オペラに行って参りました−2002年(その3)−

目次

2002年10月 2日 オペラ・ガラコンサート(プログラムA)
2002年10月 3日 オペラ・ガラコンサート(プログラムB)
2002年10月16日 ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」
2002年10月28日 ロッシーニ「ランスへの旅
2002年10月31日 ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」
2002年11月 7日 モーツァルト「イドメネオ」
2002年11月21日 高橋薫子ソプラノリサイタル
2002年11月22日 ヴェルディ「椿姫」
2002年11月30日 ヴェルディ「イル・トロヴァトーレ」
2002年12月13日 リヒャルト・シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」  

オペラに行って参りました2003年その1へ
オペラに行って参りました2002年その2へ
オペラに行って参りました2002年その1へ
オペラに行って参りました2001年後半へ
オペラへ行って参りました2001年前半へ
オペラに行って参りました2000年へ 

鑑賞日:2002年10月2日
入場料:2000円、3F R2 19番

主催:文化庁舞台芸術国際フェスティバル実行委員会
制作:オペラ団体協議会

音楽も今アジアから
オペラ・ガラ・コンサートin東京

会場 東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

司 会:檀ふみ
指 揮:井崎正浩
管弦楽:東京交響楽団
舞台コーディネーター:コシノジュンコ
照 明:奥畑康夫

プログラム

1 モーツァルト 「ドン・ジョヴァンニ」序曲  
2 モーツァルト 「ドン・ジョヴァンニ」よりレポレロのアリア「カタログの歌」 稲垣俊也
3 ドニゼッティ 「愛の妙薬」よりアディーナのアリア「受けとって」 砂川涼子
4 ドニゼッティ 「愛の妙薬」よりネモリーノのアリア「人知れぬ涙」 金 永煥
5 ヴェルディ 「運命の力」よりレオノーラのアリア「神よ平和を与えたまへ」 金 英美
6 ヴェルディ 「リゴレット」よりマントヴァ公のアリア「頬の涙が」 宋 元哲
7 ヴェルディ 「椿姫」より二重唱「パリを離れて」 澤畑恵美、市原多朗
休憩
8 ロッシーニ 「セヴィリアの理髪師」からフィガロのアリア「私は町の何でも屋」 牧野正人
9 ロッシーニ 「セヴィリアの理髪師」からロジーナのアリア「今の歌声は」 高橋薫子
10 ワーグナー 「トリスタントイゾルデ」よりイゾルデのモノローグ「愛の死」 寺谷千枝子
11 ドリーブ 「ラクメ」よりラクメのアリア「鐘の歌」 佐藤美枝子
12 プッチーニ 「トスカ」よりカヴァラドッシのアリア「星は光りぬ」 市原多朗
13 團伊玖磨 「夕鶴」よりつうのアリア「私のだいじな与ひょう」 澤畑恵美
14 ヴェルディ 「ドン・カルロ」より四重唱「ああ呪われよ、宿命的な疑念」 金英美、寺谷千枝子、牧野正人、稲垣俊也

感想

 旬の歌手が沢山出演下さると、ガラコンサートは特に華やかです。本日のプログラムは、歌手は一流ですし、歌も歌手のテクニックを示し易いものを選んでいて、とりわけ楽しく華やかになりそうで、期待して行きました。結果は、色々と細かい問題はあったものの、とても充実した、楽しめる音楽会でした。特に休憩後は流石の歌が続き、日本人歌手の実力を感じずにはいられませんでした。

 オーケストラと指揮に関しては、取りたてて申し上げることはありません。2時間の間にモーツァルトからプッチーニに至る西洋オペラと、更には日本オペラまで演奏するのですから、切替が大変でしょうし、全てに満足行くように演奏するというのは至難の技だろうと思います。その意味で、今回のオーケストラはあくまでも伴奏でした。特別な自己主張はなく、付けに徹していた、と申し上げてもよいのかも知れません。指揮者の井崎正浩は、東欧のオペラハウス出身の人ですが、今回彼の個性をみることはできませんでした。

 個別の寸評です。

 稲垣さんは軽妙でなかなかコミカルで結構なのですが、いかんせん音程が悪い。私は今回舞台の真横上で聴いておりましたが、オケの伴奏の音と彼の声とが妙にずれています。結果として和声がとても不自然なのですね。それがとても気持ちが悪い。地声はいいのですから、もっと正確な歌をお願いしたいと思います。

 砂川涼子さんは、選曲のミスでしょう。9月後半文化庁の移動オペラ教室でアディーナを歌ったということで、この選曲になったのでしょうが、彼女の声がアディーナに向いているとは思えないのです。リューやミカエラのようなもっと純粋リリコの役の方が彼女には良いと思います。その上調子も悪く、最初の高音は全く出ていませんでした。とにかく恰好はつけて終っておりましたが、砂川さんの魅力を見せるには不十分な演奏だったと申し上げざるを得ません。

 金永煥さんの「人知れぬ涙」。これまた魅力の乏しい歌でした。余裕のない歌い方で、この歌の持つ色気がにじみ出てこないのです。あの歌でブラボーを貰えるのですから、応援団はありがたいものです。

 金英美さんの歌は、私が前半のソロで唯一合格点を差し上げていいな、と思った歌でした。ちょっと暗めの声とスピント、歌の後半に向けて盛上げて行く技量、水準以上のものだと思います。ただ、前半はケアが不十分で歌の切れが甘くなるところがあり、たとえば、かつて聴いた佐藤しのぶの歌唱と比較した時、不満がないと申し上げたら嘘になります。

 宋元哲さん。このメンバーの中でソロを歌うのは、一寸力量が足りなすぎます。本日のワーストワンでした。

 椿姫のデュエット。前半の白眉。市原さんが殊に良かったです。澤畑さんの声は上には響いてこないのです(1Fで聴いて入た人の話によると良かったということです)が、市原さんは朗々とした歌いっぷりで、大向こうから声がかかりそう。最近聴いたアルフレードが密度の薄い能天気な歌いっぷりだったので、市原さんを聴いて、アルフレードはこうじゃなくっちゃ、と、ひとりごちておりました。

 牧野さんの何でも屋。これはとても素晴らしいフィガロでした。私は牧野さんが何でも屋を歌うのをかつて3度聴いていると思いますが、その中でもベストだと思います。かつて聴いたとき、ちょっとぎこちないな、と思ったこともあるのですが、本日のは、流暢で、コミカルで、それでいて声の密度が高くて、メリハリが利いていて、文句なし。こういう歌を聴けると思うと、劇場通いはやめられなくなります。

 高橋薫子さん。これまた文句なし。彼女は最高音が高い歌手ではないのですが、歌い方の設計がよく、歌のプロポーションの示し方が上手なので、こういうコロラトゥーラ系の歌でもぴしっと決めてくれるのです。彼女のUna Voceは何度も聴いていますが、何度聴いても気持ちがいいです。今回も大いに楽しみました。

 寺谷さんのイゾルデ。この方は実力派メゾで最近よく聴くのですが、悪くないイゾルデでした。ただ、ワーグナーを歌うのには声にパンチが欠けているように思いました。私の聴いているポジションでは、オケにやや負けているぐらいの印象でしたが、会場の後では、彼女の声がオーケストラの音に包まれてよく聞えなかったのでは、という危惧を覚えました。

 佐藤さんの鐘の歌。ヴラバです。コロラトゥーラの技量を聴かせるカタログのような曲ですが、彼女は技量がよく、高音がひとつひとつ軽やかに決まって行きまして、快感でした。一時不調が伝えられましたが、完全に回復した様です。

 市原さんの星は光りぬ。ベテランの力量と味をしっかりと示してくれました。流石です。

 澤畑さんのつう。着物姿で歌われました。彼女にとってはベストではなかったというのが、会場での意見でしたが、私は十分楽しめました。彼女の日本語はそれほど分り難くないし、日本情緒も良く出ていて、満足でした。

