オペラに行って参りました-2012年(その1)

目次

プロコフィエフはモダニズムの作曲家である 2012年1月15日  東京オペラ・プロデュース「修道院での結婚」を聴く 
「トレンディ・ドラマ」、のようなもの  2012年1月17日  「ダークヒルズ恋愛白書-Seasons of Love-」を聴く 
フラストレーション  2012年1月19日  新国立劇場「ラ・ボエーム」を聴く 
一番短い「フィガロ」 2012年1月21日  グロリア版「フィガロの結婚」を聴く 
向上への期待  2012年1月28日  「砂川涼子 ソプラノ・リサイタル」を聴く 
何人が明日を担ってくれるのか  2012年2月7日  「明日を担う音楽家による特別演奏会」を聴く 
アイディアこそが舞台の要  2012年2月14日  日本オペラ振興会「バレンタイン・コンサート」を聴く 
遠藤周作への道  2012年2月15日  新国立劇場「沈黙」を聴く 
若さ×若さ=  2012年2月18日  東京二期会オペラ劇場「ナブッコ」を聴く 
ニーノ・ロータはオペラ作曲家だった?  2012年2月25日  国立音楽大学音楽研究所公演「ノイローゼ患者の一夜」を聴く 


オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク


2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

  

鑑賞日:2012年1月15日

入場料:B席 2F2列27番 6000円

平成23年度文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)

東京オペラ・プロデュース第89回定期公演

主催:東京オペラ・プロデュース

全4幕 日本語字幕付き原語(ロシア語)上演
プロコフィエフ作曲「修道院での結婚」作品86(Обручение в монастыре)
台本:セルゲイ・プロコフィエフ、ミラ・メンデルソン

会場:新国立劇場・中劇場
日本初演

スタッフ

指揮  :  飯坂 純   
管弦楽  :  東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団 
合唱  :  東京オペラ・プロデュース合唱団 
合唱指揮  :  伊佐治 邦治/中橋 健太郎左衛門 
バレエ  :  バレエ団芸術座 
演出  :  八木 清市 
美術  :  土屋 茂昭 
衣裳  :  清水 崇子 
照明  :  成瀬 一裕 
振付・演出補  :  太田 麻衣子 
舞台監督  :  佐川 明紀 
プロデューサー  :  竹中 史子 

出演

メンドーザ  :  村田 孝高 
ドン・ジェローム  :  塚田 裕之 
ルイーザ  :  岩崎 由美恵
フェルディナンド  :  和田 ひでき 
ドゥエンナ  :  勝倉 小百合 
アントニオ  :  高野 二郎 
クララ  :  橋爪 ゆか 
ドン・カルロス  :  笠井 仁 
ロベツ  :  横山 慎吾 
アウグスティン神父  :  工藤 博 
マスク1/エルスタフ  :  望月 光貴 
マスク2/シャルトレス  :  岡戸 淳 
マスク3/ベネディクティン  :  田中 大揮
ラウレッタ/ロジーナ  :  木村 綾子
パブロ/見習修道士1  :  奥山 晋也 
ペドロ/見習修道士2  :  麻野 玄蔵 
ダンサー  :  沼田 賢一 
ダンサー  :  岩城 明美 

感想

プロコフィエフはモダニズムの作曲家である−東京オペラ・プロデュース「修道院での結婚」を聴く

 
  プロコフィエフが好きです。一番好きなのが、ピアノ協奏曲の3番。あとは交響曲の5番とか戦争ソナタとか。バレエ音楽の「ロメオとジュリエット」も好きです。プロコフィエフは、色々な作風の作品を書いたわけですが、こうして見ると、現代的な切れ味と独特な諧謔に私は惹かれているようです。

 「修道院での結婚」は、大きく見れば、西洋オペラのパロディのような作品です。メンドーサはどう見たってバッソ・ブッフォの役どころですし、登場人物の名前だって、「ドン・カルロス」とか「ロジーナ」とか、どこかで聴いたような名前が出て来ます。メロディも同様。どこかで聴いたことのあるようなメロディが聴こえて来ます。

 そういう音楽でありながら、この作品はどう考えたって、プロコフィエフの作品です。私は今回全く初めてこの作品を聴いたわけですが、耳に聴こえてくる音楽は、プロコフィエフ以外では書かないだろうというような感覚に溢れています。音の動かし方の不安定さが、正にプロコフィエフでした。ストーリーは西洋オペラのパロディで、音楽がプロコフィエフ風モダニズムとなれば、もっと人気が出ても良さそうですが、実際は今回の東京オペラ・プロデュースの公演が日本初演です。

 それは、日本人の歌手で上演しようと思えば、ロシア語という言語バリアーの克服の問題がありますし、喜劇なのに大がかりなオーケストラやバレエ、最高20人以上のソロ歌手が必要、といった問題もありそうです。とにかくこういう洒落た感覚の作品を取り上げてくれた東京オペラ・プロデュースに感謝しなければいけません。

 八木清市の演出は、この作品がパロディ的喜劇であることを踏まえたものとなりました。舞台装置は、2枚のメルヘンチックな塗色を施された二枚の箱で、これを回転させて角度を変えながら組み合わせることによって、各場面を作っていきます。このようなやり方は、場面転換が多く、しかしながら、抽象的な舞台づくりをすると理解が困難になる初演作品の舞台としてはよかったと思います。

 また登場人物の動きも、パロディ・センス満載で、村田孝高が演じるメンドーザが四股を踏んで見せたり、擦り足で突っ張りを見せたり、あるいは歌舞伎の六方で、見得を切って見せたりが一番目立ちました。このパロディ的喜劇のセンスは、メンドーザ、ドン・ジェローム、ドゥエンナの喜劇的要素の強いキャラクターの演じさせ方に、特に目立っていたように思います。

 飯坂純の音楽作りは、プロコフィエフのもつ軽快な諧謔さを示すのには十分のものだったように思います。正味2時間50分ほどの近代オペラとしては比較的長い演奏時間の作品でしたが、退屈せずに聴けたのは、プロコフィエフの音楽の力と共に、飯坂の適切な指示があったことは想像に難くありません。東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団の演奏も、ホルンや木管でのざらつきを感じないわけではありませんでしたが、オペラ全体の進行を邪魔するものではなく、全体としては上々と申し上げてよいと思います。

 歌手陣ですが、喜劇的要素の強い役柄を演じた方々が特に頑張りました。

 村田孝高のメンドーザ。頑張ったと思います。この役はブッフォ役ですが、同時に、ロシア人バスに歌わせることを意識して書かれた役柄のようです。低音が響く歌手でないと歌いこなせないでしょう。村田は比較的低音が響く方のようで、音楽的にも存在感を出していました。第1幕のドン・ジェロームのやり取りの部分は、若干ヴィヴラートがきつすぎて如何なものかと思ったのですが、あとは良好。お相撲さんみたいなあんこ形の巨体を生かした演技を含め、今回の上演を成功に導いた立役者、と申し上げてよいと思います。

 塚田裕之のドン・ジェロームもよい。ドン・ジェロームは、テノールの喜劇的役割を担う役どころですが、娘の計画に騙されておろおろする様子や、そうでありながらも当主としての威厳を示すところなど、特徴ある役柄をきちんと示せていたように思います。声も比較的軽くて綺麗なテノールで、メンドーザとのバランスも良く、私は、村田以上に気に入りました。

 岩崎由美恵のルイーザ。この作品のヒロインで、頭が良く回って自分の思いを遂げるところ、スーブレットのパロディです。岩崎は、高音が美しく響き、華やかなのですが、この役柄を演じるには声にケレンミが足りない感じがしました。もう少し、芯の入った歌唱をしてくれればもっと楽しく聴けたように思います。

 和田ひできのフェルディナント。如何にも和田、とでも言うべき存在感でした。ちょっとすっとぼけた雰囲気が、面白いと思いました。

 高野二郎のアントニオ。プリモテノールとしては力不足と申し上げるべきでしょう。声も今一つでしたし、歌も存在感に欠ける感じ。凄く影が薄い感じになっておりました。

 勝倉小百合のドゥエンナ。音楽的な存在感は第二幕しか出せない役どころですが、ルイーザの計画に乗ってまんまと成り金魚商人メンドーザの妻に収まる役どころ。第二幕の歌が面白く、その他の部分も年増醜女のコミカルなメイクと演技で楽しませてくれました。良かったです。

 橋爪ゆかのクララ。今一つだと思いました。悲しみに打ちひしがれる役ですが、それでも結婚前の娘役です。もう少し、軽く透明感を出した方が、この役に合っているように思いました。

