NHK交響楽団定期演奏会を聴いての拙い感想-2007年(前半)

目次

2007年01月12日 第1586回定期演奏会 シャルル・デュトワ指揮
2007年02月10日 第1589回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮
2007年02月16日 第1590回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮
2007年04月07日 第1592回定期演奏会 マティアス・バーメルト指揮
2007年05月11日 第1594回定期演奏会 ロレンス・フォスター指揮
2007年06月03日 第1595回定期演奏会 尾高 忠明指揮
2007年06月23日 第1596回定期演奏会 ウラディーミル・アシュケナージ指揮
2007年07月20日 N響「夏」2007   トマーシュ・ネトビル指揮

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2007年 1月12日 第1586回定期演奏会
指揮:
シャルル・デュトワ

曲目: プロコフィエフ   古典交響曲 作品25 
       
  プロコフィエフ   ピアノ協奏曲第2番 ト短調 作品16
      ピアノ独奏:ユジャ・ワン
       
  プロコフィエフ   カンタータ「アレキサンドル・ネフスキー」作品78
      メゾソプラノ独唱:イリーナ・チスチャコヴァ
      合唱:東京混声合唱団

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:水谷、ホルン:松崎、トランペット:関山、トロンボーン:栗田、テューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:客演

弦の構成:16型

感想
 
新年最初のN響定期公演は、指揮者が名誉音楽監督のデュトワ、プログラムはオール・プロコフィエフ・プログラムとなりました。それにしてもN響も若返りが急速に進んでいるという印象です。2006年の後半だけで、かつてのヴィオラの次席奏者大久保さん、ヴァイオリンの大松さん、大澤さんが退団されましたが、席次も随分入れ替わっています。かつての第2ヴァイオリンの首席奏者村上さん(今回の定期で退団だそうです)が、第1ヴァイオリンのほぼ最後列で演奏していたり、オーボエの首席奏者、北島さんが2番を吹き、ホルンの首席奏者樋口さんが3番を吹くなど。一方で昨年入団したばかりの大宮臨太郎さんが次席奏者トップとなって演奏したり、入団前の契約団員の方でも前のほうで演奏するのも当たり前のようです。もう少しすると、また変化したという印象を強く持つ様になるのかも知れません。

 プログラムが渋いのでお客さんの入りはあまり良くはなかったのですが、演奏はなかなか良かったと思います。プロコフィエフのモダニズムはデュトワの感性とよく合っているということなのでしょう。古典交響曲がまず良い。プロコフィエフの一寸皮肉っぽいけれどもモダンな雰囲気(「古典交響曲」といいますが、私はこの曲を何度聴いても古典のようには聴けないのです。古い舞曲の形式があったり、古典的な交響曲の形式を模倣していますが、入っている音楽は現代音楽に近いものだと思います。プロコフィエフの生まれ育った時代・地域とハイドンの時代・地域の差は、結構大きかったということかもしれません)、が良く出ていたと思います。舞曲のけれんの出し方が流石にデュトワだなあ、と思いました。

 ピアノ協奏曲第2番。ピアノ独奏が全く面白くない。昨年12月にユンディ・リが演奏する(指揮:小澤征爾/新日フィル)この曲を聴きましたが、あの時とは全く別の曲のように聴こえました。リは、力強い演奏で、音楽を立たせて魅せました。素晴らしい演奏でした。その印象が強いものですから、ワンには申し訳ないのですがとても比較できるレベルではない。リの演奏と比べたら、ワンの音楽は指が鍵盤の上を動いているだけで、何も考えていないことがよく分かります。打鍵に迫力はかけているし、スピード感も今ひとつ。ひたすらのっぺらぼうで、眠いだけの演奏でした。ピアニストは19歳の新鋭、ということですが、この曲を演奏するには、もう少し経験が必要な気がしました。N響のサポートも悪いものではないのですが、食い込んでくるところが無い。小澤とリのコンビのときは、お互いアイコンタクトを取りながら、必死に曲に向かっていたのですが、デュトワとワンはそのあたりの意思疎通も今ひとつのように思いました。

