オペラに行って参りました-2015年(その4)

目次

3.11の後であるからこそ  2015年10月4日  東京二期会オペラ劇場「ダナエの愛」を聴く 
「リング」はどこまで理解できるのか? 2015年10月10日 新国立劇場「ラインの黄金」を聴く
10年後を期待しよう  2015年10月11日  昭和音楽大学・上海音楽学院交流プロジェクト「フィガロの結婚」を聴く 
少しずつ足りない 2015年10月16日 「平成27年度 次代の文化を創造する芸術家育成事業」オペラ公演「ラ・ボエーム」を聴く
声が足りない  2015年10月17日  2015国立音楽大学大学院オペラ公演「コジ・ファン・トゥッテ」を聴く 
回って、回って、うるさい 2015年11月14日 NISSAY OPERA 2015「ドン・ジョヴァンニ」を聴く
30年前に逆戻り  2015年11月22日  東京二期会オペラ劇場「ウィーン気質」を聴く 
お口直し 2015年11月22日 「安藤赴美子&笛田博昭ジョイント・リサイタル」を聴く
代役は大変です  2015年11月23日  新国立劇場「トスカ」を聴く 
デュトワ/N響の実力  2015年12月4日  NHK交響楽団第1823回定期演奏会「サロメ」を聴く 

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2015年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2015年 
2014年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2014年 
2013年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2013年 
2012年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2012年 
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

 

鑑賞日:2015年10月4日
入場料:C席 6000円 5F l2列 33番

主催:公益財団法人東京二期会

東京二期会オペラ劇場公演 

全3幕、字幕付原語(ドイツ語)上演
リヒャルト・シュトラウス作曲「ダナエの愛」(Die Liebe der Danae)
原案:フーゴ・フォン・ホフマンスタール
台本:ヨーゼフ・グレゴール

会場 東京文化会館大ホール

スタッフ

指揮 準・メルクル
オーケストラ 東京フィルハーモニー交響楽団
合唱 二期会合唱団
合唱指揮 角田 鋼亮
演出 深作 健太
装置  :  松井 るみ 
衣裳 前田 文子
照明 喜多村 貴
舞台監督 八木 清市
公演監督 大野 徹也

出 演

ユピテル :小森 輝彦
メルクール :児玉 和弘
ボルクス :村上 公太
ダナエ :林 正子
クサンテ :平井 香織
ミダス :福井 敬
ゼメレ :山口 清子
オイローバ :澤村 翔子
アルクメーネ :磯地 美紀
レダ :与田 朝子

感 想

3.11の後であるからこそ-東京二期会オペラ劇場「ダナエの愛」を聴く

  「ダナエの愛」の日本初演は、2006年1月、新宿文化センターで行われました。若杉弘の指揮、新日本フィルの演奏、歌手陣は東京二期会のメンバーが固めました。ミダス王が今回の公演監督を務めた大野徹也、ダナエが佐々木典子、ユピテルが久保和範という布陣でした。演奏会形式の上演で、4管16型のオーケストラが素晴らしい演奏をしたという記憶があります。

 今回の演奏は、全体的には高レベルだったと思うのですが、オーケストラに関しては、9年前の新宿文化センターの方が上だったように思います。東京文化会館のオケピットが狭く、シュトラウスが指示した編成のオーケストラが入らなかったのでしょうね。そこで弦楽器を減らしました。そんな訳で、オーケストラの厚みが今一つだったのと、管の水準もあまり高くない。金管が強奏した時よろよろするのは一寸いただけません。まあ今東フィルは新国立劇場で「ラインの黄金」にもピットに入っていますから、主力が二分され、更に「ラインの黄金」も「ダナエの愛」も管楽器をたくさん使う曲ということで、どっちもエキストラをかき集めて、という感じだったのでしょう。更に言えば、本日N響は、パーヴォ・ヤルヴィのお披露目公演で、マーラーの「復活」を取り上げて、ホルンとトランペットを10名ずつ集めていますから、この演奏水準になるのも仕方がないのかもしれません。

 そういうオーケストラのテクニカルな問題はあったとしても、準・メルクルの音楽作りは良かったと思います。リヒャルト・シュトラウスの音楽の持つ独特の香りがしっかり現れていて、しっかりしたテンポ感の中で、オーケストラを進めたというところです。演奏時間は掲示の通りで長くも短くもならず、そういうところにオーケストラコントロールの上手さが示されているように思いました。

 舞台は、1幕よりは2幕、3幕の方が整理されていてまとまっていた感じです。第一幕はカオス的で、冒頭の合唱が一寸荒れた感じでした(もちろん、敢てそうしているのかもしれません)。主役の林正子が立派。第三幕で高音が抜けてしまった感じになったところはあったのですが(これももちろん楽譜の指示かもしれないので、何とも言えませんが)、綺麗なよく通る声で、中音部に密度があり、ダナエを上手に演じられたのではないかと思います。小森輝彦、福井敬との二重唱も良く、堪能したと申し上げます。

 福井敬も立派。彼は最近荒れていることも多くて、一寸心配していたけれども、今日はそんなことはなかったです。年齢的な壁が見えてきているのは事実でしょうが、あの冒頭の演技、林ダナエと声に落ちるシーンでの演技・歌唱は、流石に福井敬ならではという感じがしました。

 福井より良かったのが、小森輝彦のユピテル。ユピテルのダメさ加減の表現が絶妙です。シュトラウスは、ユピテルを尊敬するワーグナーのヴォータンから持ってきているのでしょうが、もう一つ、「天国と地獄」の「ジュピター」も意識しているのではないか、と思いました。三幕の小森は確かに、「神々の黄昏」の「さすらい人」なのですが、そこに至るまでのコメディ的動きは、オッフェンバック的でもあったように思います。音楽は全然喜劇的ではないのですが、ユピテルの存在自身が喜劇的ということなのでしょう。

 その他の脇役陣も皆立派だったと思います。第一幕におけるボルクス王の弱さを村上公太が上手に示しましたし、九年前もこの役を歌ったクサンデの平井香織もよい。児玉和弘のメルクールは奇妙な存在感がありました。そして、脇役陣で、今回も一番感心したのは、女声四重唱です。四人の息が揃っていて、とても素晴らしいアンサンブルになっていました。

 さて、深作健太の演出ですが、この作品の時代背景を理解し、更に現代も意識した演出になっていました。

 この作品のテーマを簡単に言ってしまえば、「金と愛」です。リヒャルト・シュトラウス14番目のオペラとして作曲された時代は、第二次世界大戦がはじまる時期でした。具体的には何も示されてはいないけれども、シュトラウス自身は、権力よりも愛、という風に感じていたのではないかと思います。反戦的気持ちがあったとまで積極的に言えないのは当然ですが、元の貧しいロバ牽きに戻され、砂漠をさまようミダスには、最愛の妻・ダナエが付いているわけです。そのような日常的幸福が戦後来ることを期待して、シュトラウスはこの作品を書いたように思います。

