NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2008年(前半)

目次

2008年01月13日 第1610回定期演奏会 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮
2008年01月18日 第1611回定期演奏会 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮
2008年02月09日 第1613回定期演奏会 チョン・ミョンフン指揮
2008年02月15日 第1614回定期演奏会 チョン・ミョンフン指揮
2008年04月05日 第1616回定期演奏会 隼・メルクル指揮
2008年04月11日 第1617回定期演奏会 隼・メルクル指揮
2008年05月10日 第1619回定期演奏会 尾高忠明指揮
2008年05月16日 第1620回定期演奏会 尾高忠明指揮
2008年06月14日 第1622回定期演奏会 マッシモ・ザネッティ指揮
2008年06月20日 第1623回定期演奏会 マッシモ・ザネッティ指揮

 

2007年ベスト3
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2006年ベスト3
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2005年ベスト3
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2004年ベスト3
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2003年ベスト3
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2002年ベスト3
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2001年ベスト3
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2008年01月13日 第1610回定期演奏会
指揮:
ヘルベルト・ブロムシュテット

曲目: モーツァルト   交響曲第38番 ニ長調 K.504「プラハ」 
       
  ブルックナー   交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」(ノヴァーク版 1878/80年)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:ペーター・ミリング(客演)、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:水谷、ホルン:日高、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保

弦の構成:モーツァルト:10-10-6-4-3、ブルックナー:15-16-12-10-8

感想
 
ブロムシュテットは、知的な指揮者であるという印象があります。もちろん、それは風貌のせいもあるのですが、例えば、ヴァイオリンの対向配置に対するこだわりや楽譜の選択などを見ていると、職人的ではないように思います。この知的な側面がオーケストラと上手く波長が合えば素晴らしい演奏になるのですが、そこがぶつかると、結構ボロボロの演奏になります。知的だけれども熱血の指揮者ブロムシュテットらしいといえましょう。

 しかし、年齢を重ねるにつれて、ブロムシュテットのとんがった部分が演奏では見られなくなったように思います。そのケレンがなくなり、ブロムシュテットの解釈は、より自然になってきたようです。

 それをつくづく感じたのは「プラハ交響曲」です。ブロムシュテットは、この名曲の繰返しを全て行うという、ある意味、非常にケレンの強いことをやってみせました。しかし、それで音楽の流れが損なわれることは何もありませんでした。ブロムシュテットという個性がすっかり音楽の中に隠れて、我々に見えてくるのはひたすらモーツァルトでした。N響の力を持ってすれば、ブロムシュテットがいなくても同じように演奏してしまうだろうな、と思わせてしまうところにブロムシュテットの腕があります。とにかく自然な演奏で、モーツァルトの味わいがとことん表現されていたと思います。現在、これだけのモーツァルトを演奏できる指揮者はそうはいないでしょう。名演奏でした。

 ブルックナーも基本的な感想は一緒です。もちろん、モーツァルトとブルックナーは同時代の作曲家ではありませんから、演奏スタイルは異なります。モーツァルトがロココ的美観が満喫できる音楽だったのに対し、ブルックナーはきっちり金管を咆哮させます。ダイナミクスをしっかりとります。そのようにブルックナーのフォルムを崩すことのない演奏をするのですが、演奏の流れはごく自然です。

 第一楽章は生気のあふれる音楽でつづり、第二楽章は見事な静謐があります。見事な祈りの音楽です。スケルツォは比較的淡々としており、フィナーレは力強く歌います。しかし、全体としてはブロムシュテットの個性が立っているというよりはブルックナーの特性がくっきりと見えてくるような演奏でした。音楽のうねりに身を任せていくときの快感が抜群でした。私がこれまで聴いた「ロマンティック」の実演の中で、私にとって明らかに最もしっくり来る演奏です。老練の腕と申し上げてよいのでしょう。名演奏というしかありません。

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2008年01月18日 第1611回定期演奏会
指揮:
ヘルベルト・ブロムシュテット

