オペラに行って参りました−2001年(前半)−

目次

2001年1月12日 ヘンツェ 「ヴィーナスとアドニス」
2001年1月19日 ヴェルディ 「イル・トロヴァトーレ」
2001年2月 3日 ヴェルディ 「マクベス」
2001年2月 7日 ヴェルディ 「リゴレット」
2001年2月16日 ヨハン・シュトラウス 「こうもり」
2001年2月28日 ストラヴィンスキー「夜鳴きうぐいす」/ツェムリンスキー「王女様の誕生日」
2001年4月 6日 ワーグナー 「ラインの黄金」
2001年4月20日 ブリテン 「ねじの回転」
2001年5月15日 ヴェルディ 「仮面舞踏会」
2001年7月 5日 マスネ 「マノン」

オペラに行って参りました2000年へ
オペラに行って参りました2001年後半へ  

観劇日:2001年1月12日
入場料:E席 1520円 3F R7列2番 自由席

NHK交響楽団第1424回定期演奏会

ヘンツェ作曲「ヴィーナスとアドニス」
オペラ1幕、字幕付原語上演
脚本 ハンス・ウルリヒ・トライヒェル

会場 NHKホール

詳細の情報及び感想はこちら

観劇日:2001年1月19日
入場料:D席 6615円 4F 2列40番

新国立劇場主催

ヴェルディ作曲「イル・トロヴァトーレ」
オペラ4幕、字幕付原語上演
脚本 サルヴァトーレ・カンマラーノ

会場 新国立劇場オペラ劇場

指揮:ダニエル・オーレン  管弦楽:東京交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団/二期会合唱団  合唱指揮:及川貢
字幕:杉 理一  舞台監督:菅原多敢弘
演出:アルベルト・ファッシーニ  衣装:ウィリアム・オルランディ
照明:磯野 睦  

出演者

レオノーラ 立野 至美
マンリーコ ウラジーミル・ガルージン
ルーナ伯爵 アンブロージオ・マエストゥリ
アズチェーナ 藤川真佐美
フェルナンド 彭 康亮
イネス 森山 京子
ルイス 角田 和弘
老ジプシー 谷 茂樹
使者 池本和憲

感想
 
オペラを聴く楽しみの一つに、歌手たちの声の技術を満喫するというのがあります。「イル・トロヴァトーレ」はその目的にうってつけの作品です。主役級が4人いて、4人ともイタリアオペラらしい大規模なアリアを歌う。そんなオペラは、Tは寡聞にして他に知りません。その上、「イル・トロヴァトーレ」は、幕が開いた直後からフィナーレまで「歌」のてんこ盛です。そこここに素敵なメロディが散りばめられていて、血なまぐさいお話の内容が音楽によって浄化されています。Tが最も好きなオペラ5本には入れたい名作です。

 指揮者のダニエル・オーレンは、新国立劇場開場記念公演「アイーダ」の指揮者としてアナウンスされていたのですが、キャンセル。今回が初登場になります。とはいえ、93年の藤原歌劇団の「アイーダ」を指揮したのを皮切りに、日本では相当数のオペラを振っている様です。Tは、93年の「アイーダ」を聴いているのですが、要所を押さえたなかなかの演奏をする人だ、というイメージを持っています。今回の「イル・トロヴァトーレ」も指揮者はよくがんばっていたのだろうと思います。「トロヴァトーレ」は、「歌」が前面にでる作品ですから、オーケストラは伴奏が主になります。しかし、その伴奏を一寸変えるだけで、歌の緊密さが変ってくると私は思っています。オーレンは、そのドライブが上手で、このオペラの終幕へ突き進むベクトルを明確に示すことが出来たのではないかと思います。東京交響楽団も危うい所がなかったわけではないのですが、全体としてみれば、このオペラの持つ「熱」を損なうことなく表現出来ていたと思います。

 演出は、視覚的に華やかなものはありませんでした。まあ、物語の内容からして、華やかになりそうな作品ではないのですが、一寸抽象的でした。反面、新国立劇場の持つ舞台設備を満遍なく使っている様で、第2幕のアズチェーナのアリアで、ガスバーナーに点火された本物の火が舞台の下から上がって来た時には、(この情報はムゼッタちゃん様に教えていただいて知ってはいたのですが、)一寸驚きました。

 「歌」という視点で見たとき、最もよかったのはルーナ伯爵を歌ったマエストゥリでした。非常に恰幅の良いバリトンで、地声もよいものがあるのでしょうが、体を使って響かせた時の声は印象的でした。2幕のカヴァテーナは非常にコントロールされて、声もよく広がり、本日一番の聴きものだった、と申しましょう。重唱などアンサンブルでも粗雑になることなく、三幕のアズチェーナ、フェルナンドとの三重唱は特によかったのではないかと思います。

 アズチェーナを歌った藤川真佐美もよい出来だったと思います。水量の豊かな河のような歌唱で魅了してくれました。例の「炎は燃えて」のアリアは、もう少しけれんのある歌い方の方が、おどろおどろしい感じを強く出せるのではないか、という気はしましたが十分に楽しめました。アンサンブルで絡む所もバランスがよく、終幕の最後の咆哮もしっかり決めてくれました。

 マンリーコを歌った、ガルージンは前二者に比べると今一つの出来。水準は達成していたとは思いますが。三幕のアリアは、カヴァテーナの部分とカバレッタの部分双方で小さいミスがありました。立野至美は、はっきりと不調でした。聴いていて余裕の感じられない歌い方でしたし、音程がしっかりとれていない部分もありました。第一幕の登場のアリアは難曲ですから仕方がない部分もあるのですが、ミスが目立ちました。後半はかなり立て直して来ましたけれど、今回の主役四役の中では一番問題でした。

