NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2011年(後半)

目次

2011年09月10日 第1706回定期演奏会 ヘルベルト・ブロムシュテット 指揮
2011年10月15日 第1709回定期演奏会 アンドレ・プレヴィン指揮
2011年10月21日 第1710回定期演奏会 アンドレ・プレヴィン指揮
2011年11月12日 第1712回定期演奏会 ワシーリ・シナイスキー指揮
2011年11月26日 第1714回定期演奏会 準・メルクル指揮
2011年12月03日 第1715回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2011年12月10日 第1716回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮

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2011年09月10日 第1706回定期演奏会
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

曲目: シベリウス ヴァイオリン協奏曲 二短調 作品42
      ヴァイオリン独奏:竹澤 恭子
     
  ドヴォルザーク    交響曲第9番 ホ短調 作品95 「新世界より」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:客演(読売日響の倉田優さん)、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:客演(東京フィルの黒木綾子さん)、ホルン:日高、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保

弦の構成:協奏曲14-14-10-8-6、交響曲16-16-12-10-8

感想

 N響2011-2012シーズンの幕開けは、名誉指揮者、ヘルベルト・ブロムシュテットによる演奏会です。N響初演奏から30年、最初客演した時からもうすでに、世界的な指揮者だったわけですが、長老指揮者が、亡くなったりその他の事情でどんどん活動を縮小していく中、今現在、世界でも最長老の指揮者の一人となってしまった感じです。N響の団員には、口うるさいと思われ、反発された時期もあったようですが、今は、指揮者の指示にしっかり従おう、という感じのようですね。

 シベリウスのヴァイオリン協奏曲、当初アナウンスされていたレオニダス・カヴァコスが急にキャンセルになり、代役が竹澤恭子。この変更がアナウンスされたのは、9月に入ってからのことなので、竹澤にしても本当に急なオファーだったと思います。しかし、その演奏は、なかなか素敵なものでした。

 竹澤の音は、力強く堂々としたもの。肉食系女子の音楽とでも申し上げましょうか、ぐいぐいと音楽を押していくような作りです。その堂々とした感じが、シベリウスの複雑だけれども自然の豊かさを感じさせる音楽に、見事にマッチしているように思いました。また、竹澤は、「音楽に乗る」、ということにかなり意識されていたようで、自分が直接演奏していない時も、身体を揺すりながら、テンポを感じ、音楽を感じていました。その感覚が、ブロムシュテット/N響の音楽と上手く溶け合って、見事なバランスの音楽に仕上がったような気がします。

 新世界交響曲は、一寸新しい雰囲気は感じられますが、全体としては極めて真っ当なもの。若い指揮者であれば、あういうニュアンスのつけ方をしていけば、もっとスリリングに収めそうな気がするのですが、ブロムシュテットの場合、細かなニュアンスをコントロールしながらもテンポが中庸なのか、全体としては落ちついた印象を受けます。そこが、大指揮者の大指揮者たるところなのでしょう。技術的には、流石にN響、と申し上げるべき演奏で、ブロムシュテットも満足の様子でした。

 池田昭子さんのイングリッシュホルン、日高さんのホルン、松本さんのクラリネット、菅原潤さんのセカンドフルートが特に良かったように思いました。

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2011年10月15日 第1709回定期演奏会
指揮:アンドレ・プレヴィン

曲目: ブラームス ドイツ・レクイエム 作品45
      ソプラノ独唱:中嶋 彰子
      バリトン独唱:デーヴィッド・ウィルソン・ジョンソン
      合唱:二期会合唱団 
      合唱指導:冨平 恭平 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:井野邉、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:客演(読売日響の吉田将さん)、ホルン:日高、トランペット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:客演(フリーの岩井英二さん)、ティンパニ:久保、オルガン:客演(フリーの新山恵理さん)

弦の構成:16型
合唱団員数:100人(女性:56人、男性:44人)

