NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2004年(前半)

目次

2004年 1月10日 第1505回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2004年 1月15日 第1506回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2004年 2月19日 第1509回定期演奏会 ハインツ・ワルベルグ指揮
2004年 2月28日 第1510回定期演奏会 ハインツ・ワルベルグ指揮
2004年 4月10日 第1511回定期演奏会 スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮
2004年 4月15日 第1512回定期演奏会 スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮
2004年 5月 7日 第1514回定期演奏会 ユッカ・ペッカ・サラステ指揮
2004年 5月13日 第1515回定期演奏会 ユッカ・ペッカ・サラステ指揮
2004年 6月12日 第1517回定期演奏会 エマニュエル・クリヴィヌ指揮
2004年 6月24日 第1519回定期演奏会 ヨアフ・タルミ指揮

2004年ベスト3

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2003年ベスト3

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2002年ベスト3

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2001年ベスト3

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2004年1月10日 第1505回定期演奏会
指揮:
シャルル・デュトワ

曲目:ストラヴィンスキー バレエ音楽「妖精のくちづけ」〜ディヴェルティメント(1949年版)

   サン・サーンス ヴァイオリン協奏曲第3番ロ短調 作品61
           ヴァイオリン独奏 ルノー・カプソン

   ラフマニノフ 交響的舞曲 作品45 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:川崎、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:水谷、サクソフォーン:客演、ホルン:樋口、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ピアノ:客演

弦の構成:サン・サーンス:14型、他:16型。

感想
 
2004年の最初のN響定期演奏会は、N響の名誉音楽監督・デュトワの指揮による後期ロマン派と20世紀音楽という、デュトワの一番得意とするジャンルのプログラムです。「妖精のくちづけ」ディヴェルティメントも、ラフマニノフの交響的舞曲も滅多に定期演奏会にかからない曲のように思われますが、デュトワはこの両曲を本当に得意とするようで、1999年4月の第1376回定期演奏会でこの両曲を取り上げています。この演奏会で一緒に演奏したのは、プーランクの「二台のピアノのための協奏曲」とラヴェル「ラ・ヴァルス」でした。児玉姉妹がソリストだったプーランクは印象深く、またラヴェルも良い演奏だった記憶はあるのですが、「妖精のくちづけ」ディヴェルティメントとラフマニノフの交響的舞曲に関しては、どんな演奏だったか全く記憶に残っておりませんでした。

 それで、本日の演奏ですが、全体的に柔らかく、ゆったりした演奏だったように思います。最初のディヴェルティメントからそう。デュトワのことですから、音色のダイナミクスをしっかりつけた鋭角の演奏をするに違いないと思っていたのですが、実際は、柔らかくて落ちついたしっとりとした演奏でした。第一部のシンフォニアではディヴェルティメントとしては一寸重いのではないか、と思いましたが、全体を通して見ると、細やかな表情がはっきりと見えて、なかなか洒落た演奏に仕上っていました。ハープとチェロのデュエットがとても上品でよかったです。

 サン・サーンスのヴァイオリン協奏曲もよかった。これはまずカプソンというソリストの魅力。端的に申し上げれば、「中庸の美」と申し上げてよいのではないかしら。柔らかな美音に特徴のある方で、ゆったりとした演奏をします。細かな部分を丁寧に演奏するという印象でした。持っている本質は線の太いタイプではなく、朗々と歌い上げることもしない、そういう方です。その結果として、なかなか洒落た雰囲気が醸し出されます。男性ヴァイオリニストですが、男性的というよりは中性的演奏をする方でした。サン・サーンスの持つエイゾチックな魅力が、一寸した呼吸のコントロールで見えてくるところが良かったと思います。デュトワ/N響の伴奏も十分魅力的。甘すぎない、太過ぎない、柔らか過ぎない、中庸でコントロールされた見事な演奏でした。

 最後のラフマニノフ、一筋縄では行かない曲で多面性を秘めています。したがって、最初の2曲のようにただ柔らかいだけの演奏ではなかったのですが、やはり洒脱さを感じさせる好演でした。細かい部分も正確だったと思うのですが、全体として大きさを感じさせる音楽であったことが印象的でした。金管群のファンファーレ、サクソフォーンのソロ、ファゴットとイングリッシュホルン、そしてコンマス篠崎さんのソロ・ヴァイオリンが魅力的でした。

 デュトワ/N響のコンビは半年ぶりですが、こうして聴いて見るとN響はデュトワの手兵という感じがします。しっくり来る関係でした。久しぶりにこのコンビの呼吸を楽しみました。