 フェルナンドも中々よい歌唱。合唱は荒々しさが表に出る表現。綺麗ではありませんでしたが、この作品の「熱」を表現するためには、かえってよかったのかもしれません。

 色々と細かい不満の残る公演でしたが、それでも大いに楽しめました。作品の持つ力に魅了されました。

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観劇日:2001年2月3日

入場料:F席 2000円 5F L1列1番

藤原歌劇団公演
2001年ヴェルディ・イヤー(没後100年)記念

ヴェルディ作曲「マクベス」(MACBETH)
オペラ4幕、字幕付原語上演
脚本 フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ&アンドレア・マッフェイ

会場 東京文化会館大ホール

指揮:レナート・パルンボ  管弦楽:新星日本交響楽団
合唱:藤原歌劇団合唱部  合唱指揮:及川貢
字幕:増田恵子  舞台監督:大澤 裕
演出:ヘニング・ブロックハウス  美術:ヨゼフ・スヴォボダ 衣装:ナナ・チェッキ
振付:マリア・マダウ  照明:ヘニング・ブロックハウス/大島 祐夫
制作:下八川共祐
協力:ローマ歌劇場
(舞台装置、小道具、衣装、映写用スライド、映像)

出演者

マクベス 折江 忠道
マクベス夫人 下原千恵子
マグダフ 中島 康晴
バンクォー 久保田真澄
マルコム 有銘 哲也
侍女 竹村 佳子
医者 中村 靖
従者 立花 敏弘
刺客 柿沼 伸美
伝令 伊藤 和広
第一の幻影 佐藤 勝司
第二の幻影 大森 智子
第三の幻影 山ア 郁弥

感想
 
理性的に見れば、今回のマクベスの公演は、非常にレベルの高い演奏だったと思います。まず大きな破綻がなかったですし、登場人物のほとんどが高水準の歌を歌ってくださいました。合唱も「さすが藤原」というレベルでした。指揮もうまく行っていたし、演出は人によって好悪は分れると思いますが、一貫性と云う点では非常に整理されていたと思います。

 舞台の雰囲気は、垢抜けていたと思います。全体がグレーを基調とした暗色系でまとめられていました。登場人物の顔は白塗り。仮面劇をイメージしていたのでしょうか。舞台にカーテン?が吊るされ、それがスクリーンの代わりになっていろいろなスライドが映写され、大道具の代わりとなっていました。全体のベースは暗さを強調したものになっており、マクベス&夫人の暗い情感とよくマッチしていたと思います。さすがローマ歌劇場です。

 タイトルロールの折江は、ほとんど出ずっぱりの役にもかかわらず、高水準の歌を聴かせてくれました。第一幕のバンクォーとの二重唱、第四幕のアリアはどちらもよかったですし、第二幕第3場でのバンクォーの亡霊に怯えるシーンの演技も中々真に迫っておりました。彼に関して云えば、昨年の「椿姫」のジェルモンがとてもよかったので、期待していたのですが、期待に違わない演奏だったと思います。

 マクベス夫人を歌った下原千恵子もよかったです。細かなところでは「?」と思わないところが無かったわけでは無いのですが、全体としてはマクベス夫人の野心と欲望がはっきりと示されて好演でした。高音・低音のメリハリがしっかりしていて、聴いていて思わず手をパチンと叩きたくなるような演奏でした。さすがは、現役の日本人ドラマティコNo.1だと思いました。

 もう一人、新鋭、中島康晴の演奏がブラボーでした。中島はこの「マクベス」が実質的なオペラ初舞台の若手ですが、四幕のアリアを非常に輝かしい声で歌ってみせて、今後への期待を膨らませてくれました。精進を期待したいです。今年のNHK「ニューイヤー・オペラコンサート」で初めて耳にしたときから期待をしていたのですが、こんな形で出会えてよかったと思います。

 バンクォー役の久保田もいつもながらの安定した好演。また、全体に合唱がよかった。マクベスは、キーロールである魔女が合唱で歌われるなど、合唱が非常に活躍する作品ですが、藤原歌劇団合唱部の実力をしっかり示していました。

 以上皆が上手で、演出も悪くなく、指揮のパルンボについても特に不満はありません。でも、私はこのオペラに入り込むことは出来ませんでした。ヴェルディ先生には申し訳ないのですが、何かオペラとしての魅力に欠けているものがあるのですよね。「ナブッコ」のように若書きだけれども非常に推進力のある作品でも無いし、中期以降の作品のドラマとしてのまとまりも今一つだし。要するに過渡期の作品ですよね。もっと聴きこめば楽しめるようになるのでしょうか。

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観劇日:2001年2月7日
入場料:D席 5670円 4F 1列35番

新国立劇場/財団法人二期会オペラ振興会主催
文化庁芸術創造特別支援事業

ヴェルディ作曲「リゴレット」 RIGOLETTO
オペラ3幕、字幕付原語上演
原作 ヴィクトル・ユーゴー
脚本 フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ

会場 新国立劇場オペラ劇場

指揮:アントニオ・ピロッリ  管弦楽:東京交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団/二期会合唱団  合唱指揮:及川貢
字幕:杉 理一  舞台監督:菅原多敢弘
演出:アルベルト・ファッシーニ  装置・衣装:アレッサンドロ・チャンマルーギ
照明:磯野 睦  振付:マルタ・フェッリ
バレエ:東京シティバレエ団  

