NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2002年(後半)

目次

2002年 9月 7日 第1466回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2002年 9月12日 第1467回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2002年10月 5日 第1469回定期演奏会 ヨアフ・タルミ指揮
2002年10月11日 第1470回定期演奏会 ヨアフ・タルミ指揮
2002年11月 9日 第1472回定期演奏会 ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮
2002年11月15日 第1473回定期演奏会 ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮
2002年12月 6日 第1475回定期演奏会 エサ・ペッカ・サロネン指揮
2002年12月12日 第1476回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮

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2001年ベスト3

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2002年 9月 7日 第1466回定期演奏会
指揮:
シャルル・デュトワ

曲目:シマノフスキ スターバト・マーテル 作品53(日本初演)
   ソプラノ ゾフィア・キラノヴィッチ
   アルト  ヤドヴィガ・ラベ
   バリトン ヴォイテック・ドラボヴィチ
   合唱   二期会合唱団

   シマノフスキ 歌劇「ロジェ王」作品46(日本初演)
    字幕付き原語(ポーランド語)上演

出演者

ロジェ王 ヴォイテック・ドラボヴィチ(バリトン)
ロクサーナ ゾフィア・キラノヴィッチ(ソプラノ)
エドリシ ピオトル・クシェヴィチ(テノール)
羊飼い ルドヴィト・ルドゥハ(テノール)
大司教 ロベルト・ギェルラフ(バリトン)
司祭 ヤドヴィガ・ラベ(アルト)
合唱 二期会合唱団(合唱指揮:小田野宏之)
児童合唱 東京少年少女合唱隊(合唱指揮:長谷川久恵)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:川崎、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:松崎、トランペット:津堅、トロンボーン:神谷、チューバ:多戸、ティンパニ:久保、ピアノ:客演、オルガン:客演、チェレスタ:客演、ハープ:早川

弦の構成:スターバト・マーテルは14型、ロジェ王は16型。

感想
 シマノフスキは、1882年にポーランドに生れた作曲家で、20世紀ポーランドを代表する作曲家ですが、日本では余り聴かれません。N響では、クルカがスクロヴァチェフスキの棒で、2つのヴァイオリン協奏曲を披露していますが、それ以外は、ヴァイオリン協奏曲の第2番が演奏されているぐらいです。「スターバト・マーテル」も「ロジェ王」も彼の代表作といわれる作品ですが、これまで日本で演奏されたことはなく、今回が日本初演です。デュトワは、ロマン的民族主義音楽や、ストラヴィンスキーを得意とする指揮者ですから、ストラヴィンスキーと同年代のシマノフスキにも自信があったのでしょう。更に、オーケストラのレパートリーを広げるという意味でも、2002/3シーズンの冒頭にこれらの作品を持ってきたように思います。

 「スターバト・マーテル」は、ラテン語の典例文によるのではなく、ヤンコフスキによるポーランド語の訳に音楽がつけられました。全体として素朴だけれども響きの豊かで、それでいて静謐な感じが続く曲で、宗教心など全くない私でも敬虔な思いを抱かずにはいられないような音楽でした。特に素晴らしかったのが、ソプラノ、アルトのソロと合唱だけのアカペラで歌われる第4曲「我が命ある限り」です。アルトパートを歌ったラベが、どこか抑制しながらも伸びのある声で、この敬虔な音楽をよくリードしておりました。ソプラノのキラノヴィッチの声も、技巧に走らず、この静謐な音楽に彩りを添えていたと思います。NHKホールは、残響の少ないデッドなホールであることは良く知られていますが、そのNHKホールが教会のように響いていた、ということを付け加えたいと思います。

