オペラに行って参りました-2015年(その5)

目次

美男美女のよさ  2015年12月5日  藤原歌劇団「仮面舞踏会」を聴く 
「自分を知っている」ということ 2015年12月6日 オペラ彩「ランメルモールのルチア」を聴く
何度聴いても名曲は名曲  2015年12月12日  新国立劇場「ファルスタッフ」を聴く 
解説付きの功罪 2015年12月13日 「佐藤美枝子ドニゼッティコンサート」を聴く
最後の大物の初演を聴く  2015年12月20日  ガレリア座「悪魔のロベール」を聴く 

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2015年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2015年 
2014年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2014年 
2013年  その1  その2   その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2013年 
2012年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2012年 
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

 

鑑賞日:2015年12月5日 入場料:D席 3800円 3F 3列10番 

平成27年度文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業)

主催:公益財団法人日本オペラ振興会・Bunkamera

ヴェルディ生誕200年記念

藤原歌劇団公演

オペラ3幕 字幕付き原語(イタリア語)上演[リコルディ版]
ヴェルディ作曲「仮面舞踏会」(Un ballo in maschera)
台本:アントーニオ・ソンマ

会場:オーチャードホール

スタッフ

指 揮  :  佐藤 正浩   
管弦楽  :  東京フィルハーモニー交響楽団 
合 唱  :  藤原歌劇団合唱部 
合唱指揮  :  須藤 桂司 
演 出  :  粟國 淳 
装置・衣装  :  アレッサンドロ・チャンマルーギ
振 付  :  伊藤 範子 
照 明  :  笠原 俊幸 
舞台監督  :  菅原 多敢弘 
公演監督  :  折江 忠道

キャスト

リッカルド : 西村 悟
アメーリア : 小川 里美
レナート : 牧野 正人
ウルリカ : 鳥木 弥生
オスカル : 高橋 薫子
シルヴァーノ : 和下田 大典
サムエル : 久保田 真澄
トム : 小田桐 貴樹
判事 : 納谷 善郎
アメーリアの召使 : 狩野 武
暗殺団 : 飛鳥井 亮
  : 上田 誠司 
  : 江原 実
  :

大塚 雄太


感 想 美男美女の良さ-藤原歌劇団「仮面舞踏会」を聴く

 2013年2月に東京文化会館で上演した舞台の再演です。前回は東京文化会館で今回はオーチャードホール。舞台の大きさの違いや、見る側の距離感の関係もあるのか、今回の方が舞台装置が舞台にきっちり嵌っている感じがしました。演奏時間等もほぼ前回と同じで、休憩二回を含めて約三時間十分。しかし前回感じたもたついた感じはあまりなく、すっきりと流れた演奏になっていたと思います。そこは、指揮者の全体の流れの掴み方の上手さの差が出たのかもしれません。前回振った柴田真郁も決して悪い指揮者ではありませんが、今回の佐藤正浩の方がそういうバランス感覚に長けているということなのかもしれません。

 歌手陣は、前回と相当入れ替わりました。若返りの傾向と申し上げてよいのでしょう。それも良い方向に行ったように思います。

 リッカルドを歌った西村悟。素敵なテノールだと思います。長身、二枚目、声が甘い。モテるテノールの要素を全て持っている。登場のアリア「再び彼女に会える」から素敵。テノールの魅力を一杯味わえる「今度の航海は無事だろうか」も良かったし、フィナーレの歌唱も良かったです。惜しむらくは、ボストン総督としては声が甘すぎて、威厳が感じられない。そこが若いテノールの限界なのかもしれません。テノールの美感と役の重厚さが共に表現できれば天下無敵な感じがします。今後の成長を期待を持って見詰めて行きたいと思いました。

 小川里美のアメーリアも良い。登場のアリアは、最高音がやや詰まった感じになっていましたが、しっとりと諦念を示す第三幕の「死にましょうか」は非常に美しい。特にピアノになって段々消えて行くところの表現が見事だったと思います。小川里美も長身の美人ソプラノですから、西村と並ぶと本当に絵になる。オペラは第一義的には歌であり、音楽であることは申し上げるまでもありませんが、美男美女が忍ぶ恋を打ち明けるというのは、何といって絵的に美味しいです。第二幕前半のリッカルドとアメーリアの二重唱は、絵的にも音楽的にもとても素晴らしいと思いました。Braviです。

