オペラに行って参りました-2013年(その3)

目次

不自然さが魅力なのか  2013年5月2日  東京二期会オペラ劇場「マクベス」を聴く 
パラレルワールド  2013年6月4日  新国立劇場「ナブッコ」を聴く 
若手とベテラン  2013年6月6日   新国立劇場「コジ・ファン・トゥッテ」を聴く  
標準の演奏を聴いてみたい  2013年6月8日  東京オペレッタ劇場「ジェロルスタインの女大公」を聴く 
初々しさへの感動  2013年6月19日  二期会WEEK第3夜オペラ・ブッファの夜「ドン・パスクァーレ」を聴く  
日本らしさをどう考えるべきか?  2013年6月26日  新国立劇場「夜叉ケ池}を聴く 
レクチャー・コンサートの難しさ  2013年7月2日  JOF WEEK第2夜藤原歌劇団ヴェルディ・イヤー記念コンサート<デュマ・フィス、ヴォルテール、シェイクスピア(T)によるオペラ>を聴く 
やっぱりヴェルディは素晴らしい  2013年7月5日  JOF WEEK第5夜藤原歌劇団ヴェルディ・イヤー記念コンサート<シェイクスピア(U)によるオペラ>を聴く 
演奏者が悪いのか?、楽器の限界なのか?  2013年7月7日  鈴木弥生×千葉弥生 電子オルガンデュオリサイタルを聴く  
次世代のファン育成のために  2013年7月10日  新国立劇場高校生のためのオペラ鑑賞教室「愛の妙薬」を聴く 


オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2013年  その1  その2   その3  その4  その5   
2012年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2012年 
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

鑑賞日:2013年5月2日 
入場料:5F L2列32番 5000円

主催:公益財団法人東京二期会

《二期会創立60周年記念公演》
東京二期会オペラ劇場

全2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲「マクベス」(Macbeth)
原作:ウィリアム・シェイクスピア
台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ

会場:東京文化会館 大ホール


スタッフ

指 揮 アレクサンドル・ヴェデルニコフ  
管弦楽 東京交響楽団
合 唱    二期会合唱団
合唱指揮    佐藤 宏
演 出 ペーター・コンヴィチュニー
装 置  :  ヨルク・コスドルフ
衣 裳  :  ミヒャエラ・マイヤー=ミヒナイ 
照 明  :  喜多村 貴
演出補  :  ハイデ・シュトック 
舞台監督  :  幸泉浩司
公演監督  :  多田羅迪夫

出 演

マクベス   今井 俊輔
マクベス夫人   石上 朋美
マクダフ   松村 英行
バンコー   斉木 健詞
マルコム   新海 康仁
マクベス夫人の侍女   森田 雅美
医者   小田川 哲也
ダンカン   加賀 清孝
第一の魔女   近藤 京子
第二の魔女   河口 祐貴子
第三の魔女   北原 瑠美
フリーアンス   池袋 遥輝

感想

不自然さが魅力なのか?-東京二期会オペラ劇場「マクベス」を聴く。

 コンヴィチュニーにとって、女はすべからく魔女なのですね。マクベス夫人の侍女だって例外ではありません。だから、この魔女たちは、鉤鼻こそつけているけれども、魔女らしい魔女ではなくて、井戸端会議をするおばちゃんなのです。マクベスに予言はして見ても、その本質は、カウチポテトしながらメロドラマに涙するおばちゃん以外の何物でもありません。だからこそ、彼女たちはカラフルな衣装に身を包み、下世話にマクベスに予言をするのです。

 この魔女たちのパワーと比べたら、マクベス夫人はひよっこです。コンヴィチュニーの演出のマクベスに出演する女性の中で唯一魔女として認められないのがマクベス夫人です。マクベス夫人は魔女以上に魔的な権力者ではありますが、おばちゃんたちの野放図さには負けているように思います。それは、石上朋美の作ったマクベス夫人像が割とおとなしかったことも関係しているかもしれません。

 石上のマクベス夫人は、端正ではありましたが、悪女っぽくないのです。楽譜通りには歌っているのでしょうが、迫力が感じられない。マクベス夫人の毒のオーラを感じさせない歌唱・演技に終始していたように思います。でもそれがコンヴィチュニーの意図だったのかもしれません。第一幕こそ、マクベス夫人は女を見せますが、その後は権力闘争に携わる一員として描かれます。その権力闘争を象徴する衣装は軍服ですが、マクベス夫人だって最後は軍服を着て登場するのです。

 即ち、全体の構図として、権力闘争をする男たち(+マクベス夫人)とそのドラマを聴いている魔女という形が成立します。つまり、非常に相対的で、ドラマの中で動き回る人たちは、マクベスも、マクベス夫人も、マクダフも、バンクォーも権力闘争する出演者という点では一緒なのです。

 この相対的な視点をコンヴィチュニーは音響を使用して見せようとしたようです。即ち、休憩前は、比較的デッドな響きで抑制的な感じで描かれました。音の響きもあまり目立ちませんでした。しかし、後半はオーケストラも歌唱も響きが良くなって、その反響の仕方は拡声装置を入れているような不自然さがありました。その不自然さは、魔女たち(=すなわち普通のおばちゃん)が聴いているラジオドラマだったという終わらせ方からすれば演出家の用意した伏線だったのでしょう。

 以上話題になるだけのことはある演出だったと思いました。

 しかし、それが楽しめる演出だったかと言われれば、厳しいのかな、という気がします。ヴェルディのオペラで容易に聴ける血の滾る感じがほとんどありませんでした。やっぱり私は、このオペラに関しては、マクベスとマクベス夫人の悪の破滅をより強調した演出の方が好きです。そして、その方が歌の迫力も出るのだろうと思います。

 今井俊輔のマクベスも前に聴いた大田区民オペラでの外題役より灰汁が抜けた感じがしましたし、マクベス夫人の石上朋美も上記のように端正ではあるけれども、毒が感じられませんでした。私はこのオペラはマクベスとマクベス夫人がもっといやらしい方が面白くなると思っているのですが、そういう風にはなりませんでした。それ以外の出演者も、マクダフの第4幕のアリアのように聴きものもありましたが(松村英行、良かったです)、余りパッとした感じがありませんでした。

 これまでコンヴィチュニーの演出は自分の趣味とは違うと思っていましたが、今回の「マクベス」も私の趣味とは違いました。

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鑑賞日:2013年6月4日 
入場料:3F1列4番 7560円

主催:新国立劇場

全2部、字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲「ナブッコ」(Nabucco)
台本:テミストークレ・ソレーラ

会場:新国立劇場オペラ劇場

スタッフ

指 揮 パオロ・カリニャーニ  
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱    新国立劇場合唱団
合唱指揮    三澤 洋史
演 出 グラハム・ヴィック
美術・衣裳  :  ポール・ブラウン
照 明  :  ウォルフガング・ゲッペル
演出補  :  ヤコポ・スピレイ 
音楽ヘッドコーチ  :  石坂 宏 
舞台監督  :  斉藤 美穂
芸術監督  :  尾高 忠明

出 演

ナブッコ   ルチオ・ガッロ
アビガイッレ   マリアンネ・コルネッティ
ザッカーリア   コンスタンチン・ゴルニー
イズマエーレ   樋口 達哉
フェネーナ   谷口 睦美
アンナ   安藤 赴美子
アブダッロ   内山 信吾
ベルの司祭長   妻屋 秀和