 「ロジェ王」は、近代ポーランドを代表するオペラだそうですが、演奏会形式で聴くと、オペラというより劇的カンタータかオラトリオの様です。こう思うのは、オーケストラと合唱が強かったことによるのかも知れません。オーケストラは3管16型のフル装備、合唱は男声が70、女声が49、児童合唱が36という大規模なものでした。このため、全体にソリストのインパクトが弱く、弱音部はオケの強い音に消される部分も少なくなく、そういう点からもオペラ的ではないと思いました。また、第1幕が教会の中という設定で、グレゴリオ聖歌やビザンティン聖歌が聞えること、また、宗教の対立が全体の背景にあるので、殊更そう思うのかも知れません。

 音楽は印象派に近く、私はドビュッシー「ペリアスとメリザンド」に類似性を感じました。特に第2幕。羊飼いをヨハナーンに見立て、サロメとの類似性をいう人もいるようですが、音楽は後期ロマン派のドイツ音楽とは異なります。シマノフスキの音楽は時代によって3つに分類され、ロジェ王を書いた時代は、印象派に近い音楽が書かれた時代としていわれているそうです。

 演奏は、デュトワのコントロールの元、全体としては良くまとまっていたという印象です。カンタータ的に演奏したいというのがデュトワの意図であったとするならば、オーケストラ、合唱共に強力で、その意図は十分に達成で来ていたのではないかと思います。ただし、ソリストの声が前に出てくる感じではなかったので、オペラとして考えた場合は、今一つかなと思います。ソリストは全体に弱い感じでしたが、その中で私の印象として良かったのは、キラノヴィッチとラベの女声二人、そして第3幕におけるロジェ王、ドラボヴィチでした。 

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2002年 9月12日 第1467回定期演奏会
指揮:
シャルル・デュトワ

曲目:ベルリオーズ 序曲「海賊」 作品21

   ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番ハ短調 作品18
    ピアノ独奏 イム・ドンヒョク

   ドビュッシー 牧神の午後への前奏曲

   ルーセル   バレエ音楽「バッカスとアリアーヌ」作品43、第一組曲、第二組曲

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:川崎、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:樋口、トランペット:津堅、コルネット:井川、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:久保、ハープ:早川、チェレスタ:客演(OBの本荘さん)

弦の構成:16型、協奏曲は14型。

感想
 デュトワお得意のフランス音楽を中心としたプログラム。それも、ロマン派のベルリオーズに、印象派のドビュッシー、その次の世代のルーセルと時代配分も適当で、そこに加わるのがラフマニノフというのですから、心にくいばかりの演出です。流石にデュトワと言うべきですし、また、デュトワでなければこのようなプログラムは組まないに違いありません。自信もあったのでしょう。全体として見れば、なかなか聴きごたえのあった演奏会だったと思います。

 序曲「海賊」は、正味10分に満たない小品ですが、華やかな金管に魅力があります。演奏全体は特別魅力あるというものではなかったと思うのですが、本日の華やかなプログラムの冒頭を飾るにふさわしいスピード感と明るさをもっておりました。

 ラフマニノフのピアノ協奏曲。この曲が本日の最大の問題でした。ソリストのイム・ドンヒョクは、2001年のロン・ティボー国際音楽コンクールのピアノ部門で第一位を取った人だそうですが、N響と共演するにはまだ経験不足でした。明らかに上がっていて、手が縮んでいるのが客席からも分りました。特に第一楽章が酷かった。指先が完全にコントロール出来ていないので、音の粒が揃わない。ピアノの響きにも余裕がない。聴いていて痛々しいほどでした。仮に十分に実力を発揮出来たとしても、今のイムにとって、ラフマニノフは重すぎる感じがします。彼は、ダイナミックなピアニズムで観客に訴えるのではなく、繊細な表現で観客を魅了するタイプのようですから。後半は持ち直してきましたが、それでも十全な演奏ではなかったように思います。N響の付けも今一つ。

 打ってかわって、「牧神」はなかなか魅力のある演奏でした。冒頭のフルートからホルンに渡すところで、ホルンにミスが出、傷のない演奏ではなかったのですが、全体としては豊満な感じの牧神でした。フルート・ソロを吹いた神田さんがよく頑張っていましたし、オーボエ、クラリネット、バスーンの木管楽器群がまた上手く演奏していました。コンマス・堀さんのソロも結構でした。