 「アレキサンドル・ネフスキー」は良かった。演奏技術の正確さ、という点では、管楽器にそれなりに粗っぽいところがあり、完璧というわけには行かなかったわけですが、音楽全体としては、立体的な構図が良く見えるなかなか素敵なものでした。まず、合唱がよい。女声53人+男声67名の合唱でしたが、低音部の沸きあがるような声に魅力がありました。勿論細かくは、第2曲のテノールの入りが乱れたなど、無傷というわけではないのですが、ロシア音楽の伝統の骨太な雰囲気がよく現れていて良かったと思います。この作品は、敵と味方とを音楽的に描き分けているところに特徴があるわけですが、その区別の表現は流石デュトワだと思いました。低音部の重々しい雰囲気と女声及び弦楽器の柔和な表情の描き分けがはっきりとしていました。

 メゾソプラノ・ソロのチスチャコヴァは、メゾというよりはアルト。低音部により魅力のある歌手でした。深い透明感のある響きが挽歌の魅力を際立たせていました。

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2007年 2月10日 第1589回定期演奏会
指揮:
ウラディーミル・アシュケナージ

曲目: モーツァルト   交響曲第25番 ト短調 K.183 
       
  マーラー   交響曲第4番 ト長調
      ソプラノ独唱:クララ・エク

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:今井、トランペット:津堅、ティンパニ:久保、ハープ:早川

弦の構成:モーツァルト/10型、マーラー/16型

感想
 
私がアシュケナージを聴いていていつも思うのは、「名選手は名監督に非ず」ということです。やはりピアニストアシュケナージはある種の天才なのでしょう。アシュケナージというピアニストは知的なピアニストですが、「知的」という言葉だけでは語りきれない才能のほとばしりがありました。そのようなピアニスト・アシュケナージのかつての名演を知っているものとしては、指揮者・アシュケナージの演奏は、ピアニスト・アシュケナージが目指していた演奏とは随分違うな、という印象を持たずにはいられません。

 例えば、今回のモーツァルトもそう。結構ロマンティックな表情です。全体にこの作品の持つデモーニッシュな味わいを薄めて、より優しい感じの演奏に仕上げています。それはそれで決して悪いものではないのですが、ピアニスト・アシュケナージが演奏するモーツァルトとは味わいが違うな、と思ってしまいます。ロマンティックな表情で、十分に歌わせる。テンポもゆっくりで、一寸重たい感じの演奏です。落ち着いた音楽作りですが、一つ間違うと鈍重ととられかねない。悪いものではありません。でもなんかアシュケナージには似合わない。これは勿論偏見以外の何物でもありません。でも、私にはどこかしっくり来ないところがあったのは確かなのです。

 マーラーは尻すぼみの演奏でした。第1楽章を聴いているときは、これは素晴らしい、と思って聴いていました。第2楽章も良好。ところが第3、第4楽章が今ひとつでした。結果として中途半端な印象の強い演奏でした。全体的にはゆっくりと落ち着いた表現で、ロマンチックな表情の強い演奏だったと思います。楽器の細かな変化を強調して、マーラーの人工的な印象を強めるというよりは、全般に生々しい音を要求して、音楽としての集中を目指していたようです。ある意味けれん味の強い演奏でした。それが、例えば、第2楽章の堀さんの2本のヴァイオリンを使い分けてのソロパートの演奏などに繋がっていきます。じっくりと歌わせて、歌心のある演奏でした。

 第3楽章の前半も好調。冒頭のチェロからヴィオラ、ヴァイオリンに繋がる部分など、とても結構でした。しかしながら、アシュケナージの音楽作りは重すぎたかもしれません。彼のじっくりした音楽作りに管楽器がついていけないのです。途中で、演奏がばらばらになりかけました。とりあえず持ちこたえましたが、第3楽章後半はいただけません。そして第4楽章。このエクというソプラノ、アシュケナージがイギリスで共演して、是非呼びたいということで引っ張ってきたそうですが、はっきり申し上げて今ひとつです。まず、NHKホールの広さに対応した歌い方が出来ていない。天井桟敷には声が飛んでこないのは問題です。細かい表情をつけながら歌っているのはよく分かりますが、声に力が無いので、表情が空虚に聴こえます。リリック・ソプラノという触れ込みですが、高音がもう少し澄明に響いてほしい。そうでないとこの作品の天上的美しさが感じ取れないのです。という分けで、今回私はこのソプラノを満足することは出来ませんでした。

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2007年 2月16日 第1590回定期演奏会
指揮:
ウラディーミル・アシュケナージ

曲目: チャイコフスキー   交響曲第2番 ハ短調 作品17「小ロシア」 
       
  チャイコフスキー   交響曲第5番 ホ短調 作品64
       

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:中野、オーボエ:茂木、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:客演、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、

