オペラに行って参りました-2013年(その1)

目次

雲行き怪しい2013年  2013年1月6日  Voce D'oro Professionale「ニューイヤーオペラガラコンサート」〜名曲はゆとりの香り〜を聴く 
シチュエーション・コメディ二本立ての面白さ  2013年1月13日  国立音楽大学音楽研究所 オペラ演奏研究部門2012年度公演「ノイローゼ患者の一夜」「内気な二人」を聴く 
手作り感   2013年1月25日  オペラMANO八王子「ヘンゼルとグレーテル」を聴く  
見かけの和風の後ろにある現代音楽  2013年2月3日  日本オペラ協会「天守物語」を聴く 
ワグネアリアンなら楽しめたかも  2013年2月5日  新国立劇場「タンホイザー」を聴く 
シラクーザは素晴らしかったが・・・  2013年2月6日  新国立劇場「愛の妙薬」を聴く 
ボストン総督の威厳  2013年2月10日  藤原歌劇団「仮面舞踏会」を聴く  
骨子だけ持ってこられても  2013年2月11日  東京オペラ・プロデュース「ロビンソン・クルーソー」を聴く 
関西風ノリを楽しむ  2013年2月23日  東京二期会オペラ劇場「こうもり」を聴く 
没後50年の記念公演?  2013年3月1日  新国立劇場オペラ研修所「カルディヤック」を聴く  


オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2012年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2012年 
2011年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2011年 
2010年  その1  その2  その3  その4  その5  どくたーTのオペラベスト3 2010年 
2009年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2009年 
2008年  その1  その2  その3  その4    どくたーTのオペラベスト3 2008年 
2007年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2007年 
2006年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2006年 
2005年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2005年 
2004年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2004年 
2003年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2003年 
2002年  その1  その2  その3      どくたーTのオペラベスト3 2002年 
2001年  前半  後半        どくたーTのオペラベスト3 2001年 
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年  

鑑賞日:2013年1月6日 
入場料:自由席 3000円

主催:ヴォーチェ ドーロ プロフェッシオナーレ
ニューイヤー オペラガラコンサート

会場:いずみホール

出演者

ピアノ 原田 トモヨ
ソプラノ 岡本 実佳
ソプラノ    小林 真由美 
ソプラノ    柴山 晴美 
ソプラノ    西本 眞子 
メゾソプラノ    三橋 千鶴 
テノール 青地 英幸
テノール 浅原 孝夫
テノール 小林 祐太郎
バリトン 笠井 仁
テノール 藤澤 眞理


プログラム

 

演奏者 

作曲家 

作品/歌曲名 

1  ピアノ 宮城道雄  春の海
2  全員  文部省唱歌  一月一日 
3  岡本 実佳 アルディーティ 口づけ
4  柴山 晴美  ヨハン・シュトラウス二世  ワルツ「春の声」 作品410
5  笠井 仁 ドニゼッティ  歌劇「ランメルモールのルチア」よりエンリーコのアリア「残酷で不幸をもたらす怒りを」
6  三橋 千鶴  ヴァイル  「ピアノ伴奏による二つの歌」より「ナナの歌」 
7  小林 祐太郎  マイアベーア  歌劇「アフリカの女」よりバスコ・ダ・ガマのアリア「おお、パラダイス」 
8  小林 真由美 ジョルダーノ  歌劇「アンドレア・シェニエ」よりマッダレーナのアリア「母もなく」 
9  浅原 孝夫 プッチーニ  歌劇「トゥーランドット」からカラフのアリア「誰も寝てはならぬ」
10  青地 英幸/西本 眞子  マスカーニ  歌劇「友人フリッツ」よりフリッツとスーゼルのさくらんぼの二重唱「真っ赤に熟した」 

休憩 

11 柴山 晴美  グノー  歌劇「ロメオとジュリエット」よりジュリエッタのアリア「私は夢に生きたい」
12  青地 英幸  ドニゼッティ  歌劇「アルバ公爵」より、マルチェルロのアリア「清らかで美しい天使」 
13  三橋 千鶴  ヴァイル  歌劇「三文オペラ」より、メッキー・メッサーのモリタート「マック・ザ・ナイフ」
14  浅原 孝夫  プッチーニ  歌劇「トスカ」より、カヴァラドッシのアリア「星は光りぬ」 
15  笠井 仁  ジョルダーノ  歌劇「アンドレア・シェニエ」よりジェラールのアリア「祖国の敵」
16 岡本 実佳  ドヴォルザーク  歌劇「ルサルカ」より、ルサルカのアリア「月に寄せる歌」
17 小林 祐太郎  ヴェルディ  歌劇「エルナーニ」より、エルナーニのアリア「色あせた花の茂みの露のように」 
18 小林 真由美  ヴェルディ  歌劇「運命の力」より、レオノーラのアリア「神よ、平和を与えたまえ」
19 藤澤 眞理  ヴェルディ  歌劇「リゴレット」より、リゴレットのモノローグ「我ら同じ」 
20 西本 眞子/藤澤 眞理  ヴェルディ  歌劇「リゴレット」より、リゴレットとジルダの二重唱「娘よ!、お父さん!」

アンコール 

21 全員   レハール  喜歌劇「メリー・ウィドウ」より、ハンナとダニロの二重唱「唇は黙しても」
22  全員  ヴェルディ  歌劇「椿姫」より、ヴィオレッタとアルフレードとの乾杯の歌「友よ、いざ飲みあかそう」 

感 想

雲行き怪しき2013年-Voce D'oro Professionale「ニューイヤーオペラガラコンサート」〜名曲はゆとりの香り〜を聴く

 正月明けて最初のコンサートをオペラ・ガラコンサートにしたのは、元気な歌手たちを見て、その活力を貰おう、というのがまずは動機です。ただ、その目論見は残念ながら外れたようです。今、世の中では、インフルエンザであるとかノロウィルスとかが流行しているわけですが、そのウィルスに罹患したのか、ピアニストが交替し、歌手についてもアナウンスのあった森山京子がキャンセルとなりました。

 また登場した方でも、喉の調子がかなり悪く、よく歌う決心をしたな、と思われる方もいらして、ありていに申し上げれば、気になる点の多いコンサートでした。一方で、立派な歌を聴かせてくださった方も勿論いらして、すっきりとはしないけれども、雨模様でもないという感じで、雲行き怪しい2013年を象徴するようなコンサートだったと申し上げましょう。

 アルディーティの「口づけ」はコロラトゥーラの技術を聴きたい曲ですが、岡本実佳の歌は、一寸重め。もっと重量感を感じさせないように歌ってほしいところです。それに対し、柴山晴美の「春の声」は、跳躍がもう少しスマートに収まればいいな、と思う部分があったものの、難曲にもかかわらず、高音の華やかな響きと中音部の落ち着いた響きのコントラストが良く、見事な歌唱になっておりました。

 笠井仁のエンリーコのアリアは、バリトンとしては軽めの声がこの曲にマッチしているように聴きました。三橋千鶴のヴァイル。雰囲気のある歌で、大人の夜の色香を感じさせるしっとりとした味わいがあり、大変素敵なものでした。小林祐太郎のバスコ・ダ・ガマ、不調でした。高音の響きが濁り、痩せていて、魅力を感じることはできませんでした。小林真由美のマッダレーナも今一つコクの感じられない歌唱に終始しました。

 浅原孝夫のカラフ。今一つでした。浅原の声は、はっきり申し上げれば、プリモ・テノールの声ではありません。キャラクター・テノールの声でしょう。その浅原がカラフを歌うと、声が歌に合わない感じがします。また、声の張り上げ方に無理があって、これまでいろいろな方のいろいろなカラフを聴いてきた身としては、感心できない歌だと思いました。

 青地、西本のさくらんぼの二重唱。こちらは第一部の最後を飾るのにふさわしい歌唱。青地は素直な美声の持ち主で、これまでも東京オペラ・プロデュースの舞台なので、楽しんできましたが、その時のことを思い出す感じです。西本も馬力のある歌手で声に艶の乗ったソプラノですから、二人ががっぷり四つに組んだとき、オペラの主役の二重唱を聴く楽しみをまた感じることができました。