 そんな理解が深作健太にあったのではないかと思います。第一幕、二幕は、黄金を強調するわけですが、地下牢のようなセットであり、黄金を強調してもキンキラキンにはならない。そこが既に金の虚しさを示しています。それに対する第三幕は神の怒りの廃墟です。もちろんモチーフは、東日本大震災における被害です。神の怒りによる自然災害で、原子力発電所も破壊されています。メルクールが医師で、放射線防具服を着て登場するのは、そんな厳しい状況にあることを示したいからでしょう。

 そんな悲劇的状況の中でも若くて貧しい夫婦は、「愛」の結びつきの中、新しい生活を始めます。二人の間には子供ができ、ダナエのお腹は大きいことが強調されます。結局、神は人に勝てない。そういうシュトラウスの形而下的メッセージを深作健太は、厳しい現状に対する希望として表しました。とても感興のある演出だったように思います。

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鑑賞日:2015年10月10日
入場料:C席 7776
円 4F 1列 37番

主催:文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場

平成27年度(第70回)文化庁芸術祭オープニングオペラ公演

新国立劇場公演 

全1幕、字幕付原語(ドイツ語)上演
ワーグナー作曲楽劇「ニーベルングの指環」序夜「ラインの黄金」("Der Ring des Nibelungen" vorabend Das Rheingold)
台本:リヒャルト・ワーグナー

会場 新国立劇場オペラパレス

スタッフ

指揮 飯守 泰次郎
オーケストラ 東京フィルハーモニー交響楽団
演出 ゲッツ・フリードリヒ
美術・衣裳  :  ゴッドフリート・ピルツ
照明 キンモ・ルスケラ
演出補 イェレ・エルッキラ
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 村田 健輔
芸術監督 飯守 泰次郎

出 演

ヴォータン :ユッカ・ラジライネン
ドンナー :黒田 博
フロー :片寄 純也
ローゲ :ステファン・グールド
ファーゾルト :妻屋 秀和
ファフナー :クリスティアン・ヒューブナー
アリベルヒ :トーマス・ガゼリ
ミーメ :アンドレアス・コンラッド
フリッカ :シモーネ・シュレーダー
フライア :安藤 赴美子
エルダ :クリスタ・マイヤー
ヴォークリンデ :増田 のり子
ヴェルグンデ :池田 香織
フロスヒルデ :清水 華澄

感 想

「リング」はどこまで理解できるのか?-新国立劇場「ラインの黄金」を聴く

 日本のオペラ上演史で忘れられないエポックメイキングな公演は幾つもありますが、その中でも特に重要なものの一つに、1987年のベルリン・ドイツ・オペラによる「リング」の一挙上演が上げられます。ほぼ1カ月の間に、「ラインの黄金」、「ワルキューレ」、「ジークフリート」、「神々の黄昏」を3クール上演して見せたというのは、未だ、東京二期会の「リング」舞台上演が終了していなかった時代、その衝撃はいかほどだったのでしょう。その時の演出がゲッツ・フリードリヒ。世評高い「トンネル・リング」と言われる上演です。

 その時、私は就職したてで、薄給の身、住所も福島県ととても聴きに行くことは出来ず、噂だけを聴いていたのですが、東京在住の友人がワンクール見に行ったそうで、その素晴らしさに感動していました。結局その後も、私は「トンネル・リング」に縁が無く、ゲッツ・フリードリヒ自身も2000年にこの世を去りましたので、もう縁がないと思っていたのですが、新国立劇場が、フリードリヒ三度目の「リング」演出として、フィンランド国立歌劇場のために制作したプロダクションを借りて上演することになり、2015/16シーズンのオープニング公演に持ってきました。

 この演出、ある意味予想外でした。新国立劇場の「リング」と言えば、「トーキョーリング」として著名なキース・ウォーナーの演出の印象が強い訳です。「東京リング」はポップでカラフルで、正に見た人に驚きを与える演出でした。ウォーナーの演出は、色々なことをやっていて、それぞれ楽しめたのだけれども、はっきり申し上げれば、「ラインの黄金」の演出だけは、ごちゃごちゃしすぎて、何が何だかよく分からない演出に陥っていました。「ラインの黄金」は、他の作品が出来てからその統一の説明をするために作られた作品のためか、内容的には多彩で、エピソードが多く、ある程度説明的にならないと、お客さんが理解しにくいというところがあると思います。それに対して、今回のゲッツ・フリードリヒの演出、写実的で分かりやすい。

 第一場でラインの三人の乙女に愚弄されるアリベルヒのシーン、この場所が水の中であるというのは、最初現れる水色の線や、三人の乙女が纏っている水色のベールから明らかだし、禍々しい指環の力が、アリベルヒの愛の断念とセットになっていることが音楽的にだけではなく、視覚的にも明らかにされます。二―ベルハイムでヴォータンやローゲと対抗するアリベルヒ、ミーメに作らせた隠れ頭巾の力で、大蛇になり、それからローゲの挑発で蛙になってヴォータンに捉えられてしまう訳ですが、この大蛇と蛙も視覚的に明確に示され、アリベルヒの呪いがよく分かる仕組みになっている。巨人族に支払う黄金だって、フライアが見えなくなるまで積み重ねろ、というので、本当に積み重ねてみせる。

 「ニーベルングの指環」は音楽的には歴史に名を残す作品ですが、台本は所詮オペラの台本であって大したものではありません。しかし、哲学的で深遠なものとして語られることが多い。私もこれまで見て来た舞台や映像。私自身もそういう先入観があったものですから、割と難しくとらえることが多かったのは事実です。でも今回のゲッツ・フリードりっひの古典的と言っても良い平明で写実的な演出は、シンプルな舞台構造も相俟って、「ラインの黄金」がこれから続く、三夜の序夜であり、あの壮大な悲劇の嚆矢となるエピソードが皆詰まっていることが実感できました。ヨーロッパのオペラの演出の時代の旗手として認められていたゲッツ・フリードリヒですが、最後の行きついた境地はリブレットに忠実な平明な舞台ということだったのでしょう。とても素敵だと思いました。

 さて、演奏ですが、こちらも上々。指揮が日本を代表するワーグナー指揮者飯守泰次郎ということがかなり効いていると思います。「リング」のような巨大な作品はそう全曲を振るのは難しいですが、飯守は「リング」を複数回もうすでに振っている。そういう経験は伊達ではないようです。音楽の隅々までよく光で照らした演奏で、デュナーミクの取り方など、オーケストラの力強さが半端ではありません。先週の東京文化会館とは違って、オケピットは十分の広さがありますから、4管16型、ハープだけで7本という大オーケストラが咆哮します。東フィルの演奏は勿論いろいろあるのですが、先週の「ダナエの愛」と比較すると、弦楽器の厚い分深みが違うように聴きました。これぞ大編成オーケストラの魅力と申し上げるべきか。

 歌手陣は日本人勢の頑張りをまず褒めるべきでしょう。三人のラインの乙女が良い。この三人のアンサンブル、綺麗にハモって乱れがない。声量もしっかりあって、十分な表現をされていたと思います。また、妻屋秀和のファーゾルトもとても良い。二人の巨人のうちファーフナーはドイツからクリスティアン・ヒューブナーを連れてきたわけですが、ファーゾルトに軍配を上げたい。安藤赴美子のフライアも一寸ワーグナー歌いという観点からは線の細さは感じたものの、演技の優美さと彼女独特の美声はとても見事であり、大いに感心いたしました。

