NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2010年(前半)

目次

2010年01月09日 第1664回定期演奏会 尾高 忠明 指揮
2010年01月15日 第1665回定期演奏会 ジョン・アクセルロッド指揮
2010年02月12日 第1668回定期演奏会 セミョーン・ビシュコフ指揮
2010年04月10日 第1670回定期演奏会 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮
2010年05月09日 第1673回定期演奏会 尾高 忠明 指揮
2010年05月14日 第1674回定期演奏会 尾高 忠明 指揮
2010年06月05日 第1676回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮
2010年06月11日 第1677回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮 
    

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2010年01月09日 第1664回定期演奏会
指揮:尾高 忠明

曲目: ヨハン・シュトラウスU世 喜歌劇「こうもり」序曲
     
  ヨーゼフ・シュトラウス    ワルツ「天体の音楽」作品235
       
  ヨハン・シュトラウスU世    常動曲 作品257 
   
  ヨハン・シュトラウスU世    アンネン・ポルカ 作品117 
       
  ヨハン・シュトラウスU世    ポルカ「観光列車」 作品281 
       
  ヨハン・シュトラウスU世    皇帝円舞曲 作品437 
       
  リヒャルト・シュトラウス    ブルレスケ 
      ピアノ独奏:若林 顕 
       
  リヒャルト・シュトラウス    歌劇「ばらの騎士」組曲 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:客演(都響の伊藤圭)、バスーン:客演(東フィルの黒木綾子)、ホルン:今井、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:客演(フリーの岩井英二)、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:ブルレスケ:14型、その他:16型

感想
 今回のプログラムは、本来ロレンス・フォスターが振る予定で、フォスターの趣味で二人のシュトラウス、すなわちヨハンとリヒャルトの組み合わせにしたものです。しかし、フォスターは健康上の理由で来日をキャンセル、代わりにAプログラムに登場したのは、本年1月1日付でN響の正指揮者に就任したばかりの尾高忠明です。N響の正指揮者は、日本人の指揮者でN響と深い関係にあるベテランの指揮者に与えられる称号で、これまで、岩城宏之、外山雄三、森正、若杉弘がその称号を受けました。森、岩城、若杉の3人が故人となり、正指揮者が外山雄三ひとりとなったことから、尾高にもその称号を与えることにしたようです。尾高は日本人としては比較的N響の定期公演を良く指揮する指揮者で、1988年以降では13回目になります。本年5月にはまた二つのプログラムを振りますので、現役の日本人指揮者で最もN響の定期公演を指揮者になりそうですから、この処遇は当然と申し上げて良いでしょう。

 さて、演奏ですが、私が日本人であることを痛感させられたコンサートでした。私が若い頃、日本人にはウィンナ・ワルツを本場物のように演奏できないというのが常識で、ニュー・イヤーコンサートでウィーンフィルが演奏するのが本物である、ということになっていました。私もそう信じていたのですが、今回N響の「ニューイヤーコンサート」を聴いて、私にとっては、先日の本場物のウィーンフィルのニューイヤーコンサートよりもずっと自分にしっくりくる演奏でした。今年のウィーンのニューイヤーと今回のN響定期が重なる曲は、「こうもり」序曲と常動曲ですが、私はどちらも尾高/N響に軍配を上げます。今年のプレートルの演奏は、基本的にテンポは遅め、更にリタルダンドの多用が特徴でした。それと比較すると、ずっとすっきりした軽快な演奏です。私はプレートルのような思い入れの強い演奏より尾高のようにローカルな雰囲気にこだわらない演奏のほうが好きのようです。私は尾高と同じ日本人であって、オーストリア人ではない、ということなのでしょう。

 といって、尾高の演奏に全くコクがないわけではありません。アンネンポルカにおける遅めのスタートや、皇帝円舞曲における「ため」などそれなりのことをやっているわけですが、それが重くならないところが良いところだと思います。

 なお、ポルカ「観光列車」では、シンバル奏者の石川さんが、駅長さんの恰好で登場、ホイッスルを吹いて会場を沸かせました。指揮者の尾高さんも同じくホイッスルを吹いて見せました。これらのホイッスルの音がもう少し大きいとなお良かったと思いますが、上々のパフォーマンスでした。また、常動曲でのストップを尾高さんは「以下同文」とおっしゃって止めました。常動曲でのストップの言葉は、「あとはこの繰り返しです」という意味だということは知っておりましたが、日本語で「以下同文」と言って止めたのを聞いたのは初めての経験です。楽しいと思いました。