 「ドン・カルロ」の四重唱。これは駄目。明かに練習不足で、アンサンブルが合っていないのです。ちぐはぐで、聴いていて楽しくありませんでした。

 あとは蛇足ですが、歌手が歌い終わった後のオケメンバーの拍手。コンサートミストレスの大谷さんがとても一所懸命で好感が持てました。司会の檀ふみ。もう少しで五十路だと思いますが、流石女優さん。奇麗でした。 

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鑑賞日:2002年10月3日
入場料:4000円、1F 13列1番

主催:文化庁舞台芸術国際フェスティバル実行委員会
制作:オペラ団体協議会

音楽も今アジアから
オペラ・ガラ・コンサートin東京

会場 東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル

司 会:檀ふみ
指 揮:井崎正浩
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
舞台コーディネーター:コシノジュンコ
照 明:奥畑康夫

プログラム

1 モーツァルト 「魔笛」序曲  
2 モーツァルト 「魔笛」よりタミーノのアリア「なんと美しい絵姿」 小貫岩夫
3 ヴェルディ 「トロヴァトーレ」よりレオノーラのアリア「静かな夜」 木下美穂子
4 ヴェルディ 「椿姫」よりジョルジュのアリア「プロヴァンスの海と陸」 福島明也
5 ヴェルディ 「リゴレット」よりジルダのアリア「慕わしき人の名は」 テレサ・ラ=ロッカ
6 プッチーニ 「ボエーム」よりロドルフ公のアリア「冷たい手を」 鄭 皓允
7 プッチーニ 「蝶々夫人」より蝶々さんのアリア「ある晴れた日に」 和 慧
8 プッチーニ 「トスカ」より第1幕の愛の二重唱 佐藤ひさら・福井敬
休憩
9 ヴェルディ 「ドン・カルロ」よりロドリーゴのアリア「終わりの日が来た」 三原剛
10 ワーグナー 「ラインの黄金」より「避けよ、ヴォータン」 片桐仁美
11 シャンパルティエ 「ルイーズ」よりルイーズのアリア「その日から」 浜田理恵
12 ジョルダーノ 「アンドレア・シェニエ」よりシェニエのアリア「ある日青空を眺めて」 福井敬
13 山田耕筰 「黒船」よりお吉のアリア「歌をうたえば」 佐藤ひさら
14 ヴェルディ 「リゴレット」より四重唱「美しい乙女よ」 テレサ・ラ=ロッカ、片桐仁美、小貫岩夫、三原剛

感想

 2日目は、1日目から見ると華やかさに一寸欠けるような気もいたしましたが、悪くはありませんでした。歌手の粒が揃っているという点では2日目が上かも知れません。勿論細かい問題はあるのですが、十分楽しめて満足できる音楽会でした。指揮者はおなじでオーケストラが変わりましたが、どちらも付けに徹しているという点でその違いは明確ではありませんでした。司会の檀ふみも2日間同じことを言っており、台本の使い回しが明らかでそれも面白かったです。以下、歌手ごとの寸評です。

 小貫岩夫。私はこの方を昨年の新国立劇場小劇場オペラの「ねじの回転」で聴いているのですが、そのときの印象では、もっと太めの声のテノールという印象でした。その方がモーツァルトを歌ったのが驚きでした。また、このタミーノがまた軽い声だったのに驚きました。声の密度が小さく、けれんがない歌で、一寸退屈な部分もないでは無いのですが、いいものを持っている方だと思います。今後の精進を期待したいです。

 木下美穂子。昨年のコンクール三冠王と紹介されて入ましたが、その割には平凡な「静かな夜」でした。多分正確に歌っていたのでしょうが、聴き手に響いてくるものが無いのですね。それは、声量のような物理的部分でもそうですし、歌の情感のようなところでも今一つです。選曲も良くない。確かにリリコからスピントにかけての声質なのでしょうが、「静かな夜」より彼女の魅力を示す作品があったのではないかと思います。

 福島明也。悪くない歌唱でした。ただ、ためがどこも少しずつ足りない感じです。ですから、どっしりて信頼感のあるジョルジュ・ジェルモンというよりは、一寸神経質で、腹の中は怒りで一杯だが、息子に対してはそれを見せない様に苦労しているお父さんという感じが出ていました。私は、ための利かせたジョルジョの方が好きですね。

 ラ=ロッカのジルダ。この歌も余り宜しくありませんでした。そこそには歌っているのですが、恋人に対する思いの熱が感じられないのです。聴き手に対する説得力が歌に示されてこない。冷たいと言ってもいいのかも知れません。魅力の乏しい歌でした。

 鄭皓允のロドルフォ。これは良かった。前半の一番でしょう。甘い声で隅々までコントロールしており、バランスも良かったと思います。ミミに対する思いが込められた歌でした。

 和慧の「ある晴れた日に」。これもさほどよろしくない。聴かせどころがどこか、ということは分っているようですが、それ以外の弛緩している部分がよくない様に思いました。蝶々夫人の思いを理解していないのではないか、という気がいたしました。

 「トスカ」の二重唱。これは良かったです。佐藤ひさら、福井敬の両人とも息が良く合い、トスカの嫉妬深くて気が強いけれども、カヴァラドッシを愛している感じも良く出ておりましたし、福井さんの歌もまたプロポーションが良く、こまごましたところまで注意が行き届いており、感心いたしました。日本人トスカというと林康子しか聴いたことがないのですが、佐藤ひさらトスカも悪くないかな、と思いました。

 三原剛のロドリーゴ。この方の歌い方、私の好みからすると、余り好ましくはないものです。で、悪いか、と言えばよくわからないというのが正直なところです。確かにレナート・ブルゾンと比較すれば、三原の力は落ちますが、あの歌のどこが悪いか、といわれれば、歌い方の妙な癖が気にかかったぐらいしか言えないです。

 片桐仁美。初めて聴く関西のメッゾですが、なかなかの実力者と見ました。ワーグナーに対する経験が豊富な人のようで、「避けよ、ヴォータン」も魅力的な歌でした。華やかではないのですが、歌の密度が濃い感じがして良いと思いました。オーケストラが結構厚く、歌い手の声が埋もれるのではないかと思いましたが、片桐さんに関してはそれはなく、良好だったと思います。

 浜田理恵。上手な方です。よく通る声の持ち主で、技巧も達者です。彼女の歌の魅力は全体のプロポーションの良さと、メリハリの利かせ方でしょう。高音に注意を払い過ぎると内声部に問題が出ると言うことは良くあると思うのですが、彼女の場合、メリハリもあるが密度もあるという、というところで、豊満でかつシャープな味わいを楽しめました。洒脱なところが前面に出れば、更に良し、というところでしょうか。

 福井敬。彼の歌を聴くと、現時点で日本のナンバーワン・テノールは福井敬さんだと思わずにはいられません。うまいです。彼の歌は、形を最初にきちんと作って、そこに中身を詰め込んでいくというスタイルです。だから大崩れがないのだと思います。今回のシェニエのアリアも形が明瞭で、プロポーションが良く、そのうえ、中身の充実も感じられましたから、文句なし、と申し上げられます。

 佐藤ひさらの唐人お吉。昨夜の澤畑さん同様、和装での登場でした。「黒船」は名前しか知らないオペラなのですが、彼女の歌には情感があって妙に説得力がありました。なかなかよかったのではないでしょうか。

 リゴレットの四重唱。これは良かったです。初日の四重唱が散々だったので、あまり期待していなかったのですが、良かったです。ラ=ロッカのジルダも「慕わしき人の名は」を歌った時よりも歌に生気があって良かったですし、片桐仁美のマッダレーナも良かったです。小貫岩夫のマントヴァ公も悪くなく、三原剛のリゴレットもまあまあ、ということでまとまりも良く、なかなか聴きごたえのある四重唱でした。

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鑑賞日:2002年10月16日
入場料:8977円、3F 2列8番

