィッド・マクヴィカー

装 置  :  ロバート・ジョーンズ
衣 裳  :  ブリギッテ・ライフェン・シュトール 
照 明  :  ヨアヒム・クライン
振 付  :  アンドリュー・ジョージ 
演出補  :  カテリーナ・パンティ・リヴェロヴィッチ
舞台監督  :  幸泉 浩司
公演監督 :  大島 幾雄

出 演

フィリッポ二世   伊藤 純 
ドン・カルロ   福井 敬 
ロドリーゴ   成田 博之 
宗教裁判長    斉木 健詞
エリザベッタ   横山 恵子 
エボリ公女    谷口 睦美 
テバルド   加賀 ひとみ
修道士    三戸 大久
レノマ伯爵   大槻 孝志
天よりの声    湯浅 桃子 
フランドルからの6人の代議士   岩田 健志/勝村 大城/佐藤 望/野村 光洋/門間 信樹/湯澤 直幹 
アレンベルグ伯爵夫人    一の瀬 あすか 

感想

低音の魅力 -東京二期会オペラ劇場「ドン・カルロ」を聴く。

 史実を言えば、16世紀はスペインの世紀でしたが、フィリペ二世は、その「陽の沈まぬ帝国」スペインの没落の嚆矢となった国王です。生涯4回結婚しましたが、遺された子供は、三度目の夫人であるエリザベートの間に生まれた二人の娘と、四人目の夫人の間に生まれた後のフィリペ三世だけだそうで、家庭的には恵まれなかった国王と言われています。ちなみに長男のドン・カルロスは、Wikipediaに依れば、「カルロスは肩の高さが違い、右足が左足より長く、頭が大きすぎる。胸はくぼみ、背中にこぶがある。まるで子供のように愚かしい質問ばかりする。高尚なことに興味を示したことはなく、食べることにしか感心がない。際限なく食べ続けているので、よくいろいろな病気にかかり、顔色はひどく悪く、長生きはできないだろう」だそうで、かなり子供っぽい人物であったことは間違いないようです。史実では、ドン・カルロスは、父に反逆してネーデルランドに行こうとして逮捕監禁され、24歳で牢死したそうです。

 オペラ「ドン・カルロ」は、史実とは勿論違うわけですが、大枠としては史実を踏まえて作られているので、ドン・カルロは何も考えていない直情径行の人物として表現するのが適切なのでしょう。その意味で、福井敬は正にそのような造形をしていたと思いますし、情熱的な表現が素敵だったと思います。彼も50歳を超え、最近はヴィヴラートに逃げることが多くなっている印象だったのですが、今回はそれが少ないのが良かったと思っています。

 声量もありますし、声を張り上げてもしっかりした芯があって、久しぶりに福井敬らしい歌を聴いたなと思いました。今回は指揮者がしっかりオーケストラを鳴らしていたのですが、福井の声はその音にしっかり乗って響いていました。表現的には前半が魅力的。冒頭のロマンツァや第二幕冒頭の友情の二重唱、エリザベッタとの二重唱なども良かったと思いました。

 この引っ掻き回し役ドン・カルロに一番引っ掻き回されるのが、エリザベッタの役どころですが、横山恵子の歌唱は、福井敬と比較するとずっと控えめな感じでした。ありていに申し上げれば、声の力が今一つ足りない。福井の声は、オーケストラが強奏しても問題無く浮かび上がってくるのですが、横山の声は、オーケストラにかき消されてしまう部分が少なからずありました。丁寧に正確に歌っているとは思うのですが、ヴェルディソプラノに期待される迫力には欠けていたというのが正直なところ。一番の聴かせどころであるアリア、「世の虚しさを知る神よ」も切々と訴え掛けるものはあるのですが、もう一段の踏み込みがあった方がより感動できたのではないか、と思いました。

以上の引っ掻き回したり廻されたりする役ではなく、歴史の流れを作って人々はおおむね良かったです。低音歌手たちが頑張りました。

 伊藤純のフィリッポ二世は、かなり抑えた演技でした。結果として国王の威厳よりも国王の苦悩が強く感じられる歌唱。枯れ過ぎ、というご意見もありましたが、国を治める立場ともなれば、あれぐらい自分を殺した雰囲気を出すのは大切でしょう。確かにアリア「一人寂しく眠ろう」は、もっと歌い上げてくれても良いのかなとも思いましたが、あれぐらい抑えてくれているからこそ、国王の内面の悲しみがにじみ出てきたようにも思いました。

 斉木健詞の宗教裁判長は、立派な歌唱なのですが、設定の90歳とは思えないような生々しい声が出てきて、そこは如何なものかな、と思いました。伊藤と斉木の役を交換して歌わせた方が、より雰囲気が出たかもしれないと思いました。

 成田博之のロドリーゴは、前半よりも後半に魅力がありました。第二幕で歌われるドン・カルロとの友情の二重唱はドン・カルロの陰に隠れていた感じですが、後半の「ロドリーゴの死」の場面の歌唱は、本当に緊張感のある立派なもので、背筋を伸ばして息を殺して聴かせて頂きました。

 谷口睦美のエボリは、もっと灰汁の強い歌唱をした方が良かったかもしれません。「ヴェールの歌」はもう少し華やかであって欲しいし、「酷い運命よ」の表現ももう一段激しくても良かったように思いました。 

 ガブリエーレ・フェッロ指揮東京都交響楽団の演奏はとても生々しくよく鳴るもの。聴き応えのある演奏でした。このオーケストラの厚みに一部歌手は十分対抗できていなかった感じはしますが、全体としては、これ位力が入った演奏の方が、この作品に向いているのではないかと思いました。

 石造りの舞台が基本で、その面が上下をしながら場面を変えるスタイル。衣裳もモノトーンで、とてもバロックな感じ。読み替えの全くないオーソドックスなスタイルで、割と複雑なドン・カルロのストーリーを的確に表現していたと思います。最初に史実のことを書きましたが、マクヴィガーはある程度歴史的な事実を踏まえたうえで、演出されているように思いました。その意味で無理のない演出。フィリッポ二世の枯れた表情やエボリの今一つはっきりしない表現などは、演出の方向性がそうさせているのかもしれません。

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鑑賞日:2014年2月28日
入場料:1F14列51番 4200円

新国立劇場オペラ研修所

プロローグと1幕、字幕付原語(ドイツ語)上演
リヒャルト・シュトラウス作曲「ナクソス島のアリアドネ」(Ariadne auf Naxos)
原作・台本:フーゴ・フォン・ホフマンスタール

会場:新国立劇場中劇場

スタッフ

指 揮 高橋 直史   
管弦楽 ボロニア・チェンバー・オーケストラ 
演 出 三浦 安浩
美 術  :  鈴木 俊朗
衣 裳  :  加藤 寿子
照 明  :  稲葉 直人
振 付  :  伊藤 範子
舞台監督  :  高橋 尚史

出 演

執事長   ヨズア・バールチェ
音楽教師   駒田 敏章(11期終了)
作曲家   今野 沙知恵(14期)
テノール歌手(バッカス)   伊藤  達人(14期)
舞踏教師   日浦 眞矩(14期)
士官   菅野 敦(15期)
かつら師   小林 啓倫(16期)
下僕    大塚 博章
ツェルビネッタ   天羽 明恵
プリマドンナ(アリアドネ)   林 よう子(14期)
ハルレキン   村松 恒矢(14期) 
スカラムッチョ    岸浪 愛学(16期) 
トゥルファルディン   小林 啓倫(16期)
プリゲッラ    小堀 勇介(15期)
ナヤーデ(水の精)   種谷 典子(16期)
ドリアーデ(木の精)   藤井 麻美(15期)
エコー  

