NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2018年(前半)

目次

2018年01月12日 第1876回定期演奏会 広上 淳一指揮
2018年01月27日 第1878回定期演奏会 ピーター・ウンジャン指揮
2018年02月10日 第1879回定期演奏会 パーヴォ・ヤルヴィ指揮
2018年02月16日 第1880回定期演奏会 パーヴォ・ヤルヴィ指揮
2018年04月15日 第1882回定期演奏会 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮
2018年05月13日 第1885回定期演奏会 パーヴォ・ヤルヴィ指揮
2018年05月18日 第1886回定期演奏会 パーヴォ・ヤルヴィ指揮
2018年06月09日 第1888回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮
2018年06月16日 第1889回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮

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2018年01月12日 第1876回定期演奏会
指揮:広上 淳一

曲目: バーンスタイン スラヴァ!(政治的序曲)
  バーンスタイン セレナード(プラトンの「饗宴」による)
      ヴァイオリン独奏:五島 龍
  ショスタコーヴィチ 交響曲第5番 ニ短調 作品47

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:客演(都響の双紙正哉さん)、ヴィオラ:川本、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:福川、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、チューバ:客演(東京フィルの荻野晋さん)、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ピアノ/チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)、サクソフォーン:客演(
フリー奏者の杉原幸正さん)、エレキギター(フリー奏者の佐藤紀雄さん)

弦の構成:セレナード:10-10-8-6-5、その他:16型

感想

 2018年は、バーンスタインの生誕100年のメモリアル・イヤーです。バーンスタインは申し上げるまでもなく20世紀を代表する作曲家であり、指揮者でもありました。広上淳一は年頭のN響定期演奏会でこのバーンスタインゆかりの三曲を取り上げました。前半は彼の作品。後半は指揮者としてのバーンスタインが最も得意としていた一曲であるショスタコーヴィチの五番です。

 今回の前半に演奏された二曲は、バーンスタインの主要作品の一つという位置づけのようですが、わたしは初めて聴きました。

 「スラヴァ」はロストロポーヴィチがワシントン・ナショナル交響楽団の音楽監督に就任したことを祝って作曲され、ロストロポーヴィチの指揮によって初演されています。録音テープやオーケストラ団員のシャウトも入るクラシック音楽らしからぬ一曲ですが、お祝いのために作曲された作品らしく明るい華やかな曲です。録音テープを使う部分は、オリジナルを借用してきたようで、昔のラジオを聞いているような感じで、時代を感じました。演奏は面白かったです。広上淳一の歌謡性がこの曲にマッチしているのだろうと思いました。

 「セレナード」はバーンスタインの作品の中では比較的有名なものらしいですが、わたしは初聴です。「セレナード」と書いてありますが、正式名称は、『ヴァイオリン独奏、弦楽、ハープと打楽器のためのセレナード(プラトンの『饗宴』による)』(Serenade for Solo Violin, Strings, Harp and Percussion (after Plato's "Symposium") )というそうです。ソリストは五島龍。姉の五島みどりも得意としている一曲ですが、今回は弟がソロ。作品としてはバルトークの「弦楽器・打楽器とチェレスタのための音楽」を彷彿させるところもありますが、バーンスタインらしくジャジーな部分もあり、楽しく聴けました。なお、かなり小編成のオーケストラで伴奏を着け、セレナード的にピアノ基調に演奏されましたが、楽想的にはもっとダイナミズムを明確にして、大きな音で演奏したほうが曲の良さがより伝わるのではないかと思いました。

 最後は、ショスタコーヴィッチの5番。素晴らしい演奏でした。オーケストラが整然と音楽をドライブし、その中に指揮者の求める歌謡性がしっかり出ていました。また楽章ごとの対比も明確でしたし、楽章内でのショスタコーヴィッチの遊びもしっかり見えて、楽しめました。N響の実力と指揮者の実力とがうまく噛みあった演奏と申し上げます。年頭から素敵な演奏を聴かせていただきました。満足です。

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2018年01月27日 第1878回定期演奏会
指揮:ピーター・ウンジャン

