NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2012年(前半)
目次
2012年01月13日 第1718回定期演奏会 ラドミル・エリシュカ指揮
2012年01月28日 第1720回定期演奏会 レナード・スラトキン指揮
2012年02月11日 第1721回定期演奏会 ベルトラン・ド・ビリー指揮
2012年02月17日 第1722回定期演奏会 ジャナンドレア・ノセダ指揮
2012年04月14日 第1724回定期演奏会 ロジャー・ノリントン指揮
2012年04月20日 第1725回定期演奏会 ロジャー・ノリントン指揮
2012年05月13日 第1727回定期演奏会 尾高 忠明指揮
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2012年01月13日 第1718回定期演奏会
指揮:ラドミル・エリシュカ
| 曲目: | スメタナ | 交響詩「ワレンシュタインの陣営」 作品14 | |
| ヤナーチェク | シンフォニエッタ | ||
| ドヴォルザーク | 交響曲第6番 ニ長調 作品60 |
オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:井野邉、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、バスーン:水谷、ホルン:日高、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ハープ:早川、ティンパニ:久保
弦の構成:16型
感想
ラドミル・エリシュカは、2009年2月のN響定期演奏会に客演し、スメタナの交響詩「我が祖国」を振って、大変な評判を得ました。2009年の「最も心に残ったN響コンサート」の第一位にも選ばれました。私もその演奏会は聴いているのですが、彼の演奏はとても素敵なものだとは思いましたが、年間ベスト1を取るような演奏ではなかった、そんな気がしていたと思います。
今回エリシュカの演奏をじっくり聴いて思ったのは、私は、エリシュカの演奏が趣味ではないと言うことです。勿論、ある意味凄い土臭い演奏だったので、こういう演奏が好きな方は沢山いるのだろうな、とは思います。しかし、私は、彼のような切り口は好きではなれません。全体としては、春風駘蕩たる演奏で、飄々としている感じもあります。そこが、エリシュカの人間性なのでしょうが、音楽はそれだけで良いということではないと思います。
スメタナの交響詩、「ワレンシュタインの陣営」、私は全く初めて聴く作品です。これぞ交響詩、という感じの作品で、音楽で描かれる情景がかなりストレートです。こういう作品は、緩急をもう少し明確にして、ある意味下品に演奏したほうが、曲の魅力が示しやすいと思うのですが、エリシュカには緩のみで急がない。そのせいかどうか分かりませんが、N響のメンバーも、今一つ音楽に乗り切れていない感じで、おどおどした演奏になっているように思いました。
ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」。この演奏もユニークです。私のテンポ感覚からすると、飄々とした演奏でした。よく言えば大人の風格が感じられる演奏ですが、遅いところはやや間延びして聴こえます。もう少し畳みかけるようなパワーが感じられても良い作品だと思いますが、それが無い演奏です。またこの作品は、12本のトランペットが必要で、沢山のエキストラの方が出演されていましたが、N響の正式トランペット奏者と比較すると、技量不足の方が多いようで、ファンファーレが今一つ締まらない感じがしました。
ドヴォルザークの6番の交響曲。実演で聴くのは初めてです。今日の三曲の中では、私に一番しっくりきた演奏でした。エリシュカの持っているボヘミア人の感覚とこの作品が、一番呼応している感じです。比較的ゆったり目の演奏で、そういう意味ではエリシュカらしい演奏ですが、そのエリシュカ節が作品に良く合っている感じがします。ある意味野暮ったい演奏ですが、作品の地味な感じにマッチしていました。第4楽章のアレグロが、アンダンテで演奏されるのではないか、という危惧を持って聴いていたのですが、流石はそれは無く、沢山ブラボーを貰っていました。
2012年01月28日 第1720回定期演奏会
レナード・スラトキン指揮
| 曲目: | ペルト | フラトレス(1977/1991改訂) | |
| バーバー | ヴァイオリン協奏曲 作品14 | ||