 笠井仁のドン・カルロス。良かったと思います。バリトンの脇役ですが、メンドーザよりも真面目な歌唱を行い、メンドーザとの対比を示していました。

 工藤博の神父と合唱も含む破戒僧の面々。如何にもロシアオペラのバスの合唱という雰囲気が出ていて良かったです。工藤のベテランぶりや、若手バス歌手たちの声を楽しみました。

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鑑賞日:2012年1月17日 

入場料: XA列16番 4500円

ダークヒルズ恋愛白書-Seasons of Love-
525,600分を生きる恋人たち
台本:北川辰彦

会場:座・高円寺

スタッフ

ピアノ  :  穴見 めぐみ   
照明  :  丸瀬 淳 
音響  :  星野 大輔 
舞台監督  :  藤井 涼子 
     

出演

ケリー  :  鷲尾 麻衣(ソプラノ) 
ディラン  :  北川 辰彦(バス・バリトン) 
アンドレア  :  三宅 理恵(ソプラノ)
ブラントン  :  桝 貴志(バリトン)
ドナ  :  澤村 翔子(メゾ・ソプラノ) 
ディヴィッド  :  高田 正人(テノール) 

プログラム

 

作曲家 

作品名 

曲名 

歌唱 

1  バーンスタイン  キャンデード  着飾ってきらびやかに  三宅 
2  バーンスタイン  ウェストサイド・ストーリー  アイ フィール プリティ  三宅、鷲尾、澤村 
3  ヴェルディ  リゴレット  私にはあなただけが希望と命  鷲尾、澤村、高田、北川 
4  ロッシーニ  セヴィリアの理髪師  私は町の何でも屋  桝 
5  プッチーニ  ラ・ボエーム  ミミ、君はもう戻ってこない  高田、北川 
6  ジョン  ライオン・キング  ハクナ・マタダ  桝、高田、北川 
7  ヨハン・シュトラウスU世  こうもり  さあ、来たまえ、踊りにいこう  北川、高田 
8  ヨハン・シュトラウスU世   こうもり  侯爵様、あなたのようなお方は  鷲尾 
9  スッペ ボッカチオ  恋はやさし、野辺の花よ  澤村 
10  モーツァルト  ドン・ジョヴァンニ  窓辺においで  北川 
11  ヴェルディ  椿姫  陽気に楽しく杯を酌み交わそう  高田、北川、桝、鷲尾、澤村、三宅 

休憩     

12  ロウ  マイ・フェア・レディ  踊り明かそう  鷲尾 
13  プッチーニ  ラ・ボエーム  おお、麗しい乙女よ  鷲尾、高田 
14  モーツァルト  魔笛  愛を感じる男の人たちには 澤村、北川 
15  バーンスタイン  ウェストサイド・ストーリー   トゥナイト・アンサンブル  鷲尾、三宅、澤村、高田、桝、北川 
16  プッチーニ  トゥーランドット  誰も寝てはならぬ  高田 
17  レイ  ラ・マンチャの男  見果てぬ夢  桝 
18  レハール  メリー・ウィドゥ  唇は黙し、ヴァイオリンは囁く  三宅、桝 
19  モーツァルト  フィガロの結婚  フィガロ、静かに  鷲尾、北川、高田、三宅、桝、澤村 
20  ラーソン  レント  シーズンス・オブ・ラブ  鷲尾、北川、三宅、桝、澤村、高田 



感想


「トレンディ・ドラマ」、のようなもの−「ダークヒルズ恋愛白書」-Seasons of Love-を聴く
 
 
  澤村翔子のブログを見ていたら、「ダークヒルズ恋愛白書」再演の情報があって、面白そうなので行くことにしました。
 宣伝文句「春の香りが残るここダークヒルズのとあるカフェでは、今日も娘たち3人の女子会が開かれている。
        毎日が恋の季節の彼女たち。
       「どうして男って浮気をするのかしら?」
       「私は彼を信じているけど、でも…」
       「じゃぁ…、試してみる?」
        いつもの他愛のないガールズトークが薫風に舞うように思わぬ方向に転がりだした。
        本当の愛とは何なのか。ダークヒルズを舞台に男女6人の恋の駆け引きが今始まる。
        今注目の若手実力派6人が贈る恋愛エンターテイメント!
        オペラあり、ミュージカルありの新感覚オペラ。
        幕が、今上がります!


 ま、こう書くと凄い斬新なもののように思いますが、基本のストーリーは、女性が男の性(さが)を確認しようとする「コジ・ファン・トゥッテ」の逆版です。フィナーレに「フィガロの結婚」のフィナーレの音楽を持ってくるところなどやはりオペラ歌手のアイディアだな、と思わされるなど、要するにパクリまくりです。まあ、タイトルの「ダークヒルズ恋愛白書」だって、アメリカのテレビドラマ『ビバリーヒルズ高校白書』、『ビバリーヒルズ青春白書』のパロディです。今回の出演者の名前、ケリー、ディラン、アンドレア、ブランドン、デヴィッド、ドナは皆、『ビバリーヒルズ高校白書』の登場人物の名前です。マークに記載された「DARK HILLS 12117」だって、、『ビバリーヒルズ高校白書』の原題「Beverly Hills, 90210」のパロディであることを如実に示しています。ちなみに90210は、ビバリーヒルズの郵便番号ですが、12117は、公演日ですね。

 これ以外にもパクリ・パロディが満載でした。あちらこちらに現代風のクスグリが一杯入っていて、例えば、AKBであるとか、韓流のポップス、いわゆるK-POPだとか、古畑任三郎のモノマネであるとか、クラシックではなくモダンを示そうと言う意識が強く示されました。

 内容は、三組の恋人同士の恋愛劇の中に、オペラアリアやミュージカルナンバーを原則として原語で歌う、というスタイルです。パクリとパロディの固まりですが、サービス精神が一杯でした。十分楽しめるエンターティメントだったと思いました。

 歌は、総じて上々でした。細かく申し上げていけば、三宅理恵の「着飾ってきらびやかに」に、高音が抜けた、であるとか、高田正人の「誰も寝てはならぬ」は、声に張りが感じられなかった、であるとか、いろいろあるわけですけれども、全体的に申し上げれば、二期会若手の実力派六人が集結した、というだけあって、それなりに高水準でありました。私としては、今まで知らなかった、個々の歌手の特徴を知ることができて良かったです。

 例えば、桝貴志はハイバリトンで、高音部はテノールの領域もある程度カヴァーできるのに対し、北川辰彦は、バスバリトンで、高音はほとんど出ない感じでした。しかし、低音の魅力は十二分に感じられるものでした。高田正人はテノールと言っておりますが、声質的には桝貴志と大きく違いがあるようには思えませんでした。演技は、それぞれに面白さがあります。全体の流れは、桝の大阪弁がコミカルな雰囲気があって面白かったですし、高田正人のとぼけた感じも良かったです。ちなみに高田デヴィットの「僕のドナちゃん」という言い回しは、『ビバリーヒルズ高校白書』における、デヴィッドのお決まりのセリフだったようです。

 北川辰彦は、男声陣の中では一番かっこいい役のように見受けられましたが、これは彼の低音が魅力的であるということと、台本を書いたのと関係があるのかもしれません。

 女声陣については、澤村翔子が殊に良かったです。メゾ・ソプラノと言いながら、「フィガロの結婚」では伯爵夫人を演じるとか、ソプラノ役も十分に歌えることを示しました。また、重唱での支えの歌唱が実に結構で、細かいパッセージなども上手に処理をしていたと思います。今まではオペレッタの方、という印象が強かったのですが、注目していくべきでしょう。

 鷲尾麻衣のおきゃんなケリーも面白く、「侯爵様、あなたのようなお方は」が特に良かったですが、声に合った選曲をしているからでしょう。三宅理恵が、「コジ」のドン・アルフォンゾに相当するのですが、ドン・アルフォンゾみたいな哲学者であるわけではなく、エッチな彼氏に愛想を尽かして、ヒステリックになる役柄です。三宅は、上述の通り、声が上手く出なかったところはありましたが、基本は中音部が厚くて、滑らかな声の持ち主で、結構です。

 一番最後に歌われた「Seasons of Love」は、「ラ・ボエーム」を下敷きにしたと言うミュージカル「レント」で歌われるナンバーです。ゴスペル風のこの曲をリズムに乗って上手に歌いあげました。確かに若手実力派歌手でしょう。

 ピアノ伴奏の穴見めぐみも、場面転換時の伴奏も含めて十分のフォローをして良好。とても楽しめました。

 クラシック音楽のとっつきにくさを軽減させた素敵なコンサートでした。300人しか入れない「座・高円寺」はほぼ満員でした。こういう舞台は、クラシック音楽が苦手な方にも支持されると思うので、再演を繰り返して、聴き手の裾野を広げていただけると嬉しいです。

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鑑賞日:2012119
入場料:
D席 2835円 4F L62

