NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2020年

目次

2020年01月12日 第1930回定期演奏会 クリストフ・エッシェンバッハ指揮
2020年01月18日 第1931回定期演奏会 クリストフ・エッシェンバッハ指揮
2020年01月31日 第1933回定期演奏会 ラファエル・パヤーレ指揮

2020年09月12日 2020年9月演奏会(NHKホール) 指揮:山田 和樹
2020年09月18日 2020年9月演奏会(東京芸術劇場) 指揮:広上 淳一
2020年10月17日 2020年10月演奏会(NHKホール) 指揮:鈴木 雅明
2020年10月23日 2020年10月演奏会(東京芸術劇場) 指揮:鈴木 雅明
2020年10月29日 2020年10月演奏会(サントリーホール) 指揮:鈴木 雅明
2020年11月14日 2020年11月演奏会(NHKホール) 指揮:熊倉 優
2020年11月20日 2020年11月演奏会(東京芸術劇場) 指揮:原田 慶太楼
2020年11月25日 2020年11月演奏会(サントリーホール) 指揮:原田 慶太楼
2020年12月5日 2020年12月演奏会(NHKホール) 指揮:井上 道義
2020年12月11日 2020年12月演奏会(東京芸術劇場) 指揮:秋山 和慶
2020年12月17日 2020年12月演奏会(サントリーホール) 指揮:井上 道義

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2020年01月12日 第1930回定期演奏会
指揮:クリストフ・エッシェンバッハ

曲目: マーラー 交響曲第2番 ハ短調「復活」
      ソプラノ独唱:マリソル・モンタルヴォ
メゾ・ソプラノ独唱:藤村 実穂子
合唱:新国立劇場合唱団

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:市川、フルート:神田、オーボエ:𠮷村、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、オルガン:客演(東京芸術劇場専属オルガニストの新山恵理さん)

弦の構成:16型

感想

 今年初めてのN響は「復活」で始まりました。「自分的に何か復活するものはあったかな」とちょっと考えるところですが、もちろんそれは演奏とは関係ありません。

 指揮はエッシェンバッハ。自分がクラシック音楽を本格的に聴き始めた頃は、彼はまだ30代のピアニストで若手扱いだったはずですが、その彼も本年はもう80。年齢に見合った大家の芸を見せてくれたのかなと思います。

 それを特に感じたのは、第二楽章から第四楽章にかけての流れ。オーケストラを煽ることなく、淡々と進めていきます。激しい表現の両端楽章もそれなりに端整な演奏だとは思うのですが、中間楽章があっさりしているので、しっかり対比が見て取れます。そういう意味ではピアニスト出身らしい冷静な判断があると思いますが、それを冷たい感じに聴かせないところが彼の真骨頂なのかもしれません。彼の曲の構築の仕方は、第一楽章と第二楽章の間だけ、20-30秒の休止を取っただけでほかはほとんどアタッカでつなぐやり方。しかしながら、全体的には落ち着いた悠然とした演奏で、演奏時間もほぼ90分と比較的ゆっくりしたものでした。

 ソプラノソロは、ハンナ・エリザベート・ミュラーが当初アナウンスされていましたが、急なキャンセルでマリソル・モンタルヴォに変更。エッシェンバッハとはよく共演されており、彼の指揮する「復活」のソプラノ・ソロも何度も歌っているそうですが、力量的には今一つなのかな、という印象。もちろんこれはソプラノの責任ではなくて、アルト・ソロの藤村実穂子が素晴らしすぎるのです。NHKホールにおいて、合唱団の前という一番後ろのポジションで歌って、「原光」のソロが始まったとたん、三階客席の一番奥まで、密度のある柔らかい声が一瞬にして届くのは、藤村が力量の素晴らしさだと思いますし、またその表現も明晰なドイツ語も相俟って、大変すばらしいものでした。新国立劇場合唱団(男声:40人、女声:47人)も立派な歌唱で、第五楽章の「復活」の雰囲気を盛り上げてくれたと思います。

 年初から素晴らしい演奏を聴かせて貰えました。

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2020年01月18日 第1931回定期演奏会
指揮:クリストフ・エッシェンバッハ

曲目: ブラームス ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品83
      ピアノ独奏:ツィモン・バルト
ブラームス(シェーンベルグ編曲) ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 作品25

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:植松

弦の構成:協奏曲;14型、四重奏曲;16型

感想

 ブラームスのピアノ協奏曲第2番。かなり主張の強い解釈だったと思います。ピアニストはバルトというアメリカ人。1989年にN響と一度共演したことがあるそうですが、私は初めて聴く人です。バルトは黒いTシャツのようなものを着て演奏したのですが、そのシャツが身体にぴったりくっつき、彼の体格の良さを示します。腕周りとか胸の厚みとかがボディビルダーのようでした。そこで、演奏も男性的な演奏になるのかな、と思ったのですが、それは違っていました。

 それでも第一楽章はしっかり音を響かせて、割と男性的な演奏だったと思いますが、決して壮大な演奏という感じではなく、ある意味、思い込みのない演奏だったといえるのかもしれません。しかし、彼はそのトーンで全曲をまとめることはなく、各楽章ごとで違う表現をしていたように思います。第二楽章のスケルツォは割とあっさりと演奏していた感じで、第三楽章の緩徐楽章も優美な繊細な演奏だったと思います。フィナーレのロンドは「デフォルメ」と言いたくなるほどエッジが立った演奏で、その分繊細でこのピアニストのこの曲に対する」思い入れが伝わってくるような演奏でしたが、お客さんはちょっと面食らっていたようにも思いました。

