つむぎ唄

書誌事項

つむぎ唄
庄野潤三著
連作長編小説
1962年8月〜1963年7月 雑誌「芸術生活」に連載
1963年7月20日 講談社刊

紹介

 庄野さんが、長年家族を題材にして小説を書かれていたことは周知のとおりですが、初期の作品は、家族に題材をとっていても、技巧的です。「つむぎ唄」は、近所に住む3人の父親と家族の物語です。三人の父親とは、画家の毛利、大学教授の大原、そして放送局勤務の秋吉ですが、阪田寛夫氏の「庄野潤三ノート」によれば、毛利は庄野氏、大原は作家の小沼丹、秋吉は作家の吉岡達夫をモデルにしているそうです。庄野さんは、石神井時代、近所に住む両氏と「町内会」と称して、よく酒盛りをやったそうです。

 この三人の父親は、それぞれ奥さんがいて子供がいます。毛利には、中学校三年生の敦子と小学校五年生の和男と小学校一年生の正次郎がおります。大原には大学生の育子と中学生の晴子がいます。そして、秋吉家には高校二年生の泰子と小学校四年生の弘夫がいます。この三家族の交流とそれぞれのエピソードが交互に描かれます。

 第1章は、毛利が主人公。娘の敦子のピアノ発表会に大原や秋吉がやってきて、三人で父親の子供たちへの関心を語ります。第2章は、主人公が大原にかわります。大原の家を訪ねた毛利との園芸談義です。第3章は、秋吉一家の海水浴が描かれます。やせているお父さんと息子、それを威圧するようなグラマーな娘。浜辺で食べる桃。漁師さんたちの海岸整備。第4章はまた毛利が主人公に戻ります。野球を見ている時の態度、夫婦の受験勉強談義。親子で行ったけれども、満員で見られなかった映画。第5章は秋吉の章。娘の泰子に来た、無記名の手紙にあたふたする秋吉夫妻。第6章は、大原が娘の晴子と飛行機で宮崎に出かける話。

 第7章は、毛利家で昨年は使わなかった掘り炬燵を出すお話。第8章は秋吉のサンパツの話。白髪が増えて来たことへの印象。ラジオから聞えてくる「カプリ島」。第9章は毛利家の鶏糞寒肥。そして、小学校の父親参観。第10章は、大原が娘の晴子の入学試験について行く話。第11章。秋吉家の宝塚見物。第12章。毛利家で行われる「町内会」、子供たちの進路も無事決まり、ホッとした父親達がフォアグラを肴に呑むビール。宴会の終りに家族が入って歌われる唱歌。「ロウ・ロウ・ロウヤ・ボート」の輪唱。

 徹底して父親の目からみた家族を描き、それ以外のものを捨象しています。だから彼らのすんでいる町が東京なのか大阪なのか全く分かりません。そうすることによって、三人の父親の目、そしてそれはみな庄野さんの目であるわけですが、による家族への思いが伝わってくるようです。

 ここに描かれたエピソードの多くは、庄野さん自らの経験のようです。海水浴、園芸、カプリ島、宝塚、輪唱、というのは、その後庄野さんが繰返し描いてきたお得意のアイテムです。しかし、この時庄野さんは、自らの経験を三人の父親に語らせました。このような意図的な創作は、庄野さん初期の特徴で、「夕べの雲」以降の中期作品とは、一線を画しているように思います。

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