主催:文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場

字幕付原語(イタリア語)上演
ドニゼッティ作曲「ランメルモールのルチア」(Lucia di Lammermoor)
原作:ウォルター・スコット 台本:サルヴァトーレ・カンマラーノ

会場 新国立劇場・オペラ劇場

指 揮:パオロ・オルミ  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱:新国立劇場合唱団/藤原歌劇団合唱部  合唱指揮:三澤 洋史
演 出:ヴィンチェンツォ・グリゾストミ・トラヴァリーニ
美術・衣装:アルフレード・トロイジ  照明:磯野 睦
振 付:石井清子  舞台監督:菅原多敢弘

出 演

ルチア チンツィア・フォルテ
エドガルド ファビオ・サルトーリ
エンリーコ ロベルト・フロンターリ
ライモンド 若林 勉
アルトゥーロ 角田 和弘
アリーサ 竹本 節子
ノルマンノ 於保 郁夫

感想

 90年以降、東京で上演されたルチアは3プロダクションあります。93年と2000年の藤原歌劇団、それに96年のフィレンツェ歌劇場で、私はその3プロダクションを全て見ているのですが、今一つピンとこなかった所があります。93年は高橋薫子のルチア、96年はマリエッラ・デヴィーアのルチアでしたから悪かった筈がないのですが、今思い出すに、心から感動した覚えがない。デヴィーアは、当代随一のルチア歌いですから、本来もっと印象に残っていて良いと思うのですが、彼女がどんなルチアを歌ったか、ほとんど記憶にないのです。その理由が、今回の新国のルチアを見てようやく分りました。要するに、演出が悪かった。どれも割りと抽象的な演出で、スコットランドの荒涼とした風景が具体的に出て来なかったのですね。だから、本来徹底的に現実的で歴史的背景のあるオペラが楽しめなかった。

 その意味で、今回の「ルチア」は、舞台造形と演出を大きく褒めるべきであると思います。第1幕から終幕まで舞台が一々具体的ですし、どれも美しい。結婚式の場面なども、華やかではあるけれどもけばけばしくなく、スコットランド的雰囲気も良く出ていて、大変素敵なものでした。狂乱の場におけるルチアの登場のシーンなどは、私の思った通りの登場で、そういう意味では陳腐と言えないこともないのでしょうが、実にその絵が美しいのです。観客の予想の動きを見せながら、それで感心させるというのは大したことだと思います。私は演出家にブラボーをまず贈りましょう。

 音楽全体の作りも悪くなかった、と思います。オルミの指揮は最初今一つで、音楽の生気が足りないように感じたのですが、どんどん盛り上がって来て、終幕に向けて収斂させて行きました。そのため、音楽は後半の方が締まっていて、切れ味のいい演奏になっていたと思います。また、ルチア登場のアリアにおけるハープの音色がとても良く、感心いたしました。幕開けの合唱が結構汚く、指揮の乗りも悪かったので、こりゃどうなることかと思いましたが、ルチア登場のシーンから大きく挽回したのはご同慶の至りです。

 歌手は総じて良かったと思います。特に外題役のチンツィア・フォルテが良かった。私は彼女の歌を本年正月の「椿姫」で聴いているのですが、そのときの印象は、正確な歌だけれども歌心のない歌で詰まらないと言うものでした。彼女の声質からみて、椿姫には多分向いていなかったのだろうと思います。逆にそういう声は「ルチア」に良く合っている、と言うことなのでしょう。歌が正確で、技巧もピタっと決まる方なので、ルチアのようにソプラノの技巧を駆使する歌に向いています。必ずしも高音が良く出る方ではないようで、「狂乱の場」などは、佐藤美枝子の正確な高音の決めと比較すると、一寸物足りないものがあるのですが、その部分を除けば、文句なしの歌でした。登場のアリア「あたりは沈黙に閉ざされ」は絶妙でしたし、「狂乱の場」の感情表現・演技も大いに感心いたしました。

 サルトーリのエドガルドもブラボーです。艶のある上品な声のテノールで、一寸泣きの入った声は、エドガルドという、この悲劇的な騎士を歌うのにうってつけのように思いました。第1部第2場のフィナーレのルチアとの二重唱が非常に良かったですし、第2部第2幕第1場のエンリーコとの二重唱、フィナーレにおけるアリアとどれをとっても、声量といい、響きといい、十分満足できるものでした。

 エドガルドのフロンターリもさすがです。冒頭のアリアは、悪くはないのですが、一寸乱暴な感じになっていて残念です。でもそれ以降は良かったのではないかと思います。低音のコントロールがうまい方で、声量・音程とも十分満足出来るレベルでした。ルチアとの絡みよりも、エドガルドとの絡みにおいて、実力が出ていたと思います。結婚式での重唱、第2部第2幕第1場の二重唱が特に良かったと思います。

 若林勉のライモンドもよい。フロンターリの声のような艶には欠いているのですが、歌それ自身は正確でかつ説得力がありました。第2部冒頭のカヴァティーナも良かったです。声も出ており、高く評価したいとおもいます。竹本節子も良かったです。この方声質が良く、十全なアリーサを演じておりました。角田和弘は歌う部分は多くないのですが、結婚式の重唱で存在感を出しておりまして良好。於保郁夫も好演でした。

 全体として、指揮が締まってアッチェラランドをかけながら音楽を追い込んで来た、第2部が第1部よりよかったです。指揮者のコントロールの良し悪しが、音楽全体の枠を決めているようです。結婚式から狂乱の場に至る盛りあがりと緊張感は、オペラを聴く醍醐味のように思いました。

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観劇日:2002年10月28日
入場料:8000円、座席:A席 1F26列14番

日本ロッシーニ協会特別公演

ロッシーニ作曲「ランスへの旅」(Il Viaggio a Reims)
オペラ1幕、字幕付原語上演
台本 ルイジ・バロッキ
楽譜 ロッシーニ財団による批判校訂版

会場 大田区民ホール アプリコ大ホール

指揮:松岡究  管弦楽:日本ユニバーサルフィルハーモニー管弦楽団
合唱:日本ロッシーニ協会合唱団  フォルテ・ピアノ:金井紀子
字幕:千代田晶弘  
演出:マルチェッラ・レアーレ  

出演者

フォルヴィル伯爵夫人 高橋 薫子
コリンナ 佐橋 美起
コルテーゼ夫人 家田 紀子
メリベーア侯爵夫人 阪口 直子
リーベンスコフ伯爵 五郎部俊朗
騎士ヴェルフィオール 羽山 晃生
トロンボノク男爵 黒崎錬太郎
ドン・アルヴァーロ 今尾 滋
シドニー卿 三浦 克次
ドン・プロフォンド 黒木 純
ドン・プルデンツィオ 羽淵 浩樹
デリア 大内彩洋子
マッダレーナ 岡崎智恵子
モデスティーナ 萬崎 裕美
アントーニオ 馬場 眞ニ
ゼフィリーノ/ルイジーノ 平尾 憲嗣

感想
 
2000年11月、日本ロッシーニ協会は「ランスへの旅」の日本人初演を挙行し、満員の客席はおおいなる感動に包まれました。それは、日本人だけの手作りオペラで、名前のある役だけで18役もある歌劇をなんとか上演してしまったという驚きとそれに対する称賛があったと思います。私もその場にいて、その感動を味わったのですが、しかし、あの舞台に、舞台そのものの力があったかと言えばかなり疑問です。私は、2000年の上演を楽しみ、それなりに称賛の感想を書きましたが、ありていに言えば、こなれていない舞台であった、というのが本当のところでした。

 今回、二年ぶりで、日本ロッシーニ協会「ランスへの旅」の再演を見ることが出来ましたが、明らかに一皮剥けた舞台に変身しておりました。2000年の時と7役が交替したのみで、指揮者も演出家も一緒にも拘らず、音楽の自由度、歌手の余裕および実際の歌唱の水準、いずれをとってみても、今回の上演の方が良かったです。二度目の公演ということが、指揮者にも演出家にも歌手にも自信を与えたということなのでしょうか?