新国立劇場公演
2011/2012シーズンオペラ

オペラ4幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演

プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」La Boheme)
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ/ルイージ・イリッカ
原作:アンリ・ミュルジュ

会場 新国立劇場・オペラ劇場

スタッフ

指 揮 コンスタンティン・トリンクス
管弦楽 東京交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
児童合唱 TOKYO FM少年合唱団
児童合唱指導    太刀川悦代、米屋恵子、金井理恵子 
     
演 出 粟國 淳
美 術 パスクアーレ・グロッシ
衣 裳 アレッサンドロ・チャンマルーギ
照 明 笠原 俊幸
舞台監督 大仁田雅彦

出 演

ミミ ヴェロニカ・カンジェミ
ロドルフォ ジミン・パク
マルチェッロ アリス・アルギリス
ムゼッタ アレクサンドラ・ルプチャンスキー
ショナール 萩原 潤
コッリーネ 妻屋 秀和
ベノア 鹿野 由之
アルチンドロ 晴 雅彦
パルピニョール 糸賀 修平

感想

フラストレーション-新国立劇場公演「ラ・ボエーム」を聴く。

 「ラ・ボエーム」という作品を聴くポイントはいくつかあると思うのですが、その一つに野放図さと純愛の落差、というのがあると思います。野放図さを示す代表的な場面は、家賃を請求しに来たベノアを追い出すところ、であるとか、第二幕のカフェ・モミュスの請求書をアルチンドロに押し付けて食い逃げする場面であるとか、あるいは第四幕のミミが登場する直前のボヘミアンたちのおふざけの場面であるとかが挙げられます。

 純愛の場面は、ミミとロドルフォとが出会って一目惚れする場面もそうですが、例えば、マルチェルロとムゼッタがののしり合っている裏で、ミミとロドルフォが別れの二重唱を歌っているところとか、フィナーレのミミの死の場面も勿論そうです。

 私は、この青春の野放図な場面と純愛とをしっかりと分けながら、しかし、全体の統一が取れているような歌唱が良い歌唱だと思っています。

 そう考えた時、今回のロドルフォ、ジミン・パクの歌唱は如何なものかと思いました。基本的に柔らかい声の出し方をするテノールで、はまった時の美しさは素敵です。声質がやや軽めで、繊細。だから、第3幕の「別れの二重唱」などは情感がしっとりと合って素敵です。しかし、アクートが効かない。「冷たい手を」は、最初は良かったと思ったのですが、ロドルフォの気持ちが高揚して盛り上がるか、というとさほどではない。例のハイCはあまり張り上げていませんでしたし、聴き手にフラストレーションをためる方だと思いました。

 ミミについても同じようなことが言えると思います。カンジュミの歌う、「私の名前はミミ」は、今一つぼやっとした感じがあって、すっきりしません。もう少し切れが良く、メリハリをつけて歌われた方が、ミミという役どころの特徴がよく伝わったのではないか、という気がいたします。今回のカンジュミは、パクと同じで、繊細な部分の歌唱は見事なのですが、感情を込めなければならない部分は、今一つパッとしない。だから、二人の出会いの部分はあまり盛り上がらず、第三幕はとても良い、という関係なのだろうな、と思いました。

 アルギリスのマルチェッロは、あまり存在感が前面に出てこない感じがしました。ルプチャンスキーのムゼッタは、「ムゼッタのワルツ」が全体のバランスからみたとき、少し重いように思いました。

 萩原潤のショナールは、存在感がありました。ショナールは独立したアリアが与えられている訳でもなく、四人の男声の中では、一番目立たない役柄の筈ですが、今回の萩原は、アンサンブルの核になっている、というのか、存在のはっきりした位置に居りました。妻屋秀和のコッリーネは、萩原ほどの存在感を感じることはありませんでしたが、低音部を支える役割をきちんと果たしていたように思いました。唯、「古い外套よ、さらば」は、ビブラートがかかり過ぎです。もっとすっきりと歌って欲しかったと思いました。

 すなわち今回の演奏は、存在感の曖昧なミミ、ロドルフォと割とあるショナール、コッリーネという関係にあるのです。これはオペラ全体のバランスを考えると如何かな、と思いました。第二幕では、合唱の騒然とした中で、ミミ、ロドルフォ、マルチェッロ、ショナール、コッリーネの5人の歌う重唱が浮かび上がってくるように描くのが好ましいと思うのですが、それがはっきりしない。糸賀修平のパルピニョールの売り声が目立っていたので、ことに気になりました。

 そう思うと、ミミとロドルフォが、声を出すべきところでは出す、としていただかなければ、どうしようも無いな、と思った次第でした。

 トリンクスの指揮は、あまり特徴を感じさせないもの。主役の二人があんな感じだったのですから、指揮者がもう少し考えてあげればよいのかな、とも思いました。結局のところ、細かく見ていければ良いところもたくさんあるのですが、全体的には隔靴掻痒の感じの強い演奏で、フラストレーションが溜まりました。

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鑑賞日:2012121
入場料:
自由席:3000円

主催:子供と音楽を楽しむ会 グロリア少年合唱団

グロリア少年合唱団 ヨーロッパ・ツアー2012 プレコンサート プロジェクト

オペラ2幕、日本語上演/グロリア版
モーツァルト作曲「フィガロの結婚」La Nozze di FIGARO)
台本:松村努
原台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ

会場 磯子区民センター 杉田劇場

スタッフ

ピアノ 陣内 和歌子
ピアノ 山ア 亜耶乃
ピアノ 北野 悠美
合 唱 マーテル・グロリア
合 唱 グロリア少年合唱団有志
     
演 出 松村 努
音 響 間瀬 弦彌
照 明 間瀬 弦彌
舞台監督 間瀬 弦彌

出 演

アルマヴィーヴァ伯爵 服部 陽介
伯爵夫人・ロジーナ 櫻井 悦代
フィガロ 戸川 博樹
スザンナ 柴山 晴美
ケルビーノ 齊藤 ちとせ
マルチェリーナ 林 眞暎
バジリオ 松村 努
バルトロ 松村 努
ドン・クルツィオ 陣内 俊生
花娘1  :  高橋 悦子 
花娘2  :  宮木 恭子 

感想

一番短いフィガロ-グロリア版「フィガロの結婚」を聴く。

 フィガロの結婚を全部演奏すると、3時間は確実にかかります。一寸遅めの指揮者であれば、更に10分、20分のオーバーは覚悟しなければいけません。 結構なオペラ好きの方でも、「フィガロの結婚」は長すぎる、と仰る方がいらっしゃいます。だから普通は、カットが入ります。一番良くやられるやり方は、第4幕で歌われるバジリオとマルチェリーナのアリアをカットすることです。しかしそれをやったところで、正味2時間45分から50分の演奏時間が必要です。

 さて、これだけ長い作品を、その特徴を損なわずにどこまで短くできるのか、という大胆な試みを行って見せたのが、グロリア版の「フィガロの結婚」です。ちなみにグロリアとは鎌倉を中心に活動する「グロリア少年合唱団」のことで、「グロリア版フィガロの結婚」は、合唱団長で、合唱指揮者として著名な松村努が、子供たちに聴かせることを目的に作品を短縮したもののようです。

 短縮のやり方は、レシタティーヴォは全てカットで必要最低限の台詞となり、、ストーリーの展開は松村努ふんする、バジリオが舞台脇で説明します。楽曲についても、物語の展開上カット可能なアリアは、有名なものを除きカット、また、歌われるアリアについても繰り返しは原則なしですし、楽曲の一部をカットするなどの細かいカットもたくさんありました。結果として、話の展開が見えにくくなったところもあるのですが、正味1時間20分弱の演奏時間にまとめました。

 私の個人的な好みを申しあげるなら、第一幕のバルトロのアリアが無いのはすこぶる残念ですし、スザンナのアリアが、第二幕、四幕ともカットされてしまったのも詰まりません。重唱のカットにしても、例えば、第2曲のフィガロとスザンナの二重唱で、転調した後半がカットされ、スザンナが伯爵の部屋を渡した意図を説明するくだりが聴けなかったであるとか、いろいろと残念な部分は多いのですが、第1幕と第2幕とのポイントを40分でまとめて見せたスピード感は大したものだと思いました。

 「フィガロの結婚」のような艶笑オペラを子供に積極的に見せてよいのか、ということはありますが、こういう試みは大切なものだと思います。勿論短縮版は短縮版であって、本物を聴くときに持つ味わいはかなり薄くなっているのですが、仕方がないのでしょうね。こういう演奏で、「フィガロの結婚」を知ったお客さんが、いつか本物を聴いてくれるのを期待したいところです。