弦の構成:16型

感想
 
私が聴きたい音楽とアシュケナージが作りたい音楽との間には、どうも「ずれ」があるようです。本日のチャイコフスキー、ブラボーが飛んでおりましたが、私にはその良さが全く分りませんでした。私は許容範囲の広い聴き手であると、自分では思っているのですが、本日のような演奏を支持することは出来ません。

 「小ロシア」は民俗音楽的なローカルな味わいに特徴があると思います。そういう作品ですから、もっと伸びやかに演奏すれば聴き手も気分良く聴けると思うのですが、全体に音楽が縮こまっている感じがしました。私が前回「小ロシア」を聴いたのは、確か2001年のサンティの指揮する演奏だったのですが、あの演奏は歌が伸びやかに出てきて、その歌を支える低音パートがしっかりしている演奏で、落ち着きの感じさせられる優れたものでした。今回は低音パートの存在感が少ない。歌わせ方も非常に中途半端で、折角の民族的雰囲気を生かしきれないきらいがありました。

 5番も支持できません。私はN響でこれまでチャイコフスキーの5番を7回聴き、今回が8度目なのですが、一番私の好みに合わない演奏でした。私はチャイコフスキーの5番はいつ聴いてもいい演奏なので、これは作品がよいからではないか、と常々思っていたのですが、どうもそれだけではなかったようです。やっぱり指揮者の力は十分に関係します。考えてみれば、私が聴いてきたチャイコフスキーの5番を振ってきた指揮者は、アルブレヒト、インバル、スクロヴァチェフスキ、スヴェトラーノフ、サンティ、スラトキン、デュトワですから、ある意味実力派ばかりです。アシュケナージにこれらの名指揮者と同等の音楽を期待するのがいけません。

 全体的に重たい演奏なのですが、その重たさは荘重な重たさではなく、鈍重な重たさです。音楽の輪郭がぼやけており、それでも中身が詰まっていればそれなりの迫力も出るかと思うのですが、弦楽器が相対的に弱く、低音部のしっかりさも見えてこないので、薄ぼんやりした印象です。ゆっくり演奏することは結構なことだと思うのですが、それならそれなりのメッセージがほしいところです。遅いせいか、楽器間のつながりもところどころギクシャクしていましたし、輪郭がぼんやりする理由もテンポ感覚の指揮者とプレーヤーとのずれがあるためかもしれません。個別にはホルンのソロであるとか、ファゴットであるとか、聴き応えのある部分もあったのですが、全体としては、私には支持できない演奏でした。

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2007年 4月 7日 第1592回定期演奏会
指揮:マティアス・バーメルト

曲目: ハイドン   交響曲第55番 変ホ長調 Hob.T-55「校長先生」 
       
  プロコフィエフ   ヴァイオリン協奏曲 第1番 二長調 作品19
      ヴァイオリン独奏:ドミートリ・シトコヴェツキ
       
  ドヴォルザーク   交響曲第8番 ト長調 作品88

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:中野、オーボエ:茂木、クラリネット:磯部、バスーン:水谷、ホルン:松ア、トランペット:津堅、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:石川、ハープ:早川

弦の構成:ハイドン:10-8-6-4-3、プロコフィエフ:14型、ドヴォルザーク:16型

感想
 
ハイドンは、生涯106曲の交響曲を作曲しているそうですが、普段耳にするのは、45番「告別」を別とすれば、パリセット以降の作品です。ハイドンが嫌いな作曲家ではないにもかかわらず、私もその例に漏れず、交響曲55番を聴くのは全く初めてのことでした。作品は、いかにもハイドンらしい仕掛けがいくつか見られました。例えば、第二楽章では、弓で弦を叩いて音を出す、という技法を使っておりましたが、ピチカートと弓で弦をこするのの中間的な音で面白く思いました。演奏技術的には大変な作品なのかも知れません。

 しかし、演奏は良かったです。弦の構成が10-8-6-4-3の31人、これにオーボエとホルンとファゴットが2本ずつ加わるという合計37名の演奏。これぐらいの少人数で演奏すると、室内楽的な響きになり、音にぶれが出ない。N響の弦楽器のレベルの高さがいやでも分ります。バーメルトは積極的にオーケストラをドライヴしようとはせず、割合オケの自主性に任せたのではないでしょうか。その結果が良いほうに出た。そんな感じがいたします。聴衆にとってなじみのない作品だったので、拍手の勢いも削がれがちでしたが、いい演奏であったことは間違いありません。第3楽章の木越さんのチェロソロも素敵でした。

