オペラに行って参りました-2025年(その3)

目次

久しぶりの上演 2025年4月26日 藤原歌劇団「ロメオとジュリエット」(初日)を聴く
美しさと情熱と 2025年4月27日 藤原歌劇団「ロメオとジュリエット」(二日目)を聴く
子供向けは丁寧に 2025年5月6日 新国立劇場こどものためのオペラ劇場2025「オペラを作ろう、小さなエントツそうじ屋さん」を聴く
場末のヴォードビル・ショー 2025年5月9日 東京室内歌劇場スペシャルウィーク2025「Grüß Gott! Wien@せんがわvol.4 恋は優し、歌も優し」を聴く
10年以上ぶりの再会 2025年5月10日 「彩の音の世界」を聴く
お涙頂戴 2025年5月17日 新国立劇場「蝶々夫人」を聴く

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

      
2025年 その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 どくたーTのオペラベスト3 2025年
2024年 その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 どくたーTのオペラベスト3 2024年
2023年 その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 どくたーTのオペラベスト3 2023年
2022年 その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 どくたーTのオペラベスト3 2022年
2021年 その1 その2 その3 その4 その5 その6   どくたーTのオペラベスト3 2021年
2020年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2020年
2019年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2019年
2018年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2018年
2017年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2017年
2016年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2016年
2015年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2015年
2014年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2014年
2013年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2013年
2012年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2012年
2011年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2011年
2010年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2010年
2009年 その1 その2 その3 その4     どくたーTのオペラベスト3 2009年
2008年 その1 その2 その3 その4     どくたーTのオペラベスト3 2008年
2007年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2007年
2006年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2006年
2005年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2005年
2004年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2004年
2003年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2003年
2002年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2002年
2001年 その1 その2         どくたーTのオペラベスト3 2001年
2000年              どくたーTのオペラベスト3 2000年

鑑賞日:2025年4月26日

入場料:B席 3F 2列40番 6000円

会場:テアトロ・ジーリオ・ショウワ

主催:公益財団法人日本オペラ振興会

藤原歌劇団公演

歌劇全5幕、日本語字幕付原語(フランス語)上演
グノー作曲「ロメオとジュリエット」(Roméo et Juliette)
原作:ウィリアム・シェイクスピア「ロミオとジュリエット」
台本:はジュール・バルビエ/ミシェル・カレ

スタッフ

指揮 園田 隆一郎
オーケストラ テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ
合唱 藤原歌劇団合唱部
合唱指揮・副指揮 玉崎 優人
演出 松本 重孝
美術 増田 寿子
照明 成瀬 一裕
衣裳 前岡 直子
舞台監督 菅原 多敢弘
公演監督 星出 豊

出演者

ロメオ 渡辺 康
ジュリエット 光岡 暁恵
メルキューシオ 井出 壮志朗
ティバルド 工藤 翔陽
修道士ローラン 伊藤 貴之
ステファノ 山川 真奈
キャピュレット 坂本 伸司
ジェリュトリュート 高橋 未来子
パリス 相沢 創
グレゴーリオ 和下田 大典
ヴェローヌ大公 東原 貞彦
ベンヴェーリオ 勝又 康介

感想

久しぶりの上演-藤原歌劇団「ロメオとジュリエット」(初日)を聴く

 感想は二日目の後にまとめて記載します。

藤原歌劇団「ロメオとジュリエット」(初日)TOPに戻る

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鑑賞日:2025年4月27日

入場料:B席 3F 2列48番 6000円

会場:テアトロ・ジーリオ・ショウワ

主催:公益財団法人日本オペラ振興会

藤原歌劇団公演

歌劇全5幕、日本語字幕付原語(フランス語)上演
グノー作曲「ロメオとジュリエット」(Roméo et Juliette)
原作:ウィリアム・シェイクスピア「ロメオとジュリエット」
台本:はジュール・バルビエ/ミシェル・カレ

スタッフ

指揮 園田 隆一郎
オーケストラ テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ
合唱 藤原歌劇団合唱部
合唱指揮・副指揮 玉崎 優人
演出 松本 重孝
美術 増田 寿子
照明 成瀬 一裕
衣裳 前岡 直子
舞台監督 菅原 多敢弘
公演監督 星出 豊

出演者

ロメオ 山本 康寛
ジュリエット 米田 七海
メルキューシオ 市川 宥一郎
ティバルド 工藤 翔陽
修道士ローラン 久保田 真澄
ステファノ 石田 滉
キャピュレット 小野寺 光
ジェリュトリュード 山本 千鶴
パリス 相沢 創
グレゴーリオ 岩美 陽大
ヴェローヌ大公 東原 貞彦
ベンヴェーリオ 勝又 康介

