NHK交響楽団演奏会を聴いての拙い感想-2021年(後半)

目次

2021年9月10日 第1936回定期演奏会 指揮:パーヴォ・ヤルヴィ
2021年10月16日 第1939回定期演奏会 指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
2021年10月22日 第1940回定期演奏会 指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット
2021年11月13日 第1942回定期演奏会 指揮:沼尻 竜典
2021年10月22日 第1943回定期演奏会 指揮:ファビオ・ルイージ
2021年12月4日第1945回定期演奏会 指揮:ガエタノ・デスピノーザ
2021年12月10日 第1946回定期演奏会 指揮:ガエタノ・デスピノーザ

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2021年9月10日 1936回定期演奏会

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

曲目: バルトーク 組曲「中国の不思議な役人」
バルトーク 管弦楽のための協奏曲

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:客演(東京交響楽団の福士マリ子さん、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)、チェレスタ:客演(フリー奏者の楠本由紀さん)、オルガン:客演(東京芸術劇場副オルガニストの新山恵理さん)

弦の構成:14型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 昨年の4月からCOVID-19による世界的なバンデミックの影響でNHK交響楽団は定期演奏会を中止しました。昨年9月から本年6月までの2020-2021年シーズンでは定期演奏会の予約は取られましたが全てキャンセルになり、定期演奏会の日程で特別演奏会を行うというスケジュールで演奏が行われてきました。2021-2022シーズンでようやく定期演奏会が復活することになりました。実は1936回から1968回まではすでにプログラムも公開になっていたわけですが、全てキャンセルになったため、2021年9月から新たな仕切り直しで、2021-22シーズンの最初の定期演奏会は1936回として行われることになりました。

 今回の指揮者は、新シーズンの幕開けに相応しく、首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ。まだ外国人の入国が厳しい中、6月に続いて来日してくれました。よかったです。そして、新シーズンからCプログラムは通常よりも短い60-80分のコンサートにするということで、演奏された曲は、バルトークの短めの管弦楽曲「中国の不思議な役人」とバルトーク最後の傑作「管弦楽のための協奏曲」となりました。

 パーヴォ・ヤルヴィ、こういう曲を振らせると見事の一言です。N響のヴィルトゥオジティがあってのことなのですが、「中国の不思議な役人」曲の持つバーバリズムとアラブ的な音のアクセントがしっかり聴こえ、結果醸し出されるグロテスクなユーモアが何とも見事だと思います。

 「オーケストラのためのコンチェルト」はバルトークの晩年のソフィスティケートされたユーモアがアメリカ的な音とともに聴こえてくるところが何とも言えず素敵です。比較的速いテンポで進んだようですが、特に終曲はプレストではなくプレティッシモな感じで演奏されました。しかし、そこでほぼ乱れないN響も流石です。そもそも2曲ともバルトークを代表する名曲ですが、それを更に素晴らしく聴かせてくれた点、本当に見事だと思いました。

 なお、今回から?感染症対応のため、出入り口で奏者がたまらないようにするためか、木管楽器、金管楽器/打楽器、指揮者+コンサートマスター、弦楽器奏者の順に舞台に入場し、退場も順番になり指揮者が最後に引き込みました。今回は素晴らしい演奏だったので、壇上にヤルヴィと篠崎さんだけが残っても惜しみない拍車が続きましたが、出来のよくない演奏の時は、指揮者がちょっと大変かもしれません。

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2021年10月16日 第1939回定期演奏会

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

  
曲目: ブラームス ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
ヴァイオリン独奏:レオニダス・カヴァコス
ニルセン 交響曲 第5番 作品50

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:村上、チェロ:辻本、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:福川、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、小太鼓:竹島、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:協奏曲;12-12-8-6-4、交響曲;14-14-10-8-6型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 一昨年11月以来、ブロムシュテットがN響の指揮台に戻ってきてくださいました。御年94歳。正直申し上げて、コロナ禍の外国人入国規制の厳しい中、もう直接聴く機会はないのではないかとも思っていたのですが、我々の前に姿を現してくださったこと、大いなる喜びです。