曲目: シベリウス   交響詩「4つの伝説」作品22から「トゥオネラの白鳥」 
       
  シベリウス   交響詩「タピオラ」 作品112
       
  シベリウス   交響曲第2番 ニ長調作品43

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:ペーター・ミリング(客演)、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:松崎、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ハープ:早川、ティンパニ:植松、ピッコロ:菅原、イングリッシュホルン:池田、バスクラリネット:加藤、コントラファゴット:菅原

弦の構成:16-16-12-10-8

感想
 
ブロムシュテットは、昔から、シベリウスを得意とする指揮者として人口に膾炙していたように思います。ブロムシュテットは、両親がスウェーデン人のスウェーデン系アメリカ人であり、フィンランドとは直接関係ないようにも思うのですが、昔からシベリウスをよく演奏してきました。第2番の交響曲を演奏するのは、私がN響の定期会員になってからに限っても三度目になります。

 一方、「トゥオネラの白鳥」は、シベリウスの小品集には必ず取り上げられるようなポピュラーな曲ですが、N響ではここ20年来とり上げられたことのない作品です。私もCDでは聴いたことがありますが、実演は初めてです。ところで、この演奏がとてもよいものでした。演奏の中心がイングリッシュホルンですが、池田昭子さんのイングリッシュホルンの音が非常に素敵です。また、遠雷のように聴こえる竹島悟史さんの大太鼓も魅力的でした。渋くて悲しみの深い演奏で、音楽に沈みこまされるような演奏でした。非常に緊張感の高い演奏でよかったと思います。

 「タピオラ」は幻想的な交響詩。若いときに書かれた「トゥオネラの白鳥」と並べてみてその対比を楽しもうという趣旨だったと思いますが、私は、その両曲の違いよりも同一作曲家の作品の同一性を強く感じました。もちろん「タピオラ」のほうが、より幻想性を感じる演奏でしたし、音楽語法も進化している感じがあるのですが、両曲ともその底に流れている悲しみというか諦念は同じものなのではないか、という気がしました。演奏は、「トゥオネラの白鳥」と比較すればダイナミックなものでしたが、それでも静寂が印象深い演奏でした。

 第2番の交響曲のスタイルも根本は、他の2曲の交響詩と同じだったのでしょう。それはある部分では成功したのでしょう。カーテン・コールの拍手の嵐は、N響では本当に久しぶりと申し上げても良いのではないでしょうか。とにかく観客の支持は高い演奏でした。しかし、私は今ひとつすっきりしないのです。確かにたいへん良い部分があったことを否定するものではありません。しかし、全体的には求心力の乏しい演奏だったと思うのです。弦と金管との微妙なずれが見えたりとか、パート間の揃っていない感じが終始つきまといました。2003年にもブロムシュテットはシベリウス第2番の交響曲を取り上げていますが、そのときの演奏は、今回の演奏と比較してもっと求心性があって、もっとダイナミックで楽しめたと思います。今回もそういう演奏をしてくれれば尚よかったと思いました。

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2008年02月09日 第1613回定期演奏会
指揮:
チョン・ミョンフン

曲目: メシアン   キリストの昇天 
       
  ブルックナー   交響曲第7番 ホ長調(ノヴァーク版)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:磯部、バスーン:岡崎、ホルン:今井(メシアン)/松崎(ブルックナー)、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:石川、イングリッシュホルン:池田、バスクラリネット:加藤、ワーグナーチューバ:今井

