NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想

目次

2000年 5月12日 第1406回定期演奏会 デーヴィッド・ロバートソン指揮
2000年 5月25日 第1408回定期演奏会 朝比奈隆指揮
2000年 6月 9日 第1409回定期演奏会 アラン・ギルバート指揮
2000年 6月24日 第1411回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2000年 9月28日 第1413回定期演奏会 エフゲーニ・スヴェトラーノフ指揮
2000年10月 6日 第1414回定期演奏会 エフゲーニ・スヴェトラーノフ指揮
2000年10月19日 第1415回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮
2000年11月 4日 第1417回定期演奏会 朝比奈隆指揮
2000年11月10日 第1418回定期演奏会 エマニュエル・クリヴィヌ指揮
2000年11月30日 第1421回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2000年12月16日 第1423回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮

N響定期公演2000年ベスト3

2001年の感想のページへ行く(1-6月7-12月


2000年5月12日 第1406回定期演奏会
指揮: デーヴィッド・ロバートソン
曲目: ハイドン:交響曲93番ニ短調
    ヴァレーズ:積分(アンテグラル)
    モーツァルト:モテット「踊れ、喜べ、幸いな魂よ」(ソプラノ: 森麻季)
    バルトーク:バレエ組曲「中国の不思議な役人」

感想:指揮者のデーヴィド・ロバートソンは初めて聴きました。未だ41の若手だそうです。プログラムは意欲あふれています。古典と現代曲が半々。その上、タイトルは結構有名だけれど、なかなかコンサートにかからない曲の渋い組み合わせです。私は、演奏会で実際を聴くのは初めての曲ばかりでした。

ハイドン:ロンドンセットの最初の曲;古典的交響曲の形式が定まってからの代表作の一つで、このような曲の私の好みは、端正で格調高い演奏。残念ながら、弦の音が微妙にずれていて、音がきれいじゃない。

ヴァレーズ:タイトルは現代音楽史に欠かせない1曲。1925年作曲だそうだけど、今日聴いても、ものすごく斬新に聞こえたから、作曲当時は前衛の最先端だったのでしょうね。演奏の出来・不出来は判断できません。何せ初耳ですから。でも見ていると面白い。4人の打楽器奏者が17個の打楽器を持ち替えで演奏するのですが、見たことの無い変テコな打楽器がたくさん登場して、その音もなるほど現代音楽っぽくて、楽しめます。演奏者はアクロバチックにがんばっていました。

モーツァルト:ソロの森麻季さんは昔何かで聴いたことがあるはずですが、全く印象に残っていませんでした。その後ドミンゴに見出され、脚光を浴び、今回は、非常に興味を持って聴きました。
 まず、長身で美貌、やせている。ドレスが釣鐘型のスカート(ファッションは全く疎いので、正しく何て言うのか分かりませんが)でプロポーションは分かりませんが、二の腕なんかとても細い。声もよい。高音部もまあまあよく出ていた。たしかに、ソプラノ・リリコ・レジェーロとして期待の星だ、ということはよく分かりました。
 しかしながら、この人、声量がない。広くて反響がデッドなNHKホールだから歌手にはかわいそうな部分もあるのですが、3階席で聞いていると、ステレオを隣の部屋で聞いているみたいに頼りない。せっかくいい声を持っているのに残念でした。Operaでがんばって行くならば、体の反響版をもう一寸強化したほうがよい様に思いました。

バルトーク:そこそこの出来だと思いました。

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2000年5月25日 第1408回定期演奏会
指揮: 朝比奈隆
曲目: ブルックナー:交響曲第9番

感想:朝比奈隆は92歳、日本ばかりではなく世界でも指揮者の最長老。カリスマ的魅力があるようで、普段の定期演奏会では見かけない顔ぶれが多い。これらの方々は、朝比奈信者の方々だろうか。雰囲気がまた違います。指揮者が登場すると演奏が終わったときのような熱狂的な拍手。演奏前にあんな拍手を贈るのは、私の趣味ではありません。

