オペラに行って参りました-2016年(その5)

目次

そして誰もいなくなった 2016年11月23日  東京二期会オペラ劇場「ナクソス島のアリアドネ」を聴く 
指揮者のケレン、歌手のケレン 2016年12月4日 新国立劇場「セビリアの理髪師」を聴く
一流指揮者と一流オーケストラのオペラ  2016年12月9日  NHK交響楽団第1851回定期演奏会「カルメン」を聴く 
張り切り過ぎ 2016年12月10日 オペラ彩「ラ・ボエーム」を聴く
子供向け  2016年12月17日  舞台音楽研究会クリスマス公演「サンドリヨン」を聴く 

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2016年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2016年 
2015年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2015年 
2014年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2014年 
2013年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2013年 
2012年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2012年 
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  


鑑賞日:2016年11月23日

入場料:B席 2FG列16番 9000円

主催:公益財団法人東京二期会

共催:公益財団法人ニッセイ文化振興財団【日生劇場】

平成28年度文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術創造活動活性化事業)

東京二期会オペラ劇場公演/ライプチヒ歌劇場との提携公演

プロローグと1幕のオペラ、日本語字幕付き原語(ドイツ語)上演
リヒャルト・シュトラウス作曲「ナクソス島のアリアドネ」 Ariadne auf Naxos)
台本:フーゴ・フォン・ホフマンスタール

会場 日生劇場


指 揮 シモーネ・ヤング
管弦楽 東京交響楽団
演 出 カロリーネ・グルーバー
装 置 ロイ・スパーン
衣 装    ミヒャエラ・バルト 
照 明 喜多村 貴
音楽アシスタント ジェニファー・コンドン
演出助手 太田 麻衣子
舞台監督 幸泉 浩司

出 演

執事長 多田羅 迪夫
音楽教師 小森 輝彦
作曲家 白土 理香
テノール歌手/バッカス 片寄 純也
士官 渡邉 公威
舞踏教師 升島 唯博
かつら師 野村 光洋
召使 佐藤 望
ツェルビネッタ 高橋 維
プリマドンナ/アリアドネ 林 正子
ハルレキン 加耒 徹
スカラムッチョ 安冨 泰一郎
トゥルファルデン 倉本 晋児
プリゲッラ 伊藤 達人
ナヤーデ 冨平 安希子
ドゥリヤーデ 小泉 詠子
エコー 上田 純子
天使 小島 幸士

感 想

そして誰もいなくなった−東京二期会オペラ劇場公演「ナクソス島のアリアドネ」を聴く

 カロリーネ・グルーバーで思い出すのは、2011年の日生劇場での二期会オペラ「ドン・ジョヴァンニ」。鏡の間で時空を飛び越えて人間の普遍性に迫る演出に大いに感心させられました。ヴィジュアル的にも美しかったし、ドン・ジョヴァンニの色気も見ものでした。5年ぶりで見る彼女の演出。正直言ってよく分からずもやもやしています。「ナクソス島のアリアドネ」という作品、成立過程が複雑ですが、言ってみれば「楽屋落ち」もののドタバタ喜劇でしょう。だから私の感覚では、作曲家とツェルビネッタとが軸で成立しているオペラだとずっと思っていた。「テノール歌手/バッカス」とか「プリマドンナ/アリアドネ」は、役柄に名前が与えられていることからも明らかに、「プリマドンナ」のパロディであり、「テノール歌手」のパロディです。だからプリマドンナは 「プリマドンナのパロディ」として「アリアドネ」を歌い、プリモテノールは「プリモテノールのパロディ」として「バッカス」を歌うことを求められているのと思っていたし、事実そういう演出での演奏しか聴いたことがありません。