感想

パラレルワールド-新国立劇場「ナブッコ」を聴く。

 紀元前の旧約聖書の世界が、現代のショッピングセンターの上で演じられるわけですから、それはおかしいところも一杯あります。第一、ショッピングセンターの中でナブッコは雷に打たれてしまうわけですから。このショッピングセンターには避雷針はないのか、と突っ込みたくもなります。また、ショッピングセンターのエスカレーターは重要な通路ですが、エスカレーターなのに最初から最後まで動いていない。動かすのは現実には不可能なのだろうとは思いますが、最初ぐらいは動いていた方が良かったのかな、と思います。まあ、パラレルワールドで起きたこと、として楽しみました。

 話には聞いていましたが、開演前から幕が上がっており、ショッピングセンターの中を人が歩き回っている姿は一寸度肝を抜かれました。ショッピングバッグは、おなじみのものが多く、自動ピアノから音楽が流れている様子は、如何にも現代風です。その買い物客たちは、序曲が始まると、ショッピングバックを口に咥えたり振り回したりして踊り始めます。こういうのは、それこそバブル時期のテレビ番組のオープニングで見たような気がします。

 このショッピングセンターで買い物をしているのがユダヤ人ですから、字幕では人種的な話は全く出てこないのですが、拝金主義者・ユダヤ人の暗喩があることは明らかです。それに対して、バビロニア人たちは、アナーキストのテロ集団として描かれます。勿論明確に人種の話は出てきませんが、現代の中東情勢、イスラエルと反イスラエルを意識していることは明らかでしょう。

 古代の話を現代に持ってきて、現代の政治情勢をあてこする、というのは、演出主力の現代のオペラとしてはオーソドックスなのでしょうが、バビロニア人たちがあまりにもしょぼいです。まあ、アナーキストの集団ですから着飾る、ということがないのは当然ですが、あまりにもチンピラ風で、ちょっとやりすぎなのではないか、という気がしました。ナブッコだってよれよれのジャンパー姿で、全然国王らしさを感じませんし(勿論、国王である必要はないのですが、あの恰好で気が触れて迷っていると、前提になっている国王の威厳がまるで感じられない)、アビガイッレだって、ピンクのシャツにスラックスですから、どう見たって、アメリカの中西部の田舎町のおばちゃん以外の何物でもありません。特にコルネッティは、体格が立派ですから、それを強く感じてしまいました。

 バビロニア人のアナーキーなチープさにも演出家の悪意を感じました。最後に破壊される偶像は、略奪した商品でくみ上げられますし、王冠はバットで置き換えられる。そういうところどころで、アナーキストたちが凄く間抜けに見えてしまいます。

 こういう演出をされてしまうと、歌手たちが良い歌を歌っても、今一つしっくりこない。

 コルネッティのアビガイッレ。声も凄いし、跳躍だってばっちり決めてくる。素晴らしい歌だとは思うのですが、あのアメリカの田舎のおばちゃんスタイルで歌われると、アビガイッレの持つ凄みがスポイルされてしまって、心の底から楽しめませんでした。ルチオ・ガッロのナブッコだって、登場の部分が不調だったものの、その後はしっかり立て直して立派な歌を聴かせてくれたのですが、基本的に国王の威厳がないから、視覚的に苦悩が伝わってこない。ガッロが力のあるバリトンであることは間違いないのですが、私にとっては、昨年夏、立川で聴いた演奏会形式による「ナブッコ」での牧野正人のタイトル役の方が、ずっとしっくりきます。

 やっぱり、役柄に見合った服装は大事だと思いました。

 一方、イスラエル系の人たちは服装が現代風とはいえまともですから、音楽がアナーキーに感じられませんでした。それだからよく聴こえたとは申しませんが、ザッカーリアを歌ったゴルニーがまずよかったです。冒頭のアリア「太陽が輝く前の夜のように」がことに良く、わくわくさせられるものでした。

 日本勢の頑張りも立派。フェネーナの谷口睦美は見た目もかっこよく、声も立派で秀逸。イズマエーレの樋口達哉もまったく外人勢に引けを取らない歌唱で立派。樋口の歌唱は以前は剥きになって上滑りして自滅することが珍しくなかったのですが、最近はバランスのとれた歌唱が続いています。今回は特に良かったように思います。

 日本勢で唯一気の毒だったのは、ベルの大司教役の妻屋秀和。どう見ても三蔵法師についていく沙悟浄にしか見えない。歌は立派だったのですが。

 カリニャーニの指揮は非常に切れの良い推進力のある音楽を紡ぎ出していて、大変立派でした。時としてゆるゆるになってしまう東京フィルの演奏ですが、こちらも終始きびきびした演奏で良かったです。新国立劇場合唱団の立派なことはいつものこと。有名な「行け、わが思いよ、金色の翼に乗って」が立派だったのは当然ですが、それ以外でも合唱が入ると音楽がシャキッとします。流石に実力者集団です。

 結局のところ、眼を瞑って聴いていれば、素晴らしさだけが耳に残る演奏だったのでしょう。しかし、威厳のないチンピラナブッコや、アメリカの田舎のおばちゃんスタイルのアビガイッレの外観で、折角の素敵な音楽がいびつなものにされた気がします。もう一つ演出に工夫があればと、惜しまれます。

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鑑賞日:2013年6月6日
入場料:3780円 4FL8列2番

主催:新国立劇場

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
モーツァルト作曲「コジ・ファン・トゥッテ」K.588(Così fan tutte)
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ

会場:新国立劇場オペラ劇場

スタッフ

指 揮 イヴ・アベル

管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱  :  新国立劇場合唱団
合唱指揮  :  冨平 恭平 
     
演 出 ダミアーノ・ミキエレット
美術・衣裳  :  パオロ・ファンティン 
照 明 アレッサンドロ・カーレッティ
再演演出 三浦 安浩
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 村田 健輔

出 演

フィオルティリージ ミア・パーション
ドラベッラ ジェニファー・ホロウェイ
フェルランド パオロ・ファナーレ
グリエルモ ドミニク・ケーニンガー
デスピーナ 天羽 明恵
ドン・アルフォンソ マウリツィオ・ムラーロ

感想 若手とベテラン-新国立劇場「コジ・ファン・トゥッテ」を聴く。

 このミキエレット演出の舞台は歌手を選びそうです。どんなに声がフィオルディリージやドラベッラにふさわしくても、身体能力がある程度高くてスポーツマンタイプの歌手ではないと出演できないだろうな、と思いますし、逆に言えば、そういう若手の歌手のためにある舞台、と言ってもよいかもしれません。

 キャンプ場が回り舞台の上にしつらえられていて、どんどん回転しながら舞台が進んでいくわけですが、音響的には場所によって随分違うのではないかと思いました。いいポジションで歌える時は楽なのでしょうが、そうではないときはなかなか声が飛んでこない感じがあります。そこがこの舞台で歌う厳しさだと思いますし、若手の実力を見るには良い舞台ということになるのかもしれません。

