オペラに行って参りました-2012年(その5)

目次

とりあえずのポピュラーコンサート  2012年9月29日  府中の森芸術劇場どりーむコンサート「魅惑のオペラアリア」を聴く 
見事な心理描写  2012年10月2日  新国立劇場「ピーター・グライムズ」を聴く 
もう少し頑張って   2012年10月6日  昭和音楽大学「愛の妙薬」を聴く  
アンバランスと集中  2012年10月13日  La Primavera「オテッロ」を聴く 
学生の実力  2012年10月20日  2012国立音楽大学大学院オペラ「ドン・ジョヴァンニ」を聴く 
玉石混交  2012年11月1日  藤原歌劇団オータム・コンサートを聴く 
難曲への取り組み方  2012年11月9日  日生劇場「メデア」を聴く  
大ホールの難しさ  2012年11月18日  横浜シティオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を聴く 
プリマ・ドンナの存在感  2012年11月20日  新国立劇場「トスカ」を聴く 
素晴らしき演出  2012年11月23日  NISSAY OPERA2012「フィガロの結婚」を聴く  
デュトワ/N響の力量  2012年12月1日  NHK交響楽団第1742回定期演奏会「夜鳴きウグイス」/「子供と魔法」を聴く 
紙一重  2012年12月6日  新国立劇場「セビリアの理髪師」を聴く 
エリザベッタ!  2012年12月15日  オペラ彩「マリア・ストゥアルダ」を聴く  
     
     


オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2012年  その1  その2  その3  その4  その5   
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

鑑賞日:2012年9月29日
入場料:S席 21列41番 4000円

主催:公益財団法人 府中文化振興財団/公益財団法人 東京交響楽団

府中の森芸術劇場どりーむコンサートVol.77「魅惑のオペラアリア」

会場:府中の森芸術劇場どりーむホール

出演者

指 揮 飯森 範親

 

管弦楽 東京交響楽団  
ソプラノ    幸田 浩子   
テノール 福井 敬  


プログラム

 

演奏者 

作曲家 

作品/歌曲名 

1  オーケストラ ヴェルディ  歌劇「運命の力」より、「序曲」 
2  福井 敬  ヴェルディ  歌劇「リゴレット」より、マントヴァ公のアリア「風の中の羽根のように」 
3  幸田 浩子 ヴェルディ  歌劇「椿姫」より、ヴィオレッタのアリア「ああ、そは彼の人か〜花から花へ」 
4  福井 敬  ヴェルディ  歌劇「椿姫」より、アルフレードのアリア「燃える心を」 
5  幸田 浩子/福井 敬 ヴェルディ  歌劇「椿姫」より、ヴィオレッタとアルフレードとの二重唱「パリを離れて」 
6  幸田 浩子/福井 敬  ヴェルディ  歌劇「椿姫」より、ヴィオレッタとアルフレードとの乾杯の歌「友よ、いざ飲みあかそう」 

休憩 

7  オーケストラ  ヨハン・シュトラウスU世  喜歌劇「こうもり」より、「序曲」
8  幸田 浩子  ヨハン・シュトラウスU世  喜歌劇「こうもり」より、アデーレのアリア「侯爵様、あなたのようなお方は」 
9  オーケストラ  プッチーニ  歌劇「マノン・レスコー」より、「間奏曲」
10  福井 敬  プッチーニ  歌劇「トゥーランドット」より、カラフのアリア「誰も寝てはならぬ」 
11  オーケストラ  ロジャース  ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」より 
12  オーケストラ  レハール  喜歌劇「メリー・ウィドゥ」より、「前奏曲」
13 幸田 浩子/福井 敬  レハール  喜歌劇「メリー・ウィドゥ」より、ハンナとダニロとの二重唱「唇は語らずとも」 

アンコール 

14  幸田 浩子/福井 敬  ヴェルディ  歌劇「椿姫」より、ヴィオレッタとアルフレードとの乾杯の歌「友よ、いざ飲みあかそう」 

感 想

とりあえずのポピュラーコンサート-府中の森芸術劇場どりーむコンサート「魅惑のオペラアリア」を聴く

 ありていに申し上げれば、どさ廻り臭の強いコンサートでした。プログラムが如何にも入門コンサート風です。そういうポピュラーな名曲を並べたコンサートが悪いとは全く思わないのですが、その演奏が余りにもルーティンに流されており、演奏者たちの気合いが今一つ感じられない演奏会でした。

 特にオーケストラにその気合い不足を強く感じました。ソロパートは素晴らしいのですが、アンサンブルになると乱れる感じです。東京交響楽団木管首席の甲藤、荒、ヌヴー、福士というコンビは強力で、それぞれ見事な演奏をされるわけですが、弦楽器が揃わない。これは、リハーサルが不十分だったということではないか、という気がします。最初の「運命の力」序曲は、オペラの中のいくつかのメロディーが繋がって作られている作品ですが、それぞれの曲の繋ぎの部分が綺麗に流れないのです。「こうもり」序曲は、弦のトゥッティが微妙にずれていて、速いパッセージになると、細かい刻みが埋もれていました。

 こんなところは、リハーサルで少し確認しておけば済む話だと思うのですが、実際はどうだったのでしょう。飯森範親の指揮もあまり感心しませんでした。身体一杯に使って、音楽を強く表現しようとする意思はよくわかるのですが、少し大げさすぎる感じがします。速いところと遅いところ、強いところと弱いところ、メリハリが利いているのですが、あまりに強調されすぎていて変に人工的な演奏になっていて私の好みとは違っていました。

 前半のプログラムはヴェルディの「リゴレット」と「椿姫」。福井敬のマントヴァ公とアルフレード。流石にそつがない歌唱です。今の福井の声にとってマントヴァ公もアルフレードもやや軽い役柄のように思いますが、流石に日本のテノールの第一人者です。ポジションをそれぞれの役柄に合わせてしっかり声を出してきますし、きっちりアクートも決めて来ます。細かいところまで言えば、ノーミスではないのですが、十分に美声を響かせ、満足できる出来だったと思います。

 一方、幸田のヴィオレッタ。今一つでした。幸田の声にとってヴィオレッタは重すぎる役です。幸田浩子自身は実力者なので、メロディもリズムも問題ないのですが、彼女の声質では、ヴィオレッタに欲しい陰影が出て来ないのです。はっきり申し上げて声が足りない感じです。デッサンはしっかりしているのですが、色が塗れていないと申しましょう。

 この辺がどさ廻り感を感じる原因です。もし、このコンサートが都心で行われていたら、このプログラムであれば、別のソプラノを選んだと思いますし、逆に幸田を呼ぶのであれば、彼女の声にあった別のプログラムを考えたでしょう。客寄せのために人気のソプラノを呼び、本来の彼女の声に合わない曲を歌わせるのは、ローカルな演奏会だったから、と思ってしまいます。

 後半は、幸田、福井の得意曲。幸田にとってアデーレのアリアは、正にストライクゾーンで、文句なく立派な歌。「誰も寝てはならぬ」は、福井の十八番で、これまた定評のあるものです。ただし、「誰も寝てはならぬ」に関しては、以前に聴いた時よりもビブラートの振幅が広がっているように思いました。福井もそろそろ年齢の問題が出始めているのかも知れません。

 なお、「誰も寝てはならぬ」の中間部の合唱が入るところ、今回は合唱は無かったのですが、オーケストラはピアノで演奏しました。あそこは、合唱がない分、もう少ししっかりと演奏したほうが良いように思うのですが、そこが指揮者の趣味なのでしょう。

 後半の後半は、オーケストラで、「サウンド・オブ・ミュージック」のメドレーを演奏しました。これは、このミュージカルの「序曲」、「一人ぼっちの羊飼」、「私のお気に入り」、「もうすぐ17歳」、「さようなら、ごきげんよう」、「ドレミ」、「エーデルワイス」、「全ての山に登れ」を繋げたものですが、曲目の情報も編曲者の情報がプログラムにはなく、どういういきさつで作られたものなのか、分かりませんでした。演奏は、私の趣味からすると重いもの。「サウンド・オブ・ミュージック」の映画とは違った雰囲気の音楽になっていました。

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鑑賞日:2012年10月2日
入場料:C席 4F1列31番 7560円

主催:文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場

新国立劇場2012/2013シーズンオープニング公演(新制作)

平成24年(第67回)文化庁芸術祭主催公演

オペラ3幕、字幕付原語(英語)上演
ブリテン作曲「ピータ・グライムズ」(Peter Grimes)
台本:モンタギュー・スレイター

会場:新国立劇場オペラ劇場

スタッフ

指揮  :  リチャード・アームストロング   
管弦楽  :  東京フィルハーモニー交響楽団 
合唱  :  新国立劇場合唱団 
合唱指導    三澤 洋史 
演出  :  ウィリーデッカー 
美術・衣裳  :  ジョン・マクファーレン 
照明  :  デヴィッド・フィン 
音楽ヘッドコーチ  :  石坂 宏 
舞台監督  :  大澤 裕 


出演

ピーター・グライムズ  :  スチュワート・スケルトン 
エレン・オーフォード  :  スーザン・クリットン 
バルストロード船長  :  ジョナサン・サマーズ 
アーンティ  :  キャサリン・ウィン=ロジャース 
姪1  :  鵜木 絵里 
姪2 :  平井 香織 
ボブ・ボウルズ  :  糸賀 修平
スワロー  :  久保 和範
セドリー夫人  :  加納 悦子
ホレース・アダムス  :  望月 哲也 
ネッド・キーン    吉川 健一 
ボブソン  :  大澤 建 
子役(ジョン)(黙役)  :  高橋 洸翔

