オペラに行って参りました-2015年(その1)

目次

バロックオペラのアリアを歌うということ  2015年1月11日  近江楽堂 「ムーサたちの語らい」を聴く 
お正月からねちっこく 2015年1月12日 Voce D'oro Professionale「ニューイヤーオペラガラコンサート」〜名曲はゆとりの香り〜を聴く
私は「ファルスタッフ」が好きだ  2015年1月24日  藤原歌劇団「ファルスタッフ」を聴く 
三日目の正直 2015年1月25日 新国立劇場「さまよえるオランダ人」を聴く
オペレッタは二期会に教えてもらった。  2015年2月1日  新国立劇場「こうもり」を聴く 
コミュニティオペラの魅力 2015年2月14日 南大沢コミュニティオペラ2015「ラ・ボエーム」を聴く
ロッシーニは難しい  2015年2月21日  新国立劇場オペラ研修所公演「結婚手形」/「なりゆき泥棒」を聴く 
若い推進力の魅力 2015年2月22日 東京二期会オペラ劇場「リゴレット」を聴く
練られた台本の魅力  2015年3月1日  第一生命ホールライフサイクルコンサート#109 オペラの楽しみ「避暑地で乾杯!恋のカクテル」を聴く 
やっぱりオーケストラ版が好きだけど・・・。 2015年3月14日 立川市民オペラ公演2015「愛の妙薬」を聴く

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2014年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2014年 
2013年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2013年 
2012年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2012年 
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

鑑賞日:2015年1月11日
入場料:自由席/4000円


ムーサたちの語らい

会場:東京オペラシティ 近江楽堂

出演

ソプラノ 小林 厚子  
メゾソプラノ 鳥木 弥生
チェンバロ 水野 直子

プログラム

作曲 

作品名 

曲名 

演 奏 

モンテヴェルディ  歌劇「オルフェオ」 プロローグ〜ムジカ  鳥木 弥生 
モンテヴェルディ  歌劇「アリアンナ」 私を死なせて 鳥木 弥生 
A.スカルラッティ  歌劇「女海賊、アマゾッネ、別名アルヴィルダ」  恋をしたい人は 小林 厚子 
A.スカルラッティ   歌劇「女もまた忠実」 私は悩みに満ちて 小林 厚子 
カッチーニ  翼を持った愛の神  小林 厚子 
カリッシミ  不幸なのだ、我が心よ 鳥木 弥生 
パーセル  歌劇「ディドとエネアス」  私が地に伏すとき  鳥木 弥生 
デュフリ 三美神 水野 直子 

休憩  

ヴィヴァルディ  歌劇「パジャゼ」 私は蔑まれた花嫁 小林 厚子 
ヘンデル 歌劇「リナルド」  愛しき花嫁 鳥木 弥生 
ヘンデル 歌劇「リナルド」 私を泣かせてください 小林 厚子 
ラモー  ムーサたちの語らい  水野 直子 
グルック  歌劇「オルフェオとエウリディーチェ」 エウリディーチェを失って 鳥木 弥生 
ヘンデル  歌劇「エジプトのジュリオ・チェーザレ」  辛い運命に涙は溢れ  小林 厚子 
モンテヴェルディ 歌劇「ポッペアの戴冠」 陛下を見詰め 小林 厚子/鳥木 弥生  

アンコール  

カッチーニ    愛の神よ、何を待っているの?  小林 厚子/鳥木 弥生 

感想

バロックオペラのアリアを歌うということ −「ムーサたちの語らい」を聴く。

 バロック音楽を代表する音楽がオペラでした。バロックの時代とは、オペラが誕生した1600年頃から、バッハが亡くなった1750年頃までの約150年間を指しますが、この間、最も特徴的な発達を遂げたのがオペラでした。ペーリやカッチーニによってはじめられたオペラはモンテヴェルディによって確立され、スカルラッティによって様式化されました。これらをヴィヴァルディやヘンデルによって受け継がれ、バロック後期の頂点に至ったと考えられます。

 これらのバロック時代の大きな特徴は、通奏低音の使用ということになるわけですが、通奏低音の演奏に細かい決まりはないそうです。バロック時代の楽譜には、通奏低音の和音の大きな枠組みだけが書いてあって、それ以上の詳細は、通奏低音の奏者が、歌手との関係の中で即興的に決めていったらしい。そういう音楽ですから、きっちりした楽譜がなかなか書かれなかったようです。それだけに散逸した作品も多く、現代上演されるバロックオペラは、モンテヴェルディの三作と、ヘンデルのいくつかの作品に限られています。スカルラッティはバロックオペラのキーマン的存在ですが、スカルラッティのオペラを最近上演したという話は、ほとんど聞きません。

 一方で、バロックオペラのアリアは、声楽の初学者にとって非常に重要な題材と考えられ、パリゾッティは20世紀初頭、バロック時代のオペラアリアを編曲し、イタリア古典歌曲集全三巻としてまとめました。この古典歌曲集は、今も音大の声楽科の一年生は必ず学ばされますから、一部のバロックオペラのアリアは、非常にポピュラーなものになります。今回演奏された曲目では、スカルラッティの二曲や、カッチーニの曲などがその例に当たります。

 勿論、今回の演奏会は、パリゾッティ編曲版を演奏したわけではありません。むしろ、17世紀的、18世紀的な演奏を目指しました。まず伴奏がチェンバロであること。チェンバロは低いピッチで調整されており、現代の音よりも半音ぐらい低いこと。更にこれらのアリアは、元々チェンバロ伴奏用に書かれているわけではないので、伴奏譜が無く、水野直子が、オリジナルで作成したこと。それも今回の演奏に合わせて、相当自由に変化させているらしく、ご本人も二度と同じ伴奏は出来ないと仰っていました。

 即ち、今回の演奏会は、歌手のヴィルトゥオジティを前面に出すために、伴奏者が工夫するという、バロック時代のやり方を模倣した形になっていた、ということになるのだろうと思います。それに歌手たちが上手く乗れていればよかったわけですが、必ずしもそうではない感じがしました。微妙に歌いにくそうなんですね。特に小林厚子。

 小林は力のある歌手で、私もこれまで彼女の歌を聴いて何度も感心させられてきました。今回の歌だって、スカルラッティの二曲なんて、どちらも本当に立派。でも本人、どこか違和感が拭いきれないようで、ピッチの問題や伴奏とのタイミングの問題など、微妙に乗り切れていないところがあったことは間違いないようです。彼女は、チェンバロ伴奏による歌唱は初体験だったそうで、しっくりと馴染む前に本番が来てしまった、ということなのかもしれません。

 鳥木弥生の歌は、元々低音歌手だということが関係していると思うのですが、小林で感じた違和感はなく、寧ろ鳥木らしさを前面に押し出した歌で良かったと思いました。バロック時代は、メゾソプラノ歌手はまだおらず、今回鳥木によって歌われた曲の多くは、カストラートによって歌われたわけですが、カストラートがどのように歌ったのか分からない現代、カストラートの代わりにメゾソプラノが歌うのであれば、メゾソプラノ歌手の個性を前面に出すというのは、適切な行き方なのだろうと思いました。

 チェンバロで演奏された二曲は私にはまったく初めての曲。バロック時代の音楽は勿論興味がありますし、折に触れ聴いてはおりますが、未だ知らない世界がいっぱいあるのだ、というのがもう一つ持った感想。色々な意味で勉強になりました。

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鑑賞日:2015年1月12日 
入場料:自由席 3000円

主催:ヴォーチェ ドーロ プロフェッシオナーレ
ニューイヤー オペラ ガラコンサート
〜名曲はゆとりの香り〜

会場:いずみホール

出演者

ピアノ 伊藤 友香  
ソプラノ    小林 真由美 
ソプラノ    柴山 晴美 
ソプラノ    西本 真子 
メゾソプラノ    三橋 千鶴 
テノール 青地 英幸
テノール 浅原 孝夫
テノール 小林 祐太郎
バリトン 笠井 仁
バリトン 藤澤 眞理
バリトン 和田 茂士


プログラム

 

演奏者 

作曲家 

作品/歌曲名 

1  全員 文部省唱歌  一月一日
2  青地 英幸 ドニゼッティ  歌劇「ドン・パスクワーレ」よりエルネストのアリア「哀れなエルネスト」
3  柴山 晴美 ドニゼッティ 歌劇「ドン・パスクワーレ」よりノリーナのアリア「あの騎士の眼差しを」
4  小林 祐太郎  ヘンデル  歌劇「エジプトのジュリオ・チェーザレ」より、セストのアリア「我が心に怒りを呼び起こせ」
5  和田 茂士 ヴェルディ 

