NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2001年(前半)

目次

2001年 1月12日 第1424回定期演奏会 準・メルクル指揮
2001年 1月27日 第1426回定期演奏会 準・メルクル指揮
2001年 2月10日 第1427回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2001年 2月15日 第1428回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2001年 4月13日 第1430回定期演奏会 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮
2001年 4月28日 第1432回定期演奏会 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮
2001年 5月11日 第1433回定期演奏会 ハインツ・ワルベルグ指揮
2001年 5月18日 第1434回定期演奏会 ハインツ・ワルベルグ指揮
2001年 6月 8日 第1436回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2001年 6月23日 第1438回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
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2001年ベスト3   


2001年 1月12日 創立75周年記念第1424回定期演奏会
指揮: 準・メルクル

曲目: ヘンツェ:歌劇「ヴィーナスとアドニス」(1993-1995)-バイエルン州立歌劇場委嘱作品-
    日本初演、コンサート形式、字幕つき原語上演

出演者

歌手  
プリマドンナ(ソプラノ) シャロン・スピネッティ
クレメンテ、若いオペラ歌手(テノール) クリス・メリット
英雄役歌手(バリトン) ウルバン・マリムベリィ
6人のマドリガル歌手 二期会合唱団メンバー
  平井香織 (ソプラノ)
杉田美紀 (メゾ・ソプラノ)
三橋千鶴 (アルト)
岡本泰寛 (テノール)
星野 聡 (バリトン)
大久保光哉 (バス)
踊り手 田中 泯と桃花村
 ヴィーナス  ペトラ・ヴェルメールシュ
 アドニス  ジョージ・シュッツェ
 マルス  田中 泯
 牝馬  玉井康成
 牡馬  石原志保
 猪  菊島申倖

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndバイオリン:堀江、ヴィオラ:川崎、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:松崎、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:久保/植松 

感想
 
N響は、2001年が創立75周年と云うことで、何回か記念演奏会を予定しています。例えば、10月には音楽監督デュトワによるオルフの「カルミナ・ブラーナ」と桂冠名誉指揮者サヴァリッシュによるメンデルスゾーンのオラトリオ「エリア」が予定されています。そういう中で、新年の定期演奏会の始りに、記念演奏会の第一弾として、日本ではまだ決して有名とはいえないが21世紀の世界の指揮界の期待の星である準・メルクルの指揮でヘンツェの現代オペラを持って来たところに、N響の意欲を感じます。

 とはいえ、このオペラは、決して聴き易いオペラではありませんでしたし、構造が複雑で、一聴して内容が見渡せるようなものでもありませんでした。オペラの基本的な解説は、N響のホーム・ページに載っていますので、そちらをご参照下さい。

 オペラの主題が三角関係ということがありまして、全体が3を基準に構成されています。歌手が3人で、それぞれに一つ一つのオーケストラパートがつく。オペラの構造も「神話世界」と「人間世界」そしてそれらを繋ぐ「語り」という関係です。3人が3部に分かれるので、物語も音楽的にもポリフォニックで、その重層構造を見渡すことが私には出来ませんでした。私は、オペラを見るとき、あまり字幕を見ないほうだと思うのですが、今回は字幕を見ないとどのような場面なのかよく判りませんでしたし、字幕を見ると、舞台の場面がすぐ変ってしまうので、特にそのように思うのかもしれません。

 又、神話世界と神話に関係する動物の世界は踊りで表現されるわけですが、踊り手が全てマスク(仮面)をつけて踊るため、その表現は、完全に肉体による表現になり、表情や身体の細やかな動きの助力を得ることは出来ないものとなっていました。その辺もオペラに入りこめなかった一因かも知れません。

 歌と演奏に関しては、決して悪くなかったと思います。表現の妥当性と云う事に関しては、上に述べたような理由で語れるような立場には無いのですが、ただ音響という点に限ってみれば、3人の歌手もなかなかいい声を出していました。特に、終盤におけるクリス・メリットの声は出色のものがあったと思います。二期会メンバーによるマドリガルの合唱もよいものがありました。N響の演奏も中々よかったように思います。オーケストラを3つに分けて配置しているのですが、それぞれのパートの弦楽器奏者が各、ヴァイオリン4、ヴィオラ3、チェロ3、コントラバス1の構成で、弦の響きが割りと艶やかだったこと、打楽器がソプラノに3人、テノールに3人、バリトンに5人割り当てられていて、打楽器が全体の緊密化に有効に働いていたと云うことを付記しておきたいと思います。

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2001年1月27日 第1426回定期演奏会
指揮:準・メルクル

