NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2004年(後半)

目次

2004年 9月18日 第1520回定期演奏会 ネッロ・サンティ指揮
2004年 9月24日 第1521回定期演奏会 ネッロ・サンティ指揮
2004年10月15日 第1523回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮
2004年10月23日 第1524回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ/堀正文指揮
2004年11月13日 第1526回定期演奏会 ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮
2004年11月19日 第1527回定期演奏会 ファビオ・ルイージ指揮
2004年12月 4日 第1529回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2004年12月18日 第1531回定期演奏会 ルドルフ・バルシャイ指揮

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2004年 9月18日 第1520回定期演奏会
指揮:
ネッロ・サンティ

曲目: ロッシーニ   歌劇「ウィリアム・テル」序曲 
       
  モーツァルト   交響曲第35番ニ短調 K.385「ハフナー」
       
  ドヴォルザーク   交響曲第9番ホ短調 作品95「新世界から」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:池松、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:松ア、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保

弦の構成:16型(モーツァルトは12-10-8-6-5)

感想
 
サンティのイタリアオペラは定評のあるところです。残念なことに、私は彼がオケピットで振ったのを聴いたことがないのですが、それは多分素晴らしいものだろうと思います。その片鱗を窺わせたのが、2001年11月N響に客演した時の「ヴェルディ」の夕べ。これは実に魅力的な演奏会でした。昨年のヴェルディの「レクイエム」も非常に素晴らしい演奏で、感動に胸震わせた記憶があります。そういうサンティが、「普通」のコンサートでどういう感動を与えてくれるのか、楽しみに出かけました。

 9月の定期公演をサンティが全部振るのですが、それぞれにロッシーニの歌劇の序曲を加えているのが目につきます。Bプロでは「セミラーミデ」、Cプロでは「シンデレラ」、そして本日のAプロでは「ウィリアム・テル」序曲。この「ウィリアム・テル」序曲の演奏は、実に素晴らしく、本日の演奏の白眉ともいうべきものでした。オーケストラの歌わせ方が実に自然で、それでいながらつぼを押えて決めて見せる所など、「大家の芸」と言うべきでしょう。じっくりとした姿勢から紡ぎ出される音楽は、これぞイタ・オペとも言うべきもので、開幕ヘの期待が高まります。序曲が終るとおしまい、というのは何とも殺生な話です。このまま続けて「ウィリアム・テル」を聴きたいと思った方は私だけではないでしょう。神田さんのフルート、池田さんのイングリッシュホルンが素晴らしかったことも付記しておきましょう。

 ハフナー交響曲も中々の好演。じっくりとオーケストラを歌わせながら進む所は、今風のモーツァルト演奏とは一線を画するもので、二世代ぐらい前に良く演奏されていたスタイルだと思うのですが、サンティが振るとそれが説得力を持ちます。細かいところもゆるがせにしないで、音楽を組んで行く様子は素敵です。全体的にゆったりとした、表情の豊かな音楽で、濃密な時間を保てました。一方で、モーツァルトの音楽にロココ風のかろみを聴きたい方や、「ハフナー」交響曲に「セレナード」との関係を聴きたい人にとっては、一寸重たい演奏だったかもしれません。

 一番好悪が分かれるのは、「新世界交響曲」の演奏だと思います。オーソドックスな「新世界」とはかなり味わいの異なる演奏に仕上てきました。第一楽章は、普通の演奏だったと思うのですが、第2楽章からは相当手を入れてきました。テンポも大胆に動かします。有名な「家路より」のテーマのイングリッシュ・ホルンは、通常の「新世界」よりも速く演奏してきましたが、テーマの演奏が終ると思いっきりリタルダンドをかけてテンポを下げることなどもやって見せました。全般にに休符での音の無い時間が、通常の「新世界」よりも長いように思いました。またリズムのとり方も独特で、普通「タタタターン」となるところが「タンタターン」として演奏させたりもしていました。こういった違いは、楽譜の違いなのか指揮者の趣味の問題なのか良く分りませんが、相当サンティの独自性が入っているように思いました。私の好みと言う点からだけで申し上げれば、「あまり成功ではなかった」、と申し上げて良いと思います。

