2020年NHK交響楽団演奏会ベスト3
第1位:10月NHKホール演奏会 鈴木 雅明 指揮
曲目: ハイドン 交響曲第101番ニ短調「時計」Hob.I-101 モーツァルト 交響曲第39番変ホ長調 K.543
第2位:12月NHKホール演奏会 井上 道義 指揮
曲目: ショスタコーヴィチ 交響曲第1番へ短調作品10 伊福部 昭 ピアノと管弦楽のための「リトミカ・オスティナータ」 ピアノ独奏:松田 華音 伊福部 昭 日本狂詩曲
第3位:1月Aプログラム クリストフ・エッシェンバッハ 指揮
曲目: マーラー 交響曲第2番 ハ短調「復活」 ソプラノ独唱:マリソル・モンタルヴォ メゾソプラノ独唱:藤村 実穂子 合唱:新国立劇場合唱団 次点:9月東京芸術劇場演奏会 広上 淳一 指揮
ベスト指揮者:鈴木 雅明
ベスト・ソリスト:藤田 真央(ピアノ)選択の理由
NHK交響楽団が行う年間27プログラムの定期演奏会うち、NHKホールで実施される18回の公演を全部聴くことを目標にしているのですが、本年はコロナ禍による緊急事態宣言対応のため、NHK交響楽団も4月から6月の定期公演は中止。9月以降の2020-21年シーズンについては、定期演奏会を取りやめて、当初定期演奏会を予定していた期日及び会場で、特別演奏会を行うことになりました。結局定期演奏会及び特別演奏会は合わせて18回行われたのですが、わたしはそのうち14回の演奏会(定期演奏会:3回、特別演奏会:11回)を聴くことができました。
コロナ禍での演奏会の中止は、演奏したくてもできないという意味で、奏者たちにとって非常に厳しいものであったようで、演奏会が再開されてから、奏者たちの演奏する喜びがより明確になった感じがします。N響は指揮者に恵まれたときは素晴らしい演奏を聴かせてくれるのですが、ルーティン・ワークの演奏もないとは言えないのが本当のところです。しかし、9月からの特別演奏会はどれも聴きもので、演奏する喜びを感じさせてくれるものが多かったと思います。とはいえ、9月から12月はまだ劇場の制限等もあり、大規模な作品の演奏はできない状況が続いています。そこは残念なところです。一方で、N響ではこれまであまり取り上げられてこなかった小規模オーケストラのための作品がいくつか取り上げられ、それは興味深いものでありました。
さて、個々の感想のまとめです。
本年は、1月にクリストフ・エッシェンバッハが登場しました。Aプロが「復活」、Cプロが、ブラームスのピアノ協奏曲2番に四重奏曲という重量級のプログラム。「復活」は何と言っても藤村実穂子のメゾソプラノソロが素晴らしい。またエッシェンバッハの大河の如き悠然とした曲運びが見事でした。Cプロのブラームスの2番ピアノ協奏曲は随分ピアニストの主張の強い演奏で癖がありました。
2月は、首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィとラファエル・パヤーレ。わたしはパヤーレの指揮のみを聴きました。プログラムはオール・ショスタコーヴィチ。かっちりとした楷書体の音楽の中に、若干誇張が入るタイプの指揮者。まだ40歳とのことですから、若さゆえのけれんなのかもしれません。
4月から6月は中止で、9月も最初はパーヴォ・ヤルヴィが振る予定だったのですが、入国制限のために来日できず。NHKホール公演が山田和樹、東京芸術劇場公演を広上淳一、サントリーホール公演を下野竜也と、最近N響との関係が深い3人が代わって振りました。山田は武満徹の「弦楽のためのレクイエム」とモーツァルトの29番、それにブラームスのセレナード2番という小編成で演奏できる曲。弦レクの静謐の悲しみと、モーツァルトの若々しさの対比が見事。ブラームスのセレナードはヴァイオリンが欠ける編成で、弦楽器のセクションはビオラ8,チェロ6、コントラバス4という小編成。室内楽的精妙さが素晴らしかったです。広上公演はウェーベルンとリヒャルト・シュトラウスの弦楽アンサンブルの曲と「町人貴族」の組曲。指揮者の的確な描き分けとN響メンバーの技術レベルの高さで、素晴らしい音楽になりました。下野演奏は聴き逃しました。