| ヴァイオリン独奏:ナージャ・サレルノ・ソネンバーク | |||
| チャイコフスキー | 交響曲第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」 |
オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(東京フィルの黒木綾子さん)、ホルン:今井、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、大太鼓/小太鼓:竹島、ピアノ:客演(フリーの梅田朋子さん)
弦の構成:協奏曲;12型、それ以外;16型
感想
スラトキン、12年ぶりのN響定期公演への登場です。そのころの私のスラトキンに対する印象は、割とオーソドックスだけれどもリズムに関する感性が高く、曲の構築感というか、見通しの良い演奏をする方だ、という印象でした。今でも好印象で残っているのは、1988年の1055回定期演奏会におけるアメリカ音楽特集や、1993年のマーラーの第5番の交響曲、同じく、ラベッグ姉妹とのモーツァルトの二台ピアノ、三台ピアノの協奏曲、2000年のチャイコフスキーの5番交響曲などです。
そんなわけで、12年ぶりのスラトキン、期待して伺ったのですが、スラトキン、変わったな、というのが率直な印象です。一言で申し上げるならば、演奏が臭くなりました。ケレンミのあり過ぎる演奏、と申し上げたらよろしいのでしょうか。
典型的なのが、悲愴交響曲です。この作品は、楽章ごとの表情が全く違い、それを対比的に描くと言うやり方は良く分かります。一つ一つのためを利かせて、表情豊かに進んで見せます。第二楽章のポルタメント、最終楽章のあの見事なまでの慟哭。あういう演奏が好きな方にはたまらないでしょう。でも私には、やり過ぎにしか思えませんでした。濃厚な味付けではありますが、人工調味料の濃厚さ、と言うべきか。もっと薄味で、要所要所には出汁が効いている京料理のような演奏に仕上げて下されば良かったのに、と思います。
バーバーのヴァイオリン協奏曲。バーバーをことのほか得意とするスラトキンと、この曲をレパートリーの中心に置くと言われるナーシャとの組み合わせ。いい演奏に仕上がるのか、と思いきや、スラトキンの味がナーシャの持ち味を覆ってしまった演奏という感じがしました。スラトキンの音楽構築にケレンミがあり過ぎるのだと思います。
バーバーのヴァイオリン協奏曲は、1940年代から50年代のハリウッド映画のBGMみたいな作品ですから、まあ仕方が無い部分もあるのだろうと思いますが、N響の演奏が、映画音楽みたいに聴こえます。勿論そこにソリストがしっかり浮かび上がってくれればあまり気にならないのですが、ナージャは、格別美音という訳でもなく、音を張り詰めさせて、オーケストラの上に浮かびあがろうと言う意識もないようです。衣裳も黒い上着に、くすんだ赤のパンツという組み合わせで、そちらも華やかではありません。結果的にソリストがオーケストラの中に埋没した感じになって、映画音楽的な感じがますます強まったのではないか、という風に感じました。
ソリスト・アンコールは、ガーシュインの歌劇「ポーギーとベス」から「Bess, You Is My Woman Now」が演奏されましたが、弦楽5部の伴奏が付くもので、スラトキンが指揮しました。こういうアンコールは私は初めて見るもので、面白いと思いました。
最初のペルト。ペルトを代表するオーケストラ作品で、N響でも三度目の演奏です。しかしながら、私は初めて聴きました。弦楽合奏によるメロディアスな旋律をクラベスというウッドブロックのような楽器を挟み込みながら大太鼓を叩くことで区切っていくというものです。もっとへんてこな音楽かと思っていたのですが、旋律線が美しく、静謐な印象の強い音楽でした。N響弦楽陣の上手さが光ります。
2012年02月11日 第1721回定期演奏会
ベルトラン・ド・ビリー指揮
| 曲目: | ドビュッシー | 牧神の午後への前奏曲 | |
| プロコフィエフ | ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調 作品19 | ||
| ヴァイオリン独奏:イザベル・ファウスト | |||
| シューベルト | 交響曲第8番 ハ長調 D.944「グレート」 |
オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:客演(読売日響の鈴木康浩さん)チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:水谷、ホルン:今井、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、小太鼓・他:竹島、ハープ:早川