 後半は、柴山晴美のジュリエッタで幕を開けました。柴山の歌は、まったくケレンのない素直なもので、ジュリエッタの少女らしさが出ていて好調。青地英幸のアルバ公爵のアリアは、私は初めて聴くものだと思いますが、青地の美声に似合った素敵な歌唱だったと思います。三橋千鶴の「マック・ザ・ナイフ」は有名曲だけあって、一寸損をした感じ。魅力的ではありましたが、前半に歌われた「ナナの歌」の方に私は惹かれます。

 浅原孝夫の星は光りぬ。声が合っていないのは、「誰も寝てはならぬ」と同様。技術的な問題もあり、私には楽しめませんでした。笠井仁のジェラール。中庸な歌で悪いものではありませんでしたが、いま歌の表情を思い出そうとすると、あいまいになっています。良くも悪しくも、特徴の薄いジェラールだったのかもしれません。岡本実佳のルサルカ。これは立派な歌で結構。岡本は、最初に歌った軽めの曲よりも、月に寄せる歌のようにしっとりとしたロマンティックな曲の方が似合うということなのだろうと思いました。

 小林祐太郎のエルナーニ。大ブレーキ。後半は高音が出ずアクートを逃げ、とにかくなんとか終わらせたというところ。本人も不本意だったのでしょう。袖に下がるときの憮然とした表情が印象的でした。小林真由美のレオノーラ。この曲を歌うのは、声が薄い感じがします。あまりよいとは思えませんでした。

 藤澤真理のリゴレットのモノローグ。これは聴きものでした。私にとっては、この日一番の聴きもの。藤澤の深みのあるバリトン声は、とても立派なもので、リゴレットの気持ちを歌い上げるに十分のものでとても立派。藤澤といえば、日本オペラのバリトンとして欠かせない方、というイメージがありましたが、イタリア・オペラもなかなか魅力的だということが分かって収穫でした。続くリゴレットとジルダの二重唱も良かったです。藤澤の深みのおあるバリトンと、西本眞子の密度のあるソプラノとが重なり合うと、立派な二重唱となって声が、会場を満たします。こういう歌を聴けるときが、オペラを聴く醍醐味なのだろうと思いました。

 アンコールはガラコンサートの定番。楽しそうに幕が下りました。

 以上、いろいろあったコンサートで、2013年の波乱の幕開けを象徴するようなコンサートだったと思います。

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鑑賞日:2013113
入場料:
自由席・無料

主催:国立音楽大学

国立音楽大学音楽研究所 オペラ演奏研究部門 2012年度公演

全1幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
ロータ作曲「ノイローゼ患者の一夜」(La notte di un Nevrastenico)
台本:リッカルド・バンケッリ

全1幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
ロータ作曲「内気な二人」( I due timidi)
台本:スーゾ・チェッキ・ダミーコ
日本初演

会場 国立音楽大学講堂大ホール

スタッフ

指 揮 河原 忠之  
オーケストラ くにたちオペラプロジェクト管弦楽団
合 唱 くにたちオペラプロジェクト合唱団
     
演 出 中村 敬一
舞台監督   徳山 弘毅 
総監督・制作 小林 一男

出 演

ノイローゼ患者の一夜

ノイローゼ患者 小鉄 和広
フロント係 森田 学
退役軍人社長 青柳 素晴
カップルの彼氏 大間知 覚
カップルの彼女 小林 菜美
客室係 三木 佑真

内気な二人

靴職人(兼語り手)  :  久保田 真澄 
マリウッチャ  :  松原 有奈 
ライモンド  :  井ノ上 了吏 
シニズガッリ氏  :  大間知 覚 
グイドッティ夫人  :  岩森 美里 
マリウッチャの母  :  与田 朝子 
ヴィットーリオ  :  須藤 慎吾 
ルチーア  :  田宮 実香 
マリーア  :  岩永 美稚子 
リーザ  :  中川 香里 
宿泊客  :  大槻 聡之介 

感想

シチュエーション・コメディ二本立ての面白さ-国立音楽大学音楽研究所 オペラ演奏研究部門2012年度公演「ノイローゼ患者の一夜」/「内気な二人」を聴く。

 テレビの漫才番組などはほとんど見ることは無いのですが、偶然見たときに一番惹かれるのは、シチュエーションギャップを題材にしたコントですね。考えてみると、昔から好きでした。しかし、オペラの題材は、それがたとえ喜劇だとしても、そういう洒落た感覚で作られているものはあまりないようない気がします。近いもので言えば、ラヴェルの「スペインの時」、メノッティの「電話」などでしょうか。シチュエーション・コメディが成立するためには、同時代的大衆感覚が必要なのでしょうね。古典音楽はそこが難しい。

 国立音大音楽研究所オペラ演奏研究部門は、昨年から、日本では、オペラ作曲家としてよりも映画音楽の作曲家として著名なニーノ・ロータのオペラ作品を研究し、昨年は、「ノイローゼ患者の一夜」を日本で初演し、本年は、「内気な二人」を日本初演するに至りました。この研究成果の発表を心から祝福したいと思います。

 この二作品は、共にラジオ放送のために作曲された作品で、放送を意識しているという点で頗る20世紀的な作品であると考えられます。時間的にも短く、ラジオ放送を聴いている人が何をやっているか分かるように台詞が綿密に書かれているのが特徴のようです。音楽的には、19世紀のロマン派音楽の残滓は認められるものの、やはり現代的な印象を持てる部分も多く、しかしながら、ロータが映画音楽作曲家で、非常に美しいメロディラインを作ってきた事実からも分かるように、晦渋な音楽ではありません。むしろポピュラー音楽のような聴きやすい音楽。

 「ノイローゼ患者の一夜」は昨年の再演。登場する歌手たちも、カップルの女が昨年の高橋薫子から小林菜美に変わったぐらいで、基本的に昨年と一緒。演出も昨年と同じだと思います。昨年も小鉄和広の歌唱・演技がとてもよく、大いに感心した覚えがあるのですが、再演になった今年は、小鉄の歌唱・演技が昨年から更にブラッシュアップされ、おかしさが何割増かしているような気がしました。

 脇役陣も青蜻f晴の退役軍人社長の困惑した様子が昨年よりも面白い感じがしましたし、森田学のフロント係りの慇懃無礼な態度とノイローゼ患者を怒らせる様子など、とても楽しく見ることができました。大間知覚、小林菜美の不倫カップルも面白く見ました。

 以上、昨年もたっぷり楽しんだ上演ですが、今年は更に楽しめたの言うのが本当のところです。

 後半の「内気な二人」。こちらはまずは井ノ上了吏が良かったです。演技の一つ一つが如何にも内気な好青年という雰囲気を醸し出していたのがまずは素晴らしい。歌唱も誠実な感じを与える美しいもので、大変結構だったと思います。対する、松原有奈のマリウッチャは、最初喉が十分温まっていなかった様子で、今一つドラマに溶け込んでいない感じでしたが、段々調子を上げてきました。最後は、きっちりまとめた感じです。

 脇役陣では大間知覚の医者がコメディ感覚たっぷりの歌唱演技で面白く、岩森美里のグイドッティ夫人もどすの利いた歌唱で、存在感を十分示しており、面白かったです。

 あと褒めなければいけないのは、噂話をする洗濯娘の三人の大学院生。実は、どの子がルチーアで、どの子がマリーアで、どの子がリーザかはしっかりと認識はしていないのですが、登場した時からしっかりとしたテンションで美声を聴かせてくれました。この中の一人は、特に美しい声の持ち主であり、今後の精進次第では、かなり素敵なオペラ歌手になれるのではないかと思いました。

 もう一つよかったのは、河原忠之の音楽づくり。大きな身体を一杯に使って、オーケストラや歌手たちに指示を与えたことが、この二作品を楽しく仕上げた原動力であるように思いました。オーケストラは完全な学生オケで、ミスもそれなりにありましたし、音の厚みも必ずしも十分であったとは思わないのですが、河原の適切な指揮により、音楽の魅力が引き出されたように思います。