 後半は、まず、リヒャルト・シュトラウスの「ブルレスケ」です。これはなかなか素敵な演奏。若林顕のピアノは必ずしも万全ではなかったのですが、ロマンティックな色合いが感じられ、N響の名人芸にも支えられ、全体としてはすっきりとした演奏。良かったと思います。

 最後が「ばらの騎士」組曲。こちらも楽器同士のテンポ感覚に若干ずれがあったようで、途中で和音がそろわないところがあったのですが、全体としては魅力的な演奏でした。一寸下品な雰囲気が出ていたのも結構だと思いました。

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2010年01月15日 第1665回定期演奏会
指揮:ジョン・アクセルロッド

曲目: J・S・バッハ 管弦楽組曲第3番 BWV1068より「アリア」
     
  チャイコフスキー    スラヴ行進曲 作品31
       
  チャイコフスキー    ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23 
      ピアノ独奏:清水 和音 
       
  チャイコフスキー    バレエ音楽「くるみ割り人形」第2幕 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:客演、オーボエ:青山、クラリネット:横川、バスーン:客演、ホルン:松ア、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、チェレスタ:客演

弦の構成:協奏曲:14型、その他:16型

感想
 本日は、冒頭で去る1月8日に亡くなった名誉指揮者のオットマール・スウィトナーをしのんで、予定外ではありましたが、バッハの「エア」が演奏されました。スウィトナーがN響に定期的に客演していたのは1970年代、80年代のことで、その後は来演の予定が発表されてもキャンセルになるなど、20年以上姿を見ることはありませんでした。ベテランのメンバーの方や年配の定期会員にとっては懐かしい指揮者だと思いますが、20年以上定期会員を続けている私も、彼の指揮による演奏を聴けたのは唯1回で、幻の名指揮者という印象が強いです。追悼演奏のあとには拍手をしない、というのがマナーだとは思いますが、結構拍手が出たのは、スウィトナーという指揮者を思い出せるお客さんが結構少なくなっている、ということかも知れません。

 さて、1月は、
本来ロレンス・フォスターが振る予定だったのですが、フォスターの体調不良によるキャンセルのためジョン・アクセルロッドが代わりに指揮台に立ちました。アクセルロッドという方は私はまったく初めて聞く名前だったのですが、プログラムによれば、最近活躍が華々しい若手指揮者の一人だそうです。確かに指揮ぶりは若々しい。ぴんと張った背中や大きい身振り、タクトの動くスピードなどにそれを感じます。ただ、音楽の作りは若さに任せて突っ走っているようなところが多くて、バランスはよくありませんでした。

 スラヴ行進曲が正にそう。この作品は、スラヴの土臭さを感じさせながらも明るく演奏すると聴き栄えのする作品だと思います。ところが彼の指揮によってN響から出てくる響きはどことなく重い。また楽器間の音が当たって響きが濁るのも問題です。もっと交通整理をして、響きのコントロールを出来ないものかと感じました。

 ピアノ協奏曲の第1番もいただけません。この作品もロシアの土臭さと天性のメロディメーカーであったチャイコフスキーの明るさを両立させたような演奏を期待したいところですが、残念ながらそうはなっていませんでした。ひとつは清水和音が巨匠的演奏を試みたところに問題があったのではないでしょうか。清水は比較的遅いテンポで、壮大にこの作品をまとめようという意思があったのだろうと思います。そのような演奏方針自身がこの曲に合っているとは私は思わないのですが、それがひとつの行き方であることは否定しません。ただそれが一貫しない。ところどころで演奏に軽薄さが見られます。それが全体の統一感に違和感を感じさせました。さらにオーケストラとピアノのテンポ感覚に微妙なずれがあって、ベクトルが一致していないのです。そこもどうかと思いました。結局中途半端な演奏で、私は満足できませんでした。