歌劇「マクベス」よりマクベスのアリア「哀れみも、誉れも、愛も」

6  小林 真由美  ガーシュイン  ミュージカル「ザ・ショー・イズ・オン」より「バイ・シュトラウス」
7  笠井 仁   ヴェルディ  歌劇「イル・トロヴァトーレ」よりルーナ伯爵のアリア「君の微笑み」
8  浅原 孝夫 ヴェルディ   歌劇「イル・トロヴァトーレ」よりマンリーコのカバレッタ「見よ、恐ろしい炎を」
9  三橋 千鶴 A・L・ウエッバー  ミュージカル「エヴィータ」よりエヴィータの歌う「アルゼンチンよ、泣かないで」
10  西本 真子  ドニゼッティ 

歌劇「アンナ・ボレーナ」よりアンナの狂乱の場「私の生まれたあのお城に」 

11  藤澤 眞理 チレア  歌劇「アルルの女」よりバッダッサーレのアリア「二つの燃えるような狼の眼が」

休憩 

12  柴山 晴美  ドニゼッティ  歌劇「シャモニーのリンダ」より、リンダのアリア「この心の光」 
13 浅原 孝夫  ビゼー 歌劇「カルメン」よりホセの歌う花の歌「お前のくれたこの花を」
14  三橋 千鶴  ビゼー  歌劇「カルメン」よりカルメンの歌うハバネラ「恋は野の鳥」 
15  青地 英幸  グノー  歌劇「ミレイユ」よりヴァンサンのアリア「天国の天使たちよ」
16 和田 茂士  ヴェルディ 

歌劇「椿姫」よりジェルモンのアリア「プロヴァンスの海と陸」 

17  小林 祐太郎  ヴェルディ  歌劇「海賊」よりコッラードのアリア「初恋の頃には」
18 笠井 仁  ヴェルディ  歌劇「オテロ」よりヤーゴのクレド「俺は残忍な神を信じる」
19 小林 真由美 プッチーニ  歌劇「ラ・ボエーム」より、ミミのアリア「私の名はミミ」 
20 西本 真子  カタラーニ  歌劇「ワリー」より、ワリーのアリア「さようなら、故郷の家よ」
21 藤澤 眞理 ヴェルディ  歌劇「リゴレット」より、リゴレットのアリア「悪魔め、鬼め」 

アンコール 

22 全員   ヴェルディ 

歌劇「椿姫」より、ヴィオレッタとアルフレードとの乾杯の歌「友よ、いざ飲みあかそう」 

23  全員  レハール 

喜歌劇「メリー・ウィドウ」より、ハンナとダニロの二重唱「唇は黙しても」

感 想

お正月からねちっこく-Voce D'oro Professionale「ニューイヤーオペラガラコンサート」〜名曲はゆとりの香り〜を聴く

 小林祐太郎主宰の団体のこのガラコンサートを聴き続けて3年になります。メンバーは少しずつ変化すれども、基本的には大体同じ。今年は、昨年イタリア留学中で欠席だった藤澤眞理の復帰と、和田茂士の初参加があり、バリトンが充実しました。登場した10人のうち、ソプラノが3人なのに、テノールとバリトンが共に三人ずつとなりました。

 今シーズンはインフルエンザの流行が早く、かくいう私も年末罹患してひどい目にあったのですが、登場した歌手の皆さんでそのような不摂生な方はいらっしゃらないようで、平均的には、この三年間で一番コンディションのよい状態で歌われました。勿論個別の巧拙はあるわけですが、その方の特徴がしっかり出せて歌えているというのは、大変素敵なことではないかと思います。

 それにしてもバリトンが多いと、悪人の歌が多くなるし、全体に重くなります。テノールにもソプラノにもドラマティック系がいらっしゃるので、全体としては脂っこい印象のガラ・コンサートでした。でもそれが悪いとは全然思いません。やっぱりオペラは「脂っこくてなんぼ」みたいなところが確かにあると思います。

 バリトンは総じて良かったです。藤澤眞理が出色。「アルルの女」のアリアは初めて聴いたと思いますが、知らない曲ながら説得力があって染み入るものがありましたし、有名な「悪魔め、鬼め」も、リゴレットの慌てふためいた悲しみを、上手に表現したのではないかと思いました。笠井仁もよい。ルーナ伯爵とイヤーゴ。どちらも敵役の悪人ですが、特にイヤーゴは憎々しげな感じが良く、やっぱりバリトンは、ヴェルディを歌ってなんぼ、だと感じさせる歌でした。そう言えば、和田茂士もマクベスとジェルモン。こちらも両方ともヴェルディですね。和田は、藤澤、笠井と比べると表情がおとなしい感じでしたが、悪いものではありませんでした。

 テノールも三人。小林祐太郎は高音がちょっと厳しいところがありましたが、堂々とした歌で立派。セストのアリアは余りテノールは歌わないと思いますが、こちらがより良かったと思います。浅原孝夫は、昨年も一昨年も声が不調だったのですが、今年は快調。独特の声で、マンリーコとホセを歌いました。なお、マンリーコはカバレッタしか歌いませんでしたが、カヴァティーナも歌って大アリアにすればもっと良かったのにと思いました。青地英幸は、ミレイユのアリアが特に素敵でした。テノールが歌われた6曲では、私にはこれが一番魅力的。

 三橋千鶴はミュージカルからの一曲とハバネラ。彼女のハバネラは悪くはないですが、「ハバネラ」はメゾソプラノの課題曲みたいなところがあるので、彼女お得意のキャバレーソングのようなものをもう一曲聴きたかったと思います。エヴィータの歌は雰囲気があって素敵でした。

 ソプラノの三人ですが、西本真子は声に力があります。「アンナ・ボレーナ」の狂乱の場、立派でしたし、ワリーのアリアも素敵でした。柴山晴美。両方とも彼女の特徴が良く出ていたと思いますが、リンダの方がより魅力的であったと思います。小林真由美。「バイ・シュトラウス」初めて聴く曲だと思って聴いたのですが、どこかで聴いたことがあるような。で、思い出したのですが、ヴィンセント・ミネリ監督のミュージカル映画「巴里のアメリカ人」で歌われてました。今その場面を聞き直したのですが、こういう歌って端正に歌うより雰囲気を込めて歌う方が魅力的ですね。「私の名はミミ」は悪くないですが、もう少ししっとりするともっと良かったかもしれません。

 アンコールは昨年と同じ二曲。楽しそうに幕が下りました。

 以上、重たい曲を中心にいろいろな曲を聴けて楽しめました。あまり聴けない曲を何曲も聴けたのが良かったと思います。

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鑑賞日:2015年1月24日
入場料:E席 4FR3列21番 3800円

主催:
公益財団法人日本オペラ振興会/公益財団法人日本演奏連盟 

藤原歌劇団創立80周年記念公演
2015年都民芸術フェスティバル参加公演


全3幕、日本語字幕付き原語(イタリア語)上演

ヴェルディ作曲「ファルスタッフ」 Falstaff)
原作:ウィリアム・シャイクスピア
台本:
アッリーゴ・ボーイト

会場 東京文化会館大ホール

スタッフ

指 揮 アルベルト・ゼッタ
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 藤原歌劇団合唱部
合唱指揮  :  須藤 桂司 
指揮補  :  園田 隆一郎 
演 出 粟國 淳
美 術 横田 あつみ
衣 装    アレッサンドロ・チャンマルーギ 
照 明 笠原 俊幸
舞台監督  :  菅原 多敢弘 

出 演

ファルスタッフ 牧野 正人
フォード 堀内 康雄
フェントン 小山 陽二郎
アリーチェ 大貫 裕子
ナンネッタ 光岡 暁恵
クイックリー夫人 森山 京子
メグ 向野 由美子
医師カイウス   川久保 博史 
バルドルフォ    岡坂 弘毅
ピスト−ラ  伊藤 貴之

感 想

私は「ファルスタッフ」が好きだ−藤原歌劇団公演「ファルスタッフ」を聴く

 私は「ファルスタッフ」が、全てのオペラの中での最高傑作だと思っています。何故か。それは、ドラマに音楽が完全に奉仕しているからです。そんなオペラは「ファルスタッフ」の前にはありませんでした。その上原作が素晴らしい。シェイクスピアの傑作戯曲ですから。「ファルスタッフ」のあとには、ドラマと音楽が一体化したオペラは幾つも書かれましたが、文学性で「ファルスタッフ」に勝てる作品はないようです。かろうじて、フーゴ・フォン・ホーフマンスタールが台本を書いたリヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」が、これに追随するぐらいでしょうか。

