NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2011年(前半)

目次

2011年01月08日 第1691回定期演奏会 ワシーリ・ベトレンコ 指揮
2011年01月14日 第1692回定期演奏会 イオン・マリン指揮
2011年02月05日 第1694回定期演奏会 チョン・ミョンフン指揮
2011年02月11日 第1695回定期演奏会 チョン・ミョンフン指揮
2011年04月16日 第1697回定期演奏会 ロジャー・ノリントン指揮
2011年04月22日 第1698回定期演奏会 ロジャー・ノリントン指揮
2011年05月07日 第1700回定期演奏会 尾高 忠明指揮
2011年05月13日 第1701回定期演奏会 尾高 忠明指揮
2011年05月28日 第1703回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮
2011年06月03日 第1704回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮

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2009年ベスト3
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2011年01月08日 第1691回定期演奏会
指揮:ワシーリ・ベトレンコ

曲目: ベートーヴェン ピアノ協奏曲第一番 ハ長調 作品15
       ピアノ独奏:小菅 優
     
  チャイコフスキー    交響曲「マンフレッド」 作品58 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:客演(都響の岡本正之さん)、ホルン:客演(前首席奏者の松アさん)、トランペット:客演(新日本フィルの服部孝也さん)、コルネット:井川、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、オルガン:客演(フリーの勝山雅世さん)

弦の構成:協奏曲:12型、交響曲:16型

感想

 私の新年最初のコンサートは、N響定期になりました。今回の定期公演、お正月休みの都合なのかもしれませんが、エキストラ比率が非常に高い印象です。ちなみにエキストラは、元N響の方の、嘱託の方を含めると、第1ヴァイオリンが2名、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが各3名、コントラバスが2名、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、トランペット、コルネット、ハープが各1名、ホルンが2名、打楽器が3名、それにオルガンと、マンフレッド交響曲で舞台に乗っていた方91名のうち26名にも上ります。弦楽器に各パート2-3人のエキストラが入るのは常ですが、管楽器で全員が団員のパートがトロンボーン/チューバしかない、と言うのは相当珍しいことです。

 だからと言って、演奏が悪いものではなかったことはご同慶の至りです。

 指揮者は、ロシアの新鋭ワシーリ・ベトレンコ。未だ30代半ばの若手ですが、味のある演奏のする方です。長身で手足が長く、遠目の雰囲気は、ブロムシュテッドに似ているかもしれません。彼の個性は、彼の一番の得意曲と思われる「マンフレッド交響曲」で発揮されました。一言で申し上げれば、描線のくっきりした演奏です。デフォルメしていると申し上げても良いぐらいオーケストラをしっかりと鳴らさせ、音の積み重ねの中にメロディーラインをくっきりと浮かび上がらせる手法は、若々しい気分と、一方で、ケレン味を感じさせる演奏で、好悪の分かれる演奏だと思います。色の毒々しい油絵のような作りで、小父さんには一寸胃のもたれる演奏でした。しかしながら、しっかりしたオーケストラドライブの力が見えて、好感を持ちました。

 ただ、「マンフレッド交響曲」と言う作品は、交響曲とは銘打たれていますが、そもそも「交響詩」と言うべき描写音楽です。だからこそ、このような行き方も許されるのだろうと思います。純粋音楽を演奏した時、彼がどのような個性を示すのかが、興味の持たれるところです。

 第1曲は、小菅優をソリストに迎えての、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第一番。こちらは、オーケストラの存在感よりピアノの存在感がかなり強い感じでした。ベトレンコがソリストに合わせたのか、ベートーヴェンがあまり得意ではないのか、そこはよく分かりません。

 小菅の演奏は、一言で申し上げれば立派なもの。一番良かったのは、第二楽章のです。この楽章で小菅のスタンウェイから聴こえる清潔なカンタービレは、透明感のあるとても素敵なもの。ロンド楽章のしっかりしたタッチも結構。タッチとスピードのバランスが良く、颯爽さが引き立ちました。

