オペラに行って参りました-2022年(その8)

目次

創作オペラへの期待(1) 2022年11月25日 日本オペラ協会「咲く」昼公演を聴く
創作オペラへの期待(2) 2022年11月25日 日本オペラ協会「咲く」夜公演を聴く
かみ合わない音楽 2022年12月8日 新国立劇場ドン・ジョヴァンニ」を聴く
若いって素晴らしいけど・・・ 2022年12月13日 日本オペラ振興会団会員企画シリーズ「ラ・ボエーム」を聴く
ちょうどいいガラ・コンサート 2022年12月22日 オペラアモーレ音楽事務所「オペラGALA Specialクリスマスコンサート」を聴く
残念感の強い上演 2022年12月22日 第8回オペラ工房アヴァンティ公演「ヘンゼルとグレーテル」を聴く
思っていた以上に健闘 2022年12月25日 第25回新宿区民オペラ実験劇場「サンドリヨン」を聴く
パワフル 2022年12月27日 ステーションスタジオ幡ヶ谷「ラ・ボエーム」(ハイライト)を聴く

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

      
2022年 その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7 その8 どくたーTのオペラベスト3 2022年
2021年 その1 その2 その3 その4 その5 その6   どくたーTのオペラベスト3 2021年
2020年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2020年
2019年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2019年
2018年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2018年
2017年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2017年
2016年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2016年
2015年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2015年
2014年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2014年
2013年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2013年
2012年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2012年
2011年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2011年
2010年 その1 その2 その3 その4 その5   どくたーTのオペラベスト3 2010年
2009年 その1 その2 その3 その4     どくたーTのオペラベスト3 2009年
2008年 その1 その2 その3 その4     どくたーTのオペラベスト3 2008年
2007年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2007年
2006年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2006年
2005年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2005年
2004年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2004年
2003年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2003年
2002年 その1 その2 その3       どくたーTのオペラベスト3 2002年
2001年 その1 その2         どくたーTのオペラベスト3 2001年
2000年              どくたーTのオペラベスト3 2000年

鑑賞日:2022年11月25日14時開演
入場料:1階 O列 11番 3000円 

主催:公益財団法人日本オペラ振興会
共催:劇団青年座

日本オペラ協会公演

室内オペラシリーズNo.2

全1幕、日本語字幕付原語(日本語)上演
竹内 一樹作曲「咲く~もう一度生まれ変わるために」
台本:宇吹 萌

会場 としま区民センター多目的ホール

スタッフ

指 揮 平野 桂子
オーケストラ SAKU室内オーケストラ
アンサンブル 日本オペラ協会合唱団
合唱指揮  山舘 冬樹 
演 出 齊藤 理恵子
美 術 根来 美咲
衣 裳 小泉 美都
照 明 鷲崎 淳一郎
映 像  上野 詩織 
舞台監督 尾花 真

出 演(昼の部)

飯田 聡子 丹呉 由利子
芝野 遥香
飯田 俊幸 立花 敏弘
タロー 渡辺 康
飯田 貴美子 佐藤 みほ

鑑賞日:2022年11月25日18時開演
入場料:1階 P列 4番 3000円 

主催:公益財団法人日本オペラ振興会
共催:劇団青年座

日本オペラ協会公演

室内オペラシリーズNo.2

全1幕、日本語字幕付原語(日本語)上演
竹内 一樹作曲「咲く~もう一度生まれ変わるために」
台本:宇吹 萌

会場 としま区民センター多目的ホール

スタッフ

指 揮 平野 桂子
オーケストラ SAKU室内オーケストラ
アンサンブル 日本オペラ協会合唱団
合唱指揮  山舘 冬樹 
演 出 齊藤 理恵子
美 術 根来 美咲
衣 裳 小泉 美都
照 明 鷲崎 淳一郎
映 像  上野 詩織 
舞台監督 尾花 真

出 演(夜の部)

飯田 聡子 長島 由佳
相樂 和子
飯田 俊幸 大塚 雄太
タロー 黄木 透
飯田 貴美子 吉田 郁恵

感 想

創作オペラへの期待‐日本オペラ協会「咲く~もう一度生まれ変わるために」(昼公演・夜公演)を聴く

 このプロジェクトについては何となく耳に入っていました。

 このプロジェクトとは、文化庁が昭和音楽大学に委託した次代の文化を創造する新進芸術家育成事業「日本のオペラ作品をつくる~オペラ創作人材育成事業」のことです。公募した題材から4作品を選んで、それぞれがピアノ版で作品を完成させた。その試演会は確か公開で行われたと思うのですが、残念ながらスルーして見ておりません。そこで選出された作品がこの「咲く」だったそうです。作曲の竹内一樹は1983年生まれで現在39歳。プロフィールを確認すると2015年ごろから作品が公開演奏されており、作曲家としては新進と申し上げてよいのでしょう。

 日本で作曲されたオペラはすでに総数800ぐらいあり、山田耕筰に始まって、團伊玖磨、柴田南雄、清水脩、黛敏郎、別宮貞雄、水野修好、牧野由多可、三木稔、間宮芳生、林光、原嘉壽子、池辺晋一郎、中村透、細川俊夫、萩京子と素晴らしい作曲家がエポックメイキングな作品を作り上げてきたという歴史があるわけですが、すでに鬼籍にある方も多く、若い作曲家に新作を発表していただいて、この流れを絶やさないようにしなければなりません。とはいえ、オペラを書くには時間もかかり、上演を前提に委嘱料を貰って作曲しなければなかなか創れるものではありません。

