けい子ちゃんのゆかた

書誌事項

「けい子ちゃんのゆかた」
庄野潤三 作
2005年4月30日発行
205ページ
新潮社刊 1400円(税別)
ISBN4-10-310612-3 
発表: 波2004年1月号〜12月号

紹介

 『貝がらと海の音』(1995年)から10年。夫婦の晩年をテーマにして続けてきた連作の第10作目が、この『けい子ちゃんのゆかた』です。新潮社(「新潮45」、「新潮」、「波」)、講談社「群像」、文藝春秋社「文学界」を交互に書きながら、『子供がみな結婚して「山の上」のわが家に二人きり残された夫婦が、いったいどんなことをよろこび、どんなことを楽しみにして生きているかを描く』テーマで続いていました。これは、本当に人気のシリーズで、内容は淡々として地味なシリーズだと思うのですが、文芸書としてはなかなか好調な売れ行きと聞きます。大変結構なことです。

 描かれているのは、2002年9月8日から2003年3月11日のほぼ6箇月。この間の老夫婦の日常が、自然体で描かれています。

 前作の『メジロの来る庭』の紹介で、私は次のように書きました。
 「庄野さんの『晩年シリーズ』の大きな特徴は、花や鳥のように一見変化が無いものと、子供の成長のようにどんどん変化していくものが、同じ視線で描かれていることだと思います。老夫婦の生活は、四季折々の習慣を取り入れながら例年の如く進みます(これは恐ろしいほどの繰返しです)が、ここにかかわってくる孫はどんどん成長する。そういう時の流れの中に、少しずつ変ってくる親子関係やおじいちゃんと孫の関係が面白く感じます。」

 基本的な感想は、この『メジロの来る庭』の紹介で書いた感想と全く一緒です。10作も続くと、その10年間の大きな流れがあることが次第と見えてまいります。庄野さんご夫妻は、80歳を超えても十分元気ですし、散歩をすると万歩計で二万四千歩も歩いてしまいますが、それでも、連作第一作の『貝がらと海の音』や第二作『ピアノの音』の頃と比較すると、書き方の変化は著しく、「歳々年々、人おなじからず」と思わずにはいられません。

 さて、今回の『けい子ちゃんのゆかた』では、西長沢に住む長男の長女で、小学5年生の孫・けい子ちゃんにスポットライトが浴びせられます。近所の氏神様のお諏訪様の秋祭りに着ていく浴衣の長さを、おばあちゃんが詰めます。けい子ちゃんはクラスで一番背が低いけれども、運動神経が抜群である、と紹介されます。勿論、生田高校一年の、このシリーズではもっとも精彩がある、フーちゃんも忘れてはいけません。庄野さんご夫婦は今回は、生田高校の文化祭に出かけて、フーちゃんの所属する吹奏楽部の演奏を楽しみます。

 恒例の宝塚観劇もあります。終わったとは大久保の「くろがね」に出かけます。大きなトラブルとしては、転んで顔を打った事故が上げられるでしょう。顔から血を出したそうですが、奥様の的確な処置で何もなく終わりました。実は老人の寝たきりのきっかけとして転倒事故は多いらしいのですが、普段の散歩のせいでしょうか、庄野さんは無事でした。よかった、よかったです。秋の大阪旅行も無事済み、お兄さんの英二さんの命日も、いつもの「かきまぜ」でしのびます。そうこうしているうちに、長女の長男の和雄さんのところに、庄野さんにしてみれば二人目のひ孫になる春菜ちゃんが生まれ、そして年末、お正月と続きます。

 イヴェントでないところでは、近所の皆さんとのお付き合いが続きます。まずは山田さん。ほかに室岡さんや藤代さん、相川さんといった皆さんとの変わらぬ交流が描かれます。庭の鳥のことも忘れてはいけません。むくやひよ、四十雀。メジロは、裏の雑木林が切り開かれてスーパー「いなげや」の工事が始まるといなくなりましたが、また戻ってくると信じましょう。

 まさに特にどうって言うことはないのですが、しっかりしていて内容の充実がわかる、まさに「かけがえのない生活」です。現在「群像」に連作の第11作目『星に願いを』が連載中ですが、庄野さんのお元気なうちはこの継続が途切れることの無いよう、期待して行きたいと思います。

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