 ただ、それが彼の設計であり、その設計したように演奏できたというのは会心だったのかもしれません。

 エッシェンバッハは、バルトのピアノに対するオーケストラの絡ませ方に細心の注意を払っていた様子で、第一楽章は室内楽的な響きでピアノを支え、それがバルトの第一楽章が男性的に聴こえた要因だったのかもしれません。N響は楽章が後になるほどに割と自由度が上がっていったと思うのですが、ピアノの世界との関連でそうしたようにも思いました。第三楽章のテーマ提示とその後の掛け合いは、首席奏者の位置に座った辻本玲さんが素晴らしい演奏を聴かせ、ピアニストとの掛け合いが素敵であったこと特記します。

 後半のピアノ四重奏曲。良い演奏だったと思います。曲自身が比較的陰鬱な雰囲気からだんだん明るくなるように書かれているわけで、米国に亡命したシェーンベルグがアメリカ人のために編曲したからこそこんな曲になったのだろうな、と思いました。華やかです。その華やかさをすこし含羞のある感じで演奏するのが、ドイツ人指揮者のエッシェンバッハの真骨頂であり、N響もそれを上手く表現できていたように思います。

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2020年01月18日 第1931回定期演奏会
指揮:ラファエル・パヤーレ

曲目: ショスタコーヴィチ(アトヴミャーン編) バレエ組曲第1番
ショスタコーヴィチ チェロ協奏曲第2番 ト長調 作品126
      チェロ独奏:アリサ・ワイラースタイン
ショスタコーヴィチ 交響曲第5番 ニ短調作品47

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:キュッヒル、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:川本、チェロ:辻本、ベース:西山、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ピアノ/チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:協奏曲;14型、その他;16型

感想

 
ラファエル・パヤーレはベネズエラ出身の40歳。若き俊英とキャッチフレーズには書いてありましたが、確かに見た目も若い。燕尾が身体に会っている感じに見えません。しかし、その棒が引き出す音楽はこの指揮者のもつ音楽性と、若さの持つ勢いとがいい具合にバランスされて、なかなか素敵な音楽になっていたのではないかと思います。一言でいえば楷書体の音楽。しかしその楷書体の中でもちょっとしたラテン的な感じも垣間見れて、ちょっとデュトワの音楽にも似ている感じがしました。

 最初のバレエ組曲は、ショスタコーヴィッチの3番目のバレエ音楽「明るい小川」からの6曲ですが、私自身は「明るい小川」という作品を聴いたことがありませんし、ましてや、この組曲も初聴でした。短い、性格の異なった舞曲による組曲で、その性格の違いをきちんと見せていた演奏でした。

 チェロ協奏曲第2番は、ショスタコーヴィチの晩年の傑作の一つですが、私はなかなか縁がなく、初めて実演で聴くことができました。死への不安を強く感じさせる内省的な音楽ですが、ワイラースタインは、割とかっちりしたチェロで、この作品世界を表現していたのではないかと思います。

 この作品、非常に鎮静的な部分と例えば第一楽章のカデンツァ部分における、大太鼓の強打との掛け合いで代表されるような、激しい部分が入り組んだ構造をしていて、その性格の描き分けをするためには、おそらくきっちり区別して演奏したほうが演奏しやすいということがあったのでしょう。N響もそういうソリストに対してきっちり楷書体で返しており、くっきりとした清澄な音楽空間が生まれたものと思います。一方で、ショスタコーヴィチ特有の諧謔さはこの二つの特徴の間ではっきりしなかった感じもしました。

 最後の5番の交響曲。パヤーレの楷書体の音楽づくりがN響のヴィルトゥオジティと上手に反応して、見事な音楽になりました。テンポの捉え方に若干誇張があるようで、そこに表情の濃さが現れていたと思いますが、そこがこの方の特色なのでしょう。若き才能を感じさせられる演奏だったと思います。

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2020年09月12日 2020年9月演奏会(NHKホール)
指揮:山田 和樹

曲目: 武満 徹 弦楽のためのレクイエム
モーツァルト 交響曲 第29番 イ長調 K. 201
ブラームス セレナード 第2番 イ長調 作品16

会場:NHKホール
座席:3階1列16番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:福川

弦の構成:12型

感想

 1月31日以来7か月ぶりのNHKホールでした。

 NHKホールは、自分にとっては、上京した1988年5月に初めて伺って以来、ほぼ毎月2回ずつ通っていましたので、これまで伺った回数は550回を上回っているのではないかと思います。それだけに愛着がある。N響の定期会員にも1988年のシーズンからずっと継続していましたので、本来なら、今日は私の33シーズン目のスタートがマーラーの3番、指揮:パーヴォ・ヤルヴィで始まるはずでした。しかし、このコロナ禍。N響は本年度の定期演奏会を全てキャンセル。代わりに特別演奏会を組んできました。

 最初にアナウンスされた指揮者は、N響首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィ。しかし、パーヴォは国の海外からの渡航制限の対象となり、来日できず、山田和樹に変更。プログラムは、ヤルヴィは、ペルト/ベンジャミン・ブリテンへの追悼歌、 モーツァルト/交響曲 第29番、 ブラームス/セレナード 第2番だったのですが、山田は最初の曲を弦楽のためのレクイエム に変更してきました。ペルトはエストニア人で、ヤルヴィにしてみれば同郷の作曲家のミニマル音楽で、新たな「ウィズ・コロナ」時代を飾りたかったのでしょうが、山田は我々と同じ日本人の武満を選んだということなのでしょう。

 演奏会の特徴について先にいくつか書いておきますと、演奏者の服装ですが、「定期演奏会」ではない、ということを強調したかったのでしょうか、普通のブラックスーツにグレーのネクタイ(定期演奏会の時は燕尾服がオーケストラの制服)。 弦は12型。曲の規模からすると妥当ですが、おそらくマーラーの交響曲の中でも一番演奏時間が長く、規模も大きい方の3番を演奏すれば、舞台上が密になる、という判断があったのだろうと思います。そのため密を避けるためにあえてプログラムを変更して小規模のオーケストラでも演奏できるようにしたということがあると思います。なお、演奏者のマスクは自由だった様子で、していた方もいらっしゃいましたが、多くの方はマスクなしでした。また、奏者同士の間隔もいつもよりは広めなのかもしれませんが、弦楽器の譜面台は一人に一台ではなくて1プルトに1台だったので、そんなに広い感じはしませんでした。

