オペラに行って参りました-2015年(その3)

目次

主役の交代の影響  2015年6月13日  小空間オペラVol.41「ドン・パスクワーレ」を聴く 
緻密な名演奏 2015年6月27日 新国立劇場「沈黙」を聴く
ベテランの余裕、若手の緊張  2015年7月3日  藤原歌劇団「ランスへの旅」を聴く 
高音で魅せられなかったとしても 2015年7月4日 藤原歌劇団「ランスへの旅」を聴く
新演出で歌うこと  2015年7月18日  東京二期会「魔笛」を聴く 
ビフテキ、ビフテキ、ビフテキ 2015年7月19日 杉並リリカ「マリオ・デル・モナコ生誕100年&レナータ・テバルディ没後10周年記念ガラ・コンサート」を聴く
もう一押しの練習を 2015年9月5日  首都オペラ「トゥーランドット」を聴く 
やっぱりロッシーニは難しい 2015年9月11日 ルナノバ「アルジェのイタリア女」を聴く
アマチュアであればこそ 2015年9月13日  オーケストラ夢十夜第8回演奏会「カルメン」を聴く 
若さは感じさせられるが、、、 2015年9月23日 Le voci 第15回公演「椿姫」を聴く

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2015年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2015年 
2014年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2014年 
2013年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2013年 
2012年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2012年 
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

 

鑑賞日:2015年6月13日
入場料:5200円
 自由席

主催:小空間オペラTRADE風の丘ホール

全3幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ドニゼッティ作曲「ドン・パスクワーレ」(DON PASQUAILE)
台本:ジョヴァンニ・ルッフィーノ/ガエタノ・ドニゼッティ

会場 はなみがわ風の丘HALL

スタッフ

ピアノ 巨瀬 励起
演出 奥村 啓吾
舞台美術 大澤 ミカ
ヘアメイク 濱野 由美子
照 明 岡本 泰宏
字幕  :  武市 佳奈 
プロデューサー 大澤 ミカ

出 演

ドン・パスクワーレ :畠山 茂
ノリーナ :伊藤 晴
エルネスト :小山 陽二郎
マラテスタ :大川 博
使用人・公証人 :小幡 淳平

感 想

主役の交代の影響小空間オペラVol.41「ドン・パスクワーレ」を聴く

 主役の交代が本番の5日前ということで、プロデューサーの大澤さんは、本当に胃の痛くなる思いだったようです。何とか初日が終わり、それも、いろいろ細かな問題はあるにせよ、全体としては成功裏に終わったことは喜ばなければいけません。全体的に素敵な公演だったと申し上げます。

 ドン・パスクワーレは、「騎士はあの眼差しに」みたいなアリアはよく取り上げられますが、全曲をきちんと演奏されることは滅多にありません。最近では、2012年に深見東州が率いる東京芸術財団という団体がとり上げていますが、それが過去5年間、国内では唯一の例と申し上げて良い。合唱が入らない例としては、2013年に二期会weekで取り上げられており、その際の外題役は畠山茂が務めました。要するに、今、「ドン・パスクワ−レ」を取り上げようとしても、レパートリーとして身体に入っている歌手は、畠山しかいないのです。

 その畠山は5日前に依頼されたとは思えない演技。歌は入っているにせよ、今回の演出を3,4日で身体にいれたのですからそこは大したもの。ドン・パスクワーレとマラテスタとの早口の二重唱は、ステッキで帽子を廻しながら歌うのですが、そんなアクロバチックな部分も問題なくやり遂げましたから、もともと運動神経の優れた方なのでしょうが、立派と申し上げましょう。また、ドン・パスクワーレは、ブッフォ役とはいえ、かなり可哀相な役柄ですが、畠山が歌うと、その可哀相さが上手く笑いに転換されます。そこが演出の妙なのか、前回の二期会week公演でも同じように思いましたので、畠山の持っているキャラクターのせいかもしれません。

 伊藤晴のノリーナ。まあまあでした。2年前の二期会week公演でノリーナを歌った上村朝子よりはずっとよかったし、演技・雰囲気も含め、その才能・力量を感じさせられるものでした。ただ、伊藤のノリーナはドスが利きすぎていて、可愛さよりも怖さが前面に出てくる感じ。演技とはいえ、あのノリーナを見て、よくエルネストが引かないな、と思ったのは私だけではないでしょう。声をもう少し軽くして可愛らしく歌った方が、ノリーナの健気さ(ノリーナは本当は優しんだけど、エルネストと結婚したいから無理しているのよ、という雰囲気)が醸し出されるような気がしました。もちろん、上述の通り、それでもドン・パスクワーレをあまり気の毒には思わなかったので、バランス的には、彼女ぐらいのえぐさがあっても良いのかもしれません。

 小山陽二郎のエルネスト。しっかり歌われていましたが、気になるところもいろいろありました。高音の伸びが今ひとつで、アクートが決まらないのが一寸残念。あと、伴奏が亡くなって、フリーで歌える部分が、全体的に慌てすぎている感じがしました。微妙な間の感覚ですが、もう少しゆったりと歌った方が、テノールの甘さがより引き立ったのではないかという気がしました。

 大川博のマラテスタ。良かったです。全体的に一番落ち着いていて、目配りが利いていました。重唱での参加しかない役ですが、誰と絡んでもバランスよく歌っていて、落ち着いた雰囲気が丁度良いアンカーになんている様に思いました。有名な「準備が出来たわ」の二重唱や、終幕のドン・パスクワーレとの二重唱などがことに良かったように思いました。

 全般的には、小劇場オペラの良さを満喫できた上演だったと思います。状況の厳しい中、これだけの演奏を聴かせて頂いたこと、Braviと申し上げましょう。

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鑑賞日:2015627
入場料:
C席 5832円 4F 139

新国立劇場公演
2014/2015シーズンオペラ

オペラ2幕、日本語字幕付原語(日本語)上演

松村禎三作曲「沈黙」
台本:松村禎三
原作:遠藤周作

会場 新国立劇場・オペラパレス

スタッフ

指 揮 下野 竜也
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 冨平 恭平
児童合唱 世田谷ジュニア合唱団
児童合唱指導    掛江 みどり 
     
演 出 宮田 慶子
美 術 池田 ともゆき
衣 裳 半田 悦子
照 明 川口 雅弘 
音楽ヘッドコーチ    石坂 宏 
舞台監督 菅原 多敢弘

出 演

ロドリゴ 小餅谷 哲男
フェレイラ 黒田 博
ヴァリニャーノ 成田 博之
キチジロー 星野 淳
モキチ 吉田 浩之
オハル 高橋 薫子
おまつ 与田 朝子
少年 山下 牧子
じさま 大久保 眞
老人  :  大久保 光哉 
チョウキチ  :  加茂下 稔 
井上 筑後守  :  島村 武男 
通辞  :  吉川 健一 
役人・番人  :  峰 茂樹 
牢番  :  川村 章仁 
刑吏A  :  丸山 哲弘 
刑吏B  :  大森 いちえい 
侍  :  佐藤 勝司 
修道士  :  半田 爾 

感想

緻密な名演奏-新国立劇場公演「沈黙」を聴く。

 2012年2月プレミエの公演の再演です。2012年の公演と変わったところは、オーケストラが東京交響楽団から東京フィルハーモニー交響楽団に交替したこと、合唱指揮が前回の三澤洋史から冨平恭平に変わったこと、フェレイラ役が久保和範から黒田博に、モキチ役が亡くなった経種廉彦から吉田浩之に変わったことがまず挙げられますが、これらの変更は、演奏にあまり大きなインパクトを与えるものではないと思います。一番大きなインパクトは、会場を前回の中劇場から今回のオペラパレスに変更したことです。これは、間違いなく音に影響を与えたと思います。

 まず、音の厚みが違います。前回の中劇場公演では、弦楽器の構成が10-8-6-4-4の変形10型ともいうべき小編成。今回のオペラ劇場公演は、12-10-8-8-6という編成で、低音声部が厚くなっています。チェロ、コントラバスが合わせて6人も多いと、音のふくらみが全く違います。奥行きのある音になります。更に、会場自身の空間容積が広い分、音の響く範囲が広がってダイナミクスにも影響を与えます。三管編成の厚いオーケストラの音がバランスよく重厚に鳴り響くのです。これがオペラ劇場で演奏した意義なんだと、直ぐに納得させられました。前回公演の東京交響楽団の演奏も全然悪くなかったと思うのですが、劇場という楽器の違いは余りにもあからさまでした。