弦の構成:メシアン:18型、ブルックナー:20型

感想
 
N響の標準的な弦の構成は16型です。即ち、第一ヴァイオリンが16人、第二ヴァイオリンが14人、ヴィオラが12人、チェロが10人、コントラバスが8人という構成。N響はこれより小さい編成で演奏することはよくあります。通常協奏曲は、14型と呼ばれる構成で演奏されるのが一般的ですし、ハイドンやモーツァルトはもっと小さい編成で演奏するのが普通です。しかしながら、これ以上の大きな編成で演奏会に登場することは滅多にありません。私が知っているのは唯一度、インバルが200年の4月にマーラーの「復活」を振ったとき、指揮者の希望で18型にした、というもののみです。それが、今回は、メシアンが18型、ブルックナーにいたっては20型という超特大の弦編成で演奏しました。ちなみに、ブルックナーでは、舞台に上がっていた奏者の合計は弦楽器80人、木管楽器8人、金管楽器16人、打楽器3人の107人でした。合唱無しの作品でこれだけの人数が舞台に乗ったのは多分初めてではないかしら。

 大人数が乗れば乗るほど音は揃い難くなります。そういう大編成のオーケストラをどのようにコントロールするかが指揮者の腕の見せ所ですが、チョン・ミョンフンは流石です。一糸乱れず統率して見せました。

 まずメシアンが凄い。チョンは長年フランスの管弦楽団と良好な関係を続けてきたから当然かもしれませんが、決して易しいとは思えないメシアンの管弦楽曲を暗譜で振り、見事な統率力でまとめて見せました。基本的に柔らかい音の流れで、第1楽章の管楽器の柔らかな音色がまず聴きものでした。第2楽章の民族音楽的音色と無調の弦楽器の音の対比を見事なものでした。第2楽章のおしまいの部分の弦が又美しい。第3楽章のトランペットのファンファーレもよく、弦楽器によるフーガの部分も素敵でした。そして、最大の聴きものの第4楽章。第一ヴァイオリン18本、第二ヴァイオリン5本、ヴィオラ5本、チェロ2本という変則な組み合わせで演奏されるアダージョでしたが、天国的な美しさと申し上げてよいと思います。まさしく名演だと思いました。

 ブルックナーは更に大きな編成。にもかかわらず一糸乱れぬ演奏。精妙主義の極致のような演奏です。とにかく磨かれた演奏でした。正直申し上げて管楽器が一部外した部分がなかったわけではないのですが、そのような小さな傷より全体のうねりの素晴らしさを称えたいと思います。全体に美音で、しなやかかつ柔らかな音楽でした。無理のない演奏と申し上げても良いのかもしれません。管の咆哮もあるにはあるのですが、全体のベースの精妙で且つ柔らかい音楽の上の管の咆哮ですので、フォルテシモで出しても何となく上品に聴こえます。第4楽章のクライマックスまでそのスタイルで押し通しました。

 大人数のおかげでダイナミックスの幅が取れ、かつばらばらにならない。N響の演奏能力の高さと、指揮者の確かな見通しとが相俟って、非常に高質な名演奏になりました。

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2008年02月15日 第1614回定期演奏会
指揮:
チョン・ミョンフン

曲目: メシアン   忘れられたささげもの 
       
  マーラー   交響曲第9番 ニ長調

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:甲斐、オーボエ:茂木、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:客演、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:メシアン:16-14-14-12-10、マーラー:18-18-16-14-12

感想
 
2週連続で大規模オーケストラでの演奏会を聴きました。弦がこれだけ厚いと、音のダイナミクスが違います。音に余裕のある感じがします。全員で強奏しなくとも音に厚みがあるので、裕福な感じがいたします。NHKホールは巨大な空間を持つホールですから、この程度の弦の人数がいてもよいのかもしれません。

 メシアンの作品は、宗教的背景を持つもののようですが、チョンは、そういった感じを排除した演奏に終始したと思います。というよりも聴き手自身が、この作品の持つ宗教的背景を本質的に理解できないのですから、基本的にすっきりとまとめることは悪いことではないように思います。作品は色彩豊かとされているようですが、私は、しみじみとした柔らかな光を感じるような演奏のように思いました。後半の静寂がことによかったと思います。

 マーラーは先週のブルックナーと比較すると更に色彩感の強い作品ですが、その色彩感のバランスを含め、全体のフォルムは先週のブルックナーの方が私にはしっくり来ます。とはいえ、今週の演奏も素晴らしいものでした。実を申し上げると、私がマーラーの9番を実演で聴くのは今回が初めての経験です。録音では中学生のころから親しんでいたのですが、いろいろな偶然でこうなってしまったと思います。その初マーラー9が素晴らしい演奏でよかったと思います。