感想

 ドイツ・レクイエムの中心には合唱があります。確かに、ソプラノとバリトンのソロは入りますが、それは全体のごく一部であり、音楽の中心は合唱にある。オーケストラだって大事ですが、伴奏的に振舞うことが多い。それだけに合唱が重要ですが、今回の合唱を担った二期会合唱団、かなり聴き応えのする歌声を聴かせてくれました。特にバランスが良かった。

 NHKホールで、合唱付きのオーケストラ曲をやる時、合唱団の位置は相当深いところに置かれます。それだけに、オーケストラと合唱が合うためには合唱が微妙に早く始める必要があります。本日の演奏は、合唱が意識的にか、無意識的には分かりませんが、それをやらなかったように思います。結果として、若干遠い歌声になっていました。

 しかし、それが良かったと思います。オーケストラやソロ歌手が客席の近くに居り、合唱が観客の遠くにいる。その微妙な距離感が音の広がりをより際出していたようで、その結果として、ドイツ・レクイエムの世界をより立体的に示していたように思いました。

 ソリストは立派な合唱と比較すると今一つ。それでもジョンソンは流石の貫録で、ミスをミスと思わせないような歌唱で流石でした。中嶋の歌唱は、一寸硬めで響きが今一つでした。ブラームスの音楽であるということを意識して、敢えてあういう声の出し方をしたのでしょうが、私は、イタリア風にもっと自然に歌い、ヴィヴラートも最小限にする方が、今回の『ドイツ・レクイエム』には似合っているような気がしました。

 プレヴィンの足はますます悪くなっています。数年前は、指揮台に椅子は用意されていましたが、ほとんど座らずに演奏していました。その後だんだん座っている時間が長くなってきて、昨年ぐらいからは演奏中はほとんど座っているようになっていました。今回は、舞台に出てくるのに「手押し車」を押してくるようになってしまい。痛々しげでした、それでも拍手には律儀に答えようと、カーテンコールには4回応じました。

 上記のように足の状態は良くないようですが、紡ぎだされる音楽は、いわゆるプレヴィン節です。柔らかく、繊細。ブラームスの作品から、あういう音を作り出して見せるところが、プレヴィンの力量なのでしょう。演奏は、管楽器の一部に音のざらつきがありましたが、合唱が良かったので、あまり気になりませんでした。

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2011年10月21日 第1710回定期演奏会
指揮:アンドレ・プレヴィン

曲目: メシアン トゥランガリラ交響曲
      ピアノ:児玉 桃
      オンド・マルトノ:原田 節  

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート:甲斐、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(東京響の福井蔵さん)、ホルン:客演(前首席奏者の松崎裕さん)、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、大太鼓:植松、小太鼓:石川
弦の構成:16-16-14-12-10
 

感想

 「トゥランガリラ交響曲」は、交響曲であって、協奏曲ではありません。しかし、今回のピアニスト・児玉桃は、この曲をあたかもピアノ協奏曲のように演奏しました。私もこれまで、トゥランガリラ交響曲を何度か聴いておりますが、ピアノの音がここまで粒立ちよく、くっきりと聴こえたのは初めてのように思います。とにかく、全般に硬質の音で、見事でした。

 とは言え、児玉がこの曲をピアノ協奏曲として演奏していないことも、また明らかです。要所要所で、プレヴィンの指揮を確認しておりましたし、打楽器の音も意識されながら演奏していました。ピアノの上には、楽譜が置いてあり、自分で譜めくりをしながら演奏していました。ほとんど暗譜されて入るのでしょうが、こういうやり方をしているところ、オーケストラの一員という意識で演奏されていたのでしょう。

 児玉の粒たちの良い音と、N響弦楽器群との柔らかい豊かな響きの対比が見事で、そこに加わるオンド・マルトノの奇妙な響き。これこそ、この作品を聴く醍醐味なのだろう、と思いました。ちなみに、「トゥランガリラ交響曲」のオンド・マルトノと言えば必ず出てくる原田節(ちなみに、私は原田以外のオンド・マルトノ奏者による「トゥランガリラ交響曲」は聴いたことがありません)はトレードマークの赤い靴下を今回も穿かれていました。