 そんな訳で、ヴェルディの作品の中では私が比較的よく聴いているのが「ファルスタッフ」です。ヴェルディのオペラの中では、「ラ・トラヴィアータ」には負けますが、「リゴレット」や「トロヴァトーレ」よりは聴いていると思います。その経験から申し上げれば、今回の公演は高水準の演奏だったと思いますが私にとっての最高ではなかった、というのが正直な印象でした。そう思うのは、粟國淳の演出と全体としての潤滑性故だと思います。

 粟國の演出は悪いものではありません。ファルスタッフがテムズ川に投げ込まれ、溺れさせるシーンでは、舞台前面に青い布を揺らして、その間から溺れているファルスタッフの頭が見える、などというアイディアはとっても良いと思いましたし、第三幕が、溺れているファルスタッフが助け上げられるところから始まるのは斬新でした。しかし、照明を含めた舞台の色の変化が、もう少しはっきりしていた方が、物語の変化を際立たせられたのではないかと思います。家の骨格を背景に置いて、吊り下げた格子の置き方を変化させることで、ガーター亭にしたり、女たちが集まる洗濯場にしたり、フォードの家にしたりする。そういう見立てはよく理解できました。そしてそこの場面転換は、黒子を使ってやらせるので、場面転換を具体的に見せるから場面転換が起きたのはよく分かります。しかし、そうやって場面転換を行って見せても、全体としての場面転換の印象が薄いのです。そこが、もう少しメリハリがつくともっと音楽との相性が良くなったような気がします。

 衣裳も決して悪いとは思いませんが、全体的に今一つピンと来ない。ファルスタッフの姿はともかくとして、女房たちのあの被り物は私は如何かと思います。粟國たちのコンセプトはよく分かるのですが、それが完全に詰め切れていない感じがしたということなのでしょう。

 音楽は良かったです。

 アルベルト・ゼッタの音楽作りが何といっても素晴らしい。80代のお爺さんが指揮しているとは思えないしなやかで軽快な音楽は流石と申し上げるしかありません。音楽の流れに台詞が乗っかってくるわけですが、そのタイミングが絶妙だと思いました。東京フィルハーモニー交響楽団は、ホルンがこけるといった事故はありましたが、こちらもなかなかの好演で文句を申し上げるようなものではないと思います。

 主役の牧野正人が又立派。大酒のみで好色のファルスタッフという感じが良く出ていたし、音楽にしても第一幕は、一寸ぎこちないところもあったと思いますが、どんどん流れが良くなって来て、第三幕の後半は、幹となるファルスタッフを中心としたアンサンブルがしっかりできていました。一寸アリア的な「名誉のモノローグ」や「行け、サー・ジョン」なども素敵でしたし、最後の大フーガのリードぶりも流石の貫禄でした。オケピットのゼッタと舞台上の牧野。二人の主役が上手くバランスを取って流れを作っている感じは流石にベテラン、と申し上げるしかありません。沢山のBravoを貰っていましたが、当然のところです。

 堀内康雄のフォードも良い。演技的にはあまり目立たない感じがしましたが、「夢か、まことか」のモノローグは、ヴェルディ歌いとしてキャリアを積んできた堀内らしい名唱。素敵だったと思います。

 ファルスタッフの二人の召使、バルドルフォとピストーラも良かったです。岡坂バルドルフォの軽いテノールと伊藤ピストーラのバスバリトンは対照的な声で、その対照性ゆえに、二人の特徴がしっかり示されていたと思います。カイウスは川久保博史が演じましたが、三の線が強調されたカイウス。カイウスは笑われ役ですが、もっと重めのテノールによって歌われる印象がありました。川久保の甲高い表現は、クイックリーと対照的で面白いと思いました。

 女声陣は男声陣と比較すると、今一つの印象。勿論それは仕方がない部分があります。ヴェルディはおしゃべりな女達にたくさん台詞を与えているので、声を張って飛ばしている余裕があまりないのです。そこをどう聴かせるかが女声陣の勘所だと思いますが、歯切れはそれなりに良かったとは思いますが、迫力は今一つというところか。東京文化会館ではこのオペラをやるには、一寸広すぎるということなのかもしれません。それでも、大貫裕子のアリーチェは素敵で、特に後半の歌唱は見事だったと思います。

 ベテラン森山京子のクイックリーは今一つ。クイックリーはもっともっと大げさに演じてくれないと面白くありません。向野由美子のメグは悪くないけど、このオペラの中では、一番目立たない役柄なので強い印象はありません。光岡暁恵のナンネッタと小山陽二郎のフェントンは、歌い始めると舞台の色を変えるという意味ではしっかり役割を果たしていました。清涼剤的存在として素敵だったと思います。

 以上、個別に見て行くと、皆それぞれの役割を果たしていたと思うし、とても素晴らしかったと思うのですが、全体としては今一つ滑らかさに難があるような感じがするのです。例えて申し上げれば、機械部品をしっかり作ったけれども組み上げてみたら、設計通りのパフォーマンスが出なかった、という感じでしょうか。具体的には、第一幕終わりの女声四重唱と男声五重唱が合わさって九重唱になる部分など。もっと息が揃えられたのではないかという気がします。「ファルスタッフ」は頗る芝居的オペラなので、そう言うところが気になるのでしょう。また、息の揃え方のようなところは、本当は本番を2-3回繰り返せばすぐ良くなると思うのですが、まあ、仕方がありません。一回しか本番が無いのですから。そういう風に考えると、ダブルキャストで合計2回しか上演できないところが一番問題なのかもしれません。

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鑑賞日:2015年1月25日
入場料:5832円 C席3F2列2番

主催:新国立劇場

全3幕、字幕付原語(ドイツ語)上演
ワーグナー作曲「さまよえるオランダ人」(DER FLIEGENDE HOLLÄNDER)
台本:リヒャルト・ワーグナー

会場 新国立劇場オペラ劇場

スタッフ

指 揮 飯守 泰次郎
管弦楽 東京交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
     
演 出 マティアス・フォン・シュテークマン
美 術 堀尾 幸男
衣 装 ひびの こづえ
照 明 磯野 睦
音楽ヘッドコーチ  :  石坂 宏 
舞台監督 村田 健輔

出 演

オランダ人 :トーマス・ヨハネス・マイヤー
ダーラント :ラファウ・シヴェク
ゼンタ :リカルダ・メルベート
エリック :ダニエル・キルヒ
マリー :竹本 節子
舵手 :望月 哲也

感 想

三日目の正直−新国立劇場 「さまよえるオランダ人」を聴く

 今回の新国立劇場の「さまよえるオランダ人」初日と二日目は結構Booが飛んだと聞き、三日目も荒れないといいなあ、と思いながら新国立劇場に出かけたのですが、結論から申し上げれば、なかなか立派な舞台で良かったです。

 まずいつものことながら、合唱の出来が良い。「オランダ人」のアリアは、内容が結構抹香臭くて、音楽的にもあまり魅力的だと思いません。その暗いアリアやモノローグに対抗して頑張っているのが、合唱です。「水夫の合唱」や「糸車の合唱」がなかったら、本当に詰まらないオペラになっていただろうな思います。新国立劇場合唱団の演奏、いつもながら高レベルの迫力ある合唱でした迫力に満ち、聴き応えのあるものでした。大変よかったです。

 歌手陣も総じて良かったです。

 オランダ人を歌ったトーマス・ヨハネス・マイヤーがまず魅力的でした。第一幕の「オランダ人のモノローグ」がなかなか良かったですし、第二幕のゼンタとの二重唱も素敵でした。第三幕もしっかり歌って幕を引き、外題役の責任をしっかり果たしたのではないかと思います。

 ラファウ・シヴェクのダーラントは、特徴の際立ったダーラントだとは思いませんでしたが、ちょっとお調子者のダーラントの雰囲気をよく出していて、結構だったと思います。

 メルベートのゼンタは、「ゼンタのバラード」の前半、最高音が金切り声になってしまっていて、一寸耳障りな感じがしましたが、歌っている最中に立て直し、後半は魅力的にまとめました。オランダ人との二重唱も良かったですし、第三幕の自己犠牲と救済の場面もきっちりまとめていたと思います。

 キルヒのエリックは、とても良いエリックだとは思いませんでしたが、だからと言ってさほど悪いものでもありませんでした。望月哲也の舵手は、再演ですが、2012年3月の時の方が良かったかな、という気がしました。竹本節子のマリーも前回に引き続きの登場。前回と同様、自分の役目をきっちり果たして好演でした。