 日本オペラ協会は従来からそういう観点で色々な作曲家に作曲をお願いし、何度も再演されるような作品を生み出しているわけですが、現実に上演することを前提にすれば、なかなか新進作曲家には頼みにくく、それなりの実績のある方に委嘱することになるのは理解できるところです。同じことは地方の創作オペラに関しても言えるわけで、なかなか若い方が自分の作品を上演するのは難しいところです。そういう中で、コンペによって選択され、更に書き直しをしながらブラッシュアップしていく今回の形は、作品を聴いてみてなかなかいい企画ではないかと思いました。

 確かに池辺晋一郎が書いているように、作曲という「個」の領域で行うべきものをブレーンストーミングで変更させていくという手法が適切かどうか、ということについてはもちろん考えなければならないのですが、ミュージカルのような商業音楽の中ではある程度行われていることでもあり、私はあってもいいのではないか、と思いました。

 作品に関して申し上げればいい作品に仕上がったな、というのが率直な感想。宇吹萌の台本が日本的でかつ普遍的なところがいい。主人公は挫折した父娘の二代の親子ランナーという設定ですが、言うなれば市井の人。時代も2008年と2018年というまさに現代というのも良いと思います。日本の演劇や映画テレビドラマなどを考えると同時代のホームドラマは連綿と続いて制作されていますが、オペラでそういうホームドラマ的なものであっただろうか、と考えるとあまりないような気がします。悲劇か喜劇で括られるような作品が多く、普通の人が主人公というとメノッティの「電話」とか「スザンナの秘密」ぐらいしか思いつかない。

 またこの作品では「桜」の木の妖精が歌い、亡くなった父親も歌うという意味で幻想的オペラでもあるわけですが、桜と四季モチーフにしたのも日本的です。もちろん音楽は全然違うのですが、ここで親和性を感じたのは高田三郎の合唱曲「心の四季」。冒頭の「風が」が「風が桜の花びらを散らす。春がそれだけ弱まっている。ひとひらひとひら舞い落ちるたびに、人は見えない時間に吹かれている」という吉野弘の詩に込められているものとの親和性を感じました。

 歌詞は「遠心」のように意図的に難しい言葉も使用していますが、基本は平易な言葉で結ばれているのもいい。基本的に聴いていて心地よい台詞で繋がれているように思いました。それに対する音楽ですが、こちらも基本は平易、時々裏切られますけど、音はこういう風に動くだろうな、と思うように動いてくれますし、言葉の抑揚と音符の抑揚が割と一致していて、そういう意味でも聴きやすい。作曲家は過去の作曲技法を真似して、それらの音型進行の持っている特色を心理描写に使用している旨を解説に書いていますが、そういう部分は自然に聴こえ、音楽的にも特別難解な感じは受けませんでした。ただ、語尾を長めに伸ばしたり、強調して歌うことが多いのですが、そこはもっと抑制しても良いのではないかという風には思いました。

 歌手がソプラノ、メゾソプラノ、アルト、テノール、バリトンとそれぞれ一人で、それぞれに印象的なアリアがアリアが与えられているのもいい。聡子のアリア「私の輪郭」、桜のアリア「命とられて」、タローのアリア「目ん玉、ビー玉」、貴美子のアリア「正しいかたち」、俊幸のアリア「時の先端」ですがどれもいい感じ。冒頭の五重唱曲「また咲くために」は最後にもう一度歌われますが、最後は合唱も参加して、更に盛り上がるのもいいと思いました。

 演奏ですが、平野桂子の柔らかい音楽運びがこの曲のしなやかな感じとよく合っていてよかったと思います。オーケストラは1管構成に打楽器とハープだそうですが、今回はハープは使われていたのでしょうか。10人ぐらいの編成でフルートとオーボエが入っていたとは思うのですが、実際の演奏した人数は確認しておりません。舞台が比較的小さく、11人の合唱メンバーが並ぶといっぱいになる幅で両側の壁が狭いせいか、音が籠って聴こえ、もう少し幅のある舞台だとよかったのになと思いました。

 昼間の部は、主人公の聡子がメゾソプラノで桜がレジェーロソプラノでその対照性が強調された演奏になったと思います。一方で夜の部は二人ともリリコレジェーロで同質感が強い。例えば、聡子と桜の二重唱「華やぎ始めた春の時間に」では昼間の部ではその対照性ゆえ広がりを感じさせる歌だったのに対し、夜の部は同質の声が絡み合う美しさを感じました。作曲家が意図したのは多分対照性だと思うのですが、私は夜の部に惹かれました。昼夜それぞれ特徴があってどちらもよかったのですが、個人的な好みで言えばタローはより高音が美しかった渡辺康、父親は実際は非常に若い大塚雄太の安定した声、母親は佐藤みほの深い低音をとりたい。

 以上楽しめた舞台でした。尚、新作オペラは再演されてこそ磨かれます。台本作家も作曲家も実際の上演を見て感じるところもあったと思いますし、そういったところの手直しをして、室内オペラとはいえ、もう少し広い舞台でも上演を見てみたいと思いました。

日本オペラ協会「咲く~もう一度、生まれ変わるために~」TOPに戻る

本ページトップに戻る

鑑賞日:2022年12月8日
入場料:C席 6930円 4F 1列23番

主催:新国立劇場

新国立劇場2022-2023シーズン

オペラ2幕 字幕付き原語(イタリア語)上演
モーツァルト作曲「ドン・ジョヴァンニ」
Don Giovanni)
台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ 

会場 新国立劇場・オペラ劇場

スタッフ

指揮 パオロ・オルミ
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
チェンバロ 小埜寺 美樹
合唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮 三澤 洋史
演出 グリシャ・アサガロフ
美術・衣裳 ルイジ・ベーレゴ
照明 マーティン・ゲブハルト
再演演出 澤田 康子
舞台監督 斉藤 美穂