 この作品はなかなか一筋縄ではいかない作品で、いろいろな解釈が可能なのであろうと思うのですが、私はうねりを大事にすることが一つポイントでないか、という気がします。チョンの作り出すうねりは、巨大なものではなくどこか清楚な感じがします。110人もの人が舞台に乗っているのですから、もっと激しくももっと下品にも演奏できるのでしょうが、どこか上品で、どこか質素です。そこが、東洋人指揮者と東洋人オーケストラの組み合わせの味わいなのかもしれません。第1楽章後半のうねりが私にはしっくり来ました。第2楽章は無骨で粗野な演奏を要求されているようですが、チョンは極端を要求しない。そのおかげでかもしれませんが、中間部は天国的美感がありました。

 第3楽章はテンポの設定が上手く勢いがありました。最終楽章は、極端に遅くなることがなく、これまでのうねりの中でフィナーレに到りました。最後の静寂は流石です。オーケストラは無傷というわけには行きませんでしたが、全体的にはチョンの指示に上手く乗っていたと思いますし、N響のヴィルトゥオジティが発揮できていたのではないかと思います。

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2008年04月05日 第1616回定期演奏会
指揮:
隼・メルクル

曲目: グリンカ   歌劇「ルスランとリュドミーラ」序曲 
       
  ラフマニノフ   ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
      ピアノ独奏:中村紘子
       
  シェーンベルグ   交響詩「ペレアスとメリザンド」 作品5

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:大林、ヴィオラ:佐々木(グリンカ・ラフマニノフ)/店村(シェーンベルグ)、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:客演、オーボエ:青山、クラリネット:磯部、バスーン:水谷、ホルン:松崎、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:グリンカ:16-13-11-10-8、ラフマニノフ:14型、シェーンベルグ:16-13-12-10-8

感想
 
第二ヴァイオリンの首席である永峰さんか山口さんが急病にでもなられたのでしょうか、第二ヴァイオリンのトップが大林修子さんという珍しい布陣でした。でもN響の特徴が変わったという感じはしません。流石にプロのオーケストラです。

 さて、本日の指揮は、2006年6月以来の隼・メルクルです。一言で申し上げるならば、隼・メルクルの闊達でしなやかな指揮でのびのびとした音楽を聴くことができました。

 「ルスランとリュドミラ」は、オーケストラのヴィルトゥオジティを示すためによく演奏されます。そのためにむやみやたらに速いテンポで演奏されたりもするのですが、隼・メルクルはそんなにしゃかりきにもならず、と言って重たくもならない、適度なスピードで演奏し、良いものでした。N響も流石に上手でした。

 ラフマニノフのピアノ協奏曲もなかなか聴きものだったと思います。中村紘子はオケをよく見ながら演奏しています。中村はバリバリ弾くタイプのピアニストで、そのため音が濁ったり、走りすぎて破綻したり、ということが決して珍しくないピアニストですが、本日は落ち着いた演奏でよかったです。ピアノの音色は決して美音ではありませんが、弾き飛ばさず丁寧に演奏していました。オーケストラとの対話も上手く行っていたと思います。N響は、第2楽章の柔らかな表現がよく、又第3楽章では、諧謔味が上手く表現されていて、割と一本調子のピアノの雰囲気を変えるのに効果的だったと思います。

 シェーベルグの「ぺリアスとメリザンド」、名演だったと思います。メルクルは、シェーンベルグ編曲のブラームス「四重奏曲」でN響にデビューし、私はその演奏を聴いて大いに感心した覚えがあるのですが、今回の「ぺリアスとメリザンド」はそのときの感興を思い出させてくれるような演奏でした。意欲的な指揮ぶりで、オーケストラをどんどん引っ張っています。ロマン派後期の爛熟美を意識した柔らかい演奏で、官能的な魅力もありました。それでいて、スケールの大きな音楽に仕上がっていたと思います。速い部分も悪くないのですが、アダージョの演奏が特によかったと思います。