 今回の出演者は、4人の恋人たちが、スウェーデン、米、伊、独出身の若手で、デスピーナとドン・アルフォンゾが日、伊のベテランという組み合わせとなりました。 

 全体の安定感という意味では、デスピーナ役の天羽明恵が一番でしょう。彼女ももう40代後半だと思いますが、ミニスカート姿の前半のウェイトレス姿も、後半のタンクトップ姿も、視覚的にはやや無理が出始めている感じはありましたが、板についているというか、様になっていました。歌も立派で落ち着いています。全体を通じて、一定のレベル以上で歌いきって見せるところ、流石にベテランという感じです。しかし、歌が落ち着きすぎていて、デスピーナの持つおきゃんな感じが今一つはっきりしなかったのが残念。、医者に化けた時の歌、公証人に化けた時の歌が、もっと弾けていてもよいのではないかと思いました。

 ドン・アルフォンゾ役のムラーロは、結構むらのある歌唱。低音の落ち着いた魅力をばっちり出すところは勿論あります。例えば、30番のアリア「みな御婦人がたを攻撃するが,わしは弁護してあげよう」は立派でしたし、重唱でも流石にベテランだな、と思わせるところもあったのですが、重唱のバランス等が、一寸違うのではないかと思わせる部分もあって、文句なしというわけにはまいりません。

 若手の4人は皆力量のある方でした。特にフェルランドを歌われたパオロ・ファナーレはテノール・リリコ・レジェーロの美声で、如何にもモーツァルトテノールという感じで素敵でした。17番のアリア「愛しい人の愛のそよ風」は特に立派。ぞくぞくする美しさでした。この方は安定感も高く、重唱におけるバランスもよく、今回の歌手陣の中で、私は一番気に入りました。

 フィオルディリージを歌ったパーションは、音程が安定していて、アンサンブルが綺麗に響く方。それでも、前半はやや乗り切れていないように見えたのですが、後半はしり上がりに良くなった感じです。一番の聴きどころである二幕の大アリア「いとしい方よ,愛する心のこのあやまちを許して」は、アダージョの部分を切々と歌い上げるところが非常に素晴らしく、長い拍手は当然だと思います。

 一方、第一幕の有名なアリア「岩のように動かず」は今一つ。これは、パーションのせいというより、演出が悪い。あんな難曲のアリアを歌うのに、キャンピングカーの屋根の上から、梯子を下りて飛び出し、テントを蹴飛ばしながら歌わなければいけないのですから、息が上がってしまいます。勿論、それぐらい暴れてもきっちり歌える方が一流という見方もあるでしょうが、厳しい試練で可哀相です。そういえば、プレミエの時のボルジも、「岩のように」がダメで、二幕のアリアが良かった記憶があるのですが、演出が影響していたのでしょう。気が付きませんでした。

 ドラベッラ役のホロウェイは、声の震える感じの強い方で、そこがすっきりしないところです。アリアを歌えばそれなりにまとめてきますし、第1幕のフィナーレのフィオルディリージとの二重唱なども素敵でしたが、私の好みとは一寸ずれていました。

 グリエルモのケーニンガーも良好でした。このアンサンブルオペラの中では一番目立たない役柄はあるのですが、しっかり重唱を支えていたと思いますし、アリアも悪くなかったと思います。

 そういうわけで、歌手陣はみなさん立派で、良かったと思うのですが、このオペラの持つ喜劇性が音楽的に十分表現できていなかったのではないか、という風に思います。これは歌手の責任というより、指揮者の問題のように思いました。

 イヴ・アベルの指揮はよく言えば穏当、悪く言えば切れの乏しい鈍重なもので、モーツァルト音楽の持つ軽みを表現しきれなかったきらいがあります。東京フィルハーモニー交響楽団の演奏も、メンバーはナブッコの時とほとんど同じにもかかわらず、「別のオーケストラなの?」と思うぐらい緩い演奏に終始しました。指揮者のこのオペラに対する感覚が、私の感覚と随分違うのだな、と思った次第です。

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鑑賞日:2013年6月8日
入場料:4500円 自由席

主催:東京オペレッタ劇場/特別共催:Kissポ^−ト財団

オペレッタ2幕・日本語上演
オッフェンバック作曲「ジェロルスタンの女大公」(La Grande-Duchesse de Gerolstein)
台本:アンリ・メイヤック/リュドヴィック・アレヴィ
訳詞/日本語台本:角岳史

会 場 高輪区民ホール

ピアノ 野間 美希
演出・脚本 角 岳史
照 明 望月 太介
舞台監督 畑崎 広和
プロデューサー 宮前 日出夫

出演者

ジェロルスタイン大公 針生 美智子
ブン大将 女屋 哲郎
フリッツ 武井 基治
ワンダ 里中 トヨコ
ブック 黒田 大介
ポール皇太子 澤村 翔子

感想

標準の演奏を聴いてみたい-東京オペレッタ劇場「ジェロルスタンの女大公」を聴く

 東京二期会では、「こうもり」や「メリー・ウィドゥ」、「天国と地獄」といったオペレッタを何年に1回かは上演していますが、しかし、日本のオペレッタ上演は、個人の力量にゆだねられています。寺崎裕則の日本オペレッタ協会、岩田信市のスーパー一座、向井揖爾の喜歌劇楽友協会などが、近年の日本のオペレッタ上演を引っ張ってきたことは疑いないところです。しかしながら、このような個人主宰の団体は、主宰者の代替わりが上手く行かないと止めざるを得ません。スーパー一座は2008年を最後に活動を中止し、日本オペレッタ協会も本年4月25日に解散いたしました。

 一方、新たな活動も起きており、角岳史の東京オペレッタ劇場やガレリア座は東京の新たなオペレッタ活動を担って欲しいなと一ファンとしては思っております。特に東京オペレッタ劇場は、日本オペレッタ協会の流れを引き継いでいる活動のようで、今後の発展を期待したいところです。しかしながら、東京オペレッタ劇場、活動の宣伝をあまり行っていないようです。今回の上演も、「音楽の友」も「ぶらあぼ」にも掲載されておらず、私が出かけられたのは、先月末、偶然に東京オペレッタ劇場のサイトにアクセスしたからです。

 しかし、それも仕方がないのかもしれません。舞台内容があまりにもしょぼいのです。私は、「ジェロルスタン女大公殿下」を2008年2月の日本オペレッタ協会の上演を聴きました。その時もソリストの歌はそれぞれ良かったと思ったのですが、演出の趣旨が分からなかったし、本来の音楽を無視した舞台づくりで失望したことを覚えています。今回の舞台は、歌手陣は5年前の日本オペレッタ協会公演とほぼ同じメンバー、しかし、5年前には出演していたクロック男爵は省略されています。またもや合唱もなく、5年前は13曲歌われましたが、今回は更に曲数が減ったような気がします(勘定していないので、正確には分かりません)。5年前以上にイマイチ感の強い舞台。

 経済的なことを含めいろいろな事情があるのでしょうが、どうせやるなら、もっと志の高い公演にしてほしかったな、とは思います。

 とは申しましたが、歌は総じて立派。5年前とほぼ同じメンバーで上演されていますから、皆さん息もよく合われていると思います。針生美智子の大公、武井基晴のフリッツ、里中トヨコのワンダ、女屋哲郎のブン大将、澤村翔子のポール皇太子と皆よく歌われていたと思いますし、タイミングを含めた台詞回しだって、とても上手です。

 特に針生は台詞でヒステリックな叫びを上げた後でも、歌になると、しっかりしたソプラノの技術を見せるのですから、凄いと思いました。さらに早口の台詞回しもしっかり覚えて、噛まずに言えるところも感心いたしました。武井基晴のフリッツ、里中トヨコのワンダもとても楽しく聴けました。