出演者

ドン・ジョヴァンニ シモーネ・アルベルギーニ
騎士長 河野 鉄平
レポレッロ レナート・ドルチーニ
ドンナ・アンナ ミルト・パパタナシュ
ドン・オッターヴィオ レオナルド・コルテッラッツィ
ドンナ・エルヴィーラ セレーナ・マルフィ
マゼット 近藤 圭
ツェルリーナ 石橋 栄実

感 想

かみ合わない音楽‐新国立劇場「ドン・ジョヴァンニ」を聴く

 ドン・ジョヴァンニはこれまで20回ぐらいは実演に接していると思いますが、作品の重みからしたら思ったほどいい演奏はないような気がします。それは学生だからとか、若いから、といった感じである程度経験を積まないと上手くいかないオペラなのではないかとこれまでは考えていましたが、今回の新国立劇場公演を聴いて考えが変わりました。一言で申し上げれば「余裕しろ」です。即ち、この作品は演者が自由にできる余裕しろがそもそも小さい作品名のではないかということです。モーツァルトのオペラ作品は楽譜通りに演奏しないと上手くいきにくいのですが、ことに「ドン・ジョヴァンニ」はその自由度が少ない作品なのではないか、というのが今回の感想です。

 逆に言えば、今回の演奏はかなりけれんの入ったもので、それがことごとく裏目に出ていた感じでした。指揮のパオロ・オルミ、スピードを揺らす演奏をしていたと思うのですが、極端なリタルダンドをかけると、急に音楽が重くなりまた、アンサンブルも乱れてきていい感じにまとまりません。急ブレーキをかけてショックを受けるのは運転も音楽も同じようです。音楽に表情をつけるのは大切なことですが、「ドン・ジョヴァンニ」に関する限りはもっとソフトに、少しずつリタルダンドをかけて余裕でコントロールしたほうが音楽の自然さを失わないのではないかと思いました。

 メリハリをつけた演奏をすることは重要だと思いますが、メリハリが極端になると上手くいかなくなるのでしょう。モーツァルトの音楽をどれだけリスペクトしているのか、が「ドン・ジョヴァンニ」の音楽の良し悪しを決めているのではないかということだろうと思います。

 一方で、これがオルミの責任か、と言えば必ずしもそうは言えない部分がある。歌手たちもそれぞれ勝手をやって、それで上手くいけばいいのだが、上手くいかずにドツボに嵌るのが何か所もあったからです。例えばレポレッロの歌うカタログの歌、単語の中間部を伸ばしたりスピードも大きく揺らしたり色々なことをしている。イタリア語の語感的には正しいのかもしれないが、音楽的にはモーツァルトの書いたリズムを崩し、歌詞の一部が上手く言えていませんでしたし、あの曲の持つ歯切れの良さも失わせていました。もっとかっちりとモーツァルトに従った歌をした方が良かったと思います。

 ドン・ジョヴァンニのアルベルギーニも今一つでした。声にエロスを感じない。これが「シャンパンの歌」であれば色気のない声でも問題ないと思うのですが、「セレナード」はすっきりしないです。本年は10月に国立音大大学院オペラが「ドン・ジョヴァンニ」を上演したわけですが、私の個人的趣味から言えば、本日のアルベルギーニ/ドルチーニのイタリア人コンビより、大槻聡之介/照屋博史の国音コンビの方がしっくりきます。特にレポレッロに関しては国音大学院オペラのレポレッロの方が、よく設計されていてまたテクニカルな軽快さも出せていて今回のドルチーニをはるかに上回っていたと思います。

 コルテッラッツィのドン・オッターヴィオも今一つ。ドン・オッターヴィオに期待される軽快なロココ的な表現は出来る方なのですが、一曲全体の中でそれが続かない。ふたつのアリアも大まかには良い感じで、比較的拍手を貰っていましたが、細かいところを見るとやはり詰めが甘く、この程度のテノールを連れてきた理由が分かりません。あの歌唱であれば、もっとしっかり歌える日本人テノールが何人もいるような気がします。

 ドンナ・アンナを歌ったパパタナシュもドンナ・エルヴィーラを歌ったセレーナ・マルフィーもぱっとしない。パパタナシュ音程が必ずしも正確ではなく、歌の熱量も足りない感じがします。これはパパタナシュの責任というよりはオルミのアプローチの問題なのですが、第10曲のアリア「ドン・オッターヴィオ、私死にそう」は劇的には歌っているのですが、そこまでの音楽の持つ表情とこの音楽の表情の差が今一つ足りない感じで訴えるものが今一つ足りないし、フィナーレ前の大アリア「私が残酷ですって、いえ、違います」も込められるものがもっとあるだろう、という風に聴きました。マルフィーもあまりいい感じではなく、怒りの示し方も今一つだし、劇的な表情が足りていない感じで残念でした。

 以上外人勢は指揮のオルミを含めて全体的にぬるいのです。「ドン・ジョヴァンニ」というデモーニッシュなオペラの熱量を細部まで丁寧に表現しないことで、せっかくの味を殺していたと申し上げるしかありません。

 一方で、日本人3人はよかったです。まず騎士長の河野鉄平がいい。丁寧で落ち着いた表現が騎士長の役割をしっかりやり遂げていてBravo。石橋栄美はゼルリーナに期待されるリリコ・レジェーロとしては持ち声がやや重めだと思うのですが、細部まで丁寧な歌唱で声の質感を技術で補っており結構な歌でした。誘惑の二重唱(この曲に関しては、ドン・ジョヴァンニもよかったです)をいい感じでまとめ、「ぶってよ、マゼット」は声の響きがちょっと重くなったところはあったけれども、全体から見て不自然ではなかったし、「薬屋の歌」のコケティッシュな魅力もしっかり出ていて秀逸。近藤圭のマゼットも第6曲のアリア「分かりましたよ、旦那」の憤懣のぶちまけ方などいい感じでした。