 レナートは牧野正人。体調不良の堀内康雄に代わって急遽出演です。一言で申し上げれば上手いです。さすがと申し上げるしかない。声量もあるし、声も明晰。そろそろ60歳というベテランですけど、声量は今回のメンバーの中で一番あると思います。オーケストラが無くなって歌手がフリーに歌える部分のここぞと言う部分の表現や、フェルマータでの伸ばしなどは声が良く伸び貫禄が違う感じです。一番の聴かせ所である、第三幕のアリアは、聴きほれて拍手をするタイミングを一瞬逸しました。いや、素晴らしい。

 ウルリカは鳥木弥生。彼女の子のようなおどろおどろしい役を演じるときのケレンの出方に私にはどうにも説明しがたい印象があるのですが、正にそのように表現してきたので面白く思いました。不気味な雰囲気が良く出ていて良かったと思います。

 主要役で唯一問題だったのはオスカルの高橋薫子でしょう。滅多にやらないズボン役ということで最初は気負いすぎていたようです。その気負いが空回りした感じです。最初のアリアでは男声的な表現を指向として声のポジションを下げたのですが、結果として上への跳躍が甘くなってしまい、音の不安定さを露呈してしまいました。すぐ調整して一幕の後半はしっかり歌っていましたし、第三幕の華麗な装飾部分は流石の歌唱ですが、第三幕でも「あれ?」と思う部分がなかったわけではなく、流石の名手もかつての正確さは無くなってきたのかなと思いました。今一つ体調不良だったのかもしれません。

 その他の脇役陣。みんな素敵でした。シルヴァーノの和下田大典、良かったですし、久保田真澄のサムエルも良かったです。藤原歌劇団合唱部の合唱はいつもながら立派なものでしたが、第一幕の合唱はもう少しそろった方が迫力が更に増すように思いました。

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鑑賞日:2015年12月6日
入場料:5000円、B席 LA10列9

主催:特定非営利活動法人オペラ彩/和光市/公益財団法人 和光市文化振興公社

オペラ彩第32回定期公演

オペラ3幕・字幕付原語(イタリア語)上演
ドニゼッティ作曲「ランメルモールのルチア」(Lucia di Lammermoor)
台本:サルヴァトーレ・カンマラーノ

会 場 和光市民文化センター サン・アゼリア大ホール

指 揮 ニコレッタ・コンティ

管弦楽 アンサンブル彩
バンダ 東邦音楽大学有志
合 唱 オペラ彩合唱団、東邦音楽大学付属第二高等学校/東邦音楽大学有志
合唱指揮  :  田邉 賀一 
演 出 直井 研二
美 術 大沢 佐智子
衣 裳    藤井 百合子 
照 明 坂本 義美
音 響 斉藤 順子
舞台監督 片岡 正俊
公演監督  :  和田 タカ子 

出 演

ルチア 出口 正子
エドガルド 村上 敏明
エンリーコ 星野 淳
ライモンド 矢田部 一弘
アルトゥーロ 小堀 勇介
アリーサ 河野 めぐみ
ノルマンノ 吉見 佳晃

感 想 「自分を知っている」ということ-オペラ彩「ランメルモールのルチア」を聴く

 出口正子が最も輝いていたのは、今から20〜30年前1980年代後半から1990年代前半にかけてでした。藤原歌劇団のプリマドンナとして、日本のオペラ界を支えた名歌手と申し上げて間違いありません。私自身はその頃からオペラの実演を聴き始めているのですが、当時は、今のようなオペラ中毒ではなかったし、来日団体にばかりに目が向いていたということもあって、当時、出口を聴いた経験はありません。

 出口を初めて聴いたのは、2004年に歌われたのは「ルチア」でした。この上演のことは実は完璧に忘れていました。私は凄く良かった公演や逆にひどかった公演は割と覚ているのですが、この「ルチア」はどんな公演だったか、誰がルチアを歌ったかも含めて完璧に忘れていました。ということは、普通の公演だったのだろうと思います。当時の感想を読むと、出口のルチアはそれなりの出来だったようですが、当時50代半ばの出口には年齢的な問題がそろそろ生じ始めている、ということでした。