 第一楽章はピアニストに戸惑いを感じました。第二、第三楽章のように小菅の演奏の方針が定まらないうちに本番が来ちゃった、という印象です。柔らかいタッチで丁寧に演奏しているのですが、細かいタッチが乱れたり、響きが濁ったり、聴いていてすっきりしない印象です。それでもカデンツァは流石でしたし、このあたりから調子を取り戻したのかもしれません。

 N響の伴奏はごく普通のものでしたが、ピアノのデュナーミクに合わせた音量のコントロールは流石でしたし、首席奏者になられたクラリネット・松本さんの頑張りが耳に残りました。

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2011年01月14日 第1692回定期演奏会
指揮:イオン・マリン

曲目: ムソルグスキー(リムスキー・コルサコフ編) 交響詩「はげ山の一夜」
       
  ラヴェル    組曲「クープランの墓」 
     
  ムソルグスキー(ラヴェル編)    組曲「展覧会の絵」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:客演(東京フィルの斉藤和志さん)、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(東京フィルの黒木綾子さん)、サクソフォーン:客演(フリーの有村純親さん)、ホルン:日高、トランペット:井川、トロンボーン:栗田、チューバ:客演(フリーの柏田良典さん)、ティンパニ:久保、ハープ:早川、チェレスタ:客演

弦の構成:16型

感想

 当たり前のことですが、指揮者が違えば演奏が違います。先週のベトレンコは、ケレン味を前面に押し出して、表情豊かな演奏をして見せたわけですが、イオン・マリンは、どちらかと言えば、ゆっくり歌わせて、精緻の美を求める様な演奏だったと思います。方向性はよくわかる。ただ、そう言った目指すものが、良い演奏に昇華していたか、と申せば、そこは又別の問題のようです。

 「はげ山の一夜」は、普通は、もっとおどろおどろしい演奏をするのではないかと思います。しかし、マリンは、抑制したスタイリッシュな演奏で、この曲を聴かせてくれました。端正で、すっきりしています。それはそれで、悪くない演奏でした。ところが後半になると、音楽にスピードが乗っていかないので、どことなくもっさりと、盛り上がらずに終わってしまった印象です。途中でギアチェンジをしたら、失速してしまった。そんな感じの演奏でした。

 「クープランの墓」。今回のコンサートでは、一番良かったと思います。いい曲だと思うのですが、なかなか演奏されない作品です。私は、N響を20年以上聴き続けておりますが、定期演奏会で取り上げられたのは初めてです。この曲は、フランスの田舎のひなびた雰囲気を感じさせる作品ですが、マリンの演奏は、淡い色の水彩画によるフランス南部の田園風景を彷彿させるような演奏でした。

 第2曲「フォルラーヌの」の儚げな雰囲気が見事で、「メヌエット」のひなびた田舎の日向のような感じも悪くないと思います。唯、マリンは歌わせる意識が結構強いようで、テンポが遅くなりがちで、そうなると、オーケストラのテンポ感覚とずれるようで、メンバー間での微妙なずれが気になりました。終曲における、茂木さんのオーボエの音色が見事だったことを付記します。

 「展覧会の絵」は、神経質な演奏でした。マリンは、デュナーミクを重視して、弱音をしっかり聴かせようとしたのではないかと思います。テンポはやや遅めで、弱音で十分に歌わせる。そして、対照的にフィナーレでは、フォルテシモを輝かしく鳴らせる。そういう作戦は多分悪いものではないのでしょうが、聴き手に緊張を強います。勿論、そういう緊張を強いることにより感動が深まる作品があると思うのですが、「展覧会の絵」は如何でしょうか。

 私は、「展覧会の絵」は、奏者のヴィルトゥオジティと自発性を重視した伸びやかな演奏が好きです。今回の演奏は、精緻さとバランスを気にした指揮者の主張が強すぎて、音楽が縮こまり、結果として、聴き手にカタルシスを感じさせることのできない演奏で終わっていました。