 流石に年齢による衰えは隠せません。二年前よりも足取りなどは覚束なくなっており、指揮台に上がるための補助ステップが用意されておりました。それでも杖を突くこともなく、約二時間の演奏会をどこにも寄り掛からずに立ったまま指揮をするのですから、素晴らしいとしか申し上げようがありません。手の振りなども昔から見ればぎくしゃくしたところがあって滑らかという感じではないのですが、それでも「ここぞ」というところの鋭さなどは往年の指揮ぶりを彷彿とさせます。流石に大指揮者と言うべきでしょう。

 さて、演奏ですが、最初のブラームスのヴァイオリン協奏曲。ソリストとオーケストラが一体になった名演と申しあげてよいと思います。

 カヴァコスのヴァイオリンは特別美音ではなく、積極的に進めて行こうとする感じでもありません。むしろ、自分もオーケストラの一員として、自分の役目を果たそうとしている感じがしました。事実、客席を向いて演奏するだけではなく、時々オーケストラの方を向いて、客席に背中を向けたり、ブロムシュテットの方を向いて、そのテンポに合わせようとしたりして、オーケストラとの距離感を常時測っている感じでした。もちろん協奏曲ですからソロヴァイオリンが目立っているのは当然ですし、カデンツァもしっかりしていましたが、基本的にはオーケストラの音に自分の音を合わせて行こうとする方向性の音楽。指揮者の意思にソリストが寄り添っていこうとする感じは、指揮者を奮い立たせる感じもあって、重厚なはずのブラームスの音楽に若々しさも与えていたと思います。素晴らしい一体感でした。

 後半のニルセン。ブロムシュテット得意の一曲で、私は聴いておりませんが2001年にも一度取り上げております。

 ニルセンの5番は、第一次世界大戦の影響を受けた戦争交響曲としての意味があるわけですが、そんな作品をブロムシュテットは劇的にオーケストラのヴィルトゥオジティを引き出す方向で演奏させたと思います。第一楽章後半の50小節ほどの小太鼓の暴力的と言ってもいい炸裂は、竹島悟史さんによって見事に演奏されました。この独自のテンポ感に対立するクラリネットの響き、松本さんのソロも素敵でした。波の寄せては返すような音楽を94歳の指揮者は全く弛緩させることなく、引き締まった音楽に仕上げられました。素晴らしい演奏だったと思います。

 ほぼ満席となった会場の聴衆は、ブラボーの代わりにスタンディングオベーションで長老指揮者をたたえました。

 最後になりますが、ヴィオラの首席奏者に前のケルン放送交響楽団首席奏者の村上潤一郎さんが入団し、今回から演奏に参加されていました。また、コンサートマスターのサイドには、ソロヴァイオリニストとして活動されている郷古廉さんが入られていました。

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2021年10月22日 第1940回定期演奏会

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

曲目: グリーグ 「ペール・ギュント」組曲 第1番 作品46
ドヴォルザーク 交響曲 第8番 ト長調 作品88

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:客演(読売日響の松坂隼さん)、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、チューバ:客演(フリー奏者の田村優哉さん)、ティンパニ:植松

弦の構成:14-14-10-8-6型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 ブロムシュテット、先週よりもお元気になっているようにお見受けしました。先週の二日間の演奏に対するスタンディングオベーションは、長老指揮者に新たな活力をお与えになったようです。嬉しい限りです。

 最初の「ペール・ギュント」組曲第1番。劇付随音楽の抜粋なわけですが、情景が浮かぶような音楽。最初の「朝」のすがすがしさがよく、続く「オーゼの死」はレクイエムを聴くような荘重な音楽。そして「アニトラの踊り」のエキゾチズム、「山の王の宮殿で」のダイナミクス。四曲それぞれの表情が明確でくっきりとした音楽でした。特によかったのは「オーゼの死」。何度も聴いたことがある曲ですが、ここまで厳粛な気持ちにさせてくれたのは今回が初めてのような気がします。