 でも今回のグルーバーの演出、 パロディであることを敢て拒否した演出と申し上げてよいのかもしれません。あるいは、パロディであることを踏まえたうえで、更にもう一度ひっくり返し、さかさまにしたような演出と申し上げるべきなのか。少なくとも「オペラ」の幕で、主人公になったのは「アリアドネ」と「バッカス」でした。アリアドネのアリア「清らかな国」は、死に対する指向を強く歌います。それに対して、四人の道化たちが茶化してツェルビネッタの長大なアリアに繋がって、更にバッカスが登場して英雄的に歌い、アリアドネを救うというのが、オペラの流れですが、グルーバーの演出は、バッカスがアリアドネを救わせない。バッカスとアリアドネとの二重唱が始まると、背景には黙役の色々な人たちが登場して、思い思いの行動をとります。その人たちは突然ストップモーションで停まり、音楽の終わりに向けてどんどん倒れて行きます。音楽教師も作曲家も四人の道化もツェルビネッタも倒れ、最後は永遠の命を持つはずのバッカスも倒れて、誰もいなくなって終わる。

 プロローグで、「作曲家」は新作のオペラ・セリア「ナクソス島のアリアドネ」が滅茶滅茶にされることを嘆くわけですが、グルーバーは、オペラ・セリア的にまとめ上げて、「作曲家」(もちろんシュトラウスのことではありません、登場人物の作曲家)に敬意を表したということかもしれません。

 このグルーバーの演出がより効果的になるためには、バッカスとアリアドネが力がないと話になりません。その意味で、今回の林正子と片寄純也のコンビは正に適役と申し上げてよいでしょう。また、この作品はツェルビネッタにもの凄い技量があって超絶技巧を聴かせてくれるところに面白みがあるのですが、この演出であれば、ツェルビネッタに力がありすぎてバッカスとアリアドネを食ってしまったら様になりません。その意味で、高橋維位の声量的にも技巧的にもいまいちの歌手が歌ったことが全体のバランスとしてよかったのではないかと思います。

 音楽的なところに話を移すと、まずシモーネ・ヤング指揮の東京交響楽団が素晴らしい。東響は管楽器に力のある奏者が多いですから、「ナクソス」のような室内オーケストラ編成が求められると、より立派に聴こえます。そして、女流の指揮者なのですね。このオペラの女性的な部分を引き出した演奏をしたと思います。一言でいえは優美。更に歌手の歌い方とオケのコントロールを上手く擦り合わせて、歌手に寄り添いながらも音楽の自然な流れを壊さないで運んだと思います。

 歌手では、前述のように何といっても林正子です。基本的に清澄な声なのに、力が入った時の表情の濃さが違います。プロローグでの我儘なプリマドンナを演じている時はあまり良さは感じなかったのですが、オペラに入ってアリアドネになると、ディーヴァのオーラが出てきました。「清らかな国」のアリアが死への憧憬を感じさせるしっかりした歌で良かったし、バッカスとの二重唱も二人でどんどん熱くなっていく感じが素晴らしい。惜しむらくは、、最後の倒れ方が芝居的にはあっさりしすぎてケレンが足りない。歌い終わったと思いっきり硬直して見えを切ってぶっ倒れてくれれば最高だったのではないでしょうか。

 片寄純也のバッカスもよい。こちらもプロローグではバイクに乗ってファンキーに登場したテノール歌手ですが、フィナーレの二重唱は正当にワーグナー風に歌い、張った時の輝かしい声が若手ワーグナーテノール第一人者としての力量を示しました。

 前半では、まず作曲家の白土理香が力を示しました。白土と言えば14年前の新国立劇場公演でもこの役を歌い、素晴らしかったのですが、今回も表情の濃い演奏。音程的には、「あれ?」と思う部分はあったのですが、この役を手中に収めているということなのでしょう。プロローグ後半の怒り狂ってからの表現がベテランは違います。イライラした感情が伝わってきてよいと思いました。

 同じくベテランと言えば音楽教師の小森輝彦も良い。脇役ですが、作曲家をなだめつつ、一方でプリマドンナやテノール歌手といじましいやり取りをするところなど雰囲気がありました。同じ意味で執事長の多田羅迪夫も立派です。多田羅は長年二期会のプリモバリトンとして引っ張ってきただけのことはあって、台詞役の執事長も存在感をしっかり示しました。ドイツ語の発音も凄く雰囲気がありました。

 プロローグで活躍するその他の方々ですが、舞踏教師の升島唯博は、演技は結構面白かったのですが、歌唱は今一つパッとしなかった感じです。ちょっとしか歌いませんが、召使とか士官とかはそれぞれの役目を果たしてよかったと思います。