でも演奏は、なかなかのものでした。指揮の姿などはよぼよぼで痛々しげでしたが、(楽員にとってもかなり見にくい指揮だったのではないでしょうか、弦の出るタイミングなどかなりばらばらでした)オケから引き出す音は、なかなかみずみずしく色気を感じさせるものでした。

私は、ブルックナーの9番のよい聴き手ではないので、他の演奏との比較は出来ないのですが、昔、若杉弘さんがN響とこの曲を演奏したことを覚えています。そのときの演奏は非常によいものだったという風に思っています。それと比較してどうだったのでしょう。演奏それ自身は、若杉さんの時のほうがよかったであろうと思いますが、音楽的魅力という点では長老の力、侮りがたし、といったところでしょうか。

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2000年6月9日 第1409回定期演奏会
指揮 アラン・ギルバート
曲目 北爪 道夫   始まりの海から-オーケストラのための(新星日響委嘱作品)
     ステンハンメル セレナード 
     ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番 ピアノ独奏 アンドレ・ワッツ 

感想 これまた意欲的なプログラムです。日本でこの3曲を全て聴いたことのある人は、稀なのではないかと思います。ステンハンメルは、音楽の友社の標準音楽辞典に、スウェーデンのピアノ演奏家・指揮者・作曲家として載っていましたが、作品の紹介は無い。N響で取り上げられるのは2度目です。前回は、99年6月大勝秀也が取り上げています。それに北爪作品。有名なのはベートーヴェンだけです。私は、日本のオーケストラはどんどん日本の管弦楽曲を取り上げて、紹介して行くべきだという考えなのですが、今回ぐらい渋い選択だと、お客さんは引くかもしれません。

演奏そのものはよかったと思います。 「始まりの海から」は始めて聴いたのでよく分かりませんが、ギルバートは、上手に曲を整理して聴かせてくれたと思います。しかし、それでも私は後半退屈しました。何せ、似たような音形の変化が続き、メリハリがはっきりしないのです。20分弱の曲だと思うのですが、これが12〜13分に凝縮されれば、多分もっと楽しめたと思います。

ステンハンメル「セレナード」。これまた始めて聴きました。1曲目の厚いオケの音色の重なりから一転して、優美な旋律。非常に美しい曲だと思いました。しかし、全体として盛り上がりに欠け、面白みのある曲ではないと思いました。

ベートーヴェンの第三ピアノ協奏曲。私は、N響では4度目の経験になります。最近では、98年1月の定期でブーニンが弾いたのを聴いてます。今回のワッツの演奏、細かいところでは疑問がないわけではないのですが、全体としてみれば、私がこれまで聴いたベートーヴェンの第三ピアノ協奏曲の白眉でした。まず、音が立っている。くっきりとしていてそれでいて硬くない、非常にメリハリのある音だと思いました。聴き手にとって、は聴きやすい。オケの音の中からピアノの音がくっきりと浮かび上がっていました。装飾音を付けたりして、楽譜どおりには弾いていないようにも思いましたが(行きすぎて手が滑ったところもありました。ただし、楽譜を照合していないので、本当のところは分かりませんが)、全体としてベートーヴェンの様式観を壊すことなく、好演だったと思います。

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2000年6月24日 第1411回定期演奏会
指揮: シャルル・デュトワ
曲目: 武満 徹    ノヴェンバー・ステップス 尺八独奏 柿堺香  琵琶独奏 中村鶴城
    バルトーク   ピアノ協奏曲第3番 ピアノ独奏 アンドレアス・ヘフリガー
    ベートーヴェン 交響曲第7番

感想: デュトワは、N響の音楽監督になってから、従来よりも意欲的なプログラムに取り組んでいます。今回の曲目は、現代音楽の古典とも言うべき「ノヴェンバー・ステップス」にデュトワ自身N響定期で初めて振るベートーヴェンという組み合わせに、私は意欲を感じます。デュトワの指揮者としての魅力は、バランス感覚とリズム感覚、そしてレパートリーに対する意欲だと思っています。だからストラヴィンスキーやラヴェルが特にいいのですね。その意味で今回のベートーヴェンは期待が持てました。

