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庄野潤三先生におかれましては、2009年9月21日10時44分に、老衰のため逝去されました。
愛読者の一人として、謹んでお悔やみ申し上げます。

先生は、1921年2月9日
 大阪府東成郡住吉村(現大阪市住吉区帝塚山)に父貞一、母春慧の三男(七人兄弟の四人目)として生まれました。。父は、教育者で帝塚山学院の創立者。兄英二は、児童文学作家として著名であります。

先生は、帝塚山学院小学部、大阪府立住吉中学校、大阪外語学校英語部を経て、九州帝国大学法文学部文科東洋史専攻卒業されました。学徒動員で海軍に入隊、少尉に任官されました。終戦後は大阪府立今宮中学校教諭、朝日放送ディレクターを経て、作家業に専念されました。

文学では、伊東静雄に師事しました。文学のグループとしては、いわゆる「第三の新人」の一人と目され、安岡章太郎、吉行淳之介、島尾敏雄などとの交友が知られています。

作品は、自分の周辺を題材にしたもの、及び、自分の取材(インタビュー)を構成して作品に仕上げたものの大きな二つがあり、主な作品には、1955年の芥川賞を受賞した「プールサイド小景」、1960年新潮社文学賞を受賞した「静物」、1966年読売文学賞を受賞した「夕べの雲」、1970年芸術選奨に選ばれた「紺野機業場」、1971年野間文芸賞を受賞した「絵合せ」、1972年毎日出版文化賞を受賞した「明夫と良二」、自らのアメリカ留学の体験を綴った「ガンビア滞在記」があります。1995年からは、晩年シリーズとして「貝がらと海の音」から「星に願いを」に至る11冊の作品を発表し、更に2006年には、自分の子供のころの体験をまとめた「ワシントンの唄」を発表しました。

「ワシントンの唄」を脱稿して間もなく、外出先で脳梗塞で倒れ、半年間の入院生活、その後自宅で療養しておりましたが、3年間の療養生活を経て、亡くなられたということです。

先生の文学は、若いころは、一見平和そうに見える家庭の不安を題材にした作品を書かれることが多かったのですが、川崎市の生田に移り住んだころから自然に対する慈しみと、父親的大きな視点によるどっしりとした構えが特徴となり、中期の傑作を生み出します。晩年は、「子供たちが独立した夫婦がどのようなことをよろこび、どんなことを楽しんで毎日を送っているかを書いてみたい。」ということで、穏やかな楽しさをずっと書き続けられました。

その流れは、大きくは不安定から安定への流れであり、偽りの幸福から真の幸福への流れでした。そのおかげで、新しい若い読者がたくさん出来、病気で倒れられるまで旺盛な創作意欲で作品を発表されたことは、大変喜ばしいことでありますし、読者としても大変嬉しいことでした。

また先生は、文章の達人であり、分かりやすく、しかしながら無駄のない文章は、まさに日本文学の宝でありました。

各種文学賞のほか、1973年日本芸術院賞、川崎市文化賞、を受賞され、1978年には日本芸術院会員に選ばれています。愛読者としては、文化功労者、文化勲章も当然と思っていたのですが、受章される前に逝去されたことはまことに残念なことであります。

それでも88年の人生、文学者として、あるいは家長として、十分のお仕事をされたものと思います。

庄野潤三先生、どうぞ安らかにお休みください。先生の残してくださった文学作品を、私は、これからも自分の心の糧として大切にしてまいりますことをご霊前にお誓い申し上げます。



2006年2月3日朝日新聞の記事はこちら

もし、今私が日本の現役の作家で五人を選ぶとしたら、北村薫、小林信彦、庄野潤三、高村薫、丸谷才一の5人になると思います。これを三人に絞るとすると、小林、庄野、丸谷の3人。そしてただ一人を選ぶならば、恐らく庄野さんになると思います。理由は単純で私の波長に一番しっくり来る。

日本文学の伝統である私小説に属する作品群ですが、そこに描かれる世界は、中期以降は特に、日本の普通の家庭の普通の生活が描かれていきます。特別な事件もなく、経済的には普通で精神的には豊かな生活が描かれて行きます。

そして、晩年になればなるほど自然体になり、素敵になってきます。近作の執筆方針は、私の見るところ、気に入らないことは書かない、と云うことのようです。書かれたことに関しても、優しいけれども厳しい作家の目がひしひしと感じます。文章のうまさは天下一品。相当推敲して書かれているのだろうと思います。このような駄文で紹介するのは恐れ多いぐらいです。でも、この庄野さんの良さが分からない人たちも実際はたくさんいます。

だからこそ、手にとってみて、その良さを感じられる人々をもっと増やしたいです。

初期の作品などはなかなか手に入らなくなっていると思います。でも興味の持たれた方は是非お読みください。

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