10月は鈴木雅明の指揮。古典派2曲のNHKホール。近現代ものの芸術劇場、シューベルトのサントリーホールと3つのプログラム、とそれぞれ特徴のあるプログラムでした。鈴木と言えばバッハをはじめとするバロック音楽の印象の強い方ですが、どのプログラムも溌溂とした指揮ぶりで若々しい。もっと大家のような指揮をするのではないかと思いましたが、そんなことは全くなく、どの曲もくっきりとそれぞれの特徴をしっかり見せる指揮で、また、N響もそれぞれの曲の時代的特徴をしっかり描き分けた演奏にしていてほんとうに素晴らしかったです。
11月は熊倉優がNHKホール、原田慶太楼が残り二つの会場で指揮しました。二人とも20代から30代の若手で、どちらの方も恥ずかしながら名前も知りませんでした。熊倉は自分で音楽を作っているというよりN響に音楽を作って貰っているというレベルの指揮。まだまだ経験を積む必要があるというのが本当のところ。ただ、このプログラムで特筆すべきは今売り出し中の藤田真央がシューマンのピアノ協奏曲で登場したこと。藤田真央って素晴らしい、という話はずいぶん聞いていましたが、ほんとうに素晴らしかったです。柔らかいタッチが最高でした。原田は熊倉よりも7つ年上だけあって、振らされている感はあまりありませんでした。ただ若さが前面に出てしまってやや空回りしていたのが本当のところでしょう。
12月は井上道義がNHKホールとサントリーを、秋山和慶が芸術劇場でオールベートーヴェンプログラムを振りました。井上がNHKホールで指揮したのはショスタコの1番と伊福部昭。定評のあるショスタコももちろんよかったのですが、伊福部の二曲は日本人の血をたぎらせる元気を貰える音楽でとても素晴らしい。サントリーでは、プロコフィエフのシンデレラとチャイコフスキーの4番。こちらもまた素晴らしい音楽。秋山和慶の音楽づくりはドイツ的な安定感を意識したものか。諏訪内晶子をソリストに迎えたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。諏訪内晶子の素晴らしい解釈で、なかなか聴けない新たな世界を見せたように思います。感服しました。
さて、ベスト3の選択ですが、例年通りトーナメント方式で絞っていきましょう。
1月、2月はエッシェンバッハの「復活」で決まりでしょう。こういう大規模管弦楽曲はN響のテクニカルな実力の高さが光ります。
9月は迷うところですが、より自分に曲を引き寄せた広上淳一@東京芸術劇場を取ります。
10月は古典派の二曲が一番良かったと思います。他の2回の演奏会もランキングレベルの素晴らしいものでした。
11月は原田のサントリーホールで聴かせてくれたオール・アメリカン・プログラムか。でも、やはり、藤田真央のシューマン・ピアノ協奏曲に惹かれます。
12月はベートーヴェンイヤーのオールベートーヴェンプログラムも捨て難いですが、日本人としての血をたぎらせてくれた伊福部昭を組み込んでくれた井上道義を選びたい。
1月のエッシェンバッハはとりあえずシード。9月と10月では文句なしで鈴木雅明。11月と12月では、井上道義を取ります。
そして、この3プログラムからひとつを選ぶとするならば、1位が鈴木雅明の古典派。次いで井上道義の伊福部、3位がエッシェンバッハでしょう。次点は、9月の広上淳一指揮のプログラム。ベスト・ソリストは藤村実穂子や諏訪内晶子も捨てがたいですが、フレッシュな異次元星人、ということで藤田真央を選びます。
2020年12月28日記
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