 ただ、本来の音楽をかなり切り刻む。オペレッタはそういうものだと言われてしまえばそうなのでしょうけど、それでは、オッフェンバックが書いた音楽の全貌が見えてこないように思います。「ジェロルスタン女大公殿下」は、1920年代の浅草オペラで最も人気のあった作品の一つだそうです。その上演は、今回の上演よりも、更に貧弱だったかもしれません。しかし、21世紀の今、本物がいくらでも入手できる時代、いろいろ台本で理由をつけるにしても、ダウンサイジングを進めたオペレッタで、まともに客を呼ぼうというのは一寸甘いのではないか、という気がしました。

 とにかく、オッフェンバックの書いた音楽のカットのない、合唱やすべての重唱を含んだフル演奏を一度は生で聴いてみたいと思います。そういう機会が来ることを祈りましょう。

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鑑賞日:2013年6月19日
入場料:4500円 5列21番

主催:株式会社二期会21

二期会WEEK@サントリーホール2013第3夜 オペラ・ブッファの夜

オペラ3幕・字幕付原語(イタリア語)上演
ドニゼッティ作曲「ドン・パスクァーレ」(Don Pasquale)
台本:ジョヴァンニ・ルッフィーニ,ガエターノ・ドニゼッティ

会 場 サントリーホール・ブルーローズ(小ホール)

ピアノ 小埜寺 美樹
演 出 弥勒 忠史
語り    弥勒 忠史 

出演者

ドン・パスクァーレ 畠山 茂
ノリーナ 上村 朝子
マラテスタ 佐藤 望
エルネスト 大川 信之
公証人 弥勒 忠史

プログラム

  第1幕   
アリア「天使のように美しく」    マラテスタ 
アリア「ただならぬ炎が」    ドン・パスクァーレ 
二重唱「嫁を取る、ですって?」    エルネスト/ドン・パスクァーレ 
カヴァティーナ「騎士はその眼差しを」    ノリーナ 
二重唱(第一幕のフィナーレ)「私は準備Okよ」    ノリーナ/マラテスタ 
  第2幕   
三重唱「ほら、しっかりして」    ノリーナ/マラテスタ/ドン・パスクァーレ 
第二幕のフィナーレ「そこをどけ、どけ」    全員 
  休憩   
  第3幕   
二重唱「お嬢さん、そんなに急いで」    ノリーナ/ドン・パスクァーレ 
二重唱「こっそり、こっそり、今すぐに」    マラテスタ/ドン・パスクァーレ 
セレナータ「何と穏やかな四月の夜!」    エルネスト 
ノットゥルノ「もう一度好きだと言って」    ノリーナ/エルネスト 
フィナーレ「遠くまで行かなくても」    全員 

感想

初々しさへの感動-二期会WEEK第三夜 オペラ・ブッファの夜「ドン・パスクァーレ」を聴く

 「ドン・パスクァーレ」は、オペラ・ブッファの掉尾を飾る名作ということになっているのですが、なかなか上演に恵まれません。東京で全幕上演されたのは2001年の昭和音大公演が最後だと思います。そんななかなか巡り会えないオペラが、ハイライト公演とはいえ、二期会のメンバーにより取り上げられるということになれば聴きたくなるのが人情です。というわけで、サントリーホール・ブルーローズまで出かけてまいりました。

 ハイライト公演とはいえ、主要なアリアと重唱はほとんどが取り上げられました。カットになったのは、第二幕冒頭のエルネストのアリアなど一部。一方、レシタティーヴォと合唱は、基本カットで、弥勒忠史による解説に変わります。こういうぶつ切れの形態は、オペラ全部を楽しみたい私にとっては、余り好ましいものではないのですが、演出が面白く、楽しめるものになっていました。

 弥勒忠史の演出は、「婚活合宿をするメンバーによるケース・スタディ」のお芝居、という設定で、弥勒やピアニストの小埜寺美樹を含めた全員がジャージで登場します。首には1本のタオル。舞台上には、縁台が一つ置かれているきりです。登場人物は、このタオルと縁台と自分の肉体だけを使って、お芝居を見せてしまいます。

 ドン・パスクァーレのアリアで、畠山茂が相撲のすり足・鉄砲のまねをして見たかと思うと、ノリーナのアリアを、上村朝子は、ラジオ体操をしながら歌って見せます。「私は準備OKよ」では、マラテスタが竹刀を持って登場し、振り回しながら歌います。こうなると、当然ノリーナが傍若無人に振る舞うシーンでは、ドロップキックをはじめとするプロレス技がさく裂します。あんな動きをしながらよく声が出るな、とまずは感心いたしました。

 体力があって、この程度では息が切れない歌手を選んだということはあるのでしょうが、運動を意識した演出になっていました。そういえば、弥勒の演出でかつて上演された「ジャンニ・スキッキ」は、全員がサッカー選手の衣裳で登場しましたが、スポーツをやる人をポイントに置いた演出は、お金がかからないのにインパクトがあると、弥勒が思っているのかもしれませんし、確かに見ている方も楽しめると思います。

 さて、歌唱ですが、全体としては彫りが浅い感じがしました。特にノリーナ役の上村朝子は、オペラ公演の主役は初めてという新進歌手で、線の細い感じがずっと付きまといました。「騎士はその眼差しを」では、最高音が上がり切っていませんでしたし、第3幕フィナーレは相当ひやひやものでした。しかし彼女は、舞台で歌うことの怖さと温かい拍手の味を十分感じていました。第3幕のフィナーレがひやひやものだった原因は、彼女が感無量になったせいです。私もこれまで随分オペラを見て来たと思いますが、新人が感動の涙に咽びながら歌うのを見たのは初めての経験です。その初々しさに、私も感動してしまいました。

 畠山茂のドン・パスクァーレは笑える主人公でした。このオペラにおけるドン・パスクァーレはかなり可哀相な主人公ですが、畠山茂が歌唱し、演じるとあまり可哀相な感じがしません。それが良い所だと思いました。

 大川信之はエンターテナー。ただ、所作が若々しくない。声をもっと軽くして、明るく歌う方が良いと思うのですが、胸に響く声が、おっさん臭くて若々しくないのが残念なところです。

 マラテスタの佐藤望は、歌唱の細かい表情が一番少ない感じです。動きに気が廻りすぎて、表現がおろそかになったのでなければよろしいのですが。

 以上、歌唱としてはごく普通の演奏でしたが、ある意味奇抜な演出と、弥勒及び出演者の会場を巻き込んで楽しませようという意気込みはたいへん感じられて、楽しめた一晩でした。

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鑑賞日:2013年6月26日
入場料:C席 5670円 2F1列66番

主催:新国立劇場

新制作/新国立劇場創作委嘱作品・世界初演

オペラ2幕、字幕付原語(日本語)上演
香月 修作曲「夜叉ケ池」 (Katsuki Osamu : Yashagaike (Demon Pond))
原作:泉鏡花
台本:
香月修/岩田達宗

会場:新国立劇場中劇場

スタッフ

指 揮 十束尚宏
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱  :  新国立劇場合唱団
合唱指揮  :  三澤 洋史 
児童合唱   :   世田谷ジュニア合唱団 
児童合唱指導  :  掛江 みどり 
演 出 岩田 達宗
美 術  :  二村 周作 
衣 裳  :  半田 悦子 
照 明 沢田 祐二
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 菅原 多敢弘