曲目: 湯浅譲二 クロノプラスティックU−E.ヴァレーズ頌−
    モーツァルト ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491 ピアノ独奏 イングリード・ヘブラー
    ドヴォルザーク 交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界から」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:小野(富)、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:磯部、バスーン:客演、ホルン:樋口、トランペット:津堅、トロンボーン:神谷、チューバ:客演、ティンパニ:百瀬

弦の構成:16型、モーツァルトは12-10-8-6-5。

感想
 今日は東京では大雪。家内からはこんな日に行くの?と言われましたが、行って正解。至福の時を過ごすことが出来ました。特に「新世界」。圧倒的でした。私が今まで実演で聴いた「新世界」の中で最高の演奏でした。
準・メルクルが実力のある指揮者であることを再認識しました。このようなセンスのある指揮者をこれから何十年も聴くことが出来ると思うと、同世代の人間に生れたことの幸せをおもいます。

 湯浅譲二の「クロノプラスティックU」。私には初めての曲です。1999年に岩城宏之指揮の東京交響楽団により初演されています。今回のN響初演に合わせて、改訂がなされているそうです。例によって初耳の曲なので、演奏の良し悪しは判りません。印象としては、ヴィブラフォンとシロフォンとチェレスタの音色の上に管弦楽が乗っているようでした。管弦楽も音が幾層にも重なり合って、奇妙な調和と破綻とを繰り返しているようでした。メルクルの指揮は実に柔らかく、精緻なガラス細工を作るかのように丁寧に指揮をしていたのが印象的でした。

 モーツァルトは評価できる演奏ではなかったと思います。まずヘブラーの演奏に問題がありました。指に均一に力が入らないようで、音色が美しくない。ヘブラーが考えているモーツァルトがあるらしい、というところは聴いていてわかるのですが、それを十全に表現できる技術が無いという感じです。ヘブラーをかつて何度か聴いていますが、今回の演奏には明らかな衰えを感じました。全般にテンポが遅いのも問題でしょう。あまりにピアノのテンポが遅いため、オケが待ちきれず、ずれてしまった所が少なくとも2箇所ありました。メルクルはピアノをサポートしようとする気はあったようですが、付けきれなかった、というところでしょうか。

 「新世界」は最初に書いたように名演でした。一寸独特の演奏でしたが、メルクルの個性が光っていて素敵でした。まず、テンポがダイナミックで、速い部分と遅い部分とのめりはりがきちんとついていて好感が持てました。特に遅い部分の情感になんとも言えない色気がありました。第二楽章の有名なイングリッシュホルンの旋律を支える伴奏の音色が綺麗で感心致しました。全体にはメロディーだけではなく内声部がよく聞こえ、全体としてボディのある演奏になっていたと思います。メルクルの指揮は、「新世界」をどう演奏するのかというビジョンが明確にあり、それに沿ってオケをドライヴしようとしたものです。一つ一つの細かな処理が丁寧で、N響の機能性とよくマッチしていました。

 ところで、今日で第一ヴァイオリンの前澤均さんが定年のために舞台をおります。花束贈呈と第一ヴァイオリンの仲間の拍手、よかったと思います。

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2001年2月10日 第1427回定期演奏会
指揮:シャルル・デュトワ

曲目: ショスタコ−ヴィチ 祝典序曲 作品96
    ショパン ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 作品11 ピアノ独奏 エマニュエル・アックス
    リムスキー=コルサコフ 交響組曲「シェエラザード」作品35

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:川崎、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:客演、ホルン:樋口、トランペット:関山、トロンボーン:神谷、チューバ:多戸、ティンパニ:百瀬

弦の構成:16型、ショパンは14型。

感想
 デュトワのレパートリーによるポピュラー向け選曲という趣のつよいコンサートでした。天気がまずまずで比較的暖かだったこともあり、お客さんの入りは上々でした。
デュトワは全体としては手堅くまとめておりましたし、決して悪くないコンサートだったと思います。でも、一方で、今一つ何かに欠けたコンサートだったと言うことも出来そうです。

 ショスタコの「祝典序曲」は金管のファンファーレで始る楽しい曲。祝典の晴れやかな気分を彷彿とさせる曲でした。デュトワ/N響は、管をしっかり鳴らして、この晴れやかな気分を表現していたと思います。