 それにしても下野竜也の演奏、お見事でした。松村禎三が考えていた音世界を見事に表現したと申し上げて良いでしょう。というより、今回の演奏を聴いて、私は松村禎三が、ある意味心理劇のようなオペラに、あのような無調的でかつ激しい音楽をつけたのが納得いったような気がします。「沈黙」を音で表現しようとすれば、あれだけの音の厚みが必要だったのです。

 歌手陣はほぼ全員が納得いく歌唱。まず素晴らしいのが、主役のロドリゴを歌った小餅谷哲男。小餅谷のロドリゴは、三度目の聴取となりますが、毎回どんどん素晴らしくなっているという印象です。よっぽど役を検討して舞台に臨んでいるに違いありません。多分色々なことを考え、彼自身のロドリゴ像をしっかり構築して歌っているのだろうと思います。きっちりメロディのあるアリアなども素晴らしいと思いますが、無調のレシタティーヴォの部分だって、ロドリゴの感じる苦悩をしっかりと表現しているように感じます。主役として、舞台の核として十分な役を果たしていたと思います。

 キチジローを歌った星野淳も大変素晴らしい。2012年の時は、舞台上のキチジローの位置づけがあいまいなような気がして、遠藤文学の「弱きもの」の代表でもあるキチジローの存在感に不自然さを感じたわけですが、今回は少し演出を変えたのか、星野の中で、キチジローを演じるということに確固たる考えがまとまったためかは分かりませんが、キチジローの弱さがしっかり見える演技・歌唱になっていたと思います。星野は、カーテンコールまでキチジローでいつづけましたが、そういった姿勢が今回の素晴らしい舞台に繋がったのではないかと思います。

 モキチとオハルの恋人同士もよい。このオペラの中で、一番西洋オペラ的な役目がこの二人ですが、高橋薫子の演技歌唱、前回感じた過剰なヴィブラートも感じられず、すっきりとした音楽の中に、若き恋人の悲劇をしっかり感じさせる歌唱、演技でとても立派なものだと思いますし、今回新加入となった吉田浩之のモキチも、オハルとの二重唱等で存在感を示しました。

 あと、存在感を強く感じたのは、与田朝子のおまつでした。彼女は、前回もしっかり歌われていたとは思いますが、声がくっきりと浮かび上がってくるところなど、前回よりもよりしっかりした存在になっていたように思います。とてもよいです。黒田博のフェレイラもまた、一寸したミスがあったようですが、基本的には、ロドリゴと対照的な位置づけで立派に演じていました。その他、存在感で感じるのは、山下牧子の少年、吉川健一の通辞、加茂下稔のチョウキチなどでした。

 その他、宗教音楽的な扱いで重要な合唱や、この思いオペラの中で唯一明るいといっても良い児童合唱もとても素敵で全体として非常に良くまとまった水準の高い公演になっていたと思います。緻密な名演と申し上げて良い。作品としても、私の知っている日本オペラの中では最高の作品だと思いますし、その本領が、オペラパレスという舞台と、何度も演奏してきた下野竜也+歌手陣によって発揮されたこと、真に素晴らしいものだと思いました。皆さんにBraviを捧げます。

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鑑賞日:2015年7月3日

入場料:B席 9800円 2F C列51番

「ランスへの旅」共同制作公演
藤原歌劇団/日生劇場/東京フィルハーモニー交響楽団/大阪国際フェスティバル/フェスティバルホール/ざ・カレッジ・オペラハウス

NISSEY OPERA 2015

藤原歌劇団公演

主催:(公財)日本オペラ振興会/(公財)ニッセイ文化振興財団/東京フィルハーモニー交響楽団/朝日新聞社/朝日新聞文化財団/フェスティバルホール/大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウス

ドラマ・ジョコーゾ1幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ロッシーニ作曲「ランスへの旅」(Il Viaggio a Reims)
台本:ルイージ・バローキ
ジャネット・ジョンソン監修/ペーザロ・ロッシーニ財団編纂クリティカル・エディション(リコルディ版)

会場 日生劇場

指 揮 アルベルト・ゼッダ
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
フォルテピアノ 小谷 彩子
合唱 藤原歌劇団合唱部
合唱指揮 安倍 克彦
副指揮 園田 隆一郎
演 出 松本 重孝
美 術 荒田 良
衣 装 前岡 直子
照 明 服部 基
舞台監督 菅原 多敢弘
公演監督 折江 忠道

出 演

フォルヴィル伯爵夫人 光岡 暁恵
コリンナ 佐藤 美枝子
コルテーゼ夫人 清水 知子
メリベーア侯爵夫人 鳥木 弥生
リーベンスコフ伯爵 山本 康寛
騎士ベルフィオール 小山 陽二郎
トロンボノク男爵 三浦 克次
ドン・アルヴァーロ 牧野 正人
シドニー卿 伊藤 貴之
ドン・プロフォンド 久保田 真澄
ドン・プルデンツィオ 柿沼 伸美
ドン・ルイジーノ 真野 郁夫
デリア 山口 佳子
マッダレーナ 河野 めぐみ
モデスティーナ 但馬 由香
アントーニオ 立花 敏弘
ゼフィリーノ 藤原 海考

感想

ベテランの余裕・若手の緊張-藤原歌劇団「ランスへの旅」を聴く

 藤原歌劇団としては、9年ぶり、2回目の「ランス」。9年前は、2001年ペーザロのロッシーニフェスティバルにおける新人公演のエミリオ・サージの演出を借りてきた舞台でしたが、今回は、松本重孝による舞台へと変わりました。松本の演出は、祝祭的華やかさと明るさがあるもので、音楽の由来、フェスティバル性を考えると、オーソドックスで素敵だと思います。私の好みに合った舞台と申し上げます。

 それにしてもゼッダ、上手い。9年前のゼッダが来日して指揮をしました。あのとき78歳。あのときだって十分お爺さんだったと思うのですが、今回は87歳。さすがに音楽の流麗性をどこまで維持できるかと一寸は危惧したのですが、流石にロッシーニのプロ、指揮台に上り下りする姿などは少しよろける感じがあるのですが、音楽の推進力は、9年前と変わっていないように思いました。今回の私の席はピットが良く見える席だったのですが、クレッシェンドの盛り上げ方の指揮棒の振り方などは、とても87歳とは思えない見事さ。素晴らしいとしか申し上げようがない。

 劇場が日生劇場と、1300人レベルの余り大きくない会場のせいもあるのか、オーケストラの編成は比較的小編成。それが、きびきびした音楽進行に有効だったということはあるかもしれません。軽快で、ロッシーニの音楽に相応しい伴奏になっていたと思いました。

 歌い手は、9年前も歌ったベテランを中心に若手が何人か入った演奏。イタリアオペラの専門家集団とも言うべき藤原歌劇団ですが、9年前は流石にロッシーニに適性の持った歌手二グループ36人集めることは困難で、結構ロッシーニの様式と会わない歌い方をしていた方が何人かおられて、今一つの完成度だったとおもいますが、9年間の進歩と新人の台頭があったのでしょう。今回は、9年前の演奏よりはまとまりがあったように思いました。

 総じてベテランは、余裕のある歌唱・演技だったと思います。脇役であっても存在感のある歌唱・演技。例えば、女中頭・マッダレーナを歌った河野めぐみや、ボーイ頭・アントニオを歌った立花敏弘がその例だと思います。あと、牧野正人、三浦克次、久保田真澄といった、ベテラン男声陣はみんな、オヤジ芸を楽しんで歌っている感じで、同年代のどくたーTとしては、共感を覚えてしまいました。

 なお、ドン・プロフォンドは、いわゆる「骨董品のアリア」で、各国語の口まねをするのですが、その描き分けは今一つ。もっとロシア語っぽく、ドイツ語っぽく、フランス語っぽく、英語っぽく大げさに歌ってもらえるともっと面白かったと思います。