出 演

白雪 腰越 満美
百合 砂川 涼子
西村 悟
学円 宮本 益光
鉱蔵 妻屋 秀和
鯉七 羽山 晃生
弥太兵衛/蟹五郎 大久保 光哉
鯰入 志村 文彦
万年姥 森山 京子
与十/初男 加茂下 稔

感想 日本らしさをどう考えるべきか?-新国立劇場「夜叉ケ池」を聴く。

 恥ずかしながら、泉鏡花の小説や戯曲を全く読んだことがありません。私が大人の小説を読み始めた中学生時代、鏡花の作品は文庫本では既にほとんどなく、岩波文庫や新潮文庫に「高野聖」が残っていたぐらいではなかったのでしょうか。一方で、鏡花が日本の幻想小説の先駆者として一定の読者が連綿と続いていることもまた確かないようです。そして、この幻想性故に作曲家は「オペラになりやすい」、あるいは「オペラにしたい」と思うようです。

 ちなみに、鏡花原作のオペラで一番有名なのは、「天守物語」です。水野修孝作曲のこのオペラは日本人作曲家によるオペラとしては最も有名なもののひとつで、新国立劇場で上演され、かつ日本オペラ協会でも取り上げられています。また、池辺晉一郎は「高野聖」をオペラ化し、2011年に金沢で初演しています。そして、今度は香月修が「夜叉が池」を作曲した、ということですね。そういうわけで、鏡花原作のオペラでメジャーなものが三本もある。大したものだと思います。

 ちなみに「夜叉が池」は、福井県と岐阜県の県境にある山の頂にある池の名前らしいのですが、御多分に漏れず、伝承がある。その伝承の基本は、「夜叉が池の水は涸れたことが無い。これは、池に住む龍が、ふもとの村の雨乞いの祈願に応えて雨を降らせた代わりに、村の長者の娘・夜叉姫を連れ去り、夜叉姫も龍となって、この池を守っているから」というものだそうで、伝承民話にはよくあるパターンです。

 香月修のオペラは、伝承民話をもとにした幻想劇をオペラにしたという意識が相当あるようで、音楽的には日本テイストが満載されていました。これは、新国立劇場が新作オペラを香月修に委嘱した時、尾高忠明芸術監督が、「口ずさめるような親しみやすい歌のあるオペラを作りたい」という要求をしたそうですが、香月の回答が「和テイストのオペラを作る」、だったとも思います。このオペラで一番印象的な曲は「百合の子守歌」ですが、この曲自体が日本風子守歌そのものでした。

 このほかにも、和の味わいを感じさせるところは多々ありました。鯉七、蟹五郎、鯰入の三重唱は、「トゥーランドット」のピン・パン・ポンを彷彿とさせるもの。しかし、ピン・パン・ポンの三重唱は、イタリアのコンメディア・デッラルテの伝統を引くものに対して、今回のおさかな三重唱はやっぱり和的な印象でした。しかし、オーケストレーションにはあまり和的な雰囲気は含まれず、しっかりした厚い伴奏がついていました。

 この音楽的特徴は、同じ鏡花原作のオペラでも、「天守物語」とは相当違った味わいになりました。「天守物語」は頗る日本的な作品ですが、音楽的には現代的でインターナショナルな作品だと思います。その分、まあとっつきにくい感じがぬぐえません。今回、腰越満美が物の怪役である「白雪」を歌いました。腰越といえば、「天守物語」の「富姫」が当たり役ですが、今回の「白雪」は富姫と重なり合うような印象がありました。ただ、アリアを初めとする歌曲は、白雪役の方が親しみやすい感じがしました。

 この親しみやすさが日本的な音階・音楽を背景にして成立しているというところをどのように評価されるかが、この作品の評判を決めそうな気がします。私は、原作・音楽とも和の民俗的テイストに染まりすぎているのではないか、と思いましたが、勿論、それが良いと仰る方もたくさんいるだろうなと思います。

 なお、オーケストレーションは全体的に重厚で、今回の会場における歌手とのバランスを考えると、もう少し薄いオーケストレーションの方が良いのではないかと思う部分がありました。

 歌手は総じて立派。皆さん世界初演の作品にしっかり取り組んできた印象を持ちました。特に主要四役の砂川涼子、西村悟、腰越満美、宮本益光は、よく練習され、音楽が身に入っている感じが結構だったと思います。特に如何にも物の怪的な力強さをしっかり出してきた腰越と、清楚なヒロインを切々と歌い上げた砂川涼子は魅力がありました。脇役勢では、森山京子がよく、鯉七、蟹五郎、鯰入もコメディタッチで楽しめました。この作品で代表する悪役である、鉱造役は、悪役テイストがあまり強くなく、ぼんやりした感じでした。

 一方、オーケストラは音楽が身についていない感じ。本当にこんな音でいいのかしら、と感じてしまうところが何箇所もありました。それが本当に作曲家が書いたように演奏しているのであれば仕方がないのですが、実際はどうだったのでしょう?

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鑑賞日:2013年7月2日
入場料:4500円 自由席

主催:公益財団法人日本オペラ振興会

JOF WEEK in summer第2夜
藤原歌劇団ヴェルディ・イヤー記念コンサート
デュマ・フィス、ヴォルテール、シェイクスピア(T)によるオペラ

会 場 サントリーホール・ブルーローズ(小ホール)

出演者

ご案内    牧野 正人 
解 説 小畑 恒夫
ピアノ 浅野 菜生子
ソプラノ 砂川 涼子
  廣田 美穂
  ティツィアーナ・ドゥカーティ
テノール 所谷 直生
バリトン 須藤 慎吾
  谷 友博

プログラム

●ヴォルテール

 「アルヅィーラ」 "Alzira"
「グズマーノから小舟で逃れて」  ティツィアーナ・ドゥカーティ  (アルヅィーラ)
「お前はずっと私を愛しているか?〜ええ、どんなにか?」  ティツィアーナ・ドゥカーティ  (アルヅィーラ) 
所谷 直生  (ザーモロ)

●シェイクスピア

 「マクベス」 "Macbeth"
「早く来て明かりをつけて」  廣田 美穂  (マクベス夫人)
「宿命的な妻よ」  廣田 美穂  (マクベス夫人) 
須藤 慎吾  (マクベス)
「乾杯の歌」  廣田 美穂  (マクベス夫人) 
「憐れみも誉れも愛も」 須藤 慎吾  (マクベス)

●デュマ・フィス

 「ラ・トラヴィアータ」 "La traviata"

「ああ、そは彼の人か〜花から花へ」 

砂川 涼子  (ヴィオレッタ)
「燃える心を」  所谷 直生  (アルフレード) 
「プロヴァンスの海と陸」 谷 友博  (ジェルモン)
「パリを離れて」〜フィナーレ  砂川 涼子  (ヴィオレッタ) 
所谷 直生  (アルフレード)
谷 友博  (ジェルモン)
廣田 美穂  (アンニーナ)
アンコール  
乾杯の歌 砂川 涼子  (ヴィオレッタ)
所谷 直生  (アルフレード)
その他の出演者  (合唱)

感想

レクチャーコンサートの難しさ-藤原歌劇団ヴェルディ・イヤー記念コンサート JOF WEEK第2夜 <デュマ・フィス、ヴォルテール、シェイクスピア(T)>によるオペラを聴く