感想

見事な心理描写新国立劇場公演「ピーター・グライムズ」を聴く

 オールドバラという町が、イギリスの東海岸にあることを知りませんでした。何となく西海岸の外洋に面したところにあるように思っていました。それが実際は、ドーヴァー海峡に面した東海岸の町。また、イギリスの気候は、中学校の地理で習ったように、西岸海洋性気候で、冬暖かく夏涼しい温和な気候だと思います。 しかし、ピーター・グライムスの感じている海は、そんな優しいものではなく、荒々しく寂しいものに違いありません。それは恐らくベンジャミン・ブリテンも同じように感じていたのでしょう。

 今回の新国立劇場「ピーター・グライムズ」のウィリー・デッカーの演出も、海の秘めたる荒々しさがあります。勿論、この作品の背景には、嵐の海があるから当然なのですが、その現実の嵐だけではなく、村のコミュニティに馴染めない孤独の漁師の心の嵐と、その嵐を拒絶するような大きな壁があります。

 ピーター・グライムズは村八分の漁師です。そうなった原因は彼自身の乱暴な行動と狷介な性格にありますが、村人たちが、そういうピーターをスケープゴートにしたという部分もあります。そんな村人たちを拒否しながらもかかわりたいピーターのアンビヴァレントな感情をスケルトンは非常に上手に表現したと思います。乱暴な表情と、一転してエレンに憧れる心情を歌う時のつややかな表現の違いは、見事でした。声自身も立派ですが、歌唱技術も優れており、プロローグにおけるエレンとの二重唱は、音楽的にぶつかり合うものですが、そのぶつかり合いを見事に響かせていました。

 そのいう風な観点で見て行くと、スーザン・クリットンのエレンも見事でした。リリックな中庸な声で、ピーターを心配する心情を歌いあげます。エレンは、未亡人の女教師で、それだけで、一つ間違えば村のコミュニティから追放されかねない立場ですが、ピーターと村人を融合させる役割でもあります。ピーターは、エレンと結婚したいと願いますが、エレンはそんな気はほとんどないでしょう。ピーターの村人への反発に対する共感はあってもあくまでもそこどまり。そんなエレンの感覚や雰囲気をクリットンは一歩引いた落ちついた歌唱をすることで、上手に表現していたように思いました。

 ベテランのサマーズによるバルストロード船長も立派な歌唱。ピーターの理解者であるがゆえに、最後はピーターに引導を渡さなければいけなくなる立場。デッカーは、この船長を村のコミュニティや論理から離れられない人として描いて見せます。

 脇役陣では、ボーア亭の女主人役をやったキャサリン・ウィン=ロジャースの存在感が見事で、二人の姪役を演じた鵜木絵里・平井香織も良かったと思います。自らがアヘン中毒でありながら、ピーターの犯罪を必死で暴こうとするセドリー夫人役の加納悦子も存在感のある歌唱・演技で良かったです。そういう女性脇役陣と比較すると、男声脇役陣の存在感は薄い感じでした。見事なリリックなテノールでその存在を声で示した望月哲也や判事スワローの俗物性を上手に表現した久保和範などはいましたが、埋もれた感じにはなっていました。

 それにしても音楽全体の流れは立派なもの。アームストロングの音楽づくりがブリテンの音楽に深い共感を基盤に置いたものだからなのでしょうね。いい演奏になっていました。東京フィルハーモニー交響楽団も、ミスは随分聞こえましたが、全体の流れは、指揮者の指示に従って立派な成果を出したと思います。

 合唱も立派。コミュニティを維持する村人たちの心情を合唱で上手に示していたと思います。

 新シーズンの新演出の初日。滅多にやられない現代ものでしたが、よくできた演出と音楽でした。最初がこれなら、今シーズンの新国立劇場は期待できそうです。

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鑑賞日:2012106
入場料:B席 2500円 3F328番 

主催:昭和音楽大学

麻生区区制30周年記念
昭和音楽大学オペラ公演2012

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」(L'Elisir d'amore)
台本:フェリーチェ・ロマーニ

会場:昭和音楽大学「テアトロ・ジーリオ・ショウワ」

指 揮 :  松下 京介  
管弦楽  :  昭和音楽大学管弦楽団 
合唱  :  昭和音楽大学合唱団 
バレエ  :  昭和音楽大学短期大学部バレエコース 
合唱指導    山舘 冬樹 
演出  :  馬場 紀雄 
美術  :  川口 直次 
衣装  :  パスクアーレ・グロッシ/増田 恵美 
照明  :  奥畑 康夫 
バレエ振付  :  小山 由美 
舞台監督  :  伊藤 潤 

出 演

アディーナ

中畑 有美子

ネモリーノ

松岡 幸太

ベルコーレ

大石 洋史

ドゥルカマーラ

三浦 克次

ジャンネッタ

中井 奈穂

感 想 もう少し頑張って-昭和音楽大学オペラ2012「愛の妙薬」を聴く

 昭和音楽大学は、新百合ヶ丘のキャンパスに移り、テアトロ・ジーリオ・ショウワが開館してから、三回「愛の妙薬」を上演しています。2007年4月、2009年10月と今回です。2007年は、テアトロ・ジーリオ・ショウワ開館記念と言うことで、今回の松下/馬場のコンビにより、光岡暁恵のアディーナ、小山陽二郎のネモリーノ、三浦克次のドゥルカマーラのキャストで上演されました。舞台装置は今回と同じものだった筈です。この時は、光岡の素晴らしいアディーナ演奏に聴き惚れたことを覚えています。2009年は、同年6月、藤原歌劇団が使用したマルコ・ガンディーニの舞台を使用しました。この時のキャストは、主役のアディーナとジャンネッタを別にすると、偶然にも今回と同じメンバーでした。

 そんなわけで、この三回の上演は、それなりに関連していると思うのですが、舞台全体の完成度、と言う点では、今回が一番劣っているように思いました。

 まず、オーケストラが弱いです。松下京介の推進力のある指揮は悪くないと思うのですが、オーケストラが十分についていけていない部分があります。勿論練習時間は十分に取っているようで、基本的なミスが多いとは思わないのですが、音に濃くがない感じです。2009年の時の演奏も技術的にはあまり感心しなかったのですが、あの時の指揮者は、オペラの手だれ星出豊でしたので、要所を締めて、それなりに聴かせる演奏になっていたのですが、今回は、指揮者がそこまで締めきれなかった、と言う感じがしました。

 オーケストラが弱くても歌手が上手に演奏すれば、オーケストラへの不満なんか雲散霧消するのですが、今回はそちらにも不満が残ります。

 まず、中畑有美子のアディーナですが、前半があまり良くない。声のポジションがやや低かったのか、高音が押さえられている感じがありました。また声自身もやや重たい感じがあり、もう少し軽く歌った方が、アディーナのおきゃんな感じが出ると思いました。一方、後半はよかったです。特に、「人知れぬ涙」の後の大アリアがいい。声が軽くなり、最初の抒情的な表現が実に結構。そこからのクレッシェンドも良かったと思います。カバレッタのアジリダがもっと切れが良いと文句なしです。この部分は十分練習を積んだと言うことなのでしょうね。

 一方、松岡幸太のネモリーノ。不満です。軽くて明るい声はネモリーノに合っていると思いますし、前回と比較すれば音程も落ちついていたと思います。一方で、声全体を支える体格不足を感じました。特に後半は明らかに馬力が無くなっていました。声がアップアップしているのが丸わかりでした。例えば「人知れぬ涙」は、もっと歌いあげて良いと思うのですが、疲れていて腰砕けの感じでした。

 三浦克次のドゥルカマーラは、流石にベテランの味わいで要所を締めているのですが、前回、前々回と比較すると、完成度の低いドゥルカマーラでした。正直に申し上げれば、これまで何度も聴いてきた彼のドゥルカマーラの中で、一番良くなかったように思いました。

 大石洋史のベルコーレ。演技の大きなベルコーレで面白かったです。前回の大石は、歌唱はよかったのですが、印象の薄い演技でした。それと比較すればずっと存在感の強いベルコーレで、お邪魔虫的存在感が面白かったです。

 学生たちの合唱は、楽しそうで良かったです。舞台に乗れる嬉しさが声に出ていました。

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鑑賞日:20121013
入場料:自由 3500円 4F117番 

主催:La Primavera

オペラ4幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲「オテロ」 Otello)
原作:ウィリアム・シェイクスピア
台本:アッリーゴ・ボーイト

曳舟文化センター

スタッフ

指 揮  :  苫米地 英一   
管弦楽  :  Ensemble Primavera 
合 唱  :  La Primavera 合唱団 
合唱指揮  :  横山 慎吾 
     
副指揮  :  平野 桂子 
演 出  :  奥村 啓吾 
照 明  :  三輪 徹郎 
舞台監督  :  穂刈 竹洋 

出 演

オテロ  :  秋谷 直之 
デズデモーナ  森田 雅美 
イアーゴ  :  立花 敏弘 
ロドヴィーコ  :  後藤 春馬 
カッシオ  :  川野 浩史 
エミーリア :  新宮 由理 
ロデリーコ  :  飯島 竜也 
モンターノ  :  金子 亮平 
伝令  今井 隆 

