オペラに行って参りました-2022年(その4)

目次

牧子節、炸裂 2022年5月5日 オペラカフェマッキアート58「不思議の国のアリス」を聴く
改革オペラはバロックオペラ 2022年5月19日 新国立劇場「オルフェオとエウリディーチェ」を聴く
クラシックとの交差点 2022年5月27日 Linnna×Christpher Hardy "WE GOT RHYTHM"を聴く
アマチュアの試演会と思えば立派です。 2022年5月28日 カンティオーネ ワークショップ「椿姫」ハイライトを聴く
魂のある音楽 2022年6月2日 「牧野正人と仲間たちコンサート」を聴く
一流の音響 2022年6月5日 Le voci第19回公演「夢遊病の女」を聴く
麗しきハーモニー 2022年6月11日 「Duo profomato con yoko ~香&薫~ ソプラノ二重唱のかほり」を聴く
三方良しの大熱演 2022年6月12日 NISSAY OPERA2022「セビリアの理髪師」を聴く
70年の進歩 2022年6月24日 二期会デイズ2022初日「東京二期会物語-青碧の時代-」を聴く
ガランチャよりも若手 2022年6月29日 アトリエ・エル」vol.27を聴く

オペラに行って参りました。 過去の記録へのリンク

2022年 その1 その2 その3 その4 その5 その6 どくたーTのオペラベスト3 2022年
2021年 その1 その2 その3 その4 その5 その6 どくたーTのオペラベスト3 2021年
2020年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2020年
2019年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2019年
2018年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2018年
2017年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2017年
2016年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2016年
2015年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2015年
2014年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2014年
2013年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2013年
2012年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2012年
2011年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2011年
2010年 その1 その2 その3 その4 その5 どくたーTのオペラベスト3 2010年
2009年 その1 その2 その3 その4   どくたーTのオペラベスト3 2009年
2008年 その1 その2 その3 その4   どくたーTのオペラベスト3 2008年
2007年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2007年
2006年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2006年
2005年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2005年
2004年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2004年
2003年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2003年
2002年 その1 その2 その3     どくたーTのオペラベスト3 2002年
2001年 その1 その2       どくたーTのオペラベスト3 2001年
2000年            どくたーTのオペラベスト3 2000年

鑑賞日:2022年5月5日入場料:自由席 5000円 4列目ほぼ中央で鑑賞

主催:オペラカフェマッキアート58事務局

オペラカフェマッキアート58公演

全2幕、原語(日本語)上演
木下 牧子作曲「不思議の国のアリス」
台本:高橋英郎/木下牧子

会場 滝野川会館ホール

スタッフ

指 揮 谷本 喜基
ピアノ 松井 理恵
合 唱 コーロ・マッキアート
     
舞台構成 塙 翔平
映 像 荒井 雄貴
ヘアメイク 徳田 智美
舞台監督 三浦 奈綾

出 演

アリス 宍戸 茉莉衣
姉・ユリの花・庭師(スペード5) 別府 美紗子
白うさぎ 横内 尚子
笑い猫 野村 光洋
公爵夫人 松岡 多恵
ジャック 又吉 秀樹
帽子屋 吉田 連
女王 小暮 沙優
山本 悠尋
ドードー鳥・使用人 大槻 聡之介
けしの花1・庭師(スペード7) 加藤 早紀
けしの花2・庭師(スペード2) 藤原 唯
アンサンブル:ソプラノ 吉田 慎知子
アンサンブル・アルト 持田 温子
アンサンブル・テノール 岸野 裕貴
アンサンブル・バス 甲野 将也

感 想

牧子節、炸裂‐オペラカフェマッキアート58「不思議の国のアリス」を聴く

 木下牧子と言えば、合唱曲の大家という印象が強いです。おそらく2000年代と2010年代、日本国内では信長貴富と並んでツートップを維持してきたのではないでしょうか。しかし、木下は元々管弦楽志向の人だったそうで、その後の歌音楽への活動の広がりも含めればオペラへの挑戦は当然たどった道、ということだろうと思います。「不思議の国のアリス」は「モーツァルト劇場」という団体の委嘱によって作曲され、同団体で2003年に初演されました。モーツァルト劇場は、文芸・音楽評論家でもあった髙橋英郎が主宰していた団体で、モットーは外国のオペラ作品を日本語で公演を行うというものでした。髙橋は日本語訳詞公演のために毎回聴いて分かりやすい台本を作って公演をしていたのですが、それだけではやはり限界があるということで、聴いて分かりやすいオペラを作成したいという気持ちから、「不思議の国のアリス」のオペラ化を思い立ち、木下に委嘱したのかもしれません。ちなみに私は初めて聴きました。

 「不思議の国のアリス」と言えば、世界の児童文学史に燦然と輝く傑作とされているわけですが、子供のころ読んだ翻訳は決して面白いとは思えませんでした。誰の翻訳だったかとは今や忘却の彼方ですが、今になって思えば、ナンセンスな笑いを丁寧に伝えようとして文章のテンポが悪くなり、子供には楽しめなかったのではないかという気がします。そんな作品の面白さに気づいたのは大人になってからディズニーアニメの「不思議の国のアリス」を見てからです。今回木下作品を見て思ったのは、ディズニーアニメからの影響があるのではないかということ。もちろん今回の音楽とディズニー映画に付けられた音楽とは似ても似つかぬものですが、ストーリーの分かりやすさや展開のテンポの速さは(もう一つ言えば、登場人物の衣裳も)、原作は当然眼を通しているにしても、ディズニーの影響を感じてしまいました。

 音楽的には非常に転調が多く、調性はとてもあいまいです。それは特に伴奏で感じました。今回はピアノ伴奏でしたが、本来はオーケストラ伴奏によるものなので、オーケストラになった時どんな聴こえ方がするのかに興味があります。にもかかわらず、歌は調性的には複雑な感じがする割には、平易に聴こえてしまうという彼女のの合唱曲に通じるものがあり、また、歌詞の楽曲への乗りがとてもよく、歌い手の歯切れの良さも相俟ってのことだろうとは思いますが、日本語がとてもクリアーに聴こえ、そういうところもこの作品の良さなのだろうと思いました。超絶技巧が必要なアリアはありませんが、きっちり歌おうと思えばそれなりの技術と力量とが求められるのだろうと思いました。

 演奏は基本的に丁寧で皆さん上手です。重唱部分の多い作品ですが、それぞれ声の作る和音が美しく見事でした。

 まずアリスを歌われた宍戸茉莉衣が良かったです。終始出ずっぱりで、とはいえ歌うのは細切れで、ある程度常時緊張していなければならないので大変な役だな、と思いましたが、その役を終始可愛らしく溌溂と歌ったのが素敵でした。アリスは主役であると同時にこの作品の狂言回しなわけでもあるのですが、彼女がいることで作品に一本芯が通った感じになりました。

 別府美沙子も大活躍でした。冒頭では姉として、中盤では百合の花として美しく歌い、女王様のクロッケー大会では、庭師のアンサンブルの一員として、そしてラストではまたアリスの姉の姿に戻ってと八面六臂の活躍。彼女の色々な面が見られたと思います。なお、庭師のアンサンブルでは、加藤早紀、藤原唯もよく、百合の花の歌唱の後半ではけしの花として参加し三人のアンサンブルになりますが、三人の声が調和していてとてもよい響きになりました。

 白うさぎの横内尚子。アリスとは違った意味で狂言回しですが、こちらも冒頭の歌唱から美しく歌われ、要所要所で存在感を示しました。笑い猫の野村光洋は出番は少ないですが、印象的なバリトンが良かったです。バリトンと言えば大槻聡之介のドードー鳥も存在感がありました。 

 帽子屋は珍妙な「キラキラ星」、ジャックは「タラの歌」でそれぞれ1幕と2幕の音楽的頂点を見せるわけですが、全社の吉田連、後者の又吉秀樹共にさすがの歌唱、しっかりその役目を果たしました。また、第一幕フィナーレはお茶会の場面ですが、公爵夫人の松岡多恵もしっかり存在感を示しました。

 トランプの女王は小暮沙優。ドラマティックな声で、女王のヒステリックな残酷さを示します。それにしても「首をはねておしまい」の歌唱がユーモラスにも聴こえてしまうのは、そういうキャラクターに作曲したということなのでしょうね。

