NHK交響楽団演奏会を聴いての拙い感想-2021年

目次

2021年1月16日 2021年1月演奏会(NHKホール) 指揮:ファンホ・メナ
2021年1月22日 2021年1月演奏会(東京芸術劇場) 指揮:沼尻 竜典
2021年1月27日 2021年1月演奏会(サントリーホール) 指揮:鈴木 優人
2021年2月6日 2021年2月演奏会(NHKホール) 指揮:尾高 忠明
2021年2月17日 2021年2月演奏会(サントリーホール) 指揮:下野 竜也
2021年4月10日 2021年4月演奏会(サントリーホール(NHKホール代替)) 指揮:三ツ橋 敬子
2021年4月16日 2021年4月演奏会(東京芸術劇場) 指揮:鈴木 雅明
2021年4月21日 2021年4月演奏会(サントリーホール) 指揮:大植 英次
2021年5月27日 2021年5月演奏会(サントリーホール) 指揮:広上 淳一
2021年6月6日 2021年6月演奏会(サントリーホール(NHKホール代替)) 指揮:井上 道義
2021年6月11日 2021年6月演奏会(東京芸術劇場) 指揮:下野 竜也
2021年6月17日 2021年6月演奏会(サントリーホール) 指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

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2021年1月16日 2021年1月演奏会(NHKホール)
指揮:ファンホ・メナ

曲目: ピエルネ 「ラムンチョ」序曲
ファリャ 交響的印象「スペインの庭の夜」
ピアノ独奏:ハビエル・ペリアネス
ヒナステラ バレエ組曲「パナンビ」作品1a
ラヴェル 「ダフニストクロエ」組曲第1番、第2番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:川本、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川、ピアノ/チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:ファリャ;12型、その他;14型

会場:NHKホール
座席:3階C5番 

感想

 NHK交響楽団定期演奏会の次年度(9月〜6月)のプログラムは例年1月ごろ公開されます。昨年もそうで、その内容は、「フィルハーモニー」誌の2020年2月号に掲載されます。しかし、その後のCOVID-19における世界的パンデミック。N響は2020-21シーズンのすべての定期演奏会を中止にして、定期演奏会を予定していた人同じ日に演奏会を行うようになりました。2020年9月から12月は、当初予定された外国人指揮者が入国規制の関係で来日できず、日本人指揮者による演奏会になりました。またプログラムの内容も当初アナウンスされた曲とは全く違う曲での演奏会となりました。

 そして2021年1月。遂に外国人指揮者がやってきました。ファンホ・メナ。彼は2020年1月に、2021年1月定期演奏会のAプログラムを指揮するとアナウンスされた指揮者で、演奏された曲目もその時示されたものと同じものになりました。「定期演奏会」とは謳われず、オーケストラのメンバーも燕尾服ではありませんでしたが、やっと「N響定期が戻って来たな」と嬉しくなり、緊急事態宣言下ではありますが、勇んでNHKホールに駆け付けました。

 プログラムはお国ものと言ってよいスペインもの、フランス物中心。前回2017年に来日したときも同じようにファリャやドビュッシーなどスペインもの、フランス物を演奏したのですが、その時は初顔合わせのN響とお互い探りを入れ合っているような感じがあって今一つだったことを覚えています。今回はそう言ったお互いの探りを入れる感じはなかったのですが、一方で、ローカルな味付けもあまり感じられなかったと思います。ソツのない演奏に仕上がってはいましたが、全体的に重い音楽だったと思います。

 今回聴いた曲で一番聴いているのは、「ダフニスとクロエ」ですが、今回はN響の巧みさもあって、計算通りにきっちり盛り上がってくれるし、細かいところも丁寧だし、いい演奏であることは分かるのですが、今一つ心に響かないのです。指揮者の血のたぎりが足りない感じです。だから突き抜けたものがない。「流石N響、上手ですね」で終わってしまう演奏。

 この感覚は他の曲も一緒です。上手だとは思うけど、心の中に入ってこない演奏でした。全体的に重い感じです。

 最初のピエルネの「ラムンチョ」序曲。初めて聴く曲です。バスクの伝統音楽を盛り込んだ作品ということですが、思った以上に盛り上がりに欠ける作品でした。これがバスクの感覚ということであればそうなのかもしれませんが、あまり面白くはありませんでした。

 「スペインの庭の夜」。ぺリアネスのピアノは軽快で技巧的にも見事で面白いのですが、曲全体の流れに嵌めてしまうと、曲の悠然とした流れが先に来るような演奏。格調が高いと言えば格調が高いのでしょうが、オーケストラがもう少し燃えて、スリリングになった方が面白かったのかなという印象です。

 ヒナステラの「パナンビ」。静かな舞曲と激しい舞曲を交互に置いた構成で、舞曲の描き分けはしっかりされていましたが、最後の盛り上がりが今一つ。一応盛り上がって終わったのですが、その熱が今一つだったのか、指揮者が演奏を終えて客席を向くまで拍手が始まらない。最後に向けて盛り上がる感じがもっとあってもよかったのかなと思いました。

 このメナですが、をお国ものというリクエストがあって今回のようなプログラムにしたのかもしれませんが、彼の音楽づくりの感じは、ドイツロマン派の音楽などの方に親和性が高そうな気がしました。