 ドビュッシーのゆったりとした雰囲気から、一転して華やかなルーセル。こういう金管や打楽器が活躍し、華やかな雰囲気が全体を貫く作品を指揮させると、デュトワは上手いと思います。昔のN響ならばもっと重い、モタッとした演奏をしたのではないかと思いますが、全体として歯切れがよい演奏になっていました。芸術的感興が得られる演奏であったとは申しませんが、聴き所のつぼを押さえた見事な演奏だったと思います。堀さんのヴァイオリン・ソロ、川崎さんのヴィオラ・ソロ共に良かったと思います。 

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2002年10月 5日 第1469回定期演奏会
指揮:ヨアフ・タルミ

曲目:ブルックナー 交響曲第8番 ハ短調(ノヴァーク版/1890年)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:川崎、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:今井、トランペット:関山、トロンボーン:神谷、チューバ:多戸、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:16型

感想
 本年10月のC,Aプログラムは、ロシアのエフゲニー・スヴェトラーノフが当初指揮を予定されておりましたが、本年5月に急逝したため、急遽タルミに変更になりました。私はスヴェトラーノフが好きでしたので、急逝の報道にとても悲しい思いがしました。しかし、タルミは、スヴェトラーノフの残して行ったプログラムをそのまま演奏するそうです。

 でもスヴェトラーノフのスタイルとタルミのスタイルは、相当に違うのだろうと思います。スヴェトラーノフはこれまでの演奏経験からみて、ずしっと腹に響くような重厚な演奏をしただろうと思われます。それに対して今回のタルミの演奏は、解析的で理性的な演奏でした。中庸な演奏と申し上げてもよいかもしれません。すっきりとしていて見通しはよいけれども、味わいは薄いと思いました。

 どこまで行っても音は飽和せず、緩徐楽章は滑らかに進み、スケルツォやトリオも柔らかい。弦楽器のトレモロも力をセーヴしながら演奏する。こういう演奏方法でブルックナーを演奏すると、音楽の構成が良く見えます。でも、正直申し上げて聴いていて面白い演奏ではありませんでした。私は、決してブルックナーの良き聴き手ではありませんので、ブルックナーの演奏の標準について特別の意見があるわけではないのですが、もっと音の厚みを強調した演奏の方が聴き手を楽しませたように思います。

 ホルンの首席奏者の樋口さんが急病でリタイアされたため、今井さんが本日のホルントップを弾かれていました。

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2002年10月11日 第1470回定期演奏会
指揮:ヨアフ・タルミ

曲目:スヴェトラーノフ ピアノ協奏曲 ハ短調(1976年)
    ピアノ独奏:横山幸雄
   マーラー 交響曲第1番 ニ長調「巨人」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:松崎、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:石川、ハープ:早川

弦の構成:16型

感想
 スヴェトラーノフが指揮もする作曲家なのか、作曲もする指揮者なのかよく知りませんが、それなりの数の作品を残しているそうです。その代表作が本日演奏されたピアノ協奏曲だそうです。私は初耳でしたが、ラフマニノフを彷彿とさせる、聴きごたえのある作品でした。発表された時代を考えるとあまりにもオールド・ファッションの曲で、学者には評価されないのでしょうが、私のような一音楽ファンにとっては楽しめます。ロシアの臭いが非常に強く、魅力のある旋律とリズムで私は気に入りました。ソリストの横山さんは丁寧で且つダイナミックなピアノで、指の実力が高い人のように思いました。尚、アンコール曲は横山さん自身の作曲の「祈りのバラード」でした。横山さんは特にコメントをつけませんでしたが、作曲者への追悼の意を込めてこの作品を選んだのかも知れません。