 大枠としては「ドン・ジョヴァンニ」になっていたとは思いますが、招聘勢が日本人のように楽譜を読み込んだ丁寧な表現をもっとやってくれれば、いいものに仕上がっただろうに、と思うと残念でなりません。

新国立劇場「ドン・ジョヴァンニ」TOPに戻る

本ページトップに戻る

鑑賞日:2022年12月13日
入場料:自由席 4800円 

主催:日本オペラ振興会

藤原歌劇団・日本オペラ協会団会員委員会

オペラ4幕 字幕付き原語(イタリア語)上演/オペラ・コンチェルタンテ形式
プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」
La Bohèmei)
原作:アンリ・ミュルジェール
台本:ジュゼッペ・ジャコーザとルイージ・イッリカ 

会場 渋谷区総合文化センター大和田さくらホール

スタッフ

指揮 仲田 淳也
ヴァイオリン 工藤 ゆかり
ピアノ 河野 紘子
合唱 藤原歌劇団合唱部
演技指導 喜田 健司

出演者

ミミ 木田 悠子
ロドルフォ 堀越 俊成
ムゼッタ 芝野 遥香
マルチェッロ 高橋 宏典
ショナール 山口 義生
コッリーネ 杉尾 真吾
ベノア/アルチンドロ 泉 良平
パルピニョール 山内 政幸

感 想

若いって素晴らしいけど・・・‐日本オペラ振興会 団会員企画「ラ・ボエーム」を聴く

 ボエームの登場人物の年齢っていくつぐらいなのだろう。ベノアとアルチンドロを別にすれば30にはなっていないに違いありません。多分20代前半。10代後半であってもおかしくない。でも普通の公演で、同じぐらいの年代の歌手が歌うことは滅多にありません。それに対して今回は、敢えて若い方を揃えたという印象があります。今回のメンバーは主に、日本オペラ振興会団会員企画のスプリング・コンサート、オータム・コンサートに出演されていたメンバーだと思いますが、これらのメンバーにはミミであれば渡部史子、ムゼッタなら中森美紀、ロドルフォなら平尾啓といったメンバーも考えられますが、実際は若手の木田悠子、芝野遥香、堀越俊成といったメンバーが選ばれました。

  オペラ・コンチェルタンテ形式、というだけあって、舞台には椅子がいくつかあるだけで、その他の小道具は一切なし。衣裳も自前だと思いますが、ミミと第二幕のムゼッタだけドレス。他のメンバーは黒で統一し、ミミの悲劇を浮かび上がらせようとしていました。オペラ・コンチェルタンテ形式というと、私は東京フィルのオペラ・コンチェルタンテを思い出すのですが、あのシリーズでは舞台の大半がオーケストラが占有し、演技をする場所は僅かなのですが、今回は、ピアノとヴァイオリンとがそれぞれ1という伴奏だったので舞台上は広く、演技は合唱も含めてみなしっかりやっていたのが印象的でした。

 また、今回は各幕から抜粋と最初はアナウンスされていたと思いますが、実際はほとんどカットなしで、第二幕の児童合唱も女声合唱が代わりに歌うなどしていました。パルピニョールは最初はアナウンスされていなかったのですが、そこはパンフレットに記載のない山内政幸が歌っていました。このパルピニョールは元々合唱メンバーが歌う予定だったと思いますが、そのメンバー(多分、井出司)が急遽降板になって山内に変更になったものと思います。ただ、この交代については一切アナウンスはなく、そのいきさつはあくまでも推測です。

 さて演奏ですが、いいところも悪いところもあったかなという印象。「ラ・ボエーム」は基本的にアンサンブルオペラなので、アンサンブルがしっかり嵌っていることが大事です。第1幕の前半はそのアンサンブルが今一つ嵌り切っていなかった印象ですし、合唱とソロとが入り子のように組み合わさって一番複雑な構成になっている第二幕ももっとかっちりと嵌った方がプッチーニの音楽が生きてくるだろうとは思いました。一方で、登場人物が少ない第三幕はしっとりとした情感がたっぷりとあって、有名な四重唱も二組の恋人の対比がしっかり表出されていて見事でしたし、最終幕のアンサンブルも第一幕よりは乗っていたのか、いい感じでまとまっていたと思います。

 個別の歌手ではミミ役の木田悠子が頑張りました。日本オペラ振興会の育成部を終了して準団員を経ることなく正団員になった逸材ですが、その実力をふんだんに見せてくれました。とにかく歌いまわしが丁寧で綺麗。持ち声そのものは私の個人的好みとはちょっとずれるのですが、コントロールされた発声で響く声は若々しく美しい。リズムもバランスもしっかり楽譜に寄り添って、その分冷たい感じになるかと言えばさにあらず、ミミに期待される可憐さもそこそこ表出してしっかりまとめました。ロドルフォとの歌唱もバランスも丁度良かった感じがします。Bravaでしょう。敢えて難を申し上げるとすれば、少し生真面目な感じが強調されているようで、余裕があまり感じられなかった。それがあれば更に良かったが、若い方にそこまで要求するのは酷だろうとも思います。

 対するロドルフォ役の堀越俊成。今一つの歌唱と言うべきでしょう。声量は十分にありますし、いい声だと思うのですが、役作りが行き過ぎたのか全体的にスカしている感じが終始付きまといました。ロドルフォという役柄に酔っているというべきか。第一幕前半のマルチェッロとのアンサンブルからベノアを追い出すところまでの堀越の歌唱は、テンションが上がりすぎているな、という印象。細かいミスもあったと思います。続く有名な聴かせどころ「冷たい手」もしっかりアクートを決め、我こそがプリモテノール、と言わんばかりでしたが、折角の音楽の流れを止めてしまっていたと思います。続いてミミが「私の名はミミ」を可憐にかつ正確に歌ったので、ロドルフォの野放図さがより目立った印象です。その後はだんだん落ち着いてきて、その分歌も纏まってよくなったとは思います。