 客席はいわゆる市松模様スタイル。それでも3階席はかなり空席がありました。チケットは全て原則ネット販売で、当日券の販売無し。観客同士の密を避けるためか、途中休憩もなく、帰りの退場も3階、1階、2階の順でした。手のアルコール消毒、検温はもちろんあり、チケットのもぎり、パンフレットの受け渡しは自分で、というのも最近の標準でした。

 演奏は、さすがN響というべきでしょう。小規模の構成にしたため、第二クラリネット奏者以外は全てN響の正規団員。そのせいもあるとは思いますが、こういう規模でやると、N響は室内楽的精妙な合わせをして見せて実に上手い。特に最初の「弦レク」は美しく、悲しみが浮き上がってくるような演奏。 このCOVID-19バンデミックによる犠牲者を追悼するために選ばれたと思うのですが、それだけではなく、音楽を演奏するという、ある意味人間が人間であるための営みが出来なかった音楽家たちに対するレクイエムの様にも聴こえました。

 一転してモーツァルトの29番は18歳のモーツァルトの青春を感じさせる音楽ですが、その希望を期待させるような音楽。山田さんの溌溂とした指揮が印象的。

 最後はブラームスのセレナード2番。セレナード1番は時々演奏されますが、2番が演奏されるのはなかなか珍しいのではないでしょうか。少なくとも私は初耳です。この曲の特徴はヴァイオリンを欠くことで、ヴィオラのトップ(本日は佐々木亮さん)がコンマス役を務めます。ヴィオラ8、チェロ6、コントラバス4の編成はブラームスの希望通りで、やはり室内楽的です。 申しあげるまでもなくセレナードはモーツァルトの時代までは機会音楽として使われていましたが、ブラームスのセレナードは機会音楽だったとしてもブラームスらしいかなり陰影のある音楽の様に聞こえました。もちろんこれは高音楽器が少ないことが影響しているのですが、その分ピッコロの華やかな音が目立っていました。

 定期演奏会という名目ではなかったとはいえ、7か月ぶりのN響演奏会を聴けたこと。素直に嬉しかったです。演奏も高水準のものだったと思います。正味72-73分の演奏会だったと思いますけど堪能しました。

 なお、7か月ぶりにN響のメンバー表を見ましたが、ずいぶんメンバーの退団があったようです。オーボエの𠮷村結実さんが首席奏者になられていましたが、第一ヴァイオリンの田中裕さん、酒井敏彦さん、ヴィオラの小野富士さん、チェロの桑田歩さん、銅銀久弥さん、トランペットの井川明彦さんが退団されていました。皆さん長年にわたりN響の音を支えてきた方なので、やはり寂しいです。

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2020年09月18日 2020年9月演奏会(東京芸術劇場)
指揮:広上 淳一

曲目: ウェーベルン(シュウォーツ編) 緩徐楽章(弦楽合奏版)
リヒャルト・シュトラウス 歌劇「カプリッチョ」−六重奏(弦楽合奏版)
リヒャルト・シュトラウス 組曲「町人貴族」作品60

会場:東京芸術劇場大ホール
座席:B席 3階A列25番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井(ゲスト・コンサートマスター)、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:黒金、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ピアノ:客演

弦の構成:緩徐楽章:12型、六重奏:8-8-8-6-3、町人貴族:6(ヴァイオリン計)-4-3-2

感想

 NHKホールが、2021年3月から2022年6月まで耐震工事等のリニューアル工事のため休館になることが発表になったのが、2019年4月でした。休館期間中のN響定期演奏会が東京芸術劇場を使用して行われることがアナウンスされたのが2019年10月。そして、本来であれば本日がその初日の筈でした。

 当初予定されていたプログラムは、リヒャルト・シュトラウスの歌劇「カプリッチョ」の最後の場。そしてマーラーの交響曲第5番。そして指揮はN響首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィでした。しかし、ヤルヴィは来日できず、広上淳一に変更。曲目も最初にアナウンスされた大規模曲から、室内楽的作品に変更になりました。

 演奏会のスタイルは先週とほとんど同じです。ただ、お客さんの数は平日ソワレということも関係しているのかもしれませんが、先週よりかなり少なめで500人も入っていないのではないか、という感じです。私は3階の1列目で鑑賞したのですが、1階には多分150人ぐらいしかいなかったと思います。

 しかし、演奏はほんとうに素晴らしかったと思います。広上淳一の力量に感心しました。

 広上の指揮姿は一種独特です。私が彼の指揮を初めて見たのは1991年ですから、もう30年近く前になりますが、その時の印象は、指揮台の上を所狭しと踊り廻っている、というものでした。秘かに「踊る広上」と呼んでいました。その時のメインはマーラーの4番だったのですが、もうこれは最上、と申し上げても間違いないほどの名演。その時はまだ30代前半の若手指揮者だったわけですが、その若さでよくあの音楽を紡ぎだしたな、と、大いに感心しました。

 さすがに60代に入って、昔のように指揮台の上を踊ることはないですが、とにかく指揮の表現が多彩です。指揮とは棒で振るんじゃない、身体で振るんだと言わんばかりに、全身を使った指揮をします。堅く演奏して欲しいところでは、身体をロボットのように動かして見せたり、大きく踏み込んで欲しい時は、大きく踏み込んで見せたり、柔らかく聴かせたいときは優雅に振ってみたり、指揮姿を見ているだけでも飽きません。

