NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2015年(前半)

目次

2015年01月10日 第1799回定期演奏会 ジャナンドレア・ノセダ指揮
2015年02月07日 第1802回定期演奏会 パーヴォ・ヤルヴィ指揮
2015年04月11日 第1805回定期演奏会 セバスティアン・ヴァイグレ指揮
2015年04月17日 第1806回定期演奏会 ウラディーミル・フェドセーエフ指揮
2015年05月09日 第1808回定期演奏会 ユッカ・ペッカ・サラステ指揮
2015年05月16日 第1809回定期演奏会 エド・デ・ワールト指揮
2015年06月06日 第1811回定期演奏会 ステファヌ・ドゥネーヴ指揮
2015年06月12日 第1812回定期演奏会 アンドリス・ボーガ指揮

2014年ベスト3
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2013年ベスト3
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2008年ベスト3
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2003年ベスト3
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2015年01月10日 第1799回定期演奏会
指揮:ジャナンドレア・ノセダ

曲目: フォーレ 組曲「ペレアスとメリザンド」作品80
     
プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番ハ長調 作品26
      ピアノ独奏:アレクサンダー・ガヴリリュク 
     
ベートーヴェン 交響曲第5番ハ短調 作品67「運命」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:向山、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:宇賀神、ホルン:福川、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:フォーレ、プロコフィエフ:変則12型(12-10-8-6-5)、ベートーヴェン:14型

感想

 今年最初のコンサートは、ノセダ指揮のN響定期公演になりました。ノセダはこれまでも何度かN響を指揮されていますが、主張のはっきりした指揮をする方で、それが良い方向に行くときも悪い方向に行くときもあるという感じがします。

 最初のフォーレ「ペレアスとメリザンド」は、まさしくノセダの味が曲の特徴を引き出し美しく響いた名演。ノセダは四つの楽章でそれぞれ振り方を微妙に変え、それぞれの特徴を上手に引き出していきます。身体全体を大きく弓なりにしならせながら指揮する姿は、音楽の流れを紡ぎ出しているようで見事。弦楽器を少人数に絞ったのも効果的で、音が濁らず揃って一体感が非常に感じられました。有名なシシリアーノは、甲斐さんのフルートが見事なことは申し上げるまでもないのですが、それ以外の部分も木管陣が立派で、全体的に硬質な美を感じされるものになりました。 

 二曲目のプロコフィエフは気負いすぎというのが本当のところでしょう。ガウリリュクというピアニストはプロコフィエフを得意にして、彼のピアノ協奏曲全集を録音済みだそうですが、彼の行き方はピアノを打楽器的に取り扱うというような、プロコフィエフの一面を強く意識しているのか、全体のバランスが悪いような気がします。ペダルの踏み方なども乱暴で、結果として音が濁ります。ダイナミクスは非常に広いと思うのですが、その強弱の動きは強い方に気を取られているせいか、強弱の変化がぎくしゃくしていますし、ある意味階段的変化が強すぎる感じがしました。迫力はあるのですが、ごつごつしすぎていて、この曲の内包しているモダニズムの美は表現しきれていないように思いました。

 N響の付けもピアニストに合わせたのか、一曲目とはうって変わり、力強さを前面に押し出した演奏。その結果として、音が微妙にまとまらないところもあり、如何なものかと思う部分もありました。ただ、ピアノとオーケストラのタイミングは見事に合っていて、そう言う側面での一体感はある演奏でした。

 最後の運命交響曲。明らかに古楽器によるオーセンティックな演奏を意識した演奏。ノセダのケレンが良く表れた演奏と申し上げられると思います。冒頭の「ジャジャジャジャーン」のフェルマータが短いのが特徴的でしたが、その後もたっぷり歌わせるロマンティックな演奏とは対照的なスピード感のある演奏。弦楽器は基本ノンビブラートだったと思います。硬質で金属の光沢がきらめくような演奏でした。N響は完全にノーミスではなかったと思いますが、その速さに乗った演奏は、正に技術的に高度な演奏で、流石にN響と思わせるものでした。

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2015年02月07日 第1802回定期演奏会
指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

曲目: エルガー チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
      チェロ独奏:アリサ・ワイラースタイン
     
マーラー 交響曲第1番 ニ長調 「巨人」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:ヴェスコ・エシュケナージ(ゲスト・コンサートマスター)、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:水谷、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:エルガー:14型、マーラー:16型

