NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2016年(前半)

目次

2016年01月09日 第1826回定期演奏会 山田 和樹指揮
2016年01月15日 第1827回定期演奏会 トゥガン・ソヒエフ指揮
2016年02月07日 第1829回定期演奏会 パーヴォ・ヤルヴィ指揮
2016年02月12日 第1830回定期演奏会 パーヴォ・ヤルヴィ指揮
2016年04月16日 第1832回定期演奏会 レナード・スラットキン指揮
2016年04月22日 第1833回定期演奏会 レナード・スラットキン指揮
2016年05月14日 第1835回定期演奏会 尾高 忠明指揮
2016年05月20日 第1836回定期演奏会 ネーメ・ヤルヴィ指揮
2016年06月11日 第1838回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮
2016年06月18日 第1839回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮

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2016年1月9日 第1826回定期演奏会
指揮:山田 和樹

曲目: ビゼー 小組曲「こどもの遊び」作品22
       
ドビュッシー(カプレ編曲) バレエ音楽「おもちゃ箱」 作品88
      台本:アンドレ・エレ
      翻訳:青蛯「づみこ
      語り:松嶋菜々子(女優)
       
ストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年版)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:向山、ベース:市川、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:福川、トランペット:菊本(「ペトルーシュカ」のみ東京フィルの長谷川智之さん)、コルネット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川、ピアノ:客演(フリー奏者の長尾洋史さん)、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:ビゼー:14型、ドビュッシー:12型、ストラヴィンスキー:16型

感想

 今年最初の演奏会はN響定期でした。指揮者は、山田和樹。日本の若手指揮者随一の実力者で、今回がN響定期デビューとなります。

 私が山田の実演を聴くのは実は今回初めてです。テレビでは比較的おなじみの指揮者で彼に対する印象は持っていたわけですが、今回N響を振るのを聴いて、センスの良い指揮者だな、と強く感じました。

 まずプログラムが渋い。フランス系の作品を三つ集め、それが皆人形で繋がっています。それで、ビゼーがロマン派的音楽で、ドビュッシーは印象派音楽で、ストラヴィンスキーは典型的20世紀音楽と、その時代的、あるいは作曲家の味わいの違いを示せるようになっている。音楽の規模も中編成、小編成、大編成であり、芯の通し方とばらけさせ方が上手だと思います。こういうプログラムでNHK交響楽団定期デビューするところが若手指揮者の拘りなのでしょう。 

 最初のビゼー。滅多に取り上げられない曲で、実演を聴くのは初めての経験です。「カルメン」で知られる作曲家の優美な小品で、スペインの激しさを感じさせる代表作とは違って、フランス的エスプリを感じさせられる作品です。これを山田は、丁寧だけど素直に、余りケレンを見せずに料理します。オーケストラの実力がストレートに示され、すっきりした仕上がりになっていたと思います。

 二曲目はドビュッシーの「おもちゃ箱」。こちらは恥ずかしながら、私にとって録音・実演通して多分初めての鑑賞。語り付きのクラシック音楽作品は幾つか聴いたことがありますが、ドビュッシーもそんな曲を書いているなんて知りませんでした。語りは松嶋菜々子。長身の美人女優さんで雰囲気が良いです。声が女っぽいというよりは比較的子供っぽい感じで、この曲にあっていると思いました。青蛯「づみこの分かりやすい台本を、内容に合わせて抑揚をつけて読み、流石女優さんだと感心いたしました。

 オーケストラの音楽は、語りの間に細切れに挿入される印象で(実際は、音楽の区切りに語りが挿入されているのですが)、それぞれの音楽は過去の(ドビュッシー自身もその他の作曲家もある)作品の断片を組み合わせながらドビュッシー独特の印象的な管弦楽世界を作っていくもので、こちらも山田の個性やケレンを表に出すことはなく、比較的ソフトに淡々と振っていた印象です。結果としてN響メンバーのヴィルトゥオジティが前面に出て、チャーミングな演奏に仕上がっていました。

 「ペトルーシュカ」は、一転して若手指揮者の気負いを感じさせられる音楽作り。山田の凄いところは、この気負いが全然空回りしないところです。彼のやりたいことが、おそらくオーケストラメンバーにとっても納得いく範囲のことなのでしょう。更に言えば、引くことも知っている印象です。必要に応じてオーケストラに発破をかけながら、一方で、納めるところは納める感じ。冷静な計算が見えて、そこも感心するところです。