 この演奏を引っ張ったのは飯守泰次郎の指揮があると思います。日本のワーグナー指揮者第一人者として、安定感のある演奏だったと思います。「オランダ人」の音楽については、私自身全然詳しくないのですが、オーケストラを細かく聴いていると、今まで聴き飛ばしていた細かい音型が結構いろいろあって、そこが面白く感じました。東京交響楽団の演奏も、細かいトラブルはあったものの、総じて良い演奏だったと思います。

 この演出の舞台を見るのは三度目になりますが、多分、一番良い演奏でした。指揮者の見識と歌手たちの実力が相俟ったのでしょう。ただ、演出は好きになれません。内容が内容ですから明るい演出はあり得ませんが、それにしても今の演出は私の感覚には全く合いません。

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鑑賞日:2015年2月1日;

入場料:C席 3F 1列56 番 6804円


主催:新国立劇場

全3幕 日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
ヨハン・シュトラウスU世作曲「こうもり」Die Fledermaus)
原作:アンリ・メイヤック/ルドヴィック・アレヴィ
台本:カール・ハフナー/リヒャルト・ジュネー


会場:新国立劇場オペラパレス


スタッフ

指揮  :  アルフレード・エシュヴェ   
管弦楽  :  東京交響楽団 
合唱  :  新国立劇場合唱団
合唱指揮    三澤 洋史 
バレエ  :  東京シティ・バレエ団 
演出  :  ハインツ・ツェドニク 
美術・衣裳  :  オラフ・ツォンベック 
振付  :  マリア・ルイーズ・ヤスカ 
照明  :  立田 雄士 
再演演出  :  アンゲラ・シュヴァイガー 
振付補  石井 清子 
舞台監督  :  斉藤 美穂 
音楽ヘッドコーチ  :  石坂 宏
芸術監督  :  飯守 泰次郎 


出演

ガブリエル・フォン・アイゼンシュタイン  :  アドリアン・エレート 
ロザリンデ  :  アレクサンドラ・ラインブレヒト 
フランク  :  ホルスト・ラムネク 
オルロフスキー公爵  :  マヌエラ・レオンハルツベルガー 
アルフレード  :  村上 公太 
ファルケ博士  :  クレメンス・ザンダー 
アデーレ  :  ジェニファー・オローリン 
ブリント博士  :  大久保 光哉 
フロッシュ  :  ボリス・エダー 
イーダ :  鷲尾 麻衣 


感想

オペレッタは二期会に教えてもらった−新国立劇場公演「こうもり」を聴く

  オペレッタは二期会に教えてもらった。これは半分本当で半分嘘です。

 私はオペレッタの実演を見る前に、カルロス・クライバーの指揮するグラモフォン盤「こうもり」や、ロブロ・フォン・マタチッチが指揮し、エリザベート・シュヴァルツコップがハンナを歌うEMI盤「メリー・ウィドウ」なんかを何度も聴いていたのですから。音楽的には、そういう録音が私のスタンダードだったけれども、やっぱり舞台を見なければ始まらない。

 最初に二期会オペレッタを見たときは結構衝撃でした。1988年のメリー・ウィドウだったと思います。そのときはハンナを中村邦子が歌っていたはずですが、その時のツェータが佐藤征一郎でこの佐藤の演技が最高におかしかったのです。

 それから何度もオペレッタは聴いてきました。主に東京二期会と日本オペレッタ協会。もちろん彼らの演奏は決して悪いものではなかったし、それなりに楽しんできたことも間違いありません。でも、ある時期から二期会のオペレッタには今一つ満足できないようになってきました。それは、日本語の問題、というより、オペラ歌手の日本語による演技の問題と申し上げてよいかもしれない。音楽と日本語のつながりがしっくりいっていないというか、日本語で台詞を言うと、なんか野暮ったく感じてしまうところがあるのです。

 もちろん、オペレッタには時事的な話題を組み入れたりして、自国語でなければ楽しめないことがあるのは間違いないのです。オペラは字幕が当たり前になって、訳詞上演するのはほぼ例外になっているのに、オペレッタだけが日本語訳詞公演になっているのは、やはり、日本語上演することによるメリットがあるのでしょうが、その時問題になってくるのは、音楽性だけではなく、歌い手の演技力やノリと言ったものがかなり関係してくるに違いありません。タイミングの取り方のポイントもあるのでしょう。

 今回の新国立劇場の「こうもり」は、そういう観点で申し上げて、いろいろな意味でよくまとまった演奏になっていました。取り上げられるのが四度目ということもあって、劇場のスタッフがかなり慣れてきているというのが一つあると思います。もう一つは、変にアドリヴを入れず(ドイツ語の部分は知らないけれども、そっちも多分ないでしょう。そんなことをしてもお客さんの笑いを取れません)、本舞台の台本をきっちりと演じているというのもあると思います。第三幕でフロッシュが飲んでいる酒はオリジナルでは「スリボヴィッツ」というユーゴスラビア産のスモモの蒸留酒。それを「焼酎」にしたのは、新国立劇場版の台本の特徴ですが、それ以外にも台本が先にありきの部分があります。たとえば、アルフレードは、四回とも日本人テノールを使っていますが、これは、多分台本に「あの日本人テノールの声は〜」という部分があるからでしょう。要するに、この舞台の最初の台本やプレミエ時のオリジナルの演出に拘ることによって、スムーズに演奏することが出来るようになったものと思います。

 そう言った枠組みがスムーズに動いていたのは確かですが、同時に申し上げておかなければいけないのが、歌手たちが基本的にオペレッタの人とオーストリアの人ということがあります。やっぱり、そういうローカルな血があって、それゆえに揃ってしまうという部分はあるのだろうと思います。エレートはウィーン生まれの上に、2011年の公演の時にもアイゼンシュタインを歌っていて、この演出に親しんでいますし、ロザリンデのラインブレヒトは、ウィーン生まれでフォルクスオーパー育ち、オルロフスキーのレオンハルツベルガーはオーストリア人で現役のフォルクスオーパー専属歌手。フランク役のラムネク、ファルケ役のザンダーもオーストリア人です。

 アデーレを歌ったオローリンだけが外人勢では非オーストリア人(米国生まれ)でしたが、彼女だけが一寸浮いているように見えたのは、やはり血の違い、と言うものがあったのかもしれません。彼女の歌は決して悪いものではなかったのですが、アデーレにしては、一寸重量級かな、という印象がありました。見た目も恰幅が良かったので特にそういう感覚になったのかもしれません。

 もう一つ申し上げてよいと思うのは、オペレッタを演じるということがどういうことかをよく知っている方々が歌っているために、今回が二日目の上演だったのですが、出演者はなかなか勘所を掴んでいるということです。もちろん練習はされているのでしょうが、タイミングの合わせ方とかがぎこちないところもありながらも上手いのです。そういうところが二期会オペレッタとは違うところです。多分、そういうぎこちなさは、回を重ねていくうちに更に流暢になっていくのでしょう。指揮のエシュベもフォルクスオーパーでしばしばオペレッタを指揮する方ですし、そう言うこともあって、音楽的にもバランスが取れていたということはあったと思います。東京交響楽団はウィーン的な音を出していたとは申しませんが、悪い雰囲気の演奏ではなく、素敵だったと思います。

 日本勢ではブリントの大久保光哉が三度目の登場で、よく慣れていましたし、村上公太のアルフレードも良かったと思います。

 ドイツ語が分かる人がそんなに多いはずがないのに、笑い声があれだけ飛んでいたということは、歌唱と演技のバランスが取れていて、お客を引き込んだということなのでしょう。全体的によくまとまった好演でした。

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鑑賞日:2015年2月14日

入場料:4000円 K列9番

主催:(公財)八王子市学園都市文化ふれあい財団

南大沢ミュージックウィークス
南大沢コミュニティオペラ2015

オペラ4幕、字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」(La Boheme)
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ/ルイージ・イッリカ

会場 南大沢文化会館 主ホール

ピアノ 江澤 隆行:
ピアノ 樋口 晃子
ピアノ 岩下 真麻
合 唱 南大沢コミュニティオペラ合唱団2015
合唱指揮 江澤 隆行
児童合唱 南大沢コミュニティオペラ児童合唱団(八王子市立上柚木小学校)
演 出 馬場 紀雄
振付・演技指導 高宮 由利子
衣裳協力 東京家政学院大学 生活デザイン学科
ヘアメイク協力 山野美容芸術短期大学 専攻科芸術専攻
舞台監督 井上 裕二
音楽監督 村上 敏明