 ショパンのピアノ協奏曲。デュトワがこの曲を取り上げるのは3回目だそうですが、Tは、96年12月のアルヘリチとの共演を思いだします。このときのアルヘリチは最上では無かったかもしれませんが、さすがアルヘリチと言うべき名演を聴かせてくれたと思います。少なくとも、ショパンのピアノ協奏曲第一番の枠を突き破った名演でした。それと比べると本日のアックスは、もっと上品なショパンでした。枠の中は、かなり色々なことをやっていましたが、枠を突き破るようなことは決してしない、という演奏だったと思います。ペダルを多用して、彫りの深い響きを作り上げて立体感に溢れていましたし、リタルダンドをうまく使い、ポエジーの表現にも優れたものがあると思いました。そういった大胆な処理があった割には、全体でみると非常に整った演奏だったという印象です。演奏の面白さが、曲の枠組の中に収まり、食い足りない。言い方を変えれば、一寸眠くなるような演奏でした。

 「シェエラザード」。これは良い演奏でした。でもブラボーは飛びませんでした。その理由は、Tは、ヴァイオリンソロの色気が一寸足りなかったからではないのか、という気がします。ヴァイオリンソロは、コンマスの篠崎さんがやったのですが、全体に音が小さめでNHKホールの3Fで聴いていたTには、散漫で一寸頼りなげに聞こえました。NHKホールの広さに問題があるのでしょうが、それに転化することなく、NHKホールの音響効果を考慮した演奏をして頂きたいと思います。それに比べチェロソロの木越さんの演奏は、Tの耳にもよくきこえました。「シェエラザード」は木管とホルンのソロが多数出てきますが、それらは概ね好演でした。磯部さんのクラリネット、特によかったと思います。

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2001年2月15日 第1428回定期演奏会
指揮:シャルル・デュトワ

曲目: ベルリオーズ 劇的交響曲「ロメオとジュリエット」 作品17
     アルト独唱:ダグマル・ペツコヴァ
     テノール独唱:ゲルト・ヘニング・イェンセン
     バス独唱:ジル・カシュマイユ
     合唱:二期会合唱団

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:山口、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:客演、チェロ:木越、ベース:池松、フルート:神田、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:松崎、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:客演、ティンパニ:百瀬

弦の構成:16型

感想
 
劇的交響曲「ロメオとジュリエット」、この作品は、大編成の合唱と3人のソリスト、そして編成の大きなオーケストラが付くので、滅多にやられません。N響では93年の12月にインバルの指揮でやっているのですが、そのときは丁度忘年会と重なっていて行けず、私は初めての実演経験となりました。

 ベルリオーズを弾いた時のデュトワはさすがだと思います。全体としては、どの様に聴かせるかというビジョンが明確でメリハリの効いた演奏というべきでしょう。ただ、かなり個々の楽器の演奏は大変なようで、「大舞踏会」のシーンなどは、弦のメンバーが必死に弾いていることが有り有りと分かり(表情が皆険しい)、もっと愉悦感のある演奏を好むTにとっては、一寸息苦しかったです。その他にも管の小さいミス等もあったようですが、音楽全体としてみた場合、かなり良い演奏だったと思います。この曲は中・低音部が充実している作品ですが、ビオラ、チェロ、クラリネット、ファゴット、ホルン等が良くがんばっていたと思います。

 もう一つ特筆すべきは、独唱・合唱の充実です。ソロを受け持った3人何れも良い声でした。3人とも皆一寸陰影のある声なのですが、そこが、この悲劇にマッチしていて素敵でした。ペツコヴァは、一寸深みのある暖かい音色のアルトで中音部に厚い曲の雰囲気と一体となって良好でした。イェンセンも艶やかな綺麗な声の持ち主で、表現も多彩でした。でも私が一番気に入ったのはバスのカシュマイユでした。本来はバリトン歌手のようで低音部のコントロールに今一つのところがありましたが、それ以外では力強く、艶のある声で魅了してくれました。大変結構でした。合唱の二期会も非常に優れた演奏でした。日本のオペラ団体の合唱団は国際的に見ても良い線入っているわけですが、男女各58人、感情豊かに演奏したと思います。

 本日はテレビの録画も同時に行われており、集音マイクがあちらこちらに置かれていました。更に、3人の歌手の前にもそれぞれ集音マイクが置いてありました。集音マイクは録画あるいはFM放送のために置いてあったとは思いますが、もし、会場にマイクで拾った音を流していたとすれば、それはそれで結構ではないかと思いました。それだけ歌手たちの声が良くきこえたことになるのですから。

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2001年4月13日 第1430回定期演奏会
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

曲目:ヤナーチェク カンタータ「永遠の福音」(JWV/8)
     ソプラノ独唱:菅 英三子
     テノール独唱:ペーター・シュトラーカ
         合唱:二期会合唱団(合唱指導:三沢洋史)
   ブルックナー ミサ曲第3番ヘ短調
     ソプラノ独唱:菅 英三子
      アルト独唱:加納 悦子
     テノール独唱:ペーター・シュトラーカ
       バス独唱:マーティン・スネル
         合唱:二期会合唱団(合唱指導:三沢洋史)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:川ア、チェロ:藤森、ベース:池松、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:樋口、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:客演、ハープ:客演、オルガン:客演