感想

 パーヴォがN響を指揮したのは、2002年と2005年のこと。合わせて4回その演奏を聴きましたが、皆、素晴らしい演奏でした。そのころは、ネーメの息子というだけで、今のように知られてはいなかったのですが、準・メルクルやアラン・ギルバートなどとともに、新しい時代を拓く指揮者が出て来たな、と思ったものでした。その後はその実力のおかげであれよあれよと世界的な指揮者になり、日本での人気も高くなりました。

 本年9月からN響の首席指揮者になることが決まり、パーヴォの音楽的実力を10年以上も前から知らされている聴き手としては大変うれしい決定です。その事前お披露目の演奏会でした。10年ぶりでパーヴォの音楽作りを聴きましたが、やはり上手いと思います。聴かせ所を掴んで提示してくる感じです。音楽に色気がある。こういうのって、天性のもので、同じ曲を演奏しても全く色気を感じない方もいらっしゃるわけですから、結構なことです。

 最初のエルガーは、特に艶っぽい演奏。ソリストのワイラースタインという女流チェリストは、一寸ふくよかな身体でチェロを挟み込んで演奏しているのですが、落ち着いた良い音色を奏でます。音だけ聴いている分にはさほどではないのですが、演奏している仕草や表情を見ていると、音楽に浸りきって演奏しているのがよく分かって、そこが素敵でした。オーケストラとのコミュニケーションも上手く行って、エルガーらしい伸びやかさを感じることが出来る演奏で良かったです。

 後半のマーラー。テクニカルなことを言えば、決して完璧ではないのですが、ダイナミクスとかテンポの微妙な揺れとかで表情がとても豊かで、繊細な巨人になっているように思いました。第二ヴァイオリンの根津さんに依れば、「細かく決めているのに自由に弾かせるというユニークなアプローチ」だそうですが、自由に弾かせているというよりは、細かくバランスを決めて、きっちり組み上げた感じの演奏に聴こえました。その骨格の構築が上手く行っているので、技術的な小ミスが、音楽に影響してこないということなのだろうと思いました。素敵な演奏で、新N響丸は順調に船出したという感じがしました。

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2015年04月11日 第1805回定期演奏会
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ

曲目: ベートーヴェン 交響曲第6番ヘ長調 作品68「田園」
     
ワーグナー 楽劇「トリスタンとイゾルデ」より「前奏曲」、「それは本当か」*、「イゾルデの愛の死」
      *:バス独唱;ヨン・グァンチョル
     
ワーグナー 楽劇「ニュルンベルグのマイスタージンガー」より「親方たちの入場」、「明日は聖ヨハネ祭」*、「第一幕への前奏曲」
      *:バス独唱;ヨン・グァンチョル 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:白井、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:16型

感想

 N響のシーズンは9月〜6月だと思っていたのですが、そこは日本の組織、4月1日付で色々なところが変わりました。まず、長年コンサートマスターを勤めて来た堀正文さんが引退。第二ヴァイオリンの首席奏者だった永峰高志さんが退団。ビオラでは、長年フォアシュピーラーを務めていた小野富士さんがシニア団員に移行して後ろで演奏されておりました。新しいコンサートマスターとして伊藤亮太郎さんと契約したそうですが、今回は出演されていませんでした。それ以外でも席順が随分変わりましたし、第一ヴァイオリンからは田中晶子さんと、林智之さんとが第二ヴァイオリンに移られました。

 こういった異動がN響のサウンドにどう影響するかは分かりませんが、何か、若返った感じがするN響の演奏会でした。その新しいN響を指揮したのがヴァイクレ。相当にケレンに満ちた指揮姿でした。

 最初に演奏された田園交響曲。標題交響曲であることを相当に意識した演奏と申し上げて良いと思います。メロディーラインをくっきりと浮き上がらせる演奏。そのため、クラリネットとファゴットの絡み合いとか、フルートとオーボエとのやり取りとかが、普段聴いている田園交響曲よりもクリアに響きます。こういう演奏はなかなか珍しいような気がします。田園交響曲もベートーヴェンの作品です。ベートーヴェンの演奏は、構成の妙を聴かせるというのが普通の方向性だと思いますので、歌を強く意識させる今回の演奏はある意味変わっているですが、その分、面白かったのも本当です。