出演

ミミ 砂川 涼子
ロドルフォ 村上 敏明
ムゼッタ 竹田 有輝子
マルチェッロ 森口 賢二
ショナール 大塚 雄太
コッリーネ 氷見 健一郎
ベノア 吉森 裕也
アルチンドロ 小幡 淳平
パルピニョール 中島 英生
プラム売り 阿部 雅春
税官吏 佐藤 徳昭
門番 青山 登佑

感想

コミュニティオペラの魅力−南大沢コミュニティオペラ2015「ラ・ボエーム」を聴く

 昨年11月、藤原歌劇団公演以来の「ラ・ボエーム」です。あの時、大変素晴らしいミミとロドルフォを演じた砂川涼子と村上敏明が、又ミミとロドルフォを演じました。砂川も村上も今回も立派に役目を果たした素敵な演奏だったと思いますが、11月ほどではなかった、と思います。それはおそらく色々な事情が影響しています。ホールの大きさや響き、共演者の違い、オーケストラ伴奏ではなかったことなど。この演奏全体として見た場合、この中で一番気になるのは指揮者が不在のことです。

 ピアニストの江澤隆行が全体のコントローラーとして動いていたとは思うのですが、やはりピアニストが全部をコントロールすることはなかなか難しくて、微妙に冗長だった部分があったように思います。また会場が500人規模でそういう部分まで気が付いてしまったと言う部分があるのかもしれませんが、名手砂川涼子をしても、今回の方が、前回よりも微妙に荒かったという感じは致しました。それでも最高級のミミであることは間違いないのですが。

 このようになるのは、やはり市民オペラであることが影響しているのかもしれません。合唱は、八王子の市民によって歌われているわけですが、そのレベルは、余り上手とは言えない市民合唱団というところはありました。なお児童合唱は、近隣の上柚木小学校の児童が担当したわけですが、こちらは決して悪くない。ソロは、11月に歌われた多摩ファミリーシンガーズのお子さんの方が上手だったとは思いますが、合唱そのものは十分頑張っていたと思います。

 ただ、私はこういう市民参加型のオペラは素敵だと思っています。今回は、パルピニョール、プラム売り、税官吏、門番といった本当の脇役が、市民合唱団のメンバーによって歌われました。プロフィールを見ると、学生時代合唱をやっていて、定年後ソロも勉強している、という方ですが、このような方が日本を代表する方々と同じ舞台に立たれて、一小節でもソロを歌われるということは、その水準が高くなかったとしても、生涯学習的観点からもとても良いことだと思うのです。

 今回のこの上演は、市民の参加と同様に若手の登用という点でも意味がありました。村上、砂川、森口の三人は、日本を代表するオペラ歌手ですが、それ以外は若手をオーディションで選抜したそうです。そのオーディション組は成果がありました。特にショナールを歌われた大塚雄太、コッリーネを歌われた氷見健一郎、この二人が良かったと思います。大塚はハイバリトンの、氷見はバスの美声で、どちらも課題はあったものの、将来性を感じさせる歌を聴きました。

 この二人の課題はいくつかあると思うのですが、まずは演技ですね。演出家に演技指導を受けられた部分はまだしっかりやっていたのだろうと思いますが、唯歩く、といった細かい指示が入らない部分は、どちらも今までのショナールとコッリーネが突然大塚雄太、氷見健一郎に変わってしまう部分がある。又、歌唱についても音楽的聴かせ所とは言えない部分、レシタティーヴォ的な部分の一寸したところで、イケていない部分がありました。このような細かいところまで神経を通わせて歌い、演じられるようになれば、素質が更に開花しそうな気がしました。

 ベノアとアルチンドロも若手が演じましたが、こちらは、どちらもはっきり言ってしまえば様になっていない感じ。音楽的にはともかく、雰囲気が似合っていませんでした。この二人はこのオペラの中の笑われ役ですが、若手が歌って様になるような役柄ではないのでしょうね。

 以上、色々あった上演でしたが、舞台が近くて手作り感のある舞台で、楽しむことが出来ました。市民オペラも色々なパターンがありますが、今回のようなコミュニティオペラも悪くないな、と思った次第です。

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鑑賞日:2015年2月21

入場料:指定席 1F 9列45 番 3780円


主催:新国立劇場オペラ研修所

全1幕 日本語字幕付原語(イタリア語)上演
ロッシーニ作曲「結婚手形」La Cambiale di Matrimonio)
原作:カミッロ・フェデリーチ
台本:ガエターノ・ロッシ


全1幕 日本語字幕付原語(イタリア語)上演
ロッシーニ作曲「なりゆき泥棒」L'occasione fa il ladro)
原作:ウジェーヌ・スクリープ
台本:ルイージ・プリヴィダーリ

会場:新国立劇場中劇場

スタッフ

指揮  :  河原 忠之   
管弦楽  :  東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 
チェンバロ  :  高田 絢子(結婚手形) 
チェンバロ  :  大藤 玲子(なりゆき泥棒) 
演出・演技指導  :  久恒 秀典 
装置  :  長田 佳代子
照明  :  立田 雄士 
衣裳コーディメート 加藤 寿子 
舞台監督  :  高橋 尚史 


出演

結婚手形

トビア・ミル  :  西村 圭市(12期終了)
ファニー  :  飯塚 茉莉子(16期) 
エドアルド・ミルフォード  :  水野 秀樹(17期) 
スルック  :  大野 浩司(17期) 
ノートン :  後藤 春馬(12期終了) 
クラリーナ :  高橋 柴乃(17期) 
ザロモーネ(黙役) :  城村 紗智(17期) 
イザケット(黙役) :  竹村 真実(17期) 

なりゆき泥棒

ドン・エウゼービオ  :  伊藤 達人(14期終了)
ベレニーチェ  :  種谷 典子(16期) 
アルベルト伯爵  :  岸浪 愛学(16期)  
ドン・パルメニオーネ :  大野 浩司(17期) 
エルネスティーナ :  高橋 柴乃(17期)
マルティーノ :  後藤 春馬(12期終了) 
給仕(黙役) :  城村 紗智(17期)/竹村 真実(17期) 


感想

ロッシーニは難しい−新国立劇場オペラ研修所公演「結婚手形」/「なりゆき泥棒」を聴く

  新国立劇場オペラ研修所は、文化庁オペラ研修所にそのルーツを持ち、主に音楽大学の大学院修了者を対象に、プロのオペラ歌手を養成する期間です。その修了生の多くが、日本オペラ界の気鋭として活躍していることは申し上げるまでもなく、入所できるのは、各大学の声楽専攻生のトップクラスのごく一部とも言われています。それだけに優れた才能・技量の持ち主が集まっていると申し上げて良い。そういう人たちが集まって演奏していても、ロッシーニを演奏するということは、大変なことなのだな、というのが今回の印象でした。

 今回は、ロッシーニの初期のファルサを二曲取り上げたわけですが、演奏としては、後半に演奏した「なりゆき泥棒」の方が、まとまりが良かったと思います。前半の「結婚手形」は、いつ音楽が壊れるかと、ハラハラしながら聴いている部分があって、スリリングでした。しかし、終わってみれば、問題は沢山あったけど、良いオペラを見せて貰ったなと思えるだけのクオリティを感じることが出来ました。若い歌手の皆さんを称賛したいと思います。

 このような演奏が出来た最大の功労者は、指揮者の河原忠之であることは間違いないでしょう。河原は申し上げるまでもなく、現在日本の伴奏ピアニストナンバーワンであり、コレペティ経験も豊富で、中堅・ベテラン歌手の信頼厚い方です。そういう方ですから、よくオペラの聴かせ方をご存知だ、ということがあるのでしょう。オーケストラに対する指揮ぶりはさほど目立ったものはないのですが、要所要所で歌手に向かって指示を出すときは、迫力が違います。オーケストラを指揮しながら歌手に指示を出すのは、指揮者として当然のお仕事なのでしょうが、歌手に対する指示が、普通の指揮者の方よりも細かいというか、丁寧な感じがしました。歌手たちもアンサンブルの難しそうな部分は、河原の指揮を見て歌っている。そういう努力・協力があって、音楽の流れがなんとか壊れずに進んだもの思います。

 本日のキャストは17期生中心で、経験が少ないせいか、そういう意味での未熟さはいろいろと感じました。例えば、結婚手形では、最初のレシタティーヴォが上手く行っていない感じがしました。緊張もあったのだと思いますが、つなぎの部分が結構ぎくしゃくした感じがいたします。また、速い重唱部分で一人だけ乗り遅れたり、細かい事故はいろいろとあったようです。しかし、一方で、若い歌手たちの歌だけあって、推進力には素晴らしいものがあって、嵌ると頗る見事。例えば、「なりゆき泥棒」のストレッタの部分などは見事に揃った五重唱になっていて、とても楽しむことが出来ました。