感想

美しさと情熱と-藤原歌劇団「ロメオとジュリエット」(二日目)を聴く

 グノーは13のオペラ作品を作曲していますが、日本ではあまり上演される機会がありません。もっとも有名なのは「ファウスト」ですが、こちらもあまり上演される機会がありませんが、次に有名な「ロメオとジュリエット」になるともっと上演回数が少ないと思います。藤原歌劇団では2003年の本公演で取り上げていますが、それ以来の上演。それ以外でも上演は珍しく、私は2003年の藤原公演と2007年の東京オペラプロデュース公演に続く、三度目、18年ぶりの鑑賞になりました。

 ストーリーはシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」のお話をそのままなぞっていて分かりやすく、音楽的にも難解な感じは全くせず終始美しい音楽が流れるのでオペラ初心者にもわかりやすい作品だと思うのですが、実際は取り上げられない。その理由はフランス語で歌わなければいけないことと、5幕のグランドオペラ形式で書かれているので、ちゃんとやろうと思うと舞台装置にそれなりにお金をかけなければ様にならない、ということがあると思います。

 藤原歌劇団は、当初はしっかりした舞台を作ってしっかり舞台を作って歌うことを想定していたようですが、多分予算的な事情により舞台の上にオーケストラを上げ、その前で衣裳を着た歌手たちが演技・歌唱をするというスタイルに変えたようです。合唱はオーケストラの後ろに並べて、衣裳は黒、演技はせず歌唱だけというスタイル。合唱はその他群衆やキャピュレットとモンタギュー家の家来たちなので、そういった群集が舞台上にいないのは残念ではあるのですが、いわゆるセミ・ステージ形式になっていることで、いろいろ良かった点もあります。

 第一に園田隆一郎の指揮がしっかり見られたこと。もちろんオーケストラピットに入っていても指揮者の動きは観客席から感じることができるのですが、身体全体の動きを見ることは不可能です。今回は園田がどのように振って音楽づくりをしているのか、という点が明瞭に示されてよかったです。

 その指揮ぶりですが、基本ワルツの音楽だということだと思います。もちろん楽譜も三拍子で書かれている部分が多いのですが、指揮を見ていると、ワルツに載っているような振り方をしています。もちろんメリハリはついていて、攻めるところは攻めていますし、抑えるところは抑えているのですが、身体全体が音楽に合わせて踊っている感じで、その結果として紡ぎだされる音楽も全体的に美しく、ある程度抑制的で、メロディラインがはっきり聴こえる見事なものだったと思います。園田隆一郎が日本を代表するオペラ指揮者であることはよく知られていますが、その特性がよく現れた指揮ぶりだったと思います。

 そして、今回二日間ダブルキャストで聴いたわけですが、両日で指揮ぶりが微妙に違う。もちろん園田の中での音楽は一緒なのでしょうが、初日はどちらかというと美しさが際立つ演奏をしたし、二日目はやや情熱的な音楽づくりになっていたと思います。その違いは多分歌手たちとの関係性に由来する。おそらく歌手の歌唱に寄り添って演奏する中で出来上がってくる音楽の自然な流れが、初日はより優美な方向を向き、二日目は情熱的な方向を向いていたということなのでしょう。

 それは初日の渡辺康、光岡暁恵、井出壮志朗の組み合わせと二日目の山本康寛、米田七海、市川宥一郎の組み合わせの差によるものでしょう。この三人の組み合わせの影響は結構大きく、テバルドは両日とも工藤翔陽が歌いましたが、工藤の歌も初日は美しさが前面に出ていた感じであったのに、二日目は勇壮感が前に出た感じになっており、アンサンブルの中の化学変化の面白さを感じたところです。

 渡辺の歌はリリックな表情で、中高音がきれいに伸び、どこをとっても美しい。やや語尾がぶら下がり傾向になるところは残念ではあったのですが、美しさを見せるような歌唱はとても素晴らしいと思いました。最初の聴かせどころのアリア「さあ太陽よ、昇れ」をしっかり歌いあげ、その後の重唱でも終始美しさを崩さない歌い方が見事でした。

 光岡暁恵のジュリエットは渡辺ロメオほど感情がこもっている感じではなかったのですが、やはり美しいです。最初の聴かせどころであるワルツ「私は夢に生きたい」は割とあっさりと歌った印象。しかし、一番の聴かせどころである「ああ、なんという戦慄が」はしっかり歌いあげ、感情の起伏を見せたと思います。