 そしてプロコフィエフが本日の白眉でしょう。シトコヴェツキが上手い。正確な音程でかすれることの無いすっきりした豊穣な音楽でした。例えて言うならば高級な吟醸酒のような演奏、と申し上げたらよいでしょうか。濁りが無くてすっきりしているけれども味わい深い。モダニズムの協奏曲ですから、共感を持ちすぎて演奏すると、聴き手は白けてしまいそうですし、あまり突き放すと無機的な印象が強くなる。そんな作品をシトコヴェツキは、適切な距離感を持って演奏した、と思います。全般には感情移入の少ない演奏ですが、要所要所に気持ちが入ってその対比が見事でした。N響のサポートも見事。シトコヴェツキの音楽がオーケストラの音楽の上に浮かび上がるように演奏し、素晴らしいと思いました。

 先の2曲と比較すれば、ドヴォルザークは普通の演奏と申し上げて差し支えないでしょう。演奏のつぼをきっちり押さえた演奏ではありました。バーメルトは音の強弱のダイナミクス、テンポのダイナミクス、それぞれ考慮して音楽の組み立てを考えていたようですが、それが若干から回りしたのかも知れません。悪い演奏ではありませんでしたが、N響のスキルを持ってすれば、当然この程度の演奏は出来る、という感じの演奏でした。

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2007年 5月11日 第1594回定期演奏会
指揮:ロレンス・フォスター

曲目: ブラームス   ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 作品15
      ピアノ独奏:ルドルフ・ブフビンダー
       
  ドヴォルザーク   スラブ舞曲 第1集 作品46

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:神田、オーボエ:青山、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:客演、トランペット:津堅、トロンボーン:栗田、ティンパニ:久保

弦の構成:16型

感想
 
ロレンス・フォスターはかつて何度か聴いたことがある指揮者ですが、非常に印象の薄い方です。最初に聴いたのは、91年6月のN響客演時で、このとき「田園交響曲」を演奏したのですが、どんな演奏だったか全く記憶に無い。にもかかわらず、同日に演奏された竹沢恭子のウォルトンのヴァイオリン協奏曲は、その鋭い斬り込みの印象が残っています。その後もフォスターを何度か聴いているのですが、印象に残っているのはソリストだけで、この方の音楽というものはほとんど記憶に残らない。今回の演奏も多分しばらくすると忘れてしまう演奏です。

 最初のブラームスもブフビンダーのピアノがオーケストラの上に輝いている演奏で、オーケストラは印象が薄い。とはいえ相手はN響ですから土台はしっかりしているし、対応も十分。このようにでしゃばらないオーケストラの上に乗せられたら、ピアニストは気持ちよいでしょうね。ピアノは精妙・中庸なN響に対して、無骨な印象の強い演奏でした。タッチが力強く厚い音に特徴があるのですが、10本指に同じだけ神経を行き届かせることは難しいようで、小指のタッチなどはやや弱くなるところもありました。

 このように演奏技術的には問題もありましたが、音楽としては雄大な表情での演奏でした。特に第二楽章は、無骨な表情ですが、よく歌う演奏で、それでいながら落ち着いて悠然とした演奏でよかったのではないかと思います。オーケストラはきっちりした演奏で、ところどころ非常に美しい部分もあるのですが、全体で見るとピアノが前面にでた印象が強いです。

 後半の「スラブ舞曲」は、聴いていて今ひとつ楽しめない演奏でした。はっきり申し上げれば上品過ぎる。私が「スラブ舞曲」として思い出すのは、ノイマンの演奏ですが、彼の演奏はもっと土臭い演奏だったと思います。また、2003年のコウトの演奏も土臭い演奏でしたが、「スラブ舞曲」は、そのような土臭さこそが魅力の一端を担っているように思います。フォスターはそのような泥臭さを排除しました。だが音楽を軽快に進めるわけではなく全体にテンポは遅めでした。こういうけれんのない演奏でかつゆっくり演奏されると、退屈に聴こえます。N響の演奏は上手でした。しかし、「だから何なの」、と申し上げたい演奏でした。

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2007年 6月 3日 第1595回定期演奏会
指揮:尾高 忠明

曲目: ブルックナー   交響曲第8番 ハ短調(ハース版)

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:堀、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:青山、クラリネット:客演、バスーン:岡崎、ホルン:松崎、ワーグナーチューバ:樋口、トランペット:客演、トロンボーン:栗田、チューバ:池田、ハープ:早川、ティンパニ:石川