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2004年 1月15日 第1506回定期演奏会
指揮:シャルル・デュトワ

曲目:ベルリオーズ 序曲「ウェイヴァリー」作品1bis

   ハチャトゥリヤン ピアノ協奏曲
            ピアノ独奏 ジャン・イヴ・ティボーデ

   リヒャルト・シュトラウス 交響詩「英雄の生涯」作品40 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:川崎、チェロ:藤森、ベース:池松、フルート:神田、オーボエ:北島、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:樋口、トランペット:関山、トロンボーン:客演、チューバ:多戸、ティンパニ:石川、ハープ:早川

弦の構成:ハチャトゥリヤン:14型、他:16型。

感想
 
私は、クラシック音楽ファン歴35年になろうとし、若いころはFMのエアチェックやレコードコンサート、最近はコンサートで随分色々な曲聴いてきたと思いますが、それでも尚、これまで耳にしたことのない作品が随分あるようです。本日のメインの「英雄の生涯」は、それなりに聴いておりますが、ベルリオーズとハチャトゥリヤンの二曲は全くはじめて聴く作品。ところが、この二曲がどちらもなかなかの佳品です。結果としてなかなか洒落たコンサートとなりました。デュトワの慧眼を評価すべきでしょう。

 ベルリオーズの「ウェイヴァリー」は、「幻想交響曲」のような先進的管弦楽法はなく、言ってみれば、ロッシーニのオペラ序曲の焼き直しみたいな作品です。最初がラルゴで最後がアレグロで、ロッシーニ・クレッシェンドみたい。デュトワは、この作品をスマートかつ颯爽と演奏致しました。楽しい小品を聴かせて頂きました。

 二曲目がハチャトゥリアン。ハチャトゥリアンは正に20世紀の作曲家で亡くなったのが1973年、新聞の死亡記事を目にした記憶があります。作品の知名度はそんなに高くなく、普通は、バレエ音楽「ガイーヌ」のみで知られているのではないかしらん。この「ピアノ協奏曲」についても、N響では1950年以来の演奏ということで、滅多に聴かれない作品のように思います。しかし、民族音楽を下敷きにした旋律とプロコフィエフを彷彿とさせるモダニズムで、聴いていて爽快な楽しめる作品でした。

 ジャン・イヴ・ディボーテのピアノがまたよい。硬質の音質で、透明感があり、力強い。打楽器的な打鍵も当然あるのですが、全体の音楽の中に見事に納まっていて、音楽全体の流れに棹ささない。指がよくまわり、アルペジオ、スタカート、見事の一語に尽きます。他の方の演奏を聴いたことがないので、他にどのような解釈があるのかは存じませんが、洒落た素敵な演奏でした。デュトワ/N響のサポートもまた見事なものでした。第二楽章のピアノと掛け合うバスクラリネットの巧妙。はじめて聴くフレクサトーンの風が吹くような音色も興味深いものでしたし、第三楽章のトランペットもよかったと思います。デュトワとディボーテとの相性も抜群で、全体としても実に納得の行く優れた演奏だったと申し上げます。

 「英雄の生涯」も見事な演奏。N響ではこの作品がよく取り上げられますが、それは、サヴァリッシュが原典版演奏にこだわった紹介をしばしばするためのようです。サヴァリッシュの原典主義は勿論否定されるべきものではありませんが、演奏効果のみで申し上げるならば、私は通常版が好きです。そして、この作品はパロディでもありますから、カリカチュアライズされたメリハリのある演奏がより楽しめるのではないか、という考えです。デュトワの表現は、私の好きなタイプの演奏で、それも上質なものでした。管の華麗な音色を前面に出すデュトワ節ともいうべき演奏で、演奏効果は抜群。その上、テンポを微妙に動かしました。弦の音などは決して綺麗な音ではないのですが、非常に生々しさを感じる演奏でした。ヴァイオリン・ソロの堀さんの演奏はいつもながら美しいもの。生々しい弦楽合奏と美しいソロとの対比がまたよかったと思います。

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2004年 2月19日 第1509回定期演奏会
指揮:ハインツ・ワルベルグ