 その広上の指揮から紡ぎだされた音楽。こちらも素晴らしい。ウェーベルンの「緩徐楽章」は、超ロマンティックな作品。初聴でしたが、ウェーベルンが十二音音楽に進む前の作品だけあって、そもそもが美しい。それをN響弦楽陣が揃ったポルタメントを聴かせてくれる。もう蕩けそうに素晴らしいと思いました。

 「カプリッチョ」の六重奏、というアナウンスですが、要するにカプリッチョの「序奏」の部分です。ドイツ・ロマン派最後の巨匠として、徹底的に古典にこだわったシュトラウスらしく、こちらもまた擬古典的な美しさに満ちています。オペラで聴くとこの部分はもっとロココ的な軽い音楽に聴こえるのですが、今回はもっと粘度のある陰影のはっきりした音楽だったように思います。本来の規模の4倍の奏者を使い、低音も付けたのが大きいのでしょう。

 最後が「町人貴族」組曲(作品60b-IIIa、1920年)。弦楽器の編成が小さく、管楽器も含めて全員ソロの様に演奏しなければならない作品なので、なかなか演奏されないと思います。ちなみに私は20年ぶりに聴きました。多彩な内容の小品9曲による組曲ですが、それぞれの表情の違いを広上は身体いっぱいに使って振り分けています。N響のメンバーも上手い。変な音が全くなかったと言えばそうではなかったのですが、それぞれのヴィルトゥオジティで指揮者の求める音楽の変化を見事に見せていました。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロそれぞれのソロが素晴らしく、オーボエ、ファゴット、トランペットもよかったです。指揮者の的確な描き分けと奏者の技術が相俟って、素晴らしい音楽が紡ぎだされました。

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2020年10月17日 2020年10月演奏会(NHKホール)
指揮:鈴木 雅明

曲目: ハイドン 交響曲第101番 ニ長調 「時計」 Hob.I-101
モーツァルト 交響曲 第39番 変ホ長調 K. 543

会場:NHKホール
座席:3階C1列15番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:川本、チェロ:辻本、ベース:市川、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:菊川、ティンパニ:植松

弦の構成:12-12-8-6-4

感想

 とても素晴らしい演奏でした。二曲ともブラヴィッシモです。この高揚感。これがあるから音楽会通いはやめられません。

 指揮は鈴木雅明。バッハ・コレギウム・ジャパンを率いる日本の古楽演奏界の雄です。活躍期間が長いことと、白髪で、見た目はそれなりに高齢に見えることから結構年長に見えますが、1954年生まれとのこと。まだ66歳ですから、指揮者としてはこれからが脂がのるころです。それだけに、あれだけ若々しい演奏が可能だったのでしょう。

 二曲とも古楽的演奏を行いました。弦楽器はノンヴィヴラート奏法でしたし、金管楽器は結構前に出していました。アクセントが強調されますが、細かく演奏することによってレガートにはなっても、単純につないでレガートになる部分はありません。息遣いが明確で、音楽が生き生きとしていることこの上ない。指揮者の方針が明確にあり、それが、指揮姿に大きく表れている。若い指揮者がオーケストラを引っ張るために大げさに振るみたいな感じとも似ていますが、バッハ演奏経験豊富な鈴木の指揮ですから、無理やり感はない。指揮姿と紡ぎだされる音楽との間に明確なつながりが見え、そこが心地いいです。指揮姿を見てこんな風にわくわくしたのは久しぶりな気がします。

 ハイドンの「時計」もモーツァルトの39番もよく聴く曲ですが、こんな演奏、聴いたことないかな、と思うのですが、鈴木の指揮姿と紡ぎだされる音楽の間の有機的一体感が気持ちいい。結構ブツブツ切れるのですが、繋がないことによる説得力もしっかりあり、アクセントが心地よい。と言って、ごつごつした感じではなく、音楽的まとまりがある。ハイドンやモーツァルトはこんな音楽を期待していたのだろうか、と思ってしまうような演奏でした。

 もちろん、N響弦楽陣の巧さが前提です。ノンヴィヴラート奏法なので、揃わないと凄く気持ち悪い音になるはずなのでしょうが、そこはN響弦楽陣。ピタッと合わせて狂いがない。おかげで、ピュアな音で古楽的な響きを楽しめました。

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2020年10月23日 2020年10月演奏会(東京芸術劇場)
指揮:鈴木 雅明

曲目: 武満 徹 デイ・シグナル
武満 徹 ガーデン・レイン
武満 徹 ナイト・シグナル
ラーション サクソフォーン協奏曲 作品14
      サクソフォーン独奏:須川 展也 
ベルワルド 交響曲第4番 変ホ長調「ナイーヴ」

会場:東京芸術劇場
座席:3階A列23番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:西山、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、ホルン:福川、トランペット:菊川、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保

弦の構成:12-12-8-6-4

感想

 先週の古典派王道交響曲二曲とはうって変わって、近現代から後期ロマン派の作曲家による作品による演奏会。曲が曲なので、お客さんの入りは全くよくなかったのですが(目測では500人ぐらいでしょうか?)、なかなか素敵な演奏会だったと思います。

 最初の武満の3曲は、どれもホルン、トランペット、トロンボーン、チューバのブラス・アンサンブルによる作品で、3曲続けて演奏されました。ブラス・アンサンブルの作品をN響の演奏会で演奏されることはほとんどないので、私にとってはどれも初めて聴く曲です。ディ・シグナルとナイト・シグナルとは、対の曲で、どちらも明るいファンファーレ。管楽器がそれぞれ左右の二グループに分かれ、相対して起立で演奏されました。一方、ガーデンレインはもっとメロディックで、繊細な音の重なりが美しい作品。中央に集まり、第一グループの5人は椅子に座っての演奏。速-緩-速の関係になって、一種のブラス協奏曲のようにも聴こえました。