 その他4人のアンサンブルと合唱も非常に力強く、また合唱曲は親しみやすい感じもあってよかったです。

 以上全体として調和のとれた質の高い演奏で大いに満足いたしました。

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鑑賞日:2022年5月19日入場料:3FR10列2番 7920円 

主催:新国立劇場

新国立劇場2021-2022シーズンオペラ

全3幕、日本語/英語字幕付原語(イタリア語)上演
グルック作曲「オルフェオとエウリディーチェ」(Orfeo ed Euridice)
台本:ラニエーリ・デ・カルツァビージ

会場 新国立劇場オペラハウス

スタッフ

指 揮 鈴木 優人
オーケストラ 東京フィルハーモニー交響楽団
ツィンク 上野 訓子/得丸 幸代
シャリュモー  満江 菜穂子 
チェンバロ 重岡 麻衣
合 唱 新国立劇場合唱団
合唱指揮  冨平 恭平 
演出・振付・美術・衣裳・照明 勅使川原 三郎
アーティスティックコラボレーター 佐東 利穂子
舞台監督 髙橋 尚史

出 演

エウリディーチェ ヴァルダ・ウィルソン
オルフェオ ローレンス・ザッゾ
アモーレ 三宅 理恵
ダンス 佐東利穂子、アレクサンドル・リアブコ、高橋慈生、佐藤静佳

感 想

改革オペラはバロックオペラ‐新国立劇場「オルフェオとエウリディーチェ」を聴く

 「オルフェオとエウリディーチェ」はグルックによるオペラ改革の実践作として、オペラ史では欠くことのできない有名作品ですし、1903年に東京音楽学校で、日本人による最初の本格的なオペラ公演として上演された作品でもあり、日本オペラ上演史でも忘れられない作品です。 それだけ重要な作品ですし、登場人物は3人+合唱と規模が小さく、さらに歌唱的にもとりわけ難しいというわけでもないのに、実際に上演を目にする機会はあまりありません。東京で上演されたのは2017年北とぴあで「レ・ポレアード」が演奏したものが多分最後。その後は上演事例がないのではないでしょうか。私はこの北とぴあ公演は聴いておらず、2010年の日生劇場公演以来の聴取となります。

  また、「オルフェオとエウリディーチェ」はウィーン版(イタリア語)とパリ版(フランス語)と二つのバージョンがあり、使用楽器に違いがありますし、パリ版で追加された楽曲がいくつもあります。日本ではこれまでウィーン版が多く演奏されているのですが(私の聴いた2010年日生劇場公演もウィーン版)、2017年の北とぴあ公演はパリ版の日本初演で話題になったと思います。  今回の新国立劇場公演は、ウィーン版とパリ版の折衷公演でした。もっと正確に申し上げればウィーン版を基準にし、パリ版で追加された楽曲(主にバレエ音楽)を追加して演奏するというものです。楽器編成も両方の和のようで、パリ版では使われないシャリュモーやツィンクが使われる一方でパリ版で使われるクラリネットは使用されず、トロンボーンはパリ版に倣って3本になっています。なお、ウィンドマシーンはどちらの版でも使用されないようですが、今回の演奏では要所要所で使用され、おどろおどろしい雰囲気など一定の効果を生み出していました。

 今回使用された楽器は、シャリュモーやツィンクといった一部の特殊な楽器を除くと現代楽器で演奏されました。しかしながらその演奏スタイルは、アクセントを強調したバロック的なごつごつしたもの。鈴木優人はこの作品を完全なバロックオペラとして見なしていたものと思います。弦楽器のビブラートも基本的には使用されていませんでした。音の動きがロマンティックではないところが特徴的でした。

  歌唱に関しては、オルフェオを歌ったローレンス・ザッゾが立派なカウンターテナー。声の感じがアルトっぽくていい雰囲気です。ほぼ出ずっぱりながら、悲哀を込めた歌を最初から最後まで水準を超えたところで歌い切りとてもよかったと思います。ただ、お客さんがこの作品のことをよく知らないこともあって、アリアで拍手が出たのは、「エウリディーチェを失って」の後だけでした。もちろん哀愁が感じられたこの歌唱も悪くはなかったけれども、彼の魅力が一番発揮されたのは第一幕、第二幕のレシタティーヴォ・アコンパニャートの部分だったように思います。

  エウリディーチェを歌ったヴァルダ・ウィルソンも落ち着いた雰囲気の歌唱。第三幕の二重唱オルフェオとののように劇的になってもよい部分でも抑制された歌唱でした。アリアもじっくり聞かせるように歌われたと思います。 三宅理恵のアモーレ。第一幕では初日の緊張が解けていない様子で、歌唱・演技ともに若干ぎこちなさが見られました。第三幕は落ち着いたのか流麗な歌唱でした。合唱の素晴らしさはいつもながら。

  今回の音楽は悲しみの表現のために全体的に抑制的だったと思います。一方で物語に内在する激しさはバレエに譲ったようにも見えました。

  勅使河原三郎の演出は、歌手にも踊らせる部分はあるものの、基本的には歌手は歌唱、心情表現も含めた動きはダンサーに任せるというものだと思います。舞台中央の傾いた白い円盤の上で歌手は歌い。この円盤がなくなる第二幕以外は、歌手はこの円盤の上から動くことはありません。照明はこの円盤を中心に照らし、ダンサーはこの円盤の前で踊ります。ダンサーが踊るときは踊る場所を俯瞰するように照明が広めに照らすものの、全体は暗い舞台であり、白く輝く円盤が闇に浮き上がって見えます。踊りはコンテンポラリーダンスに分類されるのでしょうか。結構激しい動きで、ダンサーの身体が動きます。4人のダンサーのうち、佐東利穂子がエウリディーチェを象徴しているのか常時白い衣装で踊り、他の3人が青い衣装で踊っているのですが、多分オルフェオを象徴するアレクサンドル・リアプコの踊りがとりわけダイナミックでその激しさと身体の柔らかさがいい感じでしたし、佐東の花びらが散るような柔らかい踊りとのコンビネーションも見事だったと思います。

  作品に含まれる有名な「精霊の踊り」を含むバレエ音楽は、間奏曲的に演奏されてバレエが付かないものとバレエが付くものの両方があり、第二幕の「復讐の女神の踊り」が一番ダイナミックで見応えがありました。

  この演出の大きなモチーフは闇と光だと思いますが、もう一つは花でしょう。第一幕の舞台上には棺を飾るのか、青いアジサイが印象的で、第二幕の冒頭は暗い照明で白いユリを照らして黒っぽさを強調して、復讐の女神が去った後は白百合に変わります。  白百合は、日本ではお正月の花でもありますし、葬儀でもよく使われます。勅使河原はその白百合の日本的な使われ方を踏まえて生と死の象徴として目立たせたのだろうかなどと思いました。 全体的には演出の意図が強く出て、それに音楽が乗っかるような舞台だったと思いますが、音楽のバロック的な色彩と、生と死を意識した舞台がいい感じに溶け合い、なかなか面白い舞台になっていたと思います。

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鑑賞日:2022年5月27日入場料:自由席 4500円 

主催:オフィス「女の城」

Linnna×Christpher Hardy "WE GOT RHYTHM"