 流石に敵わないな、という感じがしたのは、黒田博ドンナ-と片寄純也フローです。二人とも東京二期会を代表するワーグナー歌いですが、世界的なワーグナー歌いに囲まれると大人と子供という感じですね。日本人だけでまとまればそれなりに楽しめるワーグナーですが、未だ世界との距離を感じました。

 ヴォータンは何度も新国立劇場で歌っているラジライネン。彼のヴォータンは2009年からの東京リングでおなじみで、今回も安定感jのあるヴォータンだったと思います。声も飛びますし、深みもあって流石と申し上げるべきか。ただ、それ以上のプラスアルファが感じられたか、と言えばそこはクエスチョン。

 ステファン・グールドのローゲ。素晴らしい。ローゲがライオンの黄金の鍵の役であることは知識としては知っていたけれども、これほどローゲの役割を表現できた例を私は知りません。演出が分かりやすいということは勿論関係しているのだけれども、歌唱自体だってふくよかで厚みがあってよかったし、表情の出し方だって、ローゲのずる賢いところが良く表現されている感じで、大変感心いたしました。文句なしにブラボーです。

 トーマス・ガゼリのアリベルヒもよい。アリベルヒの悲しみと怒りを十分に表現し、指環の呪いが掛けられるのは仕方がないな、と思わせる演技・歌唱でした。

 ミーメとフリッカはあんなものかなという感じです。クリスタ・マイヤーのエルダは、土臭いおっかさんみたいな表現でこれはこれで面白い。エルダは智の女神ですから、もう少し知的な歌唱をするものだと思っていたのですが、私が考えていたエルダとは違った表現でした。

 以上、新国立劇場の新シーズンの開始公演として十分な内容を備えていた公演だと思いますし、今後の展開に期待が持てる「リング」の序夜になっていたと思います。

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鑑賞日:2015年10月11日
入場料:
B席 2800円 2F L3列20番

主催:昭和音楽大学

昭和音楽大学オペラ公演2015/昭和音楽大学・上海音楽学院 交流プロジェクト

オペラ4幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
モーツァルト作曲「フィガロの結婚」Le Nozze di Figaro)
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ

会場:昭和音楽大学 テアトロ・ジーリオ・ショウワ

スタッフ

指 揮 ムーハイ・タン
管弦楽 昭和音楽大学管弦楽団
チェンバロ  :  星 和代 
合 唱 昭和音楽大学合唱団
合唱指揮 山舘 冬樹
演 出 マルコ・ガンディーニ
美 術 イタロ・グロッシ
衣 裳 アンナ・ビアジョッティ
照 明 奥畑 康夫
舞台監督 斎藤 美穂

出 演

アルマヴィーヴァ伯爵 : チェン・インコン
アルマヴィーヴァ伯爵夫人 : 石岡 幸恵
フィガロ : ワン・リフ
スザンナ : 中桐 かなえ
ケルビーノ : 丹呉 由利子
マルチェリーナ : ル・ジンスブ
ドン・バルトロ : ヤン・イ
ドン・バジリオ : 工藤 翔陽
ドン・クルツィオ : 高橋 大
アントニオ : 小田桐 貴樹
バルバリーナ : 伊藤 香織
花娘T : 長谷川 美希
花娘U : 山下 美和

感想

10年後に期待しよう-昭和音楽大学・上海音楽学院 交流プロジェクト「フィガロの結婚」を聴く。

 昭和音楽大学オペラは、ベッリーニやドニゼッティのベルカント・オペラを卒業生が歌い、学生が舞台スタッフやオーケストラが支えるという形で例年演奏され、成果を上げてきました。昨年の「夢遊病の女」ととても素敵な上演に仕上がっていたと思います。本年は、1989年以来の「フィガロの結婚」。フィガロの結婚は、全てのオペラの基本みたいな作品ですし、大学でも大体は勉強するということで、大学オペラとして違和感は全く無いのですが、昭和音大らしくはない選択です。これは、今年は、「昭和音楽大学オペラ」という通常の枠組みに加えて、上海音楽学院からソリストを招いて、合同演奏を行う、ということが関係しているに違いありません。上海側の意向が絶対関係している。

 もちろんこういう交流はとても良いことに違いありません。中国のオペラの水準がどの程度なのかは残念ながらよく知らないのですが、というより、全くこれからの分野のようです。今回歌った四人についても、問題点が山積みで論評するレベルにすらない、というのが本当のところです。中国は、今、もの凄い経済発展を遂げているところですが、日本も高度成長期の国内団体のオペラ上演は、今の眼で見れば本当にひどいもので、1970年代の二期会や藤原歌劇団の録音も聴いたことがありますが、今の日本のレベルと比較すると一寸聴くに堪えないものです。そのような日本のオペラの発達の例を考えれば、中国もあと10年もたてば、随分進化するのではないかという気がします。今回の交流がその嚆矢になればよいな、と思います。

 さて、演奏全体の評価ですが、指揮者の趣味が大きく出た演奏と申し上げて良いのではないでしょうか。ムーハイ・タンという指揮者、上海音楽院のOBで、カラヤンや小澤征爾に師事してヨーロッパでキャリアを積み重ねた人のようです。フィンランド国立歌劇場の首席指揮者も務めたことがあるそうで、オペラにはかなりの経験があるらしい。それだけに自信満々の指揮なのですが、とにかく速い。つんのめるような演奏で、どんどん飛ばしていきます。「フィガロ」は確かにアレグロを基調とした音楽ですから、遅いよりは速い方が良いのですが、何もあそこまで急がなくても良いだろうという感じの振り方です。だから、オーケストラも荒れるし、楔がないので、メリハリがはっきりせず、滑るのだろうと思います。昭和音大のオーケストラは学生中心で技術的にはいろいろ問題があるわけですが、そのことがよく分かっている指揮者が降ると、きっちりした演奏にまとまるのですが、今回の演奏は、とっ散らかった演奏で終始した、ということだと思います。

 中国人歌手陣は未だ大学院生で、伯爵役のチェンやバルトロ役のヤンは今回が実質的初舞台らしいです。マルチェリーナを歌ったルも初オペラのようです。皆もの凄く背が高く(2メートル近くあるらしい)体躯が立派ですし、喉も強いようですが、いかんせん声が飛ばない。その上、音程のコントロールも良くないので、アンサンブルが美しく響かない。彼らが日本人の大学院生だったら、多分舞台には上げて貰えなかっただろうなという水準です。それでも日本に来て、テアトロ・ジーリオ・ショウワという美しい劇場で歌うという経験が出来たわけですから、今後自分の問題点を反省して、更に精進してくれることを期待するだけです。

