佐渡

書誌事項

佐渡
庄野潤三著
初 出 書き下ろし 1964年10月
出 版 1964年10月 学習研究社 「芥川賞作家シリーズ」の1巻として 

紹介 

 1964年4月6日より3日間、庄野さんは、NHKラジオの番組「人生読本」に出演します。この時、放送局の人は、例えば,「生活の味」というタイトルでまとまった話をして欲しいとリクエストをします。そのタイトルに対して、庄野さんはいろいろ考えられて、結局、『いま自分が好きなことを話せば、自ずとその人の感じている「生活の味」が出せるのではないだろうか』、と思い、梅干と鰹節と豆腐のことなら、何か話せる、としてその話をなさったのでした。

 このときの担当の方が非常に聴き上手な方で、庄野さんはあまり失敗することなくお話出来たのでした。このとき、庄野さんは原稿を書かず、メモのようなものを用意してお話したのですが、庄野さんはこのときのお話の内容を再構築して見せます。このお話ですが、梅干も鰹節もお豆腐も皆美味しそうにお話なさるのです。お母さんの作ってくれた鰹節と海苔のお弁当など、なんでもない表現ながらとても美味しそうです。また、ある友人(小沼丹だそうです)が教えてくれた、葱を刻んで、梅肉をを和え、少しお醤油をたらしたものに、庄野さんのアイディアで海苔と鰹節を加えたものは、実に美味しそうです。酒の肴としてもよく、御飯のおかずとしても美味しいというのがよく分ります。

 この放送に対する反響として、佐渡にすむ浦部怡斎という方から手紙が届きます。この浦部氏、77歳の老人で、佐渡で何十年来、毎朝食事前に梅干1個を食べて、そのため丈夫で、これまで医者にかかったことが一度ぐらいである、という元気のいい方です。彼の手紙に、庄野さんは『ある思いがけなさと同時に、それが私にぴたっとくるところがあった』と感じ、佐渡に行って、浦部氏に会おうと思い立ちます。五月のある日、庄野さんは上野を急行「佐渡」号で出発し、佐渡へ旅行するのです。

 後半はその佐渡旅行記です。庄野さんは、『日本の田舎の、県庁所在地の次かその次ぐらいの大きさの都市へ行ってみたい。それも格別の特色のない町である方がいい。』と思っています。その町で『家にいるのと少しも変わりのない生活をそこで送る』と思っていました。佐渡は、その意味からすると素人目にはちょっと観光地のようにも思うのですが、庄野さんにとっては、この条件にあったところだったのでしょう。

 結局、庄野さんの行くところは、佐渡の観光地とは一寸離れた田舎で、奥さんに先立たれて一人暮しをしている浦部怡斎氏の家なのでした。浦部氏は亡くなった庄野さんのお父さんと同じ年の生れですが、多分にお父さんとは違った人生を送ったはずです。唯の市井の人の人生に共感を持って、庄野さんはその後数多くのいわゆる「聞き書き小説」を書いていくのですが、浦部氏はその走りだったのかも知れません。

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