 毎年6月頃、東京二期会は「二期会week」と称して、サントリーホールブルーローズで連日コンサートを行っておりますが、それに遅れること10年、日本オペラ振興会も「JOF week」と称して5日連続のコンサートを行うことになりました。二期会weekがかなりバラエティに富んだ内容であるのに対して、日本オペラ振興会を構成する藤原歌劇団はイタリアオペラを専門的に上演してきたこともあって、今回は生誕200年のヴェルディに焦点を当ててきました。

 ヴェルディは生涯26作のオペラを作曲し、その半数は今も世界中のオペラハウスで上演される、イタリアオペラ最大の人気作曲家でありますが、音楽史的に申し上げれば、ヴェルディぐらいから作曲家がオペラの原作を選べるようになってきて、それまでの劇場が台本作家を連れて来て、その台本に音楽を付けてオペラにするという時代から決別した先駆者でもあったそうです。

 そういうわけで、今回のJOF weekにおいて藤原歌劇団は、オペラの原作という視点でプログラムを組みました。更に昭和音大の小畑恒夫教授に解説をお願いし、レクチャー・コンサート風になっておりました。

 でもレクチャー・コンサートって難しいですね。特に今回は最初の曲が「アルヅィーラ」という、ヴェルディの作品の中では最もマイナーなオペラからのアリアと二重唱でしたから、どうしても解説が長くなります。なかなか曲が始まりません。内容は私の知らないことが相当含まれており、大変勉強にはなったのですが、20分弱は流石に長い感じがしました。もっと簡潔な解説の方が良かったかなと思います。

 ちなみに「アルヅィーラ」の原作者であるヴォルテールは18世紀の啓蒙思想家として有名で、18世紀のヨーロッパの自由主義者の代表格みたいな人でしたから、イタリア独立の精神的支柱でもあったヴェルディにとっては重要な人だったのでしょうし、その作品を題材にしたオペラを書いたのも当然のことだったのかもしれません。

 しかし、「アルヅィーラ」というオペラはヴェルディの失敗作として知られ、私もこれまで全曲を聴いたことがありません。それで楽しみに聴いたのですが、正直申し上げて、面白く聴くことは出来ませんでした。曲自体の持つ魅力が足りないのか、デゥカーティという歌手が今一つ表現力に乏しいのか分かりません。恰幅がよく声は良く出ているのですが、声に鋭さが乏しく、もっさりとした印象で、なんかパッとしません。よく分からないうちに終わってしまいました。

 第2曲目はシェイクスピアの四大悲劇の一つ「マクベス」を原作にしたオペラ。「マクベス」は、ヴェルディの初期の作品の中では最も有名な作品ですが、小畑の解説は本当に初心者向けで、私にとっては不要な説明。この説明よりは歌を増やしてもらうか、早く終わって貰う方が私には助かります。特に今回の演奏会の中で一番の聴きものだったから、そう思うのでしょう。

 廣田美穂は元々安定した力のあるソプラノですが、今回はその力量をしっかり見せて下さったと思います。「早く来て明かりをつけて」は、墨のたっぷりついた太筆でしっかりと書いていくような歌唱で、そのたっぷりした感じが良かったです。これぞマクベス夫人という感じでした。5月の二期会公演の石上朋美よりずっとマクベス夫人らしいマクベス夫人でした。

 マクベスを歌った須藤慎吾も藤原の若手バリトンを代表する方だけのことはあります。凄く魅力的二重唱も良かったですし、アリアも壮絶な魅力に溢れていました。

 最後の「椿姫」は、ヴェルディの最も有名な作品ですから、「マクベス」以上に解説は不要です。でも、この解説があった方が楽しめる方も居るのでしょうね。ただし、このコンサートに来る方で「椿姫」を知らない方はいないと思いますが。

 しかしながら、演奏は一寸残念でした。

 砂川涼子のヴィオレッタは、先日の神奈川県民ホールで聴きましたが、それと基本的には同じ感想です。彼女の声はヴィオレッタには向かないと思います。「ああ、そは彼の人か」は最高音が金切り声になりますし、今回は「花から花へ」のフィナーレの部分の音上げもしませんでした。この歌を聴いていると、廣田美穂にこの歌を歌わせてみたいと思いました。彼女はヴィジュアルにはヴィオレッタではないのですが、音楽的にはもっと素敵なヴィオレッタになっていたのではないかしら。勿論砂川のヴィオレッタは高音のない「パリを離れて」の二重唱は、当然ながら素晴らしいものなのですが。

 谷友博のジェルモンもいまいち。声は素敵ですが、二か所ほどこけそうになったところがありました。一方見直したのが所谷直生。「燃える心を」は若さと情熱が醸し出す音楽の崩れと、音楽の持つ本来の力が上手くバランスして、魅力的でした。アンコールの「乾杯の歌」も良かったですし、そのほかの補助で入る歌唱もなかなかよいものでした。

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鑑賞日:2013年7月5日
入場料:4500円 自由席

主催:公益財団法人日本オペラ振興会

JOF WEEK in summer第5夜
藤原歌劇団ヴェルディ・イヤー記念コンサート
シェイクスピア(U)によるオペラ

会 場 サントリーホール・ブルーローズ(小ホール)

出演者

ご案内    若林 勉 
解 説 小畑 恒夫
ピアノ 高橋 裕子
ソプラノ 砂川 涼子
  大貫 裕子
メゾソプラノ  但馬 由香
  牧野 真由美
テノール 角田 和弘
  所谷 直生
  川久保 博史
  藤原 海考
バリトン 豊島 雄一
  牧野 正人
  森口 賢二
バス  デニス・ビシュニャ

プログラム

●シェイクスピア

 「オテッロ」 "Otello"
「既に夜も更けた」  砂川 涼子  (デズデモーナ)
角田 和弘  (オテロ) 
「無慈悲な神の命ずるままに」  豊島 雄一  (ヤーゴ)
「神に懸けて誓う」  角田 和弘  (オテロ) 
  豊島 雄一  (ヤーゴ) 
「柳の歌」 砂川 涼子  (デズデモーナ)

 「ファルスタッフ」 "Falstaff"

「輝くアリーチェよ、君に愛を捧げん〜第1幕フィナーレ」 

砂川 涼子  (アリーチェ)
大貫 裕子  (ナンネッタ) 
但馬 由香  (メグ)
牧野 真由美  (クイックリー夫人) 
所谷 直生  (フェントン)
川久保 博史 (カイウス)
森口 賢二  (フォード)
藤原 海考  (バルドルフォ)
デニス・ビシュニャ (ピストーラ)
夢かまことか 森口 賢二  (フォード)
おい、亭主 牧野 正人  (ファルスタッフ)
夏のそよ風吹く上を 大貫 裕子  (ナンネッタ)
世の中全部冗談だ 牧野 正人  (ファルスタッフ)

砂川 涼子  (アリーチェ)
大貫 裕子  (ナンネッタ) 
但馬 由香  (メグ)
牧野 真由美  (クイックリー夫人) 
所谷 直生  (フェントン)
川久保 博史 (カイウス)
森口 賢二  (フォード)
藤原 海考  (バルドルフォ)
デニス・ビシュニャ (ピストーラ)