 若手指揮者のケレンがオーケストラメンバーの実力をストレートに発揮させた感じで、菊本さんをはじめとするコルネット、トランペット陣、ホルン、クラリネット、フルートなどが本当に上手だな、と思わせる演奏。「今年は春から縁起がいいな」、と思わせてくれるような演奏会でした。 

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2016年1月15日 第1827回定期演奏会
指揮:トゥガン・ソヒエフ

曲目: ブラームス ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 作品102
      ヴァイオリン独奏:フォルクハルト・シュトイデ 
      チェロ独奏:ペーテル・ソモダリ
       
ベルリオーズ 幻想交響曲 作品14

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:白井、ヴィオラ:客演(新日本フィルの篠崎友美さん)、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:福川、トランペット:菊本(「幻想」は井川)、コルネット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:協奏曲:14型、交響曲:16型

感想

 先週の山田と並んで、ソヒエフも最近世界的に有名になっている若手指揮者の一人です。2013年11月のC定期ではプロコフィエフを振って、なかなかの演奏を聴かせたわけですが、今回はブラームスとベルリオーズとN響の本丸に切り込むようなプログラムで乗りこんできました。

 結論を最初に申し上げれば今一つの演奏でした。

 ブラームスの二重協奏曲。こちらは本当にもやもやした音楽。シュトイデはウィーン・フィルのコンサートマスターだし、ソモダリはウィーン国立歌劇場管弦楽団の首席奏者だそうで、お互いよく知っている間柄のようですし、二人ともオケマンですから、オーケストラで協奏曲を演奏するとはどういうことかよく分かっている筈です。更に、ソヒエフも含めた三人は、ウィーン・フィルでブラームスの二重協奏曲を演奏しているそうです。その割にはまとまらない音楽でした。チェロが押すとヴァイオリンが引いて音楽が盛り上がらなかったり、オーケストラも微妙にずれてもやっとした印象になってしまう部分が多々ありました。指揮者の揺れが多いせいか、オーケストラの中も揃わない部分が多く、すっきりしない音楽だったと思います。

 幻想。若い指揮者のケレンがやや空回りしている感じの演奏。N響で幻想交響曲と言えば、デュトワや古くはフルネ、最近ならチョン・ミョンフンの名演が思い出されるわけですが、そういった演奏と比べると、粗削りで今一つ田舎くさい演奏と申し上げたらよいでしょうか。おどろおどろしさを強調しすぎているような気がします。そういう曲作りが好きな人には支持されるのでしょうが、私の好みではありません。ただフィナーレに向かっての盛り上げ方はさすがに非凡な才能を感じさせるもので、第三楽章の静寂から第五楽章までの流れは、ブラボーの声がかかるのは理解できるものでした。楽団員の力量はいつもながら見事なもので、池田昭子さんのイングリッシュホルンの寂しい音色などは絶品でしたし、ファゴット陣、クラリネット、金管陣も素敵だったと思います。

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2016年2月07日 第1829回定期演奏会
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

曲目: マーラー 亡き子をしのぶ歌 
      バリトン独唱:マティアス・ゲルネ 
       
ブルックナー 交響曲第5番 変ロ長調(ノヴァーク版)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:客演(東京都響の鈴木学さん)、チェロ:向山、ベース:西山、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川 、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:マーラー:12型、ブルックナー:16型

感想

 今回がトランペット奏者、佛坂咲千生さんの最後でした。終演後ヤルヴィに立たされて、花束を受け取っておりました。その代わりという訳ではないのでしょうが、東京フィルのトランペット首席奏者・長谷川智之さんがN響に移籍されたようです。

 さて、首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィによる重厚な二曲。

 亡き子をしのぶ歌は、一昨年、ワーグナーを歌って大変感心したマティアス・ゲルネがソリストとして登場。表情が繊細で、言葉一つ一つの意味に緊張感を持たせた歌唱でした。強く歌うところよりも、弱音で表現するところにこの方の真骨頂がある。子供の死の悲しみが確かに染み入る演奏。ただ、身体はあんなに揺すらなければいけないのか。そこで、表情をより自分のものにしているのかもしれないけれども、見てる方としては一寸違和感がありました。N響の伴奏も繊細ではありましたが、歌唱があそこまで繊細なのですから、更にもう一段繊細に表現した方が歌唱とのバランスが取れたと思います。