 さて演奏ですが、女高男低というのが正直なところ。出演者は、何人かのゲストを別にすればグロリア少年合唱団の指導者の先生方で、オペラ歌手ではないので仕方が無いのですが、歌のパワーが本業の方とは異なります。また、男声の低音部を受け持たれる方が乏しいようで、バルトロがほとんど登場しない、であるとか、本来テノールの服部陽介がアルマヴィーヴァを歌うなど無理がありました。また、重唱になるとどうしても低音部の支えが乏しく、歌が軽くなってしまう傾向がありました。

 服部のアルマヴィーヴァは高音が響くので、バリトンが歌うアルマヴィーヴァと比較すると、内に秘めた好色さが最初からオープンになっている感じが強く、そこがおかしかったです。領主さまの威厳よりは、例えば「リゴレット」におけるマントヴァ公の能天気さと通じるものを感じてしまいました。

 戸川博樹のフィガロは、カットが多かったせいもあるのでしょうが、この作品に流れる「フィガロの怒り」の様なものの表現が今一つ不足しており、そこに物足りなさを覚えました。

 松村努のバジリオとバルトロ、解説は、物語の流れを追うには適当なもの。なお、今回の台本は、松村の手によるものですが、19曲の六重唱における、Padre、Madreは、「父」、「母」と歌わせるのではなく、「パパ」、「ママ」と歌わせた方がよろしかったのではないかと思います。

 女声陣では、オペラの舞台をよく踏んでいる柴山晴美が一番良かったです。今回、柴山はアリアが無く、全てアンサンブルでの絡みだったのですが、アンサンブルの要になっておりました。スザンナの才気活発さをよく示していたと思いますし、「手紙の二重唱」での伯爵夫人とのデュエットは殊に美しいものでした。

 伯爵夫人の櫻井悦代はまあまあ良好。登場のカヴァティーナは、一寸声がこもりきみでしたし、三幕のアリアはもう少し歌いあげた方が良かったように思います。伯爵夫人には憂いを秘めた上品さは大事ですが、元々は、「セビリアの理髪師」のロジーナです。おきゃんな強さが裏にはあるはず。カットのせいもあるのでしょうが、伯爵夫人の持つ強さを感じることができませんでした。

 ケルビーノの齊藤ちとせ。歌は良かったです。ケルビーノは、この作品の中で色々な混乱を引き起こす原因になっているのですが、その部分はほとんどカットで、一寸残念ではありました。マルチェリーナの林眞暎も、声が若過ぎるのがマルチェリーナとしては如何なものかと思いましたが、音楽的にはさほど悪いものではなかったように思いました。

 全体的に言えることは合唱指導者たちが歌うオペラだけあって、音程がしっかりしているのが魅力的でした。アンサンブルが安定していたのはそれが理由でしょう。一方で、低音部の支えに乏しく、オペラ全体がドタバタ喜劇としての様相が強くなったような気がいたしました。

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鑑賞日:2012年1月28日 

入場料: U列1番 3500円

主催:財団法人 五島記念文化財団 マネジメント:財団法人 日本オペラ振興会

五島記念文化賞 オペラ新人賞研修記念

砂川涼子ソプラノリサイタル

会場:日経ホール

 

出演  :  砂川 涼子(ソプラノ)   
共演  :  村上 敏明(テノール) 
ピアノ :  村上 尊志
     
     


プログラム

 

作曲家 

作品名 

曲名 

歌唱 

1  ベッリーニ  歌曲集「6つのアリエッテ」 第1番「マリンコニーア」 砂川涼子 
2  ベッリーニ  歌曲集「6つのアリエッテ」  第2番「お行き、幸せなバラよ」  砂川涼子
3  ベッリーニ 歌曲集「6つのアリエッテ」  第6番「喜ばせてあげて」  砂川涼子 
4  ロッシーニ    アルプスの羊飼いの娘  砂川涼子
5  ロッシーニ  何も言わずに  ボレロ 砂川涼子
6  ロッシーニ  何も言わずに  アラゴネーゼ  砂川涼子
7  ロッシーニ  歌劇「コリントの包囲」 正義の神様 砂川涼子
8  ヴェルディ   歌劇「ルイザ・ミラー」  穏やかな夜には〜私に祭壇と墓場が用意された  村上敏明 
9  ヴェルディ 歌劇「二人のフォスカリ」  全てをお見通しの神様  砂川涼子

休憩     

10  中田喜直  歌曲集「マチネ・ポエティックによる4つの歌曲」 「髪」(作詞:原篠あき子) 砂川涼子
11  別宮貞雄  歌曲集「二つのロンデル」  「さくら横ちょう」(作詞:加藤周一) 砂川涼子 
12  グノー  歌劇「ファウスト」  イントロダクション (ピアノ独奏)
13  グノー   歌劇「ファウスト」   宝石の歌  砂川涼子 
14  グノー  歌劇「ファウスト」 この清らかな住まい 村上敏明 
15  プッチーニ 歌劇「トゥーランドット」  秘められた、打ち明けられることのない大きな愛〜氷のような姫君  砂川涼子 

アンコール     

16  プッチーニ  歌劇「トスカ」  妙なる調和  村上敏明 
17  ショーソン  歌曲集「愛と海の詩」  リラの花咲くころ  砂川涼子 
18  ビゼー  歌劇「カルメン」 第1幕の「手紙の二重唱」 砂川涼子/村上敏明 



感想


「向上への期待」 −「砂川涼子 ソプラノ・リサイタル」を聴く

 結婚、出産のため活動をセーブしていた砂川涼子が本格的に活動を再開したのが昨年のことで、本年は精力的な活動が予定されています。3月には藤原歌劇団本公演「フィガロの結婚」の「伯爵夫人」、続いて立川市民オペラ「トゥーランドット」の「リュー」が控えています。その前にリサイタルを行う。プログラムは、難曲を含む渋めの選択。意欲の高さが伺えます。これは行かずばなるまいと、日経ホールまで伺いました。

 満を持して行った演奏会なのでしょう。今の砂川の良さが良く表れた演奏会になっていました。

 まず良かったのは、予定されていたプログラム最後の「リュー」のアリアです。普通このアリアがコンサートで取り上げられるときは、「氷のような姫君」の部分しか歌われないことが多いと思うのですが、前半のリューのカラフに対する秘められた愛を表現する部分も情緒たっぷりに歌われ、大変結構でした。

 次に良かったのは、前半の最後に歌われた「二人のフォスカリ」からのアリアです。この作品は、日本ではほとんど上演されたことが無く、私も舞台を見た経験は無いのですが、こんな美しい曲があったとは知りませんでした。この曲の前に歌われた村上の「ルイザ・ミラー」のアリアが素晴らしかったので、砂川も少し前のめりになったようで、前半の歌の中では熱のこもり方が一番でした。砂川のスピントのかかった高音が素晴らしく、抒情的な表情も悪くなく楽しめました。

 お得意の「宝石の歌」が素晴らしいのは当然のこと。「コリントの包囲」のアリアは、「祈りの歌」という面があるのでしょうが、一寸落ちつきすぎている感じがして、もう少し、ドラマティックな部分を出した方が楽しめたかも知れないと思いました。

 一方、今一つだと思ったのは、最初のベッリーニ、ロッシーニの歌曲と日本語の歌曲です。

 ベルカント系の歌曲は、高音がすっきりと抜けて欲しいわけですが、砂川の声質からはどうしても声がすっきりと抜けてくれない。中声部のしっとりとした表現は素晴らしいのですが、高音を突っ張ろうとすると、ドラマティックになり過ぎてしまって重くなってしまいます。「マリンコニーア」などは男女色々な方が歌われますが、私は、レジェーロ系のソプラノが歌ってこそ映える曲だと思います。

 ロッシーニの「何も言わずに」は面白かったです。同じ歌詞の二つの歌曲の歌い分けは、砂川の実力を示すものなのでしょうが、オペラアリアを聴いてしまうと、印象が薄れてしまいました。作品の問題なのでしょうか?