 二曲目は20世紀前半のスウェーデンの作曲家、ラーションのサクソフォーン協奏曲。これも初聴でした。新古典主義的な作品で、速-緩-速の構成は古典的器楽協奏曲みたいです。第一楽章にはしっかりカデンツァも入ります。テクニカル的にはかなり難しい作品のようです。須川展也のアルト・サクソフォーンはまさに天馬が駆け巡るような演奏で、多彩な音色とテクニックを披露してくれたと思います。軽やかさが見事でした。

 最後がスウェーデンのロマン派の作曲家、ベルワルドの交響曲。ベルワルドは、N響ではブロムシュテットが何度か取り上げており、この変ホ長調交響曲も1991年に演奏しています。どっかで聴いたことがあるような気がする、と思ったのですが1991年の演奏、私も聴いていました。N響としては30年ぶりに取り上げたことになります。鈴木の指揮は先週と同様、非常にきびきびとしたもので、曲の輪郭がはっきりと示されます。特にパウゼの取り扱いが上手く、それが曲の輪郭を浮かびあがらせるのに有効なのではないかという気がしました。

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2020年10月29日 2020年10月演奏会(サントリーホール)
指揮:鈴木 雅明

曲目: シューベルト 交響曲第2番 変ロ長調 D.125
シューベルト 交響曲 第4番 ハ短調 D.417「悲劇的」

会場:サントリーホール
座席:2階C6列8番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:長谷川、ティンパニ:植松

弦の構成:12-12-8-6-4

感想

 N響をおそらく初めてサントリーホールで聴きました。N響は毎月B定期をサントリーホールでやっているわけですが、サントリーホールの人気と席数の問題で、定期会員以外の方のチケットの購入がなかなか難しく、また自分が好む楽団員の顔が見える席となると高価ということもあり、これまで積極的には行こうとは思いませんでした。しかし、このコロナ禍。定期会員も全部払い戻しで、全て一回券での発売となったため、私でも伺えることになりました。

 そんなわけで、今月三度目のN響、三度目の鈴木雅明の指揮、ということになりましたが、鈴木雅明の作り上げる音楽世界、大好きになりました。

 今回はロマン派の巨人、シューベルトの若書きの交響曲二曲を取り上げたわけですが、やはりどちらも素晴らしい。ちなみに、2番が取り上げられるのは25年ぶり、4番は私がN響を聴き始めてからは初めて演奏されたと思います。ちなみに2番は作曲家17歳から18歳の時にかかれた作品で、4番はその2年後に作曲されています。

 2番はそのティーンエイジャーだけが持てる野心と輝きの漲る曲ですが、鈴木はそれをその頃のシューベルトと一体になったような若々しさでさばいていきます。とにかく切れ味がよく、音のエッジが立っている。鈴木自身は別に気負った演奏をしているわけではありませんが、シューベルトの気負いがほんとうにに追ってくるように演奏しました。ほんとうに素晴らしいと思いました。

 2年後に書かれた「悲劇的」は、2番の若々しい奔流を止めることができるだけまでに成長したと言うことなのでしょう。シューベルトにとってこの作品のお手本は言うまでもなくベート―ヴェンの「運命」交響曲。しかし、さすがに歌曲の王、この作品は「運命」のような緻密さはありません。そこがシューベルトの若さなのでしょうし、傑作になり切れない弱さでもあるのだろうと思います。そう言った、イマイチの敢えて言うなら失敗作をやはり鈴木は、それでも若さの奔流で示してくれる。若さゆえの未熟さを老練で見推せるのではなく、若々しい輝きの中に見せる。残念な若書きを切れ味と鋭さできらびやかに料理した、と言うべきか。もう感服しました。今日は楽員全員が後ろにはけた後も拍手が続き、鈴木がカーテン・コールに応えました。確かに、それだけの価値のある演奏だったと思います。

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2020年11月14日 2020年11月演奏会(NHKホール)
指揮:熊倉 優

曲目: メンデルスゾーン 序曲「フィンガルの洞窟」作品26
シューマン ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
ピアノ独奏:藤田 真央
バッハ(レーガー編曲) コラール前奏曲「おお人よ、お前の罪に泣け」BWV622
メンデルスゾーン 交響曲第4番 イ長調 作品90「イタリア」

会場:NHKホール
座席:3階C1列43番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:白井、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:市川、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:菊本、ティンパニ:久保

弦の構成:14型、協奏曲は12型

感想

 9月、10月と原則12型編成の弦楽器で恐る恐る演奏会を始めたN響ですが、11月からは少し規模を大きくして、14型の弦楽編成の演奏になりました。演奏時間も休憩なし70分から休憩あり120分に増え、だんだん通常に戻ってきたのかな、というところです。もっと大規模な編成で演奏できるようになることを期待して待ちたいと思います。

 とはいえ、海外からの演奏家の来日はかなり大変で(ウィーン・フィルは感染対応を最大限にして来日しましたが)、外国人指揮者を招聘するのはまだ困難な様子です。11月は当初はダーヴィッド・アフカム及びマイケル・ティルソン・トーマスが指揮台に立つ予定で、アフカムが指揮する予定だったAプログラムでは、ラフマニノフの「死の島」やドビュッシーの「海」がアナウンスされていました。しかし、3管編成で打楽器も多用する大規模管弦楽曲である「死の島」や「海」を演奏するのは無理という判断だったのでしょう。指揮者は日本人若手(まだ28歳)の熊倉優が務め、曲目もロマン派中期の作品に落ち着きました。

 さて、熊倉の演奏ですが、一言で申し上げれば「若いな」と言ことでしょう。それが長所にも短所にもなったという気がします。

 若くて威厳が全く感じられず、「オーケストラに演奏して頂いている」感がすこぶるあります。またバトンテクニックもまだまだで、オケのアインザッツが合わないことが多い。これは腕の振り上げが下手なのだろうと思います。見ていると、振り下ろしは総じて「ぴしっ」と行っているのですが、振り上げが「ふにゃ」となるところが多くて、その後があっていないことが多い感じがしました。またリズムの感じ方も特にゆったりとした部分でオーケストラと合っていないのではないかと感じさせられる部分もあり、今後さらに勉強して欲しいな、と思った次第です。