 後半のブルックナーの5番。思った以上に良い演奏でした。パーヴォは若かったころと比較してねちっこい指揮をするようになったという印象なのですが、墨絵のようなこのブルックナーの5番にとっては、そのけれんみが良い方向に向いたようです。

 デュナーミクを意識した、弱音とフォルテシモの間がとても離れていて、弱奏から強奏に変わるときなど、その変化について行けないのか、楽器の音が濁る部分がありましたが、それも勢いのうちなのでしょう。そういった華やかさは、曲に色を付けて行きます。「墨絵のような」と最初に書きましたが、それがカラー写真のように見えたということがあると思います。緩徐楽章は非常にゆっくりしっかりしているのに対し、スケルツォは切れ味の良さで勝負するなど、部分部分で見せ方を変えながら、全体としては生気溢れる演奏になっていたと思います。

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2016年2月12日 第1830回定期演奏会
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

曲目: ブラームス ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77 
      ヴァイオリン独奏:ジャニーヌ・ヤンセン 
       
ニルセン 交響曲第5番 作品50

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:福川、トランペット:長谷川、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:協奏曲:14型、交響曲:16-14-11-10-8

感想

 ヤンセンを迎えてのブラームスのヴァイオリン協奏曲、よく言えば、ソリストの天衣無縫な、悪く言えばソリストの気ままな演奏に、振り回されたというところでしょうか。今、欧米で最も人気のある女流ヴァイオリニストだそうですが、その自信が演奏に漲っているように思いました。それが、良い演奏に繋がっていたか、と言えば、かなり疑問です。ブラームスを墨絵のように演奏すべきであるとは申し上げませんが、もう少し、方向性が明確な演奏であっても良かったのではないか、という気がしました。刹那、刹那では美しいのですが、それぞれの美音が有機的に結びついている感じがしない。聴いていると、この人、何を感じてこの演奏をしているんだろう? と疑問に思ってしまうような演奏でした。

 特に第一楽章がそういう感じが強かったです。N響は、そんな気ままなヤンセンに対してもしっかり対応しているのですが、やっとついて行っている、という感じが強くて、演奏に一体感を感じられない。ソロがないオーケストラ部分の演奏は一体感がしっかりあるので、やはりソリストは楽員に支持されていなかった、ということかもしれません。駆け引き的には、ソリストって強いんだな、という感じ。第二楽章は、最初テーマをオーボエを、第三楽章はオーケストラが演奏して、そのテンポ感を決めるのですが、ソリストが入るといつの間にか、ソリストのテンポ感に変わっていく。ヤンセンを聴きたいという人には、こういう演奏は良いのかもしれませんが、ブラームス的様式感を感じられない演奏に終始しました。

 ニルセンの5番。こちらは面白い。ニルセンの交響曲自体滅多に取り上げられず、この曲が演奏されたのは15年ぶりのようですが、前回ブロムシュテットが指揮した時の演奏は、私は聴いていませんので、実演初めて聴きました。楽しみました。打楽器を執拗に介入させ、音楽世界を打楽器主流に変化させる、などというのは、20世紀だからこそ、あるのでしょう。竹島悟史さんがスネアドラムを叩きましたが、この介入が一寸お茶目な感じがして気に入りました。その他、福川さんのホルン、木管陣などそれぞれヴィルトゥオジィティを示し、好演だと思います。

 もう一つ申し上げなければならないのは、静寂の美です。第一楽章の最後は、段々ディミニエンドして、最後は完全に静寂になるまで弦楽が続くわけですが、そこが本当に綺麗。弱音をこれだけ美しく演奏できるところが、N響の力なのでしょう。パーヴォ・ヤルヴィのやりたいことをしっかり見せてくれたという印象でした。

 ところで、N響自体は風邪が蔓延しているのでしょうか。ヴィオラは11人しかおらず、12人揃わなかったようですし、普段もっと前で弾いている第二ヴァイオリンの林智之さんと、チェロの山内俊輔さんが一番後ろでの演奏。これは、降り番だったのを急遽駆り出されたか。ホルンは、首席の福川さんだけが団員で他三人はエキストラでしたが、噂によると、メンバーの一人がインフルエンザに倒れ、交替したとのこと。今回は、皇太子来臨で、事務局が必死になってメンバーを揃えたのだろうな、と思わせるような席次でした。