出演者

リゴレット ジャンカルロ・パスクエット
ジルダ 釜洞 祐子
マントヴァ公爵 田口 興輔
スパラフチーレ 若林 勉
マッダレーナ 西 けい子
モンテローネ伯爵 小川 裕二
ジョヴァンナ 秋山 雪美
マルッロ 米谷 毅彦
ボルサ 小貫 岩夫
チェプラーノ伯爵 藪西 正道
チェプラーノ伯爵夫人 橋爪 ゆか
小姓 小林 菜美
門番 藤田 幸士

感想
 
ヴェルディのオペラを全て知っているわけではありませんが、「リゴレット」が傑作であるというのは全く紛れも無い事実です。ドラマとしても内容が緊迫した傑作ですし、音楽も魅力のあるメロディーが目白押しで素晴らしいです。日本で初演されたのが1919年、浅草オペラだと言うのですから、昔から親しまれたオペラ・ナンバー1と言ってよいかも知れません。そういう名作ですが、巡り合わせが悪いのかTはこれまで一度も実演に接したことがありませんでした。それだけに非常に楽しみにして行きました。

 舞台・演出は明快なメリハリのついたもの。新国立劇場の能力をうまく使い、視覚的にも楽しめました。第一幕の宴会の場で、本物と見まごうような孔雀(本物だったのかしら)が登場したり、第三幕でのスパラフチーレの安酒場の暗さ、など、オペラの理解を助けるものでした。

 歌手でよかったのはリゴレットとジルダでした。リゴレットを歌ったパスクエットは、どんなところでも豊かな声量と深みのある声で魅了してくれました。第二幕のジルダとの二重唱で一部声のコントロールがつかなくなる部分があったようですが、それ以外はとても素敵でした。ニ幕の初めの「リゴレットのモノローグ」の情感、「悪魔め、鬼め」での苦悩、終幕の四重唱における迫力。歌それ自身も魅力でしたが、「演技」の点でも、不幸な父親の気持ちがよく現れていてよかったと思います。

 ジルダを歌った釜洞祐子も好演でした。大向こうから声が掛かるようなきらめきこそありませんでしたが、どの曲も、どの部分も、正確かつ非常に丁寧に歌って、過不足のない歌いっぷりでした。傷はほとんどなかったのではないでしょうか。「慕わしき人の名は」は表情豊かでチャーミングでとてもよかったです。純潔を奪われてから、自らの命と愛する不実者マントヴァ公の命を引き換えにするまでの表現は、一歩引いていて慎ましく、それも私は気に入りました。

 劇場で一番ブラボーの声が掛かったのは、マントヴァ公を歌った田口興輔です。しかし、私は田口の歌を全く評価しません。今回は、高音部に全くきらめきがありませんでした。パヴァロッティのように歌え、とは申しませんが、高音部をしっかりと歌っていただけなければ、マントヴァ公の魅力は半減です。ジルダやマッダレーナがマントヴァ公を慕うようになるのは当然だと思わせるように、輝きをもって歌っていただけなければ、ドラマの真実が薄れます。「あれや、これや」も「女心の歌」もその点で合格点は差し上げられないと申しておきましょう。

 スパラフチーレはともかく、マッダレーナはあまり褒められる歌唱ではありませんでした。終幕の四重唱、マッダレーナの声は、他の三人の声に消されてほとんど聴こえませんでした。

 結構ケチをつけましたが、全体としての感想は、オペラは見るものだ、見てよかったということです。リゴレットはこれまでCDやレコードでずいぶん楽しんできたつもりですが、舞台を見て初めてリゴレットの悲しみがすっきりと分りました。全体が非常に緊迫した作品であることも、実感として分りました。

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観劇日:2001年2月16日

入場料:C席 6000円 3F R3列19番

東京二期会オペラ劇場公演
二期会創立50周年記念公演
平成12年度文化庁芸術創造特別支援事業
2001年都民芸術フェスティバル(東京都助成)参加公演

ヨハン・シュトラウス作曲 喜歌劇「こうもり」(DIE FLEDERMAUS)
オペラ2幕、日本語上演
訳詞:中山 悌一 台本・台詞:加藤 直

会場 東京文化会館大ホール

指揮:若杉 弘  管弦楽:新星日本交響楽団
合唱:二期会合唱団  合唱指揮:松井和彦
演出:加藤 直  装置:島川とおる  照明:原田 保
衣装:合田 瀧秀  振付:北村 真美  舞台監督:大仁田雅彦
公演監督:中村 健  制作:二期会オペラ振興会

出演者

アイゼンシュタイン 大野 徹也
ロザリンデ 山口 道子
フランク 松本  進
オルロフスキー公爵 ロードリー柳田孝子
アルフレード 井ノ上了吏
ファルケ 福島 明也
ブリント 志村 文彦
アデーレ 澤畑 恵美
イーダ 佐々木弐奈
フロッシュ 池田 直樹
武官スタニフラフスキー 小篠 一成
給仕イワン 三松 明人

ガラパフォーマンス

秋葉京子 歌劇「カルメン」よりハバネラ
栗林義信 歌劇「アンドレア・シェニエ」より「国を裏切るもの」(ジェラール)
佐藤しのぶ 歌劇「運命の力」より「神よ平和を与えたまへ」(レオノーラ)

感想
 
私にとって、藤原歌劇団といえばイタリアオペラ、二期会といえばドイツオペラという感じが強い。勿論これは偏見なのでしょうが、偏見ついでにもう一つ付け加えるならば、二期会を代表する出し物は「こうもり」だと思っています。例えば、中村健のアイゼンシュタイン、伊藤京子のロザリンデ、島田祐子のアデーレ、立川清登のファルケ、というコンビは一時代を画していますし、また、これまでに東京だけで11公演を行って来たという事実だけでも、この偏見をサポートしてくれそうです。