 一方、乗ってくると若さのきらめきを感じます。「イタリア」交響曲の第4楽章はプレストですが、熊倉のプレストは勢いのあるプレストで気持ちがいい。N響の技術も流石で、その指示にしっかり乗って演奏するところ素晴らしいと思いました。「イタリア」に関してはずいぶん勉強したようで、自分のやりたいことが明確で、オーケストラもよく反応していて、今回の白眉であると申し上げられると思います。

 しかし、今回の最大の聴きものは、藤田真央によるシューマンでしょう。藤田は新時代のピアニスト、ということで既にマスコミの露出も多いですが、実演を聴いたのは初めてです。

 端的に素晴らしい演奏だったと思います。タッチが柔らかくて、音の立ち上がりがほんとうに綺麗。フォルテも力強さよりも美しさが先に立つ感じのフォルテでそこも新鮮です。シューマンの内面を感じさせるようなリリシズムを溢れる演奏で素晴らしいと思いました。独特の感性があるのでしょうね。こういうピアノを弾く人ってちょっと思いつきません。もう世界的な売れっ子らしいですけど、さもありなんという感じです。いいものを聴かせてもらいました。

 一つ難を言えば、舞台の出入りやお辞儀の仕方が全然イケてないこと。そういうところが天才の天然ぶりでファンにはたまらないところなのでしょうが、もっと堂々と振舞った方が良いと思いました。

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2020年11月20日 2020年11月演奏会(東京芸術劇場)
指揮:原田 慶太楼

曲目: コリリャーノ 航海
バーバー ヴァイオリン協奏曲 作品14
ヴァイオリン独奏:神尾 真由子
ドヴォルザーク 交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界から」

会場:東京芸術劇場
座席:3階A列47番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠塚、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:福川、トランペット:長谷川、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:14型、協奏曲は12型

感想

 11月のN響、日本人若手指揮者の競演です。先週はまだ28歳の熊倉優。今週はもう少し年齢が上がりましたが、それでも35歳の原田慶太楼。若手の指揮者にとってN響を振るというのは特別のことのようで、熊倉も原田も緊張していた様子ですが、原田の方が経験が豊富で、自分のやりたい音楽をうまくオーケストラに伝えられていたようです。N響も昔はもっと意地悪なオーケストラで、若手の指揮者など鼻にもかけない、みたいなところがあったのですが、そこは大人の集団。若手の指揮者であっても指揮者として尊重して、その音楽観を出すことに協力しているように見えました。

 さて、原田の音楽ですが、その曲の持ち味を悪く言えば誇張して、けれんみたっぷりに聴かせるところに特徴があるように思いました。

 コリリャーノの「航海」は、アカペラ合唱曲用の作品を弦楽合奏用に編曲したものだそうですが、元がアカペラ合唱曲、ということもあってか、和音がとても美しい作品です。寄せては返す凪の海をモチーフにした静かな音楽で、原田はその静謐さを弱音を大切にして表現しました。胎内にいる赤ちゃんのような心地よさを感じさせました。

 バーバーのヴァイオリン協奏曲。神尾真由子の技巧とダイナミックな演奏が光りましたが、そういう演奏に原田もついていくという感じがありました。普通協奏曲は、指揮者とソリストは要所要所で息と合わせながらも、別々に演奏しているような気がします。指揮者はあまりソリストを見ないし、ソリストもあまり指揮者を見ないのでは、という気がします。今回の神尾も基本的にはそのスタイル。原田は神尾のソロのテンポを意識しながら指揮をすることでもよかったと思いますが、彼は、譜面台を斜めにおいて、ソリストの様子を確認しながら指揮をします。こういうスタイルで指揮する人ってあまり見たことがないので、ちょっと驚きました。

 しかし、その効果はあったようで、この作品がひとつの曲としてうまくまとまって聴こえたように思います。素敵でした。

 ソリストアンコールは曲名の掲示はありませんでしたが、シューベルトの「魔王」をヴァイオリン独奏用にアレンジした曲。通常ピアノ伴奏の三連符で演奏される和音に、魔王の声、子どもの声が一本のヴァイオリンで表現されます。超難曲だと思いますが、見事に弾きこなしました。神尾のヴィルトゥオジティにBravaです。

 新世界交響曲はゆっくりしたところはよりゆっくりと、速いところは疾走した演奏でした。極端にリタルダンドを取って、弦楽にねっとりと演奏させるとN響の弦楽陣の美音が響きます。一方で楽章間はアタッカのようにつないで、間の休みをほとんどとりませんでした。第4楽章のアレグロ・コン・フォーコは正にこの表情記号通り、「火のように」演奏されました。若手指揮者のこだわりと美感をたっぷり楽しむことができました。

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2020年11月25日 2020年11月演奏会(サントリーホール)
指揮:原田 慶太楼

曲目: バーンスタイン 「オン・ザ・タウン」〜「3つのダンス・エピソード」
ウォーカー 弦楽のための抒情詩
ピアソラ タンガーソ(ブエノスアイレス変奏曲)
コープランド バレエ組曲「アパラチアの春」
マルケス タンソン第2番

会場:サントリーホール場
座席:2階C列28番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、サックス:客演(フリー奏者の大城正司さん)、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:12型