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2016年4月16日 第1832回定期演奏会
指揮:レナード・スラットキン

曲目: J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番 ホ長調 BWV1006から「前奏曲」 
      ヴァイオリン独奏:伊藤 亮太郎 
       
J.S.バッハ カンタータ「神よ、あなたに感謝を捧げます」BWV29から「シンフォニア」
       
J.S.バッハ(ウッド編曲) 組曲第6番から「終曲」
       
J.S.バッハ(バルビローリ編曲) カンタータ「狩りこそが私の喜び」BWV208から「羊は安らかに草を食み」 
       
J.S.バッハ(オーマンディ編曲) カンタータ「心と口と行いと命」BWV147から「主よ、人の望みの喜びよ」
       
J.S.バッハ(ストコフスキー編曲) トッカータとフーガ ニ短調 BWV565 
       
プロコフィエフ 交響曲第5番 作品100

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤(前半、後半は次席)/篠崎(後半のみ)、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:向山、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川、チェレスタ/ピアノ:客演(フリー奏者の成田有花さん)、オルガン:客演(フリー奏者の勝山雅世さん)

弦の構成:16型

感想

 前半は、バッハの作品の管弦楽編曲版を4曲+2曲の6曲。自分が最初に接したバッハの音楽が何であったかは、もはや定かではありませんが、「トッカータとフーガ」はかなり小さな子供の頃から知っていたと思います。それも多分、管弦楽編曲の方が古くから知っています。ディズニーの「ファンタジア」はもちろん見ており、それだけ親しいのですが、今回久しぶりに聴いて思ったのは、アメリカだな、ということ。華やかだし、きらびやかだけれども、バッハの北ドイツの地理的背景みたいなものはどこかに消えていて、初老に達した身としては、作品に違和感を感じてしまいます。

 最初に演奏された3曲は、どれも「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番」の「前奏曲」の編曲です。最初、コンマスの伊藤さんがオリジナルをソロで演奏し、その次は、バッハ自身が教会カンタータで使用したオルガンとオーケストラによる編曲版(と言っても、管楽器は(オーボエとトランペット)を演奏し、最後に、英国の作曲家・指揮者であったヘンリー・ウッドによる三管構成のオーケストラによる編曲版です。

 それぞれ特徴があって面白いし、大オーケストラで演奏される華やかさは分かるのだけど、自分が一番惹かれるのは、やっぱりオリジナルのヴァイオリン独奏版です。伊藤亮太郎は、N響のコンサートマスターだけあって、この難曲を美しく聴かせてくれました。

 続いては、バルビローリ、オーマンディ、ストコフスキー編曲の有名作品で、段々華やかになっていく方向。オーケストラの力量はよく分かるのですが、アンコールピースを続けて聴かされているような印象で、アメリカ的おおらかさ、というか独善性を感じてしまいました。

 スラットキンは、選曲の意図についてコメントを出していますが、「どのような場合でもバッハの精神は常にそこに存在しています。そしてそのことこそが最も重要なことなのです」というのは正しいとしても、でもそれが全く歪められていないか、と言えば、難しいところなのかな、と思いました。

 後半は、プロコフィエフの5番。シャープで、色彩感の溢れる演奏で、作曲家が自分で求めた音楽を演奏する方が、ごく自然なことなのだな、と、前半との対比で思いました。スラットキンの指示も明確でしたし、N響のバランスも良く、マイナー楽器の音もよく立ち上がっている感じで、素敵な演奏になっていたと思います。

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2016年4月22日 第1833回定期演奏会
指揮:レナード・スラットキン

曲目: J.S.バッハ 管弦楽組曲第3番 BWV1068から「エア」
       
ベルリオーズ 歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲
       
武満 徹 系図(ファミリー・トゥリー)−若い人たちのための音楽詩(1992)
      語り:山口まゆ(女優)、アコーディオン:大田 智美 
       
ブラームス 交響曲第1番 ハ短調 作品68

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:白井、ヴィオラ:客演(読売日響の柳瀬 省太さん)、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:福川、トランペット:長谷川、トロンボーン:客演(読売日響の古賀光さん)、ティンパニ:久保、ハープ:客演(フリー奏者の水野なほみさん)、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:16型(武満は14型)

感想

 先日の熊本の大地震でたくさんの方が亡くなられ、多くの被災者が出たことから、予定外でしたが、最初にバッハの「エア」が犠牲者の方々に献奏されました。熊本の地震はまだ余震が続き大変な様子ですが、亡くなった方のご冥福と、被害に遭われた方の一日も早い復興を願ってやみません。