 くるみ割り人形の第2幕だけ演奏するというのは、かつてハインツ・ワルベルグがやりました。「くるみ割り人形」の聴き栄えするのは2幕ですからこれは妥当な選曲です。今回の演奏は、前半がいまひとつで、真ん中のディヴェルティスマンは良好、ラストはまあまあというところではないかしら。結局オーケストラ全体で演奏する部分は音がぶつかって響きが美しくならないのです。そこがこの指揮者の問題点だと思います。しかしながらソロが演奏をリードするディヴェルティスマンになるとN響の名手たちが音を纏めて行きますので、それはさすがな美音です。フルート、オーボエ、バスクラリネット、イングリッシュホルンなどの木管群がよかったと思います。

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2010年02月12日 第1668回定期演奏会
指揮:セミョーン・ビシュコフ

曲目: ワーグナー 楽劇「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲と愛の死」
     
  マーラー   交響曲第5番 嬰ハ短調

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:客演(日フィルの木村正伸)、ホルン:松ア(トリスタンは今井)、トランペット:客演(東フィルの長谷川智之)、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:16型

感想
 セミョーン・ビシュコフは、パリ管などを率いて何度も来日しており、知名度のある方ですが、N響客演は初めて。私は初めて聴きます。録音を含めても初めてかもしれません。先週のAプログラムも楽しみにしていたのですが、所用で聴くことができず、それだけに本日は楽しみにしておりました。

 聴いて思うのは、ビシュコフの音楽世界があるのだろう、ということです。

 最初の「トリスタンとイゾルデ」の「前奏曲と愛の死」は、うねりとさざ波の音楽だと思っているのですが、さざ波のたて方に個性があると思いました。この曲では、ビシュコフは指揮棒をもたずに振りました。柔らかな音楽に仕上げようという意識があったようです。ゆったりとした大きなうねりが続き、終了後も数秒は観客も余韻を楽しむかのように拍手を控え、その構図は成功したようです。さざ波の部分は全体の滑らかさから言えば異質のざらつきもあったのですが、そのアクセントこそがビシュコフの個性なのだろうと思います。

 後半のマーラーは「トリスタン」と比較すると、シャープな音楽。滑らかさよりはフォルテの迫力と金管・打楽器の切れのよさを重視した音楽だったと思います。冒頭のトランペットのファンファーレが素晴らしい。今回は、東フィル副首席トランペット奏者の長谷川智之さんが吹かれたのですが、透明感の高いすっきりしたファンファーレでした。N響首席の関山さんや津堅さんが吹けば、もっと重い葬送行進曲的哀愁を前面に出すと思うのですが、そういう気持ちをシャットアウトしたところに新しさがあると思いました。

 個々の奏者の意識よりも全体としてどう聴かせるか、という意識の演奏だったのでしょう。個々の奏者に技術面を強く要求する時、N響の楽員は流石です。松アさんのホルン、トロンボーン、チューバ陣、植松さんのティンパニなど切れの良さが光ります。そういうブロックが組み合わされて見える全体の姿は、ある程度のケレン味が出ていて、味わいを深くしていました。音楽全体の流れはややゆっくり目でじっくりしたものでしたが、色彩の豊かなマーラーで、そういうところがフランスのオーケストラの経験の長い指揮者の味なのかな、などと思いました。良い演奏でした。

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2010年04月10日 第1670回定期演奏会
指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

曲目: マーラー 交響曲第9番 ニ長調

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:木越、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:松本、バスーン:客演、ホルン:松ア、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:16-16-12-10-8

感想
  「異様に」と申し上げてよいほどエキストラの多い演奏会でした。特に弦楽器。これは、今「東京・春・音楽祭−東京のオペラの森2010−」が開催されていて、東京文化会館で、リッカルド・ムーティ/東京春祭特別オーケストラが「カルミナ・ブラーナ」を演奏しているからですね。東京春祭特別オーケストラは在京オーケストラの首席奏者クラスが出演していることがうたい文句であり、現実にN響からもヴァイオリンの山口さん、ヴィオラの店村さん、チェロの藤森さん、コントラバスの吉田さんを初め、多数の方が出演されているそうです。定期公演にエキストラが多くなるのはやむをえません。