コンサート自身は、今年のベストでしょう。
ノヴェンバー・ステップスは、初めて実演を体験しました。琵琶と尺八が第二世代に代わったと云うことで、より客観的な演奏を聴けるのではないかと思いましたが、実際は、二人のソリストはがんばって先達に負けない演奏を心がけているようで、非常に熱のこもった演奏でした。特に中村さんの琵琶がよかった。武満徹はこの曲書くとき、かなりいろいろなことを考えたのだろうな、ということは演奏を見ているとよく分かります。今世紀の後半を代表する1曲であることを素直に感じさせられました。

 バルトークの事実上の白鳥の歌。20世紀音楽の開拓者の一人であったバルトークの境地が現れている名曲です。ヘフリガーは技巧的に上手に弾いておりました。よかったと思います。

 ベートーヴェンの7番ですが、これは名演でした。私は、N響で過去4回ベト7を聴いていますが、今まで、本当の意味で満足した経験はありませんでした。それだけに嬉しかった。 今回のデュトワの演奏は、いわゆるスタンダードなドイツ風の演奏とは異なっていました。嫌う人も多いのかもしれません。しかし、私は評価します。何故ならば
(1)指揮者の曲に対するスタンスが明快で聴いている側にもよく分かった。 デュトワは、この交響曲がリズムの交響曲であると云う側面を強調したかったのだと思います。
(2)管が中庸で、バランスがよかった。木管の音が速いパッセージでもあまり濁らず、きれいだった。
(3)弦の音が揃っていて、曲の前に進む躍動感がよく出ていた。
(4)楽章の間の休みが短く、(第3,4章間などはほとんどアタッカで行きました。)曲の一体感を強調するのに効果的だった。
(5)非常にスピード感があった。
なお、今回の演奏で最もよかったのは第二楽章、リズムがはっきりと刻まれていて、それがずれることなく進み、N響の実力をはっきりと示していました。

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2000年9月28日 第1413回定期演奏会
指揮: エフゲーニ・スヴェトラーノフ
曲目: マーラー 交響曲第5番嬰ハ短調

感想: スヴェトラーノフは、93年1月、97年9月、99年2月に続く、N響4度目の客演です。毎回ロシア音楽を中心のプログラムと比較的オーソドックスなプログラムとマーラーを振る。初客演の時には振っていないが、97年に第7番、99年に第6番ときて、今回は第5番である。これで器楽三部作完結です。スヴェトラーノフのマーラーは、一言でいえば大きなマーラーです。7番、6番もそうでしたし、今回の5番もその延長にある演奏だったと思います。7番、6番は非常に名演でした。特に6番がよかった。その意味でも今回の5番は期待が持てました。

で、演奏はどうだったか。まあ、いい演奏でした。でも、私には正直に言えば一寸重い演奏だったと思います。

まず、凄いな、と思ったのは管楽器を思いっきり鳴らさせた事です。NHKホールは響きがデッドであることで有名なホールですが、そのNHKホールの壁が震えるような音でした。スヴェトラーノフは、その上、全体を非常にゆっくり目に弾かせました。普通の指揮者ならば60〜65分で終わる筈の曲が、約80分かけて演奏しました。その結果、音が非常に明確に、一つ一つの音が立って聞えるのです。落ちてしまったら目も当てられません。しかし、手だれの揃ったN響です。管楽器は、指揮者の期待に応えて、つややかで且つ強い音を出しました。おかげで音楽の構成や、細かいパッセージなど普通あまり気にならないところをよく聴くことが出来、マーラーの5番の再発見が出来ました。

しかし、あのペースだと、どうしても音楽が重くなる。第3楽章のスケルッツォなどは、諧謔性がもう少し含まれ軽い方が好ましいような気がします。有名なアダージェットはよかったと思います。N響の弦の美音が、ハープとともに精妙に響きました。