 オーケストラの音が柔らかく、特に弦楽器が奇麗に聞えました。北とぴあよりもアプリコホールの方が良い響きが期待できるホールであるということはあるのでしょう。フルート・ソロの紀谷恭行もよく、ハープの井上栄利加もまた良かったと思います。松岡究の指揮振りも前回の堅さがとれ、自在のもの。ロッシーニ・クレッシェンドも決まり、音楽の柔らかさが推進力を壊すことなく共存し、実に聞いていて楽しくなる音楽でした。今回の成功の元には、松岡の指揮があったと強く思いました。

 演出も基本的には前回を踏襲したものでしたが、衣装が自前でなくなったこと(半分は未だ歌手の方の自前だったそうですが)、大道具・小道具が充実したことなど、努力の跡が見えました。

 歌手も総じて好調。マッダレーナの岡崎智恵子は、入りが不安定で本日の演奏の危機を想像させましたが、プルデンツィオの羽淵浩樹が、先日の「なりゆき泥棒」に続き好演、アントーニオの馬場眞二、ルイジーノの平尾憲嗣がともに快調の声で登場してホッといたしました。次いで登場したのがコルテーゼ夫人家田紀子。家田はあまり声量がなく、技術的にも今一つのところがあるので、従来私は評価してこなかったのですが、今回は別人の様でした。音程に若干不安なところがあったのですが、全体としてみれば、実に素晴らしい歌唱でした。アジリダも決まっていますし、高音もきちんと決め、声もしっかりと前に出ておりました。ブラヴァです。

 それでも彼女の歌は、伯爵夫人・高橋薫子の歌の前には霞みました。高橋の歌はある意味で抜群でした。高橋薫子は、彼女の声質からみて本来「コリンナ」が向いています。しかし、諸事情によりこのオペラの最高音を受持つ「伯爵夫人」を歌ったわけですが、第2曲の大アリアをほとんど傷なしで正確に歌いきったのは驚きました。アジリダといいクレッシェンドといい音程といいさすが高橋、と申し上げて良いでしょう。ただし、彼女の普段の持ち味とは一寸異なっていて、透明感が今一つ不足している感じがしました。役柄上、透明感を出さないほうが良いのではないかという判断があったのか、高音を正確に歌いきる方に気持ちが行っていて、歌の質感にまで気が回らなかったということなのかは分りません。ただ、やはりそうすると透明感のある役柄である高橋のコリンナを是非聴きたいものだと思います。

 五郎部俊朗のリーベンスコフ伯爵も前回より好調。彼は日本人ロッシーニ・テノールとして随一の方ですが、最近、昔の透明感があってそれで軽い声が聞えない、と思っておりました。しかし、本日は、登場の部分が一寸弱かったものの後は良かったです。声が出ているのに、軽く、アジリダもしっかりしていて、推進力のある歌唱でした。私は、五郎部復活とひとりごちていました。

 阪口直子。アジリダが一寸重い、などの技巧的に細かい問題はあるのですが、前回よりこなれていたと思います。ふくよかな歌唱、特に休憩後の五郎部との二重唱は出色でした。今尾滋のドン・アルヴァーロは大きなふりで会場を沸かせてくれました。黒崎錬太郎のトロンボノク男爵は一寸いただけません。ドイツ軍人らしい雰囲気は出ているのですが、いかんせん声が前に飛んで来ません。ガラ大会の「皇帝讃歌」も無理をしている歌いっぷりがミエミエでちょっと興ざめでした。彼だけは、2年前の上演よりもわるくなっているかも知れません。反面良かったのは、ドン・プロフォンド。音楽的にはそれほどむつかしい役ではないとは思いますが、要所要所で舞台を締めてメリハリを付けていったところなど、評価すべきであると思います。

 シドニー卿の三浦克次。彼の登場のアリアも情感があって、それでいてあまりいやらしくなく良かったと思います。ブラボーです。三浦は、前回の「ランスの旅」で久保田真澄と共に全体を支えていたというイメージがありましたが、本年は全体の水準が上がっており、三浦さんが支えなくてもオペラが進行するという風になっていたと思います。結構なことです。なお、こうもりがさを持ち歩いていても、イギリス人には見えないのがご愛嬌というところでしょう。羽山晃生のヴェルフィオールは、登場の時から好調で、コリンナとのニ重唱は前回と同様に聴きごたえがありました。

 コリンナの佐橋美紀も二年前よりもはるかに良くなりました。彼女も技術的な面はともかく声量にはやや難がある方だという認識が有りましたが、声もよく通りましたし、良かったと思います。フィナーレのシャルル10世讃歌が、一寸重たくなってしまったのが残念でした。

 重唱部分は、全回にまして好調。第3曲の6重唱も前回より非常にこなれていて柔らかく結構でしたし、14声による大コンチェルタートはロッシーニを聴く醍醐味を味合わせてくれる本当に素敵なものでした。

 全体として見た場合、主要役柄を歌った方が総じて好調で、指揮者も頑張り、上質な上演になっていたと思います。ロッシーニの「ランスへの旅」はロッシーニの作曲技法の玉手箱みたいなところがあり、何処を切っても、ロッシーニのエッセンスが詰まっています。そういう作品を今回のような質の高い演奏で仕上られるということは、日本人歌手達の実力を示すもので、日本人歌手を応援したいと常々思っている私にとって、とても嬉しい上演でした。皆さんにブラビーを贈りましょう。

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鑑賞日:2002年10月31日
入場料:5670円、4F L7列4番

主催:文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場

字幕付原語(イタリア語)上演
ロッシーニ作曲「セヴィリアの理髪師」(Il Barbiere di Siviglia)
原作:ピエール=オーギュスタン・カロン・ド・ボールマーシュ
台本:チェザーレ・ステルビーニ
アルベルト・ゼッタ編纂批判校訂版(1969、リコルディ)

会場 新国立劇場・オペラ劇場

指 揮:アントニオ・ピロッリ  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱:新国立劇場合唱団  合唱指揮:三澤 洋史
演 出:粟國 淳  舞台美術:川口直次
衣 装:パスクアーレ・グロッシ  照 明:奥畑康夫
舞台監督:斎藤美穂

出 演

アルマヴィーヴァ伯爵 アントニーノ・シラグーザ
ロジーナ ジョイス・ディドナート
バルトロ ブルーノ・プラティコ
フィガロ ロベルト・デ・カンディア
ドン・バジリオ フランチェスコ・エッレロ・ダルティーヤ
ベルタ 本宮 寛子
フィオレッロ 松浦 健
隊長 長谷川 寛
アンブロージョ 島田 曜蔵

感想

 今回の「セヴィリアの理髪師」は、お客さんの乗りが良かったです。なにせ、決して良かったとは思えないベルタのアリアにまでブラヴァが飛ぶのですから。でも、ブッファをしかつめらしく見るのは野暮の骨頂。笑いながら楽しまなくっちゃ。その意味では、ちょっとぐらい傷があってもブラボーが飛ぶ舞台の方が私は好きです。

 音楽全体を見ても、好き嫌いを別にすれば、粒のそろった演奏だったと思います。歌手が総じて重量級で、お互いがっぷり4つに組み合うので、それぞれ迫力があるのですね。主要歌手は、皆息を長く使って歌い、しっかり歌いきるので聴いていて気持ちがいいです。技術的にも高レベルの人が多く、アジリダなどの取り扱いも流石です。前半を聴いて、このように非常に感心していたのですが、次第に私は、「セヴィリア」がこれでいいのかしら?と段々思わずにはいられなくなりました。