 女声陣もベテラン勢に一日の長。光岡暁恵をベテランと呼ぶには可哀相そうですが、9年前もフォルヴィルを歌っているから良いでしょう。光岡のフォルヴィル伯爵夫人の大アリアは、何といっても素晴らしい。高音のきらめきといい、アジリダの切れ味といい、今の時点では光岡が日本一のレジェーロ・ソプラノではないかと思えるほど。コケティッシュな演技は一寸バカっぽくてそこも愉快です。3月にも光岡による同じアリアを聴きましたが、あの時の機械的と申し上げても良い正確さと比較すると、一寸崩れている感じはありますが、そこが、コンサートと舞台との違いなのでしょう。とにかく堪能致しました。

 佐藤美枝子のコリンナもさすがです。9年前はフォルボル伯爵夫人で超絶技巧を聴かせてくれた佐藤ですが、今回はコリンナで、またコメディエンヌ的素養を見せてくれた感じがします。コリンナは落ち着いた女流詩人という役柄ですが、本来ドタバタ喜劇の中の役柄です。喜劇的な雰囲気が出た方が良いのでしょうね。大向こうをうならせる、といった歌唱ではなかったのですが、味のある歌で良かったです。最後ののど自慢での歌も「シャルル王」へのごますりが凄すぎるな、と感じさせる歌で、大変宜しいと思います。

 女声でもう一人、メリベーア侯爵夫人を歌った鳥木弥生。良かったです。第一部の六重唱で、きっちりとポジションを確保して、歌唱の中心となり、後半のリーベンスコフとの愛の二重唱では、深みのある落ち着いた声で、若いテノールをリードする形で技巧的なアリアを歌い上げるところなど、立派でしたし、出来も素敵だったと思います。

 以上、ロッシーニを良く知っているベテラン陣は、しっかりと自分の役割を果たしたように思います。

 一方、若手ですが、流石にベテラン陣のような余裕は感じられませんでした。

 コルテーゼ夫人役の清水知子はアンサンブルの最初の入りがちょっと乱れ、直ぐに立ち直りましたけど、緊張のせいか、ロッシーニの様式感が上手く出ず、今一つの出来だったように思います。当初アナウンスされていた曽我雄一が急病で急遽舞台に立った山本康寛のリーベンスコフ伯爵は良い所もありましたけど、やはり緊張しているのか、歌が硬くなっている部分や、慌ててしまっている部分もありました。そういう中で気を吐いたのが、伊藤貴之のシドニー卿。第一部のアリアは、低音の落ち着いた曲でありながら、ロッシーニならではの技巧が結構盛り込まれた何曲だと思いますが、それをしっかりと歌い上げ、とても立派でした。フルートのオブリガートや中間部で入る女声合唱とのバランスも良く、非常に素敵な歌唱に仕上がった、と思います。

 「ランスへの旅」でもう一つ忘れてならないのは、第一部フィナーレの14声による大コンチェルタート。2009年の時は、着替えをしながら歌うという難行を課され、アンサンブルとしてはかなり乱れたのですが、今回はみんなまとまって、お互いが聴きあえる状態での重唱となりました。そのせいか、まとまりがあって、バランスも良いコンチェルタートになりました。Braviです。

 以上、2009年と比較すると全体としてずっと良くまとまった良い演奏に仕上がっていました。9年を経て、藤原歌劇団の実力が又上がったということなのでしょう。大変素晴らしいことだと思いました。

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鑑賞日:2015年7月4日

入場料:A席 12800円 2F E列38番

「ランスへの旅」共同制作公演
藤原歌劇団/日生劇場/東京フィルハーモニー交響楽団/大阪国際フェスティバル/フェスティバルホール/ざ・カレッジ・オペラハウス

NISSEY OPERA 2015

藤原歌劇団公演

主催:(公財)日本オペラ振興会/(公財)ニッセイ文化振興財団/東京フィルハーモニー交響楽団/朝日新聞社/朝日新聞文化財団/フェスティバルホール/大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウス

ドラマ・ジョコーゾ1幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ロッシーニ作曲「ランスへの旅」(Il Viaggio a Reims)
台本:ルイージ・バローキ
ジャネット・ジョンソン監修/ペーザロ・ロッシーニ財団編纂クリティカル・エディション(リコルディ版)

会場 日生劇場

指 揮 アルベルト・ゼッダ
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
フォルテピアノ 小谷 彩子
合唱 藤原歌劇団合唱部
合唱指揮 安倍 克彦
副指揮 園田 隆一郎
演 出 松本 重孝
美 術 荒田 良
衣 装 前岡 直子
照 明 服部 基
舞台監督 菅原 多敢弘
公演監督 折江 忠道

出 演

フォルヴィル伯爵夫人 清水 理恵
コリンナ 砂川 涼子
コルテーゼ夫人 平野 雅世
メリベーア侯爵夫人 向野 由美子
リーベンスコフ伯爵 岡坂 弘毅
騎士ベルフィオール 中井 亮一
トロンボノク男爵 森口 賢二
ドン・アルヴァーロ 谷 友博
シドニー卿 東原 貞彦
ドン・プロフォンド 安東 玄人
ドン・プルデンツィオ 押川 浩士
ドン・ルイジーノ 所谷 直生
デリア 宮本 彩音
マッダレーナ 松浦 麗
モデスティーナ 楠野 麻衣
アントーニオ 清水 良一
ゼフィリーノ 井出 司

感想

高音で魅せられなかったとしても-藤原歌劇団「ランスへの旅」を聴く

 藤原歌劇団「ランスへの旅」2日目。キャストが違うと、味わいは随分違うな、というのが正直な感想。例えば、マッダレーナのような脇役をとっても、昨日の河野めぐみは端正な感じだったのに対して、本日の松浦麗は、一寸エキゾチックな感じと申し上げたらよいでしょうか。同じメゾソプラノでも、声の質は当然違うし、歌い方も微妙に違う。それは当然のことですが、それがすべての歌手で重なってくると、同じ舞台を使い、同じ指揮者が同じオーケストラを演奏していても、全体の味わいは当然ながら変わってきます。

 どちらかと言えば、初日は個別の歌手の個人技の饗宴みたいなところがあり、二日目は、アンサンブルの協調がより前面に出ているような感じがしました。どちらもそれぞれ魅力的ですが、全体としては二日目の方が良かったと思います。

 こう思う一つの理由はテノール歌手の差だと思います。初日の山本康寛のリーベンコフ、小山陽二郎のベルフィオーレのコンビよりも、二日目の岡坂弘毅のリーベンコフ、中井亮一のベルフィオーレの方が安定感がありました。岡坂の声は、一寸鼻にかかっていて、最初「声が荒れているのではないか?」と思ったのですが、それが彼の声のようです。軽い高音が良く廻ります。その歌唱は、ほとんど乱れること無く、安定して歌えておりました。第二部冒頭でのメリベーア侯爵夫人のやり取りは、昨日の山本は鳥木弥生にリードされていた感じを持ったのですが、本日の岡坂弘毅は向野由美子と互角の歌唱をしていたように思いました。

 ベルフィオーレについても同様。小山陽二郎も決して悪くはないのですが、中井亮一の方が軽い声ながら声に安定感がありますし、強い声もそれなりにしっかり出ている感じです。テノールは、多重唱のリード役を務めなければならないことも多い訳ですが、その出の感じなども、山本/小山コンビよりも岡坂/中井コンビの方が、安定感が高く、立派なリード役を果たしていたように思います。

 高音ソプラノに関しては、初日の方が良かったです。フォルヴィル伯爵夫人を歌った清水理恵。リリコ・レジェーロの新進気鋭の歌手で、頑張っていましたが、フォルヴィルを完璧に歌うには高音が足りない印象。滑らかさも初日の光岡暁恵ほどではなかったし、最高音は金切音になっていました。

 コリンナの砂川涼子。彼女は巧い。砂川も高音が伸びるタイプの歌手ではなく、中音の抒情性で勝負する典型的なリリック・ソプラノで、高音ははっきり申し上げれば苦しい。彼女は、高音は裏声を使ったりしながらうまく逃げ、中低音の表現力で勝負していました。初日の佐藤美枝子と比較すると、佐藤が高音部がビンビン響いて、コケティッシュな印象になっていたのに対し、砂川は、抒情的な表現でしっとりと歌い、落ち着いた女流詩人に仕上げていました。