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2021年1月22日 2021年1月演奏会(東京芸術劇場)
指揮:沼尻 竜典

曲目: ラヴェル 組曲「クープランの墓」
ショーソン 詩曲 作品25
ヴァイオリン独奏:辻 彩奈
ラヴェル チガーヌ
ヴァイオリン独奏:辻 彩奈
ラヴェル 亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル バレエ組曲「マ・メール・ロワ」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:客演(国立音大4年の田村相円さん)、ティンパニ:久保、ハープ:早川、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)、ジュ・ソゥ・タンブル:客演(N響・アシスタント・コンダクターの榊真由さん)

弦の構成:12型

会場:東京芸術劇場大ホール
座席:3階C5番40番

感想

 昨年1月に発表されたN響の2020-21年定期演奏会のプログラムでは、2021年1月度のCプログラムは、トゥガン・ソヒエフが指揮し、ヴァイオリンがルノー・カプソンでショーソンとラヴェルの組み合わせでした。しかし、COVID-19のバンデミックでソヒエフもカプソンも来日できず、指揮が沼尻竜典に、ヴァイオリン・ソロが辻彩奈に変更して、曲もヴァイオリン独奏の入る「詩曲」と「チガーヌ」以外の二曲を変更して演奏されました。ちなみに当初の予定は、ラヴェルの「スペイン狂詩曲」とショーソンの「交響曲」です。

 全体的に言えば、音楽的まとまりという点では今一つの出来だったかな、というところ。最初の「クープランの墓」。オーボエ首席の𠮷村結実さんが見事な技巧を披露し、素晴らしかったのですが、音楽的流れは、指揮者の息遣いと奏者の息遣いに微妙にずれがあったのか、ちょっとしたところの間の空き方とかに違和感があって、なかなか音楽に乗れませんでした。沼尻はダイナミックな指揮でオーケストラを煽ろうとするのですが、あんまりオーケストラがそれについてきていない感じがしました。

 二曲目の「詩曲」。辻彩奈は決して美音タイプのヴァイオリニストではありませんが、その技術は素晴らしく巧みです。だから上手だとは思いますが、この曲を披露するにはヴァイオリニストが若すぎるのではないか、という気がしました。どこか素っ気ないヴァイオリンです。前半の短調部分の持つ寂寥感が感じられず、奏者がもっと年齢を重ねないと、その味が分からないのではないか、という気がしました。続く「チガーヌ」は「詩曲」よりも技巧的な側面が更に前面に出る作品で、その分、彼女のテクニックの見事さを堪能することができました。

 「亡き王女のためのパヴァーヌ」。冒頭のホルン・ソロが上手く行かないとなかなか決まらない曲ですが、そこが上手く行っていなかったのではないかと思います。音を外した、ということはないのですが、音の広がり方がちょっとぎくしゃくしていた感じで残念です。また、それがあったせいかどうかは分かりませんが、指揮者と奏者との関係が微妙にずれていたのかな、という感じがしました。

 「マ・メール・ロア」。全体では「チガーヌ」と並んで、上手く行った曲だと思います。N響奏者のヴィルトゥオジティをしっかり見せてくれました。ただ、デュナーミクはもっとはっきり見せてくれてもよかったのではないかと思います。フランス人指揮者がお国ものを演奏するときは、あまりメリハリを付けずに、その微妙な変化でフランスらしい味を出すということをやられることもありますが、日本人指揮者が日本のオーケストラを指揮する以上、もっと輪郭をはっきりされて、パワフルに演奏したほうが、より聴きごたえが出そうな気がいたしました。

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2021年1月27日 2021年1月演奏会(サントリーホール)
指揮:鈴木 優人

曲目: バッハ ブランデンブルグ協奏曲第1番 へ長調 BWV1046
  ベートーヴェン 序曲「コリオラン」作品62
  ブラームス 交響曲第1番 ハ短調 作品68

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:西山、フルート:甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:福川(ブランデンブルク)/今井(残りの2曲)、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、ティンパニ:久保

弦の構成:ブランデンブルク;4-4-3-2-1、残り2曲;12-12-10-8-6

会場:サントリーホール
座席:2階C8番32番

感想

 鈴木優人が指揮する演奏を聴くのは三度目だと思いますが、今回のドイツの三大Bの作品を聴いて思うのは、やっぱりこの方はバロックが一番似合う人なんだな、ということ。

 「ブランデンブルグ協奏曲」、見事な演奏だったと思います。自らチェンバロで通奏低音のパートを演奏しながら指揮するスタイル。N響の団員はそのチェンバロを取り囲むように立たせて演奏します。バッハ時代のコンチェルト・グロッソの演奏スタイルを意識しているのでしょう。少人数で、N響団員のヴィルトゥオジティを前面に出しながらも緊密なアンサンブルが調和します。オーボエとファゴットのアンサンブルであるとか、ソロ・ヴァイオリンとアンサンブルとの掛け合いであるとか、息が合い、それを支える低音楽器の響きが見事で、大いに堪能しました。

 続いての「コリオラン」。結構けれん味の強い演奏だった印象です。ただ「けれん」の方向が、激しさを際立たせるのではなく、弱音を大切にするような方向に行っているのが面白かったです。くっきりとはしているのですが、強くはならない。なかなか面白いと思いました。

