NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2013年(前半)

目次

2013年01月11日 第1745回定期演奏会 デーヴィッド・ジンマン指揮
2013年01月26日 第1747回定期演奏会 ジョン・アクセルロッド指揮
2013年02月09日 第1748回定期演奏会 ヒュー・ウルフ指揮
2013年02月15日 第1749回定期演奏会 準・メルクル指揮
2013年04月13日 第1751回定期演奏会 ピーター・ウンジャン指揮
2013年04月19日 第1752回定期演奏会 セミョーン・ビシュコフ指揮
2013年05月11日 第1754回定期演奏会 尾高 忠明指揮
2013年05月17日 第1755回定期演奏会 ウラディーミル・フェドセーエフ指揮
2013年06月08日 第1757回定期演奏会 下野 竜也指揮
2013年06月14日 第1758回定期演奏会 チョン・ミョンフン指揮

2012年ベスト3
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2011年ベスト3
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2010年ベスト3
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2009年ベスト3
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2008年ベスト3
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2007年ベスト3
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2006年ベスト3
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2003年ベスト3
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2001年ベスト3
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2013年01月11日 第1745回定期演奏会
指揮:デーヴィッド・ジンマン

曲目: マーラー 交響曲第7番 ホ短調「夜の歌」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:水谷、ホルン:福川、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ハープ:早川、ティンパニ:久保

弦の構成:16型

感想

 ジンマンのマーラー「夜の歌」。作品自身が、パロディー的というかこけおどしというか、そういう音楽ですから、ねっとりと軽薄に演奏するのが良いのではないかと思います。

 ジンマンのもって行き方は、正にそういう感じで、全体としては悪くありません。スケルツォのガチャガチャした感じや、第2、第4楽章の隔靴掻痒感のある雰囲気なんかはなかなか面白い思います。またN響弦楽陣のねとっとした雰囲気も悪くなかったと思います。

 しかし、華やかな金管が悉く、と申し上げてよいぐらいミスが目立ちます。決して易しい作品ではないと思いますが、N響でここまでミスが目立ったのは本当に久しぶりな感じです。テナーホルンがダメ、トランペットがダメ、トロンボーンもホルンもあちらこちらでミスっている感じです。この作品は金管のこけおどしで持っている部分があるので、ここまでミスが目立つと音楽全体としては悪くないとしてもBooが飛ぶのはやむを得ないかな、と思いました。

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2013年01月26日 第1747回定期演奏会
指揮:ジョン・アクセルロッド

曲目: バーンスタイン 交響曲第2番「不安の時代」
      ピアノ独奏:スチュワート・グッドイヤー
  ショスタコーヴィチ    交響曲第5番 ニ短調 作品47 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
ゲストコンマス:イゴール・グルップマン(現ロッテルダム・フィル・コンサートマスター)、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:佐々木、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(前首席奏者の岡崎耕治さん)、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ハープ:早川、ティンパニ:植松、ピアノ/チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)
弦の構成:16型

感想

 第二次世界大戦後の余韻冷めやらぬ頃に書かれたバーンスタインの交響曲2番には「不安の時代」という副題が付けられています。これは勿論この作品が、第二次世界大戦中という正に「不安の時代」を背景に書かれたオーデンの同名の詩に触発された書かれた作品であることに間違いないのですが、バーンスタインの音楽は、現実の時代がパックス・アメリカーナが成立し、アメリカの一番幸せな時代に書かれた作品であることに疑いがない。

 つまり、バーンスタインの音楽は表面的には寂寥感があるし、表面的な不安は描かれているのですが、その不安は戦勝国で景気が良く、これから成長するアメリカであったからこそ考えられた不安ではなかったのかと60年後聴取者は思います。

 一方、ショスタコーヴィチの交響曲第5番は社会主義的リアリズムの勝利として書かれた「分かりやすい」音楽で、当時のソヴィエト政府と国民から圧倒的支持を得た作品なわけですが、その中に、ショスタコーヴィチの社会主義体制に対する冷めた皮肉がたくさん含まれていることは今や常識です。