終演時はブラボーの嵐でした。このような演奏を好むお客さんがいかに多いか、ということがよく分かりました。

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2000年10月6日 第1414回定期演奏会
指揮: エフゲーニ・スヴェトラーノフ
〜チャイコフスキー・バレエ音楽のフラグメント〜
曲目: バレエ音楽「くるみわり人形」作品71から 第6曲、第7曲、第8曲、第9曲 合唱(第9曲):東京少年少女合唱隊
    バレエ組曲「白鳥の湖」作品20から 第1曲「情景」、第2曲「ワルツ」、第3曲「白鳥たちの踊り」
    バレエ組曲「眠りの森の美女」作品66から 第1曲「序奏とリラの精」、第2曲「パ・ダクシオン」、
    第4曲「情景」、第5曲「ワルツ」
    バレエ音楽「くるみわり人形」作品71から 「パ・ド・ドゥ」

感想:
 まず、これは非常に珍しいプログラムです。N響が定期演奏会でチャイコフスキーのバレエ音楽を取り上げるのは稀で、私がN響の定期会員になってからは、ワルベルグが1990年に「くるみわり人形」の第2幕を取り上げたのと、シモノフが1995年に「くるみわり人形」(全曲)を取り上げた例があるだけです。「白鳥の湖」組曲も、「眠れる森の美女」組曲も非常に有名な曲の割には最近13年間は一度も演奏されていないのですね。ですから、スヴェトラーノフ/N響がどんな「白鳥の湖」や「眠れる森の美女」を演奏するのか、非常に興味がありました。

 ところが、会場に行ってみると、更にプログラムの変更が案内されていました。即ち、当初は、くるみわり人形については第1幕2場(8曲と9曲目のみ)、それに「白鳥の湖」組曲全曲と「眠れる森の美女」組曲全曲の予定だったのですが、くるみわり人形については第1幕1場の2曲を追加し、第9曲「雪のワルツ」には合唱をいれる、「白鳥の湖」と「眠れる森の美女」については一部の曲のカットでした。これは、スヴェトラーノフの希望とのことでしたが、最初一寸腑に落ちませんでした。

 演奏は、完全にスヴェトラ節でした。全体にどの曲もゆっくりしたテンポで進み、一部で普通の速度で演奏すると云うやり方で、じっくりと歌わせる演奏でした。踊り手がいたら、あのテンポでは演奏出来ないと思います。ゆっくりとしたテンポは、楽員の技量を見せるのと曲の構成を示すのに適当なやり方だと思いますが、全体に重くなります。それをどうみるかが評価の分かれ目だと思います。私はセーフ。一部に重すぎて一寸つらい部分もあったのですが、全体としてはコンフォタブルに聴けました。

 くるみわり人形は、全曲の中でも一番地味な部分を聴かせてくれました。お話は、御存知の通りクリスマスの晩、クララとフリッツの姉弟は、くるみわり人形と兵隊の人形を貰います。その晩、ねずみの王様はおもちゃの兵隊を襲います。それに気づいたクララはくるみわり人形をねずみの王様に投げつけ、やっつけます。するとくるみわり人形は素敵なお菓子の国の王子様になり、クララをお菓子の国ヘ案内します。その晩から案内しますの部分が今回演奏された部分。はじまりが不明瞭で、最初がきちんと合っていなかったのですが、全体として大きな音楽。第9曲「雪のワルツ」における40人の児童(中学生も入っているのに児童合唱というのは変だけど)合唱が秀逸でした。白鳥の湖は一番有名な情景だの白鳥たちの踊りだのをゆったりと演奏しました。眠れる森の美女も大きな音楽でした。