感 想 アンバランスと集中-La Primavera 第7回公演「オテッロ」を聴く

 La Primavera という団体は、オペラをやりたい人たちが立ちあげたアマチュア団体のようです。どういう組織なのか、どういう財政基盤になっているのか分かりませんが、年に1回の公演を7年間続けてやっていることには敬意を表します。それも、20人余りのオーケストラと30人余りの合唱団が参加する本格的なもの。入場料が3500円か4000円、満席になっても500人ほどの会場で、この上演をしていくことは本当に大変な筈です。地方公共団体などから公演助成は貰っているのかしら、などと、余計なことも考えてしまいます。

 それに、団体の志が高いのも立派。立ち上げ公演の「愛の妙薬」に始まって、「椿姫」、「カルメン」、「マクベス」、「トロヴァトーレ」、「仮面舞踏会」と来て、「オテロ」です。ヴェルディの作品を例年取り上げて行く、というのは、この団体のプロデューサーやスタッフの意識の高さを物語っています。特に「オテロ」は、ヴェルディの晩年の、なかなか一筋縄ではいかない作品。それを若手中心の団体が果敢にもチャレンジしたのは、それだけでもたいへん素晴らしいことです。

 しかしながら、演奏は、「果敢なる挑戦」のレベルで止まっていた、というのが本当のところでしょう。特に前半がその印象が強い。

 まず、会場のせいだと思うのですが、音がストレートに聴こえすぎて混じり合わないのにまず違和感がありました。指揮者もオーケストラもソリストも合唱も皆一所懸命熱演しているのですが、音がばらばらで纏まって来ない感じです。音の強さのバランスも悪い。特にオーケストラ。各楽器1名のところが多く、第二奏者がいないので、音が痩せてしまうと言うことはあるかと思うのですが、それを意識してなのか、みんながそれぞれ一所懸命に演奏しすぎて、アンサンブルが破綻している感じでした。

 指揮者は、若手だけあって熱血型の指揮者で、熱狂的に演奏すればよいところはそれなりにかみ合った演奏になっているのですが、押さえなければいけないところになると、オーケストラの弱さが目立ち、しっとりとした雰囲気や音色を感じさせて頂くには至りませんでした。「オテロ」という作品自体が500人規模の会場で上演するには、それなりに無理があると思うのですが(もっと大会場で演奏する方がよい)、会場の広さや音響に配慮して、もっと抑制した演奏を心がけて貰った方が良かったのかな、と思います。

 合唱はアマチュアとしては、結構高水準でした。男声が多いのも好感。しかしながら、低音系男声が少なく、そのせいか、浮ついて聴こえてしまうところが多く、そこが残念でした。オーケストラも低音楽器が割と少なめで、音の押さえが今一つ足りない感じもしました。これで、低音系合唱団員と低音系楽器がもう少し充実していれば、随分聴こえ方が変わったのではないかと言う気がします。

 ソリストはプロの方。タイトル役の秋谷直之は、東京オペラプロデュースなどで活躍されているテノールで、ドラマティックな役柄を得意とされている方。オテロは適役なのでしょう。全体的にはなかなか立派な歌唱でした。唯、この方も頑張りすぎて、高音が伸びきれなかった部分もありましたし、高音で強く歌わなければいけない部分の息切れも気になりました。もっと全体的に抑制された歌唱の方が良かったのではないか、と言う気がします。

 森田雅美のデズデモナ。第1幕のオテロとの愛の二重唱はそれほど感心しませんでしたが、第4幕は立派。昔彼女を聴いた時よりも体格が立派になって、その分声や表現が柔らかくなった、と言うことはあるのかもしれません。「柳の歌〜アヴェ・マリア」はしっとりとして、情緒がたっぷりあって素敵なものでした。オーケストラの伴奏がもっと上手だったら、もっと良かったのですが。

 立花敏弘のイヤーゴ。キャラクター・バリトンの面目躍如、と言う感じでした。適度な歌い崩しが、イヤーゴの小悪党ぶりを引き立てていて面白く聴きました。一番の聴かせどころである「クレド」は結構だと思うのですが、オーケストラの生々しさが、イヤーゴの生々しさを打ち消して、立花の細かい表情の変化がはっきりと見えなかったのが残念でした。

 川野浩史のカッシオ。なかなか綺麗な声のテノール。カッシオのおどおどした表情が良く出ていたと思います。その他の脇役勢では、後藤春馬の声が、よく目立って立派でした。

 演出は、お金を掛けられないこの手の舞台では仕方がないとは思いますが、舞台装置はよくわからないもの。それならばそれなりに人の動かし方やしぐさで音楽の本質をついて貰いたところですが、ソリスト個々人の経験に負った部分が多い感じで、そこも全体的なアンバランスを感じる原因だったように思います。

 以上全体にバランスの悪さが聴き心地の悪さに繋がった公演だったのですが、アマチュア公演の常として歯車がかみ合った時の推進力は大したもの。それが第3幕。第1幕、第2幕のバランスの悪さが、突然かみ合い始めると、音楽の集中度が上がり、パワーの焦点が合い始め、音楽のまとまりがぐっと向上しました。 

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鑑賞日:20121020
入場料:S席
2500円 の列20番

2012国立音楽大学大学院オペラ公演

主催:国立音楽大学

オペラ2幕 字幕付き原語(イタリア語)上演
モーツァルト作曲「ドン・ジョヴァンニ」
Don Giovanni)
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ

会場:国立音楽大学講堂

スタッフ

指 揮 ヴィート・クレメンテ
管弦楽 国立音楽大学オーケストラ
チェンバロ  :  藤川 志保 
合 唱 国立音楽大学合唱団
合唱指揮 佐藤 宏
演 出 中村 敬一
装 置 鈴木 俊朗
衣 裳 半田 悦子
照 明 山口 暁
振 付 中島 伸欣
舞台監督 コ山 弘毅

出 演

ドン・ジョヴァンニ 高橋 正尚
騎士長 小林 啓倫
レポレッロ 狩野 賢一
ドンナ・アンナ 種谷 典子
ドン・オッターヴィオ 吉田 連
ドンナ・エルヴィーラ 岩永 美稚子
マゼット 照屋 博史
ツェルリーナ 厚澤 理奈

感 想

学生の実力-2012国立音楽大学大学院オペラ「ドン・ジョヴァンニ」を聴く

 私は、「大学オペラは決して馬鹿にしたものではない」と、ずっと言い続けて来ました。これは、2003年から聴き続けている「国立音楽大学大学院オペラ」や「昭和音楽大学オペラ」の聴取経験があったからです。「馬鹿にしたものではない」というのはかなり謙遜した言い方かも知れません。中には、その年のベスト3に入れてもいいような名演奏も何度もありました。これは、時間をたっぷりかけて、舞台を作り続けてきた賜物なのでしょう。

 少なくとも国立音楽大学に関しては、大学院でオペラを学んだ若い学生が二年間の成果を出すのが大学院オペラです。キャストは遅くとも4月には決まっている筈ですから、そこから半年、じっくり準備して本番を迎える筈ですから、十分な練習時間がある筈です。それなりに完成度の高い舞台を見せるのは当然だろうと思います。

 しかしながら、本年の舞台、正直に申しまして、この10年間、私が見続けてきた国立音楽大学大学院オペラの中で最低の出来だった、と申し上げざるを得ません。聴いていて悲しくなりました。

 その中で気を吐いていたのが助演陣。まず、狩野賢一のレポレッロがいい。彼のレポレッロは3年前の国立音大大学院オペラでも聴いていますが、ますます良くなっている感じがします。低音の太い音が一定の幅でしっかり出てくる感じがいい。又言葉の多い速いパッセージの処理も見事です。だから、ドン・ジョヴァンニとの二重唱になると、ドン・ジョヴァンニの不安定な部分をしっかり支えて、どちらが主人か分からないような表現になります。「カタログの歌」のようなアリアも勿論いいのですが、前述のような他の歌手たちを支える部分が見事で、音楽的な中心になっていました。

 小林啓倫の騎士長も良かったです。勿論、もっと重みが出せれば更に良いに決まっているのですが、20代の若手で、あれだけの声が出ているのですから、まあ、よしとすべきでしょう。マゼット役の照屋博史は、やや焦点がぼけた歌唱になっていたことは否めませんが、マゼットという役柄自身が、この作品の中では脇役中の脇役と言う位置づけですから、仕方がないのかもしれません。

 一方、大学院の二年生のキャストは全員が今一つでした。

 外題役の高橋正尚は、役が声に着いていない感じです。アリアを聴いているときはさほど気にならないのですが、重唱になると、腰砕けになる感じがします。声の艶が不足している感じで、たっぷりとした感じがない。だから、狩野賢一のレポレッロとやり合うと、レポレッロがどっしりと落ち着いた歌唱をしてくるのに、ドン・ジョヴァンニが線の細い歌唱をしてしまうので、どちらがご主人様なのか、声を聴く限りでは分からなくなってしまうのです。それでも、ドン・ジョヴァンニは一番ましでした。色々と不十分ではありましたが、とりあえず、ドン・ジョヴァンニではあったわけですから。

 それに対して、ドン・オッターヴィオを歌った吉田連はもっと問題。声質がどう見てもドン・オッターヴィオの声ではありません。ドン・オッターヴィオには、もっと抜ける声の高音のからっとしたテノールが似合うと思うのですが、吉田は、声に透明感がなく、もそっとした感じです。色々な事情で歌わざるを得なかったのだろうと思いますが、歌唱の完成度も低いものでした。