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2008年04月11日 第1617回定期演奏会
指揮:
隼・メルクル

曲目: メシアン   トゥランガリラ交響曲 
      ピアノ独奏:ピエール・ロマン・エラール
      オンド・マルトノ独奏:原田節

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:松崎、トランペット:津堅、トロンボーン:新田、チューバ:客演、大太鼓:植松、小太鼓:石川、チェレスタ:客演

弦の構成:16型

感想
 
トゥランガリラ交響曲はN響では10年に1回ぐらいのペースで演奏される作品で、1998年にはデュトワが、1988年にはエサ・ペッカ=サロネンがとり上げています。指揮者は変われどもオンド・マルトノは常に原田節で、原田のオンド・マルトノは、唯一絶対の存在のようです。そういえば、昨年1月聴いた東京フィルハーモニー交響楽団のチョン・ミョンフンが振った「トゥランガリラ交響曲」でのオンド・マルトノも原田節でした。

 原田節は常に一緒ですが、響く音楽は指揮者によって随分違うようです。隼・メルクルの解釈は、一言で申し上げるならば端正な荒々しさ、ということだと思います。ピエール・ロラン・エマールのピアノは、緊迫感と鋭さに満ち溢れたもので、油断をすれば、こちらがすっと切られる鋭利さを秘めています。それに対して原田のオンド・マルトノはその鋭利な音を柳に風と受け流す度量があります。隼・メルクルの指揮は、その二つの楽器の協奏にはさまれながらも独自の解釈を悠然と示して見せます。

 隼・メルクルは、アッチェラランドをかけることも無く、堂々と演奏させます。それだけにオーケストラの音が滑らず彫りの深いものになって行きます。その深さは、鑿で一つ一つ削り取ったような荒々しさがあります。しかし、全体としてのプロポーションは見事で、破綻することはありません。バランスの良い中で曲の味付けをすることにより、この作品の持つ面白さを十分に表現できた演奏になったと思います。勿論緩徐楽章で、楽器間の呼吸が乱れるであるとかのトラブルはあったのですが、全体の構成は納得行くものであり、隼のクレバーさが光る演奏でした。

 名演と申し上げて良い演奏だと思います。

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2008年05月10日 第1619回定期演奏会
指揮:
尾高 忠明

曲目: ベートーヴェン   ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」 
      ピアノ独奏:レオン・フライシャー
       
  パヌフニク   カティンの墓碑銘(1967)
       
  ルトスワフスキ   オーケストラのための協奏曲(1954)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:客演、トランペット:客演、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ピアノ:客演、チェレスタ:客演

弦の構成:ベートーヴェン、パヌフニク:14型、ルトスワフスキ:16型

感想
 
いろいろな意味でスリリングな演奏会だったと思います。特に、前半と後半とでは、スリリングの意味が違います。

 最初は「皇帝協奏曲」。ソリストはレオン・フライシャー。1928年生まれといいますから本年80歳になろうかというベテラン。1965年に右手の指二本が動かなくなり、左手専門のピアニストとして活躍してきたそうです。2005年ごろその疾患から回復し、両手の演奏も行うようになり、本日のN響客演に到ったということのようです。

 第一楽章は、一言で申し上げれば巨匠的構成感の強い演奏。決してテクニック的には優れてはいないのですが(ミスタッチもあります)テンポを少しずつ揺らしながら、堂々と演奏するやり方。決して悪いものではありません。N響の伴奏も取り立てて特徴的なものではなく、ソリストの演奏に柔軟に対応しようとするもの。第二楽章も基本は同じです。ピアノの柔らかなタッチが印象的です。ところが第三楽章がいけません。とにかく、アレグロのテンポにならない。勿論、テンポも演奏者の感覚ですから、アレグロが私の感じるスピードでなくても良いのですが、それにしてもミスタッチが多い。ゆっくりの上にミスタッチが多いので、これで終われるのか、と心配になるほどでした。尾高/N響の伴奏も第三楽章途中から、不安な雰囲気が客席にもよく分かりました。何とかフィナーレまでたどり着きましたが、いつ音楽が壊れてしまうのではないかかと心配で、スリリングな演奏でした。