会場 豊洲シビックセンターホール

スタッフ

プロデュース&アレンジ 小嶋 貴文

出 演

ソプラノ 佐藤 亜希子
ソプラノ 寺島 夕紗子
ピアノ 塩塚 美知子
パーカッション クリストファー・ハーディ

プログラム

作曲 作品名/作詩者 曲名 歌唱 ピアノ/パーカッション
寺島 尚彦 寺島 尚彦 さとうきび畑 寺島 夕紗子 塩塚 美知子/クリストファー・ハーディ
ニン 20のスペインの歌 パーニョ・ムルシアーノ 寺島 夕紗子 塩塚 美知子
ニン 20のスペインの歌 ポロ 寺島 夕紗子 塩塚 美知子
プッチーニ トスカ トスカのアリア「歌に生き、愛に生き」 佐藤 亜希子 塩塚 美知子
ヴェルディ 椿姫 ヴィオレッタのアリア「ああ、そは彼の人か」~「花から花へ」 佐藤 亜希子 塩塚 美知子
ヒナステラ アルゼンチン舞曲集 作品2 1.年老いた牛飼いの踊り、2.優雅な乙女の踊り、3.はぐれ者のガウチョの踊り   塩塚 美知子/クリストファー・ハーディ
休憩
小嶋 貴文 女の城 女1,女2による二重唱「夢路はるかに」 佐藤亜希子/寺島夕紗子 塩塚 美知子
寺島 尚彦 寺島 尚彦 麦わら帽子 寺島 夕紗子 塩塚 美知子/クリストファー・ハーディ
ブロドスキー   Be My Love 佐藤 亜希子 塩塚 美知子
アイルランド民謡   ダニー・ボーイ 寺島 夕紗子 塩塚 美知子
ハーディ   砂のささやき   クリストファー・ハーディ
小嶋 貴文編曲 Special Medley Little Brown Jug~ Take the 'A' train ~ I Got Rhythm ~ When You Wish upon a Ster ~ My Favorite Things 佐藤亜希子/寺島夕紗子 塩塚 美知子/クリストファー・ハーディ
アンコール
ララ ララ グラナダ 佐藤亜希子/寺島夕紗子 塩塚 美知子/クリストファー・ハーディ
サルトーリ ルーチョ・クアラントット 君と旅立とう 佐藤亜希子/寺島夕紗子 塩塚 美知子/クリストファー・ハーディ

感 想

クラシックとの交差点‐Linna×Christpher Hardy "WE GOT RHYTHM"を聴く

 2016年10月、小嶋貴文のオペラ「女の城」が、洗足音楽大学シルバーマウンテンのホールで洗足音大の教員たちによって上演されました。この作品は、上演時間が約1時間40分、登場人物がソプラノ2人、テノール、バリトンにピアノと打楽器の伴奏が着くという作品です。その時出演したソプラノ二人とピアニストの同僚たちで組織したユニットが「Linna」だそうです。「Linna」とはフィンランド語で「城」のことで、まさに「女の城」由来の命名です。

 このLinnaのコンサートはコロナ禍の影響で2回延期され、ようやく実施されました。プログラムは、クラシックとポピュラー音楽のクロスオーバー。プロデュースを行った小嶋貴文は、ジャズの作曲家、演奏家として著名な方だそうで、その方のプロデュースなのでそうなったのでしょうね。とはいえ、前半は、Linnaの三人がやりたい曲を選んだそうで、寺島夕紗子は彼女の父親・寺島尚彦の代表作「さとうきび畑」とスペイン舞曲を、佐藤亜希子はオペラアリア二曲を、塩塚美知子は南米・アルゼンチンの大作曲家、ヒナステラのピアノ曲を演奏しました。この統一感のなさが面白いです。

 寺島の「さとうきび畑」は血のなせる業なのか、とても自在な歌なのに、じっくりと聴かせる味があって実に見事。本来ないパーカッションパートはハーディが波の音や鈴の音など、暑い夏の沖縄を象徴するような音を、私はこれまで見たことのないフレームドラム(どうも「バウロン」というらしいがはっきりしない)を中心にタンバリンやウインドチャイムなど様々な楽器を使って作り上げていくのですが、これまた見事で素敵。打楽器が入ることで、本来以上の深みが出ていたように思います。続くスペイン舞曲二曲はどちらも初耳。ロス・アンヘレスや先日亡くなったテレサ・ベルガンサは得意だったようですが、寺島もこの手の作品はよく取り上げているようで、ラテンの味を感じました。

 佐藤亜希子によるオペラアリア二曲は、どちらも彼女の得意とする曲で、これまで何度も歌っていると思います。今回も流石の歌唱で、オペラ歌手、佐藤亜希子の片鱗をしっかり示したのかなと思います。続くヒナステラのアルゼンチン舞曲集。ヒナステラの作品の中では有名なもののひとつですが、私が聴いたのは多分初めて。ピアノソロの曲ですが、今回はパーカッションが入ってのコラボ。ハーディは自分でパーカッションのパートを作曲してピアノに合わせたのでしょうね。使われた楽器は確認できたものだけで、サスペンディト・シンバル4種類、タンバリン、鈴、小太鼓、椅子、ハンドクリップ、足踏みの音、ウィンドチャイム、バスドラム、チャンベとコンガの合いの子のような楽器です。本当に様々な楽器で雰囲気を盛り上げます。パーカッションが入ることで塩塚のピアノもヒートアップ、共演によって盛り上がる典型を見たようで楽しめました。

 後半は、プロデューサー小嶋貴文による編成のプログラム。最初に「Linna」のきっかけとなったオペラ「女の城」からのソプラノの短い二重唱。続く寺島尚彦の「麦わら帽子」は、彼の26歳の時の作品だそうで、「さとうきび畑」と比較するとずっと素直な曲です。これも次女の夕紗子によって情感たっぷりに歌われました。

 「Be my love」はジャズのスタンダートナンバーであると同時にテノール歌手によってよく歌われます。まさにクラシックとジャズの交差点の曲ですが、これを佐藤亜希子が緊張しながらも丁寧に歌われました。続いてクラシック歌手もよく取り上げるアイルランド民謡。こちらはクラシックとフォークロアとのクロスオーバーか。寺島夕紗子はいい感じで歌います。寺島はリズムがはっきりしたセミクラシック的な音楽の方が得意の様子です。

 今回のスペシャルゲストであるパーカショニストのクリスティアン・ハーディが取り上げたのは、本日の大活躍のたらい状バウロンらしきもので、擦ったり叩いたりしながら色々な表情を作り出していきます。これもとても興味深いもの。ひとつの楽器を叩くばちを変えたり、叩く位置を変えたり、擦ったりすることで本当に多種多様な音が生まれ、音楽の膨らみが生まれます。

 そして、本日最後の公表プログラムはジャズの名曲メドレー。マイクを使わずに正確な音ながら、ジャズっぽいグルーミーさを感じさせるところ、凄くかっこいいと思いました。アンコールもポピュラークラシックの名曲2曲。女声が歌うのを聴くのは珍しいですが、格好よくまとめたと思います。

 自分が普段聴かない曲が多く、それでもいい感じまとめられ、楽しめました。

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鑑賞日:2022年5月28日入場料:自由席 500円 2列目ほぼ中央で鑑賞

主催:カンティアーモ

カンティアーモ・ワークショップ

全3幕、原語(イタリア語)ハイライト上演
ヴェルディ作曲「椿姫」(La Traviata)
原作:アレキサンドル・デュマ・フィス
台本:フランチェスコ・マリア・ピアーヴェ

会場 ベルブ永山ベルブホール

スタッフ

ピアノ 河崎 恵
     
演出・舞台監督 金子 二三代

出 演

ヴィオレッタ(第一幕) 細野 千賀子
ヴィオレッタ(第二幕) 鈴木 香織
ヴィオレッタ(第三幕) 衣笠 愛子
アルフレード 田中 準
ジェルモン 森井 敬
医師グランヴィル 神田 宇士
アンニーナ 横谷 めぐみ

感 想

アマチュアの試演会と思えば立派です‐カンティアーモ試演会「椿姫」を聴く

 「椿姫」は、本来であれば、主役級の3人のほかに、グランヴィル、アンニーナ、そして子爵、公爵、男爵、フローラ、ジュゼッペ、使者、というソリスト、更に合唱が必要です。今回のハイライトはそれらの人は登場しないので、演奏されたのは全体の約6割というところ。第1幕は、乾杯の歌の二重唱とその後のヴィオレッタとアルフレードとの二重唱、ヴィオレッタの「そは彼の人」の大アリア。第二幕は、アルフレードのアリア、ちょっとつなぎ、ヴィオレッタとジェルモンの二重唱、ジェルモンのアリア。第二幕の第二場は全部カット、第三幕は合唱が関与するところなどはカットされましたが、他はまあまあ演奏されました。

 演奏に関しては「言わぬが花」、というところです。アマチュアの歌好き、オペラ好きが歌ったと思えば皆さん素晴らしかったですし、立派でした。ただ、アンニーナはいくら素人とはいえ、もう少ししっかり歌って欲しかったけど。自分が普段聴いている「椿姫」がどれだけ素晴らしく、歌われている方々のレベルがどれだけ高いか、ということが痛感できた1時間10分でした。