 さて、本番です。最初に演奏されたのがベルリオーズの「ベアトリス都ベネディクト」序曲。ベルリオーズの喜劇の序曲で明るい曲なのですが、前半は、前の曲のエアの余韻を引きずっている感じで、一寸動きが乏しい感じでした。後半は熱がこもり始め、盛り上がり始めました。

 第二曲は武満徹の「ファミリー・トゥリー」です。N響では二度目の演奏。1997年にシャルル・デュトワが取り上げています。この時のアコーディオンは御喜美江さんで、語りは遠野凪子さんでした。この作品を初めて聴いた時、晩年の武満の境地(非常に懐かしい雰囲気)を感じて大変素敵だな、と思った思い出があります。なお、スラットキンはこの作品の初演者です。そんな訳でとても期待して行きました。

 凄く雰囲気のある演奏でした。語りの山口まゆは2000年生まれの15歳ということで、谷川俊太郎の詩を読むにはちょうど良い感じでした。少女の無垢な感じがしっかり現れている。惜しむらくは時々語尾が掠れて聞こえなくなってしまうところがあること。19年前の遠野の語りは、もっとべったりした朗読的な読み方ではなかったかなと思います。この二人の中間ぐらいの読み方が出来ると、一番良いのかな、などと思いました。オーケストラは、アコーディオンも含め、とても素敵でした。この曲、素敵だな、と19年前初めて聴いた時強く思ったのですが、19年ぶりで聴いて、ますますその感を強くしました。

 最後がブラームスの第一交響曲。アメリカン・ブラームスという感じがします。冒頭の厳しい序奏部などを聴いていても、どっしり重厚というよりは、弾けてしまいたいエネルギーが内包しているような演奏。ただ、その雰囲気が基本的なベースとなって演奏されるので、全体としては一貫性があってバランスの取れた演奏でした。スラットキンらしさがでた明るい演奏と申し上げられると思います。切れ味の良いティンパニ、ホルン、などが光りました。

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2016年5月14日 第1835回定期演奏会
指揮:尾高 忠明

曲目: 武満 徹 波の盆(1983/1996)
       
モーツァルト 2台のピアノのための協奏曲 変ホ長調
      第一ピアノ:小曾根 真 
      第二ピアノ:チック・コリア 
       
エルガー 変奏曲「謎」作品36

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:白井、ヴィオラ:客演(新日本フィルの篠崎友美さん)、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、ティンパニ:植松、ハープ:早川、シンセサイザー(フリー奏者の梅田朋子さん)、チェレスタ:客演(フリー奏者の楠本由紀さん)

弦の構成:武満、モーツァルト:12-10-8-8-6、エルガー:16型

感想

 武満徹が日本の音楽史上最高の作曲家であることは言を俟ちませんが、その評価は東洋と西洋とを融合したような前衛的作品に依ることが多いように思います。一方、武満はそういった純音楽だけではなく、テレビや映画などへも沢山の機会音楽を提供してきました。テレビや映画向けの作品は、前衛的な作品もない訳ではありませんが、メロディが美しい作品が多いように思います。「波の盆」は1983年に放映された日本テレビのドラマで、監督は実相寺昭雄、脚本は倉本聡。第38回(昭和58年度)芸術祭大賞受賞作品です。

 私はこの番組を見たことがありませんし、演奏会用組曲版を聴くのも初めてでしたが、武満の機会音楽で特徴的なメロディーラインが明確で、リリックな音色がとても素敵だと思いました。どこか懐かしくなるような品の良さ、と突然出てくる管、打楽器の割り込みが番組の特徴を表しているようで面白いと思いました。

 第二曲はモーツァルト。完全にジャズでした。オーケストラはもちろん普通に演奏しているわけですが、ソリスト二人がジャズピアニスト。服装が、小曾根が赤のジャケット、コリアが白のジャケット。そこからしてジャズ風。音楽は、カデンツァがジャズになるのは当然予想されたところですが、それ以外のオーケストラとの掛け合い部分も隙あらばジャズに持ち込もうとする意志が見えていて、面白かったです。ただ、そのジャズ風演奏は、モーツァルトの規範を大きく逸脱するものではなく、モーツァルトの音楽の許容幅の中にはかろうじて納まっていたのではないかと思います。まあ、これでも眉をひそめているお客さんも多かったとは思いますが、私は許せる感じでした。なお、使用されたピアノはYAMAHAでした。

