少女百面相

さわりの紹介

「梅村さんのこと、私、仇討を考えているところよ」
と鹿の子さんは又梅村さんを問題にした。
「条件がついていますよ」
「何あに?」
「梅村さんのお話なら、もう御免蒙ります」
「私、明日言ってあげるわ」
「何て?」
「それを考えているのよ」
「私から聞いたって仰有っちゃ困りますよ」
「大丈夫よ。御迷惑はかけません」
「鹿の子さん、私、もう失礼しますわ」
「宣いじゃありませんか?まだ」
「でも」
「他のお話なら宣いでしょう?」
「はあ」
「頑固ね」
「私、ニ心なんかないんですけれど、同級生とは誰とでも同じように仲よくしたいと思いますわ」
「私だって然うですけれど、梅村さん丈けは例外よ。お父さんが銀行の頭取だって、威張らなくても宣いでしょう?」
「お父さんが知事さんだって、威張らなくても宣いでしょう?」
「あら!」
「然う言っているのよ、先方でも」
「私、いつ威張って?」
「然う誤解しているのよ」
「無論然うでしょう」
「両方でね」
「あら」
「本当よ。私、仲をよくするお話なら結構ですけれど、仇討の御相談ならもう御免蒙りますよ」
と京子さんはいつになく強硬だった。

薀蓄

少女百面相は、昭和7年1月号〜12月号の少女倶楽部に連載された少女向け小説。

少女倶楽部は大正12年創刊で大正15年には38万部印刷したという、当時の小学校高学年から女学生に圧倒的な人気を博していたものと想像される。とはいえ、当時の少女雑誌は誰にでも買える、というものではなく、ターゲットは中流以上の家庭の子女であったことは疑いない。当時の女学校に通う少女たちにとって、少女百面相の世界は正に等身大の世界だったものと思われる。

主人公は伊達鹿の子さん。お父さんは官吏で、日本中を転勤して歩く。現在は、ある地方の県庁の知事である(注記:第二次世界大戦前は、都道府県の知事は国家公務員で、身分は、大臣、次官、局長、に次ぐぐらいの地位)。お父さんは子供達に任地ゆかりの名前を付けた。鹿の子さんは奈良生まれだから、奈良の鹿にあやかってつけられた名前。お兄さんは静人君。静岡生まれ。

鹿の子さんは、同じ知事官舎に住む学務局長の娘、中島京子さんと仲がよい。二人とも成績優秀で、鹿の子さんは2番、京子さんは3番である。しかし、負けず嫌いの鹿の子さんにとって、一番の、地元の銀行の頭取の娘梅村純子さんは、何かと癪に障る存在である。その上、純子さんが鹿の子さんの名前の上に「馬」の字をつけるといいと話し合ったと聞かされて、更にカッとする。そんな諍いも、鹿の子さんが飼っている小鳥が逃げ、それに似た鳥が梅村さんの家に飛び込んだという偶然の出来事から急速に解消し、京子さんが嫉妬するほど仲良しになる。

やがて、内閣の交替による県庁役人の異動で、鹿の子さんと京子さんはともに東京に引っ越すことになる。梅村さんやクラスメートが送別会を開き、二人が汽車に乗って、その市を離れるところで終わる。

少女のかわいらしい諍いはあるものの、全体として非常にほのぼのとしたトーンで描かれる。鹿の子さんはきかんきの性格で、茫洋とした兄の静人君に負けないような子供であるが、それでも一貫したトーンはほのぼのである。戦前の未だ平和な時代の雰囲気がよく表れていると思う。

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