 後半のワーグナー。良く演奏される前奏曲に、バスの歌を挟むというやり方。前奏曲は、「トリスタン」にしても「マイスタージンガー」にしてもとても素晴らしいとまで言えるかどうかは分かりませんが、しっかり描き分けは出来ていたのではないかと思います。即ち、「トリスタン」における「官能性」と「マイスタージンガー」に「わくわく感」ですね。オペラ好きにとっては、前奏曲はその後の本編を期待させるという意味で重要なのですが、その意味で、ヴァイグレはオペラの人なのだな、と納得いたしました。

 ガンチョル。良いバスでした。前半のマルケ王の歌は、発声が常に柔らかく、そこで見られる表情は、マルケの戸惑いがしっかり示されていて素晴らしい。マルケに関して言えば、細かい声の揺れがもう少し少ないともっと良いと思いました。後半のボーグナーの歌は、歌合戦への期待と興奮を示しており、マルケの歌と比較すると軽薄な感じが付きまといましたが、ボーグナーに与えたワーグナーの音楽がそういうものだからです。そういう描き分けがこちらもしっかりしていたと思います。

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2015年04月17日 第1806回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・フェドセーエフ

曲目: ラフマニノフ ヴォカリーズ
     
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
      ピアノ独奏:アンナ・ヴィニツカヤ
     
リムスキー=コルサコフ 交響組曲「シェエラザード」作品35

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木、チェロ:向山、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、バスーン:水谷、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:客演(山形交響楽団の久保和憲さん)、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:16型

感想

 私はAプログラムの定期会員で、Cプログラムは、毎回自由席を購入して入場する観客です。これは理由がありまして、N響の音って、三階が一番良いからです。一番バランスの良い音を聴くことが出来ます。NHKホールが音が悪いというのは、クラシックファンの通説ですが、三階席でN響を聴いている限りではそんなことはありません。という訳で、三階は安くて音が良い、という聴き手にとってはありがたい席なのです。

 さて、今回も当日券で自由席を購入して入場するつもりで会場に出かけたところ、何と、自由席は既に売り切れ、その上、D席、C席も完売ということで、仕方がないので、5700円出してB席で聴きました。N響は自由席の入場料が1500円ですから、予算の4倍近いお金を払って入場したわけです。さて、B席で聴くN響ですが、舞台までの距離は三階席より近いけれども、音がとても遠い感じになりましたし、バランスも悪い。正直まいりました。これで「5700円かい」、と突っ込みたいほど。まあ、仕方がないのですが、NHKホールの悪口は、この席ならば納得できます。

 さて、フェドセーエフの演奏ですが、正直申し上げれば納得のいかないところがありました。

 まず「ヴォカリーズ」。これは、元々ソプラノソロとオーケストラのために書かれた曲で、ソプラノが入るとぐっと立体的になります。今回はソプラノ無しの版。曲も演奏も決して悪くはないけれども、ソプラノソロ版が頭の中に入っている聴き手には物足りなさを感じました。

 二曲目のラフマニノフのピアノ協奏曲。こちらも納得いきません。フェドセーエフは、何故、弦を少なくしなかったのだろう、ということです。N響は大抵⒗型(第一ヴァイオリン16、第二ヴァイオリン14、ヴィオラ12、チェロ10、コントラバス8)で演奏しますが協奏曲については、弦を14型と一プルトずつ減らすのが一般的です。この結果として、ソリストとオーケストラとのバランスとがソリスト有利になるわけです。ところが今回、フェドセーエフはそれをやりませんでした。

 その結果、オケ偏重に聴こえました。更に今回のピアニスト、ヴィニツカヤは指はよく回る方のようですが、それほど力強いという感じではありません。むしろ、鍵盤を思いっきり叩くと音が濁ってしまうタイプのピアニスト。オーケストラが休みで、ピアノソロの部分は美しいリリックな音色が聴こえてくるのですが、オーケストラが本気で演奏すると、折角のピアノが浮かび上がらずに埋没してしまいます。これは如何なものか。ソリストが力強い男性ピアニストならいざ知らず、彼女のようなタイプのピアニストには、オーケストラの編成を小さくして、もっとオケを抑えた演奏にした方が良い演奏に仕上がっただろうと思いました。

 最後のシェエラザード。こちらは良かったです。最初、篠崎さんのヴァイオリンソロは緊張して硬い感じでしたが、緊張が取れるとぐっと柔らかく美しいものになりました。このヴァイオリンと絡む管楽器のソロも皆立派だったと思います。カーテンコールでフェドセーエフは、篠崎さんに加えて、クラリネット・伊藤、オーボエ・青山、フルート・甲斐、ホルン・福川、小太鼓・竹島、トロンボーン・池上、トランペット・菊本、チェロ・向山、ファゴット・水谷の各氏を立たせて称賛しましたが、これは当然でしょう。