 そこからさらに10年たっての出口。良かったです。声そのものの衰えはもう隠しようがありません。今全盛期の歌手たちと比較すると声の密度が薄くなっていますし、ところどころにおばあさん的わうわう声も聴こえます。しかし、出口の凄いところは、そのことを自覚して、きっちり歌おうと準備して来たことです。歌が基本に忠実で端正。響きが素直できれい。テクニカル的に大変なところは失敗したところも何か所かあるのですが、計算された美を感じさせる歌唱でした。狂乱の場は完ぺきではなかったですがそれにしても全体の歌の設計や表情、ピアノで歌われるところの繊細さなどは、流石名プリマだと思わずにはいられませんでした。

 村上敏明のエドガルドも良い。村上のエドガルドは2011年、藤原歌劇団公演で聴いていますが、その時よりも良いかもしれません。村上独特のくせのある歌い方は健在なのすが、それが以前ほど鼻に付かなくなったというか、或いは、情熱的な表情は健在だし、輝かしい高音もあるのですが、バランスが良くなってきたというべきか。相手が大先輩の出口であることを配慮して少し引いて歌うことにより、表情としてのメリハリが付いたということなのかもしれません。

 星野淳のエンリーコも悪くない。星野淳と言えば、かつては、良い時と悪い時との差がとても大きな歌手という印象があるのですが、最近は特に悪いと感じることが無くなってきました。エンリーコは敵役ではあるけれども、悪役ではない。当主としての苦悩と戸惑いをきっちり感じさせる歌唱でした。

 その他脇役勢は小堀勇介のアルトゥーロがすくない出番ながらも、美声を聴かせてくれました。矢田部一弘のライモンドも、一部これで良いのかと疑問に感じる部分もあったのですが、全体的には半悪役的表情を上手く出していました。

 このような歌手陣を支えていたオーケストラと合唱ですが、こちらも巧い。まず指揮が見事。ニコレッタ・コンティという女流指揮者ですが、カンタービレを示しながら曲を前に進める技術が立派です。イタリアオペラが何であるかが分かっていて、それをきっちり形にしてお客さんに示すことの出来る技量の持ち主ということなんでしょう。

 オーケストラは、臨時編成の40人程のものですが、コンマスが平澤仁、主要パートにはN響をはじめとする在京のプロオーケストラのメンバーが何人も参加しています。基本的な技術レベルが高いうえに、指揮者が良いから流れる音楽もまた素敵です。合唱も市民合唱のように見えて、主力は東邦音大メンバーであり、プロも何人か参加しているようです。普通の市民オペラよりも一段立派な合唱を響かせていました。

 以上、無傷の公演ではありませんでしたが、私には満足度の高い公演でした。

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鑑賞日:2015年12月12日
入場料:D席 6804円 4F2列39番

主催:新国立劇場

オペラ3幕・字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲 歌劇「ファルスタッフ」(Falstaff)
台本:アッリーゴ・ボーイト

会 場 新国立劇場オペラ劇場

指 揮 イヴ・アベル
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
     
演 出 ジョナサン・ミラー
再演演出 三浦 安浩
美術・衣装 イザベラ・バイウォーター
照 明 ペーター・ペッチニック
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 大澤 裕

出演者

ファルスタッフ ゲオルグ・ガグニーゼ
フォード マッシモ・カヴァレッティ
フェントン 吉田 浩之
医師カイウス 松浦 健
バルドルフォ 糸賀 修平
ピストラ 妻屋 秀和
アリーチェ アガ・ミコライ
ナンネッタ 安井 陽子
クイックリー夫人 エレーナ・ザレンバ
ページ夫人メグ 増田 弥生

感 想

何度聴いても名曲は名曲−新国立劇場 「ファルスタッフ」を聴く

 「ファルスタッフ」の実演を一番最初に接したのは、多分1995年のミラノ・スカラ座の引っ越し公演。リッカルド・ムーティが指揮し、外題役をホアン・ポンスが歌い、演出はジョルジョ・ストレーレルのもの。ムーティと言えば、現代の大指揮者の一人ですし、ポンスは、ファルスタッフ歌いとして一世を風靡した方です。だから、とても素敵な演奏だったと申し上げたいところですが、現実はさほどピンと来た演奏ではありませんでした。多分、あのスカラ座公演は未だ字幕付公演ではなかったことが関係し、予習が不十分だったことが関係するに違いありません。確かに初心者が一回見ただけで、音楽の面白さを分かるほど易しいオペラではないということは言えそうです。

 私はそれ以来10回ぐらいこのオペラを拝見しておりますが、聴くたびに新たな発見があって、毎回、これは凄いオペラだなと思っています。私は、自分が一番好きなイタリアオペラを「ファルスタッフ」だ、と申し上げているのですが、その考えは、まだしばらくは続きそうです。