 上ではあのように書きましたが、高橋維、頑張っていたことは間違いありません。例の「偉大なる王女様」は、流石に安全運転で、ここぞというところの超絶技巧とは縁がないのですが、それなりの声量で破綻なく歌いきりましたし、それ以外の部分でもしっかりした歌で存在感を示していました。6月のスザンナとは別人のようだった、と申し上げましょう。また、若い方だけあって見た目のスタイルも良く、演技にも結構切れがあって、歌って踊るシーンなどはとても楽しめました。

 四人の道化も良い。若手テノール・バリトンのアンサンブルですが、とりわけ、プリゲッラ・伊藤達人とハレルキン・加耒徹が良かったように思いました。それ以外の二人も決して悪いという訳ではなく、四人で作る世紀末風のアンサンブルはとても聴き応えがあったと思います。また、三人のニンフもよく、とりわけ小泉詠子・ドゥリヤーデが魅力的でした。

 以上、演出は好悪が分かれると思いますが、舞台全体としてはとても素敵だったと思います。本年の東京二期会の舞台の中ではピカイチと申し上られますし、「ナクソス島のアリアドネ」の舞台としても、私のこれまで経験した舞台の中では一番まとまった舞台だった、と思います。

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鑑賞日:2016年12月4日
入場料:C席 5832円 3F 2列51番

平成28年度(第71回)文化庁芸術祭協賛公演

主催:新国立劇場

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ロッシーニ作曲「セビリアの理髪師」(Il barbiere di Seviglia)
台本:チェーザレ・ステルビーニ

会場 新国立劇場・オペラ劇場

スタッフ

指 揮 フランチェスコ・アンジェリコ
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
     
演 出 ヨーゼフ・E. ケップリンガー
美術・衣装 ハイドルン・シュメルツァー
照 明 八木 麻紀
再演演出 アンゲラ・シュヴァイガー
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 斉藤 美穂

出 演

アルマヴィーヴァ伯爵 マキシム・ミロノフ
ロジーナ レナ・ペルキナ
バルトロ ルチアーノ・ディ・パスクアーレ
フィガロ ダリボール・イェニス
ドン・バジリオ 妻屋 秀和
ベルタ 加納 悦子
フィオレッロ 桝 貴志
隊長 木幡 雅志
アンブロージオ 古川 和彦

感 想

指揮者のケレン、歌手のケレン-新国立劇場「セビリアの理髪師」を聴く

 「セビリアの理髪師」の序曲は全楽器が強奏して始まるのですが、そこに大太鼓も参加していることを実は知りませんでした。色々な録音を聴いても、ティンパニが叩かれているのは分かるのですが、その陰に大太鼓がいるようには聴こえません。しかし、譜面を見ると、他の楽器がフォルテッシモで演奏するように指示されている冒頭の三音、大太鼓も三拍目にフォルテで1回叩くことになっている。何でそんなことを書いたかというと、今回の演奏、最初に大太鼓が強く叩かれて始まったのです。新校訂の楽譜なのか、と一瞬驚きましたが、要するに大太鼓奏者が指揮を見間違えて、本来よりも一拍早く叩いてしまったのですね。それも結構フォルテシモ。だからますます吃驚なのですが、フォルテシモで叩くのは、多分指揮者の指示なんでしょうね。打楽器が効果的に響くと、全体がきびきびした感じになります。

 この打楽器を使って作りだすきびきび感が指揮者の「セビリア」に対するイメージなのでしょう。ケレンと申し上げても良いかもしれない。序曲の冒頭はびっくりしましたが、それ以外はきびきびとした流れで進み、全体としてはとても立派な演奏だったと思います。それを支えたのは何といっても3人の男声ソリストです。

 まず、今回のお目当て、ミロノフのアルマヴィーヴァ伯爵ですが、期待に違わぬ出来、と申し上げてよいのでしょう。冒頭の「空は微笑み」は若干の喉の湿気が足りなかったようで、一寸ざらつきが聴こえたのですが、ロッシーニ・テノールではないテノールが歌う「空は微笑み」とはものが違います。そして、期待の第二幕の大アリア「もう、逆らうのをやめよ」が凄かった。ミロノフ、本当に声が軽い方のようで、例えばシラクーザの歌う「もう、逆らうのをやめよ」と比べると陰影が薄い感じはするのですが、その代わり天馬をかけるような美しさがあります。凄いと思います。見た目も本当に二枚目だし、あの顔とあの声でセレナーデを歌われたらなびかない女性はいないのではないかと思うほどです。