 今回の公演は、その伝統をひしひしと感じさせるものでした。本来3幕構成のこのオペレッタを2幕構成にする、とか、台詞が加藤直によって全面的に書き改められる、といった改変をかなり行ったわけですから、従来の「こうもり」とはかなり様相が違う筈ですが、実際の印象は「二期会らしさ」が表面に出た公演でした。細々と見ていけば傷は色々あり、決して最上級の演奏ではないと思うのですが、極めて良質の、聴いていて楽しめるものでした。

 今回の歌手で一番良かったのは、アデーレ役の澤畑恵美でした。第3幕(本日の公演では2幕2場)のアリアで疲れが感じられましたが、それ以外は非常に好調。コケティッシュな演技も素敵でした。池田直樹のフロッシュも良かった。一寸大げさな演技ぶりですが、アドリブが効いていて台詞回しもよく分り、非常に存在感のあるフロッシュでした。福島明也のファルケ博士も好演。狂言廻しとして全体をうまく引き締めていたと思います。

 山口道子のロザリンデもなかなか良かったのですが、一番の聴かせ所の「チャルダーシュ」が決まらなかったので大きく減点。大野徹也のアイゼンシュタインは、歌はともかく、演技が臭すぎて、鼻に付きました。でも牢屋に入る理由を説明するところで「ゴルフ会員券の譲渡に関する件で税務署員を殴ってしまい」とここ2-3日、新聞紙上をにぎわせている森首相のゴルフ会員券疑惑をしっかり当てこすって見せる(会場は大爆笑)ところなど、オペレッタの常道を行くもので良かったです。井ノ上了吏のアルフレードはあんなものでしょう。

 歌手の中で一番評価しがたいのがオルロフスキー公爵を歌ったロードリー柳田孝子です。まず、退屈で退屈でしょうがない、という雰囲気があまり出ていなかったのもどうかと思いましたし、歌唱自体も高音部で音を引きずってしまい、いまひとつでした。

 ガラパフォーマンスの3人で、最も素晴らしかったのは佐藤しのぶ。「運命の力」のこのアリアは、佐藤のお得意でNHKのニューイヤーオペラコンサートでも披露したことがあります。非常に立派で行き届いた歌唱でした。文句なしのブラーヴァ。栗林義信のアリアも悪くありませんでした。声の艶、という点では若い時とは比較にならないでしょうが、68歳とは思えない歌唱で、良かったです。秋葉京子のハバネラも決して悪くはないのですが、音程が今一つ決まらないところが有り、一寸残念でした。

 加藤直の演出は、まあまあ、だったのではないでしょうか。舞台装置は「こうもり」にしては簡素で、オルロフスキー公の大夜会のシーンなどは、もう少し華やかでもよいのかなあ、と思いました。若杉弘の演奏は非常に手堅いもの。安心して聴いてられます。若杉の敷いたラインを歌手たちが乗っていたと言う点で、今回の成功の第一の功労者は若杉さんかも知れません。

 一つ苦言を呈するとすれば、なぜ日本語上演か、という事です。別に中山悌一の訳詞が悪いことはないと思うのですが、聴いていて何を言っているのかがよくわからない。地の台詞があれほどよく聞こえるのに、歌になると、途端にいっているのが聞こえなくなるのはどうかと思います。とはいえ、地の台詞まで全てドイツ語にすると、オペレッタの軽みを消してしまいますので、堺市民オペラでやったような、歌唱はドイツ語、地の台詞は日本語といったやり方もあるのではないでしょうか。

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観劇日:2001年2月28日

入場料:B席 6000円 1F 36列29番

東京フィルハーモニー交響楽団
オペラコンチェルタンテシリーズ第21回
平成12年度文化庁芸術創造特別支援事業
2001年都民芸術フェスティバル(東京都助成)参加公演

会場:オーチャード・ホール

指揮:沼尻 竜典  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:東京オペラシンガーズ  
構成:大橋 マリ  美術:牧野 良三  照明:中山 安孝
舞台監督:岸本多加志

ストラヴィンスキー作曲 「夜鳴きうぐいす」(LE ROSSIGNOL/Solovey)
オペラ3幕、字幕付原語上演(ロシア語)
原作:アンデルセン「皇帝とナイチンゲール」
台本:ストラヴィンスキー&ミトゥーソフ(フランス語)

出演者

ナイチンゲール(S) 佐藤美枝子
料理番の娘(S) 高橋 薫子
死神(MS) 鳴海真希子
漁夫(T) 伊達 英二
中国の皇帝(Br) 福島 明也
内大臣(Br) 吉川 誠二
僧侶(Bs) 田島 達也
日本の遣使(T) 真野 郁夫
日本の遣使(Bs) 山下 浩司
日本の遣使(T) 井上 幸一
ソプラノ・ソロ 林 満理子
アルト・ソロ 堪山 貴子
テノール・ソロ 二階堂洋介

 

ツェムリンスキー作曲 「王女様の誕生日」(DER GEBURTSTAG DER INFANTIN)
オペラ1幕、字幕付原語上演(日本初演)
原作:オスカー・ワイルド「小人」
台本:ゲオルク・C・クラーレン

出演者

スペイン王女(S) 菅 英三子
小人(T) 福井 敬
王女の侍女ギータ(S) 高橋 薫子
侍従長ドン・エステバン(Bs) 成田 眞
侍女1(S) 五月女智恵
侍女2(S) 三塚 直美
侍女3(MS) 戸畑 リオ
女友達(S) 林 満理子
女友達(A) 堪山 貴子