曲目: ベートーヴェン 「エグモント」序曲
  ジョン・アダムス アブソリュート・ジェスト(2011)【日本初演】
      弦楽四重奏:セント・ローレンス弦楽四重奏団
  ホルスト 組曲「惑星」作品32
      女声合唱:新国立劇場合唱団

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:桑田、ベース:市川、フルート:神田、オーボエ:客演(東京交響楽団の荒木奏美さん)、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、ホルン:福川、トランペット:長谷川、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:客演(片岡詩乃、鈴木明子両氏)、ピアノ/チェレスタ(惑星):客演(フリー奏者の梅田朋子さん)、チェレスタ(アブソリュート・ジェスト):客演(フリー奏者の楠本由紀さん)、
オルガン:東京芸術劇場の小林英之さん

弦の構成:惑星:16-14-11-10-8、その他:14-12-9-8-6

感想

 インフルエンザ、だいぶ流行っているようです。そのためかどうかは分かりませんが、ヴィオラがひとりかけての演奏。またオーボエの1番は首席奏者の青山さんの順番ですが、青山さんは体調不良のようで、昨年後半から青山さんの回は毎回客演奏者です。今回は東京交響楽団首席の荒木泰美さんでした。

 さてピーター・ウンジャン2013年に一度客演されて、その時、ヴィクトリア・ムローヴァと一緒に演奏したショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲がものすごくよかったのでよく覚えています。その時の印象は、元々ヴァイオリニストだけあって、弦楽器の動かし方が上手だな、という印象でした。今回二度目の客演ですが、前回と印象がずいぶん変わりました。

 一言でいえば、良いアシュケナージです。私は指揮者・アシュケナージの演奏に関しては厳しい評価をすることが多いのですが、ウンジャンの演奏スタイルはアシュケナージの延長線上にあるけれども、仕上がりはアシュケナージよりも納得できる、ということでしょうか。今回管楽器を思いっきり鳴らさせていましたが、それでも安定感があるのは、弦楽器のコントロールが巧いということが関係しているに違いありません。出身がピアノの方とヴァイオリンの方の差が影響しているのでしょう。

 「エグモント」序曲。颯爽とした演奏。スピード感のある軽快な演奏でした。大物感は全くありませんが、重厚さのないこういう演奏の方が、この曲に合っているような気がします。

 「アブソリュート・ジェット」。元東京四重奏団第一ヴァイオリン奏者らしい選曲だと思います。曲は現代音楽らしいトーン・クラスターなどもあるのですが、ベースにあるのはベートーヴェンの交響曲や弦楽四重奏曲です。その断片をいろいろと変形し発展させるのですが、面白いかと言われると「ウーン」という感じです。現代音楽と中世の音楽とがせめぎあっている感じで居心地があまりよくない。特に聴き進んでいるうちにそれが蓄積していく感じで、もっと短くした方が、作品としてのまとまりがよくなるような気がしました。

 「惑星」。指揮者の特性がよく出た演奏でした。基本的に前のめりの演奏で、所々オーケストラのバランスがこれでいいのかな、と思う処もあるのですが、スピード感があるので、振り落とされなければそれでいいかな、という感じでした。聴いていて気持ちの良い演奏でした。管楽器陣がよく頑張っていて、ホルンがよかったと思います。また終曲の女声合唱。繊細な消え方がとても素敵でよかったです。

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2018年02月10日 第1879回定期演奏会
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

曲目: マーラー 交響曲第7番ホ短調「夜の歌」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:白井、ヴィオラ:佐々木、チェロ:客演(日本フィルハーモニー交響楽団の辻本玲さん)、ベース:西山、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ユーフォニウム:客演(東京音楽大学准教授の外囿祥一郎さん)、マンドリン:客演(フリー奏者の濱野高行さん)、ギター:客演(フリー奏者の黄敬さん)