 最後のブラームスの第1番。一言で言えば、ドイツ三大Bを意識したような演奏だったと思います。ブラームスの1番交響曲がベートーヴェンの交響曲の後継者たらんことを意識して作曲されたことはよく知られていますが、鈴木優人はバッハからベートーヴェンを通してブラームスに至ったことを示すような演奏を目指したのではないかと思いました。演奏のやり方もロマンチックというよりはバロック的だったように思います。割とアクセントが強調されて溌溂として面白い。ただ、演奏の一体感という観点で言うと、楽器間のずれが所々でみとめられ、そこがちょっと気になりました。

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2021年2月6日 2021年2月演奏会(NHKホール)
指揮:尾高 忠明

曲目: 武満 徹 3つの映画音楽
  ショスタコーヴィチ チェロ協奏曲 第1番 変ホ長調 作品107
チェロ独奏:横坂 源
  シベリウス 交響曲第1番 ホ短調 作品39

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:客演(前・新日本フィル首席奏者の吉村知子さん)、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川、チェレスタ:
客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:交響曲;14-12-10-8-7、その他;12-10-8-6-5

会場:NHKホール
座席:3階C1列10番

感想

 N響正指揮者の尾高忠明が久しぶりの登場です。

 尾高と言えば、イギリス音楽やロシア音楽、北欧の音楽などに定評がありますが、今回演奏したのも得意のシベリウス。シベリウスの土着性を感じさせられる素敵な演奏会になりました。

 最初の武満徹の「3つの映画音楽」。武満徹が映画音楽をたくさん手掛けていることはよく知られていますし、尾高も武満の映画音楽やドラマの音楽などを演奏する機会が多くあったようで、そんなところからの選曲のようです。使われている映画は勅使河原宏監督の「ホゼー・トレス」、今村昌平監督の「黒い雨」、そして勅使河原宏監督の「他人の顔」からの三曲で、私自身が見たことのある映画は「黒い雨」だけです。とはいえ、「黒い雨」を見たのも30年以上も前で、音楽のことはすっかり記憶からなくなっていて、この音楽とどのようなシーンが結びついていたのかは全く分かりません。

 ただ、音楽は武満らしい音楽だな、という印象は強く感じ、そこをN響弦楽陣の透明な響きが相俟って感動的でした。武満らしさという点では三曲ともそうで、どれも違った音楽ながら、武満でなければ書かないだろうな、と思われる響きが必ずあって、それがこの三曲を選んだ理由かもしれないな、と聴きながら思っておりました。

 横坂源はまだ若いですがキャリア的にはベテランと言ってもよいチェリストで、名前だけは知っていましたが演奏を聴くのは初めてです。ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲は20世紀のチェロ協奏曲を代表する曲ですが、ショスタコーヴィチらしい諧謔さのある音楽で、その味をどう演奏するかがチェリストの見せ場だと思いますが、横坂の演奏は、丁寧でかつ冷静なもの。パッションで聴かせるというよりは、細かい音符までゆるがせにせずにしっかりと届けようとするもの。その特徴が一番出たのが第三楽章のカデンツァだと思います。技術的にも難度の高い曲ですが、そこを丁寧にかつ軽々と演奏して見せて、感心いたしました。N響はソリストと比べるともう少し熱のこもった感じ。この曲はチェロ協奏曲とはいうものの、実際はホルンも独奏楽器のように扱われており、チェロとホルンの掛け合いが聴きどころですが、福川さんのホルンは楽器の特徴もあるのでしょうが、チェロよりもスリリングな演奏になっており、その対照的な感じも楽しめました。全体的に良い演奏だったと思います。

 シベリウスの1番。こちらもシベリウスらしい音色に満ち溢れたロマン的な民族性に溢れた曲ですが、尾高はこの曲をスタイリッシュに演奏させるのではなく、この曲の民族性というか土の臭いを感じさせるように演奏させたと思います。日本人の演奏するシベリウスですから、いわゆる本場ものとは一線を画するのでしょうが、共感できるのは、尾高もN響のメンバーも私も日本人なのだからかもしれません。素敵な演奏だと思いました。

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2021年2月17日 2021年2月演奏会(サントリーホール)
指揮:下野 竜也

曲目: シューマン 序曲「メッシーナの花嫁」作品100
  ベートーヴェン ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
ピアノ独奏:清水 和音
  シューマン 交響曲第3番 変ホ長調 作品97「ライン」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、ティンパニ:久保

弦の構成:協奏曲;12型、その他;14型

会場:サントリーホール
座席:2階C8列28番

感想

 下野竜也は2007年以降、2年に1回ぐらいはN響定期演奏会に登場していましたが、その選曲はちょっと玄人好みのするもので、聴き手としても構えることが多かったかな、という思い出があります。もちろん素敵な演奏だったことが多かったのですが、初耳の曲などは聴く方もそれなりに緊張せざるを得ません。その下野が今回は「皇帝」と「ライン」というよくある組み合わせで素晴らしい表現を聴かせてくれました。

 とはいえ、「メッシーナの花嫁」は初めて耳にする曲です。オペラとして構想されたけど序曲しか作曲されなかった曲のようで、シューマンらしいけれんみを感じさせる曲で楽しく聴くことができました。