〜ワルベルグN響デビュー・プログラム・シリーズ/ヨハン・シュトラウスの夕べ〜 

曲目: 喜歌劇「こうもり」序曲  / アンネン・ポルカ 作品117
  ワルツ「ウィーンの森の物語」作品325 / 行進曲「新兵さんの出陣」作品398
  喜歌劇「千一夜物語」〜間奏曲 / ポルカ「雷鳴と電光」作品324
  喜歌劇「ヴェネチアの一夜」序曲 / トリッチ・トラッチ・ポルカ 作品214
  皇帝円舞曲 作品437 / 常動曲 作品257
  喜歌劇「ジプシー男爵」序曲 / ワルツ「美しき青きドナウ」作品314
アンコール: ヨハン・シュトラウスI世 作曲   ラデツキー行進曲


オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:茂木、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:今井、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:石川、小太鼓:植松、ハープ:早川

弦の構成:14型

感想
 
N響を振る指揮者は、大指揮者タイプが多く、職人タイプが少ないような気がします。デュトワ、サヴァリッシュ、シュタイン、ブロムシュテット、皆名指揮者ですが、何でも振るという感じはしませんね。それに対してワルベルグは依頼されれば、何でも振る職人タイプの指揮者です。というよりも、ワルベルグは、普通の指揮者があまり取り上げないような小品を振るとき、その職人としての持ち味が最高に出るタイプの指揮者だと思っています。N響は、プロムナード・コンサートをほとんどやりませんが、スヴェトラーノフとワルベルグはやります。そして、その二人のやったプロムナード・コンサートは、名演奏の数多いN響の定期公演の中でも、屈指の名演奏だったということを申し上げておいても良いでしょう。そして、今回の「ヨハン・シュトラウスの夕べ」、実に素晴らしい演奏でした。

 いわゆるライト・クラシックからクラシック音楽を聴く楽しみを覚えた私にとって、ヨハン・シュトラウスのワルツは自分の原点のような気がして、今をもって大好きです。しかし、日本でウィンナ・ワルツを聴こうと思っても、正月に来日する、「ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団」のようなワルツ専門の楽団の演奏を聴くか、夏休みの子供向けのプロムナード・コンサートにでも行かない限り、実演で耳にする機会は非常に少ないです。N響定期で1988年以降にヨハン・シュトラウスの作品が取り上げられたのは、1992年2月にアルブレヒトが「こうもり」序曲を取り上げた時のみです。したがって、まとまってヨハン・シュトラウスのワルツやポルカを聴ける今回の企画は、大いに期待しておりました。

 その上、プログラムも素敵です。ウィンナ・ワルツの演奏と言えば、ウィーン・フィルのニューイヤーコンサートが有名ですが、彼らがそこで取り上げる作品は、必ずしもポピュラーな作品だけではなく、普段は聴けないような作品も平気で取り上げます。勿論、それはそれで楽しいのですが、今回の定期のように、特に有名な作品ばかり並べられると、その楽しさは一層です。

 演奏も良かったです。休憩前の前半はかなり遅いペースで、弦の和音の一つ一つがくっきりと浮かび上がるよう。現代風のスピード感溢れる演奏に馴れた耳には、一寸違和感を感じますが、聴き進んで行く内に、微妙なテンポの揺れや、微妙なニュアンスの変化が見えて来て、古き良きウィーンを彷彿とさせます。それでも「アンネン・ポルカ」や「雷鳴と電光」などは、もう少し早い目の方が良かったと思いますが、ゆったりとした演奏の良さが見えるのは結構なことです。

 「ウィーンの森の物語」はツィターを使用しない版での演奏。ツィターを使用する所は、チェロを中心とした弦楽合奏で対応。この作品の演奏は、テンポを小刻みに変えて見せて、正に至芸ともいうべき演奏でした。

 休憩後の後半は、前半と比較すると早めの現代風のテンポ。それでも独特の香気が感じられて良かったと思います。皇帝円舞曲などは、アンサンブルの乱れがあったのですが、全体とすると聴いていて楽しい演奏でしたし、「ジプシー男爵」序曲や「美しき青きドナウ」もきっちり演奏しておりました。

 そんな訳で、徐々に盛り上がって行く演奏で、お客さんも後半のほうが、反応がよい感じでした。N響は通常、定期公演でアンコールをやらないのですが,ウィンナ・ワルツと言えば,「アレ」をやらなければ終りません。そこはワルベルグも心得ていて、「ラデツキー行進曲」手拍子つきでやりました。

 ワルベルグは派手さのない方で、決して一般受けする方では無いように思います。しかしその演奏はいつも伝統に裏打ちされた力量を感じさせ、今回の演奏もその例外ではありませんでした。 

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2004年 2月28日 第1510回定期演奏会
指揮:ハインツ・ワルベルグ