弦の構成:協奏曲;14型、それ以外;16型
感想
一言で申し上げれば、かなり面白い演奏会でした。指揮者の個性が曲の解釈と演奏の両方に出ている感じです。ベルトラン・ド・ビリーという指揮者、私自身は多分全く耳にしたことのない方ですが、「フィルハーモニー」誌によれば、今、ウィーンでは非常に注目されているフランス人指揮者なのだそうです。まあ、確かに、そう言われるだけの変な魅力のある方です。
「牧神」:普段自分が聴いている「牧神」との関係なのですが、微妙なずれを感じます。フルートとクラリネットが微妙にずれているのではないか、という感覚です。オーケストラ全体の微妙なバランスの悪さです。そこが、この指揮者のこだわりなのかな、と思いました。
プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番。素敵な演奏で良かったです。イザベル・ファウスト、上手なヴァイオリニストですね。モダニズムの傑作をモダニズムの傑作であることを鋭く示すように輝かしく演奏しているのですが、ギスギスした感じがしない。かっちりしたテンポ感覚の中で、音の広がりを素直に表現している感じがしました。第1楽章のヴァイオリンの動かし方は「見事」と申し上げるしかありません。伴奏の中に浮かび上がる旋律線が、微妙な距離感を持って迫ってきます。作品の解釈と演奏技術とが上手く組み合わされた名演奏であると思います。
シューベルトのハ長調大交響曲。これまで聴いたことのないような「グレート」でした。スタイリッシュな指揮で、全体的に若々しくスピード感あふれる演奏でした。また、音楽全体の構築は、大枠を構成してから細部を磨くと言うタイプの演奏というよりは、細部を細かく演奏しながら、それを全体に広げて行くようなタイプの演奏だったと思います。
第1楽章の弦楽器の音を聴いていると、フレーズの中の音の強弱が際立ちます。また、普段あまり強調されない内声音が良く聴こえて来ました。シューベルトの「歌」を聴かせるよりも、音楽構成をはっきり示したいという指揮者の意図があったのかもしれません。そう言う意味では、第1、3、4の速い楽章と第2楽章のアンダンテの対比もケレンミが強いほどでしたし、スケルツォやフィナーレ楽章にしてもマルカートな意識の強い演奏だったと思います。
2012年02月17日 第1722回定期演奏会
ジャナンドレア・ノセダ指揮
| 曲目: | チャイコフスキー | ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23 | |
| ピアノ独奏:デニス・マツーエフ | |||
| カセルラ | 交響曲第2番 ハ短調 作品12(日本初演) |
オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(東京フィルの黒木綾子さん)、ホルン:客演(前首席奏者の松崎裕さん)、トランペット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:客演(フリーの水野なほみさん)、オルガン(フリーの新山恵理さん)
弦の構成:協奏曲;14型、交響曲;16型
感想
二週連続面白い演奏会になりました。特に今回はピアニストが凄かったです。非常にダイナミックな弾き方で、いつも聴いているチャイコフスキーのピアノ協奏曲1番とは別の境地がありました。
マツーエフは今30代後半で、同世代のピアニストの中では、最も活躍しているピアニストの一人だそうですが、その評判が非常に納得できるものでした。使用したピアノはヤマハのコンサートグランド。いつも聴いているスタンウェイと比べると、響きが濁る感じがあります。ペダルを踏んで、フォルテシモで鳴らす音は箱鳴りすると申しますか、抜ける爽快感は無いのですが、土臭い馬力を感じます。チャイコフスキーのこの作品にあるロシアの大地を感じさせるのに、適切だと思いました。
そう言えば、リヒテルがヤマハのピアノを好んだのは有名ですが、彼もヤマハのピアノのこの低音の響きを愛したのかも知れません。アンコールの「ペール・ギュント」の「山の魔王の宮殿にて」におけるクレッシェンドも正に見事で、低音から沸き上がってくるような響きに大いに感心させられました。