 続く「皇帝」。清水和音も「オヤジ」になったな、というのが正直な感想です。清水は若い時からスターピアニストで、結構構えた演奏をしてきました。よく言えばスタイリッシュ、悪く言えばキザな演奏です。技術的にはレベルは高かったのでしょうが、今の若いピアニスト(例えば、藤田真央、例えば反田恭平)の自然体の演奏とはちょっと違う感じです。悪く言えば格好を付けた演奏ですね。その清水が今回は「おじさん」の演奏を聴かせてくれました。

 技術的には若い時と比べると劣ってきている感じがあります。ミスタッチもありました。でもその堂々とした感じがこのピアノ協奏曲の「皇帝」に正にぴったりだと思いました。堂々としているけど無理がない。曲に弾かされている感じも、曲を押さえつけている感じもなくて、曲とピアニストとが並走している感じが素晴らしい。こういう演奏って、ある程度年を重ねないとできないだろうと思います。作品解釈はオーセンティック演奏を意識しているように思いましたが、それはピアノの音の粒たちが良くて、くっきりと響いたことによるのかもしれません。N響の対応も素敵でした。下野の棒に従って、ピアノに適度に寄りそう感じ、その距離感が丁度良いと思いました。

 そして、「ライン」交響曲。とても素敵な演奏でした。下野竜也は割と分かりやすい指揮をする方だと思いますが、N響がそれにきびきびと対応しているのがよく分かります。ラインの流れのような大河を感じさせるような音楽と言ったらよいのでしょうか。ゆったりとしているけど流麗で滑らかに流れる感じです。その基本的な一貫した雰囲気があるのですが、それに上乗せするような楽章ごとの表情の変化が素晴らしい。いいものを聴かせてもらいました。

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2021年4月10日 2021年4月演奏会(サントリーホール(NHKホール代替))
指揮:三ツ橋 敬子

曲目: モーツァルト 歌劇「魔笛」K.620より 「序曲」
タミーノのアリア「何と美しい絵姿」 テノール独唱:福井 敬
パミーナのアリア「愛の喜びは露と消え」 ソプラノ独唱:森谷 真理
モーツァルト 歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」K.588より フィオルディリージとフェランドの二重唱「夫の腕の中に」 ソプラノ:森谷 真理、テノール:福井 敬
モーツァルト 歌劇「イドメネオ」K.367より バレエ音楽「一人の踊り」
イドメネオのアリア「海の外なる胸の内の海は」 テノール独唱:福井 敬
エレットラのレシタティーヴォとアリア「ああ、私の切望、怒り」〜「血を分けたオレステよ」 ソプラノ独唱:森谷 真理
ヴェルディ 歌劇「シチリア島の夕べの祈り」より バレエ音楽「春」
マスネ 歌劇「ウェルテル」より ウェルテルのアリア「春風よ、なぜ私を目ざますのか」(オシアンの歌) テノール独唱:福井 敬
マスネ 歌劇「タイス」 タイスのとアリア「私を美しいと言っておくれ」(鏡の歌) ソプラノ独唱:森谷 真理
タイスの瞑想曲 ヴァイオリン独奏:篠崎 史紀
プッチーニ 歌劇「蝶々夫人」より 蝶々夫人とピンカートンの愛の二重唱「夕暮れは迫り」 ソプラノ:森谷 真理、テノール:福井 敬

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻森、ベース:伊藤、フルート:神田、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:客演(千葉交響楽団の大森啓史さん)、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、チンバッソ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:モーツァルト;10-8-6-5-4、その他;12型

会場:サントリーホール
座席:2階C8列10番

感想

 N響初登場の三ツ橋敬子はオペラアリアのデュオ・リサイタルとして公演を組んできました。N響も歌手を招聘してオペラアリアの伴奏をすることもありますが、一晩のコンサートすべてをそれに集中することは、私の知る限り初めての経験です(オペラを演奏会形式で全曲演奏することは時々ありますが)。N響初登場の若い指揮者は大抵自分の得意分野で曲を選んできますが、三ツ橋にとってはそれがオペラの伴奏だったということなのでしょう。確かに私も三ツ橋の演奏を何度か聞いておりますが、歌の伴奏系の演奏会かオペラだったように思います。

 三ツ橋の指揮姿をはっきり見るのは初めてだと思いますが、かなりメリハリのついた、と言ってあまり気負うことのない自然な分かりやすい指揮で、N響も割とついて行きやすかったのだろうと思いました。もちろん演奏した曲は基本伴奏系であり、普段N響が弾いている複雑な曲と比較すると曲の流れも単純だし、和音もリズムも普通なので、N響の力量を示すには易しすぎるきらいはあるわけですが、そこでしっかり何もゆるがせることのない見事な調和は、大変すばらしいものがありました。オーケストラだけで演奏した、「シチリア島の夕べの祈り」のバレエ音楽や、コンマスの篠崎さんがソロを取った「タイスの瞑想曲」はとりわけ美しかったと思います。その他、松本さんのクラリネット、神田さんのフルートと聴きどころも多く、大変立派な演奏でした。