 マルチェッロの高橋宏典。彼も第一幕前半のロドルフォとの二重唱がハイテンションでその分音楽的正確さには欠いていたかな、という印象。しかしながら演技はしっかりしていたと思いますし、後半に行くにつれ、アンサンブルが合うようになってきてよりよくなったと思います。 芝野遥香のムゼッタはちょっと落ち着きすぎている印象。強烈なわがままキャラは感じられなかったかなというところ。第二幕の「ムゼッタのワルツ」もその前後の歌唱もさらにハイテンションできゃぴきゃぴキャラで行った方がさらに良かったと思います。

 ショナールの山口義生。このメンバーでは声量不足がはなはだしい。ショナールは目立つアリア等はないのですが、中間部をつなぐ縁の下の力持ち的役柄で、ここがしっかりしないと、アンサンブルが上手くいかないというのがあると思います。もう少し声の出る方に出てもらった方が良かったように思います。 杉尾真吾のコッリーネ。よかったと思います。この若手メンバーの中では一番舞台経験が豊富なのでしょう。他のかたの歌をしっかり受け止めて返している感じが見られました。声もしっかりしていました。 第4幕の「外套」のアリアがしみじみと響きました。

 そして、助演的な立場で出演された泉良平。さすがベテラン、演技・歌唱のバランスが別格に見事でした。彼がいたことで舞台が確実に締まりました。Bravoでしょう。 合唱もよかったです。練習量が必ずしも十分ではなく、アンサンブルの精密さという点ではさらに磨ける余地はあると思いましたが、実力者ぞろいで、嵌ると凄いいい感じで響きます。そこが楽しかったです。

 以上若さゆえの素晴らしさと、未熟さゆえの不足感も両方感じ取ることができて、全体としてはとても楽しい演奏でした。

日本オペラ振興会団会員企画シリーズ「ラ・ボエーム」TOPに戻る

本ページトップに戻る

鑑賞日:2022年12月22日

入場料:自由席 3500円

主催:オペラアモーレ音楽事務所

オペラアモーレ音楽事務所プロデュース(昼公演)

オペラGALA Specialクリスマスコンサート

会場 エコルマホール

出演者

ソプラノ 天羽 明惠
ソプラノ 楠野 麻衣
ソプラノ 米田 七海
メゾソプラノ 松原 広美
テノール 相山 潤平
バリトン 又吉 秀樹
バリトン 増原 英也
メゾソプラノ・司会 舛田 慶子
ピアノ 松本 康子

プログラム

作曲 作品名 曲名 歌手
モーツァルト フィガロの結婚 フィガロのアリア「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」 増原 英也
アルマヴィーヴァ伯爵とスザンナの二重唱「ひどいぞ、なぜこれまで私を焦らした」 米田 七海/増原 英也
スザンナのアリア「とうとう、嬉しい時が来た」 米田 七海
ドニゼッティ 愛の妙薬 アディーナとネモリーノの二重唱「ラ、ラ、ラ」 天羽 明惠/相山 潤平
ネモリーノのアリア「人知れぬ涙」 相山 潤平
ドニゼッティ ドン・パスクワーレ ノリーナのアリア「騎士はその眼差しに」 米田 七海
ノリーナとマラテスタの二重唱「準備はできたわ」 米田 七海/又吉 秀樹
ビゼー カルメン カルメンのハバネラ「恋は野の鳥」 松原 広美
エスカミーリョのアリア「友よ、喜んでその乾杯を受けよう」 増原 英也
休憩
オッフェンバック ホフマン物語 ジュリエッタとニコラウスの二重唱「美しい夜、愛の夜」 楠野 麻衣/舛田 慶子
モーツァルト ドン・ジョヴァンニ ドン・ジョヴァンニとゼルリーナの誘惑の二重唱「手に手を取って」 楠野 麻衣/又吉 秀樹
ヴェルディ ドン・カルロ ドン・カルロとロドリーゴの二重唱「我らの胸に友情を」 相山 潤平/又吉 秀樹
サン・サーンス サムソンとデリラ デリラのアリア「私の心はあなたの声に花開く」 松原 広美/相山 潤平
ヨハン・シュトラウス2世 こうもり アイゼンシュタイン、ロザリンデ、アデーレの三重唱「泣き泣きお別れ」(日本語歌唱) 天羽 明惠/又吉 秀樹/楠野 麻衣
アデーレのアリア「侯爵様、あなたのようなお方は」(日本語歌唱) 楠野 麻衣
アイゼンシュタインとロザリンデの時計の二重唱「この上品さ、マナーの良さ」(ドイツ語歌唱) 天羽 明惠/又吉 秀樹
ロザリンデの歌うチャルダーシュ「ふるさとの調べよ」(ドイツ語歌唱) 天羽 明惠
乾杯の歌「ぶどう酒の流れる中に」(日本語歌唱) 天羽 明惠/又吉 秀樹/楠野 麻衣/舛田 慶子
    クリスマスソング・メドレー「赤鼻のトナカイ、あわてんぼうのサンタクロース、ジングルベル」 全員
アンコール
ビゼー 椿姫 乾杯の歌 全員