感想
 
東フィルのオペラコンチェルタンテシリーズは最初の三年間、会員になって通いました。オペラ・コンチェルタンテの良いところは、日本で中々上演されない作品をよく取り上げる、ということでしょう。私は、オペラ・コンチェルタンテに通ったことで、耳にすることができたオペラ作品が幾つもあります。しかし、一方で問題もあります。コンサート形式の上演と言うことで、オーケストラがオケピットに入っている時と比べて、歌手とのバランスが崩れやすいと言う点です。これはある意味で、非常に致命的であります。私が4年目以降聴くのをやめたのは、このバランスの悪さが最大の原因です。

 今回、オペラコンチェルタンテを再度聴こうと思ったのは、佐藤美枝子、高橋薫子、菅英三子、福井敬と今が旬の歌手たちの共演であること、とりわけ高橋薫子さんが出演することが大きな力になりました。聴いてみて、歌手とオケとのバランス、これはあいも変わらず悪いといわざるを得ません。沼尻竜典の指揮ぶりは、かつての大野和士の指揮のように、歌手を無視してオケを強引に引っ張り、、、というタイプではなく、むしろ歌とオーケストラとのバランスに少しは気遣っていたようですが、14型のフルオーケストラが出す音響が高いところから降り注ぐと、歌手の声がどうしても死にがちになります。オケを舞台の上に乗せる演奏会形式の場合には、オケは12型ぐらいが丁度良いのかなあ、と思いました。

 それでも、沼尻さんのオーケストラコントロールは中々よかったと思いました。バランスを取りながらもめりはりの付けた指揮ぶりで、好感が持てました。

 ストラヴィンスキー「夜鳴きうぐいす」は、台本がよく分りませんでした。この作品は1914年5月26日にパリで初演されています。このときはロシア語の台本で歌われてたそうです。しかし、オペラ辞典(音楽の友社)では、「作曲者とミトゥソフによるフランス語台本」と書かれています。また、今回配られたプログラムの欧文表記はフランス語でした。今回の上演はロシア語上演で、字幕付原語上演とされていましたが、このオペラの「原語」とはロシア語でよいのでしょうか。ロシア語台本とフランス語台本との関係はどうなっているのでしょう。勿論、私はフランス語もロシア語も全くチンプンカンプンですから、どちらで歌われても大差ないのですが。

 「夜鳴きうぐいす」の作品について言えば、リムスキー・コルサコフの影響を強く受けている、ということですが、私の聴くところ、シェーンベルグの「浄夜」のような、超ロマンチックな作品だと思いました。三大バレエのバーバリスムと諧謔感とは無縁の作品です。今回の歌手で一番よかったのは、佐藤美枝子でした。絶好調時の佐藤ではない、というのが専らの評判でしたが、それでも流石の歌いっぷりでした。このナイチンゲールは高音から始まる下降音型が多用されているように思いましたが、佐藤は最初の高音がパンと出るのです。ずり上げが全くない。だから細かいニュアンスのコントロールもうまく行ったのだと思います。伊達英二の漁夫は、結構一杯一杯の歌唱でした。高橋薫子、福島明也は共に悪くない歌唱でしたが、彼らなら当然、というレベルでしょう。死神を歌った鳴海真希子は収穫でした。私は初めて聴くメゾでしたが、低音がしっかりしていて、表現も豊かでよかったと思いました。

 ツェムリンスキーの「王女様の誕生日」。勿論初めて聴く作品です。でも聴いていてとても面白い音楽でした。1920年ごろの作品ですが、第一次大戦直後のドイツの退廃的ムードが反映しているように思いました。ストーリーはオスカー・ワイルドの作品ですから非常に屈折しています。その屈折と音楽の一寸退廃的ムードがよく合うのです。

 「王女様の誕生日」で一番よかったのは、福井敬です。福井はいつもきちっと歌う人ですが、今回もよく響く声で、めりはりよくきちっと歌っていました。大きい声で歌うことで、他の人達から一寸浮いた感じがよく出ていて、道化の悲しみがよく出ていたのではないかと思います。高橋薫子もとてもよかったです。特に後半の「小人」に呼びかけるシーン以降は、情感に富み素敵でした。外題役の菅英三子は、福井、高橋に挟まれると一寸食い足りない感じでした。

 作品は、ツェムリンスキーの方が断然面白かったです。歌手の調子もこちらの方がよかった。このような聴きごたえのある作品が日本初演であると言うことに、逆に驚きを感じました。

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観劇日:2001年4月6日

入場料:D席 6615円 4F 1列13番

ワーグナー作曲 「ニーベルングの指輪」序夜 楽劇「ラインの黄金」(DAS RHEINGOLD)
オペラ1幕、字幕付原語上演

会場 新国立劇場オペラ劇場

指揮:準・メルクル  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
演出:キース・ウォーナー  装置・衣装:デヴィッド・フィールディング  照明:ヴォルフガング・ゲッペル
アドヴァイザー:ヴォルフガング・ワーグナー  プロダクション・マネージャー:ジョナサン・バートレット
衣装スーパーヴァイザー:イヴォンヌ・ミルンズ  舞台監督:大仁田雅彦

出演者

ヴォータン  ハリー・ピータース
ドンナー  大島 幾雄
フロー  水口 聡
ローゲ  星 洋二
ファゾルト  長谷川 顕
ファフナー  佐藤 泰弘
アルベルヒ  島村 武男
ミーメ  松浦 健
フリッカ  藤村実穂子
フライア  岩井 理花
エルダ  黒木香保里
ヴォークリンデ  森野 由み
ヴェルグンデ  白土理香
フロスヒルデ  菅 有実子