 この二人の二重唱がこの作品の魅力なのでしょうが、渡辺の美しさに光岡が乗っかる感じで、甘く甘く歌っている印象。もちろん第二幕の愛の二重唱は、本当に甘い余韻だったのに対し、第四幕の「結婚の夜」は切羽詰まった感があり、第五幕の幕切れの二重唱は、ほとんどユニゾンで進むわけですが、こちらもテノールが誘導してソプラノが乗っかっているという印象。もちろん絶唱なのですが、最後まで渡辺の丸みのある歌唱は変わらず、そこに光岡がテクニカルに合わせていく感じで、美しさが際立っていました。

 二日目の山本康寛、米田七海のコンビは、一日目のような整い方はしていなかった印象です。

 何を言っても山本康寛の声が硬い。音程もちょっと安定しない感じです。でも山本はそこでとどまって大崩れしないのです。美しくはないのですが、情熱的な歌い方をしてわけのわからない説得力があります。米田七海もベルカントの歌い方はしっかりしているのですが、テクニカルな見事さの点では光岡の域ではないのというのが本当のところ。ただ、その分、情熱では光岡を上回っていて、気持ちに説得力がある。例えば「私は夢に生きたい」は光岡のほうが丁寧で十分なのですが、米田の推進力のほうが何か気にかかるところがあります。見た目も光岡は終始可愛い感じなのですが、米田は女を感じさせるところがあって、その色っぽさの魅力で光岡を上回っていたということはあるかもしれません。

 そんなわけで、初日は渡辺の美しい歌唱を光岡が上手く受けて美しい二重唱に結び付けた印象なのに対して、二日目は、山本の情熱と米田の若さが掛け合わさって若者の情熱を感じさせる舞台になっていたように思いました。特にラブシーンは二日目の情熱が魅力的でした。

 美と情熱というのは二日間を通した特徴のようで、メルキューシオのアリア「マブの女王の唄」の表現も、初日の井出壮志朗は丁寧できっちりした表情で曲を見せていたのに対し、二日目の市川宥一郎はもっと突っ込んだ表情で、ロメオの夢見る性格を笑い飛ばしていたのかな、と思いました。そのような違いは感じられましたが、二人ともとてもよかったです。

 他にアリアといえばステファノに一曲与えられていますが、初日の山川真奈の方がメリハリの利かせ方が鋭くて、掘りの深い感じがいたしました。

 脇役で印象深かったのは、なんといっても修道士です。初日が伊藤貴之、二日目が久保田真澄が歌いました。どちらも立派なバスで、修道士に期待される深い低音を歌っていたのですが、伊藤のほうがより深い響きが見事でした。ヴェローナ大公も歌う部分は少ないですが両家を諫める重要な役です。今回は二日間とも東原貞彦が魅力的な低音を響かせました。なお、彼の場合も二日間で歌い方を変えているわけではないのですが、初日よりも二日目のほうが若干熱を帯びていたように聴きました。

 もう一人重要な低音が、ジュリエットの父であるキャピュレット。初日が坂本伸司、二日目が小野寺光が演じましたが、坂本のほうが目立たないのですが安定したいい歌。久保田は声に迫力はあるのですが音が揺れすぎでしょう。もっと安定してほしかった。

 松本重孝の演出は、オーケストラが舞台上にあるという特殊な条件ながら、いろいろ工夫して、有名なロメオとジュリエットのお話を分かりやすく見せたのではないかと思います。二日間ともそれぞれの特徴が出たいい舞台に仕上がりました。

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鑑賞日:2025年5月6日

入場料:指定席 C5列6番 5500円

会場:新国立劇場小劇場

主催:新国立劇場

新国立劇場 こどものためのオペラ劇場2025公演

歌劇全1幕、日本語訳詞上演
ブリテン作曲「オペラを作ろう(小さなエントツそうじ屋さん)」(Let's Make an Opera(The Little Sweep))
台本:エリック・クロージャー
訳詞・脚色:加藤直
上演台本:澤田 康子

スタッフ

指揮 冨平 恭平
オーケストラ 新国立劇場こどもオペラ・アンサンブル(東京フィルハーモニー交響楽団メンバーによる)
ピアノ 古瀬 安子/下村 景
上演台本・演出 澤田 康子
美術 長田 佳代子
照明 川口 雅弘
衣裳 加藤 寿子
音響 河原田 健児
舞台監督 高橋 尚史

出演者

ボブ/トム(Mr.ハーモニック) 秋本 健
クレム/アルフレード(マルカ) 中川 誠宏
ミス・バゴット(マーコットさん) 立川 かずさ
ジュリエット・ブルック(ジュリー) 中村 麻梨絵
ケイ・ブルック(ケイト) 島内 菜々子
ローワン(サリヴァン) 川越 未晴
ジョン・クローム(ジーン) 前川 依子
サム(サミュエル) 浅野 友希
ソフィー・ブルック(ソフィア) 中村 彩乃
ヒュー・クローム(ユーサ) 本村 伊吹
ティナ・クローム(ティタニア) 漆畑 有里菜