 後半は、マーラー「巨人」。端的に言えばけれんのないマーラーでした。しかし、色彩は豊か。それだけに妙にフレッシュな演奏でした。先週のブルックナーもそうでしたが、タルミの演奏は、音楽の構造が見える演奏をします。本日の演奏も、割と内声部が聞こえてくる演奏でした。第一楽章は生々しい音とくすんだ音の対比。生々しい方はハープとフルート。逆に金管はくすんでいます。そのため、神秘的な雰囲気が薄れ、もっと割り切った音楽として私の耳に届きます。第二楽章は、生々しさと混沌とした感じが全面に出ているが、音が飽和してこないので、スマートだけれども、聴いていて今一つ盛りあがれない演奏でした。第三楽章も同様の雰囲気。第4楽章は流石にしっかりと盛上げて終りました。

 全体として見たとき音がクリアで、わかり易い演奏でした。ブルックナーとマーラーとを比較すると、タルミはマーラーの方が向いている感じです。色彩豊かですし、自由度も高かったのではないかしら。しかし、この方プラスサムシングが見えない方です。そういう意味では職人ではあるが巨匠ではないです。

 このプログラム、最初スヴェトラーノフが指揮する予定でした。しかし、スヴェトラーノフの急死のためタルミにお鉢が回ってきたものです。タルミは暗譜で演奏するなど、一所懸命でした。演奏もそんなに悪いとは言えない。でも、スヴェトラーノフのマーラーの名演を知っている身とすれば、やはりスヴェトラーノフの指揮でこの演奏会を聴いてみたかったです。仕方がないことですが残念です。

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2002年11月 9日 第1472回定期演奏会
指揮:ウォルフガング・サヴァリッシュ

曲目:モーツァルト 交響曲第31番 ニ長調K.297(300a)「パリ」
   メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調作品64
    ヴァイオリン独奏:レオニダス・カヴァコス
   ブラームス 交響曲第3番 ヘ長調作品90

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:山口、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:川崎、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:北島、クラリネット:磯部、バスーン:水谷、ホルン:客演(樋口さんが病気のため交替)、トランペット:関山、トロンボーン:神谷、ティンパニ:久保

弦の構成:モーツァルト:14型、メンデルスゾーン:12型、ブラームス:16型

感想
 私は、サヴァリッシュがN響にとって最もよい指揮者だとは全然思わないのですが、関係が深いだけにツボにはまった時の演奏は、非常に名演になると思います。そういう名演は、これまで数多くなされて来たのだろうとは思いますが、私にとって、両者のコラボレーションの最良の例は1994年のブラームス・チクルスでした。定期公演では、交響曲の2、3、4番を取り上げたわけですが、その3曲ともが何れ劣らぬ名演で、サヴァリッシュの感性と実力をはっきりと見せていただいたのではないかと思っています。その感激を新たにできるか?、というのが今日の個人的楽しみでした。

 それにしても、実にオーソドックスなプログラムです。こういう曲をサヴァリッシュ/N響で演奏するのですから、ルーティンに陥ることなく真面目に演奏すれば、通常レヴェル以上の演奏は確実です。そして、それは全く予想通りであり、ある意味で予想を良い方に裏切ってくれました。

 モーツァルトの「パリ交響曲」は、オールドスタイルの落ち着いたもので、20年前ぐらいによく聴かれた演奏を聴くようです。どっしりと落ち着いていて、重厚なモーツァルト。私は、もっと軽みのある、ロココ風のモーツァルトの方が好きですが、こういったいかにもドイツ風のどっしりとした演奏もたまにはいいものです。とても落ち着いていて、危険なところがまるでなく、安心して聴いていられます。ほっとする演奏と言っても良いかもしれません。