感想
 
世にワグネリアンという人がいらっしゃるそうです。ワーグナーの毒にあてられ、ワーグナーの音楽に嵌ってしまった人のことを言うようです。Tはあの厚い管弦楽法にしても、半音階の多用による不協和音にしても、端的に言ってしまえば肌に合わない。ワグネリアンにはなれそうもない体質のようです。言うなればどうしても聴きたい作曲家ではありません。でもオペラフリークを自称する以上、「リング」を上演するというのに、横目で睨んで通りすぎるのは一寸出来ない。退屈したら嫌だなあ、と思いながらも新国劇へ出陣致しました。

 公演は色々考えさせられる公演でした。音楽の作りは、準・メルクルの才能を再確認した、という所です。2時間半の決して面白いとは言えない音楽を、全くダレることなしに最後まで引っ張っていったのが、この指揮者の力量を良く示している事実だと思います。細かなニュアンスの表現などもいちいちきめ細かく、かつ、めりはりをつけて演奏しており秀逸でした。文句なくブラボーと申し上げます。

 歌手で最も良かったのはエルダ役の黒木香保里。初めて聴く若手の方ですが、非常に明晰な声でしっかりと歌いました。歌のプロポーションが良かったと思います。名を知らぬ若手の方がいい歌唱をしてくれるのを聴けるのは、とても素敵なことです。今回は黒木香保里を知ったことが最大の収穫だったかもしれません。

 それ以外の歌い手さんですが、総じて好調だったと思います。ヴォータン役のピータースは取りたてて言うほどのこともない歌唱でした。ドンナーの大島幾雄は、まずまずの出来でした。一方フローの水口聡はあまり感心しませんでした。ローゲは、このオペラの中ではキー役で出番が多く大変です。星洋二は所々で光った歌唱をしましたが、全体を通して見るとある水準を保ちきれてはいなかったように思います。巨人役の二人、長谷川顕・佐藤泰弘は共に好演。ラインの三人の乙女は、結構傷がありました。

 アルベルヒの島村武男が男声では一番の好演でした。歌の技巧で聴かせる役では無いのですが、この4部作の貫くアリベルヒの怨みが聴き手によく理解できるように歌ってくれたと思います。表現力に秀でていたと思いました。ミーメの松浦健も良かったです。ミーメの兄への怒りが感じることが出来ました。フリッカの藤村実穂子は、部分部分で抜けたところも有りましたが、大筋では聴きごたえのある素晴らしい歌唱をしたと思います。

 結局、今回の上演で一番問題なのは演出でしょう。私には違和感がありました。衣装が現代風。ローゲなぞは燕尾服。フリッカもスーツだし。ま、リングではその程度は当然なのかもしれませんが、神々と巨人と小人の世界に現代風の衣装は似合わないような気がします。巨人族は見た目ほとんど「ブルース・ブラザース」ですからね。本当にこれでいいのか。第2場はヴァルハラ城を臨む山の頂きのはずですが、三角形を多用した異型の空間。歌い手も足場が定まらず、大変だったと思います。演出は多分賛否両論。私は否。この演出を基点に「ワルキューレ」をどの様に発展させるのでしょうか。逆の興味があります。

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観劇日:2001年4月20日
入場料:3780円 D2-8番

新国立劇場主催
小劇場オペラ#4

ブリテン作曲「ねじの回転作品54」 The Turn of the Screw
オペラ2幕、字幕付原語上演
原作 ヘンリー・ジェイムス
脚本 ミファンウィー・パイパー

会場 新国立劇場小劇場

指揮:松岡究  管弦楽:新国立劇場オペラアンサンブル
演出:平尾力哉  美術:小林優仁  衣装:渡辺園子
照明:中山安孝  アイアンワーク:倉田光吾郎

出演者

女家庭教師 山本 美樹
家政婦グロース夫人 押見 朋子
少女フローラ 森田 裕子
少年マイルズ 前田 真木子
元女家庭教師ミス・ジェッスル 悦田 比呂子
プロローグのコメンテーター/元使用人クイント 小貫 岩夫

感想
 
私がブリテンのオペラを見るのは、昨年夏の「真夏の夜の夢」に続き、今度が二度目です。「ねじの回転」については録音も聴いたことがない、原作も読んでいないのないない尽くしで出かけたのですが、今回の公演はとても楽しめました。小劇場オペラシリーズ第四弾ですが、私の見たこのシリーズ3本の中では最高の出来だったと思います。

 まずありがたかったのは、演出が分り易かったことです。演出の平尾力哉さんが公演に先だってオペラの説明をしたのですが、その最後に演出の意図を「B級ホラー映画のような演出をしたい」と言って説明してくれました。B級ホラー映画になっていたかどうかは今一つ疑問でしたが、視覚に訴えるわかり易い演出で、話の内容を理解するのに効果的でした。背景にニ段の半透明スクリーンを付け、二台の映写機でスライドを写し、立体感のある静止映像を送るという今回のやり方は、状況が常に具体化され、本来複雑な筈の心理劇を分り易くしていました。ただしスライドのピントが甘く、映像が霞んだり、字幕スーパーが読みにくくなったりはしました。

 キャスティングもかなり考えられたものだと思います。女家庭教師役の山本美樹は背がすらっとしていて、いかにも英国の家庭教師という風情でしたし、家政婦役の押見朋子は恰幅がよく、家政婦に似合っておりました。二人の子供役はどちらも山本・押見と比較すると背が低く、いかにも子供風でした。