 プレヴィンは、若いころからこの作品を良く演奏されていただけのことはあって、流石の統率力です。弦楽器68名、木管楽器12名、金管楽器13名、打楽器10名、鍵盤楽器4名、合計107名の大オーケストラを見事にまとめあげていました。楽章ごとの表情の対比のさせ方が上手で、木管の清楚な音色と打楽器のバランスがとても良かったように思いました。

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2011年11月12日 第1712回定期演奏会
指揮:ワシーリ・シナイスキー

曲目: マーラー 交響曲第10番から「アダージョ」
     
  マーラー    交響曲「大地の歌」  
      アルト独唱:クラウディア・マーンケ
      テノール独唱:ジョン・トレレーベン  

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:木越、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:客演(読売日響の井上俊次さん)、ホルン:客演(前首席奏者の松崎裕さん)、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保
弦の構成:16-14-12-9-8

感想

 最初予定されていたイルジー・コウトが来日せず、シナイスキーが、コウトが振る予定だったマーラーの二曲を振りました。演奏は、N響としてはまあこんなものかな、と言うぐらいの感じです。とても悪いと申し上げるほどではないと思いますが、よくもありません。

 「アダージョ」は、きっちりと演奏されてはいましたが、全体としてはそっけない印象の演奏でした。もっと思い入れたっぷりに濃厚な演奏もあり得ると思うのですが、そんな感じとは対極的な演奏だったと思います。

 「大地の歌」は、細々とは良いところもあったのですが、全体では今一つ、という感じがしました。

 アルトのマーンケは立派な歌唱。特に第6楽章の「別離」が一番の聴きものでした。音色が魅力的で、多分解釈もしっかりしているのでしょう。切々とした素敵なアダージョになりました。また、この歌につける、N響木管陣の個人技も立派。神田さんのフルート、茂木さんのオーボエ、池田昭子さんのイングリッシュ・ホルン、松本さんのクラリネット、井上さんのファッゴトなどが冴えわたっていた感じがしました。しかし、ソリストの声量を基準に考えると、N響の音は大きすぎる感じです。特に最後の「Ewig」の繰り返しの部分、ソリストがどんどん弱音になって、消えうせるように演奏しているのに、オーケストラはそこまでデミュニエンドしていかないのは如何かな、と思いました。

 テノールのトレレーベンは全然ダメ。お話にならないレベルの歌。高音は艶やかではないし、アクートは決まらないし、声量が乏しくて、直ぐにオーケストラに声が埋没してしまうし、本当に情けなくなるような歌でした。

 結局テノールに人を得て、オーケストラをもっと絞って演奏すればいい演奏になったと思うのですが、残念ながら、そうはいかなかったということなのでしょう。

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2011年11月26日 第1714回定期演奏会
指揮:準・メルクル

曲目: マーラー リュッケルトによる5つの歌
      ソプラノ独唱:ダニエレ・ハルプヴァクス
       
  マーラー    交響曲第4番 ト長調  
      ソプラノ独唱:ダニエレ・ハルプヴァクス

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:客演(ゲストコンサートマスター:ヴェスコ・エシュケナージ)、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:井野邉、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(東京フィルの黒木綾子さん)、ホルン:日高、トランペット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川
弦の構成:歌曲;12-10-8-6-5、交響曲;16型

感想

 最初予定されていたイルジー・コウトが来日せず、準・メルクルが、コウトが振る予定だったマーラーの二曲を振りました。演奏は、流石、準・メルクルと申し上げるべきでしょう。非常に素敵なものでした。問題はソプラノ。この方がもっと上手な方だったら、もっと素晴らしく仕上がったに違いありません。

 このハルブヴァクスというソプラノ、何か不安定な方です。N響の音が引き締まって、輪郭のはっきりした音楽を作っているのに、このソプラノは、色々なところがあいまいです。ヴィブラートがかかり過ぎているのが、私はまず好きではないところです。また変なずり上げもしますし、音程も変なところがあります。また、ドイツ・リートを歌っている筈なのに、ドイツ語が余り明晰に聴こえて来ないのも問題です。N響のプログラムによれば、ドイツ国内の歌劇場で10年のキャリアを誇るソプラノだそうですが、本当かしら、と思えるようなレベルでした。

