どくたーTのオペラ1000本の道
私は1958年生まれ。出身地は仙台です。父親は農業高校の教師、母親は専業主婦と音楽的環境の全くない家で育ちました。だから普段聴く曲は歌謡曲か「みんなの歌」やNHKの教育テレビで流される童謡・唱歌のたぐい。クラシック音楽とは基本的に縁のない生活でした。
ただ、当時から「演歌」的なものはあまり好きではなく、洋楽テイストの歌謡曲が好きだったというのはあったと思います。そして、そのころもっと好きだったのは小学校の音楽の時間の鑑賞教材でした。ほんとうにその曲を聴いていたかどうかは忘却の彼方ですが、「軽騎兵序曲」、とか「ウィリアム・テル序曲」とか、「アルルの女のメヌエット」といった音楽ですね。そういう「序曲」でオペラというものがあるということを知りましたが、小学生でオペラを聴こうなどという大それたことを考えることもなく、当時のテレビ番組である「オーケストラがやってきた」や「題名のない音楽会」を見て、まずピアノ曲やオーケストラ音楽に興味を持ちました。
また、小学生の時は、友達に誘われて仙台少年少女合唱隊に入隊し、2年間、児童合唱を楽しみました。
一方、我が家ではそのころステレオを買い、ステレオがあってもレコードがないと仕方がないと考えたのか、父は書店に勧められて世界音楽全集を買ってきました。LPレコードが2枚と作曲家の生涯やら曲の解説が書いてある本のセットです。ベートーヴェンの「運命」、「英雄」、「田園」、「合唱付」、モーツァルトの「40番」、「ジュピター」、シューベルトの「未完成」、といったクラシック音楽の王道というべき作品が入っており、それらを聴くことにより、ますますクラシック音楽が好きになりました。
高校生から大学生にかけても主に交響曲やピアノ曲などを中心に聞いていたのですが、吉田秀和の「LP300選」や「レコード芸術」別冊の「名曲名盤500~ベストレコードはこれだ~」のようなものを読み、もっと様々な音楽を聴きたいと思うようになりました。その中にオペラも含まれていました。
当時指揮者ではカルロス・クライバーが大好きだったので、最初に買ったLPはカルロスの振る「椿姫」でした。そこから、同じくカルロスの「こうもり」、「魔弾の射手」をLPで買い、オペラっていいなあ、と思うようになりました。
と言って、当時仙台でオペラはほとんどやられておらず、オペラを聴きに東京まで行こうという発想もなく、レコードやNHK-FMで楽しんでいるだけだったのですが、大学院生時代ある時地元紙の河北新報を見ていたら、仙台オペラ協会がオペラを上演する旨の記事が出ており、その主役は仙台少年少女合唱隊でボイストレーナーとしてお世話いただいた姉歯けい子先生だったので、「これは聴きにいかなければいけないだろう」ということで聴きに行ったのが1983年9月。これが私のオペラ実演の最初です。
この時聴いたのが、大栗裕の「赤い陣羽織」と芥川也寸志の「広島のオルフェ」の二本立て上演でした。正直、この公演はあまりピンとこなかったのですが、翌年、「魔笛」でやられました。
もちろん「魔笛」はレコードでは聴いたことがあり知っていたのですが、藤原歌劇団の岡山廣幸さんがザラストロで客演され、姉歯先生がパミーナを歌われたこの公演は、今聴けば大した公演ではなかったのかもしれませんが、オペラ経験二度目の大学院生にとっては忘れられない経験となりました。夜の女王を在仙の渡部ジュディスさんがきっちり決めたのも驚きでした。
その後は勉強も忙しくなり、就職した年は仕事のことで手がいっぱいでオペラを行くことはままならず、3年ほどブランクができたのですが、上京した1988年からは定期的に観劇するようになりました。
1980年代から90年代はいわゆるバブル景気で、一流指揮者が指揮しスター歌手が多数登場する歌劇場の引っ越し公演が毎年二つぐらいずつ来ており、これらを見るのが楽しみで、S席1枚40000円といった高額チケットを買って、見に行っていました。
ただ、当時はまだそういう一流来日公演と藤原、二期会公演ぐらいしか見ようと思わず、年に数回の鑑賞にとどまっていました。また、90年代は仕事が超多忙で、更に子供が産まれて家族との団らんも大切だったので、時間が取れなかった、ということもあります。
その鑑賞ペースが上がってきたのは2000年過ぎてからです。管理職になり、実務が以前ほど忙しくなくなったことが個人的にはポイントでした。
世間的には新国立劇場が開場し、それを見る楽しみができたことがまずあり、また公演に行きはじめると様々なチラシが挟み込まれ、結果、小規模のオペラがいろいろなところでかなり行われていることを知りました。そういうところにも通い始めということです。通算100本を達成したのは2001年9月、新国立劇場公演の「トーゥーランドット」でした。オペラを聴き始めて、18年目のことでした。