 登場した6人の歌手は会場が狭いという歌手に有利な点があるにしても、総じて良好でした。山本は歌唱に家庭教師の不安な気持ちがよく乗っていて緊迫感のある歌いっぷり。高音部の的確なコントロール。演技もなかなかのもので大いに感心致しました。少年マイルズ役の前田も良かったと思います。メゾソプラノの男の子役ですが、男の子っぽい歌い方で役柄になりきった歌い方のようでした。この方も緊迫感のある歌い方で、フィナーレにおける山本・前田のニ重唱、あるいは小貫岩夫を入れた三重唱は緊張感に富み、盛り上がりが素敵でした。押見朋子の家政婦役も歌も含めてなかなかのものでした。好演と申し上げましょう。森田裕子のフローラは、お転婆な女の子の感じが良く出ていました。ミス・ジェッスルはおどろおどろしさに強い印象があるのですが、歌唱はあまり表にでず印象が強くありません。小貫岩夫は英語の発音が日本人発音で、どうしても英国の幽霊には見えませんでした。小貫は、高音に伸びがありなかなか良いのですが、線が細いというか何か一つ物足りないものを感じました。

 カーテン・コールで誰もブラボーがかかりませんでしたが、Tの気持ちとしては山本、前田両氏にブラボーを申し上げたいです。

 松岡究の指揮はそつなく良好。アンサンブルのメンバーは東フィルの首席クラスを含むということで、これまた良好。13人の小人数のメンバーながら厚めの音が出ていました。息の長いゆったりとした部分が多い曲ですが、場面交換の時に演奏される間奏曲がうまく聴き手の緊張をほぐしてくれます。ブリテンは、本作品を室内オペラとして作曲したわけですが、小劇場オペラというシステムで作品のオリジナルの特徴をうまく出せたと思います。

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観劇日:2001年5月15日
入場料:D席 5670円 4F 2列37番

新国立劇場主催

ヴェルディ作曲「仮面舞踏会」 UN BALLO IN MASCHERA
オペラ3幕、字幕付原語上演
台本 アントーニオ・ソンマ

会場 新国立劇場オペラ劇場

指揮:菊池 彦典  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団/藤原歌劇団合唱部  合唱指揮:及川貢
字幕:杉 理一  舞台監督:菅原多敢弘
演出:アルベルト・ファッシーニ  装置・衣装:パスクアーレ・グロッシ
照明:奥畑康夫  振付:マルタ・フェッリ 

出演者

アメーリア ノルマ・ファンティーニ
リッカルド フランコ・ファリーナ
レナート パウロ・ガヴァネッリ
ウルリカ ニーナ・テレンティエヴァ
オスカル 天羽 明恵
シルヴァーノ 谷田部一弘
サムエル 田島 達也
トム 長谷川 顯
判事 石川 誠二
アメーリアの召使 於保 郁夫
暗殺団 多田 康芳
  柿沼 伸美
  鹿野 由之
  畠山 茂

感想
 
ヴェルディの中期のオペラって、暗い熱気に支配される作品が多いように思います。「トロヴァトーレ」も「リゴレット」も「運命の力」もそうです。そんな中で「仮面舞踏会」は悲劇でありながら明るい、終幕のリッカルドのかっこよさ、華やかに死んで行くところなど、明るいヒロイズムを感じます。だからといって、ヴェルディの熱を感じさせない演奏は、私の好みとするものではありません。ヴェルディは、熱いオペラであってほしいです。

 15日の演奏は、ヴェルディの熱気、という点で不満が残りました。音楽が全体的に弛緩しているのです。今回のピットは東フィルだったのですが、『これって、本当に東フィルの音?』と思わざるを得ませんでした。弦の音は揃っていないし、木管の音はざらついているし、緊迫感が無いのです。ヴェルディの音楽の進行力を邪魔しようという意志でも働いているのではないかと思うほどでした。菊池彦典は、ヴェルディを熱気を込めて演奏させることに関しては、有数の実力者だと思っておりましたので、期待外れでした。

 歌手もイマイチの方が多かった。リッカルド役のファリーナは、非常に美声ですし、高音に伸びがあり且つ声量も素晴らしく(4階席でもビンビン響いておりました)聴いていて快感を感じさせるテノールでした。歌うアリア全てで大ブラボーが飛んでおりました。でもファリーナのリッカルドって、教養を感じさせられないのですね。マントヴァ公やアルフレードを歌うならあの声で文句なしにブラボーなのですが、リッカルドの場合は、もう少し暗さのあるテノールの方が良いのではないかという気がいたしました。

 ガヴァネッリのレナートももう一つでした。第一声が寝ぼけた声ではずしました。後半は立てなおして来、一部に素晴らしい歌唱もあったのですが、忠実な家来が暗殺者に変わる心理が、歌で十分表現されたとは言えないと思います。ファンティーニのアメーリアは、優柔不断なアメーリアをうまく演じていたと思いました。中声部の厚みも十分で切れもあります。ただし、高音部に問題があり、音程が合っていなかったような気がいたします。第2幕の「リッカルドとアメーリアの愛のニ重唱」では音程的に二重唱が調和しておらず、残念でした。

 主要三役以外は全般に良かったと思います。ウルリカはアズチェーナなんかとは違って、すっきり歌った方がよいと思います。同役ののテレンティエヴァは「けれん」を感じさせない歌いっぷりで気に入りました。オスカルの天羽明恵も好演でした。動きもコミカルでしたし、声量のある外国人歌手に引けをとらない歌いっぷりは、さすが実力者です。

 いろいろ苦情を申したてましたが、今回の最大の不満は、ベースとなるテンポ設定です。そこが遅かったことが全ての不満の原点のようです。オペラにおけるオーケストラの重要性を再認識させられました。