〜ワルベルグN響デビュー・プログラム・シリーズ 

曲目: ニコライ   歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲 
       
  ヒンデミット   交響曲「画家マチス」
       
  ドヴォルザーク   ヴァイオリン協奏曲イ短調 作品53
      ヴァイオリン独奏:ヴァディム・グルーズマン
       
  ワーグナー   歌劇「タンホイザー」序曲


オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:山口、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:井野邉、チェロ:木越、ベース:池松、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:水谷、ホルン:樋口、トランペット:関山、トロンボーン:客演、チューバ:客演、ティンパニ:久保

弦の構成:16型(協奏曲は14型、ヴィオラは首席奏者欠席のため-1)

感想
 
ワルベルクの振るベートーヴェンやブラームスも決して悪くはないのですが、彼は標題音楽を指揮する時の方が、本領を発揮なさる方の様です。私もこれまで相当回数ワルベルグの指揮するN響を聴いて参りましたが、特に感心したのは標題音楽を中心のプログラムに据えた時のようです。本日のプログラムも標題音楽的プログラムであり、期待に違わず、聴きごたえのある演奏だったと思います。

 「ウィンザーの陽気な女房たち」というオペラは、ヴェルディの「ファルスタッフ」と同じ題材を使って書かれた作品ですが、音楽と芝居とが緊密に組み合されて一寸の隙もないヴェルディのオペラと比較すると、相当に「緩い」作品ですが、その緩さが喜劇の味わいを柔らかくして、中々の佳品です。そういう作品ですから、序曲もシャープな味わいよりもマイルドな味わいで演奏してほしい。そういう風に私は思っているのですが、ワルベルグの音楽作りは、私の期待とほぼ一緒。オケをしっかり鳴らして、決して軽い演奏ではないのですが、作品の持つ緩さを上手く表現するので、重苦しくならない。結構でした。

 「画家マチス」は、2000年12月にデュトワが取り上げています。デュトワとワルベルクは別なアプローチをしていたと思いますが、メリハリをつけて、音楽のもつ標題性を明確にすると言う点で、両者は似ていたのかな、という風に感じました。ワルベルグの表現は、オーケストラのメンバーに一音一音しっかりと弾かせ、そのどっしりとした音楽で、劇的世界を構築しようとするものでした。立体感が見える演奏で良かったと思います。スマートさやスピード感とは無縁ですが、密度があるので弛緩しない。指揮者とオーケストラの力量を感じました。第1楽章におけるフルートとクラリネット、第2楽章におけるフルートとオーボエの陰影深い演奏が印象的でした。

 ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲。これもよかった。これは標題のない純粋音楽ですが、出てくるメロディーは流石にドヴォルザークでとても美しいものです。グルーズマンというヴァイオリニストは初めて聴く方です。見た目が相当の偉丈夫で、どんな音楽を作ってくるのかと思いきや、割合自由度の高い、流麗な演奏をしてきましたので、一寸意外でした。非常に綺麗な音色なのですが、繊細な感じはなく、力のある音でした。恐らく美音に対する感性の強い方なのでしょう。テンポなどはそれなりに動かしているようですが、見切り方が上手で下品にならない。端正ではあるが、自由な演奏でした。もう一つ彼の良さは、演奏することを楽しんでいることが客席からも分ることでしょう。音楽を演奏することの楽しさがストレートに客席に感じさせられる。これは実力者の証拠を示しているのかもしれません。

 「タンホイザー序曲」。これもゆったりとした演奏。曲の構造が見えてきます。このようにしっかりと聴かせて、曲の構造や味わいを明確にするのがワルベルグの真骨頂なのかも知れません。聴きごたえがありました。

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2004年 4月10日 第1511回定期演奏会
指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ

〜オール・ベートーヴェン・プログラム 

曲目: ベートーヴェン   歌劇「フィデリオ」序曲 作品72 
       
  ベートーヴェン   ピアノ協奏曲第4番ト長調 作品58
      ピアノ独奏:ギャリック・オールソン
       
  ベートーヴェン   交響曲第3番 変ホ長調 作品55 「英雄」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:川ア、チェロ:木越、ベース:池松、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:水谷、ホルン:松ア、トランペット:関山、トロンボーン:客演、ティンパニ:久保