 後半のドヴォルザーク。ブロムシュテットがドヴォルザークを指揮するのは割と珍しい気がします。とはいえ何度も演奏した経験はあるのでしょう。

 この曲の表現も前半の「ペール・ギュント」と同様に割と絵画的な演奏だったと思います。音の粒立ちが良くてくっきりとした演奏。「イギリス」という副題で呼ばれることも多いようですが、チェコのローカル色の強い音楽で、どのローカル色をどう料理するかが指揮者の腕の見せ所ですが、ブロムシュテットは、ストレートにそのローカル色を前に押し出してきたように思います。私はこの曲に空きの収穫の前の実り豊富な大地を感じるのですが、ブロムシュテットはその実り豊かな大地を映像として目の前に広げてくれたような気がしました。

 素朴な幸福感が漲る曲を若々しく演奏して、情景を見せてくれるところ、流石に長老指揮者だと思います。素晴らしい音楽でした。

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2021年11月13日 第1942回定期演奏会

指揮:沼尻 竜典

曲目: ウェーバー 歌劇「魔弾の射手」序曲
リスト ピアノ協奏曲 第2番 イ長調
ピアノ独奏:アレッサンドロ・タヴェルナ
フランツ・シュミット 交響曲 第2番 変ホ長調

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:村上、チェロ:辻本、ベース:伊藤、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、テューバ:客演(東京ニューシティ管の若林毅さん)、ティンパニ:植松

弦の構成:14-12-10-8-7型(協奏曲を除く)、協奏曲は12型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 最初はN響の次期の首席指揮者としてアナウンスされていたファビオ・ルイージが振る予定でした。選曲もルイージのもの。この中でフランツ・シュミットの交響曲はかなり珍しい選曲です。少なくともここ30年N響の定期演奏会では取り上げられたことはないはずです。そして、この2番、華やかな曲ですけど、演奏はすこぶる難しいらしい。ルイージ、次期首席指揮者として実力を見せたかったのでしょうね。しかしながらそのルイージ、新型コロナウィルスの来日時の待機期間が短くて指揮できなくなってしまい、代わりに沼尻竜典が振ることになりました。沼尻、指揮したことがどこかであったのでしょうか?この珍しい作品を含むプログラムを変更せずに演奏しました。

 曲は凄く華やかで、ポストマーラーという感じの音楽です。特に第二楽章はダンスの音楽。沼尻は三拍子をタクトを置いて柔らかく振り、踊るようにして音楽を作っていきます。楽器に対する指示も細やかで、十分なスコアリーディングを行った上で指揮をしている様子が伺えました。一方で、第一楽章と第三楽章はタクトを使ってかっちりと振り、第二楽章との差異を明確にしたと思います。大規模な管弦楽曲で、大規模曲の演奏にも定評のある沼尻らしい音楽づくりだったのでしょう。初めて聴く曲でしたが、堪能しました。

 逆順になりますが、タヴェルナをソリストに迎えたリストの第2番。タヴェルナの演奏は華やかというよりもリリシズムを感じさせるもの。もちろんリストですからヴィルトゥオジティはあるし、ダイナミックな部分や華やかな部分もあるのですが、それを過度に強調するのではなく、上品に整理した感じに演奏します。それが好ましい。沼尻もピアニストともしっかりアイコンタクトをとり、ピアノとまさに協奏するようにオーケストラをドライブしたのですが、その分、ピアノソロとチェロソロの掛け合い部分では、首席奏者・辻本玲の見事なチェロもあって、かぐわしい響きの音楽になりました。

 最初の「魔弾の射手」序曲。もちろん素敵な演奏でしたが、N響としてはごく普通のもの、というべきでしょう。しかし、コンチェルトにおけるピアニストとオーケストラの息の合い方、交響曲の素晴らしい響きで、素敵な演奏会になりました。

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2021年11月13日 第1943回定期演奏会

指揮:ファビオ・ルイージ

曲目: ブルックナー 交響曲 第4番 変ホ長調「ロマンティック」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:古賀、テューバ:池田、ティンパニ:久保

弦の構成:14型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 次期首席指揮者ファビオ・ルイージには、期待が持てそうです。

 海外入国者の待機期間の不足から、先週の定期はキャンセルだったわけですが、ファビオ・ルイージ、満を持して登場したというところでしょう。選曲がブルックナーの4番、というのは、なかなか渋い選曲です。