感想

こども向けは丁寧に-新国立劇場こどものためのオペラ劇場2025「オペラを作ろう(小さなエントツそうじ屋さん)」を聴く

 ベンジャミン・ブリテンは1942年から英国サフォーク州のオールドバラに住んで作曲に専念するようになりますが、地元の音楽振興のために1948年にオールドバラ音楽祭を開催しました。ここでは、ブリテンの主要新作が発表されるのが常でしたが、地元住民への音楽の啓蒙にも力を入れ、1949年の第2回オールドバラ音楽祭のために、「オペラを作ろう(小さなエントツそうじ)」が作曲されました。構成は第一部が演劇、第二部がオペラなのですが、その間に、観客に作品内の歌を学ばせ、みんなで一緒に斉唱する、という仕掛けになっています。

 出演者は11人、このうち4人が大人の役で7人が子供の役ですが、初演では4人の大人の役と、唯一のアリアがあるブルック家の長女役であるジュリエットはオペラ歌手が演じ、残りの子供6人はこどには地元の児童合唱団の子供たちが歌ったそうです。管弦楽は四手ピアノと弦楽四重奏+打楽器というものです。演奏される曲は全部でオリジナルでは18曲、ほとんどが短いものですが、二重唱、三重唱、四重唱、アンサンブル、合唱、アリアなど様々な形式が取られ、ワークショップで学んだ観客の歌は、冒頭と場面展開の2回、ラストで歌われることになっています。

 今回の上演では、加藤直の翻訳版を使っていますが、基本的にはオリジナルに忠実だったようです。観客の歌の練習もありましたし、オペラの冒頭で、観客全員が歌いました。オーケストラももちろん規定通り。初演と違うのは、クローム家の長男役であるジョンを前川依子が歌ったこと、また観客が歌う4回の斉唱は1回だけであったこと。他にもカットはあったのかもしれませんが、演奏時間の感じからするとほとんどなかったように思います。

 子供向けオペラとはいえ、音楽的にはさすがブリテンとというべき仕掛けが色々あります。観客が歌う「エントツそうじの唄」が5拍子で、更には4小節だけ転調するというのがまず驚きです。現代ならいざ知らず75年も前に素人の子供にこんな曲を歌わせたんだ、というのが凄いです。そのほかにも現代音楽の手法がいろいろ用いられて、小さい子供にはいささか高尚な感じもしますが、そこが面白いところでもあります。

 日本では、かつて東京室内歌劇場が取り上げていますが、あまり上演されることはなく、私も初めてきちんと聞きました。特に子供向けにやられた例はほとんどないような気がします。

 演奏は、大人の役が新国立劇場合唱団の精選メンバーと子供はどこかの合唱団の精選メンバーだと思いますが、よく鍛えられていて皆さん非常に上手です。子供たちも声量や歌の技術ではオペラ歌手とは一線を画しますが、美しい声とハーモニー、リズムで大人に負けない精度を示し、感服しました。エントツそうじの少年役のサム役、浅野友希の短いソロは、美しいボーイソプラノで、とてもよかったです。

 大人の歌ももちろん立派だったのですが、特にここぞというときに響いたのが前川依子の声。彼女は新国立劇場合唱団のメンバーではありますが、新国立劇場でソロ役も何度も歌っており、流石の実力です。唯一のアリアは、ジュリエットに与えられていますが、中村麻梨絵は「Soon the coach will carry you away」を清潔に歌ってこちらもいい感じ。全体的に楽しむことができました。

 ただ、日本語の台本はもう一段ブラッシュアップが必要です。ソプラノが高音で歌うと何を歌っているのかが分からなくなってしまうところが何か所かあり、また、数人が別歌詞を歌うアンサンブルでは、英語であれば、そこが分かるように上手く韻を使ったりしているけれども日本語では、全然違った響きの重なりになってしまう、ということがあります。そのあたりの改善は今後の課題であるように思いました。子供に見せることを前提にすると、そこは是非やってほしいものだと思いました。

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鑑賞日:2025年5月9日

入場料:自由席 4000円

会場:調布市せんがわ劇場

主催:一般社団法人東京室内歌劇場

スペシャルウィーク2025 in 調布せんがわ劇場公演

Grüß Gott! Wien@せんがわvol.4 恋は優し・・・、歌も優し・・・♪♪♪
訳詞:黒田 晋也
企画・制作:松本 康子

出演

ソプラノ 加藤 千春
ソプラノ 大津 佐知子
ソプラノ 中村 寛子
テノール 佐藤 洋
バリトン 杉野 正隆
ジプシー・ヴァイオリン 古舘 由佳子
ピアノ 松本 康子