 何故そう思うのか?まず、音楽がやや重めです。シラクーザのアルマヴィーヴァ伯爵が一つの典型です。登場のアリア「空はばら色に微笑み」は、声がまともに出ていなかったので置いておくとしても、フィナーレのアリアは、細かいところまでケアした行き届いたもので、歌唱自身は感心したのですが、声が重い。これは高い音が出ないという意味ではなくて、声質に軽さを感じられない、ということです。私はアルマヴィーヴァ伯爵は典型的なレッジェーロ・テノールに歌って欲しいと思うのですが、今回のシラクーザは、良く言ってもリリコ・レッジェーロの声です。この声の重さでは、ロッシーニの溢れんばかりの推進力や軽味は表現出来ないように思うのです。

 ロジーナも同様です。今回ロジーナを歌ったジョイス・ディドナートは先月ニューヨークで「Dead Man Walking」を聴いたとき、主演のシスター・ヘレン・プレジーンを歌った方です。低音の深みに特徴のある方で、かつ技術も正確で、「Dead Man Walking」を歌うとき、彼女のその魅力を最高に示すことが出来たのではないか、と考えています。逆に、彼女の低音の魅力は、ロジーナを歌うとき、ロジーナの若さを象徴するような推進力にブレーキをかけているのではないか、と云う気がしました。もちろん正確な歌で、メリハリもあり、魅力的ではあるのですが、一方でドラマティックな歌になってしまい、ロジーナのしたたかさが強調されてすぎていたように思うのです。

 低音の3男声も、皆一寸重めのイメージです。フィガロは動きが軽快で、くすぐりも出、「何でも屋の歌」などは良かったと思うのですが、伯爵との二重唱「金を見れば知恵が湧く」は、やっぱり重くて、言葉のキャッチボールに軽快さを感じることはできませんでした。ドン・バジリオの「陰口はそよ風のように」は実に名唱で、実力がはっきりと示された良いものだったのですが、彼もアンサンブルに絡むとあまりパッとしないのです。バルトロは、ブッフォとしていい味を出していました。日本語で「何」と聞いてみたり、アドリブもあって良かったと思います。

 結局のところ、ソロでアリアを歌う分には、そういう歌い方に対する好悪はあるにしても、皆さん大したものでした。でもアンサンブルになると、精彩さを欠いてしまうのです。前述の「金を見れば知恵が湧く」もそうですし、第1幕フィナーレの六重唱も何か歯切れが悪いのです。第2幕の五重唱もいまひとつの様に思いました。

 私は、もっと軽快な演奏をしていただいて、軽めの「セヴィリアの理髪師」にしていただいた方が、スピードがでて、重唱のアンサンブルももっと乗れたのではないかという気がしています。そういう意味において、歌手におもねり過ぎたピロッリの指揮はあまり良くないということなのかも知れません。

 演出は、98年以来のもの。でも、今回も若干手を入れているようで、細かいところが変わっているように思いました。粟国のストップモーションを多用するやり方は、いつものことです。このやり方に退屈を感じる方もいるようですが、私は気に入っています。

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鑑賞日:2002年11月7日
入場料:4050円、1F 37列13番

東京フィルハーモニー交響楽団第667回定期演奏会
平成14年度文化庁芸術団体重点支援事業

字幕付原語(イタリア語)上演/演奏会形式
モーツァルト作曲「イドメネオ」K.366(Idomeneo, re di Creta)
台本:A.ヴァレスコ

会場 オーチャード・ホール

指 揮:沼尻竜典  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱:東京オペラシンガーズ  
構成・字幕:大橋マリ  美術:牧野良三
照 明:中山安孝  舞台監督:岸本多加志

出 演

イドメネオ 福井 敬
イダマンテ 吉田 浩之
イリア 幸田 浩子
エレットラ 緑川 まり
アルバーチェ 萩原 潤
神官 真野 郁夫
海神の声 成田 真

感想

 モーツァルトのオペラ・セリアを実演で初めて聴きました。それなりに教えられる演奏で、悪くはなかったと思うのですが、でも「あなたは、この演奏を楽しみましたか?」と訊かれると、一寸困ります。正直に申し上げれば、カタルシスのない演奏で、胸のもやもやが消えない演奏だった、と申し上げてよいかもしれません。

 指揮者の沼尻竜典は、演奏を通じて、モーツァルトのオペラ・セリアの典型を示したかったのではないかと思います。ロココ風の軽やかさがあってかつ美しいプロポーションを示すような演奏が、かれの目標ではなかったか、とおもいます。そのために、彼は何をしたか。まず、弦の構成を10-8-6-4-2と最低の数にし、そのメンバーを首席奏者、次席奏者クラスの方で固めました。例えば、第一ヴァイオリンは、コンサートマスターが荒井さんですが、隣に青木、二列目に三浦と東フィルでコンサートマスターの称号を持つ3人のヴァイオリニストを並べています。4人のチェロは、全て次席奏者以上です。このような手だれの奏者を小人数集めて演奏すると、精妙で粒の揃った演奏になることが期待出来ます。

 この作戦は、成功したと思います。東フィルとしては珍しいほど音の粒が揃っておりましたし、精妙で、十分とは申しませんが、ある程度の軽やかさも身にまとっておりました。オケの構成を小さくしたせいか、声楽陣とのバランスも良く、歌手の位置をステージの後方に持ってきたにもかかわらず、歌の聴き辛さもなく結構だったと思います。オーケストラは歌手の付けも悪くなかったのですが、間奏曲のように、歌手が関与しない曲の方がより良かったように思います。

 でも、そこまでの演奏でした。モーツァルトの音楽が本質的に持つ愉悦感、のようなものがあまり感じられない演奏でした。そとに広がっていこうとする自発的な力がはっきりしない演奏であった、と申し上げてもよいかもしれません。歌手の方に対しても、同様のことがいえるように思います。主要4役を歌われた方は、皆実力者ですから、うまくがっぷり4つに組めば、かなり迫力のある歌が聞えると思うのですが、歌もまた精妙主義で、きちんと歌ってはいるのですが、そちらに気を取られすぎているようで、今一つ生気が乏しい感じがいたしました。

 こう思うのは、モーツァルトの声の配分にもあるのだろうな、と思います。主要4役がソプラノ、ソプラノ、テノール、テノールですから、それぞれの個性をきっちり示さないことには、オペラのダイナミックスが潰れてしまいます。今回の4人の歌手はそれぞれ違ったタイプの歌手ですが、吉田、福井のバランスが今一つ良くない。私は、吉田の声を基準に考えるなら、福井の歌はもっと重くあって欲しいし、福井の歌を基準に考えるならば、吉田の歌がもっと軽くなければならないと思うのですね。モーツァルトのロココ的軽やかさを強調したいのであれば、吉田よりも軽い声のイダマンテを選ぶべきだったと思います。女声の選択もあったでしょう。

 歌手の寸評。

 福井敬。総じて好調。流石です。主要役では一番の低音を歌っているのですが、そのベースの作り方が巧いので、他の方々も安心して行ける、という感じです。

 幸田浩子。声が素直で、技巧があまり表に出てこない方です。音程などしっかりしていてとても上手な方なのですが、けれんがなさ過ぎて聴き手が退屈します。なんとも歯痒い限りです。

 吉田浩之。水準以上の歌唱でしたが、私は今回の4人の主要歌手の中では、一番評価出来ないと考えています。音程が一寸不正確だったのと、他の歌手とのバランスが今一つ宜しくないのです。

 緑川まり。私はこの方のことを従来からあまり上手な方だとは思っていませんでしたし、今回の歌唱も、いくつか細かい問題があって、決して手放しで誉めるつもりはありませんが、沼尻路線から唯一外れて、ドラマティックな二つのアリアを聴かせてくれました。第3幕のアリア、技巧面では一寸気になる所もあったのですが、あの枠を突き破らんか、とする勢いは十分にブラバを差し上げましょう。

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鑑賞日:2002年11月21日
入場料:5000円、自由席