原 璃菜子(15期) 

貴族(黙役)    根岸 幸 

感想

チャレンジ -新国立劇場オペラ研修所「ナクソス島のアリアドネ」を聴く。

 ツェルビネッタが大変な役であることはみんな知っています。でも、大変なのはツェルビネッタだけじゃなかったのね、というのが今回の第一の感想です。特に前半の作曲家と後半のアリアドネは、この作品の鍵となる役なわけですが、どちらもぎりぎりのところで歌唱していたな、という印象です。

 特に作曲家の今野沙知恵は大変でした。今野の過去の出演歴を見ると、「コジ・ファン・トゥッテ」のデスピーナとか、「魔笛」のパパゲーナがあります。デスピーナとパパゲーナは典型的スーブレットであり、高音の響く軽い声のソプラノがやる役柄。今野の声も本当はそういう声なのでしょう。それに対して作曲家は典型的なメゾソプラノ・ズボン役であり、低音が鳴る人でないと格好がつかないところがあります。

 今野は歌唱・演技共にズボン役の雰囲気が出しきれない感じで、低音が響かない。全体的に声量も足りていませんでした。一所懸命ではあるのですが、子供っぽい雰囲気が先に立って、作曲家の青年的な雰囲気が子供っぽい我儘のように聴こえてしまったのが残念でした。キャスティングの都合で仕方がないのですが、適切な声の重要性を感じました。

 アリアドネの林よう子は、アリアドネの歌が始まってからが一寸大変でした。上がっていたのかもしれませんが、息が十分に吐ききれていない感じ。喉だけで歌っている感じで、歌に余裕がなかったと思います。段々落ち着いて来て、ツェルビネッタのアリアの後の歌唱やバッカスとの二重唱はずっと声に力が籠って来て表面的な歌でなくなってきたのは良かったと思います。

 若い方の歌と比較すると、天羽明恵のツェルビネッタは貫録が違います。完璧な歌唱ではないのですが、一寸声が足りなくなっても堂々と歌いきり、不安を感じさせないのがベテランの味ということでしょう。聴かせどころをきっちり見せる、というところがどうしても一本調子になってしまいがちな若い方とは全く違います。声の色合いや飛び方も非常に魅力的で、例の「偉大なる王女様」で始まる大アリアは、完璧ではないとはいえ基本的にはとても立派な歌で、流石に天羽だと思うほどでした。

 男声陣は女声と比較するとずっと負荷が少ないので、上手に歌って貰って当然ですが、やはり上手だなと思うのは駒田敏章の音楽教師。彼だってまだ若いですが、数年の経験の差はそれなりに大きいもののようで、存在感のしっかりした立派な歌唱をされていました。

 四人の道化はそれぞれ楽しげに歌い、踊って結構でした。特にブリゲッラを歌った小堀勇介の軽快なテノールと松中哲平の立派なバスの声に惹かれました。三人のニンフたちも結構な歌唱で良かったと思います。伊藤達人のテノール歌手は、成田勝美に似た雰囲気があって面白いと思いました。その他日浦眞矩の舞踏教師に存在感がありました。

 高橋直史指揮ボロニア・チェンバー・オーケストラの演奏は、今一つ締まりが弱い感じのゆるキャラ系演奏とでも申し上げたらよいのでしょうか。あまりピンとはきませんでした。三浦安浩の演出は、このオペラの持ついかがわしさを感じさせられる舞台で、動きも面白く見ました。

 色々な意味でチャレンジをして、玉砕寸前にベテランにフォローされた舞台と申し上げて良いだろうと思います。それでもたっぷり楽しみました。

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鑑賞日:2014年3月15日
入場料:A席 2F29列26番 4000円

立川市市民会館リニューアル・オープン記念事業

立川市民オペラ公演2014

主催:立川市民オペラの会、公益財団法人立川市地域文化振興財団

オペラ4幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ「アイーダ」(Aida)
台本:アントニオ・ギスランツォーニ

会場:立川市市民会館「たましんRISIRUホール」

スタッフ

指 揮 古谷 誠一   
管弦楽 立川管弦楽団 
バンダ 国立音楽大学有志 
合 唱 立川市民オペラ合唱団 
合唱指揮 小澤 和也 
助 演 立川市民オペラ2014劇団 
バレエ ジャパン・インターナショナル・ユース・バレエ 
演 出  :  直井 研二
美 術  :  鈴木 俊朗
衣 裳  :  下斗 米雪子
照 明  :  奥畑 康夫
振 付  :  畑野 朋子
舞台監督  :  村田 健輔
総監督  :  砂川 稔

出 演

アイーダ   庄 智子
アムネリス   諸田 広美
ラダメス   上本 訓久
アモナズロ   牧野 正人
ランフィス   斉木 健詞
エジプト国王   清水 那由太
使者   澤ア 一了
巫女の長    青沼 玲

感想

良くも悪しくも市民オペラ-立川市民オペラ公演2014「アイーダ」を聴く。

 立川には国立音楽大学があって、国立音大の在校生、卒業生、教員などの国立関係者が沢山住んでいます。また、国立音楽大学と言えば、声楽に強く、オペラ歌手を沢山輩出してきたことでも知られています。

 立川がそういう町であるにもかかわらず、かつては立川はオペラ活動が盛んな街とは言えませんでした。最初の立川市民オペラは22年前、市の肝煎りで一種のイヴェント企画として行われたようですが、なかなか継続的にはならず、本格的に開始できたと言えるのは、12年前に「合唱から学ぶ市民オペラ学校」が開校してからでしょう。そこから「カルメン」、「カヴァレリアルスティカーナ」/「道化師」、「アイーダ」、「カルメン」、「トゥーランドット」とようやく定期的な上演が出来る様になっています。

 「合唱」が先にあるオペラ公演ですから合唱が大事な作品を取り上げるのは当然です。従来そういう作品を取り上げて来たのですが、今回も例外ではありません。また、今回は長年「アミュー立川」として知られた立川市民会館がリニューアルされ、「たましんRISIRUホール」となったこともあり、そのオープン記念ということもあって、そういう時には欠かせないで、かつ合唱団も活躍するヴェルディ「アイーダ」が取り上げられました。

 公演全体としては、粗が目立ったと申し上げて良いでしょう。古谷誠一指揮する立川管弦楽団は、アマチュアオーケストラとしては決して下手な団ではないと思いますが、それでもミスはいっぱいありますし、音色の美しさなどは勿論プロのオーケストラとは違います。でも、それが凄く悪いか、と言えばそんなことはない。演奏に熱気が籠っている。これは大切なことです。演奏が雑にもなりながらも推進しようとする意気込みがあるというか、元気の良い演奏だったと思います。アマチュアオーケストラは自分でお金を出して音楽をしようとする人たちの集まりですから、技術よりも気持ちで聴かせてほしい、と思いますが、確かに気持ちが入っていました。