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2011年02月05日 第1694回定期演奏会
指揮:チョン・ミョンフン指揮

曲目: ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
      ヴァイオリン独奏:ジュリアン・ラクリン
     
  ベルリーオーズ    幻想交響曲 作品14 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:客演(東京交響楽団の福士マリ子さん)、ホルン:今井、トランペット:関山、コルネット:井川、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:協奏曲:12-12-10-8-6、交響曲:15-16-14-12-10

感想

 一言で申し上げれば、名演だったと思います。チョン・ミョンフンの音楽的才能と、N響の技量が高い水準で結びついた素晴らしい演奏会でした。

 ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。ラクリンは、よく聴くこの名曲をゆっくりとしたテンポで演奏しました。「堂々と」、というよりも細かな音符をゆるがせにすることがないように繊細に解剖した、という感じです。弾き飛ばすことが全然なく、艶のある音で丹念にさばいて行く。その繊細さは、男性ヴァイオリニストにしては珍しい感じがしました。

 やっていることはあまり普通ではないようなのですが、聴いていると面白い。オーケストラは、低音楽器がしっかり活躍していて、ファゴット(福士さん、Brava)やクラリネットとの呼応がよく合っていて、独奏ヴァイオリンの力で堂々感を出した演奏というよりも、オーケストラ全体で堂々感を作り出した演奏だったと思います。大変素晴らしいものでした。

 幻想交響曲も名演でした。ヴァイオリン協奏曲がどちらかと言えば、繊細さが前面に出た演奏でしたが、こちらはアグレッシブな攻め込む演奏。チョンの指揮は、大きく、見通しのはっきりしたもの。明確な捌きが気持ちいい。アグレッシブではありますが、きっちり歌わせています。それに対するN響弦楽陣の一糸乱れぬ、と申しても良いような演奏が素敵です。低音部が通常よりも1プルトずつ増やしていますが、その結果ずっしりとした響きが増強されていて、そこも又よいと思いました。木管陣も凄くいい。イングリッシュホルンの池田さん、クラリネット・松本さん、ファゴット陣ががとりわけよかった印象です。

 N響の「幻想」と言えば、デュトワやフルネの名演で歴史を刻んできた印象がありますが、今回のチョン・ミョンフンの演奏で、また一つ、歴史の積み重ねがされたように思います。

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2011年02月11日 第1695回定期演奏会
指揮:チョン・ミョンフン指揮

曲目: マーラー 交響曲第3番 ニ短調
      アルト独唱:藤村 実穂子
      女声合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤 洋史)
      児童合唱:東京少年少女合唱隊(合唱指揮:長谷川 久恵) 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(東京フィルの黒木綾子さん)、ホルン:客演(前首席奏者の松アさん)、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:協奏曲:18-18-16-14-12

感想

 マーラーの交響曲3番は、通常演奏される交響曲としては最も長大な曲としてギネスブックに掲載されていました。また、規模の大きいことでも屈指の作品で、四管構成のオーケストラに、アルト独唱、女声合唱、児童合唱が入ります。それでも通常N響は、交響曲の場合弦楽器の構成を16型(即ち、第1ヴァイオリン16人、第2ヴァイオリン14人、ヴィオラ12人、チェロ10人、コントラバス8人)以外に変えることは少ないのですが、今回の指揮者のチョン・ミョンフンは、第2ヴァイオリンからコントラバスまでの低音部を各4人、第1ヴァイオリンの2人増強しました。ちなみに私は18型までは見たことがありますが、今回の20型-2名の構成は初めて見ました。

 これだけ増強すると、N響メンバーだけでは勿論足りません。沢山のエキストラがお見えになっていたのですが、団友の方の顔が多かったのが懐かしく、嬉しかったです。第1ヴァイオリンの大澤さん、金田さん、第2ヴァイオリンの根津さん、大松さん、チェロの丹羽さん、田崎さん、コントラバスの新納さんなどです。第2ヴァイオリン奏者の丹羽洋輔さんは、チェロの丹羽経彦さんの御子息ですから、期せずして親子共演を見ることが出来ました。