 日本語の歌曲に関しては、歌詞が聞き取れないことが最大の問題です。クラシック系の歌手が日本語の歌曲を歌うと、細かいビブラートが日本語のアクセントを消してしまうのか、上手くいかないことが多いです。今回の砂川もメロディラインの美しさは分かるのですが、それが言葉として立ち上がっていない。日本語の詞を歌う、ということについての研鑚が必要だと思いました。

 それにしても全体的には彼女の実力を示すものでした。唯瑕疵がゼロという訳ではありません。今後の向上に期待しましょう。

 共演の村上敏明は問題です。主役を食ってはいけません(笑)。ルイザ・ミラーのアリアは、素晴らしいの一言。拍手の音が、それまで砂川に与えられていたものと全然違うのですから。若手ナンバーワン・テノールの実力を遺憾なく発揮しました。「ファウスト」のアリアも素晴らしいものでした。

 アンコールは、「妙なる調和」が良いのは当然、というところ。砂川のショーソンも、力が抜けた素敵なものでした。最後の「カルメン」の「手紙の二重唱」、流石にご夫婦だけあって息がぴったりでした。大変素敵なフィナーレとなりました。

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鑑賞日:2012年2月7日 

入場料: B席 3F3列24番 1000円

文化庁委託事業「平成23年度時代の文化を創造する新進芸術家育成事業」
文化庁芸術家在外研修(新進芸術家海外研修制度)の成果

主催:文化庁、制作:公益財団法人 東京二期会

明日を担う音楽家による特別演奏会

会場:東京オペラシティコンサートホール

スタッフ

指揮  :  大勝 秀也  
演奏  :  東京フィルハーモニー交響楽団 
美術  :  荒田 良 
照明  :  大塚 之英 
舞台監督  :  中村 眞理 
監修  :  木村 俊光 
司会  :  土崎 譲 

プログラム

 

作曲家 

作品名 

曲名 

歌唱 

1  ヘンデル エジプトのジューリオ・チェーザレ  序曲 (東京フィルハーモニー交響楽団) 
2  ヘンデル  エジプトのジューリオ・チェーザレ   辛い運命に涙はあふれ 山口清子(クレオパトラ)
3  モーツァルト  フィガロの結婚  早く開けて開けて  鈴木愛美(スザンナ)/小林紗季子(ケルビーノ) 
4  モーツァルト  魔笛  何て美しいこの絵姿  土崎譲(タミーノ) 
5  ドニゼッティ  愛の妙薬  優しいそよ風にお聞きなさい 山口清子(アディーナ)/西村悟(ネモリーノ) 
6  ドニゼッティ  連隊の娘  こうなってしまって私の運命も変わる  田島千愛(マリー) 
7  トマ  アムレット  私も遊びの仲間に入れて下さい 鈴木愛美(オフェリ)
8  マスネ   ウェルテル 手紙の歌「ウェルテル、誰が言えましょう」  鳥木弥生(シャルロット) 

休憩

9  ヴェルディ ナブッコ  かつては私の心も喜びに満ちていた〜今や私は血塗られた王座に  廣田美穂(アヴィガイッレ)
10  ヴェルディ  仮面舞踏会 永遠に君を失えば 西村悟(リッカルド)
11  ヴェルディ  アイーダ  戦い破れた国のお前の苦しみは  廣田美穂(アイーダ)/鳥木弥生(アムネリス) 
12  プッチーニ  ラ・ボエーム  おお、優しい乙女よ 田島千愛(ミミ)/高田正人(ロドルフォ)
13  チレア  アドリアーナ・ルクヴルール  苦い喜び、甘い責め苦 小林紗季子(ブイヨン公爵夫人)
14  プッチーニ  トゥーランドット  誰も寝てはならぬ  高田正人(カラフ) 

アンコール

15 ヴェルディ  椿姫  陽気に楽しく杯を酌み交わそう  出演者全員 

感想

何人が明日を担ってくれるのか −「明日を担う音楽家による特別演奏会」を聴く

 
 「文化庁芸術家在外研修」については、プログラムに以下のような記載があります。

 「文化庁では、将来我が国を担う芸術家を養成するため、昭和42年度から若手芸術家を海外に派遣し、研修の機会を提供する「芸術家在外研修(新進芸術家海外研修制度)」を実施しております。これまでに派遣された芸術家は2900人を超え、現在の我が国芸術界の中核的存在として国内外で活躍しています」

 即ち、今回歌われた方々は、「将来我が国を担う芸術家」になることを期待されている訳です。また、今回の演奏会は「文化庁芸術家在外研修」の成果を発表する場であったわけです。期待が高まります。入場料も1000円からとお安いこともあり、仕事が早く終わった火曜日、一寸覗いてみることにしました。

 聴いた感想を端的に申し上げれば「玉石混交」です。これは凄いと非常に感心させられた方から、いまいちかな、と思わされる歌唱をされた方まで様々でした。私が一番感心したのは、廣田美穂。この方は群を抜いた力量だと思います。また西村悟の声もしっかり上に抜ける美声で大変結構だったと思います。この両名は、このまま精進されれば、間違いなく「明日を担って」くれるでしょう。それ以外の方はやはり多々問題があります。今回は辛口にしっかり指摘しようと思います。なお、若い歌手の皆さんは、こんな批評にめげることなく、しっかり精進して、是非明日の日本のオペラ界を担って下さい。切に望みます。

 「辛い運命に涙は溢れ」:上方跳躍が上手く行っていませんでした。高音がかすれてしまうのも問題です。更に言えば、ヘンデルを歌うのに、あのヴィヴラートは如何なものかと思いました。

 「早く開けて、開けて」:小林ケルビーノの存在感が今一つ薄いのが残念でした。反面、鈴木スザンナは溌剌した感じが良く出ていて良かったです。

 「何と美しい絵姿」:高音が重く、天井から押さえられているような感じの歌唱で、モーツァルトテノールに期待されるかろみが感じられない歌でした。又曲の流れも妙なブレーキがあり、不自然さを感じました。

 「優しいそよ風にお聞きなさい」:アディーナの高音の抜けが今一つです。中音から高音への声の切り替えが露骨で滑らかに切り替わっていかないのが残念でした。ネモリーノ役はとても素敵でした。

 「こうやってしまって、私の運命は変わる」:歌っている表情が苦しげで、如何なものかと思いました。また、マリー役を歌うには声量が足りない感じがし、また歌唱全体が重たい感じがしました。

 「私も遊びの仲間に入れて下さい」:フレージングがもう少し滑らかだともっと良かったと思いますが、前半のソロの中では、一番の歌唱でした。良かったです。

 「手紙の歌」:感情のこもった歌で、悪くないと思います。ただし、感情表現が人工的と申し上げたらよろしいのか、ウソっぽく感じました。結果として歌唱に期待される切実感が感じられなかったように思います。

 「かつては私の心も喜びに満ちていた〜今や私は血塗られた王座に」:今回の一番の収穫だったと思います。柔らかで安定したフレージングのカヴァティーナと劇的表現のカバレッタとの対比が特に素晴らしく、大変感心いたしました。Bravaです。

 「永遠に君を失えば」:西村は美声だと思います。スピント・テノールの素質は、今回の三人のテノールの中で一番だったと思います。アクートも決まり、泣きも入り、感情の揺れ動きの表現も納得できるところで、今後の精進が期待されるところです。

 「戦い破れた国のお前の苦しみは」:廣田アイーダが強く、鳥木アムネリスが今一つ弱い感じでした。バランスとしては、もう少し廣田が弱く、鳥木が強く歌われた方が良かったと思います。

 「おお、優しい乙女よ」:1月17日の「ダーク・ヒルズ恋愛白書」で高田が鷲尾麻衣と歌いましたが、高田の歌唱は、今回の方が上です。ピンと張った歌で見事でした。一方、田島千愛のミミは今一つでした。

 「苦い喜び、甘い責め苦」:悪い歌唱ではありませんでしたが、ブイヨン公爵夫人のキャラクターを考えると、もっと低音が響いてほしかったと思います。

 「誰も寝てはならぬ」:高田は、1月17日の「ダーク・ヒルズ恋愛白書」でもこの曲を歌いましたが、その時の歌唱よりも今回の歌の方が絶対良かったと思います。今回も、余裕の歌唱にはなりませんでしたが、声がピンと張って、カラフの雰囲気をよく出していました。

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鑑賞日:2012年2月14日 

入場料: S席 1F8列22番 6000円

主催:財団法人日本オペラ振興会

団会員企画シリーズ
バレンタインコンサート

会場:渋谷区文化総合センター大和田さくらホール

スタッフ

ピアノ  :  住友 郁治  
ピアノ  :  瀧田 亮子 
構 成  :  小澤 慎吾 
照 明  :  三輪 徹郎 
舞台監督  :  齋藤 浩樹 
舞台美術  :  加藤 藍子 
演出助手  :  川島 慶子 
司会  :  牧野 正人 
司会  :  川越 塔子 

出演

ソプラノ  :  安達さおり、川越塔子、佐藤美枝子、沢崎恵美、オクサーナ・ステパニュック、砂川涼子、立野至美、古沢真紀子 
メゾソプラノ  :  森山京子
テノール  :  上本訓久、所谷直生、持木弘
バリトン  :  牧野正人
女声ユニットMuse-F  :  岩本留美(ソプラノ)/梅澤幸代(ソプラノ)/坂本麻友美(ソプラノ)/吉村恵(メゾソプラノ)
男声ユニットProvocante-F  :  藤原海考(テノール)/立花敏弘(バリトン)/東原貞彦(バス) 

プログラム

 

