くろがね

 「くろがね」は庄野さん行き付けの居酒屋さんです。JR中央線(総武線)大久保駅南口から歩いて2〜3分。小滝橋通りから一寸入ったビルの一階にあります。80歳になった庄野さんもたまにいらっしゃる様で、群像新連載「庭の小さなばら」にも早速「くろがね」が登場します。


凡その店内の見取り図

 

山田さんの鈴虫」には、「くろがね」について次のように書かれます。

 蘭このみさんのリサイタルの帰りに寄った時のこと。(45-46ページ)

 あと、阪田と三人で大久保の「くろがね」へ行く。新大久保の駅まで戻って、そこから阪田の案内で「くろがね」へ。大阪生まれ大阪育ちの阪田が、私たちよりずっと東京の地理に詳しくて、こんなとき、いつも案内役になってくれる。
 「くろがね」には五時ごろ行きますとはがきに書いたが、早く着いたので、少し昼寝をさせてもらう。かおるさんが、「くろがね」をひいきにしておられた井伏(鱒二)さんがこんなときに愛用されたという籐の枕を出してくれた。これも井伏さんがよこになるとき、上にかけたという肩かけも出して、かぶせてくれた。
 四時になるのを待って、「ぼつぼつ出してください」とかおるさんに声をかける。
 私と亡くなった小沼丹は、「くろがね」が開店したはじめの頃からの常連客であった。いわば「くろがね」の創立同人のようなものである。井伏さんを中心にした飲む会がいつも「くろがね」で開かれ、みんなよく飲んだものだ。いつかそんな会の最中にみんなで寄せ書きをしたことがある。そのとき井伏さんは、
「ここを先途と飲む酒は」
 というようなことを書かれたのを思い出す。あっちでもこっちでも「お酒」という声がかかった。この飲む会のメンバーであった人たちも、大方いなくなったのはさびしい。

 日本青年館ホールでの宝塚歌劇団月組特別公演を観たあとのこと(59ページ)

 公演を観たあとは、大久保の「くろがね」さんへ行くことにして、はがきを出してある。終わるのが少し遅れたので、青年館ホールから「くろがね」さんに電話をかける。
 「くろがね」に着いたのは、九時であった。かおるさん、信子(しんこ)ちゃん、よろこんで迎えてくれる。いつもの料理を出してもらって、くつろいで頂く。ビール一本と「山陽一」二本。

 宝塚1000デイズ劇場での月組東京公演観劇後のこと(96ページ)

 「くろがね」は井伏さんがひいきにしておられた店で、亡くなった小沼丹と私は開店以来の常連客であった。ここでよく井伏さんをかこむ飲み会がひらかれた。そのメンバーの横田瑞穂さん(ロシア文学)も新庄さん、村上さん(フランス文学)もいなくなり、さびしくなった。創立同人ともいうべき私が、今はこうして宝塚観劇の後にときどき寄るだけとなった。畳の席のいちばん奥、壁に井伏さんの顔写真入りのポスターを貼った下が、わたしのいつも坐る席ときまっている。このポスターは、井伏さんの郷里の福山で、いつか井伏さんの追悼の展覧会がひらかれたときのものだ。
 はがきで知らせてあったので、定休日の日曜に店を開けてくれたかおるさん、信子ちゃん、うれしそうに迎えてくれる。いつもの料理を出してもらって、くつろいで頂く。

 この訪問は、庄野さん夫妻と長女のなつこさん、それに阪田寛夫さんの四人で行ったものですが、なつこさんのお礼状が載っています(102ページ)

 奥さまの看病で少しやつれていらした阪田さんも、「くろがね」さんでお酒が入ると、お顔の色がだんだんとよくなり、よかったですね。「くろがね」さんのお料理は、心のこもったおふくろの味で、身も心もポカポカになりました。かおるさんも信子ちゃんも何ともいえない、いい顔をしていて、くつろがせてくれます。井伏さんや小沼さんがお気に入りだったわけがよく分ります。お父さんが来ると、本当によろこんでもてなしてくれるんですね。壁に貼ってある井伏さんのポスターのお写真の笑顔がすてきですね。その井伏さんの写真の下で、お父さんも仕合せそうでした。本当にありがとうございます。

 他にも幾つか載っていますが、そこは省略して、宝塚1000デイズ劇場での雪組東京公演のあとのこと(230ページ)

 いつものように、井伏さんの顔写真入りのポスターのかかっている奥の部屋の壁の下に坐る。「くろがね」は、井伏さんのごひいきの店であり、亡くなった小沼丹と私とは開店以来の常連客であった。のれんの「くろがね」という字は、井伏さんがかかれたもの、ここで井伏さんをかこむ会がよく開かれた。そのメンバーの横田瑞穂さん(ロシア文学)も新庄嘉章、村上菊一郎さん(フランス文学)も小沼丹(英文学)も、皆さんあの世の人となった。今は、年に何回か、宝塚を見物したあと、私が、妻や長女と立ち寄るだけとなった。かおるさんと信子ちゃんがいつもうれしそうに迎えてくれ、もてなしてくれるのが有難い。
 鯖と大根の煮たものの小鉢のお通しから始まり、もずく、ごま奴、おでん、牛肉バター焼、かやくご飯と続くいつものお料理でくつろがせて頂く。「山陽一」は少し甘味があって、おいしい。
 かおるさんと信子ちゃんに、
 「八十になっても来るよ」
 という。宝塚のあと、「くろがね」へ寄って食事をするのが、たのしみ。店を出ると、大久保駅へ向う私たちの姿が横丁に消えるまで、かおるさんと信子ちゃん、店の前で手を振ってくれる。ありがとう。

 さて、管理人も先日はじめて「くろがね」さんを訪問致しました。写真から分るように、落ち着いた感じの居酒屋さんです。店を切り盛りするのは、かおるさんと信子さんのお二人。メニューは昔ながらの和食の小料理中心です。庄野さんの席は、私の訪ねた日には、他のお客さんが座っていましたが、その「井伏さんのポスター」は、ちらっと眺めることが出来ました。
 かおるさん、信子さん共に、初めての客であるにも拘らず、私に親切にして下さり、庄野さんのファンだというお話をしますと、とても喜んでくださいました。「波」がなかなか手に入らなくて、「うさぎのミミリー」を読めないという話をいたしますと、「波」の11月号を分けて頂きました。とてもアットホームな雰囲気のお店でした。
 私は、外でお酒を飲む趣味があまりないのですが、また、機会を見つけて行こうと思います。

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