 それにしても、弦楽器78人、木管楽器17人、金管楽器19人、ハープ2人、打楽器8人のオーケストラ(オーケストラだけで、なんと124人、このほかにバンダいらっしゃいます)、50人の女声合唱、31人の児童合唱、それに指揮者とソロ歌手ですから、あの広いNHKホールの舞台も一杯です。その大規模なオーケストラを、チョン・ミョンフンは、暗譜で指揮しました。

 作品が作品ですから、さしものN響といえども無事故という訳には行きませんでしたが、全体で言えば、名演の名に恥ずかしくない演奏をされたと思います。集中した時の弦のユニゾンの美しさは、流石N響だと思いましたし、個々の首席奏者たちの腕も流石に素晴らしく、トロンボーンの新田さん、トランペットの関山さん、ホルンの松崎さん、フルートの神田さん、ピッコロの甲斐さん、クラリネットの伊藤さん、ファゴットの黒木さん、コンサートマスターの篠崎さんと、それぞれのヴィルトゥオジティをしっかり聴かせてくれました。バンダのトランペットは札幌交響楽団首席の福田善亮さんでしたが、この方も結構でした。

 チョン・ミョンフンは大規模曲を得意とする指揮者というイメージがあったのですが、今回其の感を更に深めました。全体としての見通しがきちんとしていて整然とした感じがあるにもかかわらず、この作品の持つ晴れて行く霧のような独特の雰囲気がきちんと表現されていました。

 特筆しなければいけないのは、藤村実穂子のアルトソロです。藤村が世界的なメゾ・ソプラノであることは周知の事実ですし、私もこれまで何度も彼女の歌唱を聴いて感心してきたわけですが、今回の歌唱も絶妙と申し上げるしかありません。深みと艶のある落ちついた声で、第4楽章をしっとりと歌い上げました。語るような静謐な歌い回しながら、広いNHKホールを声で一杯にしてしまう技量、素晴らしいものだと思いました。

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2011年04月16日 第1697回定期演奏会
指揮:ロジャー・ノリントン指揮

曲目:  エルガー    エレジー 作品58 
       
ベートーヴェン 交響曲第1番 ハ長調 作品21
     
  エルガー    交響曲第1番 変イ長調 作品55

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:客演(読売日響の倉田優さん)、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:客演(東京フィルの黒木綾子さん)、ホルン:日高、トランペット:井川/関山、トロンボーン:新田、チューバ:客演(フリーの岩井英二さん)、ティンパニ:久保、ハープ:客演(フリーの水野なほみさん)

弦の構成:ベートーヴェン:10-10-8-6-6、エルガー:16型

感想

  ノリントンを注目したのは、1980年代後半のベートーヴェン交響曲全集の発売によってです。その頃私はしがない大学院生で、実演よりもCDの収集に忙しかったことを覚えています。そのノリントンを初めて実演で耳にしたのは2006年N響定期。この時、ノリントンは、N響の弦楽のパートに非ヴィヴラート奏法を徹底させ、鮮烈で美しい音色をN響定期会員に示しました。

 その時の印象は非常に深いものがあるのですが、惜しむらくは、ノリントンの一番得意なベートーヴェンは、ヴァイオリン協奏曲1曲だけ、庄司紗弥香のソロヴァイオリンは大変素敵でしたが、彼の本領を完全に表現できたとまでは言えなかったのではないかしら。

 それだけに、今回の演奏会では、彼のスタートの音楽であるベートーヴェンの交響曲を取り上げるのですから、伺わなければなりません。結果として、とても耳慣れない音楽を聴きました。