弦の構成:14-14-10-8-6

感想
 
ヤナーチェクのカンタータとブルックナーのミサ曲、これは、かなり通好みの、というより通も尻尾を巻いて逃げ出しそうな選曲です。NHKホールの3階席はガラガラでした。私もヤナーチェクは全く初めて聴く曲でしたし、ブルックナーのミサ曲も実演は初めてです。ちなみにヤナーチェクはN響初演(日本初演かもしれない)、ブルックナーは92年にシュタインが取り上げて以来、N響二度目の演奏です。

 聴き慣れない曲で構成されたプログラムの演奏会を聴くのは中々勇気がいります。私も正直言って、一寸足が引けた部分もありました。でも、行ってよかった。今日の演奏は、ブロムシュテットとNHK交響楽団のコラボレーションが非常にうまく行った一例だと思います。ブロムシュテットとN響との関係は、割合スリリングなようで、かつて聴いた演奏会の中には、指揮者のブロムシュテットとN響メンバーとの間がギクシャクしているのではないかしら、と思わせるような経験をしたこともあります。しかし、本日の指揮者と演奏者との間は中々よい緊張関係が保たれていて、非常によい演奏会でした。

 ヤナーチェクは、全く初めて聴く曲で、演奏の良し悪しはわかりません。キリスト教の世界を歌った割りには東洋的な雰囲気もあり、ヤナーチェクらしい音楽だな、と思いました。ソリストはテノールが好演。スッキリした抜けた声で、魅力的でした。菅は一寸声がこもった感じで、後述のブルックナーと比べると今一つでした。二期会の合唱はいつもながら大迫力。堀さんのヴァイオリン独奏も美音で結構でした。

 ブルックナーは秀演でした。まず歌がよかった。菅さんが前曲とはうって変わっての好演でした。非常にピンと張った声で、高音の抜けもまずまずでした。加納さんはボディのあるしっとりとした声で魅了してくれました。テノールのシュトラーカは、ヤナーチェクより落ちますが、よい演奏でしたし、バスのスネルは、部分部分での表情が多彩でクレバーな歌唱でした。二期会の合唱は女声47名、男声33名の構成でした。めりはりの利いた合唱でした。精妙な綺麗な演奏というよりも力強さが前面に出る演奏で、その一寸野暮ったい感じが、この曲に合っていてよかったと思います。特にグローリアの最後の盛り上がり、クレドのダイナミクス。

 ブロムシュテットの指揮は、丁寧でバランス重視のものだと思いました。弦の配置を第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンとを左右に振り分け、共に14人ずつ配置するというやり方をしたわけですが、このような配置自体がバランス志向性を感じさせます。N響のメンバーもブロムシュテットの意志を汲み取り、丁寧に演奏したように思いました。特に印象的だったのは、コンマスの堀さんとヴィオラの川アさんのソロ。この時は、木管が伴奏をつけたのですが、この木管の伴奏もよかったです。

 最後に今月からファゴットの水谷上総さんが首席奏者として入団され、今回より演奏されていたことを追記しておきます。

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2001年 4月28日 第1432回定期演奏会
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

曲目:ハイドン/交響曲第86番ニ長調 Hob.T-86

   マーラー/交響曲第4番ト長調
     ソプラノ独唱:中嶋彰子
     

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:村上、ヴィオラ:小野(富)、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:松崎、トランペット:関山、ティンパニ:久保、ハープ:客演

弦の構成:ハイドン 10-10-8-6-4
     マーラー 15-15-12-10-8

感想
 
ゴールデンウィークの初日がN響というのは中々乙なものです。土曜のマチネで、プログラムも比較的聴き易い2曲ということでお客さんの入りも上々で、よい雰囲気の演奏会でした。

 ハイドンの86番の交響曲は、いわゆる「パリセット」の中の一曲です。ハイドンチクルスでもあれば別ですが、通常のコンサートで取り上げられるハイドンは、ほとんどロンドンセットの中の作品で、N響定期演奏会でパリセットの作品が演奏されるのは94年デュトワが第82番「熊」を演奏して以来のことです。86番は、パリセットの中でも最大の規模を誇る作品で、演奏効果も優れている充実した作品だと思うのですが、N響では88年以降の定期演奏会では一度も演奏されておりませんし、それ以前の定期演奏会でも取り上げたことがあるのかしら。私が実演を聴いたのは、今回が初めてです。