 アリア以外も良いところが沢山ありました。例のフィガロとの二重唱「金を見れば智恵が湧く」も上手には持っていましたし、アンサンブルにおいてもしっかりしたポジションで適切な存在感を出していたと思います。ミロノフはロッシーニのスペシャリストとして売り出した方ですが、それだけのことはある、というのが素直な感想です。大いに感心いたしました。

 そしてドン・パスクアーレならぬディ・パスクアーレのバルトロ、名前からしてバッソ・ブッフォみたいな方ですが、歌・演技ともにバッソ・ブッフォでした。バルトロといえば例の難アリア「私のような医者が」があるわけですが、この小気味よい早口はさすがですし、それ以外の声、演技も立派でした。彼の場合アリアは勿論立派なのですが、何でもない重唱などでも黒々とした墨汁のような声で、しっかりとアンサンブルを支えている。こういうバスがいると、音楽的にも締まるのでしょう。

 もう一人、忘れてはならないのがフィガロです。イェニスは2012年の前回公演でもフィガロを歌ったのですが、今回の方が、前回よりもいいように思います。前回は軽快というよりも一寸慌ただしい感じが前面に出ていて、一寸下品な感じがしたのですが、今回は演出それ自身が持っている下品さは払拭されないものの、フィガロの歌自体はとても丁寧で良いものでした。多分二度目の出演ということで、彼自身この演出になれ、気持ち的に楽に歌えているのでしょう。Bravoです。

 アルマヴィーヴァ伯爵とバルトロ、フィガロの三人が良かったので、骨格が凄く固まった感じがします。要するにこのオペラはこの三人の良しあしが全体の出来を左右するのですよね。勿論、ロジーナもバジリオも大切ですけど、まず三男声がしっかりしていなければいけないのでしょう。その意味で今回の「セビリア」とても良いものでした。

 レナ・ペルキナのロジーナは、悪くないけどもの凄く良いとは思いませんでした。アジリダの切れがイマイチでしたし、一寸重くなるところがある。メゾソプラノのロジーナはソプラノのロジーナ以上に細かいところに気を使わないと、怖さが前面に出てしまいます。ペルキナはそこまで怖いロジーナではありませんでし、アンサンブルではうまく処理していたので、十分役目は果たしていましたが、もっと軽さを上手く使えるといいのにな、とは思いました。

 妻屋秀和のバジリオは前回に引き続き結構。上手な方だと思います。

 そして、加納悦子のベルタ。上手です。前回までは3回連続与田朝子で、とても素敵なベルタ像を作り上げていたわけですが、加納悦子のベルタも魅力的です。例のシャーペットアリア「年寄りは妻をもとめ」もいいんですけど、アンサンブルや歌わない時の演技が見事。

 もちろん合唱はいつもながら立派ですし、フィオレッロや隊長、アンブロージオは何度も登場している方でこの演出をよく分かっています。チームとして舞台をよく支えていました。オケの凡ミスから始まったものの、終わってみれば、凄く魅力的な「セビリアの理髪師」だったと思います。Braviです。

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鑑賞日:2016年12月9日
入場料:D席、3400円 3階1列34番 

主催:公益財団法人NHK交響楽団

オペラ4幕 字幕付原語(フランス語)上演/演奏会形式
ビゼー作曲「カルメン」(Carmen)
原作:プロスペル・メリメ
台本:アンリ・メイヤック/リュドヴィク・アレヴィ

会場 NHKホール

出演者情報:感想はこちら

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鑑賞日:2016年12月10日
入場料:B席 7000円 2F RA8列 1番

主催:特定非営利活動法人オペラ彩/和光市/公益財団法人和光市文化振興公社

オペラ彩 第33回定期公演

全4幕、字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」(La Bohéme)
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ/ルイージ・イリッカ
原作:アンリ・ミュルジュ