 今回の演奏会で一番の驚きは、アンコールがあったこと。普通オーケストラは定期公演ではアンコールをしません。N響の定期でアンコールを聴いたのは(ソリストを除く)これが初めてです。曲目は「くるみわり人形」のパ・ド・ドゥ。バレエでは様々な妖精たちの踊りが終わり、クライマックスで出てきます。くるみわり人形は、有名な花のワルツでクライマックスになるのですが、そのあと、このパ・ド・ドゥで真のクライマックスが来るのです。ここで、スヴェトラーノフの意図は明白になりました。即ち、くるみわり人形の組曲では演奏されないシンフォニックな部分で前後を固め、真中に「白鳥の湖」と「眠れる森の美女」の一番ポピュラーな部分を挟み込むことによって、全体を一つの曲として聴かせたのでした。

 一つの曲として聴かせるために不要な部分は切り、必要な部分は付け加えました。それは、白鳥の湖から眠れる森の美女へのつなぎで、楽員を立たせなかったことからも明らかです。そして、私には成功でした。驚きと感動がありました。

 小さい不満があるとすれば、白鳥の湖から眠れる森の美女へのつなぎで拍手をしないように、事前にアナウンスしておいて欲しかったことです。残念ながらスヴェトラーノフの意図は、アンコールを聴くまで、私を含めた多くの聴衆にはわからなかったと思います。だから、多くの人は、白鳥の湖終了後に拍手をしました。あの拍手が不要だったのであれば、それを事前に明らかにしておかないと、聴衆は普通のやり方にしたがってしまいます。

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2000年10月19日 第1415回定期演奏会
指揮: ウラディーミル・アシュケナージ
曲目: ラウタヴァーラ   ピアノ協奏曲第3番「夢の贈り物」(1998) ピアノ独奏:ウラディーミル・アシュケナージ
    ショスタコーヴィチ 交響曲第13番変ロ長調作品113「バビ・ヤール」(字幕付き)
              バス独唱:セルゲイ・コプチャーク 男性合唱:二期会合唱団

感想
 アシュケナージがN響の定期公演を指揮するのは初めてのことです。私は、ピアニストアシュケナージがまあまあ好きで、CD持ちでない割には、ショパンだのシューマンだの結構持っています。でも指揮者としての実力については、これまで聴く機会もなかったし(勿論CDは1枚も持っていません)、聴きたいとも思っていませんでした。そこで、今回初めて聴いたわけですが、指揮者としての実力も侮りがたし。脱帽致しました。

 最初の曲は、良い演奏か悪い演奏か全然わかりません。何せ初耳の曲です(日本初演)。アシュケナージの委嘱作と云うことで、アシュケナージが弾き振りする前提で作られた曲なのでしょう。ピアノとオーケストラが掛け合う部分があまり多くなく、ピアノならピアノだけ、オケならオケだけという様に交互に弾いている様に聞こえました。勿論、合奏する部分もあるのですが、普通の耳慣れているピアノ協奏曲と比べると少ない感じです。曲は、全然現代音楽っぽくなく、ヒーリングの音楽のようです。とても1998年の曲には聞こえません。1898年の作品と言われても信じるかもしれない。ヴィスコンティやベルイマンの映画のBGMとしてならば使えそうな感じです。アシュケナージのピアノは、いつものごとく美音でした。右手のアルペジオと左手のフォルテの和音が妙にマッチしておりました。

 バビ・ヤールですが、これは圧倒的でした。私は、ピアニストとしてのアシュケナージを「中庸の魅力」と思っていました。何を弾いても礼儀正しく、確実に押さえる所は押え、きちんと聴かせる。だから、指揮者・アシュケナージがバビ・ヤールみたいな重く、不機嫌な曲を選ぶとは思いませんでした。でもいい演奏でした。尚、本曲のN響初演だそうです。
 まず、バス独唱のセルゲイ・コプチャークが良かった。ブラボーでした。声が艶やかで深みがある。音程もしっかりしていて、聴いていて快感でした。バス歌手で上手な人を何人も聴いていますが、快感に思ったのは初めてのことです。とにかく良い声でした。ロシア語はわからないので、表現力については大したことは云えないのですが、何か惹きつけられるものがありました。
 男性合唱も良かったと思います。二期会合唱団の実力から云えば、「もう少し」と思わない部分が無かった訳ではないのですが、良かった。
 N響のメンバーは、総じて低音楽器の方ががんばっていたと思います。チューバ、ベース、チェロ、ファゴットなどの音がよくきこえました。
 アシュケナージの指揮は、分かり易く料理しようとするもの。楽章ごとのスタイルにメリハリがあって好感が持てました。