感 想

ちょうどいいガラ・コンサート‐オペラアモーレ音楽事務所 オペラGALA Specialクリスマスコンサート」を聴く

 沢山の歌手が登場するガラ・コンサートを比較的よく聴くのですが、バランスの良いプログラムで聴くというのは、結構難しい。有名な曲と珍しい曲のバランス、アリアと重唱とのバランス、出演する歌手の実力に見合っていること、などを色々考えると、本当に難しい。私の個人的趣味としては、超有名な曲は出来るだけ避けてほしいし、と言って、超マニアックな曲だけで組まれるのもやっぱり気が重い。一番いいのは、極端に有名ではないけど聴き応えのある曲を中心に据えて、超有名曲をちょっととかなりマニアックな曲をちょっと、というのが一番いいと思っています。また、重唱の曲とアリアは1:2とか2:3ぐらいがいいかもしれない。また、登場する歌手にとってチャレンジングすぎるのも勘弁してほしいし、と言って易しすぎるのはもっと嫌です。だから満足だな、と思えるプログラムのガラコンサートはなかなか少ない。

 そういう意味で今回は色々な意味で丁度良かったかなという印象です。何といっても年末ですからあんまり重いのは嫌だし、その意味で、後半が「こうもり」を中心にしてくれたのはよかった。そして「こうもり」でも「アデーレのアリア」や「チャルダーシュ」だけではなく、ガラコンサートで演奏されることは珍しい「泣き泣きお別れ」の三重唱や「時計の二重唱」をコミカルにやってくれたのも良かったです。もちろん、アイゼンシュタインが又吉秀樹でロザリンデが天羽明惠というのがまたぴったりはまっている。又吉秀樹は二期会の本公演でアイゼンシュタインを歌っていますし、天羽明惠はロザリンデよりもアデーレという感じですが、そこはベテラン、ロザリンデを歌ったってさすがに上手い。そこに絡むアデーレがコロを転がすことには定評のある楠野麻衣ですから、皆さん力量十分でかつコミカルな味わいがあって良かったです。

 全体的に喜劇中心で重い曲が少なかったのが良かったのかもしれない。前半はカルメン以外は皆喜劇ですしね。増原英也の「もう飛ぶまいぞこの蝶々」は開演時間に間に合わず聴くことができませんでしたが、米田七海がいい。2020年の昭和音大オペラのゼルリーナ役で聴いている方ですが、その時より成長されている様子が見えてよかったです。スザンナの溌溂した感じがしっかり見えました。

 続く「愛の妙薬」の二曲。天羽明惠の上手さが光ります。相山潤平もリリックな声でネモリーノらしい雰囲気を出していてよかったのですが、アディーナのおきゃんな感じを天羽明惠が上手に表現していたと思いました。個人的にはもう一段踏み込んだ表現をしてくれるともっといいのにとは思ったのですが。

 「ドン・パスクワーレ」の二曲。こちらも二曲とも溌溂としていました。米田七海はノリーナのしたたかな感じをしっかり表現できていましたし、バリトンに転向して間もない又吉秀樹も物凄い声量でマラテスタを歌い上げました。テノールからバリトンに転向しただけあって、高音が素晴らしく綺麗で力感がある。と言って、低音がスカスカにならないのもいい。流石だと思いました。

 松原広美の「ハバネラ」。メゾソプラノの課題曲ですから、もちろん立派に歌い上げ、増原英也の「闘牛士の歌」も、こちらもバリトンの課題曲みたいなものですから、しっかりと盛り上げて前半を締めました。

 後半の最初は「ホフマンの舟歌」。これはソプラノとメゾソプラノの重唱の定番で何回聴いているか分からない位聴いていますが、今回は比較的若い二人の歌。美女コンビですが、妖艶になりすぎないのが良かったのかもしれません。続く誘惑の二重唱。楠野麻衣の歌うゼルリーナのカマトトな感じと又吉ドン・ジョヴァンニの抜群の声量を踏まえた喜劇的雰囲気がいい感じに音楽をまとめていたと思います。ドン・カルロの友情の二重唱は、この間までテノールだった又吉秀樹がテノールのパートに行ってしまおうとするところが何か所かあって、そのミスが微笑ましかったです。もちろん何事もなかったように歌っていましたが。そして松原広美によるデリラのアリア。これまた松原のパワフルな声にいい感じで合っていてよかったです。

 そしてこうもり。こうやって見ると、両端を喜劇的な曲でまとめ、中間部を重たい曲も含めたバラエティに飛んだ組み合わせにしたプログラムが良かったのだろうなと思います。そして、もう一つ申し上げれば松本康子のサポートもよかったです。最後はクリスマス・ソング・メドレー、アンコールは定番の「乾杯の歌」で締めました。

 開始時間が13時と早すぎるのが残念でした(午前中仕事して狛江まで移動するのが大変でした)が、それ以外は楽しめてほっとする演奏会でした。

オペラアモーレ音楽事務所 オペラGALA SpecialクリスマスコンサートTOPに戻る

本ページトップに戻る

鑑賞日:2022年12月22日
入場料:自由席 4000円

主催:オペラ工房アヴァンティ

第8回オペラ工房アヴァンティ公演

オペラ3幕 日本語上演
フンパーディンク作曲「ヘンゼルとグレーテル」
Hänsel und Gretel )
原作:グリム兄弟
台本:アーデルハイト・ヴェッテ 

会場 みどりアートパーク(横浜市緑区民文化センター)

スタッフ

指揮 奥村 泰憲
ピアノ 岡本 佳子
演出 黒川 愛子

出演者

ヘンゼル 中原 沙織
グレーテル 高橋 初花
ペーター 三輪 直樹
ゲルトルート 中川 美智子
魔女 須藤 章太
眠りの精 船津 え莉
露の精 小野 愛子

感 想

残念感の強い上演‐第8回オペラ工房アヴァンティ公演「ヘンゼルとグレーテル」を聴く

 「ヘンゼルとグレーテル」は子供向けオペラという印象が強く、それだけにあまり難しい作品ではないという印象を持っていました。もちろんこれまで何回か聴かせていただいていますが、これはちょっと、と思うような演奏はなかったのではないかと思います。逆にそうだからこそ、難しくないと思っていたのかもしれません。一方で音楽事典などを紐とくと、作曲者のエンゲルベルト・フンパーディンクはワーグナーの弟子で、この作品が彼の出世作なのですが、その中にはワーグナー的技法を利用していて、管弦楽などはかなり厚めに罹れているという話もあります(個人的にはそれをあまり感じたことはないのですが)。だから、これまで私が聴いてきた方々は上手な方々が多かったというだけなのかもしれません。