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2004年 9月24日 第1521回定期演奏会
指揮:
ネッロ・サンティ

曲目: ロッシーニ   歌劇「シンデレラ」序曲 
       
  ハイドン   交響曲第88番ト長調 Hob.T-88「V字」
       
  スメタナ   交響詩「モルダウ」
       
  レスピーギ   交響詩「ローマの松」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:樋口、トランペット:津堅、トロンボーン:池上、チューバ:池田、ハープ:早川、ピアノ:客演、オルガン:客演、チェレスタ:客演、ティンパニ:久保

弦の構成:16型(ロッシーニ/ハイドンは12-10-8-6-5)

感想
 
今回のプログラムは、結構凄いと思います。古典派音楽からロマン的民族主義音楽まで含まれます。それもチェコとイタリア。その幅の広さがサンティの広さなのでしょう。サンティは、この多彩なプログラムを全曲暗譜で指揮してみせました。彼はオペラを暗譜で弾く方ですから、二時間のコンサートプログラムを暗譜でやるくらい当然のことなのかも知れませんが、それだけでも十分驚きます。

 ところで、二週続けてサンティの演奏を聴きましたが、彼は基本的にアンダンテかアダージョの指揮者ですね。颯爽とスポーツカーのような指揮をする方ではなく、フレーズ一つ一つをじっくりと歌わせる。そのため、音楽の構造が容易に見渡せます。そういう指揮をした人で、私が真っ先に思い出すのはスヴェトラーノフですが、スヴェトラーノフとサンティの音楽は相当に違います。そこが、元々イタリアの指揮者とロシアの指揮者との違いかもしれません。

 さて、最初の「チェレネントラ」の序曲ですが、これは実に素晴らしい演奏でした。最初のアダージョが段々盛りあがってアレグロになる様子、ロッシーニ・クレッシェンドの盛りあがり方。こういう演奏を聴くと、サンティの本質がオペラ指揮者であることがよく分ります。それにしてもN響もうまい。小品を上手に弾けるのは、一流オケの証拠だと思います。

 「V字」も中々の秀演。古典的プロポーションを明快に示した演奏と言うよりは、もう少しデフォルメしてグラマナスな演奏に仕上っていたと思います。第一楽章のアレグロは駈け抜けるアレグロではなく、周囲の景色も楽しむようなスピード。第二楽章は、相当に遅目のラルゴ。サンティはこれぞラルゴといった風にたっぷりと歌わせていました。ただ、このペースについていけなかった楽員もいた様で、アインザッツが乱れたところがありました。メヌエットもしっかりした演奏で、古典的雰囲気が感じられました。フィナーレも少しゆっくり目で堂々とした演奏でした。

 「モルダウ」は、描写の上手さで際立っていたと思います。全体的に劇的な表現でまとめたと思いますが、水の音の様子や、渦の様子など川の流れの様子が非常に的確で、立体感の感じられる音楽でした。チェコ人の指揮者で聴くモルダウよりずっと色彩豊かで、輪郭も明確だったように思います。

 「ローマの松」、サンティの描写の上手さを正に見せつけられた演奏でした。基本的に遅目のテンポであることは変らないのですが、4つの情景を上手く対比させて描くところが流石です。「ボルケーゼ庭園の松」における騒々しさ。一転して荘重な雰囲気の「カタコンペ付近の松」、一寸幻想的な「ジャニコロの丘の松」。どれも情景描写が素敵だったと思います。そして、最後の「アッピア街道の松」。この作品の盛上げ方は、ロッシーニ・クレシェンドと同様な感じがしました。最初の静けさがどんどん盛りあがって来ます。フィナーレの打楽器群、ティンパニ、大太鼓のトレモロ、タムタムの連打には迫力を感じました。違った光景に見合った音楽を作り上げて行く所にサンティの真骨頂があるように思いました。