 ドンナ・アンナの種谷典子。一番破綻は少なかったのですが、安全運転の歌唱で、結果として、伸びやかさに欠ける歌となっていました。第2幕後半の大アリア「私が残酷ですって、それは違います」などが、その典型。アリアに含まれる細かい装飾歌唱などが歌いきれていない。こせこせとした歌になっており、もっと技巧的な鋭さと、声の広がりを欲しいように思いました。

 エルヴィラ役の岩永美稚子も今一つ。特に最初のアリアがよろしくなく、後半は挽回した感じです。彼女も声が伸びきれない感じが常にあり、破綻も多かったように思います。

 ゼルリーナ役の厚澤理奈はもっと問題。「打ってよ、マゼット」も「薬屋の歌」もまともに歌えていない。大体、声質がどう見てもゼルリーナ向きではないと思います。もっと軽くて、上に伸びる声が欲しいところです。

 問題は大学院生だけではありません。まず、指揮者のクレメンテの指揮に私は疑問を感じます。どうして、あんなに極端なリタルダンドをかけるのでしょう。歌えない歌手の救済策なのでしょうか。

 オーケストラもにもミスが目立ちました。ある程度もミスは仕方がないにしても、歌手がアリアを歌っている時のオブリガートをもろに外して、変な音を出すのは止めて欲しいところです。オーケストラのミスが興を削いだ側面もあります。

 例年、この方はプロになれるだろうと思う様な大学院生が必ず何人かいるのですが、今年は難しいと思います。結構残念な演奏でした。

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鑑賞日:2012年11月1日 
入場料:自由席 3000円

主催:公益財団法人 日本オペラ振興会

団会員企画シリーズ
藤原歌劇団 オータム・コンサート 

会場:杉並公会堂・小ホール

スタッフ

監 修 牧野 正人

 

企画/司会 若林 勉  
司会    田中   
ピアノ 今野 菊子  


プログラム

 

演奏者 

作曲家 

作品/歌曲名 

1  伊達 みずき(ソプラノ) ロッシーニ  歌劇「新聞」より、リゼッタのアリア「さあ、早くして頂戴!もう全部買いたいの」 
2  石田 亜希子(ソプラノ)  ドニゼッティ  歌劇「ドン・パスクァーレ」より、ノリーナのアリア「騎士のまなざしは」 
3  二瓶 純子(メゾソプラノ) ロッシーニ  歌劇「セビリアの理髪師」より、ロジーナのアリア「今の歌声は」 
4  葛貫 美穂(ソプラノ)  ロッシーニ  歌劇「ブルスキーノ氏」より、ソフィーアのアリア「ああ、愛しい花婿をお与えください」 
5  佐藤 みほ(メゾソプラノ) ポンキエッリ  歌劇「ラ・ジョコンダ」より、ラウラのアリア「船乗りの星よ」 
6  伊達 みずき(ソプラノ)  ロッシーニ  歌劇「新聞」より、リゼッタのアリア「どこにいるのかしら?〜女に親切な英雄たち」 
7  神本 理恵(ソプラノ) レオンカヴァッロ  歌劇「道化師」より、ネッダのアリア「大空の晴れやかに」 

休憩 

8  二瓶 純子(メゾソプラノ)  アーン  歌曲「クロリスに」 
9  伊藤 晴(ソプラノ)  プーランク  歌曲集「偽りの婚約」より、「飛んでいる」
10  伊藤 晴(ソプラノ)  マスネ  歌劇「タイース」より、タイースのアリア「私を美しいと言って」
11  石田 亜希子(ソプラノ)  プッチーニ  歌劇「トゥーランドット」より、リューのアリア「ご主人様、お聞き下さい」
12  佐藤 みほ(メゾソプラノ)  サン=サーンス  歌劇「サムソンとデリラ」より、デリラのアリア「私の心はあなたの声に花開く」 
13  濱崎 志麻(ソプラノ)  ドヴォルザーク  歌劇「ルサルカ」よりルサルカのアリア「空の深みのお月さま」 
14  望月 光貴(テノール) プッチーニ  歌劇「ラ・ボエーム」より、ロドルフォのアリア「冷たい手を」
15 党 静子(ソプラノ)  ドニゼッティ  歌劇「連隊の娘」より、マリーのアリア「 こうなってしまって、私の運命は変わる〜フランス万歳」 

感 想

玉石混交-「藤原歌劇団オータムコンサート」を聴く

 「藤原歌劇団オータムコンサート」と銘打っているので、藤原歌劇団の主力歌手が出演するのかと言えばさにあらず。普段は、藤原歌劇団合唱部で歌われていたり、外部で活躍されている方々が中心のコンサート。このメンバーの中で、私がソロを聴いたことがある歌手は、葛貫美穂と望月光貴だけだと思います。実は、佐藤みほも聴いたことがあるのですが、ほとんど印象に残っていません。

 プロフィールを見ると、日本オペラ振興会オペラ歌手育成部第13期から29期、オペラ歌手育成部の今年の春の修了生が第31期ですから、年齢的には「若手」が多いのでしょうが、それなりにベテランの方もいらっしゃる感じです。

 さて、コンサート全体の印象ですが、非常に手作り感の感じられるものでした。司会は、ベテランバスの若林勉と女性の方(田中さんと仰っていましたが、名前が聴きとれず、プログラムにも記載がない)で行われ、一曲ごとに歌手の紹介と曲の内容の説明をするのですが、非常に素人っぽい司会で、意味不明のところやトチッたりする部分が多かったです。特に女性の方は、あまり何を言っているのか分かりませんでした。

 また、登場する歌手たちは、自分の最初の曲を歌い終わると、自分の自己紹介をしました。中身は、今後の活動の宣伝や、これから歌っていきたい方向性など様々でしたが、お行儀のよいお話から、結構ざっくばらんなお話まで様々で、面白く聴けました。

 さて、プログラムですが、結構意欲的です。私も「新聞」のニ曲のアリアを聴くのは初めてですし、アーンとプーランクの歌曲も初めて聴いたと思います。それ以外でも、人口に膾炙しているのは、「今の歌声は」、「鳥の歌」、「リューのアリア」、「デリラのアリア」、「冷たい手」の5曲で、他は余り聞かないと思います。また、ロッシーニとドニゼッティの曲が多いのも、流石に藤原歌劇団だと思います。こういうプログラムは、ベルカント・オペラ好きとしては堪りません。

 しかし、歌の出来は様々でした。

 伊達みずきの「新聞」のアリアは、ニ曲目の方が良かったですが、あまり感心できませんでした。曲の盛り上げ方が妙にアンバランスですっきりとしない感じです。又、最初の曲は、トップバッターと言うこともあって、本人も緊張していたのでしょうが、高音が恐らく上がりきっておらず、技巧的な表現も今一つパッとしませんでした。また、声量に安定感が乏しい感じも残念でした。

 石田亜希子は、声の質から言えば、ベルカントの軽いものよりも、リューのようなリリックな役柄の方が似合うと思うのですが、曲の出来は、ノリーナの方が良かったです。地声が結構籠もる方で、ノリーナも高音はよく伸びて素敵なのですが、低いところがどうしてもくぐもって聴こえます。リューは、その籠もった感じが、全体を縮ませた様子で、私は好きにはなれませんでした。

 二瓶純子。「今の歌声は」は、歌が重く、ロジーナの溌剌さが今一つ聴こえませんでした。ビブラートが付きすぎるのも問題ですし、音程もやや不安定。「クロリスに」は、バッハを模した擬古典的歌曲とのことですが、それであればこそ、もっとノンビブラートの上品な歌い方が欲しかったところです。

 葛貫美穂。流石に上手です。声の軽さも魅力的ですし、溌剌した感じも流石でした。跳躍で一箇所小さなミスがありましたが、それまで登場した人たちと格が違うな、と思いました。

 佐藤みほは、前半のジョコンダのアリアは、上も下も押さえられている感じであまりパッとしない感じ。後半のデリラのアリアはとても立派。歌のまとまりと言う意味では、本日の白眉だと思いました。深みのある声がとても魅力的に響きました。

 神本理恵の「鳥の歌」。きっちり纏まっていて上手だと思いました。唯、中低音の密度が今一つ足りていない感じで、この夏に聴いた西本真子のネッダと比較すると、盛り上がりに欠けるネッダのように思いました。

 伊藤晴のプーランク。洒落ていて結構。曲の味を上手に示していたと思います。ニ曲目のタイスのアリアは、pで歌う低音部が、声が安定していない感じがしました。

 濱崎志麻。月に寄せる歌。高音が厚くしっかりしていて、ピンと張った声が魅力的でした。一方で、低音部のビブラートが気になりました。

 望月光貴。どうも風邪をひいていたようです。そのため、ウェルテルのアリアをキャンセル。それでも「冷たい手」では、持ち味の美しい美声を響かせました。風邪をひいていなかったら、もっと良い歌になっただろうと思うと残念です。

 党静子のマリーの大アリア。身につけていたショール、オペラグローブを投げ捨てながら歌う熱演。歌唱的には傷もあったのですが、その全体の雰囲気や歌のポイントの押さえ方は見事なもので、トリを飾る立派な歌唱になりました。

 ちなみにアンコールはなしでした。

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鑑賞日:2012年11月9日
入場料:C席 2FH列25番 7000円