 日本人歌手でダントツに良かったのが小田桐貴樹のアントニオ。脇役で、アンサンブルで参加するだけですが、とても立派。一寸レベルが違う感じでした。

 伯爵夫人の石岡幸恵はなかなか結構。登場のアリア「愛の神よ、平穏を」は、音が下がって始まり、どうなることかと思ったのですが何とかまとめ、その後は順調。高音部が金切り声になる傾向はありますが、中音部がふくよかで密度があり、伯爵夫人の雰囲気が良く出ていたと思います。

 スザンナの中桐かなえは線が細く、もう少しふくよかで迫力があるといいのにな、と思う部分が多々ありました。そのためかアリアは、二幕も、四幕も正直感心できるものではなかったのですが、この方アンサンブルに入ると凄く良い。しっかり溶け合って、バランスよく歌う技術がある。スザンナは「フィガロの結婚」のアンサンブルの要ですが、その役割をきっちり果たしていたと思います。

 ケルビーノ役の丹呉由利子ははっちゃけていました。ケルビーノは初々しさを出すことが多いと思うのですが、丹呉ケルビーノは、悪戯小僧という印象が強い。特に「自分が自分で分からない」で強くそれを感じました。軍服を着せられてからはしゅんとした感じになってしまうので、その落差も面白いと思いました。

 それ以外の脇役勢は、日本勢も大学院生中心。それぞれ課題はありますが、バジリオもバルバリーナもアリアはきちんとまとめたのかなという印象。中国人たちよりも一日の長を感じました。

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鑑賞日:2015年10月16日

入場料:無料 自由席(鑑賞したのは、3F1列4番)

主催:文化庁・洗足音楽大学
共催:(公財)日本オペラ振興会

文化庁委託事業「平成27年度 次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」オペラ公演

オペラ4幕、字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」(La Boheme)
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ/ルイージ・イッリカ

会場:洗足学園 前田ホール

指 揮 松下 京介
管弦楽 SENZOKUオペラ管弦楽団
合 唱 SENZOKUオペラ合唱団
児童合唱 洗足学園小学校
合唱指揮 田邉 賀一
演 出 小澤 慎吾
美 術 車田 幸道
照 明 三輪 徹郎
舞台監督 穂苅 竹洋
公演監督 捻金 正雄

出演

ミミ 嘉目 真木子
ロドルフォ 澤原 行正
ムゼッタ 田川 聡美
マルチェッロ 岡 昭宏
ショナール 望月 一平
コッリーネ 片山 将司
ベノア 白岩 洵
アルチンドロ 相沢 創
パルピニョール 佐藤 圭

感想

少しずつ足りない−「平成27年度 次代の文化を創造する芸術家育成事業」オペラ公演「ラ・ボエーム」を聴く

 特に「音楽」ということだけではなく、色々なことが一寸ずつ足りなくて、全体としては、イマイチというよりも、イマ1.5ぐらいの上演だったと思います。例えば、会場への道案内。私は前田ホールは初めてなのですが、校門からどう行くのか全く案内がない。第一、校門周辺に本日オペラを行うことの案内もない(入試説明会の案内はありました)。私は多分、最短距離の二倍ぐらい歩いてたどり着きましたけど、脇を歩いていた女性も「会場の道案内位出したらいいのに」と不満を述べておりました。会場も素っ気ない。大学オペラと言えども、オペラ上演は華やかな催しです。私が知っているのは、東京芸大、国立音大、昭和音大なのですが、どこだって先生方がお客さんを迎えたり、過去の公演のポスターが張ってあったり、別な音楽会のチケットが売られていたり、何となく華やかです。それに対して、今回は何もありません。入口でプログラムを配付しているだけ。ホワイエには本当に何もなく、休憩時間の人の数も他の大学オペラと比較しても全然少ない感じです。

 開始時間が早いのも困る。溝の口で平日夕方六時開演は、普通の働いている人は来なくていいよ、と言っているのと同じです。私は、所用が予定より早く済んだので、ぎりぎりで到着できましたが、普通ならこうはいきません。その上休憩が多い。「ボエーム」は四幕のオペラですが、正味二時間ほどのオペラですから、普通休憩は1回かせいぜい2回です。今回は幕間にみな休憩を取って計3回。休憩時間の合計が55分。それでも休憩時間が華やかだとまだいいんですけど、全く地味ですからただ退屈するだけで、間延び感がありました。前田ホールは舞台が狭く、多分バックヤードも広くなく、連続的に舞台装置を動かすことが物理的に出来ず、こうせざるを得なかったのだろうな、とは思いますが、一観客としては、休憩時間が長すぎました。

 それでも音楽さえ素晴らしければ、何の不満もないのですが、音楽もいまいちでした。松下京介指揮、SENZOKUオペラ管弦楽団の演奏は、悪いものではなかったと思います。指揮者がぐいぐい引っ張っていくタイプの演奏なのですが、その演奏具合が、正に若いボヘミヤン達にぴったりな感じで、その推進力がオペラに魅力を加えていました。オーケストラはプロの奏者や教員がかなり入っている様子です。コンマスの渋谷由美子は仙台フィルの元コンサートミストレスですし、コントラバスの今野京はN響のメンバーです。そういう方たちがいるから締まった演奏が出来た、ということはあるのでしょう。でも、歌は不満です。

 まず、ミミの嘉目真木子がよくない。嘉目はこれまで何度も聴いておりますが、私が聴いた中では一番不調だったと申し上げてよいでしょう。響きに細かいヴィヴラートが常にかかっているのか透明感が全然ありません。結果として歌詞が潰れて何を言っているのかが聴き取りにくくなっています。その上、音のポジションが基本的に低めで、華やかさに欠ける。「私の名はミミ」は、ミミの浮き立つ気持ちを込めて欲しいのですが、演技はそういう雰囲気が出ている感じはするのですが、声が落ち着きすぎて感じで、かつ籠って聴こえるので、凄くちぐはぐでした。終幕はかなり持ち直した感じはしましたが、それでも、私の知っているミミの中では低水準。残念でした。

 澤原行正のロドルフォも今一つです。基本的に若々しい美声のテノールで結構なのですが、高音でアクートを利かせると、声が汚れてしまうのが残念です。別にハイCがどうこうという話ではありません。一寸高音でフォルテで響かせるところはみなそうなってしまうので、多分声そのもののトレーニングがもっと必要だということなのでしょう。ロドルフォ以外の男声陣も今一つの感じです。例えば、ショナールはアンサンブルの要だと思うのですが、ショナールとそれ以外の方々のタイミングが微妙にあっていない感じがして、アンサンブルが美しくありません。これは、望月一平だけの責任ではもちろんなく、他のメンバーの責任でもあります。第一幕は、アンサンブルをどう聴かせるかがポイントですが、微妙に離れている感じが付きまとい、あと0.何秒か違うだけで、全然違う音楽になるのになあ、と思うと残念でした。

 アンサンブルが上手く行っていなかったなあ、というのは、他の部分でも思いました。例えば第3幕の終わり、ミミとロドルフォが愛するゆえの別れを歌っている所のムゼッタとマルチェルロの喧嘩。勿論、劇的には、二つは別々の事象ですが、音楽的には絡み合ってこそ両者の対比がくっきりと浮かび上がるわけですが、そこの絡み合いもお互いが別々の感じで、胸に迫るものがありませんでした。