作曲家 

作品名 

曲名 

歌唱 

1  ヴェルディ 椿姫 乾杯の歌

佐藤美枝子(ヴィオレッタ)
所谷直生(アルフレード)
住友郁治(ピアノ)
他の出演者(合唱) 

2  プッチーニ  トスカ 

妙なる調和
マリオ!、マリオ!、マリオ!〜二人の愛の家へ
何とお前は私を憎んでいることか〜歌に生き、恋に生き

立野至美(トスカ)
持木弘(カヴァラドッシ)
立花敏弘(スカルピア)
瀧田亮子(ピアノ)
3  三人のソプラノによるオムニバス  ロッシーニ「セビリアの理髪師」
越谷達之助
プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」 

今の歌声は
砂山
私のお父さん

古澤真紀子
沢崎恵美
安達さおり
瀧田亮子(ピアノ)
4  ビゼー  カルメン  ハバネラ  森山京子(カルメン)
瀧田亮子(ピアノ)
5  ヴェルディ 椿姫

思い出の日から
不思議な気持ちだわ〜そは彼の人か〜花から花へ

佐藤美枝子(ヴィオレッタ)
所谷直生(アルフレード)
住友郁治(ピアノ) 

休憩

6  プッチーニ ラ・ボエーム 

良い考えが浮かばない
冷たい手を
私の名はミミ
おお、優しい乙女よ
私が町を歩けば 

砂川涼子(ミミ)
上本訓久(ロドルフォ)
川越塔子(ムゼッタ)
牧野正人(マルチェルロ)
立花敏弘(ショナール)
東原貞彦(コルリーネ)
住友郁治(ピアノ)

7  カルディルロ  カタリ・カタリ Provocante-F
瀧田亮子(ピアノ)
8  ロッシーニ セビリアの理髪師 私は町の何でも屋 牧野正人(フィガロ) 
9  ウクライナ民謡   私のところに来ないで ステパニュック・オクサーナ
(歌唱&パンドゥーラ)
10  A ロイド・ウェッバー  レクイエム  ピア・イエズス Muse-F
瀧田亮子(ピアノ)
11  サルイトーリ コン・テ・パルティロ Muse-F
Provocante-F
瀧田亮子(ピアノ) 
12  プッチーニ  ラ・ボエーム  ミミ、お前はもう帰らない〜フィナーレ 

砂川涼子(ミミ)
上本訓久(ロドルフォ)
川越塔子(ムゼッタ)
牧野正人(マルチェルロ)
立花敏弘(ショナール)
東原貞彦(コルリーネ)
住友郁治(ピアノ) 

アンコール

13   故郷  出演者全員 

感想 

アイディアこそが舞台の要 −日本オペラ振興会「バレンタインコンサート」を聴く

 
 バレンタインデーに行われるコンサート、ということで「愛」のオペラの楽曲を中心にしたガラ・コンサートです。カップルの来場を期待して、主催者はペア席を安くするサービスを行いましたが、一番来てほしかった若いカップルの姿はあまり見当たりませんでした。しかし、コンサート自体は充実した楽しいものでした。

 これは、まず「構成の妙」、と申し上げてよいだろうと思います。前半は「椿姫」、後半は「ボエーム」が主体になりますが、その間に色々な歌手が色々な歌を歌うと言うスタイルです。

 開幕はガラコンサートではおなじみの、出演者全員での「乾杯の歌」ですが、その時、既にトスカとカヴァラドッシは、舞台のほぼ中央で抱き合っています。「乾杯の歌」が終わって、この二人を除く出演者が舞台袖にいなくなると、この二人が、おもむろに「トスカ」のさわりを歌い出す、そういう仕組みです。嫉妬深いトスカが、「歌に生き、恋に生き」を歌って、舞台袖に消えると、「乾杯の歌」を歌ったあと見失ってしまったヴィオレッタを探すアルフレードに、夜会に参加していた女たちの恋のさや当てが始まります。

 女たちは、お互いの歌をアルフレードに聴かせることで妍を競います。古澤真紀子が、「今の歌声は」の前半を歌うと、和服姿の沢崎恵美が古澤を押しのけるようにして「砂山」を歌いだします。砂山の一番を歌い終わりますと、恋人にして欲しかった牧野正人をお父さんに見立てて、安達さおりが「私のお父さん」を歌って見せます。勿論、押しのけられた古澤、沢崎も黙っていません。「私のお父さん」が佳境に入ると、古澤ロジーナは、安達ラウレッタを押しのけて、「今の歌声は」の後半の華やかなパッセージを歌います。そこに現れるのが、妖艶な森山カルメン。争っている三人をしり目に「ハバネラ」で所谷アルフレードを誘惑しようとするのです。

 そこに戻ってくるのがヴィオレッタです。アルフレードは、ヴィオレッタと「愛の二重唱」を歌い、男の真摯な愛に戸惑うヴィオレッタは、有名な「そは彼の人か〜花から花へ」を歌って、前半が終了です。つまり、「椿姫」というオペラの第一幕のハイライトである、「乾杯の歌」から「花から花へ」までの間にガラ・パフォーマンスを詰め込んだ、ということです。

 後半も似ています。「ボエーム」のお話は、勿論、ミミとロドルフォの悲恋の物語ですが、今回の舞台では、ミミとロドルフォに焦点を当てると言うよりも、マルチェルロ、ショナール、コッリーネに焦点を当てたと申し上げたらよろしいのでしょう。ムゼッタが、「私が町を歩くと」を歌って、アルチンドロを振ると、振られたアルチンドロ、恋人のいないショナール、コルリーネは三人で、女性に振られた男の悲しみを歌う「カタリ」(つれない心)で心情を訴えます。

 そこに登場するのが、フィガロです。「私は町の何でも屋」と歌い、私に全てお任せなさい、というと、現われるのは美しい白人の美女。民族楽器のパンドゥーラを弾きながら、「私のところに来ないで」と拒否の歌を歌います。すっかりしょげてしまう男たち。しかし、捨てる神あれば、拾う神あり、ということで、若手女性歌手のユニット「Muse-F」が、A・ロイド・ウェッバーのレクイエムの中の一曲、大変美しい「ピア・イエズス」を歌いながら登場します。そこで仲良くなるのは男女の常。「君と共に、旅立つ」と歌い、新たな人生の希望を歌うのです。

 しかし、それはうたかたの夢。現実はパリの屋根裏部屋の男たちの巣窟です。そこに飛びこんでくるのがムゼッタ。瀕死のミミを連れて来ます。そして、「ラ・ボエーム」のフィナーレへと続くのです。

 正によく考えています。構成の小澤慎吾にまずはBravoを差し上げましょう。

 歌手陣の力量はそれぞれですが、柱となった方々の力が充実していて良かったと思います。

 前半の華は、やはりヴィオレッタを歌った佐藤美枝子でしょう。「ああ、そは彼の人か〜花から花へ」を聴いていると、声の艶といい、心情表現の変化といい流石の魅力だと思いました。同様に後半の要は、砂川涼子のミミです。今、ミミを歌わせたら砂川以上の日本人歌手は思いつかないな、と思えるぐらい素晴らしいものでした。「私の名前はミミ」も勿論よかったのですが、第4幕のフィナーレの歌唱と演技。流石砂川、と申し上げるしかありません。Bravaです。

 あとはベテラン森山と牧野は貫禄が違います。森山にとって「ハバネラ」はこれまで何百回と歌っている曲です。それだけに、身に染みついた歌唱でした。ああ歌われて、ぐいと睨まれては、若い歌手は声も出ないでしょう。牧野の「何でも屋」も正に貫禄。歌いこんできた魅力が歌に溢れていました。

 こういう方と比較すると、他の方はやはり軽量級と言わざるを得ません。所谷直生のアルフレードにせよ、上本訓久のロドルフォにせよ、女声陣の貫禄に圧倒されている、という感じでした。それでも皆さん、それぞれ特徴のある歌を歌ってよかったと思います。楽しめたコンサートでした。

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鑑賞日:2012215
入場料:
C席 5670円 2F 359

新国立劇場公演
2011/2012シーズンオペラ

オペラ2幕、日本語字幕付原語(日本語)上演

松村禎三作曲「沈黙」
台本:松村禎三
原作:遠藤周作

会場 新国立劇場・中劇場

スタッフ

指 揮 下野 竜也
管弦楽 東京交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
児童合唱 世田谷ジュニア合唱団
児童合唱指導    掛江 みどり 
     