弦の構成:16型

感想

 7番の交響曲は、マーラーの交響曲の中で一番演奏回数の少ない作品のようです。人気作曲家マーラーの作品ですから、時々演奏されますし、私自身も初めて実演で接したわけではありませんが、ずいぶん久しぶりに聴いたな、という印象です。私自身はマーラーの声楽の含まれない交響曲は割と好きなのですが、7番は「変な曲」という印象を子供の時から持っていて、なかなか自分から聴こうとは思いませんでした。変な曲と思っているのは別に私だけではなくて、昔の名曲解説等を紐解くと、「構成的に難がある」「分裂症的」などと書かれていますから、みんな変な曲だと思っていたのでしょう。

 それで久しぶりに聴いて思ったのは、「それほど悪い曲じゃないよ」ということです。そう思えたのは、多分パーヴォ・ヤルヴィの力量なのでしょう。パーヴォは曲の色合いを示すのに長けた指揮者ですが、この曲でのその特徴がいかんなく発揮されていたと思います。また、そういう特徴は、古典的な楽曲では鼻につくこともままあるのですが、こういう調性も構成もあいまいな曲では、パーヴォの明確な表現が、曲をくっきりと浮かび上がらせ、流れを見せるのに効果的であるように思いました。

 楽器的には、第一楽章でテノール・ホルンを、第四楽章「夜の歌」でマンドリンとギターが使われているのが変わっていますが、今回はテノールホルンの代わりにユーフォニウムが使用されました。演奏したのは元航空自衛官で日本のユーフォニウム奏者の第一人者ともいわれる外囿祥一郎さん。序奏部のユーフォニウムの響きが何とも言えない味のあるもので、ここが良好。演奏への興味をそそりました。

 この曲は真ん中のスケルツォを二つの「夜の歌」楽章が挟むシンメトリックな構成をしていますが、全体の流れとしては暗から明へという伝統的な交響曲の流れを持っています。第四楽章の「夜の歌」はセレナードで甘い、幻想的な楽章ですが、パーヴォはここをあまり甘くは演奏しませんでした。そのためか、第五楽章の明るく明晰な楽章との流れが納得できるもので、全体として見事なフィナーレに持ち込めたのではないかという気がします。

 ホルンが若干こけたようですが、N響管楽器陣のくっきりした音が見事でした。曲の構成の難しさをパーヴォの解釈とN響のヴィルトゥオジティが上手に調理した聴きごたえのある演奏でした。

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2018年02月16日 第1880回定期演奏会
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

曲目: デュルフレ 3つの舞曲 作品6
  サン・サーンス ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 作品61
      ヴァイオリン独奏:樫本 大進
  フォーレ レクイエム 作品48
      オルガン:小林 英之
      ソプラノ独唱:市原 愛
      バリトン独唱:甲斐 栄次郎
      合唱:東京混声合唱団

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:川本、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:客演(マーラー・チャンバー・オーケストラの吉井瑞穂さん)、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:福川、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田」、チューバ:客演(フリー奏者の岩井英二さん)、ティンパニ:久保、ハープ:客演(フリー奏者の片岡詩乃さん)、チェレスタ:客演(フリー奏者の
梅田朋子さん

弦の構成:デュルフレ:15-14-12-10-8、サン・サーンス:14型、フォーレ:12-8-12-8-8(ヴィオラとチェロは2パートに分かれ、それぞれ、6本、4本)

感想

 フランス近現代の作品だけを集めた演奏会。

 サン・サーンスはフォーレの作曲の師であり、デュルフレはフォーレの影響を強く受けています。そういう関連性のあるプログラムで、ある意味玄人受けするプログラムと申し上げてよいでしょう。しかしながらそういうプログラムであったにもかかわらずチケットは完売。3000席のNHKホールはほぼ満員のお客様で埋まりました。大変うれしいことだと思います。

 演奏ですが、全体的にはかなり「かっちりした」演奏だったなという印象です。

 「3つの舞曲」は初めて聴きました。この作品、舞曲ですから自由度がある程度はあると思いますが、きっちりとしたリズムに乗せて演奏されました。これは多分打楽器奏者のリズムの作り方がよかったのでしょう。3曲目の「タンブーラン」はその名の通り、タンブーランが全体のリズムを決めますが、竹島さんがその任をしっかり果たし、そこから導かれるちょっと愉悦感のある音楽が素敵でした。第2曲目の「ゆったりとした踊り」はオーボエの深みのある主旋律が素敵で、そこから木管各部に受け渡されながら進む様子がよかったです。吉井瑞穂さんのオーボエ、素敵でした。デュルフレは宗教曲のイメージが強いのですが、ラヴェルを彷彿とさせるこんな作品もあるんだなあ、と思ったところです。