 弦楽器群には非ヴィヴラート奏法を徹底することを要求するので、弦楽器から出てくる音はシンプルで美しい。しかし、チェロやコントラバスと言った低音楽器が充実しているので、華やかな感じはありません。管楽器も美音を追求するというよりは、武骨な音を求める感じです。ティンパニは、フェルトを巻かない木製のマレットで叩くので、乾いた音になります。結果として、管楽器や打楽器が前面に出た印象の強い、かつて録音で聴いたノリントンの音楽を思い出させてくれる演奏になりました。

 私の本当に好きなベートーヴェンの1番だったとは申し上げられないのですが、とても面白い演奏でした。

 エルガーの交響曲第1番。この作品は、遅れてきた交響曲作曲家であるエルガーの英国人的端正さとロマン派作曲家的奔放さが混ぜこぜになった作品で、N響では、3年前に尾高忠明が取り上げています。尾高は、表面上は絶対音楽であるこの作品を写実音楽のようにとらえて演奏した、という印象が強かったのですが、ノリントンの演奏は、写実的とというよりは、この作品の持つ本質的な特徴であるこれまでの絶対音楽に対する憧憬のようなものがあったのではないかと思います。ベートーヴェンの武骨な音楽とは異なり、ノンヴィヴラート奏法の美しさがより見えた演奏になりました。

 なお、最初にこのたびの大震災の犠牲者を追悼して、エルガーの「エレジー」が弦楽合奏で演奏されました。静謐なとても美しい演奏でした。私も心の中で合掌しながら聴きました。

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2011年04月22日 第1698回定期演奏会
指揮:ロジャー・ノリントン指揮

曲目:  マーラー    花の章 作品58 
       
マーラー さすらう若者の歌
      バリトン独唱:河野 克典
       
  マーラー    交響曲第1番 ニ長調「巨人」
       
      -マーラー没後100年- 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:佐々木、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(読売日響の井上俊次さん)、ホルン:今井、トランペット:菊本、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:花の章;12-12-10-8-6、さすらう若者の歌;10-10-8-6-6、巨人;16型

感想

 メインプログラムの「巨人」、圧倒的名演でした。私もこれまで随分いろいろな方の指揮した「巨人」を聴いておりますが、これまで聴いた中では、文句なしの第1位の演奏だと思います。ノリントンの設計の上手さと、指揮者の方針が明確な時のN響のヴィルトゥオジィティが相俟ってこのような名演奏が生まれたのだと思います。

 ノリントンは、低音を重視して音を組み立てている指揮者なのですね。彼のルーツとも言うべき古楽器の世界は、ピッチが低いですから、低音にシンパシーがあるに違いないと思います。コントラバスを舞台上中央の奥に一列に配置して、その後ろに反響板を置く。コントラバスの前が、ファゴットとクラリネットの低音木管楽器になりますから、益々低音が安定します。その安定した低音の上に、色々な高音系楽器を載せています。

 その効果が、非常によく出ていたのだろうと思います。全体に響きがまろやかで落ち着いています。しかしながら、音は平面的には聴こえず立体感があります。その上、弦楽器にはノンヴィブラート奏法を要求し、N響の弦楽器陣は、その要求にほぼ完璧に対応しますから、弦楽器の音が澄んでいて美しい。音の濁りがなく、清明な音響が広がります。音程のしっかりしたアカペラの合唱団を聴いているような精密美を感じさせる演奏でした。

 更に、ここ一番という時の管、打楽器陣の魅力も素敵。今井さんを中心とするホルン陣、青山さんのオーボエ、神田さんのフルート、打楽器陣では、大太鼓を叩いていた客演奏者・山下さんの一撃が印象に残りました。

 他のニ曲ですが、「花の章」。ソロトランペットの活躍するこの曲は、菊本和昭さんのトランペットがとてもよかったです。菊本さんは、この春からN響の契約団員になりましたが、首席奏者予定なのでしょうね。