感想

やっぱりヴェルディは素晴らしい-藤原歌劇団ヴェルディ・イヤー記念コンサート JOF WEEK第5夜 <シェイクスピア(U)>によるオペラを聴く

 オペラを音楽による演劇作品と考えれば、その最高傑作はヴェルディの「オテロ」と「ファルスタッフ」にとどめを刺す、と思っています。オペラとして好きな作品は勿論他にもたくさんありますが、原作が素晴らしく、台本が素晴らしく、音楽が素晴らしいと言えば、あとはR・シュトラウスの「ばらの騎士」ぐらいしか思い出せない。

 となれば、ヴェルディ週間の最後が、シェイクスピア原作による悲劇オペラと喜劇オペラの傑作を持ってくるというのは当然でしょうね。

 演奏も良かったです。まずは砂川涼子のデズデモーナとアリーチェ、どちらも素晴らしい。

 砂川にとってのデズデモーナは「強い女」なのでしょうね。オテロとの愛の二重唱「既に夜も更けた」は、甘い雰囲気を漂わせていましたが、「柳の歌」は、愛する夫の愛を失って、死をも現実として受け入れなければいけない女性の歌にも関わらず、なよなよした逡巡がなくストレートな表現でした。覚悟が決まっているというか、そこが素晴らしいです。

 角田和弘のオテロ。藤原を代表するスピント・テノールですが、ヴィヴラートを減らして歌えないのかな、というのが率直なところ。力強くてよろしんのですが、何か無理をしている感じが強くて、もう一つ力を抜いた歌でもよいのではないかと思いました。豊島雄一も頑張っていたこともあって、オテロとヤーゴの二重唱は、元気がありすぎる感じ。あの歌だと、ヤーゴの裏の気持ちはうかがえません。

 豊島雄一のヤーゴは良い歌でしたが、かっこよさと下品さとが混じり合っていて妙な感じ。「ヤーゴのクレド」は名曲で、これを真剣にしっかり歌うと、ヤーゴの邪な気持ちも、説得力が出てきて、オテロの悲劇の輪郭がぐっと濃くなるのですが、下品さが出ると、「こんな小物の悪者に騙されて、オテロもアホだな」という感じが出てきます。これは、歌手や演出家の考え方、感じ方だからいいのですが、私は品のあるヤーゴの方が、悪役の凄味が出ると思っています。

 後半のファルスタッフは、重唱部分がまずは圧巻。指揮者がいないので、きっちりあっているというわけにはいかないのですが、実力派の歌手9人がコンチェルタートを歌う姿は見事なものです。ファルスタッフの第一幕のフィナーレがどんな音楽かは勿論知っておりますが、横一列に並んで、楽譜のページをものすごい速さで捲りながら歌う姿は驚きです。こういう様子で見せられると、音楽的にそれぞれがどういう役割を持って歌っているかが分かって、勉強になります。

 そして、あの大フーガ、「世の中全部冗談だ」は、立派な音楽ですね。何度聴いても名曲だと思いますが、また名曲の意識を新たにしました。

 ソロに関しては、牧野正人の「おい、亭主」が、本人のスタイル(牧野は、ファルスタッフを演ずるとき、肉襦袢を着なくてもよさそう)と歌のスタイルが正にファルスタッフで絶妙。森口賢二のフォードの嫉妬のアリアは、森口の若さを感じさせられる歌で結構。大貫裕子のナンネッタのアリアも彼女の軽い美声が良かったです。

 火曜日と比べますと、お客さんの入りもよくなり、名曲二曲を取り上げたということもあって、音楽的にも楽しめました。

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鑑賞日:2013年7月7日
入場料:1500円 自由席

鈴木弥生×千葉祐佳
電子オルガンデュオリサイタル

会 場 和光大学ポプリホール鶴川

出演者

電子オルガン    鈴木 弥生 
千葉 祐佳
ソプラノ 山邊 聖美
バリトン  大塚 雄太
パーカッション  春口 旭
  田中 恵利加
藤本 絢加
  滝田 桐子

プログラム

ウォルトン作曲  :  「スピッドファイア」前奏曲とフーガ 
    演奏者:鈴木弥生/千葉祐佳(以上電子オルガン)/春日旭/田中恵利加(以上パーカッション)
ディーリアス作曲  :  歌劇「村のロメオとジュリエット」より「楽園の道」 
    演奏者:鈴木弥生/千葉祐佳(以上電子オルガン) 
ラヴェル作曲  :  「スペイン狂詩曲」より「祭り」 
    演奏者:鈴木弥生/千葉祐佳(以上電子オルガン)/春日旭/田中恵利加/藤本絢加/滝田桐子(以上パーカッション) 

休憩   

グノー作曲  :  歌劇「ロメオとジュリエット」よりジュリエッタのアリア「私は夢に生きたい」 
    演奏者:山邊聖美(ソプラノ)/鈴木弥生/千葉祐佳(以上電子オルガン) 
ビゼー作曲  :  歌劇「カルメン」よりエスカミーリョのアリア「諸君らの乾杯を喜んで受けよう」 
    演奏者:大塚雄太(バリトン)/鈴木弥生/千葉祐佳(以上電子オルガン) 
プッチーニ作曲  :  歌劇「ジャンニ・スキッキ」よりラウレッタのアリア「私のお父さん」 
    演奏者:山邊聖美(ソプラノ)/鈴木弥生/千葉祐佳(以上電子オルガン) 
ヴェルディ作曲  :  歌劇「椿姫」よりジェルモンのアリア「プロヴァンスの海と陸」 
    演奏者:大塚雄太(バリトン)/鈴木弥生/千葉祐佳(以上電子オルガン) 
メノッティ作曲  :  歌劇「電話」(日本語上演) 
    出演 ルーシー:山邊聖美(ソプラノ) 
        ベン:大塚雄太(バリトン) 
    電子オルガン 鈴木弥生/千葉祐佳 

アンコール   

レハール  :  喜歌劇「メリー・ウィドウ」よりハンナとダニロの二重唱「唇は黙していても」 
    演奏者:山邊聖美(ソプラノ)/鈴木弥生/千葉祐佳(以上電子オルガン) 

感想

演奏者が悪いのか?、楽器の限界なのか?-鈴木弥生×千葉祐佳電子オルガンデュオリサイタルを聴く。

 エレクトーンという楽器は、ショールームやホテルのホワイエかなんかで、美人のお姉さんがポール・モーリアやリチャード・クレイダーマンのポップス系の作品を演奏しているというイメージだけがあって、これまでまともに聴いたことがありません。勿論最近のものは、しっかりコンピュータ制御で、オーケストラのような広がりを持った演奏だって可能なのでしょうが、オーケストラ音楽を聴きたければ、オーケストラの演奏会を聴きに行けばよいだけですから、自分にとっては縁遠い楽器でした。

 今回は、山邊聖美、大塚雄太という若手の歌手を聴きに行くことが私の目的でしたから、電子オルガンは付け足しですが、はっきり申し上げればこの演奏には失望しました。音が人工的だとかそういうことではありません。結局、演奏者が電子オルガンという楽器を用いてどういう表現をしたいのか、全く見えてこない。歌手が入らない前半の演奏は本当に聴いていてもどかしくなる演奏。何でこういう演奏になるのだろうと思ってしまいました。