 コルテーゼ夫人の平野雅世、良かったです。初日の清水知子は微妙にアンサンブルに嵌っていなかった感があったのに対し、平野は上手にバインダーになっている感じです。それでいて、声の存在感も清水よりあって、私はすっかり気に入りました。アンサンブルは二日目の方が良かったのではないかと申しましたが、その中で、平野の接着効果が結構多き勝手のではないか、と思っています。

 メリベーアは初日目と二日目、これは互角と申し上げて良いのではないでしょうか。向野由美子と鳥木弥生。歌の印象は微妙に違うのですが、どちらも立派で甲乙つけがたい。良かったと思います。

 男声低音陣も初日よりも二日目の方が良かったと思います。と申し上げるより、若い歌手の方が声に張りがあり、全般に良かったということです。三浦、牧野、久保田という初日のベテラン勢は、おじさん臭がプンプンで、個人的に同年代の共感はあるのですが、世代の若い森口、谷、安東の方が声の魅力が勝っていたというところです。もちろん、骨董品のアリアは、安東は最初の国別の歌い分けのところが一寸空回りしている感じがあって、ベテランの久保田の方が上手にまとめていたとは思いますが、アンサンブルの溶け込み方などは、二日目の方が良かったのかな、という印象です。

 シドニー卿。こちらは初日の伊藤に軍配です。東原貞彦のシドニー卿は、輪郭がしっかりした楷書体のシドニー卿で、決して悪くなかったのですが、カバレッタは疲れてしまったのか、推進力が衰えてしまったのが残念です。その他脇役陣も頑張っていました。楠野麻衣、宮本彩音、井出司、押川浩士など皆よかったと思います。

 ゼッダの指揮に関しては、初日と大きく違ったという感じはしませんでしたが、オーケストラの完成度は初日の方が上でした。二日目は聴き手に分かるミスが何箇所かありました。合唱は初日同様立派です。

 以上、初日と二日目、それぞれ特徴のある舞台で、双方とも楽しめました。

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鑑賞日:2015年7月18日
入場料:D席 6000円 5FL233

東京二期会オペラ劇場公演

主催:公益財団法人東京二期会

オペラ2幕、日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
モーツァルト作曲「魔笛」(Die Zauberflöte)
台本:エマヌエル・シカネーダー

会場 東京文化会館・大ホール

スタッフ

指 揮 デニス・ラッセル・ディヴィス  
管弦楽 読売日本交響楽団  
合 唱 二期会合唱団  
合唱指揮 大島 義彰  
演 出 宮本 亜門  
装 置 ボリス・クドルチカ  
衣 裳 太田 雅公  
照 明 マルク・ハインツ  
振 付 新海 絵理子  
映像    バルティック・マシス   
ドラマトゥルク ヴォルフガング・ヘンデラー(リンツ州立劇場)  
音楽アシスタント    森内 剛   
舞台監督 大仁田 雅彦/飯田 貴幸  
公演監督 曽我 榮子  

出 演

弁者 鹿野 由之
ザラストロ 大塚 博章
夜の女王 高橋 維
タミーノ 金山 京介
パミーナ 嘉目 真木子
パパゲーノ 萩原 潤
パパゲーナ 冨平 安希子
モノスタトス 青蛛@素晴
侍女1 北原 瑠美
侍女2 宮澤 彩子
侍女3 遠藤 千鶴子
童子1 栗橋 優輔(TOKYO FM 少年合唱団)
童子2 山本 江龍(TOKYO FM 少年合唱団)
童子3 田中 北斗(シンフォニーヒルズ少年少女合唱団)
武士1 今尾 滋
武士2 清水 那由太
僧侶1 狩野 賢一
僧侶2 升島 唯博

感想

新演出で歌うこと-東京二期会オペラ劇場公演「魔笛」を聴く。

 二期会の「魔笛」と言えば、実相寺昭雄のジャパン・ポップ・カルチャー色満載の演出でここ15年ぐらい続けて来たように思います。私はこの実相寺魔笛が大好きで、毎回、たとえ音楽には感心しなくても、この舞台には楽しまされて帰ってまいりました。実相寺演出は、ウルトラ・シリーズの怪獣が沢山出てくるということで話題になりましたが、そこがポイントではありません。実相寺演出は昭和時代、特に高度成長期に対するノスタルジー(ウルトラ怪獣の登場もその一例)が根本にあって、そのノスタルジーの上におおらかな人間愛を鼓舞するところがありました。そのおおらかさこそが、魔笛の音楽世界と見事で調和していて、楽しめたのだろうと思います。

 宮本亜門がこの実相寺演出をどうやって凌駕しようとするのかがまず一つの興味でした。宮本亜門のオペラ演出は、「演出の時代」のヨーロッパに乗っかった奇をてらった割には内容のない演出を時々やって(例えば、2004年の「ドン・ジョヴァンニ」、2009年「椿姫」)、自己満足だけに陥ってしまっている可能性があった訳です。しかし、今回の演出は、宮本の欧州進出第一回の舞台ということもあって良く練られており、またヨーロッパで最も新しいリンツ歌劇場の設備を最大限利用することにより、実相寺の次の時代の「ジャパン・クール」を実現できたという印象があります。

 まず舞台は普通の家庭です。ビジネスマンらしい夫婦に男の子が三人、そしてお爺さんがいます。お爺さんは子供たちのためにビデオゲームを持ってきて、スクリーンに映すのですが、そこにお父さんが帰ってきます。お父さんは、会社でリストラにあったのか、とてもメランコリックになっています。お母さんと口論を始め、お母さんは家から出て行こうとします。それを追いかけようとしたお父さんがビデオゲームのスクリーンの中に飛び込んで、タミーノになるのです。ちなみにおじいさんは弁者、お母さんはパミーナ、男の子たちは、クナーベとなってお父さんタミーノの夢の冒険に付き合います。

 以上が序曲の間に示され、ゲームに入り込むとオペラが始まります。舞台は立方体を斜めにおいた感じです。床部分の先端部分はオケピットにはみ出しています。立方体の二面の壁はスクリーンで、正にテレビゲームのような映像が常に投影されており、舞台の返還をしていきます。その壁は可変式で三つあり、場面場面によって大きく舞台を使う必要があれば後ろの壁を利用するというものでした。コンピューターグラフィックの最新技術を用いることで舞台変換がスムーズであり、そこは21世紀的なのでしょう。

 もう一つ特徴的なのは、宮本は魔笛世界を相対的に見ているということです。宮本は、ザラストロが正で夜の女王が悪であるという見方を取りません。単にパワーゲームの勝者と敗者であるという見方。だから、パパゲーナは、パパゲーノと早く一緒になりたいのに、パパゲーノの試練のために引き離されると、「もう我慢させられるのはごめんだわ」というような趣旨の台詞を言います。

今回日本の「魔笛」の上演にしては珍しく、台詞も含めて完全ドイツ語上演でしたが、多分そうしたのは、地の台詞が宮本の演出に合わせてかなり書き換えられているからなのだろうと思います。地の台詞を日本語にすることによって失われるものがあると演出家は考えたのでしょう。

 演奏は、終わってみれば凄く酷かったという印象はないのですが、第一幕の前半は、相当低水準の演奏だったと申し上げるしかありません。冒頭のタミーノのアリアがまず決まらず、続く侍女の三重唱は一寸上ずっている感じで、今一つ嵌らない感じです。そのあとの萩原潤のパパゲーノのアリアもいただけない。萩原潤といえば、日本人パパゲーノ歌いの代表で、例えば、2013年の新国立歌劇場公演の時のパパゲーノなどは本当に素晴らしかったわけですし、又この「鳥刺しの歌」自身は取り立てて難曲でも何でもないので、ここで流れが修正できれば良かったのですが、演出のパワーに押されてしまったのか、新演出で全体的な緊張があったのか何かパッとしない歌で終わりました。

 タミーノの「なんと美しい絵姿」も上手く行きそうかなと思ったのですが、やはり上手く行かずという感じでした。金山京介、軽くて柔らかいとても良いテノールだと思うのですが、ポイントを抑えきれていないのか、緊張していたのか、その直前のアクシデント(パミーナの絵が入ったペンダントを落とした時、勢い余ってオケピットに飛び込んでしまい、オーケストラメンバーに拾われたこと)で動揺してしまったのか、分かりませんが、とにかく歌の出来としてはイマイチでした。

