出世倶楽部

さわりの紹介

 間もなく年の暮れが来た。通信簿を頂戴して、学校が当分休暇になる。健一君と三好君と立川君は例によって全甲の居据わりだった。立川君はよく出来るけれど、三好君が抜けない。三好君も随分ふんばるけれど、健一君にはかなわない。三人はいつも同じ席次だ。為次郎君と森君はナポレオンの金言を応用して、力を出したり工夫をこらしたりしたのか、学校の帰りに、通信簿を開けてみて、ニコニコ笑っていた。
「為ちゃん、どうだい?」
と立川君が訊いた。村長さんのところの客間で仲直りをしてからは、お互いに出世倶楽部の会員だから、折合いがいい。
「栗飯ぐらいのところだよ」
「というと?」
「栗飯の栗の割合で、乙が入っている」
「勉強したかいがあるね。見せたまえ」
「栗飯もみんなが食った後だよ。この通りだ」
といって、為次郎君は通信簿を見せた。体操だけが乙だった。後は丙が行列していた。大将、やっぱり豆頁はよろしくない。
「森君、君はどうだったい?」
「僕は五目飯だ」
と森君は得意だった。
「それじゃ大分入っているな?」
「なあに、乙が二つに甲が一つさ。ちょっと見て貰おう」
「成程。おやおや。丁が一つあるじゃないか?」
「うむ。それだから五目飯さ。丁がある代りに、今まで取ったことのない甲が入っているんだから、やっぱりナポレオンは、嘘をつかない。来年はすっかり金言通りにやってみる」
「これなら村長さんから御褒美が貰える」
「君のを見せたまえ」
「僕はいつもと同じことだ」
「甲が並んでいるね。さすがは二宮金次郎だ。君をお手本にして、僕も勉強する」
「オリンピックの選手になるなら、やっぱり中学校へ行く方がいいよ。西洋に出かけるのに、英語が出来ないと困るから」

薀蓄

 出世倶楽部は、昭和12年1月号〜12月号の少年倶楽部に連載された少年小説。少年倶楽部にはトム君・サム君以来の連載となるが、日中戦争が始まったという時代背景もあって、その内容は、より子供達の向上心を鼓舞するようになっている。しかしながら、そこは英国風ユーモリストの佐々木邦であるから、そこに描かれる光景も非常に穏当である。

 舞台は地方の村。登場人物は、母一人に育てられている小西健一君。彼は、成績は非常に優秀だが、気の弱い少年。それに兄が町で自動車の修理工場をやっており、自分は将来自動車の運転手、ひいては日本のヘンリー・フォードを目指す三好君。大地主の息子の立川君。この三人が、恵比寿講の晩、名物村長韮見さんの家を訪ねたことから、出世倶楽部が発足する。
 韮見村長は前の大臣で村の出世頭、宇井さんと共に青雲の志を持ち勉強したことから、村の優秀な子供達の後見となりたいと念じ、出世倶楽部を後援する。立川君は、そこに、成績は振るわないけれども力自慢で将来力士を目指す為次郎君と、足が速く、オリンピック選手を夢見る森君を連れて来る。
 優等生と劣等性の間に一寸した軋轢はあるものの、村長は、全員を同じように扱い、最後は、為次郎君が相撲部屋の弟子になれることが決まるところで話は終わる。

 立身出世という言葉がまだまだ現実味を帯びていた時代の作品。子供達も向上心の塊である。しかし、佐々木邦は、子供達にただ一人だけ偉くなる出世を勧めることなく、グループ全員が自分の持ち味を生かして成長し、それぞれの道に進むことの素晴らしさを説いている。

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