 エキストラが多いからと言って、演奏が崩れないのがN響の実力ということかもしれません。全般的に精密な音楽を示しました。この演奏の鍵はブロムシュテットの経験と年齢をあまり感じさせないしなやかさにあるのだろうと思いました。ブロムシュテットは現在82歳なのですが、とてもそんなお年には見えません。指揮をしている姿を見ていると、背中の動きが昔と比べれば若干ぎこちなくなっているのではないかという気はするのですが、つむぎだされる音楽の瑞々しさは格別のものがあります。

 プログラムによれば、ブロムシュテットは今回のマーラーの9番の交響曲を81分で演奏するそうですが、多分その時間で演奏をまとめてきたと思います。タクトを使用しない演奏で、全体的に柔らかい、初夏の夕陽のような演奏でした。

 第一楽章は、指揮者の意図と楽員の意図とが必ずしも完全に擦り合っていない感じがあり、ところどころざらついている部分もあったのですが、全体としては良い演奏だったと思います。第二楽章は、ゆったりとしたレントラー。私はもう少し速いテンポではないかという気がしたのですが、これがブロムシュテットのテンポ感覚なのでしょうね。演奏は、よく晴れた日の夕方を彷彿させるような演奏で、皮肉っぽさがあまり強調されない感じがしました。第3楽章はロンド・ブルレスケで、第2楽章よりは大胆な感じがしましたが、基本的には穏やかで、ヨーロッパの田園風景を写した環境ビデオのBGMに適切なのではないかと感じました。

 そして、本日の白眉は第4楽章にあります。オーケストラ、特にN響のような機能的なオーケストラはは速い部分やフォルテの部分を合わせるのは得意なのですが、遅い部分は、特に遅くてピアノで演奏しなければいけない部分は個人個人の呼吸の微妙な違いがずれに繋がります。木管楽器の受け渡しなど、そうした細かいずれはそれなりにあったのですが、全体を通して見れば崇高さを感じる演奏だったと思います。ブロムシュテットの年輪とN響の技術の見事な融合と申し上げて良いのではないでしょうか。最後の音の消えてゆくところなどは涙が出るほど素晴らしいものでした。最後の音が消えてからの何秒間かはフライングの拍手も起きず、会場全体がブロムシュテットの作った余韻に浸っておりました。

 終演後はブラボーの声が交差し、楽員が引っ込んだ後にまでブロムシュテットが舞台に呼びもどされるほどの大きな拍手が長く続きました。


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2010年05月09日 第1673回定期演奏会
指揮:尾高 忠明

曲目: ラフマニノフ パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
      ピアノ独奏:小山実稚恵 
       
  ラフマニノフ    交響曲第2番 ホ短調 作品27 

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:ヤーノシュ・セルメチ(ゲスト・コンサートマスター)、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:佐々木、チェロ:木越、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:松本、バスーン:水谷、ホルン:日高、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:14型(パガニーニ)/16型(交響曲)

感想
 小山実稚恵は、今年デビュー25周年だそうですが、彼女のデビュー当時から聴いておりますので、私もコンサート・ゴーアーになって25年になるのだな、と思います。ここ15年ほどは、N響定期に登場する時以外は彼女を聴いていないので、久しぶりに聴くことになります。「パガニーニの主題による狂詩曲」は1993年に出演した時に取り上げておりますので(指揮は大友直人)、N響では久しぶりの再演になります。

 一言で申し上げれば、ダイナミックなピアノだったと思います。小山は基本的に指の回る方なのですが、その技術を利用して、全体を表情豊かにまとめたと思います。小山は「天然」の演奏(すなわち計算のない力任せの演奏)と言われることが良くあるようですが、今回聴いている感じは冷静に計算しながらバランスをきっちり見ている感じがしました。情熱的なパッセージと抒情的な表現の対比などはしっかり計算して組み立てていかなければ、あのようにぴったりと決まらないだろうと思いました。
素晴らしい演奏だったと思います。尾高忠明/N響の付けも結構なもので、感心いたしました。

 ラフマニノフの第2番は私には今一つピンとこない演奏でした。この作品は、今一つ骨格のはっきりしない作品で、掴みどころのない作品という印象があるのですが、今回の尾高の演奏も、まさにその印象を裏付けるような演奏だったと思います。思い切って甘い映画音楽のように演奏すれば、それはそれなりに纏まるのでしょうが、素直に演奏して、却って作品の訳の分からなさが表に出てしまったように思いました。N響の技量は優れており、一つ一つの情景を切り取った時、それぞれ明確な画像が描かれているのですが、それを重ね合わせて画集にまとめてみると、像がぼやけてくるということです。悪い演奏ではないと思いますし、最後は華やかに終って、見事ではあるのですが、作品の問題もあるのでしょう。どこか物足りなさを覚えました。