会場 和光市市民文化センター「サン・アゼリア」大ホール

スタッフ

指 揮 ヴィート・クレメンテ
管弦楽 アンサンブル彩
合 唱 オペラ彩合唱団
東邦音楽大学/東邦音楽短期大学/東邦音楽大学附属東邦第二高等学校有志
合唱指揮 中橋 健太郎左衛門
児童合唱 みどりのそよ風児童合唱団/うずら児童合唱団/児童合唱団ジョイアンジェリ
児童合唱指導    谷 禮子、秋谷あつ子 
バンダ  :  東邦音楽大学/東邦音楽短期大学有志 
演 出 直井 研二
美 術 大沢 佐智子
衣 裳 藤井 百合子
照 明 坂本 義美
舞台監督 望月 康彦

出 演

ミミ 佐藤 美枝子
ロドルフォ 村上 敏明
マルチェッロ 村田 孝高
ムゼッタ 登川 直穂子
ショナール 藤山 仁志
コッリーネ 小野 和彦
ベノア 矢田部 一弘
アルチンドロ 福井 克明
パルピニョール 石塚 幹信

感 想

張り切り過ぎ-オペラ彩「ラ・ボエーム」を聴く

 ほんの三週間前新国立劇場で「ボエーム」を鑑賞し、次のように書きました。「「ボエーム」というオペラはストーリーの分かりやすさとは裏腹に、和音の構成とか音の組み立てとかはかなり緻密に作られていて、指揮者にとってコントロールし甲斐のある作品だと思います。その意味で指揮者が重要ですが、今回のアリヴァベーニという指揮者、自分の音楽観を表出するよりも歌手に寄り添うことを重視している様な感じがいたしました。オペラ指揮者たるもの、歌手をよく理解することは大切ですが、あまりにそちらに気を廻し過ぎると音楽として今一つ感が強くなるのではないかという気がします。」この感想は今回のクレメンテにも当てはまる感じがします。いや、クレメンテについて申し上げれば、オペラの全体感の構成を見定めることなく、自分の好みに走った指揮をした感じがします。聴いていて、それ一寸違うんじゃないの・・・・、と思うところがかなりありました。

 新国でのアリヴァベーニは意識的にあざとい指揮をしている感じがしたのですが、クレメンテは意識的にあざとくしているわけではなく、結果的にそう思えるところもあれば、さらっと流れるところもありで、全体としてはよく分からない解釈だったと思います。オペラ彩「ボエーム」を聴く前日、NHK交響楽団の「カルメン」を聴いたわけですが、指揮者のデュトワは、楽譜に忠実であることを徹底し、オーケストラにも歌手たちにもそれを求めたような気がします。演奏会形式ではありましたが、ソリストたちはそれなりに演技もつけての歌唱でしたが、デュトワの要求を酌んで歌っていたように思いました。だから、すこぶる求心的で美しかった。「ボエーム」は曲が緻密ですから、今回のデュトワのように指揮者を中心に音楽を緻密に組み立ててられれば、本当に美しく響いたと思うのです。しかし、残念ながらそうはならなかった感じです。

 とにかく、冒頭からハイテンション。村上ロドルフォと村田マルチェッロの冒頭の二重唱。張り切りすぎて却ってうるさい感じ。あそこまでハイテンションで歌わずにもっと丁寧にメロディラインを生かして歌った方が絶対に良いのに、と思いました。

 オーケストラは、アンサンブル彩という臨時編成の団体ですが、N響の新旧メンバーが11人も入っている基本技術は高いグループにもかかわらず、アンサンブルがあまり美しいとは思う得ませんでした。私の座った位置の問題はあるのでしょうし、又、オケピットの深さの問題があるのかもしれませんが、響きが生々しくて音の混じり合い方が不足している感じです。そこは指揮者の問題といおうよりは会場の問題なのかもしれませんが、指揮者のできる範囲でのコントロールが不適切だった、ということは申し上げてよいでしょう。

 そんな訳で全体的には肯定的な評価にはならないのですが、佐藤美枝子のミミは素晴らしかったと思います。佐藤は、レジェーロ・ソプラノであり、典型的なリリコ役であるミミには声的には向いていないと思います。しかし、実際に聴いてみると、基本的な声の軽さはあるものの、情感の込め方が上手く、また高音が響くので、ミミの可愛らしさが強調されます。典型的なミミではないけれども、独自のミミ観を見せて、またそれが一貫している。あのようにミミを表現されると、切なさが強調されて何とも美しいです。登場から死に至るまで「お見事」と申し上げるしかありません。私はあまりミミに満足したことがないのですが、私が聴いたミミとして、三人目の私を満足させたミミとなりました。Bravaです。