 演奏は、あまり良くなかった、というのが正直なところです。音楽のもつダイナミズムは、十全に表現されていたと思うのですが、響きが揃っていないのです。弦のボウイングが微妙にずれており、音が濁って聞えます。特に緩徐楽章で息切れしている部分もあり、一寸不満です。私は、ハイドンの交響曲は律儀に弾いてくれた方が面白いことが多いと考えています。楽譜に書いていないことをいろいろやろうとするよりも、楽譜にしたがって精妙に弾く、その方が曲の持つ好ましい側面がはっきりと表出するし、音も揃って綺麗。ブロムシュテットはそういった精妙主義よりも曲の持つダイナミズムを前面に押し出したかったのかも知れません。

 マーラーは一転して秀演。私はN響でエサ・ペッカ・サロネン、広上淳一、スラットキン、プレヴィンの指揮するマーラーの4番を聴いていますが、今回の演奏は、広上の名演に次ぐぐらいの良い演奏だったと思います。

 マーラーの4番は1時間弱ぐらいで演奏されることが多いと思いますが、本日は1時間強、ゆっくり目の演奏でした。響きがいつも聴くマーラーとは異なっていました。ブロムシュテットは、マーラーをゆったりとかつ豊かに弾きたいという意図があったと思います。その意図が聴き手に分るような演奏で、よかったと思います。全般に悠然とした演奏でしたが、めりはりがついていてダイナミックレンジの広いといってよい演奏だと思います。特に弦の響きが豊かで好調でした。良く歌った演奏と言ってよいかも知れません。木管も総じてよく、豊かな響きに魅了されました。コンサートマスターの篠崎さんはヴァイオリンを二本持ちこみ、ソロパートでは高く調弦したヴァイオリンに持ち替えて演奏していましたが、音色がはっきりしてよかったと思いました。

 弦の編成が15-15-12-10-8と変形で、第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンとが指揮者を中心に左右に分かれるオールドスタイルの並び方でしたが、この曲のように高い音の魅力をふんだんに示す曲では、バランスよく高音を聴かせるという意味で、こういった並び方も中々よいと思いました。

 ソリストの中嶋彰子は、高音よりも中低音に魅力がある歌手でした。リリックな声の魅力があってよかったと思います。ただし、NHKホールで歌うには、声量が足りない。三階席で聴いていると、その歌声が頼りなげです。マーラーは「大いなる喜び」を表現したかったのでしょうから、もっと強い声の持ち主に歌って頂いた方が、作曲家の意図にマッチするのではないかと思いました。

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2001年 5月11日 1433回定期演奏会
指揮:ハインツ・ワルベルグ

曲目: ブラームス 大学祝典序曲 作品80
    R.シュトラウス 最後の4つの歌 ソプラノ独唱 ブリギッテ・ハーン
    ブラームス 交響曲第3番へ長調作品90

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:小野(富)、チェロ:藤森、ベース:池松、フルート:中野、オーボエ:茂木、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:樋口、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:客演(首席奏者の百瀬氏が大太鼓を叩いていた)、ハープ:客演、チェレスタ:客演(OBの本荘玲子さん)

弦の構成:大学祝典序曲/最後の4つの歌 14型、 ブラームス 交響曲第3番 16型。

感想
 本年5月の指揮者は、最初プレヴィンが予定されていました。ちなみにCプログラムは、

武満徹作品/(未定)
ラヴェル/バレエ音楽「マ・メール・ロア」全曲
プレヴィン/オペラ「欲望という名の電車」からの3つのアリア−日本初演−
プレヴィン/ディヴァージョンズ(2000)−日本初演−(国際モーツァルテウム財団委嘱)

されており、プレヴィンの自然だけれども豊かな音楽作りが大好きなTは、とても期待しておりました。しかし、眼疾のため来日不可能となりキャンセル。流石にこのプログラムをほかの指揮者が演奏するのは困難な様で、代役に立ったワルベルグは、ドイツロマン派の名曲3曲で演奏会に臨みました。

 ワルベルグも優れた指揮者です。今朝新聞のFM欄を見たら、「巨匠ワルベルグが指揮する」という風に書いてありました。しかし、これは正しい表現では無いと思います。むしろワルベルグは職人です。但し一流のマイスターです。私がこれまで聴いたワルベルグの演奏で印象深いのは、90年12月の「くるみわり人形第2幕」をメインにしたプログラムと、94年3月のテレサ・ベルガンサをソリストに迎えたオペラアリアを中心としたプログラムです。どちらも聴かせ所をうまく捕らえた名演奏で、特に後者は、ベルガンサの名唱もあいまって、私が聴いたN響の演奏の中でも印象深いものの一つです。