 二幕の合唱も今一つの感じです。児童合唱などどこでも一緒のようにも思いますが、今回はタイミングが合っていない感じで、がっちりと組み合わさっているという感じがありませんでした。

 田川聡美のムゼッタはそういう中で一人気を吐いていた、という感じ。ムゼッタのワルツは悪くはありませんでしたし、それ以外でも上手に存在感を示していました。片山将司のコッリーネもアリアは低音の魅力で十分な感じ。この二人をしてもアンサンブルに入ると精彩を欠くところがありました。/font>

 以上、一つ一つは大した問題ではなく、どんな上演でもそのような緩い部分はあるわけですが、その緩さが全部で繋がっていくとフラストレーションが溜まってしまいます。「ラ・ボエーム」はプッチーニ先生が非常に緻密に書かれた作品なので、その緻密さが味わえるようだと良かったのですが、残念ながら、そうはなっていなかったということなのだろうと思います。

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鑑賞日:2015年10月17日
入場料:2000円 お-46番

主催:国立音楽大学

2015国立音楽大学大学院オペラ

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
モーツァルト作曲「コジ・ファン・トゥッテ」K.588(Così fan tutte)
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ

会場:国立音楽大学講堂

スタッフ

指 揮 山下 一史
管弦楽 国立音楽大学オーケストラ
合 唱 国立音楽大学合唱団
合唱指導 佐藤 宏
チェンバロ 藤川 志保
演 出 中村 敬一
装 置 鈴木 俊朗
衣 裳 半田 悦子
照 明 山口 暁
舞台監督 コ山 弘毅

出 演

フィオルティリージ 吉田 愼知子
ドラベッラ 眞玉 郁碧
フェランド 吉田 連
グリエルモ 高田 智士
デスピーナ 福田 亜香音
ドン・アルフォンソ 大島 嘉仁

感想

声が足りない-2015国立音楽大学大学院オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」を聴く。

  今回の国立音楽大学の大学院オペラ公演のプログラムに書かれた学長さんの言葉に依れば、国立音大は、「特にアンサンブルは高評価をいただいております」だそうです。彼の言うアンサンブルは狭義のアンサンブルではなく、「歌い手、合唱、それを支えるオーケストラ、またマネジメントを含めたいわゆる裏方さん」まで含めたトータルのことを仰っているようですが、そんな大きな話に持ち込まなくても、「コジ・ファン・トゥッテ」はアンサンブルオペラの傑作です。

 そして学長の言う、アンサンブルの美しさをしっかり見せてくれたという点で、2015年の「くにおんオペラ」初日は成功裏に終わったと申し上げてよろしいのかなと思います。

 この成功を支えた第一の功労者は指揮の山下一史ではないでしょうか。山下は、舞台とオーケストラピットに均等に気を配って指揮をしており、バランスの良い音楽作りに貢献していたと思います。歌手たちに対しても上手に指示を出しており、それがアンサンブルが乱れずに続いた秘訣のように思いました。

 歌手陣は、例年通り、大学院2年生と助演の卒業生で組みましたが、大学院2年生はそれぞれ問題があります。今回は女声三人が院生だったのですが、この中で眞玉、福田がレジェーロ系の声の持ち主、吉田がリリコ系の声の持ち主で、本来ドラベッラを歌える声の方がいらっしゃいません。その中で一番低音が出る眞玉をドラベッラに選択したということのようです。しかしながら、自分の持ち役範囲外の役柄を演じたにも係らず、一番良かったのは眞玉です。彼女は、明るい声の持ち主で、落ち着いたドラベッラ、という感じにはならないのですが、その声ゆえに「きゃぴきゃぴした妹」キャラを上手に作り出しました。表情も常ににこやかで、声と表情が上手くマッチしていて、立派でした。アンサンブルに関しても誰とのアンサンブルでも自分をしっかり出したうえでアンサンブルにしっかり溶け込んでおり、そこも良いと思いました。細かいところを申し上げれば勿論いろいろありますけど、あの声質で、しっかりドラベッラを歌い演じたというだけで高く評価しなければいけません。

 フィオルディリージの吉田愼知子も頑張っていました。でも色々な意味で大変そう。アンサンブルは的確だったと思いますが、アリアは緊張が見て取れました。フィオルディリージと言えば、「岩のように動かず」と第二幕のロンド「愛しい方よ、どうか許して」があります。吉田はどちらもしっかり歌えましたが、何とかこなせたという感じで、聴いている方まで緊張を強いる歌。難曲ですから仕方がないのですが、もう少し、楽に聴かせてくれるといいのですが。

 デスピーナの福田亜香音。とにかく声がない。足りないなどというレベルではない。大げさに言えば、蚊の泣くような声で舞台を務めたという感じでした。音程が悪いという感じあまりしないのですが、とにかく声が小さいので、アンサンブルも彼女が入ると乱れることが多い感じでした。アリアも歌ってはいるのですが、声が飛んでこないので何とも言い難いむず痒さを感じます。そのため、医師に化けたシーンも、公証人に化けたシーンも面白くない。この方には、もっと声を、と申し上げたい。

 助演陣ですが、まずフェランドを歌った吉田連が良い。柔らかいテノールで、モーツァルトの持つ味を出すには、こういう声が似合っています。歌唱的にも上々、アリアも美しく響きましたし、アンサンブルも上手に溶け込んでいて結構だったと思います。グリエルモの高田智士。今回のチームの中では最年長。それだけあって、一番余裕を見せていました。ドン・アルフォンゾの大島嘉仁はドン・アルフォンゾには一寸貫録不足というところでしょうか。低音がもっと響いて重厚感が出せると良いと思いました。演技は悪くはないのですが、一番コスプレ感が強く出ていた感じがします。

 以上、不満点はありましたが、全体としてはアンサンブルが良くまとまった上々の公演でした。期せずしてこの三回連続で大学関係のオペラ公演を拝見しましたが、一番まとまった公演であったと申し上げます。

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鑑賞日:2015年11月14日
入場料:B席 5000円 2FH列17番

主催:日生劇場【公益財団法人ニッセイ文化振興財団】

NISSAY OPERA 2015

オペラ2幕 字幕付き原語(イタリア語)上演
モーツァルト作曲「ドン・ジョヴァンニ」
Don Giovanni)
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ 

会場 日生劇場

指揮 広上 淳一
管弦楽 読売日本交響楽団
チェンバロ 平塚 洋子
マンドリン 青山 忠
合唱 C.ヴィレッジ・シンガーズ
合唱指揮 田中 信昭
演出 菅尾 友
美術 杉山 至
照明 吉本 有輝子
衣裳 堂本 教子
映像 須藤 崇規
ドラマトゥルグ・字幕 長島 確
演出助手 喜田 健司
舞台監督 幸泉 浩司
チーフ音楽スタッフ 田島 亘祥