 パヌフニク「カティンの墓碑銘」は、第二次世界大戦中のソ連によるカティンにおけるポーランド人虐殺に対するレクイエムです。コンサートマスター・篠崎さんのヴァイオリンソロによって静粛に始まり、木管合奏に引き継がれ、弦楽四部・各4人ずつの合奏を経て、オーケストラ全体で強奏し、力強いトゥッティで終わるという構成。作曲者の鎮魂の気持が高揚してきて、ソビエトに対する怒りに変わる様子が見事です。演奏も流石にN響のヴィルトゥオジティでした。

 ルトスワルスキ「オーケストラの協奏曲」。いい演奏でした。構造も複雑で、技術的にも高いものが要求される作品であることはよく分かります。そのような難曲を尾高忠明は、一糸乱れず、といった雰囲気で統率します。いい意味でスリリングでした。昨年のブルックナーの8番に引き続き、素敵な演奏を聴かせて頂きました。個別奏者も流石に力があります。池田さんのイングリッシュホルン、加藤さんのバスクラリネット、ファゴット群の支え、聴き所がたくさんありました。打楽器奏者は持ち替えが多いのですが、シロフォンと小太鼓を持ち替えて演奏した石川さんは自分が楽器の前を移動しながらの演奏、グロッケンシュピールとサイド・ドラムを持ち替えて演奏した竹島さんは、楽器を自分の前に運んできて(つまり楽器を演奏するポジションは同じ)演奏する、そんなスタイルの違いも見ていて面白く感じました。 

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2008年05月16日 第1620回定期演奏会
指揮:
尾高 忠明

曲目: ベートーヴェン   ピアノ協奏曲第3番 ハ短調 作品37 
      ピアノ独奏:ブルーノ・レオナルド・ゲルバー
       
  エルガー   交響曲第1番 変イ長調 作品55

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:客演(東京交響楽団のヌヴー)、バスーン:水谷、ホルン:客演、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:植松、ハープ:早川

弦の構成:協奏曲:14型、交響曲:16型

感想
 
昨年のブルックナー、二週間連続で聴いた本年の定期公演。尾高忠明は間違いなく巨匠の道を歩んでいるように思います。あと10年もすると、かつての朝比奈隆のポジション(本当の地位という意味ではなく、楽壇やファンからの評価)になるのではないでしょうか。いい意味で、巨匠芸が垣間見える演奏会だったと思います。

 最初のベートーヴェンのピアノ協奏曲3番が非常に素晴らしい演奏でした。ゲルバーの1951年における正式なデビュー曲で、50年以上演奏している作品です。ゲルバーは、子供のころ小児麻痺を患い、足が少し不自由だったのは知っておりました。かつて、彼の演奏を聴いたときも、足をひきずっていたことを記憶しております。しかし、本日は、その足のひきずり方がかなり悪そうで、きっちりした演奏ができるのか、と一瞬危惧したのですが、実際の演奏は「巨匠の芸」としか言いようのないものでした。

 全体に遅めの演奏ですが息切れしない演奏です。柔らかさと力強さとが共存して奥行きの深い演奏になっています。ペダルを多用するフォルテの部分よりもピアノの部分の方がより印象的。なお、ペダルは全体的に多用しすぎだと思いました。もう少し減らした方がこの作品の味わいをより感じられるように思います。この特徴がよく現れたのが第二楽章です。ラルゴよりも更に遅いテンポだと思うのですが、重厚で且つ美しい。どっしりとしていていて、ピアノの一音一音に重みを感じるのです。フィナーレ楽章もアレグロというよりはアレグレットぐらいのテンポで、更にリタルダンドも多用しますので、奥行きのある格調の高い演奏になります。やはり巨匠芸です。