 そんな訳で、本日の演奏会、非常に楽しみにして行きました。結果は、細かい不満はあるのですが、非常に良質な演奏会でした。

 「大学祝典序曲」がN響の定期で取り上げられるのは久しぶりです。前回はプレヴィンが95年に取り上げています。プレヴィンの演奏の特徴は全く覚えていないのですが、悪くない演奏だったという風にメモが残っています。本日のワルベルグは、一寸早めのテンポで軽快に演奏でした。勿論水準以上の演奏だったとは思いますが、それ以上言うべきことはありません。

 「最後の4つの歌」、独唱のブリギッテ・ハーンの調子が今一つだったように思います。キャリアを見ると、ヴィオレッタ、ルチア、ドンナ・アンナ、ロザリンデ、ミミ、フィオルディリージ、元帥夫人、夜の女王、コンスタンツェ、とソプラノ役ならコロラトゥーラから一寸スピントのかかった役まで歌っている様で、多分、軽やかなピンと張った声の方だろうと思っていたのですが、逆にもやっとした感じの歌でした。もう少し情感をもって歌っていただけると良かったと思うのですが、歌唱自身に余韻が一寸足りなかったように思いました。声量が不足していて、声がオケに埋もれがちになるのも不満でした。
 しかし、オーケストラの伴奏は、バランス面を除けば素晴らしいものでした。「九月」におけるホルンソロ、「眠り行くとき」におけるヴァイオリンソロは、ドイツロマン派の最後の名曲を余韻をもって味あわせてくれたと思います。

 ブラームスの3番。一口で言えばごつごつした厳しいブラームスでした。ブラームスの3番は、ブラームスの4曲の交響曲の中で最もロマンチックで、絵画的作品で、優雅な表情で演奏されることが多かったように思います。それに対し、ワルベルグの解釈は、全体としてゆっくりとしたペースで、アクセントをはっきりさせたもの。決してきれいな演奏ではありませんでした。弦の音は終始ごつごつと響いていました。あの優美な第3楽章だって、例外ではありません。しかし、聴いていて充実感がありました。第1楽章では何だこれは、という感じでしたが、音楽が進むにつれ、これもありだな、と思うようになりました。第2楽章におけるフルート、クラリネット、ファゴットの情感がとても素敵でした。 

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2001年 5月18日 第1434回定期演奏会 

指揮:ハインツ・ワルベルグ

曲目: ブラームス ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77 ヴァイオリン・ソロ:ジョアン・クウォン
    ラフマニノフ 交響曲第3番 イ短調 作品44

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:川ア、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:松ア、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:多戸、ティンパニ:客演(久保氏が大太鼓を叩いていた)、ハープ:客演、チェレスタ:客演(OBの本荘玲子さん)

弦の構成:ブラームス 14型、 ラフマニノフ 16型。

感想
 今回のプログラムはプレヴィンが組んだものをワルベルグがそのまま演奏しました。ブラームスはともかく、ラフマニノフを演奏してしまうところが職人ワルベルグの真骨頂です。それでもさすがにラフマニノフは滅多に演奏しないようで、総譜を指揮台において演奏していました。

 ブラームスのヴァイオリン協奏曲は、すべてのヴァイオリン協奏曲の中で私が一番好む作品です。スケールが大きく壮麗で聴いていると気持ちのいい名曲ですが、かなりの難曲なのでしょう。ベートーヴェン、メンデルスゾーン、チャイコフスキーといったヴァイオリン協奏曲と比較すると演奏される回数は多くありません。N響では96年11月にクラウス・ペーター・フロールの指揮、サルヴァトーレ・アッカルドのヴァイオリン独奏で取り上げられて以来です。

 このようながっちりとした構成の曲は、力強い骨太の演奏が一般に好まれるようです。私もオイストラッフとかシェリングのレコードで育った口なので、骨太の演奏を評価するものなのですが、今回のクウォンの演奏を聴いて、このような抒情的な演奏も悪くないなあ、と思いました。クウォンは、決して力強い音を出しませんが、非常に美音でエレガントです。二の腕が結構太いのでそれなりに力強い演奏も可能なのでしょうが、今回は優雅さに徹していました。カデンツァはハイフェッツのものだそうですが、技巧と抒情とがマッチして聴いていて非常に気分の良いものでした。第3楽章の切れ味もよかったです。

 特記すべきはワルベルグの指揮です。前回の定期の荒々しいブラームスとは全く反対に、ヴァイオリン・ソロに合わせて、オケもエレガントに抑制して弾かせていました。南ドイツの明るい雰囲気が全体に漂っていたように思います。第2楽章のオーボエから始まる木管合奏は、ヴァイオリンの優雅さとは一寸異質で、音の強さのコントロールが一致していませんでした。そこが一寸残念でした。