 追記:本日、第二ヴァイオリンのトップを弾いていたのは、コンサートマスターの山口裕之さんでした。又第二ヴァイオリンのエキストラには先日までN響第二ヴァイオリンの首席奏者だった堀江悟さんとOBの板橋健さんが、ヴィオラのエキストラには三原征洋さんが、ホルンのエキストラには山本真さんが入っておられました。

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2004年10月15日 第1523回定期演奏会
指揮:
ウラディーミル・アシュケナージ

曲目: シューマン   ピアノ協奏曲イ短調 作品54 
    ピアノ独奏:エレーヌ・グリモー
       
  R.シュトラウス   アルプス交響曲 作品64

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:川ア、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:客演、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:樋口、トランペット:井川/津堅、トロンボーン:客演、チューバ:多戸、ハープ:早川、オルガン:客演、チェレスタ:客演、ハープ:早川、ティンパニ:植松

弦の構成:16型(協奏曲は14型)

感想
 
N響の新音楽監督アシュケナージの初お目見えということで、NHKホールも相当の混雑でした。それだけ期待されている、ということなのでしょうね。でも、私はアシュケナージ音楽監督という選択に、一抹の不安をいだいております。私は、ピアニストと指揮者は並び立たないのではないか、という気がするのです。ポリーニ、アシュケナージ、バレンボイム、サヴァリッシュと並べるとこの4人はピアノも弾くし指揮もする、という方ですが、ピアノの技術は左から右の順で、指揮は右から左の順と思ってしまうのですね。勿論これは偏見なのですが、私はアシュケナージは超一流のピアニストであって、指揮者としては一流とは言えない、という感覚があります。

 勿論良い演奏さえ聴かせてくれればそれでおしまいです。何もアシュケナージの指揮云々などと申し上げる必要がない。しかし、本日の演奏を聴くとそうはまいりません。彼が指揮活動をはじめた頃、私は中学生か高校生だったと思いますが、そのころ彼の指揮する演奏のレコードを友人から聴かせてもらって、全然感心しなかった記憶があります。本日の演奏は、久々にかつての記憶を呼び起こしました。

 シューマンのピアノ協奏曲は、アシュケナージの持っているこの曲に対するイメージとグリモーの持っているそれとがずれており、それが調和出来なかった演奏のように思いました。ピアニスト・アシュケナージにとって、シューマンは重要なレパートリーの一つですが、彼のシューマンは主知的で解析的な演奏に特徴があるという印象があります。彼のピアノ独奏によるシューマンのピアノ協奏曲の録音も極力エモーショナルな表現を避けた端正なものだったように思います。今回N響に対しても端正で解析的な演奏を求めたように思いました。

 それに対し、グリモーは主情的な演奏を行いたかったようです。全体的にゆっくり目のテンポでロマンティックな表現に心を配っている感じがいたしました。この二つが相乗的に結びつけば素晴らしい演奏になったと思うのですが、残念ながら、お互いにぶつかり合って、双方の良さを潰しあったようでした。彼女はミスタッチも結構あり、アシュケナージの制御から抜け出すほどの個性を発揮できなかったようです。

 アルプス交響曲も納得の行かない演奏でした。まずオーケストラの音がきちんとまとまらない。あれだけ大編成の曲ですから、オーケストラの方向をまとめるのが大変なのは容易に理解出来るところですが、パート間で微妙に音がずれ、調和しない。アシュケナージ自身は、この曲に明確なイメージを持っているようで、暗譜でしたし、指揮姿も間然とする所のないものでしたが、紡ぎ出される音はどうもぼやけてしまいます。アルプス交響曲は典型的な描写音楽なわけですから、とにかくクリアにメリハリさえつけてくれればそれなりに楽しめるとおもうのですが、クリアでもなかったし、メリハリも今一つで、オーケストラのミスも多く、N響でこんなレベルの演奏を聴いたのは、本当に久しぶりでした。