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鑑賞日:2022年6月2日入場料:自由席 5000円 

主催:匠の時
協力:Donnna Monda 愛

牧野正人と仲間たちコンサート-歌に人生を賭けた者たちによる大サロンガラ-

会場 杉並公会堂 小ホール

出 演

ソプラノ 髙橋 薫子
ソプラノ 長島 由佳
メゾソプラノ 森山 京子
テノール 中鉢 聡
バリトン 泉 良平
バリトン 立花 敏弘
バリトン 牧野 正人
ピアノ 藤原 藍子
ゲスト/演出家 岩田 達宗

プログラム

作曲 作品名/作詩者 曲名 歌唱
山田 耕筰 北原 白秋 松島音頭 立花 敏弘
團 伊玖磨 北原 白秋 五つの断章より「舟唄(片恋)」 森山 京子
中田 喜直 三好 達治 木兎 泉 良平
團 伊玖磨 夕鶴 つうのアリア「あたしの大事な与ひょう」 長島 由佳
カルロス・ガルデル アルフレード・レ・ペラ 想いの届く日 中鉢 聡
服部 良一 西條 八十 蘇州夜曲 髙橋 薫子
山田 耕筰 北原 白秋 蟹味噌 牧野 正人
休憩
サン・サーンス サムソンとデリラ デリラのアリア「私の心はあなたの声に花開く」 森山 京子/中鉢 聡
モーツァルト フィガロの結婚 伯爵とスザンナの二重唱「ひどい奴だ! 今まで長いこと」 髙橋 薫子/立花 敏弘
モーツァルト フィガロの結婚 伯爵のアリア「勝ちと決まっただと」 立花 敏弘
ロッシーニ セビリャの理髪師 ロジーナとフィガロの二重唱「私なのね」 髙橋 薫子/牧野 正人
ジョルダーノ アンドレア・シェニエ ジェラールのアリア「国を裏切るもの」 泉 良平
ララ ララ グラナダ 中鉢 聡
レオンカヴァッロ 道化師 ネッダとシルヴィオの二重唱「シルヴィオ、こんな時間に危ないわ」 長島 由佳/泉 良平
プッチーニ ラ・ボエーム ムゼッタのアリア「私が街を歩くと」 髙橋 薫子
プッチーニ ラ・ボエーム ミミのアリア「あなたの愛の呼び声に誘われて」 長島 由佳
ビゼー カルメン カルメンとホセの二重唱「あんたね? 俺だ!」 森山 京子/中鉢 聡
ヴェルディ ナブッコ ナブッコのアリア「ユダヤの神よ」 牧野 正人
アンコール
ヴェルディ 椿姫 乾杯の歌 全員

感 想

魂のある音楽‐「牧野正人と仲間たちコンサート」を聴く

 本当の意味で魂の込められた音楽会だったと思います。素晴らしいのひとことです。後はすべて余計かもしれません。

 今回の主役はバリトンの牧野正人。牧野は10年ほど前に大腸がんに罹患し、それは緩解したそうなのですが、腎臓に転移し、更に足も痛めて通常は車椅子での生活だそうです。今回も車いすでの登場。ちなみに私は牧野を1991年から聴いていますが、そう言えば10年ほど前、あるコンサートで痩せた牧野を見たことがありますその時牧野は「ちょっと病気をして」と仰っていたのですが、「癌」とは仰っていなかったと思います。しかし、その後体型も元に戻り、2015年、16年ごろであれば「ファルスタッフ」、「ジェルモン」、「ドン・アルヴァーロ」、「レナート」、2019年ごろであれば「シャープレス」といった感じで出演を重ね、昨年春の「ジャンニ・スキッキ」に至るまで出演を続けられていたと思います。そして、その舞台姿・歌唱は皆素晴らしいもので、日本を代表するバリトンの力量を見せ続けました。その陰で、再発がんと戦っていたということは、実は今回牧野が口にするまで全く知らず、言われて驚いたところです。とはいえ、最近、牧野が快調でないことは明らかでした。例えば、昨年の例年出演されている立川のガラ・コンサートにはメッセージだけを送られて降板でしたし、本年3月の立川市民オペラのガラ・コンサートでも車椅子で登場しました。

 そんな大変な状況で頑張っている牧野を元気づけようと泉良平が企画したのがこのコンサート。長島由佳を除けば牧野と共演を重ねてきたベテランばかりが登場しました。最初司会役として登場した泉は牧野の心情をおもんぱかってかすぐ涙目でしたが、牧野の声は昔と変わらぬ元気さで、もちろんステージⅣということですから予断を許さない状況にあることは間違いないのですが、個人的にはほっとしました。

 さて演奏ですが、前半が原則日本の曲、後半がオペラの曲という組み合わせ。日本の曲は、民謡、歌曲、オペラアリア、歌謡曲、それに日本の曲ではないアルゼンチンタンゴと様々で面白い。

 最初は景気のいい「松島音頭」。ハイバリトンの立花敏弘がしっかり決めてコンサートを明るい雰囲気に持ち込みます。森山京子の歌った「片恋」は、日本的なリズムと抒情性を兼ね備えた曲。バリトンによってよく歌われる「木兎」を泉良平が歌ったあとは、前半の頂点とも言うべき、長島由佳による「夕鶴」のアリア。日本オペラのスペシャリストとも言うべき長島が歌うとそもそも素晴らしいアリアの味わいが、切々とした哀感で引き込まれます。次いではアルゼンチン・タンゴの名曲。クラシック畑の方が歌うことはあまりないと思いますが、中鉢聡の歌唱はパワフルで、リズムが立っていて素敵。そして、髙橋薫子お得意の「蘇州夜曲」を挟んで前半の最後が牧野正人の「蟹味噌」。これが絶品でした。歌いこなし、表情が、立派な声と相俟って、小さな一編のオペラを見ている感じ。歌に年輪を感じました。Bravissimoです。

 後半冒頭は牧野正人と演出家の岩田達宗によるトーク。岩田演出の舞台に牧野は何度も登場していますが、稽古場でのエピソードが興味を惹かれます。そして歌唱に入るとまずは、森山京子のデリラのアリア。最初音程が上手く嵌っていませんでしたが、中鉢サムソンが出てくるとグッと盛り上がります。サムソンが甘さと力強さでデリラに迫るとそれに負けない声で返そうとするデリラ。盛り上がります。この二人は「カルメン」の終幕の二重唱も歌いましたが、森山京子がある時期、日本を代表するカルメン歌いだったことを確認させるのに十分な貫禄のある歌でした。

 立花・高橋夫妻の「フィガロの結婚」の二重唱は、二人でその場面を日本語でやって見せてからイタリア語でデュエット。こういうやり方をすると、字幕よりももっと内容が理解できます。もちろん歌も素晴らしい。続く伯爵のアリアも、前半のレシタティーヴォ部分を台詞で、アリア部分を歌うというやり方でいい感じにまとめました。

 髙橋と牧野の二重唱は、当初アナウンスされていた「ルチア」の二重唱ではなく、急遽「セビリャ」の二重唱に変更。この二人、昔から何度も共演した仲間だけあって、お互いの息遣いを感じながらテクニックを披露していくところ、流石としかいうしかありません。泉良平のジェラールのアリアを経て中鉢の「グラナダ」。色っぽさを感じます。先週の女声二人によるグラナダも悪くなかったですが、テノールが輝ける声で歌った方がこの曲の味わいを引き出すと思いました。

 ネッダとシルヴィオの二重唱はシルヴィオが若い色男風だとよかったのですが、でも歌は悪くありません。髙橋のムゼッタのワルツはお得意の1曲。長島由佳のミミの告別の歌は雰囲気がよく出ていました。

 そして、カルメンの幕切れの二重唱で大いに盛り上がり、最後が牧野のナブッコのアリア。これは素晴らしい。牧野は日本を代表するヴェルディバリトンですが、その力量を遺憾なく発揮した歌唱。声がしっかりしていて、歌の運び方も自在で、歌に内在する全てを自分の人生に重ねるように歌って見せました。

 こういう自在な歌を聴かせられるとテクニックだけは優れているけれどもで、歌に込められるものを持っていない若手歌手はもっともっと勉強しなければいけないなあ、とつくづく思いました。サブタイトルが「歌に人生を賭けた者たちによる大サロンガラ」ですが、「歌に人生を賭ける」ということがどういうことののかをしっかり見せてくれたコンサートでした。このようなたぐいまれなる時間を持てたこと、本当に良かったと思います。Bravissimi!!!