出演者

ドン・ジョヴァンニ 加耒 徹
騎士長 斉木 健詞
レポレッロ 久保田 真澄
ドンナ・アンナ 中江 早希
ドン・オッターヴィオ 金山 京介
ドンナ・エルヴィーラ

林 美智子

マゼット 桝 貴志
ツェルリーナ 見角 悠代

感 想

回って、回って、うるさい−NISSAY OPERA 2015「ドン・ジョヴァンニ」を聴く

 菅尾友の演出でとても感心したのは、2012年のNISSAY OPERA 2012「フィガロの結婚」。私は、あの舞台を2012年のオペラNo.1として選んだのですが、それは菅尾の演出が大きく影響しています。というより、それだけで選んだ、と申し上げても良いかもしれません。それぐらい感心しました。今年の二期会ニューウェーブ・オペラの「ジューリオ・チェーザレ」も良い演出でした。一つ間違うと退屈になってしまうバロックオペラをあのように見せたのは素晴らしいと思いました。

 それだけに、この「ドン・ジョヴァンニ」の演出も期待していたのですが、残念ながら、今回は意図が空回りしたと申し上げるしかありません。舞台には、回り舞台の上に六方コックのように(あるいは転車台のように)幾つもの階段が組まれています。背景は暗闇で階段のみが浮かび上がってくる感じ。歌手たちは、この階段の上で歌唱・演技を行います。階段はどんどん回転し、色々な入り口と繋がって、色々な登場人物が入ってくる、というものです。このような舞台にしたのは、一つは地獄落ちを意識しているのでしょうね。ドン・ジョヴァンニの世界の不安定さを象徴しているとも言えるでしょう。しかし、この舞台の回転が多すぎる感じです。もちろん動いていない時もあるのですが、のべつ幕なし回っている印象です。それが見ていて非常に落ち着かない感じになりました。

 演奏に関して申し上げれば、広上淳一/読響の演奏がとても良かったと思います。わりとかっちりした演奏で、デュナーミクをしっかり見せるタイプの演奏。優美な部分は優美だし、デモーニッシュな部分はデモーニッシュと、曲の内容と音楽の流れが寄り添った印象でした。自然でありながら、ポイントは押さえている感じがしました。さすが、広上だと思いました。

 歌手陣は若手とベテランの混成ですが、そのバランスが今一つだったのかな、というのが全体的な印象です。

 加耒徹のドン・ジョヴァンニ。衣裳・化粧が宝塚の男役のようで、かつ声もバリトンとしては相当の美声でテノールと見まがうほど。歌唱は、細かい難点はいろいろありましたが、若いパワーで押しきって全部をまとめ上げたという感じです。その推進力には素晴らしいものがありました。でも、納得がいったかと言われると、そういう訳にはいきません。声が華やかすぎる感じがします。レポレッロが久保田真澄で、こちらは非常に渋い声なので、対照的と言えば対照的なのですが、この差がありすぎるのに違和感を覚えてしまいます。

ドン・ジョヴァンニとレポレッロの関係には色々な解釈があるようですが、割と似ていて、同じような声質の歌手が歌うという印象があります。事実、ドン・ジョヴァンニとレポレッロの両方を持ち役としている歌手も多い。となると、今回のようにドン・ジョヴァンニとレポレッロの声質があまりに違うのは、特殊な感じがします。今回のドン・ジョヴァンニとレポレッロの関係は、やんちゃで悪戯好きなご主人様と、その悪戯に手を焼かされてへとへとになっている「じい」という感じが強くする。勿論、そういう解釈があってもいいのでしょうが、今回は、加耒徹のドン・ジョヴァンニが張り切りすぎて、久保田レポレッロがついて行ききれなかったという感じで、意識してそうもって行ったというより、結果としてそうなってしまった、という感じがするのです。

 中江早希のドンナ・アンナ。アリアは良かったと思います。特に第二幕のレチタティーヴォ・アコンパニャート付きのロンド 『むごい女ですって! いいえ、いとしいひとよ』は、師匠の佐々木典子直伝の技なのでしょうか、バランスも良く、大変素晴らしい演奏でした。しかしながら、アリア以外の部分は、今一つドンナ・アンナの立ち位置が見えない感じです。存在感の一寸薄いドンナ・アンナだったと申し上げましょう。 

 一方、金山京介のドン・オッターヴィオはよかったです。性格的に特にどうこう言うような役柄ではありませんから、アリアと重唱さえきちんと歌えればよい役柄ではありますが、それをきっちりこなすのは容易なことではありません。今回の金山、それを易々と成し遂げ、その上で、役柄の立ち位置にブレが無く、若手随一の活躍をしたと申し上げられるように思いました。

林美智子のドンナ・エルヴィーラ。こちらは、私は買いません。林美智子は高い声も出るメゾ・ソプラノですからドンナ・エルヴィーラは守備範囲だとは思いますが、その表情は好ましくありません。声質が音が高くなると金切声的になります。この声質で歌われると、エルヴィーラが常にヒステリックにドン・ジョヴァンニを糾弾しているような感じになってしまいます。エルヴィーラは心の揺れ動きが大きい役柄ですから、その動きに即した表情で歌って欲しいのですが、今回の林の声だと一本調子で、常にヒステリックに聴こえてしまい、一寸支持はできません。

 見角悠代のゼルリーナ。悪くはないですが、細かいところで気になるところも多かったです。桝貴志のマゼットはなかなか好調。

 以上、若手に関して申し上げれば、個々の部分はそれぞれ良かったと思うし、歌唱としてもパワフルではあったけど、もう一段磨きをかけて欲しいと思う部分が多かったという感じでした。

 なお、今回は真の全曲演奏で、通常はカットされる第21-a曲、ゼルリーナとレポレッロの二重唱も演奏されました。それは一寸驚きでした。 

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鑑賞日:2015年11月22日
入場料:B席 9000円 2F J列 24番

主催:公益財団法人東京二期会
共催:日生劇場(公益財団法人ニッセイ文化振興財団)

東京二期会オペラ劇場公演
NISSAY OPERA 2015提携

全3幕、日本語訳詞上演
ヨハン・シュトラウスU世作曲「ウィーン気質」(Wiener Blut)
台本:ヴィクトール・レオン/レオ・シュタイン
日本語訳詞:加賀清孝/日本語台本荻田浩一

会場 日生劇場

スタッフ

指揮 阪 哲朗
オーケストラ 東京フィルハーモニー交響楽団
合唱 二期会合唱団
合唱指揮 安部 克彦
演出 荻田 浩一
装置  :  島 次郎 
衣裳 前田 文子
照明 勝柴 次朗
振付 港 ゆりか
舞台監督 佐藤 公紀
公演監督 加賀 清孝

出 演

キンデルバッハ侯爵 :小栗 純一
ツェドラウ伯爵 :与儀 巧
伯爵夫人 :塩田 美奈子
フランツェスカ・カリアリ :醍醐 園佳
カーグラー :米谷 毅彦
ペビ :守屋 由香
ヨーゼフ :升島 唯博
リージ :田中 紗綾子
ローリ :山下 千夏