 新音楽監督とオーケストラの関係をこの一回の演奏会で決めるつもりは毛頭ありませんが、前途多難な船出だなと思いました。

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2004年10月23日 第1524回定期演奏会
指揮:
ウラディーミル・アシュケナージ/堀正文

曲目: チャイコフスキー   交響曲第3番ニ長調 作品29「ポーランド」 
       
  チャイコフスキー   交響曲第4番ヘ短調 作品36

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:川ア、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:水谷、ホルン:松ア、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:久保

弦の構成:15-14-12-10-8

感想
 
N響定期公演でアクシデントが起きることはたまにあるのですが、本日のようなアクシデントは初めてでした。まず、新潟の大地震の影響で開始時間が5分遅れ、次には第一曲の演奏中に指揮者のアシュケナージが指揮棒で自分の手を刺すという事故を起こし(指揮棒が手の中に5センチも残ったそうです)、病院に搬送されました。その結果、2曲目チャイコフスキー第4交響曲は、コンサートマスターの堀さんが弾き振り。結果として非常に印象深いコンサートとなりました。

 第1曲目の「ポーランド」は、初めて実演で聴く作品です。これがなかなか印象深い演奏でした。アシュケナージは、前回の「アルプス交響曲」とは異なり、スコアを指揮台においての指揮でしたが、演奏の味わいはこちらが断然上。アシュケナージのロシア民族の血がそうさせるのか、土臭さを感じさせる演奏で、大変結構でした。新潟の地震で演奏中何度も揺れを感じ、決してベストな状況ではなかったのですが、N響は集中力で乗りきったようです。第1楽章の悠然とした響きは、地震のゆれの影響で必ずしも最後まで続かなかったのは一寸残念でしたが、それでも、アシュケナージがロシアの指揮者の系譜にいる人だな、という感覚を持ちました。どっしりとしたいい演奏でした。アシュケナージの怪我はいつ起きたのか分からなかったのですが、フィナーレのポロネーズの演奏の時のようです。しかし、怪我の様子を観客に感じさせることなく最後まで演奏したのは立派でした。

 「題名のない音楽会」のような番組で、「オーケストラに指揮者がいないとどうなるの?」といった子供の質問に答える企画がたまにやりますが、実際に指揮者無しで演奏出来るのは、ハイドンやモーツァルトの交響曲ぐらいまでのようです。世界には指揮者を置かずにコンサートマスターの誘導で演奏する室内オーケストラがいくつかありますし、私もN響のメンバーが指揮者無しでモーツァルトの交響曲を演奏したコンサートを聴いたことがありますが、ロマン派以降の大規模交響曲で指揮者無し、というのは前代未聞です。本日のチャイコフスキー交響曲第4番は、82人で演奏したのですが、これだけの人たちが出す音をまとめる、これは大変なことです。

 でもN響メンバーの技術は大したものだと思います。オーケストラの音楽は、指揮者を見ることと同時に周囲の音楽を聴きながら演奏していくものだとは思いますが、それにしても指揮者がいなければ、合わせるのが大変になるのは言うまでもないでしょう。堀さんは、コンサートマスターのポジションで、ヴァイオリンの弓を指揮棒代わりにして要所要所を振りますが、全てを振るわけではない。それでもN響は、慎重に音を合わせながら集中して一つの音楽を作って行きました。第1楽章は、お互いの音楽を聴きながら組みたてて行くせいか、少々遅いテンポでの慎重な演奏。しかし、とりあえず表面を撫でるだけの演奏に終らず、表情の豊かな演奏になりました。

 第1楽章が終った所で、一部拍手が生じましたが、これは当然と申し上げましょう。第2楽章も濃厚な表情でこくがあり、第3楽章のピチカートは一糸乱れぬ突進。第4楽章のファンファーレからフィナーレに至る盛りあがりも大したものでした。今回チャイコフスキーの第4交響曲は、録音のため普段より数多く練習したことなどもあって、こういう離れ業が出来たのだと思いますが、あのギリギリの状況で、あれだけ聴かせる演奏が出きるというのは、N響の底力、侮り難し、ということだろうと思います。