 歌手たちに関して。

 前半の「結婚手形」では、西村圭市と後藤春馬の二人が軸になっていた印象があります。西村の演じるトビア・ミルはブッフォ役であるわけですが、その表現は相当おとなしい感じでした。西村は、研修所時代の歌唱を聴いた印象では、キャラクター・バリトンという感じがあったと思うのですが、そういう癖の強さを出すのではなく、受けに回って、若い現役生たちを引き立てようとしていたのかもしれません。私としては、もっと役のキャラクターを立てた方が、面白い舞台になったのではないかという気がしました。後藤春馬は綺麗なバス・バリトンで存在感がありました。ノートンは「結婚手形」の中では、接着剤的役目を果たすと思いますが、その役割を果たしていたのかな、と思いました。

  面白かったのは、伊藤達人のドン・エウゼービオ。おかまチックな役作りで楽しく見ることが出来ました。

 現役生は、一年目の17期生が中心。それだけに若い至らなさを感じました。大野浩司は前半がスルック、後半がドン・パルメニオーネと重要な役柄を歌ったのですが、表現が生硬な感じがしました。前半のスルックは、役柄が良い人という設定なので、あういう歌い方でもさほど違和感を感じないのですが、後半は表現に余裕がなく、結構きつい音楽に聴こえてしまいます。ドン・パルメニオーネは決して悪役ではなく、かきまぜ役なのですから、もっと余裕のある歌い方をしないと、ドン・パルメニオーネの小狡いけれども、良い人という感じが出てこないのではないか、という気がしました。

 高橋柴乃は雰囲気的にはよく似合っていたと思います。技術的にはいろいろあるわけですが、例えば、客席に向かって歌った時と、後ろを向いて歌った時の音楽の聴こえ方がかなり違うとかですね。今後その辺は勉強して改善されるでしょう。

 水野秀樹のミルフォードは軽い良い声で、素敵なのですが、表現が柔らかい感じがしました。軽い音で鋭い表現をした方が良かったのではないかと思います。ロッシーニなんですから。

 飯塚茉利子のファニーは悪くないし、アリア「この喜びをあなたに伝えたいのです」などもきっちりと歌われていて、若い方の力ある表現を楽しみましたが、声の持ち味が、ロッシーニソプラノとは一寸違うのではないか、という気はしました。本人もそう思っているのか、安全運転で今一つ冒険していないなという感じがしました。

 後半「なりゆき泥棒」では岸波愛学のアルベルトが似合ってない感じ著しい。彼は、どう見てもロッシーニテノールではない。高音が伸びないし、跳躍の時の安定性も今一つ。声質もさほど軽くはないので、颯爽感がないのですね。彼の声に向いた役でしたらもっと実力が発揮できたのでしょうが、その意味で残念でした。

 一方ペレニーチェ役の種田典子は見事。細かい技術的な問題点はいろいろ感じられます。しかしそれ以上に良い所が沢山あって、特に、後半のレシタティーヴォとアリア「あなた方が不確かなら〜あなた方は花嫁を求め」の大アリアはきらきら光る硬質な歌唱で、素晴らしいの一言に尽きます。本当に素敵でした。

 以上、もっと精進すれば大輪の花を咲かせるに違いない若い方の才能を十分感じることの出来る演奏でした。

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鑑賞日:2015年2月22日
入場料:C席 9000円 4FR2列25番

主催:公益社団法人東京二期会/公益社団法人日本演奏連盟

パルマ王立歌劇場との提携公演

2015年都民芸術フェスティバル参加公演

東京二期会オペラ劇場

オペラ3幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲「リゴレット」(Rigoletto)
原作:ヴィクトル・ユーゴー
台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ

会場:東京文化会館大ホール

スタッフ

指 揮 アンドレア・バッティストーニ

管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 二期会合唱団
演 出 ピエール・ルイジ・サマリターニ/エリザベッタ・プルーサ
美 術 ピエール・ルイジ・サマリターニ
照 明 アンドレア・ボレッリ
合唱指揮 佐藤 宏
舞台監督 佐藤 公紀
公演監督 直野 資

出 演

リゴレット   成田 博之
ジルダ   新垣 有希子
マントヴァ公   山本 耕平
スパラフチーレ   伊藤 純
マッダレーナ   加藤 のぞみ
モンテローネ伯爵   泉 良平
ジョヴァンナ   小泉 詠子
マルッロ   山口 邦明
ボルサ   渡邉 公威
チュプラーノ伯爵   野村 光洋
チュプラーノ伯爵夫人   成田 伊美
小姓   宮澤 彩子
衛兵   浜田 和彦

感 想 

若い推進力の魅力−東京二期会オペラ劇場「リゴレット」を聴く

 「リゴレット」の中で、一番荒ぶる魂を持っているのが主人公リゴレット。その次が、リゴレットに呪いをかけるモンテローネ伯爵でしょう。この荒ぶる心をどう表現するのかを、多分、指揮者のバッディストーニは考えたのではないかと思います。そして、それを彼は、演奏の力強さとしてあらわそうとした。それは、括目するほどの迫力であり、けれんみ溢れる音楽だったと申し上げて良いと思います。そういうけれんみは、一つ間違うと、音楽の品を失わせてしまう結果になるのですが、バッディストーニという指揮者、そこが才能なのでしょう。音楽を壊さないところで、きっちりと抑制している。大したものだと思いました。

 この指揮者は、2012年2月の東京二期会「ナブッコ」で日本デビューを果たしているようですが、その時も推進力のある演奏を披露いたしました。「ナブッコ」はヴェルディの若い時の作品で、前半は、しっかりと書かれているのですが、終わり方が、余り上手く行っていない作品です。その意味で若書きなのですが、その「ナブッコ」でも推進力を示し、ヴェルディの若さとバッディストーニの若さとが噛み合っていい演奏になった、と、私は感想を述べたのですが、あの演奏もバッディストーニの才能が、ヴェルディ音楽の良い点を引き出していたのかもしれない、と今回のリゴレットを聴いていて思いました。

 オーソドックスなヴェルディではないと思いますが、指揮者の感じる音楽の切実感に共感を持った演奏だったと思います。そういう指揮者の思いに応えたのがオーケストラと歌手たちと申し上げて良いのかもしれません。東フィルの演奏もメリハリのはっきりしたダイナミクスの大きな演奏になっていましたし、若手中心のキャストもそういう指揮者の煽りに触発されていた部分があったのではないでしょうか。

 リゴレットは、社会的には宮廷道化師という身分外の存在で、ご主人様である領主の後ろ盾がなければ何の力もない存在。一方で、娘の父親という存在でもあり、そういった複雑な立場であるがゆえに、ある程度年齢経験が豊富なバリトンによって歌われることが多い役柄です。また指揮者もリゴレットにしっかり共感するためには、中堅・ベテランのよったほうがよいかもしれません。今回は若い指揮者が、そういう細かい内面性はとりあえず措いて、テクニカルな表情に落とし込んだがゆえに、若いリゴレットでも様になったのではないかという気がしました。

 成田博之は、リゴレットの内面性をのぞかせるような演技・歌唱ではなかったのですが、指揮者のある意味衒いもないあおりを上手に使って、演劇的にもシャープなリゴレットに仕上げていたと思います。第一幕前半での道化としての動きはシャープで、一寸分かりづらい感じはありましたが、彼にスポットを当たってからの演技・歌唱は、とても立派で素敵でした。第一幕のジルダとの愛の二重唱での表情も良かったですし、一番の聴かせ所である「悪魔め、鬼め」も素晴らしかったと思います。

 「悪魔め、鬼め」の慟哭は、周囲の廷臣たちに「ざまあみろ」と思わせたのでしょうか、それとも「やり過ぎで拙かったな」と思わせたのでしょうか。今回のパルマの舞台は後者のように演出していましたが、成田の歌唱が切実だったので、聴いている廷臣たちが「拙いことをやっちまった」という感じが出てくるという結びつきが見えるようで、素晴らしいと思いました。

 ジルダの新垣有希子も素晴らしい。第二幕後半のリゴレットとの二重唱は、ヴィヴラートがかかりすぎていて、もう少しすっきり歌った方が良いのに、とは思いましたが、それ以外は、登場のアリアでもある「慕わしき人の名は」から、死に瀕した最後の歌までどこをとっても本当に素敵で、聴き惚れいたしました。一寸硬質系のジルダではありましたが、バッディストーニの音楽作りには正にぴったりだったと思います。