 夜の女王もいただけない。夜の女王と言えばコロラトゥーラの技術と最高音のハイFが出たかどうかだけが話題になりますが、最近「夜の女王」を歌う方で、ハイFが出ないなどという方は最初から選考の対象にはなりません。それを必要条件と考えると、実際の歌の中身の表現で勝負して欲しいところですが、今回の高橋維は、第一アリアの「ああ、怖れおののかなくてもよいのです、わが子よ!」 の中間部の母の愛の表現がおざなりで全然心に染みない。ハイFが幾ら素晴らしくても、それだけじゃあねえ。第二幕のアリアは、第一幕のアリアほど表現力を必要としないので、それなりにまとまっていましたが、凄く良かったという訳では勿論ありません。

 結局オペラとして纏まり始めたのは、モノスタトスが登場してからです。青蜻f晴のモノスタトスが登場してから、色々なところが嵌り出した感じです。青蜒cmスタトス、本当に良かったなあと思います。キャラクターテノールとしてのバインダー役を上手く果たしていたし、アリアだって、第二幕の「誰でも恋の喜びを知っている」は、もの悲しさが上手く表現されていて、素敵でした。それでも第一幕のフィナーレに近いパパゲーノとパミーナの二重唱は、まだ一寸よそよそしさがあって、音楽が溶け合っているとは言えなかったように思います。

 第二幕は、ようやく歯車がかみ合い始めた感じです。大塚博章のザラストロ。良かったです。何年か前に聴いた時は、軽量級ザラストロという印象が強かったのですが、今回は歌も重厚になっていましたし、低音の響きもしっかりと十分。それでいて鈍重な感じにはならず見事なバランスでした。

 第一幕ではあまり嵌らなかった萩原パパゲーノですが、第二幕はようやく本領発揮という感じ。僧侶とのワイン問答や、パパゲーナがらみになると、パパゲーノの天衣無縫さが上手く表れてきて良い感じです。「恋人か女房がいれば」とか、自殺をしようとする場面などは流石の上手さです。「パ・パ・パ」なども良かったです。

 嘉目真木子のパミーナですが、彼女は良かったです。上述の通り、第一幕のパパゲーノとの二重唱は今一つぎくしゃくした感じはあったのですが、二幕はとても良かったと思います。一寸愁いのある声が第二幕のアリア「ああ、私にはわかる、消え失せてしまったことが」によく合っていますし、それ以外の重唱でもとても良い雰囲気を出していました。

 クナーベ三人はボーイソプラノ。若い女性歌手がクナーベを歌う時みたいな安定感や厚みは勿論ありませんが、声が清新で、その上良く鍛えられていて、最初の三重唱こそ緊張したのか上手く行かなかった部分はありましたが、それ以外は十分役割を果たしていました。とても良かったと思います。

 台詞部分のドイツ語は巧拙の差が大きい感じ。二期会合唱団の合唱はいつもながら立派。第一幕が音楽的に上手く解けあわなかったのは、舞台上の歌手陣と指揮者とオーケストラの関係がぎくしゃくしていたためなのかもしれませんが、オーケストラそれ自身は重厚な、如何にも読響らしい音を響かせていて決して悪くなかったと思います。デニス・ラッセル・ディヴィスの指揮も悪くないとは思ったのですが、第一幕が嵌らない感じを踏まえると、何か問題があったのかもしれません。

 それにしても終わってみれば、発散せずきっちりまとまりましたし、演出の収斂のさせ方も見事だったということで、聴いてよかった上演でした。

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鑑賞日:2015年7月19日
入場料:1F10列18番 3000円


主催:声楽研究団体杉並リリカ

杉並リリカ「マリオ・デル・モナコ生誕100年&レナータ・テバルディ没後10周年記念ガラ・コンサート」

会場:杉並公会堂

出演

ソプラノ  :  大隅 智佳子 
ソプラノ  :  小林 厚子 
ソプラノ  :  野田 ヒロ子 
ソプラノ  :  山口 安紀子
メゾソプラノ  :  小林 由佳 
メゾソプラノ  :  鳥木 弥生 
テノール  :  及川 尚志 
テノール  :  城 宏憲 
テノール  :  笛田 博昭 
テノール  :  柾木 和敬 
バリトン  :  晴 雅彦 
バリトン  :  山口 邦明 
ピアノ  :  藤原 藍子 
解 説  酒井 章 

プログラム

作曲家/作品名 

曲名 

歌手 

マスカーニ「カヴァレリア・ルスティカーナ」  ここにいたのか、サントゥッツァ  柾木 和敬/鳥木 弥生 
レオンカヴァッロ「道化師」  衣裳を着けろ  及川 尚志 
ヴェルディ「運命の力」  天使のようなレオノーラ  笛田 博昭 
ヴェルディ「運命の力」  何だ? お前たちは居酒屋にでもいる気か?  晴 雅彦 
ヴェルディ「運命の力」  アルヴァーロ、隠れても無駄だ  柾木 和敬/山口 邦明 
ヴェルディ「アイーダ」  清きアイーダ  城 宏憲 
ヴェルディ「オテッロ」  既に夜が更けた  及川 尚志/大隅 智佳子 
プッチーニ「トスカ」  歌に生き、愛に生き  小林 厚子 
ヴェルディ「仮面舞踏会」  私があなたと一緒だ  笛田 博昭/山口 安紀子 
ジョルダーノ「アンドレア・シェニエ」  この円柱の所ね  野田 ヒロ子/及川 尚志 

休憩   

ビゼー「カルメン」  あんたね、俺だ  笛田 博昭/小林 由佳 
ジョルダーノ「アンドレア・シェニエ」  ある日、青空を眺めて  柾木 和敬 
ヴェルディ「アイーダ」  既に神官たちが待っている  鳥木 弥生/及川 尚志 
ボーイト「メフィストフェレ」  いつかの夜、暗い海の底に  山口 安紀子 
ベッリーニ「ノルマ」  不実な人よ  大隅 智佳子/小林 由佳/城 宏憲 
プッチーニ「蝶々夫人」  ある晴れた日に  小林 厚子 
プッチーニ「蝶々夫人」  可愛がってくださいね  野田 ヒロ子/笛田 博昭 

感想

ビフテキ、ビフテキ、ビフテキ−杉並リリカ「マリオ・デル・モナコ生誕100年&レナータ・テバルディ没後10周年記念ガラ・コンサート」 を聴く

 本当に凄いガラ・コンサートでした。

 日本におけるオペラ演奏の最初の転換点になったのが、NHKイタリアオペラ招聘であることは言を俟たないところですが、その中で、本物の声を聴かせたという意味でのマリオ・デル・モナコとレナータ・テバルディの功績は特に讃えられるものであります。今から60年前にある1955年当時、世界の最高峰のドラマティックテノールがマリオ・デル・モナコであり、世界最高のソプラノ・リリコ・スピントがレナータ・テバルディでした。その二人が、オペラ後進国というより、オペラの文化が無に等しかった日本に歌いに来て、世界最高峰の歌を聴かせて、日本の新たな歌劇文化への道筋を開いてくださったのは、歴史的事実と申し上げて良いでしょう。

 この歌に衝撃を受けて、日本のオペラ界も少しずつ進歩して言った訳ですが、それから四半世紀経った1980年頃でも、日本のオペラ歌手の水準はまだまだだったというのが実態でした。私は、そのころ、NHKなどで録音された演奏を聴いたことがありますが、今の若い歌手たちの水準と比較すると低レベル、としか言えない歌唱でした。更にもうワンジェネレーション進んだ今の若手・中堅歌手の皆さんは、ワーグナー歌手などとしては、世界水準というには一寸力不足かなという感はあるわけですが、「イタリアオペラを歌う」という観点からすれば、世界の水準の実力を備えている方が沢山いらっしゃいます。