 「さすらう若者の歌」は予定していたディートリヒ・ヘンシェルが、原発事故の影響でキャンセル。河野克典へ変更になりました。河野は、マーラーの歌曲解釈には定評のある方で、又美しいバリトンの声質をお持ちの方ですが、流石に彼の声質で、NHKホールで繊細にきっちりと響かせるのは難しいと思いました。高音の伸びはよろしいのですが、低音になると響きが途切れます。NHKホールで「さすらう若者の歌」を聴くのであれば、もっと基本の声が大きい方を選んでほしいと思いますし、又河野を聴くのであれば、もっと狭い、響きのよい会場であって欲しいと思いました。


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2011年05月07日 第1700回定期演奏会
指揮:尾高 忠明

曲目:  尾高 尚忠    交響曲第1番 作品35 
       
リヒャルト・シュトラウス 交響詩「英雄の生涯」作品40

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:ゲスト・コンサートマスター/ライナー・キュッヒル、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:客演(前首席奏者の岡崎耕治さん)、ホルン:客演(日本フィルの福川伸陽さん)、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:交響曲;16型、英雄の生涯;16-16-12-10-8

感想

 オーケストラに、ベルリン・フィル・タイプとウィーン・フィル・タイプという分類が可能であるならば、N響は、間違いなくベルリン・フィル・タイプのオーケストラです。機能的で、指揮者の要求に柔軟に対応でき、一糸乱れぬ演奏が得意、というところが、そう思うところですが、今回は、コンサートマスターに、ウィーン・フィルのコンサートマスターとして1971年から活躍されているライナー・キュッヒルさんを、ゲスト・コンサートマスターとしてお迎えしたことにより、N響の音の感じがちょっと変わったような気がしました。

 尾高尚忠の「交響曲1番」。尾高尚忠は、生涯に交響曲をこの作品しか書いていないので、交響曲第1番とするのはおかしいのですが、本人は、2番も、3番も書くつもりだったのでしょうね。自らつけた名前が「第1番」ということのようです。またこの作品に関しても、彼の構想の中では、4楽章の古典的形式の交響曲として完成させることを意図していたと思われますが、現実には、作曲家の死去により第2楽章までしか書かれることがありませんでした。

 私がこの作品を聴くのは2度目です。前回は、2006年の9月の定期演奏会で外山雄三が取り上げています。その時、外山がこの作品をどのように演奏したかの記憶は全く残っていないのですが、当時の感想を読んでみると、第一楽章に迫力を感じていたようです。今回の印象は、第一楽章に秘めた尚忠の気持を子息の尾高忠明が、ストレートに表出した、ということのように思います。次に演奏された「英雄の生涯」との類似性を感じる演奏でした。音の激しさが唯パワーとして迫るのではなく、どこか、ある方向性を示しているように聴こえたのは、尾高忠明の父親の作品解釈に関する子息としての責任を示した、ということかもしれません。

 後半の「英雄の生涯」。普段のN響の機能性からみると、一寸野暮ったい演奏と申し上げて良いでしょう。ベルリン・フィル・タイプからウィーン・フィル・タイプに一寸シフトした感じがしました。これこそ、キュッヒルさんのコンマス招聘の効果なのでしょう。それにしても、キュッヒルのヴァイオリン・ソロは流石でした。伊達に40年ウィーン・フィルでコンマスやっているんじゃあない、ということを明白に示しました。

 尾高の組み立ては、N響の機能性を最大限に使うことよりも、各奏者の自主性をより求めたような気がします。いわゆる先振りの指揮ですが、指揮棒の動きと音楽の出の感じが常に一定ではなく、微妙にずれているように思いました。結果として音の揃いも微妙にずれていて、この作品の持つアイロニーをより示していたように思いました。

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2011年05月13日 第1701回定期演奏会
指揮:尾高 忠明