弦の構成:14型(英雄は16型)、弦の配置は第一ヴァイオリンとヴィオラが指揮者の左右に来る配置。

感想
 
スクロヴァチェフスキは、もう長老指揮者の一人で、最近は、国際的評価もますます高い方だそうです。しかし、これまでのN響客演を聴く限り、この方の本領は、非常に緻密に計算された指揮ぶりにあって、堅実で無理はしないけれども、音楽のプロポーションをきっちりと表現する所にあると思っておりました。そういう点では、安心して聴ける指揮者です。ところが、本日の彼の演奏は、従来のものとは異なっておりました。良く言えば、従来よりはるかに巨匠的な演奏でした。遅い目のテンポで、オケをしっかりと鳴らす。例えるならば、90年代前半の朝比奈隆のベートーヴェンの指揮に似ているような気がしました。

 そういう巨匠的な演奏を好まれる方は多いので、本日のブラボーの飛び方は、通常のN響定期よりも多かったと思いますが、今回のスクロヴァチェフスキの行き方は、正直申し上げれば私の好みではありません。流石N響、流石スクロヴァチェフスキと否応なく思わせる部分も少なくはなかったのですが、全体としてみるとやっぱり好ましくないのです。以下各論です。

 「フィデリオ」序曲は、本日のプログラムの中で私にとって、一番違和感の少ない演奏でした。巨匠の小手調べ、という点で丁度良かったということなのかもしれません。

 ピアノ協奏曲第4番。納得の行かない演奏でした。ピアノもオーケストラも端的に申し上げれば重たい演奏でした。オーケストラに関して言えば、「神々の黄昏」の疲れが取れていないのか、「モサッ」とした感じで、精気があまり認められなかったことが残念でした。テンポを勘定してみると、特別遅い演奏ではなかったとは思うのですが、テンポの細かい変化があまりなくてメリハリがついてこないので、今一つシャキとしなかったのだろうと思います。オールソンのピアノも技術的には問題ないのでしょうが、とにかく重く感じました。休符が微妙に長く、次の音に入るのに、一瞬「どっこいしょ」と言っているような演奏だったと思います。私にとって、この作品は、全てのピアノ協奏曲の中で好きなこと、1、2を争うような作品なのですが、「自分が好きだな」、と思える特徴がみなぼやけて演奏されるのは悲しいものでした。

 「英雄」。これまた独特の解釈でした。第一楽章は、自然な流れの音楽で、プロポーションがよく割合スタイリッシュな演奏だったと思います。これを聴いて、以前のスクロヴァチェフスキを思い出し、先のオールソンとのピアノ協奏曲は、オールソンに問題があったのかとも思いましたが、そうでは無かったようです。第二楽章葬送行進曲。第一楽章とはうって変って、けれん味の強い演奏となりました。木管楽器を中心にしっかりひかせて、彫りは深くて重厚な演奏になったと思います。結果として第一楽章と第二楽章は対照的な印象となりました。そして、このけれん味は、第三楽章、第四楽章と段々強くなっていきました。そのため、第四楽章は拘りの強い演奏になっていたと思います。このような音楽の設計は良く分ります。ただ、第一楽章で期待したすっきりした部分がなくなってしまい、妙に野暮ったく感じます。オーケストラは相当に美しい音でしたし(茂木さんのオーボエ、磯部さんのクラリネット、水谷さんのファゴット、松崎さんのホルンが良し)流麗でもあったのですが、すっきりはせず、かといって、かつての巨匠たちのように有無を言わせぬ圧倒的なものも感じられず、今一つの印象でした。

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2004年 4月15日 第1512回定期演奏会
指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ

〜オール・ベートーヴェン・プログラム 

曲目: ベートーヴェン   序曲「コリオラン」作品62 
       
  ベートーヴェン   交響曲第4番変ロ長調 作品60
       
  ベートーヴェン   交響曲第7番 イ長調 作品92

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:池松、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:松ア、トランペット:関山、ティンパニ:植松

弦の構成:16型(第4交響曲は14型)、弦の配置は第一ヴァイオリンとヴィオラが指揮者の左右に来る配置。

感想
 
N響4月定期公演3プログラムは、何れもスクロヴァチェフスキによるベートーヴェン・プログラムです。Cプログラムでは「英雄」をメインに、今回のAプログラムでは、4,7番の交響曲を取り上げました。基本的なアプローチは、「英雄」と、4番&7番で大きな違いは無かったように思います。しかしながらその効果は、「英雄」よりも4番&7番のほうがはるかに上だったように思います。スクロヴァチェフスキの感性を表現するには、「英雄」交響曲より、4番&7番のほうが向いているということなのでしょう。

 序曲「コリオラン」。ゆっくり目のテンポでしっかりした演奏でした。劇的な表現で、巨匠型と申し上げるべきかもしれません。一方、4&7番はスピード溢れる演奏。私は、4番も7番もスピード感のある演奏を好むのですが、それでも一寸スピード違反ではないか、と言うぐらいの演奏でした。「坂道を駈け降りて、足が地につかない、でも転ばずに行ってしまった」というのが私の率直な印象です。