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2000年11月 4日 第1417回定期演奏会
指揮: 朝比奈隆
曲目: ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンチック」(ハース版)

主な演奏者(1番)の布陣(16型、2管構成)(敬称略)
コンマス:山口、2ndバイオリン:村上、ヴィオラ:川崎、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:樋口、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:エキストラ、ティンパニ:久保

感想
 またもや長老朝比奈隆御大のブルックナーです。日本の朝比奈人気は大したもので、前売りで指定券はすべてはけたらしく、当日券の販売はなし。でも、定期会員の席にはちらほらと空席が見られ、朝比奈マニアとは一線を画したい方もいらっしゃる様です。

 朝比奈マニアの方々にとっては演奏会後のブラボーはお約束。スタンディングオベーションもお約束。楽員が全員引っ込んでから、御大をステージに呼び出すのもお約束の様です。私には、演奏とは無関係に(としか私には思えない)おこなわれるこのような儀式はどうしても好きになれません。勿論、あの演奏を聴いて、心から感動し、思わず声が出た方々がいらっしゃるとすれば、勿論結構なことですし、このような失礼な言いぐさを詫びるのに吝かではありません。

 演奏自身は決して悪いものではありませんでした。だからと言って、最上でもなかったと思います。NHK交響楽団の実力から言えば、当然のレベルの演奏というのが私の正直なところです。朝比奈さんは、5月の定期公演の時より体調が良かった様で、指揮棒の上下の仕方が整然としていました。また、ややゆっくり目のテンポで管を思いっきり鳴らせる朝比奈スタイルは健在でした。でも、全体の演奏時間は70分強と普通の指揮者が演奏する「ロマンティック」と大差はなかったです。要するに、朝比奈イズムは垣間見られたけれども、N響の技量が先に見えるような演奏でした。中庸の美があったかもしれません。でも、聴いていて面白いと云う点では、5月の9番の方が上だったと思います。

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2000年11月10日 第1418回定期演奏会
指揮: エマニュエル・クリヴィヌ
曲目: メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」作品26
    エルガー    :「海の絵」作品37 コントラルト独唱 ナタリー・シュトゥッツマン
    ブラームス   :交響曲第4番ホ短調作品98

主な演奏者(1番)の布陣(「フィンガルの洞窟」は12型、他の2曲は16型)(敬称略)
コンマス:堀、2ndバイオリン:堀江、ヴィオラ:川崎、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:エキストラ、ホルン:松崎、トランペット:関山、トロンボーン:神谷、チューバ:多戸、ティンパニ:百瀬

感想
 指揮者がデーヴィッド・ジンマンでアナウンスされていた演奏会です。ジンマンが、病気で来日出来くなった事からクリヴィヌに変更になりました。クリヴィヌは、99年9月のCプロを振っています。この時のプログラムは、ウェーベルン編曲のシューベルト「6つのドイツ舞曲」、シェーンベルグ「浄夜」、梯剛之をソリストに迎えてのラベル「ピアノ協奏曲」、それにメンデルスゾーン「イタリア」でした。この時の梯剛之のラベルは極めてリリックな表現で聴き手を感動させてくれましたし、また、「イタリア」も癖の無い演奏で良かったと思いました。

 そのクリヴィヌの再演です。レパートリーが広いと言われている指揮者だけあって、ジンマンの選んだプログラムをそのまま演奏しました。最初の「フィンガルの洞窟」が本日のベスト演奏でした。序曲のような小品は、プログラムの上でもとりあえずの添えもの的存在ですし、聴き手もそんなに真面目に聴かない。可もなし不可もなしという演奏になりがちなのですが、クリヴィヌは一寸遅目のテンポでゆったりと演奏しました。音が厚くならずスマートで、弦より管の音が前に出るような感じでした。ファゴットの音がよく聞こえ、12型にした効果が良くでた演奏でした。