 サン・サーンスのヴァイオリン協奏曲。こちらも素敵な演奏。樫本大進はベルリンフィルのコンサートマスターだけあって、オーケストラとの息の合わせ方が上手です。音色的にはしっとりとした艶のある音で、軽くもなければ重くもない、まさに中庸を行く感じでした。旋律は華麗な曲ですし、必要なところはもちろん技巧的に演奏しているのですが、全体的には落ち着いている演奏で、ヴィルトゥオジティを前面に出すよりもこんなバランスの方がすっきり入ってくる感じで好ましく思いました。オーケストラも中庸な雰囲気で、そこもよいと思いました。

 フォーレのレクイエム。この曲がオーケストラ伴奏つきの合唱曲であることをしっかり示した演奏でした。東京混声合唱団が抜群にうまいです。フォーレのレクイエムは三大レクイエムの一角を占め、録音も数多いですが、ここまで精妙な合唱を聴かせた例はあるのかな、というほど上手いです。男声38人、女声42人のNHKホールの空間からすれば小ぶりの合唱団でしたが、個々人の力量がかなり高い。ピアノで歌っていても倍音がしっかり響いて、あの響かないNHKホールを教会と思わせるほどでした。合唱と客席の距離がもっと近いと更によかったと思います。合唱は本当に素晴らしかったです。

 バリトン・ソロはアンドレ・シュエンがコールされていたのですが、突然の体調不良で降板、急遽甲斐栄次郎が舞台に乗りました。そんなわけで、声楽陣は全員暗譜だったのですが、彼のみ譜持ち、しかしながら、ピンチヒッターとは思えないような立派な歌唱で曲を支えました。Bravoです。一方ミソを着けたのは市原愛の「ピエ・イエズ」。声が安定していなくてビブラートが目立ちすぎです。更にこの曲は高音がピンと伸びて広がっていく感じが大事ですが、声がやや籠り気味で、高音の愉悦が足りません。もう一つ申し上げるなら、最後はフェルマータでオーケストラがなくなるまで細く引っ張ってほしいところですが、フェルマータなしで切れてしまいました。

 ヤルヴィの指揮も非常に緊張したもので、まったく煽らない。丁寧に丁寧に運んでいく感じがいつものヤルヴィらしくないな、と思うほどでした。もちろん曲には今回の行き方が合っています。ヴィオラ、チェロ、コントラバスの低音弦楽器が充実していて見事でした。なお、楽譜は、アメルの旧版を使用していたようです。批判校訂版であるアメルの新版で演奏されることを期待していたのですが、そこは一つ残念なところです。

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2018年04月15日 第1882回定期演奏会
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

曲目: ベルワルド 交響曲第3番ハ長調「風変わりな交響曲」(ブロムシュテット校訂版)
  ベルリオーズ 幻想交響曲作品14

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:キュッヒル、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:川本、チェロ:桑田、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット(ベルワルド)/コルネット:長谷川、トランペット(幻想):井川、トロンボーン:古賀、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:16-16-12-10-8

感想

 端的に申し上げれば、心が揺さぶられる演奏会でした。特に「幻想」。これはちょっと聴いたことのない幻想でした。

 ベルワルドは1991年3月の1136回定期演奏会で、ブロムシュテットが変ホ長調の交響曲、すなわち交響曲第4番「素朴な交響曲」を取り上げていますが、N響で取り上げられるのはそれ以来のことです。1136回定期演奏会は私も聴いているのですが、どんな曲だったかは全く覚えていません。それから27経って、今回は3番の交響曲が取り上げられました。私は初めて聴きました。