 そのことは、私の頭の中では常識だったのですが、今回のコンサートを聴きまして、その感を更に強く持ちました。とにかく、もれなく皆上手。全員が有名な歌手という訳ではありませんが、メジャーであまり歌っていない方でも十分凄いといえる水準です。歌手の間には、もちろんそれなりの特徴や力の差はあるのですが、全員上手、という中での違いですから、問題にすべきではありません。とにかく立派でした。

 プログラムがまたすごい。デル・モナコとテバルディを偲ぶ演奏会ですから、こういう曲が集まるのは仕方がないのですが、最初の一発目が、「カヴァレリア・ルスティカーナ」のクライマックスの二重唱。オードブルなしで、最初からビフテキを突き付けられた感じです。そこでの鳥木サントゥッツァがまた凄い。女の情念を燃やして迫る。それに対抗する柾木トゥリッドゥも頑張る頑張る、梅雨明けしたばっかりなんだから、もう少し落ち着いたらと茶々を入れたくなるほど。実は、聴いている時は、「柾木さん、もっとドスが利いた方が良いかな」と思っていたのですが、それは誤りでした。熱い曲がその後どんどん続く。

 及川尚志の「衣裳をつけろ」。これも素晴らしい。二曲目ももろにビフテキでした。続いて来たのが、藤原のプリモ・テノールのひとり、笛田博昭の「天使のようなレオノーラ」。凄かったです。最初の三曲で、どんどんヒートアップし、オージービーフのビフテキを食べて満足したところに、和牛のビフテキが差し出され、それが美味くて涙を零したところに、松坂牛のステーキが来たというところでしょうか。それだけで、もう満足という感じでした。

 しかし、司会者のフランコ酒井のサービス精神はこんなところでは収まりません。4曲目が軽めの曲といいながら、用意したのが「運命の力」のフラ・メリトーネのアリア。コミカルな曲であることは間違いないけれど軽い曲ではありません。晴雅彦はこの曲を歌わせれば日本一ですから、もちろん十分楽しんだのですが、グラニテが出てくるかと思ったら、やっぱり肉料理だったという顛末。

 その後も軽い曲は全く無く、全て重量級、梅雨明けしたばかりの東京の気温を更に上げようとする演奏ばかりでした。その中で印象的だったのは、まず城宏憲の「清きアイーダ」。バリトンチックな重いラダメスで、面白く聴きました。及川・大隅のオテッロの二重唱がまた素晴らしく、続く小林厚子のトスカも流石の魅力、笛田・山口の仮面舞踏会の二重唱もとても良かったし、野田・及川のアンドレア・シェニエの二重唱も立派でした。

 ここまでで一時間半、十分お腹一杯になりましたが、後半もビフテキ攻撃です。最初が小林カルメンと笛田ホセのカルメンの27番の二重唱。暑苦しすぎる。柾木シェニエの「青空」は、結構清新な感じでほっとしたのですが、次いでのアイーダの第4幕は、鳥木アムネリスが昔、ジュリエッタ・シミオナートが着たという衣裳を着て登場。鳥木の師匠の師匠であるシミオナートを彷彿とさせる歌で圧巻でした。

 山口安紀子のマルゲリータのアリアは、彼女のコンクールでの勝負曲というだけあって、聴き応え十分の名唱。続くノルマの三重唱。大隅智佳子の実力を嫌というほど示す歌。小林由佳、城宏憲も良かったです。これで終わるかと思いきや、蝶々夫人の「ある晴れた日に」と「愛の二重唱」。私はオペラ好きの点では人後に落ちないと思っておりますが、最後の二曲は、唯耳を素通りしていった感じです。そう言いながらも小林厚子蝶々さんも、野田ヒロ子蝶々さんも良かったのですが。

 とにかく、色々なビフテキでしたが、ビフテキのオンパレードで胃が疲れ果てたというコンサートでした。こういう重量級コンサートを一人細腕で支えた藤原藍子、素晴らしいです。ご本人はかなり疲れていらしたようですが。とにかく堪能しました。

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鑑賞日:2015年9月5日
入場料:6000円 C席3階14列12番

第24回首都オペラ公演 

主催:首都オペラ

オペラ3幕、字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「トゥーランドット」 (Turandot)
原作:カルロ・ゴッツィ
台本:ジュゼッペ・アダーミ/レナート・シモーニ

会場:神奈川県民ホールホール

スタッフ

指 揮 岩村 力
管弦楽 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
合 唱 首都オペラ合唱団
合唱指揮  :  川嶋 雄介 
児童合唱  :  赤い靴ジュニアコーラス 
児童合唱指揮  :  酒井 悦子 
演 出 佐藤 美晴
美 術 松村 あや
衣 裳 塚本 行子
照 明 奥畑 康夫
音 響 関口 嘉顕
舞踊監督 横井 茂
ドラマトゥルク 中村 康裕
舞台監督 徳山 弘毅
総監督  :  永田 優美子

出 演
トゥーランドット  :  桑田 葉子 
カラフ  :  城 宏憲 
リュー  :  盛田 麻央 
ティムール  :  矢田部 一弘 
ピン  :  古澤 利人 
パン  :  織部 玲児 
ポン  :  佐々木 洋平 
アルトゥム皇帝  :  北柴 潤 
役人  :  御舩 鋼 

感 想 

もう一押しの練習を-第24回首都オペラ「トゥーランドット」を聴く

 「終わりよければすべてよし」と申しますが、それでも最初は大切です。「吾輩は猫である。名前はまだない」と書いたからこそ、「吾輩は猫である」は傑作となりえたのだと思いますし、「国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国だった」と書いたからこそ、「雪国」も名作になりえたのでしょう。その意味で、「トゥーランドット」では、役人の最初の一声、「Popolo di Pekino!」がとても大切です。

 しかし、今回の首都オペラ公演この最初の役人のソロが全然イケテいない。何だこりゃ、という第一声。神奈川県民ホールのような広いホールの舞台に立てる声ではありません。もう少し、声をしっかり響かせられる人を連れてくるべきではないかと思いました。この役人に絡み合う合唱もよろしくない。とにかくバラバラで揃わない。音自体は結構良いと思うのですが、指揮にあっていないし、合唱団の中でもずれていて、ハーモニーになっていません。どうなることか、と正直心配いたしました。

 これをすくったのが、まず児童合唱。児童合唱はきっちり揃っていたので、大人の合唱の芯の役割を果たしてくれて、ようやく音楽として流れ始めた感じです。そこで、カラフ、リュー、ティムールが絡み始めてくると、ようやくオペラらしくなってきました。

 ここで舞台の雰囲気を変えたのが、城宏憲のカラフ。城はやや重たいテノールですが、声に密度があり、響き方が全然違う。正直申し上げれば、もう少し高いところにポジションを取って、上の方で勝負した方が、「泣くな!リュー」の最後の高音で苦しくなることはなかったと思いますが、そういった作戦ミスを含めても、まずは上々のカラフと申し上げて良いでしょう。第三幕の「誰も寝てはならぬ」は勿論良かったですし、第二幕も迫力があり、プリモ・テノールのオーラを十分に出していたと思います。全体的に見て上々のカラフでした。

 城にまして良かったのは、盛田麻央のリュー。第一幕のアリアは、最初の上向音型のところが一寸上手く行かなかったのですが、後は本当に見事だと思います。最後の消えるような抜き方は、上手いなあと申し上げるしかありません。第三幕の「リューの死」も切々とした訴えるものがあって、実に立派だったと思います。5日の公演の花だったと申し上げてよろしいでしょう。

 桑田葉子のトゥーランドットは悪くはないのですが、彼女の解釈は、余り感心しません。トゥーランドットは氷の心を持つ姫君ですが、彼女の表現は熱くて氷を感じさせない。特に第二幕ですね。あそこはもっと冷静に力強く端正に歌って欲しいのですが、力はあっても端正ではない。ヴィヴラートかかりまくりで、そこも如何なものかと思いました。第二幕が氷で第三幕カラフとの愛に目覚めると表現が柔らかくなる、というのが私は好きなのですが、そうはなっていなかったようです。

 佐藤美晴の演出は、この「氷」に拘っている感じで、第一幕、第二幕の群集や、三人の大臣、ピン・パン・ポンの動きをロボットかゾンビのようにして見せました。つまり、群衆や大臣たちはみなトゥーランドットの氷の心に支配されているという解釈ですね。群衆たちの動きは、トゥーランドットとカラフが愛を歌い上げると、普通の人のようになります。つまりトゥーランドットの呪縛が解けたという意味なのでしょう。