プログラム

作曲 作品名 曲名 演奏者氏名
シュトルツ プラターの春 ヴィーナームジーク 全員
シュトルツ 映画「春のパレード」 歌え、響け、幸せの風 大津 佐知子、佐藤 洋
シュトルツ 映画「春のパレード」 私の喜びは太陽のほほえみ 加藤 千春、中村 寛子
シュトルツ 映画「歌は終わった」 噂話の楽しさよ 大津 佐知子
シュトルツ 映画「全ての女性を愛す」 ブロンドのお嬢さん 佐藤 洋
カールマン マリツァ伯爵令嬢 ウィーンによろしく 古館 由佳子(vn)
カールマン マリツァ伯爵令嬢 来たれ、ジプシー 古館 由佳子(vn)
シュトルツ   愛しき古き水車 中村 寛子
シュトルツ   ウィーンにはいつもメロディの息吹が 加藤 千春
シュトルツ 映画「秋の演習」 名残のバラ 杉野 正隆
シュトルツ   プラター公園の春 杉野 正隆、加藤 千春、大津 佐知子、中村 寛子
シュトルツ 映画「ドイツマスター」 春、ウィーンのプラターの月明かり 佐藤 洋、加藤 千春、大津 佐知子、中村 寛子
シュトルツ 喜歌劇「春のパレード」 ウィーンには美しいことが 全員
休憩   
ズッペ ボッカチオ 素晴らしい一日、輝く太陽 全員
ベアトリ姉ちゃん 加藤 千春、大津 佐知子、中村 寛子
私に与えてくれた宝物 杉野 正隆、佐藤 洋
あなたの胸に愛があれば 加藤 千春、中村 寛子、杉野 正隆
バラを召しませ 佐藤 洋、加藤 千春
恋愛小説 加藤 千春、大津 佐知子、中村 寛子、杉野 正隆、
フィレンツェ一の美しさ 佐藤 洋、大津 佐知子、杉野 正隆、中村 寛子
真実はこの世に一つだけ 全員

感想

場末のヴォードビル・ショー -東京室内歌劇場スペシャルウィーク2025 in 調布せんがわ劇場「Grüß Gott! Wien@せんがわvol.4 恋は優し・・・、歌も優し・・・♪♪♪」を聴く

 東京室内歌劇場が補助金不正受給問題で組織が大きく変わったのが2011年。その新生東京室内歌劇場の初期、2012年から始まったのがせんがわ劇場におけるスペシャルウィークです。「ジャンニ・スキッキ」の連続公演からスタートし、今年で12シーズン目、毎年多岐にわたったプログラムを演奏するのが特徴です。今年は5月、ゴールデンウィーク明けの一週間で、小ぶりのプログラムを13本用意しました。その中には青島広志のオペラ「サド侯爵夫人」など、是非拝見したい演目もあるのですが、スケジュールの都合上、「ボッカチオ」の抜粋とロベルト・シュトルツの曲を演奏するこちらのコンサートに伺いました。

 ロベルト・シュトルツは、ウィンナ・オペレッタの末期を飾る作曲家で、生涯に残した作品数は2000以上とも言われています。一般にはウィンナ・ワルツの指揮のスペシャリストとして知られ、録音が多数残っています。作品の紹介はあまり進んではおらず、と言いながらも日本でも「春のパレード」や「二人の心はワルツを奏で」はかつて何度か上演されています。今回は、そんなシュトルツの有名無名の歌曲や映画音楽が紹介されました。一方、「ボッカチオ」は、日本では浅草オペラ時代からよく知られた演目ですが、全曲をきっちり上演する機会はあまりなく、今回も元のストーリーとは全く違った筋で演奏されました。

 演奏は一言でいえば、タイトルにも書いた通り「場末のヴォードビル・ショー」です。これは、否定的ニュアンスと肯定的ニュアンスの双方を込めてこう書いているのですが、歌手が比較的年配の方が多かったせいか、歌と芝居と踊りとが三位一体となるところにウィンナ・ワルツやウィンナ・オペレッタの醍醐味があるとすれば、その全体の組み合わせの切れ味は今ひとつというのが全体を見たときの感想。一方で、ワルツの拍子がゆったりと進むときは、なんかのんびりした雰囲気で、ウィーンの夕暮れを感じさせるものもありました。

 特に雰囲気があったのは大津佐知子でしょうか。彼女はかつてオペレッタを専門にやるアマチュアの歌劇団「ガレリア座」の主演歌手として多くの公演に参加しており、流石にウィンナオペレッタの雰囲気によく慣れていると思いました。