 タイトルは「風変わりな交響曲」ですが、21世紀から見れば、典型的な前期ロマン派の交響曲だな、という印象です。第一楽章は典型的なソナタ形式で、単純な基本モチーフをしっかり展開していくのはまさに古典派的です。第二楽章は緩徐楽章とスケルツォが一体化した楽章で、当時は新しかったのかもしれませんが、今から見れば特別な印象はありません。第三楽章はシンコペーションと転調が印象的な速い楽章で、全体で見れば速ー緩ー速のまさに古典的な配置でした。序奏を聴いてぱっと思ったのはクーラウと似ているな、です。クーラウはご存知の通りソナチネアルバムの最初を飾るドイツ-デンマークの作曲家ですが、類似の素朴さがこの作品にもありました。

 演奏の良し悪しは初聴なのでよく分かりません。しかし、その曲の素朴な味わいを保持させながら高揚させていく指揮はさすがにこの曲を校訂したブロムシュテットならではだと思いました。

 幻想交響曲、感動しました。幻想交響曲はオーケストラの定番曲の一つで私も何度も名演を聴いています。N響では、古くはフルネやデュトワ、最近ならチョン・ミョンフンが素晴らしい演奏をしています。今回のブロムシュテットの行き方、かつての名演の洒脱さと比較すると極めて武骨な演奏でした。オーケストラの揃い方も今一つです。第一楽章を聴いてまず思ったのは「田舎臭い演奏だな」です。N響の実力からすればもっと精妙な演奏ができるのに、敢えてそうさせなかった感じがします。全体的にアクセントを強調して武骨にし、後半は、フォルテをあえてフォルテッシモでNHKホールを響かせました。幻想交響曲はもともと管楽器が立った曲ですが、管楽器が本気でフォルテッシモで鳴らすと16型の弦楽が押されている印象になります。ブロムシュテットはこういう音のバランスこそ、ベルリオーズが目指した音であるとの確信があったのではないかと思いました。

 正直申し上げて、私は「幻想交響曲」があまり好きではありません。だから最初武骨な音が鳴った時、かつてのデュトワやフルネの名演には敵わないな、50分退屈しそうだと思いました。しかし、聴き進めていくうちに心が動かされました。御年90歳の現役最長老指揮者であるブロムシュテットの音楽にかける、あるいはこの幻想交響曲にかける思いが私の心を動かしたのだろうと思います。正直申し上げて「幻想」でここまで感動するとは思いませんでした。文句なしの名演でした。

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2018年05月13日 第1885回定期演奏会
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

曲目: ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
      ヴァイオリン独奏:クリスティアン・テツラフ
  シベリウス 交響詩「4つの伝説」作品22

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大宮、ヴィオラ:川本、チェロ:桑田、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:ベートーヴェン:12-10-8-6-4、シベリウス:16型

感想

 パーヴォ・ヤルヴィが常任指揮者のこだわりを見せたプログラムと申し上げてよいでしょう。シベリウスはパーヴォにとって重要な作曲家の一人のようで、これまでもヴァイオリン協奏曲や交響曲の2番、5番と言った有名どころはすでに取り上げています。その次の段階ということで、ちょっとマイナーなへ広げる段階に入ったのかな、という印象です。

 さて、最初のベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲はテツラフらしい知的なアプローチでした。テツラフはベートーヴェンを雄大に演奏しない。男性的とか骨太という形容詞は似合いません。彼はフォルテよりもピアノが美しいヴァイオリニストで、ベートーヴェンを基本伸びやかにレガートを大事にして演奏しました。雄大な演奏ではありませんでしたが、技術的には高度ですし、流麗で美しさが先に出る演奏と申し上げてもよいかもしれません。私自身は力強さを前面に出すよりも、このような古典的スタイルを守っていく演奏の方が好ましいと思います。パーヴォも弦楽器を12型と小さくして、コンパクトなベートーヴェンにまとめ、すっきりと仕上がっていました。素敵な演奏だったと思います。

 「4つの伝説」はシベリウスの代表作の一つですが、現実には全曲演奏する機会はあまりないような気がします。N響では、2014年尾高忠明の指揮で取り上げていますが、ここ30年ではそれが唯一の記録です。ちなみに2014年の尾高の演奏ですが、切符は入手してあったのですが、東京は大雪で聴きに行くことができず、私は今回が初めて聴くことになります。