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2015年05月08日 第1808回定期演奏会
指揮:ユッカ・ペッカ・サラステ

曲目: シベリウス

劇音楽「クオレマ」より、「鶴のいる情景」作品44-2、「カンツォネッタ」作品62-a、「悲しきワルツ」作品44-1

     
バルトーク ヴァイオリン協奏曲第2番
      ピアノ独奏:クリストフ・バラーティ
     
シベリウス 交響曲第2番 ニ長調 作品43

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:白井、ヴィオラ:客演(元首席奏者の川崎和憲さん)、チェロ:向山、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:水谷、ホルン:福川、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川 、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:クレオマ、協奏曲:14型、交響曲:16型

感想

 フィンランド出身指揮者とハンガリー人ヴァイオリニストによる、シベリウス&バルトークの組合せでした。指揮者にとってはシベリウスが、ヴァイオリニストにとってはバルトークがお国ものということになるわけです。ただし、演奏は、シベリウスとバルトークとでは対照的な印象でした。

 サラステにとって、シベリウスは特別な作曲家なのでしょうね。一種独特の地方色というか泥臭さを感じる演奏でした。N響は非常に機能的なオーケストラで、シベリウスの二番は、オーケストラとして最も多く演奏される曲の一つですから、ある意味中庸な演奏をしようとする方向性が出て行くのでしょう。その方向性を上手く制御して、一部自分個人の特性を入れていけば、巧い演奏になるのだろうと思います。昨年4月、ネーメ・ヤルヴィがこの曲を取り上げましたが、彼の演奏は正にそのような方向性の、即ち、基本的にはインターナショナルな演奏だったように思います。

 しかし、サラステの演奏はそうではない。ケレンがあって、オーケストラの音の流れに楔を打ち込んでいくような演奏。結果として、管と弦がずれたり、弦楽器の内部でも同一パートの中で音が揃わなかったりしました。要するにテクニカルにはN響としてはそんなに上等な演奏ではない。しかしそういう微妙なずれが、サラステのシベリウスに対する思いの深さとローカル色を感じさせるのです。私が昨年のヤルヴィと今年のサラステとどちらの演奏を採るかと訊かれれば私はヤルヴィの方が好きですが、今回のサラステの演奏も熱い支持を得られそうな演奏ではありました。

 シベリウスと比べると、バルトークは共感を呼びにくい演奏でした。バラーティはアンコールで演奏されたイザイのヴァイオリンソナタの音色を聴く限り、美音をしっかり持っているヴァイオリニストだと思いますが、バルトークは美しいアプローチというよりは厳しいアプローチで、テクニカルには颯爽としているのですが、単色系の演奏だったように思います。作品自体が20世紀音楽ですし、作曲された時期のヨーロッパの状況などを考えればロマンティックな演奏に演奏にならないのは当然なのですが、もう少し踏み込んだ演奏をした方が、聴き手に心に染み入ったのではないかと思います。

 指揮者もシベリウスとはうって変わって安全運転の指揮で、N響のヴィルトゥオジティを感じさせられる演奏ではありましたが、この曲に親しくない聴き手にとっては、それ以上の感興を覚えない演奏だったかな、という気がいたしました。 

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2015年05月16日 第1809回定期演奏会
指揮:エド・デ・ワールト

曲目: ラヴェル

組曲「マ・メール・ロア」」

     
ラヴェル シェエラザード
      メゾソプラノ独唱:マレーナ・エルンマン
       
ショーソン 「愛と海の詩」作品19
      メゾソプラノ独唱:マレーナ・エルンマン
     
ドビュッシー 交響詩「海」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:白井、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、コントラバス:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川 、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)

弦の構成:「マ・メール・ロア」:10-10-8-6-3、歌曲:12型、海:16型

感想

 当初アナウンスされた指揮者のデーヴィッド・ジンマンが股関節の緊急手術を受けなければならないということでキャンセル。代わりに登場したのがデ・ワールトでした。プログラムはジンマンの選んだものをそのまま引き継ぎました。

 デ・ワールトは1960年代からオペラとオーケストラの両部門で活躍している世界的指揮者で、このような方が、急遽指揮台に上がってくれることになったことは大変素晴らしいことですが、彼はワーグナー、ブルックナー、マーラー、ラフマニノフなんかが得意で、フランスものを演奏する指揮者という印象はありませんでした。N響定期にも6回登場していますが、メインで取り上げているのは、ブルックナー、ワーグナー、リヒャルト・シュトラウス、ベートーヴェンとドイツ音楽の王道を行くようなプログラムが多く、フランスは取り上げておりません。