 アクセルロッドの音楽づくりは、この20世紀前半、ほぼ10年違いで作曲された二つの交響曲の表面的意味を逆転させるものでした。バーンスタインについてはスタイリッシュな演奏に終始し、バーンスタインの描く不安が、幸福の中にいるからこそ知ることのできる不安であることを如実に示しておりました。そこには、勿論グッドイヤーのピアノのスウィングが大きく貢献していたに違いありません。

 バーンスタインの交響曲第2番はジャズのイディオムがベースにあるのですが、それをN響がきっちり表現できるかどうかが問題でした(N響の一番苦手なところです)。そこは相当うまくいったと思います。アクセルロッドの基本的な構成もよかったのでしょうし、ピアニストのグッドイヤーの先導も効果を発生していたと思います。第二部の「仮面劇」は、ジャズトリオのインプロヴィゼーション風音楽になるわけですが、グッドイヤーのピアノ、吉田秀さんのベース、竹島さんを中心とした打楽器人のドラムスが正にジャズを作り出していました。

 ショスタコーヴィチの5番は、幸福な「不安な時代」とは一転してパロディックな音楽づくり、ショスタコーヴィチの皮肉な視線をより強調した音楽でした。速い部分はとことん速く、遅い部分は徹底的にゆっくりと演奏し、ショスタコーヴィチが表面的に示した「社会主義的リアリズムの勝利」の空しさを上手に描いていたと思います。

 プログラムが見事で、そのプログラムの意図をアクセルロッド/N響は見事に示すことができました。名演奏でした。

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2013年02月09日 第1748回定期演奏会
指揮:ヒュー・ウルフ

曲目: ベートーヴェン ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
      ピアノ独奏:ポール・ルイス
  アデス    歌劇「パウダー・ハー・フェイス」(1995)から「ダンス}(2007) 
  プロコフィエフ    「ロミオとジュリエット」組曲 第1,2番(抜粋) 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:客演(元首席奏者の川崎和憲さん)、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:水上、ホルン:福川、トランペット:関本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ハープ:早川、ティンパニ:植松、ピアノ/チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)
弦の構成:協奏曲;14型、それ以外;16型

感想

 「皇帝」協奏曲。このベートーヴェンの名曲は、オーケストラの定期演奏会でよく取り上げられる協奏曲の定番ですが、私が聴くのは久しぶりでした。前回聴いたのは多分2008年、尾高忠明指揮、レオン・フライシャーピアノの演奏。約5年ぶりに聴いたことになります。このフライシャーの演奏は、あまり結構な演奏ではなかったので印象に残っているのですが、今回のポール・ルイスの演奏は、端的に申し上げれば標準的な演奏でした。

 このルイス、という方、アルフレッド・ブレンデルのお弟子さんだということですが、そのリリックな音の響かせ方にブレンデルの感じと似ているところがあって、面白いなと思いました。しかし、この方、ブレンデル流で流すのは飽き足らなかったのでしょうね。ところどころ、ダイナミックに走ります。ただ、そのダイナミックな部分はリリックに演奏する部分と比較すると、明らかに面白くない。師匠の学究的な態度をより突き詰めるような演奏の方がよかったのではないか、という気がしました。

 N響のサポートはこれまたきわめて普通。ただ、指揮者の問題なのでしょうか、ピアノとオーケストラとが微妙にずれる所がいくつかあり、気になりました。

 アデスの歌劇「Powder Her Face」から「ダンス」は、よく分からない音楽でした。勿論指揮者のヒュー・ウルフは勿論わかっているのでしょうが、演奏しているN響のメンバーも楽譜の字面を追っているような演奏で、音楽として練り切れていない印象です。演奏する側の共感がないと、音楽はつまらなく感じるのだな、と当たり前のことを思いました。

 「ロミオとジュリエット」の組曲。本日の白眉。陰影をつけた、描き分けをはっきりさせた演奏で、しかしながら、元々バレエ音楽であるというリズム感も失っていない感じで、立派な演奏でした。冒頭の有名な「モンタギューとキャピュレット」のテーマからぐっと引き込まれる感じがありました。N響もそのヴィルトゥオジティをいかんなく発揮して素敵な演奏になったものと思います。

 
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2013年02月15日 第1749回定期演奏会
指揮:準・メルクル

曲目: サン・サーンス チェロ協奏曲 第1番 イ短調 作品33
      チェロ独奏:ダニエル・ミュラー・ショット
  ラヴェル    バレエ音楽「ダフニスとクロエ」(全曲) 
      合唱:国立音楽大学 合唱指導:田中信昭/永井宏 


オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:佐々木、チェロ:客演(フリー奏者の向山佳絵子さん)、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、バスーン:水谷、ホルン:日高、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ハープ:早川、ティンパニ:植松

弦の構成:協奏曲;12型、それ以外;16型

感想

 まずはどうでもよいゴシップから。本日のチェロトップは、N響チェロ首席奏者・藤森亮一さんの奥様で、ソロのチェロ奏者としても日本を代表する一人である向山佳絵子さんが務めました。これは、旦那が急に風邪をひいて、奥方が代理で出て来たのかと思ったのですが、後半の「ダフ・クロ」では、藤森さんもトゥッティの後ろで演奏しています。どうしたのかな、と思ったら、向山さんが今回出演することは、前から決まっていたことだそうです。ところが、トゥッティ奏者の某氏が風邪で急にダウンされたため、出演予定がなく家にいた藤森さんが急遽呼び出されて舞台に上ったようです。

 それにしても首席奏者が後方で演奏し、その奥様がトップをとる姿は、なかなか面白い絵にはなっておりました。

 閑話休題。で演奏ですが、準・メルクルの音楽センスの良さをたっぷり感じることになりました。どちらの曲も素晴らしい演奏。

 サン=サーンスのチェロ協奏曲は、第二楽章がメヌエットのリズム、ということもあるのでしょうが、古典的な印象の強い曲です。そこをダニエル・ミュラー・シュミットは、温かいけれども重くならない音ですっきりと演奏していきます。これがまずよいと思いました。この演奏に、メルクルは、N響をロココ的優美さをもって演奏させました。だから、全体として、優美で柔らかい清潔感の漂う演奏になっていました。独奏者・オーケストラともにチャーミングな演奏だったと思います。ソリストのアンコールは、ラベルの「ハバネラ形式のヴォカリーズ」のチェロ編曲版でした。

 後半の「ダフニスとクロエ」全曲。この作品、第二組曲はしばしば聴きますし、全曲演奏もデュトワやプレヴィンの指揮でN響定期でも取り上げられていて、珍しい曲では全く無いはずなのですが、凄く新鮮に聴こえました。その理由の一つは合唱の参加です。この作品はヴォカリーズのみの合唱が入るのが本当のようですが、今までの私の聴いた全曲演奏で合唱の入った例はなかったと思います。

 第一部と第二部の間に無伴奏の合唱による「間奏曲」が入るのですが、私は初めて聴いたかもしれません。舞台が暗くなった中での国立音大の学生による合唱団は、この神秘な「間奏曲」を雰囲気たっぷりに演奏し、そこに裏に入って演奏した日高さんのソロ・ホルンと菊本さんのソロ・トランペットが遠くから聞こえてくる様子がまた素敵です。

 とにかく、合唱が入ることによって管弦楽曲としての「ダフ・クロ」よりも間違いなく音楽的な厚みが出ましたし、描写音楽としての幅も広がったように思いました。

 勿論、準・メルクルの指揮も立派です。メルクルの演奏は、デュトワのような風通しの良いすっきりした演奏ではないのですが、輪郭のぼやけたパステルカラーのような音楽づくりで印象的です。日独混血なのに、どうしてこんなに優美にフランス音楽を演奏できるのだろうと思うほどでした。とにかく、彼の体質にぴったりとしている感じです。また、力感の強い部分はしっかりダイナミックにオーケストラをドライヴし、彼の指揮ぶりを見ていると、女性ファンが惹かれるのは当然のように思えました。

 N響のメンバーもみな立派。フルート・甲斐さん、ピッコロ・菅原さん、オーボエ・青山さん、イングリッシュホルン・和久井さんと、みな素敵な音を響かせてくれて、音楽全体のつくりもとても良い。幸せな2時間でした。

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2013年04月13日 第1751回定期演奏会
指揮:ピーター・ウンジャン指揮

曲目: ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調 作品77
      ヴァイオリン独奏:ヴィクトリア・ムローヴァ
  ラフマニノフ    交響曲第2番 ホ短調 作品27 


オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:小野(富)、チェロ:木越、ベース:市川、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(元首席奏者の岡崎耕治さん)、ホルン:福川、トランペット:関本、トロンボーン:新田、チューバ:客演(フリー奏者の久保和範さん)、ハープ:早川、ティンパニ:植松

弦の構成:協奏曲;14型、交響曲;16型

感想

「アーラ奥様、今日のN響、お聴きになりまして?」
「エッ、お聴きになられていないんですか。ムローヴァが抜群に良かったのですわよ。聴かれなかったのは、本当に残念ですわ」

 ムローヴァがソリストを務めたショウスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲は正にそんな演奏でした。まず、テクニックが完璧。技術的に相当な難曲ですが、ムローヴァは軽々と演奏します。細かいところも忽せにせず、きっちりと弾きこなしていきます。技術的に完璧な時、音楽がどうなるか、ということを否応なしに見せつけられました。音楽のベースが技術にあるということがよく分かります。間違いなく、本年随一の協奏曲でしょう。

 その上、ムローヴァはこの作品を完全に自家薬籠中の物にしていますから、音楽の息遣いが実に自然です。自分の主張をあからさまに出すようなことはしないのですが、ごく薄いナチュラルメイクのような演奏で、ポイントポイントを極く薄目に強調して見せます。それがまた実に見事で、旋律線を際立たせる技術も凄い。自然だけどスリリング、正に名演と申し上げて何の躊躇もありません。凄かったです。

 この演奏を支えるN響も立派でした。指揮者のウンジャン、東京SQの元第一ヴァイオリン奏者だったという経歴は伊達ではありません。弦楽器の音の溶け込ませ方が上手いのですね。だからムローヴァも演奏しやすかったのでしょう。そういうあまり表に見えないことも含め、名演奏になる素地があったのでしょう。

 後半のラフマニノフ。前半のヴァイオリン協奏曲があまりに良かったものですから、割を食った感は否めません。それでも決して悪い演奏ではありませんでした。

 指揮者のウンジャンは元ヴァイオリニスト、ということがあって、弦楽器の動かし方が上手だと思います。弦楽器の下地の中に管楽器を乗せていくという原則がしっかりしているのが良いです。伊藤さんのクラリネットや和久井さんのイングリッシュホルンなどがとても良かったのですが、これは弦楽器がしっかり演奏しているので、上手に上に乗れた、ということがあるのだろうと思いました。

 第三楽章の緩徐楽章は、直ぐべたべたになってしまう楽章ですが、ウンジャンは、やや甘さに流れていましたが、全体としては堪えていて崩れがなくよかったと思いました。惜しむらくはフィナーレ。もう少し落ち着いてすっきりした終わり方の方が余韻が残るような気がしました。

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2013年04月19日 第1752回定期演奏会
指揮:セミョーン・ビシュコフ指揮

  ヴェルディ生誕200年     
曲目: ヴェルディ レクイエム
      ソプラノ独唱:マリナ・ポプラフスカヤ
      マゾ・ソプラノ独唱:アニタ・ラチヴェリシュヴィリ 
      テノール独唱:ディミトリ・ビタス 
      バス独唱:ユーリ・ヴォロビエフ 
      合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史) 


オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:佐々木、チェロ:木越、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:水谷、ホルン:福川、トランペット:関本、トロンボーン:新田、チンバッソ:池田、ティンパニ:久保、大太鼓:石川

弦の構成:15-14-12-10-8

感想

 ヴェルディの「レクイエム」は非常に劇的で、オペラティックな作品だと言われます。それは、テレビ番組なんかでもよく使われる「怒りの日」の冒頭の合唱があるからでしょうし、それ以外でも教会で演奏されるのが似合う作品というよりは、コンサートホールで演奏されるほうが似合うかな、という気がします。しかし、全体を聴いていていつも思うのは、そういう劇的な部分に隠れたヴェルディの死に対する畏れというか宗教的なものに向き合う姿勢だと思います。

 今回のN響定期で、そのヴェルディの宗教性を強く感じて演奏していたのは指揮者のビシュコフのように思いました。意識としては敬虔な演奏を心掛けており、逆にそれがN響を戸惑わせているのではないか、と思うほどでした。ただ、それが音楽全体を統率できていたか、という点になると疑問が残ります。ソリストは、ビシュコフほど敬虔ではなかったように思います。