演 出 宮田 慶子
美 術 池田 ともゆき
衣 裳 半田 悦子
照 明 川口 雅弘 
音楽ヘッドコーチ    石坂 宏 
舞台監督 菅原 多敢弘

出 演

ロドリゴ 小餅谷 哲男
フェレイラ 久保 和範
ヴァリニャーノ 成田 博之
キチジロー 星野 淳
モキチ 経種 廉彦
オハル 高橋 薫子
おまつ 与田 朝子
少年 山下 牧子
じさま 大久保 眞
老人  :  大久保 光哉 
チョウキチ  :  加茂下 稔 
井上 筑後守  :  島村 武男 
通辞  :  吉川 健一 
役人・番人  :  峰 茂樹 
牢番  :  川村 章仁 
刑吏A  :  丸山 哲弘 
刑吏B  :  大森 いちえい 
侍  :  佐藤 勝司 
修道士  :  半田 爾 

感想

遠藤周作への道-新国立劇場公演「沈黙」を聴く。

 遠藤周作と言えば、私が中高生のころ最も人気のあった作家のひとりでした。勿論それは、「沈黙」の著者の遠藤周作ではなく、「ぐうたら人間学」や「狐狸庵閑話」の作者としての遠藤周作であったわけですが、私は遠藤周作の純文学を理解するためには、「ぐうたら人間学」を書いた遠藤周作を知らなければいけないと思っています。遠藤は、キリスト教をバックボーンにした文学者でしたが、彼のキリスト教の感覚は、カソリックとしては異端でした。遠藤にとっての興味の中心は、心の弱い人たち、即ち欲望が強く、辛いことからは逃げ出してしまうが、罪悪感は持っているキチジロー的人間であり、「沈黙」における彼の興味はキチジローにありました。

 それだけに、オペラ「沈黙」でもキチジローをどう描くか、というのが一つの視点になると思います。

 私が、今回の演出を見ていて、キチジローの存在感が薄いような気がしました。それは宮田慶子の演出が悪いのか、それとも星野淳の歌唱・演技に問題があるのか定かではありませんが、もっとキチジローが「弱きもの」の代表として存在感を出してくれればよかったのにと思います。そうすれば今回非常に立派な歌唱をしたロドリーゴ役の小餅谷哲男との対立軸がはっきりして、より深い感動を覚えられただろうに、と思いました。

 そう言った根本的な疑問はあるものの、全体的に出演者がよく訓練されていた舞台でした。まずは主人公のロドリゴを歌った小餅谷哲男が抜群によかったと思います。キリシタン弾圧の時代の日本を見て、自分の無力を強く覚える様、信仰と現実との相克への葛藤など、役に入り込んだ歌唱でよく考えられたのだな、と思いました。Bravoです。一方、星野淳のキチジローは、役柄の曖昧さのせいなのか、どうもスタイルが固まらない感じで存在感が薄いです。村人やロドリゴを役人に売って、「許してつかあさい」、「コンヒサンをしてつかあさい」と叫ぶ姿がぴんと来ない感じでした。

 原作には登場しない、オペラならではこその出演者ですが、またモキチとオハルのコンビもよかったです。最初の「愛の二重唱」は、ビブラートがかかり過ぎて、この作品のあの場面でここまでビブラートを掛ける必要があるのか、と思いましたが、モキチが捕まって、オハルがモキチへの愛を歌う第1幕第8場の高橋薫子の絶唱は、彼女の力量を示すものでよかったです。また、モキチ役の経種廉彦も調子がよかったようで、若々しい清冽な歌唱になっていたと思います。

 それ以外の脇役の人たちも、それぞれの役柄を適切に歌っていました。久保和範のフェレイラ、与田朝子のおまつ、少年の山下牧子、吉川健一の通辞などが特に印象的でした。

 下野竜也、東京交響楽団の演奏も良好。私は、「沈黙」を見るのが二度目ですが、前回見た時よりも、舞台全体に厚みがあるように思いました。これは恐らく、歌手個々人の実力の差及び合唱団の力量、そして、下野の適切な解釈があったからだと思いました。音楽は、決して明るいものではなく、無調的な響きも多く、台詞の部分も少なくないオペラですが、舞台全体に引き込まれる魅力がありました。

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鑑賞日:2012218
入場料:
D席 6000円 5F 212

平成23年度文化芸術振興費補助金
2012都民芸術フェスティバル参加公演

主催:特定財団法人東京二期会/(社)日本演奏連盟

東京二期会オペラ劇場公演

オペラ4部、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲「ナブッコ」(Nabucco)
台本:テミストークレ・ソレーラ

会場 東京文化会館大ホール

スタッフ

指 揮 アンドレア・バッティストーニ
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 二期会合唱団
合唱指揮 佐藤 宏
     
演 出 ダニエレ・アバド
演出補  :  ポリス・ステッカ 
美 術 ルイージ・ペレーゴ
照 明 ヴァレルオ・アルフィエーリ 
舞台監督   佐藤 公紀 
公演監督 直野 資
舞 台  :  パルマ王立歌劇場 

出 演

ナブッコ 青山 貴
イズマエーレ 今尾 滋
ザッカーリア 斉木 健詞
アビガイッレ 岡田 昌子
フェネーナ 清水 華澄
アンナ 日隈 典子
アブダッロ 大久保 憲
ベルの司教長 倉本 晋児

感想

若さ×若さ=-東京二期会オペラ劇場公演「ナブッコ」を聴く。

 ヴェルディ第3作目にして最初に成功したオペラ作品である「ナブッコ」は、ヴェルディ29歳の時の作品です。モーツァルトのような早熟な天才は、20代で当然のように歴史に残る名曲を発表したわけですが、87歳まで生きたヴェルディにとっては、若さ溢れる作品と言ってよい。そういう若さの魅力が溢れる傑作である「ナブッコ」を若い指揮者が指揮するとどうなるか。それが今回の東京二期会「ナブッコ」の興味でした。なにせ、指揮者のバッティストーニは1987年生まれの24歳だ、というのですから。

 若いころから名指揮者と言われた方も沢山いますから、24歳が悪いということはありませんが、普通、指揮者が円熟してくるのは50代からだといいます。いくらなんでも若過ぎやしないか、そう思うのが当然です。しかし、このバッティストーニ、という方、手練手管は使わずにが、ストレートに音楽に向かっていきます。凄く潔い。それが、推進力となって、「ナブッコ」という若いオペラとよく響くのです。指揮自体は結構荒削りなところもあると思うのですが、「ナブッコ」も荒削りなオペラですから、それが問題にならない。音楽自体の若さと指揮者の若さとが上手く化学反応を起して、きびきびしてすっきりした音楽に仕上がっていました。Bravoでしょう。

 東京フィルも、指揮者の若さに応えたのか、すっきりした演奏を行っており、好感を持ちました。

 一方、歌手陣は、この指揮者やオーケストラほどはすっきりしなかったというのが本当のところでしょう。私の聴いたBキャストは出演者が20代、30代の若手ばかりなのですから、もっと指揮者に寄り添ってきびきびした歌唱にすればよいのに、と思いました。そういう全体的な問題はあるにせよ、個別の歌手はそれなりに頑張っていたと思います。特に男声低音系がよかったと思いました。

 外題役の青山貴がまずは上々です。一部歌唱に間延びしたところがあって、全てに満足できたわけではないのですが、ナブッコという役をよく作りこんだ感じです。前半のフィナーレで、まずは存在感をぐっと示し、後半のアビガイッレとの二重唱で、切々とした情感がなかなか結構で、第4部のアリアもヴェルディらしい美しさと激しさを盛り込んでよかったと思いました。

 それ以上によかったと思うのは斉木健詞のザッカーリアです。斉木は、低音がきちんと響くのが嬉しいところです。登場のアリア「あのエジプトの海岸で」がカンタービレの部分が艶やかで黒光りするような歌でよく、後半のカバレッタも華やかさこそありませんでしたが、しっかりした素晴らしい歌だったと思います。第2部で歌われるアリアも、低音の魅力がよく出ていましたし、それ以外の部分も低音がよく響いていて素敵でした。そう言う方ですから仕方が無いのですが、高音部は少し苦しそうでした。

 イズマエーレの今尾滋。前回のドン・ジョヴァンニのドン・オッターヴィオよりはテノールらしさが出るようになっていました。それでも、バリトンの顔が垣間見えてしまいます。声は悪くはないのですが、歌唱を無理やりテノールにしているような人工的な感じがして、私には未だ納得できる歌唱にはなっていませんでした。

 アビガイッレ。岡田昌子、大健闘だったと思います。特に第4部のフィナーレの死ぬところの歌唱が魅力的に聴こえました。しかし、一番の聴かせどころである、第2部第5曲のアリアですが、ここは今一つ。勿論一所懸命歌っているのは分かるのですが、全力過ぎて歌に余裕が無い。そのため、あの魅力的なカヴァティーナがギスギスしてしまって、勇壮なカバレッタとの対照性を示すことができませんでした。ほんの10日ほど前、私は、廣田美穂の歌うこのアリアを聴いたわけですが、廣田と岡田を比べた場合、廣田の歌唱が断然高レベルであると申し上げざるを得ません。