 10回も聴きながらも今回も新たな発見があって、ヴェルディ先生の凄さに感服しました。全体に無駄がなくて演劇と音楽とが高いレベルで融合しています。シーンごとの音楽の切り替わりが明確でその対比性が鮮明です。オーケストレーションも単なる伴奏から一段発達してドラマの要素としてしっかり組み込まれていますが、それがプッチーニみたいにくどくならない。声楽的にはアンサンブルの組み立てが見事。最後の大フーガは申し上げるまでもありませんが、第一幕の九重唱なんかも凄いです。こういう重唱を聴いていると、この作品には耳の良いアンサンブルをきっちりこなせるキャストを揃えないとなかなか聴き応えのある演奏にはならないのだろうな、と思います。

 そのような音楽の良さを再発見できたのは、多分指揮者の功績が大きい。イヴ・アベルの指揮は軽快な音楽運びでもたつき感が無くスピーディ。音楽の鮮明さをより引き出そうという感じの指揮で素敵です。東京フィルハーモニーの演奏もこれに呼応したもので、曲の持つメリハリをしっかり示すものであったと思います。

 歌手たちも、基本的にはこの音楽の流れにきちんと従ったアンサンブル重視の演奏。だからだれないし、くどくならないし、それでいて基本的には鮮明な音楽になっているのだろうと思いました。

 タイトル役のガグニーゼ。特徴のはっきりしたファルスタッフらしいファルスタッフではないと思うのですが、その分演出にも指揮者の音楽作りにも忠実で、結果としてアンサンブルの中心にしっかり嵌る役割を果たしていました。その分「名誉のモノローグ」にしても「世の中は泥棒だ」にしても、もう少しケレンがあっても良いのかな、という感じはしましたけど、下手だったという訳ではありません。演劇的な部分で軽快な身のこなしなんかはあったわけですが、好色でケチだけど騎士としての尊厳は持っているというファルスタッフの設定をどこまで表現しきれたのかな、という点で、例えば前回この舞台でファルスタッフを務めたタイタスほどではなかったのかな、という感じがしただけです。

 カヴァレッティのフォードもよかったと思います。神経質で小狡さが表に出ていた感じで、そのイラつき感が良かったと思います。フォードのモノローグ「夢かまことか」も良かったのですが。

 フェントンは吉田浩之。前回の樋口達哉よりも一世代上がったフェントンですが、吉田の柔らかな語り口はフェントンに適正があるということなのでしょう。またアンサンブルの嵌り方も良いと思いました。

 女声陣は全体的に良好。私の趣味からするとクイックリー夫人はもう少し高いポジションで歌う方の方が良いのですが、今回のザレンバは声からして一寸魔女感があって、うーんというところでしょうか。アンサンブルを若干乱す方に働いていたとは思います。しかしながら女声陣のアンサンブルは前回の2007年の時よりずっと良い。これは、多分日本人の二人、特にメグを歌った増田弥生の力が関与していると思います。メグはほとんどアンサンブルにしか参加しませんが、彼女が入ると音の求心力がギュッと増す感じです。第一幕の九重唱がきっちり揃って気持ち良く流れたのは、増田や吉田といった元々アンサンブルの上手な方々が楔として入っていたためだと思います。

 アガ・ミコライのアリーチェは声がはっきりしていて存在感のあるアリーチェ、クイックリー夫人も存在感があるので、ぶつかり合うかと言えば、他の出演者が上手く緩衝したようで、見事なバランスになりました。安井陽子のナンネッタも良かったです。

 その他の脇役陣。妻屋秀和のピストラは新国立劇場ではおなじみですが、やっぱり巧い。糸賀修平のバルドルフォも良かったですし、高音でコメディタッチで歌唱し演じた松浦健のカイウスも良かったです。

 ジョナサン・ミラーの演出は何度見ても素晴らしい。本年正月藤原歌劇団も「ファルスタッフ」を取り上げましたが、歌の好き嫌いはともかく、演出はこちらが一日の長があると思います。この舞台を大切に何年か後に「ファルスタッフ」を取り上げて欲しいと思います。

 全体としては指揮者のコントロールの元、出演者たちがしっかり部品として機能することにより、全体として纏まっていて立派な演奏になっていました。「ファルスタッフ」の音楽的素晴らしさと演劇的面白さとをしっかり味わえる舞台でした。良かったです。