主催:日生劇場/公益財団法人読売日本交響楽団/公益財団法人東京二期会

日生劇場会場50周年記念《特別公演》
読売日本交響楽団創立50周年記念事業
二期会創立60周年記念公演

オペラ全2部、字幕付原語(ドイツ語)上演
ライマン作曲「メデア」 (Medea)
原作:F.グリルバルツァー 三部劇詩「金羊皮」第3部「メデア」
台本:アリベルト・ライマン


日本初演

会場:日生劇場

スタッフ

指揮  :  下野 竜也   
管弦楽  :  読売日本交響楽団 
演出  :  飯塚 励生 
美術  :  イタロ・グロッシ 
衣裳  :  スティーヴ・アルメリーギ 
振付 :  大畑 浩恵 
照明コーディネーター  :  八木 麻紀 
ドラマトゥルグ・字幕  :  長木 誠司 
舞台監督  :  小栗 哲家 


出演

メデア  :  飯田 みち代 
ゴラ  :  小山 由美 
イヤソン  :  宮本 益光 
クレオン  :  大間知 覚
クレオサ :  林 美智子 
使者    彌勒 忠史 
メデアの子供 :  柴田 林吾/芝本 麟太郎 
ダンサー  :  竹田 容子
  :  今村 たまえ
  :  おオうち れいこ
  :  成平 有子 
  田中 美帆
:  斉藤 綾香

感想

難曲への取り組み方日生劇場公演「メデア
」を聴く

 日生劇場が会場50周年記念で「メデア」を取りあげると聞いた時、最初に思ったのは、ケルビーニのオペラ・コミックをやるのかと思いました。実は、ケルビーニのこの作品は、カラスの録音であまりに有名ですが、日本で上演されたことはまだありません。これは、と思ったのですが、作曲家を見てみると、「ライマン」と書いてあります。ライマンって誰?。恥ずかしながら全く知らない作曲家です。

 今回購入したパンフレットを読むと、ライマンは、現代オペラ作曲家としてヨーロッパでは相当有名な方のようですし、伴奏ピアニストとしてもフィッシャー=ディースカウの伴奏もされたほど有名な方だそうです。私が知らなかっただけ、と言うことのようです。

 さて、この「メデア」ですが、2009年に完成し、2010年にウィーン国立歌劇場で初演したばかりの最新作。それを2年後には東京の舞台に掛ける訳ですから、作曲の途中から、この話が進んでいたに違いありません。外国人作曲家の新作オペラを、プレミエの次の段階で舞台に掛けると言うのは、なかなかの英断だと思いますが、50年前のこけら落とし以来、要所要所で現代オペラの名作を取りあげてきた日生劇場だからこそできた、という部分はあるのでしょうね。大したものだと思います。

 音楽は、勿論現代音楽で、決して親しみやすいものではありません。そしてその音型にしてもリズムにしても全く一筋縄ではいかないというのが本当のところです。歌唱を聴いていると、広範囲での跳躍がこれでもか、と言う感じで続き、一瞬でも緊張が途切れたら、ボロボロになりそうな感じ。更に、不協和音の連続ですし、リズムだって、小節の中でリズムの変化があるようなところも当然のようにありますし、更に理不尽な音の飛び方が各所にあるので、きっちり暗譜していなかったら、とても歌えるものではありません。正に難曲だと思います。

 にもかかわらず、歌手陣、本当に頑張りました。まずはメデア役の飯田みち代。本当に頑張りました。素晴らしい歌唱だったと思います。これまで飯田を何度も聴いていますが、良い印象を持ったことはほとんどありませんでした。しかしながら、今回は十分に練習を積んだ様子で、複雑な跳躍も楽々とこなしている印象でしたし、何よりも声の張りが素晴らしい。力強さと弱い表現の使い分けも見事で、又表情にしても女の情念の出し方に魅力を感じました。間違いなく聴き手を引き込む歌唱でした。見直した、と申し上げます。

 宮本益光のイヤソンもいい。宮本の役作りは、例えばドン・ジョヴァンニにしても、マルチェルロにしても、役の個性もさることながら宮本の個性が出て、宮本節のようなものが聴こえることが良くあるのですが、今回のイヤソンは、宮本節的なところが全く感じられず、本当に宮本益光が歌っているのか、と思うほどでした。これは、曲自身が難しく、宮本ほどの手だれをしても、個性を表に出せるほど容易な曲ではない、と言うことなのでしょうね。でも、その無個性的な歌唱が、メデアに対抗する元夫の雰囲気を出すのには良かったように思いました。

 大間知覚の国王、小山由美の侍女、林美智子のクレオサにしてもそれぞれ、難しい音型をしっかりと歌い上げ、立派な歌唱になっていたと思います。

 更に、カウンターテノールの彌勒忠史。非常に良かったです。今回の歌手の中で、私は一番気に入りました。高い音で、安定した声が流れ、力強さもありました。普通ならアルトが歌手が歌うのでしょうが、彌勒が歌ったがゆえに武士の恰好が様になっており、その見栄えも含めて、役柄の雰囲気が良く出ていたと思います。

 以上の歌手陣、余程練習し、アンサンブルも揃えて来たのでしょうね。元々力のある方々が、十分練習して体調も整えて登場したがゆえに、難曲であってもこれだけの歌唱が出来たのだろうと思います。オペラを上演するなら、十分な練習が欲しい、と当たり前のことを感じてしまいました。

 それに付ける読売日響。悪くはないけれども歌手陣ほどは頑張っていなかった感じです。オーケストラは今回14型で、管楽器は舞台の両側に設えられた雛壇で演奏します。それだけに音のバランスも考えたのでしょう。オーケストラピットの底も浅く、オーケストラの音もよく通りました。曲自体の音楽的特徴もあるかと思うのですが、オーケストラが重要であることもよく分かりました。惜しむらくは、歌手陣ほど練習していなかった感じで、よれよれしたところはそれなりにありました。それでも、細かい分奏が一杯あり、敢えて耳障りな音も演奏しなければいけない、普段と違うことを要求されている訳ですから、その意味では頑張ったことは間違いないと思います。

 下野竜也の指揮はとてもよかったと思います。譜面台に置けれている総譜の大きさは新聞紙大と申し上げてもよいほどで、それを全部コントロールするわけですから、十分にご自身も勉強して取り組まなければならないのでしょうが、自信に満ちた指揮ぶりで大変良かったと思います。立派でした。

 飯塚励生の演出もイタロ・グロッシのシックな美術と相俟ってなかなか結構。舞台の三分の一にオーケストラが乗っている、比較的狭いところでの動きになるわけですが、その狭い舞台を日生劇場の舞台機構を積極的に活用しながら、動かしていきました。

 以上、日本初演の現代オペラ、正直申し上げれば、最初はとっつきにくかったのですが、途中から音楽に引き込まれ、後半は、メデアの復讐を彼女の心情に即して大いに楽しむことができました。下野、読響、歌手陣に、Braviを心から申し上げます。

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鑑賞日:20121118
入場料:C席
6000円 2F6列43番

第22回神奈川オペラフェスティバル'12 第2夜
主催:NPO法人横浜シティオペラ

オペラ2幕 字幕付き原語(イタリア語)上演
モーツァルト作曲「ドン・ジョヴァンニ」
Don Giovanni)
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ

会場:神奈川県民ホール大ホール

スタッフ

指 揮 山下 一史
管弦楽 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
チェンバロ  :  服部 容子 
合 唱 横浜シティオペラ合唱団
合唱指揮 君島 広昭/加藤 千春
演 出 中村 敬一
装 置 荒田 良
衣 裳 小野寺 佐恵
照 明 山本 英明
舞台監督 村田 健輔
制 作 柳澤 涼子/神奈川オペラフェスティバル実行委員会

出 演

ドン・ジョヴァンニ 清水 宏樹
騎士長 大澤 建
レポレッロ 柴山 昌宣
ドンナ・アンナ 弓田 真理子
ドン・オッターヴィオ 安達 道人
ドンナ・エルヴィーラ 和泉 万里子
マゼット 福山 出
ツェルリーナ 飯田 千夏

 

感 想

大ホールの難しさ-第22回神奈川オペラフェスティバル'12第2夜 横浜シティオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を聴く

 神奈川県民ホールは、古い音楽ホールの中では、東京文化会館、NHKホールと共に、日本のオペラシーンをけん引してきた大型ホールです。収容人員2300人余り。今どき、エスカレーターもエレヴェーターもありませんが、間口の広い舞台は、客席から見やすく、私は結構気に入っているホールです。唯、惜しむらくは、特別な音響設計をされている訳ではないので、適切な反響板が置かれないと、音が抜けてしまうこと。今回の演奏は、その悪弊が出てしまったように思います。

 勿論指揮者の山下一史は、そのホールの特徴を意識してか、フルオーケストラをオケピットに入れて来ました。第1ヴァイオリンが12本の12型のオーケストラは、モーツァルトのオペラを上演するには、やや大編成ではないかと思いますが、神奈川県民ホールの大きさを考えれば、決して大きすぎることはないと思います。

 山下はその会場で、オーケストラを比較的ゆったりとドライヴしました。きびきびしたオーセンティックなモーツァルトと言うよりは、もっと泰然とした一世代前のロマンティックなモーツァルトに通じる部分がある演奏でした。懐の深い演奏だったとおもいます。