 合唱も同様。悪く言えば粗っぽい、ということになるのですが、元気で気持ちが入っていたと思います。半数がエキストラの男声は殊に立派。助演の少ない女声は、いろいろ気になるところはありましたが、本番の熱気や興奮が合唱団員一人一人に乗り移っていたのでしょう。頑張っていました。ただし、後半の舞台裏からの合唱は気が抜けたのか、疲れてしまったのか、今一つ魅力に欠けていました。

 ヴィジュアル的には、2010年の立川市民オペラ「アイーダ」とよく似た感じでした。あの時の演出は中村敬一で、今回は直井健二で違うのですが、衣裳担当が下斗米雪子で同じだからそう思うのかもしれません。このオペラの一番の山場は申し上げるまでもなく、二幕後半の凱旋の場ですが、ここは2010年の時にも感じたチープさに変わりはありません。それでも助演陣をたくさん集め、それなりの形を作ったのですから、市民オペラの「アイーダ」としては良しとしなければなりません。

 ソリストはまずアイーダとアムネリスの関係が良かったと思います。庄智子はソプラノとは言うものの、「カヴァレリア・ルスティカーナ」のマンマ・ルチアや「ヘンゼルとグレーテル」のゲルトルートなどを持ち役としている方で、メゾソプラノ的な発声がきっちりできる方です。一方諸田広美はメゾソプラノとしては高い所に響きのポイントがある方のようで、この二人が重唱を歌うと、声の同質感が出てそれが気持ち良く聴こえるところです。

 アイーダのソロとしては「勝ちて帰れ」は心情の籠った立派な歌だったと思いますが、第三幕の「おお、我が故郷」はもう少しバランスのとり方があったのではないかと思いました。アムネリスは、前半は端正過ぎて、アムネリスの心情表現が聴こえてこなかったのですが、4幕の切々とした歌唱はとても立派で結構でした。

 ラダメスはブレーキでした。声は伸びているのですが、喉の強さが足りないので、アクートが綺麗に決まらない。高音で力強く歌う時、無理していることが観客に直ぐばれるというのは如何なものかなと思いました。上本訓久は、声を張り上げずに抒情的に歌う時は決して悪くないので、ラダメス向きではないということなのでしょう。

 牧野正人のアモナズロは、ベテランの味。舞台の雰囲気といい声といい日本を代表するアモナズロです。

 斉木健詞のランフィス。これも素敵です。斉木の透き通ったバス声は立派だと思います。前回彼の歌を聴いたのが、本年二月二期会本公演「ドン・カルロ」の宗教裁判長、今回はランフィスと祭司系が続きましたが、宗教裁判長の歌より今回のランフィスの方が良かったかなと思います。

 清水那由太のエジプト王も第二幕は少し力が籠りすぎているかな、と思いましたが、低音が良く響いておりました。

 脇役陣では、一寸しか歌いませんが、澤崎一了の使者が良い。一方、青沼玲の巫女の長は息遣いが今一つのように思いました。巫女の長はきっちりと歌えるとかなり聴かせられるのですが、残念ながらそういう訳にはいきませんでした。

 全体的には悪く言えば粗っぽい舞台でしたが、熱の籠った舞台でもありました。それらは「おらがオペラを成功させよう」という意思の発露だと思います。その意味で、非常に市民オペラらしい市民オペラだと思いました。

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鑑賞日:2014年3月18日
入場料:C席 4F1列40番 7560円

新国立劇場

オペラ3幕、字幕付原語(ドイツ語)上演
コルンゴルド「死の都」(Die tote Stadt)
原作:ジョルジュ・ローテンバック
台本:パウル・ショット(ユリウス・コルンゴルド/エーリヒ・ウォルフガング・コルンゴルド)

会場:新国立劇場オペラパレス

スタッフ

指 揮 ヤロスラフ・キズリング   
管弦楽 東京交響楽団 
合 唱 新国立劇場合唱団 
合唱指揮 三澤 洋史 
児童合唱 世田谷ジュニア合唱団 
児童合唱指揮 掛江 みどり 
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏 
演 出  :  カスパー・ホルデン
美 術  :  エス・デヴリン
衣 裳  :  カトリーナ・リンゼイ
照 明  :  ウォルフガング・ゲッペル
振 付  :  シグネ・ファブリツィウス
再演演出  :  アンナ・ケロ
舞台監督  :  斉藤 美穂
芸術監督  :  尾高 忠明

出 演

パウル   トルステン・ケール
マリエッタ/マリーの声   ミーガン・ミラー
フランク/フリッツ   アントン・ケレミチョフ
ブリギッタ   山下 牧子
ユリエッテ   平井 香織
リュシェンヌ   小野 美咲
ガストン(声)/ヴィクトリン   小原 啓楼
アルバート伯爵    糸賀 修平
マリー(黙役)   エマ・ハワード
ガストン(ダンサー)    白髭 真二

感想

「流行」とはいえないまでも-新国立劇場「死の都」を聴く。

 コルンゴルドの名前がそこそこ知られるようになって20年になります。私が彼の作品で最初に聴いたのはNHK交響楽団の定期演奏会でのヴァイオリン協奏曲ですが、1995年のその時点において、ほとんど初耳の作曲家でした。ヨーロッパにおける「死の都」の復権もそのころからだったと思います。とはいっても、自分にとっては特に興味のある作曲家でもなく、正直なところ、昨年、新国立劇場が2013-14年シーズンのプログラムを発表した時、「死の都」が入っていることに一寸驚いたほどです。

 ちなみに「死の都」の日本初演は2001年、新日本フィルの定期演奏会での演奏会形式上演。指揮は井上道義でした。その後は日本での上演は無かったのですが、この3月は、びわ湖ホールと新国立劇場での競演という形になり、コルンゴルドが流行しかけている、とは言えないとは思いますが、かなり根づいて来たな、という感じは致します。

 とはいえ、このようなマイナーなオペラを新国立劇場が独自に製作するわけもなく、今回の舞台はフィンランド国立歌劇場からのプロダクション・レンタルでの上演です。この舞台がまず非常に美しい。フィンランドと言えば、白夜を想像してしまうわけですけど、作品の舞台が、ベルギーのブルージュであるにもかかわらず、白夜の北欧を思い出させるものがあります。壁に置かれた無数の写真や、床に置かれた遺物にしても、主人公の空虚さを示すと同時に、北の光を感じさせられるように思いました。

 この演出の中で一番のポイントは、パウルの亡くなった妻・マリーを舞台に立たせたことだと思います。エマ・ハワードというこの女優さん、金髪痩身の小柄な方で、非常に透明感を感じさせる方です。このオペラは、パウルをめぐる二人の女性、マリーとマリエッタが、とても似ているにもかかわらず、性格は全く真逆であるというのが立脚点にあるわけですが、マリーの透明感がパウルとマリエッタに翻弄されながらも冷徹に見ている感じが、パウルらの心の動きを上手く反映している感じがあって面白く思いました。

 この演出が最大に効果を出したのは、第三幕でしょう。マリエッタの気持ちの変化が歌だけではなく、マリーの動きを通して見せるあたり、この演出の面白さがあったのだろうと思います。

 さて、演奏ですが、よく分かりません。全体的に言えば混沌とした感じです。冒頭の東京交響楽団の音は結構荒々しくて、大規模管弦楽の中にトレステン・ケール/ミーガン・ミラーと雖も埋もれてしまった感じがします。この二人の声は結構強いと思うのですが、それでも溺れてしまうような感じ。それがキズリングの作りたい音楽であればそれでよいのですが、私ならばオーケストラをもう少し抑えて、歌手の声を浮かせたいなと思います。