ノセダの指揮するN響の伴奏は、マツーエフの馬力に押されていた、というのが本当のところ。ややもたついたところがありました。ここでオーケストラも頑張って、丁々発止とやってくれればもっとスリリングが感動できる名演になっていたと思います。
後半のカセルラ(カゼッラと書かれることが多いようです)の交響曲。初めて聴きました。大体、マーラーの時代にカセルラなどという作曲家がいたこともよく知らない、というのが本当です。しかし、作品は、一寸世俗的な響きのする元気な音楽で、これまで日本で紹介されてこなかったのが不思議に思いました。マーラーにインスパイアされた、と言うだけあって、マーラーのグロテスクな味わいが全体のトーンとしてあるのですが、マーラーのもう一つの特徴である天国的に長い緩徐楽章が無く、オーケストラの効果をひたすら示すような楽曲でした。
ノセダは、カゼッラに対する思い入れが深いそうで、それだけに、のめり込んだ音楽づくりをしていました。日本初演で楽譜は多分外国から借りてきたのだろうと思いますが、ところどころ面白いボウイングなどもあって、そういうところは、ノセダの指示によるものなのかな、などと考えてしまいました。
演奏効果が高く、終演後はブラボーの嵐でしたが、初めて聴く作品なので、本当にこういう演奏でいいのかどうかはよく分かりません。しかしながら、ノセダは非常に満足そうでしたし、楽団員たちもノセダに拍手を送っておりましたので、演奏者たちにとってもよくできた演奏だったのではないかと思います。
2012年04月14日 第1724回定期演奏会
ロジャー・ノリントン指揮
| 曲目: | ベートーヴェン | 歌劇「フィデリオ」序曲 | |
| ベートーヴェン | ピアノ、ヴァイオリン、チェロとオーケストラのための協奏曲 ハ長調 作品56 | ||
| ピアノ独奏:マルティン・ヘルムヒェン | |||
| ヴァイオリン独奏:ヴェロニカ・エーベルレ | |||
| チェロ独奏:石坂団十郎 | |||
| ベートーヴェン | 交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」 |
オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:井野邉、チェロ:木越、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:客演(京都市響の東口泰之さん)、ホルン:福川伸陽さん(契約団員)、トランペット:関山、トロンボーン:新田、ティンパニ:久保
弦の構成:序曲、協奏曲;10-10-8-6-6、「英雄」;16型
感想
2か月ぶりのN響で、懐かしい曲を聴きました。
「三重協奏曲」は本当に久しぶりに聴きます。前回聴いたのは、1989年11月オットマール・スウィトナーが指揮し、ケーベル・トリオ・ベルリンが独奏を受け持った時ですから、22年前のことになります。それ以来、この作品は私には全く縁のない作品で、録音を含めて一度も耳にしたことが無いと思います。実は、どんな曲だったか、完全に忘れていました。
ベートーヴェンとしては保守的な作品で、ピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲と比べると演奏効果も乏しい作品であることは認めるしかないと思います。また、ピアノ・トリオという室内楽の編成が、オーケストラを引き連れている感じのこの作品は、少人数で響きの美しさを内側に磨いていく感じの室内楽と、大編成で大音量を外側に響かせるオーケストラ音楽とのバランスの難しさもあって、演奏がされにくいということもあるのだろうとも思いました。
そんな中、今回の独奏者、ピアノのヘルムヒェン、ヴァイオリンのエーベルレ、チェロの石坂は最近のドイツ楽壇を代表する若手の三人であり、三人でピアノ・トリオの活動も行っているだけあって、息がよく合っています。必ずしも傷の無い演奏ではないのですが、お互いの音のクロストークが見事で引き込まれるものがありました。ヴァイオリンとチェロとの語り合いが素敵で、そこを支えるピアノの感じがまた素晴らしい。
オーケストラは、独奏チェロが活躍するこの作品に配慮したのか全体的には小編成ながら低音楽器を厚くしたもの。ノリントンは、ピアノの陰で指揮台を使わずに、ソリストとオーケストラに指示を与えます。それが作品全体にピュアな室内楽的音響を与えていたようにも思いました。