 以上、相当上質のオペラ公演で、大変楽しめてよかったです。

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鑑賞日:2013125 
入場料:指定席K25番 4500円

主催:オペラMANO八王子

全3幕、日本語字幕付日本語上演
フンパーディンク作曲「ヘンゼルとグレーテル」(Hänsel und Gretel)
台本:アーデルハイト・ヴェッテ

会場:八王子芸術文化会館いちょうホール(小ホール)


スタッフ

指 揮 倉岡 信  
オーケストラ アンサンブルマーノ
児童合唱 児童合唱団「こんぺいとうの空」
児童合唱指導    倉岡 典子 
演 出 角田 和弘
   

出 演

グレーテル  :  白石 佐和子 
ヘンゼル  :  向野 由美子 
魔女 :  角田 和弘 
ゲルトルート  :  庄 智子 
ペーター  :  立花 敏弘 
眠りの精  :  高橋 薫子 
露の精  :  齋藤 澄佳 

感想

手作り感-オペラMANO八王子「ヘンゼルとグレーテル」を聴く。

 オペラを上演するにはお金がかかります。一寸古い本ですが、黒田恭一の「オペラへの招待」(1989年、暮らしの手帖社)によれば、1987年2月に行われた藤原歌劇団「ランメルモールのルチア」3回上演の総経費は約5300万円だったそうです。1987年といえば、バブル景気の一番華やかなりし頃ですから、今はここまで経費が掛からないのかもしれませんが、それでも上演の質を確保しようとすれば、それなりの負担は必要です。

 一方で、オペラを上演したいと思う人は結構います。それが今の日本の市民オペラの隆盛を支えているわけですが、勿論市民オペラにそんなにお金はかけられない。従って、市民オペラの舞台は、大道具のほとんどない、抽象的な舞台になることが多いわけです。更にお金がなければ、オーケストラを止めてピアノ伴奏にするとか、なんとか入場料で賄える水準になるまで、ダウングレードしていきます。

 さて、倉岡信・典子夫妻は、八王子・日野地区を中心に沢山の合唱団を指導する合唱指揮者ですが、このお二人もオペラを上演したかったようです。そして「オペラMANO八王子」という団体を作って、オペラ活動に参入しました。その第1回本公演がこの「ヘン・グレ」です。そこで、彼らは理由はよくわかりませんが、大ホールでの1日上演ではなく、小ホールでの2日上演を選びました。更に経費の掛かる外部業者の使用は最低限にして、相当部分を自分たちの指導している合唱団の関係者などのボランティアに頼りました。一方、ピアノ伴奏ではなく、オーケストラを動員しました。こういう小ホールで上演される場合、オーケストラは1管でやることが多いのですが、今回は弦楽器を薄くして、木管は2本ずつ入れました。

 会場のいちょうホールの小ホールは、本来288席あるのですが、今回はオーケストラを入れるために前方の席をはずしての対応です。ほぼ200席の使用だと思います。2日で400席。幸いなことに、ほぼ満席でした。

 二日公演の初日は若手歌手たちの共演でしたが、二日目は実力派中堅・ベテランが登場しました。ここも倉岡夫妻のこだわりだったのでしょう。

 この中でまず力量を示したのが、ヘンゼルの向野由美子。さすがに声もよく飛びますし、演技も軽やか。少年っぽい雰囲気もよく出ていて立派な歌唱でした。対するグレーテルの白石佐和子は、最初緊張していて声の出が今一つ硬かったのですが、途中から声が良く飛ぶようになりました。しっかりとした歌唱で悪くはなかったのですが、着地点を見極められない声の飛ばし方をしている部分があって、雑に聴こえてしまうところが何か所かあり、そこが少し残念でした。

 父親役の立花敏弘は、結構凝った演技・歌唱で、作りこんだ感じ。一方母親役の庄智子は、そこまで臭い演技をしようとしなかったので、両者が一緒に演技すると、歌唱はともかく、一寸ちぐはぐに感じるところがありました。なお、立花の歌は、高音の響きが見事でよかったと思いますし、庄智子の母親も立派でした。

 角田和弘の魔女。演技や雰囲気は良かったと思うのですが、惜しむらくは歌詞を落としました。どう修復するのかとハラハラしながら見ていたのですが、何事もなかったかのように戻りましたので、さすがベテランだと思いました。

 高橋薫子の眠りの精。高橋ぐらいになれば、「眠りの精」ぐらいは当然朝飯前ですから。リラックスした歌唱。衣装が銀色の妖精風のもので、銀色の三角帽子をかぶって髭を生やすという如何にもコスプレ風でしたが、高橋はそのコスプレを十分楽しんでおりました。

 音楽全体で言えば、管の人数が多く、弦楽器が少ないので、どうしても音がアンバランスに聴こえました。また、専用のオケピットではなく、椅子を外しただけの舞台下での演奏でしたので、声に比べてオーケストラの音が響きすぎる傾向にあったように思いました。

 児童合唱団の子供たちは最後の合唱以外にも、黙役で舞台上で演技をしていましたが、さすがにヘンゼルやグレーテルのようにピシッと身体が伸びない。こういうメリハリの効いた演技が出来るというのもオペラ歌手の持ち味なのだ、と当然のことを感じました。

 会場が小さかったおかげで、登場人物の様子を細かく見、歌唱を聴くことができ、大いに楽しむことができました。

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鑑賞日:201323 

入場料:A席 2F1列 10000円

主催:公益財団法人 日本オペラ振興会

日本オペラ協会公演 日本オペラシリーズNo.74

全2幕、日本語字幕付日本語上演
水野修孝作曲「天守物語」
原作:泉鏡花
台本:金窪 周作
補作:まえだ純

会場:新国立劇場中劇場


スタッフ

指 揮 山下 一史  
オーケストラ フィルハーモニア東京
合唱    日本オペラ協会合唱団 
合唱指揮    松下 京介 
児童合唱 多摩ファミリーシンガーズ
児童合唱指導揮    高山 佳子 
演 出 岩田 達宗
美 術  :  増岡 寿子
衣 装  :  半田 悦子
照 明  :  大島 祐夫 
振 付  :  出雲 蓉 
舞台監督  :  佐藤 公紀
総監督  :  大賀 寛 
公演プロデューサー  :  荒井 間佐登 

出 演

天守夫人 富姫   川越 塔子
姫川図書之助   柴山 昌宣
猪苗代亀の城 亀姫   佐藤 恵利
奥女中 薄   木村 圭子
朱の盤坊   清水 良一
舌長姥   二渡 加津子
侍女 女郎花   田中 美佳
  石田 亜希子
  鈴村 鮎子
撫子   小林 悦子
桔梗   吉田 早苗
山隅九平   安東 玄人
小田原修理   川久保 博史
姫路城主 武田播磨守   東原 貞彦
近江之丞桃六   大賀 寛

感想

見かけの和風の後ろにある現代音楽-日本オペラ協会「天守物語」を聴く。

 日本人作曲家のオペラはなかなか再演されません。日本人作曲家によるオペラは700曲ぐらいあるはずですが、その大半は初演だけで終わり、再演されることはあまり多くありません。例外はオペラシアターこんにゃく座の林光と萩京子の作品、それに團伊玖磨の「夕鶴」ぐらいでしょうか。それ以外にも勿論再演されている作品はたくさんありますが、それでも三演、四演されている作品は滅多にお目にかかりません。

 管理人は、これまで延べ600から700のオペラの舞台を生で見ているはずですが、日本のオペラで二回以上見ているのは、「夕鶴」と「沈黙」だけです。しかし、本日「天守物語」が三作目になったこと、素直に嬉しいです。

 前回「天守物語」を見たのは、2009年2月、オーチャードホールでのこと。この時の富姫が腰越満美、図書之助が柴山昌宣、亀姫が斉田正子という素敵なメンバーで、このオペラの味を楽しんだわけですが、やっぱり一回聞いただけでは分からないこと、気が付かなかったことが多々あります。今回の二度目の鑑賞でこの作品の魅力というか特徴を再認識した感じです。