 第4番は序奏のアダージョこそゆっくり目のしっかりした演奏でしたが、主部に入ったとたん走る走る。スクロヴァの演奏の特徴で、中声部が良く聞こえるのですが、必死になってついて行っているのがよく分ります。木管は結構ヒヤリとさせられる部分があったのですが、なんとかギリギリ持ちこたえてゴールに辿りつきました。第2楽章のアダージョは、序奏のアダージョほどゆっくりではありませんでしたが、他の楽章が速いので、一寸一息という感じです。木管の旋律が綺麗でした。そして、スケルツォ、フィナーレとまたトップギアで疾走します。第3、4楽章は楽員たちも相当乗って来た印象でした。

 第7番も似たような印象。音の組みたては、木管楽器やホルンを良く鳴らさせ、中音部低音部もバランス良く前に出してくるというもので、立体感のあるものです。しかし、疾走するので、流線型になり、音響の立体感よりも疾走の快感が先に来る、そんな印象でした。第2楽章のアレグレットにおける主旋律の楽器間の受け渡しが見事で感心しました。また、第2楽章の構成がカノンになっていることをこれほど明確に示した演奏も珍しいのではないでしょうか。スクロヴァチェフスキ的けれん味があちらこちらに見うけられるのですが、「英雄」の時ほど人工的ではなく、良かったと思います。ほぼアタッカで繋がった第3楽章は、一番ダイナミックな表現でした。勢い良い表現と弛緩のバランスがよかったと思いました。そして更に疾走するフィナーレ、勢いで最後まで行ってしまったというイメージです。

 ベートーヴェンの4番や7番は、スマートにスピードを上げて演奏する指揮者がいます。しかし、スクロヴァチェフスキの演奏はスピードはあるがスマートではない。どこか刺があります。そういう刺を持ったまま、あれだけのスピードで演奏させてしまう。N響も転びそうになりながらも何とかついていく、非常にスリリングで面白かったです。

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2004年 5月 7日 第1514回定期演奏会
指揮:ユッカ・ペッカ・サラステ 

曲目: ブルックナー   交響曲第5番変ロ長調(原典版) 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:山口、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:池松、フルート:神田、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:樋口、トランペット:関山、トロンボーン:池上、チューバ:池田?、ティンパニ:久保

弦の構成:16型、弦の配置は第一ヴァイオリンとヴィオラが指揮者の左右に来る配置。

感想
 
ブルックナーを意識的に敬遠している積りはないのですが、私にとっては中々聴くチャンスの多くない作曲家のようで、第5番の交響曲を実演で聴いたのは初めての経験です。CDでは、オイゲン・ヨッフムやギュンター・ヴァントの演奏を楽しんで来ているので、この作品に対する一定のイメージは持っていたのですが、今回のサラステの演奏は、それらと随分と違っておりました。端的な言い方をすれば、「色彩豊かなブルックナー」です。一般にブルックナーと言えば、明るさ・華やかさよりも、荘厳さや重厚さに重心をおいた演奏が好まれる傾向が強く、モノトーンのイメージが強調されがちですが、それとは全く違った演奏で、私にとっては刺激的でした。ただ、このような演奏が、観客に好まれるかというと、そうでは無いようで、お客さんの反応にはかなりの戸惑いがあったように思います。

 サラステは、本来二管構成のこの作品をほぼ倍に増強し、壮麗なアプローチで臨みました。第一楽章での最初の金管の咆哮は流石に迫力がありました。サラステは、決してテンポを速めることは無く、じっくりと音を出させる方針だったようです。この激しい金管と対照的に、弦楽器はロマンティックな音色を奏で、そのダイナミクスが演奏を色彩的に感じさせた原因だったように思います。しかし、反面このロマンティックな部分が本作品の特徴の一つである対位法の厳格さをデフォルメしている部分があり、それをいやがる方は少なくないだろうなと思いました。

 基本的なアプローチは四楽章とも同一で一貫していたと思いますが、サラステの意図がどこまで演奏に反映させていたかは、一寸疑問な所です。一つは演奏の精密さです。N響はその技術的レベルは国内随一であるのですが、残念ながら、今回の演奏は相当トラブルが多かったようです。金管は幾度となく落ちていましたし、和音が明かにずれている部分もありました。ユニゾンの音色も決して綺麗ではなく、N響らしからぬと申し上げてよいと思います。