 大太鼓の連打の中で動くこの曲は、交響詩の名の通り、ストーリーを類推できるものです。N響の演奏は、ベートーヴェンとはうって変わって力強さが前面に出たものでした。北欧神話は巨人が出てきたり、といった、マッチョ系のものが多いという印象があるのですが、そんな雰囲気の良く示された演奏です。第二曲の「トゥオネラの白鳥」は単独で演奏されることが多く、私もこの曲だけは知っていますが、和久井さんによって演奏されたイングリッシュホルンは大変素敵でした。そのほか、桑田さんのチェロソロ、竹島さんのドラムロールなど聴きどころはたくさんありました。

 さて、今回、第二ヴァイオリンのトップは第一ヴァイオリンの次席奏者であるである大宮臨太郎さんが務めました。今後異動があるのかもしれません。

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2018年05月18日 第1886回定期演奏会
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

曲目: トルミス 序曲「第2番」(1959)
  ショスタコーヴィチ ピアノ協奏曲 第2番 ヘ長調 作品102
      ピアノ独奏:アレクサンドル・トラーゼ
  ブルックナー 交響曲 第1番 ハ短調(1866年リンツ稿/ノヴァーク版)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:古賀、チューバ:客演(フリー奏者の宮西純さん)、ティンパニ:植松

弦の構成:協奏曲14型、その他16型

感想

 お客さんを呼びにくい渋いプログラムです。この3曲とも知っていたお客さんはいなかったのではないかと思います。かくいう私も、トルミスの「序曲」は完全に初めて聴く曲だと思います。おかげさまで「フライング・ブラボー」をいうお客さんはいませんでしたし、それより誰かが拍手の口火を切るのをお互い待っている感じが面白かったです。

 トルミスの「序曲」。急-緩-急の三部形式の曲で、雰囲気としてはショスタコーヴィチの曲を彷彿とさせるところがあります(それを意識して、ショスタコのピアノ協奏曲の前に持ってきたのかもしれません)リズムはエストニアの民謡的で、小太鼓が活躍するのが特徴です。フィナーレはかなり盛り上げて終わる。最後の「ジャン、ジャン、ジャン」とやって大休止後「ジャン」とやるのは、フライングの拍手が来るのを狙ってそのように書いたのかもしれません。

 ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲、見事な演奏でした。この曲は2009年の12月定期、キリル・ゲルシュタインのピアノ、デュトワの指揮で取り上げられています。その時も大変すばらしい演奏だったのですが、今回はそれに輪をかけたのではないでしょうか。トラーゼ、力量半端ではありません。私はトラーゼはN響で聴いて大好きになったピアニストですけど、その理由はロシア的響きとテクニックが高いところで調和しているところが挙げられると思います。特に第二楽章から第三楽章。第二楽章はアンダンテで、基本弱音で進行していきます。その弱音が非常に美しいもので、その柔らかな響きは弱音を聴く醍醐味にあふれているわけですが、それは第三楽章にアタッカで繋がります。第三楽章はアレグロでフォルテを中心とした音に変わります。

 トラーゼは第三楽章に入るとだんだんクレシェンドしながらアッチェラランドを掛け、トップスピードに持っていく。楽譜にそのように書いてあるのだろうとは思いますが、それを完璧にやり遂げるところがトラーゼの真骨頂のように思います。N響のサポートももちろん立派。本日の白眉となりました。

 なおトラーゼはソリスト・アンコールとしてD.スカルラッティのソナタニ短調K.32を演奏しました。この曲は「アリア」と書かれている小品で全部で24小節しかない作品。通常は1分30秒ぐらいで演奏されます。その曲をトラーゼは2分45秒で演奏すると宣言し、弱音でものすごくゆっくり演奏しました。普通こういう演奏をすると音楽が壊れてしまうのですが、トラーゼの力なのでしょう。涙が出るほど美しい。素晴らしい演奏でした。