 「エニグマ」変奏曲は、私にとってはまさに「謎」の曲で、何度かは聞いたことがありますけど、何かいつもよく分からない作品です。本日の演奏は、ホグウッドによる校訂版を使用しているとのことですが、通常の版をよく知らないので、校訂版がどこが変わっているかなどはもちろん全く分かりませんでした。音楽のつくりとしては、客席からは賛否両論があったようですが、私は鋭さが見えて、メリハリのある演奏ではなかったかなと思います。更にこの作品の持つ「イギリス臭さ」みたいなものは良く出ていて、その点では満足いたしました。

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2016年5月20日 第1836回定期演奏会
指揮:ネーメ・ヤルヴィ

曲目: カリンニコフ 交響曲第1番 ト短調
       
ベートーヴェン 交響曲第6番 ヘ長調「田園」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:向山、ベース:西山、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、チューバ:客演(フリー奏者の本間雅智さん)、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:16型

感想

 パパ・ヤルヴィの幅の広さというか、奥の深さを聴かせてもらった演奏会といってよいのではないでしょうか。私は、ネーメとパーヴォの親子、音楽の素質は息子の方があるのだろうと思いますが、最近パーヴォは結構見え透いた、というかあざとい演奏をすることがよくあるように思います。ネーメはそういう演奏は勿論できるのだろうけど、それ以上に、引き出しをいろいろ持っていて、多彩なアプローチをする、そういう印象の演奏会でした。

 カリンニコフはストレートな衒いのない演奏だったと思います。この曲の持っている歌謡性を前面に出し、ロシアの民謡の素朴な味わいもしっかり残したこの演奏は、N響の見事なまでのアンサンブルに乗せられて、気持ちよく聴くことが出来ます。気持ちが和むような演奏と申し上げてよいと思います。最後の盛り上がりが少しガチャガチャしてしまったのが、玉に瑕ですが、素晴らしい演奏だったと申し上げてよいと思いました。

 田園。一転して奇を衒ったというか言うか、主張の強い演奏。この演奏は好悪が分かれると思います。第一楽章の入りは弱音を重視した演奏で、「田舎に着いた時の愉快な気分が」が薄曇りで一寸期待が削がれる演奏。ただ、ピアノを基調で演奏しているせいか、普段あまり聴こえてこない低音部の動きが細かく聴こえてきます。それはそれで面白い。そして、曲が段々進むにつれて、明るくなっていき、そして嵐、最後は晴天になって、明るく優しく終わる。そういう流れでした。テンポは結構動かしていて、大きなリタルダンドもかかります。しかしながら、基本の流れはずっとレガートで、レガートの基本線に、テンポを変えたり、デュナーミクを変えたり、という感じの演奏で、一寸暗さのある水彩画を見るような演奏だったと思います。

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2016年6月11日 第1838回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・アシュケナージ

曲目: バラキレフ(リャブノーフ編曲) 東洋風の幻想曲「イスラメイ」
       
チャイコフスキー 協奏的幻想曲 ト長調 作品56
      ピアノ独奏:ルステム・ハイルディノフ 
       
メンデルスゾーン 交響曲第3番 イ短調 作品56「スコットランド」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:白井、ヴィオラ:佐々木、チェロ:向山、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:バラキレフ;16型、その他;14型

感想

 アシュケナージのこだわりがよく分かるプログラムです。どの曲も一筋縄ではいきません。

 バラキレフのイスラメイは、ピアノ独奏曲のなかでも難曲中の難曲として有名で、私もそれゆえに知っていたわけですが、管弦楽編曲版は実は聴くのは今回初めてです。N響定期でもここ30年ほどの間で取り上げられたことはありません。管弦楽曲版を聴いての感想は、ピアノ版よりも当然ながら色彩の広がりが感じられます。その代わり、ピアノ曲では通っていた一本の筋のようなものは不明確になってしまったのかな、という感じです。演奏自身は悪いものではなかったと思いますが、特に良いとも思いませんでした。