 勿論こう聴こえたのは演奏のごく一部であり、大概は、トレステン・ケール/ミーガン・ミラーの声がワーグナーのように聴こえ、この作品がドイツ後期ロマン派の系譜にあることを如実に示しておりました。

 なお、この作品のアクセントは第二幕のマリエッタの友人の劇団員たちの馬鹿騒ぎです。ここを受け持ったのが、平井香織、小野美咲、小原啓楼、糸賀修平のアンサンブルですが、彼らの歌は、パウル、マリエッタの心の動きとは全く断絶したものですが、この4人の演技・歌唱とも見ごたえがあり、楽しめるものでした。

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鑑賞日:2014年3月28日
入場料:B席 1F19列28番 8000円

日本オペラ協会創立55周年記念

日本オペラシリーズ No.74

主催:公益財団法人 日本オペラ振興会/公益社団法人 日本演奏連盟

オペラ3幕、原語(日本語)上演
三木稔「春琴抄」
原作:谷崎潤一郎
台本:まえだ純


スタッフ

指 揮 樋本 英一   
管弦楽 フィルハーモニア東京 
二十絃筝 木村 玲子 
三絃 友渕 のりえ 
合 唱 日本オペラ協会合唱団 
合唱指揮 河原 哲也 
演 出  :  荒井 間佐登
美 術  :  池田 ともゆき
衣 裳  :  桜井 久美
照 明  :  岡田 勇輔
振 付  :  飛鳥 左近
舞台監督  :  八木 清市
総監督  :  大賀 寛

出 演

春琴   松本 美和子
佐助   中鉢 聡
安左衛門 豊島 雄一
しげ女 郡 愛子
利太郎   大間知 寛
幇間・三平   鳴海 優一
幇間・真平   川久保 博史
芸者・蔦子 神田 さやか
芸者・菊次   田中 美佳
芸者・梅吉    西野 郁子
てる女/ヴォカリーズ 上田 由紀子
番頭・宗兵衛 別府 真也
鵙屋・小夜/北新地の少女 渡辺 文子
鵙屋・初 植松 美帆
鵙屋・久助 大西 貴浩
鵙屋・伝助 保川 将一
温井家・お糸 山邊 聖美
温井家・お駒 丸山 さち
温井家・竹造 堀内 丈弘
温井家・木造 大塚 雄太
春琴(舞踏)   飛鳥 左近
佐助(舞踏)   飛鳥 峯治

感想

文豪が描く音楽の世界-日本オペラ協会「春琴抄」を聴く。

 私は子供の頃から読書好きで、特に日本文学についてはそれなりに読んでいると思います。しかしながら、不得意な作家も何人もいて、谷崎潤一郎はその代表格でした。私は耽美的な世界は決して嫌いではないのですが、彼の独特の文体は子供の頃は多分歯が立たなかったのでしょうし、ある程度長じてくると、自分の読みたい本がどんどん増えてきて、いつの間にか、谷崎はパスしてしまった感じです。

 「春琴抄」は谷崎の代表作の一つで、私の手元にもあるのですが、今回初めて読んでみて、三味線の芸道の世界を描きながらも、余り音楽的な作品ではないな、と思いました。原作は、句読点を極限まで廃した長文で構成され、一つの段落も大きい。それだけに独特のうねりがあるのですが、リズム感覚がない。決して読みやすい作品ではありません。

 三木稔はこの決して音楽的とは思えない世界を、和風のリズムを利用して、ある意味実験的な作品にまとめました。

 この作品は、「春琴抄」の原作を内容をほぼ忠実になぞり、登場人物も多いのですが、その本質は和風協奏曲にあるのだろうと思います。和風協奏曲としては、武満徹の「ノヴェンバー・ステップス」がまず最初に浮かぶのですが、現代邦楽の旗手として活躍した三木稔にとって、ライバル(と本当にそう考えていたかどうかは分かりませんが)武満が、琵琶と尺八による二重協奏曲を作ったのであれば、三木は自分が考案した二十絃筝と三味線による二重協奏曲をオペラの中で使ってみようという野心があったのでしょう。作曲から40年近くたち、改訂されることが無くなった作品として聴いてみても、オペラとしての味よりも和風協奏曲の味が強く感じられました。

 そういう風に聴こえてくるということは、三木稔の作曲の意図もあるでしょうし、一方で、二十絃筝を担当した木村玲子、三絃を担当した友渕のりえの演奏技術が素晴らしかった、ということなのだろうと思います。

 一方、声の饗宴という意味でのオペラの魅力は今一つなのかな、と思います。春琴を歌った松本美和子の歌唱は、丁寧なものですが、10年ほど前に聴いた「欲望という名の電車」におけるブランチの名唱のような圧倒的な力感はありませんでした。三木稔は、春琴にそのような灰汁の強さを求めていなかったということなのかもしれません。しかしながら、松本美和子の立ち居振る舞いが魅力的で、特に10代を演じる第一幕は、本年72歳の大ベテランでありながら、しっかり10代に見えたのが流石だと思います。更に二幕、三幕になると、お化粧の仕方を変えてもいるのでしょうが、それなりに老けが見えました。

 一方気になったのは、松本の問題というよりもこの作品の問題なのだろうと思いますが、春琴の台詞がはっきりしない。レシタティーヴォの部分はそれでも何とか聞き取れるのですが、アリア的になると、ほとんど何を歌っているのか分かりませんでした。古い日本オペラはソプラノ系歌手が歌うところの歌詞が聴きとれないということはよくあるのですが、今回も例外ではなかったということでしょうか。

 一方、男声陣は良かったと思います。中鉢聡の佐助は、前半の抑えた感じからクライマックスの高揚感への変化が魅力的でした。ただ、最後は中鉢節が出てしまって、それを無いままにクライマックスを歌いきれればもっと良かったと思います。

 大間知覚の利太郎も立派。大間知の美声が第二幕前半の遊び人風の雰囲気を盛り立てます。その利太郎が、春琴のやり方に腹を立て、春琴の顔にやけどを負わせてしまうわけですが、その変化が面白く聴けました。

 オペラの筋にとってはどうでも良い部分ではありますが、幇間二人の掛け合い「狸節」も面白い。二人の踊りがもっと揃っていたら、もっと楽しめたと思います。

 以上、演奏の面白さよりも、作品そのものの特徴を楽しんだ感じです。樋本英一の指揮は、作品の特徴を引き出すという観点では十分だったということなのでしょう。

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観劇日:2014年4月8日

入場料:3780円、座席:D席 4F4列8番

新国立劇場
共同制作:バイエルン州立歌劇場(2008年11月プレミエ)

オペラ3幕、字幕付原語(ドイツ語)上演
ベルグ作曲「ヴォツェック」Wozzeck
台本 アルバン・ベルグ
原作 ゲオルグ・ヒューヒナー

会場 新国立劇場オペラパレス

指 揮 ギュンター・ノイホルト  
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
児童合唱  :  NHK東京児童合唱団 
児童合唱指導  :  金田 典子 
演 出 アンドレアス・クリーゲンブルグ
再演演出  バルバラ・ウェーバー 
美 術 ハロルド・ドアー
衣 裳 アンドレア・シュラート
照 明 シュテファン・ボリガー
振 付 ツェンタ・ヘルテル
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 大澤 裕
芸術監督 尾高忠明