「英雄」。かなり面白い演奏でした。まず編成が面白い。「英雄」は本来フルート2本、オーボエ2本、クラリネット2本、ファゴット2本のいわゆる2管編成の作品ですが、今回ノリントンは、木管楽器をそれぞれ4本ずつ入れる倍管の編成にしました。これはベートーヴェン時代のオーケストラは通常2管編成の曲の場合、弦楽器奏者が現代よりもずっと少なかったことが関係あるのかもしれません。第1ヴァイオリンが16人も入る現代のオーケストラでは、ベートーヴェンの期待していた音のバランスが弦楽器に優位に働いていると考えたのかもしれません。
テンポの取り方も面白かったです。ノリントンはピリオド楽器によるオーセンティックな演奏で有名になった方で、テンポも割と楽譜に忠実に演奏されるという印象が強い方なのですが、今回は遅いところは極端にリタルダンドを掛けているようです。第2楽章の後半であるとか、フィナーレ楽章のコーダの前とかです。結果として楽譜に忠実に演奏される作品であると45分位で演奏される英雄が50分以上かかり、時間だけ言えば往年の大指揮者の演奏時間になりました。
オーケストラの配置は、第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンとが指揮者の両側に並ぶ対向配置ですが、コントラバスがひな壇の一番後ろに一列に並んでいて、その1台1台に反響板を置くという、これまた特徴あるものでした。更に、トランペットは向かって右側、ホルンは向かって左側に置かれ、二つの金管楽器も対向配置となりました。ノリントンが指揮者ですから、弦楽器奏者には、ノン・ヴィヴラート奏法が要求されます。
結果的に、これまで慣れ親しんできた「英雄」とは相当に違った演奏でした。まず、コントラバスがやっていることがしっかりとストレートに耳に入ります。N響のコントラバス陣って上手なんだな、という当たり前のことに感動し、またベースの下支えのあるところに音楽が積み上げられていることが、実感として分かります。低音の響きに重心が置かれていますので、ヴィブラートを多用したロマンティックな重厚さとは違うのですが、質実剛健な重厚さはありました。
また木管が倍管編成になって、かつ弦楽器がピュアな音で演奏しているせいか、木管の細かい動きもよく見えるようになっていました。細かいトリルのような今まで聴き流していたところが耳に残る感じがしました。またホルンとトランペットの音が完全に別な方向から聴こえ、お互いの役割分担が普段よりもはっきり聴こえたように思います。
この演奏を受け入れがたいと感じた方もいらしたようですが、私にはとても刺激的な面白い「英雄」でした。ノリントン、Bravoです。
2012年04月20日 第1725回定期演奏会
ロジャー・ノリントン指揮
| 曲目: | ベートーヴェン | 序曲「レオノーレ」第2番 ハ長調 作品72 | |
| ベートーヴェン | 交響曲第4番 変ロ長調 作品60 | ||
| ティペット | 交響曲第1番 |
オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:客演(読売日響の鈴木康浩さん)、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:客演(東京都響の柳原佑介さん)、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:水谷、ホルン:今井、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:客演(フリーの岩井英二さん)、ティンパニ:植松
弦の構成:ベートーヴェン;10-10-8-6-6、ティペット;16型
感想
先週のノリントンの「英雄」は相当に面白く感じましたが、今週のベートーヴェン2曲は私の趣味とは一寸違うものでした。一言で申し上げれば、パウゼが長い。これは、楽章間の休みもそうですし、全休符でオーケストラを止めた後再開始する時までの待ち時間も長い感じがします。
私は、1980年代にEMIに録音されたノリントン/ロンドン・クラシカル・プレーヤーズのベートーヴェン交響曲全集のCDを持っていて、これでベートーヴェンのオーセンティック演奏の楽しみを知ったのですが、その演奏と比較してもかなりケレンミの強い演奏だったと思います。演奏のスピードが速い部分と遅い部分でのコントラストがあり過ぎて、逆に抵抗を感じてしまいます。何もそこまで見得を切らなくてもよいのではないかという感じです。
そう言う演奏なので、楽器間のメロディーの受け渡しが今一つぎくしゃくした感じがあって、一寸不満でした。ベートーヴェンの4番の交響曲は、普段なら、聴き終るともっとすっきりした気持ちになれるのですが、今回はどこか、引っ張られているような感じがあって、腑に落ちませんでした。