高橋薫子ソプラノリサイタル

主催:高橋薫子後援会 後援:(財)日本オペラ振興会藤原歌劇団

会場 サントリーホール・小ホール

ピアノ伴奏:河原忠之

プログラム

デッラックア ヴィラネル Villanelle
フォーレ 月の光 Op.46-2 Clair du lune
夢のあとに Op.7-1 Apres un reve
牢獄 Op.33-1 Prison
オーバード Op.6-1 Aubade
ヴォカリーズ Vocalise
蝶と花 Op.1-1 Le papillon et la fleur
休憩
プーランク 字幕付原語(フランス語)上演
歌劇「声」
La Voix Humanie

感想

 高橋薫子は現在旬のソプラノで、リリコ・レジェーロとしては、現在日本で最も実力がある人であることは、衆目の一致するところです。それは例えば、主要役を外人で固めることの多い新国立劇場や藤原歌劇団で、主役級の役柄を歌っていることからも明らかです。また、主要役だけで見れば、日本人歌手で一番新国立劇場オペラ劇場の舞台に立っている方だ、と申し上げれば、その実力は自ずと明らかでしょう。

 そういう方が、これまであまり取り上げてこなかったフランスものだけでリサイタルを開く。これは果敢なるチャレンジです。その意気やよし、と申し上げます。そして、その成果は歌い手にとってもあったのでしょうが、聴き手にとってもあったと申し上げることができると思います。ピアノ伴奏もよく、トータルで見れば、良い演奏会でした。満足しています。

 最初の「ヴィラネル」は、高橋の18番でしばしば歌っており、私も三回ぐらいは聴いております。今回はフランスもののチャレンジということで、景気付けに最初に持ってきたのだ思いますが、はっきり申し上げて、ハイレベルではありましたが、これまで聴いた中で一番完成度の低い「ヴィラネル」でした。最高音が割れておりましたし、低いところでもコントロールに甘いところがあったように思います。後でお話を伺ったところ、風邪が完全に抜けていなかったということで、そうした状況であれだけの歌を歌ってしまうのは大したものであります。

 フォーレは、個々の歌に関しては細かい問題はあるにしても概ね良好でした。一番良かったのは、「夢のあとに」。ソプラノが歌うのは珍しいと思うのですが(私にはチェロの小品というイメージが強い)、しっとりとした情感の出し方が抜群で、本日のベストでした。ちょっとしたところの抜けのニュアンスなどにとりわけ素晴らしいところがありました。次に良かったのが「ヴォカリーズ」。歌いだしは、一寸曲に乗り切れていなかったのですが、後半は抜群。高橋の声の魅力を堪能させてくれました。「月の光」、「オーバード」、「蝶と花」は、一瞬の細かいざらつき等はあったのですが、きちっとまとめたという印象でよいものでした。一番買えないのが、「牢獄」でした。

 ただ私には、このフォーレがよくわかりませんでした。単なるフォーレ名曲集、ということで難しいことを考える必要はないのかもしれません。でも何故この6曲を選び、何故このような順番で聴かせようとしたのか、当然演奏者の意図がある筈です。しかし、そこが私の稚拙な耳には聞こえてこないのです。聴衆は、この6曲を一まとめと考え、拍手を最後にしていましたが、私は、曲と曲との有機的繋がりが見えてこないので、どうしても散漫な印象になり、曲毎ではなく最後だけ拍手をする必要があるのか、結局分りませんでした。

 後半のモノオペラ「声」は、高橋が本年九月に東京室内歌劇場の公演で歌ったものの再演です。九月の公演も聴きましたが、そのときと比べると演技など細かいところが相当ブラッシュアップされて、出来の良いものになっていました。九月の公演でも歌それ自身は素晴らしいものがあったのですが、演技にぎこちないところが多く、またフランス語がフランス語に聞こえてこないところもあり、「歌劇」として見た場合、課題の残る物であったことは否めませんでした。それから2箇月経ち、更に彼女の検討・練習があったのでしょう。高橋の歌自体は流石に素晴らしいものであり、更に九月に感じた問題点の多くは解決されており、劇的真実と音楽的真実が重なるようになってきて、こなれた公演になりました。私はニ度聴けて本当によかったと思っています。

 でも100%満足か?と問われれば、ウームと考え込まざるをえません。この作品の持つ構造的な問題として、電話の向こうにいる「男」の顔が見えてこない、ということがあります。この「女」は、かつて五年間一緒に暮らした「男」に3日前に別れ話を持ち出されています。「女」の方はまだ男を深く彼を愛しているのに何故別れることになったのか、といった話はオペラの中には一切出て来ません。ただ、そういう説明が電話の喋りから分るだけです。ですから、歌い手は、相手の男のイメージを自分の歌でどう見せていくのか、というのが一つの課題だと思います。その辺が明確になった上演例があるのかと言われると、無いのかもしれないので半分言いがかりののようなものですが、その辺りが見えてこない演奏だったとは思います。

 私は、高橋薫子がモーツァルトやベル・カント・オペラのリリコ・レジェーロ役を歌うとき、世界中の何処の歌劇場であっても十分出演可能な実力の持ち主であると評価しています。しかし、「声」に関して言えば、前回よりずっと良くなったし、更によくなる可能性は秘めているけれども、彼女の最良の面を出しているとは思えない、というのが結論的印象です。彼女は、自分の幅を広げたい、自分のレパートリーを広げたいと思って、今回のようなプログラムを考えたとは思いますが、彼女の長所を育てながらレパートリーを広げるとするならば、もっと別の方向があるような気がいたします。更なる精進を期待したいと思います。

 最後になりますが、河原さんの伴奏は非常に優れたものでした。

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観劇日:2002年11月22日
入場料:B席 9000円 4F C2列9番

二期会創立50周年記念公演
平成14年度文化庁芸術団体重点支援事業

オペラ3幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲「椿姫」
(La Traviata)
原作 アレキサンドル・デュマ・フィス
脚本 フランチェスカ・マリア・ピアーヴェ

会場 東京文化会館大ホール

指揮:オンドレイ・レナルト  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:二期会合唱団  合唱指揮:大島義彰

演出:栗山昌良  舞台美術:石黒紀夫
衣装:岸井克己  照明:沢田祐二
舞台設計:荒田良  振付:小井戸秀宅
舞台監督:菅原多敢弘

出演者

ヴィオレッタ  :澤畑 恵美
アルフレード  :藤川 泰彰
ジェルモン   :直野 資
フローラ    :宮崎 晶子
ガストン子爵  :加茂下 稔
ドゥフォール男爵:松尾 健市
ドビニー侯爵  :谷  茂樹
医師グランヴィル:島田 啓介
アンニ−ナ   :岩森 美里
ジュゼッペ   :伊藤 俊三
使者      :浜田 和彦
召使い     :福王寺剛有

感想

 私にとって、ことし三度目の椿姫でした。そして、明らかに一番感動出来なかった椿姫でした。わざわざ当日券9000円を買って聴いたのに、いやになります。そして、問題は、私の見るところキャスティングを含めた制作全般にあります。とにかくあちらこちらが安っぽいのです。舞台装置が、ということではありません。例えば合唱の質とかそういうところです。そのうえ、大してよくもないアリアに拍手するサクラのような観客にも問題があります。オペラがスタッフ・キャストの総合力を問われる場とすれば、総合力が発揮出来なかった舞台だったと言うべきでしょう。

 オンドレイ・レナルトの指揮、東フィルの演奏は、どちらかと言うと中庸なもので、取りたてて問題は無いように聴きました。前奏曲や第3幕への前奏曲の演奏は、遅いめでじっくりとオケを鳴らしていましたが、オペラの方はやや速めのテンポで快調に飛ばしていました。レナルトは、オペラの指揮者として経験豊富な方だそうですが、音楽の持っていき方を見ていて、なるほどなと思いました。少なくとも九月の新国の音楽の作りよりはよかったです。栗山昌良の演出は、93年に使用したものと原則は同様の様です。新しさは感じられませんでしたが、オーソドックスでそれなりによかったと申し上げておきましょう。