感想

 先週に引き続き原田慶太楼の登場です。プログラムもオールアメリカン、それも近現代の作品だけを並べて、米国でキャリアを積んできた経験を見せるような挑戦的なプログラムだったと思います。なかなか聴けない作品が多く、私がかつて実演で聴いたことのある作品は一曲もありません。「アパラチアの春」と「オン・ザ・タウン」は録音や放送では聞いたことがありますが、残りの3曲は全くの初聴でした。ちなみにプログラムの構成もかなり考えたもので、最初と最後に激しくかつラテン的なダンス音楽を置き、中間部は落ち着いたタンゴ、ダンス音楽に挟まれるようにひっそりとした曲を並べて見せる。全体として、ひとつの大きな交響世界を作っているようでした。

 原田の指揮具合は先週と同様にその曲の持ち味を悪く言えば誇張して、けれんみたっぷりに聴かせるところに特徴があるように思いました。ただ、先週よりもオーケストラを引っ張っていこうという気持ちが多く含まれたのか、先週よりもオーケストラとのかみ合わせが悪くなって、上滑りしているようなところもあったと思います。 先週よりもオーケストラの乱れが若干多く感じられたのも、おそらく指揮者の若さを露呈したものなのでしょう。

  N響は今回のプログラムで取り上げられた、ジャズやラテンのリズムは伝統的に得意ではありません。おそらく、私が客席でN響を聴き始めた30年前であれば、N響の演奏ももっと崩壊しているか、もっとつまらなかっただろうと思います。しかし、奏者は30年前とはほぼ一新されました。若い奏者も多い。そうなるとやはり「ノリ」も変わってきます。演奏の緻密性という点に関して言えば、いつものN響と比較して少し緩んだのではないか、と思われる部分もありましたが、曲の雰囲気の出し方は、原田の世界観をかなり再現したのではないのかな、と思いました。

 また、N響は機能的なオーケストラですが、こういう曲を演奏しても個々の奏者の技量はさすがです。トローンボーンセクション、トランペットセクション、木管、打楽器と聴かせてくれました。客演で入った大城さんのサックス、梅田さんのピアノも素敵でした。

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2020年12月5日 2020年12月演奏会(NHKホール)
指揮:井上 道義

曲目: ショスタコーヴィチ 交響曲第1番 へ短調 作品10
伊福部 昭 ピアノと管弦楽のための「リトミカ・オスティナータ」
ピアノ独奏:松田 華音
伊福部 昭 日本狂詩曲

会場:NHKホール
座席:3階C1列35番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:川本、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート:甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川、ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:14型

感想

 久しぶりで、NHKホールの舞台がいっぱいになっているな、という印象の演奏会でした。今日の曲は全部三管編成。そして、特筆すべきは打楽器の多さです。最後の「日本狂詩曲」は、洋楽器、和楽器を合わせて10台以上の楽器を9人の奏者が持ち替えて演奏しました。販売した座席は一席おき。物販などもなし、というCOVID-19対応は続けられていましたが、規模の大きなオーケストラを見るのはよいものです。

 さて、今回の演奏会、井上道義のプログラミングの巧さが光った演奏会だったと思います。最初に得意のショスタコーヴィチを持ってきて、次に日本の土俗的管弦楽曲の名曲を二つ並べて見せる。特に「日本狂詩曲」は、日本人の身体に染み付いているリズム感が、全曲に漲っている曲であり、最後の盛り上がりは日本人の血をたぎらせるものがあります。それをラストに持ってくるところ、憎い編成です。

 ショスタコーヴィチは、井上の得意な曲だけあって、余裕のある指揮ぶりです。独特の指揮姿が面白いですが、紡ぎだされてくる音楽はスタイリッシュなものでした。時折井上らしいけれんを見せるのがアクセント、と申し上げたらよいでしょうか。割とおとなしめの演奏だったと思います。後半のために少し抑えていたのかもしれません。

 伊福部昭の二曲はどちらも素晴らしい。最初の「リトミカ・オスティナータ」は「執拗に反復される律動」という意味で、形式的にはピアノ協奏曲ですが、実際はピアノ独奏もオーケストラに内包される管弦楽曲のように聞こえます。ミニマル音楽は1960年代の米国で生まれたとされていますが、1961年に作曲されたこの作品の執拗なオスティナート奏法はミニマル音楽の先駆と言ってもいいもので、聴いているとこの繰り返しが快感になってくる。打楽器とピアノによるアジア的リズムは、どんどん重なって繰り返され、音の大伽藍へと至るわけですが、踊っているように指揮する井上のリズム感覚の良さがこの曲の盛り上がりの助けになっているように思いました。

 「日本狂詩曲」元気を貰えるような演奏でした。何と言っても打楽器が良い。プログラムにかかれた打楽器の楽器編成は、ティンパニ、大太鼓、小太鼓、シンバル、タムタム、カスタネット、タンブリン、ウッドブロックですが、実際は、これ以外に小太鼓(和太鼓)、木の切り株のような打楽器が使われ、ウッドブロックも拍子木を使われていたし、シンバルの代わりの鐘のようなものも用いられていたのではないかと思います。伊福部昭はこの作品の第二楽章を「主役は打楽器だ」と言ったそうですが、その言葉の通り、日本的・土俗的な音響は大変すばらしいものがありました。

 また前半の「夜曲」の部分は、冒頭のヴィオラ・ソロ(川本嘉子)が素晴らしく、その和風の響きが曲全体のイメージを作り上げて言った感もありました。伊福部のこの二曲はどちらも有名な曲ですが、ホールで聴いたのは初めての経験で、そこも嬉しかったです。

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2020年12月11日 2020年12月演奏会(東京芸術劇場)
指揮:秋山 和慶

曲目: ベートーヴェン 「エグモント」序曲
ベートーヴェン(マーラー編曲) 弦楽四重奏曲第11番 へ短調 作品95「セリオーソ」(弦楽合奏版)
ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品61
ヴァイオリン独奏:諏訪内 晶子

会場:東京芸術劇場
座席:3階E列40番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:福川、トランペット:長谷川、ティンパニ:久保、