 この作品の特徴を一言で申しあげるとすれば、断絶の中の統合だと思います。あと、日本オペラのあるべき姿の試行、ということがあるかと思います。古典的イタリアオペラは、物語をレシタティーヴォで進めて、登場人物の感情をアリアで歌い上げる、という手法を取りました。これを日本語でやるとどうなるか。答えはアリアでは何を歌っているかが分からなくなります。そういう問題を避けるために、水野修孝が行ったことは、感情の高ぶる部分はヴォーカリーズにして歌詞を与えない。物語を進めるレシタティーヴォでは、日本語の明晰さを損なわないように、オーケストラの伴奏を避けたり、小さくしたりする。ということにしました。その結果、この作品は、イタリアオペラ的盛り上がりは失われましたが、物語としての分かりやすさを得ました。

 また、水野はオーケストラの扱いにも工夫を凝らしました。すなわち、オーケストラは歌の伴奏をほとんどせずに独立して演奏され情景を表現するようにしました。この情景を表現する音楽は雄弁です。逆に歌手が歌うときは、オーケストラの音は小さくなり、レシタティーヴォの邪魔をしないように隠れます。

 また妖怪の世界と人間界の微妙な違いも表現しようとしました。第1幕は、妖怪の世界の出来事として描かれるわけですが、その中の登場人物である富姫と亀姫は同様の存在として表現されます。だから、二人の同性愛的愛を歌い上げるとき、二人の声は美しく溶け合います。しかし、第二幕の富姫と図書之介の愛は、二人の情愛がどこまで高まっても、二人の歌はぶつかり合い、溶け合うことがありません。所詮妖怪の世界と人間界は違うのだ、と表現されるのです。

 以上、親しみやすそうで、聴いていると奥の深い作品を山下一史は上手にまとめたと思います。指揮棒の振り方が音楽的な特徴に合わせて、どんどん変化していくのが見事でした。また、オーケストラの日本的な雰囲気もよく出ておりましたし、不気味な音の表現も魅力的だったと思います。一方、こういう音楽的に難解な作品は、演出の良し悪しが見やすさに大きく影響しますが、その点において、岩田達宗の演出は写実的な分かりやすさを前面に出すもので、見やすくまとまっていたと思います。

 歌手陣は、みなそれぞれの役割をはたして立派でした。
 川越塔子の富姫は、第1幕こそ、くすんだ感じがありましたが、第二幕は、凛とした姫君の感じがよく出ていたと思います。また亀姫役の佐藤恵利はソプラノ・リリコ・レジェーロの声がぴんと響き、富姫・亀姫の二重唱は、佐藤のきらめく声が妖艶な雰囲気を醸し出すのに大いに役立っていたと思います。だからこそ、富姫の声ももう一段パンチがあってほしかった気がします。

 清水良一の朱の盤坊と二渡加津子の舌長姥はともに面白く、スケルツォ的魅力に溢れていました。

 第二幕の図書之介は、再演となる柴山昌宣がしっかりと演じよかったです。フィナーレの富姫との二重唱は、不協和音になるように書かれているようで、上述のように溶け合うことがありません。その特徴をよく示しておりました。

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鑑賞日:201325
入場料:
D席 7560円 4F 317

新国立劇場15周年

主催:/新国立劇場
協力:日本ワーグナー協会

オペラ3幕、日本語字幕付原語(ドイツ語)上演
ワーグナー作曲「タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦」Tannhauser und der Sangerkrieg auf Wartburg)
台本:リヒャルト・ワーグナー

会場:新国立劇場オペラ劇場

スタッフ

指 揮 コンスタンティン・トリンクス
管弦楽 東京交響楽団
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
演 出 ハンス=ペーター・レーマン
美術・衣装 オラフ・ツォンペック
照 明 立田 雄士
バレエ 牧阿佐美バレエ団
振 付 メメット・バルカン
再演演出 シュテファン・ヨーリス
音楽ヘッドコーチ 石坂 宏
舞台監督 大澤 裕

出 演

領主ヘルマン : クリスティン・ジグムンドソン
タンホイザー : スティー・アナセン
ヴォルフラム : ヨッヘン・クプファー
ヴァルター : 望月 哲也
ビーテロルフ : 小森 輝彦
ハインリッヒ : 鈴木 准
ラインマル : 斉木 健詞
エリザベート : ミーガン・ミラー
ヴェーヌス : エレナ・ツィトコーワ
牧童 : 國光 ともこ
4人の小姓 : 前川 依子
  : 渡邉 早貴子 
  : 熊井 千春
  : 長澤 美希


感想

ワグネリアンなら楽しめたかも-新国立劇場15周年記念フェスティバル公演「タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦」を聴く。

 新国立劇場10周年を記念して製作された演出の再演。しかし、5年前の演奏は割と退屈なもので、比較的古い舞台を覚えている私なのですが、ほとんど何も覚えていません。5年前に感想を読み直すと、かなり平凡な演奏だったようです。本日の演奏はそこまで平凡ではなかったように思います。と言って、見ていて圧倒されるような舞台でもありませんでした。全体的には、新国立劇場に期待される水準の仕上がりにはなっていたと思いますが、ワグネリアンとは程遠いオペラ好きである私にとっては、いろいろな部分が鼻に付く舞台だったように思います。

 まず分からなかったのは、指揮者の指向性とオーケストラの指向性です。オーケストラは全体としては比較的透明度の高い演奏をしたと思います。東京交響楽団の見事な木管の響きは流石だと思いますし、弦のトゥッティの間から浮かび上がる木管の音は素晴らしいものがありました。ただ、その音は官能的ではない。即物的でストレートなもの。勿論それはそれで結構なのですが、一方突然官能的な音が流れたりするのです。

 勿論作品が作品ですから、オーケストラが官能的な音色で演奏するのはむしろ好ましいことなのだろうと思いますが、官能的に盛り上がらなくてもよい部分で妙に官能的だったり、ヴェーヌスとタンホイザーが愛の二重唱を歌っているのに、伴奏は即物的だったりと、何かちぐはぐさを感じてしまいました。私には、トリンクスの目指している音楽を感じ取ることができませんでした。

 歌は総じて立派でした。何といっても定評のある合唱が素晴らしい。前回も合唱がよかったのですが、今回も同様です。有名な「大行進曲」は言うに及ばず、舞台裏で歌われる伴奏的な合唱も雰囲気と言い、柔らかい表情と言い、タンホイザーのお話に応じた変化も含めて流石であると思いました。

 ソリストでは、タイトル役を歌ったアナセンに存在感がありました。この方の素晴らしいところは、タンホイザーという役柄に対するアナセンの確固たるイメージがきっちりあって、それに沿った役作りがされていることだろうと思います。第三幕の絶望の様子を頂点に来るように歌のバランスを配分しているように見えました。私自身は1幕、2幕はそのことが見えていなかったので、この部分はもっとレガートに歌ったらいいのに、であるとか、鼻に付く部分がいろいろあったのですが、三幕の歌を聴くと、前の歌唱が、この三幕の伏線になっていることが分かって、納得しました。

 しかしながら、三幕の素晴らしい表現は、一,二幕の伏線がなくとも成立します。そうであれば、一幕、二幕でもう少し柔らかい歌唱を心掛けて、美声を大事にしてもよかったのではないかという気がします。

 男性ソリストでは次にジグムンドソンのヘルマンも立派でした。豊かな低音の響きが魅力的で、温かみの感じられる表現はヘルマンにうってつけのように聴こえました。また、ヴォルフラム役のヨッヘン・クプファーもよかったです。美声のバリトンで、存在が浮かび上がっておりましたし、「夕星の歌」も魅力的に響きました。そのほか、ヴィブラートをかけなければもっといいのに、とは思いましたが、望月哲也のヴァルターも健闘していましたし、小森輝彦のビーテロルフも立派だったと思います。

 女声ではヴェーヌスを歌ったツィトコーワが立派。メゾソプラノですが、高音もしっかり出ていて、ヴェーヌスの妖艶性もしっかり表現できていたと思います。音の出し方が素直で濁りもないので、声が綺麗に浮かび上がってきます。 ツィトコーワのいいのは、歌は素直で正確ですが、ルックスが美しく、演技で妖艶な雰囲気を出していたところ。歌唱表現で妖艶さを見せるやり方は当然あるわけですが、歌唱と演技を分けてくれた方が、私としては聴きやすいのです。