 特に二人の女声です。二人ともソリストとしての意地とプライドとが出過ぎているところがあって、バランスが悪い。ソプラノのマリヤ・ボブラフスカヤは最後の「リベラ・メ」などは、素敵な合唱を引き連れて、素敵な歌唱に仕上げているのですが、メゾソプラノとの重唱になると、声が溶け合わないし、例えば、同じようにディミニエンドすればよいところで、同じようにディミニエンドしないので、片方の声だけが強く聞こえたり、もう少しお互い譲り合った歌唱をした方が良いのではないかと思いました。

 まあ、比較的響かないのに広さだけは広いNHKホールに圧倒されて、少し頑張りすぎたという部分はあるのでしょうね。この頑張りすぎ、という感じは、テノールやバス歌手にも感じました。

 新国立劇場合唱団は130人の大人数。元々歌える人の集団ですから迫力は十分あります。アカペラで歌われる部分などは、非常に立派でした。また、ピアノで歌う部分も表現・表情も素敵でよかったです。ただ、大人数のせいなのか、反響板のせいなのかよく分かりませんが、どこか少し籠って聞こえました。

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2013年05月11日 第1754回定期演奏会
指揮:尾高忠明指揮

曲目: エルガー 序曲「フロアサール」
  ディーリアス   歌劇「村のロメオとジュリエット」から間奏曲「天国への道」 
  ヴォーン=ウィリアムス    テューバ協奏曲 
      テューバ独奏:池田幸広
  ウォルトン    交響曲第1番


オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:小野(富)、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(東京交響楽団の福井蔵さん)、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:客演(フリー奏者の久保和範さん)、ハープ:客演(フリー奏者の山口裕子さん)、ティンパニ:久保、

弦の構成:協奏曲;14型、その他;16型

感想

 日本におけるイギリス近代音楽の紹介に尾高忠明が果たした役割は決して小さくないと思います。N響においては特にそうではないでしょうか。エルガーの交響曲第1番を定期演奏会で3回も取り上げる指揮者がそういるとは思いません。その尾高のオール近代イギリスプログラムの演奏会でした。

 ちなみにイギリス近代音楽の作曲家といえば、ブリテン、ホルスト、ティペットに今回演奏された4人の作曲家を加えると、有名な方はほとんど網羅されてしまいます。そういう意味で、今回の演奏会は、近代イギリス音楽の特徴を広く啓蒙する演奏会になっていたと思います。

 私は勿論啓蒙される側で、N響定期演奏会ではすべて初演かもしれません。ヴォーン=ウィリアムスの「テューバ協奏曲」は、かつてオーチャード定期で取り上げていますし、その他の作品も特別演奏会で演奏されたことがあるかもしれませんが、定期演奏会では1987年以降取り上げられている曲はありません。私はすべて初めて聴く曲ばかりでした。

 エルガーの「フロアサール」は、ところどころに挟まるファンファーレが標題音楽の特徴を示す感じの作品。リストの交響詩のような雰囲気を感じました。

 ディーリアスは、普段聞くことの多い牧歌的な雰囲気の曲とは全然違った耽美的な作品。N響はこういう曲を演奏させると当然ながら上手です。弦楽器が魅力的でした。

 ヴォーン=ウィリアムスのチューバ協奏曲。音楽史上初めてのチューバ協奏曲だそうですが、当然でしょうね。チューバはどう考えてもソロ楽器には向かないです。低音楽器は大事ですが、アンサンブルでこそ魅力を発揮するのだな、ということを改めて感じた次第です。しかしながら池田幸広の技術は見事なものでした。決して演奏しやすい作品だとは思えませんが、第三楽章のカデンツァなどは見事なもの。素敵な演奏でした。

 ウォルトンの交響曲一番。今回一番気に入りました。こんな素敵な交響曲を今まで聴いたことがなかったなんて、残念な限りです。ただ、作品としてはかなりの難曲のようで、本当にこれでいいのかしら、と思う部分があちらこちらで耳に付きました。でも、金管の咆哮にせよ、フルートの見事なソロにせよ、やっぱり立派だったと思いますし、大いに楽しめました。

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2013年05月17日 第1755回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・フェドセーエフ