 そういうこれまでの聴取経験からすると、今回の演奏はかなり残念だったと申し上げるしかありません。主役の二人はそこそこしっかり歌われていたと思うのですが、それ以外の方はかなり残念なレベルでした。父親役の三輪直樹。声量はあるし、声も美声なのですが、音程がかなりいい加減ですし、リズムもちょっとという感じ。しっかり整えて欲しいというのが本当のところです。母親の中川美智子は三輪ほど悪い感じはしませんでしたが、表現全体がくすんでいる感じで、今一つパッとしなかったのかな、というところ。

 須藤章太の魔女は、おどろおどろしさというか不気味さというか、という部分はある程度はあったと思いますが、そのおどろおどろしさというかいやらしさをもっと出さないと、魔女のキャラクターとしての強さが出ないのかなという印象を持ちました。更に申し上げれば、この魔女は、高音が上手くいっていなくて、響きがかなり不安定だったと思います。

 眠りの精、露の精は音楽のとりまわしも声も力量不足というのが本当のところ。高い音はもっと綺麗に細く響いてほしい。もう一つ気になったのはピアノ。もちろんきっちりは演奏されているのですが、歌手に寄り添う感じが弱いように思いました。もうちょっと寄り添ったピアノにすれば、もう少し上手く行ったのかもしれないと思いました。

 以上の脇役陣と比べれば、ヘンゼルの中原沙織とグレーテルの髙橋初花は立派に役目を果たしたと思います。まず、冒頭からゲルトルートが出てくるまでの重唱は、滑らかにいい感じで進みました。重唱がきちんとハモっていたのも良かったと思います。第二幕冒頭の、「小人が森に立っている」もきっちり歌われていてよかったと思います。この作品は基本はヘンゼルとグレーテルの二人が歌うところにあるので、この二人がしっかりと歌われたことで崩壊しなかったのではないかと思いました。

 「ヘンゼルとグレーテル」はクリスマスの定番のようなところがあって、その意味では丁度いい選択だったと思うのですが、そうであるだけに、全体としてもっといい感じに仕上げて欲しかったいうのが本当です。

第8回オペラ工房アヴァンティ公演「ヘンゼルとグレーテル」TOPに戻る

本ページトップに戻る

鑑賞日:2022年12月25日
入場料:自由席 5000円

主催:新宿区民オペラ

第25回新宿区民オペラ実験劇場公演

オペラ4幕 日本語上演
マスネ作曲「サンドリヨン 」
Cendrillon )
原作:シャルル・ペロー
台本:アンリ・カイン 

会場 新宿文化センター小ホール

スタッフ

指揮 草川 正憲
オーケストラ 新宿オペラ管弦楽団
演出 園江 治
舞台監督 石黒 真紀

出演者

シンデレラ 小澤 美咲紀
シャルマン王子 窪 瑤子
継母アルティエール 藤田 槙葉
義姉ノエミ 宮下 麗
義姉ドロテ 中島 清香
妖精の女王 岩崎 園子
父パンドルフ 普久原 武学
国王 沖山 元輝
妖精1 山本 澄子
妖精2 玉田 弓絵
妖精3 高野 真由美
妖精4 小松 美紀
妖精5 新垣 慶
妖精6 滋野 雅美

感 想

思っていた以上に健闘‐第25回新宿区民オペラ実験劇場「サンドリヨン」を聴く

 毎年夏から秋口にかけて上演される新宿区民オペラには何度か伺っています。しかしながら、12月の実験劇場の方は開催されていることは存じておりましたし、同日に新宿文化センターの大ホールで開催された演奏会に伺ったこともあるのですが、この実験劇場を拝見したことはこれまでありませんでした。また新宿文化センターには幾度となくお邪魔しているのですが、こちらの小ホールに入ったのは初めての経験です。入ってまず思ったのは、「天井が低い」です。普通のビルとほとんど一緒。3メートルちょっとでしょう。席数は200程ですが、平土間の可動席のみで結構狭く感じました。

 その決して広いとは言えない舞台にオーケストラが乗っていることにまず驚きました。プログラムによると総勢31名。正直なところ、決して上手ではなかったのですが、こういう小さい場所で演奏されるオペラでオーケストラが付くことはかなり珍しいと思います。贅沢な話です。そのため必然的に演技するスペースは狭くなり、歌手の方は舞台の上を使うだけではなく、舞台前方の平土間部分も使われて歌唱、演技をされていました。その分見えにくいところもあり、「実験劇場」という名の通り、色々なことを試しているということなのでしょうが、舞台の高さを考慮してくれた方が見えやすくなったのではないかと思いました。

 演奏は日本語で行われ、おそらく全体の2割程度の細々したカットが入っているように思いました。

 オーケストラはテクニックが総じて甘く、あまりいいものだとは思いませんでしたが、歌手の方は比較的頑張られていい演奏をされていたと思います。

 主役のシンデレラを歌唱したのは小澤美咲紀。見事な集中で良かったと思います。全体に声がむらがなく、高音から割と低音までしっかり響いていました。また歌のアプローチが自然で、歌うべきところはしっかり歌い、そうでないところは適度に力を抜くバランスもいい感じでした。

 王子役の窪瑤子もしっかりその役目を果たしました。宝塚の男役みたいな雰囲気で歌われ、歌いまわしは小澤同様丁寧でした。そのため二人のデュエットがいい感じで響いてきて、素敵でした。