 しかし、歌手陣は、このホールの広さとオーケストラの懐の深さを十分に生かし切れていなかった、と言うのが本当のところでしょう。もっとはっきり申し上げれば、声が会場の広さとオーケストラの音に負けていた。残念ながら、2300人規模のホールの空間をたっぷりと満たすだけの声がない方がほとんどでした。

 勿論例外もいます。レポレッロ役の柴山昌宣。この方だけは会場の広さに声が負けていませんでした。明瞭なフレージングと声の大きさで、アンサンブルでもオーケストラの音に埋没することなく、存在を主張しています。また、彼はブッフォ役の得意な方ですが、そのオロオロした動きや小心者ぶりは正にレポレッロと言うしかなく、大変楽しく聴くことができました。Bravoです。

 柴山以外は、皆声量に不満が残りました。一寸ピアノで歌うと声が失速するのはいただけません。神奈川県民ホールは上記の通り、適切な反響板を置かないと音が抜けてしまうのですが、中村敬一の演出、荒田良の装置は、三角形の台を舞台中心左寄りに置いた位の抽象的な舞台とし、反響させるものがないので、歌手たちにとっては辛いのかもしれませんが、そういう演出の中でもしっかりと声を届けるだけの身体能力があってほしいところです。

 清水宏樹のドン・ジョヴァンニは、すかした役作りで面白いと思いました。声も気取っていて、如何にもドン・ジョヴァンニと言う感じを見せます。ゼルリーナを誘う誘惑の二重唱であるとか、ドン・ジョヴァンニのセレナードは、その気取った雰囲気が面白いと思いました。一方で、デモーニッシュな部分は物足りない。もう少し声にパワーがあれば、気取った部分と悪魔的な部分の対比が明確に出来て良かっただろうに、と思いました。

 弓田真理子のドンナ・アンナ。線が細いです。きっちり歌われているのは分かるのですが、プリマ・ドンナの精気が聴こえて来ないのです。23曲目の大アリア「いいえ違います。私は貴方のもの」などは、しっかりと歌われていてとても好感が持てるのですが、今一つ盛り上がらない。もっと小さい会場だったらどんな風に聴こえるのかしら、と思ってしまいます。

 和泉万里子のドンナ・エルヴィラも線が細いという点では変わりがありません。ドンナ・エルヴィラはもっともっと感情表現が豊かに歌われないと、ドン・ジョヴァンニに棄てられた女の悲しみが表現できないのではないかと思いました。歌を正しく歌うというラインはクリアしているのでしょうが、そこで留まっている限りは、聴き手が満足しないと思います。

 安達道人のドン・オッターヴィオ。テノーレ・リリコ・レジェーロの声が如何にもドン・オッターヴィオらしい声で良かったと思います。声が美しいので、21曲目のアリア「私の恋人を慰めて」などは、とてもいい雰囲気です。しかし、この方も線が細いという点では他の方と同様で、歌がきっちり締まらない感じがあります。もっと声の密度が欲しいところです。なお、登場の重唱では音程がやや狂っているなど、細かい処理の点で何箇所か気になるところがありました。

 飯田千夏のゼルリーナ、福山出のマゼットの恋人同士はどちらも不満です。線が細いのは他の方と同様ですが、歌としての安定度が他の面々より低いです。「ぶってよ、マゼット」も「薬屋の歌」ももっとピンとした声で軽やかに決めて欲しいと思います。またマゼットも低音の扱いが今一つで、もう少し何とかならないのか、と思いました。

 大澤建の騎士長。大澤も年とったな、と言う感じです。フィナーレの「ドン・ジョヴァンニ」と呼びかけるところで、声がよれてしまうのはいただけません。

 以上、このメンバー、この演出では、神奈川県民ホールは広すぎたな、というのが正直なところです。神奈川県民ホールの半分位の規模の少し響きのよいホールを使えば、もっともっと楽しめたに違いありません。そう思うと、残念です。

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鑑賞日:2012年11月20日
入場料:C席、6615円 4階2列31番 

主催:新国立劇場

オペラ3幕 字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「トスカ」(Tosca)
原作:ヴィクトリアン・サルドゥ
台本:ジュゼッペ・ジャコーザ/ルイージ・イリッカ

会場 新国立劇場オペラ劇場

指 揮 沼尻 竜典  
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
児童合唱  :  TOKYO FM少年合唱団 
児童合唱指導  :  太刀川 悦代、米屋 恵子、金井 理恵子 
演 出 アントネッロ・マダウ=ディアツ
美 術 川口 直次
衣 装    ピエール・ルチアーノ・カヴァッロッティ 
照 明 奥畑 康夫
再演演出 田口 道子
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 斉藤 美穂

出演者

トスカ ノルマ・ファンティーニ
カヴァラドッシ サイモン・オニール
スカルピア センヒョン・コー
アンジェロッティ 谷 友博
スポレッタ 松浦 健
シャルローネ 峰 茂樹
堂守 志村 文彦
看守 塩入 功司
羊飼い 前川 依子

感 想 プリマ・ドンナの存在感-新国立劇場「トスカ」を聴く

 ノルマ・ファンティーニは千両役者です。例えば、「トスカ」第二幕で、スカルピアを殺した後、通行許可証を手にした時の表情、やはり、あの顔つきは、プリマ・ドンナならでは、と言う気がします。あの存在感を持ってすれば、何をしても許されてしまう、という感じがあります。しかしながら、その演技力を無視して、素の音楽の力量だけを見る時、今回のファンティーニは、かつてほどの魅力がないのではないかという気がしました。

 とにかく高音が重い。元々高い音を軽々と歌うタイプのソプラノではありませんが、一寸したところで音がさがって気持ちが悪いです。「歌に生き、恋に生き」ですら、途中の音が変なところがありました。第3幕のカヴァラドッシとのデュエットは、オーケストラが無くなる、アカペラのデュエットですが、ファンティーニの音程が下がってハモらない。まあ、若い歌手でこんな歌を歌ったら、徹底的に極評されますが、大プリマであれば、その存在感ゆえにBravaを貰ってしまう。「なんか、変だな」、と思ってしまいました。

 一方カヴァラドッシとスカルピアは、実にステレオタイプのカヴァラドッシとスカルピアでしたが、だからこそ良いと思いました。

 サイモン・オニールは、高音でのアクートで、「ドッコイショ」と言う感じで、一瞬ためを作ってから高音を出してkるる。このギアの切り替えはもっと滑らかに行って欲しいと思いましたが、行きついた先の高音の伸びと力強さは魅力的なものでした。「妙なる調和」が良かったですし、「星は光りぬ」も立派。唯、星は「星は光りぬ」の絶唱の後、指揮者はオーケストラを止めず、拍手を貰えなかったのは、心残りでしょう。

 センヒョン・コーのスカルピア。私がこれまで聴いたスカルピアの中で、一番憎々しいスカルピアでした。スカルピアは、やっていることは残虐で外道ですが、一寸kクールなバリトンが歌うと、カヴァラドッシよりも魅力的なスカルピアが造形されてしまいます。そういうスカルピアを私はこれまで何人も聴いてきました。しかし、今回のスカルピア、見た目もそうですし、細かい動きも、如何にも悪役と言う感じで、共感できるところがないのが素晴らしいと思いました。歌はきっちり歌っているのに、ここまで悪役的なスカルピアが見られたと言うことで、心からBravoを差し上げます。

 脇役陣では、志村文彦の堂守、アンジェロッティの谷友博がよく、松浦健のスポレッタ、峰茂樹のシャルローネも何度も歌っている役だけあって、安心して聴けるものでした。

 沼尻竜典の音楽づくりは、たたみこむような攻めよせ方で、「トスカ」という作品の持つ本質的な品の無さをあぶりだしていました。デュナーミクを大事にし、劇的な部分はオーケストラを思いっきり鳴らし、静かな部分はそれなりに、という演奏で、私はなかなかいいと思ったのですが、ここまで品の無い演奏をすべきではないと考えた方がいらしたのか、カーテンコールでは強いブーを貰っていました。

 舞台は、新国で何度めの登場になるのでしょうか、典型的な具象化の舞台である、マダウ=ディアツのもの。この舞台、私は好きです。トスカのようないわゆるヴェリズモの作品は、演出に凝るより、こういうオーソドックスな舞台が何と言っても素敵だなと思います。

トスカTOPに戻る」
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鑑賞日:20121123
入場料:C席
7000円 2FG6列43番

NISSAY OPERA2012
日生劇場開場50周年記念

主催:日生劇場

オペラ4幕 字幕付き原語(イタリア語)上演
モーツァルト作曲「フィガロの結婚」
Le Nozze di Figaro)
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ

会場:日生劇場

スタッフ

指 揮 広上 淳一
管弦楽 新日本フィルハーモニー交響楽団
チェンバロ  :  平塚 洋子 
合 唱 C.ヴィレッジシンガーズ
合唱指揮 田中 信昭
演 出 菅尾 友
美 術 杉山 至
衣 裳 半田 悦子
照 明 吉本 有輝子
ドラマトゥルク 長島 覚
舞台監督 幸泉 浩司

出 演

アルマヴィーヴァ伯爵 萩原 潤
伯爵夫人 北原 瑠美
フィガロ 折河 宏治
スザンナ 楠永 陽子
ケルビーノ 守谷 由香
マルチェリーナ 栗林 朋子
バルトロ 大塚 博章
ドン・バジリオ 馬場 崇
ドン・クルツィオ 黒田 大介
アントーニオ 藤澤 眞理
バルバリーナ 中本 椋子
二人の農民の娘