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鑑賞日:2015年12月13日
入場料:自由席 5200円


主催:
小空間オペラTRIADE

佐藤美枝子、ドニゼッティを歌う

会場:はなみがわ風の丘ホール

出演

ソプラノ  :  佐藤美枝子 
バリトン  :  谷 友博 
ピアノ  :  御邊 典一 
解説 :  岩田 達宗 

プログラム

作曲家/作品名 

曲名 

歌手 

ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」  あたりは沈黙に閉ざされ  佐藤 美枝子 
ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」  冷酷で不吉な苛立ちを  谷 友博 
ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」  ぞっとするような青白さが  佐藤美枝子&谷友博 
ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」  狂乱の場「あの人の声の優しい響きが」  佐藤 美枝子 
ヴェルディ「椿姫」  「ああ、そは彼の人か〜花から花へ」  佐藤 美枝子 

感想

解説付きの功罪−小空間オペラ、「佐藤美枝子、ドニゼッティを歌う」を聴く

 2011年3月の藤原歌劇団公演「ランメルモールのルチア」は、佐藤美枝子のルチア、村上敏明のエドガルド、谷友博のエンリーコ、岩田達宗の演出で上演されました。このルチアは、佐藤美枝子の白磁のような声の美しさと冴えを堪能できる上演で、村上エドガルド、谷エンリーコもよく、素敵な公演でした。今回は、村上敏明は出演しないものの、東京文化会館の熱気を85席のはなみがわ風の丘ホールで聴こうというぜいたくなもの。もちろん―オーケストラではなくピアノ伴奏です。

しかし、このピアノ伴奏が実に見事。御邊典一のタッチは非常に柔らかく、和音をレガートに鳴らすのに長けている。これは天性のものでしょう。この音と佐藤美枝子または谷友博の声がマッチして、非常に美しく響きます。佐藤美枝子のルチアは現在の日本の第一人者としての実力をいかんなく発揮したもの。役への入り込み方、豊かな表情、柔らかなフレージング、どれをとっても惚れ惚れとするような素晴らしさでした。二曲のアリアはどちらも素晴らしく、舞台との近さも相俟って、最高の贅沢をさせていただいたと申し上げます。

 谷友博のバリトンは、佐藤美枝子ほど役に入り込んでいた感はありませんでしたが、藤原の中核のバリトン歌手だけあって、声の質・量とも迫力十分。こちらも距離の近さを感じました。

 この解説を岩田達宗が行いました。岩田は藤原で「ルチア」を演出した時に相当勉強されたらしく、「ルチア」に関する背景説明や彼の見立てなど、熱を込めて説明いたしました。そこまでは良かったのですが、それ以外の部分、例えば「ベルカント・オペラ」の定義であるとか特徴であるとか、オペラに関する色々な説明は、どうも彼の思いこみのみだったようで、オペラ史にそんなに詳しくない私でも突っ込みどころ満載の解説でした。個人の見方はあっても良いと思いますが、やはり舞台に乗って解説する以上、それなりに調べてから発言されるべきだと強く感じました。

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鑑賞日:2015年12月20日 入場料:B席 2000円 24列42番 

主催:ガレリア座

ガレリア座第27回公演 オペラプロジェクト10

オペラ5幕 日本語訳詞上演 日本初演
マイヤベーア作曲「悪魔のロベール」(ROBERT LE DIABLE)
台本:ウジェーヌ・スクリーブ、ジェルマン・デラヴィーニュ

会場:パルテノン多摩大ホール

スタッフ

指 揮  :  野町 琢爾   
管弦楽  :  ガレリア座管弦楽団楽団 
合 唱  :  ガレリア座合唱団 
演 出  :  八木原 良貴 
美 術  :  長谷部 和也
振 付  :  藤井 明子 
照 明  :  寺西 岳雄 
音 響  :  小山 和男 

キャスト

ロベール : 釜田 雄介
ベルトラン : 北 教之
イザベル : 大津 佐知子
アリース : 久保 直子
ランボー : 佐藤 尚之
アルベール : 木下 圭一
パレルモ大聖堂の司祭 : 榎本 健太郎
騎士 : 木下 卓
騎士 : 藤本 純也
騎士 : 横田 則之
女官長 : 高橋 佳子
儀典長  : 神山 高義 