 さて歌ですが、福井敬も森谷真理も何でも歌える幅広いレパートリーの持ち主ということで招聘されたと思います。福井はオペラで歌った経験のある役が60以上とのことで、タミーノもフェランドもイドメネオもピンカートンもあったと思います。ウェルテルはよく分かりませんが、「オシアンの歌」だけであれば、当然歌っていると思います。要するに、福井にとってはどの曲でも自家薬籠中のものだと思いますが、流石に最近はワーグナーやプッチーニの諸役が多く、タミーノを歌うには、ちょっと声が重くなりすぎているように思いました。福井はそこを何とか歌いまわしで処理をしようとしていたようですが、残念ながらあまりうまくは行っていなかったというのが、本当のところでしょう。同じく森谷のパミーナのアリアもちょっと声が引っ込んでいる感じで、彼女の良さが十分出ている歌ではなかったと思います。フェイルディリージとフェランドの二重唱も登場の二曲よりはましでしたが、これも福井敬、森谷真理の名前からすればさほどの歌ではなかったと思います。

 よくなったのは、イドメネオの二つのアリアから。イドメネオのアリアは、アジリダの技術が必ずしもベストとは言い難いところがありますが、感情表現は流石に日本最高のテノールの実力を示したと思います。カデンツが素晴らしい。Bravoでした。続く森谷真理のエレットラのアリアもこれにも増して素晴らしい。エレットラも色々な方の歌唱を聴いておりますが、森谷は気持ちの激しさをロマンチックな表情で歌ってみせて、森谷の個性を示しました。Bravaです。

 後半のウェルテルのオシアンの歌。この曲はセンチメンタルな曲で、そのように表現されることが多いと思うのですが、割と力強い表現で福井敬らしさを見せたと思います。タイスのアリアは森谷真理がリサイタルでも取り上げた得意曲。オーケストラの見事なサポートに相俟って、大変すばらしい歌になりました。最後の蝶々夫人の「愛の二重唱」こちらもぴったりと揃って、後半の悲劇を予言させる歌、よかったと思います。

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2021年4月16日 2021年4月演奏会(東京芸術劇場)
指揮:鈴木 雅明

曲目: ハイドン 交響曲 第95番 ハ短調 Hob.I-95
  モーツァルト オーボエ協奏曲 第1番 ハ長調 K.314
オーボエ独奏:吉井 瑞穂
  シューマン 交響曲第1番 変ロ長調 作品38「春」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、ティンパニ:久保

弦の構成:ハイドン/モーツァルト;10-10-8-6-3、シューマン;12-12-8-6-5

会場:東京芸術劇場
座席:2階C3列64番

感想

 昨年10月N響の三公演を振って、実にみずみずしく推進力のある演奏を聴かせてくれた鈴木雅明が再度N響の指揮台に経ちました。得意の古典派にシューマンの「春」という王道のプログラムですが、また彼の良さが満ち溢れた演奏になりました。

 最初のハイドン。ザロモンセットの1曲ですが、リズムをきっちりとったいかにも古典派的な演奏。たっぷりと歌わせることはなく、かっちりと推進していく印象。第一楽章のソナタ、第二楽章の変奏曲、第三楽章のメヌエット、第四楽章のロンド、とそれぞれの音楽的な特徴を引き出しながら、全体としてはひとつの流れに乗っているという音楽でやっぱりその溌溂とした感じが素晴らしいと思いました。チェロソロの藤森さんももちろんよかったです。

 二曲目の吉井瑞穂をソリストとしたオーボエ協奏曲。吉井は以前何度か客演でN響の舞台に乗っており、アンサンブルでは聴いていますが、ソリストとして聴くのは初めて。3楽章それぞれにカデンツァが入るこの曲は、まさにソリストの技術を見せるための音楽になっているわけですが、吉井は優美な中にも憂いと明るさが共に同居しているこの曲をヴィルトゥオジティを示しながらも全体とのバランスにも配慮した演奏を行っていたと思います。現在の一流オーボエ奏者にとって、技術的な難易度は高くないとは思いますが、すっきりとした演奏ながら所々に見せる強い感情や、カデンツァの技術に満足しました。N響の演奏は印象が薄いのですが、もちろんしっかりサポートしていて、ソリストの音楽を助けていたと思います。

 最後の「春」。素晴らしい演奏だったと思います。古典派二曲のわりとかっちりした演奏とは異なって、こちらはちょっと羽目を外した演奏。荒々しさを感じさせる演奏と申し上げてよいかもしれません。第一楽章はアンダンテの序奏からアレグロへの主題への流れ込み方が、雪が解けてだんだん春が芽吹いてくるというよりは、一気に「春が来たぞぉ、嬉しいぞぉ」という感情の爆発を感じさせる演奏。その二つの部分の対比が鮮烈で見事。第二楽章は緩徐楽章ですが、それほど遅くなることなくぐんぐん進んでいく印象。アタッカで繋がったスケルツォはモルト・ヴィヴァーチェですが、鈴木にとってモルト・ヴィヴァーチェは極めて生き生きとした表情なのだと感じ入りました。続くフィナーレへもほぼアタッカでなだれ込み、付点の特徴的なリズムを感じさせながら、第一楽章との対応を感じさせるような激しさで、最後まで走り切りました。技術と感情とのバランスが見事に調和した見事な演奏でした。