その頃からは、それからはお金と時間が許す限り、という前提条件付きですが、新国立劇場、日本オペラ振興会、東京二期会、東京室内歌劇場、東京オペラプロデュースの公演は原則全演目を聴くことに決め、更に市民オペラや大学オペラもめぼしいものは聴くようにし、現在に至ります(一方で、来日公演は行かない(というより経済的理由で行けない)、聴くときは買える一番安い席で聴く、という原則で聴いています)。
結果として鑑賞本数はうなぎのぼりになり、概ね2年半ごとに100本ずつ増えるペースとなりました。その後東日本大震災の影響による休演や新型コロナによる休演などいろいろありましたが、私の鑑賞スピードに大きく影響を与えることはなく、2023年10月に1000本に達したものです。
ちょうど40年の長き旅でした。24歳だった大学院生は64歳の高齢者になりました。
現在の鑑賞方針は、
①新国立劇場、日本オペラ振興会、東京二期会の東京近辺で行う本公演は時間が許す限り行く。
②なかなか見られない演目、日本初演、新作に関しては積極的に行く。
③若い歌手が出演する市民オペラ、大学オペラなども目配りを忘れない。
④同時間にふたつの舞台が重なった場合は、先に切符を購入した方を優先する。どちらも購入していない場合は、珍しい作品を優先、または好きな作品を優先する。
です。
50本ごとの鑑賞記録を下表にまとめます。
日時 | 会場 | 主催団体 | 作曲者 | 題名 | 演奏形式 | 指揮 | オーケストラ/伴奏 | 合唱団 | 演出 | 主な出演者 | |
1 | 1983年9月24日 | 宮城県民会館 | 仙台オペラ協会 | 大栗 裕 | 赤い陣羽織 | 日本語上演 | 宮城フィルハーモニー管弦楽団 | ||||
2 | 1983年9月24日 | 宮城県民会館 | 仙台オペラ協会 | 芥川 也寸志 | 広島のオルフェ | 日本語上演 | 宮城フィルハーモニー管弦楽団 | ||||
50 | 1994年11月24日 | 東京文化会館 | 藤原歌劇団 | ヴェルディ | シモン・ボッカネグラ | 字幕付原語上演 | アンジェロ・カンポリ | 東京フィルハーモニー交響楽団 | 藤原歌劇団合唱部 | アントネッロ・マダウ・ディアツ | レナート・ブルゾン/渡辺葉子/市原多朗/カルロ・コロンパーラ/牧野正人 |
100 | 2001年9月19日 | 新国立劇場オペラ劇場 | 文化庁芸術祭執行委員会/新国立劇場 | プッチーニ | トゥーランドット | 字幕付原語上演 | 菊池彦典 | 東京フィルハーモニー交響楽団 | 新国立劇場合唱団/藤原歌劇団合唱部/多摩ファミリーシンガーズ | ウーゴ・デ・アナ | フランチェスカ・パタネー/アルベルト・クピード/砂川涼子/久保田真澄/高丈二 |
150 | 2003年5月23日 | すみだトリフォニーホール | 群馬交響楽団 | ヴェルディ | ファルスタッフ | 字幕付原語上演/演奏会形式 | 高関健 | 群馬交響楽団 | 二期会合唱団 | 福島明也/大島幾雄/福井敬/三縄みどり/澤畑恵美 | |
200 | 2004年11月12日 | 北とぴあさくらホール | 北とぴあ国際音楽祭 | モーツァルト | イドメネオ | 演奏会形式 | 寺神戸亮 | レ・ボレアード | レ・ボレアード | ジョン・エルウィス/波多野睦美/高橋薫子/トゥーナ・ブラーテン/畑儀文 | |
250 | 2006年3月26日 | なかのZERO | 東京オペラ・プロデュース | ビゼー | カルメン | 字幕付原語上演 | 松岡究 | 東京ユニバーサル・フィルハーモニー管弦楽団 | 東京オペラ・プロデュース合唱団 | 馬場紀雄 | 水口惠子/内山信吾/三塚至/斉藤紀子/笠井仁 |
300 | 2007年10月21日 | 国立音楽大学講堂大ホール | 国立音楽大学大学院 | モーツァルト | フィガロの結婚 | 字幕付原語上演 | 岩村力 | 国立音楽大学オーケストラ | 国立音楽大学合唱団 | 中村敬一 | 押川浩士/觀堂恵理子/兼子知恵/内山実乃里/北川辰彦/湯川亜也子 |
350 | 2009年1月29日 | 新国立劇場オペラ劇場 | 新国立劇場 | ヨハン・シュトラウス | こうもり | 字幕付原語上演 | アレクサンダー・ジョエル | 東京交響楽団 | 新国立劇場合唱団 | ハインツ・ツェドニク | ヨハネス・マーティン・クレンツレ/ノエミ・ナーデルマン/オフェリア・サラ/エリザベート・クールマン/大槻孝志 |