 2曲目の「海の絵」はN響初演。私も初めて聴く曲です。シュトゥッツマンは、大柄な身体を黒いパンツスーツで包み、登場しました。アルト歌手らしい深みのある声でした。でも、演奏はあまり良いものではありませんでした。私の席が悪かったのかもしれませんが、声が篭りがちで広がらないのです。「海の絵」は技巧的な巧さで聴かせる曲ではなく、テキストの味わいを声の魅力で聴かせる曲だと思うのですが、もごもごときこえてしまい、一寸残念でした。ひょっとするとオケとのバランスが悪かったのかもしれません。タイトルを確認するのを忘れたので書けないのですが、アンコールをアカペラで歌いました。これは、深みのある艶やかな声が場内に響き、とても素敵でした。本番より、はるかに良かったと思います。

 最後のブラ4は、ドイツ人指揮者の振るブラ4とは全く違いました。一言で言えば南国的ブラ4とでも言いましょうか。厳粛さよりも穏やかな感じが先に出る演奏でした。特に第2楽章はその感が強く、遅目のテンポで、リタルダンドを使いながらゆったりと演奏したと思います。逆に第3楽章は一寸速めのテンポでした。楽章毎のメリハリを考えたのかもしれません。しかし、曲全体の流れが芯の入っていない感じになり、4楽章に曲を収斂させることが出来ず、尻切れとんぼの様に終わってしまいました。一寸拍子抜けの演奏でした。

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2000年11月30日 第1421回定期演奏会
指揮: シャルル・デュトワ
曲目: モーツァルト   :セレナード第13番ト長調「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
    R・シュトラウス :組曲「町人貴族」作品60
    ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

主な演奏者(1番)の布陣(「アイネクライネ」は12型、町人貴族は変則 春の祭典は16型)(敬称略)
コンマス:山口、2ndバイオリン:堀江、ヴィオラ:川崎、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:磯部、バスーン:エキストラ、ホルン:樋口、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:百瀬

感想
 音楽監督の
デュトワがほぼ6箇月ぶりにN響の定期の指揮台に立ちました。当初のアナウンスではペンデレツキのN響委嘱による新作「3つのチェロのための協奏曲」が予定されていたのですが、締め切りまで完成せず、表記のようなプログラムとなりました。

 「アイネクライネ」は、誰でも知っているクラシックの名曲ですが、実は滅多に演奏されません。私がN響定期を聴くようになって2回目です。前回は95年10月の定期で取り上げられました。指揮者はプレヴィンでした。その時の演奏は、今日よりももっと小さい編成で(うろ覚えなのですが10-8-6-5-3だった様な気がします)、音楽の表情を際立たせるより、弦の音の美しさを前面に出すような演奏で、とても素敵でした。今回の演奏は、そのときのプレヴィンの解釈と比較すると、表情が大ぶりでめりはりのついた演奏だったと思います。しかし、モーツァルト的なかろみには一寸不足していたのでは無いかと思います。私個人の好みはプレヴィンです。

 2曲目の「町人貴族」。この曲も私がN響定期を聴くようになって、初めて演奏される曲です。編成は第1ヴァイオリン4、第2ヴァイオリン2、ヴィオラ4、チェロ4、コントラバス2、フルート(ピッコロ持ち替え2)2、オーボエ(イングリッシュホルン持ち替え1)2、ファゴット(コントラファゴット持ち替え1)2、ホルン2、トランペット1、トロンボーン1、ティンパニ、大太鼓、小太鼓、グロッケンシュピール、シンバル、タンブリン、トライアングル、ハープ、ピアノと小編成。弦楽器の首席奏者はほとんどにソロパートがあります。N響の弦楽器の巧さが、非常に印象的でした。コンサートマスターの山口さんとチェロの木越さんのソロが絶品でした。また、それ以外の曲も単独で見た時、中々結構だったと思います。しかし、組曲全体として見た場合はどうでしょう。私は、全体の統一が取れていないように思えました。