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2021年4月21日 2021年4月演奏会(サントリーホール)
指揮:大植 英次

曲目: グリーグ 2つの悲しい旋律 作品34
  ショスタコーヴィチ ピアノ協奏曲 第1番 ハ短調 作品35
    ピアノ独奏:阪田 知樹
    トランペット独奏:長谷川 智之
  シベリウス 交響曲第2番 ニ長調 作品43

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:中村(翔)、チェロ:辻本、コントラバス:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:植松

弦の構成:12型

会場:サントリーホール
座席:RA3列10番

感想

 久しぶりの大植英次指揮のN響。1999年以来22年の共演です。全体的には大植の久しぶりのオーケストラを指揮する気負いが感じられた演奏会でした。

 1曲目:グリーク。N響弦楽陣の見事な音色が、悲しい気持ちを引き立てます。素敵です。

 2曲目のショスタコ・ピアノ協奏曲第1番はピアニストの阪田知樹の気負いが音楽にしっかり表れていた演奏。技術的には自信があるようで、細かく速いパッセージをずんずん弾きこなしていく。中間部の緩徐楽章では歌わせる気持ちはあるようだけど、両端の早い楽章と比べると精彩に欠けていたというのが本当のところだと思います。中間部とアレグロ部分がもっと明確な対比になるともっと面白かったかもしれません。

 しかし、その気負いが曲の持っているパロディ的な可笑しさを強調した感じで、聴いていて面白い演奏ではありました。長谷川智之のトランペットはピアノに対してうまい具合にいい合いの手を入れて、この曲の面白さを強調するのに貢献していました。弦楽器のサポートもピアノの速度にしっかり合っていてさすがにN響弦楽陣だなと思いました。

 シベリウスの2番。大植英次の固い指揮が印象的。大植はかっちりとした音楽にしたいという意図があったようで、体を固めてリズムをしっかり決めながら、要所要所で歌わせたい楽器に指示を与えるスタイルで演奏しました。その結果、演奏は全体的にきりっとしまった感じになりましたが、そこがN響のうまさなのだろうが、流麗感が失われない。結果として音楽の持つロマンチックな味わいと大植の期待する固い感じがうまくミックスして、ちょっと窮屈な感じはしたものの、なかなか見事な演奏として仕上がったと思います。

今回RA席というサイド席で聴きましたが、オーケストラと近いせいか音がとても生々しい。楽器の動かし方がよく見えますが、さすがに一流奏者たちですね。入り方などが見事です。素晴らしいと思いました。

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2021年5月27日 2021年5月演奏会(サントリーホール)
指揮:広上 淳一

曲目: チャイコフスキー(マカリスター編曲) 弦楽四重奏曲第1番 作品11より第二楽章「アンダンテ・カンタービレ」(弦楽合奏版)
  サン・サーンス ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 作品61
    ヴァイオリン独奏:白井 圭
  尾高 惇忠 交響曲〜時の彼方へ〜

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:横溝(第1ヴァイオリン次席奏者の横溝耕一さんが、代理で演奏しました)、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、コントラバス:吉田、フルート:神田、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:客演(読響の日橋辰朗さん)、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:客演(フリー奏者の津野田圭さん)、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:12-10-8-6-5

会場:サントリーホール
座席:LA2列19番

感想

 広上淳一らしいこだわりとけれんのある演奏会でした。

 「アンダンテ・カンタービレ」。小学校の音楽の鑑賞教材として有名ですが、それ以外で聴く機会はなかなかないと思います。私は弦楽四重奏曲第1番全曲のCDを購入して、1,2度聴いたはずなのですが、現物がないので別な曲と混同しているかもしれません。もちろん生で聴くのは初めての経験です。ロマンティックで感傷的な作品のイメージがあったのですが、広上の演奏は土の臭いを掻き立てるようなもっとゴツゴツした演奏です。レガートの中に楔が入ってただ綺麗なだけの演奏に終わらせていない。そこがいいと思いました。

 二曲目のサン・サーンス「ヴァイオリン協奏曲第3番」。これまたフランスのモーツァルトと呼ばれたサン・サーンスを代表する名曲です。ソリストはN響のゲスト・コンサートマスターの白井圭。白井の音は特別に美音というわけではなく、割と力強さがある音。それが、曲に内在する熱気を引き出しているようにも聴こえました。一方で、広上淳一ははオーケストラをうまく誘導して、単なる伴奏に終わらせない演奏をさせたと思います。生々しい音を上手に引き出していたように思いました。

 N響のコンサートマスターがソリストとなるヴァイオリン協奏曲は大抵そうなのですが、お互い分かっているせいか、ソリストもオーケストラの一パーツみたいに聴こえることが多いのですが、今回は広上が上手く誘導したせいもあるのでしょうが、ソリストが過剰にオーケストラの一員になることはなく、と言って、オーケストラと対立するような演奏でもなく、上手くソリストの特徴が示されながらもソリストとオーケストラが同じベクトルで進んでいるような演奏で気持ち良かったです。過剰にならないけれん味が音楽の一体感の蝶番になっていたように思いました。