 清水華澄のフェネーナ。彼女もなかなかのものでした。唯、役柄的な問題もあるのでしょう。彼女の本来の実力を十分聴けたとは申し上げられないのが一寸残念です。それでもフィナーレのアリアはよかったと思います。

 合唱は全般的にとても結構。このオペラの中で一番有名なヘブライ人の合唱「行け、我が思いよ、金色の羽根に乗って」は勿論立派。最初からの予定だったのでしょうが、アンコールで2回歌って見せました。しかし、それ以外の合唱部分もそれぞれ魅力的で、この作品は合唱がよいと引き締まると思いました。

 今回の舞台はパルマ王立歌劇場の物を借用したそうですが、この舞台とダニエレ・アバドの演出は取り立てて素晴らしいとは思いませんでした。流石にセンスは悪くないと思いましたが、歌手たちの動かし方などは結構類型的で、この作品の魅力を著しく引き立てるものとは思いませんでした。

 それでも若さがかみ合った魅力ある音楽になっていたことで、十分に楽しむことが出来ました。

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鑑賞日:2012225
入場料:
自由席・無料

主催:国立音楽大学

国立音楽大学音楽研究所 オペラ演奏研究部門 2011年度公演

全1幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
ロータ作曲「ノイローゼ患者の一夜」(La notte di un nevrastenico)
台本:リッカルド・バンケッリ

日本初演

会場 国立音楽大学講堂大ホール

スタッフ

指 揮 河原 忠之

 

室内楽 オペラ・プロジェクト・管楽アンサンブル
合 唱 オペラ・プロジェクト合唱団
     
演 出 中村 敬一
舞台監督   徳山 弘毅 
総監督・制作 小林 一男

プレ・トーク「希代の映画音楽作曲家 本当の姿はオペラ作家だった」

お話  :  小林 一男 
ゲスト  :  早崎 隆志 
演奏  : 

小林 菜美(ソプラノ)
河原 忠之(ピアノ)
澤田 幸実(トランペット、学部3年)
小川 和隆(ギター)
後閑 綾香(電子オルガン、学部2年)
 

プレ・トーク プログラム
アルフレード・カゼッラの追憶の頌歌  1972 

小林 菜美(ソプラノ)/澤田 幸実(トランペット)/小川 和隆(ギター)/後閑 綾香(電子オルガン)/河原忠之(指揮) 

馬槽  1928-29  小林 菜美(ソプラノ)/河原 忠之(ピアノ)
音楽笑劇「フィレンツェの麦わら帽子」<全4幕>
より第3幕のエレナのアリア「パパ、私を置いていかないで」 
1945-46-55  小林 菜美(ソプラノ)/河原 忠之(ピアノ) 
音楽笑劇「フィレンツェの麦わら帽子」<全4幕>
より第4幕のエレナのアリア「パパ、私は彼が愛しいの」  
  小林 菜美(ソプラノ)/河原 忠之(ピアノ) 

出 演

ノイローゼ患者 小鉄 和広
フロント係 森田 学
退役軍人社長 青柳 素晴
カップルの彼氏 大間知 覚
カップルの彼女 高橋 薫子
客室係 小野島佳伸

感想

ニーノ・ロータはオペラ作曲家だった?-国立音楽大学音楽研究所 オペラ演奏研究部門2011年度公演「ノイローゼ患者の一夜」を聴く。

 1970年代は、私にとって映画鑑賞の10年で、乏しい小遣いをやりくりしながら映画館に通っていました。見たのはほとんどが洋画。私はハリウッドの娯楽大作も嫌いではありませんでしたが、ヨーロッパの文芸の香りのする作品に心が惹かれました。フェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティの世界はちょっと背伸びをしたい中学生や高校生にとって、憧れの的でした。そういう当時のヨーロッパ映画の中で、最大の映画音楽作曲家がニーノ・ロータでした。

 リアルでみたものでは、「ゴットファーザー」が思い出深いですし、「アマルコルド」、「カサノヴァ」なども覚えています。リバイヴァルで見た、「太陽がいっぱい」、「ロメオとジュリエット」、「山猫」などもロータの音楽でした。その当時から、「ニーノ・ロータは本当はクラシック音楽の作曲家なのだ」とは言われていたのですが、ロータの作曲したクラシック音楽など一つも聴いたことが無く、日本の聴衆にとっては、「映画音楽の巨匠」というイメージが強かったことは疑いありません。

 そんなロータのオペラである喜劇「ノイローゼ患者の一夜」が、国立音楽大学音楽研究所オペラ演奏研究部門公演として取り上げることを聞き、興味を覚えました。ちなみに国立音楽大学音楽研究所オペラ演奏研究部門は数年前から年に1度オペラ公演を行っており、例えば昨年はマスカーニの「友人フリッツ」を取り上げています。しかし、私自身はこれまで、他の予定とぶつかって伺えませんでした。本年は時間的にも問題なく、楽しみに伺いました。

 ちなみに喜劇「ノイローゼ患者の一夜」は、1950年に作曲されているそうですが、世間に公開されたのが、1959年イタリア放送協会RAIによるラジオ・オペラであり、その放送が「イタリア賞」を受賞したことにより、翌年ミラノ・スカラ座で舞台初演されたそうです。ラジオ・オペラという性質から、全編で40分ほどの短い作品で、今回の公演では、前半にプレ・トークと称して、ロータの音楽の全体感を示すセッションが行われました。

 小林一男教授が、ロータの生涯について概要を説明した後、早崎隆志氏によって、ロータの映画音楽の特徴を説明されました。ロータの映画音楽のことなど、まともに考えたことはこれまで一度もなかったのですが、彼は前衛的手法も伝統的なことも自在に操れる人だったので、映画作品の特徴に合わせてあのような多彩な音楽を書けたのだろうと納得できました。

 次いで、ロータの非映画音楽部門、即ち、彼が「純音楽」と呼んでいたところからの紹介です。ロータの師匠であるカゼッラに対する賛歌。この作品は相対的には前衛的な印象の強い作品。次いで歌われた「馬槽」は、古典的な感じのする宗教歌。そして、ロータの一番有名な歌劇である「フィレンツェの麦わら帽子」からニ曲歌われました。どれもはじめて聴く曲ばかりでしたが、小林菜美の歌唱は、落ちついたしっとりとしたもので、なかなか結構なものだと思いました。

 さて本編の「ノイローゼ患者の一夜」。今回が日本初演で、当然はじめて聴く作品です。舞台はミラノの高級ホテル。不眠症でノイローゼにかかっている男が、安眠を得るために自分が寝る部屋とその両脇の部屋を予約します。しかし、二部屋が使われないことを知っているフロント係は、その二つの部屋に、見本市に来ている社長と、不倫のカップルを泊めてしまいます。それを知ったノイローゼ男が、両脇の部屋の客を追い出そうとする。めでたく追い出せたときは、もう朝で、客室係が朝のコーヒーを持って登場。結局寝られなかったという喜劇です。

 音楽は前半がヴェリズモ・オペラ的音が聴こえて、イタリアオペラの伝統を踏まえた感じがあります。勿論主人公のノイローゼ患者とフロント係は、バッソ・ブッフォの伝統を受け継いでいます。一方無調的な表現もあり、20世紀後半の音楽出ることは疑いようはありません。フィナーレはまるでブロードウェイ・ミュージカルのようです。こういうところに、ロータの映画音楽作曲家としての経験が生かされているのでしょう。

 歌唱演技で一番よかったのは、主人公のノイローゼ患者を演じた小鉄和広。眠れなくてイライラした感じや、前のめりに歩く姿、両脇の客を追い出そうとするときの狂気の歌唱など、大変面白く、彼の演技が、この作品の面白さを引き立てたと思います。この怒りをとりあえずいなそうとするが、止めることが出来ずにどんどんエスカレートさせてしまう森田学のフロント係も面白かったです。

 ノイローゼ男の「うるさくて寝られないんだ」という苦情に対して、大間知覚と高橋薫子のカップルが、「僕たちも今夜は眠らせない」という答えるくだりは、シチュエーションコメディの味わいがあって面白く、しかし、ノイローゼ男の怒りが本当と分かると、不倫がばれたら困る女がさっさと逃げ出そうとする転換の表現も面白く聴きました。

 もう一人の客である青柳素晴も、合唱で参加するホテルの従業員たちも妙におかしく、抱腹の喜劇で楽しめました。

 指揮をした河原忠之は、伴奏ピアニストとして特に著名ですが、歌手たちに的確にキューを出しながら、このシチュエーション・コメディを上手くまとめました。いい演奏だったと思います。

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