 この演出の趣旨から見ても、氷の心が溶けて、人間の心が現れる様に歌うべきではなかったのかな、という気がいたしました。

 第二幕冒頭のピン・パン・ポンの三重唱は軽快で良い感じ。これはピンが中心となって纏まっていく印象があります。その意味で古澤利人のピンは十分にその役割を果たしていたと思います。そして、三人の中で一番気を吐いていたのは、織部玲児のパンでした。オペラで彼が歌うのを聴くのは初めての経験ですが、広いホール全体に声を飛ばしていて良かったと思います。

 岩村力指揮の神奈川フィルハーモニー。熱演でした。岩村は盛り上げる演奏を心掛けていた様子で、ちょっとあざとさも感じる部分もあるのですが、トゥーランドットいう作品自体がスペクタクルな盛り上げてなんぼみたいな感じがある作品なので、彼のようなもって行き方はある意味オーソドックスなのかもしれません。

 合唱は、第一幕が今一つだったのは上述の通りですが、二幕、三幕はまとまってまいりました。もう一押しの練習があれば、第一幕ももう少しまとまったのではないのかな、と思いました。

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鑑賞日:2015年9月11日
入場料:5000円 自由席

ルナノバ第8回公演 

主催:ルナノバ

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ロッシーニ作曲「アルジェのイタリア女」 (L'italiana in Algeri)
原作:カルロ・ゴッツィ
台本:アンジェロ・アネッリ

会場:リリア音楽ホール

スタッフ

指 揮 辻 博之
ピアノ 服部 容子
合 唱 コロ・ルナ
演 出 今井 伸昭
衣 裳 AYANO
舞台監督 渡邊 真二郎

出 演
イザベッラ  :  鳥木 弥生 
ムスタファ  :  田中 大揮 
リンドーロ  :  布施 雅也 
エルヴィーラ  :  川越 塔子 
タッデーオ  :  増原 英也 
アリ  :  小仁所 良一 
ズルマ  :  星野 恵里 

感 想 

やっぱりロッシーニは難しい-ルナノバ第8回「アルジェのイタリア女」を聴く

 個々で見れば上手な、力のある歌手たちが歌っているのですが、全体としてみるとそれぞれがバラバラで、がっちりと嵌った感じの演奏にはなっていませんでした。恐らく、ロッシーニの音楽が難しくて、十分に詰め切れなかった、というのが本当のところだろうと思います。

 序曲が終わっての「開幕の合唱」。これがとても良い。コロ・ルナは若い男声歌手たち六人による男声合唱団ですが、その響きが豊潤でよくハモっており、立派でした。続くムスタファの登場の歌。田中大揮。声量と声の美感が凄いです。未だ若手ですが、バスでこれだけの声の持ち主、なかなか少ないのではないかと思います。ただ、歌が十分かと言われると、首をかしげざるを得ない部分があります。特に速いパッセージ。しっかり歌ってはいるようなのですが、細かいフィオリトゥーラに気を取られ過ぎていたような感じして、歌全体のバランスは今一つのような気がしました。

 布施雅也のリンドーロ。登場のカヴァティーナを聴いて思うに、正直なところ、リンドーロを十分に歌うには力不足、と申し上げざるを得ない。確かにポジションを高く取って軽いレジェーロ・テノールのような声の出し方をしているのですが、高音はかなり苦しそうでしたし、音が上がり切らなかったり、声のひっくり返るところも、ありました。必死に食らいついている感じはよく分かるのですが、ロッシーニの難しさに力負けした印象です。続く、ムスタファとリンドーロとの二重唱。このコミカルな二重唱は、リンドーロの困った感がよくでていて面白い。

 そして主役のイザベッラの登場ですが、この登場のアリア「酷い運命よ」は、イザベッラの冷静沈着さというより強さを強調するもの。鳥木弥生の低音のドスが利いていて、強い女であることを印象付けます。鳥木の歌心が躍り出るような歌唱。続くイザベッラとタッデオとの二重唱はなかなかの難曲ですが、二人の掛け合いが盛り上がります。

 第一幕のフィナーレはロッシーニのアンサンブルの粋が集まった名曲ですが、壊れそうな疾走でした。途中でエルヴィーラが入るところで、川越塔子が上手にくさびを打ち、一度バラバラになりかけていた音楽が収束しましたが、転調につぐ転調に全員がかなり翻弄されている感じで、何とか壊れずにゴールに達したという感じでした。

 第二幕も同じような感じ。「パッパターチ」や「カイマカン」などの馬鹿馬鹿しさは十分表現されていて良かったと思いますし、皆個々の歌手としては十分な力量があり、アンサンブルを歌う能力もあると思うのですが、ロッシーニの技巧をアンサンブルとして十分に歌いきれてはいなかったというところだと思います。これがオーケストラ伴奏であれば、その音色に惑わされる部分もあると思いますが、ピアノ一台の伴奏ということで、声の精度がより見えてしまった、ということがあるのだろうな、と思います。

 「アルジェのイタリア女」は、私にとって2004年の藤原歌劇団公演以来の聴取ですが、今回の上演は、ロッシーニのオペラブッファの難しさを再認識させられました。

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鑑賞日:2015年9月13日
入場料:自由席 1000円 3F 

主催:オーケストラ夢十夜

オペラ4幕、日本語字幕付原語(フランス語)上演
ビゼー作曲「カルメン」Carmen)
台本:アンリ・メイヤック/リュドヴィック・アレヴィ

会場:横浜みなとみらいホール大ホール

スタッフ

指 揮 末永 隆一
管弦楽 オーケストラ夢十夜
合 唱 夢十夜合唱団
合唱指揮 小田 知希
児童合唱 横浜少年少女合唱団
児童合唱指揮 飯田 聖美
演 出 原 純
舞台監督 滝沢 徹

出 演

カルメン   新宮 由理
ドン・ホセ   内山 信吾
エスカミーリョ   和田 ひでき
ミカエラ   田崎 尚美
スニガ   金沢 平
モラレス   保坂 真悟
ダンカイロ   小林 昭裕
レメンダード   横山 慎吾
フラスキータ   岩永 美稚子
メルセデス   相田 麻純

感 想

アマチュアであればこそ-オーケストラ夢十夜第8回演奏会「カルメン」を聴く。

 オーケストラ夢十夜は、東京工業大学管弦楽団のOBが中心になって、合唱付大規模管弦楽曲の演奏会を10回行うことを目的として設立されたオーケストラだそうです。今回はその8回目で、初めてオペラを取り上げたとのこと。それだけに期待して行ったのですが、オーケストラの演奏は、正直なところ期待外れでした。

 もちろん、アマチュアのオーケストラですから、凄く綺麗な音色とか、正確な演奏技術とかは、それは出来なくとも仕方がないと思っています。そんなことにケチをつけるなら、プロのオーケストラの演奏会に行ったらよい。しかし、アマチュアであるからこそ出せる音や表現があると思います。それはまず、音楽をやっている楽しさを前に出す演奏でしょう。やっているメンバーが音楽を演奏することの楽しさを音にも表情にもしっかり表してこそ、そして、そういう表現を、音を聴くのがアマチュアの音楽家たちを聴く醍醐味だと思います。

 今日のオーケストラにはそれがありませんでした。自分たちがどういう音楽を作り上げていきたいのか、その意思がまるで感じられない。これは指揮者の責任でもあります。指揮者の末永隆一はどうも、病み上がりらしく、入院先からこの演奏会のために一時退院してきた、という噂を聞きました。その正誤は私は知りません。しかしながら、末永が、どのような音楽を作りたいのか、彼の指揮を見ていても全然わからなかったのは確かです。

 そして、彼には副指揮がサポートに入りました。メインの指揮台の前に小さな指揮台を置いて指揮をしているのです。オペラにおいては、合唱指揮者が陰にいて、合唱団だけに合図をするというのはしばしばやられます。最初、私はそういう役割の方なのかな、と思って見ていました。しかし、合唱団が舞台から去ってもオーケストラに向かって指揮をしている。即ちオーケストラは同時に二人の指揮者の指示を受けているのです。しかし、この二人、指揮棒の振り方が違います。オーケストラはどちらの指示に従ったらよいか、迷わなかったのでしょうか?