後藤 真美/藤長 静佳

感 想

素晴らしき演出-NISSAY OPERA2012「フィガロの結婚」を聴く

 「フィガロの結婚」は見る機会の多いオペラで、これまで、新国立劇場、東京二期会、藤原歌劇団、といったメジャーなプロダクションから、武蔵野音楽大学、国立音楽大学、東京音楽大学といった大学のプロダクション、メトロポリタン歌劇場や、ウィーン国立歌劇場といった海外のものまで随分多数のものを見ております。演出もロココ調のオーソドックスなものから、新国立劇場のホモキの演出のように抽象的ではあるけれども、作品の本質を衝いた演出まで様々です。しかしながら、今回の菅尾友の演出ほど、「フィガロの結婚」という作品の持つ本質的な面白さに肉薄した演出は初めてだと思います。とにかく菅尾の演出にBravissimoを申し上げます。

 菅尾の舞台は、いわゆる現代への置き換え演出です。スザンナはメイド服を着て登場しますし、フィガロは、頭を銀髪にしてリーゼントで固めたパンクロックでもやりそうな風体。ケルビーノとバルバリーナは男女の高校生で、今風の何ちゃって制服を着て登場といった具合。そういう彼らが、三階建ての屋敷の中で歌唱し演技します。この屋敷は横から見えるので、どこで何をやっているのかが一目瞭然です。更には、噂やのバジリオは、i-Padを持って登場し、のべつ幕なしに動画を撮影して、その動画は、3階の伯爵の部屋に映し出されます。つまり、多面的な視点で舞台を見せる仕組みになっているのです。

 例えば、伯爵夫人の部屋は二階にあって、衣裳部屋と夫人の寝室と居間とバルコニーが付いています。第二幕の伯爵夫人とスザンナとがケルビーノを女装させていると、伯爵が入ってくる場面では、衣裳部屋に隠れたケルビーノの不安な様子が、伯爵夫人の部屋で言い争っている伯爵夫妻が言い争っている隣で如実に示されます。そして、スザンナに助け出されたケルビーノは本当に二階のバルコニーから飛び降り(勿論後ろ側に飛びおり、着地の瞬間は見えないのですが)、直ぐに庭を走って逃げる様子を見せます。

 要するに、現代に置き換えた演出ながら、オペラの中に描かれたシーンを割合視覚的にしっかり見せようとした演出と言って良いのでしょう。「フィガロの結婚」はいうまでもなく、セクハラでパワハラのドラマですが、そのセクハラの部分も遠慮がありません。伯爵は赤いガウンで登場し、スザンナを押し倒そうとしますし、フィガロとスザンナ、ケルビーノとバルバリーナの恋人同士も音を立ててキスをするなど、直截的な表現があちらこちらに見受けられました。

 一方で、「フィガロの結婚」が持つ本質である、旧来の権威への風刺と崩壊への共感、これもまた、しっかりと示されていました。第一幕、第二幕では、それぞれの部屋は、誰かが歌唱・演技する時以外は、ロールスクリーンで部屋が隠されています。つまり、必要に応じて舞台を見せる。ところが、第三幕になると、全ての部屋はすっかり観客の目に晒され、その場に置かれた小道具は、必要最低限に絞り込まれます。それが第4幕になると、この屋敷は床と柱だけのむき出し構造となり、そこ全体が中庭になるという仕組みですね。こういう壊し方、見せ方に、旧来の権威への風刺と崩壊への共感を見せることに成功していました。

 演出ほど音楽は必ずしも輝いてはいませんでしたが、相当に立派なものでした。まずは、広上淳一の音楽づくりが良い。オペラの音楽は俺が仕切るんだ、と言わんばかりの指揮と音楽づくりに私は共感を覚えました。広上という指揮者は、その作品の持つ輝きをストレートな切り口で見せるのが得意な方で、それが裏目に出ることもあるのですが、今回は作品への愛情が、良い方向に出た感じです。力強く、舞台全体を統率しようとする意思は、客席からも強く感じられ、音楽の捌き方の見事さ、即ち、スピード感があって、しかしながらここぞというときのタメのとり方などに、感心いたしました。勿論それに的確に反応していたオーケストラも見事なものでした。

 歌手陣では、溌剌としたスザンナを演じた楠永陽子が抜群にいい。シャープなスザンナで、演技・歌唱を含め、打てば響くような対応がスマートで素敵だと思います。歌唱が安定しているところがいいですし、ケルビーノに女装させるときの12番のアリアや、フィナーレのアリアもしっかり歌っていましたし、第1幕のマルチェリーナとの二重唱や「手紙の二重唱」も良かったです。Bravaです。

 折河宏治のフィガロも立派。見るからに「反体制」という感じだったのですが、伯爵に対する対抗心の出し方が反体制ぽくて、よいと思いました。「踊りたければ」、「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」も立派な歌でした。

 萩原潤の伯爵も秀逸。特に第三幕のアリアのヴァリアンテは見事。私はあのヴァリアンテを歌われるのを聴いたのは多分初めてですけれども、歌手の力量をよく示すものになりました。これ以外の部分も、伯爵のいやらしさをよく示してとても良かったと思います。

 一方、今一つだったのは北原瑠美の伯爵夫人。登場のアリアは高音が伸びず、第三幕のアリアも前半は声が足りない感じでした。後半は持ち直しましたが。ただ、演技の部分はなかなか魅力的で、能動的な伯爵夫人を演じていたと思います。

 ケルビーノは、最初アナウンスされていた澤村翔子から守谷由香へ変更。守谷は、メゾとしては高い声で、可愛らしいケルビーノを演じました。今回のケルビーノは、上述の通り、通常は見えない部分でも演技が要求されるので大変だったと思いますが、若さで押し切った感じがします。

 脇役陣は、第4幕のアリア以外歌う部分が余りありませんが、バジリオの存在感が抜群です。前半は、i-Padで持って走り回る姿が、ピエロのような衣裳とも相俟って、とにかく面白い。バルトロとマルチェリーナはもっと存在感があってもよいと思いましたが、実際はさほどでもあらず。しかしながら、栗林朋子のマルチェリーナは、第4幕のアリア「牡山羊は牝山羊を求め」に於いて、装飾的な歌唱を披露してよかったです。その他、クルツィオやアントニオも衣裳や雰囲気で存在感を示していました。

 全体的には、演出の若さと歌手の若さがいい方向に結びついて、経験豊富な広上淳一、新日本フィルハーモニー交響楽団の音の上に上手く乗った感じの演奏でした。「フィガロの結婚」でこれだけ楽しめたのは初めてかもしれません。大満足でした。

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鑑賞日:2012121
入場料:D席
2945円 3F1列34番

NHK交響楽団第1742回定期演奏会
主催:NHK交響楽団

オペラ3幕 字幕付き原語(フランス語)上演/演奏会形式
ストラヴィンスキー作曲「夜鳴きウグイス」
Le rossigonal)
原作:アンデルセン
台本:イゴーリ・ストラヴィンスキー/
ステファン・ミトゥソフ

オペラ3幕 字幕付き原語(フランス語)上演/演奏会形式
ラヴェル作曲「子供と魔法」
Lenfant et les sortilèges)
台本:コレット

会場:NHKホール

スタッフ・キャスト・感想はこちら

鑑賞日:2012年12月6日
入場料:C席 5670円 3F 2列4番

平成24年度(第67回)文化庁芸術祭協賛公演

主催:新国立劇場

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ロッシーニ作曲「セビリアの理髪師」(Il barbiere di Seviglia)
台本:チェーザレ・ステルビーニ

会場 新国立劇場・オペラ劇場

スタッフ

指 揮 カルロ・モンタナーロ
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 冨平 恭平
     
演 出 ヨーゼフ・E. ケップリンガー
美術・衣装 ハイドルン・シュメルツァー
照 明 八木 麻紀
再演演出 アンゲラ・シュヴァイガー
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 斉藤 美穂

出 演

アルマヴィーヴァ伯爵 ルシアノ・ポテリョ
ロジーナ ロクサーナ・コンスタンティネスク
バルトロ ブルーボ・プラティコ
フィガロ ダリボール・イェニス
ドン・バジリオ 妻屋 秀和
ベルタ 与田 朝子
フィオレッロ 桝 貴志
隊長 木幡 雅志
アンブロージオ 古川 和彦

感 想

紙一重-新国立劇場「セビリアの理髪師」を聴く

 久々に「セビリアの理髪師」を聴いてやっぱり名作だな、と再確認しました。私は、第一幕のフィナーレが特に好きなのですが、あのストレッタは何度聴いても楽しい。

 さて、フィナーレの重唱は、ベルタが一番の高音を取るわけですが、与田朝子、頑張っていました。本当にメゾ役だけでお目にかかる方ですが、高音が良く響いて、上に抜けていく感じがとても素敵です。例のシーベット・アリアも、勿論結構ですが、それ以上にこのフィナーレの重唱に私は強く惹かれました。

 出演者で存在感の強いのは、やはり何と言ってもプラティコのバルトロです。バルトロは、プラティコのように貫禄がある方の方が、見ていて楽しいですね。プラティコは見た目もバッソ・ブッフォですが、歌も演技も流石にブッフォです。小気味よいジョークを挟みながら、動く様は流石だと思います。彼の声は、実は高音の響く美声のバリトンでブッフォ向きではないようにも思うのですが、あの動きと演技、手慣れた歌唱を聴けば、やっぱり凄いと思います。第一幕のアリア「私のような医者には」、後半が正に独壇場でした。