感 想

30年前に逆戻り-東京二期会オペラ劇場「ウィーン気質」を聴く

 日本語でオペレッタを上演する技術が30年ぐらい逆戻りした公演でした。特に日本語表現のレベルの低さに唖然としてしまいました。

 オペレッタを日本語で歌うのには難しい問題が付きまといます。一番の問題は日本語訳詞の問題です。元々ある音楽に日本語の歌詞を付けて歌うこと、これ自体大変難しいことですが、それがオペレッタの場合、ストーリーに沿っていて、リズムに合い、かつ、歌った時に書いてある言葉が聴き手に分かるように訳さなければいけないのですから非常にハードルが高い。オペラの方がまだ楽ですが、オペラにしたってこのハードルの高さ故に、字幕付き上演の技術が確立されると、ほぼすべての公演が字幕付公演に移行しました。それに対してオペレッタは地の台詞部分が公演ごとに替るせいか、歌唱も日本語で行われるという状況は変わっておりません。もちろん、「こうもり」や「メリー・ウィドウ」のように過去に何百回と上演されて、歌詞が変化、進化してきた作品であれば、日本語上演もありうる選択肢だと思います。しかし、日本で上演される機会があまりない「ウィーン気質」で、歌詞を日本語に訳して歌わせる必要があったのだろうか、というのが、聴いていての最大の疑問でした。更に申し上げれば、歌は、シュトラウスのポルカやワルツから来ているわけですが、ポルカ等は、元々の速い速度をそのまま保っている曲が沢山あります。そこに、必ず母音が伴う日本語を載せれば演奏がもたつくか、スピードを維持しようと思えば声が飛ばなくなるのは道理です。日本語字幕付公演か、台詞日本語、歌唱原語、のような演奏を考えるべきではなかったのではないでしょうか。

 そういう意味で、今回の上演の最大の問題点は加賀清孝の訳詞に他なりません。加賀の訳詞はほとんど何を歌っているのかが分からないようになっていました。特に女声陣。ヴィヴラートは日本語発声には邪魔になることが多いのですが、女声は皆高音でナチュラルにヴィヴラートがかかってしまうので、歌詞の不明瞭さをますます増幅します。更に申し上げるならば、原語から日本語に変換するとき、当然アクセントの位置や言葉の持つアーティキュレーションが変わるわけで、それに応じた対応が必要だと思うのですが、どうも、歌手たちは楽譜の指示に忠実に歌っていたのではないか、あるいは原語のアーティキュレーションに沿った表情の付け方をしていたのではないかと思われる節がある。本来、そういうところまで考えて観客に聴こえるようにしなければならないのに、今回の制作陣は、そこまで気が廻っていなかったのではないか、というように思います。

 歌手たちがそのあたりを上手く考えて、自分たちで工夫してくれればよかったのでしょうが、塩田美奈子ほどのベテランであっても、どうも、歌詞を伝えようという明確な意識を持っては歌っていなかったようです。高音のヴィブラートが見事に歌詞を殺していました。男声の歌詞はそこまで聴きにくいことはなかったのですが、それでも不明瞭なところは数多くあり、耳をしっかり傾けて歌詞を聴こうとした私のような聴き手にとっては、非常にフラストレーションが溜まる演奏でした。ストーリーについては地の台詞がクリアなので分かりにくいことはないのですが、歌詞が聴こえてこないのは、日本語で歌っていることが分かるだけにその内容が気になるのです。

 女声はその意味で全員が落第点。ことに問題なのは醍醐園佳。彼女は声が籠りがちで、口の中で響いた声が外に出る感じで全く何と歌っているかが分かりませんでした。一方で男声は、高音を出さなくても良いという利点があったせいかそこまで歌詞が分からないということはありませんでした。又、オペレッタらしい雰囲気の見せ方という点でも男声が全体的に上回っていました。小栗純一のようなオペレッタの手練れがいたということがあるのでしょうが、与儀巧にしても升島唯博にしても、オペレッタらしい雰囲気は醸し出していたと思います。特に小栗は、音程は本当に正しいのかな、と思う部分が一寸ありましたが、どう観客に見せるか、という点で明らかにベテランのスタイルがあって、そこは流石だなと素直に思いました。

 与儀巧は声が立派。唯張り上げるとき、胸で押し上げる歌い方で張り上げてしまうので、ウィーンの洒脱さが殺されてしまっていてあまり評価は出来ません。脇役ながら、升島唯博と守屋由香は軽妙な演技で存在感を出していました。

 阪哲朗指揮の東京フィルは結構ウィーン風の雰囲気が出ていて良かったと思います。これはヨハン・シュトラウス先生に申し上げるべきことだと思いますが、元々管弦楽曲として作曲されたワルツやポルカのオーケストレーションと歌唱とが上手くかみ合っていないところがあって、それが作品としての弱さに繋がっているのかな、と思いました。

 演出の荻田浩一は宝塚歌劇団出身で、それが、合唱団女声の燕尾服姿に繋がったのだろうと思います。合唱の動かし方は、少し宝塚的でした。台詞の台本は荻田のものだそうですが、台本と歌詞との繋がりが今一つ明確ではなく、そこも感心できなかったところです。

 以上、歌詞が聴こえなかった一点で不満が増幅した公演でした。

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鑑賞日:2015年11月22日
入場料:1F9列26番 3000円


主催:声楽研究団体杉並リリカ

安藤赴美子&笛田博昭ジョイント・リサイタル

会場:杉並公会堂

出演

ソプラノ  :  安藤 赴美子 
テノール  :  笛田 博昭 
ピアノ  :  藤原 藍子 
解 説  酒井 章 

プログラム

作曲家/作品名 

曲名 

歌手 

プッチーニ「トスカ」  妙なる調和  笛田 博昭 
プッチーニ「トスカ」  歌に生き、愛に生き  安藤 赴美子 
プッチーニ「トスカ」  星は光りぬ  笛田 博昭 
ビゼー「カルメン」  母のことを話しておくれ  安藤赴美子&笛田博昭 
ビゼー「カルメン」  花の歌「お前の投げたこの花が」  笛田 博昭 
ビゼー「カルメン」  何を恐れることがありましょう  安藤 赴美子 

休憩   

ヴェルディ「オテロ」  既に夜も更けた  安藤赴美子&笛田博昭 
ヴェルディ「仮面舞踏会」  今度の航海は無事だろうか  笛田 博昭 
ヴェルディ「ドン・カルロ」  世の虚しさを知る神  安藤 赴美子 
ジョルダーノ「フェドーラ」  愛さずにはいられぬこの思い  笛田 博昭 
プッチーニ「蝶々夫人」  ある晴れた日に  安藤 赴美子 
プッチーニ「蝶々夫人」  魅力に満ちた瞳の赤ちゃん  安藤赴美子&笛田博昭 

アンコール   

プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」  私のお父様  安藤 赴美子 
カプア  オー・ソレ・ミオ  笛田 博昭 
ヴェルディ「椿姫」  乾杯の歌「友よ、いざ飲みあかそう」  安藤赴美子&笛田博昭 