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2010年05月14日 第1674回定期演奏会
指揮:尾高 忠明

曲目: 武満 徹 ノスタルジア〜アンドレイ・タルコフスキーの追憶に(1987)
      ヴァイオリン独奏:堀正文 
       
  ブルックナー    交響曲第7番 ホ長調(ハース版) 


オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:水谷、ホルン:松崎、ワーグナー・チューバ:日高、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保
弦の構成:武満:8-6-4-4-2、ブルックナー:16型

感想
 武満徹の作品は、知っているようで知らない。今回演奏された「ノスタルジア〜アンドレイ・タルコフスキーの追悼に」も初めて聴く作品です。武満がなぜ、タルコフスキーに傾倒したのかは、タルコフスキー監督の作品を見たことが無いので分からないのですが、20世紀後半の前衛映像作家と現代音楽家の間にはお互い共通するものがあったのかもしれませんね。

 タイトルはともかく、私がこの作品に聴いたのは、言うなれば京都の竹林の静寂です。風にそよぐ竹笹の音、小川のせせらぎ。武満が日本を意識して作曲した作品ではないでしょうが、彼の感性にある「日本的なもの」が内在している作品なのだろうな、と思いました。尾高/堀/N響弦楽陣の演奏も、そういった感性があったのでしょう。静かに震える音楽でした。静寂を表現して秀逸だと思います。静かに消えていく独奏ヴァイオリン。素敵でした。

 後半のブルックナー。「綺麗な」演奏でした。全体に落ち着いたテンポで、一つ一つの音をしっかりと弾いていくタイプの演奏です。ブルックナーの演奏で時々見られるこけおどし的ケレンは全くない演奏で、会場を熱狂させるような演奏ではありませんでしたが、私は非常に良い演奏だと思いました。

 まずN響弦楽陣が上手です。そんなことは言うまでもないことですが、丁寧に演奏した時の彼らのアンサンブル能力の高さや音の透明感など、落ち着いて演奏されるが故に気がつかされるところが一杯ありました。またフルートの甲斐さんの音色の美しいこと。

 勿論ブルックナーですから金管の咆哮は激しいのですが、弦が金管の咆哮に引っ張られず、弦楽器の土台は盤石と言う感じでした。尾高は暗譜でこの作品を演奏していたのですが、設計図に忠実に演奏するという意志があったのかもしれません。どこまでも構造感があって、見通せる感じの音楽でした。

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2010年06月05日 第1676回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・アシュケナージ

曲目: ドヴォルザーク チェロ協奏曲 ロ短調 作品104
      チェロ独奏:デーヴィッド・コーエン 
       
  ドヴォルザーク    交響曲第8番 ト長調 作品88 


オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:客演(フリーの渡辺玲奈)、オーボエ:客演(東響の池田肇)、クラリネット:伊藤、バスーン:水谷、ホルン:松崎、トランペット:客演(東フィルの長谷川智之)、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:石川
弦の構成:協奏曲:14型、交響曲:16型

感想
 N響前音楽監督のアシュケナージの登場です。アシュケナージの指揮ぶりや舞台の様子を見ていると、この人、ほんとに『いい人』なのだな、と思わせられ、とても微笑ましくなるのですが、残念ながら、だから『音楽もいい』とはならない。もちろん、それは当然の話なのですが、『どこかずれている』感覚がなかなか切れない演奏会でした。

 ドヴォルザークの「チェロ協奏曲」。デーヴィッド・コーエンはベルギー人ですが、東洋的な雰囲気の音を奏でるチェリストです。イマジネーションが豊富な方なのでしょう。かなり自由な演奏をされていたように思います。しかし、そのチェロの向いている方向は内省的なものであって、声高には主張しません。音色は透明感が比較的高く美しいものです。全体的にはストイックな印象を与えるものでした。それだけに、木管とのコンビネーションが美しかったと思います。特にフルート(渡辺さん、甲斐さん)、クラリネット(伊藤圭さん)との対話が良かったと思います。