 3曲目の「春の祭典」。これはデュトワの十八番ですから良くて当たり前。第一部の「大地礼賛」はさすがでした。100人にもなろうとする大編成オーケストラを「一糸乱れず」という感じでドライブする姿はこの曲を手中に収めているデュトワならでは、と申し上げてよいでしょう。特徴のある変拍子も非常によくとれていて、音楽の緊張感が伝わって来てよかったと思います。第2部の「いけにえ」もよく出来ていました。しかし、残念なことに今回の演奏は、フィナーレの直前で弛緩してしまい、フィナーレまで一気に盛り上がると云うような演奏ではありませんでした。一寸不満が残る終わり方でした。

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2000年12月16日 第1423回定期演奏会
指揮: シャルル・デュトワ
曲目: ヒンデミット   :交響曲「画家マチス」
    チャイコフスキー :ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35 ヴァイオリン独奏:レオニダス・カヴァコス
    エルガー     :変奏曲「なぞ」作品36

主な演奏者(1番)の布陣(チャイコンは14型、他は16型)(敬称略)
コンマス:山口、2ndバイオリン:堀江、ヴィオラ:川崎、チェロ:藤森、ベース:池松、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:松崎、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:百瀬

感想
 
デュトワは、N響を指揮するとき、レパートリーを広げるという点に、非常にこだわりがあるように思えます。ラヴェルやストラヴィンスキーなどの再演も積極的に進めている一方で、今回の演奏会のように、ヒンデミット、エルガーといった、名前こそは有名であるがあまり演奏されない作品でプログラムを組むあたり、レパートリーの拡張に対する意志が強く感じられます。

 ヒンデミットの「画家マチス」は、N響定期では12年ぶりの演奏。前回は1988年5月の定期公演Aプロで、サヴァリッシュの指揮により演奏されています。私がN響の定期公演に通い始めたのが1988年5月のCプロからですから、残念ながらこの演奏は聴いておりません。CDでも滅多に聴くことはない曲なので、私自身、CDを含め生涯2度目の経験です。この標題の「マチス」とは、あのフォービズムの巨匠「マチス」のことだと思っていたのですが、15世紀の宗教画家「マチス・ゴタールト・ナイトハルト」を指すのだそうです。
 演奏は、めりはりの利いた、表情の豊かなものでした。デュトワは、このような絵画的な作品を演奏するととても表現力があると思います。第3楽章のフーガなどが殊に良かったように思いました。

 チャイコンは、デュトワお得意のプログラムです。デュトワは、若くて有望なヴァイオリニストと共演するとき、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲をプログラムに選ぶことが多い様です。今まで、N響の定期では、サラ・チャン、ジョシュア・ベルと共演しており、今回のレオニダス・カヴァコスで3人目です。ほとんど趣味といってよいでしょう。で、演奏はどうだったかと申しますと、良かった。しかし、最上ではなかったです。カヴァコスは楽譜に忠実に、細かいニュアンスまで良く弾いていたそうですが、オケとソリストとの呼吸が必ずしも万全に合っていたわけではない様で、ソリストとオケとがうまくまとまらないで、不協和音に聞こえる部分がありました。そこが一寸残念でした。

 エルガーの「エニグマ」変奏曲。これもまた久しぶりのレパートリーで、前回演奏したのは、アレキサンダー・ギブソンがオールイギリス関連音楽のプログラムで客演した1989年1月のことでした。
 これが今日の3曲の中ではベストであったと思います。
デュトワは、変奏曲の各変奏の表情を一つ一つ変えながら、めりはりをはっきり出していましたし、その対比をうまく利用して一つの曲へまとめていきました。N響のメンバーのソリスト達の演奏も良かったと思います。

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