絵合せ

書誌事項

絵合せ
庄野潤三著
短編小説集
初出

 絵合せ  群像  1970年11月号
 蓮の花  文藝  1971年1月号
 仕事場  新潮  1971年1月号
 カーソルと獅子座の流星群  文学界  1971年3月号
 鉄の串  群像  1964年2月号
 父母の国  婦人之友  1959年3月号
 写真家スナイダー氏  風景  1962年8月号
 グランド・キャニオン  文藝  1961年4月号

出版 講談社 1971年5月 

紹介

 「絵合せ」により、庄野潤三さんは野間文芸賞を受賞なされました。「絵合せ」は受賞にふさわしい傑作で、円熟期の庄野さんの短編小説の最高傑作ではないかと思います。

 庄野さんの長女、夏子さんは1970年5月に結婚しました。その直前の様子を「もうすぐ結婚する女の子のいる家族が、毎日どんなふうにして送ってゆくかを書きとめた小説」として結実させたのが「絵合せ」です。絵合せ、というと何となく風雅な遊びのように思いますが、実際は、和子(登場人物、夏子さんがモデル)が良二のために本を買ったとき、本屋の小母さんがくれたおまけで、札を三枚揃えると絵になる。それぞれ点数がついていて、その合計で勝敗を決める、というものです。この「絵合せ」は、折り畳まれた紙のままで、一箇月間机の上に置いてありましたが、ある日、大学受験生の明夫がこれを見つけて、鋏で一枚一枚切り離すと、「一回、やってみようよ」とみんなの居るところに持って来るのです。

 それが第二章の頭に続きます。

『この家族は、もうこれで四十日も「絵合せ」をしている。
 毎晩、九時半か十時ごろに−あとから帰った和子の食事が済み、片付けも終って一服していると、やがて明夫がズボンのうしろのポケットに「絵合せ」の札を挟むようにして、みんなの前に現われる。
 一回の勝負が、ちょうどお茶の時間ぐらいで済む。長くかからないところがいい』

 そして、この「絵合せ」は、

『五人でするのがちょうどいい。一人多くなると、欲しい札が 誰のところにあるか、当てるのが難しくなるし、反対に一人少なくなると、今度はすぐに分ってしまって、呆気なくなる。』

 ものだそうです。五人で遊ぶとちょうどいい遊びを、五人家族が四人に減る直前に見つけ出し、その最後の数ヵ月間を皆で慈しみながら楽しむのです。特に、和子が会社を辞めて、家に居るようになるころから、みんなの力の入れ方が変わってきます。このようなさりげない表現で、今まで五人で過ごしてきた家族の終りを描きます。作者も、描かれる家族も、ある切り取られた特別なひとときを、あからさまな感情をもって見ない。要するに普通に過ごします。普通に過ごす時のスケッチが、いつもリアルタイムで描かれて、そこを絵合せのゲームが繋いで行きます。そこが滋味深いと思います。

 この「絵合せ」は、色々な意味で計算尽された作品です。文章の味わい、内容のかろみ、登場人物の行動のそこはかとないユーモア、どれをとっても、ぎりぎりの線で見切って、調和させています。読みごたえのある作品だと思います。

 主篇についての感想が長くなったので、他は簡単に纏めます。

 「蓮の花」は、長女が結婚した後、庄野さんの家族と親戚の子供合せて7人が、ゴム草履を履いて、広島の親戚の家から、瀬戸内海の島へ遊びに出掛けた時のスケッチです。釣りとか泳ぎとか、旅行の本来の目的ではなく、宿屋のおばあさんだの、釣り舟の子供だの、一寸気にかかったものを描写する所に面白みがあります。

 「仕事場」。ウェディング・ドレスを仕立ててくれる仕立てやさんとの相談の会話と、金魚を常食にする熱帯魚の残酷さ。二つを並列に置いて、徹底して対象を削ぎ落してエッセンスだけで纏めた作品です。

 「カーソルと獅子座流星群」。家族を題材にした作品です。この家の計算尺は、彼が海軍で使っていたのを、長女の和子が高校三年のとき使い、続いて明夫の代になって行方不明になりました。それを、今度は良二のために、子供部屋のガラクタの中から明夫が探し出したのですが、ガラスのカーソルが消えていました。そこで、この兄弟は応急に、定期券入れに使っていたプラスチックケースをカーソルに仕上げます。この兄弟は、一寸したものを工作するのが得意のようです。そう言えば、庄野家の庭の鳥の餌台も子供達の作品じゃあなかったかしら。

 「鉄の串」以降は、それまで単行本に未収載の短編。「鉄の串」は、ビアホールでの会話。話されるのは、子供と三角ベースをやっていたとき、足を折った娘の話です。娘を連れていった病院で見た、工事現場で落下して怪我をした人との対比。微妙なずれのハーモニーが見事です。

 残りの三編は、庄野さんの「ガンビア」留学を題材にかいた短編です。

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