 チャイコフスキーの協奏的幻想曲。これまた滅多に演奏されない曲。私は初めて聴きました。チャイコフスキーの協奏曲的作品は八作品あるそうだけど、ピアノ協奏曲第1番とヴァイオリン協奏曲が圧倒的に有名で、それ以外ではチェロ協奏曲といってよい「ロココの主題による変奏曲」がたまに演奏されるぐらい。それ以外は本当に演奏されません。この曲がN響定期で取り上げられたのもほぼ初めてではないでしょうか。曲はメロディーメーカーチャイコフスキーらしい民俗的な色合いつよい美しい作品で、余り演奏されない理由はよく分かりません。ハイルディノフの演奏は、ミスタッチではないか、と思われる部分はありましたが、天衣無縫の演奏で、圧倒される感じでした。よく指が廻って、曲の特徴を捉えている、と申し上げてよろしいのでしょう。N響の方は初めて演奏する、という方がほとんどのようで、割と安全運転、という印象でした。

 最後の「スコッチ」交響曲。これはおなじみの作品ですが、普段聴く「スコットランド」とは相当印象が異なる演奏。プログラムによれば、ライプツィヒ版メンデルスゾーン作品集版を使っているそうで、メンデルスゾーンが自身で指揮した初演時の楽譜だそうです。N響が交響曲をNHKホールで演奏するときは、第一ヴァイオリンを16人とする16型の構成を取ることが多いのですが、今回は14人。それだけに室内楽的音色になった、ということは言えるのかもしれません。また第一楽章は、普通の「スコットランド」よりもレガートに演奏されていたようにも思います。

 しかしながら、アシュケナージの指揮が結構分かりにくい指揮のようで、オーケストラがなかなか一致団結しない。飛び出しや遅れが時折見られ、多分揃えば美しいハーモニーがもっと響くだろうに残念、と思えるところが幾度もありました。

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2016年6月18日 第1839回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・アシュケナージ

曲目: R・シュトラウス 交響詩「ドン・ファン」作品20
       
R・シュトラウス オーボエ協奏曲 ニ長調
      オーボエ独奏:フランソワ・ルルー 
       
ブラームス 交響曲第3番 ヘ長調 作品90

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:長谷川、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:協奏曲;12型、その他;16型

感想

 アシュケナージがピアニストから指揮者に替ったことがいかに残念だったかが身に染みて分かる演奏会でした。

 とういうのは、本日オーボエ協奏曲のソリストとして登場したルルーは、アンコールとして、フルート曲編曲で有名なグルックの「精霊の踊り」を演奏したのですが、その伴奏者がアシュケナージだったのです。曲としては非常に簡単で、アシュケナージクラスであれば寝てても弾けそうな曲ですが、とにかく音が抜群に良い。特に何をしているわけではないのですが、指が鍵盤に触れるだけで歌が流れるという感じです。勿論、ルルーも素晴らしいオーボエ奏者ですから、2分ほどの小品ながら、その感動は本日随一と申し上げて過言でない。本当に素晴らしいものでした。あるピアニストが昔、「アシュケナージは、ただ鍵盤をドと弾いただけで凡人と違う音を出すから」と仰っていましたが、そのことが良く分かる演奏でした。

 この音を聴いてしまうと、他はやっぱり二級品と申し上げるしかない。

 「ドン・ファン」。取り立てて悪い音楽ではなかったのですが、ありふれた音楽だったと申し上げましょう。かつて、N響でブロムシュテット、サヴァリッシュ、デュトワ、と聴いて来た身としては、今一つ納得いかないのです。端的に申し上げれば揃い方の精度が甘い。もっともっとがっちりしていて、管がピタッと揃って欲しいところです。

 「オーボエ協奏曲」、とにかくソリストがチャーミング。フランス人らしい洒落っ気があって、決して明るいとは言えないこの曲を清澄な音楽につなげていきます。N響のバックも良かったと思うし、メインのプログラムでは本日一番の聴きものだったと申し上げてよいと思います。これでアンコールがなければもっと褒められるのですが、アンコールのおかげでこの曲の印象がぐっと萎みました。それが一番残念かもしれない。アンコールがなかったら、この演奏をもっと褒められたのに、と思う次第です。

 最後のブラームス第3番、こういうオーケストラの定番曲はアシュケナージは演奏しちゃいけません。全然よくありません。オーケストラのバランスの作り方が不自然な感じがして、何か説得力がないのです。更に申し上げればオーケストラの揃い方も甘い。N響は揃う時は本当にピタッと揃いますから、分かりにくい指揮をしているのではないかという気がしました。

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