曲目:  ウォルトン    チェロ協奏曲 
      チェロ独奏:スティーヴン・イッサーリス 
       
エルガー 交響曲第3番(ペイン補筆完成版)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:ゲスト・コンサートマスター/ライナー・キュッヒル、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:市川、フルート:客演(名古屋フィルの橋本岳人さん)、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(東京交響楽団の大埜展男さん)、ホルン:日高、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:客演(新日本フィルの佐藤和彦さん)、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:協奏曲;14型、交響曲;16型

感想

 有名とはいえない曲をニ曲並べた、典型的な聴き手を選ぶ演奏会です。

 ウォルトンは、エルガーやヴォーン=ウィリアムスの次の世代の英国では重要な作曲家ですが日本ではあまり聴かれない作曲家で、N響では、ヴァイオリン協奏曲とヴィオラ協奏曲をそれぞれ1回ずつ取り上げただけだと思います。つまり、今回のチェロ協奏曲はN響初演ということになるのではないかと思います。私は初めて聴きました。

 音色的な面白さは、ヴィブラフォーンとチェレスタの関与です。これらが独奏チェロと絡む時、独特の雰囲気を醸し出して楽しいです。現代音楽の時代に書かれている作品ですが、特に異常な調性を感じるものではなく、聴きやすい作品のように思いました。演奏の魅力は、イッサーリスの情熱的ではあるけれども柔らかい音色がまずあげられます。この音色を基調とすることで、作品の持つイギリス紳士的なしっとりとした余韻が引き立っているように思いました。

 後半のエルガーの第3交響曲、この作品は、ペインという作曲家が補筆して完成させた作品というよりも、エルガーのスケッチやその他の作品に基づいてペインが新たに作り上げた作品という方が良いそうです。そうであっても、元々のピースがエルガーのものだけあって、エルガー臭さに溢れています。またエルガーの持つイギリス的くすんだ雰囲気もあって、日本におけるエルガーの紹介者であり、英国音楽の紹介者でもある尾高忠明にとっては、是非N響定期でも取り上げたかったのでしょうね。

 初めて聴く曲ですから、演奏の良しあしはよく分かりません。ただ、第三楽章のある意味天国的な美しさは、私にとって気持のよいものでした。

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2011年05月28日 第1703回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・アシュケナージ

曲目:  リヒャルト・シュトラウス    変容 
       
ブラームス 交響曲第4番 ホ短調 作品98

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、コントラバス:吉田、フルート:客演(フリーの高木綾子さん)、オーボエ:青山、クラリネット:松本、ファゴット:客演(東京交響楽団の大埜展男さん)、ホルン:日高、トランペット:客演(東京フィルの辻本憲一さん)、トロンボーン:新田、ティンパニ:久保

弦の構成:変容;楽譜通り、交響曲;16型

感想

 アシュケナージには向かない典型的なプログラムだったと思います。

 「変容」どう考えても、NHKホール向きの曲ではありません。この曲は10名のヴァイオリニストと5名のヴィオリスト、5名のチェリスト、3名のコントラバス奏者がそれぞれ別々の楽譜を演奏します。勿論ところどころユニゾンになったりはするわけですが、細かい内声までじっくり聴こうと思えば、それなりの近さが必要だと思います。

 ところが、客席と舞台の間が遠すぎるのです。勿論、主要なメロディラインは聴こえて来ますが、音が遠くて立体感が感じられない。レガートな流れの美しさは十分感じられるのですが、そこに深みがないのですね。音の生々しさが感じられない。これは演奏家の問題と言うより、会場の問題でしょう。私は、NHKホールをそんなに悪いホールだとは思っていないのですが、それでも「変容」を演奏するのに向いているホールではないと思います。アシュケナージの選曲ミスと申し上げて良いのではないでしょうか。

 ブラームスの4番。よく言えば、ユニークな演奏。ありていに申し上げれば、へんてこな演奏です。アシュケナージの感性は、私とは全く違うんだと思わされた演奏でした。重厚を指向しながら全然重厚になっていない演奏と言ったらよろしいでしょう。