 そういうデ・ワールトがフランスもののプログラムを変更なしで引き受けたのは、職人的指揮者の面目躍如というところですが、体質的にフランスものに似合った指揮者ではないのでしょうね。安全運転でそつなくこなした、というのが全体的な印象です。

 「マ・メール・ロア」は弦の人数を思い切り減らした編成。バランス的に管をより響かせようという作戦だと思われますが、結果として管楽器、打楽器のエッジが立っていたという印象はありませんでした。ラヴェルの面白さを強調できた演奏には仕上がっていなかったのいうのが、正直な感想です。

 最後の交響詩「海」。こちらも凄く悪い演奏であるとは申し上げませんが、色彩的な魅力に欠けるというのが正直なところ。N響で「海」と言えば、古くはフルネ、プラッソン、デュトワなどが取り上げていて、名演と言われたわけですが、例えば、2010年に聴いたデュトワの色彩豊かで繊細な演奏と比較すると、スケール感は持っているが、一寸磨き上げきれていないのかな、という印象を持ちました。

 中間で取り上げられた歌曲集2曲。「シェラザード」は、私がN響を聴き始めた1988年以降初めて定期演奏会で取り上げられた作品です。私は初耳の曲です。

 エルンマントいうメゾ・ソプラノはスウェーデン人だそうですが、長身で金髪、肩が張っていて、如何にも声が出そうな感じの方です。しかし表現は繊細で、落ち着いたもの。声にも落ち着いたところが感じられ、激したところがない。それでも、音色が官能的に変化するところもあり、そのような細かい表情の変化が楽しめました。

 「愛と海の詩」こちらもシェエラザード同じような印象。細かく楽譜を読み込んでいる様子で表現が落ち着いていて、それでいながら、小さな変化をしっかりつけながら歌いこんでいきます。ワーグナーの影響を受けたことで有名な作品ですが、「愛の死」の部分では、あんなに暑苦しくは全然ありませんが、「トリスタンとイゾルデ」のイゾルデの愛の死に通じるものがあるなと思わせてくれました。

 なお、今回は新コンサートマスター・伊藤亮太郎さんを初めて聴きました。正直なところ、コンマスとして未だ板についていない感じです。コンマス・ソロもそんなに魅力的ではありませんでした。今後の努力に期待しましょう。

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2015年06月06日 第1811回定期演奏会
指揮:ステファヌ・ドゥネーヴ

曲目: ラヴェル

道化師の朝の歌

     
ラロ スペイン交響曲 ニ短調 作品21
      ヴァイオリン独奏:ルノー・カプソン
       
ルーセル 交響曲第3番 ト短調 作品42
     
ラヴェル ボレロ 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:白井、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、コントラバス:吉田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、ファゴット:宇賀神、ホルン:今井、トランペット:菊本(前半)/関山(後半)、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、小太鼓:石川、ハープ:早川 、チェレスタ:客演(フリー奏者の楠本由紀さん)

弦の構成:協奏曲:14型、その他;16-14-11-10-7

感想

 ドゥネーヴという指揮者、初めて聴きました。才能はある方なのでしょうが、若さゆえか、考えの浅さが指揮に現れており、深みの感じられない音楽に終始しました。フランス人指揮者らしいセンスは感じられますが、その表出の仕方がちとあざといのではないか、と思う訳です。私が実演で知っているフランス人指揮者、フルネでもデュトワでもいい訳ですが、センスは感じても、聴き手に見透かされるような音楽作りはしなかったように思います。それが若さということであれば、熟成に期待すべきなのでしょう。

 「道化師の朝の歌」ラヴェルの硬質の音型がはっきりと提示されて悪くない。ただ、ここでもドゥネーヴ節が見られて、一寸独特な感じがしました。

 2曲目、「スペイン交響曲」。ソリストのカプソンが面白く、本日の白眉ともいうべき演奏。カプソンは、まるで辻音楽師のように身体を揺すってこれ見よがしの演奏をします。ある意味、けれんみの溢れる演奏なのですが、聴こえてくる音楽は、ラテン的な明るさと柔らかさとが上手くブレンドされていて、流石フランス人ヴァイオリニストだと思うところがありました。この基本的な柔らかさというかしなやかさが、音楽にエキゾチズムを与えているのではないかと思いました。スペインの風を確かに感じました。ドゥネーブの指揮も、このソリストの柔らかさに乗った演奏で、そこが素敵だったと思います。センスの良い演奏でした。