 ラフマニノフの第3交響曲は、93年フェドーセーエフのキャンセルによって小泉和裕が急遽代理で演奏して以来です。ワルベルグは、この曲を演奏会で取り上げるのは始めてだそうで、無理をしない中庸な演奏だったと思います。曲は、古いアメリカ映画のバックにでも流れそうな音楽ですから描写的に演奏したほうが良いのでしょう。めりはりがはっきりとしていました。

 第2楽章における、ホルンソロからヴァイオリンソロへの受け渡し、メリハリのついたスケルツォ、その辺が特によい様に思いました。

 ワルベルグの指揮は決して悪くはありませんでしたが、プレヴィンだったらどう演奏するのだろう。そこが興味の持てるところです。

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2001年 6月 8日 第1436回定期演奏会
指揮:シャルル・デュトワ

曲目:ブリテン シンフォニア・ダ・レクイエム 作品20(1940)
   プーランク スターバト・マーテル(1950) ソプラノ独唱 蔵野蘭子、合唱 東京芸術大学
   オネゲル 交響曲第三番「礼拝」(1945-1946)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:山口、2ndヴァイオリン:村上、ヴィオラ:川崎、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:松崎、トランペット:津堅、トロンボーン:客演、チューバ:客演、ティンパニ:久保、大太鼓:植松、ハープ:客演、ピアノ:客演

弦の構成:16型、プーランクは14-14-10-8-6。

感想
 デュトワの趣味が反映された実に興味の持てるプログラムです。三曲とも第二次世界大戦との関わりがあり、どれも鎮魂がテーマとしてあり、現代音楽のロジックとは無縁のところに居りながら、じつは現代を反映している、とエスプリが利いています。しかし、これらの作品でプログラムが組まれることは少なく、「
シンフォニア・ダ・レクイエム」と「スターバト・マーテル」は1988年以降取り上げられてはおらず、オネゲルも94年にプラソンが取り上げて以来です。私は、「スターバト・マーテル」は完全に初耳の曲。シンフォニア・ダ・レクイエム」も実演では初めての曲ですし、オネゲルもプラソン指揮の公演を聴いているだけです。聴き慣れない曲を聴くと、どうしてもポイントを把握せずに聴いてしまい、感想が散漫になってしまいます。

 とはいえ、全体としては上質の演奏会だったと思います。ブリテンのシンフォニア・ダ・レクイエム」は、日本の紀元2600年祝典の為に委嘱された作品。でも、祝典向きの明るさは全く無く、日本大使館が受け取りを拒否するのもさもありなんという全体に重い作品です。デュトワの演奏は、皮肉な雰囲気に包まれたものでした。これが、作品そのものに内包されていたものか、それともデュトワの味付けなのか、そこがよく分らなかったのですが、ブリテン初期の頂点の作品を楽しむことが出来ました。

 「スターバト・マーテル」はオケが非常に抑制されて繊細な演奏でした。小さい音で繊細に演奏するとき、演奏のあらが見えやすいものですが、本日のN響はミスが目立たず、総じて満足行く出来だったと思います。東京芸大の合唱は、男50、女58の108人で、最初は荒々しさが先に立ち、綺麗に作られた声ではなかったのですが、次第に調子を上げ、後半は情感のこもった優れた演奏だったと思います。ソプラノ独唱の蔵野さんは、一寸声が細い感じでしたが、スピントの利いたきれいな声で、3階の客であった私も十分楽しむことが出来ました。

 オネゲルの「礼拝」も優れた演奏だったと思います。デュトワお得意の曲と云うこともあるのでしょうが、間然としたところの無い演奏でした。第一楽章における緊張感、特に小太鼓のリズムが楽しめました。第二楽章は緩徐楽章ですが、チェロ・パートのメロディを演奏する部分の美しさと、ピアノのリズムの良さを特記しておきましょう。ニ楽章終了時におけるフルート・ソロ。中野さんの美音を楽しめました。第三楽章はホルンで奏でられる主題と、フィナーレのヴァイオリン(山口)、チェロ(藤森)、ピッコロ(エキストラ)の掛け合いがとても素敵でした。

 今回の三曲は一本の線で繋がれた演奏のように思いました。時代が1940年代ということもあり、どの曲も非常に視覚的でした。別の言い方をすれば、映画音楽的、と言ってもよいかもしれません。また、別の側面をいえば、とてもキッチュな感じがしました。作品がどれも素直じゃあない。オネゲルの作品など、第二次大戦直後に作られたものなのだから、戦勝国民としてもっと開放的な作品に仕上げてもよいように思うのですが、そういった気持ちは裏に隠して、人間の苦悩を直接音楽で描く。そういった作品の持つ胡散臭さをデュトワはうまく引き出していたように思います。