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観劇日:2001年7月5日
入場料:D席 5670円 4F 1列49番

新国立劇場主催

マスネ作曲「マノン」 MANON
オペラ5幕、字幕付原語上演
台本 アンリ・メイヤック/フィリップ・ジル

会場 新国立劇場オペラ劇場

指揮:アラン・ギンガル  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団/藤原歌劇団合唱部  合唱指揮:佐藤正浩
字幕:村田健司  舞台監督:菅原多敢弘
演出・装置・衣装:ジャン・ピエール・ポネル(1971年ウィーン国立歌劇場プロダクション)
演出補:コルネリア・レプシュレーガー
照明:カール・シャヒンガー 

出演者

マノン レオンティーナ・ヴァドゥヴァ
騎士デ・グリュー ジュゼッペ・サッバティーニ
レスコー ナターレ・デ・カラリス
伯爵デ・グリュー 池田 直樹
ギヨー・ド・モルフォンテーヌ 鈴木 寛一
ド・プレディニ 黒崎錬太郎
ブゼット 腰越 満美
ジャヴォット 永田 直美
ロゼット 手嶋 眞佐子
旅篭の主人 築地 文夫
衛兵 東浩市/大元和典
女中 藤井亜紀
門番 大森良一

感想
 
オペラというと先ずイタリア、次いでドイツとなって、フランスオペラは余り聴いたことがありません。「カルメン」を別にすれば、「ホフマン物語」、「ファウスト」、「ペレアスとメリザンド」を各1回づつ劇場で聴いている程度です。フランスオペラ史上最大の多作家であったマスネの作品は、今回初めて聴くことになりました。恥ずかしながら、これまでCDすら聴いたことが無かったのです。初めて聴いた作品に関する対する感想は、正直に申し上げて、余り芳しいものではありません。勿論、フランス語のによる語りのような歌唱は、フランス映画を見ているような雰囲気を味あわせてくれました。それでも、今回の公演はバレエがカットされていたようですが、冗長な部分が見え隠れしておりますし、音楽が甘すぎる。きりっと辛口が好みのTは、べたべたと甘くすぎるこの作品を高く評価するわけには参りません。

 とはいえ、演奏は良いものでした。アラン・ギンガルのふる東フィルは、最初結構ばらばらで、管のミスも目立っていたのですが、尻上りに調子をあげ、後半はロマンチシズムとエスプリが適度な調和をもって良好でした。今回は歌手が頑張っていたので、オーケストラもそれに負けじと頑張った、と言うことかも知れません。歌手は総じて良好。特にタイトルロールのヴァドゥヴァとサッバティーニの主演二人が良かったので、全体が締まったということは言えるでしょう。

 ヴァドゥヴァは、キャリアを見るとリリコ・レジェーロからリリコぐらいの声の持ち主のようですが、今回のマノンを聴いた限り、声の綺麗な人という印象は持てませんでした。しかし、この方は、非常に存在感のある歌唱を行いました。「マノン」は、第1幕では田舎からポット出の少女として描かれ、3幕で悪女に変身するわけですが、ヴァドゥヴァは1幕と3幕とで歌い方を変えてきました。1幕はやや低めに声をコントロールしたのに対し、3幕ではもっとブリリアントな歌唱で登場しました。こういった歌い分けは、ヴァドゥヴァのマノンに対する思いの一面を見る様で興味深いものがありました。ヴァドゥヴァの白眉は「さようなら、小さなテーブルよ」のアリア。身勝手な女の情感まで表現出来ていたかどうか、という点には疑問が残るけれども、十分楽しめるものでした。決して見た目の美人では無いし、背も低めのおばさんで、とても男が寄って来そうには見えない人ですが、歌を聴いていると、悪女の美人役もありかな、と思わせるような説得力のある歌でした。

 ヴァドゥヴァに増してサッバティーニは凄かった。わたしは、これまでサッバテーニを2回聴いているのですが、どちらも不満の多い歌唱で、名前だけの虚名歌手ではないかと内心疑っておりました。今回の歌唱は文句なし。これまで疑っていてごめんなさいと兜を脱ぎましょう。2幕のアリアは、これを聴いただけでも今回来て良かった、と思える名唱で、大ブラボーは当然です。3幕のアリアは、2幕のアリアから見れば若干落ちましたが、それでも必聴の名唱といえると思います。それ以外でも、悪女「マノン」に心を弄ばれる優男をを見事に演じていました。

 カロリスは、ヴァドゥヴァ、サッバティーニに挟まれて、余り特徴的なところを聴けなかったのが残念でした。池田直樹は威厳のあるお父さん役を一寸ステレオタイプに演じて中々いい味を出していました。鈴木寛一のギヨー、黒崎錬太郎のド・ブレティニは今一つ。特に黒崎は、声が通らず、割りと重要な役目だと思うのですが、存在感が感じられませんでした。

 一方、腰越、永田、手嶋の女声陣は好演。第1幕における女声三重唱は実にきれいなアンサンブルで大いに感心致しました。

 舞台は、1970年のポネルのウィーンの舞台を持ってきました。幕毎のコントラストが良く、光の使い方もよく考えられた舞台ですが、スクリーンをかけて、中の様子がわりとボケて見えるものでした。ポネルは、スクリーンをかけることにより、騎士デ・グリューの思い出を描こうとしたのかもしれません。しかし、Tはあまり気に入りませんでした。

 今回の演奏で最大の問題は、「フライング・ブラボー・小父さん」の出現でしょう。サバティーニの3幕のアリアが終わるか終わらないかのときブラボーを叫んでいただき、素敵なアリアの余韻を楽しめなかったのは大いに残念です。

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