 問題はミーガン・ミラーのエリザベート。ヴィブラートのオン・パレードが興を削ぎました。強い声を出そうとしてスピントで押してくれば、ヴィブラートがかかるのは自然の理なのですが、逆に申し上げれば、ヴィブラートは、その歌手の限界を表示している。ヴィブラートを上手く利用すれば、非常に効果的なのですが、最初から最後までヴィブラートだというのは下品です。ピアノで囁くように歌うところもヴィヴラートというのは許し難いと思います。

 結局のところ、ヴィブラートのせいで、エリザベートが救済の主役であるということが嘘っぽく見えてしまいます。ヨッヘン・クプファーが立派な騎士役を歌われたので、ことにそう思うのかもしれません。

 以上、全体的に見れば、新国立劇場の水準を示す割と卒のない演奏だったの思うのですが、ワーグナー好きではない私にとっては音楽の陶酔を感じる前に気になる部分が多い演奏だったように思います。

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鑑賞日:2013年2月6日
入場料:D席 3780円 4F 1列7番

主催:新国立劇場

オペラ2幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ドニゼッティ作曲「愛の妙薬」(L'Elisir d'amore)
台本:フェリーチェ・ロマーニ

会 場 新国立劇場オペラ劇場


指 揮  :  ジュリアン・サレムクール   
管弦楽  :  東京交響楽団 
合 唱  :  新国立劇場合唱団 
合唱指揮  :  三澤 洋史 
演 出  :  チェザーレ・リエヴィ 
美 術  :  ルイジ・ベーレゴ 
衣 装  :  マリーナ・ルクサルド 
照 明  :  立田 雄士 
再演演出  久恒 秀典 
音楽ヘッドコーチ  :  石坂 宏 
舞台監督  :  村田 健輔 

出 演

アディーナ

ニコル・キャペル

ネモリーノ

アントニーノ・シラクーザ

ベルコーレ

成田 博之

ドゥルカマーラ

レナート・ジローラミ

ジャンネッタ

九嶋 香奈枝

感 想 ネモリーノは素晴らしかったが・・・-新国立劇場「愛の妙薬」を聴く

 シラクーザのネモリーノを聴くと、今、この人以上のネモリーノって考えられないのではないか、という気がしました。とにかく上手いし華があります。勿論「人知れぬ涙」が抜群に良いのは申し上げるまでもないのですが、それ以外のそれほど目立たないような部分でもしっかり歌っているし、その歌もみな余裕綽々です。一所懸命歌って最高の歌を聴かせているのではなく、エンジンをセーヴしながらも余裕をもって立派な歌を歌って見せます。そこが何と言っても凄い。

 「人知れぬ涙」を歌った後、一部観客から「Boo]が出ましたが、これは、そんなに余裕綽々に歌っているのに、どうしてそんなに聴かせるの、という嫉妬のBooだと思いますし、あるいは、シラクーザなら、もっと凄いネモリーノになるのではないの、という期待のBooだったようにも思います。

 また歌に余裕があるから、演技だって余裕ができるのですね。彼の動きを見ていると、お客さんを見ながら演技をしている感じもあって、何とも小憎らしくなるほど素晴らしかった、と申し上げます。

 ネモリーノがそれだけ素晴らしかったのですが、オペラ全体としては、必ずしも良いとは申し上げられない部分が多々ありました。

 まず、指揮者がいけない。直ぐにリタルダンドに走って、音楽を重くします。勿論アッチェラランドをかけて、推進力を見せる部分もあるのですが、一寸油断すると、直ぐに音楽が重くなります。曲のもっている本来のテンポを意識することなく、歌手たちの歌に合わせてしまっている感じがします。そのために音楽の推進力がダメになった感がありました。

 勿論、こういった音楽づくりは、指揮者のサレムクールの体質かもしれませんが、アディーナ役のソプラノ、ニコル・キャペルの体質が関与しているようでなりません。キャペルはもともとアディーナなどのソプラノ・リリコ・レジェーロの役を得意とするソプラノですが、ソプラノ・リリコ・レジェーロとしては、声に粘りがありすぎる感じがします。歯切れが今一つよくない。

 それでも全体としては一貫性がある歌唱で、更に歌手としては、如何にも黒人歌手というべき、艶やかな声の持ち主で決して悪くないのですが、やっぱり、アディーナとしてあの声の粘りは如何なものか、という気がするのです。また、高音が重く、突き抜けた感じがしないのも今一つどうかと思いますし、アジリダの技術も、さほどレベルが高くない、という感じがしました。

 そうはいってもハイレベルはハイレベルだったのですが、これまで、森麻季であるとか、高橋薫子であるとか、本当に素晴らしいアディーナを聴いてきた身としては、キャペルのアディーナでは満足できません。今回のアディーナのカヴァーは光岡暁恵でしたが、私は、キャペルよりも光岡のアディーナの方に惹かれます。

 ベルコーレの成田博之も今一つ。彼も一人で歌えれば、もう少し考えるのでしょうが、シラクーザ・ネモリーノと一緒だったの言うのが不運でした。どうしても対抗して頑張ってしまうのですね。無理をしないで、もう少し余裕を持って歌えば、それなりのベルコーレ的おかしみも出たと思うのですが、その力みが悪い方に作用した、としか申し上げようがありません。気持ちは分かりますが、もっと冷静に歌って欲しかった感じです。

 ドゥルカマーラのジローラミ。ドゥルカマーラ歌いとしては、取り立てて高レベルであるとは思いませんが、バッソ・ブッフォがどういうものか、ということについてはイタリア人バスだけあって、当然よく知っています。それが功を奏した感じがします。血がバッソ・ブッフォなのでしょう。だからシラクーザ・ネモリーノと絡むと、とてもその存在感が光ります。登場のアリアの口上などは、もっと丁寧に設計して歌われた方がよいと思うのですが、普段感じることの少ないレシタティーヴォの部分に面白さがありました。役者だったと申し上げましょう。楽しみました。

 九嶋香奈枝のジャンネッタと新国立劇場合唱団が上手なことは申し上げるまでもありません。以上少なくとも「愛の妙薬」というオペラの魅力を伝えるに十分な上演だったと思います。

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鑑賞日:2013年2月10日
入場料:D席 6000円 3F R3列14番

文化芸術振興費補助金
2013年都民芸術フェスティバル参加公演

主催:公益財団法人日本オペラ振興会・公益社団法人日本演奏連盟

ヴェルディ生誕200年記念

藤原歌劇団公演

オペラ3幕 字幕付き原語(イタリア語)上演[リコルディ版]
ヴェルディ作曲「仮面舞踏会」(Un ballo in maschera)
台本:アントーニオ・ソンマ

会場:東京文化会館大ホール

スタッフ

指 揮  :  柴田 真郁   
管弦楽  :  東京フィルハーモニー交響楽団 
合 唱  :  藤原歌劇団合唱部 
合唱指揮  :  須藤 桂司 
演 出  :  粟國 淳 
装置・衣装  :  アレッサンドロ・チャンマルーギ
振 付  :  伊藤 範子 
照 明  :  笠原 俊幸 
舞台監督  :  菅原 多敢弘 

キャスト

リッカルド : 村上 敏明
アメーリア : 野田 ヒロ子
レナート : 堀内 康雄
ウルリカ : 森山 京子
オスカル : 大森 智子
シルヴァーノ : 江原 実
サムエル : 若林 勉
トム : 小田桐 貴樹
判事 : 真野 郁夫
アメーリアの召使 : 狩野 武
暗殺団 : 田中 大揮
  : 別府 真也 
  : 前田 進一郎
  :