 村上敏明のロドルフォ、冒頭から全開で頑張りすぎている感じです。結果としてミスも出ました。私自身、村上ロドルフォを聴くのは多分4回目ですが、今回がこれまでの中では、一番よくない演奏だったと思います。

 マルチェッロの村田孝高も今一つ。全般に頑張り過ぎで落ち着いて聴こえないのがまず問題。第二幕のカルチェラタンの場面で、ムゼッタとのやり取りや、第三幕終盤の四重唱なのはマルチェッロがどう表現するかで雰囲気がかなり変わってくると思うのですが、そのあたりが上手く行っていない。もっと落ち着いてポジションを決めた方が良かったと思います。

 登川直穂子のムゼッタ。全然良くありません。声の出方が一直線になっておらず揺らぎが多すぎる感じ。20日前の新国立劇場の石橋栄実がとても素敵なムゼッタを歌っているので、それとの比較になってしまうのですが、石橋には遠く及ばない、というところでした。

 その他脇役勢では、コッリーネ役の小野和彦が気を吐いていた感じです。矢田部一弘のベノアも良いと思いました。

 直井健二の演出はごく普通のボエームとして解釈していたように思います。合唱は新国立劇場歌劇団とは全然違うレベルですが、それなりのまとまりがありました。和光市の子供たちを集めた児童合唱も悪くはなかった。

 結局のところ、指揮者のコントロールに尽きるような気がします。クレメンテがもっと適切な指示を出し、求心的な演奏をすればもっと感動的な演奏になっただろうに、と思いました。

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鑑賞日:20133月10日
入場料:全自由席 4500円

主催:舞台音楽研究会
共催:横浜市泉区文化センター「テアトルフォンテ」

舞台音楽研究会クリスマス公演

全4幕、日本語訳詞上演
マスネ作曲「サンドリヨン」(Cendrillon)
原作:シャルル・ペロー
台本:アンリ・カイン
日本語訳詞:南條年章

会場:横浜市泉区文化センター「テアトルフォンテ」


スタッフ

指 揮 高橋 勇太  
管弦楽 ERDE OPERA管弦楽団
合 唱    ベッラヴォーチェ、他
演 出 小澤 慎吾
照 明  :  服部 栄一郎
振 付  :  藤崎 留美子
舞台監督  :  菅野 将

出 演

サンドリヨン   赤根 純子
シャルマン王子   山川 高風
父パンドルフ   平岡 基
アルティエール夫人(継母)   中村 春美
ノエミ(姉)   小松原 利枝
ドロテ(妹)   新藤 清子
国王   水澤 聡
妖精   楠野 麻衣
精霊1   安澤 遥
精霊2   小平 菜摘
精霊3   橋口 未夢
精霊4   井野村 麻衣
精霊5   水澤 奏美
精霊6    井上 唯
ヘラルド   佐々木 淳
ディーン   松田 康伸

感想

子供向け-舞台音楽研究会クリスマス公演「サンドリヨン」を聴く。

 テアトルフォンテは、たまにオペラをやる劇場ということで名前だけは知っていたのですが、伺うのは初めてです。横浜の泉区・相鉄線のいずみ中央駅隣接と、私の住んでいるところからだと行きにくいところにあり、これまでは行くことはありませんでした。今回初めて入って驚きました。総席数390ほどのホールなのですが、いわゆる馬蹄型の劇場です。日本で、このようなタイプの劇場を見る経験は初めてなので、行けてよかったと思います。

 サンドリオンを聴くのは二度目の経験です。前回は2013年に府中で聴いたのですが、今回のスタッフ・キャストはその時のメンバーと少しかぶっています。例えば演出の小澤慎吾、国王役の水澤聡などですね。また今回アルティエール夫人を歌っていた中村春美は、前回は王子役を歌っていました。しかし、前回の印象とはかなり違います。音楽的には色々な意味で前回より良くなっているとは思いますが、全体的に見れば、うーんという感じです。