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2001年 6月23日 第1438回定期演奏会
シャルル・デュトワ指揮

曲目:プロコフィエフ ピアノ協奏曲第1番変ニ長調 作品10 ピアノ独奏 イェフィム・ブロンフマン
   ペンデレツキ コンチェルト・グロッソ-3つのチェロとオーケストラのための(2000/2001)世界初演/N響委嘱作
    チェロ独奏 トルルス・モルク、ハンナ・チャン、ボリス・ペルガメンシコフ
   ベートーヴェン 交響曲第5番ハ短調 作品67

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:堀江、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:北島、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:樋口、トランペット:津堅、トロンボーン:客演、チューバ:客演、ティンパニ:久保、ハープ:客演、チェレスタ:客演(OBの本荘玲子)

弦の構成:協奏曲は14型、交響曲は16型(ホルンのみ倍管)

感想
 2000/2001年シーズンの掉尾を飾る演奏会。梅雨の真っ最中な訳ですが、天候にも恵まれ、お客さんの入りも抜群。三階席はほとんど空席がなかった感じでした。色々な意味で充実していた演奏会だったと思います。最初公表されたプログラムでは、プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番、チャイコフスキーの交響曲第4番、その他となっていたものが、ストラヴィンスキーの木管楽器のための協奏曲、プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番、「運命」に変わりました。更に、2000年12月に初演が予定されていたが、作曲が遅れたため延期されていたペンデレツキの新作が初演されることになり、今回の3曲に最終的にまとまった訳です。更に、当日になって、ペンデレツキとプロコフィエフの順番が入れ替わって、上記のような演奏順となりました。

 演奏は総じて高水準のものでした。

 プロコフィエフのピアノ協奏曲第1番は、あの20世紀最高のピアノ協奏曲である第3番の先駆けとして十分魅力のある作品ですが、滅多に演奏されません。私は実演では初めて聴くことが出来ました。ブロンフマンは硬質なタッチで、響きをほとんど濁らせることなく、きらびやかに演奏しました。指が良くまわり、滑らずに演奏するので、カチッとした演奏に仕上がりました。N響の伴奏もピアノとがっぷり四つに組んだ颯爽としたもので、気持の良いものでした。本日のこの演奏は、曲の魅力を聴衆に示すのに打ってつけの、胸のすくような名演だったと申し上げたいと思います。

 ペンデレツキの新作は、最初「3つのチェロのための協奏曲」としてアナウンスされていたものですが、最終的に「コンチェルト・グロッソ」という名前で世に出されました。言うまでもなく、「コンチェルト・グロッソ」とは、バロック時代の「合奏協奏曲」を示すものですが、この新作も雰囲気がバロック時代の通奏低音にも通ずるところがあって、面白く思いました。

 単一楽章約35分の大作で、一度聴いただけでは曲の構成を理解するには至りませんでした。暗い、不安な雰囲気が全体のモチーフにあるように思いましたが、作曲家の意図はどうだったのでしょうか。私は、全体を興味深く聴くことが出来、退屈しませんでした。三人の独奏チェリストは、それぞれ微妙に音色が異なり、それが重なると音が立体的に広がり、面白く聴けました。ソリスト達は皆、非常に上手に演奏していたと思うのですが、それぞれ特徴があり、モルクはきれいな音色が印象深く感じ、チャンは、情感に説得力があるように思いました。オーケストラは、木管楽器と打楽器とがよく健闘しているという印象を持ちました。カーテンコールで褒められたのは、オーボエ、ホルン、フルート、マリンバでした。打楽器は7人で12の打楽器を演奏していましたが、私の見たことのない楽器も含まれており、それらの使用がまた印象的でした。

 滅多に聴けない協奏曲と新作の後、ポピュラー名曲中の名曲である「運命」を聴かせられると実にホッとします。でも演奏は、ドイツ的重厚さを排した、デュトワらしい切れのいいものでした。細かいところではポカもあり、満点の演奏という訳ではないと思うのですが、楽章毎の描き分けが明白で、メリハリの効いた演奏でした。第1楽章は、アレグロ・コン・ブリオのコン・ブリオを意識した演奏。第2楽章は、ゆっくりと丁寧に演奏し、そして、スケルツォの切れ味、フィナーレのスピード。いわゆるコクのある演奏ではないのですが、音が立体的であり、管の響きがストレートであり、曲の構造がよく見える演奏だったと思います。私は大いに満足しました。

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