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2004年11月13日 第1526回定期演奏会
指揮:
ウォルフガング・サヴァリッシュ

曲目: ハイドン   交響曲第35番変ロ長調 Hob.I-35 
       
  ブリテン   ヴァイオリン協奏曲 作品15
      ヴァイオリン独奏:フランク・ペーター・ツィンマーマン
       
  ベートーヴェン   交響曲第7番イ長調 作品92

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:川ア、チェロ:藤森、ベース:池松、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:松ア、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:久保

弦の構成:ハイドン:10-10-8-6-6、それ以外:16型

感想
 
夕方の野暮用が長引いて、NHKホールについたのが6時5分過ぎ、まだ入れてくれるかと思ったら、もうマエストロが出て来ているということで、入場できず。ホールの外でハイドンを聴きました。でも口惜しいですね。サヴァリッシュがハイドンを振るということは、先月の段階でアナウンスが無く、私は本日知りました。それも35番という疾風怒涛期の作品。滅多に聴けるような作品ではありません。確認はしていませんが、N響初演かも知れません。そういう作品の演奏を前にして実演を聴けないというのは、そうとう残念です。勿論、ロビーにスピーカーで音楽を流してはいるのですが、音量を絞っているので、耳を澄ましていても、音がぼやけていて、音楽の本領は分りません。本当に口惜しい思いでした。

 2曲目のブリテンのヴァイオリン協奏曲。完全に初めて聴く作品です。最近は録音も増えてきて陽が当たってきた作品のようですが、正直申し上げると、ブリテンにそんな作品があるとは、ついこの間までは知りませんでした。一寸東洋趣味で、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲との類似性を感じましたが、勿論全く違う作品です。底に流れるものは第二次世界大戦前夜の不安があるようで、メランコリックな印象もありましたが、一方で甘いメロディーや静謐な雰囲気もあって、なかなか一言では表現しがたい作品のように思います。

 ツィンマーマンの演奏は、その静謐と緊張とが交錯する作品を見事な美音のヴァイオリンで演奏してくれました。ツィンマーマンというと私はベートーヴェンの印象が強く、こういう作品の演奏は一寸思いがけないものでした。しかし、演奏は見事なもので、ロマンティックな雰囲気と不安な気持との交錯が、美音でありながら明晰なヴァイオリンで示され、なんとも言えない味わいがありました。N響の伴奏も立派。初めて聴く曲なので、それ以上の感想はないのですが、楽しめました。

 本日の白眉は、ベートーヴェンの7番でした。サヴァリッシュは2001年にもこの曲を取上げていて、そのときの演奏を私は、「中庸な名演」と書きました。本日第一楽章を聴きながら、どこかで聴いたような演奏だな、と思っていたのですが、2001年の演奏を思い出していたのかも知れません。一寸ゆっくりしたテンポで、じっくりと歌わせる所、よく似ていたのではないでしょうか。3年前の主要メンバーを見ると、篠崎コンマス、川ア、藤森、池松、神田、茂木、横川、水谷、松ア、関山といったメンバーです。ほとんどが本日と一緒で、違うのは第二ヴァイオリンとティンパニだけです。ですから、似ているのは当然かもしれませんが、それだけで終らないのがサヴァリッシュ/N響の凄い所かもしれません。

 第一楽章は、上記の通り変化をあまり感じなかったのですが、楽章が進むにつれて、音楽への求心力がどんどん高まって参ります。3年前も決して悪い演奏ではなかったのですが、後半の素晴らしさは、今回が絶対上でしょう。楽員たちが音楽に吸い寄せられて、出てくる音がどんどん生気を増して行きます。こういう演奏はそうは聴けるものではありません。私が実演で聴いた最高のベト7が更新されたと申し上げます。あの終楽章の神懸り的演奏は、信じられない思いでした。オーケストラの演奏を聴きながら涙を流したのはいつ以来でしょう。一寸覚えておりません。正に名演と申し上げます。