400 | 2010年3月28日 | 神奈川県民ホール | 神奈川県民ホール | プッチーニ | ラ・ボエーム | 字幕付原語上演 | 沼尻竜典 | 神奈川フィルハーモニー管弦楽団 | びわ湖ホール声楽アンサンブル/二期会合唱団 | アンドレアス・ホモキ | 澤畑恵美/望月哲也/臼木あい/宮本益光/萩原潤 |
450 | 2011年7月6日 | 東京文化会館 | 東京二期会オペラ劇場 | プッチーニ | トゥーランドット | 字幕付原語上演 | ジャンルイジ・ジェルメッティ | 読売日本交響楽団 | 二期会合唱団/NHK東京児童合唱団 | 粟國淳 | 横山恵子/福井敬/日比野幸/田口興輔/佐藤泰弘 |
500 | 2012年7月29日 | 津田ホール | 南條年章オペラ研究室 | ベッリーニ | 海賊 | 字幕付原語上演 | 佐藤宏 | 村上尊志(pf) | 南條年章オペラ研究室メンバー | 小林厚子/青柳明/坂本伸司/折河宏治/琉子健太郎 | |
550 | 2013年8月20日 | 北とぴあ | labo opera絨毯座 実験室 | モーツァルト | ドン・ジョヴァンニ | 字幕付原語上演 | 須藤桂司 | 金森敏子/田村ルリ(pf) | 男声合唱団 | 太田麻衣子 | 志村文彦/大山大輔/黒田博/大隅智佳子/川越塔子 |
600 | 2014年10月26日 | 新国立劇場オペラ劇場 | 新国立劇場 | モーツァルト | ドン・ジョヴァンニ | 字幕付原語上演 | ラルフ・ヴァイケルト | 東京フィルハーモニー交響楽団 | 新国立劇場合唱団 | グリシャ・アサガロフ | アドリアン・エレート/マルコ・ヴィンコ/カルメラ・レミージョ/パオロ・ファナーレ/アガ・ミコライ |
650 | 2016年3月6日 | 新国立劇場中劇場 | 日本オペラプロジェクト | 水野修孝 | 天守物語 | 字幕付原語上演 | 山下一史 | フィルハーモニア東京 | 日本オペラ協会合唱団 | 荒井間佐登 | 佐藤路子/迎肇聡/伊藤晴/豊島雄一/二渡加津子 |
700 | 2017年5月3日 | 東大和市民会館ハミングホール | SHINZO KINEN Opera | レハール | メリー・ウィドウ | 日本語上演 | 酒井俊嘉 | TSオーケストラ | Giovani musici | 太田麻衣子 | 伊藤晴/吉田連/大山大輔/藤原唯/秋山和哉 |
750 | 2018年8月11日 | サンパール荒川 | 荒川区民オペラ 第19回 | ヴェルディ | イル・トロヴァトーレ | 字幕付原語上演 | 小崎雅弘 | 荒川区民交響楽団 | 荒川オペラ合唱団 | 澤田康子 | 西本真子/田代誠/野村光洋/杣友恵子/狩野賢一 |
800 | 2019年4月10日 | 新国立劇場 | 新国立劇場 | ツェムリンスキー | フィレンツェの悲劇 | 字幕付原語上演 | 沼尻竜典 | 東京フィルハーモニー交響楽団 | 粟國淳 | ヴゼヴォロド・グリヴノフ/セルゲイ・レイフェルクス/齊藤純子 | |
850 | 2021年1月30日 | 東京文化会館 | 藤原歌劇団 | プッチーニ | ラ・ボエーム | 字幕付原語上演 | 鈴木恵里奈 | 東京フィルハーモニー交響楽団 | 藤原歌劇団合唱部 | 岩田達宗 | 伊藤晴/笛田博昭/オクサーナ・ステパニュック/須藤慎吾/森口賢二 |
900 | 2022年1月30日 | 東京文化会館大ホール | 藤原歌劇団 | ヴェルディ | イル・トロヴァトーレ | 字幕付原語上演 | 山下一史 | 東京フィルハーモニー交響楽団 | 藤原歌劇団合唱部 | 粟國淳 | 西本真子/村上敏明/上江隼人/桜井万祐子/相沢創 |
950 | 2023年1月20日 | テアトロ・ジーリオ・ショウワ | Belcanto Opera Festival in JAPAN | ロッシーニ | オテッロ | 字幕付原語上演 | イパン・ロペス=レイノーソ | ザ・オペラ・バンド | 藤原歌劇団合唱部 | ルイス・エルネスト・ドーニャス | ジョン・オズボーン/レオノール・ボニッジャ/ミケーレ・アンジェリーニ/アントーニオ・マンドゥリッロ/トーニ・ネジチュ |
1000 | 2023年10月7日 | テアトロ・ジーリオ・ショウワ | 昭和音楽大学 | ドニゼッティ | 愛の妙薬 | 字幕付原語上演 | ニコラ・パスコフスキ | 昭和音楽大学管弦楽団 | 昭和音楽大学合唱団 | マルコ・ガンディーニ | 山口はる絵/高橋大/岩美陽大/小野寺光/塚本雛 |
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