 最後が尾上惇忠の交響曲「時の彼方へ」

 初めて聴く曲ですがいい曲だと思いました。とにかくち密に書かれています。指揮台に乗ったスコアは新聞紙大ぐらいあるのではないでしょうか?それだけの分奏があるにもかかわらず、音が過剰に濁らない。そこが作曲家の腕なのでしょう。とにかく音色を大事にします。ヴィヴラフォンとチェレスタとフルートがユニゾンで重なり曰く言い難い音色が流れたり、コントラバスから順々に弦楽器が重なってフーガになり、壮大なポリフォニーを作るかと思えば、金管楽器がファンファーレを鳴らして見せるなど、緻密な構成が様々な音色に結びつき、と言って、それがラヴェルのように厳格に聴こえない。おおらかで土着的なフレーズもあり、激しい嵐のようなパッセージもあり、様々に色が変わっていきます。速い部分と遅い部分の対比も鮮やかですし、尾高惇忠という作曲家の集大成なのだろうなと思いました。

 そこを広上淳一の感性が更に引き立てます。広上は全身を使って指揮をします。表情もフレーズごとに代わります。厳しい顔もにこやかな顔を示し、腕も身体も足も自在に動かしてオーケストラを誘導します。タクトを使い、あるいは指揮台に置き、そうやって広上の感じる世界をオーケストラに伝えようとします。N響も指揮者同様豊かな表情でそれに答える。緻密な中の荒々しさ、一方での静寂が、この曲が東日本大震災の半年後に仙台で初演された意味を感じずにはいられませんでした。素晴らしい演奏だったと思います。

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2021年6月6日 2021年6月演奏会(サントリーホール(NHKホール代替)
指揮:井上 道義

曲目: シベリウス 交響曲第7番 ハ長調 作品105
  ベートーヴェン 交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:中村(翔)、チェロ:藤森、コントラバス:市川、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、ティンパニ:久保

弦の構成:14型

会場:サントリーホール
座席:2F C8列33番

感想

 この正月以来、N響は結構シベリウス祭りです。2月に尾高忠明が交響曲1番を取り上げ、4月には大植英次が交響曲2番を、そして今回は、井上道義が交響曲第7番を取り上げました。こうやって順番に聴いてみると、1番や2番は作品に若さを感じることができますし、第7番は回想的な味わいがあると思います。

 井上道義の指揮ぶりはスタイリッシュではあるけれども抑制されたもの。後半の英雄交響曲とはかなりニュアンスの違う演奏です。オーケストラの粒立ちは有名なトロンボーンソロなどくっきりしているのですが、感情の表出が幻想的でロマンティックです。この曲を書いたときのシベリウスの境地がどんな所にあったのか知る由もありませんが、過去の思い出に浸っているように感じられる演奏は、言うなれば好々爺のような演奏と申し上げたらよいでしょうか、聴いていてほっとさせられるものがありました。

 後半の「英雄」交響曲。前半のシベリウスとは違って、井上の熱い思いが炸裂した演奏。指揮ぶりはこちらの方がより熱が入っていたように見受けられました。スタイリッシュと言えばスタイリッシュですが、ずっとケレン味の強い演奏です。第一楽章は、かなりアクセントを強調した演奏。過剰なほどにアクセントを強調するので、そのゴツゴツした感じがさらに熱を持ちます。一方でレガートはしっかりレガートで演奏されますので、その対比が面白い。第二楽章の葬送行進曲は、普通よりもやや遅めのテンポで、しみじみと演奏していきます。第三楽章のスケルツォは一転して明るい雰囲気。中間部のホルンのファンファーレも明るく響きいい感じです。そして第4楽章の変奏曲。変奏ひとつひとつを描き分けるようにしてまとめていったように聴きました。

 私自身は「英雄交響曲」はさほど好きな作品ではないのですが、こういう見せ方をさせられると、やっぱり名曲だな、と思わずにはいられませんでした。演奏は一瞬弦のずれなどもあったのですが、通した感じは設計図が見えるような演奏でよかったと思います。

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2021年6月11日 2021年6月演奏会(東京芸術劇場)
指揮:下野 竜也

曲目: フィンジ 前奏曲 作品25
  ブリテン シンフォニア・ダ・レクイエム 作品20
  ブルックナー 交響曲第0番 ニ短調

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、サックス:客演(フリー奏者の大城正司さん)、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:14-12-10-7-6

会場:東京芸術劇場
座席:3階E列43番

感想

 下野竜也ならではのマニアックな選曲で、下野自身はこの3曲の間に感じられる宗教性を意識しての選曲ではなかったのかと思います。お客さんは多くはなかったけど、演奏は充実していました。

 フィンジの前奏曲は、まさに「シンフォニア・ダ・レクイエム」の前奏曲として、「シンフォニア・ダ・レクイエム」と連続して演奏されました。弦楽合奏による5分ほどの曲ですが、「グリーン・スリーブス」を彷彿させるような曲想で、「ああ、イギリス音楽だな」と思わせる何かがあるもの。その郷愁感はブリテンのレクイエムにぴったりだった気がします。続けて演奏される「ラクリモーザ」。「シンフォニア・ダ・レクイエム」はそれだけで聴くと「英国」感がそれほど感じさせられる音楽ではないと思うのですが、前にフィンジの「前奏曲」という補助線が入ったおかげで、「レクイエム」も英国発の曲であるように聴こえてきます。それが新鮮でした。