ティペットの交響曲1番は、N響の定期公演で取り上げられるのは初めてかもしれません。私は初めて聴く曲です。古典的な構成で彩られた現代曲ですが、現代曲だけあって、その本領にリズム感があるのだろうと思います。親しみやすいメロディがあるわけではないのですが、対位法の手法、例えば第4楽章の二重フーガなどが面白く思いました。ティンパニが、ベートーヴェンを演奏するの時よりも大型のものに変えられ、マレットも違っているようでした。そのためか、ベートーベンにおける鋭い響きがもっと厚く柔らかいものに変わったような気がしました。
2012年05月13日 第1727回定期演奏会
尾高 忠明指揮
| 曲目: | オネゲル | 交響詩「夏の牧歌」 | |
| ショパン | ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21 | ||
| ピアノ独奏:ギャリック・オールソン | |||
| デュリュフレ | レクイエム | ||
| メゾ・ソプラノ独唱:加納 悦子 | |||
| バリトン独唱:三原 剛 | |||
| 合唱:新国立劇場合唱団 | |||
| 合唱指導:冨平 恭平 |
オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:井野邉、チェロ:木越、ベース:市川、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:水谷、ホルン:福川、トランペット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、オルガン:客演(小林英之さん)
弦の構成:オネゲル;14-12-9-8-6 ショパン;12-10-7-6-4、デュリュフレ;16-14-11-10-8
感想
今日の代々木公園は、タイ国フェアのためもの凄い人でごった返しており、NHKホールにたどり着くまでが大変でした。原宿駅から出るのがまず大変で、代々木公園の中も満員電車の中のように混んでいて、原宿駅で電車を下りてからNHKホールにつくまで優に25分以上かかりました。余裕を見て家を出たので、それでも開演3分前に席に着くことが出来ましたが、ひやひやしました。私がNHKホールに行き始めて25年になろうとしていますが、ここまで混んでいた経験は全く初めてのことです。ホールにつくまでにへとへとになりました。
それでも行った甲斐がありました。尾高・N響のコンビは素晴らしいと思います。
オネゲルは、特段どうという演奏ではなかったのですが、丁寧でゆったりした感じが良く出ていて良かったと思います。眼を閉じて聴いていると、夏の午後の森のような感覚を感じることが出来ました。この曲は、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンが各1本ずつ使用されるのですが、それらの音がまたいい感じでした。
ショパンのピアノ協奏曲の2番、オールソンが知的な演奏をされたと思います。この方の演奏、全然気を衒わない。落ちついていて悠然とした演奏です。と言って、いわゆる大陸的な演奏ではなくて、音が軽いのですけど、浮つかない。オールソンの体格には似合わない軽快な音です。粒立ちが良く、しっかりした音を立てながら、どこか、慎重に一歩身を引いた感じで、じっくりとショパンの世界を響かせます。自分から動くというよりも周りを巻き込んで自分の世界を作っていくような演奏。正に巨匠芸でした。
アンコールは、ショパンの「華麗なる大円舞曲」変ホ長調作品18が演奏されました。こちらは、ピアノ協奏曲とは一転して、オールソンのヴィルトゥオジティを前面に出したもの、アッチェラランドをかけながら追い込んでいく様は、彼の技巧面を強く強調するものでした。オールソンの幅の広さを見せつけられるものになりました。
デュリュフレのレクイエム。素晴らしい演奏だったと思います。特に新国立劇場合唱団の合唱が素晴らしい。新国立劇場合唱団はオペラの舞台に立つと、多くの場合、強い声の集合として響かせることが多いのですが、今回は柔らかな弱音の響きが印象的でした。如何にもレクイエムを歌う合唱という感じでした。二人のソリストはどちらも十分自分の責任を果たしておりましたが、加納悦子の方が、より慣れている感じがしました。
N響のサポートも万全のようです。全体として死者への痛みを丁寧に示す音楽に仕上がっていました。
さて、以上素晴らしい演奏会だったのですが、帰りもタイ国フェアに邪魔されて大変でした。タイ国フェアを見ると、NHKホールの空間の貴重さ加減を感じてしまいました。