 こういうことをすると、どうしても音楽への求心性が失われます。末永隆一は、もし体調がすぐれなかったのであれば、潔くキャンセルして、別の指揮者に替って貰うべきではなかったのか、と思いました。

 合唱に関して言えば、オーケストラほど舞台に立つ愉悦感を感じられなかったわけではありませんが、女声が今一つだった感じです。メリハリに乏しく、表現が単調な感じです。例えば、第一幕のタバコ工場の女工たちの合唱。あの曲は、このオペラがスペインのセビリアが舞台であることを声で示すキーの曲なのですが、聴いていて、南国の明るさと熱さを感じないのですね。合唱に関しては、男声を含め、他にも危ういところはあちらこちらに見受けられましたが、男声陣に歌心のある方が多いのか、男声が入ると、格好がついてくる感じでした。

 ソリスト陣。

 主役の新宮由理のカルメン。安全運転のカルメンでした。全体的にまとまってはいるのですが、説得力に欠ける。カルメンの見どころの一つは、まずカルメンがどうやってホセを誘惑するかだと思います。カルメンは、「ハバネラ」と「セギディーリャ」でホセを誘惑するわけですが、そこに「男なら誰だってクラッとくるよな」という感じがない。今回はセミステージ公演で演技を見せにくいというハンディはあるにせよ、この二曲に色気が欠けていた感じは否めません。

 一方、内山信吾のホセ、こちらは良かったです。最初、颯爽として龍騎兵の伍長さんという感じではないけれど、そのダメダメ感と、うらぶれて行く感じ上手に表現されていました。「花の歌」の何とも言えない哀切感や、第四幕のカルメンを殺すシーンでの声に切迫感が、見事でした。

 和田ひできのエスカミーリョ。こちらはもっと颯爽感が欲しい。ホセのうらぶれて行く感じとエスカミーリョのかっこよさは対比的であるべきですが、演技が柔らかすぎるのでしょうか、衣裳の問題もあるのかもしれませんが、とにかくこちらも一寸説得力に欠けるホセでした。

 田崎尚美のミカエラ。今回一番の収穫でしょう。可愛らしさよりも強さが見え隠れするミカエラではありましたが、第三幕のアリア「何も恐れることはありません」は技術的にも十分で、説得力もあり、素晴らしいものだったと思います。

 脇役陣では、岩永美稚子のフラスキータがなかなか良く、相田麻純のメルセデスも悪くない。金沢平のズニガもよい。保坂真悟のモラレスは一寸上擦っている感じが終始付きまといました。ダンカイロとレメンダートは女声とのアンサンブルが見事でした。

 原純の演出。セミステージ形式で衣裳の変化も乏しい中、カルメンらしい雰囲気を出すのに苦労されていました。初めてこの作品を耳にした方がどう思ったかは分かりませんが、何度も舞台を見ている身としては、意図が分かりやすい演出だったと思います。

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鑑賞日:2015年9月23日
入場料:全席自由 4000円

主催:モーツァルトホールでオペラを上演する会

Le voci第15回公演

全3幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲「椿姫」(La Traviata)
原作:アレクサンドル・デュマ・フィス
台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ

会場:かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール

スタッフ

指 揮 安藤 敬  
管弦楽   テアトロ・フィガロ管弦楽団 
合 唱    テアトロ・フィガロ合唱団
演 出 馬場 紀雄
衣 裳  :  森 真佐乃
照 明  :  (株)ASG 
音 響  :  たきざわ勝彦

出 演

ヴィオレッタ   泉 萌子
アルフレード   塚田 裕之 
ジェルモン   上田 誠司 
フローラ   梶沼 美和子
アンニーナ   田代 香澄 
ガストン子爵   北野 晃司
ドゥフォール男爵   鈴木 敬治
ドビニー侯爵   伊東 達也 
グランヴィル医師   高橋 雄一郎
ジュゼッペ  :  大内 繁 
使者  :  中川 直哉 
召使    堀 浩史 

感 想

若さは感じさせられるが、、、 -Le voci第15回公演「椿姫」を聴く

 Le vociという団体が東京下町を中心に活動していることは知っていましたが、これまで聴く機会はなく、今回初めて伺いました。全体的に申し上げれば、凄く悪い演奏ではありませんでしたが、とても良い演奏でもありませんでした。まあごく普通の椿姫。

 指揮者の安藤敬はオーソドックスな指揮をする方で、音楽の流れがよく分かります。第一幕の前奏曲は、オーケストラの立ち上がりが一寸遅い感じがしたのですが、その後は順調。指揮者にきっちり反応して音楽を作り上げていきます。オーケストラの個々人の技術は色々あるようですが、それなりに鍛えられており、音楽の流れを大きく乱すようなことはなかったと思います。

 歌手陣は主要三役が若い。これが一幕は良い方向に働き、二幕、三幕は悪い方向に働いた、ということだろうと思います。

 ヴィオレッタ役の泉萌子。リリコ・レジェーロ系のソプラノで一幕が良い。細かいことを申し上げれば、一幕でも「あれ?」と思うところはあったのですが、「乾杯の歌」から、「ああ、そは彼の人か〜花から花へ」は魅力的に響かせます。「椿姫」の最初の聴かせどころですから、ここが上手くいったのは結構なことです。また、三幕も一幕ほど良いとは思いませんでしたが、まあまあの出来。「さよなら、過ぎ去った日々」は歌にもっとコクが欲しいところです。ここがもっと情の籠った歌になると、アルフレードとの二重唱「パリを離れて」が盛り上がるように思います。

 一番問題は第二幕。このオペラの一番の聴かせどころであるジェルモンとの二重唱が全然イケていない。唯歌っているだけ。楽譜通りには歌えているのかもしれませんが、ヴィオレッタの理不尽な別れに対する悲しみが全く伝わってこないのです。「この方美人だから失恋経験がないのかな」と失礼なことまで思ってしまったぐらいです。
 
 勿論これは、ヴィオレッタだけの責任ではなく、ジェルモンの責任でもあります。上田誠司のジェルモン。貫禄が全くありません。歌もそうですが、動きにも貫禄を感じさせません。若い方なのでしょう。娘を嫁にやる父親の気持ちが全然分かっていない。だからこの二重唱、本当に薄っぺら。ただ歌は流れているけれども、その中に秘められている心情が全く感じられませんでした。「プロヴァンスの海と陸」はきっちり歌えていましたが、この詩に込められている心情がどれだけ分かって歌っていたかという点になると、かなり疑問符が付くところです。

 アルフレードも難あり。第一幕は細かいミスはあったものの若々しい直情的な感じがよく出ていて、「乾杯の歌」などは非常に良かったと思うのですが、第二幕のアリアが失敗でした。カヴァテーナが上手く行かず、カバレッタは最後はアクートを決めることが出来ず裏声で逃げました。それ以外はなかなかよい演奏だったので、一番の聴かせどころの失敗、残念です。

 それ以外の脇役陣は、アンニーナが結構面白い役作り。第二幕の冒頭のアルフレードとの短いやりとり。アンニーナ怒っているんですね。主人に当たるヴィオレッタがどこの馬の骨か分からない田舎者の青年にお金を貢いで、自分の財産を減らしているんですから、怒るのは当然なんですけど、考えてみると、その部分を今回の田代香澄ほど明快に表現した例は、私の聴いた経験ではなかったように思います。でもこの怒っている感じが第三幕まで引きずるのはどうかしら。三幕はもっとヴィオレッタに寄り添った方が良い役作りのような気がしました。

 パトロンの貴族たちでは北野晃司のガストンが良い。冒頭の明るい合唱と北野の明るいテノールがマッチして、最初の盛り上げに貢献しました。ドゥフォールは悪くないけど、ちょっと年配過ぎる感じ。ヴィジュアルにはジェルモンとドゥフォールを交換した方が良いように思いました。

 馬場紀雄の演出はすこぶるオーソドックス。背景画をうまく使ったシンプルな舞台づくりでしたが、「椿姫」の持つきらびやかさをきっちり表現できていて良かったと思いました。

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