 演奏はやはり迫力のN響です。特に「怒りの日」の部分は、打楽器群の活躍もあって、面白かったです。もちろん木管、金管陣も見事だったのですが。いい演奏だったと思います。

 後半はブルックナーの第0番。この曲があることは若いころから知っておりましたが、聴いたことはないです。そもそもブルックナーは苦手で、積極的に聴くことは昔からほとんどありません。それでも3から9番までは演奏会でよく取り上げられますから何度か聴いていますし、あまり取り上げられない1番、2番もパーヴォ・ヤルヴィがN響で取り上げてくれましたから、とりあえず聴いています。で、残りが0番と00番ということになるのですが、今回0番が聴けて嬉しいです。

 この0番という曲、最初は「第2番」として作曲され、のちにブルックナーによって取り消され「無効」と書かれたことから、0番と呼ばれるそうですが、聴いてみて、どうして、ブルックナーはこの曲をダメだと感じたのかはよく分かりません。確かに後年の作品のような「これでもか、これでもか」と襲ってくるねちっこさはありませんが、どの楽章を聴いても「これはブルックナーの作品だ」と分かるような和音構成。ねちっこさがない分、みずみずしい感じもあって、私は悪くはないのかな、と思いました。

 下野の演奏は、この曲の持つみずみずしい躍動感を示したものだと思いました。この曲だけではないのですが、下野は割と強弱やスピードをしっかり見せるタイプの指揮者だと思います。それが上手く行かないこともあると思うのですが、今日の曲に関して言えば、どちらも下野の持つ強弱感やスピード感が曲想と非常に合っている感じで、きびきびとした指揮と曲の流れが丁度良く反応していてよかったと思います。N響のヴィルトゥオジティもいつもながら見事。いい演奏に仕上がったと思います。

 なお、今回コンマスサイドに、ソリストとして活躍されている郷古廉さんが入っていました。

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2021年6月17日 2021年6月演奏会(サントリーホール)
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

曲目: ペルト スンマ(弦楽合奏版)
  シベリウス ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
    ヴァイオリン独奏:青木 尚佳
  ニールセン 交響曲第4番 作品29「不滅」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:森田(第1ヴァイオリンの森田昌弘さんが代演しました)、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:植松

弦の構成:12-12-10-8-6

会場:サントリーホール
座席:2階8列35番

感想

 パーヴォ・ヤルヴィが遂にN響の指揮台に戻ってまいりました。前回指揮したのが2020年2月。COVID-19のバンデミックがそろそろ世界中で注目されたころ。その後も5月、9月、本年2月と指揮台に上がる予定だったわけですが、新型コロナウィルス感染拡大防止のための外国人来日制限が影響して来日することはできなくなりました。私個人のことを申し上げれば、昨年2月の演奏会は所用で伺うことができなかったので、パーヴォの指揮する姿を見たのは2019年9月20日、マーラーの5番の交響曲を聴いて以来のことになります。

 なお、本年6月はパーヴォの来日が予定されており、サントリーホールの演奏会では、ヒンデミットの「画家マチス」とブルックナーの「交響曲0番」がアナウンスされていたわけですが、ブルックナーの交響曲0番は先週、下野竜也が池袋での演奏会で取り上げましたので、今回は、ヤルヴィ得意の北欧の音楽でプログラムをまとめてきました。

 ペルトの「スンマ」。何とも不思議な感じがするけど、癒される音楽です。もともとはミサ典礼文の「クレド」に付けた無伴奏合唱曲だったそうですが、独特の味わいがあっていい。今回は弦楽合奏による演奏でしたが、オリジナルの合唱も歌ってみたいものだと思いました。

 二曲目のシベリウスのヴァイオリン協奏曲、パーヴォと日本人女流ヴァイオリニストでシベリウスというのは割と定番で、2015年の庄司沙矢香、2017年の諏訪内晶子に続く三度目です。今回のヴァイオリニストはミュンヘンフィルのコンサートミストレス青木尚佳。それで演奏ですが、正直なところ、あまり感心いたしませんでした。もちろんテクニックはある方なのだろうけど、特別美音とも思わないし、特別流麗でもない。ヴァイオリニストの主張がはっきりしないのです。協奏曲はソリストが主張しないと詰らないのです。この青木という方、コンサートマスターをしているだけあって、アンサンブルに溶け込む方向にどんどん行ってしまう。もちろん、部分的にそういうところがあった方が良いのは当然なのですが、そっちに流されて、ソリストがアンサンブルに埋没するのは如何かと思いました。

 最後のニールセン「不滅」、素晴らしい演奏だったと思います。パーヴォらしいエッジの効いた演奏で、特に2台のティンパニの打音が素晴らしい。切れ味がよく、迫力があります。第二部の木管群の朴訥としながらも要所要所をしっかり奏でている様子も感心しましたし、その後の緊張感もいいと思いました。聴いていて、わくわくとしてしまいました。Bravoと叫びたくなるような演奏でした。北欧音楽はパーヴォ・ヤルヴィの得意とするところですが、その本領が発揮されたと申しあげてよいと思います。久しぶりに来日してN響の指揮台に立って、本当に魅力的な音楽を聴かせてくれる。流石一流指揮者です。

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