 これはエキストラが多かったのが一つの原因だったように思います。今回ばかりではないのですが、最近N響は、エキストラの起用が多くなっているように思います。今回は全部で92人で演奏したのですが、このうちN響のメンバーとしてメンバー表に載っている方は61人で残りがエキストラです。大規模管弦楽曲でエキストラが多くなるのは仕方が無いことですが、それでも登場したメンバーの三分の一がエキストラというのは、いかがなものでしょうか。

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2004年 5月13日 第1515回定期演奏会
指揮:ユッカ・ペッカ・サラステ 

曲目: マーラー   交響曲第6番イ短調「悲劇的」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:山口、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:樋口、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:客演、ティンパニ:植松、小太鼓・他:竹島、ハープ:早川、チェレスタ:客演

弦の構成:16型、弦の配置は第一ヴァイオリンとヴィオラが指揮者の左右に来る配置。

感想
 
マーラーの作品で一番好きなのが多分「悲劇的」です。相当妙チキリンな曲ですけれども、演奏効果が抜群で、良い指揮者で聴くと本当にノックアウトさせられます。私の思い出の演奏は、1999年スヴェトラーノフがN響を振った演奏と、1996年インバルがN響を振った演奏です。それぞれ違ったアプローチでしたけれども、マーラーの本質を捕まえているような有無を言わせぬ力強い演奏で、私を魅了した覚えがあります。この二つの演奏を覚えている身にとって、今回のサラステの演奏は相当分が悪い。決して悪い演奏ではなかったと思うのですが、かつての名演と比較してしまうと、いま一つと言わざるをえません。

 とは言うものの、サラステは本質的にマーラー向きの指揮者だと思います。先週のブルックナーは決して観客に支持された演奏では無かったのですが、あのアプローチをマーラーにもって行ったら、多分ブラボーの嵐だろうと思っておりました。今週のマーラーは、先週のブルックナーと同様のアプローチではなかったと思うのですが、サラステの解釈によるマーラーのきらびやかな音色は、マーラーの音楽の本来持っている底の浅い薄っぺらなきらびやかさを明かにしており、なかなか気の利いた解釈だっただろうと思います。

 しかしながら、私がいま一つ支持出来ないのは、彼の本日の演奏が、外へ外へと拡散するようなベクトルになっていたと思うからです。マーラーの音楽自体、雑多な要因を詰め込んで、結果として収拾のつかない部分があることは確かなのですが、私は、その収拾のつかない部分を巧く処理して、全体として求心的な演奏に仕上て行くのが好みです。サラステは、その雑多な部分をそれぞれに処理し、そのままアウトプットしたように思うのです。従って、個別の部分(フレーズなど)では、非常に感心できる所も多いのですが,曲全体として見た場合、お互いがバラバラな感じがするのです。

 サラステの演奏はためを十分につくって、じっくりと弾かせるやり方。従って力強い部分や金管を咆哮させる部分の迫力は大したものです。激しさが勝ちすぎて、雑になってしまうところも少なからずありましたが、それも一興です。また、第三楽章の弦楽合奏は美しく、それも感心したところです。全体を見渡せば一本筋の通った演奏と申し上げてよいでしょう。しかし、その一本の筋は、マーラー音楽の持つ分裂症的性格を強調して見せる方向にあったように思います。それが私の好みと比べて見ると「一寸違うぞ」と思うところなのです。

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2004年 6月12日 第1517回定期演奏会
指揮:エマニュエル・クリヴィヌ

曲目: メンデルスゾーン   序曲「美しいメルジーネの物語」作品32 
       
  メンデルスゾーン   交響曲第5番ニ長調 作品107 「宗教改革」
       
  ツェムリンスキー   交響詩「人魚姫」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:山口、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:川ア、チェロ:木越、ベース:池松、フルート:神田、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:樋口、トランペット:津堅、トロンボーン:客演、テューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:12、14、16型(曲順)

感想
 
クリヴィヌといえばメンデルスゾーンと云うイメージがあります。N響の定期公演の舞台に立ったのは三回目ですが,毎回メンデルスゾーンを取り上げています。最初に振った時が「イタリア」交響曲、その次が序曲「フィンガルの洞窟」、そして今回は、N響初演となる序曲「美しいメルジーネの物語」と「宗教改革」。本人もレパートリーの中核にあると考えているのかも知れません。今回の演奏もメンデルスゾーンらしい清新さに満ち溢れた演奏で大いに満足いたしました。