 まず、音のバランスが今一つ。私は、木管の音がもう少し前に出るようにした方が、この作品の味わいがはっきりすると思うのですが、アシュケナージは金管をならします。又、弦楽器は、もっとインテンポで演奏させた方がすっきりすると思うのですが、微妙なリタルダンドが入るようで、持って回ったような歌い回しになる。重厚にしたいという意識が全体としての重厚感にはつながらず、ガチャガチャした仕上がりになっていました。

 アシュケナージにブラームスは向かないだろうな、とは思ってコンサートに伺いましたが、思った通りの結果だったと思います。

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2011年06月03日 第1704回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・アシュケナージ

曲目:  プロコフィエフ    組曲「3つのオレンジへの恋」 
       
プロコフィエフ ピアノ協奏曲 第2番 ト短調 作品16
      ピアノ独奏:アレクサンダー・ガヴリリュク 
       
  シベリウス    交響詩「大洋の女神」作品73 
       
  シベリウス    交響曲第7番 ハ短調 作品105 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:井野辺、チェロ:藤森、コントラバス:西山、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、ファゴット:客演(読売日本交響楽団の吉田将さん)、ホルン:今井、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:客演(東京フィルの荻野晋さん)ティンパニ:植松
ハープ:早川

弦の構成:協奏曲;14型、その他;16型

感想

 先週のブラームス、リヒャルト・シュトラウスと比較すると、ずっとアシュケナージにあったプログラムだと思います。特に前半のプロコフィエフが良い。

 アシュケナージは、ピアニストとしてもラフマニノフやプロコフィエフを若いころから得意にしているという印象が強くあります。彼がピアニストとして参加し、プレヴィン/ロンドン交響楽団がバックをとったプロコフィエフのピアノ協奏曲全集は、私の20代の愛聴盤の一つでした。その頃から、プロコフィエフのモダニズムとアシュケナージの感性との相性の良さを感じていましたが、30年たってもそれは健在でした。

 「3つのオレンジへの恋」における、奇妙な味わいや、音楽の持つエスプリを上手に表現していたと思います。この曲は金管や打楽器が活躍するわけですが、金管のファンファーレや打楽器の印象的な一打など、メリハリのつけ方も、アシュケナージの感性によく合った書かれ方をしているのでしょう。面白い演奏に仕上がりました。

 ピアノ協奏曲第2番。本日の白眉。ガヴリリュクがとても上手です。あれだけ細かい音符が書かれた跳躍を何の問題もないように弾いて見せる姿は、胸のすく思いです。第1楽章の右手のアルペジオから、フィナーレまで疾走していく姿は、もっさりした風貌とは異なって、若さの勢いを感じます。作品としては暗さのある曲なのですが、軽いタッチで推進するので、暗さが余り目立たないのもよいです。N響の伴奏も良好。前述のアシュケナージの録音はもっとおとなしい演奏だった印象が残っていますが、これ位やんちゃな演奏の方が、この曲のもつモダニズムの雰囲気を生かしているのかもしれません。

 後半のシベリウス。前半と比べると今一つの出来の印象でした。「大洋の女神」という作品は初めて聴くのですが、出来そこないの印象派と申し上げたらよいのでしょうか、ドビュッシーの「海」を彷彿とさせるのですが、聴こえてくる音はドビュッシーのようなスマートさはありません。シベリウスが書かれた数多くの表題付き管弦楽曲の中では、比較的駄作、と申し上げて良いのではないでしょうか。演奏自体は、悪いものだとは思いませんでしたが、取り立てて褒めるほどよくもなし、というところでしょう。

 交響曲7番。一言で申し上げれば、厳しさの足りない演奏でした。オーケストラがもっとぴったり合って、精緻な演奏をした方が、この曲の魅力が出るように思います。アシュケナージは、優しい、いいひとですが、その人の良さが演奏に出てしまうところがあって、なにかビシッと決まらない印象でした。

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