曲目: ショスタコーヴィチ 交響曲第1番 ヘ短調 作品10
  チャイコフスキー    弦楽セレナード ハ長調 作品48 
  ボロディン    歌劇「イーゴリ公」から「序曲」、「韃靼人の踊り」 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:水谷、ホルン:今井、トランペット:関本、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ハープ:客演(日本フィルの松井久子さん)、ティンパニ:植松、ピアノ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)
弦の構成:16型

感想

 N響とは初共演となるフェドセーエフですが、初共演のぎこちなさを否が応でも感じさせられる演奏会でした。フェドセーエフは、正統的というか、真面目な指揮者だと思いますが、その真面目さとぎこちなさとが相俟って、音楽の重さに繋がったような気がします。

 特に感じたのが、最初のショスタコーヴィチの交響曲1番。もっとウィットに富んだというか、不真面目な演奏をすれば、ショスタコの悪意が浮かび上がってきてそこが面白くなるのですが、硬い一方の演奏で、聴いていて詰まらない。楽器間の音のバランスも今一つ納得できかねるものでしたし、パッとしない印象です。個別の奏者は、ピアノの梅田さん、クラリネットの松本さん、ファゴットの水上さん、フルートの神田さん、オーボエの青山さん、と皆立派な演奏をされていると思うのですが、アンサンブルとして纏まってくると、今一つしっくりきませんでした。

 全体的にもっと快活な演奏をした方が、良かったのではないかと思いました。

 「弦楽セレナード」。本日の白眉。なんだかんだ言っても、N響の弦は素晴らしいと思いました。この曲だったら、N響は指揮者がいらないのではないかしら、と思うほど。フェドセーエフの色があまり目立たなくて良かったと思いました。しかしながら全体的に重い感じがしたのと、普通遅くしないところを遅くしたりするなど、フェドセーエフ節がところどころで聞こえるのがアクセントになっていました。

 歌劇「イーゴリ公」から「序曲」と「韃靼人の踊り」。盛り上がる曲だから最後に持ってきて沢山の拍手を貰う作戦。成功でした。興奮している方が多かったと思います。確かに迫力はありましたが、音楽としては今一つ詰まらなかったと思います。韃靼人の踊りの前半は、重い感じです。踊りの音楽なのにこんなに重くていいのかしら、と思ってしまいました。フィナーレの速い音楽との対比を明確にするためだとは思いますが、方針が見え見えで、鼻白んでしまいました。

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2013年06月08日 第1757回定期演奏会
指揮:下野 竜也

曲目: バッハ(エルガー編) 幻想曲とフーガ ハ短調 BWV537
  シューマン    ピアノ協奏曲 イ短調 作品54 
      ピアノ独奏:ネルソン・ゲルナー 
  ホルスト    惑星 作品32 
      女声合唱:東京混声合唱団、合唱指揮:水戸博之 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:客演(読売日響の鈴木康浩さん)、チェロ:木越、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:水谷、ホルン:今井、トランペット:関本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ハープ:早川、ティンパニ:植松、チェレスタ:客演(フリー奏者の梅田朋子さん)、オルガン:客演(フリー奏者の新山恵理さん)
弦の構成:協奏曲;12型、その他:16型

感想

 下野竜也の指揮は、うねる波のような感じに特徴があり、その「よいしょ」という感じが気に入っています。そのよいしょ感でうまく乗せたのが、「惑星」。ちょっと遠慮して波に乗れなかったのが、シューマンだったのかな、と思いました。

 エルガー編曲のバッハ。これは本当に時代がかっている曲でした。バッハ作品の持つ素朴な感じを、エルガーは思いっきりきらびやかに大げさにして見せます。オーセンティック楽器によるオリジナル演奏研究が進んでいる現代なら、こんな編曲は誰も考えないでしょうが、後期ロマン派の息を感じていたエルガーならではの編曲だと思います。N響は、その華々しさを衒いもなく演奏して見せました。面白いけど、二度聴かなくてもよい作品だと思いました。

 シューマンは、N響が遠慮しすぎたな、と思いました。ゲルナーというピアニスト、リリシズムに溢れると言えば聞こえがいいですが、要するに弱音に気を持たせるタイプのピアニストです。そういう繊細な演奏に対応するために、N響は通常の協奏曲よりも弦を1プルト減らし、12型で演奏しました。その上、更にピアニストに気を使って引いた演奏に終始しました。