 音楽的なことを申し上げれば、ソロで歌う曲や、重唱でもソロで歌う部分は、それぞれの方が皆、各自の魅力を出して素敵だと思うのですが、重唱になればなるほど、バランスが悪くなっていく印象です。特に5人が同時に歌い、ソプラノの3人がユニゾンになるところでは男声がかなり消されてしまい、もう少し女声が柔らかく歌った方がいいのかなとは思いました。また、主に杉野正隆ですが、アンサンブルで入るとき、ちょっと低くなってしまい、和音がきっちりはまらないところが何か所かありました。アンサンブルを主体とするコンサートでは、アンサンブルの響き方をもう少し研究された方がよいと思いました。

 「ボッカチオ」は上述のように、本来の筋とは関係なく、オリジナルストーリーでやられました。主要曲は皆演奏されましたが、タイトルは普通日本で使われるものとは変わっていて、例えば「恋は優し、野辺の花よ」ではなく、オリジナルの「Hab' Ich deine Liebe」の直訳に近い意訳「あなたの胸に愛があれば」として歌われ、前半と後半を二人のソプラノで分けて歌われました。一方で「ベアトリ姉ちゃん」はタイトルこそそのまま書かれていましたが、歌詞は有名な、エノケンの「娘よ ベアトリチェー なぜそんなに ねぼうなんだい」ではなく、黒田晋也のオリジナルに基づく翻訳で歌われました。

 こちらも、音楽的には「?」と思うところもあったのですが、会場のお客さんも楽しんでいましたし、歌っている方も楽しんでいる感じが出ていましたので、全体としてはよかったのだろうと思います。結構ユルユルながらも場末の酒場で歌が始まってしまうみたいな雰囲気があって、そこがこのコンサートの魅力なのだろうなと思いました。

東京室内歌劇場スペシャルウィーク2025 in 調布せんがわ劇場「Grüß Gott! Wien@せんがわvol.4 恋は優し・・・、歌も優し・・・♪♪♪」TOPに戻る

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鑑賞日:2025年5月10日

入場料:自由席 4400円

会場:松本記念音楽迎賓館Aホール

主催:宮本彩音

宮本彩音ソロコンサートプロジェクト、復活「彩の音の世界」

出演

ソプラノ 宮本 彩音
ピアノ 松本 康子

プログラム

作曲 作品名 曲名 備考
ドナウディ  古典様式による36のアリア  限りなく優雅な絵姿  
ああ、愛する人の  
伝ジョルダーニ   愛しい人よ  
ヴェルディ リゴレット ジルダのアリア「慕わしい人の名は?」  
ショパン 練習曲集作品25 作品25-1 エオリアン・ハープ ピアノ独奏
トマ アムレット オフェリの狂乱の場「遊びの仲間に入れてください」  
休憩   
ロウ   マイ・フェア・レディ   君の住む街  
素敵じゃない?  
踊りあかそう  
アーレン オズの魔法使い 虹のかなたに  
ロジャース サウンド・オブ・ミュージック 私のお気に入り  
テゾーリ   14階の女の子  
アンコール   
リーヴァイ エリザベート 私だけに  
プッチーニ ジャンニ・スキッキ ラウレッタのアリア「私のお父さん」  

感想

10年以上ぶりの再会 -宮本彩音ソロコンサートプロジェクト、復活「彩の音の世界」を聴く

 宮本彩音を最初に聴いたのはいつだったのだろう。記録をさかのぼると2005年1月に東京オペラプロデュースが、ロッシーニの「とてつもない誤解」を上演した時にヒロインのエルネスティーナを歌った時のようです。その時の彼女の歌は今、全く覚えていないのですが、当時の感想を見ると、「本格的なオペラの舞台に立ったのが二度目ぐらいの若手歌手ですが、非常に結構な歌でした。レジェーロの軽い声ですが、響きがまろやかで、きんきんとしないところがまたよいと思いました。登場のアリアも良かったですが、重唱における歌唱がまた立派。口がよく回りアジリダがきちっと決まって行くところは胸のすく思いでした。正にブラヴァ。」と書いています。上り調子の若手だったことがよくわかります。

 その感想を読んだ彼女からお礼のメールが届いて知己を得、それからは彼女から案内が来るようになり、何度か彼女の公演にも伺うようになりました。

 藤原歌劇団創設時代、藤原義江とともに団を引っ張ったバリトン宮本良平の孫娘という毛並みの良さ、ご実家はご両親も音楽家で音楽事務所を経営され、ほとんどよちよち歩きの時から舞台に登場している舞台歴の長さ、というまさにサラブレッドで、藤原歌劇団でも「愛の妙薬」のジャンネッタ(2009年)、「カルメル会修道女との対話」のアリース修道女(2010年)、「セビリアの理髪師」のベルタ(2012年)と出演を重ねました。しかし、その後も何度かコンサートには通いましたが、2015年の第3回「彩の音の世界」を最後に、彼女の歌を聴くことはなくなりました。