 歌手でまず第一に褒めるべきは、タイトル役の澤畑恵美です。彼女のヴィオレッタはよく練習されており、細々したところまで気持ちの行き届いた素晴らしいものでした。立ち上がりは、声が飛んでこないきらいがあったのですが、直ぐに建てなおし、「ああそは彼の人か〜花から花へ」は、音程が正確で、表情も豊か、そして、澤畑の個性も見えるという絶妙のものでした。文句なしです。アリアは全て素晴らしく、「さようなら、過ぎ去った日々」も抜群でした。しかし、彼女は「乾いた」ヴィオレッタで、正確で確実な歌唱をするのですが、今一つ情感不足でした。その例が、ニ幕1場のジェルモンとの二重唱です。あの部分は、ジェルモンもヴィオレッタも唯歌っている、というだけで(もちろん正確ですよ)、ヴィオレッタの悲しみが出てこないのです。私には、そこが不満でした。

 直野資のジェルモンもまた良かったと思います。声はよく出ておりましたし、表現力もありました。流石に日本を代表するバリトンです。「プロヴァンスの海と陸」の説得力は抜群でした。ただ、歌い方に妙な癖があります。また、前述の第二幕第一場のヴィオレッタとの二重唱での説得力は今一つです。その意味で、1月の藤原歌劇団の堀内康雄のジェルモンより、落ちると申し上げざるを得ません。

 実を申しますと、私は、椿姫の一番の聴きどころは、この二重唱だと思っています。ここが上手く行かないと、全体が締まらなくなる。その意味では、二人の演奏に物足りなさを感じたことが、全体の感想に影響している可能性はあります。

 とはいえ、この両者は十分合格点の歌を歌っておりました。あれだけ歌っていて、更に文句をつけるとすれば、聴きての傲慢でしょう。私は満足です。しかし、それ以外の歌い手で、私が満足したのは、アンニーナを歌った岩森美里など一部の脇役だけです。アルフレードも、フローラも、男声の貴族方も、合唱も満足行くレベルではありませんでした。

 アルフレードの藤川泰彰は、いい声をしていることを認めるに吝かではないのですが、何せ声が出ない。「乾杯の歌」にも輝かしさを感じることが出来なかったし、それ以外の歌唱でも、声がはっきり聞えないか、あるいは無理をして歌っていることが直ぐ分るような歌唱でした。なぜ、この程度のテノールをアルフレード役に持ってきたのか私には分りません。いつもいつも福井敬というわけには行かないことは分りますが、二期会には他にもっと歌える若手テノールはいなかったのでしょうか?

 声が出ていないという点ではフローラや一部貴族たちも同じ。もう惨憺たるものです。藤原歌劇団で「椿姫」を聴くと、この辺りの歌手が非常に充実しているのですが、今回の二期会公演は、残念ながら、脇役に人を得られていないと申し上げましょう。合唱も今ひとつです。合唱は良い部分ももちろんあるのですが、例えば、ジプシーの合唱(第二幕第二場)の様に、十分練習されていない歌を聴かされるところも少なくありませんでしたた。

 アンニーナは岩森美里の責任ではないですが、メゾソプラノが歌うとヴィオレッタより年寄りの女中に聞こえます。小間使いというイメージではなくなりますが、彼女の歌はよかったです。

 とにかく、幾ら「椿姫」がプリマドンナオペラとはいえ、それなりの水準で演奏する気があるならば、脇役等ももっと気を使うべきでしょう。ヒロインが幾ら良くても、オペラがよいということにはなりません。二期会の制作の実力を疑わせるような凡演でした。

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観劇日:2002年11月30日
入場料:D席 5670円 4F 1列43番

新国立劇場主催

オペラ4幕、字幕付原語(イタリア語)上演
ヴェルディ作曲「イル・トロヴァトーレ」
台本 サルヴァトーレ・カンマラーノ

会場 新国立劇場オペラ劇場

指揮:ジュリアーノ・カレッラ  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
合唱:新国立劇場合唱団/藤原歌劇団合唱部  合唱指揮:三澤洋史
字幕:杉 理一  舞台監督:大仁田雅彦
演出:アルベルト・ファッシーニ  装置・衣装:ウィリアム・オルランディ
照明:磯野 睦  振付:マルタ・フェッリ  

出演者

レオノーラ アマリッリ・ニッツァ
マンリーコ アントニーノ・インテリザーノ
ルーナ伯爵 谷 友博
アズチェーナ アンナ・マリア・キウリ
フェルナンド 彭 康亮
イネス 秋山 雪美
ルイス 樋口 達哉
老ジプシー タン・ジュンボ
使者 渡辺 文智

感想
 
ネットの好い所の一つは、情報が速いことが上げられます。オペラだと公演初日が終ると、早速批評がどこかの掲示板に載ります。これは結構なことなのですが、これからその上演を聴きに行こうとする人間にとっては、無心では聴けなくなります。好い評価の時は、聴きに行く日が待ち遠しくなりますし、悪い評価の時は、切符を買って失敗したかな、という後悔の念が生じます。今回の新国立劇場「イル・トロヴァトーレ」は、いくつかのオペラ掲示板で悉くこき下ろされておりました。私としては悪くても我慢しようと、気持は武装して出掛けたのですが、やっぱり今回の上演は低レベルで、十分楽しめるものではありませんでした。演出は2001年1月の公演を見ておりますので、最初から期待しておりませんでしたが、もう少し手直しをすべきではなかったか、と思います。それでもオペラは歌が命です。殊に「トロヴァトーレ」のような声の競演を楽しむ作品は、歌さえよければ、後は何が無くても感動できると思います。逆に歌がダメな時はもうどうしようもありません。今回の上演はその「どうしようもない」上演でしょう。

 少なくともテノールとソプラノは文句なしの落第点です。追試で救うのも無理でしょう。こんなレヴェルの歌手を何処から見つけてきたのか、と言いたくなります。私は劇場で「ブー」は飛ばさないことにしているのですが、飛ばしたい衝動を抑えるのに苦労いたしました。

 ニッツァは、彼女の考えるレオノーラ像があって、それに即して歌っているというのは分るのですが、それを支えるだけの技術が欠落しています。高音が響かないのは仕方がないにしても、中音にも中高音にもこちらを圧倒する熱がなく、華が感じられません。もう一つ言えば、全体に音程のとり方が低めでオーケストラと声の高さが合わないので、和音が不協和音になってしまっています。高音部では、僅かにずり上げをやり、そこも気になります。また、「静かな夜」におけるカヴァレッタの様な速いパッセージを歌う技術も乏しく、こういう歌手を連れてくる新国の見識を疑います。「The Atre」9月号の彼女のインタビューを読むと、レオノーラは舞台初挑戦だそうですが、もしそうであるなら、もっと謙虚に、もう少しまわりを見て歌っていただきたいところです。

 インテリザーノは更に酷い。声は全然出ていないし、音程は狂っているし。私は、「ドレミファソラシと一回歌ってみて!」と突っ込みたくなりました。声は好い声で、艶もあるし、素質はあるのでしょうが、音楽的実力はいかがなものでしょう。第3幕のアリアはカヴァティーナの部分はまだ聴けるのですが、カヴァレッタは全然お話になりません。ルーナ伯爵と対峙しても、ルーナが立派でマンリーコが全然だめなので、レオノーラが何故マンリーコに惹かれるのか分りません。音楽的リアリティが全く感じられないのです。とにかくこんなテノールにマンリーコを歌わせるぐらいなら、歌う機会の少ない日本人歌手にチャンスを与えて欲しいです。

 この二人と比較すると谷友博のルーナ伯爵は立派です。声がよく響き、端正な歌唱で良かったと思います。ただ、どんな所でも割と一本調子で、バリトンとしての歌の上手さは十分堪能いたしましたが、ルーナ伯爵という役柄の心情表現という意味では、更に一段の研究の余地あり、と見ました。