 妻屋秀和のバジリオもなかなか結構。例の「陰口はそよ風のように」は手なれた歌唱でよかったのですが、それ以外にもバジリオの小悪党的雰囲気をよく出しており、第二幕のフィナーレにおける日和った様子などがとても素敵だと思いました。

 このように素敵な部分もたくさんあるのだけれども、又、全体でみた場合、特別破綻があったわけではないのだけれども、今一つ物足りない演奏でした。

 まずは、アルマヴィーヴァ伯爵が非力です。ポテリョというテノール、確かに声が軽く、ロッシーニテノールとしてのセンスがある方だと思いました。綺麗な響きですし、魅力的だと思います。冒頭の「空は微笑み」もギターを持ってのセレナードも素敵なのですが、力強さがない。綺麗だとは思いますが、それだけで終わっています。もう少しメリハリをつけて、軽快さと力強さが両立するようであればもっと魅力的になったように思いました。

 もうひとつ、ポテリョについて気に入らないのは、二幕の大アリア「もう逆らうのを止めよ」をカットしたこと。この曲が難曲中の難曲で、カットされるのが普通だった、とは言うものの、ロッシーニ・ルネサンス以降歌うのがだんだん増えてきています。例えば、ジラクーザなどは軽々と歌う。しかしながら、ポテリョ、自分で歌う自信がなかったのでしょうか、とにかく歌いませんでした。

 「セビリアの理髪師」は勿論名作なのですが、構成的には一幕に比べると二幕が確実に弱い。魅力的なアリアもあまりないですし、重唱部分だって、はっきり申し上げればあまりパッとしない。そこを埋めるのが、伯爵の大アリアなわけです。それがあるかないかで、二幕の雰囲気ががらっと変わります。それだけに私としては歌って欲しい。今回カットされたことで、私のポテリョの評価は確実に下がりました。

 コンスタンティネスクのロジーナ。悪くなかったと思います。チャーミングだと思いますし。しかしながら、今一つピンとこない。「今の歌声は」などは、しっかり歌われているのですが、今一つ華が足りない感じがします。もう少しメリハリがあって、ここぞと言うところでは耳目を集める工夫があってもよいのではないか、という気がしました。

 イェニスのフィガロ。立派な声の持ち主ですが、少し歌が慌て過ぎの感じがします。速いパッセージをもう少しテヌートで歌われただけで感じが変わると思うのですが、なんか、一寸バタバタと歌うところがあって、もう少し落ちついてほしいと思いました。また前から思っているのですが、この新国立劇場のけっぷリンガーの演出におけるフィガロは、どこか品がない。フィガロは軽快ではあってほしいですが、荒々しくはあってほしくないのです。しかしながら、どうも荒っぽい。これがもう少しマイルドになるだけで、もっともっと感じが変わるような気がします。

 モンタナーロ/東京フィルの演奏も立派でした。

 以上こう見てみると、みんな悪くないです。よくまとまっていたと思います。しかしながら、私には物足りない。アルマヴィーヴァ伯爵にはもう少しメリハリをつけて、第二幕の大アリアに挑戦して欲しいですし、ロジーナは、もう少しコケティッシュであって欲しいし、フィガロはもう少し丁寧に歌って欲しいし。皆僅かな変化をつけただけで大満足の演奏になったような気がします。その紙一重の差が、もどかしさの原因です。

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鑑賞日:20121215
入場料:C席5
000円 2FLB5列4番

オペラ彩 第29回定期公演
主催:特定非営利活動法人 オペラ彩

オペラ2幕 字幕付き原語(イタリア語)上演
ドニゼッティ作曲「マリア・ストゥアルダ」
Maria Stuarda)
台本:ジュゼッペ・バルダーリ

会場:和光市民文化センター「サン・アゼリア」大ホール

スタッフ

指 揮 ヴィート・クレメンテ
管弦楽 アンサンブル彩
合 唱 オペラ彩合唱団
合唱指揮 苫米地 英一
演 出 直井 研二
美 術 大沢 佐知子
衣 裳 藤井 百合子
照 明 坂本 義美
舞台監督 望月 康彦
プロデューサー 和田タカ子

出 演

マリア・ストゥアルダ 登川 直穂子
エリザベッタ 小林 厚子
ロベルト・レスター伯 布施 雅也
ジョルジョ・タルボ 佐藤 泰弘
グリエルモ・チェチル卿 須藤 慎吾
アンナ・ケネディ 永安 淑美

感 想

エリザベッタ!-オペラ彩第29回定期公演「マリア・ストゥアルダ」を聴く

 「マリア・ストゥアルダ」は、ドニゼッティ第一の傑作という方がいるぐらいの名作ですが、日本では滅多に上演されることがなく、1984年における藤原歌劇団の日本初演、2002年の南條年章オペラ研究室におけるピアノ伴奏演奏会形式のもの、そして2010年の兵庫県・川西市のみつなかオペラで取り上げられているだけです。関東での本格的舞台上演は、1984年以来、ということになります。

 こういう作品をしっかり取り上げた「オペラ彩」の見識は大したものだと思います。この作品を取り上げた、ということだけで、プロデューサーの和田タカ子は大いに褒められるべきだと思います。一方で、和光という、都心からはちょっと離れているとは言うものの、池袋から20分ぐらいで到着する町で行われた公演にもかかわらず、お客の数はそれほど多くなく、空席が目立ちました。こういう作品であるからこそ、オペラ好きはこぞって来てほしかったと思います。それが最大の残念な点。

 舞台全体の出来はかなり素敵なものだった、と申し上げてよいと思います。大沢佐知子の舞台美術は、中世英国を思わせる柱を何本か見せることにより、舞台を王宮の広間に変えました。簡単な装置ながら、雰囲気をしっかり出したところが秀逸です。藤井百合子の衣装もいい。いかにも女王様、という衣装は、まさにエリザベス一世と、メアリー・スチュアートを見るかのようで、舞台美術と相まって、中世英国の雰囲気をより高めていたのではないかと思います。坂本義美の照明も含め、直井研二チーム全体の努力が実を結んだ感じがします。

 歌は、まず、エリザベッタ役の小林厚子が抜群の出来栄え。まず、登場の大アリアが素晴らしい。冒頭からこんなアリアを歌うのですから、よほどテンションを上げて取り組まないと大変だと思うのですが、声の艶といい、音色といい、密度といい申し分のないもので、これを聴いただけで、このオペラに対する期待が高まりました。立ち居振る舞いも正に女王様という雰囲気で、大変素晴らしい。第一幕後半は、エリザベッタとマリアとの両女王対決のシーンが一番の見どころですが、ここでもマリアを完全に圧倒、英国女王の貫録を見せつけた感じです。

 最後のほうになると、さすがに若干の疲れを感じさせる部分もなかったわけではありませんが、このプリマ・ドンナオペラをここまで歌うなんて、凄いとしか言いようがありません。まさに「マリア・ストゥアルダ」というよりも「エリザベッタ」という感じでした。Bravaです。

 このこの小林エリザベッタに対抗するのですから、マリアは並の歌手では太刀打ちできません。登川直穂子は、丁寧に一所懸命歌われていることが分かるのですが、小林とは、持っているものが違うという感じです。マリアを歌うのは声が足りない、というのが本当のところでしょう。第一幕第二場は、エリザベッタとマリアの対決が一番の聴きどころになるわけですが、小林エリザベッタの力強い歌にマリアは十分対抗できず、マリアがエリザベッタの言い方に腹を立てて、「不義の娘、王座はお前によって穢された」と叫ぶところは、両者の声が拮抗してほしいところですが、登川が歌うと、負け犬遠吠えのように聴こえてしまいます。あと、登川の歌い方で気になったのは、上方跳躍の時に一回でその音に達するのではなく、半音か一音低いところに降りて、その後高い音に歌い方をしていたことです。楽譜がそうなっているのかもしれませんが、一度でぽんと上がってくれるともっと気持ちが良いのに、と思いました。

 それでも登川は役には一所懸命入り込んでいたのでしょうね。第二幕フィナーレの大アリアは、それなり聴き手に感動を与えるものになっていて結構だと思いました。

 布施雅也のロベルトも、軽い声で悪くはないのですが、小粒な感じです。突き抜けていない歌唱。どこかもう一段、軽さの中にもスケールの大きさを感じさせる歌だったらよかったのになあ、と思いました。

 それに対して、男性低音の二人の歌手はさすがにどちらも実力者です。佐藤泰弘は、結構波のある方だと思いますが、今回の歌唱はとても立派。温かみのある雰囲気に満ちた低音で、舞台の下支えに非常に貢献していました。また、敵役のチェチル卿を歌った須藤慎吾もベル・カントオペラらしい美声で、役柄の存在感を示しました。両者とも、大変立派だったと思います。

 クレメンテ指揮のオーケストラは、臨時編成のものですが、コンサートミストレスが佐份利恭子、ファゴットに東京交響楽団の福井蔵が入るなど、プロのフリー奏者中心で立派な演奏をしました。クレメンテの盛り上げ方もなかなかよかったのだろうと思います。

 以上、トータルでみれば、期待を裏切らなかった演奏だったと思います。和光まで行った甲斐がありました。これで、マリアにもう少し声のある方が扮すれば、申し分なしだったのですが、CDのようにグルベローヴァ、バルツァの共演というわけには行かないようです。

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