 ブルックナーの一番。ブルックナーのチクルスでもない限り、滅多に演奏されない曲です。私はCDでは聴いたことがありますが、実演では初めての経験です。曲自身はロマン派の交響曲の一類型であり、ブルックナーらしさはまだ片鱗しか見えない曲ではありますが、面白く聴けました。パーヴォ自身はこの曲を得意にしているようで、最近この曲のCDをリリースしたばかりです(それがあって、セールスも目的にプログラムに選んだのかもしれません)。N響はこの曲を荒々しい雰囲気で演奏しました。もっとエレガントなアプローチもあるかと思いますが、こういう渋いアプローチの方が、典型的なブルックナーの交響曲との関係が見えるとパーヴォは考えているのかもしれません。スケルツォ楽章でのヴィオラやホルンが印象的でした。

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2018年06月09日 第1888回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・アシュケナージ

曲目: イベール 祝典序曲
  ドビュッシー ピアノと管弦楽のための幻想曲
      ピアノ独奏:ジャン・エフラム・バウゼ
  ドビュッシー 牧人の午後への前奏曲
  ドビュッシー 交響詩「海」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:田中、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:客演(名古屋フィルの窪田健志さん)

弦の構成:イベール;16型、協奏曲、牧人;12型、海;16-14-12-12-8

感想

 アシュケナージの音楽の感性はどうも私の音楽の感性とは違うようです。それは彼が指揮するオーケストラ作品を聴くとき、いつも感じていたことではありますが、久しぶりに彼の指揮するN響を聴いてその感を深くしました。もちろん彼のアプローチが気に入っている方もいらっしゃるわけで、私の隣席に座っていた方など本当に手が折れんばかりに拍手されていましたが、私はその人の様子を結構白けて眺めておりました。

 とはいっても、イベールの「祝典序曲」、良かったです。何を言っても題名のように「祝典」を始める前のファンファーレですからね。指揮者の解釈が入り込む余地がないのでしょう。N響管楽陣、打楽器陣の技量を楽しむことができました。

 それに対してドビュッシーの三曲。どれも気に入りません。ドビュッシーの音楽特有の淡い空気感の変化が感じ取れないのです。光も影もあるのですが、何層ものプリズムを通した光ではなく、素通しのガラスをそのまま通した光と申し上げたらよいのでしょうか。反射した光ではないように思うのです。

 ピアノの管弦楽のための幻想曲。パウゼ、力のあるピアニストです。指もよく回ると響きも悪くない。ただ何でピアノが「ヤマハ」なんでしょう。別にヤマハに恨みはありませんが、聴いているとどこか響きが野暮ったいのです。ドイツロマン派の音楽であればこのピアノでもいいと思いますが、ドビュッシーの繊細さを表現しようと思ったら、スタインウェイの方が楽に表現できるのではないか、という気がしました。とは言うものの、ソリスト・アンコールで演奏された「花火」(ドビュッシー、前奏曲集第二巻)は、ヤマハの乾いた音が音楽によく合っていたので、ソリストはもっと違った響きを予想してヤマハを選んだのかもしれません。なお、作品は非常に転調の多い、色彩感あふれる作品だということですが、ピアノとオーケストラが相乗作用で更に色彩感を強めるという感じにはなっていなくて、ピアノとオーケストラとが別々に演奏しているような感じになっていました。

 「牧人」名曲中の名曲です。大好きです。でも演奏は不満です。最初のフルートソロ。甲斐さんのフルートもちろんミスがあったわけではないのですが、自由さというか伸びやかさが足りない感じがします。凄く神経質に吹いている印象。それを受ける青山さんのオーボエも今一つ。その後の全体を見てもこの曲の持つ大きなうねりのようなものを感じることができなくて満足できませんでした。アシュケナージはもちろん一所懸命振っているんですけど、彼の身体に現れるリズム感覚が独特すぎて、オーケストラの流れに掉さしているにではないかという感じがしました。

 「海」これもいただけません。しかし、アシュケナージは大満足だった様子で、カーテンコールではものすごくはしゃいでいました。即ちN響はアシュケナージの音楽を正しく伝えることに成功したわけで、それを聴き手が買うかどうかの問題です。私は買いません。全体的に音楽が平板で色彩感に足りない。N響では「海」の名演を何度も聴いていて、古くはフルネ、プラッソン、ファービオ・ルイージ、それにデュトワが印象深いです。それらと比較すると、アシュケナージの個性が前面に出すぎた「海」になっていてドビュッシーの音楽と相いれなかった、と申し上げましょう。