 アシュケナージはソリストを自由に演奏させるタイプの指揮者です。それは、ソリストの意思に寄り添う、という感覚なのだろうと思いますが、ベクトルが完全に一致している、というわけにはいかなかったようです。オーケストラとソリストとの間のテンポのずれは、どうしても発生してしまいますし、又音量も、金管の音が強すぎるきらいがありました。


 ドヴォルザークの第8交響曲。美しく華やかな演奏で、終演後は多くのブラボーを貰っていました。これはよくわかります。整然としておりましたし、技術的にも透明感のある美しい音色で演奏され、流石N響とでも言うべき出来でした。しかい、私は良い演奏だと思いながらも、今一つ満足できませんでした。全体的に人工的な印象が強く、土の匂いが感じられないのです。溜めの聴かせ方や力の入れ方などケレンミが強すぎて、「作りすぎですよ、アシュケナージさん」、と申し上げたくなるほどでした。もうちょっと野暮ったく演奏して、自然な雰囲気を出した方が、この作品の持つチェコの土の香りがもう少し匂ってくるのではないか思いました。

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2010年06月11日 第1677回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・アシュケナージ

曲目: フォーレ 組曲「ペレアスとメリザンド」作品80
       
  フランセ    クラリネット協奏曲
      クラリネット独奏:ディミトリ・アシュケナージ 
       
  サン=サーンス    交響曲第3番 ハ短調 作品78 
      オルガン独奏:勝山 雅世 


オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:西山、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:伊藤、バスーン:客演(読響の吉田将)、ホルン:日高、トランペット:客演(都響の高橋敦)、トロンボーン:栗田、チューバ:客演(フリーの柏田良典)、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ピアノ:客演
弦の構成:フォーレ/フランセ:12型、交響曲:16型

感想
 アシュケナージによるオール・フランス作品プログラムでした。フォーレの「ペレ・メリ」もサン=サーンスの「オルガン付」もよく聴かれる曲ですが、フランセのクラリネット協奏曲は、私にとって全く初めて聴く作品です。それだけに面白いと思いました。

 フォーレの「ペレ・メリ」。弱音を大切にし、この作品の持つ悲劇的な表情を表出させようとした演奏だったと思います。「メリザンドの主題」の哀切な響きがよく、また「メリザンドの死」における厳しい表現も悪いものではなかったと思います。神田/早川のコンビによる「シシリアーノ」は両者の腕の冴えを聴くことができました。私はこの作品に、印象派が登場した後のフランス音楽の気分が含まれていると思うのですが、そういう「気分」の感覚がこの演奏には希薄で、寧ろ、大地に根を下ろした安定な音楽のように聴こえました。

 フランセの「クラリネット協奏曲」。面白い作品でした。「クラリネット協奏曲」といえばモーツァルトの作品ぐらいしか知らない聴き手からすれば、まず驚きは、クラリネットってこんな多彩な音を出すことができるのだ!ということでした。高低・強弱とも多彩で、色々な表情を見せてくれます。そこがまず面白い。ソリストは、指揮者の次男ということで、親の推薦で演奏できたという側面もあるのでしょうが、逆にそう言う関係があったからこそ、こんな面白い作品を聴けた、ということはあるかと思います。現代フランス人作曲家の作品らしく、古典的な構成の中にもエスプリに満ちあふれた作品でした。N響のサポートもなかなか良く、特にフルートと、ソロクラリネットを支える伊藤さんのクラリネットが良かったことを付記いたします。

 オルガン付。アシュケナージ的ケレンを感じさせられる演奏でした。オルガンの低音がホール内に響くとき、その敬虔な雰囲気のなかをオーケストラが進んでいく、という印象です。アシュケナージは金管を強く吹かせ、響きにこだわった演奏をされていたと思います。力強い推進力のある演奏。こういう演奏は、聴き手を興奮させるものですから、終演後の拍手はひときわ大きいものでした。

 私は、先週のドヴォルザークで感じた人工的な印象を又持ちました。ただ、先週のドヴォルザークと違って、この「オルガン付」はそういう人工的な表情を許容する雰囲気があります。その点で、私自身は先週のような違和感はありませんでした。

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