 実を申せば、椅子に坐って指揮をするサヴァリッシュを見て、これじゃ通り一遍の演奏で終るのだろうな、と思って聴きはじめたのです。しかし、紡ぎ出される音楽は全然別。N響のメンバーの頑張りも賞賛に値します。特に木管陣。よかったです。サヴァリッシュ/N響のコンビの最高の名演は、これまでは94年のブラームス第4番と申し上げてまいりましたが、本日から2004年11月13日のベト7ということにいたします。

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2004年11月19日 第1527回定期演奏会
指揮:
ファビオ・ルイージ指揮

曲目: ブラームス   ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品77 
      ヴァイオリン独奏:トーマス・ツェートマイアー
       
  レスピーギ   交響詩「ローマの噴水」
       
  ドビュッシー   交響詩「海」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:池松、フルート:中野、オーボエ:客演、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:松ア、トランペット:津堅、コルネット:井川、トロンボーン:吉川、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:ブラームス:14-12-10-8-8、レスピーギ:16型、ドビュッシー:16-14-12-12-8

感想
 
声高な言い方、見かけはかっこ良いかもしれません。でも、それが良いとは限らない。オーケストラの演奏でも同じでしょう。これぞとばかりに鳴らさせる指揮者がいらっしゃいます。そういうスタイルの演奏は、確かにカタルシスもありますし、爽快感もある。でも、指揮者が充実していないと、そのような演奏は、単なるこけおどしで終ってしまうことが少なくありません。

 ファビオ・ルイージは全く逆。極力はったりを避けた真摯な演奏で聴かせてくれました。インパクトは余りありませんでしたが、耳を澄ませて聴くと、その豊かさと滋味が感じられる素敵な演奏でした。二週間連続で、N響の素晴らしい演奏を聴くことが出来て、とても幸せに思います。

 私は、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を、古今東西全てのヴァイオリン協奏曲の中で随一の傑作だと思っております。スケールも大きいですし、ロマンティンクな抒情もある。ロンドもいい。こういう作品は、巨匠型のヴァイオリニストで聴くと映えると思っております。しかし、ツェートマイヤーは、この作品をそういう巨匠型の熱演とは正反対のアプローチで聴かせてくれました。ツェートマイヤーというヴァイオリニスト、見た目は結構いかつい御兄さんですが、紡ぎ出される音は女性的。丁寧に弾いて細かいニュアンスを揺るがせにしないで弾いて行きます。強い音は意識的に出さないようですが、音に芯があるので、へたりません。しかし、きちっと弾き込んでいるので、聴き手にも緊張を強います。しかし、じっくりと聴いていると、このヴァイオリニストのブラームスに対する尊敬が感じられる様で、大変好ましいものでした。リリシズムの勝った演奏で、もう少し下手な奏者がこれをやったら、多分聴けたものではないと思いますが、ツェートマイヤーは実力者と言うことなのでしょう。弛緩することなくフィナーレまで進みました。

 N響の伴奏も非常に抒情的。オーボエのソロが北島さんや茂木さんであればもっと良かったのかもしれないと思いましたが、前半に非常に抑制された演奏で、ヴァイオリンとのマッチングもとてもよかったと思います。ベクトルの方向が一致している演奏の力を強く感じました。

 「ローマの噴水」も非常に抒情的な解釈。普通は、もっと金管を吠えさせて派手にまとめるような作品だと思いますが、ルイージは、細かいニュアンスを大事にする方針を変えないようでした。典型的な風景描写音楽ですから、音のダイナミクスを利用してもよいのでしょうが、ルイージは、そうはしませんでした。よく聴いていないと単に流されてしまいそうな演奏ですが、丁寧に細かい表現を演奏することにより、作品表現の密度が上がり、実に聴きごたえがありました。