 あと追記ですが、今回の演奏会、第一ヴァイオリンのトップサイドにソリストとして活躍されている青木尚佳さんが入っていました。

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2018年06月16日 第18898回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・アシュケナージ

曲目: メンデルスゾーン ヴァイオリンとピアノのための協奏曲 ニ短調
      ヴァイオリン独奏:庄司 紗矢香/ピアノ独奏:ヴィキンガー・オラフソン
  ヤナーチェク タラス・ブーリバ
  コダーイ 組曲「ハーリ・ヤーノシュ」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:桑田、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、アルト・サックス:客演(フリー奏者の大城正司さん)、ホルン:福川、トランペット:長谷川、トロンボーン:古賀、チューバ:
客演(フリー奏者の田村優弥さん)、ティンパニ:久保、ハープ:早川、オルガン:客演(東京芸術劇場オルガン奏者の小林英之さん)、ツィンバロン:客演(フリー奏者の生瀬まゆみさん)、ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)、チェレスタ:客演(フリー奏者の矢田信子さん)

弦の構成:協奏曲;12型、その他;16型

感想

 プログラムがまさにアシュケナージの一番得意なところで、それだけに聴きごたえもありましたし、楽しむこともできました。

 最初のメンデルスゾーンの「ヴァイオリンとピアノのための協奏曲」は、14歳のメンデルスゾーンによって書かれた作品で、オーケストラの総譜が出版されたのが1999年だそうです。私はこんな作品があるのを今回初めて知りましたし、もちろん初聴です。作品はいかにもメンデルスゾーンと言うべき快活な曲で聴いていて楽しくなりました。ソリストとオーケストラの絡ませ方などは後年の熟練とは程遠く、なるほど、子供の作品だな、と思いましたが、そのメロディーや巧みな転調は後年のメンデルスゾーンを彷彿させるものがあり、若い才能の魅力を感じることができるものでした。

 ソリストの庄司紗矢香ととヴィキンガー・オラフソン。掛け合いの部分やメロディーの送り渡しは息がよく合って立派だと思いましたが、一緒に演奏する部分ではピアノが強すぎてヴァイオリンの音がはっきりしない部分があり、このバランスでいいのかな、と思うときがありました。N響の演奏するオーケストラ部分ですが、そもそもそんなに難しいものではないようで、N響の技量からすれば当然と申し上げてよいと思います。

 後半は東欧の物語を主題にした二つの管弦楽曲。アシュケナージ葉レパートリーの広い指揮者ですが、結局のところ、私が一番満足できるのは19世紀末から20世紀前半にかけての旧来型(即ち、20世紀音楽ではない)管弦楽曲だろうと思っています。まさに「タラス・ブーリバ」も「ハーリ・ヤーノシュ」もまさにその時期の作品であり、先週のドビュッシーと比較するとずっとよいものに仕上がっていたと思います。

 「タラス・ブーリバ」は戦いの音楽ですから、基本的に管打楽器が活躍する部分が華やかの方が聴きごたえがある。その意味で、N響の金管楽器がビシッと決めてくれており、整然としたかっこよさがあったと思います。アシュケナージのもっていき方ももう少し微妙に速くてもよいのかな、とも思いましたが、全然悪いものではなかったように思います。

 「ハーリ・ヤーノシュ」。ソリストたちの見事なソロが光りました。生瀬まゆみは日本で唯一といってもよいツィンバロン奏者ですが、それだけのことはあって、音の大きな楽器ではないツィンバロンをしっかり鳴らせて、存在感を示していました。その他のソリストも皆さん見事だと思います。この曲の演奏でも感じるのは整然とした美しさだと思います。アシュケナージの指揮にきっちり合わせて作品を作っている様子がよく分かりました。当然のことながら、N響の実力者軍団ぶりがしっかり示せていたのではないかと思いました。

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