どくたーTの選ぶ佐々木邦ベスト10

 佐々木邦は、昭和初期の明朗ユーモア小説の書き手として文学史上名前を残している作家であり、確かにその範囲で沢山の作品を残しています。そのため、昭和初期の中流家庭、あるいは当時の新興勢力であったサラリーマンを題材にしたユーモア小説だけを書いた作家のように誤解されるのですが、彼の作品は幅広く、その内容も多彩です。異なった雰囲気の作品も数多いです。そのような彼の多様性を感じられるベスト10を選んで見ました。

 尚、以下のベスト10の中で現在書店で購入できる作品は「心の歴史」(みすず書房、2400円)のみです。それ以外は全て絶版か版元品切れです。御興味のある方は、図書館を御探し下さい。尚全ての作品が、1975年出版の佐々木邦全集に収載されています。

何故このような選択になったか?以下に選択の理由を記します。

 「いたづら小僧日記」は、邦の処女作で、過激なアナーキーな気分がある傑作です。何度も読み返していますが、主人公の太郎が暴き出す大人の欺瞞は、実に的確で、その笑いも格別です。佐々木邦の作品の原点でもあり、その内容の面白さを合わせると、まず第一にあげられるべき作品であると思います。

 「心の歴史」は、ある独身男性の自叙伝の形を取った小説です。佐々木邦の人生観がよく分かる名作で、翻訳もされました。このような作品を読むと、佐々木が単なるユーモア作家ではなかったことがよく分ります。

 「赤ちゃん」は、生れたばかりの赤ちゃんの目を通して家庭を見ようとする作品で、いわゆる佐々木邦調の作品です。しかし、作家生活50年を経ての最晩年の作品だけあって、作品の無駄を棄て切った文章に魅力を感じます。

 「苦心の学友」は、少年倶楽部連載の大人気作品です。伯爵家の若君の御学友として住みこむことになった正三君と若君の対照が生み出す笑いを楽しみたいと思います。

 「愚弟賢兄」は、昭和初期の佐々木邦を代表する作品。いわゆる都市中産階級の家庭を舞台にした作品で、兄と比較して出来が悪いと周囲からも言われ自分もそう思った主人公が、就職し、恋愛する様子が描かれます。

 「ガラマサどん」も又、昭和初期の佐々木邦を代表する作品です。しかし、家庭小説ではなくサラリーマン小説。ガラは悪いが情けに厚いビール会社のワンマン社長が主人公です。特別なストーリーであるわけではなく、基本的にエピソードの羅列ですが、そのエピソードから愛すべきガラマサどんの稚気あふれる人間性が浮かびあがります。

 「大番頭・小番頭」は、大学を卒業したけれども普通の会社に就職出来ず、老舗の下駄問屋に就職した青年が主人公です。この小番頭さん、主人と主人の奥さんと大番頭の三人に仕えなければならず、大変で困惑もします。苦心の学友の大人版という側面がありますが、主人公が青年と云うこともあって、味わいは異なります。

 「地に爪跡を残すもの」は、一種の教養小説です。従兄弟同志で成績もよく、学業でも恋愛でも、お互いをライバル視する二人の少年の成長。一人は早稲田に行って教授になり、もう一人は東大から政治家になる、という「末は博士か、大臣か」を描くような作品です。しかし、単純な立身出世物語ではなく、佐々木邦のシニカルな一面が投影されていて、そこが面白いところです。

 「村の少年団」は、田舎村を舞台とした少年小説。少年倶楽部連載作品です。佐々木邦は、田舎の子供を主人公にした作品をいくつか書いていますが、その中でも最も完成度が高い作品だと思います。

 以上9冊は文句なし。10冊目をどうしようか非常に迷いました。結局、この9冊と違った傾向の作品ということで、「奇物変物」を選びました。この作品は、作者の第六高等学校教授時代の経験が下敷きにあるようです。また若い頃漱石の「吾輩は猫である」や「坊ちゃん」を愛読した邦にとっては、邦版「坊ちゃん」を書くという意志もあったのでしょう。

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