和下田 大典


感 想 ボストン総督の威厳-藤原歌劇団「仮面舞踏会」を聴く

 藤原歌劇団が「仮面舞踏会」を取り上げるのは27年ぶりとのことです。27年前の「仮面舞踏会」は、日本のオペラ上演史の中で決して忘れられない技術革新が行われました。今は当然になっている「字幕スーパー」の採用です。それまで日本で上演されるオペラは、原語上演と日本語翻訳上演では、日本語翻訳上演の方が多かったわけですが、この技術が当たり前になってからは、一部のオペレッタなどは別にして、「オペラは原語上演する」のが当然になりました。 

 このように藤原歌劇団にとっても日本のオペラ上演にとっても重要な作品である「仮面舞踏会」ですが、実際には上演に恵まれているとは言えません。私も実演は2007年東京二期会公演以来、通算三度目です。音楽的には面白いし、物語も実話をもとにしているだけあって荒唐無稽度は小さいのですが、現実に舞台を考えた時に何か上演しにくいことがあるのかもしれません。

 さて、今回の上演は粟國淳による新演出とのことでした。粟國/チャンマルーギのコンビはは2007年の二期会公演でも演出と衣装のコンビで、2007年演出とは勿論違いますが、全体の雰囲気はあの時の上演と似ているような気がしました。ただ、2007年の時は舞台は今回よりも暗い感じで陰惨な印象があったのですが、今回も影をベースにした演出であることは変わらないものの、衣装が全般に華やかになり、視覚的には明るさの増した舞台になっていたと思います。しかし、それでも前回も感じた野暮ったい印象が今回もあります。具体的にどういうところが野暮ったいと指摘できないのがもどかしいのですが、もっとすっきりとした舞台の方が、この作品に似合っているような気がしました。

 音楽全体も一寸野暮ったさを感じさせるものでした。一つはテンポ感覚でしょう。指揮者の柴田真郁は丁寧に演奏しようという意識が強かったようで、その結果ゆっくりした演奏になりました。通常130分ぐらいで全曲演奏されるものが、今回はアナウンスされたのが休憩35分を含んで3時間。実際にはさらに伸びて3時間10分ほどかかりましたから、かなり遅い演奏です。それが重厚感につながれば成功だったと思うのですが、作品自身がさほど重厚ではありませんし、リッカルド役の村上敏明がかなり明るいリッカルドを演じましたので、ちぐはぐな感じになってしまいました。

 じゃあ、村上敏明の歌唱がよかったか、と言えば疑問が残ります。声の調子が万全ではなかったようで、彼をこれまでずいぶん聴いてきたと思いますが、村上としては不出来の方。とはいえ、今の日本のテノール・リリコ・スピントの中では最も実力のある一人ですから、水準以上の歌唱を聴かせるのですが、リッカルドの役作りがあれでいいのか、と思います。簡単に申し上げれば、歌に感情が籠りすぎているのです。アルフレード(椿姫)やマンリーコ(トロヴァトーレ)を歌うのであれば、これで良いと思うのですが、仮にもボストン総督です。もっと秘めた感情の昂りを感じられるような、冷静で、威厳のある歌の方がよいように思いました。

 一方、堀内康雄のレナートは流石に貫録でした。今、日本のヴェルディ・バリトンの第一人者であることは疑いありません。第1幕のアリアも立派でしたが、第三幕の「お前こそ、心を汚すもの」が感情のこもり方を含めて素晴らしいと思いました。それ以外の部分でも軽薄な感じの強いリッカルドに対し、重厚な感じが常にあって、その対比も含め面白く聴きました。

 野田ヒロ子のアメーリアもよかったと思います。野田はすっきりした姿と歌がバランスよく、上品なアメーリアになっていました。第二幕の愛の二重唱は、リッカルドにぐいぐい押されながら、愛を告白するところがさすがに魅力的でしたし、第三幕のアリアもよかったお思います。

 森山京子のウルリカは流石にベテランの味。大森智子のオスカルは、軽快で悪いものではないのですが、声自体に力が足りない感じです。あの軽さで、もっと声が飛んでくれれば更によかったように思いました。その他脇役陣では若林勉のサムエルに雰囲気がよく出ていたと思いました。

 藤原歌劇団合唱部の合唱はいつもながら立派なもの。日本のメジャーな舞台における合唱の水準の高さは、新国立劇場、二期会を含めいつも感じるところですが、今回の合唱もさすがのものと思いました。

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鑑賞日:2013年2月11日
入場料:B席 6000円 2F 3列31番

文化芸術振興費補助金

主催:東京オペラプロデュース

東京オペラプロデュース第91回定期公演

オペラ・コミック3幕 字幕付き歌唱原語(フランス語)台詞日本語上演/日本初演
オッフェンバック作曲「ロビンソン・クルーソー」(Robinson Crusoi)
原作:ダニエル・デフォー
台本:E・コルモン/H.クレミュー

会場:新国立劇場中劇場

スタッフ

指 揮  :  石坂 宏   
管弦楽  :  東京オペラ・フィルハーモニック管弦楽団 
合 唱  :  東京オペラ・プロデュース合唱団 
合唱指揮  :  伊佐治 邦治/中橋 健太郎左衛門 
演 出  :  太田 麻衣子 
美 術  :  土屋 茂昭/松生 紘子
衣 裳  :  清水 崇子
振 付  :  中原 麻里 
照 明  :  八木 麻紀 
舞台監督  :  八木 清市 
プロデューサー  :  飯坂 淳 
芸術監督  :  松尾 史子 

キャスト

ロビンソン・クルーソー : 土師 雅人
エドヴィージュ : 針生 美智子
スザンヌ : 松尾 香世子
ヴァンドルディ(フライデー) : 小野 さおり
ウィリアム・クルーソー : 鹿野 章人
デボラ・クルーソー : 村松 桂子
トビー : 西塚 巧
ジム・コックス : 笠井 仁
ウイル・アトキンス : 白井 和之


感 想 骨子だけ持ってこられても-東京オペラプロデュース「ロビンソン・クルーソー」を聴く

 オッフェンバックが19世紀第二帝政期フランスに、オペレッタの大作曲家として活躍したことはあまりにも有名ですが、オペラ・コミックまで手掛けていたとは知りませんでした。でもWikipediaを見ると、彼のオペラ・コミックは「フォルトゥニオの歌」、「ドニ夫妻」、「10時間の外出」、「ファンタジオ」、「ファヴァール夫人」、「鼓手長の娘」など結構あるようです。「ロビンソン・クルーソー」はその中でも代表作と目されているらしいですが、私は全く初めて聴きました。

 聴いて思うのは、これが「ロビンソン・クルーソー」?、という感覚です。確かに主人公は孤島に流されますし、フライデーも登場します。そういう意味ではロビンソン・クルーソーの枠組みを利用して書かれたオペラだ、ということは間違いありませんが、「ロビンソン・クルーソー」の中で一番重要である、「創意工夫で苦難を乗り切る」という意識がほとんど欠落しています。私が子供の時に読んだ「ロビンソン・クルーソー」とは全く違う雰囲気の作品です。勿論原作通りにオペラを作ったら、女性がほとんど登場しないので、お客さんに受けないだろうということはよく分かりますが、それにしてもこれでいいのかしら、と思わずにはいられませんでした。

 音楽に関して言えば、なるほどオッフェンバックと言うべきか。オペラ・コミックとタイトルはつけられ、そのイディオムがオペラ・コミックといえども、この内容・音楽は正にオペレッタだと私は思いました。ただ、惜しむらくは、「ロビンソン・クルーソー」とタイトルはつけ、その枠組みは持ってきたものの、原作に対する批判性が感じられないのが残念ですし、また、オペレッタとして聴くのであれば、全体的に冗長であるように思いました。そのような作品的弱さはあるにせよ、純粋にフランス・オペレッタとして聴くのであれば、楽しい作品でした。

 さて演奏ですが、全体的に見れば、日本初演の役目を十分に果たしたものだったように思います。ただ、作品の雰囲気から見て、もっとエッジを効かせた表現をした方が、もっと面白く見ることが出来たのではないか、という気は致しました。

 特にピンと来ないのが主役のロビンソン・クルーソー。オッフェンバックがオペレッタの主人公として造形しきれていないという部分があるとは思うのですが、土師雅人の存在感が今一つ。土師は持っている声が若々しくて美しいのですが、歌のクライマックス感があまりないというのか、アリアのどこにクライマックスをもって行くのか、ということについて、指揮者や他の出演者と摺り合わせられていない感じがしました。結果として、音楽の持っているクライマックスと土師の感じるそれとがずれてしまっているように感じがしました。