 「海」もまた丁寧な演奏。細かいニュアンスをゆるがせにせずに演奏するので、音楽の持つ意味合いや力が、表面に浮かびでます。ルイージの演奏を聴いていると、「海」という作品が、浮世絵に触発されて書かれた作品である、ということや、彼の作品が何故印象派と言われるのかであるのかを考えてしまいます。春の海を象徴するような演奏で、素敵でした。

 3曲ともトーンが同じ演奏で、今回のようなリリックな味わいがルイージの持ち味なのかしら、と思いました。

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2004年12月 4日 第1529回定期演奏会
指揮:
シャルル・デュトワ指揮

曲目: リムスキー=コルサコフ   序曲「ロシアの復活祭」作品36 
       
  ストラヴィンスキー   交響曲 ハ調
       
  チャイコフスキー   ピアノ協奏曲第一番 変ロ長調 作品23
      ピアノ独奏:上原彩子

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:川ア、チェロ:木越、ベース:池松、フルート:中野、オーボエ:茂木、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:樋口、トランペット:栃本、トロンボーン:客演、チューバ:多戸、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:16型、協奏曲:14型

感想
 
N響は機能的なオーケストラなので,どんな指揮者が振られてもそれなりの音楽を作りだしますが、私が一番しっくりと来るのがデュトワとのコンビです。1996年から2003年までのデュトワ時代に、N響/デュトワは一つのスタイルを築きあげました。それを端的に表現すれば,風通しのよい演奏ということではないでしょうか。熱い演奏よりも正確でクリアーな演奏、と言い換えてもよいかもしれません。人によっては「冷たい」演奏と感じるかもしれませんが,この冷静な組みたてこそが彼の真骨頂だと思いますし,大編成の曲を一糸乱れずにドライヴできる能力は,彼の冷静さにあるように思います。

 さて、今回のプログラムは、滅多に聴くことのない二曲と超有名協奏曲との組合せです。

 「ロシアの謝肉祭」は、典型的な描写音楽で、オーケストラの演奏効果も華やかな作品です。こういう作品を演奏させると、デュトワは実に上手です。デュトワ調とでも申し上げましょうか、洒落た演奏で仕上っていました。木管・金管を綺麗に響かせて、音楽の描く情景をくっきりと表現させていきます。トロンボーンによるファンファーレからコンサートマスターのソロへの繋ぎなどは正に絶妙なものでした。

 ストラヴィンスキーのハ調の交響曲は、彼の新古典主義時代の代表作で、音楽史上重要な作品ですが、滅多に演奏される曲ではなく,N響が取上げるのは、私がN響を定期的に聴くようになってからは初めてだと思います。なかなか凝った作りの作品なのですが、盛りあがりの乏しい曲で印象に残り難い。そういう作品をデュトワは、解析的に演奏しました。細かいところもゆるがせにしない、しかしながら全体が見渡せて、遠くまですっきりと眺めそうな演奏でした。デュトワらしい演奏であると思いました。

 本日のメインディッシュがチャイコフスキーのピアノ協奏曲。これもなかなか面白い演奏でした。ソリストの上原彩子は2002年に行われたチャイコフスキー国際コンクールで優勝した方で、チャイコフスキーを得意にしている方なのでしょう。テンポはやや遅目。そのテンポで弾く打鍵は十分強く、響きが重いところに彼女の特徴があるようです。早いパッセージは背中を猫のようにまるめて演奏し、楽譜や指揮者の要求に悠々と答えて、じっくりと丁寧に演奏していました。全体としてずっしりした音楽作りで、ロシアの雰囲気が感じさせられる演奏だったと思います。弾きとばすところが無い丁寧な演奏で,この作品の魅力を上手く示すことに成功しておりました。

 デュトワ/N響の伴奏も立派なもので,第2楽章のフルートのソロや木管が順次つないで行く所などしっとりとした演奏で良かったです。ただ、ピアノからオーケストラに切り替わって入るところのアインザッツが何ヵ所か乱れたところが一寸残念でした。 

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2004年12月18日 第1531回定期演奏会
指揮:
ルドルフ・バルシャイ指揮