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鑑賞日:2022年6月5日入場料:自由席 5000円 1F13列2番で鑑賞

主催:Le voci

Le voci第19回公演

全2幕、字幕付原語(イタリア語)上演/演奏会形式
ベッリーニ作曲「夢遊病の女」(La Sonnambula)
台本:フェリーチェ・ロマーニ

会場 紀尾井ホール

スタッフ

指揮 安藤 敬
オーケストラ  :  テアトロ・フィガロ管弦楽団 
合唱 テアトロ・フィガロ合唱団
舞台監督 根本 孝吏

出 演

ロドルフォ伯爵 河野 鉄平
アミーナ 山中 沙耶
エルヴィーノ 松尾 順二
テレーザ 久利生 悦子
リーザ 中森 美紀
アレッシオ 吉川 賢太郎
公証人 寺島 弘城

感 想

一流の音響‐Le voci第19回公演「夢遊病の女」を聴く

 紀尾井ホールは本当に素晴らしいホールで、音響が絶妙です。そういうところで演奏すると、普段より一段上手に聴こえるものなのですが、全体としてはかなり残念な公演と申しあげざるを得ません。鍛えられ方が足りなく、バランスも悪いのです。オーケストラに関しては、基本的な技量に問題のある方が多いようで、金管、木管とも音を外していた方が多かったです。2管編成のオーケストラで管は減らしていないのですが、弦は4-3-2-2-1と最小で、管の音を受け止めるにはかなり足りない感じです。もちろん個人の技量がもっと高ければこの人数でも支えられるのでしょうが、そこまでの力量も無い方が多いようで、響きが今一つ綺麗ではありませんでした。弦の方をもう少し増やすとそれだけで響きは変わるのだろうなと思いながら聴いていました。

 合唱も今一つ。曲としては難しくはないはずなのですが、揃い方が甘いですし、微妙なずれもあります。もちろんしっかり響くところもあるのですが、一糸乱れぬ合唱とはちょっと程遠い感じで、いかに藤原歌劇団合唱部や二期会合唱団が上手なのか、ということを感じさせられました。

 安藤敬の指揮は、この曲をどのようにまとめたいのかがはっきりしない指揮ぶりで、結果として曲全体のバランスが取れなかったということがあると思います。歌手の技量が主役よりも脇役の方が上で、そこのバランスが取れていませんでした。キャスティングのミスと申し上げるべきかもしれません。またこのキャスティングで行くなら、音のバランスをもっと慎重に見極めるべきだろうと思いました。

 タイトル役の山中沙耶。丁寧な歌いっぷりは良かったと思うのですが、根本的にアミーナを歌える声ではありません。声量のないリリコで、高音が直ぐ細くなって華やかさに欠けます。ソロで、伴奏もピアノかピアニッシモで弾いてくれる分には聴こえてきますが、アンサンブルの中に入ると埋没してしまいます。ベルカントオペラのヒロインはオーケストラが強奏していようが、アンサンブルが響いていようがその上で、浮き上がってくるからこそ魅力的なわけですが、そんな感じとは程遠かったのかな、と思います。また華やかさという観点では第二幕のアリア・フィナーレは結婚できる喜びをしっかりと華やかに歌い上げてこそですが、上への響きがないので寂し気にしか聞こえてこない。残念でした。

 相手役のテノール、松尾順二。こちらも軽いベルカント的な声の出し方で、バックがオーケストラでなければそれなりに聴けたのかもしれませんが、声に力がないので、アンサンブルには埋没するし、華やかさにも欠けていました。

 一方良かったのは、伯爵役の河野鉄平。新国立劇場で主役を歌うだけのことはあります。実力が別格です。響きと言い、雰囲気と言い、伯爵としての役割をしっかり果たして素晴らしいと思いました。リーザ役の中森美紀もいい。リリコ・レジェーロの頭頂に響く声が素晴らしい。彼女の声だとオーケストラに埋没しないでしっかり存在感を示します。今回の公演ではカットされることも多い第二幕のリーザのアリア「皆さんの祝福を喜んで受けますわ」も歌われたわけですが、これが出色でした。中森と山中は反対の役を歌った方がオペラとしては締まっただろうな、と思います。

 その他の脇役ですが、久利生悦子のテレーザは安定した表現で良好。吉川健太郎のアレッシオは、素人っぽい歌唱で、あまりしっかりは嵌っていなかった印象です。寺島弘城は合唱のサポートをしながら公証人もやっていましたが、こちらも立派な歌で公証人だけでは勿体ない。エルヴィーノでも良かったのではないかと思いました。

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鑑賞日:2022年6月11日入場料:自由席 3500円 

Duo profomato con yoko ~香&薫~ ソプラノ二重唱のかほり

会場 としま区民センター 小ホール

出 演

ソプラノ 髙橋 薫子
ソプラノ 平井 香織
ピアノ 服部 容子

プログラム

作曲 作品名/作詩者 曲名 歌唱
パーセル/ブリテン編曲 テイト トランペットを吹き鳴らせ Z.335 髙橋 薫子/平井 香織
ヘンデル ロデリンダ ロデリンダのアリア「私の愛しい人よ」 平井 香織
ヴィヴァルディ ポントの女王アルシンダ ミリンダのアリア「私はジャスミンの花」 髙橋 薫子
モーツァルト ミサ曲 ハ短調 K.427「大ミサ」 2.グローリアより「神なる主」 髙橋 薫子/平井 香織
木下 牧子 三好達治の詩による二つの歌 物語 平井 香織
木下 牧子 六つの浪漫 風をみたひと 髙橋 薫子
中山 晋平/岩河 智子編曲 吉井勇作 ゴンドラの唄 髙橋 薫子/平井 香織
休憩
フォーレ 二つの二重唱曲 Op.10-1 この地上ではどんな魂も 髙橋 薫子/平井 香織
マスカーニ メナスキ 髙橋 薫子
リヒャルト・シュトラウス 4つの歌曲 OP.27-1 憩え、我が魂よ 平井 香織
リヒャルト・シュトラウス 4つの歌曲 OP.27-2 ツェツィーリエ 平井 香織
ドヴォルザーク ルサルカ ルサルカのアリア「月に寄せる歌」 髙橋 薫子
フォーレ   ラシーヌ讃歌 髙橋 薫子/平井 香織
アンコール
平井 夏美/篠田 聡史編曲 松本 隆 瑠璃色の地球 髙橋 薫子/平井 香織

感 想

麗しきハーモニー‐「Duo profomato con yoko ~香&薫~ ソプラノ二重唱のかほり」を聴くを聴く

 国立音楽大学の同級生で、大学、大学院と共に研鑽した高橋薫子と平井香織という親友同士による二重唱コンサート。申しあげるまでもなく、高橋は藤原歌劇団のプリマドンナとして様々なオペラでヒロインを演じている日本を代表するソプラノの一人ですし、平井は東京二期会に所属して、新国立劇場で様々な役柄を演じているソプラノです。そのベテランソプラノ二人が、今自分たちが楽しめるコンサートを行いました。

 とはいえそこは日本を代表するソプラノ。前に進むことを止めません。今回は歌ったことのない曲、お蔵入りにしてきた曲でプログラムを組んだそうで、確かになかなか聴けない曲が並んでいます。そして、その順番もなかなか考えられています。平井によれば相当考え抜いて選曲したそうで、私はその術中にまさに嵌められました。

 冒頭はパーセルの祝祭的なフーガ。明るい技巧的な曲で、追っかけっこの曲ですが、途中で一緒になったり又分かれたり、メリスマが美しく、しょっぱなに相応しいと思いました。次いで平井香織によるロデリンダのアリア。ABA'の形式のいわゆるダカーポアリアですが、後半のA'部分は技巧的な装飾を入れて、端正ながらも華やかにまとめました。次いでの高橋もバロックオペラのアリア。詩の日本語訳を読んでから歌うというスタイルで、可憐でちょっと寂しい歌詞とやはりちょっと寂しげな曲が髙橋の手で十全に示されます。初学者が取り上げることもある曲のようですが、バランスの巧みさがやはりベテランです。

 モーツァルトの大ミサの女声二重唱は、ソプラノ二人によるという指示があるのですね。「大ミサ」は何度も聴いた経験がありますが、そんなことは全然覚えていませんでした。今回の二人の重唱はやはり端正で、きっちり倍音が聴こえてきて心地よかったです。