感 想 最後の大物の初演を聴く-ガレリア座「悪魔のロベール」を聴く

 日本でまだ演奏されたことが一度もないオペラ作品は山のようにあるわけですが、オペラ史上とりわけ重要な作曲家で、その作品が一度も上演されたことのない作曲家は相当少なくなっています。それでもフランスオペラの作曲家にはそういう方が何人かいて、スポンティーニとかケルビーニといった作曲家の作品は日本ではまだ上演されたことがありません。このような19世紀フランスオペラは日本では冷遇されているのですが、とりわけ重要で、作品数も多いマイアベーアもまだ上演されておりませんでした。

 19世紀フランスオペラの特徴は、いわゆる「グランド・ペラ」です。五幕構成、必ずバレエが入り、歌唱的にもソリストには超絶技巧が要求され、演奏時間も長いのですが、その割に内容が薄いと言われる。マイアベーアはこの「グランド・ペラ」の完成者と言われる方です。

 本当に内容が薄いかどうかはよく知りませんが、上演が難しいことはよく分かります。今回「悪魔のロベール」を初めて聴いたわけですが、大変な曲だということはよく分かりました。ロッシーニ張りのコロラトゥーラの超絶技巧が要求されるのに、演奏時間は4時間弱とワーグナー並です。プロの上演団体が敬遠するのは無理もない。しかしながら、ドン・キホーテのようにこの難曲にチャレンジした団体がありました。それが「ガレリア座」です。

 ガレリア座は、オペレッタ上演団体ですが、私が知っているオペラ・オペレッタを上演する団体で、アマチュアだけで自己完結している団体は「東京大学歌劇団」とここ「ガレリア座」しかありません。ソリストも、合唱団員も、バレエダンサーも、オーケストラ・メンバーも裏方も基本的には全員が「ガレリア座」のメンバーで、アマチュアです。そのアマチュアの歌好き、オペラ好きが難曲の日本初演に挑戦する。それ自体の志の高さにまず感心します。それだけでも十分称賛に値する。もちろん全曲演奏、元々オペレッタの団体ということで日本語上演になったのはちと残念ではありますが、偉いと申し上げたい。

 ただ、演奏が良かったかと言われれば、そこは流石に疑問符がつきます。「ガレリア座」にとっては「悪魔のロベール」は巨大な壁だったようです。テクニカルな限界も非常に感じましたし、体力的な限界もありました。

 主役のロベールを歌ったのが釜田雄介。この方はオペレッタのテノール役を歌わせるとかなりツボにはまっていて、声も素敵なのですが、ロベール役は荷が重かったようです。ロベール役はコロラトゥーラ的な軽い高音が要求されていると思うのですが、高音はずり上げも目立ち、発声的な限界がありました。ほとんど出ずっぱりの役で、体力的にもきつかった様子で、四幕、五幕はヘロヘロになっていました。

 一方、ヒロイン・イザベルを歌った大津佐知子は大健闘。大津もアマチュアとして活動されてきた方ですが、最近は東京室内歌劇場などでプロの方に交じってオペラ活動をされています。それだけのことはあって、高音も多分しっかり出ていたのだろうと思いますし、高音のコロラトゥーラの技巧もなかなかのものがありました。今回のメンバーの中では、随一の実力だと思いますし、活躍もされていたと思います。

 ベルトランを歌われた北教之。本物の悪魔の役なわけですが、そのクールな歌唱の中に、悪魔的な雰囲気がよく表現されていて、結構な味わいでした。

 合唱も含めたその他の脇役陣。合唱の水準は町の市民合唱団と比較して基本的な実力派高いと思います。パレルモの司祭として合唱曲「迷い拒まれしもの」の先歌いをした榎本健太郎は、合唱のソロとしては高いレベルにあると思いました。

 ただ、曲が長いためか演技もこなれているとは申し上げられませんし、歌だって、十分に歌いこまれているとは余り思えませんでした。この長大なオペラを上演するのに十分な練習時間を確保できていたのかな、という感じを持ちました。

 以上、演奏については満足できたとは申し上げられませんが、アマチュアの団体が、これだけの難曲を取り上げて新たな地平線を切り開いたということは、称賛して称賛しすぎることはありません。アマチュアがこれだけのことをやったということになれば、近い将来二期会や藤原歌劇団といった団体がマイアベーアを取り上げてくれるに違いありません。その先鞭をつけたという意味も含めて、再度「エライ」と申し上げます。

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