感想

お口直し−杉並リリカ「安藤赴美子&笛田博昭ジョイント・リサイタル」を聴く

 東京二期会の「ウィーン気質」があまりにもダメダメな演奏だったので、詰まらない気持ちで杉並公会堂まで向かったのですが、こちらは立派な演奏で、満足度の高いものになりました。良かったです。

 第一部は「トスカ」と「カルメン」から。笛田博昭は、来年1月の藤原歌劇団公演でカヴァラドッシを歌うことが決まっており、また現在新国立劇場で上演中の「トスカ」ではカヴァラドッシのカヴァーとして入っているのですが、その実力を十分示す情熱的歌唱。今、新国でカヴァラドッシを歌っているホルヘ・デ・レオンよりも重いポジションで歌っていました。甘さに関してはレオンよりも甘くないですけれども、歌そのものの安定感は笛田を買いたい。「妙なる調和」には聴き手を引き込む力があるし、「星は光りぬ」の絶唱も魅力的でした。1月の藤原公演も期待が持てそうです。一方、安藤赴美子の「歌に生き、愛に生き」。悪くはないけど、取り立てて魅力的とは申し上げられない歌唱でした。トスカにはまだ、入り込めない、ということかもしれません。

 「カルメン」に関しては安藤ミカエラの魅力が光りました。声的にも合っている、ということなのでしょう。「何を恐れることがあるでしょう」は、ミカエラの強さがしっかり表現されているように思いました。一方笛田ホセ。全然悪くないのですが、ホセにしては立派過ぎる歌唱。ホセのダメさが表現として出てこないのがちょっと不満でした。

 後半はオテッロの愛の二重唱から。これも素晴らしい二重唱ながら、笛田のオテロの年齢を感じさせない歌唱がちょっと不満。笛田の若さではオテロを熟成させるのは難しいということなのかもしれません。一方、仮面舞踏会のリッカルドのアリアは流石に上手い。感心するしかありません。続く安藤のエリザベッタのアリアも素晴らしいの一言に尽きます。表情の細やかさ、ピアノで歌う時の滑らかさが本当に素敵。本日の白眉と申し上げてよいでしょう。胸が熱くなる歌でした。「フェドーラ」のアリアは短いながら、ドラマティック・テノールの課題曲のような曲ですが、笛田の魅力を存分に示しました。

 蝶々夫人の二曲は特に追加すべき事項はありません。立派でした。

 アンコールは三曲。定番のアンコール曲。合計15曲で二時間強の演奏会を纏めました。それにしても聴き応えがありました。二期会公演のもやもやを吹き飛ばしてくれました。

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鑑賞日:2015年11月23日
入場料:C席、6804円 4階3列45番 

主催:新国立劇場

オペラ3幕 字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「トスカ」(Tosca)
原作:ヴィクトリアン・サルドゥ
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ/ルイージ・イリッカ

会場 新国立劇場オペラ劇場

指 揮 エイヴィン・グルベルグ・イェンセン  
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
児童合唱  :  TOKYO FM少年合唱団 
児童合唱指導  :  米屋 恵子、林 ゆか、小林 茉莉花 
演 出 アントネッロ・マダウ=ディアツ
美 術 川口 直次
衣 装    ピエール・ルチアーノ・カヴァッロッティ 
照 明 奥畑 康夫
再演演出 田口 道子
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 斉藤 美穂

出演者

トスカ マリア・ホセ・シーリ(第一幕)/横山 恵子(第二、三幕)
カヴァラドッシ ホルヘ・デ・レオン
スカルピア ロベルト・フロンターリ
アンジェロッティ 大沼 徹
スポレッタ 松浦 健
シャルローネ 大塚 博章
堂守 志村 文彦
看守 秋本 健
羊飼い 前川 依子

感 想 代役は大変です-新国立劇場「トスカ」を聴く

 第一幕を聴いていてさほど体調が悪そうには見えなかったのですが、トスカ役のマリア・ホセ・シーリが体調不良とのことで突然の降板。第二幕からカヴァーキャストでスタンバイしていた横山恵子に突然変更になりました。変更になると聞いて、「そういえば、一寸存在感が薄かったかな」と思いましたが、前回、この舞台で歌ったのがノルマ・ファンティーニですから、ファンティーニ程の存在感がないのは当然といえば当然です。

 とにかく横山恵子にとっては驚きの交代だったでしょう。オペラでは時として途中降板という事態はあるのですが(私は三度めの経験)、そう滅多にはないことですから。横山は突然の交代が告げられて一時間後、舞台に登場しました。気持ちを高めるのに、それだけの時間が必要だった、ということなのでしょう。それにしても横山は凄い集中力でした。このマダウ=ディアツの舞台でトスカを歌った経験があるとはいえ、今回はリハーサル無しで臨んでいるわけですから。それだけでも凄いと申し上げなければいけない。

 しかし横山は舞台上で戸惑った様子を見せることもなく、しっかりと歌唱・演技して見せました。「歌に生き、愛に生き」が上手に歌えるのは当然ですが、それ以外の演技が強調される部分でもきっちりと演じ、彼女の女優魂を見せてくれたと思います。共演者たちも大変だった(特にスカルピア)でしょうが、見事にフォローしたと思います。

 一方カヴァラドッシとスカルピアは、ステレオタイプのカヴァラドッシとスカルピアでしたが、良いと思いました。ホルヘ・デ・レオンは、声のポジションが高く、ヴィブラートがきつめで安定感にやや欠ける感じはしました(安定感から言えば、前日聴いた笛田博昭が上)が、その能天気と言っても良い歌声が、カヴァラドッシの弱さを上手に表現できていたのではないかと思いました。

 ロベルト・フロンターリのスカルピア。ベテランの上手さを感じました。もの凄く残虐非道という感じには歌っても演技してもいませんでしたが、十分悪だな、という雰囲気を醸し出していてとても良かったと思います。第一幕、第二幕のモノローグとも、秘めた悪さを感じさせるものでした。

 脇役陣では、志村文彦の堂守、松浦健のスポレッタが何度も歌っている役柄だけあって、安定感がありました。大沼徹のアンジェ六ティは、前回の谷友博ほどの存在感はなかったようです。大塚博章のシャルローネもしっかりしたものでした。

 イェンセンの音楽づくりは、「トスカ」のドラマ性を際立たせようとするもので、緊張感がありました。プッチーニの管弦楽法の見事さをよく示した演奏だったと思います。

 それにしてもマダウ=ディアツのこの舞台、六度目の登場ですが、何度見ても見事です。新国立劇場開館直後の予算がたっぷりあったころに作られた舞台で、第一幕でスカルピアが登場して、教会全体が見開く部分などは毎回ワクワクします。この舞台、今後も大事にして行ってほしいと思いました。

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鑑賞日:2015年12月4日
入場料:D席、3000円 3階1列34番 

主催:公益財団法人NHK交響楽団

オペラ1幕 字幕付原語(ドイツ語)上演
リヒャルト・シュトラウス作曲「サロメ」作品54(Salome)
原作:オスカーワイルド
台本:ヘトヴィヒ・ラッハマン

会場 NHKホール

出演者情報:感想はこちら

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