 マントヴァ公の山本耕平も若々しい貴公子風で結構でした。声に強さがあって、もう一段存在感を感じさせれば更に良かったと思いますが、冒頭の「あれか、これか」も第二幕のカヴァティーナ「頬に涙が」の抒情感の表出も、「女心の歌」もどれも若々しさを感じさせるきりっとしたもので、指揮、リゴレット、ジルダでも感じられた若さの調和で、この舞台の中で自然な存在感がありました。それにしても、若手のテノールが伸びやかに歌う姿は素晴らしいものです。

 今回の舞台で唯一のベテランと申し上げても良い伊藤純のスパラチフレは不気味な味はしっかり出していましたし、とても良い歌唱ではあったのですが、若手の間で一寸戸惑っていたような感じもありましたが、実際はどうだったのでしょう。マッダレーナの加藤のぞみは、今回二期会デビューになる若手だそうですが、妖艶なマッダレーナをしっかり演じてくれました。

 全体のチームワークも良く、第三幕の例の四重唱もバランスも絶妙で、素敵な音楽でした。

 舞台は、パルマ王立歌劇場のものを借りてきたわけですが、極めてオーソドックスで、ストーリーを理解するには最適なもの。舞台の見せ方も本当に工夫されていて、第三幕の四重唱では、スパラチフレのあばら家が舞台奥にあって、そこでいちゃついているマントヴァ公と、手前の窓から覗き込んでいるリゴレットとジルダという関係が一目瞭然で、四重唱も前と後ろという位置関係で歌われ、ジルダの気持ちがより伝わってくるようになっていました。良かったです。

 以上、オーソドックスな演出ながら、流れる音楽は、若々しさ溢れ、推進力漲るもの。大変素晴らしい舞台で、大いに感心いたしました。

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鑑賞日:2015年3月1日 
入場料:指定席13列27番 3000円

主催:第一生命ホール
第一生命ホールライフサイクルコンサート#109
オペラの楽しみ「避暑地で乾杯!恋のカクテル」
 

台本・構成:牧野真由美

協力:小野寺東子

会場:第一生命ホール

出演者

掘 美留子(家事手伝い、24歳) 光岡 暁恵  
安土 恵那(グルメライター、48歳)   牧野 真由美 
鳥井 銅太郎(ホテルのガーデニング係、27歳)    澤ア 一了 
蒲原 徹(ホテル支配人兼バーテンダー、36歳)    大石 洋史 
宮野 多喜子(バー・ブロンズ・リリーのピアニスト兼お手伝い、29歳)    瀧田 亮子 


プログラム

 

演奏者 

作曲家 

作品/歌曲名 

1  牧野真由美 ヘンデル  歌劇「セルセ」よりセルセのアリア「オンブラ・マイ・フ」
2  光岡暁恵 ロッシーニ  歌劇「ランスへの旅」よりフォルヴィル伯爵夫人のアリア「ああ!出発したいのに」
3  澤ア一了 マスカーニ 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」よりトゥリッドゥのアリア「万歳!泡立つワインよ」
4  牧野真由美 ヴェルディ  歌劇「イル・トロヴァトーレ」より、アズチェーナのアリア「炎は燃えて」
5  牧野真由美 ビゼー 

歌劇「カルメン」よりカルメンのシャンソン「ジプシーソング」

6  大石洋史   モーツァルト  歌劇「フィガロの結婚」よりフィガロのアリア「少しばかり目を開け」
7  澤ア一了   ボノンチーニ 歌劇「グリゼルダ」よりエルネストのアリア「お前を愛する名誉のために」

休憩 

8  光岡暁恵/牧野真由美 ドリーヴ  歌劇「ラクメ」よりラクメとマリカの花の二重唱「ジャスミンとバラの咲き誇る」
9  光岡暁恵 ヘンデル  歌劇「リナルド」よりアルミレーナのアリア「私を泣かせてください」
10  光岡暁恵/澤ア一了  チマローザ  歌劇「秘密の結婚」よりパオリーノとカロリーナの二重唱「私は行くわ」
11  光岡暁恵/牧野真由美/澤ア一了  ロッシーニ  歌劇「オリィ伯爵」よりオリィ伯爵、アデル、イゾリエの三重唱「この暗い夜に乗じて」
12  大石洋史  パイジェッロ  歌劇「美しい水車小屋の娘」よりラケリーナのアリア「もはや心に感じない」
13 光岡暁恵  プッチーニ 歌劇「ジャンニ・スキッキ」よりラウレッタのアリア「私のお父さん」
14  澤ア一了/大石洋史   ヴェルディ  歌劇「ドン・カルロ」よりドン・カルロとロドリーゴの二重唱「我らの胸に友情を」 
15  大石洋史   ドニゼッティ  歌劇「愛の妙薬」よりドゥルカマーラのアリア「どんな欠点でも治す薬」

感 想

練られた台本の魅力-第一生命ホールライフサイクルコンサート#109 オペラの楽しみ「避暑地で乾杯!恋のカクテル」を聴く

 2013年12月、第一生命ホールは、牧野真由美の台本・構成で、「オペラの楽しみ-イタリア恋占いの旅」と題する演奏会を行いました。これは、豪華客船の中での恋物語に、イタリアオペラ、殊にヴェルディの名曲を散りばめたもので、大変楽しいものでした。当時の私の評を読んでみると、

「脚本は、牽強付会な部分はあるにせよ、よくここまで考えて繋いだな、というものでした。全く無関係のアリアを、物語の中で活かすように使って見せたところ、大したものだと思います。牧野真由美の工夫が端々に見られ、感心いたしました。また舞台だって、小道具をそれぞれうまく使って、旅行代理店の会社の様子や、利香子の占い部屋、船上のデッキの様子などをしっかり表現しており、暗転下での出し入れを含め、見事なものだったと思います。ただ、台詞部分の演技は、正直申し上げれば感心したとまでは言い難い。洗練度がイマイチです。専門の演出家がいて、その指示で動いているわけではないコンサートの限界のように思いました。」

と書いてあります。即ち、前回は、面白い企画でそれなりに成功していたけれども、もっと磨きようがあったのではないか、というのが私の率直な感想でした。

 それから1年3か月、牧野は同じコンセプトのコンサートを計画しました。第2回目に当たる今回は、舞台が日本のリゾートホテルであるブロンズ・リリー。このホテルの支配人兼バーテンダーである、トウル蒲原、蒲原のいとこでホテルのガーデニング係である鳥井銅太郎、お客の掘美留子、安土恵那の間のボーイミーツガールの恋物語です。前回は、ヴェルディ・イヤーの掉尾を飾るコンサートということで、ヴェルディに焦点を当てたため、ストーリー上苦しいところもあったようですが、今回は、そういった縛りが無くなったためか、よりストーリーが自然になり、内容も練られたコンサートになっていました。牧野のアイディアと台本にBravaを申し上げます。

 ホテル・ブロンズ・リリーの支配人・蒲原徹は、5年前の全米カクテルコンテストで優勝したバーテンダーでもある。徹はいとこの銅太郎に、ホテルの支配人の仕事を任せて、ヨーロッパにカクテルの研究に行くことにしているが、銅太郎はなかなか気持ちが進まない。

 第一幕はリゾートホテルの中庭とバー。都会での生活に浸かれた旅人・安土恵那は、小さなリゾートホテル「ブロンズ・リリー」で緑の木陰の美を歌います。牧野真由美による歌唱は、メゾソプラノらしい落ち着いたもの。そこに現れるのが、母の形見の帽子を飛ばされてしまった、と慌てふためく掘美留子。花園に飛ばされてきましたとホテルのガーデニング担当銅太郎が帽子を持って現れるので、喜び勇んでフォルヴィル夫人のアリアを歌います。この技巧的難曲を光岡暁恵は、機械的と申し上げて良い程正確に丁寧に歌います。その楷書体の歌唱は、若手のソプラノ・リリコ・レジェーロ第一人者と申し上げて良い光岡の実力をしっかり示す名唱でした。さて、銅太郎は、そんな美留子に一目惚れ。夜のバーに誘います。

 このバーは、このホテルの支配人・トゥル蒲原が、薬膳カクテルを出すのを売りにしています。そこに集まる銅太郎と二人の女性客。銅太郎は美留子にシャンパンを振る舞い、乾杯の歌を歌います。澤アのこの歌は、やや硬さが見え、伸びやかさが今一つだった感はありますが、十分にこの大柄の若手テノールの魅力を感じさせるものでした。一方、安土恵那は、「疲れがひどく悪夢を見るの」と「炎は燃えて」を歌って愚痴をこぼすと、蒲原が、「ならこの薬膳カクテルが良いでしょう」、と心と身体の疲れを取って元気が出るカクテルを出すと、恵那は「本当に直ぐに気分が良くなったわ」と言って、ジプシーソングを歌いながら踊ります。