 第一部の後半は日本の曲。取り上げられたのはまず木下牧子。この20年ほど日本の作曲家のトップランナーの一人として駆けてきた作曲家の歌曲。でも平井の歌った「物語」は初聴。一方「風をみた人」はソプラノの定番の曲で何度か聴いています。しかし、二人にとってはどちらも初卸の曲だそうで、そちらが驚きです。もちろん歌唱はどちらの立派。過去に聴いたことのある「風をみた人」に関しては、高橋の歌唱は表情が濃厚で、初夏の風が吹いてきそうな印象でした。

 前半最後の曲は「ゴンドラの唄」。大正4年に発表された日本最初期の流行歌ですが、この曲が現在人口に膾炙しているのは、黒沢明の名作「生きる」で志村喬扮する主人公がブランコを漕ぎながら鼻歌のようにぐシーンがあったからだと言われています。私自身はそんなことはすっかり忘れていたのですが、平井がその説明をされてくれたおかげで、「生きる」あの名シーンと二人の二重唱がしみじみと染みわたり、涙が零れそうでした。

 後半は後期ロマン派と近代。今度は両端をフォーレとし、次の外側に高橋の歌う「月」をテーマにした二曲、中心には平井の歌うリヒャルト・シュトラウスの歌曲2曲というプログラミング。中央に置かれたリヒャルト・シュトラウスの作品は、結婚を際に妻になるソプラノ、パウリーネ・デ・アーナに献呈された作品。結婚を機にかかれた作品としては重苦しい音楽ですが、最初のオペラ「ダントラム」が失敗に終わり、失意の中で書かれた影響が大きいと言われています。「憩え、我が魂よ」は重苦しい和音から始まり、詩の内容も明るくはないようですが、希望への一筋の光を見せるような感じが素敵でした。次の「ツェツィーリエ」一転して情熱的。ピアノ伴奏のアルペジオに乗せって歌われる若さの迸りがベテランの技術で輝いたと思います。

 髙橋の2曲のうちマスカーニは、学生の頃勉強して若い頃は舞台に乗せたこともあったようですが、その後ずっとお蔵入りして30年以上ぶりぐらいで歌ったとのこと。私も高橋を30年近く聴き続けていますが、確かに初耳です。そして、「月に寄せる歌」。非常に有名なオペラアリアでよく聴く曲ですが、髙橋にとっては初めての歌唱とのことです。それが驚きです。でもこの表現は流石高橋と言うべきもので、中低音のしっかりした響きもあって、しっとりした素敵な歌に纏まりました。

 そして両端に置かれたフォーレ。どちらも二重唱で歌われたのですが、二人の声が変幻自在に絡み合い、その織りなすタペストリーが見事。髙橋の声と平井の声は質感がちょっと違っていて、低い音を安定して響くのは高橋の声のようです。髙橋というと日本を代表するスーブレットで高音の輝ける響きの歌手の印象でいたのですが、実際は安定した中低音があってこそなのだな、ということを感じました。髙橋が下に廻ると、二人の声質の違いがいいアクセントになって魅力が更に増します。それを特に感じたのが「ラシーヌ讃歌」。この曲は元々混声四部合唱の曲ですが、男声パートの印象的な伴奏部分を取り入れながら女声二部で歌うというもので、流石に混声合唱のような音の広がりは感じられないわけですが、曲それ自身の美しさが際立った感じがします。染み入る歌でした。

 アンコールが世界情勢を鑑みてか、彼女たちの同世代のアイドル、松田聖子の「瑠璃色の地球」。これは今合唱曲として中学生を中心に広く歌われているわけですが、その楽譜で二重唱。これが抜群に素敵。見事なプログラムと二人の技術が相俟って、聴き手としてノックアウトされた演奏会でした。

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鑑賞日:2022年6月12日入場料:B席 2F I列2番 6000円 

主催:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]

NISSAY OPERA 2022/ニッセイ名作シリーズ2022

全2幕、日本語字幕付原語(イタリア語)上演
ロッシーニ作曲「セビリアの理髪師」(Il Barbiere di Siviglia)
台本:チェザーレ・ステルビーニ

会場 日生劇場

スタッフ

指 揮 沼尻 竜典
オーケストラ 東京交響楽団
合唱 C.ヴィレッジシンガーズ
合唱指揮  及川 貢 
ギター 黄 敬
チェンバロ 平塚 洋子
照 明 大島 祐夫
演 出 粟國 淳
美 術  横田 あつみ 
衣 装 増田 恵美
照 明 大島 祐夫
振 付 伊藤 範子
舞台監督 幸泉 浩司

出 演

アルマヴィーヴァ伯爵 小堀 勇介
ロジーナ 山下 裕賀
フィガロ 黒田 祐貴
バルトロ 久保田 真澄
ドン・バジリオ 斉木 健詞
ベルタ 守谷 由香
フィオレッロ 川野 貴之
隊長 木幡 雅志
アンブロージョ 宮本 俊一
公証人 及川 貢

感 想

三方良しの大熱演‐NISSAY OPERA2022/ニッセイ名作シリーズ2022「セビリアの理髪師」を聴く

 2016年日生劇場「セビリアの理髪師」の再演ですが、演出がこなれ、歌手もそろって技量が上がり、2016年の時とは雲泥の差と申し上げてよい出来栄えでした。

 なんと言っても演じている方が楽しそう。今回は個々人のベルカントの技術を思いっきり示そうという方針があったみたいで、若い歌手たちの素晴らしい技術がこれでもかというほど提示されました。この難しいオペラの中で、お互い見せつけ合うようにアジリダの技術を示しあうところ、日本の若手歌手の技術の素晴らしさに感心させられます。例えばベルタのアリア「老人は若い娘を求めて」は、シャーベット・アリアと呼ばれて添え物的に見られることが多いわけですが、今回は守谷有香がラストをバリエーションで技巧的に歌ってみせて大拍手を得ました。結局このようなバリエーションをたくさんやるから演奏時間は長くなります。通常ノーカットで2時間40分と言われる上演時間ですが、今回は序曲込みで第1幕が1時間50分、第二幕が1時間5分かかりました。と言って推進力はしっかりあり間延びした感じはなかったので、バリエーションがかなり充実していたものと思います。

 それにしても実力者が揃いました。まず最初はアルマヴィーヴァ伯爵役の小堀勇介を上げなければいけません。小堀が日本を代表するロッシーニテノールに完全になってしまいましたが、今回の歌唱も予想通りの素晴らしさ。冒頭の「空は微笑み」でちょっと息が乱れたところがありましたが、後はほぼ完璧と申し上げてよいのではないでしょうか。軽く上に抜ける声でありながら中声部もしっかりあって、心地よいことこの上ない。響きも美しいうえに十分にあって、存在感が半端ではありません。ギターを自ら演奏しながらセレナードを歌うのも素敵です。第二幕の冒頭のドン・アロンゾと称して変装する部分での声色と通常のベルカントの切り替えの鋭さも感心しました。そして、要所要所で声を響かせた上での「もう逆らうのはやめよ」の大アリア。もちろんしっかりと歌われて安心して聴いていられました。最初から最後まで記憶に残るような歌唱をしてくれたこと、またそれを聴くことができたこと、私にとって大きなよろこびです。

 山下裕賀のロジーナも技巧的な表現の切れ味が素晴らしく、こちらも見事でした。「今の歌声は」はあまり歌われないバリエーションを後半付けて気を吐きましたし、それ以外でも普通歌わないようなバリエーションをたくさんやって見せました。気が強いけど可愛らしいというロジーナの魅力をふんだんに示したと思います。Bravaです。

 フィガロの黒田祐貴も切れ味の良い歌唱で終始走り切りました。以上3人は息の使い方が多分とても上手なのです。だから乱れないし切替も上手いのでしょうね。

 ほとんどが若手のチームですが、その中でベテランの久保田真澄がバルトロを歌いました。久保田のバルトロも定評があるところですが、流石に上手い。久保田は何年か前の藤原歌劇団「ランスの旅」の時がちょっと大御所然とした歌唱で、歌は悪くなかったのですが、動きの切れ味が今一つだった印象があります。しかし、今日は動きも軽快。歌も颯爽としていて、早口がべらぼうに大変なバルトロのアリア「私のような偉い人に向かって」も、難なくこなし、バッソ・ブッフォらしい味わいをしっかり見せてくれました。