 最初の「スピッドファイア」前奏曲とフーガは、初めて聴く曲ですので、どう演奏するのが良いかはわかりませんが、解説に書かれている壮大さを感じることは出来ませんでした。二曲目のディーリアスは、5月に尾高忠明指揮NHK交響楽団による演奏で聴いておりますが、同じ曲なの、と言いたくなるほどの演奏。N響弦楽陣が見せた、あの耽美的な雰囲気はどこに行ってしまったのでしょう。更にラヴェルのスペイン狂詩曲。もっとアッチェラランドをかけて、曲を追い込んでいかなければ面白味が半減するわけですが、ぶつかるものを打ち破ろうとする気迫の感じられない演奏。打楽器ももっとしっかり刻んでリズムを明確に出していかないと曲の面白味が出てきません。

 結局のところ、オーケストラの演奏の魅力には足元にも及ばないレベルですし、と言って、電子オルガンとして、こういう魅力がありますよ、と示すこともできない演奏。これが電子オルガンという楽器の限界なのでしょうか。とにかく満足できない演奏でした。

 一方、後半は、若手歌手の歌が素敵で楽しめました。

 山邊聖美の「ジュリエッタのワルツ」。高音が甘いが今一つ残念なのと、もっと鼻濁音を上手に使ってフランスの雰囲気をもっと出せば更に素敵だと思いましたが、夢見る乙女の雰囲気が良く出ていて良かったと思いました。「私のお父さん」は、お父さんを蕩けさせる手練手管があれば、もっと素敵。でもすっきりとした歌唱で良かったです。

 大塚雄太の「闘牛士の歌」と「プロヴァンス」。歌詞を間違えるなど細かいミスはありましたが、とても端正な歌唱で立派。大塚は、元々持っている声が魅力的で、清新な雰囲気です。「プロヴァンス」の親父の情感を出すには、未だ若すぎる感じはしましたが、あういう端正な歌い方は、聴いていて気持ちが良いです。

 その二人が演じる「電話」。この作品は、やっぱり役の上の年齢と実際の年齢が近い方が魅力的になるのかもしれません。山邊の一寸コケティッシュな可愛さと、大塚の実直な雰囲気が上手く組み合わされて楽しいオペラとなりました。良かったです。二人とも未だ20代。今後精進して勉強を続けてくれれば、10年後は立派な歌手になっていると思えるような、演技・歌唱とも楽しめる演奏でした。

 エレクトーンの伴奏についての感想は、、特にありません。オペラでは、しばしばエレクトーンを伴奏に使いますが、歌が主体であれば有用な楽器なのだろうと思いました。

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鑑賞日:2013年7月10日
入場料:指定席 4200円 4F 2列42番

主催:新国立劇場

平成25年度 新国立劇場 高校生のためのオペラ鑑賞教室

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」(L'Elisir d'amore)
台本:フェリーチェ・ロマーニ

会 場 新国立劇場オペラ劇場

指 揮  :  城谷 正博   
管弦楽  :  東京フィルハーモニー交響楽団 
ピアノフォルテ  :   石野 真穂 
合 唱  :  新国立劇場合唱団 
合唱指揮  :  三澤 洋史 
演 出  :  チェザーレ・リエヴィ 
美 術  :  ルイジ・ベーレゴ 
衣 装  :  マリーナ・ルクサルド 
照 明  :  立田 雄士 
再演演出  澤田 康子 
音楽ヘッドコーチ  :  石坂 宏 
舞台監督  :  村田 健輔 
出 演

アディーナ

高橋 薫子

ネモリーノ

村上 敏明

ベルコーレ

成田 博之

ドゥルカマーラ

鹿野 由之

ジャンネッタ

九嶋 香奈枝

感 想 次世代のファン育成のために・平成25年度新国立劇場高校生のためのオペラ鑑賞教室「愛の妙薬」を聴く

 新国立劇場が、ロームミュージックファウンデーションの助成を受けて、高校生のためのオペラ鑑賞教室を始めたのが1998年。もう16年目になるのですね。「蝶々夫人」が3年、「トスカ」が3年、「カルメン」、「蝶々夫人」、「カヴァレリア・ルスティカーナ」、「椿姫」、、、、という感じで昨年は「ボエーム」、今年は「愛の妙薬」でした。最初の「蝶々夫人」を聴いた高校生はもう30代。高校生のためのオペラ鑑賞教室でオペラやクラシック音楽に目覚めた人もきっといるでしょう。

 こういう企画の効果判定は実は難しいと思いますが、「初めてのオペラ鑑賞だからこそ、本物のオペラを体験していただきたい"という願いを込めて、演出、舞台、美術、衣裳など本公演と全く同じ全幕プロダクションを、字幕付き原語上演で、世界レベルの歌手達が出演し、生のオーケストラ演奏により上演するものです。」という趣旨は立派で、今後も続けて行って欲しいと思います。

 私自身は、16年前にしても既に30代後半のおっさんでしたから、最初から縁はなく、当時は仕事も忙しくて、平日の午後抜け出してオペラを聴くというのもなかなか難しく、今回初めての聴取になります。

 さて、今年の演目「愛の妙薬」ですが、いろいろな意味でよい演目を選んだなと思います。まず、単純な「ボーイ・ミーツ・ガール」のオペラ・ブッファで、高校生でも中身を理解しやすい。ドニゼッティの作った音楽も軽妙で聴きやすい。もう一つ申し上げれば、この手の演目をやるのにふさわしい歌手層が今の日本は厚い、ということがあります。いつも申し上げていることですが、高橋薫子のアディーナは、世界中どこに出しても恥ずかしくない水準です。成田博之のベルコーレ、九嶋香奈枝のジャンネッタだって、今年2月の新国立劇場本公演で歌っていた方々ですから、世界に伍しているレベルと申し上げてよいでしょう。

 実際のところは、高橋薫子のアディーナはやはり素晴らしいと思います。特に二幕の歌唱は、彼女の技巧の鋭さをしっかり示しながらも、アディーナという娘の特徴を十分に表現した美しいもの。流石、世界でも有数のアディーナ歌いだと思いました。

 村上敏明のネモリーノ。ネモリーノについては、2月の本公演でシラクーザが歌いました。あの名唱は村上敏明自身が認めている素晴らしいもので、村上の本日の歌唱はそこまでは達していなかった、というのが本当のところ。村上敏明はテノーレ・リリコかテノーレ・リリコ・スピントの声の持ち主ですから、ネモリーノは、彼のレパートリーの中枢ではありません。勿論村上自身も軽く歌おうという意思はあったようですが、実際は、結構強い声で歌ってしまうところもあって、一寸残念な感じがしました。

 鹿野由之のドゥルカマーラは、登場のアリアなどで、声の飛びが今一つの部分がありましたが、全体ではまあまあな感じです。成田博之のベルコーレ、九嶋香奈枝のジャンネッタは、手慣れた感じで彼らの仕事を全うしました。

 城谷正博の指揮は、一部もう少し速い方が良いかなと思う部分がありましたが、全体としては立派でした。東フィル、新国立劇場合唱団も素敵です。

 以上、初日のトラブルが多少はあったものの、全体としては高水準の演奏だったと思います。ただ、惜しむらくは、聴衆である高校生がオペラを楽しむということがどういうことか、ほとんど分かっていなかったということですね。拍手の熱意は、我々が普段聞いている新国立劇場の水準からするととてもおとなしい。休憩時間のうねるようなうるささを聴くと、そのレベルで拍手をして欲しい思いました。

 オペラを初めて聴く高校生にとって、実感はないのでしょうが、君たちの聴いたオペラは、世界水準のものなんだよ、あの舞台で歌っている方々は凄いんだよ。そう声を大にして言ってあげたいと思いました。

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