弦の構成:16型

感想
 
昨年の5月のN響定期公演Cプログラムは、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキが客演して、ブルックナーの第8番(ノヴァーク版)を演奏しました。丁度一年後、今度は尾高忠明が同じ曲を取り上げます。昨年のスクロヴァチェフスキの演奏は、世間の評判が良く、聴衆が選ぶ「最も心に残ったコンサート」の第五位にも選ばれています。「繊細にしてスケールの大きなブル8」といった感想があり、スクロヴァファンにはたまらなかった演奏のようです。私もその演奏を耳にしているのですが、正直申し上げて、あまりピンとこなかった。確かにスクロヴァチェフスキらしい演奏であったのですが、ブルックナーの個性の前にスクロヴァの個性が立ちはだかっているようで、どうも私の趣味ではない。ブルックナー8番の難しさを再認識させられた、という演奏でした。

 ですから、本日の尾高の演奏も全く期待せずに行きました。一部に現代最高のブルックナー指揮者とも言われるスクロヴァであの程度なのだから、尾高の演奏がそんなに良いわけが無い、と思って出かけたのですが、あにはからんや、これが良いのです。けれんの無いストレートな演奏ですが、ためを十分にとった指揮で、テンポもあまり動かさず、じっくりと進みます。堂々としていて小細工が無い。私はブルックナーの良さが本当は分っていない聴き手だと、自分では思っています。この演奏で、ブルックナーの音楽の素晴らしさを再認識することはできませんでしたが、尾高は、ブルックナーが聴かせたい音楽を演奏したのではないか、と思いました。

 個々の演奏技術も素晴らしいと申し上げてよいでしょう。松崎さんのホルンが良く、木管群も頑張りました。弦楽器もよかったです。ただし、アンサンブルとして見た場合、全体のテンポがゆっくり目でかつ堂々と進むため、待ちきれなくなってフライングする奏者が何人かいたようで、音楽としての精密さには欠けているきらいがありました。しかし、そういう細かなミスにも動じず、最後まで堂々と演奏を締めくくってくれた尾高忠明にはBravoを差し上げましょう。

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2007年 6月23日 第1596回定期演奏会
指揮:ウラディーミル・アシュケナージ

曲目: ラフマニノフ   ピアノ協奏曲 第3番 ニ短調 作品30
      ピアノ独奏:清水 和音
       
  チャイコフスキー   「マンフレッド」交響曲作品58

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:山口、ヴィオラ:佐々木、チェロ:木越、ベース:吉田、フルート:中野、オーボエ:青山、クラリネット:横川、バスーン:水谷、ホルン:今井、トランペット:津堅、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:久保、ハープ:早川、オルガン:客演

弦の構成:ラフマニノフ:14型、チャイコフスキー16型

感想
 
私がクラシック音楽を聴き始めたころ、ラフマニノフの3番ピアノ協奏曲といえば、アシュケナージがピアノを弾きプレヴィンが指揮をしたデッカ盤が名盤中名盤ということになっており、私もこのレコードを長く愛聴しておりました。もう30年以上前の話です。このレコードが名盤と呼ばれるだけのことはあって、透明で美しい響きの美音と卓越したテクニックとで、このスケールの大きい作品を正にスケール大きく演奏していました。この演奏が耳に残っているものにとって、清水和音の演奏は不満です。もちろん客観的に見れば、演奏の骨格がしっかりしており、スケールの大きい演奏で、聴き応えがある、名演奏と申し上げても良い演奏だったのですが、細部の美しさ、という観点からは十分磨きがかかっているとは言いがたい。そのような細部の美を犠牲にしてもスケールの大きさとダイナミズムをとった、ということなのでしょう。

 しかし、ピアニストの後ろでタクトを振る、世紀の名盤を作り上げたアシュケナージの姿を見ると、清水のピアノではなく、アシュケナージのピアノが聴きたいとつくづく思わずにはいられませんでした。これが指揮者がアシュケナージで無ければ、清水の演奏で十分満足できたと思うのですが、そう思わせてしまったところ、アシュケナージの罪作りなところです。ちなみにアシュケナージの/NHK交響楽団の伴奏ですが、N響のテクニックの切れ味はいつものとおり、しかしつむぎ出される音は、アシュケナージ的鈍重さがところどころ感じられて、やはりあなたはピアノを弾くべきだとそちらからも思いました。