出 演

ヴォツェック ゲオルク・ニグル
鼓手長 ローマン・サドニック
アンドレス 望月 哲也
大尉 ヴォルフガング・シュミット
医者 妻屋 秀和
第一の徒弟職人 大澤 建
第二の徒弟職人 萩原 潤
白痴 青地 英幸
マリー エレナ・ツィトコーワ
マルグレート 山下 牧子
マリーの子供 池袋 遥輝
兵士 二階谷 洋介
若者 寺田 宗永

感 想: お勉強のつもりだったが、、、−新国立劇場「ヴォツェック」を聴く

 私にとってオペラは娯楽であって、それ以上のものではありません。ですから、自分が楽しめる作品だけを選択して聴けばよいのですが、やっぱりそれじゃ物足りないのですね。たまには、実験的なオペラや難解な作品聴いておきたくなる。勿論それは、自分の知識や幅を広げるためのお勉強です。そんな難解な作品も何度か繰り返して聴けば、ある時点で納得できる時が来るようです。

 現代オペラの古典とも、20世紀オペラの最高峰とも言われる「ヴォツェック」ですが、私にとっては、これまではお勉強の対象でした。全曲を通して聴いたことは何度かありますし、新国立劇場のプレミエも見ております。しかしながら、これまで、このオペラの味わいをすっきりと感じることができずに来たと思います。ストーリーはともかく、音楽が中身とどのように関係しているのか、という点がほとんど分かっていませんでした。

 今回五年ぶりでこの作品の舞台を見たわけですが、相当すっきりと、この作品の世界が自分の耳の中に入ったようです。グリーケンベルグの演出の意図は、プレミエを見た時に分かっていたつもりでしたが、その下層民の不安というものが今回前回よりもしっくりと感じることが出来ました。同じ舞台、同じ演出なのですが、再演されることで、細部が洗練られたということはあるのでしょうね。

 音楽のことを申し上げれば、非常に緻密な音楽を書かれたベルグ先生を称賛しなければいけませんが、逆にこのような作品を演奏する演奏者たちは、演奏者の個性を強調するよりも、楽譜をどれだけ忠実に再現するかが大事なのだろうと思います。今回、医者の妻屋秀和であるとか、マルグリートの山下牧子であるとか、プレミエ時に歌われた歌手が主要脇役で出演していますし、オーケストラメンバーもコンサートマスターの荒井英治を初めとして多くの方が重なっていることから、再演による技術の洗練はあったのだろうと思います。

 全体としてはなかなか良くまとまった舞台だと思ったのですが、それを作るための指揮者の意図はよく分かりませんでした。というよりも、このような作品は、指揮者の解釈や個性で持たせるよりもスコアをしっかりと音として示す方が、聴き手にとってよい結果を生むということがあると思うので、ある意味個性的とは思えなかったノイホルトの指揮が適切だったのでしょう。

 歌い手の存在感ですが、声だけを取ってみれば、まずマリー役のツィトコーワが流石です。彼女の声には、舞台の雰囲気を変える力があると思いました。声の力という点では、ツィトコーワには敵いませんが、ヴォツェックの心情表現を適切に示すという点で、ゲオルク・ニゲルのヴォツェックはまさしく適役でした。彼の表現は(声と演技とを含めて)、ヴォツェックの不安と諦めとそれでも御しきれない怒りが素直に伝わってくる感じがありました。

 そのほかの脇役陣では、大尉のヴォルフガング・シュミット、アンドレスの望月哲也、それに再演組の医者の妻屋秀和、マルグリートの山下牧子が良かったと思いますし、合唱も、大人たちの合唱も子供たちの合唱も力があったと思います。

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鑑賞日:2014年4月20日
入場料:1FL列2番 5000円

トウキョウモーツァルトプレーヤーズ
三鷹市芸術文化センター 風のホール 第66回定期演奏会
TMPオペラプロジェクト第6弾

主催:公益財団法人 三鷹市芸術文化新興財団 

オペラ2幕、字幕付歌唱原語(ドイツ語)台詞日本語上演、演奏会形式、短縮版
モーツァルト作曲「魔笛」(Die Zauberflöte)
台本:エマヌエル・シカネーダー

会場:三鷹市芸術文化センター・風のホール

スタッフ

指 揮 阪 哲朗   
管弦楽 トウキョウ・モーツァルト・プレーヤーズ 
   
   
   
   
   

出 演

ザラストロ   大塚 博章
タミーノ   村上 公太
弁者/合唱   駒田 敏章
夜の女王   針生 美智子
パミーナ   林 よう子
侍女T/童子T   上田 純子
侍女U/童子U   田島 千愛
侍女V/童子V    塩崎 めぐみ
パパゲーナ   今野 沙知恵
パパゲーノ   村松 恒矢
モノスタトス/合唱   日浦 眞矩
武士T/合唱    伊藤 達人 
武士U/合唱   清水 那由太

感想

今後の精進に期待する -TMPオペラ・プロジェクト「魔笛」を聴く

 若い歌手の歌を聴くのは楽しみです。まだ粗削りだったり、座りが悪かったりすることはあるのですが、若さゆえの伸びしろを感じられたり、清々しかったりすることもあります。

 今回のトウキョウ・モーツァルト・プレーヤーズの「魔笛」は、主たるメンバーは、この3月新国立劇場オペラ研修所を終了したばかりの若手。それ以外のメンバーもほとんどが新国立劇場オペラ研修所を終了して数年の若手です。

 例外は「夜の女王」を歌った針生美智子と「ザラストロ」役の大塚博章、この魔笛の最高音と最低音を受け持つ二人は経験者でなければむつかしいということでこのキャスティングになったのでしょうね。

 それにしても「夜の女王」はあたりまえの役になりました。今でも魔笛の「夜の女王」といえば、コロラトゥーラ・ソプラノの難役なのでしょうが、ちゃんと歌える歌手は、その時代、世界中に数人しかいない、と言われたのは今は昔。歌唱技術は確実に上がっています。最高音F音は、1980年ごろだと一流歌手たちが集まった録音盤でもかなり厳しいことが多かったのですが、もうそんなことは有り得ません。今、日本のソプラノで「夜の女王」をきっちり歌えるだろうと思える方は数人は確実にいますし、ひょっとしたら10人ぐらいいるかもしれません。

 それでも難曲であることは変わりありませんから、夜の女王役を経験豊富なベテラン持ってくるというのは、適切な判断でしょう。針生美智子であれば間違いない。それはその通りだと思います。今回の針生、第一アリアでは最後の下りたところで、音を外していましたが、技巧的な部分は本当に立派。第二アリアは、ほぼ完璧な歌唱で、会場を沸かせました。

 一方、華やかさがないので話題になりにくい役ですが、ザラストロの低音も大変です。ちゃんと音が下がりきって、かつ会場を響かせる声を出すのは至難です。こういう低音を出すためには、身体を丸太棒のようにして喉を柔らかくし、身体全体で響かせるのがセオリーらしいですが、大塚はそのセオリー通り歌っていたようです。そのためか、最低音も下がってそれなりに響いていましたのでよかったなと思いました。