 演奏は全体を通して設計の上手な、見通しの良いものだったと思います。過度に煽ることもなく、速からず、遅からず、すっきりした演奏にまとめたのではないでしょうか。過剰に色々なことをやらない。メリハリはあるけれども、突然、そういう音に持っていくのではなくだんだんそうしていく感じです。ブルックナーの書いた表情記号に忠実な、落ち着いていて端整な演奏だったと思います。それでいて、速いところは速いし、フォルテをしっかり響かせるところは響かせる。そこがしっかりしているので、退屈な感じはしません。

 こうやって見ると、けれんみの出しがちな、現・首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィと比較すると、紳士的な感じがします。大人しいN響に変ってしまう気もしますが、良い人選だったのではないでしょうか。

 もちろん、いい演奏に仕上がったのはN響メンバーの踏ん張りがあったからです。特に金管陣。ホルンが滅茶苦茶いい。サポートが一人入って、5人での演奏ですが、ユニゾンは乱れないし、アンサンブルも綺麗。ホルンが難しい楽器でどんなに頑張っても変な音になってしまうことはあるわけですが、今回は透明感のある非常に素晴らしい音が続きました。首席奏者・今井さんのソロ、流石です。これで第4楽章の小さな乱れさえなければ最高だったのですが、そこだけが惜しまれます。トランペットも見事でしたし、トロンボーン・テューバの低音陣も実にいい音出していて、この曲のロマンティックな側面を引き立てていたと思います。

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2021年12月4日第1945回定期演奏会

指揮:ガエタノ・デスピノーザ

曲目: ブラームス ハイドンの主題による変奏曲 作品56a
バルトーク ピアノ協奏曲 第3番
ピアノ独奏:小林 海都
シェーンベルク 浄められた夜 作品4

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、2ndヴィオラ:中村(翔)、チェロ:辻本、2ndチェロ:山内、ベース:市川、フルート:甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、テューバ:池田、ティンパニ:植松

弦の構成:ブラームス;14型、協奏曲;12型、シェーンベルク;12-12-4-4-4-4-6

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 最初は山田和樹の指揮で案内されていた演奏会。バルトークは予定されておらず、代わりに佐々木典子がソリストを務める、リヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」が予定されていました。しかし、海外からの入国制限の影響で、Bプログラムの指揮者、ソリストの入国が難しくなり、山田がBプログラムを振ることになり、併せて「4つの最後の歌」もそちらに移動。多分来日していたデスピノーザにAプログラムの指揮をお願いしたというところだろうと思います。

 デスピノーザは山田が振る予定だった2曲をそのまま引き受け、協奏曲としてバルトークの3番ピアノ協奏曲というなかなか手強い曲を取り上げることに同意したというところ、彼の柔軟性と幅の広さを感じさせます。

 それでも最初のブラームスは、彼の個性を感じさせるというよりも、ごく普通の安全運転の演奏だったと思います。とはいえ、N響の名手たちが演奏している訳ですから、十分な聴き応えはありました。

 2曲目のバルトーク。ソリストの小林海都は1995年生まれと言いますからまだ26歳の若手。「リーズ国際ピアノ・コンクール 2021」で第2位になったということから急遽出演、となったのでしょう。プロフィールを見るとコンクールの受賞歴も多く、知る人ぞ知る注目株だったようですが、私はリーズ国際コンクールの入賞のニュースを聞くまで全く知らなかった方で、興味を持って伺いました。一言でいえば、生真面目なピアニストだと思いました。最近売り出し中のピアニスト、反田恭平であるとか藤田真央などももちろん真面目なのでしょうが、彼らはピアノの神に召されたようなところがあって、突き抜けたものを持っていますが、小林の演奏にはそういう天衣無縫な感じはなく、全体の構成を見据えながら知的に演奏するようなピアニストに見えました。