 お陰て、ピアノとオーケストラがぶつかることなく、淡々と演奏が進みます。私は弱音は強音を目立たせるための手法だと思うのですが、ゲルナーは、フォルテシモをガンと弾くことはしない方のようで、デュナーミクの幅は狭い。その幅にN響も合わせるので、正直申し上げて、心が躍らない。もっとオーケストラからアプローチをしてピアニストを奮い立たせても良かったのではないか、と思いました。

 「惑星」。ピアニストの重しが取れたせいか、指揮者もオーケストラも伸び伸びと演奏したと思います。聴き手に分かるようなミスが幾つか散見されましたが、音楽としての迫力と熱気があるので、聴き応えがあります。7曲それぞれの特徴の違いに着目した演奏で、くっきりとした演奏に仕上がっていたように思います。

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2013年06月14日 第1758回定期演奏会
指揮:チョン・ミョンフン

曲目: ベートーヴェン 交響曲第2番 ニ長調 作品36
  ロッシーニ    スターバト・マーテル 
      ソプラノ独唱:ソ・ソニョン
      ソプラノ独唱:山下 牧子
      テノール独唱:カン・ヨセフ
      バス独唱:パク・ジョンミン
      合唱:東京混声合唱団(合唱指揮:松井慶太)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:水谷、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、ティンパニ:客演(群響の清水太さん)
弦の構成:ベートーヴェン;12-12-10-8-6、ロッシーニ;16型

感想

 ベートーヴェン第2交響曲は、第一ヴァイオリンのトゥッティ奏者二名減らしたことが、普段聞いているこの作品とは曲の立体感が異なっているように思いました。音に隙間が出来て、その隙間に管の音が流れ込んでいるような感じでした。モダン楽器での演奏でありながら、オーセンティック楽器の音色を想像してしまいそうな演奏と申し上げてよいのかもしれません。この一寸した位相差を見せるのが、チョン・ミョンフンの真骨頂なのでしょう。軽やかな素敵な演奏でした。

 ロッシーニのスターバト・マーテル。傷の目立つ演奏でしたが、傷のない部分の合唱とオーケストラの素晴らしさが、その少なくない傷を許してやろうと思わせるような演奏。この作品、なかなか演奏されることのない作品ですが、久しぶりに聴いて、やっぱり名曲だと思いを新たにしました。

 東京混声合唱団は流石に力があります。ただ、人数は多すぎた感じ。女声65人、男声54人、計119人は、アカペラの合唱曲を歌うには多すぎるように思いました。アカペラになると、合唱団の中でテンポが微妙にずれて音にうねりが生じてきます。これは練習を重ねてタイミングを合わせていくしかないと思うのですが、合唱団の内部で、舞台と客席との距離感がつかめていなかった感じがしました。人数を思い切って減らした方が、合唱が揃って、声に透明感が出て来たのではないかと思いました。

 しかしながら、合唱団の声が揃った時の魅力は格別です。第9曲、無伴奏合唱で歌われた「肉体は死んで朽ち果てるとも」の後半は涙が出るほど素晴らしかった。

 ソリストは、チョン・ミョンフンが連れて来た韓国人が三人と日本人でしたが、彼らは今一つでした。韓国人ソリストに総じて言えるのは、宗教曲のソリストを務めるということがどういうことなのか、分かっていないのではないか、と思わせる節がありました。「スターバト・マーテル」は稀代のオペラ作曲家・ロッシーニの作品ですから、オペラティックな部分は沢山あるのですが、そこで、オペラアリアを歌い上げるように歌うと、宗教感が薄れてしまいます。

 三人のソリストは自分を主張したくなるようです。勿論それは悪いことではないのですが、この曲の一定のトーンの範囲でそれぞれの曲の特徴が明らかになるように歌えばもっと素晴らしいと思うのですが、そこを無視した主張があるように思いました。なお、バス・ソロはもっと重い声の方の方が、この作品に似合っているように思いました。

 以上、気に入らない点も多いし、合唱団員のフライングもあり、完成度は今一つでしたが、指揮者のコントロ-ルがよいのか、終わってみれば、感動しておりました。

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