 一方お笑い系担当の悪役、義母と義姉役の三人は、義母役の藤田槙葉がいい。歌唱は憎々し気になりすぎず、言葉がはっきりしているのもいいと思うし、またコミカルな演技も見せてくれました。二人の義姉もアンサンブルはそこそこ嵌っていました。

 妖精たちは女王役の岩崎園子が今一つ。高音を響かせる役柄ではありますが、中低音が全然響かないのはいただけません。と言って高音もさほど得意ではないようで、跳躍は下から突き上げるようになっていて、上手く高さを確保できていなかったし、無用に強くなってしまうところもあり、残念だったと思います。一方アンサンブルで参加する妖精たちは妖精ばかりではなく合唱部分も担当し、しっかりしたアンサンブルで下支えをしていました。高音部担当の三人よりも中低音担当の三人の方がいい感じだったように思います。

 男声陣は父親役の普久原武学が流石の力量。しっかりしたバリトンで、父親の優しさと強さをきっちりとしましたいました。アンサンブルの中での歌唱もよかったと思います。国王の沖山元輝も当初予定されていた五島泰次郎のキャンセルで急遽参加したにもかかわらず、立派な低音を響かせてしっかり存在感を示していました。

 あまりよくないという噂も耳にしていたので恐る恐るやってきたのですが、実際の演奏はオーケストラ伴奏で、音楽の本領を示してもくれましたし、歌手たちもしっかり健闘されていたのではないかと思います。

第25回新宿区民オペラ実験劇場公演「サンドリヨン」TOPに戻る

本ページトップに戻る

鑑賞日:2022年12月27日
入場料:自由席 10000円

主催:龍の会

ステーションスタジオ幡ヶ谷「ラ・ボエーム」

オペラ4幕 原語上演(ハイライト)
プッチーニ作曲「ラ・ボエーム」
La Bohèmei)
原作:アンリ・ミュルジェール
台本:ジュゼッペ・ジャコーザとルイージ・イッリカ 

会場 ステーションスタジオ幡ヶ谷

スタッフ・キャスト

ミミ 西本 真子
ロドルフォ 樋口 達哉
ムゼッタ・ナレーション 川越 塔子
マルチェッロ 谷 友博
アルチンドロ・舞台監督 清水 龍之介
ピアノ 横山 修司

感 想

パワフル‐ステーションスタジオ幡ヶ谷「ラ・ボエーム」を聴く

 ピアニストでコレペティトゥアの横山修司が、武蔵野音大出身の弟子たちと「ボエーム」をやりたいということで実現したコンサート。メンバーは二期会や藤原歌劇団で主役を張る掛け値なしに日本を代表する歌手です。忙しいメンバーを集めるだけで一苦労だったようで、年末の慌ただしい時期に、それも開演時間16時という中途半端な時間で演奏されました。ほぼ口コミだけで宣伝した様子で、総席数が45。会場は普通のスタジオで、広さは事務室、控室を含めて100平米とのこと。そこで日本を代表する歌手がアンサンブルしました。

 まず、皆さん会場が狭いからといって、声を出し惜しんだり、手抜きをしたりして歌うことはありませんでした。皆、大ホールで歌う時と同じテンションで歌われていました。この人たちがこの広さのスタジオで大ホールと同じテンションで歌うとどうなるか。一言で申し上げれば音圧に圧倒されます。

 特に樋口達哉。声量や響きが半端でない。音が圧力として私の身体を押してきました。その貫通力は半端ではありません。その分ちょっと粗っぽい感じはあったのですが、スタイルが壊れることは全くなく、聴かせどころのアクートは流石に惚れ惚れするほどです。二期会のトップテノールの力量をまざまざと見せつけました。

 他のメンバーも凄い声です。西本真子のミミも丁度いい響きで見事でしたし、谷友博のロドルフォをしっかり受け止めて打ち返していく感じも流石でしたし、川越塔子のコケティッシュな魅力もたっぷり感じました。あまりのパワフルさにただただ音の流れに身を任せるだけでした。

 こういう声を聴かせられると残念なのはノーカット演奏ではなくハイライト上演だったことです。

 今回演奏されたのは第1幕が冒頭から、コッリーネが帰ってくるまでのロドルフォとマルチェッロの重唱部分、ミミが登場してからラストまで。第二幕は色々つまみ食いをして、ムゼッタのワルツ中心。第三幕はミミが登場して、マルチェッロとの二重唱から最後の四重唱までカットなし。第4幕は冒頭から二重唱「ミミ、お前はもう戻ってこない」まで。その次のストレッタの部分がほぼカットでラストの数小節とムゼッタが飛び込んでくるシーンからミミの死まではかなりカットしながら、という感じです。もちろんこの中にはコッリーネの「外套のアリア」以外の全てのアリアと、主要な重唱は全て歌われるので、ボエームの魅力は一通り伝えられたわけですが、プッチーニの音楽の魅力は実はそういうキャッチーなところだけではないのです。

 ボエームは本当に緻密に書かれているので、カットされると音楽の魅力が減衰されるところがある。例えば第二幕は第一幕のアンサンブル・フィナーレという側面もあるわけですが、そこに書かれた音楽は合唱と重唱とソロとが入れ子細工のように重なり合い、お互いが関連しながら盛り上がって、クリスマスのカルチェラタンの雑踏を表現する構造になっていくわけです。そこを4人だけで歌おうとすると、その雑踏の雰囲気が全く消えてしまいます。その猥雑な雑踏の中できらびやかに着飾ったムゼッタが登場するからこそ味わいが出てくるので、そういうのが感じられなくなるのは残念だったなとは思いました。

ステーションスタジオ幡ヶ谷「ラ・ボエーム」TOPに戻る

本ページトップに戻る

目次のページに戻る

SEO [PR] !uO z[y[WJ Cu