 この時、彼女は既に体調がよくなかった様子で、プログラムはかなり軽量級。彼女の魅力であった高音のコロラトゥーラの曲などもなく、何とかステージを務めた感がありました。

 その後彼女は更に体調が悪化し、私生活でも様々な変化があり、本格的に歌うことはかなわなくなってしまいました。今回のコンサートでは、その辺の経緯はほとんど話されませんでしたが、体調最悪の時は1小節も歌えなかったそうです。6年間歌手を休業し、ようやく体調が戻ってきた昨年から少しずつ歌手活動を再開し、今回、ようやく第4回目の「彩の音の世界」となりました。

 今回は前半がクラシックの曲、後半がミュージカルの曲ですが、彼女は、幼少の時からミュージカルの舞台に立ち、その後おじいさまの薫陶を得てオペラ歌手になろうとしたという彼女の歴史が背景にあるようです。

 演奏は、基本的には上々というべきでしょう。ご本人も「自分でこんなに歌えるとは」と驚いていましたが、声に力がありました。松本記念音楽迎賓館のAホールは、せいぜい40人しか入れない狭いホールですが、そうであっても壁を響かせられるだけの声が出たことは喜ばしいことです。喉の筋肉のコントロールが昔ほど自由ではない様子で、声の繊細な制御はまだ完璧ではなかったのですが、それでも要所要所を締める歌い方は流石だと思いました。

 彼女の復活を一番感じたのはオフェリの狂乱の場をまた聴けたこと。彼女はこの曲を大切にしていて、これまでも2回ぐらい聴いていると思いますが、かなりの難曲で声に力が戻っていないと歌えるものではありません。今回のオフェリはかつて聴いた完全に狂ったオフェリではなく、もっと人間臭さを感じさせるオフェリで、おそらく彼女の中で、この曲を歌える喜びが、先に立っていた結果だったのでしょう。

 そのほかも彼女のこだわりを感じさせる選曲と演奏でした。

 その中でもう一曲についてだけ言っておくと、「The Girl in 14G」が演奏されたこと。私は曲名も何も知らない全く白紙で聴いた曲ですが、ポピュラーソングでありながらすごい難曲です。Wikipediaの英語版によれば、「The Girl in 14G」は、ジャニーン・テソーリとディック・スキャンランがクリスティン・チェノウェスのために作曲し、彼女の歌唱で最もよく知られている現代曲です。この曲は、チェノウェスがニューヨークに引っ越した当初、階下や階上の住民が騒々しく互いに静かにさせようとしていたという実体験に基づいています。この曲は、チェノウェスの2001年のデビュー・スタジオ・アルバム『Let Yourself Go』に収録されています。この曲には、オペラ『トリスタンとイゾルデ』、『魔笛』の夜の女王のアリア、そして『白鳥の湖』の要素が盛り込まれています。」とのことです。日本語で歌われたのですが、途中で「魔笛」の「夜の女王のアリア」は出て来るし、ジャズも出て来るし、いろいろできないととても歌えない。それを宮本はきっちりと表情を変えて歌って見せて、大喝采を浴びていました。

 ご本人もこれでオペラ歌手として復活できる自信がついたそうです。大変喜ばしいことです。

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鑑賞日:2025年5月17日

入場料:C席 3F 4列50番 8415円

会場:新国立劇場オペラパレス

主催:新国立劇場

2024/2025シーズン公演

歌劇全2幕、日本語/英語字幕付原語(イタリア語)上演
プッチーニ作曲「蝶々夫人」(Madama Butterfly)
台本:はルイージ・イッリカ/ジュゼッペ・ジャコーザ

スタッフ

指揮 エンリケ・マッツオーラ
オーケストラ 東京フィルハーモニー交響楽団
合唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 冨平 恭平
演出 栗山 民也
美術 島 次郎
照明 柴勝 次朗
衣裳 前田 文子
再演演出 澤田 康子
音楽ヘッドコーチ 城谷 正博
舞台監督 佐々木 まゆり

出演者

蝶々夫人 小林 厚子
ピンカートン ホセ・シメリーリ・ロメオ
シャープレス ブルーノ・タッディア
スズキ 山下 牧子
ゴロー 糸賀 修平
ボンゾ 妻屋 秀和
神官 上野 裕之
ヤマドリ 吉川 健一
ケート 佐藤 路子
ヤクシデ 佐藤 勝司
書記官 徳吉 博之
母親 近藤 宏美
おば 真野 路津紀
いとこ 渡邉 早貴子