 この演奏につけるN響も巨匠芸で対抗しました。良いソリストだとオーケストラも乗るのでしょう。先週のフライシャーの時の不安げな演奏とは全然違います。弦楽器の美音、ファゴット、フルート、しっかりとしていて美しい。尾高の巨匠性がよく発揮された伴奏で、大変結構だったと思います。

 エルガーの交響曲は、尾高にとってのこだわりの曲です。1991年に客演したときもこの作品を演奏しています。私は実演では初めて聴くのですが、2-3年前、尾高が札幌交響楽団を指揮したときの演奏をFMで聴いたことがあって、今回を楽しみにいたしました。尾高の演奏は、鋭さと激しさを要求しながらも、全体的に写実的な演奏を心がけていたように思いました。指揮台に楽譜が置いてありましたが全く開くことなく、完全暗譜で演奏しました。それだけでも、この作品に対するこだわりが分ります。

 N響も、決して演奏しやすいとは思えないこの作品を鋭さ、易しさのコントラストを明確に演奏し、そのヴィルトゥオジティをしっかりと示しました。

 なお、今回のCプログラムで、チェロの茂木新緑さんが定年のため引退だそうです。長い間お疲れ様でした。

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2008年06月14日 第1622回定期演奏会
指揮:
マッシモ・ザネッティ

曲目: ベートーヴェン   ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58 
      ピアノ独奏:マルティン・ヘルムヒェン
       
  プロコフィエフ   組曲「ロメオとジュリエット」第1,2,3番から

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:佐々木、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:客演、バスーン:水谷、サクソフォーン:客演、ホルン:日高、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、チューバ:客演、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ピアノ/チェレスタ:客演

弦の構成:ベートーヴェン:12型、プロコフィエフ:16型

感想
 
今年の上半期のN響の定期公演、本当に充実していたと思います。私は、いうまでも無く激辛の聴き手な分けですが、本年上期のN響の演奏に対しては、ほとんど批判がない。「名演だと思います」のオンパレード。これでいいのか。辛口の聴き手が聴いて呆れます。でも高水準の演奏が続いていたのは事実なのです。有能な指揮者とスキルに優れたオーケストラのコラボレーションがいかに素晴らしい結果を残すのか、その見本のような半年でした。6月のマッシモ・ザネッティもその流れに乗ったと申し上げて良いでしょう。特に前半のベートーヴェン。先月のゲルバーとは全く違ったアプローチながら、まごうことなき名演でした。

 ヘルムヒェンというピアニスト。柔らかな表現は天才的と申し上げて良いでしょう。ゆったりとした柔らかなタッチで演奏します。大らかだけど繊細。そこが素晴らしい。ベートーヴェンの第4番のピアノ協奏曲は、第5番「皇帝」と比較して、「女性的」とも言われる作品ですが、曲の味わいは、確かに柔らかなタッチでこそ生きるようです。オーケストラもピアノに合わせて柔らかな音色を出し、その距離感が絶妙です。その近づいたり離れたりする感じが、いかにもベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番にぴったり来るのです。

 第1楽章の自作のカデンツァが素敵で、第2楽章のアンダンテは、オーケストラとピアノとの会話が、強弱の交代を伴いながら進むところが良いです。ザネッティとヘルムヒェンとが周到に打ち合わせての演奏なのでしょう。そしてロンド楽章。最初のオーケストラの弱音の演奏が素敵でした。全体に柔らかさと繊細さとでトーンを作った名演奏だと思いました。

 ヘルムヒェンのこの柔らかいタッチの特徴は、アンコール曲でも如実に示されました。演奏されたのは、モーツァルトのピアノソナタK.332の第二楽章でしたが、これがまた胸に染み入る演奏でした。大満足でした。