弦の構成:12型

感想

 秋山和慶はN響の定期公演を21回指揮しているそうですが、私が定期会員になった1988年以降は一度も出演したことがありません。したがって、秋山+N響って初めての経験です。プログラムはオール・ベートーヴェン。2020年はベートーヴェン生誕250年イヤーで、オペラでは「フィデリオ」がありましたが、オーケストラのオール・ベートーヴェン・プログラムは今年初めて。というよりも、オーケストラでベートーヴェンの曲を聴くことそれ自体が今年初めてで、自分自身でもびっくりです。いかにコロナ禍の影響が大きかったのか、ということでしょう。

 さて、演奏ですが、「エグモント」序曲。N響としてはごく普通の演奏。これぐらいは演奏して当然というところ。

 ついで、「セリオーソ」。もちろん弦楽四重奏曲の「セリオーソ」は何度か聴いたことがありますが、弦楽合奏版を聴くのは初めての経験です。弦楽四重奏で聴くのとはやはり味わいが違います。弦楽四重奏ではお互いの楽器乃一本の糸が四つ合わさって撚りあっていく。全く違った音色が四つだけで和音を作り、その骨格の美しさを楽しむわけですが、弦楽合奏になるとトゥッティでも音の色合いが微妙に異なり、それぞれの楽器ごとの太さを感じさせます。重唱と合唱の違いでもあります。結果としてダイナミックになり、華やかな部分もあるのですが、弦楽四重奏特有のお互いの信頼感に基づいた会話のような細かいテンポの動きの変化は感じられず、ちょっと違和感がありました。やはり弦楽四重奏とは違うものです。

 最後の「ヴァイオリン協奏曲」。本日最大の聴きものでした。諏訪内晶子と言えば、近現代の曲をかっちり弾くのが得意というイメージを持っていたのですが、今回のベートーヴェン。非常にロマンチックなたっぷりした演奏で、そこが想定外でした。ものすごい美音という感じではないのですが、受けて立つという大家の演奏。ソロになると若干リタルダンドをかけて、ヴァイオリンをじっくり歌わせます。弾き飛ばすことはほとんどなく、アレグロ部分でもテヌートを効かせてレガートに演奏します。一世代前の大家の演奏にも似て、ゆるぎない。

 秋山和慶/N響は、そのソロヴァイオリンよりも僅かに速い演奏で合わせていく感じです。結果としたソロヴァイオリンのたっぷりとした感じが引き立ちます。また、管楽器とソロヴァイオリンとの掛け合いも立派。特によかったのは、ファゴットとの掛け合い。ヴァイオリンのたっぷり感とファゴットのたっぷり感とがちょうどよく響きあって、見事な音楽世界を作り出していました。

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2020年12月17日 2020年12月演奏会(サントリーホール)
指揮:井上 道義

曲目: プロコフィエフ バレエ音楽「シンデレラ」作品87(抜粋)
チャイコフスキー 交響曲第4番 へ短調 作品36

会場:サントリーホール
座席:2階RA 2列10番

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:佐々木、チェロ:辻本、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:𠮷村、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川、ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:12-10-8-6-6

感想

 プロコフィエフの「シンデレラ」はバレエの演目としては有名なもので、新国立劇場などでも何年かに一度上演されていますが、オーケストラのコンサートで取り上げられるのはなかなか珍しいようです。同じプロコフィエフのバレエ音楽でも「ロメオとジュリエット」とはそこが違います。オペラはかなり見ているどくたーTですが、バレエとはほとんど縁がなく、「シンデレラ」の音楽を聴いたのは多分初めてです。

 それにしても、井上道義は自分もバレエをやっていた人ということもあるのでしょうが、このような曲を演奏すると上手いですね。指揮姿が既にバレエです。舞台の上で爪先立ちになりながら、軽妙に指揮をしていきます。その指揮者のリズム感覚がオーケストラにも伝播した様子で、リズムのメリハリがよく整った演奏になっていたと思います。今回は抜粋ということで、第1幕と第2幕の音楽から合わせて9曲(第1、5、7、29、30、34、36、37、38)が演奏されましたが、プロコフィエフらしいモダニズムとチャイコフスキーばりの美しいワルツがバランスよく配置され、そこもよかったと思います。また、第7曲のバンダ・ヴァイオリンが演奏するデュエットは、第一ヴァイオリン最後列に並んだ、宮川奈々さんと後藤康さんによって演奏されました。

 チャイコフスキーの4番。こちらも非常に切れの良い演奏。井上道義の指揮も切れの良さを強調するようなもので、それがオーケストラにしっかり伝わっている感じが見事でした。この曲のひとつの聴きどころに第三楽章の弦楽器のピチカートがありますが、そういうところはN響の弦楽器はほんとうに上手いと思います。ほんとうに一糸乱れず進みます。あとはオーボエの𠮷村さん。細かいパッセージもゆるがせにせず、しっかりと巧みに弾いていきます。素晴らしいと思いました。

 今回、初めてサントリーホールのRA席で聴きました。サントリーホールはどの席で聴いてもよい音で聴けるというのがウリですが、この席で聴くと、オーケストラの音がひとつに聴こえるのではなくて、それぞれの楽器が分離して聴こえます。後ろの席で聴いていてもわからない、例えばオーボエの下をオクターブでファゴットがユニゾンで下支えしているようなところもはっきり聴こえて、こうやってオーケストラは音の迫力を作っているんだ、というのもよく分かりましたし、ひとつひとつの楽器の迫力も後ろの席で聴いているよりよく分かりました。

 指揮姿もよく見え、井上さんが、どういう表情でオーケストラに向かっているかもはっきり分かり、指揮者の意図とオーケストラの表現の関係が何となく見えたのもよかったところです。今年最後のN響ですが、いいものを聴かせてもらいました。 

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