 斉木健詞のバジリオも有名な「陰口はそよ風のように」がいいのは申しあげるまでもないのですが、それ以外でも不気味な俗物ぶりがしっかり出ていてこちらも見事。

 そして更に申し上げたいのはこのチームのアンサンブル。間延びするところがない。どんどんどんどん進んでいって楽しさが更に増していきます。ロッシーニはこの畳み込むような感じが大切ですが、その疾走感、まさに楽しい限りです。

 指揮の沼尻竜典ですが、ここぞというときしっかり煽ります。もちろん抑えるところは抑えているのでしょうが、煽るところは思いっきり煽って、ロッシーニクレシェンドの妙を味合わせます。オーケストラもしっかり乗って、一貫して進んでいる感じがします。そこもいい。

 演出は基本的には2016年のものを踏襲しているようなのですが、細かいところはほぼ完全に見直したのではないでしょうか。例えば、第二幕冒頭のバルトロ、伯爵、ロジーナの絡みの部分。ロジーナと伯爵がバルトロの眼を盗んで愛の会話をするシーン。伯爵に気づかれるととっさに歌うのが「魔笛」の夜の女王のアリア。いうまでもなく夜の女王はコロラトゥーラソプラノの持ち役ですが、ロジーナが歌い始め、テノールの伯爵に移り、最後はバスのバルトロが歌う、といったアドリブはl今回の演出の見直しの中で入ったものです。こう言った細かい変更が、2016年の時よりも密度が上がった理由だろうと思います。

 「セビリアの理髪師」は喜劇ではありますが、普通の公演で笑いが出ることはほとんどありません。今回はクスクス笑う声が何度も何度も聴こえました。歌詞を聴いて笑っているというより、全体の動きのおかしさが笑いを誘発したのでしょう。そこも凄いと思います。

 とにかく最初から最後までほとんど退屈することのない見事な音楽と、ロッシーニの意図を200%位見せてくれた素晴らしい技量の歌手たちと、緻密な演出の三方が全て素晴らしい名舞台でした。関係者すべてに最高の賛辞を送りたいと思います。Bravissimi!!

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鑑賞日:2022年6月24日入場料:指定席 11列20番 4800円 

主催:株式会社二期会21

二期会デイズ 2022
東京二期会物語-青碧の時代-

会場 サントリーホール ブルーローズ

出 演

ソプラノ(三宅春恵役) 種谷 典子
メゾソプラノ(川崎静子役) 成田 伊美
テノール(柴田睦陸役) 山本 耕平
バリトン(中山悌一役) 加耒 徹
ソプラノ 金 詠玉
ソプラノ 大倉 由紀枝
ソプラノ 佐々木 典子
テノール 成田 勝美
テノール 福井 敬
バリトン 大島 幾雄
ピアノ 山田 武彦
アドヴァイザー 高 丈二
司会(テノール) 高田 正人

プログラム

作曲 作品名/作詩者 曲名 歌唱
プッチーニ ラ・ボエーム 四重唱「さようなら、甘い目覚めよ」 大倉 由紀枝/福井 敬/金 詠玉/大島 幾雄
ヴェルディ オテッロ オテッロとヤーゴの二重唱「神にかけて誓う」 成田 勝美/大島 幾雄
團 伊玖磨 夕鶴 つうのアリア「あたしの大事な与ひょう」 種谷 典子
ビゼー カルメン カルメンのアリア「恋は野の鳥」 成田 伊美
ヴェルディ ドン・カルロ ドン・カルロとロドリーゴの二重唱「我らの胸に友情を」 福井 敬/加耒 徹
リヒャルト・シュトラウス ばらの騎士 元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーの三重唱 佐々木 典子/成田 伊美/金 詠玉
休憩
モーツァルト フィガロの結婚 伯爵夫人とスザンナの手紙の二重唱「そよ風に乗せて」 大倉 由紀枝/種谷 典子
ヴェルディ 椿姫 ジェルモンのアリア「プロヴァンスの海と陸」 大島 幾雄
ヴェルディ 椿姫 ヴィオレッタとアルフレードとの二重唱 金 詠玉/山本 耕平
ワーグナー タンホイザー エリザベートのアリア「親愛なる歌の殿堂よ」 佐々木 典子
ワーグナー ワルキューレ ジークムントのアリア「我が名こそジークムント」 成田 勝美
ヴェルディ リゴレット 四重唱「いつかあなたに会った時から」 種谷 典子/成田 伊美/山本 耕平/加耒 徹
プッチーニ トゥーランドット カラフのアリア「誰も寝てはならぬ」 成田 勝美/福井 敬/高田 正人/山本 耕平
アンコール
ヴェルディ 椿姫 乾杯の歌 全員

感 想

70年の進歩‐二期会デイズ2022初日「東京二期会物語-青碧の時代-」を聴く

 1952年に旗揚げされた東京二期会は今年70周年を迎えます。50年の時は記念誌を出したり、いろいろ派手にやられたのですが、70周年はそこまではいかず、ガラコンサートと記念オペラ公演位のようです。その記念ガラコンサート的な企画が二期会デイズでも行われ、こちらは「東京二期会物語」と題して、東京二期会の隆盛に貢献した60歳以上のベテランの歌を聴こうとする「青碧の時代」と現在活躍中の中堅歌手を中心とする「天色の時代」の二回に分け、二期会にとってエポックメイキングな曲を演奏するとともに、二期会創成期のエピソードを寸劇にして見せるというものとなりました。

 二期会はオペラ史研究家の増井敬二さんによれば、「二期会結成の直接のきっかけは、当時の声楽界最前線で活躍し、ビクター・レコードと契約していた4人組と呼ばれた三宅春恵、川崎静子、柴田睦陸、中山悌一の演奏旅行中に、中山と柴田が風呂で話し合ったことだという。4人を中心に周囲に呼び掛けて声楽家のグループを作り、教え合い助け合って良い演奏会やオペラをしようという計画で、1952年1月17日に東京銀座富士アイスで新聞記者や批評家に披露し、2月10日に日比谷公会堂で資金集めのためのポピュラー・コンサート。そして、25日から28日まで 同所で歌劇「ボエーム」の旗揚げ公演を開催したのである」そうです。二期会創立時の会員数は16人、1953年2月の段階で27名、50年後の2030年2月には2030名、現在(2022年6月15日)では2761名の会員を擁する世界一の会員数を誇る声楽家集団になっています。

 今回の東京二期会物語ではこの四人の創設者を当時の四人とほぼ同年代の若手、種谷典子、成田伊美、山本耕平、加耒 徹が扮して創設時のエピソードなどを寸劇形式で見せ、1980年から2000年代にかけて二期会の中心歌手として活躍したベテラン歌手に当時のエピソードなどを聞きながら、歌も聴くというものです。司会は中堅テノールの高田正人。高田の司会はなかなか明快で進め方も見事、インタビューで盛り上がりすぎて予定時刻が厳しくなるということはありましたが、最終的には予定の10分遅れでまとめ上げ、上々といったところ。

 演奏に関して全体的な傾向で言えば、創立時のメンバーよりも本日登場したベテランの方が上手だし、今売り出し中の若手は更に上手いということは言えると思います。今回、三宅春恵の「つう」のアリアの音源を聴かせた後、種谷典子が「つう」のアリアを歌い、また川崎静子の「ハバネラ」の音源を聴かせた後、成田伊美が「ハバネラ」を歌ったわけですが、録音技術が悪い等の問題を踏まえても、種谷や成田の歌ったアリアの方が断然素晴らしかった。また1980年代は二期会オペラはNHK教育テレビなどで時々放映されていましたが、当時の二期会オペラは欧米と比較すると格段の差があったのを覚えています。大倉由紀枝も佐々木典子も一時は日本を代表するソプラノリリコだったわけですが、彼女たちが30代だったころ、今の若手と同等のレベルにあったかと言われればやはり劣ると思いますし、今比較すると、年齢による衰えは明らかに見えており、最盛期の気品は彷彿とさせるもののちょっと辛いところはありました。

 逆に言えば、日本の声楽界もそれだけ進歩しており、若手は先人たちの業績を乗り越えて新たなステージに向かっており、そこに声楽研究団体としての二期会の貢献は大きかったとは申し上げられると思います。