 和気あいあいとした雰囲気の酒宴のなかで、独り冷静なのが、蒲原。酒宴がお開きになると、心を鎮める「シャッタード」というカクテルを飲み、フィガロのアリアで女性不信の心を歌います。大石のこの歌は、台詞から曲への切り替えが上手く行かなかったようで、最初が少しもたつきましたが、直ぐに立て直し、冷たい気持ちをしっかりと歌い示しました。一方、美留子にすっかりいかれてしまった銅太郎は、美留子への愛を「お前を愛する名誉のために」で一途に歌い上げます。この曲は、声楽初学者に必須のパリゾッティ「イタリア古典歌曲」に含まれる一曲で、その素朴な味わいが、銅太郎の素朴な雰囲気と良く合っていて、選曲・歌唱の妙を楽しました。

 第二幕は、銅太郎が丹精込めたフラワーパークで、翌日のこと。その花園の美しさを女性二人が「ラクメ花の二重唱」で歌い上げます。美留子は、花を見ながら、亡くなった母親のことが大好きだったので、独り悲しみの中に閉じこもっていた、と「私を泣かせてください」を歌います。この「私を泣かせてください」はこの半年余りで4,5回聴いておりますが、その中でも最も素晴らしい感じがする名唱でした。光岡の楷書体の歌はこういう曲に良く似合います。しかし、美留子の心は銅太郎の一途な気持ちにほだされ、いつしか相思相愛の関係になります。

 女になんかうつつを抜かさず、もっとホテルの経営のことを勉強しろと常日頃言っている蒲原にそのことを気付かれるわけにはいきません。「秘密の結婚」の別れの二重唱に乗せて、若い二人は別れがたい気持ちを歌います。トゥル蒲原が、こんなに冷たい心を保てるのは「シャッタード」のせいだ、ということを知らされた恵那は一計を案じます。シャッタード用の薬酒の瓶と元気の出るカクテル用の薬酒の瓶を入れ替えます。「オリイ伯爵」の三重唱に乗せて行われるすり替え作戦が、今回のクライマックスです。

 いつものようにシャッタードを飲んで、冷静になろうとする徹ですが、実際に呑んだのが、興奮性のカクテルですから、心がむずむずしてきます。「虚ろな心」で愛を失った悲しみを歌いますが、若い二人を祝福します。この曲も「イタリア古典歌曲」の一曲ですが、大石の歌はしっかりとした良いものだったと思います。さて、蒲原に祝福された美留子は独り故郷に待つ父親に電話をかけて、「私のお父さん」を歌って、銅太郎と結婚させてくれなければ身を投げますと脅します。この歌も立派でしたが、光岡の他の歌唱と比べれば、一番当たり前の感じがしました。さて、相手を知らない父親は、銅太郎に電話で職業を尋ねます。カッコいいことを言わなければ許して貰えないと思っている銅太郎は、必死の思いで、「ホテルの共同経営者です」と答え、許しを貰います。

 ホテルの経営に本気になってくれた銅太郎に徹は喜び、二人で「友情の二重唱」で、ホテルを盛り上げようと歌います。この二重唱は、澤崎の見事な高音と大石の支えが融合して大変見事なものでした。銅太郎が本気でホテルの支配人の勉強を始めることになると、徹は、ドゥルカマーラのアリアで、薬膳カクテルの素晴らしさを歌いながら、ヨーロッパに旅立ちます。

 物語を進める台詞部分はマイクを使い、歌唱になるとマイクを切るというやり方なので、準備のタイミングが上手く行かなかった部分も一寸ありましたが、全体として歌唱も立派で、若手の力も聴くことが出来、大変楽しめる、又満足できるコンサートでした。

 台本を纏めるのは大変だとは思いますが、次回は更に面白いストーリーを考えていただいて聴かせて頂ければ嬉しいと思いました。

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鑑賞日:2015年3月14日
入場料:B席 1000円 2F 31列8番

主催:立川市民オペラの会/(公財)立川市地域文化振興財団

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」(L'Elisir d'amore)
台本:フェリーチェ・ロマーニ

会 場 たましんRISURUホール大ホール


指 揮  :  古谷 誠一   
ピアノ  :  今野 菊子 
フルート  :  斎藤 光晴 
オーボエ  :  中山 正瑠 
クラリネット  :  河端 秀樹/山口 夏彦 
ファゴット  :  高橋 誠一郎/安藤 宏 
合 唱  :  立川市民オペラ合唱団 
合唱指揮  :  小澤 和也 
演 出  :  澤田 康子 
照 明  :  稲葉 直人 
舞台監督  大澤 裕 
総監督  :  砂川 稔 

出 演

アディーナ

木下 周子

ネモリーノ

大澤 一彰

ベルコーレ

柴山 昌宣

ドゥルカマーラ

東原 貞彦

ジャンネッタ

山口 和子

感 想 やっぱりオーケストラ版が好きだけど・・・-立川市民オペラ2015「愛の妙薬」を聴く

 私は「愛の妙薬」をなんだかんだで十数回聴いていますが、フルオーケストラの伴奏が付かない公演を聴いたのは今回が初めてです。正直申し上げればオーケストラを聴きなれている耳には違和感がありました。予算の都合で仕方がないのでしょうが一寸残念です。音は全般的に薄いです。木管6本とピアノという構成で、木管がメロディーを取る部分はしっかり取っているのですが、ピアノで幾ら支えても、オーケストラの弦楽器が支えるような厚みが出てきません。また、本来なら木管のメロディーが弦に移る部分は、今回は木管からピアノに移ります。その音色の変化は、木管から弦に移るより色の変わり方が大きくて、これまた変な感じがありました。木管もピアノも奏者は上手なのですが、楽器の特性ということなのでしょう。

そういうことを考えると、中途半端な構成にするより、思い切ってピアノ二台の伴奏などにした方が、音色的な統一感は取れたのかもしれません。

 さて、だからと言って今回の「愛の妙薬」が不出来だったかと申し上げればそんなことはありません。まずネモリーノが良かった。大澤一彰のネモリーノは、端正で且つ甘いネモリーノで、一昨年聴いたシラクーザのネモリーノほど魅力的ではなかったとしても、十分に魅力的な雰囲気のあるネモリーノでした。「人知れぬ涙」が素敵だったのはその通りですが、冒頭の「何と彼女は美しい」も良かったですし、酔っぱらって陽気に歌う「ラララ」も良かったと思います。アリアだけではなく、重唱も見事で本日の一番の立役者でした。

 ベルコーレ役の柴山昌宣も良かった。柴山は声に力があり、大ホールを声で埋めてしまう時の魅力は流石と申し上げるしかありません。他のソリストとは声が別格でした。更に三の線の臭い演技が何とも素敵です。「愛の妙薬」は喜劇ですし、ベルコーレは敵役ですから、とぼけた演技をやらないと面白くならないのですが、そこはベテラン、上手にまとめてきました。

 木下周子のアディーナに関しては、声はリリコ・レジェーロですし、役に似合っていないことはないのですが、私がこれまで聴いて来たアディーナの中では特に魅力的とまでは言えないのかな、というのが正直なところです。アピール度が小さいアディーナのような気がしました。もっと可愛らしい高慢さが前面に出ていれば印象が違ったのかもしれません。

 東原貞彦のドゥルカマーラはケレンが全然足りないです。ドゥルカマーラは胡散臭い役ですが、登場のアリア「聴きなさい、村の衆」をあんなにすっきり歌っちゃたら、全然胡散臭さを感じないのです。オーケストラが伴奏してくれれば、その厚みで、ドゥルカマーラの胡散臭さを増幅しているのかもしれませんが、あの薄いオーケストラでは、歌手が自分から積極的に胡散臭くなって貰わないと面白くない。やはり、もっとやり過ぎのような演技をして、いかさま師ぶりを強調してほしいと思いました。

 もう一つ良かったのが合唱。市民オペラの合唱としてはかなり良く歌えていたのではないかと思いました。立川市民オペラは昨年は「アイーダ」を取り上げました。その合唱は、さほど良いとは思わなかったので、今年は随分いいなあと感心しました。男声に関しては半数以上がエキストラで、エキストラが頑張ったということなのかもしれませんが、女声も昨年よりよく、全体として地力がついて来たということなのかもしれません。そこは結構なことだと思います。

 全体としては、「愛の妙薬」というオペラの、ストーリーと音楽の魅力を再認識できました。また、市民オペラの熱気が今年も感じられたのは、良かったと思いました。

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