 エドヴィージュもロビンソンと同じで、ヒロイン役に祭り上げられてしまっているせいか、やはり今一つピンとこない部分があります。台詞を工夫して、存在感を上げるべきだったか。とはいえ、針生美智子の歌はなかなか立派でした。彼女は、オペレッタでのヒロインを沢山歌っていることもあって、立ち位置がしっかりしている感じです。また彼女の一番よかった時の本当に艶やかで軽い美声ほどではないにせよ、高音の伸びや、コロラトゥーラの細かい歌いまわしなどは流石だと思いました。声も飛びますし、立派な歌を聴かせてくれたと思います。

 スザンヌの松尾香世子。久しぶりに聴いたと思います。良く回るコロラトゥーラは健在です。ただ、声量が以前ほどある感じではなくて、第一幕の重唱では、バランス的に彼女の声がもう少し欲しいなと思う部分がありました。しかし、西塚巧のトビーともども、この作品の笑いを担当する役柄として、十分その役目を果たしていました。第二幕の溌剌とした歌唱が特に楽しめました。

 小野さおりのヴァンドルディ。低音部分の処理の仕方であるとか、課題はいろいろあると思いますが、黒人少年の雰囲気をよく出していてよかったと思います。何も知らない未開地の少年ということで、役作りはしやすかったとは思いますが、歌唱は基本的には清新さを強調したものになっていてよかったと思います。

 西塚巧のトビーは芝居の部分で見せてくれたと思います。オペレッタは芝居も大事ですから、芝居をうまく演じられることは重要です。歌だって悪くありませんでした。笠井仁のジム・コックスは秀逸。雰囲気の面白さも出ていましたし、歌も巧み。存在感もあって、今回の歌手の中では、私は笠井の歌に一番惹かれました。父親の鹿野章人、母親役の村松桂子もしっかりと自分の役目を果たしていたと思います。

 石坂宏の演奏は、悪くないと思いましたし、太田麻衣子の演出も、新国立劇場中劇場の制約の中、いろいろな工夫で舞台を立体的に見せていましたし、二幕を中心に出演者たちの動かし方も納得いくものでした。

 以上、もっと面白い演奏に仕上げるやり方はあったのだろうと思いながらも、日本初演を果たし、この作品を世に知らしめる、という意味では十分な演奏だったと思いました。 

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鑑賞日:2013年2月23日
入場料:D席 6000円 4F R3列15番

文化芸術振興費補助金
2013年都民芸術フェスティバル参加公演

主催:公益財団法人東京二期会/公益社団法人日本演奏連盟

二期会創立60周年記念公演
東京二期会オペラ劇場

オペレッタ3幕 日本語訳詞上演
ヨハン・シュトラウスU世作曲「こうもり」(Die Fledermaus )
原作:アンリ・メイヤック/リュドヴィック・アレヴィ
台本:カール・ハフナー/リヒャルト・ジュネ
日本語訳詞:中山 悌一
日本語台本:白井 晃

会場:東京文化会館大ホール

スタッフ

指 揮  :  大植 英次   
管弦楽  :  東京都交響楽団 
合 唱  :  二期会合唱団 
合唱指揮  :  松井 和彦 
演 出  :  白井 晃 
装 置  :  松井 るみ
衣 裳  :  太田 雅公
振 付  :  原田 薫 
照 明  :  齋藤 茂男 
舞台監督  :  八木 清市 
公演監督  :  加賀 清孝 

キャスト

アイゼンシュタイン : 萩原 潤
ロザリンデ : 腰越 満美
フランク : 泉 良平
オルロフスキー : 林 美智子
アルフレード : 樋口 達哉
ファルケ : 大沼 徹
ブリント : 畠山 茂
アデーレ : 幸田 浩子
イーダ : 竹内 そのか
フロッシュ : 櫻井 章喜


感 想 関西風ノリを楽しむ-東京二期会オペラ劇場「こうもり」を聴く

 大植英次が大阪フィルの桂冠指揮者であるということと関係があるのかもしれませんが、全体として感じるのは、非常に関西テイストであるということ。舞台装置や全体のしつらえだけではそうは思わなかったのですが、歌手たちの演技を見るにつれ、心の中に浮かぶのは「吉本新喜劇」でした。全然洗練されていないし、けばけばしくはあっても豪華さは感じないのですが(というより、舞台装置は意識してチープに見えるように作ってある)、全体として関西風にまとめたあざとさが、私はよいように思いました。

 日本語で上演するオペレッタを突き詰めた一つの極北の演奏と申し上げてもよいと思います。外国のオペレッタを日本語で上演するときいつも思うのは、翻訳の違和感です。今回使用された中山悌一の二期会伝統の翻訳も、それほど良いものだとは思いません。音楽と歌詞とのバランスが悪ところが結構あって、よほどしっかり歌わないとお客さんに何を歌っているのか分からない、という風になるところもあります。また、地の台詞も変に流行に媚びて浮いたり、ストーリーの説明が不十分で、初めて見る方には不親切だったり、といろいろ不満が出てしまうのことがあるのですが、今回の白井晃の台本は、この関西テイストという芯が通っていたため、細かいところに注文はあるものの、全体としてまとまった舞台になったと思います。

 白井の台本は、中山の訳詞を踏まえて作ってはあるようですが、逆に白井の台本がよかったせいか、中山の翻訳の古さをまた感じさせることになりました。

 舞台のしつらえも特徴的です。今回の上演で一番最初に目についたのが、オーケストラ・ピットの浅いこと。通常ですと、コントラバスの高さぐらいの深さになっていると思いますが、今回は、奏者の上半身が見えるほど高い。オケピットと客席の面が同じぐらいにまで上げてあります。本当に演技する場所は、東京文化会館大ホールの舞台の上に高さ1メートルほどの箱製の仮設の舞台を作り、その中で歌い、演技をします。この仮設舞台は、実に安っぽいしつらえで、如何にも水彩画を描いています、という風の舞台美術でした。この演劇小屋っぽい雰囲気こそが演出家も求めたところなのでしょう。また浅いオケピットからの指揮者が客席に手拍子を促したり、あるいは舞台の上とオケピットのやり取りなどは、東京のお客さんのノリが今一つよくないので、必ずしも成功しているとは言えませんでしたが、劇場内の一体感を意識してのことのようでした。

 さて、演奏も結構あざとかったように思います。まずは、有名な序曲。大植はテンポを自由に動かして、けれん味たっぷりに演奏させます。オーケストラの楽器の音色も普通であればもっと透明感を出すようなフレーズでも、敢て濁らせて演奏させるなど、上品な味わいを捨てるような感じです。「こうもり」という作品は、第二幕の豪華絢爛性話題になることが多いわけですが、今回の「こうもり」は、庶民的猥雑さを強調し、そのエッセンスがこの序曲にあったように思いました。

 歌・演技共に一番よかったのは、萩原潤のアイゼンシュタインでした。第三幕のブリントに化けて、アルフレードとロザリンデの前に正体を現すシーンは、もっと見せられるように思いましたが、それ以外はほぼ満足です。まず、歌が非常に安定していて、バランスがよかったと思いますし、演技もオルロフスキー公の舞踏会に招かれるときの浮き浮きした気分や、ロザリンデに時計を取られてしまうところの、何ともいえないおどおどした雰囲気など、小心な中年のスケベ親父の感じがよくでておりました。昨年の日生劇場での「フィガロの結婚」での伯爵も感心しましたが、今回のアイゼンシュタインといい演奏が続けて聴けて、私は嬉しいです。

 腰越満美のロザリンデは、一部歌詞がはっきりしないところがあったのと、低音部で声の飛びが失速したところがあるのが残念でしたが、何度もやっている役柄だけあって、ポイントを押さえた演技・歌唱はなかなか良かったと思います。特にロザリンデの気の強さを示した台詞回しが面白く見ることが出来ました。