 まず演出ですが、舞台装置は府中の時よりも豪華になっていて、分かりやすい演出だったと思いますが、演技は、あまり良くないというのが本当のところです。何か、全体的に学芸会的で野暮ったい感じがします。舞台ですから、自然な演技である必要はないと思うのですが、大げさな動きが物真似的というかパロディ的というか、今一つ決まらない。あのようなコメディ的演技は、アルティエール夫人や二人の義姉の演技としては良いと思うのですが、例えば、精霊たちの演技としてはどうなのだろうと思ってしまう。妖精たちはくどいというより、その振付が、幼稚園のお遊戯会を彷彿させるところがあって、今一つしっくりこなかったところです。また、第4幕のサンドリヨンの見せ方も、演出家の意図がよく分からない。ちらちら見せるより、しっかりとお姫様になって、階段から降りてくるようにした方が良かったのではないでしょうか?視覚的には分かりやすい演出だったと思うのですが、舞台としてのこなれ方は今一つだったのかな、と思います。

 更に申し上げれば、日本語上演の良し悪しです。前回聴いた府中でも南條年章翻訳の日本語台本が使われ、結局何を言っているのかよく分からない、と申し上げました。今回は、出演者の日本語表現レベルが向上したのか、前回ほど聴き取りにくい、ということはありませんでしたが、それでも歌詞が全く理解できないところが何箇所かあり、気になりました。「子供に見せたい」という理由で日本語上演にしたのでしょうが、そうであるならば、子供でも理解できるように歌って欲しい(あるいはそういう歌詞にして欲しい)と思いました。

  音楽的に良いと思ったのは、赤根純子のサンドリヨン、中村春美のアルティエール夫人、楠野麻衣の妖精です。赤根純子は、しっかりとした声の持ち主で、表現も悪くなかったと思います。主役の責任を果たす立派な歌唱と申し上げてよいのでしょう。一方で、この役はメゾソプラノでも歌う役であり、特別な高音があるわけではないし、演出もサンドリヨンを立てる演出ですから、これ位歌って欲しい、という気持ちはあります。とにかく、主役がしっかり歌うかどうかでオペラの味は変わってしまいますから、赤根はしっかり仕事をしたということなのでしょう。

 中村春美の義母、良かったです。演技でキャラも立っていましたし、歌唱もとても立派。前回の府中では、中村は王子を歌って結構ボロボロだったのですが、あの時は調子が悪かったのかもしれません。本来「王子」は女声役なので、前回の府中の配役は正しいのでしょうが、中村としては、「王子」を歌うよりも、意地悪な継母を歌う方が歌いやすいということがあるのでしょうね。ちなみにアルティエール夫人には、愛娘のノエミとドロテが絡んでの重唱がいくつかあるのですが、ノエミとドロテは府中で聴いた時のコンビと比較すると今一つな感じがします。府中の時の継母役矢野裕紀子と今回の中村春美は同格、二人の姉は府中の伊藤邦恵と津久井明子のコンビに軍配を上げたいということです。

 このオペラの最高音を受け持つ妖精役の楠野麻衣は立派。高音のよく通った響きが素敵でした。

 それ以外では、父親役を演じた平岡基が前半のそのダメッぷりと三幕での優しい父親の対比が良かったと思います。王子役の山川高風は、軽い声で王子らしい感じは良く出ていますが、最高音は苦しい様子でした。

 府中での公演ではピアノと弦楽四重奏の伴奏。それに対して今回はオーケストラの伴奏。それだけに音の厚みの点で今回の方がはるかに上ですが、オーケストラピットのサイズの問題なのか、弦楽器や木管がそれなりに低いところで演奏しているのに対し、金管はすっかり姿が見えています。自由席ですから、金管から遠い位置に座ればよかったのですが、うっかり金管の近くに座ってしまいました。そうすると、ファンファーレが直接耳に飛び込んできます。バランスの点でそこはもう少し考えても良かったのかも、と思いました。

以上、主役と敵役それに高音を受け持つ三女声が決まっていたこととオーケストラ伴奏であったということで聴き応えがありました。傷は沢山ありましたが、それなりに楽しめた上演でした。

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