 とはいえ、「美しいメルジーネの物語」を実演で聴くのははじめての経験。絵画的描写がなかなか的確に決り、割合すっきりと纏った演奏でした。12型という小さな弦楽器構成で演奏することで,音が分厚くならず、見とおしがよくなったものと思います。

 「宗教改革」が本日の白眉。全体をパステル調の淡いトーンで描き切り、爽やかな演奏になりました。重苦しいところがなく、きびきびした小気味のよい演奏です。第二楽章のスケルツォは、スピードがあるが、しかしながら音をゆるがせにしないN響の技量と相俟って、淡色系ではあるけれども、ラインのしっかりした演奏でよかったです。第三章のアンダンテも抑制されており、南国の午後の陽光のような演奏で、一寸けだるい感じがする所がまたよいと思いました。フィナーレのコラールもドイツ的厳しさで演奏するのではなく、軽やかさを基調にした軽妙なもの。「宗教改革」という標題を大事にした厳格な演奏とは対極的な演奏でしたが、そのかわり、「イタリア交響曲」や「真夏の夜の夢」を作曲したメンデルスゾーンの姿が見えるような演奏で、私はとても満足いたしました。

 ツェムリンスキー「人魚姫」。アンデルセンの童話を題材にした交響詩です。長年忘れ去られていた作品で、1984年に復活演奏されたというものです。N響では3年ほど前一度取り上げられていますが、私はその演奏会に行っておりませんでしたので、完全に初めて聴きました。内容は人魚姫のお話・エピソードをつないで行く相当写実的でかつロマンティックなものでした。弟子のシェーンベルグの「浄夜」の音楽とどことなく似ていると感じたのは、私だけかしら。この曲を聴くのは初めてだったので,細かなコメントはないのですが、あたかも映画のバックに流れている音楽を聴いているような気が致しました。

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2004年 6月24日 第1519回定期演奏会
指揮:ヨアフ・タルミ

曲目: ボロディン   歌劇「イーゴリ公」序曲 
       
  シベリウス   ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47
      ヴァイオリン独奏: ジェームス・エーネス
       
  ドヴォルザーク   交響曲第8番ト短調作品88

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:池松、フルート:中野、オーボエ:池田、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:松ア、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、テューバ:多戸、ティンパニ:久保

弦の構成:16、14、16型(曲順)

感想
 
ヨアフ・タルミが前回N響に客演したのは、スヴェトラーノフの代役としてでした。彼は、その時スヴェトラーノフが用意したプログラムをそのまま演奏したのですが、はっきり言ってしまえば、スヴェトラーノフがそのプログラムを演奏したら、どんなに素晴らしかっただろう、と思うような演奏でした。そのタルミが自分で選んだ民族主義的音楽のプログラム。プログラムは一貫しているのですが、演奏内容は全然一貫しておらず、ある意味面白いものでした。

 ボロディンの「イーゴリ公」序曲。考えて見ると、オペラ好きの私ですが、ロシアオペラをまともに聴いたことはあまりなく、「イーゴリ公」もその上演を見たことがありません。それで、序曲を聴くのも初めてなのですが、荒削りな作品ですが、中々面白い作品だと思いました。しかしながら、演奏は今一つ。乗りが悪く、「これからオペラが始るぞ」という高揚感が感じられない演奏でした。特に前半は恐る恐るの演奏で評価しがたい演奏でした。

 シベリウスは更にどうか、という演奏です。まず、独奏ヴァイオリンを私は評価できません。音だけで言えば、それなりに美音だと思うのですが、音楽に対する切りこみがあまりにも甘すぎます。シベリウスを演奏するということに対する自分の中での必然性を感じられない演奏で、聴いていて全然面白くない。音楽に気迫を感じさせない。タルミは、N響を相当に抑えて演奏させていたと思うのですが、一寸手綱を緩めると、N響の音にソリストの音が負けてしまいます。N響の方がずっと切実感のある生々しい音を出していたように思います。ソリストがオーケストラに全然かなわないような演奏を、私は評価しません。

 ドヴォルザークの8番。本日一番の聴きものでした。タルミはちょっとゆっくりしたテンポで弾かせます。金管をきっちりと響かせ、全体として明晰でくっきりした響きが特徴的でした。音に厚みがあって、彩色豊かな絵を見ているような演奏で、N響の音も前二曲とは全然違っておりました。木管が総じてよく、フルート、クラリネットが特に良かったと思います。池田昭子さんが初めてオーボエの一番を弾き、とてもよい演奏だったのですが、一箇所だけ大ミスを犯したのが残念でした。

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