 大島幾雄は今回出演者の最長老。1974年6月の「マクベス」第一の亡霊が二期会本公演デビューだそうですから、あと二年で二期会デビュー50周年です。にもかかわらず、声に衰えを感じさせません。もちろん声を張った時のブリリアントな響きは全盛期とは異なっているのでしょうが、歌いまわしの上手さは健在です。「プロヴァンスの海と陸」は立派でしたし、重唱でもしっかりと自分の役目を果たされていました。

 成田勝美は日本を代表するヘルデン・テノールと呼ばれますが、歌そのものはあまりうまいとは思えません。声は確かにははりがあって、声量も凄いのですが、コントロールが雑で音程が不正確、且つ一本調子で人の歌を聴かない様子で、重唱になるとバラバラになります。歌で会話が成立しない感じです。オテロとヤーゴの二重唱は、ヤーゴの出すアプローチを無視して勝手に進んでいる感じでした。

 佐々木典子は「歌の殿堂」は流石の迫力で素晴らしいですが、「ばらの騎士」の三重唱は元帥夫人の声だけが目立ちすぎて、三重唱としてはまとまりが全く感じられませんでした。佐々木は2003年の二期会創立50周年の時の「ばらの騎士」に元帥夫人として出演していて、その時は見事な歌唱を披露したことを覚えていますが、今回はちょっと違ったかな、という感じでした。

 大倉由紀枝は役の雰囲気の出し方は流石だと思いますが、歌それ自身はややぶら下がり気味でビブラートも多く、ちょっと残念でした。

 福井敬はベテラン勢枠での出演ですが、別格です。未だに10年前、20年前と同等の声が出て、コントロールもしっかりしていること、素晴らしいと申しあげるしかありません。

 若手はベテランよりも筋力がある分、しっかりコントロールしていい歌を聴かせてくれました。「つう」のアリアや「ハバネラ」は上述の通り素晴らしかったですし、金詠玉と山本耕平による「パリを離れて」も聴きものでした。リゴレットの四重唱はこれからの二期会を背負っていく若手の気持ちを感じさせられる素晴らしいものでした。

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鑑賞日:2022年6月29日入場料:自由席 3000円 

主催:コンセール・ヴィヴァン

アトリエ・エル vol.27

会場 すみだトリフォニー小ホール

出 演

ソプラノ 加地 笑子
ソプラノ 小松 美紀
ソプラノ 中原 沙織
ソプラノ 花岡 麻衣
ソプラノ 保坂 百花
ソプラノ 八木下 薫
メゾソプラノ 小原 明実
メゾソプラノ 山村 晴子
ピアノ 岩上 恵理加

プログラム

作曲 作品名/作詩者 曲名 歌唱
トスティ     ジョヴァンニ・アルフレード・チェザーレオ セレナータ    花岡 麻衣
レオンカヴァッロ レオンカヴァッロ         マッティナータ 花岡 麻衣
ドビュッシー   テオドール・ド・バンヴィル    星の夜      保坂 百花
ドビュッシー   ポール・ヴェルレーヌ 黙劇 保坂 百花
ドビュッシー   ステファヌ・マラルメ  出現 保坂 百花
中田喜直 鎌田忠良     霧と話した    小松 美紀
中田喜直 金子みすゞ  金子みすゞの詩による童謡歌曲集 「ほしとたんぽぽ」   より「わらい」 小松 美紀
朝岡真木子    西岡光秋     花の涙      加地 笑子
信長貴富     高田敏子     夕やけ 加地 笑子 
リスト      フェルディナント・フライリヒラート        愛しうる限り愛せ         八木下 薫
レスピーギ    ザンガリーニ、ドニーニ      ストルネッロを歌う女       小原 明実
ディ・キアーラ ヴィンセント・デ・キアーラ    スペインの女 小原 明実
モーツァルト   ポント王のミトリダーテ      アルバーテのアリア「憎しみの心を抑え」     中原 沙織
モーツァルト   フィガロの結婚  ケルビーノのアリア「自分で自分が分からない」   山村 晴子
モーツァルト   フィガロの結婚  ケルビーノのアリア「恋とはどんなものかしら」 山村 晴子
休憩   
グノー      ロメオとジュリエット       ジュリエットのアリア「私は夢に生きたい」    加地 笑子
プッチーニ    つばめ      マグダのアリア「ドレッタの夢」  保坂 百花
ロッシーニ    ブルスキーノ氏 ソ フィーアのアリア「ああ、愛しい花婿をお与えください。」    小松 美紀
レオンカヴァッロ 道化師          ネッラのアリア「鳥の歌」 花岡 麻衣
ヴァッカイ    ジュリエッタとロメオ       ロメオのアリア「ああ、もし眠っているのなら」   小原 明実
プッチーニ    トゥーランドット             リューのアリア「お聞きください、王子様」 八木下 薫
プッチーニ    トゥーランドット             リューのアリア「氷のような姫君の心も」 八木下 薫
オッフェンバック ホフマン物語   ニクラウスのアリア「見たまえ、わななく弓の下で」         山村 晴子
ヴェルディ    イル・トロヴァトーレ       レオノーラのアリア「穏やかな夜」         中原 沙織

感 想

ガランチャよりも若手‐アトリエ・エル vol.27を聴く

 この日、すみだトリフォニーホールの大ホールでは、現時点で世界最高峰のメゾ・ソプラノの一人エレーナ・ガランチャがコンサートを行い、素晴らしい歌唱を披露していたそうですが、私は小ホールで若手8人の女性歌手によるコンサートを聴きました。

 一言で申し上げれば、玉石混交。素晴らしい歌唱を披露した方もいらっしゃれば、声と曲が合っていない方、歌い飛ばして言葉が不明瞭な方。声量不足の方などいろいろいらしたと思います。

  花岡麻衣は基本的に声量不足、特に中音部が弱いです。最初の2曲の歌曲は丁寧に処理していましたが迫力に欠ける。この声で「鳥の歌」を歌うのはちょっと無理があります。この曲はしっかりした中音があるときに高音が映える曲です。

  保坂百花はドビュッシーがわりと良かった。声量は花岡同様足りないし、印象派的な柔らかい表情はなかったのですが、それでも3曲の特徴に合わせて歌い分けようとする姿勢を見せて考えた歌唱になっていました。「ドレッタの夢」は特段難しい曲だとは思えないのですが、バランスが悪く、いいものではありませんでした。

 小松美紀は非常に丁寧な歌唱で、声量の乏しさを歌いまわしで補っていました。日本語の2曲は詩に寄り添った柔らかい表現が見事でしたし、ブルスキーノ氏のテクニカルなアリアも細かいところまで行き届いた歌でよかったです。

  加地笑子は割と重い声の持ったソプラノで、その声と歌とのミスマッチを感じました。「花のなみだ」は劇的な表情が悪くないと思いましたが、「夕やけ」はごつごつした表情で、この曲の持つ本質的な柔らかさを削いでいたように思いました。「ジュリエットのワルツ」は彼女の声向きではないですね。重い歌になっていて残念でした。

 八木下薫は、声量、テクニックともに今回一番の力を見せた歌手だと思います。ピアノ曲「愛の夢」第3番の原曲になった歌曲は、ダイナミックに表情豊かに歌われて、特に中声部のしっかりした響きが良かったです。後半のリューのアリア2曲も劇的な表情と抒情的な表情のバランスが良く、立派だったと思います。

  小原明実。よかったと思います。明るいけどしっかりしたメゾソプラノの声で、歌曲では特に「スペインの女」がいい感じでまとめられました。また、ロメオのアリアは、しっかりした見事なもので、練習を積んできたのだろうな、と思わせてくれました。

  中原沙織。歌の表現そのものはさほど悪いものではないと思いましたが、喉の調子が今一つで、歌もそれなりだったのかなという印象です。今回の出演者の中では一番活発に活動されている方ですので、本領を発揮するに至らなかったのは残念でした。

  山村晴子は声が二世代前のメゾソプラノにこういう人がいたな、という感じの歌いまわしでした。声量はあるのですが、声がこもり気味で表現のはつらつさももう少しほしいところ。ケルビーノのやんちゃな感じを出すためには、もう少しはっちゃけたほうがいいかなと思いました。

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