 両ベテランに挟まれた若手歌手たちですが、今一段の努力が欲しいな、と思う方が多かったです。紋切型の書き方をすれば「今後の精進に期待したい」というところでしょう。

 まず、タミーノですが、この歌にはなんといっても声の透明感が欲しい。それがあってこそ王子の気品が出ると私は思っているのですが、村上公太は、響きの透明感が不足していますし、その歌いっぷりはドラマティック。「何と美しい絵姿」などは、パミーナに一目ぼれをした、という感じに聞こえてこないのです。それ以外の部分でも村上タミーノはドラマティック・ヒーローになってしまっていて、タミーノとしてはいかがなものかな、と思いました。

 パパゲーノの村松恒矢も今一つ。パパゲーノは芸達者であってほしい。「おいらは鳥刺し」を歌うために袖から飛び出してきたとき、もっと溌剌としてもらわないと、パパゲーノの味わいは出ません。演奏会形式で演技が無い分大変なのはわかりますが、テンションが上がりきっていないというか、結構真面目な歌になってしまっていて、面白さに欠けていたと思います。パミーナとの二重唱なども、正統なパミーナと一寸とぼけたパパゲーノという感じが味を出すのだと思うのですが、二人とも真面目で悪くはないけど、、、、という感じでした。

 モノスタトスの日浦真矩。キャラクターテノールは難しいですね。こちらも演技が無い分厳しいのでしょう。「誰でも恋の喜びを知っている」のアリアは悪くはないと思うのですが、拍手が貰えなかったのは、モノスタトスの特徴を示せなかったことにあるのだろうな、と思いました。

 林よう子のパミーナ。今回の若手の中で、一番声の特徴と役柄とが合っている感じがしました。中低音の密度がしっかりしているところが良いと思います。2月末に聴いた「ナクソス島のアリアドネ」におけるアリアドネよりは確実に良かったです。

 今野沙知絵のパパゲーナは、おばあさんの格好で出てくるときのしゃべり口調が、明らかに仙台弁のイントネーションで、そこが面白かったです。彼女に関しては、2月末に聴いた「ナクソス島のアリアドネ」における作曲家よりは確実にパパゲーナが似合っていますが、「パ・パ・パ」の二重唱は、今一つでした。これは今野が悪いというより、村松パパゲーノのテンションの高まりが足りないことが問題だと思いました。パパゲーナを捕まえることができて本当に嬉しい、という感じで歌って欲しい。

 三人の侍女は、田島千愛の声の飛びが今一つ。二人の武士は立派な二重唱でした。

 若手の方たちは、楽譜通りには歌っていると思うのですが、演奏会形式であるからこそ、役柄の特徴や心情に、もっと大げさに気を配った歌唱をして欲しかったように思いました。

 阪哲朗指揮のTMPの演奏は素敵でした。序曲が終わった時に拍手が出るかと思ったら、誰も拍手をしなかったので、阪が会場を見渡して怪訝そうな顔をしましたが、序曲は十分拍手に値する演奏でした。その他の部分も立派だったと思います。

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鑑賞日:2014年4月26日
入場料:S席 1F15列31番 9000円

アルテリッカ(川崎・しんゆり芸術祭)2014
藤原歌劇団公演

主催:川崎・しんゆり芸術祭2014実行委員会/公益財団法人川崎市文化財団/昭和音楽大学/日本映画大学 

オペラ2幕、字幕付歌唱原語(ドイツ語)台詞日本語上演
モーツァルト作曲「魔笛」(Die Zauberflöte)
台本:エマヌエル・シカネーダー

会場:昭和音楽大学テアトロ・ジーリオ・ショウワ

制作:日本オペラ振興会

スタッフ

指 揮 星出 豊   
管弦楽 テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ 
合 唱 藤原歌劇団合唱部/桐光学園高等学校合唱部
合唱指揮・副指揮  仲田 淳也
演 出  馬場 紀雄
オリジナル演出  横山 由和
美 術  :  本江 義治 
衣 裳  :  鷺 典子 
照 明  :  倉本 泰史 
舞台監督  :  土屋 優紀 
公演監督  :  岡山 廣幸 

出 演

ザラストロ   東原 貞彦
タミーノ   小山 陽二郎
弁者   党 主税
夜の女王   楠野 麻衣
パミーナ   清水 理恵
侍女T   北野 綾子
侍女U   小林 教代
侍女V    田畑 佳奈
パパゲーナ   宮本 彩音
パパゲーノ   秋本 健
モノスタトス   山内 政幸
童子T  :  中桐 かなえ 
童子U  :  高橋 初花 
童子V  :  山邊 聖美
武士T/僧侶T  :  沢崎 一了 
武士U/僧侶U  :  別府 真也 

感想

無国籍風ジャポニズム -アルテリッカ2014 藤原歌劇団「魔笛」を聴く

 期せずして二週連続して「魔笛」を聴くことになりました。色々な意味で対照的な公演でした。演奏会形式と舞台公演、一部省略有と全曲演奏、その他音楽作りも指揮者の個性の違いなのか、かなり対照的でしたし、歌手たちの表現も対照的だったように思います。

 ちなみに、舞台は基本的に2011年に「人材育成オペラ公演」と銘打たれて上演された横山由和の舞台です。前回聴いた時は三階席からの視聴だったからかあまり気になりませんでしたが、衣裳デザインが、私個人としては今一つです。はっきり申し上げてしまえば、東洋のことなど全く知らないヨーロッパのデザイナーが、日本風と言えばこんなもんだろう、という感じでデザインした、日本的とも中国的ともいえない無国籍風のもの。

 「魔笛」と言えば、舞台はエジプトで、タミーノは日本の王子という設定ですから、何でもありで良いんでしょうけど、何か、「魔笛」はこんな感じでしょう」と言う感じで作った、どこかで見たような、それでいてあか抜けない安っぽいデザインで、どうも感心いたしません。そう思ってしまうのは、星出豊の音楽作りも関係するかもしれません。

 先週の阪哲朗と今週の星出豊。二人の指揮者のアプローチはかなり対照的です。阪は颯爽と割と速いテンポですいすい演奏している感じ。自分がぐいぐい押していく演奏というよりは、音楽が持っている自発性にうまく乗ってドライブしていた印象です。翻って、今回の星出豊の演奏は、よく言えば落ち着いて重厚、悪く言えば重たくて、モーツァルトの音楽の持つロココ的美感を感じにくい演奏。そいう演奏と、あの衣裳が重なると、私には殊に鼻に付いてしまった、ということはあるかもしれません。

 歌についても、先週と今週とでは対照的です。先週は夜の女王とザラストロが良く、この二役は先週に軍配を上げざるを得ない。それ以外は二三を除いて、今週の方が良かったと思います。

 まず夜の女王ですが、楠野麻衣という方、私は初めて聴く方だと思います。一番聴かせどころのスタカートの高音部分はしっかり出ていたと思いますが、中低音部の灰汁が足りない感じです。また、第一アリアの入りの部分はもっと力を込めてしっかり歌った方が良いと思うのですが、そこがひょろひょろした感じになっていました。メドゥーサのかつらを付けて、毒々しい化粧をして登場しても、先週の針生美智子の目力や灰汁の強さにはとても太刀打ちできない感じでした。こういうところが経験の差なのでしょうね。今後に期待したいところです。