 一方、メルクルの音楽づくりも変わってきているのではないかという風に思いました。マーラーの4番は、かなり遅めに指揮して、N響にじっくり演奏させました。結果として濃厚な演奏になりましたが、輪郭の描き方がしっかりしているので、マーラー的なイメージが崩れることはありません。この濃厚でくっきりした、というイメージは、従来のメルクルとは違う様な気がします。しかし、醸し出される音楽は素晴らしいものです。

 スケルツォ楽章はその皮肉性が余り出ていない感じでしたが、緩徐楽章の甘くて切ない音楽の流れは、とりわけ良いものでした。第4楽章のソプラノ・ソロがもう一段良ければ、とても素晴らしい演奏に纏まったに違いないと思います。N響管楽器グループのヴィオルティジィはいつものレベルなのかもしれませんが、よく響いて結構なものでした。

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2011年12月03日 第1715回定期演奏会
指揮:シャルル・デュトワ

曲目: マーラー 交響曲第8番 変ホ長調「一千人の交響曲」
      ソプラノ独唱:エリン・ウォール
      ソプラノ独唱:中嶋 彰子 
      ソプラノ独唱:天羽 明恵 
      アルト独唱:イヴォンヌ・ナエフ 
      アルト独唱:スザンネ・シェーファー 
      テノール独唱:ジョン・ヴィラーズ 
      バリトン独唱:青山 貴 
      バス独唱:ジョナサン・レマル 
      合唱:東京混声合唱団(合唱指揮:松井 慶太) 
      合唱:NHK東京児童合唱団(合唱指揮:加藤 洋朗) 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:客演(ゲストコンサートマスター:ダンカン・リデルさん)、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:水谷、ホルン:客演(前首席奏者の松崎裕さん)、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、オルガン:客演(フリー奏者の新山恵理さん)
弦の構成:20型

感想

 初演時の参加人数が1000人を超えたことで「一千人の交響曲」と呼ばれることになったマーラーの第8番ですが、流石にNHKホールの舞台では流石にそれだけの人数を乗せることはできませんでした。しかし、男声合唱:約110人、女声合唱:約130人、児童合唱:約110人に、弦楽器が20-18-16-14-12の80人、フルート:6、オーボエ:5、クラリネット:6、ファゴット:5、ホルン:9、トランペット:5、トロンボーン:4、チューバ、ティンパニ:2、その他打楽器(持ち替えあり):4、ハープ:4、マンドリン、ピアノ、チェレスタ、ハルモニウム、オルガン、バンダ・トランペット、バンダ・トロンボーンが合わせて7、独唱者:8、それに指揮者で、約500人の方が舞台に乗りました。決して狭いとは思えないNHKホールの舞台が人で埋まりました。

 これだけ舞台に人がいると言うのは、やはり壮観です。この作品の祝祭的な特徴がよく表れた舞台だったと思います。

 さて、演奏ですが、流石デュトワとでも言うべきもの。こういう祝祭的な大規模管弦楽曲を演奏する時、デュトワの感覚が良く生きると思います。大ナタを振るうように作品を刈り込みながら、その味わいをしっかり生かしています。これだけ沢山の人たちが登場している訳ですから無傷の演奏と言う訳には勿論行かないのですが、そういう傷を上手くスキップしながら、全体としての構成感をしっかり出しているという感じでした。

 私は、マーラーの8番の交響曲は、こけおどしの作品と称して、あまり好きではない作品の一つに挙げているのですが、今日のデュトワぐらいに立体感のある演奏をしてくれれば、満足できるように思います。思った以上に退屈せずに聴けました。

 特に良かったのはまず合唱。児童合唱が特に良かったと思います。独唱は、女声陣が堅調。特に第1ソプラノを歌ったエレン・ウォールは声がいい。彼女は、きっちり暗譜して、自分の役目をしっかり意識しての歌唱で良かったです。