感想

お涙頂戴-新国立劇場「蝶々夫人」を聴く

 栗山民也演出の「蝶々夫人」、新国立劇場では本当におなじみの公演で、この2025年5月17日の公演で、通算100回目の公演になるそうです。私も2005年のプレミエ公演から2007、2009、2011、2014、2017、2019、2021年と毎回拝見しており、今回で9回目となります。この演出は個人的に好むものではないのですが、これだけ上演回数を重ねているとスタッフも十分経験を積んでおり、脇役陣も何度もこの公演に参加している方もいて、安心して見ていられる公演になっています。

 タイトル役の小林厚子だってそうです。本公演こそ初めての登場ですが、高校生のためのオペラ公演「蝶々夫人」で何度もこの舞台で演じており、この演出をよく知っている一人と言ってよいでしょう。それだけに余裕がある演技・歌唱です。更に小林は藤原の本公演などでも何度もこの役を演じており、現役歌手で蝶々夫人を最も多く演じている一人かもしれません。そのことが歌唱のいたるところに感じられる良さがありました。声はよく響く人なのですが、どこまで行っても丸みの帯びた表情が崩れない。もちろん厳しい表現、甘い表現などの違いはあるのですが、どこをとっても基本レガートの美しさを大切にする歌い方で間然とするところがない。もちろん細かく見ていけば、ここの声の抜け方が・・・・、みたいなところはありますが、ほとんど出ずっぱりの大変な役柄です。どこもかしこも全て100点と行かないのはやむを得ないところで、最初から最後まで素晴らしいコントロールだと思いました。彼女の蝶々さんもいいときと悪いときがあるのですが、今回はかなりベストに近い歌唱だったと思います。文句なしでBravaです。

 山下牧子のスズキも素晴らしい。いつの公演かまではきっちり記憶がないのですが、ある時の山下牧子のスズキが神がかって素晴らしくて、震えが止まらなかったことがあります。その時以来、私は山下牧子のスズキを一番信用しています。今回は喉の調子がベストではなかった様子で、最初のシーンがちょっと乱れ気味でしたが、あとはいつもながらの安定したスズキ。山下は受けが上手くて、相手に合わせたアンサンブルをしっかりととる方ができる方なので、ちょっとしたところでのアンサンブルが、一段魅力的に聴こえます。こちらも十分Bravaの歌唱でした。

 脇役陣も安定していました。妻屋秀和のボンゾは、彼のレパートリー外のようで、ちょっと雰囲気に違和感がありましたが悪い歌ではない。吉川健一のヤマドリは2021年に続いての出演。こちらも雰囲気を出していました。糸賀修平のゴローも前回に引き続いての出演で、この舞台をかつて引っ張ってきた高橋淳や晴雅彦のゴローほど灰汁が強くなくちょっと雰囲気が違いますが、軽妙な歌いっぷりで、新時代のゴロー像を作り出している気がします。

 一方外人勢ですが、シャープレスのタッディアは長身で細身の身体を動かす感じが、シャープレスの優柔不断な性格とシンクロしている感じで、歌唱からも全体的に戸惑っている感が出ていて、役柄にあった雰囲気を醸し出していたと思います。

 一番残念だったのはピンカートン役のホセ・シメリーリ・ロメオ。とにかく高音が美しくない。上がっていないことはないのですが、高音になると音が開いている感じになって、苦しそうだし、全然アクートが効いていない。あの程度のテノールを連れてくるのであれば、日本には宮里直樹だって沢崎一了だっているのに、と思ってしまいました。今回のカヴァーは村上公太ですが、2021年の公演の時は今回のロメオよりは全然よかったと思うので、村上の再登場でもいいかもしれません。

 また合唱もとてもよく、特にハミングコーラスの美しさは、最近聞いた中ではベストではないかという気がいたしました。

 以上、ロメオのピンカートンを別にすればとても良かったのですが、実は私はこの公演をあまり評価できません。全体的にテンポが納得いかないのです。一言でいえばやや遅めで後半に行くほど重くなっていく印象です。

 実は指揮者のマッツオーラはもっと速く振りたかったのではないかと思います。

 冒頭の前奏曲のフーガは結構速いテンポで入り、このまま突っ込むのかな、と思ってみていると、歌手と息が合わなかった様子で、すぐに歌手のスピードに合わせました。その後もコミカルなシーンになるとスピードを上げようとするのですが、すぐに失速、歌手のスピードに合わせた感じになります。それでも頑張って建て直せばいいとも思うのですが、それ以上頑張るつもりはない様子で、ゆったりと進みます。歌手にとっては歌いやすいのかもしれませんが、聴いている方からするとどんどん重くなって、軽快さが失われていきます。悲劇の感じがどんどん強まり、ラストシーンはまさに「お涙頂戴」になっていたのは、いただけないなあ、と思いました。

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