 東原貞彦のザラストロ。2011年公演の時も同じ役を歌われていて同様に思ったのですが、高音部分はそれなりに説得力があるのですが、低音に難があります。第一幕フィナーレの最低音は下がり切っていませんでしたし、二つのアリアもヘ音記号の五線の下の音は、ほとんど飛んでこなかった感じです。先週の大塚博章は、そこをしっかり響かせてきたので物足りなさを感じました。

 小山陽二郎のタミーノ。この方の声はタミーノに良く似合っています。特に高い方の透明な響きは、如何にもモーツァルトのテノール、という感じで凄く素敵。それが低い音に変わって行っても同じような色合いで下がってくれれば良いのですが、声の出し方を急に変えるのでしょうか、そのギアチェンジが一寸露骨で気になりました。

 清水理恵のパミーナ。この方も良い。先週の林よう子も悪くなかったですが、清水の方がもっと素敵です。相手が良かったということはあるにせよ、パパゲーノとの重唱、タミーノとの重唱が共に素敵でしたし、17番のアリア「ああ、私にはわかる、消え失せてしまったことが」の切々とした訴えも心に響きました。

 秋本健のパパゲーノ。悪くないと思います。印象としては、「ドラえもん」のスネ夫みたいな感じ。天衣無縫な野生児、という感じではないですが、それはそれで悪くない。ただ、「恋人か女房がいれば」のアリアは、もっと声を軽くして歌った方が、もっと軽妙さが出たのではないかと思います。それにしてもパパゲーノは演技が大切ですね。演技があって雰囲気が盛り上がるところがあリます。先週の村松恒矢は可哀相でした。

 宮本彩音のパパゲーナは雰囲気が一寸いいです。小柄な秋本パパゲーノと長身の宮本パパゲーナとが組み合わさると、将来の嬶天下が見えてきそうで面白かったです。「パ、パ、パ」は楽しげでした。

 山内政幸のモノスタトス。今一つ存在感が足りない感じです。モノスタトスは悪役ですが、その後ろ側には虐げられたものの悲しみがあります。そこが示せると良いのですが、コミカルになり過ぎていたのか、なかなかそこまで感じさせる演技・歌唱ではないと思いました。

 侍女三人は、先週の方がアンサンブルとして整っていました。童子三人は可愛らしくて、アンサンブルも良く整っており、とても素敵でした。

 2011年の公演の時にとても感心した澤崎一了の武士/僧侶T、今回も同役で再度登場。前回同様立派な歌で感心しました。

 もう一つ良かったな、と思うのは、会場がほぼ満席だったこと。何といっても、お客さんがたくさん入っている公演は良いものです。

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鑑賞日:2014年4月27日
入場料:D席 4000円 5F R2列6番

主催:公益財団法人 東京二期会

東京二期会オペラ劇場 二期会名作オペラ祭

オペラ3幕、字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「蝶々夫人」Madama Butterfly)
台本:ルイージ・イッリカ/ジュゼッペ・ジャコーザ

会場 東京文化会館大ホール

指 揮 ダニエーレ・ルスティオーニ
管弦楽 東京都交響楽団
合唱指揮 佐藤 宏
合 唱 二期会合唱団
演 出 栗山 昌良
舞台美術 石黒 紀夫
衣 裳 岸井 克己
照 明 沢田 祐二
舞台設計    荒田 良 
舞台監督 菅原 多敢弘

出 演

蝶々夫人 木下 美穂子
ピンカートン 樋口 達哉
シャープレス 泉 良平
スズキ 小林 由佳
ゴロー 栗原 剛
ボンゾ 佐藤 泰弘
神官 渥美 史生
ヤマドリ 鹿野 由之
ケート 谷原 めぐみ

感 想

私は「蝶々夫人が嫌いです」 -東京二期会オペラ劇場「蝶々夫人」を聴く

 私はプッチーニの作品自身があまり好きではありませんし、「蝶々夫人」は特に嫌いです。一番嫌いなオペラかもしれません。しかし、そんな私が聴いても本日の「蝶々夫人」は良かったです。名演と申し上げて差し支えないと思います。聴いていて久しぶりに背筋がぞくぞくいたしました。

 そう思えた要因は多分三つあります。

 第一には、ルスティオーニの音楽作りが非常に立体的で、ポイントを押さえた指揮をしていたこと。第二に外題役の木下美穂子の歌唱が素敵だったこと。第三に栗山昌良の演出が日本人が演ずる蝶々夫人のあり方を極めたことです。この三点が相俟って、名演になったのだと思います。

 ルスティオーニの指揮は基本的にはきびきびした推進力のあるもので、指揮者の若さを感じさせるものでした。しかし、この方はそれだけでは終わっておらず、緩急を歌唱の呼吸に合わせて付けていく感じです。ですから音楽がだれない。東京都交響楽団の演奏も、指揮者の要求に沿って、荒々しく演奏していたかと思うと、非常に抒情的になっ足りして、その変化が多様で、面白いものになっていました。

 木下蝶々さんは、全体に一本芯の通った歌唱で良かったです。基本的なトーンにぶれがなく、黒光りするような密度のある歌唱が素晴らしいと思いました。中庸のところがしっかりしているから、高いところも低いところも自在なのでしょうね。一幕の「愛の二重唱」での可憐な表情、第二幕の「ある晴れた日に」、又「花の二重唱」から「ハミング・コーラス」に至る部分の切ない表現、第三幕の絶望における劇的な表現、どれも立派なもので、私がこれまで聴いた蝶々さんの中でも最高の一人と申し上げるに躊躇いたしません。とにかく素晴らしかったと思います。

 木下蝶々さんの素晴らしいところは所作の見事なところです。栗山演出の特徴だと思うのですが、日本人の立ち居振る舞いを意識した演出になっています。栗山演出で「蝶々夫人」をやるのであれば、蝶々さんの役は日本人でなければ無理だろうな、と思います。西洋人の歌う蝶々夫人もずいぶん見ましたけど、どんなに日本風に演技をしても、腰のなよっとした感じは出せないようです。

 「蝶々夫人」という作品は、プッチーニが十分に日本人を知ること無しに作られた作品ですので、日本人から見ればおかしいところが幾つもあります。それでもイタリアオペラのセオリーに従ったイタリアオペラですから、日本人が一人も入らない舞台でも成功することは可能でしょう。従って、日本をあまり意識しない舞台も勿論考えられる。例えば、新国立劇場の栗山民也の舞台は日本を全く無視しているわけではありませんが、無国籍指向です。

 でも、あの舞台で非日本人の蝶々さんがいくら頑張って見せたところで、プッチーニの音楽の粗ばかり感じさせられて、全然心を動かされません。

 二期会の栗山昌良演出は、徹底して日本に拘っています。舞台は明治維新の長崎であることが分かるように、例えば、ゴローは一幕で登場するときは髷姿なのに、二幕になると散切り頭になると言った細かいところまで気を配ってますし、季節が春であることを意識させるために、舞台には桜を飾っている。第一幕の結婚式での花嫁行列の姿の合唱団の動き方なども頗る日本的です。こういう細かいところに、日本人の感じる日本らしさをしっかり出しています。

 この演出のベースには勿論プッチーニの音楽があります。プッチーニの音楽はエキゾチズムを強調するがゆえに不自然なところも多々あるわけですが、栗山昌良演出は、その音楽の不自然さを出来るだけ注目しないようにして、その美しさを強調するような舞台になっている。何度見ても二幕の花の二重唱からハミングコーラスに続く部分のヴィジュアル的美しさは凄いと思います。特に今回の木下美穂子と小林由佳はその所作の美で、その舞台の美を更に強調していたのではないかと思います。