 ルーセルの第三交響曲。これこそドゥネーブの面目躍如たる演奏。かっちりとした構成の中に音色美とダイナミクスを詰め込んだような演奏。私自身は20年ぶり位で実演で聴きました。前利いた時は、ミシェル・プラッソンが指揮したのですが、こんなダイナミックな音楽に演奏しただろうか、という気がします。そのダイナミズムは悪くないのだろうけど、あざとく聴こえてしまうのが残念です。

 ボレロ。お客さんは熱狂しました。さすが、N響のヴィルトゥオジティです。でもね、なんです。普通、この曲って最初小太鼓のピアノピアニッシモから始まる。聴こえないぐらいの小さい音で始まって、段々クレッシェンドしていくわけですが、ドゥネーヴは、ピアニシモスタートで演奏させる。その分、後半は小太鼓を二台(石川さん一人から、石川さん+竹島さんになる)に追加して、大音量をこしらえます。つまり音を強い方向にシフトさせて演奏させているわけです。それは、最後は、あの広いNHKホールを震わせるような音になるわけですが、大きい音にシフトした分、少し乱暴になる部分があって、もう少し小さ目で演奏した方が、音楽的には魅力的だったのではないかと思いました。


2015年06月12日 第1812回定期演奏会
指揮:アンドリス・ボーガ

曲目: モーツァルト

交響曲第1番 変ホ長調 K.16

     
モーツァルト ホルン協奏曲第一番 ニ長調 K.412
      ホルン独奏:ラデク・バボラーク
       
R・シュトラウス ホルン協奏曲第一番 変ホ長調 作品11
      ホルン独奏:ラデク・バボラーク
       
ラフマニノフ 交響的舞曲 作品43 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:伊藤、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:客演(都響の鈴木学さん)、チェロ:向山、コントラバス:市川、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:水谷、サクソフォーン:客演(フリー奏者の大城正司さん)、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川 、ピアノ:客演(フリー奏者の楠本由紀さん)

弦の構成:モーツァルト;10-8-6-5-3、リヒャルト・シュトラウス;12型、ラフマニノフ:⒗型

感想

 先週のドゥネーヴとかなり対照的な指揮者でした。アンドリス・ボーガ。私は彼の方を支持します。

 モーツァルトの1番。8歳の少年が、「よくこんな作品を書けたな」、と感心するけれども、音楽だけを虚心坦懐に聴くとき、大して傑作ではありません。まあ、愛すべき小品というところでしょう。このような作品は、指揮者がいなくても成立するわけで、下手に指揮者が出しゃばるとかえっておかしくなってしまう。ボーガ、そこはよく分かっているようで、オーケストラの自主性に任せた用に見える演奏。結果として生き生きとした息吹を感じました。今井、勝俣両氏のホルンが絶品。

 モーツァルトのホルン協奏曲第1番。小品だけど明らかに傑作。バボラークが何とも巧い。天馬駆けるような演奏とはこういう演奏を言うのでしょう。音も素晴らしいし、技量もさすがとしか言いようがありません。N響のフォローも良く、気持ち良く聴くことが出来ました。

 リヒャルト・シュトラウスのホルン協奏曲。モーツァルトのホルン協奏曲が作曲されてからほぼ100年後の作品です。オーケストラの管楽器が増強され、和声も複雑になっていますが、並べて聴いてみると、ドイツ音楽の伝統の繋がりみたいなものも感じてしまいました。これは、多分、バボラークの技術が素晴らしいのと、バボラークの意識が、モーツァルトと、シュトラウスとが同じ線上にある用に感じて演奏しているからでしょう。素晴らしい演奏だったと思います。

 以上3曲は、指揮者の主張が隠れていた演奏。で、最後の「交響的舞曲」はそのベールを脱いだかというと、これは、ボーガよりもラフマニノフを感じさせる演奏。もちろん演奏にボーガの主張はあり、それが例えば、第二楽章のワルツの色っぽさに繋がって来るのだろうと思いますが、その主張は、作曲家の意図をどう伝えるのか、ということに重きを置いたような演奏のように思いました。これ見よがしなことはしないのだけれども、オーケストラを上手に引っ張って、聴いていると、響きの甘さがしみ込んでくるような演奏。私はいたく気に入りました。


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