 チャイコフスキーのマンフレッド交響曲は滅多に演奏されない珍曲です。N響では1989年以来18年ぶりとなります。私も実演で聴くのは初めての経験です。こちらは、N響でアシュケナージが演奏したチャイコフスキーの中で、最も優れた演奏でした。作品自身は冗長で、決して名曲とは申し上げられないと思うのですが、N響のテクニックが冴えており、音がすっきりとしているのがまずよい。絵画的描写的作品ですが、その描写の部分がいちいち納得できるもので、音から風景が想像できるような演奏でした。細かい表情、ニュアンスが豊かであり、アシュケナージには純粋音楽より描写的な音楽が似合っているのかな、とも思いました。

 N響メンバーでは、オーボエの青山さん、バスクラリネットの山根さん、ホルンの今井さん、トロンボーンセクションがとりわけ良く、篠崎さんのヴァイオリンソロも魅力的でした。

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2007年 7月20日 N響「夏」2007 東京公演
指揮:トマーシュ・ネトビル

曲目: モーツァルト   歌劇「フィガロの結婚」序曲
       
  ベートーヴェン   ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」
      ピアノ独奏:アレクセイ・ゴルラッチ
       
  ドヴォルザーク   交響曲第8番ト長調 作品88

オーケストラの主要なメンバー(敬称略)
コンマス:篠崎、2ndヴァイオリン:永峰、ヴィオラ:店村、チェロ:藤森、ベース:西田、フルート:中野、オーボエ:青山、クラリネット:横川、バスーン:岡崎、ホルン:松崎、トランペット:関山、トロンボーン:新田、チューバ:池田、ティンパニ:石川

弦の構成:ドヴォルザーク:16型、そのほか:12型

感想
 
N響は、若い一部で評判の指揮者を特別演奏会などに招聘し、そこでいい演奏をすると定期演奏会に呼ぶ、ということをよくやります。今回の「夏」2007年公演で招聘したのは、トマーシュ・ネトビル。まだ32歳の若手指揮者です。確かに才能のある方のようです。音楽性はほとんど生与のもので、経験で育てられるようなものではありませんが、オーケストラの統率能力やソリストとの間合いの取り方は経験がある程度ものを言うようで、若手の指揮者は、その部分で苦労される方が多いようです。

 ネトビルは、才能のある指揮者だと思いますが、オーケストラを統率して音楽を作り上げていく、という観点からはまだまだこれからの方だと思います。しかし、10年後は世界の人気指揮者になりえる素材のように思いました。注目していく必要があるかもしれません。

 「フィガロの結婚」序曲は、若い指揮者の割には走らせない演奏でした。勢いだけではなく、要所を見ていく演奏は悪いものではありません。アコーギクが自然で、しなやかさを感じさせるところもよかったと思います。

 「皇帝」のソリスト、ゴルラッチは19歳の若手だそうです。しかし、若手にありがちなテクニックに走るタイプのピアニストではなく、繊細な表現に長けたピアニストのように聴きました。ただ、技術的には目をさめるような冴えはなく、またダイナミックな表現もかなり押さえ気味で、いわゆる男性的な「皇帝」協奏曲とは一線を画するものでした。リリックな演奏ですが、自然にわきあがるリリシズムではなく、かなり人工的な雰囲気のリリシズムだと思いました。第2楽章はゆっくりとしたテンポでの演奏ですが、ゆったりとしていない。指揮者はオーケストラの音量を絞り、ゴルラッチの繊細さを際立たせようとしていたようですが、ところどころ、オーケストラとピアノとの息が合わなくなるところがあり、全体としてのまとまりも今ひとつという感じでした。

 ドヴォルザークの8番の交響曲は、ネトビルの個性が上手く出た演奏だったように思います。曲に対して思い入れがあるようで、暗譜で振り、その指揮ぶりもダイナミックです。長身で手足の長い方ですが、その方が指揮台全体と体全体を使って指揮する姿は見応えがありました。その指揮ぶりは大きなものですが、若干長い手足をもてあましている感じもあり、そのちょっとしただるさが、演奏の一部の乱れに繋がっていたように思います。しかし、音楽全体としては、内声をきっちり見せる風通しのよい音楽で、スケール感もあり、よい演奏だったと思います。

 アンコール曲が演奏されました。ブラームスのハンガリー舞曲4番。これは、指揮者も演奏家も一つ力が抜け、却ってよいものに仕上がっておりました。

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