曲目: モーツァルト   交響曲第35番ニ短調 K.385「ハフナー」
       
  ストラヴィンスキー   室内オーケストラのための協奏曲「ダンバートン・オークス」
       
  ベートーヴェン   ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
      ヴァイオリン独奏:セルゲイ・ハチャトゥリアン

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:ペーター・ミリング(客演)、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:松崎、トランペット:津堅、ティンパニ:石川

弦の構成:14-12-8-8-4

感想
 
2004年12月度のN響定期公演の指揮者は、名誉音楽監督のデュトワがアナウンスされていたのですが、持病のリューマチの状態がよくなく、BC両プログラムは振ったものの、Aプロは結局キャンセルになりました。また、ヴァイオリンのソリストも最初アナウンスされていたズナイダーがキャンセルし、若手のセルゲイ・ハチャトゥリヤンに変わりました。指揮をしたバルシャイは、たまたま名古屋フィルを指揮するために来日していたところを引張ったようです。

 今回の指揮者選びは、ストラヴィンスキーの「室内オーケストラのための協奏曲」を振れる人とということで人選したものと思いますが,その結果バルシャイに白羽の矢が当たったのでしょう。しかし、バルシャイもヤナーチェクのシンフォニエッタを直ぐ振る訳には行かなかったようで、結局急遽「シンフォニエッタ」が「ハフナー交響曲」に変わったようです。「シンフォニエッタ」は久しぶりなので楽しみにしていたのですが、聴くことが出来ずに残念です。

 ハフナー交響曲は、特別特徴のない演奏でした。9月にサンティが同じ曲を振っていますが,サンティの方がもっと濃密な表現をしたと思います。弦楽器の編成が通常の14型とは異なっておりましたが,この編成の違いが演奏に特別影響を与えたということはなかったと思います。なお、この変更は金曜日に最終決定した様で,楽員は十分に練習出来たとは思えないのですが,普段演奏しなれている曲ということなのでしょう、一歩踏み込んだ表現にはなっていませんでしたが,N響の対応能力の高さと基礎技術レベルの高さを明確に示した演奏だったと思います。

 ストラヴィンスキーの「ダンバートン・オークス」ははじめて聴く作品。ヴァイオリン3(ミリング、田中、山口)、ヴィオラ3(店村、小野(富)、坂口)、チェロ2(藤森、藤村)、コントラバス2(西田、池松)、フルート(中野)、クラリネット(磯部)、ファゴット(岡崎)、ホルン(松崎、日高)という総計15名の編成での演奏しました。ストラヴィンスキーの新古典主義時代の代表作のことですが、古典派というよりは、バロック時代のコンチェルト・グロッソみたいな作品です。このような作品は、演奏者の自発性と高い演奏技術があってこそ映える作品だと思いますが、上記のメンバーで演奏すれば、その点は文句無し。楽しんで聴けました。

 最後が19歳のロシアの新鋭ヴァイオリニスト、ハチャトゥリヤンを迎えての、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。これは、私にとっては好きではない演奏でした。ハチャトゥリヤンは技術的には素晴らしいものを持っています。繊細な演奏で、紡ぎ出されてくる音は惚れ惚れするような美音です。また、テンポは結構動かして、歌わせるべき所は十分に歌わせます。第2楽章などはその典型で、端的に申し上げればロマンティックな演奏でした。そういう演奏をを若くてハンサムな男の子がするのですから、女性ファンは増えるでしょうね。でも、彼のような演奏はベートーヴェンに似合わないと思うのですね。ことにバルシャイの振るN響の音色がどちらかと言うと渋目。ですから、渋いオーケストラの上に美音がくっきりと浮かび上がる構造になっていて、それが良いという人は多いのだろうな、と思います。しかしながら、私はソロヴァイオリンの音が基本的にオーケストラに溶け込みながらも輝くような演奏がベートーヴェンには似合っていると思いますし、更に申し上げれば、ロマンティックさを前面に出すよりも端正な演奏に魅力を感じます。 

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