 演奏は、緊張していたのか、ちょっと硬かったのかな、という印象です。腕が縮こまっていたわけではないと思いますが、オーケストラに対して遠慮しているのではないかな、と思えるところもあって、もう少し自在性を出せた方がよかったのにとは思います。とはいえ、基本的な指のテクニックは素晴らしいものをお持ちのようで、第3楽章の速いパッセージなどは素晴らしい響きで、あっという間に終わったように思いました。なお、いただけないのは演奏が終わってまず、指揮者やN響のメンバーにあいさつしたこと。自分の演奏を上手にフォローしてくれた指揮者やN響メンバーに感謝するのは当然ですが、ソリストなのですからまずはお客さんにご挨拶すべきでは。その辺もこれから覚えて欲しいところです。

 最後の「浄められた夜」は弦楽合奏の厚みに味を持たせた演奏だったと申し上げてよいのではないでしょうか。ご承知の通り元々は弦楽六重奏曲であり、弦楽合奏でも基本的な構造は六重奏に低音を足したという風になっており、演奏の方向性としては、より室内楽的精妙さを求めていく方向と、ダイナミクスを大事にして、ソロの部分と合奏の部分の違いを明確にする方向があると思うのですが、デスピノーザが選んだのは後者のように思いました。この作品は超ロマンティックな曲ですからその味は消えていませんでしたが、N響の弦楽の力量からすればもっとぴったりと揃って精妙さが出てもよいとは思ったのですが、そこまで美しかったかと問われればちょっと疑問です。弦楽合奏の厚みの中に各トップ奏者が演奏するソロの部分が合奏の中で浮かび上がる感じはとてもよいものでした。

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2021年12月10日第1946回定期演奏会

指揮:ガエタノ・デスピノーザ

曲目: チャイコフスキー ロココ風主題による変奏曲 作品33
チェロ独奏:佐藤 晴真
ムソルグスキー(ラヴェル編曲) 組曲「展覧会の絵」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:村上、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、テューバ:客演(フリー奏者の宮西純さん)、ティンパニ:植松、ハープ:客演(フリー奏者の水野なほみさん)、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)、サクソフォーン:客演(
フリー奏者の雲井雅人さん、ユーフォニアム:客演(フリー奏者の齋藤充さん)

弦の構成:チャイコフスキ―;10-8-6-4-3、展覧会の絵;14型

会場:東京芸術劇場大ホール 

感想

 新型コロナウィルスのオミクロン株の防疫のために、外国人の入国禁止措置が施行されたのが11月30日のことでした。まだ来日していなかった指揮者のワシーリ・ベトレンコとチェリストのダニエル・ミュラー・ショットは入国することができなくなり、急遽先週のAプログラムのために来日していたデスピノーザと、チェリストは2019年、ミュンヘン国際音楽コンクールチェロ部門優勝の佐藤晴真に変更になりました。佐藤は10月9日にこの曲で、川瀬賢太郎が指揮するN響と共演したばっかりだったので、白羽の矢が立ったのでしょう。

 「ロココ風主題による変奏曲」は、チェロ協奏曲として有名な曲ですが、実際に演奏会で取り上げられることはあまり多くなく、N響でも1997年以来の定期演奏会での演奏になりました。佐藤はN響定期への出演ということで緊張もあったと思いますが、堂々たる演奏でまずは上々。変奏ごとの色合いの違いもきちんと見せてくれたと思います。デスピノーザ指揮するN響の対応もまずは安全運転で、若手チェリストの定期公演デビューを盛り立てました。

 「展覧会の絵」は急遽頼まれて演奏したとしては割と攻めた演奏。もちろん指揮できるから受けたのだとは思いますが、デスピノーザの色を見せた演奏だったと思います。デスピノーザという指揮者、先週は「浄められた夜」を演奏されたわけですが、あういうフレーズが長くてロマンティックな曲よりも「展覧会の絵」のように、多彩な音色で曲の表情を見せる作品の方が特異な感じがしました。もちろん、N響のソロ奏者力量も見逃せません。冒頭のトランペットのファンファーレのしっかりした響き、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットの木管陣、バスクラリネット、コントラファゴット、アルトサックス、ユーフォニアムといった楽器の音色がそれぞれ魅力的で、打楽器の炸裂も聴き応えがありました。オーケストラを聴く醍醐味を味わえた演奏だったと思います。

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