 メンコンは、ソリストの魅力でした。カヴァコスは未だ35歳の若手ですが、そのしっかりとした技術は、音楽性と共に称賛に値するものです。ためを利かせて,じっくりと歌わせるタイプで、メンコンのような曲に良く似合います。そのうえ、早いパッセージも正確に弾きこなす実力もあり、一言で申し上げるならば「巧い」ヴァイオリニストです。甘い美音もあり、音色の透明感もあって、大いに感心いたしました。特に第2楽章におけるしっとりとした情緒は、絶妙でした。文句なしにブラボーです。2年前の12月、彼は、デュトワの指揮でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を演奏しました。その時は、彼の技術は素晴らしかったのですが、オーケストラと息が合わないところがあり、完成度は今一つでした。しかし、今回はサヴァリッシュが安定感のあるサポートをしたおかげで、非常に完成度の高い、且つレヴェルも高い演奏となりました。

 そして、ブラームスの3番ですが、これも良い演奏だったと思います。94年の完成度には及ばないような気がいたしましたが、いかにもドイツ風の割りとごつごつした演奏で、味わいがありました。第一楽章のヴァイオリンなどは、ボウイングが合っていないところがあり、精密な美音と言うわけにはいかなかったのですが、その生気と推進力は魅力的でした。第2楽章におけるクラリネットとそれを支えるファゴットなど、聴き所も多かったです。「パリ」、「メンコン」と比べると安定感で劣っていましたが、力強い生気で勝っていたと思います。

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2002年11月15日 第1473回定期演奏会
指揮:ウォルフガング・サヴァリッシュ

-サヴァリッシュN響定期公演デビュープログラム-

曲目:シューマン 交響曲第4番ニ短調 作品120
   R.シュトラウス 交響詩「英雄の生涯」作品40(原典版)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:今井、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ハープ:早川、ティンパニ:久保

弦の構成:16型

感想
 サヴァリッシュのN響定期公演デヴュープログラムの再演です。1967年2月の定期公演がサヴァリッシュのN響定期公演初お目見えだったそうですが、そのときの選曲は、サヴァリッシュのレパートリーの中枢を成すものでした。彼は、数多いレパートリーを誇りますが、その中心はドイツロマン派音楽です。結局、彼の味わいを最も良く伝えるのは、シューベルト、シューマン、ブラームス、ワーグナー、リヒャルト・シュトラウスといった所だと思っております。その意味で、シューマンとリヒャルト・シュトラウスは、最もサヴァリッシュの血と合った作曲家で、良い演奏が聴ける期待がありました。

 一言でいえば、その期待が裏切られなかった演奏でした。シューマンは、どこか安定感の欠けた演奏でした。別にN響の技量の問題ではなく、サヴァリッシュの音の組みたて方が、安定感を拒否していたように聴きました。結果としてシューマンの持つ幻想性のようなものが表に出てきており、シューマンの異常さを聴くには打ってつけではなかったかと思いました。N響の音は全体的には立体感があって良かったと思います。音色は決して綺麗ではなく、どちらかというとロマンチックよりも力強さに秀でている演奏でしたが、それでいて泥臭くならずシューマンの幻想性をよく示しており、良かったと思います。

 「英雄の生涯」もまた優れた演奏でした。私はシューマンよりもこちらに軍配を上げたいと思います。この作品は、リヒャルト・シュトラウス35歳のときのものです。このとき、彼は未だオペラの作曲を手がけておりませんが、そういう時点で自分を英雄に見なして、晩年からみた様子を書いた訳です。これは、言うまでもなくシュトラウスの自負心の現われでしたが、もう一面として、冗談的気分と、更には新世紀に向けて、これまでの自分の仕事の総まとめという側面がある多様性の音楽です。そのような多様な側面をもつ音楽にサヴァリッシュは自分を投影させて見せたのではないかと思います。

 演奏は、原典版を使ったせいなのかも知れませんが、この作品に内包されるキッチュな部分がよく明かにされており、音楽の構造が判り易く示されました。一般に「英雄の生涯」はダイナミックスを大きくとって演奏されることが多いと思うのですが、今回の演奏は、端的に申し上げれば「熱くならない」演奏でした。奏者の方は汗を飛ばし、髪の毛を振り乱して一所懸命に演奏しているのですが、どんなに頑張っても音楽がどこか冷めているのです。音が飽和してつぶれてしまう、ということもありません。いかにも老大家が自分の生涯を淡々と見つめているような音楽でした。サヴァリッシュの「英雄」に対する現在の思いが集約されている様で、そのプラスサムシングが、私にはとても素敵に聴こえました。