 アズチェーナのキウリが今回の最大の収穫でした。老婆というより若い雰囲気でしたが、歌も割と若々しい感じで、アズチェーナのスタイルとして疑問をもたれる方もいると思うのですが、歌唱が丁寧で、音の一つ一つがクリアな所、また、高音・低音ともにメリハリのついている所、実に結構でした。艶っぽい声もアズチェーナのスタイルとは必ずしも合致しないのかも知れませんが、私は気に入りました。第2幕の「炎は燃えて」も良かったし、第3幕の伯爵、フェルランドとの三重唱も良かったです。特に第3幕第1場は、ソプラノとテノールが登場しないので、音楽的には今回の公演の白眉でした。実力のある歌手ががっぷり四つに組んだ時の楽しみを感じることが出来て良かったです。

 フェルランドの彭康亮は、冒頭のアリアで思いっきり外し、大きく減点。秋山雪美のイネス、樋口達哉のルイスはそれなりに良かったと思います。

 指揮者のカレッラは、巷間の不評ほどには悪くありませんでした。勿論よくもないのですが。全般的に非常に速いペースで飛ばし、5分遅れで開演したにもかかわらず、終演時間が予定通り、という離れ業を演じました。しかし、それがオペラ全体に与える影響という点で見ると、あまり明確ではなかったです。曲のスピードがオペラの推進力に転化されていないように思いました。一緒に行った家人は、「カラオケのような指揮をする人だ」と申しておりましたが、これは言い得て妙。アリアになると歌手のテンポに合わせて、オーケストラのスピードをセーヴし、アンサンブルの部分ではスピードを速める。そんな風で、自分の音楽的主張が見えない。そんな振り方をされながらも、東フィルが大きく破綻しなかったのは、この指揮者のやり方に対する慣れと、東フィル自体の実力の向上、ということなのでしょう。 

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観劇日:2002年12月13日
入場料:E席 2885円 4F 3列23番

新国立劇場/二期会オペラ振興会主催

オペラ プロローグ付1幕、字幕付原語(ドイツ語)上演
リヒャルト・シュトラウス作曲「ナクソス島のアリアドネ」
台本 フーゴ・フォン・ホフマンスタール

会場 新国立劇場オペラ劇場

指揮:児玉宏  管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
演出:ハンス=ペーター・レーマン  美術・衣装:オラフ・ツォンベック
舞台監督:大澤裕  

出演者

幹事長(台詞役) 米谷 毅彦
音楽教師 黒田 博
作曲家 白土 理香
テノール歌手/バッカス 成田 勝美
士官 谷川 佳幸
舞踏教師 経種 廉彦
かつら師 安藤 常光
召使 畠山 茂
ツェルビネッタ 幸田 浩子
プリマドンナ/アリアドネ 岩永 圭子
ハルレキン 北村 哲朗
スカラムッチョ 望月 哲也
トルファルデン 鹿野 由之
プリゲルラ 岡本 泰寛
ナヤーデ 若槻 量子
ドリアーデ 井坂 恵
エコー 田島 茂代

感想
 
ナクソス島のアリアドネは、私がオペラを聴き始めた頃から愛好していた作品の一つだったのですが、何故か実演経験に恵まれず、今回ようやく生の舞台を見ることができました。長年の夢がかなって、とても嬉しく思っています。そのうえ、演奏もなかなかよく、満足して帰って参りました。色々な意味で傷もあったのですが、全体として見た場合、高レベルの演奏だったと思います。

 その貢献者としてまず児玉宏を上げるべきでしょう。彼は、本年5月「サロメ」で初めて新国に登場し、一部で高い評価を得ました。実を申せば、私はあまりピンとこなかったのですが、今回はあのサロメからみれば、ずっと私の趣味にあった演奏をしてくれました。音の出し方が実にいいのです。この作品の持つ深刻な雰囲気と、それを笑い飛ばす馬鹿馬鹿しい雰囲気とがうまくない交ぜになってくれて、全体の枠組がしっかりしていながら中身は柔軟な演奏になっておりました。迎え撃つ東フィルも36人の小編成と云うこともあってか、いつもの東フィルと比較すると、明らかに精度の高い演奏をしておりました。この作品のベースをきちっと作ったという意味で大変結構ではなかったかと思います。

 歌手で褒めるべきは、プロローグでは音楽教師の黒田博と作曲家の白土理香。オペラではツェルビネッタの幸田浩子でした。

 黒田は、特別に目立つような歌がある訳ではない役を演じながら、音楽教師の誠実な雰囲気を上手く出しておりよかったです。声の出し方が自然で、調整役としての困惑ぶりがわかるのです。白土がズボン役を歌うのを見るのは初めてでしたが、彼女も大変よい歌唱でした。演技は結構大根で、ツェルビネッタに誘惑されて自分の作品をカットすることに同意する所の演技などは、何とも真実味の乏しいものでしたが、聴こえてくる歌は、青年音楽家の苦悩と感情の高ぶりがよく示されていて、素晴らしかったと思います。

 黒田・白土共になのですが、声の伸びがそこそこあって、細かい感情表現をするニュアンスを示し得たこと、またよく練習してあって、オーケストラの進行と声が調和しており、音楽の進行に一体感があったこともこの両名の御手柄と申し上げます。

 プロローグの登場人物では、米谷毅彦の台詞役ながらの存在感。大して歌うところがないから当然なのですが、主役級の時になるとすぐに向きになった歌い方で様式を崩してしまいがちな経種が、軽めの舞踏教師を演じて良好。ツェルビネッタと4人の道化は、後半の輝きを垣間見せるものでしたが、セーヴしていたというところでしょうか。

 「オペラ」の部分でまず指を折るべきは幸田でしょう。全体にコケティッシュな雰囲気がよく、お色気が醸し出されていた所がまず良かった。もちろん歌も抜群。本日の歌のベストは彼女に他なりません。「偉大なる王女様」は、ほぼ完璧といってよい内容でした。歌い初めは一寸緊張していた感じでしたが、どんどん自在になって来、コロラトゥーラの技術も抜群でした。聴いていてとても気持ちがいい。惜しむらくはこの自在さが歌いはじめからは認められなかったこと、並びにピアノの表現にバラツキがあったことです。それでも95点は文句なしに差し上げられる名唱でした。私は今年の日本人歌手No.1を誰にしようかと迷っていたのですが、この歌のみで幸田にすることにいたしました。

 4人の道化役もなかなか好演でした。特に岡本泰寛のプリゲルラに魅力がありました。また4人のアンサンブルは、お互い上手くコントロールし合って見事でした。三人のニンフ達も良かったです。ナヤーデの若槻量子、ドリアーデの井坂恵、共にその自然な歌いっぷりが魅力的でした。

 一方駄目だったのは、成田勝美のテノール歌手/バッカスと、岩永圭子のプリマドンナ/アリアドネです。成田はかつては日本を代表するヘルデン・テノールだったわけですが、もう過去の人のようです。表現は単調だし、音は落ちるし、激しいブーを浴びましたが、あの歌ではいかんともしがたい。岩永はしょっちゅう落ちる。あんなに落していいのか?と突っ込みたくなる位の落ちぶり。スピントソプラノの魅力を示した力強い高音もあるのですが、弱音に全く魅力がないので、全体として見た場合、歌に綾がなくて野暮なのです。演技も大根。誰かが「丸太棒のような歌」と言っておりましたが、言い得て妙。ツェルビネッタが退場してからの最後の20分間は、大声は聞えて来るのですが、ハッとさせられるものがないので、眠くて仕方がありませんでした。

 本日の結論は、意識をもってよく練習した人とそうではなく無意識に歌った人の差が出たということだと思います。最近若い歌手の実力がどんどん上がってきていますから、かつての名前はもう評価の対象にはならないと言うことなのでしょう。舞台にで立つ以上、どう聴かせるかという戦略と、それだけの技術があるかどうかをどの歌手にも考えて登場していただきたいと思いました。

 演出・舞台はハノーファー州立歌劇場のプロダクションのようですが、判り易くそれなりに良いものだったとおもいます。

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