 ベートーヴェンと比較するとプロコフィエフは普通の演奏です。勿論技術的にはハイレベルの演奏でしたが、私には中途半端なプログラムのように思いました。3つの組曲からわざわざ再度編集して、1時間ものにする意義がよくわかりません。ザネッティの一所懸命さとその意識に意気に感じた(かどうかは本当のところよく分からないのですが、)N響は、くっきりした音楽作りを行い、プロコフィエフのモダニズムの性格を見事に示したように思いました。

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2008年06月20日 第1623回定期演奏会
指揮:
マッシモ・ザネッティ

曲目: ラヴェル   スペイン狂詩曲 
       
  フォーレ   組曲「ペレアスとメリザンド」作品80
       
  レスピーギ   交響詩「ローマの松」
       
  レスピーギ   交響詩「ローマの祭り」

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:佐々木、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:茂木、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:今井、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、ピアノ:客演、チェレスタ:客演、マンドリン:客演

弦の構成:フォーレ:14型、その他:16型

感想
 マッシモ・ザネッティのプロフィールを見ると、「ヴェルディのオペラを得意とする」と、書かれているのですが、コンサートのプログラムは多彩です。2003年に客演したときは、マーラーの5番を振り、今回は、モーツァルト、リヒャルト・シュトラウス、プロコフィエフ、ラヴェル、レスピーギと振るわけですから、大変なものです。ただ共通しているのは、大規模オーケストラをドライヴする方が好きということは、あるのかもしれません。

 小規模のオーケストラをまとめるより、大規模なオーケストラをまとめる方が大変なことは申し上げるまでもありません。2003年にマーラーを聴いたときは、そのまとめ方が必ずしも十分ではなくどちらかといえば上滑りの指揮で、彼のやりたいことがオーケストラに十分浸透していないように聴きましたが、今回の指揮も指揮者が少し先走っている感はあったものの、まとまりはよく、指揮者の成長と実力を感じさせる演奏になりました。

 演奏自体の聴き応えは、前半より後半がよく、特にレスピーギは聴きものでした。

 「スペイン狂詩曲」は、比較的ゆっくりとしたテンポで、割と硬質な演奏でした。ラプソディの雰囲気はやや乏しかったように思います。スペインの熱気を感じることなく落ち着いていた、と申し上げれば良いのでしょうか?安全運転は良いことなのでしょうが、もう少し違反があった方がスリリングかもしれません。

 「ペレアスとメリザンド」はアンダンテが基調の曲で、ラヴェルよりはザネッティの雰囲気に合っているように思いました。アンダンテの感覚が割とゆっくりのようで、落ち着いた印象を受けました。一方、シシリア舞曲は神田さんのフルート、早川さんのハープのアルペジオがとても美しく満足できるものでしたが、全体のテンポ構成から申し上げれば、もっとゆっくりした演奏でも良かったのではないかという気がしました。

 「ローマの松」は、最近では、2004年にネッロ・サンティがしっとりした中にも迫力のある演奏が心に残っているのですが、ザネッティの今回の演奏は、若々しさを前面に出してきました。通常であればバンダになる、トランペットとトロンボーンを舞台の一番後ろに並べるところなど、広いNHKホールをどう響かせるのか、ということを考えたようです。第3楽章にあたる「ジャニコロの松」の演奏が特によく、フィナーレの「アッピア街道の松」のクレシェンドもまた見事でした。

 「ローマの祭り」は、「ローマの松」以上に演奏効果を狙った作品です。私もトスカニーニのレコードを持っていて何度か聴いたことはあったのですが、実演で聴くのは初めてです。それは当然かもしれません。こんなに大規模な曲だとは思っていませんでした。舞台には木管14人、金管14人、打楽器10人、マンドリン、ピアノ連弾、オルガン、ファンファーレのトランペット3人、それに弦楽60人です。100人を越えるメンバーが演奏するのですから大変です。しかしながらザネッティは、きっちりとコントロールしてまとめて見せました。フィナーレに向けての盛上げ方は、「ローマの松」以上に素晴らしく、面白く聴きました。

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