 幸田浩子のアデーレもなかなか出色でした。この方も大阪出身ということがあるのでしょうね。演技に大阪が見えているところが面白い、と思いました。勿論、二つのアリア、「侯爵様、あなたのようなお方が」、「田舎娘を演るときには」は、どちらも幸田の軽い声が魅力的に響きよかったです。

 あとは、樋口達哉のアルフレードが最高に面白い。このアルフレードのコンセプトはテノール歌手がテノール歌手のパロディをやって見せるというところにあると思うのですが、それをノリノリでやって見せました。彼は本来歌わなければいけない「僕の小鳩よ」といった歌よりも、アドリブで聴かせたテノールのアリアの断片の方が面白かったと思いました。Bravoです。

 林美智子のオルロフスキーは、もっと退屈さを体現して欲しいところですが、それが足りないのが今一つ不満。声ももっと男性っぽさが欲しいと思いますし、もう少し役作りの仕方があるような感じがしました。

 泉良平のフランクは、萩原アイゼンシュタインと比較すると、生硬さを感じました。畠山茂のブリントは今一つ不満、吃音の弁護士という設定ですが、であるからこそ、歌を分かるように歌って欲しいように思いました。第一幕のロザリンデとアイゼンシュタインとの三重唱、一寸歯切れが悪かったように思います。大沼徹のファルケは、狂言回しの役目をしっかり果たしていたと思います。

 今回使用した楽譜は、原典版でノーカットらしいです。私もずいぶん「こうもり」を聴いていますが、二幕の後半のダンスを全部見たのは初めてだと思います。そのダンスもバレエダンサーが登場するのではなく、合唱団のメンバーと出演者たちで演じられました。そこもよい感じです。

 以上、オペレッタを日本語上演するときのあり方をかなり提案した上演になっていました。関西風のノリで一貫させたのがよかったのでしょう。惜しむらくは、そのノリを東京のお客さんが必ずしも受容していなかったこと。劇場の中がもっと一体感を持てれば、演奏に傷はあったとしても、もっと充実感を味わえたような気がします。 

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鑑賞日:2013年3月1日
入場料:3990円 1F 7列51番

主催:新国立劇場

新国立劇場オペラ研修所公演

オペラ3幕 字幕付原語(ドイツ語)上演/日本初演
ヒンデミット作曲「カルディヤック」(Cardillac)
原作:E.T.A.ホフマン
台本:フェルディナント・リオン

会場:新国立劇場中劇場

スタッフ

指 揮  :  高橋 直史   
管弦楽  :  トウキョウ・モーツァルト・プレイヤーズ 
合 唱  :  栗友会合唱団 
合唱指揮  :  栗山 文昭 
演 出  :  三浦 安浩 
美 術  :  鈴木 俊朗
衣 裳  :  加藤 寿子
照 明  :  稲葉 直人 
舞台監督  :  高橋 尚史 

キャスト

カルディヤック : 村松 恒矢(14期)
カルディヤックの娘 : 倉本 絵里(13期)
士官 : 日浦 眞矩(14期)
金商人 : 大塚 博章(賛助)
貴婦人 : 柴田 紗貴子(13期)
騎士 : 伊達 達人(14期)
衛兵隊長 : 大久保 光哉(賛助)


感 想 没後50年の記念公演?-新国立劇場オペラ研修所「カルディヤック」を聴く

 ヒンデミットが20世紀前半を代表するドイツの大作曲家であることは疑いがないところで、オーケストラ作品はそれなりに聴いてきました。交響曲「画家マチス」とか、「ウェーバーの主題による交響的変容」とかですね。しかし、オペラというと何があっただろうと考えると考え込まざるを得ない。実際は、東フィル・オペラコンチェルタンテ・シリーズでやった「小オペラ三部作」と東京室内歌劇場による「往きと復り」を聴いているのですが、これらの作品はすべて実験的な作品です。それなりに音楽的に面白かった思い出はあるのですが、楽しめるオペラというのとはちょっと違います。そういう意味で、オペラらしいオペラはこれまで聴いてきませんでした。

 また、ヒンデミットは、ドイツではどうか知りませんが、一般にはオペラ作曲家として目されてはいない。日本で上演されている作品も上記の実験的な4作以外は「ロング・クリスマスディナー」だけです。「画家マチス」だって、「世界の調和」だってまだ日本初演されていない。「カルディヤック」は、ヒンデミットが新古典主義に変わりつつあった時代の代表作らしいのですが、今回の上演が日本初演というのは、日本におけるヒンデミットの受容から考えると妥当なのかもしれません。

 「カルディヤック」は、今回初めて聴く作品ですが、曲の印象としてはオーケストラがとても重要な作品のように思いました。それも金管と打楽器です。この楽器群で緊張感を高めて行き、弦楽器群は安らかな感覚を出すといいますか、そういう感じがある。ストーリーの進行もオーケストラ伴奏の元、歌わない原義だけの部分もあり、ヒンデミットがオペラ作曲家である前に管弦楽の作曲家だったのだな、と思いました。

 そのオーケストラの演奏は、なかなか納得のいくもの。高橋直史という指揮者は私は初めて聴く方だと思いますが、ドイツの歌劇場で近現代のオペラを沢山手掛けている方のようです。それだけに、ヒンデミットのこのオペラもよく知悉していたということなのかもしれません。なお、今回のオーケストラはTMOでしたが、演奏されている方はチェロの海野幹雄さんやフルートの岩佐和弘さんティンパニの久保昌一さんと名手の方が多く、流石に魅力的な音になっていました。トロンボーン、チューバ、ファゴットなどの低音系楽器がことに良かったように思います。

 さて肝心の歌の方ですが、まず素晴らしかったのは栗友会の合唱。この方たちの合唱は、正に合唱を専門にやられている方の合唱です。他のパートの音に合わせてすっと音色が変わる感じが、実に見事です。オペラの合唱は、ソリスト集団による合唱であることが多く、それはそれで見事なわけですが、合唱を専門にされている方の音のつくり方のアプローチが見えたという点で、とてもうれしかったです。

 ソリストでは今年卒業の二人のソプラノがいい。声の安定感とすっと伸びる感じでは、倉本絵里の娘がとても魅力的。声の張りや声量もあって、今後に期待が持てるソプラノと申し上げてよいのではないでしょうか。柴田紗貴子の貴婦人も悪くない。この方は演技に雰囲気があって、伊藤達人とのラブシーンがとてもエロティックで良かったと思います。第一幕の官能的なアリアが魅力的に響きました。

 男声はテノールはそれなりの出来という感じがしました。伊藤達人の騎士は不安げな焦燥が出ていたように思いました。日浦眞矩の士官は明るいテノールで能天気な役に向いている声ですが、それだけに、この士官という役が持っている複雑さをきっちり表現できていたか、ということになると今一つ疑問が残ります。

 ちなみに外題役のカルディヤックを演じた村松恒矢は、はっきり申し上げれば貫録不足でした。声質がハイバリトンで、カルディヤックのような重い役には向かないと思いますし、彼自身も重心を意識して下げようとはしていなかったように思います。こういう一見いい人が殺人鬼、というのはありがちではあると思いますが、このオペラではそういう落差を目指すよりも主人公がもっと重厚な歌を歌った方がよいように思いました。ことに金商人役の大塚博章が見事なバスバリトンで歌っておりましたので、そのバランスからももっと重厚さが欲しいと思ったところです。

 三浦安浩の演出は暗闇を上手に使って、幻想的な雰囲気を出そうとしたものでしたが、すっきりとしている感じはありませんでした。舞台でやっていることは断片的には理解できるのですが、ストーリー全体として見ると、何かよく分からない感じがしました。幻想的なオペラなのだからそれでよしとすべきなのか、自分の中で解決がついていません。

 もうひとつ、根本的な問題として、このような作品を研修公演に取り上げることの是非です。私は古典作品を歌っていればよしとするものではありませんが、観客にあまりなじみのない作品を取り上げるのがよいことなのかどうかは、考える必要があるように思います。まあ、今年はヒンデミットの没後50年ですから、記念の年に日本初演が行われたことはよいことなのでしょう。

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