 木下以外の歌手たちですが、まず、スズキの小林由佳が良い。5年前の山下牧子ほどには心を動かされませんでしたが、歌唱・演技ともとても立派なものでした。

 ピンカートンの樋口達哉。悪くはないけど、一幕は全体的に力み過ぎの印象です。もう少し抑えて歌った方が、一幕の音楽的美が光ったのではないかと思いました。泉良平のシャープレスも、一幕の響きが今一つでした。二幕・三幕は良いと思いました。

 その他脇役では、女衒ゴローの一寸品のない軽薄な感じを栗原剛は上手に歌っていましたし、佐藤泰弘のボンゾ、鹿野由之のヤマドリも良かったと思います。

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鑑賞日:2014年5月24日

入場料:C席 7560円 4F2列12番

主催:新国立劇場

オペラ1幕・字幕付原語(イタリア語)上演
マスカーニ作曲 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」(CAVALLERIA RUSTICANA)
台本:ジョヴァンニ・タルジョーニ・トッツェッティ/グイード・メナーシ

オペラ2幕・字幕付原語(イタリア語)上演
レオンカヴァッロ作曲 歌劇「道化師」(I Pagliacci)

台本:ルッジェーロ・レオンカヴァッロ

会場 新国立劇場 オペラパレス

スタッフ

指 揮 レナート・パルンボ  
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
児童合唱 TOKYO FM少年合唱団
児童合唱指揮 米屋 恵子/金井 理恵子
演 出 ジルベール・デフロ
美術・衣裳 ウィリアム・オルランディ
照 明 ロベルト・ヴェントゥーリ
音楽ヘッドコーチ  :  石坂 宏 
舞台監督    村田 健輔 
芸術監督 尾高 忠明

出演者

カヴァレリア・ルスティカーナ

サントゥッツァ ルクレシア・ガルシア
ローラ 谷口 睦美
トゥリッドゥ ヴアルテル・フラッカーロ
アルフィオ 成田 博之
ルチア 森山 京子

道化師

カニオ グスターヴォ・ポルタ
ネッダ ラケーレ・スターニシ
トニオ ヴィットリオ・ヴィテッリ
ペッペ 吉田 浩之
シルヴィオ

与那城 敬

感 想

シシリーの風・南イタリアの風−新国立劇場公演「カヴァレリア・ルスティカーナ」・「道化師」を聴く

 ほぼひと月ぶりのオペラ鑑賞でしたが、先月の二期会「蝶々夫人」、今月の新国立劇場「カヴァ・パリ」を聴いて思うのは、そのお国の人しか出せないローカルな味わいというのは確かにあるんだな、ということでした。

 フランス人演出家に依る新演出の舞台ですが、円形劇場を模した舞台が落ち着いた雰囲気で、南イタリアというよりは北イタリアかドイツっぽい感じもしましたが、この中で「カヴァレリア・ルスティカーナ」も「道化師」も上演されます。特に「道化師」は、舞台の上にいる観客役である合唱団とともに、本当のオペラの観客も観客役として参加することも求められます。その意味で、この舞台は「カヴァレリア・ルスティカーナ」よりも「道化師」にポイントを置いた舞台なのでしょう。

 さて、前半の「カヴァレリア・ルスティカーナ」

 フラッカーロのトゥリッドゥは、冒頭のシシリアーノがとても軽薄な感じで、「何だこれは?」と思ったのですが、あの感じがイタリアなのでしょうね。俗に女性を見たら口説かずにはいられないというイタリア男の軽薄さをイタリア人自身が誇張して見せたということなのだろうと思います。フラッカーロの歌は端正という訳ではないのですが、イタリア的ローカリズムが一寸したところから噴き出していて、その血の滾る感じが魅力的だと思いました。

 今回の「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、トゥリッドゥを中心に回っていた舞台でした。指揮者もオーケストラも合唱もそれを盛り立てる存在のような感じです。

 サントゥッツァ役のガルシアはベネズエラ出身の歌手だそうですが、彼女の歌は、フラッカーロと比較すると、音楽的には整っているけれども、イタリア風のローカリズムは余り感じられない。「ママも知る通り」などは、凄く端正で結構なのですが、どこか彫りが今一つ浅くて、イタリアの血を感じさせるということにはなりませんでした。悪くないんだけど、このオペラでトゥリッドゥがあんな歌い方をするなら、サントゥッツァももう一頑張りしても良いのかな、と思いました。

 成田博之のアルフィオ。私は、アルフィオはもっと粗野で男っぽい役柄であるというイメージがある。その印象と比較した時、成田のアルフィオは端正過ぎて、存在感が薄い。トゥリッドゥのイタリアの太陽みたいな歌唱に対抗しきっていなかった感じがします。アルフィオの登場のアリア「馬が地を蹴り」は、最初からもっと力強く歌った方が、アルフィオの粗野さが出る感じがします。決闘の場面でも、本来は、アルフィオの怒りにトゥリッドゥが仕方なしに決闘に巻き込まれていく、という感じだと思うのですが、今回はアルフィオの方が背伸びをして決闘を求めているように見えてしまって、一寸残念でした。

 谷口睦美のローラは長身・美貌の彼女の雰囲気がローラにぴったり。森山京子のマンマルチアもベテランの味でしっかり締めていました。

 パルンボの音楽作りは、イタリアの情熱を感じさせるもので、この作品やフラッカーロの歌唱と良くマッチしている感じがいたしました。ただ、端正ではない。例の間奏曲は、これでもか、という位に綺麗に演奏すると、音楽の美しさと話の世俗的馬鹿馬鹿しさとが対比されて、曲の味わいが増すと思うのですが、パルンボ自身の持つイタリアの血が滾ってしまったように思いました。

 後半の「道化師」ですが、「カヴァレリア」ほどはイタリアの風を感じることはできませんでした。これは、タイトル役のポルタがイタリア人ではないということが関係するのでしょうね。狂気の表現が今一つおとなしい感じがします。「衣裳をつけろ」は、悪くはないのだけれども、聴き手の心を鷲掴みするような荒々しい感情の表出はなかったように思います。存在感はあるし、良い歌唱なんですけど、「カヴァレリア」のフラッカーロの歌を聴いてしまうと、物足りなさを感じてしまうのも又事実です。

 スターニシのネッダも良好。ネッダに似合った一寸凄味のある美女。デビュー25周年のベテランだそうですが、そのせいか、歌唱・演技とも手慣れた感じがしました。ポイントを押さえた歌唱で良かったのですが、どこか、ルーチン感がありました。

「道化師」は脇役陣は総じて良好。ヴィテッリのトニオはよい。プロローグの口上も、ネッダに振られてからの怒りの表情もイタリアですね。与那城敬のシルヴィオが演出のせいもあるのでしょうが、一昨年の二期会の「道化師」の時よりもずっと存在感があり、ネッダを誘惑する魅力が良かったと思います。吉田浩之のペッペも良かったです。

 パルンボの音楽作りは「道化師」の方が一寸冷静な感じがしました。そのせいか、舞台全体の音楽的まとまりもバランスも「道化師」の方が良かったのかなとは思います。しかし、「カヴァレリア」の田舎くささには聴き手におプリミティブな部分を刺激する快感がありました。

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