 突然の代役で登場した中嶋彰子もそれなりに良い歌唱でした。第3ソプラノの天羽明恵は、緊張が歌唱に出過ぎて、声が硬くなってしまったのが残念です。二人のアルトもしっかりした結構な歌でした。

 男声陣はテノールとバリトンがなかなか良かったと思いました。バスは悪くはないのかもしれませんが、もっと響いて頂かないとこの会場では重みが足りない感じです。オーケストラメンバーでは皆それなりに頑張っておりました。個人的には、長い間お休みになられていたファゴットの水谷上総さんが、復帰されたのが嬉しいことでした。

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2011年12月10日 第1716回定期演奏会
指揮:シャルル・デュトワ

曲目: ブラームス ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
      ヴァイオリン独奏:リサ・パティアシュヴィリ
       
  バルトーク    歌劇「青ひげ公の城」作品11  
      (演奏会形式、字幕付き) 
      ユディット:アンドレア・メラース
      青ひげ:バリント・サボ 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(東京響の福井蔵さん)、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:新田、チューバ:客演(東京フィルの荻野晋さん)、ティンパニ:植松、ハープ:早川、オルガン:客演(フリーの小林英之さん)
弦の構成:協奏曲;14型、歌劇;16-14-12-8-8

感想

 どちらも私が好きな作品で、期待して伺いました。結果は、半分満足、半分不満と言うところです。

 不満な方は、ブラームスのヴァイオリン協奏曲。パティアシュヴィリは2009年、デーヴィッド・ジンマンの指揮で、N響と共演し、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番で、胸のすくような演奏を聴かせて下さいました。その記憶から思うのは、今回も颯爽とした演奏を聴かせてくれる期待でした。しかし、彼女は、ブラームスを颯爽とは演奏しませんでした。ありていに申し上げれば、もっさりした演奏、鈍重な演奏、と申し上げても良いかもしれません。

 ゆっくりとしたテンポで、ロマンティックに十分歌い上げる演奏を目指したのでしょう。そのような片鱗が見えた部分も確かにありました。しかし、全体的には、遅さだけが目立って、重厚さに結びつかない演奏でした。ゆっくり演奏すると、速い演奏よりも技術的な問題点も目につきます。グリッサンドが不正確だったり、音のミスもありました。「もう一寸要所要所でアッチェラランドをかけて、音の輝かしさを強調したほうが、彼女に似合うのになあ」と思いながら聴いておりました。第3楽章は、もっと伸びやかに天馬駆けるように演奏したほうが音楽の魅力が出るのに、よく申し上げれば終始手堅い、本当のところは、鈍重な演奏で、満足できませんでした。

 このテンポはデュトワのアイディアではないと思いますが、N響の伴奏もややルーティンな演奏でした。第2楽章の茂木さんのオーボエが不調だったように思いました。

 満足したのは「青ひげ公の城」。こちらは歌手が良い。特にユディットを歌ったアンドレア・メラース、とっても素敵な歌でした。全体に音のむらが少ないところが良く、とりわけ低音部の重心を低く置いた歌唱が素晴らしいと思いました。歌の表情が、オーケストラの音楽の流れによく合っていて、そこも魅力的でした。

 青ひげ公を歌った、バリント・サボも端正な歌唱で良かったです。唯、低音の響きは今一つ飛びが悪く、オーケストラがフォルテシモで咆哮すると、聴こえなくなってしまいました。そこが一寸残念です。しかし、青ひげ公の気品もある感じさせる歌で、魅力的でした。

 さて、「青ひげ公の城」は音響的に不協和音が多く、決して聴き易い音楽ではないと思いますし、演奏しやすい作品でもないと思います。しかし、こういう作品を捌かせると抜群の能力を示すデュトワです。この作品の持つ対立的な構造を上手く示しながら音楽を作りました。N響の演奏も全体的には端正なもので、とりわけ低音木管系、即ち、クラリネット、ファゴットの音が魅力的だったと思います。

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