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2002年12月 6日 第1475回定期演奏会
指揮:エサ・ペッカ・サロネン

曲目:ストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシカ」(1947年版)
    ピアノ:東誠三
   ショスタコーヴィチ ピアノ協奏曲第1番ハ短調作品35
    ピアノ独奏:アレクサンドル・トラーゼ トランペット独奏:関山幸弘
   バルトーク 組曲「中国の不思議な役人」作品19,Sz.73

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:川崎、チェロ:木越、ベース:池松、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:今井、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:客演、ハープ:早川、ティンパニ:植松

弦の構成:16型 ピアノ協奏曲は12型

感想
 サロネンは、88年と90年にN響の定期公演を振っています。合計6プログラム。私は88年のときはマーラーの4番を中心としたプログラム、90年は、メンデルスゾーンの「イタリア」とシューマンの「ライン」といったプログラムを聴いています。今思い出すと、特別悪かったという印象はもちろんありませんが、逆に特別良かった、という思い出もありません。きっとそこそこの出来だったのでしょう。そのサロネンの12年振りの客演。当時30の若手指揮者だった彼も44歳。脂が乗り初めています。そんな彼が選んだのが現代音楽の古典ともいうべき音楽。バルトーク、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチとくれば、20世紀音楽の最高峰です。脂の乗り始めた料理人がどう現代の古典を料理するのか、というのは、大いなる興味でした。楽しみにNHKホールに行きました。

 結果として、非常に良かった演奏会でした。まず、トーンが統一されています。二つのエスプリの利いたバレエ音楽の間のピアノ協奏曲。どれも元々1910年代あるいは30年代に作曲された作品ですが、それぞれ、当時の最先端の音楽であったと同時にどれも皮肉な笑いが含まれています。サロネンは、この部分に上手く焦点をあてて、少しずつ表情を変えながらも、一つのトーンで演奏して見せました。演奏会全体を一つの曲のように聴かせてくれました。それは優れたものでした。

 「ペトルーシュカ」は、この10年ほどの間に3回定期演奏会で取り上げられていますが,1947年版を使ったのは初めてかもしれません。聴きなれている1911年と比べると、より彫りが深くコントラストのはっきりした音楽になっているように思いました。サロネンは、全体を明るい音色で、且つメリハリをつけながら歯切れよく演奏いたしました。トランペットのソロでつかえた部分があったのが一寸残念ですが、全体としてみれば、お話のダイナミクスと音楽のダイナミクスが呼応している感じで良かったと思います。東誠三のピアノも正確で且つ切れ味がよく、全体のまとまりに錦上花を添えていました。

 それ以上に良かったのが、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲です。トラーゼのピアノがまず圧倒的に良かった。ピアノを弾く時の息使いが三階の客席まで聞こえて来るようでした。彼はペダルを多用しているのですが、ペダルの踏力が強いようで、その踏む音は客席にも明らかに聞えていました。そこから紡がれる音楽は、正確でありながら諧謔味のある素晴らしいものでした。第2楽章はレントの楽章です。N響の弦楽器セクションは、これぞN響とでも言うばかりに丁寧に演奏していきます。N響の弦楽器セクションの上手さは格別です。しかし、そこにピアノが乱入すると、ユーモアの世界に早替り。けれん味があって、一寸下品な音の出し方も良かったのではないかと思います。トランペットの関山さんも、かなりさらって来たようです。ほとんどトランペットのミスは気がつきませんでした。そしてショスタコ風アイロニーあるフィナーレはトラーゼの独壇場。鍵盤の上を太い指を動かしながら、ショスタコ風笑いを多く提供しました。自ら立ちあがってピアノを弾いたりもしました。トランペットはそこに上手く絡んで行きました。非常に感心いたしました。

 バルトークも良い演奏でした。全体として表情が大ぶりでダイナミックな演奏でした。サロネンは、リズムをきちんと刻みながら、管楽器や打楽器を鋭く打ち鳴らさせます。そうでありながらも、曲に込められた一寸皮肉な笑いがはっきりと浮き上がって来るのです。よくよく聴いていると、金管に苦しい所が所々あるのですが、全体としてのまとまりはよく、聴きごたえのある演奏でした。クラリネットの横川さんがまたユーモラスな音色で良かったです。

 3曲目のピアノはOBの本荘さん、シンバルは先日定年で辞められた瀬戸川さんが勤められていたことを付記いたします。

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2002年12月12日
指揮:
シャルル・デュトワ

曲目:ベルリオーズ レクイエム 作品5
    テノール独唱 ジョン・健・ヌッツォ
    合唱 国立音楽大学  合唱指導 田中信昭/長井則文(国立音大教授)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:山口、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:磯部、バスーン:水谷、ホルン:松崎、トランペット:関山/津堅、トロンボーン:吉川、チューバ:多戸、ティンパニ:久保/植松/石川

弦の構成:16型

感想
 デュトワはN響で数多くのベルリオーズ作品を取り上げてきましたが,「レクイエム」を取り上げるのは初めての経験です。実を申すと私も初めての実演経験です。こんなに巨大な音楽とは知りませんでした。8台のティンパニに4組のバンダです。合唱も乗ると、あのNHKホールの舞台も小さくみえます。

 それにつけても、ベルリオーズを演奏するときデュトワは輝きます。このオーケストラコントロールは流石と言うしかありません。「怒りの日」における金管アンサンブルの輝いたファンファーレやティンパニ軍団の華麗なばちさばきを導く腕も流石ですが、「われを探し」や「奉献唱」における弦楽の精緻なアンサンブルに見とれました。このダイナミックレンジの広さと傷の少なかった金管を見るだけでも今日は聴いた甲斐があったというものです。

 ジョン・健・ヌッツォも良かったです。初めて聴きましたが、リリックな味わいに秀でたテノールとみました。声は艶やかなのですが、能天気な感じがなく、レクイエムの敬虔な響きによく対応していたと思います。第1ヴァイオリンが2本、第2ヴァイオリンが2本、それにヴィオラ合奏の非常に美しい弦楽合奏の元で歌うとき、その良さは明確でした。小さい傷はあったのですが、いいものを聴かせていただきました。

 このように良い部分が沢山あった演奏会であることは間違いないのですが,私は今回の定期演奏会を評価いたしません。何故か。まず合唱が全然駄目。今回の合唱は、ソプラノ、テノール、バスの三部合唱で、男声83人、女声86人が登場しました。女声も褒められるような歌唱ではなかったのですが、とりあえず聴けるレヴェルにはありました。でも男声はもう勘弁してください。男子学生は明らかに水増しです。頭数をそろえるために、さほど歌えないのも入れたのではないかと疑います。声に清冽さが認められず、地声が見えてしまいます。とても祈りの音楽を歌っているようには感じられませんでした。ベルリオーズのレクイエムは、端的に申し上げれば合唱音楽です。幾らオケがよくても合唱が今一つだとその魅力は減退します。

 しかし、これ以上に腹が立ったのは、会場の防音対策です。原因も理由も分らないのですが、演奏時間中、ずーっとコンプレッサーを回すような音がしていました。私はこの音が気になって、音楽に集中できませんでした。NHKホールの防音対策は貧弱で、かつて定期演奏会の時に壁か何かの修理をやっていて、観客に大変叱られたということがありました。今回の音はその時ほどひどくはないのですが、気になり出すと嫌なものです。NHKはNHKホールの防音対策にもう少し気を配っていただければと思います。

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